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プロローグ 終わりの先の絶望へ

 

【???】

 

(もう、ここには、全てがある。光も、音も。俺の姿も、俺の声も。俺が誰なのか、俺は知っている。)

 

(手を伸ばす。俺の手のひらは硬い何かに触れた。)

 

(目の前一面が壁だった。頭上と足下から光が差し込んでいるが、満足に身動きできないほど狭い。)

 

(そこに横たえられた自分の体。思わず詰まりそうになる息を整えて深呼吸をする。)

 

(俺の名前は、天海 蘭太郎。)

 

(落ち着いて唱えれば、少し平静になれた。どうやら筒状の何かの中で寝ていたらしい。何でこんなところで?)

 

…………

 

(思い出せない。慌てて這うようにして、”そこ”から出た。)

 

(その先は、開けた場所だった。どうやら寝ていたのは積まれた石の土管の中だったらしい。土管以外が何もない、空き地だ。)

 

(さして広くない空き地には、俺の他にも人がいた。何か考え事をしているようで、俺の存在に気付いていない。)

 

「うーん……ううーん…。」

 

「あの…」

 

「うわあ!」

 

「!?」

 

「ご、ごめん、本当にもう1人いたんだ?」

 

「ええと…?すみません、ここがどこか聞いてもいいっすか?」

 

「それが、わたしにも分からないんだよね。あなたも、ここまで どうやって来たか、記憶がないんでしょ?」

 

「ええ。まさか、キミも?」

 

「そうなの。ここにいるみんな、どうしてここにいるのか記憶がないみたいなんだよね。」

 

「みんなって、何人もっすか?何人もの記憶がなくなるって…何か普通じゃないことに巻き込まれてるんじゃ…」

 

「やっぱり、そう…なのかな…。あ、ごめんね。自己紹介もまだなのに、こんな不穏なこと言って。」

 

(そう言って、セーラー服にメガネをかけた彼女は薄く笑った。)

 

「わたしの名前は、白銀 つむぎ。”超高校級のコスプレイヤー“だよ。よろしくね。って、こんな変な状況で言うのもおかしいけど。」

 

 

「俺の名前は天海 蘭太郎っす。”超高校級“っすか?」

 

「うん。ここに集まったみんな、政府のギフテッド制度で選ばれた”超高校級”の才能を持ってるみたいなんだ。天海君にも”凄い才能“があるんでしょ?」

 

「俺の場合 才能…というほどじゃないんすけど、”超高校級の冒険家“って認定を受けたっす。」

 

 

「何それすごい!それって海賊王目指して大海原に旅立ったり、馬車にパーティーメンバー控えさせて仲間と一列になって歩き回るかんじの!?」

 

「目を輝かせてるところ悪いっすけど、俺のは旅行の延長みたいなもんすから。それより、みんなというのは…」

 

「わたしたちの他に14人の高校生が集められてるみたいなの。町中歩きまわったけど、他の人は全然いなくて…。」

 

「みんな近くの小学校に集まってたんだけど、変な喋るヌイグルミが『1人足りない』って騒ぎ出したから手分けして探してたんだ。それが、天海君だよ。」

 

(喋るヌイグルミ…?)

 

「そのヌイグルミ、16人集まらないと始められないなんて言ってて…」

 

「始める…?何をっすか?」

 

「それが分からないんだよね。ヌイグルミに聞いても教えてくれないし…。たぶんドッキリか何かだと思うんだけど…。」

 

「ほら、”超高校級”って地味に有名人みたくなっちゃってるじゃない?」

 

(ドッキリ……そう、なのか?)

 

「あ…でも…。16人…なんだよね。」

 

「どうかしたっすか?」

 

「……ううん、何でもない。それより、他の人たちもバラバラだから天海君を見つけたって伝えなきゃ。せっかくだから自己紹介しながらみんなを探そうよ。」

 

(歩き出した白銀さんについて行こうと足を進めたところで、制服に違和感を感じて立ち止まった。)

 

「どうしたの?」

 

「いえ…いつの間にか、ポケットに小型の電子パッドが入ってたんすよ。俺のじゃないのに…」

 

「あ、それ、みんなも気が付いたら持ってたんだよ。ヌイグルミが言うには、『大事なもの』らしいよ。」

 

「俺の荷物やケータイはどこにいったんすかね…。」

 

(空地からは数軒の家が見える。どうやら住宅地の一角らしい。空地の前の道は東西に伸びている。)

 

(さて、どこに行くかな。)

 

 

 東へ向かおう

 西へ向かおう

 音がする家があるな…

全て見たな

 

 

 

【町 東エリア】

 

(空き地を出て少し歩いた道で、黒い人影を見つけた。まさしく”黒づくめ“と形容できる人物だ。)

 

(黒いつば付き帽子にサングラス、蓄えられたヒゲにより表情が微塵も見えない。全身 覆う黒いコートの首元からなぜか電子パッドを下げている。)

 

「……。」

 

「アイコさん、最後の1人を見つけたよ!」

 

「………。」

 

「ん?聞こえてないのかな?おーい!」

 

「…………。」

 

「まさかの無視?ちょっと天海君、ほっぺた突いてみてくれる?」

 

(こんな怪しい人にそんなことしたくないな。…などと思っていると、黒ずくめの胸に位置する電子パッドから高い音がした。)

 

「いっけなーい、ちこくちこくー!もう、お母さん、どうして起こしてくんなかったのー!?」

 

(な…何だ?)

 

「スリープモードに入っちゃってたよーテヘペロ☆」

 

「あ、そうだったんだね。壊れちゃったのかと思ったよ…。」

 

「白銀女史!それは機械に対する差別と受け取れますですよ!残念ながら、次 貴女と会うのは、法廷のようですな!!!」

 

(電子パッドに映った女の子が元気に動きながら話してる…?)

 

「おうおう、そこのオマエ!アタシのこと見て、『何だこいつ』と思ってやがるな!?いいだろう!何だかんだと言われたら、答えてあげるが世の情け!」

 

「オレ様の名は…アイコ。正式名称:AIKO-1123581321345589…”超高校級のAI“とは、オレ様のことだあぁあ!」

 

 

「AI…?人工知能のことっすか?」

 

「Exactly! アイアムア自律思考型コンピュータ!この電子パッドに住まう妖精さんダゾ☆」

 

「開発されて間もないからキャラが定まってないんだって。」

 

「それは言わない約束だろう、おとっつぁん!」

 

「けど、こんな風に人工知能と話せるのは凄いっすね。」

 

「あのねぇ、後ろの黒いのは超精巧に出来たロボットだから優しく扱ってねぇ。乱暴にしたら…嫌いになっちゃうんだから!!」

 

(これが…ロボット?)

 

「きゃあ!らん太さんのえっち!もう、知らない!」

 

(黒づくめの人間型ロボット?を見つめていると、電子パッドから悲鳴が上がり、黒づくめの姿は走り去ってしまった。)

 

「なかなかパンチが効いてるよね。テクノロジーの進化に脱帽だよ。」

 

 

「さて、みんなどこにいるか分からないから、行けるところの最端まで行ってみようか。」

 

(行けるところ…?最端…?)

 

(白銀さんに促されて道を進むと、小柄な体に合わない大きめのパーカーを着た女の子が空を眺めていた。)

 

「妹尾さん。どうしたの?」

 

「あ、ぼんやり空を眺めてたんだ。」

 

「こ、こんな小さな子まで…?」

 

(妹の1人と同じくらいの年だ。知らない場所に知らない人ばかりで、心細いだろう。)

 

「天海君、妹尾さんも高校生だよ。」

 

(高校生…?どう見ても小学校高学年くらいなのに。)

 

「えへへ、まだまだ成長過程だからね。あたしはね、妹尾 妹子 せのお いもこ 。”超高校級のポエマー“だよ。」

 

 

「俺は天海 蘭太郎。”超高校級の冒険家”っす。」

 

「天海お兄ちゃん、よろしくねっ!」

 

「お兄ちゃん…。」

 

「どうしたの、天海君?」

 

(その言葉を聞いて、焦燥感が駆け巡った。)

 

(こんなことをしていていいのか。早く妹たちを見つけなければならないのに…と。)

 

「天海君!天海君ってば!」

 

「え…あ、すみませーーって、近いっすね。」

 

(気付けば、白銀さんが思ったより近い距離でこちらを覗き込んでいた。が、俺が反応を返すと、すぐ白銀さんの顔は離れていった。)

 

「だって、急に反応しなくなるから。どうしたの?」

 

「やっぱり、変かな。兄妹でもないし、同い年なのにお兄ちゃんなんて…。」

 

「あ、いやいや。俺は妹が多いんで、構わないっすよ。」

 

「わぁい!」

 

「さては天海君…妹萌えだね?」

 

「…何すかそれ。えーと、妹尾さんはどんなポエムを書くんすか?」

 

「ラーブラーブなポエムだよ。キラキラでフワフワで、砂糖菓子みたいに甘くてラーメンみたいに重いの。」

 

「それからチューチューでベロベロでクチュクチュでズッコンバッコンな純愛モノが多いかな。」

 

(とても純愛とは言えないオノマトペが聞こえたな…。)

 

「白銀お姉ちゃん、天海お兄ちゃんも見つかったし、これから小学校に戻るんでしょ?」

 

「うん。でも他の人を探しながら戻るよ。」

 

「そっか、じゃあ白銀お姉ちゃんと天海お兄ちゃんはゆっくり帰ってきてね。パコパコ楽しんで!」

 

「何それ!?しないよ!?」

 

(気まずい空気を投入して、妹尾さんは行ってしまった。)

 

 

(しばらく進むと、一軒の赤い屋根の家が見えた。そこにいたのは、白衣を着た女の子だ。)

 

「……あ。」

 

「木野さん、見つかったよ!」

 

「……そう。」

 

(大きすぎるメガネをかけた女の子は、眠そうな目で俺を見た。)

 

「じゃあ、私は小学校に戻るから…。」

 

「えっと、自己紹介だけはさせてほしいっす。俺は天海 蘭太郎。”超高校級の冒険家”っす。」

 

「………木野 琴葉 きの ことは …”超高校級のかがくしゃ“だよ…。」

 

「科学者っすか。サイエンティストってやつっすね。」

 

「…違う。」

 

「え?」

 

「全然違うよ!私は”超高校級の化学者“!ばけ学!化学式が好きなの!」

 

 

(木野さんは眠そうだった顔を真っ赤にしている。怒らせてしまったようだ…。)

 

「すみません、あまり詳しくなくて。…良かったら教えてもらえないっすか?」

 

「……。」

 

「……。」

 

「…いい。どうせ、私 説明下手だし…分かってもらえないし。」

 

(そう言うと、木野さんは ゆっくりした動作で行ってしまった。)

 

「わたしも さっき怒らせちゃったんだよね。」

 

「そうなんすか。後でまた謝った方がいいかもしれないっすね。」

 

(赤い屋根の家の先は通行止めだった。道全体に『通行禁止』という無駄に巨大な看板が掛かっていて通れない。)

 

 

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【空き地の西側】

 

(西の道を進むと、ガタイの良い青年が立っていた。)

 

「!ヒェ…ッし、白銀先パイ…!」

 

「前谷君、最後の1人見つけたよ。」

 

(彼は白銀さんの姿を見て顔全体を赤くし、モジモジしている。)

 

「俺は天海 蘭太郎っす。”超高校級の冒険家”っす。」

 

「おす!!よろしくお願いします!自分は、前谷 光太 まえたに こうた です!!”超高校級の柔術家“です!!!」

 

 

(ガラリと表情が変わったな。)

 

「柔術…格闘技っすか?」

 

「はい!!自分は幼い頃からブラジリアン柔術で鍛えてきました!」

 

「ブラジリアン柔術っすか…確か寝技が多い…。」

 

「寝技だけじゃないです!ブラジリアン柔術の奥深さはアマゾン熱帯雨林並みですよ!熱帯雨林の深さは天海先輩なら分かるでしょう!?」

 

「あれ?俺の方が先輩なんすか?」

 

「いえ!自分は全ての”超高校級”を尊敬してるんで先輩と呼ばせてもらってます!」

 

「わたしたち、みんな同い年なんだよね。」

 

「ヒゥ…し、白銀先パイのおっしゃる通りです…。自分は畏れ多くもみなさんと同い年です!」

 

「えーと…白銀さん、彼に何かしたんすか?」

 

「え、わたしが何かして前谷君がこんな態度だとか思ってる?そんな さきがけ たことしないよ!」

 

「白銀先パイは悪くないです!自分はただ、柔らかくてフワフワしたものに耐性がないだけなんです!!」

 

「前谷君、女の子みんなに対してこんな感じだったよ。今は なき親友テレカを持った赤いネコ型ロボットみたいだよね。」

 

(…時々 白銀さんの言うことがよく分からないな。)

 

「では、自分は一足早く小学校に戻ってます!!」

 

(前谷君は そそくさと行ってしまった。)

 

 

「テメーら!そんなとこにいやがったのか!!」

 

「えっ?」

 

(前谷君のたくましい後ろ姿を眺めていると、背後からの凄まじい怒声に耳を殴られた。)

 

「テメーがオレらが探してた最後の1人か!?ふっざけんなよテメー!!」

 

(突然走り寄って来た青年。その恐ろしい形相に思わず言葉を失った。)

 

「オラ、とっとと行くぞ、フワフワ緑頭!」

 

「えーと、俺の名前は天海 蘭太郎っす。」

 

「るせぇ!俺は人の名前覚えんのが苦手なんだよ!!」

 

(ずいぶんと乱暴な人だな…。)

 

「キミの名前も教えてくれないっすか?」

 

「ああ?!俺の名前は郷田 毅 ごうだ つよし だ!んなことより、俺は怒ってんだよ!!」

 

「ああ…俺を探してくれてたんすよね。迷惑かけたみたいで、すみません。」

 

「ホントだよ!テメーこんな意味不明な状況でひとりぼっちとかありえねーだろーが!?ふざけんな、ケガはねーのかよ?クソが!心配かけやがって!!!」

 

(…罵倒されながら…これは、心配されているのか?)

 

「郷田君すっごく心配してたもんね…。郷田君、天海君は”超高校級の冒険家”なんだって。」

 

「あ!?テメーも”超高校級”なのか?俺は”超高校級のジムリーダー“だ!」

 

 

「ジムリーダー?」

 

「ほら、あれだよ。ボールで捕まえたモンスターを戦わせる…わたしいつも炎タイプ選んじゃうからタケシには泣かされてたなぁ…。」

 

「おいデカメガネ女!さっきもそうじゃねーって言っただろーが!!俺は家族でやってるジムで働いてんだよ!」

 

「デカメガネ…眼鏡が大きいのか身長が大きいのか分からない呼び方だね。」

 

「郷田君はジムのトレーナーなんすか?」

 

「ちげーよ。俺は主に事務方だ。事務員たちをまとめてんだよ。」

 

(事務…リーダー…?)

 

「つーか、テメー早く小学校来いよ!?みんなテメーを心配して待ってんだからな!??」

 

(郷田君は怖い顔のまま走り去ってしまった。)

 

 

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【町 空地前の家】

 

(空地前の一軒家。その中からガタガタと物音がしている。)

 

「何の音だろう。」

 

「中に誰かいるんすかね?」

 

(扉をそっと開けると、黒いセーラー服とセーラー帽がうごめいているのが見えた。)

 

「あ、佐藤さん。ここにいたんだ。」

 

「あ、白銀さん、見つけたんだね…。」

 

(白銀さんの視線の先の人物は、ゴミ箱のフタをゴミ箱に戻して弱々しく答えた。)

 

「う、うん…。どこか分かりにくいところに閉じ込められてるのかも…って思って…。」

 

(それにしても、ゴミ箱の中には入れない。)

 

「天海 蘭太郎っす。ずいぶん探してもらったみたいで、すみません。」

 

「天海さんだね。ううん、僕なんて、こんなことくらいしかできないから…。僕は、佐藤 ここみ。よ、よろしくね…。」

 

「よろしくっす。……えーっと、佐藤君。」

 

「えっ?」

 

「あれ?違ったっすか?」

 

(佐藤君は目を丸くしている。)

 

「ううん、だいたい みんな僕を女の子だと思うから、びっくりして…。」

 

「え!?佐藤…君だった!?ご、ごめんね!セーラー着てるからてっきり僕っ娘だと…」

 

「白銀さん、セーラーは元々 船乗りの男性のものっすよ。」

 

「あ!そ、そうだよね。レン君もセーラーだし、佐藤君もハーフパンツだもんね。」

 

(レン君…?)

 

「あ、謝らないで。僕は自分の性別なんて、どっちでもいいと思ってるんだ。男でも女でも、好きなように思ってくれていいし、好きなように呼んでよ。」

 

「え〜と、うん、ごめんね。天海君は”超高校級の冒険家”なんだって。」

 

「す、すごいんだね。ごめん、僕は自分の才能が思い出せないんだ。」

 

 

「え?」

 

「ここに来た経緯も覚えてないし…才能の記憶もないんだ、ごめんね。」

 

「いや、謝ることないっすよ。俺らの記憶も混乱してるし、そのうち思い出すかもしれないっす。」

 

「そうだといいんだけど…。じゃ、じゃあ、僕は先に小学校に戻るよ…。」

 

(佐藤君はどこか申し訳なさそうに去って行った…。)

 

「結局、女の子なのかな、男の娘なのかな…。」

 

 

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【空き地の南側】


(1度 空き地に戻り、空き地の南側を進んだ。懐かしいような そうでもないような風景が続いた。)

 

(ーーいや、至る所にモニターやカメラがあるのは明らかに異質な光景だ。)

 

「ここは、どこの町なんすかね。来たことはないはずですが…。」

 

「なんか昭和レトロな町だよね。天海君がいた空き地なんて、まるでガキ大将がリサイタルしそうな雰囲気だったし…。」

 

 

(そんなことを話していると、また女性が立っているのが見えた。)

 

「あ、”超高校級の呪術師”さんだよ!おーい!」

 

「呪術師…そんな人までいるんすね。」

 

(近づくと、不思議な装いの女性がゆっくりこちらを見た。)

 

「……。」

 

「祝里さん、最後の1人、天海君を見つけたよ!」

 

「……。」

 

(呪術師という彼女は、その名に違わぬ雰囲気でーー)

 

(ーーなく、満面の笑みで俺を見た。)

 

「良かったぁー!きみが見つからなかったら、あたしたち みんな帰れないとこだったよー!!」

 

「……心配かけて申し訳ないっす。俺は天海 蘭太郎。”超高校級の冒険家”っす。」

 

「冒険?かっこいーね!よろしく、らんたろー!あたしは祝里 栞 いわさと しおり 。”超高校級の呪術師“だよー!」

 

 

「…何ていうか…元気っすね。」

 

「そりゃそうだよー!あたしから元気 取ったら、おまじないしか残らないよ!」

 

「てか、らんたろー早く連れてかないと、あたしら家 帰れないよー!おまじない まだ終わってないから、あたし早く帰んなきゃなんだよね。」

 

「あ、わたしたちは他の人たち探しながら小学校戻るよ。」

 

「そうなの?オケー!じゃ、あたしは先 戻ってるから!」

 

(祝里さんはそう言ってツーステップで走り去って行った…。)

 

「呪術って地味に怖いイメージだけど、イメージ変わったよ。呪いの指とか食べてパワーアップしちゃった系かな…。」

 

(またよく分からないことを言ってる…。)

 

 

「おやおやおやおやまあまあまあまああらあらあらあら、お2人サン!」

 

(突然、背後からかけられた声に振り返るが、誰もいない。)

 

「こっちこっち。下、下。」

 

(視線を下にずらせば、ピエロのような服を着た少年がこちらを見上げて…目を閉じた状態で顔をこちらに向けていた。)

 

「ぽぴぃ君、いつの間に?」

 

(彼の身長が小さすぎて気付かなかった…)

 

「や!白銀サン。実は祝里サンと2人が話している間、ずっとスタンバッてました〜!やや!そちらの御仁が噂のラスト・サムライだね!」

 

「サムライじゃないっすけど、冒険家の天海 蘭太郎っす。よろしくっす。」

 

「冒険家!良いね良いね〜!ボクも北は北極、南は南極まで芸を極めて食べ歩き。」

 

「キミの名は。天海クン!ボクの名は。芥子 けし ぽぴぃ!与えられた”超高校級“は”大道芸人“!」

 

 

「それでは、ボクのショーを心ゆくまでご覧あれ〜!」

 

(そう言った彼は何かを宙に放ちーー落ちてきたものをキャッチしては また投げてを繰り返す。いわゆるジャグリングというやつだろう。)

 

(形状の違う5つ6つの物体が彼の周囲で踊っているかのようだ。放り投げている中に電子パッドらしきものも見られるが…大事なものじゃなかったのか。)

 

「これは…すごいっすね。」

 

「そうでしょうそうでしょう?ボクの大道芸は宇宙一〜」

 

「本当!すごいよ!!って…ぽぴぃ君、今は地味にそんな場合じゃないんじゃないかな?」

 

「記憶もない、お金もない、ここがどこかも分からない。そんな時こそボクはみんなに笑顔を届けたいのさ〜!」

 

(彼は言いながら、大道芸を続けたまま俺たちを通り過ぎて行った。)

 

「さすが”超高校級”だよね。ここがどこか分かってからゆっくり見たいよ。」

 

「そうっすね。目を閉じたままというのがまたすごかったっす。」

 

「えっ?目閉じてたの?マンガやアニメでありがちな糸目キャラだと思ってたよ。」

 

 

「…ここから先は行けないみたいっすね。」

 

(この町で行ける場所は広くないようだ。ところどころ鉄格子や看板で封じられていて、その先はどうしても通れない。)

 

(俺たちは一体、何に巻き込まれてるんだ…?)

 

「こっちも鉄格子があるね。あとはここから空き地側に戻ってまっすぐ行くと小学校だよ。そっちの南の道はまだ行ってないかな。」

 

「なるほど。南の道もずっと続いてそうっすね。少し調べてから小学校に向かうっすか。」

 

「無駄だと思うがね。」

 

「きゃあ!?」

 

(突然話に第三者が入って来て、白銀さんが飛び上がる。それもそのはず、その第三者は地面にへばりついている。)

 

(軍服のような格好で腹這いになっているので、一瞬こちらが戦地に迷い込んでしまったのかと思った。)

 

(白銀さんのスカートがもう少し短ければ、訴えることもできただろう。が、彼は目の前の女性の足に目もくれず、一心に地面を眺めている。)

 

「あの…キミも”超高校級”の1人っすか?俺は天海 蘭太郎。”超高校級の冒険家”っす。」

 

「僕は松井 麗之介 れいのすけ 。”超高校級の美化委員“だ。」

 

 

「よろしくっす。……それで、松井君は何をしてるんすか?」

 

「見て分からんのかね?地面を見ているのだよ。」

 

「それは分かるんすが、なぜなのかは分からないっすね。」

 

ないのだよ…。」

 

「ないって…何が?」

 

「何もかも。ゴミもホコリも土も塵ひとつ、髪一本すら。屋外の地面に、だ。」

 

「確かに。屋外とは思えないくらい綺麗っすね。」

 

「素晴らしい…。誰がここを管理してるのだろう…。僕の松井棒すら使う余地もないなんて…」

 

「……地面に向かってうっとりしてるね。」

 

「邪魔しちゃ悪いすから、行きましょうか。」

 

(恍惚の表情で地面と向き合う松井君からそっと離れた。)

 

 

(道はずっと続く…かに思えた。が、歩いて行くうちに、異変に気付く。)

 

「あれ?向こうからも誰か2人来るね……って、わたしたち!?」

 

「これは…鏡っすね…。」

 

「なに…これ…!」

 

(恐ろしく巨大な鏡が、町の”“としてそこにあった。)

 

「どう…なってるの…?」

 

「さっき松井君が言った通り…ここは屋外にしては綺麗すぎるっす。もしかするとーー…」

 

 

(言いかけたところで、後方から声がかかった。)

 

「あ、白銀。最後の1人、見つかったんだな。良かった。」

 

「うん。空き地の土管にいたんだよ。」

 

「そうか。何かワケ分かんねー状況だけど…よろしくな。オレは永本 圭 ながもと けい 。お前は?」

 

「天海 蘭太郎っす。よろしく頼むっす。」

 

「天海か。お前も政府認定の才能があるのか?」

 

「そうっすね。”超高校級の冒険家”って言われてるっす。」

 

「そうか。なんかすごそうだな…。」

 

「キミも”超高校級”なんすよね?」

 

「…オレには才能なんて特にないよ。」

 

「え?」

 

「佐藤さん…佐藤君?と同じで、永本君も才能の記憶がないんだよね。」

 

「期待外れで悪いな。オレは せいぜい”超高校級”と一緒に変なことに巻き込まれた一般人ってことだよ。」

 

 

「そうなんすか?俺にはキミもただ者じゃないように見えますが…。」

 

「ハハッ。やめろよ。記憶がないってことは、才能もないんだよ。きっと。」

 

「俺たちもここに来た記憶を忘れてるんすから、キミも才能の記憶を忘れてるだけかもしれないっすよ?」

 

「…そうだといいけどな。オレみたいな地味なヤツに大した能力なんてねーよ。」

 

「ちょっと、永本君!地味はわたしのアイデンティティだから取らないでね!?」

 

(なぜ対抗してるんだ…?)

 

「記憶を思い出したら ぜひ聞かせてほしいっす。自分の才能が何だったか、考えるとワクワクしないっすか?」

 

「…お前がオレの立場だったらそんなこと言えねーだろうな。」

 

「え。」

 

「……。」

 

「悪い。ちょっと こんな状態で混乱してるみたいだ。」

 

「気を悪くしたか?した…よな。」

 

「いや、気にしないっすよ。」

 

「そっか。お前、いいヤツだな。サンキュ。じゃ、オレは小学校に戻っとくよ。天海、白銀、後でな!」

 

(永本君はニッと笑って踵を返した。)

 

「とりあえず、小学校の方に向かおうか。」

 

(白銀さんが北側の道を指さした。)

 

 

 向こうから誰か来るな

 どこからか歌声が聞こえる…

すべて見たな

 

 

 

 

(鏡の壁に沿って、小学校方面の道を進む。途中、パンツスーツの女性がこちらに駆け寄って来た。)

 

「あ、白銀さん。見つかったんですね。」

 

「あ、山門さん。」

 

「天海 蘭太郎っす。探してもらってたみたいで…ありがとうございます。」

 

「天海 蘭太郎くんですね。よろしくお願いします。わたしは 山門 撫子 やまと なでしこ 、”超高校級の翻訳家“として活動しています。」

 

 

「山門さんは、10ヶ国語話せちゃうんだって!」

 

「すごいっすね。俺も海外にはよく出るんすが、言葉の壁によるハプニングが多くて…参ったもんす。」

 

「あら、海外旅行がお好きなんですね。」

 

「そうっすね。好きが講じて”超高校級の冒険家”に認定されたっす。」

 

「すごいですね。天と海、そして大地に咲き誇る蘭の花。天海くんの名前は才能を表していますね。」

 

「空と海と大地と…ってことだね!」

 

「ふふ、白銀さんの名前も素敵ですよ。『白銀』は”“の和名でしょう?白銀 つむぎ…美しいしらべです。」

 

「うはあ…名前褒められると地味に照れるなぁ…。」

 

「そうっすね。」

 

「何はともあれ、見つかって良かった。わたしは先に戻っていますね。」

 

(山門さんは優しい微笑みを浮かべ、去って行った。)

 

 

「あ、オメエラ、ここイマシタ!」

 

「ローズさん、あのヌイグルミの言葉遣いは真似しない方がいいと思うよ。」

 

(少し進むと、真っ赤なチャイナドレスを着たお団子頭の女性が走って来た。)

 

「アナタさいごの人ですネ。名前と才能言いてクダサイ!」

 

「天海 蘭太郎っす。”超高校級の冒険家”っす。」

 

「これはこれはゴテイネーに。ワタシはローズ。”超高校級のチャイニーズマフィア“なんデス。よろしゅうタノンマス。」

 

 

「マフィア…っすか…?」

 

「コノ国、アウトローをソンタクするクレイジーアイランド。」

 

「あはは…。否定はできないよね。」

 

「ローズさんは留学生なんすね。」

 

「留学もありマスが、仕事もシマス。ワタシのファミリーが開発した(まだ)法的に許されています薬、売りマス。」

 

(滞在許可が一瞬で吹っ飛びそうな副業だな。)

 

「筋肉増強剤、視力回復薬、ドーピングにピッタリよ!某スポーツ祭典でも使用されました一級品!おひとつイカガ?」

 

「せっかくですが、遠慮しておくっす。」

 

「でもローズさん、やっぱり言葉 上手だよね!」

 

「ソンナソンナ、マダマダです。」

 

「わたしさ、ローズさんみたいな人って語尾にアルを付けるイメージがあったんだけど、あれってやっぱりフィクションなんだね。」

 

「……アマミ、見つかりマシタ。ワタシもう行くアル。」

 

(ローズさんはそう言って去って行った。)

 

「アルって言ってくれたよ!やっぱりアルアル中国娘は最高だよね!」

 

(マフィアっていうからどんな怖い人かと思ったら…優しいな…。)

 

(身軽に走って行くローズさんの後ろ姿は すぐに見えなくなった。)

 

 

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「あれ?何か…聞こえるね。」

 

(恐ろしく美しい声だった。心地良く耳を撫でるその声は、非常に馴染み深い旋律を奏でている。)

 

(声の方へ行くと、マーメイドドレスに身を包んだ女性が、美しい声で歌謡ソングを歌い続けていた。)

 

「ヘイヘイホー ヘイヘイホー」

 

「うぅ、耳が孕む…!」

 

「……。」

 

「えーと、こんにちは。俺は天海 蘭太郎、よろしくっす。」

 

「ヘーイヘイホー」

 

「あれ?聞こえてない?おーい。」

 

「ヘーイヘイホー」

 

「ヘーイヘイホー」

 

「……。」

 

「……あらぁ?」

 

「あ、気付いてくれた。夕神音さん、こちらは天海君だよ!」

 

「もしかして、ずっといた?ごめんなさい、私、お気に入りの歌を歌ってると夢中になっちゃって。」

 

「さすが歌手だね。」

 

「天海君、私は夕神音 美久 ゆがみね みく 。”超高校級の歌姫“なんて呼ばれてるわぁ。よろしくね。」

 

 

「歌姫っすか…確かに、凄まじい歌唱力でしたね。」

 

「服が弾け飛んで恍惚の表情で聞き入っちゃうほどだよね。耳から胎動が聞こえるかと思ったよ。」

 

「ありがとう。お褒めに預かり光栄よぉ。」

 

(褒めてたのか…。)

 

「天海君が見つかって良かったわぁ。じゃあ、私は先に戻ってるわねぇ。」

 

(夕神音さんは『ズンドコ節』を口ずさみながら去って行った…。)

 

 

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【小学校前】

 

(小学校らしき建物が見える。高い位置に時計を頂いた、よくあるタイプの学校だ。白銀さんと並び、歩を進める。)

 

「何ていうか…個性的な人が多いっすね。」

 

「うん、さすがは”超高校級”。まるで素人がメチャクチャにデザインしたキャラってかんじだよね。」

 

「……白銀さんの言うことが時々 分かんねーっす。」

 

「あ、ごめんね?つい自分の趣味に偏った たとえをしちゃうんだ。」

 

「いや、そこも白銀さんの個性なんすよね。素敵だと思うっす。」

 

「………。」

 

「白銀さん?」

 

「天海君って、女の子を知らず知らずのうちに勘違いさせちゃうタイプだよね。ラノベの主人公みたいだよ。」

 

「……?」

 

 

「あ、つむぎ。」

 

(たわいのない話をしながら進んでいると、舞台衣装のような派手な服を着た青年が声をかけてきた。)

 

「哀染君、最後の1人 見つかったよ。」

 

「探してくれていたようで…。天海 蘭太郎、”超高校級の冒険家”っす。」

 

「よろしく、蘭太郎クン。ボクは哀染 あいぞめ レイ。政府の認定では”超高校級のアイドル“ってことになってるよ。」

 

 

「哀染君は知る人ぞ知る有名人…なんと人気アイドル ユニット”Great Leo“の片割れなんだよ!私、ここまで有名な人に会ったの、生まれて初めてなんだ!」

 

「やめてよ、つむぎ。まだ そんなに知名度ないんだから。」

 

(Great Leo…?聞いたことがないな。)

 

「ええと…2人は前からの知り合いっすか?ずいぶん親しげっすね?」

 

「ああ、哀染君は女の子みんなに こんな感じだよ。」

 

「あ、ごめん。ボクのファンは呼び捨て希望の子が多いからクセなんだ。お望みならキミのことも蘭太郎と呼ぼうか?」

 

「いや…遠慮しとくっす。」

 

「そう?呼び捨て希望になったらまた言ってね、蘭太郎クン。」

 

「まさか こんなわたしがリア充みたいに言われるなんてね…ふ、ふふふ、ナンマイダブ…今日というこの日を忘れないように生きるよ。」

 

 

(…これで全員と話せたみたいだ。)

 

「白銀さん、哀染君、とにかく、小学校まで急ぎましょう。」

 

 

(そして、俺たちは再び歩き出した。)

 

(通行止めや鏡の壁で閉鎖された町。全員がここに来た経緯の記憶がない。)

 

(これは本当に”ドッキリ”や”小学校に行けば帰れる”ような生易しいものなのか?)

 

(ずっと嫌な予感がしている。底知れない…これまで経験したことのないような、嫌な予感だ。)

 

(その予感は小学校が近づくたびに大きな不安となって、俺の胸に重くのしかかった。)

 

 

 

プロローグ 終わりの先の絶望へ 完

第一章へ続く

 

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