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プロローグ 甦る超高校級

 

【???】

 

(光がある。音もある。自分の姿も、声も、ある。)

 

(自分が誰なのか、自分は知っている。…はずだった。)

 

(手を伸ばす。自分の手を。手のひらは硬い何かに触れた。)

 

(私の名前は、春川 魔姫。この狂った世界のーー)

 

 

(力を込めて押した硬い何かは、思いの外 簡単にその力を外に逃した。)

 

(扉が開くとともに重力に従い、身体が前に倒れかける。けれど、私は咄嗟に両手を差し出し受け身を取った。)

 

(自分が出てきたロッカーを振り返りながら、私は倒れた体を起こした。)

 

(そして、背後から感じた人の気配に身構える。)

 

(そこには、もう1つロッカーがあってー…)

 

 

(男が、そこから転がり出てきた。男は受け身を取ることもなくーー強かに顔面を床に打ち付けた音が響いた。)

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「うわぁ!?」

 

(ロングコートを着た男は私の姿を捉えて目を見張り、勢いよく後ずさった。)

 

「ここはどこ?キミは誰!?」

 

「……。」

 

(目の前の男はひどく混乱した様子で、記憶喪失になった人間のような文句を吐いた。)

 

「ちょっと落ち着いて。私の名前は春川 魔姫。あんたは?」

 

「え?ぼ、僕は…和戸 新始 しんじ…です。」

 

「悪いけど、混乱してるのは あんただけじゃない。騒がないで。」

 

「えっと、ごめん…。春川さん、よろしくね。」

 

(和戸という男は、少し考えた様子を見せてから立ち上がった。)

 

「取り乱してごめん。ここが どこか…キミも分からないってことだよね?」

 

「………そうだね。」

 

「そうか…。夢でも見てるのかな。」

 

「……夢だったら良かったけどね。」

 

「と、とりあえず、ここから出よう。ここは教室みたいだけど…。」

 

(私たちは2人で教室の外に出た。私は1度 振り返り、私たちが出てきたロッカーを見た。)

 

「どうしたの?早く行こう。」

 

 

(教室を出て少し進むと、龍のようなオブジェがあった。その前に制服姿の女子が立っている。)

 

「あれ?あなたたちは?」

 

(メガネをかけた女がこちらを向いた。瞬間、胸の中をザワザワと嫌な感覚が駆け巡った。)

 

「僕は和戸 新始。こっちは春川さん。キミは?」

 

「わたしは鱏鮫 えいざめ 理央。“超高校級のVチューバー”だよ。」

 

 

「……”超高校級”?」

 

「あれ?他の人に会ってない?ここで会った人みんな、“超高校級”の政府認定を受けてるみたいなんだ。」

 

「だから あなた達にも特別な才能があるんだと思ったんだけど…。」

 

「そうなの?えっと、僕は“超高校級の探偵助手”だよ。」

 

 

「やっぱり、あなた達も”超高校級”なんだね。」

 

「探偵助手…探偵じゃないの?」

 

「うん。助手。ただの助手だよ。」

 

(助手…か。)

 

「たまたま偶然 事件に遭遇して、たまたま一緒にいた人が頭脳明晰で…たまたま一緒に行動してたらその人が名探偵として開花していったんだ。」

 

「探偵モノで時々 見るシチュエーション、本当にあるんだね。」

 

「そんなことが10回ほど繰り返されて、10人の名探偵が生まれる現場に立ち会った頃、”超高校級”の認定を受けたかな。」

 

「それはすごいね!?全然ありがちじゃなかったよ。…えっと、それで、春川…さん?あなたは?」

 

「……え?」

 

「あなたは どんな”超高校級”なの?」

 

「そうだね。春川さんも”超高校級”なのかな?」

 

「私は……」

 

「私は、“超高校級”じゃないよ。」

 

 

「あ、そうなんだ?」

 

「私には…特別な才能なんて、ない。」

 

「そうか…。”超高校級”を狙った誘拐とか…そういう類のものじゃないんだね。」

 

「誘拐…か。他の人もそうだったけど、どうやって ここに来たかとか…そういう記憶もないんだよね。」

 

「キミも?」

 

「……そう。とりあえず、他の奴らにも話を聞いた方がいいみたいだね。」

 

「今みんなで探索してるところだから、校舎の色んな場所に散り散りになってると思うよ。」

 

「校舎?」

 

「うん。学校っぽくないところもあるけど…ここ、学校なんだと思うんだよね。」

 

「私たちが最初にいたのも教室らしかったよね。」

 

「確かに。……あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「ポケットに違和感があると思ったら…こんなものが入ってたんだ。」

 

(和戸がコートの内ポケットから、小型の電子パッドとルーペを取り出した。)

 

「ああ、それ。虫メガネは知らないけど…電子パッドは、いつの間にか みんな持ってたみたいだよ。ほら、わたしも。」

 

「私も…あったよ。とりあえず、持っておいた方が良さそうだね。」

 

「あ、さっきは、地下と1階に他の人達が何人か集まってたよ。」

 

「ありがとう。」

 

(地下と1階…どちらへ行こうかな。)

 

 

 1階へ行く

 地下へ行く

全部見たね

 

 

 

【校舎1階 食堂前】

 

(1階まで来た。食堂から派手な衣装の男が出て来たところだった。)

 

「やあ、初めましてだね?ケガなどはないかい?」

 

(男は後ろ手に食堂への扉をピッタリ閉めて言った。)

 

「ケガは ないけど…ここに来た記憶が ないんだ。キミはここがどこか分かる?」

 

「残念ながら、ボクにもさっぱりなんだ。あ、ボクは哀染あいぞめ レイ。“超高校級のアイドル”だよ。」

 

 

「キミも”超高校級”なんだね。」

 

「うん。ここにいる人は、みんな そうみたいだね。」

 

(私達が名乗ると、男は にこやかに笑った。)

 

「新始クン、魔姫。よろしくね。」

 

「”超高校級のアイドル”ってことは有名人なのかな?」

 

「ボクの名前も顔も知らないって?」

 

「ごめん、アイドルについて詳しくなくて…。」

 

「いいんだ。まだ売り出し中だから知らなくて当然さ。食堂に行くんでしょ?今、中に2人いるから自己紹介してくると いいよ。」

 

(哀染という男は笑って去って行った。)

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

(食堂に入ると、目の前に不気味な顔があった。)

 

「うわあ!」

 

(能面を被った男を見るなり、和戸は悲鳴を上げて後ずさる。)

 

「失礼、驚かせましたね!ちょうど こちらも扉から出ようとしていたところだったので。」

 

「ぶつかりそうだから驚いたわけじゃないんだけど…。」

 

「なるほど。このナリでは仕方ないですね!」

 

「……えーと、キミも”超高校級”?」

 

「ええ!“超高校級の舞闘家” 雄狩 芳子おすかる よしこです。よろしく。」

 

 

「芳子?」

 

「ええ!雄狩 芳子は正真正銘の女性。今は翁の面を身に付けているため、男装をしているのです。」

 

「ええと…何で、面を被ってるの?」

 

「舞闘家ですから!」

 

「…関係ある?」

 

「舞闘家といえば、仮面舞闘会!雄狩 芳子の所属する倶楽部では、匿名性の高い仮面舞闘会にて己の技術を高めるのです!」

 

「な、なるほど?仮面がドレスコードのダンスクラブなのかな?」

 

「いいえ。舞踏のみならず、武闘。蝶のように舞い、蜂のように刺す。それが、ネオ格闘技たる舞闘なのです!」

 

「格闘技なんだ…。」

 

「では!雄狩 芳子は、これよりこの学園を調査し、咎なき人々を此処に閉じ込めた罪人を探してきます。雄狩 芳子、刺して参る!」

 

(意気揚々と、顔が見えない軍服姿の女は食堂を出て行った。)

 

(後に残ったのは、私たち2人とーー)

 

 

「えっと、キミも”超高校級”なんだよね?」

 

(食堂の椅子に腰掛けて虚空を見つめるフードを深く被った少女。その小柄な女子に和戸は近付いた。)

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「………。」

 

「あの、聞こえてる?」

 

「………聞こえとる。」

 

「私は春川。こっちは和戸。あんたは?」

 

「ウチは、絵ノ本 夜奈加 えのもと よなか“超高校級の絵本作家”や。」

 

 

「よろしくね。絵ノ本さん、ここで何してたの?」

 

「『何もせん』を しとった。」

 

「え?」

 

「何も しとらんかった。でも、息を吸っとるし、息を吸うから胸も肩も上下しとる。体の中では息が肺を通って全身に回っとる。心臓も動いとる。」

 

「何もせん…これは、何をするよりも難しいんかもしれんな。」

 

「ええと…作家堅気って感じだね。普通のコミュニケーションが難しいや。」

 

(和戸がヒソヒソと こちらに耳打ちしたが、絵ノ本という少女にも聞こえたらしい。彼女はムッとした様子でこちらを見た。)

 

「その辺の人前に立てん作家と一緒にするな。ウチは自分の絵本を題材に人形劇を開催することもあんねんで?」

 

「あ、聞こえてた?ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ。人形劇か。素敵だね。」

 

「孤児院とか…幼稚園でやってたの?」

 

「そういうところでも演ったが、チケット制でコンサートホールでもやんで。」

 

「それはすごいね。」

 

「せやな。ウチのショーを観れば子どもも大人も感動と恐怖で3日は震えが止まらんと評判やからね。」

 

「そ、それはすごいね…。」

 

(そのまま絵ノ本は話すことを止め反応をなくしたため、私たちは食堂を出た。)

 

 

(食堂を出てすぐ、倉庫から出て来る人影が見えた。)

 

「あ?テメーらも、ここに閉じ込められ やがったですか?」

 

(羽織を着た女が、こちらに中指を立ててきた。)

 

“超高校級のDIYメーカー”、市ヶ谷 たもつだ。よろしくお頼もうします。」

 

 

「や、やあ。僕は和戸。こっちは春川さんだよ。」

 

「DIYって、日曜大工のこと?家具とかを作るのかな?」

 

「テメーは英語未習園児か?DIYはDo it yourself!の略だろーが。作るのは、お家具だけじゃねぇ!覚えておけ、よろしくお頼もうします。」

 

「……そういうキミは、言葉がめちゃくちゃだと思うんだけど。」

 

「あ?それはそれは ご勘弁を。デアゴスティーニ漬けの毎日を送ってたら、お言葉の使い方とか人との接し方なんて忘れちまったからな。」

 

「……それは問題だね。デアゴスティーニって、毎週パーツが届いて物作りするってやつだよね?」

 

「それだけじゃねーですけど。世の中デアゴスティーニがあれば、蝶おネクタイ型お変声機も、おキック力ご増強マシンも作れるんだぜ!」

 

「それは…さすがに作れないと思うけど…。」

 

「そうか?お隣の駅に住んでる自称博士のご自作デアゴスティーニなら作れたぞ?」

 

「で、できるんだ!?」

 

「…そっちは倉庫だよね。何してたの?」

 

「あ?ああ。そりゃ、物作りに役立ちそうなモンねーか見てたんだよ。お爆弾ちゃちゃっと作りゃ、ご脱出できるかもしんねーからな。」

 

「ば、爆弾!?…作れるの?」

 

「いや、キッチン用品で ここら一体 更地にできるお爆弾量産してきたオレでも、倉庫の材料じゃ作れねーですね。」

 

「そっか…良かったよ。じゃ、じゃあ 春川さん、行こうか。」

 

(爆弾という言葉に顔を引きつらせた和戸に押されて、その場を離れた。)

 

 

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【校舎地下 図書室】

 

(地下の階段を降りて、目の前の図書室に入る。中にはセーラー服を着た女子がいた。)

 

「あれ?キミたちは誰?」

 

「僕は和戸 新始。”超高校級の探偵助手”だよ。」

 

「……私は、春川 魔姫。”超高校級”じゃないよ。」

 

「ハルマキちゃんに、ワトシン君だね。」

 

「……。」

 

「えっと…ワトシンは僕のこと…かな?キミも、”超高校級”だったりするのかな?」

 

「私は、タマ=アミール・ナオル。」

 

「……“超高校級の保育士”だよ。」

 

 

「……。」

 

「タマ?違う国の人かな?」

 

「ううん。私はこの国の出身のはずだよ。ただ、外国でゴミくず同然に捨てられたんだ。」

 

「え?えっと…ごめん。その…」

 

「大丈夫だよ。外国で捨てられたけど、すぐに孤児院に引き取られて今もこうして生きてるから。」

 

(タマと名乗る女子は、あっけらかんとしたまま言った。)

 

「私みたいなの、捨てられて当然だからね。タマなんて、この国じゃ捨て猫の名前だもんね。明日からはダンボールで暮らすよ。」

 

「ええ、そんな…。」

 

「あ、ごめん。そこは、『タマ=捨て猫は違うよ!』ってツッコミ待ちで言っただけだよ。」

 

「こんな死に際のアルパカみたいなコミュニケーション能力でごめんね。この国の文化は、まだ勉強中なんだ。」

 

「死に際のアルパカって何!?」

 

「それで、あんたは孤児院で育って…”超高校級の保育士”になったんだ?」

 

「うん。私みたいなトイレ掃除でも、子ども達は平等に接してくれるからね。」

 

(そう言って、彼女は遠慮がちな笑顔を見せる。和戸は居心地悪そうな顔をした。)

 

「あ、私、まだ他の人たちに挨拶してないんだ。行ってくるね。」

 

(言い終わらないうちに、小柄な背中は図書室から出て行った。)

 

「何だか…すごい話だね。孤児院で育つなんて…。」

 

(自分の身の上は黙っておこう。)

 

 

「おやおや、フォッフォッフォ!」

 

(声に振り返ると、非常に小柄な人物が図書室に入って来たところだった。赤い服に白い付けヒゲ。大きな白い袋を背負っている。)

 

「サ…サンタ?」

 

「フォッフォッフォ!そうじゃよ!ワシは良い子にプレゼントを届けるサンタ・クロースじゃ!」

 

「…えーと。今、クリスマスじゃないよね?こんな時期にサンタの格好してもケーキは売れないと思うけど…。」

 

「あんたは、高校生じゃないの?」

 

「……。」

 

「残念だな…。お前さんらは…もう子どもじゃねーってことかい。」

 

「俺は…麻里亜 郵介ま  り   あ    ゆうすけ“超高校級のサンタクロース”だ。」

 

 

「”超高校級のサンタクロース”?」

 

「変な話に聞こえるかい?だがな、サンタクロースってのは本当にいるのさ。」

 

「もちろん、トナカイを空に走らせて世界を一夜で廻る類のモンじゃねぇ。とある国にある”国際サンタクロース協会”に認定されたってだけさ。」

 

「国際サンタクロース協会?」

 

「初耳って顔だな?そりゃそうだ。遠く離れた北欧の団体で、この国の人間は俺入れて2人しか認定されてねぇ。」

 

「それは、すごいんだね。」

 

「なに、サンタなんて金にならねぇ仕事だよ。道楽で やってたら”超高校級”まで付いてきたってワケだ。」

 

「…あまり、サンタさんの口から『金』って言葉は聞きたくなかったな…。」

 

(和戸が呟くと、サンタの麻里亜はフォッフォッフォと笑いながら図書室から出て行った。)

 

 

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【校舎1階 玄関前】

 

「何か…変な人が多いね。…疲れたよ。」

 

「あれだけ いちいちツッコんでたら、そりゃ疲れるよ。」

 

「あはは…性分かな?」

 

「それより、あっち。玄関じゃないの?外に出られるかもしれないね。」

 

(1階の奥を私は指差す。すると、後ろから声が降ってきた。)

 

「外には出られるけど、脱出はできないようだよ。」

 

(目の前の男は、昔の書生のような格好をしている。)

 

「キミも、”超高校級”?」

 

「そうだよ。僕の名前は、綾小路 菊麿きくまろ“超高校級の歴史学者”だよ。」

 

 

「歴史かぁ。すごいと思うよ。僕は覚えるのが あまり得意じゃないから。」

 

「フム。歴史は本来、暗記すべきものじゃないけれど、学校教育の歴史は ただの暗記科目だからね。仕方ないさ。」

 

「君はどうかな?」

 

「私も興味はないね。」

 

「そうか。残念だよ。でも、興味を持つ きっかけがあれば、きっと面白くなるはずだよ。」

 

「そうなんだね。」

 

「まあ、そういう僕も、専門外の西洋史なんかは苦痛以外の何ものでもないんだけれどもね。」

 

「……そうなんだね。」

 

「僕の専門は東洋史だよ。今は僕らの生まれ育った この国の民俗的、言語的な起源を研究してるんだ。」

 

「未だに謎の覆面に包まれたこの国の起源を知る…考えただけでもゾクゾクするよ。フ…フフフ…。」

 

「……。」

 

(言いたいことだけ言って、綾小路と名乗る男は姿を消した。……本当に変な奴が多い。)

 

「さあ、春川さん。行こうか。」

 

「あんた…今のはスルーなの?」

 

「ああ…。謎や真実や知的探求心にゾクゾク身を震わせるタイプには慣れてるんだ。」

 

「嫌な慣れだね。」

 

 

(私たちは正面玄関に近付き、その門を開いた。その先にあったのは……)

 

(青い空、照りつける日差し、心地良い風。そしてーー)

 

「檻…?壁?な、何だよ、これ…。」

 

(学園を鳥籠のように囲う鉄柵。とても超えられない高い壁。工事途中のような敷地内。)

 

(私たちは、ただ そこからの景色を見上げていた。)

 

 

「おい、オメーら。まさか諦めちまったんじゃねーだろーな?」

 

(声を掛けられた方を向くと、男がこちらに近付いてくるところだった。)

 

「キミも…”超高校級”?」

 

「ああ。聞いて驚くなよ!オレは“超高校級のパイロット” 羽成田 宇宙はねなりた そら。宇宙と書いて、”そら”だ。」

 

 

(男は快活に笑った。そして、続けた言葉はーー)

 

「世界に羽ばたく羽成田だ!覚えとけ!」

 

「………。」

 

「何だ?スケールのデカさに言葉も出ねーか?」

 

「…宇宙よりはスケールが小さいと思っただけ。」

 

「ああ!?何だと!?」

 

「ま、まあまあ。パイロットなんて、すごいよ。高校生でも なれるんだね?」

 

「まあ、仕事じゃないならな。金をもらわない無償の運転で、自家用機なら高校生でも できんだよ。国内はな。」

 

「自家用機?お金持ちなんだね?」

 

「もちろん、オレのじゃねーよ。知り合いの金持ちに頼んで運転してたんだ。」

 

「そのうち、オレの腕が十分だと知ると、自家用機を乗り回す金持ち達がオレを使いたがった。某国じゃ結構 有名なんだぜ?」

 

「それは すごいね。」

 

「巨額を株や天然ガス発掘の投資に投じる金持ちが、パイロット雇う金ケチってんだぜ?笑えるだろ?」

 

「……。」

 

「おっと、わりぃな。こんな つまんねー話。こんな話より、テメーらの話も聞かせてくれよ。」

 

(私たちも自己紹介をすると、羽成田という男は「よろしくな」と親指を立てた。)

 

(なぜか和戸と羽成田は一瞬で打ち解けたらしい。)

 

「じゃあ また後で、ここを脱出する時な。新始、春川。」

 

(手を振って、いなくなった。)

 

「さて、この辺りも見ておこうか。」

 

「そうだね。」

 

 

 近くの建物に行く

 階段を降りる

全部見たね

 

 

 

(すぐ近くの建物は円形の珍しい造りだ。)

 

「変わった建物だ。入れるみたいだね。」

 

 

 

【寄宿舎】

 

(建物の中には、ホールと円形に配置された たくさんの部屋。それぞれの部屋に顔のようなドット絵が掲げられている。)

 

「こ〜ん〜に〜ち〜は〜」

 

「うわあああ!?」

 

(突然、地を這うような声を掛けられて、和戸が大袈裟に飛び上がった。)

 

「な、何?キ、キミは!?」

 

(私たちの視線の先には、ぼろぼろの古めかしいワンピースを着た女。その女の足が…ない。)

 

「驚かせてごめんなさい。私は、壱岐 霊子い き  りょうこ“超高校級の幽霊”よ。」

 

 

「ゆ…幽霊?それって、お化けの?」

 

「ええ。」

 

「…ってことはキミ、もしかして…し、死んでるの?」

 

「そうね。しかも…殺された理由があまりに理不尽で…。死んだ恋人が寂しくないように、なんて理由で…だから化けて出たのよ。」

 

「……。」

 

「……和戸、何 青ざめてんの。そんなわけないでしょ。」

 

「え?……あ。」

 

「ふふっ。ごめんなさい。あんまり純真に驚いてくれたから、つい からかっちゃったわ。」

 

「な、何だ。冗談か。」

 

「ごめんなさいね。でも、私が”超高校級の幽霊”なのは本当よ。」

 

「え?」

 

「もともとはお芝居でエキストラをしていたんだけど、ある日 出演したホラーものの評判が良くてね。」

 

「幽霊役でテレビ出演が多くなったら、お化け屋敷なんかからも依頼がくるようになったの。」

 

「あんたの足がないのは何で?」

 

「ふふ。もちろん特殊メイクよ。パウダーが光を反射するの。光の当たり方によって人間の目に捉えられなくなる仕組みなのよ。」

 

「な、なんだ。びっくりさせないでよ。」

 

「……。あんた、オカルト苦手なの?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど…」

 

「昔『殺した相手が幽霊になって目の前に現れた』なんて言う犯人がいたから…今そんな心理状態なのかと思って驚いたんだよ。」

 

「……あんた、人を殺したことでもあるの?」

 

「な、ないよっ!あるわけないだろ!冗談でも そんなこと言わないでよ。」

 

「……そう。悪かったね。」

 

「とにかく、ここに連れて来られた経緯の記憶も闇に葬られた今…私たちは死にかけた虫の如く、うごめき続けるしかないわ。頑張りましょう。」

 

「な…何で そんな怖い言い方するの?」

 

 

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(階段の前に、誰かいる。)

 

「うわ、大きい人だなぁ…。」

 

(和戸が感嘆の声を上げた。筋肉隆々という言葉が似合う巨躯。)

 

「あら!あなたたちも”超高校級”かしら?」

 

(野太い声で放たれた言葉に、和戸は一瞬 面喰らったような顔をしたが、すぐに表情を戻して言った。)

 

「う、うん。僕は和戸。”超高校級の探偵助手”だよ。」

 

「私は春川。”超高校級”の才能はないよ。」

 

「もしかしたら、記憶が混乱して才能を忘れてるのかもしれないわね。あたし達もここに来た記憶がないもの。」

 

「あたしは、大場 大吾郎おおば だいごろう“超高校級のママ”よ。」

 

 

「”超高校級”…のママ?」

 

「ほら、酒場の女主人をママというでしょ?」

 

「高校生なのに そんなところで働いてるの?」

 

「やーねぇ、健全なお店よ?21時までの営業だもの。『5時から9時まで』ってね。」

 

「そ、そうなんだ。よ…よろしくね、えーと、大場…さん?」

 

「誰がオバさんだぁ!?」

 

「うわぁ!?ち、違うよ!大場さんって言ったんだよ!」

 

「あら?ごめんなさいね。女(仮)性に『オバさん』なんて言う無礼男かと思っちゃったわ。」

 

「女性…なんだね。やっぱり」

 

(『心は』と声に出さないけれど、和戸は口を動かした。)

 

「こんなメイク道具もないところに、私服で放り出されて困ったわよ。着飾れるものでもないか、探してくるわ。」

 

(大場はたくましい身体を揺らして去っていった。)

 

 

 

【赤い扉の前】

 

(階段を降りた先の道に、赤い扉が見える。その前に、パレードに出るかのような衣装の女子が立っていた。)

 

「キミも、ここに連れて来られたの?」

 

「らりほー!そうだよー!誘拐なのかなー?そうなのかなー?」

 

「そういう割には…ずいぶん余裕だね?」

 

朝殻 奏あさから  かなで“超高校級のブラスバンド部”だからだよー!」

 

 

「えっと、関係あるの?」

 

「こうやって元気に話さないと、肺活量がなくなってしまうからねー!」

 

「肺活量が死んだら、人は死んでしまうからねー!」

 

「そう…かな?えっと、楽器は何を吹いてるの?」

 

「カナデが奏でられるのは、チューバと、この世の金管楽器 全てくらいだよー。」

 

「すごいんだね…。」

 

「お前らは何の楽器なんだー!?」

 

「えっと、僕は”超高校級の探偵助手”の和戸 新始。残念ながら金管楽器もバイオリンもできないよ。」

 

「私は春川 魔姫。私も楽器なんて、ほとんど触ったことないよ。」

 

「クラークラー!ペンより重い物が持てないシンジと、箸より重い物が持てないマキだねー!」

 

「カナデはチューバより重い物が持てないカナデだよー!チューバはだいたい10kgの米俵くらいだよー!」

 

「10kg 持てたら十分じゃないかな?」

 

「そんなことないよー!夢はパイプオルガンを持ち上げることだよー!」

 

「金管じゃないの!?」

 

(和戸のツッコミに対して その肺活量を褒めた朝殻という女は、スキップで走り去っていった。)

 

 

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『オマエラ、くまたせしました!始業式を執り行いたいと思いますので、至急 体育館に集まってください!』

 

「え?何、今の?」

 

(周辺にあるスピーカーから響く音。それに和戸は怯えたような声を出した。)

 

「…体育館って…校舎1階にあったよね?」

 

「……とりあえず、行こうか。」

 

 

(歩き出したところで、食堂側の道から歩いて来る人物がいた。銀のツンツンした髪に帽子を被った人物。それは…)

 

「……。」

 

「あんた、どこかで会ったことない?」

 

(相手は黙って顔を横に振る。)

 

「……そう。」

 

「僕は和戸。こっちは春川さん。キミの名前を聞いても いいかな?」

 

「……名前が思い出せないんだ。」

 

「え?」

 

“超高校級の希望”…そう呼ばれていたことだけは、覚えているんだけど…。」

 

 

「”超高校級の希望”?具体的には、何をするのかな?」

 

「分からない。でも、この才能はきっと、役に立つはずだよ。」

 

「………。」

 

(言葉少ない学生服の男は、そのまま校舎に入って行った。)

 

「僕たちも行こう。春川さん。」

 

(和戸の後ろに付いて体育館を目指しながら、私は思い出していた。)

 

 

(私の中に確かに残る記憶を。)

 

仲間たちの言葉を。)

 

 

「みんな、希望を捨てちゃダメだ!」

 

「僕ら自身がフィクションだとしても……この胸の痛みは…本物だ!」

 

「ウチは…この命を使うぞ!」

 

 

(私は…私たちはあの日、『ダンガンロンパ』を終わらせようとした。)

 

(けれど、私たちの訴えは外の世界には届かなかった。)

 

(人格を消されたキーボの投票により、“希望が勝利”した。そしてーー)

 

(投票放棄した私たち3人と…白銀は、おしおきされたはずだ。どうして、私だけがここにいる?)

 

(……”希望が勝った”後の記憶がない。)

 

(それに…この才囚学園は、キーボが破壊したことがなかったみたいになっている。)

 

(もしかして、ここは…次の『ダンガンロンパ』…?)

 

(私は…今、“超高校級の生存者”……?)

 

(そうだ。”前回”の裁判で、そう言っていた。犠牲者になった私は…また生存者代表として、キーボは視聴者代表として…)

 

(そして、白銀が首謀者として次の『ダンガンロンパ』に参加するって。)

 

(ここまで見てきた中に、白銀の姿はなかった。きっと どこかに白銀が隠れてる。)

 

(それか…今まで会った誰かにコスプレしているのかもしれない。)

 

(今度こそ…私が白銀を…首謀者を見つけて、終わらせてやる。)

 

(この狂った物語を。)

 

(私は、この狂った物語のーー破壊者だ。)

 

 

 

プロローグ 甦る超高校 完

第1章へ続く

 

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