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第1章 私とボクの学級裁判(非)日常編Ⅰ

 

【校舎1階 体育館】

 

(全員が体育館に揃った。不安げな顔で辺りを見回している者、ぼんやり立ちすくんでいる者、周りと談笑している者、三者三様だ。)

 

「みんな…油断は禁物だよ。いつどこから危険が襲来するか分からないから…。」

 

(名前を忘れたという男が静かな声で言った。彼は、“超高校級のロボット” キーボにそっくりだ。)

 

(キーボとは異なり人間のようだが、彼に見覚えがある。)

 

(ーーいつ、どこでだろう?……体育館?)

 

(そこで ふと、違和感に気が付いた。ここに集まったのは、私を入れて15人だ。)

 

(どういうこと?“前回”は、16人だったのに。どうしてーー)

 

 

「オマエラ、入学おめでとうございます。」

 

(その時だった。突然 体育館の前方から、あの声が聞こえた。腹立たしくて、憎らしい、あの声。)

 

(そしてーー…)

 

「ボクこそは、この新世界の神であり…そして才囚学園の学園長!そう、モノクマだよ!」

 

「オマエラ、どうも初めまして!」

 

 

(あいつが…モノクマが、現れた。)

 

「きゃああ!?」

 

「ヌ、ヌイグルミが…喋った!?」

 

(Vチューバーだというエイ鮫が突然 現れたクマに叫ぶ。それを皮切りに、みんなが動揺を口にした。)

 

「ヌイグルミじゃなくて、モノクマなんだってば。って、このくだりはマンネリすぎるから省略しまーす!」

 

「な、何なんだよ、あれ…?ロボット?」

 

「みんな、落ち着いて!きっと自立型のロボットだよ。」

 

「ヌイグルミでもロボットでもなくて、モノクマだってばー!」

 

(モノクマは「イライラ」と自分で口にして……)

 

「まあ いいや。とりあえず聞いてね?いい?いくよ?」

 

(そして、”あの言葉”を言い放った。)

 

「オマエラにはコロシアイを してもらいます!」

 

「言っちゃったぁ!マンネリどころか聞き飽きただろうから、もう恥ずかしい粋なんだけど、言っちゃったぁ!」

 

「い、今…何て…?」

 

「オマエラには、ここでコロシアイを してもらいたいんだよね!”超高校級”の才能を持つオマエラ同士でさ!」

 

「何を言ってるんだ!そんなこと、するはずない!」

 

「そうだよ!そんなこと…」

 

(また、全員が動揺した様子で声を放つ。その様子にモノクマは小首を傾げた。)

 

「コロシアイで勝った人は、ここから出られます…って言っても?」

 

「分かってるはずだよね?学園の周囲は巨大な檻で囲まれて外に出られないって。」

 

「さて、誰が1番 外に出たいかな?」

 

(モノクマが「うぷぷ」と笑う。不愉快な笑い方に、胸がザワついた。)

 

「オマエラは同じ場所に閉じ込められた者同士だけど、仲間じゃない。敵同士なんだ。隣の芝生は青い芝生じゃなくて、草刈り機かもしれないのさ!」

 

(不安を煽る言葉をモノクマが吐くと、全員が互いの顔を見合わせた。疑心に満ちた表情で。)

 

「みんな!お互いを疑う必要なんてない!大丈夫だよ!そんなことしなくても ここから出られる!希望を諦めちゃダメだ!」

 

「うわぁ、最初からクライマックスな人がいるね?今から そんなんじゃ疲れちゃうんじゃない?テンション保てる?大丈夫?」

 

「ま、とにかく、本当にオマエラはコロシアイをしないと、ここから出られないんだよ。」

 

「その…コロシアイって何?僕らに武器を持たせて殺し合わせるってこと?」

 

「ちょっ、ちょっと、何 聞いてるの!?」

 

(和戸へ非難の目が集中する。が、モノクマが「こちらに注目しろ」と言わんばかりの声を出したため、視線はまたモノクマへ注がれた。)

 

「そんな野蛮なコロシアイじゃないよ!才囚学園のコロシアイはもっと、知的エンターテイメントに溢れた学級裁判によるコロシアイなんだよ!」

 

(モノクマの話を聞くうち、みんなの顔がどんどん青ざめていく。こんこんと語られる、学級裁判の内容に。)

 

(みんなにとっては信じがたい、私にとっては馴染み深くなってしまった学級裁判のルール。)

 

(私は、やっぱり…次の『ダンガンロンパ』に参加しているんだ。)

 

(前回と同じ学級裁判のルール。前回はモノクマーズがあの説明をしていた。)

 

(そういえば…この場にはモノクマーズの姿はない。エグイサルもいない。)

 

 

「お好きな殺し方で、お好きな相手を、お好きに殺してくださーい!」

 

(学級裁判の説明を終え、モノクマは高らかに笑った。)

 

「嘘だよ!そんなの、現実離れしてるっていうか…とにかく、誰も乗らないよ。」

 

「ボクらはコロシアイなんてしない!希望を持って、1人も欠けずに ここから脱出するんだ!」

 

「そ、そうだ!そんなこと…絶対しないぞ!」

 

(数名がモノクマに声を上げるのを聞き、他の面々も口々にコロシアイを起こさないと主張した。)

 

「やれやれ、最初の反応もマンネリだなぁ。ま、嫌がっているオマエラをその気にさせるのもボクの仕事だからね。腕の見せ所ってことかな?」

 

(モノクマは 嫌な笑い声を響かせて消えた。)

 

 

(そこで、体育館全体にアラーム音が響いた。”前回”と同じ、電子パッド…モノパッドからの音。)

 

(全員が各々のモノパッドを確認している。)

 

(モノパッドに表示された校則は、エグイサル以外は”前回”と同じだ。)

 

(『校則違反者は処罰されます』…エグイサルの表記がなくなっているってことは…モノクマーズがいないってこと?)

 

「とにかく、しっかり学園を調査しよう。脱出の手掛かりがあるはずだよ。」

 

「そ、そうだよね!みんなで ちゃんと調べれば…出口が見つかるはずだよ!」

 

(エイ鮫たちが促したことにより、全員 散り散りに学園内を調査することになった。)

 

『ダンガンロンパ』のコロシアイ。今度こそ…終わらせてやる。)

 

(今の私なら…きっと、それができるはずだ。)

 

(私は、その場所に足を向けた。)

 

 

 地下 図書室へ向かう

 1階 女子トイレへ向かう

全部見たね

 

 

 

【校舎地下 図書室】

 

(”前回”、初めての事件が起きた図書室。被害者の天海は、隠し扉から現れた白銀に殺された。)

 

首謀者の部屋に入ることができれば、コロシアイを終わらせられるかもしれない。)

 

(私は”前回”の記憶と同じ本棚の縁を掴んだ。本を調べるようなフリをして、力を込める。ーーが、)

 

(……ビクともしない。)

 

(隠し扉は…ここにはないってこと?)

 

 

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【校舎1階 女子トイレ】

 

(”前回”の裁判では、女子トイレに首謀者の部屋に繋がる通路があると言っていた。)

 

(隠し通路を作るとしたら…用具入れだ。)

 

(手洗い場の蛇口を思い切りひねると、勢い良く飛び出した水が床を濡らした。)

 

(用具入れを開けて中を調べる…が、隠し扉のようなものは どこにもない。)

 

(仕方なく、取り出したモップで床を拭いた。)

 

(モップを戻す際、柄を壁に当ててみたが重い音が鳴るだけだった。)

 

(空洞があるような音じゃない…。)

 

 

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(その後、図書室やトイレ以外も調べたけれど、首謀者の部屋に繋がる道は見つからなかった。)

 

(どういうこと…?首謀者の部屋は”前回”と違う場所にあるの?)

 

 

 

【寄宿舎 春川の個室】

 

(それから、再度 体育館に集まった全員と、手掛かりはなかったと報告し合った。今日は宿舎で休み、明日また調査を再開することを確認して解散した。)

 

(”前回”は…獄原が見つけたトラップだらけの地下道に、疲弊するまで挑んだんだっけ。)

 

(今回は、あの道は誰にも見つかっていない。)

 

(見つからなくて良かった。あれを発見したところで、絶望するだけだ。)

 

(あの道を進めない絶望も、その先の絶望も…みんな、フィクションなんだから。)

 

…………

……

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(もはや聞き慣れた朝のチャイムとモノクマの声。)

 

(身支度を済ませて食堂に向かった。とりあえず今日も調査の前にみんなで食事をするという話だったから。)

 

「やあ、魔姫。よく眠れた?」

 

(扉を開けると、アイドルの哀染もちょうど出て来たところだった。無駄に爽やかな笑顔で話しかけてくる。)

 

「この状況だからね。大して眠れてはないよ。……あんたは、顔色が良さそうだね。」

 

(言いながら、哀染を観察する。白銀と同じぐらいの身長。どことなく顔立ちも似ている気がする。)

 

(白銀が いくら全く別人に”コスプレ”ができたとしても、長時間の変装なら体格が同じぐらいの人間がいいに決まってる。)

 

(白銀と同じ背格好の哀染は注意しておいた方がいいね。)

 

「魔姫?ボクの顔に何か付いてるかい?」

 

「…ううん。何でもないよ。」

 

(彼の笑顔を受け流し、2人で食堂へ向かった。)

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

(食堂に入ると、数名が集まっていた。どことなく重苦しい雰囲気だ。)

 

「あ…おはよう。」

 

「春川さん、哀染くん、おはよう。」

 

「おはよう。どうしたの?何だか暗い雰囲気だね?」

 

「そりゃそうだよ…。こんなところに閉じ込められて…一夜明けて…出られる見込みも、ここがどこかも分からなくて…。」

 

「昨日は動画の編集もアップロードも、フォロー新着の巡回もできなかったんだよ!暗くもなるよ!」

 

「…元気そうに見えるけどなぁ。」

 

(どこか緊張感のない空気に、哀染は困ったように笑った。)

 

(その後、全員が揃って朝食をとりながら、今後のことを話し合った。けれど、大した意見は出ない。)

 

(「とにかく脱出口を見つける」という昨日と変わらない作戦内容に、数名が落胆の色を見せた。)

 

 

「希望を捨てちゃダメだよ。絶対、脱出の手掛かりはある。」

 

「テメーは“超高校級の希望”という、おヘンテコ才能だったよな?このお先真っ暗な状況で、ご希望なんてありんすかァ!?」

 

「あるよ。絶対に。」

 

(DIYの市ヶ谷に対して、男は力強く頷いた。)

 

「絶対に見つけ出してみせるよ。だから、希望を見失わないで。」

 

「………」

 

「………かっこいい。」

 

「え!?」

 

 

「おはっくま〜!オマエラー!」

 

「きゃあ!?で、出た!」

 

「出たとは何だよ!台所によくいる黒い紳士みたいに言わないでよね!ボクは白黒の紳士なんだから!1匹いたら1ナユタいると思え!」

 

「多くてタチが悪いな…。」

 

「何しに来たの。」

 

「は、春川さんの冷たい眼差しをこの身に受けられるなんて…ハアハア。」

 

「……。」

 

 

「ボクが現れた理由…それは…記念すべき最初の“動機”発表でーす!」

 

「……動機…。」

 

「動機って…何だよ、それ…。」

 

「え?知らない?コロシアイの動機。モチベーションだよ!」

 

「仕事に精を出す会社員には給料という動機、子作りに精を出す夫婦には快感という動機が必要でしょ?だから、コロシアイの動機を用意したのさ。」

 

「……それで、その動機っていうのは…何なの?」

 

(私が問うと、モノクマは いつもの嫌味な笑い声を上げ、そしてーー)

 

「なんと、最初に行われる殺人に関して、学級裁判は行われませーん!」

 

「……!」

 

「つまり、真っ先に殺人を犯した人物は無条件にこの才囚学園を卒業できるのでーす!初回特典ってヤツだね!」

 

(”前回”と同じ…。)

 

「…何なんだよ?そんな…ゲームみたいな…。」

 

(パイロットの羽成田が困惑の声を上げた。)

 

「そんな ご条件出したって…人殺しなんてしねー!………です、よね?」

 

「大丈夫だよ。もちろん、誰も死なせない。希望を諦めないで。」

 

(パニックになる全員に、キーボに似た男は”希望”を訴え続けている。それに対して、モノクマはイライラと言葉を口にした。)

 

「あのさぁ、キミ。昨日から、うるさいんだけど。その言葉は、後に取っておいて欲しいんだけど。」

 

「っていうか、その言葉を聞くとアレルギーでキモいブツブツとか出そうなんだよね。まだ お呼びじゃないんだよ。…ということで、決定!!」

 

「決定決定、大決定!ーー見せしめ要員の、ね。」

 

(モノクマがパンパンと手を叩く。嫌な気配がして、思わず叫んだ。)

 

 

「避けて!」

 

(けれど、遅かった。どこからか雨のように降って落ちた何本もの槍が、学生服に身を包む身体を深く貫いた。)

 

(彼は叫びを上げることなく、串刺しにされた状態で、自らの血の海に沈んだ。)

 

「きゃああああ!?」

 

「う…うわああぁあ!!」

 

「ひぃいいいぃいいぃ!?」

 

「キーボ…!」

 

(周囲から上がる悲鳴を無視して、慌てて彼に近寄り、その身体に触れる。その身体からは、既に生命は感じられなかった。)

 

「……死んでる。」

 

「…っ!?」

 

「アーハッハッハッ!言ったでしょ?ボクは この世界の神なの!ボクに逆らうということは…神を敵に回すってことなんだよ!」

 

「オマエラの生殺与奪の権利はボクが握ってるのさ!他人に握らせるな!で、お馴染みの権利をね!このボクには逆らえないんだぞー!」

 

(「覚えとけよー!」という捨てゼリフと共に、モノクマは立ち去った。残された者は、呆然と この状況を理解することに時間を浪費していた。)

 

「嘘…でしょ?だって、そんな…。」

 

「希望が…オ、オレたちの希望が……。」

 

「な、何なんだよ…!クソ!!」

 

「……。」

 

「みんな。とにかく一旦 落ち着こう。ここにいるのが辛い人は、今すぐ外に出て。」

 

「そ、そうだね。ここを調べるのも、彼を弔うのも、今は数名でいい。みんなは、他の場所を調べておいてよ。」

 

 

(顔を青ざめさせた面々が食堂から出て行く。食堂に残ったのは、哀染と和戸、それに保育士を名乗るタマと私だけだった。)

 

「ザックリいっちゃってるねー。」

 

(タマが物言わぬ死体をマジマジと見つめて言った。)

 

「えーと、みんな平気なの?僕は一応、現場に慣れてるっていうのも あるけど…。」

 

「ボクは慣れてはいないけど…仕事柄…かな。」

 

「私が育った国は、道端に死体 山積みだったからね。」

 

「春川さんも…無理しないでね?」

 

「…うん。」

 

(死体を観察する。見れば見るほど、この男はキーボにそっくりだ。)

 

(…犠牲者に志願した私とキーボが、次の『ダンガンロンパ』に出る。)

 

(それが本当なら……この男はキーボで、視聴者代表だったはずだ。)

 

(視聴者代表を…『ダンガンロンパ』側が、こんなに早く殺したってこと?)

 

「ハルマキちゃん?」

 

(気付けば、タマがニコニコしながら こちらを覗き込んでいた。)

 

「ハルマキちゃんって、どこぞの国のアリスみたいに不思議な人だね。死体を見ても冷静だし、1人だけ”超高校級”じゃないらしいし。」

 

「……。」

 

(タマの目は私に「どうして」と訴えていた。しかし、それも長く続かなかった。)

 

 

『只今より、食堂の清掃を行います。食堂内にいる生徒は速やかに屋外に避難してください!』

 

「な、何だ!?」

 

(スピーカーからの声と共に、白い煙が室内に噴射される。)

 

「危険かもしれない!みんな、ひとまず出よう!」

 

「催眠ガス?それとも、毒ガス?神経ガスとか、かな?」

 

「あんたも早く!」

 

(ぼんやり煙を見つめるタマの腕を引っ張って、和戸と哀染と共にテラス側から食堂を出た。)

 

(窓から見える室内は真っ白で、中の様子は分からない。キーボに似た男の死体も見えなくなった。)

 

「煙は空気より軽いみたいだね。漏れたガスが上に昇ってる。」

 

「少し離れよう。」

 

 

(あの男がキーボだったら…。そう思うと大きな喪失感に襲われた。”前回”を、最後まで共に戦った仲間。)

 

(彼が目の前で殺されたのに…何もできなかった。)

 

(ーーいや、投票放棄で死んで…全てを終わりにしようとしていたのに…何を言ってるんだろう。)

 

(私たちは、全員この学園と死ぬ覚悟をしたんだ。私も。夢野も。最原も。)

 

(15分ほどで、煙が引いた。)

 

 

「ちょっと見てくるよ。みんなは そこで待ってて。」

 

(哀染は食堂に近付いて行きーー窓から中を確認して、慌てた様子で食堂の扉を開いた。)

 

(その様子に、私たちも彼の近くに寄って、彼の後ろから食堂を覗き込んだ。)

 

「え!?」

 

死体がなくなっている…。」

 

「この短時間で?」

 

「わー、魔法みたく なくなってるね!」

 

(煙が引いた食堂内は、朝食を取る前と変わらぬ様子だった。死体は血の匂い もろとも痕跡を残さず消えている。)

 

(これも “前回”と同じ。フィクション世界なら、こんな短時間でも死体を消せるってことだね。)

 

「……彼の弔いすらできなかったね。」

 

「彼への弔いは、ここを出たらにしよう。ボクたちは…今は学園の調査をするべきだよ。」

 

「……。」

 

(昨日は首謀者の部屋探しで終わったから…今日は校舎全体を見ておこう。)

 

「春川さん、良かったら一緒に行ってもいいかな?」

 

「……いいけど、私が探偵として開花することはないよ。」

 

 

 校舎を調べる

 中庭を調べる

 寄宿舎を調べる

全部調べたね

 

 

 

【校舎1階 入り口前】

 

「新始!春川!」

 

(校舎に入ってすぐ、羽成田に呼び止められた。)

 

「あの…どう、だった?…彼、やっぱり…死んじゃったんだよね?」

 

「そうだね。でも、部屋に煙が撒かれて僕らは食堂を出たんだ。その後、死体は消えてたよ。」

 

「え?どういうこと?」

 

「もう食堂には死体どころか血の一滴も残ってないってことだよ。」

 

「そ、そんなことが…あんのか…?」

 

「どうやったかは知らないけどね。」

 

「そうか…新始。詳しく聞かせてくれるか?」

 

(羽成田と和戸が話し始める。私の隣で、エイ鮫は顔を俯かせた。)

 

「人が本当に亡くなるなんて……ショックが甚大だよ…。」

 

(私は、その顔を眺める。眼鏡をかけた大人しい顔立ち。女にしては高い身長。言い回しや話し方が白銀に似ている気がする。)

 

「な、何…?春川さん。そんなチャーミングな顔でジッと見られたら、さすがに照れちゃうよ。」

 

(…白銀にしては、オッサンくさすぎる気もするけど。)

 

「……あんた、Vチューバーとか言ってたよね?Vチューバーって何?」

 

「え!?春川さん興味ある!?配信とかしてる人?バーチャル移行したい感じ!?」

 

「……知らないから聞いてるだけなんだけど。」

 

「あ…そうだよね。ごめんね。つい興奮しちゃって…。えっとね、Vチューバーは、バーチャルなUチューバーのことだよ。」

 

「顔出ししないで、2次元や3次元キャラを使ってUチューバー的なことをするんだよ。」

 

「顔出し?」

 

「Uチューバーって顔 分かっちゃうでしょ?素人なのに有名人みたくなっちゃう人もいるんだよね。でもVチューバーなら その心配は無用なの。」

 

「わたしの顔って地味だし、顔出ししても誰得?だからね。あ、でも、春川さんみたいな人なら顔出しも怖くないよね!目元のホクロがエロいし。」

 

「……。」

 

「…まあ、わたしも “超高校級”が付いたせいで顔バレしちゃってるんだけどね。」

 

(結局、Vチューバーが何なのか、よく分からなかった。)

 

(和戸と羽成田の話もひと段落したようなので、和戸と一緒に校舎の奥へ向かった。ーーところで。)

 

 

「な、何だ!?今の音!?」

 

(地下への階段前の教室から、ラッパのような大きな音が聞こえてきた。)

 

(和戸が慌てて走って行き、その教室の扉から足を踏み入れた。)

 

 

 

【校舎1階 教室A】

 

「あれ?誰もいない…それに、何もないや。」

 

(誰かがいるだろうと思った教室内には誰の姿もなければ、机や椅子以外は何もなかった。)

 

「えーと、この音…そうか。この通気口から聞こえてたんだね。」

 

(和戸が教室の通気口から鳴り響く音に耳を傾ける。図書室に続く通気口。“前回”、赤松が殺人ギミックに使用した通気口だ。)

 

(そういえば…”前回”と違って、今回はこの隣にも教室がある。)

 

(配られたモノパッドを確認すると、地下階段前のこの教室は教室A、玄関ホール側の教室は教室Bと表記されている。)

 

(2つの教室は、中からも1つの扉で繋がっている。)

 

(他の配置は変わってないのに…どうして、ここだけ変わってるんだろう…。)

 

 

 

【校舎地下 図書室】

 

(地下の階段を降りて図書室の前まで来た。扉を開けると、目の前に妙な光景が広がった。)

 

(絵本作家の絵ノ本が本を開く様子を、サンタの麻里亜が微笑みを浮かべて眺め……その至近距離でブラスバンド部の朝殻がラッパを吹き鳴らしている。)

 

「えっ、何この光景?」

 

「フォッフォッフォッ、見ての通りじゃよ。」

 

「見ても分からないよ!?朝殻さんは図書室で何してるの?」

 

「ラッパを吹いているんだよー!」

 

「それは見れば分かるよ!」

 

「何で図書室でラッパなんか吹いてるの。」

 

「倉庫でラッパを見つけたからだねー!」

 

「いや、だから何で図書室で!?」

 

「フォッフォッフォッ。図書室は防音壁で覆われているそうなんじゃよ。」

 

「キミも話し方が全く変わってるのは何でなの…?」

 

「そうそうー。外で吹いたら迷惑になるけど、地下のゲームルームとAVルームと図書室はそれぞれ防音されてるんだねー。」

 

「じゃあ隣の部屋で演奏すればいいのに…。」

 

「音楽は人に聞いてもらわないと死んでしまうからねー。カナデの音を聴きに来た人に演奏をプレゼントしようと思ったんだねー。」

 

「図書室にブラスバンドを聴きに来る人はいないんじゃないかな…。」

 

「アーバーアーバー、音楽の力でギスギスした心を癒せるかもしれないからねー。」

 

「あ……。」

 

「そうか…。そうだよね。こんな変な状況で混乱している人も多いだろうし…。うん、いいと思うよ。」

 

「ヤーヤー!いい考えだよねー!」

 

「せやけど…そろそろ やかましいわ。」

 

「本に集中したいなら、廊下に出ればいいんだよー!」

 

「なぜ本を読みに来た人間が、本を読まない人間のために図書室から追い出されるんや…?」

 

「そういえば、図書室の音は外に漏れてなかったよね。1階より図書室に近い地下1階の廊下の方が静かだった。」

 

(確かに…図書室の前からは音が聞こえなかった。)

 

「隣のAVルームやゲームルームからの音漏れ防止のために厚い防音壁を使ってるんじゃろうなぁ。」

 

(”前回”は そんなの気付かなかったけど…首謀者の部屋に繋がる仕掛け本棚の音が聞こえないようになってたのかもしれない。)

 

 

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【中庭】

 

「あれ?彼ら…じゃなくて、彼女たちは何してるんだろう?」

 

(藤棚 近くのベンチで、座っている数名の男女…いや、女たち。)

 

(DIY好きの市ヶ谷と、仮面を付け男装した舞闘家の雄狩、巨体の”超高校級のママ” 大場だ。)

 

「ふぐぅ…うぅう…希望が…希望…がぁ…。」

 

「元気を出してください!彼の分まで、雄狩 芳子たちが頑張りましょう!頑張って脱出するのです!」

 

「たくさん泣きなさい。泣いて、ご飯食べて、寝て、明日から出来ることをすればいいわ。」

 

(泣きじゃくる市ヶ谷に、彼ら…彼女らが声をかけ続けている。)

 

「食堂でのこと…彼が殺されて、精神的に参ってるみたいだね。……もしかしたら、今はそっとしておいた方がいいかも…って、春川さん?」

 

 

(私は、顔を体液だらけにしている市ヶ谷の前に立った。)

 

「なんっ、何だよ…うぅ、…」

 

「……あんた、何で泣いてるの?」

 

「ちょっと、春川さん。今はそういう言い方しないでちょうだい。」

 

「何で泣いてるか…理由が分かれば……納得できるかもしれないよ。」

 

「目の前で…っ、人が死んだんだ!それに…素敵な希望だったのにっ…。」

 

初めてだったのに……。こんな…気持ち…。」

 

「………。」

 

「じゃあ…このコロシアイとやらを潰そうよ。あんたの才能なら…出来るかもしれない。」

 

(市ヶ谷は答えない。和戸が後ろから こちらに近付いて来た。)

 

「確かに、色々 便利な道具があれば、脱出できる可能性も上がるかもしれないね。爆弾はどうかと思うけど…落ち着いたら考えといてよ。」

 

「はい、そこまで。今は この子にとって、理論的より感情的になる時よ。」

 

「そうですよ!今は小難しいことより感情を爆発させて、全部洗い流すべきです!」

 

「………。」

 

「…それもそうだね。ごめん。」

 

「謝ることはないのよ。あなたの言うことも間違ってないから。春川さんは理詰めでモノを考えたいタイプなんでしょ。」

 

「春川さんは男性らしい考え方をお持ちなんですね!」

 

(男らしい見た目の女2人に言われて、若干 複雑な気分になった。)

 

 

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【寄宿舎 ホール】

 

(”前回”の首謀者の部屋に繋がる隠し扉は、今回は同じところになかった。それなら…寄宿舎にあるかもしれない。)

 

(もし、白銀が誰かに化けているとしたら…今ある設備の中に、首謀者の部屋に繋がる隠し通路があるはずだ。)

 

 

(寄宿舎に入ると、ホールに幽霊の格好をした壱岐と歴史学者の綾小路が座り込んでいた。)

 

「それでね…怖いな怖いな…やだなやだな…と思ってたのだけれど…。」

 

「フム。白装束に乱れ髪…。舞台設定は江戸…応挙 以降のもののようだね。」

 

「……何してるの?」

 

「怪談よ。階段の前でね。」

 

「そして僕はその怪談を分析してるのさ。」

 

「何で そんなことしてるのか聞いてるんだけど…。」

 

「こんな時だからこそ、冷静に気持ちを落ち着かせる必要があるでしょう?」

 

「僕らにとっての それが、これってことさ。」

 

「良かったら、あなた達も聞いていかないかしら?」

 

「え、遠慮しとくよ。」

 

「君はそういうのが苦手なのかい?人の生き死にには慣れていそうだけど。」

 

「いや…オカルトが特別 苦手というわけじゃないんだけど…。」

 

「……。」

 

「私の怪談は苦手な人にこそ聞いて欲しいわ。苦手意識が吹き飛んで、定期的に聞かないと禁断症状が出るくらいには好きになるはずよ。」

 

「どんな怪談!?」

 

(和戸のツッコミがホールに木霊した後、和戸に引っ張られて寄宿舎を後にした。)

 

(まあ、そもそも…それぞれの個室を調べることは、鍵がある時点で無理か。)

 

(……ピッキングでも できない限りは。)

 

 

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【寄宿舎 春川の個室】

 

(夕食も残った全員で食べた。『手掛かりはない』という報告と共に。)

 

(ここにいる人間は…どこか “前回”のコロシアイ参加者を思い出させる雰囲気がある。)

 

(この既視感は…同じ『ダンガンロンパ』だから…?)

 

(ふと、市ヶ谷が泣きながら吐いた言葉を思い出す。鮮明に、思い出してしまった。”前回”のあの気持ち。)

 

 

(ーー初めての気持ちを。)

 

(それすらも作り物だと言われた。でも、最原は言った。『気持ちは本物だ』って。)

 

(だからこそ、終わらせなきゃいけない。)

 

(この狂った物語をーー)

 

 

 

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