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Round. 0 兵どもの夢の前

 

【???】

 

「…というわけで、オマエラにはコロシアイをしてもらうよ!」

 

(体育館らしき場所で、現れた白黒のクマが楽しげに言うのを聞き、僕は目の前が暗くなるのを感じた。後頭部がズキズキと痛む。)

 

「ルールは簡単!この辺は もう飛ばされる勢いで飽きられてるからサクサクいくよ!」

 

(クマは変わらず楽しそうにルール説明をしている。僕の周囲にいる人々は困惑を口にしたり、絶句したりしている。)

 

(僕は後者だ。言葉も出なくて、震えている。)

 

(ーー人をバレないように殺せば外に出られる?ふざけるな。どれだけ苦労して”超高校級”になったと思っているんだ。)

 

(どこにでもいる平々凡々な ごくごく普通の人間が、人とは違う何者かになるのに、どれだけの努力が必要だと思っているんだ。)

 

「ちなみに、今回はセオリーとかないからね。ガン無視だからね。本当に、各章 何が起こるか予測できないデスマッチなのです!」

 

「だから、こういう名前のヤツいないじゃん!とか、こういう才能のヤツいないじゃん!とかの質問は受け付けないよ!」

 

(血が沸騰するような感覚がしてーー…気付けば、僕の身体は地面に臥していた。床に頭を強かに打ったらしい。)

 

(周囲で上がる悲鳴。その中で僕は目を閉じた。)

 

…………

……

 

「だ、大丈夫かな?」

 

「やれやれ…だいぶ参ってるみてーだな。」

 

 

(意識が浮上する中で、2人分の声が聞こえた。)

 

(ーーそうだ。僕は倒れてしまったんだ。)

 

(目を開けると、大柄な男が目の前にいた。)

 

「気が付いた!?」

 

「うわぁ!?」

 

「どうかした!?まだ どこか痛い?ゴン太に見せて!!」

 

(ものすごい勢いで手を取られて身構える。殺されるかもしれない、とすら思えた。)

 

「あの…キミは、誰?」

 

「え?ゴン太だよ!どうしたの?高橋君!?」

 

「え。」

 

(高橋と呼ばれて、反射的に近くの窓ガラスを見た。ごくごく平均的な高校生男子といった人物が映っている。)

 

「……これが、僕?」

 

「高橋君…どうしたの?」

 

(思い出せない。)

 

「ごめん…何か、自分のことやキミのこと…思い出せないみたいだ。」

 

(当事者としての実感は湧かないけれど、記憶喪失というやつらしい。自分が何者かも、目の前の彼のことも記憶にない。)

 

(”記憶喪失”という言葉は覚えているのに不思議だな…などと呑気なことを考えていたら、目の前の男の顔が青ざめていくのを見て面食らう。)

 

「た、大変だっ!!」

 

「うわぁっ!?」

 

(青ざめた男が僕の肩口を強く掴んだ。僕は いよいよ殺される、と身構えた。)

 

「獄原、心配なのは分かるが…そんな勢いで詰め寄ったら休まるもんも休まらねーぞ。」

 

(そんなところで、遠くからニヒルかつ渋い声が聞こえた。けれど、その人物の姿は見えない。その人を知覚できない内に、本人は去ってしまったようだ。)

 

「ご、ごめん!そうだよね!記憶がないなんて大変なことだから!病院にも行けないのに…。」

 

(当事者を差し置いて、彼は百面相を作っている。どうやら、かなりの お人好しらしい。)

 

「病院に行けない…ああ、そっか。閉じ込められてるんだっけ。コロシアイをしろとか言われて。」

 

(ーーどうやら、直近の断片的な記憶は残っているみたいだ。一部のエピソード記憶や言語的な記憶はあるということか。)

 

(けれど、自分の名前すら思い出せないのに、あのモノクマとかいうクマのことは よく覚えているのは何故なんだ。)

 

「よ…よかった。記憶があるところもあるんだね。」

 

(目の前の彼は、大げさにホッとしたような顔をして笑った。)

 

「あの…自己紹介してもらってもいいかな?2度目だろうから悪いけど…。」

 

(僕が言うと、目の前の彼は「ああ」と手を叩いてから嬉しそうに言った。)

 

「ゴン太は、獄原 ゴン太だよ!改めまして、よろしくね。」

 

「ゴクハラ…珍しい苗字だね。どんな字を書くの?」

 

「え…えーと…。ご、ごめん。ゴン太、漢字は苦手で…。」

 

「そ、そうなんだ?」

 

「ゴン太は“超高校級の昆虫学者”なんだ。ここでも虫さんの友達が たくさんできたよ!」

 

 

「……“超高校級”?」

 

「うん。ここに集まった みんな、政府に認められた”超高校級”の才能の持ち主みたいだよ。」

 

(”超高校級”ーーこれも しっかり記憶にある。けれど、自分の才能とやらの記憶は抜け落ちているみたいだ。)

 

「僕も…”超高校級”だったのかな?僕の才能について知ってる?」

 

「ごめん…みんなが才能をゴン太に教えてくれたわけじゃないんだ。あ、でも高橋君も、”超高校級”で間違いないよ!」

 

「『才能については後で話すけど、名前は高橋 実だ』って言ってたから!」

 

「……。」

 

(僕は彼に才能を話していなかった…か。本当に こんな平々凡々な高校生に才能があったのか?)

 

(もう1度、窓ガラスに映った自身の顔を見る。そこには やはり超平凡な…なんなら冴えないと言える男子学生がいる。)

 

 

(ーーいや、でも確かに僕は”超高校級”だ。喉から手が出るほど欲しかった”超高校級”の称号を手に入れた時の震える感覚は何となく記憶にある。)

 

「他の人は高橋君の才能を知っているかもしれないよ。ゴン太も一緒に行くから、みんなを探そうよ。」

 

「ありがとう…ゴン太くん。」

 

(僕はゴン太くんに連れられて、体育館を出た。)

 

 

 

【校舎1階 西側廊下】

 

(ここは どうやら、学校のようだ。体育館を出ると廊下があり、いくつか教室のような部屋がある。廊下をゴン太くんと歩いていると、声を掛けられた。)

 

「高橋先生、具合は どうですか?」

 

「あ、桐崎さん。」

 

(現れたのは、帽子を被った小柄な女子だった。ゴン太くんが桐崎さんと呼ぶ彼女は、小首を傾げながら僕を眺めた。)

 

「どうしたんです?ボンヤリして。」

 

「ええと…。」

 

「それが…高橋君、記憶がなくなっちゃったんだ。」

 

「な、なんですってー!?」

 

(彼女は驚きのあまり後退し、)

 

「よくあるやつだぁ!」

 

(目を輝かせて僕を見た。)

 

「推理モノで主人公自身を謎に組み込む手法ですよ!記憶喪失の主人公が自分を知るために事件の謎を追う!」

 

「超探偵とか無能探偵とか空木探偵助手とか…記憶をなくすのは、むしろ王道!チュートリアルのために弁護士を記憶喪失にさせた例もありますが。」

 

「ということは…高橋先生、あなたには隠されし役割があるのですね。」

 

「……えっと、その先生って?」

 

「桐崎さんは とても丁寧な人なんだ。だから、みんなに先生って付けてるんだよ。」

 

「それって丁寧なのかな…。」

 

「さて、では自己紹介をしておきましょう。ボクは、桐崎きりさきゴンベー。“超高校級のミステリー研究部”。」

 

 

「ゴンベー?」

 

(男みたいな名前だな。)

 

「好きなミステリは、キャストで犯人が丸分かりのドラマ移植版!好きなシチュエーションは爆弾魔VS探偵!」

 

「好きな刑事は、凶悪犯に毎週 出会いつつも命の重さを忘れず、犯人を叱ってくれる刑事!好きな警視総監はーー…」

 

「も、もう分かったよ。よろしくね。」

 

「テレビカメラを常持しないタイプのミス研ですが、よろしくお願いしますね。」

 

(桐崎さんは右手を差し出して笑った。僕は その手を取って問いかける。)

 

「桐崎さん、ちなみになんだけど…僕の才能って聞いてる?」

 

「自分のことなのに変な聞き方ですね。記憶喪失系主人公構文と名付けよう。」

 

「残念ながら、先生は才能について何も明かしてませんでしたね。」

 

「そ…そっか…。」

 

(なぜか僕の分までゴン太くんがガッカリしてくれた。)

 

「話が変わりますが…2人は この教室をどう思いますか?」

 

「え?」

 

(意味ありげに頷きながら、彼女は何の変哲もない教室内を見回した。)

 

「普通、学校の教室というのは、教卓に向かって左側に窓があるはずなんです。ほら、光が入った時、右利きの人の手元が明るいように。」

 

「へえ、そうなんだ。」

 

「ゴン太も知らなかったよ。」

 

(感心したような声で言いながら、ゴン太くんは自身の右手と左手を見た。まさかとは思うが、その動きはどちらが右か分からないというように見えた。)

 

「けれど、この教室は左側に窓がありません。この下の階も同じ造りでした。けれど、ここから反対端の教室は左窓でした。」

 

「この建物をシンメトリーにするための、何か作為的なものを感じるんです。」

 

「そ…そうなんだ。」

 

「少なくとも、この教室は教室として作られたわけではないということ。あのクマの言ってたコロシアイ…ハッタリとは思えないんですよね。」

 

(不穏な言葉を残して彼女は去っていった。)

 

 

「あ、イーストック君。」

 

(しばらく廊下を歩くと、長身の男が見えた。ゴン太君がイーストック君と呼ぶ男。彼は欧米人風の顔にリゾート地の観光客のような出立ちだ。)

 

「獄原殿、高橋殿。今日は、ご機嫌いかが?」

 

「それが、高橋君がーー…」

 

「ああ、情報は早馬で伝わっておるゆえ、案ずるな。記憶をうしなったそうではないか。」

 

「う、うん…。えーと、キミは…。」

 

「イーストック・ザパド=ユグ・セベル。“超高校級の新聞部”。以後、お見知りおきを。」

 

 

「新聞部…。」

 

「漢字が好きで新聞を読んでいたら書けるように相成った。」

 

「そ…そんなことある?」

 

「高橋殿の『高』は正字であったな。『はしご髙』ではなく。」

 

(そう言って、彼は電子パッドを取り出して掲げた。そこには、みんなのプロフィールがあり、僕の名前の横に『高橋 実』と書かれていた。)

 

(ーー名前まで平凡だ。)

 

「因みに獄原殿は煉獄、疑獄の『獄』と書く。魅惑的な漢字だ。」

 

「え?そ、そうなんだ。ゴン太、漢字は苦手で…。」

 

「フム。モノクマなる畜生が名前は自己申告でプロファイルしたと言っていたが…奇妙奇天烈。」

 

「えーと…。」

 

「イーストック君はアメリカ出身なのに、この国の言葉が上手なんだ。すごいよね。」

 

「そんな そんな。手前など まだまだ…。あ、高橋殿。ぷりーず、こーる、みー、イーストック。」

 

(出身の割には、たどたどしい英語だな。)

 

(「母語は違うのだろうか」などと考えながら彼が差し出した右手を取ると、万力の力で握り込まれた。)

 

(痛い。)

 

「あの、イーストックくん。僕の才能について、何か聞いてないかな?」

 

「それは誰から?貴殿か。他の者か。」

 

「えーと…たぶん、僕から?」

 

「貴殿は才能について自己紹介では何も仰せでなかった。この電子パッドにも記載がない。」

 

「お見受けするに、身体的なものではなく手前や獄原殿のような知識や学術スキルによるものではなかろうか?」

 

「そう…かな。」

 

「記憶が混乱しているやもしれん。ふいに思い出すこともあろう。」

 

(彼は僕の手を離し、クスリとも笑わずに言った。)

 

「兎にも角にも、言葉とユーモアを愛する手前を、どうぞ宜しく。」

 

 

 

【校舎1階 玄関前】

 

(さらに廊下を行くと、広いホールに出た。どうやら建物の玄関らしい。外に続く開いた扉と、正面に閉まった赤い扉があった。)

 

「この赤い扉、全然 開かないんだ。」

 

「そっか。脱出口とかだったりしないかな?」

 

(そんな話をしながら扉を調べていると、背後から声がした。)

 

「獄原さん。」

 

「あ、華椿さん。」

 

(振り返ると長身の女性が立っていた。かんざしや髪飾りを あしらった日本髪。けれど着物ではなく洋装だ。)

 

(華椿と呼ばれた彼女は、僕に冷ややかな視線をくれた。)

 

「何をしているんです?」

 

「うん…実は、高橋君の記憶がなくなっちゃって…。」

 

「はあ?」

 

「えっと…頭を強く打ってしまったみたいで…。」

 

「……本当でしょうね?」

 

「え?」

 

「華椿さん、高橋君のこと何か知らないかな?」

 

「……知りません。」

 

(ピシャリと言い放たれた言葉は非常に冷たい。心なしか睨みつけられている気がする。鋭い視線に射抜かれて、後頭部がズキリと痛んだ。)

 

「…あの…申し訳ないんだけど、キミのことを教えてくれるかな?」

 

「……よろしいでしょう。わたくしは華椿 アヤメ。“超高校級の華族”でございます。」

 

 

「えーと…か、家族?」

 

「家族ではなく、華族。ご存じないかもしれませんが、この国にも爵位を与えられた人間がいたのですよ。」

 

「歴史で勉強したことはあるけど…それって昔の話…だよね?」

 

(恐る恐る問いかけると、今度は疑いようもなくハッキリと睨みつけられた。」

 

「没落した…そう仰りたいの?」

 

「え?そ、そんなことーー…」

 

「高橋君、華椿さんは正真正銘のレディなんだよ!すごいんだ!!」

 

(ヘビに睨まれたカエル状態の僕に、ゴン太くんは嬉しそうな笑顔を見せた。その顔を見た華椿さんは毒気を抜かれたような真顔になった。そして、)

 

「お世辞を言っても何も出ません。」

 

(そっぽを向いて足早に歩いて行ってしまった。)

 

「あ…行っちゃった。高橋君の才能について、聞けなかったね。」

 

「う、うん。でも、たぶん何も知らないと思うよ。」

 

(華椿さんの後ろ姿を眺めていると頭が重くなる気がした。)

 

 

 

【校舎1階 東側廊下】

 

「あ、河合さんだ。」

 

(教室前に女子が立っていた。河合さんと呼ばれた女子が こちらを振り向く。)

 

(思わずドキリと胸が鳴った。長い柔らかそうな髪、パチリと大きい瞳。振り返った彼女から とてつもなく良い匂いがした。)

 

「ゴン太君。」

 

(可憐な見た目通りの、鈴の音のような声で彼女はゴン太くんを呼んだ。その後、彼女は僕に視線を向けた。そして、)

 

「やあ、高橋君。大丈夫かい?もう少し休んでいた方がいいんじゃないか?はっはっは。」

 

(気さくに笑い、僕の肩を叩いた。)

 

「河合さん、高橋君は記憶をなくしちゃったんだ。」

 

「何だって?それは大変じゃないか。私のことも忘れているということかい?」

 

(僕が頷くと、また彼女は大らかに笑った。)

 

「ならば、もう1度 名乗らねばならないな。私は河合 恵麻えま 。“超高校級の馬術部”だ。すまないが、名刺を切らしていてね。よろしく頼むよ。」

 

「よ…よろしく。」

 

(差し出しされた彼女の手を握ると、強く握り返された。)

 

「はっはっは、そんなに固くならないでくれ。異性とはいえ、ただの握手じゃないか。」

 

「あ…うん。……そういう戸惑いじゃないんだけどね。」

 

(見た目に反してーーよく見れば見た目も女子高生にしてはダサ…ユニークだけど、彼女の振る舞いは まるで金持ちのオッサンだ。)

 

「いやはや、こんな所に馬なしで押し込められて、困ったものだよ。どこかに馬の代わりをしてくれる人はいないものか。」

 

「えっと…。」

 

「おや、キミが馬になってくれるかね?」

 

「ならないよ!?」

 

「河合さん、よかったらゴン太が馬になるよ!」

 

「ならなくていいよ!?」

 

「はっはっは、すまない。ちょっとした馬ジョークだよ。馬は紳士の嗜み。人を馬にするなんて、そんなことはできないさ。」

 

「紳士の…たしなみ?そ、そうなんだ。」

 

「おや。ご存知なかったかな?我が国で馬の競技というと賭け事などの印象を持たれやすいが、英国などでは紳士淑女のスポーツとされるのだよ。」

 

「そう!河合さんはゴン太の憧れなんだ!」

 

「憧れだなんて、よしてくれよ。顔が紅潮するじゃないか。」

 

「へ…へえ…。ゴン太くんは河合さんみたいな女性がタイプなんだね。」

 

「え?えーと…たいぷ…は分からないんだけど、ゴン太は紳士を目指してるんだ!」

 

「紳士…?」

 

「うん、ゴン太は本物の紳士になりたいんだ。」

 

「はっはっは、素晴らしい目標じゃないか。応援するよ。」

 

「でも…紳士を目指すのに女性である河合さんに憧れるのは…どうなんだろう。」

 

「…え、あ!ご、ごめん!!そこまで考えてなくて…!ゴン太は河合さんみたいな紳士的な人に憧れてるって意味だったんだ。」

 

「虫さんも河合さんのことが好きみたいだったから…でも、レディに言うのは紳士失格だよね。」

 

「気にしないでくれたまえ。ジェントルマンであることの前に性別など取るに足りない問題さ。」

 

(足りると思うけどな。)

 

「それで、河合さん。河合さんは高橋君の才能が何か聞いてない?」

 

「高橋君の才能?はて。聞いていないな。」

 

「……。」

 

「なぁに、記憶が混乱しているのはキミだけじゃない。すぐ思い出せるさ。」

 

(河合さんは快活に笑いながら、颯爽といなくなった。)

 

 

(東側の廊下の最端まで来た。廊下の突き当たりには武道場がある。)

 

(反対の西側には体育館があったからシンメトリーというのは間違いではないのかもしれない。)

 

「あ、平君。」

 

(武道場の前に立っている男子にゴン太くんが近付いた。)

 

「やあ、ベイビー達。」

 

「ベ…。」

 

「どうかしたのかい?高橋君、せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」

 

「かわ…。」

 

「高橋君、平君は とっても褒め上手なんだ。」

 

(……上手だろうか?)

 

「平君、高橋君は記憶がなくなっちゃってて…。」

 

「なんだって?それは大変じゃないか。」

 

(彼は僕の手を取りギュッと握り込んだ。)

 

「では自己紹介をさせておくれよ。ボクは、平 店継たいら みせつぐ“超高校級のテイラー”さ。」

 

 

「テイラー?」

 

「この国の言葉で言い直すなら、仕立て屋ってところかな?」

 

「仕立て屋?服の?」

 

「そうさ。オーダーメイドのスーツからリトルマーメイドのショーツまで何でも承ります。…で有名な、タイラテイラーの跡取り息子さ。」

 

(知らないし、たぶんマーメイドにショーツは必要ない。)

 

(…というツッコミが喉まで出かかったのを堪えていると、彼はパチンとウインクをくれた。)

 

「気軽に跡取りって呼んでくれよ、ベイビー。」

 

「……あの…そのベイビーっていうのは?」

 

「あ、先に言っておくけど、キミ以外にもベイビーは たくさんいるからね。その辺りは誤解しないでくれたまえ、ベイビー。」

 

「……。」

 

(変な人だ…。)

 

「平君、高橋君の才能を聞いてないかな?高橋君は自分の才能も覚えてないみたいなんだ。」

 

「おや、それは困ったね。ボクも聞いていないよ。高橋君はミステリアス・ガイだからね。」

 

(平くんは またパチンとウインクをして、ついでに今度はパチンと指を慣らして去っていく。)

 

「なんか…変わった人が多いね。」

 

(平くんの後ろ姿を眺めながら、ため息とともに本音が漏れた。思わず口を手で覆ったけれど、ゴン太くんは好意的に受け取ってくれたらしい。)

 

「うん、さすが超高校級だよね。みんな すごい人達だよ!」

 

「あ…うん。そうだね…。」

 

「他の人たちは外にいるのかな。」

 

「ああ…さっき玄関を通り過ぎたね。」

 

(この建物の造りは左右対称だ。玄関は、先程 通った中央にあるらしい。僕はゴン太くんが来た廊下を戻るのに続いた。)

 

 

 

【北エリア 校舎前】

 

(玄関から外に出ると、強い日差しに迎えられた。目を細めた僕が次いで感じたのは、海の音と潮の香り。)

 

「そうか…僕らは いつの間にか、断崖絶壁の島にいたんだ…。」

 

(断崖絶壁の島。北に今いる1階建ての建物、南にも似た形の建物があった。東西には灯台のようなものが見える。)

 

(そうだった。いつの間にか、こんな島にいて、1人で色々 見て回ってた。けど、その後は…。)

 

(ーーそうか。『北の校舎の体育館に来い』というアナウンスが流れて、ここに来た。そして、体育館で みんなと出会ったんだ。)

 

(しかし、どうして こんな島にいるのか。自分の才能は何なのか。そんな記憶は戻ってきそうにない。)

 

「高橋君、大丈夫?」

 

「あ、うん…。大丈夫。行こうか。」

 

(校舎から伸びた一本道を南下した。)

 

 

(ーーところで、ゴン太くんが道の脇に人影を見つけて その人を呼んだ。)

 

「伊豆野さん。」

 

「あ、ゴン太さ。高橋さ。」

 

(伊豆野さんと呼ばれた女性は僕らに気が付いたらしく、こちらに駆け寄ってくる。)

 

「高橋さ、体調どーだぁ?みな心配すてただよ。」

 

(彼女はニコニコ笑いながら言った。おさげ髪にバンダナ。ヨーロッパの民族衣装のような服装をした女性だ。)

 

「伊豆野さん、高橋君は記憶喪失なんだ。ゴン太たちと自己紹介した記憶もなくなっちゃったみたいで…。」

 

「そっがぁ。でぇへんだなぁ。」

 

(ずいぶん訛りが強いな…。)

 

「んだば、もっけー自己紹介さしとくっぺや。オラ、伊豆野 いずの 踊子おどりこ“超高校級の踊り子”だぁ。」

 

 

(…名前のままだな。)

 

「……オメ、今なめぇのまんまだっち思っだろ?」

 

「え!?お、思ってないよ!?」

 

「うんにゃ、思っだっち顔しでだ。オラも気に入っでねぇ。こんな なめぇ。」

 

「そ、そうなんだ…?」

 

「んだ。踊子が踊り子なんてギャグにもなんね。」

 

「そんなことないよ!素敵だよ!」

 

「………。」

 

(しかめ面の彼女に向かい、ゴン太くんが力強く言う。すると、伊豆野さんはポカンとして目を瞬かせた。そしてーー。)

 

「や、やんだぁ。そんな褒めても、何も出せねぇかんな。」

 

(顔を真っ赤にして破顔した。それに続けてゴン太くんが「素敵」とか「素敵」とか「素敵」なんて言うもんだから、彼女の顔は すっかり溶けてしまった。)

 

「やんだぁ、ゴン太さ。お上手だぁ。お世辞でも嬉しいべよぉ。」

 

「えっ。お世辞のつもりはなくて…本当に素敵だと思うんだけど…。」

 

「やんだぁ〜!嬉し恥ずかしい〜。」

 

「えーと…ゴン太くん、そのくらいで勘弁してあげてよ。伊豆野さん、僕の才能について僕から聞いてないかな?」

 

「やんだぁ。オメさ、なぁに寝惚けたごと言っでんのぉ。オメの才能なんて、オメが話してくれねかったら分かりようねーべよぉ。」

 

(彼女は赤い顔のまま僕の肩にバシッとツッコミを入れて足早に駆けて行った。)

 

「行っちゃったね。顔が赤かったけど、どうしたんだろう。も、もしかして病気かな?」

 

「……大丈夫だと思うよ。」

 

 

 

【中央エリア】

 

「あ、火野君。」

 

「おー、ゴン太!」

 

(一本道の先、島の真ん中辺りに男子がいた。彼に気付いたゴン太くんが名前を呼ぶと、彼は近くに駆けてきてニッと笑った。)

 

「高橋、急に倒れたけど大丈夫か?」

 

「あ…うん。」

 

「何だ?元気ねェじゃねーか。もっと休んでたら どうだ?」

 

「火野君、高橋君は倒れた時に記憶をなくしちゃったみたいなんだ。」

 

「はぁ!?本気マジでェ!?大丈夫か!?」

 

「大丈夫…かな?とりあえずは。」

 

「そっか!無理すんなよ!」

 

(彼は快活そうな笑顔で「なら、もう1回 自己紹介するぜ」と自身を指差した。)

 

「俺ァ、“超高校級の花火師” 火野 花血朗はなぢろう!」

 

 

「花火師?」

 

「夜空に咲く大華が大火と大禍を巻き起こすぜ!俺の師匠が作った花火は凄ェんだ!光る観覧車みたいなんだぜ。」

 

(大禍を巻き起こすのはマズイんじゃないだろうか。)

 

「花火の大観覧車…すごいね!ぜひ見てみたいよ!」

 

「へっへー。なら今年の夏祭りに招待してやるよ!ここから出たらな!」

 

「それって死亡フラグみたいだよ…。」

 

「ん?それってリチウムやカリウムの仲間か?ぜひ炎色反応を見たいもんだな!」

 

「いや、元素の名前とかではなく…!」

 

(僕が慌ててツッコむと、火野くんは「冗談だって」と言って笑った。)

 

「火野くん、僕から才能の話って聞いてないかな?」

 

「高橋君は自分の才能も忘れちゃってるんだ。」

 

「ん?高橋って名前しか言ってなかったよな?俺ァ知らねーぞ。」

 

「そっか。」

 

「まあ、そのうち思い出すだろ!俺たちだって、ここに どうやって来たのか覚えてないんだからさッ!」

 

(火野くんは僕の背中をバンバン叩いた。)

 

(痛い。)

 

「じゃ、先 戻ってるぜ。」

 

(火野くんは また快活な笑顔を見せて、その場から去っていった。)

 

 

(さらに進むと、かがみ込んで動かない女子がいた。彼女は手に持った大根にブツブツ語りかけている。)

 

「あ、蔵田さん。」

 

(ゴン太君が声を掛けると、華奢な肩がビクリと震えた。振り向いた少女はサロペットにシャツ、麦わら帽子を被っている。透き通る緑髪が印象的だった。)

 

「………。」

 

「あの…。」

 

(僕らが近付こうとすると、彼女は木の影にサッと身を隠した。)

 

「えっ。」

 

「蔵田さんは とっても恥ずかしがり屋なんだ。虫さんが教えてくれたよ。」

 

「……。」

 

(黙ったままの彼女は大根を掲げた。そして、こちらを一切 見ないで、大根に語りかけるように言葉を発する。)

 

「虫さん…元気?」

 

「うん!ゴン太に今お話ししてくれている虫さんは、とっても元気だよ!」

 

「…そう。」

 

「蔵田さん、高橋君が記憶喪失になっちゃったんだ。また自己紹介をしてくれないかな?」

 

「……虫さんも、そう言ってる?」

 

「ううん、ごめん…。虫さんはゴン太たちの言葉まで理解してるわけじゃないんだ。ゴン太がバカじゃなければ…虫さんに言葉を教えてあげられたのに。」

 

「ありのままでいい。…ので、自己紹介する。」

 

(ゴン太くんとの謎の会話をしてから、彼女は恐る恐るといった感じで木から顔を出し、)

 

蔵田 冷庫くらた れいこ。…は、“超高校級の美食家”。」

 

 

(大根を見たまま、そう言った。)

 

「美食家?ご飯を食べるのが好きってこと?」

 

「…そう。」

 

「そんな才能もあるんだ…。食通ってことなのかな?」

 

「食べるだけじゃなくて自分でも作る。…し、何なら食材も自分で育てる。」

 

「え!?自分で材料も作るの?」

 

「実家は農家をしてるから…。」

 

「そうなんだ。」

 

「蔵田さん、高橋君は自分の才能についても忘れちゃったみたいなんだ。何か聞いてないかな?」

 

「……何も知らない。」

 

(ポソリと呟いて、彼女は校舎の方へ行ってしまった。大根に何かを話しながら。)

 

 

(それから、さらに進んだところで、ゴン太くんが また声を発した。前方に小さく見える人影の名前だろう。)

 

「三途河さん。」

 

「あら、獄原君。高橋君。」

 

(近づいてきた人は、軍服のような姿の長身の女性だ。きっちりと まとめられた銀髪。涼しげな目元。真面目で落ち着いた印象だった。)

 

「高橋君、もう大丈夫なの?」

 

「あ…うん。それが…。」

 

「三途河さん、実は…高橋君は記憶喪失なんだ。」

 

「えっ。」

 

(彼女の目が大きく開かれる。そして、彼女は手を口元に持っていきーー…)

 

(「ぶはっ」と吹き出した。)

 

「あはははははは!」

 

「えっ。」

 

「記憶っ…そう、しつ!フィクション映画やマンガの見すぎ、よ!ぷはははは!」

 

「三途河さん、だ、大丈夫!?えっと、ゴン太たちも ここに来た記憶がないからフィクションじゃないんじゃないかな!?」

 

「ぶあっ!あははははは!!その通りね!あはは!」

 

「………あの。僕の才能とか聞いてない?」

 

「あら、ごめんなさい。あなたにとっては、笑い事ではないわよね。あなたの才能は知らない…くっ、笑いは我慢するわ…ぷくす。」

 

(我慢しきれていないようだった彼女は2、3度 深呼吸をして息を整えた。そして、僕に向き直って言った。)

 

「私は、三途河 明日見。“超高校級の天文学者”…数時間前にも言ったんだけどね。ぷふっ。」

 

 

「天文学…星を見る人ってことだよね。」

 

「月を見る者よ。」

 

「え?月だけなの?」

 

「astronomer…並べ替えて、moon starer…。天文学者の間では有名な冗談よ。」

 

「アストロ…すたらー?」

 

「冗談というより、アナグラムだよね。文字を並べ替えて言葉を作る…。」

 

「ふふっ…そうね。本当は星も見るわ。astronomers…並べ替えて、no more starsよ。くっ…あはははは!最高の冗談よね!あはははは!」

 

「えー…と。爆笑すること?」

 

「そうでもないわね。」

 

「…急に落ち着かないで。」

 

「もともと私は天体より海洋生物が好きだったのだけれど、何故か生き物に好かれなくてね。虫と友達になれるゴン太君が羨ましいわ。」

 

「ありがとう。でも、星に詳しいのも凄いと思うよ!」

 

「ありがとう。けど、本当に生き物に避けられがちだから泣く泣く選んだ道なのよ。」

 

「…確かに、虫さん達も三途河さんの近くにいないんだ。どうしてだろう。」

 

「あはははは!虫にまで避けられてるのね!虫に刺されないわけだわ!あははは!何でかしら!?」

 

(笑い声が うるさいからでは?)

 

 

 

【南エリア 寄宿舎】

 

(しばらく進むと、さっきまでいた校舎と同じ建物が見えた。)

 

「あれ?ここも学校?」

 

「あ、ここはモノパッドによると宿舎みたいだよ。」

 

「モノパッド…。さっきイーストックくんが見せてくれたものだね。」

 

(自分のポケットにも電子生徒手帳が入っていることを思い出して取り出す。)

 

「……そっか。これ、いつの間にか持ってたんだよね。モノクマとかいうクマが言うには、この島のマップも見られるんだっけ?」

 

「うん。ゴン太たちの現在地も分かるよ。」

 

(マップを開くと、確かに自分の位置が表示されている。その目の前の建物には『ドミトリー』と表示されていた。)

 

(僕たちは校舎と同じような外観の宿舎の扉を開けた。)

 

(建物内に入ると、ホールと廊下が広がっていた。完全なシンメトリー。教室が並んでいた校舎と同じように、ドアが並んでいる。)

 

「ここで寝泊まりするようにって、モノクマは言ってたよ。」

 

「……そんなの必要ないよ。僕たちが来た方法があるんだから、それで帰ればいいんだ。」

 

 

「その通り。」

 

「うわ!?」

 

(突然、ゴン太君の背後から声が上がり、僕は飛び上がった。)

 

「野伏君、ここにいたんだね。」

 

「ええ、獄原君。背後を取られるようでは、まだまだ修行が足りませんよ。」

 

「ご、ごめん!ゴン太、まだ修行はしたことがなくて…!」

 

(野伏と呼ばれた人とゴン太くんを交互に見ながらポカンとしていると、彼は僕に視線を向けて頷いた。)

 

「……なるほど。さしずめ、頭を強打して記憶がなくなったというところでしょうか。それならば、自己紹介させていただきましょう。」

 

(何で分かったんだろう…。)

 

あざなは、野伏のぶせり!名は、くさびら !人呼んで、“超高校級の修験者”とは…あ、ワシのことよぉ〜〜!」

 

 

(彼は突然 目を見開き、調子を変えてポーズを取った。そして、呆気に取られる僕に、さらに調子を変えて こう言った。)

 

「ウェ〜イ!なんつってwwバビッた!?急にKABUKI始まったと思ったっしょ!?」

 

「え?…えーと。修験者?」

 

「狂言風に言えば、山伏のことだよw」

 

(な、なぜ…狂言風に…?)

 

「要は、山に篭って修行して、神の力的なもの授かっちゃいましょ〜!みたいな?『超能力者になろう系』的な!?」

 

「そう…なんだ。」

 

「ちょーっち古い考え方で驚いちゃったっしょ?ま、俺って、ネクストジェネの革新的修験者を目指してっから、堅苦し〜こと言わないよ!安心して!」

 

(驚いてるのは その変わりようなんだけどな。)

 

「堅苦しいヤツは言いそうじゃね?…紳士を知るなら、信仰を知ることは大切です。以前の紳士たちは死後の処遇を思い、善行を積んでいたわけですから。」

 

「そ…そっか、そうだよね。ありがとう!教えてくれて!」

 

「ぷげらwwゴンちゃんピュアー!真剣だけにww説教してみたり!修験者だけに!!」

 

「………。」

 

「オイオイ〜!タカちゃん!『関わっちゃいけない人だ』みたいな顔やめてよ〜!ま、名前がヤベーかんね!野伏て!!」

 

(ハイテンションに ついていけず、ポカンとしているうちに、彼は「キノコ探してくるww」と半笑いで去っていった。)

 

 

(それから、僕らは寄宿舎の長い廊下を進んだ。そんな時、)

 

「あ、虎林さん!」

 

(数十メートル先の人影にゴン太くんが呼び掛けた。すると、米粒くらいだった人影が物凄い速さで目の前まで駆けてきた。)

 

(虎林という その人は、小麦色の肌に健康的な足を覗かせるスポーツウェア姿。頭にはサンバイザーという出立ちだ。)

 

「なになに、ゴン太。呼んだー?」

 

「うん!わざわざ走って来てくれて、ありがとう!」

 

「ゴン太の笑顔が眩しい〜!かわい〜!」

 

「……。」

 

「あ、高橋の真顔も、かわい〜よ?」

 

(見知らぬ人に謎の気遣いをされた…。)

 

「虎林さん。高橋君、さっき頭を ぶつけたせいで記憶がなくなっちゃったんだ。」

 

「え!何それ!」

 

(彼女は一瞬びっくりした声を上げた後、明るい声で言った。)

 

「珍しい体験だね!これから話のネタに一生 困らないじゃん!」

 

「…そんな風には思えないかな。」

 

「初対面で話が盛り上がらなくても気まずい沈黙を体験しなくて済むんだよ?最高じゃない??うらやましーい!」

 

「あ、この状態も既に話のネタ的に最高か。やった!アタシも金輪際、初めて会う人と沈黙を共有しなくて済むー!!」

 

「……あの…自己紹介してもらっていいかな?」

 

「あ、そっか。オッケー!にしても、同じ人に何度も名前を聞くって、あんまないよね!あ、そうでもないか。人の名前なかなか覚えない失礼な人もーー…」

 

「あの…!」

 

「ごめんごめん!アタシは、虎林 とらばやし まり“超高校級のゴルファー”だよ!」

 

 

「ゴルファーなんだ。」

 

「そうそう。タイガーウッズ的な。タイガーマスク的な?あ、それはプロレスか。」

 

「え、虎林さん、プロレスもするの?」

 

「ゴン太って、かわい〜で作られてる!あ、かわい〜と言えば、ピンクの小麦粉と卵でクッキー作ったら超かわい〜ことない?」

 

「全体はピンクで、トッピングを緑にするの!かわい〜よね!!あれ?ピンクと緑ってナメック星人みたい?じゃ、ツノを生やしてーー…」

 

「あ、あのさ…!僕の才能について何か知らないかなっ?」

 

「才能…?高橋の才能を高橋が知らないの?」

 

「……だから記憶がないんだ。」

 

「ええー!その話したら、初対面の人とも会話 途切れることないよね!すごーい!」

 

「………。」

 

「えっと…高橋君の才能については知らないみたいだね。」

 

(しばらく虎林さんが一方的に話し続けるのを聞いて、寄宿舎を後にした。)

 

 

(なんというか…めちゃくちゃ疲れた。)

 

(ゴン太君を含めて12人と話をしたが、個性を爆発させたような人間ばかりだ。まるで素人がメチャクチャに考えた物語のキャラクターのように。)

 

(それに比べて僕は…。個性もなければ才能も分からないなんて…。)

 

(身体に纏わりつくような嫌な不快感に、思わず頭を押さえた。)

 

「高橋君!?ど、どうしたの?ご、ごめん!たくさん歩かせちゃって…ゴン太のせいだ…!」

 

「え!?あ、大丈夫!全員と話せて良かったと思うよ。とりあえず…この島には、13人の人がいるんだね。」

 

「え?違うよ。ここにいるのは、14人だよ。」

 

「え?」

 

(彼の言葉にポカンとしていると、ゴン太くんはポンと手を打った。)

 

「あ、そっか。素早すぎて起きたばかりの高橋君には見えてなかったのかもしれないね。」

 

「え?何それ。音速で動く人がいるの?」

 

「ご、ごめん。おんそく?」

 

(小首を傾げるゴン太くんを見ると、その大きな身体の向こう側にコロボックルがいた。)

 

(小さな姿にパッチリした目。子どもの時、絵本で見た姿のまま、僕らを見上げている。)

 

「……。」

 

「ーーって、コロボックル!?」

 

「えっ?」

 

(僕の視線に合わせて、ゴン太くんも自身の背後を振り返る。)

 

「………。」

 

「わっ。いつの間に!びっくりしたよ!」

 

「…すまねーな。驚かせるつもりはなかったんだが。」

 

(……コロボックルが喋った。しかも、物凄い低音のいい声で。)

 

「…あんた、俺の名前を覚えてねーって顔だな。」

 

「そ、そうなんだ。高橋君が記憶喪失になっちゃって…。」

 

(コロボックルがフッと笑って、つぶらな瞳を僕に向けた。)

 

「俺は、星 竜馬。名乗るだけ名乗っておく。」

 

「あ…ありがとう。」

 

「ああ…。じゃあな。」

 

「え!?ちょ、ちょっと待って!」

 

「……何だ?」

 

「えっと…キミも”超高校級”なんだよね?どんな才能があるの?」

 

「…やれやれ。さっき あんたも言わなかったから、才能にも興味はないと思っていたんだがな…。」

 

(コロボックルーー改め、星くんは肩を すくめた。)

 

「俺は、元・”超高校級のテニスプレーヤー”だ。」

 

 

「テニスプレーヤー…そうなんだ。」

 

(こんなに小さいのに。インターハイ行けたりするんだろうか。)

 

「あれ?元?それって どういうーー…」

 

(違和感を確認しようとしたけれど、既に彼の姿はなくなっていた。)

 

「ええと…星君も高橋君の才能を知らないってことだよね?」

 

「そうだね。『僕は言わなかったから』と言ってたからね。」

 

 

(そうして、僕とゴン太くんは また校舎に向かって歩き出した。)

 

(記憶が断片的にしかないけれど、僕ら14人はこの断崖絶壁の孤島に閉じ込められてしまった。)

 

(そして、あのモノクマとかいうヌイグルミは僕らにコロシアイをさせようとしている。)

 

(また後頭部がガンガン痛む。)

 

(不安を押し隠すように、足音を立てて校舎を目指した。)

 

 

Round. 0 兵どもが夢の前 完

Round. 1stへ続く

 

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「Round. 0 兵どもの夢の前【創作ダンガンロンパ/創作論破/獄原ゴン太V3】」への3件のフィードバック

  1. トラウマウサギ

    前回創作論破のコメントより、茶道部(華族)、フードファイター・極度の人見知り(美食家)のアイデアを採用させていただきました。AIに才能を聞いて天文学者を採用しました。

  2. 久しぶりに見にきたら新シリーズが始まっていて感激です!!!人生の楽しみを増やしてくださって本当ありがとうございます…!
    ゴン太メインのお話面白そうと思ったら星くんまで登場!めちゃくちゃ楽しみです〜〜!

    前回提案させていただいたフードファイター案も採用されていてめちゃくちゃ嬉しいです…既に思い入れのあるキャラだからこそ生き残って欲しいような被害者かクロになって散って欲しいような…今からワクワクが止まらないです。
    続きも楽しみにしていますね♪

    1. トラウマウサギ

      見に来てくださり感激です!あなた様でしたか…!アイデア拝借いたしました!生き様or死に様がお気に召せばいいのですが…(^^;;進行中のお話にコメントいただけて励みになりました!本当にありがとうございます◎いつもより進行が遅いかもしれませんが必ず完結させる所存ですので、お付き合い頂ければ幸いです!

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