Round. 1 ひた走る負の走光性(非)日常編
【寄宿舎 高橋の個室】
『キーン、コーン…カーン、コーン…』
(朝。ロンドン塔を模した音楽。学校でも馴染みあるチャイムが鳴り響き、部屋のモニターにモノクマが映し出された。僕はベッドの上で体を起こした。)
(昨日は全員での探索も虚しく、脱出の手掛かりを誰も見つけることはできなかった。みんなで用意されていた夕飯を食べて、割り当てられた宿舎の部屋で休んだ。)
(1日経てば記憶が戻っているかもしれない…なんて甘い考えもバッサリ否定された。)
(やはり、自分の才能も自分自身のことも、よく思い出せない。それどころか、自分の名前にも違和感を感じるほどだ。)
(部屋を出て、廊下に出る。廊下を挟んで部屋が並んでいる。部屋には表札代わりであろうドット絵が それぞれ掲げられていた。)
「……。」
(そういえば…2部屋、開かない個室があったな。14人しかいない中で使わない部屋は閉鎖しているんだろうか。)
【寄宿舎 食堂】
(同じ建物内の食堂。その扉を開けると、広いスペースに僕以外の全員が集まっていた。)
「あ、高橋君、おはよう!」
(僕が食堂に入るやいなや、ゴン太くんが僕に気付いて挨拶をくれた。)
(昨日も遠いところにいる人の姿や気配に いち早く気付いていたけど…反射神経が鋭いのかな?)
(ゴン太くんに一言二言 返し、他の面々とも挨拶を交わした後、朝ご飯を食べた。)
「あのー、これから みんなで食事する時間とか…決めておきませんか?」
(そんな中、声を上げたのは、ミステリー研究部の桐崎さんだ。)
「昨日さんざん脱出口や方法を探索して、何も見つからなかったんです。それなら…長期戦を覚悟しなければ。みんなで食事を囲んで結束を深めるんです。」
「そうだね!ご飯は みんなで食べた方が美味しいよね!」
(桐崎さんの意見に、みんなも賛同する。僕の隣に座っていた馬術部の河合さんがフムと唸った。)
「それに、昨日 言われたコロシアイ…その抑止にもいいかもしれんね。」
(コロシアイ。その言葉で、その場に緊張が走る。)
「あ、すまない。もちろん、本当に殺人が起こるとは思えないが、忘れるべきではないと思ってね。」
(快活に笑う河合さんからは、とても いい匂いがした。)
(朝食を終えて、僕らは散り散りに探索を開始した。そんなところで、ゴン太くんに声を掛けられた。)
「高橋君、今日は もう大丈夫なの?」
「ありがとう、ゴン太君。少し頭が痛むけど、大丈夫だよ。」
「……良かったら、今日もゴン太と一緒に島を廻ってくれないかな?」
(心配してくれてるんだな。)
(「もちろん」と笑えば、と満面の笑みが返ってきた。そんなところで、)
「あれ?何だろう。いい匂い…。」
(朝食を終えて、みんな出て行ったと思っていたが、食堂のキッチンには まだ誰か残っているみたいだ。)
「……。」
(キッチンの中を覗くと、美食家の蔵田さんがいた。)
「あ、蔵田さん。」
「……。」
(蔵田さんは僕らがキッチンに入ってくるのを見て、目を逸らした。)
「いい匂いだね。何か作っているの?」
「……。」
(ゴン太くんが話しかける中、蔵田さんは鍋とオタマを手に俯いた。周囲を見回すと、昨日 彼女が持っていた大根が流し台の上に打ち捨てられている。)
(何も言わない彼女の横で、ゴン太君は何か考えるような仕草をとった後、明るく笑った。)
「あ、デザートを作ってるの?3時のおやつのために?」
「……。」
「……蔵田さん、これ。」
(彼女に大根を渡す。……と、蔵田さんは大根を抱き抱えて大根に向かってボソボソ話し始めた。)
「朝食、足りなかった。…ので、今から食べるために作ってる。」
「そうなんだね!すごい!朝食はゴン太でも少し多いと思ったんだけど、まだ食べられるなんて!」
「………。」
(確かに、朝食は十分すぎるほどあった。それに、彼女も かなりの量食べていたはずだ。それでも まだ食べるらしい。)
「ゴン太より食べる女性には初めて会ったよ!」
「……。」
「ゴ、ゴン太くん…。そろそろ行こう?」
(顔を真っ赤にした蔵田さんが可哀想になったので、ゴン太君の背中を押してキッチンを出た。)
「高橋君、ゴン太…何か変なこと言っちゃったかな?」
「うーん…彼女は恥ずかしがり屋なんだよね?少し距離感を気を付けないといけないかもしれないね。」
「あ…そうだね。昨日 虫さんに言われてたのに…。ゴン太はバカだから…。」
「……昨日も言ってたけど…虫さんが言ってたっていうのは、どういうこと?」
「え?虫さんが言ってたんだ。」
「……本当に虫の言ってることが分かるってこと?」
「……やっぱり…変かな。昨日も、みんなをビックリさせちゃって。三途河さんは笑いすぎて呼吸困難になっちゃって…。」
「ああ…ずっと笑ってた彼女か。」
「ゴン太くん、それが本当なら、すごいことだよ。」
「え、そ…そうかな。」
「うん。昔、犬はガンの匂いが分かるって論文を読んだことがあるんだ。虫と意思疎通が取れるなら…あるいは何かしらの信号を受け取れるなら…」
「同じように、人の病気の早期発見にも役立つはずだよ。それだけじゃなく、菌やウイルス自体の信号を受け取る術が見つかるかもしれない。」
(僕がツラツラと述べている間、ゴン太くんはポカンとしていた。)
「あ、ごめん。思ったことを長々と…。」
「ううん!嬉しいんだ!ゴン太はバカだから、難しいことは分からないけど…虫さんと友達になることが みんなの役に立つって言ってくれたんだよね?」
「そんな風に言ってくれたのは高橋君が初めてだよ!」
(ゴン太くんは、心底 嬉しそうに肩から提げていた空の虫カゴに触れた。)
「そんな難しい論文を読んでるなんて、高橋君は お医者さんみたいだね!」
(確かに、高校生の読み物としては一般的でない。才能と関わりがあるのだろうか?)
「それじゃ、高橋君。今日は どうしようか?」
「昨日、ちゃんと調べられなかったところを見ておきたいかな。」
【寄宿舎 倉庫】
(寄宿舎の建物内には、食堂の他に医務室や倉庫が完備されている。食堂の隣は倉庫になっていた。日用品に運動器具に園芸用品。所狭しと道具が並んでいる。)
「すごいな…。何に使うか分からないものも多いけど。」
「おや、キミ達も来たんだね。」
「ゴン太先生、高橋先生。」
(倉庫を見回していると、奥から河合さんと桐崎さんが顔を覗かせた。)
「ゴン太先生、さっきは ありがとうございました。」
「え?さっき?」
「ボクが食事の時間を合わせようと言った時、すぐ賛同してくれて。」
「え、ゴン太は何もしてないよ。」
「いえ!しがないミス研の言葉では…紳士たるゴン太先生の言葉がなければ、みんな賛成してくれませんでした。」
「えっと……。あ、ありがとう!」
(ゴン太くんは戸惑った顔をした後、顔を赤くして笑った。)
「しかし、この倉庫、”ないものがない”くらいだな。ドローンなんかもあるよ。」
「ドモーン?」
「いやいや、シャイニングとかゴッドの乗り手のキング・オブ・ハートではなく…ドローン。これです!」
(桐崎さんが倉庫内の一点を指差した。そこには確かに小型のドローンが鎮座している。)
「ドローンを使えば助けを呼べるかもしれないね。」
「いや…残念ながら、バッテリー駆動時間は そう長くないようなんだ。制御システムが優秀だから誰でも飛ばせそうではあるが…」
「ライト機能がオフにならないようでね。強い光のおかげで、バッテリーが みるみるなくなる仕様らしい。」
「河合さん、詳しいの?」
「はっはっは、私は馬術部だよ?当然さ。」
「馬術部ってロボットも使うんだね!」
「いや、愛馬を四方八方からカメラに収めたくてね。奮発して買ったことがあるのさ。既に手放してしまったがね。紳士のたしなみさ。」
「そうなんだ。河合さん、ぜひゴン太にも使い方を教えてよ!」
「もちろん。ゴン太君には、昨日ここにいる虫について教えてもらったからね。お礼をさせてくれたまえ。」
「…紳士のたしなみがドローンとは初耳ですね。」
(そんな やり取りをボンヤリ眺めていると、僕の背後を指差して声を弾ませた。)
「やや!チェス盤まであるじゃないか!ゴン太君、後で1ゲームしよう。チェスのコマを操る感覚…人をコマとして操るのは紳士のたしなみだからね。」
「嫌な感じの紳士ですね。」
「はっはっは。冗談さ。私がコマにできるのは馬の形のコマ…すなわちナイトだけだよ。」
(そう言って、河合さんは年季の入った箱型のチェス盤から馬のコマを取り出して撫でた。)
「河合さん、本当に お馬さんが好きなんだね!」
「やっぱり好きなコマはナイトなんですね。ハイラルの厄災ナイトも愛せますか?」
「私にとって、馬はナイトというより姫さ。馬は呪いに掛けられた姫君なんだよ。」
「えーと…空と海と大地を旅する呪われし姫君の話してます?」
「…でも本当に何でもあるね。カセットレコーダー、シャンパンタワー、ご当地キーホルダー、蛍光塗料、南京玉すだれ…」
「全て紳士のたしなみとして触れておくべきだな。」
「うん、分かったよ!」
「紳士がマルチタレント化していきますね。」
(紳士の仕事が多くなりそうなのでゴン太くんを押して倉庫を後にした。)
【寄宿舎 医務室】
(よくある学校の保健室のような部屋前に来た。)
(昨日は疲れ切っていて、チラッと見ただけだった。本来なら、頭を打った僕が運ばれる場所のはずだけど、体育館から遠いと判断されたのだろう。)
(扉を開けると、女性2人の後ろ姿が見えた。彼女たちに声を掛ける前に、横から男性の声が飛んできた。)
「おっ、よーっす!ゴンちゃん、タカちゃん!」
「うわっ。の、野伏くん。」
(修験者の野伏くんが、正面扉の死角に立っていた。)
「タカちゃん、医務室に用事?もしかして、まだ昨日のケガが疼くッ…とか?」
(…タカちゃんとは僕のことらしい。)
「ゴン太たち、ここを昨日は あまり調べられなかったから、調べに来たんだよ。」
「なる〜。オレは封印された右手が疼くから何か薬をと思って来たんだー。つってww」
「え!?右手が痛いの!?た、大変だ!!」
「パネー、ゴンちゃんwwマジピュア100%じゃん??」
「え?い、痛くないってこと?」
「……いいえ、獄原君。貴方の信じる心は御仏にも必ず届くでしょう。どうか、そのまま人を信ずる心を忘れないでいてください。」
「うん、分かったよ!」
「ゴン太さ、野伏さのジョークに合わせてたら身が持たねっぞ。」
「やっぱりゴン太の可愛さは世界遺産レベルだね!そういえば、世界遺産って誰が決めるんだろ?結構 有名な名所が入ってなかったりするし。」
「シンデレラ城の元ネタ的な城も入ってないんだよー?意外じゃない?意外と言えばさーー…。」
(踊り子の伊豆野さんとゴルファーの虎林さんも、僕らの近くに来た。)
「医務室に用事っち、まだ頭 悪いのけ?」
「……頭は もう痛くないよ。ここは昨日あまり調べてなかったから来たんだ。」
「あー、そっか!昨日ここの前でアタシと会った時、高橋ぐったりしてたよねー。」
(濃いメンツに疲れていたな。)
「ここには脱出の手掛かりはねーべ。」
「怪しげな薬品は たくさんあっけどねーww」
(野伏くんが薬品棚らしき棚を指差した。そこには、色とりどりの瓶が並べられている。)
「色とりどり、キャンディーみたいだよねー。色とりどりといえばさー、共感覚ってヤバくない?色が違ったら味も違う感じがしちゃうやつ!」
(藍色の瓶を手に取る。成分を読むに、これはーー…)
「睡眠導入剤だ。」
「睡眠導入剤?睡眠薬っちことか?」
「へーwwよく分かったね。何の薬か記載はないのに。」
「あ…うん。何となく…。」
「才能 忘れてたって言ってたけどー、そういう仕事してたんじゃない?薬剤師とか!」
「薬剤師の国家資格は高校生じゃ取れないよ…。」
「勉強すんのに資格なんていらね。きっとオメさ、医学的な勉強しとらすただよ。」
「すごい!高橋君は お医者さんのタマゴだったんだね!」
(……そうかな。”超高校級”が与えられるなら『勉強してただけ』じゃ無理だと思うけど。それに、いまいちピンと来ない。)
「でも…この睡眠導入剤、ビンの説明では開封後10分以内に摂取しないと効かないみたいだよ。」
「なんそれww意味あるわけ??」
「出したら すぐ飲めっちことだべ。」
「けど、他にも変な薬ばっかりだよ。『素人向け外科手術用!麻酔薬』なんかもあるし。…少量でオペレベルの部分麻酔ができるらしい。」
「やべーw試してみようぜ、ゴンちゃん!!」
「うん、分かった!」
「やめれ!!」
「てか、睡眠薬あるなら ありがたいなー。アタシ、寝る前 余計なこと考えすぎて眠れないこと多いんだよね。」
「え!?そ、それは大変だよ!」
「そう大変なんだよね。大変といえばさ…。」
(余計なこと…たぶん、本当に『余計なこと』なんだろうな。)
(虎林さんが語り出すのを見て、僕はゴン太くんの背中を押して退散した。)
【南エリア】
(寄宿舎を出たところに、新聞部のイーストックくんと、天文学者の三途河さんがいた。)
「獄原殿。高橋殿。寄宿舎を漂う香りは何ぞや。」
「蔵田さんが何か作ってたよ。」
「そうなの?美食家の料理なんて食べてみたいわね。お腹いっぱいだけど、美味しそうな匂いに舞い戻って来ちゃったもの。」
「そうなんだ!2人とも虫さんと同じだね!」
「突然の罵倒とは、これ如何に。」
「あはははははは!!そうね!虫と同じよ!」
「え、えっと…。ゴン太、変なこと言ったかな?」
「否。それも貴殿の個性のひとつ。大切に伸ばせよ。」
「ぶほっ、ぐっ…ふ…ッ。そ、そうね。何も変なことはないわ。私は虫。貴方も虫。ぶふっ。」
「……?」
「そ、そうだ。ゴン太くん、昨日 灯台には行かなかったよね?行ってみない?」
「ああ、西の光る灯台と、東の光らない灯台ね。」
「光る灯台?」
「ええ。昨日の夜、見たら西の灯台は灯りが点いていたわね。」
「ええと…東…西…。」
「宿舎を背に、右手側が東。左手側が左よ。」
「ええと…。」
(またゴン太くんが左右どちらだっけ?という顔をしている。)
【西エリア 灯台】
(宿舎を背に歩いていた僕らは、とりあえず左側に進み、西の灯台に やって来た。)
(シンプルな白い灯台だ。高さは そんなにない。ゴン太くんが灯台のドアを開けようとノブを回した。)
(昨日 開いていなかったはずのドアは、何の抵抗もなく開いた。)
「……。」
「中は暗いね。それに…変わった匂いがする。」
(外からの光が入らない灯台内は薄暗い。ろうそくと燭台が置かれているが、火種となるものはない。)
「奥に何かあるよ!」
(暗闇の中でゴン太くんが言った。)
「あ、そうだ。モノクマに渡された電子パッドのライトでーー…」
(大事な記憶は蘇らない割に、電子パッドにライト機能があったことは思い出せた。懐から電子パッドを取り出して、ライトを点け辺りを照らす。)
「ありがとう!明るくて見やすくーー…」
(そんなことを言ったゴン太くんが照らされた先を見て固まった。僕も、自分の手元から続く光を目で追ってーー…)
「うわぁあああ!」
(後ろに仰け反り、尻もちをついた。)
(そこにあったのは、死体だった。)
(血塗れの…死体だ。)
「あ…た、大変だ!びょ、病院に…!!」
「ゴン太くん…亡くなってるよ。」
「そんな…!」
(よく見ると灯台の建物内には、おびただしい量の血が流れている。そして、死体の身体は異常な状態だった。)
「臓器が抜かれてる……?」
「え!?」
「この死体…開かれて…心臓とか…ないんだ。」
「な…何で…?」
「と、とりあえず…ここを出よう。」
(ゴン太くんが辛そうに顔を歪めるのを見て、彼の背中を押した。灯台外に出ると白黒のヌイグルミが僕らを見上げていた。)
「あーあ、見つけちゃったね?暗いからよかったものの、あんなの白昼に見つかるなんてCERO-Dじゃ済まないよ!」
「あの死体…お前の仕業か!?お前が彼女を殺したのか!?」
(ーー彼女。死体は、女性だった。それも、僕らと歳も変わらないくらいの。)
「た、高橋君!」
(僕の言葉にハッとしたように、ゴン太くんは僕とモノクマの間に入った。彼は僕を庇うように、モノクマを睨む。)
「ハー…悲しい。違いますー。ボクは殺人に関与しませんー。校則にもあったでしょ?」
(その言葉で、また思い出した。電子パッドに書かれていたこと。)
(コロシアイ。学級裁判。クロとシロ。)
(もし、さっきの死体の女性を殺した人を見つけなければ…僕たちは皆ーー…)
「うぷぷぷぷ。東の灯台に行ってごらんよ。何人か集まってるから。」
【東エリア 灯台】
(モノクマに言われた通り、東側の灯台まで やって来た。)
「ゴン太、高橋ッ!」
「大変なんだ。こっちだよ。」
(灯台の影から、花火師の火野くんとテイラーの平くんが現れた。西の灯台での件を話そうとして、思わず口を閉じた。)
(平くんは昨日の自己紹介からは想像できないほど強張った顔をしているし、火野くんは倒れそうなほど顔色が悪い。)
(彼らに促されるまま、灯台の扉の方へ回った。扉の前に、黒い何かが置かれているのが見える。)
「な、何だよ…これ。」
(西側と同じ造りの灯台の下、転がっている黒い”何か”。近付くと、焦げた嫌な匂いがした。)
「これって…人……だよね?」
「え!?」
(ゴン太くんの言葉に、もう1度それを じっくり見た。)
(ーーそれは、焦げた人の死体だった。)
「わあっ!?」
「先ほど見つけてね。本物…みたいだよ。」
「俺…昨日、この辺りも歩いたけど…昨日はなかったぞ…。」
「そ、そんな…2人も…ここで亡くなったってこと?」
「2人?」
「西の灯台の中でも…死体を見つけたんだ。」
「はあ!?」
「あっちの死体は見たことない女子だったよ。僕らと同じくらいの年だと思う。あと…死体の損壊が激しかった。」
「では…この黒焦げ死体は誰なのか、だね。」
「お、俺らの中の誰か…なの…か?」
「え?で、でも…華椿さんと星くん以外の人とは ついさっき会ったばかりだよ?」
「なるほど…体格的に星クンではないね。それに…これは男性だ。」
「ご、ゴン太、みんなを呼んでくるよ!!」
(ゴン太くんが走っていき数十分後、みんなが集まった。灯台に来る前に会った人たちは もちろん、テニスプレイヤーの星くんと華族の華椿さんもいる。)
「………。」
(ーーよかった。知ってる人が殺されたってわけじゃないんだ。)
「……それで、火野と平が この黒焦げ死体を見つけたのか。」
「あ…ああ。昨日はなかったんだぜ…?」
「みんな以外に人がいたことも、驚いたよね。昨日 全員で島中を探索して、他の人なんて見つからなかっただろう?」
「そうだよね。しかも…西の灯台にも死体があったし…。」
「そっちは臓器が抜かれた女の死体だったな。」
(星くんが冷静な口調で僕やゴン太くんを見やる。僕は小さく頷いた。)
「う…うん。灯台が開いてて…。」
「昨日、西の灯台の方も見たけど、扉は開いてなかったぞ。」
「東の灯台の扉は今も閉まっているよね。」
「…本当にコロシアイが始まったのかな。」
「いや…妙じゃねぇか?」
「妙?」
「校則によれば、死体が見つかった時にはアナウンスが流れる。だが、まだ それらしいもんは聞いてねぇ。」
(ーー確かに、そうだ。)
「やあ、みんな揃ってるね。」
(そんな時、突然モノクマが現れた。)
「死体が発見されたようですね。」
「……校則には学級裁判が開かれるとあったな。」
「いや、開かれないよ。」
「え?」
「誠に残念ではありますが、これらの死体は昨日のルール説明前にできたので、誠に遺憾ではありますがノーカンでぇす。誠に申し訳ございませんっ。」
「ノーカン?コロシアイじゃないってこと?」
(モノクマの言葉にホッと胸を撫で下ろす。周囲からも緊張の空気が薄れたように感じた。)
「でもね、この死体…仮に相上 旺クンとしようか。あと、あっちの死体…仮に柿喰 恵子 さんとしようか。」
「彼らを殺した犯人は島にいるはずだからね。お気をつけて。」
「マ、本気 か!?」
「うぷぷ。この島は絶海の孤島。警察も訪れることないクローズドサークルなので。オマエラ以外に人はいないんだ。」
(不穏な笑いを残してモノクマは消えた。)
「ええと…。」
「ひとまず…学級裁判とかいうのは行われねぇらしいな。」
「けれど…この中に犯人がいる可能性もあるようだね。」
「は?信じちゃう系?そんなことあるわけないじゃーんwwオレら高校生だよ?殺人事件 起こすほど、知恵も経験も社会的不満もないってーw」
「いえ!少年漫画だと大抵 高校生探偵が登場しますし、高校生犯人も多いですよ!」
「……少年漫画の主人公がオッサンってことにはならないものね。」
「学生は成長を描きやすい。その点で、成長する主人公を見せるため、高校生に設定するのは至極 当然なり。」
「高校生という多感な時期だからこその殺人…それもあり得るんじゃないかな。ベイビー。」
「んにゃ、ありえね。オラたつ不安にさせるため、ったらごと言っただ。」
「でも…ここは私達以外いないって…言っていたな。」
「……大、丈夫よ。私たちがいないって嘘は簡単よ。」
「…だとしたら、殺人鬼と閉鎖空間に同伴中ということなりや。」
「えー!マジ?会話のネタに事欠かなくなんじゃーん!」
「そんな話されても気まずい。…だけ。」
「怖がりすぎても問題だが、楽観しすぎも危険だろうね。」
「……。」
「けど…とりあえずさ、この死体は昨日モノクマが言ってたコロシアイとは関係ねぇってことだよな?」
「そっだねー!あんまり近くにいても不健全だし、帰ろーよー。」
「そっだねー!!……変死体など、青少年の健やかなる成長を阻害するものです。お離れなさい。御仏の思し召しの通りに。つってww」
「……。」
「僕は…少し死体を調べておくよ。」
「え?どうしてですか?」
「気になることがあるんだ。」
「気になること?」
「うん。死体の損傷についてだよ。」
「死体の損傷…焼かれたり、臓器抜かれたりってことか?」
「”死体の損傷”かは分からなくない?生きたまま焼かれたかもだし、生きながら臓器摘出されたのかもよww」
「おっとろしーこと言いなすな!」
「……もし、死体を焼いたり臓器の摘出が死亡推定時刻を誤魔化すためだったら…。そう思ったんだ。」
「死亡時刻を…ごまかす?」
「うん。死後数時間なら、直腸の温度を測ったり、胃の内容物の融解具合で死亡時刻を出したりするよね?死体 焼いたり臓器を摘出したのは…それらを回避するためかも。」
「もちろん、他にも死亡時刻を見る方法があるから何とも言えないけどーー…」
(……と、そこまで話して、みんなが僕を訝しげに眺めているのに気が付いた。)
「え…と。ごめん。何?」
「やけに詳しいと驚いただけだよ、ベイビー。」
「高橋先生の才能って……もしかして”超高校級の鑑識”?」
「警察官は高校生じゃなれないでしょ。」
「ならば、医師、看護師、解剖学者…」
「その辺も…高校生じゃ、資格 取れないと思うけど。」
「あれ。確か歴代の”超高校級”に薬剤師もいたような…?」
「私も学者の名を頂いたけれど、博士どころか学士課程も修了していないわよ。ゴン太君は?渡米して飛び級してたりするのかしら?」
「えっ…。ご、ごめん。『がくしかてい』って何?」
「……ゴン太君も私と同じようね。”超高校級”の称号は資格の有無に関わらずニックネームのようなものなのかもしれないわ。」
「まぁ、いい。高橋が死体を調べたいって言うなら止めねぇさ。」
「でもさ、死亡時刻を誤魔化すってのは…タカちゃん、みんなの中に犯人がいるって思ってんの?」
(彼の言葉に、その場が一気に緊張した。)
「そ、そういうわけじゃないんだ。僕も、この死体はモノクマのワナだと思うよ。だからこそ、警察の捜査があるという前提の工作が不思議なんだ。」
「どういうことー?」
「モノクマは、ここが絶海の孤島で警察が介入することはないって言ってたけど…。警察を撹乱するような死体を作った。」
「もちろん、本格的な死体の解剖後に警察を欺くのは素人には不可能だけど…。とにかく、この死体を作ったモノクマが警察の目を意識しているんだ。」
「つまり、警察の介入の余地があるってことだよ。脱出できないわけじゃないってことじゃないかな。」
(僕が言うと、みんな納得したように頷いた。)
「でも…もう日暮れですよ?暗い中 動き回ると…危ないのでは…?」
「んだねーwwこの死体を作った犯人がモノクマじゃなかったとしたら、殺人鬼が島内にいるはずだし、コロシアイもあるしね!」
「…そうですね。あまり1人で行動するのは避けた方がいいでしょう。」
(みんなに止められて、僕と数名が明日 死体を調べるという結論に至り、僕らは寄宿舎の建物へ向かうべく南下した。)
【南エリア 寄宿舎 高橋の個室】
(夕食を食べて、部屋のベッドに身を預ける。)
(自分のことを よく思い出せない上に、死体が2つ発見されるなんて…。どうなってるんだ。)
(本当に、あれはモノクマの仕業なのか?それとも…誰かが……?)
(ぐちゃぐちゃに思考が絡まる中、僕は無理矢理 目を閉じた。)
…………
……
…
【南エリア 寄宿舎 食堂】
(翌朝、全員 同じ時間に食堂に集まった。美食家の蔵田さんが作った料理を全員で配膳し、テーブルにはホテルバイキングのような皿が並んだ。)
「すごい量だね…。」
「蔵田さんが、用意された朝ごはんは少ないからって、追加で色々 作ってくれたんだよ!」
「パネーww痩せの大食いって本当に実在するんだ?」
(みんなが席に着き、ワイワイと食事が始まった。そんなところで、華椿さんが立ち上がり、キッチンに入っていった。そして、すぐに手に盆を携えて戻ってくる。)
「みなさん、食後のお茶は いかがですか?良い抹茶がありましたので、点てました。」
「抹茶。…なら、お茶菓子があった方がいい。…ので、45秒で作る。」
(相変わらず大根に話しかける彼女が呟いた。)
「惜しい!40秒で支度しな!にはちょっと足りない!」
「十分すごいですよ!!人を殴って証拠隠滅して、隠し扉に隠れて15秒余る…くらい!」
「45秒で何ができる?」
「キミを笑顔にすることくらいかな。」
(そんな話をしている間に、蔵田さんと華椿さんがテーブルに お茶と茶菓子を運んでくれた。)
「どうぞ。」
「ありがとう。」
(華椿さんから湯呑みを受け取り、口を付けた。ーーが。)
「あっづっ!?」
(湯呑みの中身は めちゃくちゃ熱かった。)
「高橋君、大丈夫!?」
「……猫舌なのね。」
「そんなことないんだけど…。三途河さん、笑ってるでしょ?肩震えてるよ。」
「ぶふっ…。ごめん…なさっ。人の不幸はっ笑わないようにしてるのだけど…ふっ、あはは!」
「……。」
「申し訳ありません。湯呑みが厚くて熱さが分かりにくかったですね。そんなに猫舌だったとは気付かなくて。」
「厚くて熱くて暑い…っ!くく!」
「何も面白ぐね。」
「どんなものを見ても笑顔を忘れない。ベイビーの笑顔は平和を呼ぶね。」
「呼ぶ…か?平和。」
「呼ぶのは争いだと思うね。」
「争いを呼ぶ!嵐を呼んで欲しいですよね。」
「えー、今 嵐きたらヤバくない?絶海の孤島で荒らしに巻き込まれて死亡。話のネタに一生 困らないね〜!」
「死んだ。…ら、話せない。」
(彼らの雑談を聞きながら、火傷した唇に四苦八苦しつつ朝食を食べた。)
【東エリア 灯台】
(朝食を食べた後、散り散りになる面々を見送り、数名で灯台まで やって来た。)
(ーー昨日、クロ焦げの死体を発見した灯台。ちょうど灯台の扉を塞ぐ形で、黒い死体が倒れていた。)
(…はずだ。)
「こいつは どういうことだ?」
「……おかしいですね。」
「ど、どうして、なくなってるの!?」
(昨日、確かに そこにあった死体は跡形もなくなっている。)
「……どうやら海に捨てるなり何なりされたらしいな。」
「そのようですね。」
「モノクマがやったのかな。」
「その通り!みんなの目に触れたゴミは処分しました!放置してゾンビ的な何かになってオマエラをバリバリバキバキムシャムシャゴクン!されても困るし。」
「ゴミって…!」
(ヒョッコリと現れたモノクマは、ゴン太君が抗議の声を上げるのを聞いて、すぐに笑いながら また消えた。)
「…この分じゃ、西の方も処分されてるな。」
「一応、確認しておきましょう。」
【西エリア 灯台】
「そういえば…星くんと華椿さんは、どうして一緒に来てくれたの?」
(西の灯台前に辿り着いた時、ふと疑問を口にした。昨日 死体を調べると言った時、一緒にと申し出たのはゴン太くんの他、2人だけだった。)
(ゴン太くんは ともかく、正直、星くん達が来てくれるというのは意外だった。)
「……大した理由なんざねーさ。ただ、死体に慣れてる奴が見ておくべきだと思っただけだ。」
「死体に慣れてる…?」
(星くんは どこか達観したような目をした後、灯台を指差した。)
「臭うな。」
「……この匂い。」
「……昨日の…死体の匂いだ。」
「え?でも、向こうのクロ焦げ死体はモノクマが処分しちゃったんだよね?」
「…死臭だけが残ったのかもしれないですね。」
「と、とにかく、入ろう。」
(灯台の扉を開けると、嫌な臭いが一層 濃くなった。昨日と同じく薄暗い中で電子パッドの灯りを点けるとーー…)
「これは……。」
「ひでーな。」
(昨日と同じ死体が同じ状態で、そこにあった。)
「どうして…こっちの死体は そのままなんだろう。」
「そ…そうだね。あっちの灯台の死体は…なくなってたのに。」
(ゴン太くんは辛そうな表情で部屋に入ってくる。明らかに無理をしている顔だった。)
(そんな彼が どうして、ついてきてくれたんだろう。)
「この死体を作った奴は…ケモノみてーな奴かもしれねーな。」
「……けれど、どう見ても切断面は動物によるものではありませんね。人間が意図的に切ったとしか考えられません。」
(僕とゴン太君が入口近くで立ち止まっているのに対し、2人は奥の死体近くで かがみ込んでいる。)
(華椿さんが動くのに合わせて、後ろ髪に挿された髪飾りの1つーーたぶんアヤメの花が揺れるのが見えた。)
(”中身”を抜き取られた死体を前にして、取り乱す様子はない。普通の高校生なら もっとーー…。)
「……。」
(ーーああ、そうか。普通の高校生じゃなかった。彼らは特別なんだ。)
(そんな風に考えた途端、胸にモヤが かかる。胃に不快感が渦巻いた。これは、漂う死臭によるものじゃない。……劣等感だ。)
(死体や周辺を調査する2人をゴン太くんと少し遠巻きに眺めた。)
【南エリア 寄宿舎 食堂】
「おかえり。どうだったかね?」
(まだ早い時間なのに、食堂には みんな集まっていた。出迎えてくれた河合さんから、また いい匂いがした。)
「……。」
「どうかしたのかね?」
「あ…いや…いい匂いだと思って。」
「ああ。また蔵田君が腕を奮ってくれるそうだよ。」
(そんなことを言って、河合さんはキッチンに目をやった。)
「今夜は ごちそうだよー!不安な夜は騒ぐに限るからねー。」
「ええ。その後、みんなで星を見ましょう。屋上から綺麗な星空が見えるのよ。」
「うん、それは素敵だね。」
(みんな不安な気持ちを抱えている。だからこそ、少しでも気を紛らわすこと、楽しめることを提案してくれたんだ。)
「男のロマンだよな。水素がヘリウムに変化して光るんだっけ?」
「あまりロマンチックな言い方じゃないですね。」
「まあまあ、何をロマンチックと感じるかは人それぞれだよ、ベイビー。」
「そもそもロマンチックは『ローマ風』という意味なり。」
「ねーねー、七夕で晴れた日なら織姫と彦星が会えるって言うけど、宇宙の話なら地球の天気って関係なくない?」
「雲外蒼天の極み…だな。」
「ぶふぉっ!そうね…!」
「ごはん、できた。…ので、食べよう。」
「オメたつも、配膳さ手伝え。」
「そーそー、働かざる者 食うべからずってねww」
(しばらくすると、キッチンから3人が現れた。その手には美味しそうな匂いを放つ鍋やらフライパンやらが握られている。)
「お任せしてしまい すみません。わたくしがデザートにアイス抹茶ラテを淹れます。」
(そのまま みんなでテーブルに配膳し、美味しい料理に舌鼓を打つ。その後、華椿さんがキッチンに入っていった。)
「続いて、蔵田さんも大根に向かい「手伝ってくる」と言って席を外した。しばらくして、2人が戻ってきてテーブル端に背の高いカップが載った盆を置いた。)
「お口に合えば良いのだけど…。」
「これ!都会にある かふぇめぬーってやつだべ!」
「こいつは驚いたな。」
(女性陣が目を輝かせる。それもそのはず、背の高いグラスの中には緑色のグラデーションが広がっている。)
(全員ーー特に女性陣がワッと立ち上がり、抹茶でてきた芸術作品を手に再び先に着いた。僕も1つを確保して元の席に座る。その時、華椿さんが そっと囁いた。)
「貴方様は今朝、火傷していましたね。こちらを どうぞ。」
(そう言って差し出されたのはストローだ。ずっと唇のヤケドを気にしながら食事をしていたことを気取られたらしい。)
(冷たい人だと思ってたけど…そうでもないのかもしれない。)
(食後、十分リラックスしてから全員で屋上へ向かった。)
【寄宿舎 屋上】
「素晴らしい夜空だね。」
「この場所が どこだろうと、見上げれば瞬く星。その下で君を思えば悪くない夜になる。」
「…きれい。」
「ほんとー!すごいねー!毎日こんな夜空だったら、色んな人に気を遣って神経すり減らすこともないのにねー!」
(屋上は簡素なものだったけれど、見上げれば極上の景色があった。)
「三途河さん、誘ってくれて ありがとう。とても綺麗だよ。黄金虫さんみたい…。」
「ブホォ!そうね…むしも ほしも、友だちよ…!」
「…この景色から俺達の居場所は分からないか?」
「緯度は いつも私が観測している地点と変わらないの。北緯35度41分。でも、ここがロサンゼルスなのか上海なのか、テヘラン、アテネなのかは分からないわ。」
「あー、そっか。船上だったら時間と太陽の動きで経度も分かるんだっけ?」
「我々は どの時点で、どこから連れ去られたのかも分からぬゆえ。北極星を見ても…分かるのは方角のみか。」
「…北緯35度って…目測で そんな正確な緯度が分かるものなの?」
「ぶふーっ!そう!…なのよっ。なぜか分かるのッ!不思議なことに!!」
「星の動きを観察して…点を線にする。そして その軌道を読むの。角度や動きの違いがあれば すぐ分かるわ。」
「線の角度や動きの違いが分かる…筆跡鑑定でもできそうな感じですね。」
「ふっ、そうね!空も紙上も同じよ…っ!」
「それにしても、屋上に上がれるなんて気が付かなかったな。」
「モノクマが開けてくれたのよ。私が高い所から星を見たいって言ったら。」
「へー、結構 優しいとこあんだな。」
「あいつがオラたつ閉じ込めたっち忘れるな。」
「ブー!少なくとも…ここはストックホルムではないわよっ…!」
「ちなみに、東西の灯台も外から上に上がれるハシゴがあるみたいよ。」
(笑いながら彼女は島の西に輝く灯台を指差した。東の灯台には光が灯っていない。おかげで僕らの右手側は真っ暗だった。夜に東側を歩いたら危ないだろう。)
「いえ…でも…。夜 灯台辺りへ行くのは危険でしょう。」
「ああ。夜はウロウロしねぇのが良さそうだな。東の灯台は灯りがねぇから真っ暗だし。夜 歩いたら、海に落ちちまいそうだ。」
「そだねーww2体の死体 作った犯人、ウロウロしてるかもだしね!」
「あの死体はモノクマが用意したもんでは?」
「そうだね。僕たちが誰かを殺したとは考えにくいよ。」
「んー?どうして そんなこと言えるんだー?」
「それは…」
「……今日 調べた限り、犯人は殺人に慣れていると考えられます。」
「慣れている?」
「う…うん。焼死体の方はモノクマが隠蔽してなくなってたんだけど…西の灯台の死体は残ってたんだ。中身を抜かれた死体が。」
(僕が言うと、みんなが 緊張の表情を見せた。)
「死んだ後にメスみたいな刃物で腹を切られて臓器を取り除かれてたんだけど…どう見てもプロの仕事だったよ。」
「どう見てもって…よく見られたな。」
「ちなみに、刃物は西の灯台付近には もちろん、東の灯台付近にもありませんでした。」
「ごめん。ゴン太が もっと目がよければ、ここからでも探せたのに…。」
「たらことできたらビックリ人間だべ。」
「もう少しでできそうなんだけどね…。力が足りなくて申し訳ないよ。」
「ゴン太先生の視力は6.0ですからね!」
「ビックリ人間だったべ。」
「”超高校級”がビックリ人間コンテストなのは否めない。」
「まあまあ、せっかくの星空だ。楽しもうじゃないか。はっはっは。」
(それから、夜空を眺めながら雑談をして過ごした。けれど、20分ほどで眠気を訴える人が続出し、その場は解散となった。)
【寄宿舎 個室前】
「じゃあ、ゴン太くん、おやすみ。」
(個室に入っていく面々を見送りながら、大きな身体に声を投げかける。彼は見るからに眠そうだ。)
(僕は全然 眠くないけど…みんな早寝なんだな。)
(そんなことを考えていると、ゴン太くんが眠そうな目を2、3度 瞬かせてから、僕を見つめた。)
「高橋君。今日は…ごめんね。」
「え?何の謝罪?」
「一緒に調査をするって言ったのに…星君や華椿さんみたいに調査できなかったし…。」
「いや…僕も そうだったよ。あんなに死体に近付ける方が おかしいよ。」
「でも、高橋君は死体から色々 考えていたから凄いよ!」
(ゴン太くんは一瞬 声を大きくして、自分で その大きさに驚いたように呟いた。聞く度に僕が苦々しく感じていた、あの言葉を。)
「ゴン太は考えるのが苦手だから…。本当にゴン太はバカで…。」
「………。」
「その口グセは止めた方がいいんじゃないかな。」
「え?」
「だって、キミは昆虫学者なんだよね?学者といえるレベルで勉強してきたんだよね。」
「ゴン太は…ただ新種の虫さんを見つけただけだよ。」
「新種発見には、少なくとも既存の虫を全て知ってる必要があるよ。それは途方もない努力の結果の功績だ。そんな努力ができる人間は…バカじゃない。」
「”超高校級”を与えられた人間がバカだなんて…そんなはずないんだよ。」
「高橋君…。」
「キミには才能がある。自分はバカだって決めつけて考えるのを止めたらダメだよ。きっと、ゴン太くんにしか気付けない発見があるんだから。」
「考え抜くこと…これも紳士の嗜みってやつじゃないのかな。」
「……。」
(たぶん…僕は自分に言い聞かせているんだ。)
(僕の才能は分からないけれど…類稀なる才能と並々ならぬ努力を経て”超高校級”の称号を得たんだと。バカでも無能でもないはずだと。)
(そこまで考えて、感情のまま言葉を発してしまったことに気付き慌ててゴン太くんを見上げた。彼は放心を絵に描いたような顔をしている。)
「ご、ごめん。余計なこと言ったね。分かったようなことをーー…」
「ありがとう!!!」
「うわぁ!?」
(ゴン太くんがズイと体を寄せてきたのに驚き、僕は危うく後ろに転がるところだった。)
「ゴン太、頑張るよ!!みんなのために!頑張るから!!」
(そう言って彼は意気揚々と自室に入って行った。部屋に入る寸前、嬉しそうにブンブン手を振って。)
(その姿を微笑ましく思いながら、僕も自室に入った。)
…………
……
…
(扉の方から音がした。何だろうと個室内のベッドに横たわっていた僕は起き上がる。)
(見れば、ドアの隙間に紙が挟まっていた。拾い上げて開いてみた。)
「何だ…これ。」
(手紙だろうか。力強い字で『午前0時に西の灯台で待ってるね。獄原』とあった。)
「……ゴン太くん?」
(僕は手紙をポケットに捩じ込んで部屋を出た。)
【南エリア 寄宿舎前】
(早足で寄宿舎の扉を通り抜けた時だった。)
(背後に激しい衝撃。)
(ドカッという音と共に、後頭部に痛みが走る。)
(殴られたんだ。ーーそう気付いた時には、自分の身体は地面に横たわっていた。そして…僕の意識は暗転した。)
……
…
(ーー意識が浮上する。)
(殴られて、どれぐらい経ったのだろう。周囲を見回せば、変わらず寄宿舎の建物が背後にあった。)
(フラリと起き上がると頭がクラクラした。後頭部がズキズキする。)
(昨日から頭を打ってばかりだ。…そのおかげで、思い出したこともある。)
(ーー西の灯台に行かなくちゃ。)
(僕は左手側に歩を進めた。明るく輝く西の灯台の光へ。)
非日常編へ続く