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Round. 2 蝶のように舞い、蚊のように刺せ(非)日常編Ⅰ

 

【南エリア 寄宿舎 獄原の個室】

 

(ゴン太は朝のチャイムが鳴る前に目が覚めた。枕元の時計を確認すると、少し早い時間だった。)

 

(昨日の裁判の後、とても眠れないと思っていたけど…少しだけ眠れたみたいだ。)

 

(時計の横の小さい箱ーー初日からベッドのところに取り付けられていたものが目に入った。)

 

「…っ、今日も開かないか。」

 

(初日からあった この箱には『”超高校級の昆虫博士” 獄原 ゴン太様』と彫られている。いくら開けようとしても開かない。)

 

(取り付けられているから持ち上げることもできないので、何か入っているのかも分からないや。)

 

(ゴン太ならベッドごと持ち上げられるかもしれないけど…たぶん紳士はベッドを持ち上げたりしないから止めておこう。)

 

 

 

【南エリア 寄宿舎 食堂】

 

(ゴン太たちが食堂に行くと、既に みんな集まっていた。)

 

「おはよー、ゴン太。よく眠れた?アタシ全然だったよー。睡眠薬 使うべきかな?でも良くないかな?」

 

「おはよう。ご飯は蔵田さんが用意してくれるそうよ。」

 

「今日は、スープとオムレツ。…に、フレッシュジュース。」

 

「飯が美味いのは本当に助かるよな…。だって…」

 

「コロシアイなんて強いられてる環境だもんねーww」

 

「オメ、思い出させんでね!」

 

「言うてはならんことを…。」

 

「そ…そうですよ!せっかく みんな努めて話題にしなかったのに!!」

 

「んー?ハナハナが来たら嫌でも思い出しちゃうでしょ?オレは その前に思い出させてあげたんだよ。」

 

「ハナハナってのは華椿のことで合ってるか?姿が見えねーが…。」

 

(星君が食堂を見回した。この場には、華椿さんはいない。)

 

 

「わたくしは…確かに彼を殺そうとしていました。」

 

「華椿君は私を使って高橋君を排除した。そういうことじゃないかな?」

 

 

(彼女は高橋君を殺そうとしていた。そして…河合さんを操っていたかもしれない。)

 

(ゴン太も裁判の後たくさん考えたけど…やっぱり、何も分からなかった。)

 

「華椿?見てないよー?呼んでこよっか?」

 

「えっ…でも。」

 

「危険…かもしれないよ。」

 

「そのうち来んじゃね?美味しそうな匂いにつられて、虫のようにw」

 

(野伏君が扉の方を見るのに つられて、ゴン太も そちらを見た。すると、そこにモノクマが現れた。)

 

「え!?モノクマ…!」

 

「そうそう、モノクマだよ。覚えてくれて嬉しいなっ!ボクのことは忘れてるわけないんだけどね!」

 

「オマエラは ここの人たちの名前、もう覚えた?まだかもね。覚えやすい名前にしても、一気に覚えろって言われるとね。」

 

「捻った名前とか複雑・特殊な読み方の漢字のキャラも覚える側からしたら苦痛でしかないよ。書いてるヤツも一発変換できない時点で後悔するんだからね。」

 

「歌うからウタ。絵を描くからアルテ。強いからシュタルク。それくらいシンプルがいいと思うんだよね。」

 

「…何故に参られたし。」

 

「うぷぷ。飽きっぽい青少年のオマエラは、そろそろ この島だけじゃ飽きてると思ってね。」

 

「別に飽きてない。…ので、余計な世話。」

 

「住めば都って言うよねー!」

 

「さあ、みんな。ボクに ついて来て。全員でね。」

 

(みんなの声は無視して、モノクマは歩き出した。)

 

 

 

【東エリア 海岸】

 

(モノクマに連れられて来たのは、昨日 高橋君が殺されていた灯台の先の海岸だった。灯台下の高橋君の死体はなくなっていた。)

 

「モノクマ…高橋君は?」

 

「え?学級裁判が終わったんだから、捨てちゃったよ?別に雨で腐りやすいとか そういうことはないんだけどね。」

 

「す、捨てただァ!?」

 

「ついでに、西の灯台にあった死体も片付けときました。既に臭かったからね。不法投棄じゃなくて、正規のゴミルート使ったから安心してね。」

 

「死体をゴミゴミ言うなし〜ww」

 

「彼らが死後の復活を願う宗教信奉者だったら いかがする。」

 

「不適切にも程があります!」

 

「もー、うるさいなぁ。視聴者も年々うるさくなるし…コロシアイ運営も疲れる時代だね。」

 

「スタッフをコロシアイ現場に送ったり、男のロマンのために脱がせたり、トイレの大小に言及したりも今は問題なんだろうなぁ。」

 

「ハァ…。これだから最近のテレビは つまらないんだよ。寝起きドッキリ爆発やってた時が懐かしいですなぁ!」

 

「な…何を言ってんだ?」

 

「ワケが分からないね。」

 

(みんなが言う中、ゴン太は海の向こうから目が離せなかった。)

 

「おや?ゴン太クンは気付いたみたいだね。」

 

「何だべ?」

 

「……向こうに…があるんだ。」

 

「島?まさか。昨日までなかったわ。」

 

「うん。ゴン太も昨日はなかったと思うんだけど…あれ?」

 

(みんなに見えていないらしい島。うっすら小さく見えていた それが段々、見やすくなってきた気がする。)

 

「…近付いてきてるな。あれは本当に島か?」

 

(島が ゆっくり動いて近付いてくる。そして、みんなも見える大きさで止まった。)

 

「島。…が、私たちにも見える。」

 

「果たして本当に島かな?動いていたし、巨大な船かもしれないよ。」

 

「島だって動くだろーが!天動説論者め!血祭りに上げるぞー!!」

 

「何で天動説そんな憎んでんだよ。」

 

「さて、先程ここまで動いて来てくれた島は、“春ノ島”だよ。」

 

「春ノ島?」

 

「そう!本島は季節の概念も何もない温度設定ですが、春ノ島は春を楽しめる島なのです。春ノ陽気!春ノ景色!春ノサクラ!春ノ空!春ノ富士!」

 

「忍者と相撲取りが紛れてませんでした?」

 

「とにかく、今から春ノ島を見に行くといいよ。」

 

(モノクマが手をポンポン叩くと、島と海岸を繋ぐ橋が現れた。)

 

「…どういうカラクリだ?」

 

「大掛かりなマジックだねww」

 

「この世には、絶対タネを明かさないマジシャンと、自分のは明かさないけど他人のは明かすのと、自分のも他人のも明かす手品師がいるよねー。」

 

「順に…成歩堂、黒羽、山田ですね!」

 

「ハイハイ!いいから!さっさと移動する!」

 

 

 

【春ノ島】

 

(長く続く橋から その島に入った途端…ゴン太は流れる空気が変わったのを感じた。)

 

「な…何だ?」

 

「足を踏み入れた瞬間、暖かな日差しを感じた。風に香るは春の花。」

 

「うん。ここ、あったかーい。今までの島も寒かったわけじゃないけどさ。」

 

「春ノ島は常に春だからね。」

 

「常に春?それじゃあ、夏服や冬服が着られないじゃないか。」

 

「夏から冬の旬の魚や野菜。…も、食べられない。」

 

「そういう問題?ww」

 

「いくら何でも不思議すぎっべ。ちょっと移動しただけで急に あったげーのなんて。」

 

「そうね。それに…今まで暑さも寒さも感じなかったことも変よ。うん…変……ククっ。」

 

「ハイハイ。そんなの、もう謎でも何でもないから。細かいことは気にしないで、春ノ島を楽しんでね。」

 

(そんなことを言ってモノクマはいなくなった。)

 

「あ…。モノパッドの地図、更新されてますよ。」

 

(桐崎さんに言われて、みんなモノパッドを確認した。モノパッドには島に町エリアと自然エリアがあると出ていた。)

 

(町エリアにはパン屋さんや洋服屋さんにシアター、自然エリアには神社や花畑があるみたいだ。)

 

「とりあえず…それぞれ調べてみるか。」

 

(ゴン太は どこを調べようかな。虫さんは どうしたいかな?)

 

 

 町エリア

 自然エリア

全部行った

 

 

 

【春ノ島 町エリア パン屋】

 

(町エリアに入ると、すぐにパンの良い匂いがしてきた。小さなパン屋さんの扉を開けると、桐崎さんと伊豆野さんがいた。)

 

「ゴン太先生。」

 

「オメも匂いに釣られて来ただか。」

 

「うん。美味しそうな匂いだね。」

 

「けんども、匂いだけでパンがねーだよ。」

 

「残り香というものなのでしょうか。不自然ですが。」

 

「小学生が集めてる消すゴムみてーなもんでねっか?」

 

「そっか。ここはパンの匂いがする、パンがないパン屋さんなんだね。」

 

「何ですか、その ややこしい施設!」

 

「焼き立てパンが食べたくなったべ。蔵田さに作ってもらうだ。」

 

「賛成です!美食家なら、パンとかブレッドとか包子とかブロートとかも焼けるでしょうし!」

 

(2人と好きなパンの種類について語った!)

 

 

 

【春ノ島 町エリア 洋服店】

 

「やあ、ゴン太君。いらっしゃい。」

 

(町の中の洋服屋さんに入ると、平君がカウンターの中から迎えてくれた。)

 

「わあ、ここは平君のお店なんだね。」

 

「ぶふぉ!」

 

(ゴン太が言うと、部屋の奥から噴き出す音がして、三途河さんが顔を出した。)

 

「調査してるのよ。平君のお店じゃ…っフフ…ないわ。」

 

「そっか。でも、平君にピッタリだね。」

 

「ボクの本当の店は更に大きく美しく気高いんだけどね。」

 

「ブフーー!!気高い店…!!」

 

「道具もあるし、良かったらキミ達の服も仕立てさせておくれよ。ベイビー。」

 

「えっ、いいの?」

 

「もちろん。ゴン太君には是非、紳士的な革靴をプレゼントしたいと思っていたのさ。」

 

「紳士的な?あ、ありがとう!!」

 

「あら、靴も作れるの?」

 

「ボクは”超高校級の跡取り”だよ?靴のマイスターだって持ってるのさ。ロボットパンチならぬロケットキックができる仕掛け靴でも作ろうか?」

 

「え!?そ、そんなのもできるの?」

 

「フフッ。冗談さ。」

 

「皮革製品も作れるのね。ベルトも作れるかしら?」

 

「もちろん。ベイビーがしているような、しっかりしたベルト付きドレスをプレゼントするよ。」

 

「ドレスより、この服用のベルトを作ってくれないかしら?今のはベルトが少し緩くて。」

 

「そうかな?ピッタリフィットしているように見えるよ。あまり締め付けるのも血を止めるし、体に良くない。」

 

「そうなんだけどね。しっかり締まる方が姿勢矯正にいいからキツめがいいのよ。できるなら、二重ベルトにして頂戴。」

 

「…承りました。ゴン太君は?何か ご要望があるかな?」

 

「えっと…ゴン太、服や靴のことは よく分からなくて…。」

 

「やや、それは いけない。紳士になりたいなら、服装は重要だよ。昔の紳士は見た目に特に気を遣ったものだからね。」

 

「そうなんだ!」

 

「人は見た目が9割とか言うわよね。ルッキズムって批判もありそうだけど。」

 

「どんなに抗っても、相手への第一印象を持ってしまうのが人間。だから、内面の素晴らしさをアピールする戦闘服を。それがタイラテイラーなのさ。」

 

「必ず、ゴン太君の紳士性と野性味を表現する靴を作ってみせるよ!タイラテイラー創業者…お祖父様の名に掛けて。」

 

「プフ…それは完成が楽しみすぎるわね…。」

 

(平君の紳士服についての知識と三途河さんの爆笑をもらった!)

 

 

 

【春ノ島 町エリア シアター】

 

(町エリアの端には小さいシアターホールがあった。入り口すぐにイーストック君がいる。)

 

「イーストック君も ここにいたんだね。」

 

「獄原殿。ここのシアターに興味がおありか。ここは狭いがライブやマジックショーにも使われるシアターだそうだ。」

 

「このシアターの隣の部屋には放送設備もあるようだ。」

 

「へー。この広さなら、ちょっとしたパーティーができそうだね。」

 

「パーティー。まさか獄原殿から そのような言葉が出てくるとは。」

 

「昆虫学者になってから、主催することも多くなったんだ。クラスメイトと『虫さんでなごもう会』を開いたり。」

 

「いかような宴か?」

 

「友だちを集めて、虫さんと遊ぶんだ。そうだ!ここにも素敵な虫さんが たくさんいるから、みんなでーー…」

 

「我々のような身体の大きな者 相手にしたら、虫殿も和めぬのではなかろうか。」

 

「そんなことないよ!今もゴン太の傍にいてくれる虫さんは朝から晩まで一緒なんだ。」

 

「ピーピング・バグとは面妖な。」

 

「しかし、我々の虫殿への理解は まだ浅い。ここは全員の虫殿への見識を深めてから会を敢行するべし。」

 

「えっと…。」

 

「これ即ち、虫のことを教えてから和もう会をすると良し。」

 

「あ、そっか。急に知らない虫さんと仲良くなるのは難しいもんね。」

 

「しかあり。」

 

「鹿?」

 

「しかあり。然り。その通り。」

 

「あ、そうなんだ。ごめん、ゴン太はーー……その、難しい言葉を あまり知らなくて。」

 

「良い良い。昨今の知識は細分化されている。網羅する必要はない。」

 

「…それより、あの言葉を使わなくなったのは良きことぞ。」

 

「あの言葉?」

 

「自分を馬鹿だ何だと罵ることだ。馬鹿とは無知な者のことではない。馬鹿とは学ぶ機会を活用せず、無知を恥じない者である。」

 

(イーストック君が真剣な顔をした。その顔を見ていると、高橋君が亡くなる前に言ってくれたことを思い出した。)

 

「うん、そうだね。ありがとう。

 

「言語の知識は教養の礎となるもの。紳士たる者、教養は広く持つに損することはなし。」

 

(イーストック君に色々な言葉を教えてもらった!)

 

 

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【春ノ島 自然エリア 桜神社】

 

(自然エリアは山や川、緑に囲まれたエリアだ。その真ん中辺りに神社への階段があった。)

 

「うわあ…。すごい…!」

 

(階段を登り切った先には、小さな神社の境内があって、植えられた桜が満開だった。)

 

(神社の前にいた火野君と虎林さんも桜を見ていた。)

 

「見事な染井吉野だな。満開だ。」

 

「うんうん。お花見したい!そういえばソメイヨシノって固有種だよね?ってことは、やっぱり ここって同じ国?」

 

「どうだろうな。友好の証に海外に送られてたりも結構するらしいぜ?」

 

「そうなんだ。火野君は お花に詳しいんだね。」

 

「まあ、ある程度はな。花火も花見も同じようなもんだ!」

 

「んー?同じかなぁ?そういえば、桜って、すぐ散っちゃうじゃん?もったいないよね。ずーっと咲いててくれたらいいのに。」

 

「刹那の美しさだからいいんだろ?パッと咲いて、パッと散る。それが粋ってモンよ。」

 

「そうかな?永遠に綺麗な方が綺麗じゃない?」

 

「分かってねーな。そうだ。せっかくの花だ。今夜、みんなで夜桜の下 花見と洒落込まねェか?」

 

「あ、それはいいね!」

 

「ナイスアイデア!…あ、でも、危なくない?高橋が死んだ理由は分かったけど…他の2人、灯台で殺されてた人の犯人は分かってないんだよね?」

 

「あ。…そっか。そうだな。」

 

「んで、犯人は島の中にいるんだよね?」

 

「…俺たちの中にって可能性もあるらしいけどな。」

 

「じゃあ、夜桜で楽しんでる間にグサー!ザクー!って殺されちゃうかもしんないよね。」

 

「だ、大丈夫だよ!何かあったら、ゴン太が みんなを守るから!」

 

「ええ!?じゃあ、ゴン太が代表でグサー!ザクー!?それはヤだなぁ…。」

 

「…今の桜を楽しもうぜ。」

 

(少し悲しい空気の中、2人と花見をした。)

 

 

 

【春ノ島 自然エリア 花畑】

 

(自然エリアの南側に花畑が広がっている。色とりどりの花の周りを蝶さんや蜂さんが嬉しそうに飛んでいた。)

 

「ハチはイチゴの受粉とか…農業にも不可欠。…ので、私は好き。」

 

「マジで〜?働きバチって、ハチのためじゃなくてヒトのために働くのなwwあ、養蜂とか、まさに それな!」

 

(花畑を見ていると、いつの間にか蔵田さんと野伏君が近くにいた。)

 

「蜂さんは家族のために、とっても頑張るんだ。頑張り屋の虫さんなんだ。」

 

「けど、今 頑張ったらヤバくね?」

 

「…どうして?」

 

「いやwwだって、さっき近くでトリカブトの花が咲いてたんだわww」

 

「トリカブトの花?」

 

「ハチがトリカブトの花の蜜まで集めちゃうんだよww」

 

「あ、そっか。この季節は養蜂家さんも蜂さんを放たないって聞いたことがあるよ。」

 

「さっすが、ゴンちゃん!ムシ博士になれんじゃね!?あ、もうなってたわww」

 

「え?ご、ごめん。ゴン太は昆虫学者って言われてて…。」

 

「ぷげらww」

 

「…あなたは どうして詳しいの。」

 

「修験者仲間が山のハチの巣つついてハチミツ採って喰って死んだからねww」

 

「トリカブトは猛毒。フグの毒と合わせて使われた例もある。…ので、危険。」

 

「じゃ、モノモノに ここらで採れたハチミツ与えてみようぜ〜wwクマだから喜んで喰って死ぬかもwww」

 

「えっ…!で、でも、モノクマに何かしたら野伏君が校則違反になるかもしれないよ!?」

 

「ウェ〜イw冗談だってww」

 

(野伏君は笑いながら、どこかへ行ってしまった。それを見送った蔵田さんも、ため息を吐いて彼とは反対側へ歩いていく。)

 

 

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(ひと通り見て、元の島に戻ろうとした時、人の気配がした。)

 

「あ、華椿さん。」

 

「……獄原さん。」

 

(華椿さんは道の脇の茂みから出てきた。ちょっと怒った顔をしている。)

 

「えっと、ここに来てたんだね。今朝、ご飯の後に島が近付いてきて、来られるようになったんだよ。」

 

「知っています。わたくしも皆様に気付かれないよう、ついていってましたから。」

 

「え?そうなの?声を掛けてくれたらよかったのに。」

 

「…わたくしがいたら空気が悪くなるでしょう?」

 

(そう言われて、また昨日の裁判のことを思い出した。)

 

「華椿さん、昨日 言ってたことってーー…。」

 

「失礼します。」

 

(ゴン太が聞こうとすると、華椿さんは足早に元の島への橋を渡っていってしまった。)

 

 

 

【本島南エリア 寄宿舎 獄原の個室】

 

(あの後 晩ごはんを食べて、みんな部屋に戻った。晩ごはんの場にも華椿さんは来なかった。)

 

(前回の裁判で彼女の言ったことを思い返してみた。)

 

 

「テメーが嘘吐いてないことくらい、テメーの目を見れば分かる。」

 

「オレは まだゴン太を信じるぞ!」

 

 

(前回の裁判のことを考えていると、裁判中に思い出した声まで浮かんできた。)

 

(あの時、『自分が疑われた時の気持ち。自分を信じてくれる人がいると知った時の気持ち』…そんなものまで思い出した。)

 

(この記憶が いつのものかも分からないけど…。)

 

(ーーゴン太も…華椿さんを信じてみよう。)

 

…………

……

 

(翌朝、やっぱり食堂に華椿さんは来なかった。)

 

(朝食後、みんなが探索に出かける中、ゴン太は寄宿舎の部屋が並ぶ廊下を進んだ。そして、華椿さんの部屋のドアをノックする。同時に、中から物音が聞こえた。)

 

「華椿さん、おはよう!」

 

(声を掛けてみたけれど、返答はない。)

 

「華椿さん、起きてる?」

 

(もう1度 呼んでみたけど、やっぱり返事がない。)

 

(気配はするのにーーと、少し不安になってきた。)

 

「華椿さん、大丈夫?体調が悪いんじゃない!?」

 

(ドアノブに思いきり力を入れてしまったところで、部屋から声がした。)

 

「大丈夫ですから、放っておいてくださいまし。」

 

「よ、よかった。でも、朝ごはんは食べた方がいいよ。一緒に行こう?」

 

「皆様がいないタイミングで食べていますから、お構いなく。」

 

「……でも、」

 

「獄原さん。わたくしと一緒では休まりませんよ。皆様方も同じ意見でしょう。多数決に従う民主主義。”紳士”が名前と金で勝ち得た権力ですよ。」

 

「えっと…。」

 

「お話は終わりです。さっさと行ってください。」

 

(どうしよう。難しい話は よく分からない。ゴン太は何が言いたかったんだっけ?)

 

「ゴン太は華椿さんを信じるよ。」

 

「信じる?殺人を目論んだ このわたくしを?」

 

「…それは、びっくりしたけど…。でも、高橋君を殺してしまった河合さんだって…悪い人じゃなかった。だから、華椿さんは悪い人なんかじゃない。」

 

「……。」

 

「ゴン太は……。難しいことは分からないけど…そう思うよ。」

 

「信じる…高校生の青春には美しきセリフでしょうが、コロシアイを強いられた状況では阿呆の言葉ですよ。」

 

「でも…」

 

「けれど、貴方様のお人柄は承知しました。ですが、本日の お話は終いです。お引き取りください。」

 

(そのまま何の返答もなくなってしまったので、しかたなくゴン太は その場を離れた。)

 

 

 

【本島南エリア 寄宿舎 倉庫】

 

「これはこれは、獄原君。」

 

「あれ?野伏君、何してるの?」

 

(寄宿舎の廊下を歩いていると、倉庫で野伏君が何かをしていた。)

 

「皆さんが安心して暮らせるよう、危ないものがないかチェックしていたのです。」

 

「そうなんだ!良かったら、ゴン太も手伝うよ!」

 

「なんつって!何があるのか確認してただけだよww事件に使われそうなものがないかね。」

 

「事件?また、事件が起きるってこと?」

 

「そりゃそうっしょ?モノクマが ここにオレら閉じ込めてる限り。」

 

「でも…みんな殺人なんて悪いことしないよ。」

 

「今は…そうでしょう。けれど、極限状態になった場合…人は何をするか分かりません。獄原君なら、その巨体で我が首へし折るくらいわけないでしょう。」

 

「え!?し、しないよ!確かにできるだろうけど…!紳士は人の首を折ったりしないんだ!!」

 

「できるんかーいwwマジ パネー!」

 

(野伏君は笑いながら倉庫を出ていった。)

 

 

 

【春ノ島 橋の前】

 

(また、春ノ島に来た。昨日と同じで、島全体が暖かくて気持ちいい空気に包まれている。)

 

(春の虫さん達が元気そうなのを確認していると、三途河さんがキョロキョロしていた。)

 

「三途河さん?どうかした?何か探してるの?」

 

「あら、ゴン太君。」

 

「落とし物?ゴン太も一緒に探すよ!」

 

「ブフーッ!ありがとうっ!!でも、落とし物じゃなくて、縮地法での逃げ者なのよ。」

 

「にげもの?」

 

「ええ。星君を探しているの。面倒ごとの気配を察知して避けられてるのよね。フフッ…虫にも人にも避けられる人生だわ、アハハハハ!」

 

「星君を探してるなら、ゴン太も手伝うよ。」

 

「ありがとうっ!ふふっ…星君、なかなか目で捉えられないのよ…ぶふっ。ちょっとした野生動物並みだわっ…!」

 

「大丈夫!野生動物さんならゴン太は慣れてるよ!任せて!」

 

「あはははは!!ありがとう!さすがゴン太君ね!!じゃ、じゃぁっ、春ノ島を頼むわっ!」

 

(笑いが止まらなくなってしまったらしい三途河さんに手を振られ、ゴン太は春ノ島に入った。)

 

(星君は どこにいるかな?虫さんは どう思う?)

 

 

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【春ノ島 町エリア 洋服店】

 

(洋服屋さんを覗いてみた。中には平君と桐崎さん、虎林さんがいた。)

 

「やあ、ベイビー。ちょうど靴のサイズを測らせてもらいたかったんだよ。」

 

「えっ。ゴン太先生、靴履いちゃうんですか!?裸足の大将的なアイデンティティだったのでは?」

 

「えー、そうだったの?履かない主義みたいな?」

 

「えぇと…ゴン太は ずっと裸足だったから。」

 

「それもベイビーの素敵なところだね。ここなら似つかわしいよ。けど、都会なら紳士には革靴が似つかわしい。適した格好は紳士の第一歩さ。」

 

「うん、分かったよ!」

 

「では、シルクハットなぞ被って、ナゾに挑まれては どうですか!?英国紳士としては!」

 

「うーん、確かに近代の紳士には好まれていた装いだけど…現代では浮いてしまうね。」

 

「ゴン太は靴なんだねー!アタシも新しく服を作ってもらうんだー。軽くて薄くて丈夫で揮発性よくて着てるだけで凝りや筋肉の炎症に効くスポーツウェア!」

 

「お安い御用さ。」

 

「お安いでしょうか。火鼠の皮衣レベルの無理難題では?」

 

「桐崎さんにも新しくアウターを贈ろうか?キミの服は…キミ用のものじゃないみたいだし。」

 

「え?いえ、大丈夫です。気に入ってるんで。」

 

「そうかい?そういえばゴン太君、何か探し物かな?外でキョロキョロしていたようだけど。」

 

「あ、そうだ。星君を見なかった?」

 

「星?いないの?」

 

「三途河さんが探してたんだ。」

 

「天文学者と星先生…アストロボーイミーツガールって感じですね。ちなみに、ボクはアストロボーイと聞くと宇宙飛行士やロボットを思い浮かべます。」

 

「桐崎、話めちゃくちゃ脱線してるよー。」

 

「虎林先生に言われると…辛いものがありますね…。」

 

「それで、三途河さんは どうして星君を探しているんだい?」

 

「そういえば…何でだろう?三途河さんは『面倒事』って言ってたけど…。」

 

「何だろ?星にしかできないこと?素速い動きが必要なのかな?」

 

「それか、星君の人柄を買って…かもしれないね。実は、彼は面倒見がいいと思うんだ。」

 

「確かに…お父さん感ありますよね。クラスメイト主催のショーの買い出しとかしてくれそうです。」

 

(3人は星君の居場所を あれこれ考えてくれたけれど、結局 思い当たるところはなかったみたいだった。)

 

「少なくとも、町エリアでは見ていないよ。ベイビー。」

 

(そのまま靴のサイズを測りたいという平君に、ゴン太は「後でお願いするね」と答えて町エリアを出た。)

 

 

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【春ノ島 自然エリア 桜神社】

 

(自然エリアの神社に来た。そこには、伊豆野さんとイーストック君がいた。レジャーシートの上に お弁当箱を広げている。)

 

「あ、ゴン太さ。見てくろ、蔵田さが花見用に詰めてくれただ。」

 

「貴殿も共に食べようではないか。」

 

「わあ、すごい。でも、変わった料理が多いね。」

 

「アボカド醤油で大トロ、プリン醤油でウニ、エリンギにチーズ醤油でホタテと同じ味だべ。海鮮 食べてぇ言ったら、そっくりの味のモン出すてくれただ。」

 

「なぜか冷蔵庫に海の幸がないそうだ。錯覚レシピと侮るなかれ、美食家の調整は伊達じゃない。」

 

「魚じゃないもので魚の味を作るってこと?す、すごいや!」

 

「げにげに。特に、卵は優秀らしい。柔らかくも固くも、どんな形にもなる玉子料理は擬態が上手いとのこと。」

 

「上手くて美味い。最高だべ。しかも、こったら綺麗ぇな桜を見ながらならチョベリグーだべ!」

 

「ちょ…ちょべりぐー?」

 

「しかし…この桜や建物の具合から、ここが無人島になった時期が分かるだろう。」

 

「え?そうなの?」

 

「左様。ソメイヨシノは自生することはなく、接木で増える。そして、寿命は長くて80年ほど。」

 

「建物も古くねぇし、ここは少なくとも80年前は無人島でねかったっちことだな。」

 

「その通り。…まあ、これが分かったところで、脱出の手立てにはならんが。」

 

「そっか…。」

 

(少し落ち込んだ雰囲気になったので、ゴン太は話題を変えた。)

 

「あのさ!2人とも、星君を見なかった?」

 

「星さ?見てねぇな。」

 

「彼に何用か?」

 

「三途河さんが探してたんだ。」

 

「少なくとも、ここには来てねーべ。」

 

(2人は、それから お弁当を勧めてくれたけれど、ゴン太は先に星君を探すために自然エリアの南側へ向かった。)

 

 

 

【春ノ島 自然エリア 花畑】

 

(ゴン太が花畑に着くと、木の近くに火野君と蔵田さんがいるのが見えた。)

 

「おい…本当にやるのか?」

 

「砂糖はある。…けど、食堂にハチミツがないから。」

 

(火野君は枯れ木を集めた場所に立っていて、手には火をつける道具を持っている。その少し離れたところにはーー…)

 

「2人とも、止めて!!」

 

「どわっ!?」

 

(ゴン太は思わず大きな声を上げた。)

 

「そこには蜂さんが住んでるんだ!こんな所で火をつけたら、煙で蜂さんが死んじゃうよ!!」

 

「ゴ、ゴン太…!」

 

「……。」

 

「2人とも、蜂さんが嫌いなの!?」

 

(ゴン太が2人に必死で尋ねると、火野君が慌てた声で言った。)

 

「だ、大丈夫だよ。ちょーっとハチミツもらおうとしただけだ。」

 

「え?ハチミツ?」

 

「メロン味のメロンパンが食べたい人がいる。…けど、この島にメロンはない。…のでキュウリにハチミツで味を調整する。」

 

「なんだ、じゃあ、蜂さんに頼んでみるよ!」

 

(良かった…。2人が蜂さんを殺してしまうところだった。)

 

(2人ともゴン太を見ながら青い顔をしているのが不思議だったけど、とりあえずゴン太は蜂さんの巣に近付いた。)

 

……

「どうだった?」

 

「虫さん。…と、話せた?」

 

「うん!少しだけだけど、分けてもらえるよ!」

 

「すっげー!本気で虫と話せんだな!!」

 

「でも、ここの蜂さんはトリカブトの花の蜜も採ってるかもしれないんだよね?」

 

「えェ!?それって、毒だよな?じゃ、食えねェじゃん!」

 

「舐めれば分かる。…から、大丈夫。」

 

「あ、危ないよ!」

 

「大丈夫。…それより、あなたは何か探してた?」

 

「あ、そうだ。星君 見てないかな?」

 

「星?見てねェ。春ノ島にいるのか?」

 

「それは…分からないんだけど。」

 

「もうすぐ ご飯の時間。…なので、食堂に行けば会える。…はず。」

 

「あ、そういえば そうだね!」

 

(蜂さんにハチミツを分けてもらい、2人と別れた。)

 

 

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(結局、星君を見つけることはできなかった。蔵田さんの言う通り、食堂に行けば会えるよね。)

 

 

 

【本島南エリア 寄宿舎 食堂】

 

(食堂に入ると、星君と三途河さんがいた。)

 

「あ、三途河さん。星君を見つけたんだね。」

 

「あ、ゴン太君。ありがとね。食堂で張ってればって気が付いて…案の定、飛んで火に入る夏の虫だったわ。」

 

「虫さん?星君じゃなくて??」

 

「ブフォァ!そうね…!飛んで火に入る夏の星だわ…ッ!!」

 

「…やれやれ。それで?三途河、俺に頼みってのは何のことだ?」

 

「あ、そうそう。星君には、私のアシスタントを お願いしたかったのよ。」

 

「アシスタント?」

 

「ええ。春ノ島にシアターがあったでしょう?あそこの設備、プラネタリウムの射影機もあるのよ。みんなで星の展覧会でもしたいなと思ってね。」

 

「この前みたいに、みんなで お星様を見るんだね!素敵だと思うよ!」

 

「ふふっ。そこで、星君を助手に迎え、展覧会を手伝ってもらいたいのよ。ふっ、ふははははっ!!」

 

「……何で笑ってるのか、それと何で俺なのか聞かせてくれ。」

 

「だって貴方、”星”君でしょ?」

 

「………。」

 

「……。」

 

「…。」

 

(なぜか分からないけど、一瞬その場が とても静かになった。その後、すぐに三途河さんが大笑いしたので、また賑やかになった。)

 

「ぐふっふふ、無理よねぇ!こんな理由じゃっ!あははははっ!」

 

「いや…。」

 

「どうかしたの?」

 

(星君の顔が いつもと違う気がして、思わずゴン太が聞いた。)

 

「大したことじゃねーさ。」

 

「……そっか。」

 

(星君…そっぽを向いちゃった。困らせちゃったかな。)

 

(そんなことを考えていると、星君が言った。)

 

「…そんな顔するな。本当に、大したことじゃねぇ。」

 

「大したことないなら、話してもいいわよね?こんな島で幽閉されてるんだもの。相互理解のために話して欲しいわ。」

 

「……。」

 

「『星が好きだから』という理由で…テニスプレイヤーだった俺に注目した男がいたって噂…」

 

「それを思い出しただけだ。…そいつもテニスをしていたらしいが、対戦する機会はなかったな。」

 

「あら。これから対戦する可能性があるかもしれないわね。」

 

「……それはねーな。」

 

(三途河さんの言葉に星君は短く言った。なんとなく声のトーンに元気がない。)

 

(そういえば、自己紹介の時も星君は元・超高校級のテニスプレイヤーだと言ってた。もうテニスをしていないのかな?)

 

(もしかしたら、病気やケガがあるのかもしれない。)

 

「ごめんなさい、あまり触れて欲しくないことなのね。」

 

「!」

 

(思わず聞きそうになったゴン太の前に三途河さんが言ったので、ゴン太は思わず口を抑えた。)

 

(そうだよね。聞かれたくないこともあるはずだよ。)

 

(ゴン太だって…両親について話す時、嘘をつかなくちゃいけなくて、それが嫌だと思うことも多い。)

 

(しばらくゴン太は口を抑えたまま、星君は俯いたままだった。そんな中、)

 

「ぷ、あははははは!!女3人寄れば かしましいって言うけど、女1人と男2人じゃ とっても静かね!ぐははははは!」

 

「いや…あんた1人で十分かしましい。」

 

「げーらげらげらげら!」

 

(いつものように笑う三途河さん。しばらくして笑い声が止まった。)

 

「私、みんなにも笑って欲しいわ。みんなの笑顔を守りたくて、夜空の鑑賞会やプラネタリウムを開催するの。」

 

(いつもより控えめに彼女は笑って呟いた。)

 

「星君の笑顔も見たいと思って お願いしたんだけど…余計なことだったわね。ごめんなさい。忘れてちょうだい。」

 

「……構わねーさ。」

 

「ありがとう。アシスタントは他で探すわ。」

 

「……構わねーっていうのは、手伝いのことだ。」

 

「えっ。」

 

(ゴン太と三途河さんが星君の方を見ると、彼は小さく笑っていた。)

 

「プラネタリウム開くんだろ。手伝わねー理由はねーさ。」

 

「あら。」

 

「良かったね、三途河さん!ゴン太も手伝うよ!」

 

「ありがとう。ふふっ。じゃあ、ゴン太君はアシスタント2号さんね。ふふふっあはは、ぐわーはっはっは!」

 

「その悪党みたいな笑い方は どうにかならねーのか。」

 

「ゴン太は とても大きい声でいいと思うよ!」

 

「ぶほーっ!!あは、はは!ひひひひひ!」

 

「……やれやれだな。」

 

(2人と明日の約束をして、食堂に人が集まるのを待った。)

 

 

 

【本島南エリア 寄宿舎 獄原の個室】

 

(あれから、食堂に華椿さん以外のみんなが集まり、ご飯を食べた。)

 

(やっぱり華椿さんは来なかったな。プラネタリウムに誘えば、来てくれるかな。)

 

(そんなことを考えながら、ゴン太はベッドの上で目を閉じた。)

 

 

 

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