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第一章 絶望ポケット(非)日常編Ⅱ

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝が来た。身支度を整えて部屋の扉を開ける。)

 

「おはよう、蘭太郎クン。」

 

「哀染君、おはようございます。」

 

(哀染君はこんな時でもアイドルらしい爽やかな笑顔で笑っている。さすが”超高校級のアイドル”だ。)

 

(一緒に家を出たところで哀染君が小首を傾げた。)

 

「あれ?つむぎは直接給食室に行ったのかな?昨日『明日は野球しようぜって言う』と約束したのに。」

 

(あれは約束だったのか…。)

 

「そうっすね。昨日は朝食をみんなでとるって伝えに来てくれただけっすから。とりあえず給食室に行くっすか。」

 

 

 

【小学校1階 給食室】

 

「おはようございますっす。」

 

(給食室の扉を開けると、昨日と同じく”超高校級”の面々がすでに集まっていた。)

 

「…?つむぎが来てないね。」

 

「永本くんもいませんよ。」

 

(昨日この時間にはすでにいた永本君、俺たちと来ていた白銀さんが今日はまだいない。)

 

(…まだ8時30分だ。でも、こんな状況で来ていないのは気になるな…。どうする?)

 

 

 もう少し待つ。

 探しに行く。

 

 

 

(もう少し待てば来るだろう…。)

 

「永本って誰だよ?」

 

「永本 圭。謎の才能を内に秘めたオブザーバー。」

 

「ダブっとしたB系なカッコした男子だよ。」

 

「あ?才能を思い出せねえって言ってた地味ヤローか?で、つむぎって誰だ!?」

 

「白銀 つむぎだよ。」

 

「メガネをかけたフワフワ柔らかそうな人です!」

 

「そうそう。背が高くてフワフワかわい〜お姉ちゃんだよ。」

 

「あなたが”デカメガネ”、なんて呼び方をしていた人ねぇ。」

 

(郷田君は永本君と白銀さんの情報を聞いて勢い良く立ち上がる。そして。)

 

「クソがっ!地味ーズがいねーのかよコンチクショウ!テメーら先食っとけ!」

 

(呆気に取られるみんなを背に、彼は給食室を出て行く。俺も彼の後に続いた。)

 

 

小学校 校門へ

 

 

 

「俺、ちょっと探して来るっす。みなさんは先に食べててください。」

 

「オレも行く。」

 

(俺に続いて数名が立ち上がりかけたが、郷田君が発した声にみんな座り直した。)

 

(2人で給食室を出た時、郷田君は言った。)

 

「永本つむぎってヤツを探し出せばいいんだな?」

 

「……白銀 つむぎさんと永本 圭君っすよ。白銀さんはメガネをかけた”超高校級のコスプレイヤー”。永本君は才能が思い出せないと言ってた人っす。」

 

 

小学校 校門へ

 

 

 

【小学校 校門前】

 

「郷田君、とりあえず俺は白銀さんの宿舎を見て来るっす。キミは”出木杉家“の永本君の部屋を見て来てほしいっす。」

 

(郷田君に言うと、悪態を吐きながら彼は走り出した。その姿は あっという間に見えなくなった。)

 

(嫌な予感がした。昨日 音楽室で見つけた砲丸のせいだ。”誰かがコロシアイに乗ろうとしている”。そんな不安が頭の中にずっとある。)

 

 

(全速力で道を駆け抜ける。曲がり角に差し掛かったところでーー)

 

「うおっ!?あ、天海!?」

 

(永本君にぶつかりそうになった。彼は耳に付けていたヘッドホンを外して目を丸くしていた。)

 

「な、永本君、何してるんすかこんなところで。」

 

「いや、朝早くに目が覚めちまったから散歩だよ。」

 

「朝のアナウンスが聞こえなかったんすか?もう8時半っすよ。」

 

「えっ?マジか!このイヤホン、ノイズキャンセラー付きなんだな。全然気が付かなかった。」

 

(自分の首に引っ掛けていたイヤホンをしげしげと見つめる永本君。)

 

「音楽を聴く媒体持ってるんすか?」

 

「いや、持ってねーよ。何となく付けて歩いてただけだ。」

 

「そうっすか。それより、白銀さんを見ませんでしたか?」

 

「白銀?見てねーよ。何だ?いないのか?」

 

「はい。キミたち2人が遅いから、郷田君と俺で探しに来たんすよ。郷田君は”出木杉家”にキミを探しに向かったっす。」

 

「ゲッ、アイツもオレら探してんのか…。天海、オレは郷田呼びに行くから白銀 頼む。」

 

(永本君は少し苦い顔をしてから、走り出した。俺も彼に了解の意を示して、再び走った。)

 

 

 

【東エリア “源家”前】

 

(家の前までやって来た俺はインターホンを鳴らした。)

 

…………

……

(出て来ない…。)

 

(ドアノブを回したが鍵がかかっている。)

 

「白銀さん!」

 

(声を張り上げても、返事はなかった。まさか。まさか…。)

 

(ふと、小さく水音がすることに気が付いた。この時、冷静に考えれば良かったのかもしれない。)

 

(俺は音のする庭側へ回り、音源の部屋と思われるすりガラスの窓を勢いよく開けてしまった。)

 

(ザアアと、日常的に聞いてきたシャワーの音が大きくなり、俺の目に飛び込んで来たのは…。)

 

「え!?あ、天海君!?」

 

(一糸まとわぬ白銀さんと目が合った。)

 

(俺は「すみません」と叫びながら、慌てて窓を閉めた。)

 

 

「………。」

 

(冷静に考えればすぐシャワーの音だと分かったはずだ。この異常な状況で判断能力がバグってしまったに違いない。)

 

(白銀さんの裸を完全に見てしまった。)

 

「………?」

 

(白銀さんの眼鏡をかけていない姿に既視感がある。…誰かに似てるのか…?)

 

(白銀さんの素顔を思い出して浮かんだ考えは、彼女の存在感のある双丘まで思い出したことで掻き消えた。)

 

 

「天海君、顔上げてよ。事故だよ、事故。わたしも窓の鍵かけてなかったの悪かったし。」

 

(深々と頭を下げる俺に、白銀さんが言った。彼女は俺を咎める気はないらしい。)

 

(……が、のぞきはれっきとした犯罪だ。男のロマンなどと軽い気持ちでするヤツの気が知れない。)

 

「いえ…俺の不注意っす。殴ってくれてもいいぐらいっす。」

 

「もー、大丈夫だってば。むしろコスプレもメイクもしてなくて、お目汚し失礼しましたレベルだから。」

 

「どこがお目汚しなんすか。今まで見たことないくらい綺麗な胸だったっす。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「やっぱり、ちょっと殴ってもいいかな?」

 

「………はい。」

 

 

「………。」

 

(小学校に行くまでの道中は気まずいものだった。)

 

(白銀さんは俺の頰を全く痛くない程度にペチンと叩いて「これでおあいこ」と笑っていた。が、どう見ても彼女の顔色は悪い。)

 

「白銀さん…今日は顔色が良くないっすね?」

 

「え?…そんなことないよ?」

 

「……。」

 

「……。」

 

「…白銀さん。やっぱりコスプレってアニメのキャラクターをするんすか?」

 

「えっ?天海君、興味ある?好きなキャラクターいるとか!?なりたいキャラクターがいたりする!??」

 

(俺が質問した途端、白銀さんの顔に一気に赤が差す。そして彼女は早口で俺に詰め寄って来た。)

 

「天海君って顔立ち整ってるし、スタイルも良いし、色々着てほしい服あるんだよね!

 

「そんな場合じゃないから言えなかったけど、もしコスプレしてみたい気持ちが少しでも湧いたら言ってよ!全力でプロデュースするからさ!!」

 

「あはは、その時はよろしく頼むっす。それより、白銀さんの”超高校級のコスプレイヤー”の話を聞きたいっすね。」

 

「えっ、わたしの話なんて地味だよ?赤ちゃんパンダ初公開くらいしか人は集まらないよ!」

 

「すごい人気じゃないっすか。」

 

「そうかなぁ。ただ好きでやってたらいつの間にか”超高校級”が付いてたって感じかな。これは天海君と同じだね。」

 

「そうっすね。」

 

「でも、まだ目標は遠いんだ。”コスプレの域を出ないコスプレ”から、”コスプレを越えた完全再現“。これがわたしのコスプレイヤー人生をかけた挑戦だよ。」

 

(白銀さんが綺麗に微笑んだ。)

 

「天海君にもあるんでしょ?そういう目標。」

 

「そうっすね。…俺にも、すべきことがあるっす。」

 

「じゃあ、早く脱出法を見つけて、この町から出ないとね。」

 

(白銀さんが握った拳を掲げる。俺も笑って頷いた。)

 

(小学校の前まで来た時、永本君と郷田君が向こうから小走りにやって来て俺たちは揃って小学校の中に入った。)

 

 

 

【小学校1階 給食室】

 

(給食室の扉を開けると、集まっていた面々が一斉にこちらに視線を向けた。)

 

「あ…良かった。白銀さんも永本くんも無事でしたか。」

 

(山門さんが息をつくが、給食室の雰囲気は緊張感のあるものだった。その理由はおそらく、給食室の中央で仁王立ちしているモノクマによるものだろう。)

 

「やっとみんな揃ったね。では、お待ちかね、コロシアイの動機を発表しまーす!」

 

「コロシアイの…」

 

「…動機?」

 

「そうだよ!オマエラが仲良く探索してるのも見飽きてきたからね。仲良しこよしなオマエラにスペシャルな”殺しの動機”を用意しましたー!」

 

(俺たちの緊張感など無視して、高らかに宣言するモノクマ。)

 

「な、な、なんと!初回の学級裁判で勝利したクロには、もう1人シロの中から選んで一緒に卒業する権利をあげちゃうよ!」

 

「……なに、それ……。」

 

「つまり、誰かと一緒に町を出たいなら、他の誰かをバレないように殺してねってこと!他のみんなは死んじゃうけど、大好きな人と自分だけは生きて町を出られるんです!」

 

「お得でしょ?今回だけだよ?次回からはこんなサービスないからね!」

 

(……モノクマが汚い笑い声を上げる。そしてサービス精神について講釈を垂れ流した後、立ち去った。)

 

 

「…クソがッ!そんなモンで人殺しをするとでも思ってんのかよ!」

 

(……郷田君の吐き捨てるような声。それに我に返ったように、永本君が苦笑いした。)

 

「そう…だよな。コロシアイなんて起きるはずねーよ。」

 

(確かに、人を殺すような動機とは思えない。…が、ひとつ懸念事項が生まれてしまった。)

 

(この動機によって “ある事” が可能になってしまう。クロが完全に有利になる “ある事” が。)

 

(何人かはそれに気が付いているだろうが、あえて口に出す人はいなかった。)

 

「……うん、そうだよね。わたしたちみんなで外に出ればいいんだし。コロシアイなんて絶対始まることないよ。」

 

(白銀さんの言葉を聞いてか、他のみんなも口々に楽観的な意見を述べた。そんな時。)

 

「でも、でもさ…もし”コロシアイ”が始められるなら…1番始めの犯人が1番有利…だよね…」

 

「ああ!?この白黒オトコオンナは何言ってやがる!?」

 

「だ、だって…学級裁判1回目の正答率は、単純計算で 1/15…もし2回目があったら1/13…。」

 

「僕らが犯人を当てる確率は段々高くなるんだよ…?犯人になるなら1回目が1番有利…でしょ?」

 

(佐藤君の言葉にまた給食室は静まり返った。…こんな状況の話をどこかで聞いたことがある。『囚人のジレンマ』と言ったか。)

 

「そ、それに…誰かがもう殺しを目論んでいるかもーー」

 

「…とにかく、みんなで協力した方が絶対に良いんすから。全員で欠けることなく、この町から脱出しましょう。」

 

 

(俺が言い終わった瞬間、先ほど消えたはずのモノクマが再び現れた。)

 

「わあ!?また出た!」

 

「おや?また声出ちゃったね?声ガマンできないようだね?」

 

「テメー、今度は何の用だ!?」

 

「言い忘れてたんだけど…オマエラが勝手に校庭の体育倉庫に鍵かけちゃったから、ちょっと校則を追加しようと思ってね。」

 

「これから体育倉庫みたいに どこかを立入禁止にするの禁止!」

 

「ややこしい言い方だな。」

 

「オマエラ、どうせこの隣の調理室も封鎖しようとか考えてたんだろ?」

 

「グッ!?」

 

「せっかく使いやすそうな包丁アーミーナイフ鎌ナタなどなど用意したんだから封鎖されたら困るんだよ。じゃ、それを言いたかっただけだから。」

 

(キッチンにあるべきじゃないものまで羅列したモノクマは、間延びした声を残してまた姿を消した。)

 

 

(しばらく、静寂が周囲を支配した。そんな中。)

 

「えっと、何でみんなそんな暗いの?昨日とやること変わんないでしょ?」

 

(暗い雰囲気の中で、明るい声を出したのは呪術師の祝里さんだった。)

 

「難しいことは分かんないけど、とにかくまた町中調べて脱出すればいいんだよね?今まで見つからなかったんだから、今日こそ絶対見つかるよねー!」

 

「よくぞ言うた、祝里 栞!我々はまだ希望を捨てるべきではないのだよ!」

 

「あ…。そ、そうだよね!2人の言う通りだよ!」

 

(アイコさんと白銀さんが同調すると、みんなも少し緊張を緩めたようだった。)

 

(彼女たちのおかげでいつも通りの空気が戻る。俺たちは中断されていた朝食会を進めることになった。)

 

 

「妹尾サン、野菜が苦手?赤いのこわい?丸いが嫌い?」

 

「えっと…うん、どうしても食べれないんだ。」

 

「ボクはピエロじゃないけれど、赤鼻ないと悲しいの。ボクにそのちっちゃな赤い実くださいな。」

 

「ゴラァ!ピエロ!甘やかすな!!」

 

「ピエロじゃないってば。」

 

「ふふ、賑やかですね。妹尾さん、野菜は全部食べた方が体にいいですよ。」

 

「野菜なくても強いにナル大きいにナル薬アルよ。買いマスか?」

 

「あ、けいも残してんじゃん!全部食べな!おっきくなれないぞ!?」

 

「オレはそこまでチビじゃねーからいんだよ…。」

 

「ダメだよ!頂くものは残さずに!私の故郷じゃ、これを破ったら極刑だったよ!さあ、さあさあ食べな!」

 

「うるせーな…食えばいいんだろ…。」

 

「明日も明後日も残したらダメだよ?見とくからね?」

 

「げー、おせっかいだなお前…。」

 

「野菜食べナイでも筋肉隆々ナル強くナレル薬あるデスよ!買うアルよ!」

 

「やっぱりアルアル中国娘はいいなぁ…。」

 

(さっきまでの沈んだ雰囲気とはうって変わって、ワイワイと賑やかな朝食会だった。彼らと別の場所で出会えていたら、より楽しいものになっただろう。)

 

(ーーいや、ここから出て、みんなと会えば何も問題はないんだ。)

 

(俺たちはまた散り散りに調査を進めることにした。今日は町の隅々まで調べよう。絶対に脱出口を見つけてやる。)

 

 

 東エリアから調べよう

 西エリアを調べよう

全部調べたな

 

 

 

【町 西エリア】

 

(西エリアの道や家々、通行止めになっている場所を調べた。)

 

(…が、全く脱出の手がかりになるものは見つけられなかった。)

 

(……ん?)

 

(ある一軒家の犬小屋の中に、光る物を見つけた。)

 

(中にはもちろん、犬はいない。代わりに入っていたのは、包丁だった。)

 

(…誰かが調理室から持って来たのか?)

 

(今持ち歩くわけにはいかない…が、このままにしておくのはまずいだろう。タイミングを見て調理室に戻しておこう。)

 

 

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【町 東エリア】

 

「……」

 

「木野さん。」

 

(町の一画の住宅で化学者の木野さんが外付けのゴミ箱を見ていた。)

 

「何か見つかったっすか?」

 

「……これ。」

 

(木野さんが指差す先はゴミ箱の中。体育倉庫にあったボーガンが入っていた。)

 

「これは…。体育倉庫にあったものっすね。あそこは昨日封鎖されたはずっすが…。」

 

「誰かが入れたのかも…。」

 

「……。」

 

(昨日音楽室で見つけた砲丸が脳裏に浮かぶーーいや、こうして疑心暗鬼に陥らせるモノクマの罠だ。)

 

(昨日入れないようにした体育倉庫は今日も鎖で施錠されたままだ。郷田君たちの話によると、確かに鍵は川に捨てたらしい。)

 

(それなら、このボーガンは昨日以前に隠されたということだ。)

 

「……天海さん。」

 

「何すか?」

 

「ここは私1人でいい。…あっち行って。」

 

「あ、はい…。分かったっす。」

 

(木野さんは眠そうな目で家の庭へ入って行った。)

 

(その後の調査での収穫は、ボーガンと同じように町中に鈍器が隠されているのを発見したぐらいだ。)

 

 

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【町 南エリア】

 

「おーい、らんたろー!」

 

(調べながら道を行く俺に、祝里さんが小走りに寄って来た。)

 

「何か見つかった?あたし探し物とか苦手でさー。頭も悪いし何していいか分かんないんだよね。」

 

「良かったら一緒に調べるっすか?」

 

「おー、サンキュー!助かるよ!」

 

(相変わらず”呪術師”という肩書きとは真逆の笑顔で祝里さんは笑った。)

 

「霊能力で探し物を見つける…というのを見たことあるんすが、祝里さんはそういうことはないんすか?」

 

「えー!何それめっちゃ便利じゃん!あたしも習得したい!」

 

(…できないのか。)

 

「あたしは まじない専門だよ。誰かのために気休めレベルの”おまじない”をするの。風水とかに詳しいだけで、超能力者みたいな能力ないんだよ。」

 

「そうなんすか。」

 

「らんたろー、もしかしてあたしが呪術で空を自由に飛んだり、世界旅行に行ったりすると思ってた?ぶふー!」

 

(思ってないけど…。)

 

「今 22世紀だよ!?科学の時代にそんなメルヘン信じてるなんて、結構可愛いんじゃん!?」

 

「…今 22世紀じゃないっすけどね。」

 

(何がそんなに面白いのか、ツボに入ってしまったらしい祝里さんの笑いはしばらく止まることはなかった。)

 

 

 

【小学校 校門前】

 

(結局、脱出の手がかりとなるものは見つからなかった。)

 

(発見といえば、体育倉庫にあった物騒なものや、調理室の包丁やナイフなどがいたるところに隠されていたことくらいだ。)

 

「らんたろー、そう気を落とさないでよ。今日見つかんなかったなら、明日見つければいいんだからさー。」

 

「…そうっすね。」

 

(祝里さんが楽観的に笑うが、俺にはそう上手く行くとは思えなかった。『見つからないのなら、ないのではないか。』そんな考えに頭が支配されそうだ。)

 

(そのまま給食室へ向かう祝里さんと別れ、俺はもう一度小学校内の探索を始めた。)

 

(夕日の赤い光が窓から校舎に差し込んでいる。状況を考えなければ、美しいと思える夕暮れ時だった。)

 

 

 

【小学校3階 教室前】

 

(俺の足は とある教室の前で止まった。教室のドアが開いていて、中の人の横顔が見てとれたからだ。)

 

(教室の窓から夕日を見つめる白銀さん。眼鏡を外したその瞳が濡れて光っている。まるで、一枚の絵のようだった。)

 

(泣いているんだろうか…。)

 

(無理もない。こんな状況だ。心細くて仕方がないだろう。)

 

(何とかしてあげたい。力になりたい。そう思った。ーーが。)

 

 

「あ、天海君。」

 

(眼鏡をかけ直しこちらを見た白銀さんは、泣いてなどいなかった。光がそう見せていただけかもしれない。それでも、白銀さんの顔色が悪いのはよく分かる。)

 

「白銀さん、今朝から顔色が悪いっすよ。」

 

「そう…かな?嫁入り前の体を見られちゃったから?」

 

「……すみません。」

 

「冗談冗談!本気にしないで!…昨日あんまり寝られなかったから、そのせいだよ。」

 

「そうっすか…。」

 

「……。」

 

「天海君って、良い意味で”超高校級”っぽくないよね。」

 

「え?」

 

「あ、良い意味だよ?良い意味で。」

 

「連呼しなくても大丈夫っすよ。」

 

「地味なわたしでも親しみ湧くっていうか…。天海君といると落ち着くっていうか。」

 

「……それは、言われた本人は落ち着かねーっすね。」

 

「あ、ごめん。変な意味じゃないよ?たぶん他のみんなが色々 強いから…。」

 

「みんな、素人キャラデザにありがちな『個性テキトーに爆発させとけ!』みたいな感じだからかな?」

 

「まあ、お互いに普通の人同士っていう感じすかね?あ、これも悪い意味じゃないんで、誤解しないで欲しいっす」

 

「あはは、分かってるよ。」

 

(それから、しばらく2人で何を言うでもなく沈む夕日を見ていた。辺りが暗くなった頃、白銀さんが静かな声で言った。)

 

「天海君はさ、色んな世界を見て来たんだよね。」

 

「そうっすね。豊かな国も、そうでない国も。」

 

「もし…もしさ、世界よりも、もっと違う世界があったら…行ってみたいと思う?」

 

「?…どういうーー」

 

(質問の意味が分からず、問いかけようとした時、高い声が教室内に響いた。)

 

「こんなところにいたぁ!お兄ちゃんたち!何ヌルヌルやってるのぉ!」

 

「ノロノロの間違いでは?」

 

「晩ご飯の時間だよ!みんなもう給食室に集まってるんだからぁ!」

 

(妹尾さんが手前にいた俺の左手を引いて給食室まで歩き出す。白銀さんも慌ててついて来た。)

 

 

 

【東エリア “野比家”】

 

(夕食の場でそれぞれが探索の結果を報告したが、結局みんな脱出の手がかりを見つけられなかったことを知っただけに終わった。)

 

(いつまで、ここにいなければいけないんだ…。)

 

(妹たちの無事も分かっていないのに…。)

 

(そんなことを考えていると、眠れそうになかった。もう一度シャワーでも浴びようと部屋を出ると、ちょうど家のドアがバタンと閉まるところだった。)

 

(……?哀染君がどこかに行ったのか?)

 

(家を出ると哀染君の後ろ姿が見えた。)

 

 

 

【東エリア “源家” 前】

 

(哀染君の後を追うと、白銀さんの宿舎である一軒家に辿り着いた。哀染君がドアをノックすると、白銀さんが彼を出迎えて2人は家の中に入って行く。)

 

(……2人は親密な関係なのか?)

 

(俺は物陰から家のドアが再び開かれるのをじっと待った。)

 

(単に2人が付き合っているというなら、ここを離れるべきだ。…けれど、どこかに不安が付きまとう。夜中に2人きり。これは、コロシアイの要素に十分なり得る。)

 

(嫌な汗が背中を伝う。家に近づこうと足を踏み出したところで。)

 

「それじゃあ、また明日ね。」

 

「うん…また、明日。」

 

(20分ほどで2人が出て来た。ホッと一息つき、哀染君に見つからないように、速い速度で家路を急ぐ。)

 

 

 

【東エリア “野比家”】

 

(何だったんだ…?2人は、何をしていたんだろう。)

 

(2人が並び立つ姿を思い出すと、なぜか釈然としない気持ちが沸き上がってくる。)

 

(俺はなるべく考えないように、布団を頭から被ってきつく瞼を閉じた。)

 

 

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のチャイムの音に跳ね起きる。どうやら、眠れない眠れないと思っていたが、途中意識を失っていたらしい。)

 

(自室のドアを開ける。哀染君の部屋からゴソゴソと音がしているので、恐らく身支度を整えているのだろう。)

 

(俺は廊下で少し待つことにした。)

 

「あ…、」

 

「哀染君、おはようございます。」

 

(10分ほどで哀染君は出て来た。何かを言いかけた彼は口を閉じ、続けて「おはよう。」と笑った。)

 

(けれど、いつもの爽やかさがあまり感じられない気がする。…昨日、何かあったのか?)

 

「哀染君、今日はあまり元気ないっすね。大丈夫っすか?」

 

「そんなことないよ。でも、ありがとう。蘭太郎君こそ、あまり眠れなかったみたいだね?」

 

「はは…お互い慣れない生活に体がついていってないみたいっすね。」

 

(俺は結局、昨日のことについて聞くことはできなかった。)

 

(昨日と同じように2人で並んで小学校へ向かう。)

 

 

 

【小学校1階 給食室】

 

「あ、お兄ちゃんたち、おはよう!遅いよぉ!」

 

(給食室に着くと、俺たちが最後だったらしい。妹尾さんが駆け寄って来た。腕を取られて彼女の隣の席に座る。)

 

「おはよう。今日はよく眠れた?」

 

(向かいの席の白銀さんに笑いかけられ、一瞬心臓が大げさに跳ねた。)

 

「…はい。まあまあっすね。白銀さんは今日顔色良いっすね。」

 

「うん。今日はよく眠れたから、元気だよ。」

 

(白銀さんの肌は昨日より血色が良い。…が、何だろう。白銀さんの様子…何だか変だ。)

 

「お兄ちゃんたち、ご飯冷めちゃうよ?モリモリ食べなきゃ!」

 

「いもこの言う通りだよ!今日もいっぱい探索すんだし、いっぱい食べなきゃね!」

 

「妹尾さん、今日は残さず食べたんですね。偉いですよ。」

 

「えへへ、山門お姉ちゃんは おばあちゃんみたいだねぇ。」

 

「……せめてお母さんみたいでありたかったです。」

 

「ほらほら、けいも野菜全部食べなよ。」

 

「……くっ、本当におせっかいな女だな、お前。」

 

 

「あ、あのね、今日はみんな、どこを調べるの…?僕…校門周辺を調べたいんだけど…。」

 

「オレは町だな。鏡の壁をもう一度調べる。」

 

「わたしは校内を見ておこうかな。」

 

「あたしは町を見るよ!」

 

「西エリアに何かあるある、きっとある。」

 

「自分も校外を見ようと思います。」

 

「あ、じゃあ こーたに ついてこっと!」

 

「ハヒィッ!祝里先パイ…!」

 

(みんなの顔にはいくらか疲れが見て取れるが、朝食会は和やかな雰囲気だった。)

 

(朝食を終え、調査のため散り散りに給食室を後にした。)

 

(俺は給食室の隅にあった巾着袋と布巾を手にして、給食室を出た。今日は西エリアから行くと決めていた。)

 

 

 

【町中 西エリア】

 

(西側の道を歩いていると、妹尾さんとぽぴぃ君が話していた。)

 

「野菜をたくさん食べたらスクスク大きくなれるかな…。」

 

「ノンノン!ボクは野菜もお肉もだーい好き!けれど伸びないシーン長。残念無念また来世!」

 

「ダメだよ、諦めたらそこでーーあ、蘭太郎お兄ちゃん。」

 

(何だか微笑ましい会話をしてたな。)

 

「2人とも、何か見つかったっすか?」

 

(俺が尋ねると、2人とも「あっ」というような顔をした。)

 

「そ、そうだよ。こんなことペチャペチャ話してる場合じゃないよ!」

 

(妹尾さんが慌てたように走り出したところで、俺は気付いた。)

 

「妹尾さん、パーカーが汚れてますよ。」

 

「え…?あ。」

 

(妹尾さんのパーカーのポケットが濡れている。丸く歪に膨らんでいるそれはーー)

 

「もしかして、朝食…全部食べたっていうのは嘘っすか?」

 

「えー?何のことぉ?ウッカリ分かんないっ!」

 

(彼女は可愛らしい笑顔を見せてすぐ行ってしまった。)

 

「仕方ないない。しょうがない。見なかったことにしにゃさんせ。」

 

 

(ぽぴぃ君が歌いながら立ち去るのを見送って、俺は昨日包丁を見つけた家へ向かった。犬小屋には、昨日と同じように包丁が置かれていた。)

 

(包丁を布巾で包んで、持って来た巾着袋に入れる。可能性が少なくても、これが原因で事件が起こるのは避けたい。)

 

(他の砲丸やらボーガンやらも、何とかすべきだろう。ーーみんなの不安を煽らない方法で。)

 

(とりあえず調理室へ包丁を戻すべく、小学校へと歩き出した。)

 

 

 

【小学校 校門前】

 

「あ、天海さん…?」

 

(小学校の校門を通ると、校門すぐのフェンスを調べている佐藤君が俺に気付いて立ち上がった。)

 

「佐藤君、何か見つかったっすか?」

 

「ううん、今のところ、何も。…天海さん、何を持ってるの?」

 

(……。まずいな…佐藤君は良くも悪くも心配性な性格らしいから…なるべく包丁のことは言いたくない。)

 

「いえ、大したもんじゃないっすよ。」

 

(何か言いたげな佐藤君に、俺は曖昧に笑って見せて、足早にその場を離れた。)

 

 

 

【小学校1階 玄関】

 

「天海。」

 

(小学校の玄関には永本君がいた。彼はヘッドホンを外して近づいて来る。視線は俺が持つ袋に注がれていた。)

 

「何か見つかったのか?」

 

「いえ、大したものは。ここはどうっすか。」

 

「いや、何も。もう少し調べたら場所を変えるかな。」

 

(すぐに俺の手元への興味はなくしたようで、永本君はまた玄関の棚へ視線を戻した。)

 

 

 

【小学校1階 調理室】

 

(調理室に包丁を戻して一息つく。)

 

(一体、いつまでこんな緊張状態が続くのだろう。)

 

(そんなことを考えていると、調理室のモニターに光が入りーー)

 

 

『死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます。』

 

(…………。)

 

(……何だ?今のは…。)

 

(”死体が発見された“?そう言ったのか?)

 

(そんな…まさか…。一体…誰が?)

 

(心臓が早鐘のように鳴っている。俺の足はアナウンスにあった教室へ向かった。)

 

 

 

【小学校3階 図書室】

 

(図書室に駆け込むと、松井君、夕神音さん、アイコさんの3人がいた。みんな一様に顔を青ざめさせて立ちすくんでいる。)

 

(その視線の先、鉄錆のような匂いの漂う中に、それはあった。)

 

(それは、白いシーツだったものだ。今その生地は真っ赤に染まり、元の色は見る影もない。そして、血の海に沈んだシーツから覗くウェーブがかった長い髪。)

 

(制服を真っ赤に染め、血の海に沈んだその長身。)

 

(白銀さんが、血塗れで倒れていた。)

 

「白銀さん!」

 

「待ちたまえ、天海君!」

 

(駆け寄り、思わず助け起こそうとしたところを、止められる。)

 

「天海君…白銀さんは…もう…」

 

(白銀さんの状態を改めて確認する。彼女の四肢は力なく投げ出されて、とても生命が宿っているようには見えない。何よりーー)

 

「うええ〜ん、ひどいよ、あんな顔がぐちゃぐちゃになるまで斬り刻むなんて、あんまりだよ!」

 

(捲れたシーツから覗く彼女の顔や体は無数の斬り傷によって汚されていた。制服や長い髪、眼鏡がなければ、彼女だと判別がつかないくらいに…。)

 

(今朝まで、笑っていた彼女が。どうして…。)

 

 

(言い知れぬ喪失感に襲われる。目の前が真っ暗になりかけたところで、悲痛な声が聞こえて我に返った。)

 

「……そん、な…。」

 

(いつの間にか周りに人が集まっていた。哀染君が白銀さんを見つめて掠れた声を上げる。)

 

「……ぅ」

 

「哀染くん、大丈夫ですか!?」

 

(嗚咽を呑み込むように口を押さえてよろけた哀染君を山門さんが支える。)

 

 

(…殺人が、ついに起こってしまった。本当に…。)

 

(白銀さんが…死んでしまった。誰かに…殺された。)

 

(足下から崩れ落ちていく日常。…けれど、絶望に沈んでいる暇など、俺たちに与えられてはいなかった。)

 

(モノクマが現れて不快な笑い声を出すのが、いやに遠くに聞こえた…。)

 

 

 

非日常編へ続く

 

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