コトダマリスト
被害者は”超高校級のコスプレイヤー”白銀 つむぎ。死体発見現場は小学校3階にある図書室。死亡推定時刻は午前10時〜11時頃。死因は後頭部の外傷。頭蓋骨の陥没骨折により即死。死亡後、ナイフによって全身を激しく損傷。
死体はナイフにより激しく損傷を受けている。特に顔は判別が付かないほどに損傷が激しい。
致命傷となった後頭部への一撃に使われた凶器。プロ用のもので7kg以上ある。2日目に封鎖された体育倉庫から運ばれたと思われる。
死体を激しく損傷させた小型ナイフ。刃の部分全体に血が付着している。
死体を包んでいたシーツ。血で染まり、ナイフの穴が無数に空いている。
白銀の手は血ではない液体とホコリで汚れていた。潰れた”何か”を握っていた。
佐藤は朝から小学校校門前にいた。朝からアナウンスまでに小学校を出入りしたのは天海のみ。アナウンスの後、小学校の外から中に入ったのは、祝里、木野、芥子、郷田、妹尾、前谷、山門、ローズと佐藤の9人。
モノクマの示した動機により、事件のクロの他に共犯者がいた可能性がある。
ノイズキャンセラー付きのヘッドホン。耳に つけていると外界の音がほぼ聞こえなくなる。
食品ロスを考慮して毎食前にその時 使う分ピッタリの材料だけ仕入れ、残り物が出ないようになっている。地球に優しいが食欲旺盛な高校生の腹に優しくない。
焼却炉で何かを燃やした跡がある。その他は一昨日と変わりはない。中庭を取り囲む外壁に穴が空いている箇所がある。
学級裁判 開廷
「えー、ではでは!最初に学級裁判の簡単なルールを説明しておきましょう!オマエラの中には殺人を犯したクロがいます。 」
「この学級裁判では”誰が犯人か”を議論し、その結果はオマエラの投票により決定されます。 正しいクロを指摘できればクロだけがおしおき。」
「もし間違った人物をクロとしてしまった場合は…」
「クロ以外の全員が おしおきされ、クロは晴れて卒業できます!それでは、張り切って…クレイジーマックスな学級裁判の開廷でーす!!」
(モノクマが楽しげに笑う。俺の左隣には、悪趣味な白銀さんの白黒写真が飾られている。)
(みんな裁判場の異様な雰囲気に呑まれて言葉を失っているようだった。俺はみんなの顔を見回して言った。)
「とにかく…まずは事件の整理から始めましょうか。」
「そう…ですね。事件について、改めて共有しておきましょう。」
ノンストップ議論1開始
「被害者は、白銀 つむぎ。”超高校級のコスプレイヤー”。死亡推定時刻は今朝10時から11時の間。」
「…アナウンスがあったのは、11時すぎ…。」
「私と松井君、アイコさんで図書室に行った時…発見したのよ。」
「みんなバラバラで探索してた時だよね。」
「ああ。デカメガネを滅多刺しにして殺したヤローがこの中にいるんだよな。さっさと出てきやがれ!!」
「あ?テメーふざけてんのか?メガネ女は殺されてんだぞ?マジメに考えやがれ。」
(しまった。違ったみたいだ。)
△back
「それは違うっす。」
「ああ?」
「白銀さんの死因は、現場に落ちていたボーリングの球っす。」
「撲殺された後、斬り刻まれたということだね。」
「ひどいわねぇ。一体 誰が…。」
「でもさー、さすがに死んじゃってても斬り刻んだりしたら血が飛ぶよね。血が付いてた人なんていなかったよ?」
「…本当に、この中に犯人がいるんですか?モノクマが犯人なのでは…。」
「校則にもあったでしょー!ボクは殺人に関与しません!!」
(犯行後、着替えに戻る時間は少ないし、状況的に難しい。犯人は返り血を防ぐために“あるもの”を使ったんだ。犯人が使ったものは…)
「純粋な疑問なんだけどさ、それで どうやって返り血を防ぐの?」
(しまった。違ったか…。)
△back
「現場にあったシーツっす。」
「ああ…白銀に掛けられてたヤツか。」
「ずいぶん犯人は用意周到なようだね。」
「ボールにナイフにシーツ。その他たくさん凶器の山。」
「校内だけじゃなく、町中に凶器が隠されていたよね…。」
「クソッ…!せっかく体育倉庫を封鎖したってのによ。誰だよ…!誰がやったんだ。」
「それを正直に話す犯人はいないよ。」
「凶器を隠した人が分かれば、犯人が分かるかな?」
「いるかな、いるかな?凶器を隠した人を見た人?」
「昼間は人目もありましたし…難しいのではないでしょうか。」
「犯人は夜 凶器を移動させたってことですね!?」
「夜 凶器を移動させた…そんな用意周到な犯人を見つけられるのか…?」
「みなさん、今日の動きを確認してもいいっすか?」
「俺は朝食後、町の西エリアを探索してたっす。その後、1度 小学校に戻って調理室を調べました。」
「オレは1人で町を見てた。」
「私はローズさんと町の東エリアを調査していました。」
「ヤマトナデシコの言うトオリ。」
「あたし、こーたと2人だったよ。ね、こーた。」
「ハヒィ…!自分は祝里先パイと一緒でした!」
「あたしは1人で町を見てたよ。町に出て すぐ、芥子お兄ちゃんと会ってお話して、その時 蘭太郎お兄ちゃんにも会ったよね。」
「そうそう!ボクも1人で行動さ!途中 妹尾さんと会ったのさ。」
「僕は夕神音さんと学校内を探索していたね。3階を調べていた時に血の匂いがして図書室へ行ったのだよ。」
「そうねぇ。松井君と私は一緒にいたわ。私たちが図書室に入ったら白銀さんが…亡くなっていたの。彼女を見つけてすぐ、あのアナウンスが鳴ったわ。」
「ぼ、僕は、朝食後から…ずっと校門前にいたよ…。」
「…私は1人で東エリアを見てた。」
「わたくしは1人で校舎を調べておりましたわ。中庭を見た後に校舎に入ったら夕神音さん達に お会いして、一緒に図書室に入りましたの。」
「オレも1人だったな。小学校校内を見てた。」
「…ぼくも小学校校内を調べてたよ。」
「小学校 調べてたのは、アイコとけい、レイ、れーのすけ、みく。その内 2人行動は…れーのすけと、みく。校門にいたのが、ここみ。」
「町歩きで2人行動は…あたしと、こーた。あと、なでしこと、ローズ。他はボッチだね。」
「おい!誰の話してやがんだテメーは!?会ったばっかのヤツの下の名前ペラペラ言われても分かんねーっつの!」
「うぷぷ。他の人も、きっと そう思ってるよねー。何なら上の名前も怪しいはずだよ。」
「だから分かりやすい名前と絵を付けたけど、本編でも、やっと3章後半で全員の名前が言えるレベルの弱小プレイヤーもいるからね。しょうがないね。」
「でも、これで犯人候補は絞られたんじゃないかしらぁ?」
(本当に…そうか?)
ノンストップ議論2開始
「今日の全員の行動によって、容疑者は絞られたよ。」
「容疑者をシボル?容疑者の油売りマスカ?」
「1人行動、本当か?2人行動、アリバイあるある。2人の人は怪しくない。」
「…1人行動の人間が怪しいってことか?」
「そっかそっか!じゃ、1人行動の人が犯人だね!」
「君は何が言いたいんだね?」
(みんなの冷たい視線が痛いほど突き刺さる…。考え直そう。)
△back
「それは違うっす。」
「残念ながら、モノクマの動機によってそのアリバイには意味がないっす。」
「えー!?何で何で?」
「共犯の可能性…ですね。」
「そう…だね…。クロと共犯者がいたら、2人行動の人たちだって…。」
「そっか…いくらでもコソコソ2人で話を合わせられるんだね。」
「困ったわねぇ。それじゃあ、どうすればいいのかしら。何について話せば、犯人が分かるのかしら。」
「何か…犯人を絞る手掛かりになるものはないでしょうか。」
(何について話し合うか…裁判に時間制限があるとしたら、これも重要なことだな。)
ノンストップ議論3開始
「共犯関係になりそうな2人は誰かな?誰かな!?」
「何で白銀お姉ちゃんが殺されちゃったのか…動機は、どうかな?」
「……犯行時刻…詳しいことが分かってない…。」
「鈍器を扱えるかどうか!これも絶対考えなきゃなんねーぜ!?」
「小学校にいた人が犯人…ってことはないですか?」
「どれも考えるべきことですが…確実に容疑者を絞れるものはあるのでしょうか…?」
(確かに…どれも考えなければいけない…けど、あの証言が本当なら…容疑者を絞れそうだな。)
「あの…その意見について詳しく教えていただけますか?私には理解しかねるところがありまして…。」
(しまった。みんなの心象が悪くなる前に考え直そう…。)
△back
「それに賛成っす。」
「小学校の外にいた人が中に入ることはできなかった。佐藤君によると、そうっすね?」
「え、う、うん。そうだよ。僕は朝食後ずっと校門の近くにいたけど…小学校の中に入ったのは天海さんだけで…出たり入ったりした人はいなかったよ…。」
「でもよ、それも『ずっといた』ってのが嘘じゃなかったらの話だよな?もし佐藤がクロや共犯だったら、どうするんだ?」
「アタイが中庭と校門行ったり来たりしてた時はチラチラ存在確認できてたけどな。ま、ずっといたかは分かんねーや。」
「ぼ、僕は嘘なんて言ってないよ…。」
(確かに、俺と会ってはいるが、ずっといたという証拠はない。)
「だが、全てを疑っていてはラチが明かん。もし彼の言うことが嘘なら、そのうち矛盾も出てくるだろう。」
「とりあえず…本当だったとして話すといい…かも…。」
「えーと、小学校にいたのは…アイコ、けい、れーのすけ、みく。それとレイ、らんたろーだね。」
「だから、誰と誰と誰なんだよ!?」
「史上最強のAIアイコサンに、お掃除大好き松井クン。至宝の歌姫 夕神音サンに人気アイドル哀染クン。」
「そして、才能不明 能力未知数の永本クン。さらに、世界を股にかけた冒険家の天海クン。」
「や〜ん、あたしぃ、疑われてるぅ〜、こんなに非力なのにぃ、お箸より重いものしか持ったことないのにぃ。」
「お、オレは犯人じゃねーぞ!?」
「……。」
「困ったわねぇ、私は松井君と ずっと一緒にいたから、彼が犯人でないことは分かるけれど…。」
「フム…共犯の可能性がある以上、潔白を証明するのは難しいだろうね。」
「みなさん、今日の行動を詳しく話してください。」
「あ…みんな、良かったら…発見アナウンスの時間から逆順に遡って話してくれないかな?」
「……?」
「えっと、アナウンスの時、俺は1人で調理室にいたっす。その前は町の西エリアを探索してたっす。小学校で佐藤君と永本君に会ったっすね。」
「遡って…?ふむ…図書室に入る前は3階の階段近くの教室を調べていたな。妙な匂いがして図書室に入ったのだよ。」
「そうねぇ。3階階段でアイコさんと会って図書室に向かったの。3階を調べる前は4階の教室を1つずつ調べていたわ。」
「警察みたいな取り調べオツ。アナウンス時:図書室←その前:校舎に入って4階まで上がろうとしたところ夕神音たちと遭遇←その前:校門と裏庭の間。」
「アナウンスがあった時…どうだったかな?たぶん、2階の廊下にいた…。いや、教室の中か?殺人があったって聞いて、すぐ図書室に向かった。」
「その前は…ええと、1階 玄関辺りにいたな。…その前は1階の教室を調べてた。」
「ぼくは…アナウンスの時…2階の廊下を調べてたよ…。その前は、2階の教室を1つずつ調べてた…。」
「……怪しいヒト、いますね。」
「……。」
(何だ…?ローズさんが確信めいた顔をしている…?)
「ポリ公エテ公、こーゆー質問シマス。記憶力検査?誘導尋問?クソ喰らえデスよ!!」
「えっと…というか、明らかに…みんなが分かるウソを言ってる人いるよね…。」
▼ウソを言っている人は?
「アマミ!お前のチのイロは何色だぁ!?」
(違ったみたいだ…。)
△back
「……永本君。キミは何か隠してるんすか?」
「…は?」
「ソーデスね!ウソつきのヒト、前のコト言えマセン。」
「…聞いたことがあります。尋問の際、現在から遡って過去の話をさせると。本来は時系列に言わせてから、今度は逆に言わせると聞きましたが…。」
「上手く話せねー地味ヤローが犯人ってことか!?おい!テメー何でメガネ女を殺しやがった!!?」
「ちょっ、ちょっと待てよ!?オレは犯人じゃねーぞ!」
「じゃナンデ話せない?正直のコト、言いてください!」
「そ、それより、自分は永本先輩が すぐ分かる嘘を言ったことの方が気になります!何でですか!?」
(永本君の嘘…?それは…)
1. すぐ図書室に向かった
2. アナウンス時は2階にいた
「天海先輩!自分は分かってます!”超高校級の冒険家”の先輩が、そんな簡単なことに気が付かないはずがない!!」
「つまり、それは自分たちを和ませる冗談ですよね!!!?」
(二重の意味で耳が痛いな。)
△back
「永本君、キミが図書室に来たのはアナウンス後ずいぶん経ってからっす。」
「え。そ、そんなに時間 経ってたのか?」
「アナウンスがあってから、何をしてたの?」
「べ、別に何をしてたわけでもねーけど…。」
ノンストップ議論4開始
「けいが図書室に来たのはモノクマよりも後だったよね。」
「アナウンスから20分くらい後だった…。」
「1階からなら5分でも来れらあ!20分も何やってたんでい!」
「ま、まさか、手に付いた血を洗い流してた…とかじゃない、よね…?」
「ちっげーよ!そんなことしてねー!」
「まさかアナウンスを聞き逃すはずないわよねぇ…何をしてたの?」
「そんなワケの分かんねーイチャモンつけんなよな…。」
(しまった…。視線が驚くほど冷ややかだ。)
△back
「それは違うっす。」
「永本君、キミは発見アナウンスの時、ヘッドホンをしていたんじゃないっすか?」
「あ…。」
「ヘッドホン?永本お兄ちゃんが首に掛けてる?」
「ええ。永本君のヘッドホンはノイズキャンセラー機能があるようで、つけている時、外の音が聞こえない。違いますか?」
「あ、ああ。そうだ。そういえば、調査の時ヘッドホンしてたな…。」
「なーんで、ヘッドホンなんてしてんのさ!」
「その方が集中できんだよ!アナウンスがあるなんて思いもしなかったしな!」
「じゃあ、永本先輩が遅れたのには、変な理由はなかったってことですよね?ね?」
「ああ。悪ぃな。モノクマに言われて慌てて図書室に行ったんだ。」
「殺人があったと聞いてすぐ、はモノクマに聞いてすぐ、ってこと。」
「紛らわしいんだよ!無実の罪 被るようなことすんじゃねー!」
「まだ無実とは限らんよ。」
「佐藤くんの話によると、犯行が可能なのは小学校の校内にいた人だけでしたね。」
「その中から怪しい人を探すってこと?」
「アイコサン、哀染クン、天海クン、永本クン、松井クンに夕神音サン。怪しいのは誰かな誰かな。」
「僕目線、僕と夕神音さんは犯人では絶対ないのだが。どうしたら信じてもらえるかね。」
「そうねぇ、そもそも、どうして白銀さんが殺されたのかしら。」
「白銀さんは、みんなに優しくて…分け隔てなく話しかけてくれてた…よね。そんな人を…あんな風に殺すなんて…。」
「あんなフワフワで綺麗な人の顔を…あそこまでグチャグチャにするなんて!許せないです!」
(白銀さんが殺された理由…?)
1. 怨恨の可能性
2. 無差別の可能性
3. 愉快犯の可能性
「あらぁ、貴方が じっくり考えた上で、その答えなのかしら。それなら、何も言わないわぁ。」
(しまった…。もう1度じっくり考えよう。)
△back
「白銀さんは包丁で傷付けられていたっす。犯人は彼女を撲殺した後、斬り刻んだ。現場に残る時間が長いほど見つかるリスクもあるのに…。」
「誰でもヨカッタ、ないですか?」
「白銀さんは女性にしては身長が高かったっす。かなり華奢とはいえ、犯人が誰でも良かったのなら…彼女よりも狙われやすい人がいたはずっす。」
「…!」
「…!!」
「緑頭テメー、クソチビ共を脅かすんじゃねぇよ!!!」
「あんな殺し方…よほど白銀さんに恨みがあったとしか…思えないよ。」
「良くないね!人を呪わばケツ2つだよ。」
「呪術師が言うのかよ?つーか、穴2つだろ。」
「な、何だべ?白銀っちを包丁の後攻攻撃でぶっ刺したのは、白銀っちが憎くて憎くて仕方ねぇアンチクショウだったべか!?」
「でもねぇ。私たち、まだ出会って間もないのよ?殺したくなるほど憎いなんてこと…あるのかしら?」
「ないとは言い切れんよ。この閉鎖空間。本来なら殺意にまで発展しなかったはずだが…環境が整いすぎている。」
「白銀先パイのような可憐な女性を、一体 誰が恨むっていうんですか!?」
「……。」
「痴情のモツレ、ありマスカ。」
「痴情の…もつれ?」
「……白銀お姉ちゃんを好きだった人がフラれて…とか、そういうこと?」
「…そういった事件は、残念ながら世界中で起こっていますね。」
「いや、でもオレら高校生だぜ?それで殺人とか…。」
「分かってないなぁ、けい。高校生だろうが何だろうが、愛の力は恐ろしいんだよ!」
「……。」
(こんなこと、考えたくなかったが……。)
(“彼”は、誰より白銀さんの死を嘆いているようだった。この学級裁判でも、ほとんど言葉を発しないほどに。)
「ね、ねぇ、哀染さん…。学級裁判が始まってから…ほとんど話してないけど、大丈夫?」
「……え?」
(まさか、彼が……。そんな考えが頭から離れない。)
(哀染君に視線が集中する。俺も、隣の彼へ視線を向けた。どうしても、彼に聞きたいことがある。)
「……。」
「哀染くんは白銀さんと親しかったですし…。…辛いのも無理はありません。」
「もしかして、哀染お兄ちゃん。白銀お姉ちゃんのこと…好き、だったの?」
「……そうじゃ、ないよ。」
「でも、哀染さん…今朝から元気なかった、よね…?」
「……。」
(昨日の夜、彼は白銀さんの家に行った。その白銀さんが殺された。……考えたくはないが、何か関係があるのか?)
「哀染君。キミは昨日 夜中に白銀さんに会いに行ってたっすね。」
「……!」
(俺の言葉に、哀染君は息を呑んだ。哀染君に向けられていた みんなの視線も一気に俺に集中した。)
「どういうことですか?天海くん。」
「俺と哀染君は、同じ”野比家”に宿舎があるっす。俺は昨日の夜中に彼が出かけるのに気付いて、後を追ったっす。」
「哀染君が白銀さんの部屋にいたのは20分くらい。その間…何があったのか、話してもらえないっすか?」
「……。」
「やあやあ天海クン、野暮はおよしよ。」
「う、うん。真夜中に男女が1つ屋根の下ってことはーー」
「……話をしていたんだ。」
「話っすか?真夜中に?」
「……つむぎが、怯えてたから。悪夢を見るって言ってたから。ぼくは…その相談に乗ってたんだ。」
「えぇと、それは…夜中にしなければならない話なんでしょうか?」
「つむぎはコスプレイヤーだ…。みんなの前では泣き言を言いたくないって…。」
「……。」
(白銀さんが、哀染君にそんな話を…?)
(なぜ彼に?)
「蘭太郎お兄ちゃん、どうしたの?」
「……何でもないっす。」
「じゃあこれって〜、結局 痴情のもつれによる愛憎劇?だったの〜?ヤダ!みんな不潔よーー!」
「まだ そうと決まったわけじゃないが…その親密さが動機になり得るな。」
「そ、それが動機になるなら、さ…。天海さん…。」
「何すか?」
「天海さんが哀染さんの後を追ったのって…この”コロシアイ”を懸念して…なんだよね?」
「……そうっすけど…。」
「よ、良かった、僕はてっきり…。」
「え!もしかして…らんたろーも、つむぎloveだったとか?」
「あらぁ、白銀さんモテモテだったのねぇ。」
「……。」
「えぇと…そういうわけじゃないっすけど。」
「…天海くんも白銀さんと親しかったですね。」
「アマミ、アイゾメとシロガネの密会を見マシタ。それから何を考えマシタか?」
「……あの時は、コロシアイの中で何かあったら…と思ってたっす。」
「そうだよ!蘭太郎お兄ちゃんはコロシアイが起きないように頑張ってただけだよ!」
「だいたい、何で好きな人を殺すんですか!?逆でしょう普通!?」
「前谷殿は分かってませんな。本当の愛を、まだ知らないと見ました。」
「フギャア!」
「確かにー。でも、機械に言われたらオシマイだよねー?」
「な、何だと…キサマ!?血の通わぬ機械と言えど、人間の感情パターンを分析して愛憎劇を演じることは可能なのだぞ!?」
「でもねぇ、恋心や恨み妬みは隠せるでしょう?」
「そうですね。確かに動機になりますが…犯人を見つけるものにはならないのではないでしょうか。」
「哀染さんと天海さんに動機があったかもしれない…。それが分かれば…それでいい。」
(俺は…疑われている…のか。)
「少し違う視点で事件について話し合う必要がありそうですね。」
「何だよ、違う視点って…?」
「…死体や現場の話は…もっと しなくちゃいけないよね…。」
「死体…ミナさん、死体を見マシタか?」
「正直、きちんと見られなかったわぁ。あまりにも、痛々しくて。」
「まさか…犯人の狙いは、それか?」
「きちんと死体を調べさせないように…ですか?」
「あ?じゃあ、怨恨どうの言ってたのは どうなるんだよ!?」
「綺麗さっぱり忘れよう!」
「えぇと…忘れない方が良いと思うな…。どちらの可能性もあるから…。」
「残念デス!ワタシにとって死体はマクラやフトンみたいな物デス!舐るカノごとく見マシタ!」
「ふわぁ、ローズさん、すごいですぅ…!」
ノンストップ議論5開始
「シロガネはボーリングの球、頭ウシロに当たっテ死にマシタ。」
「図書室に落ちてたよね…。犯人は、倉庫を封鎖する前から殺人を計画してたんだね…。」
「顔も体も包丁でイッパイ切ります。全部 血、きたナイ。」
「…ローズさん、『汚い』じゃなく、『汚れていた』がいいですよ。」
「デモ、汚れていた、血だけデス。他は全部キレイ。信じられるカ、死んでるんだぜ。デス。」
「アマミの日本語、ワカリマセン。」
(しまった、みんなの心象が悪くなってしまった。)
△back
「それは違うっす。」
「何だアマミ、モンクあっかぁ。アマミのくせにナマイキだゾー。」
「ローズさん、それは悪い言葉ですよ。」
「…白銀さんの手にはホコリが付いてたっす。」
「ホコリ…?」
「アイヤ、視力増強のチューシャしてなかったから分からなかったデスネ。」
「倒れた時に付いたのかな?」
「…いや、町中 校内中 調べたが、見えるところはチリひとつないほどなんだ、ここは。ただ倒れただけで付着するとは思えない。」
「でも、見えないところの掃除はあまり行き届いてなかったわねぇ。」
「揉み合いへし合い、抵抗された時 付いたかな。」
「抵抗して殴られたなら、後頭部より側頭部や前頭部に一撃を喰らう可能性が高いと、私のデータは言っております。」
「ホコリなんざ、何か拾っただけの話だろ。」
(そういえば、ホコリの付いた彼女の手に握られていた赤いもの…あれは何だったんだ?)
(手のひらには、液体も付いていた。あれはーー)
閃きアナグラム スタート
ト プ
マ ト
チ
「白銀さんの右手は、固く握られていたっす。彼女が握っていたのは……プチトマトっす。」
「プチトマト?昨日 今日と朝食に出た、あれか?」
(ーーそうだ。あの赤いものは…朝食で話題にも出ていた。)
「妹尾サン、野菜が苦手?赤いの怖い?丸いが嫌い?」
「えっと…うん、どうしても食べられないんだ。」
「ボクはピエロじゃないけれど、赤鼻ないと悲しいの。ボクにそのちっちゃな赤い実くださいな。」
「ゴラァ!ピエロ!甘やかすな!!」
「妹尾さん、今日は残さず食べたんですね。偉いですよ。」
「えへへ、山門お姉ちゃんは、おばあちゃんみたいだねぇ。」
「……せめてお母さんみたいでありたかったです。」
「ほらほら、けいも。野菜、全部 食べなよ。」
「……くっ、本当に おせっかいな女だな、お前。」
(あのプチトマトが、現場にあった。白銀さんが握っていた。)
「でも、捜査時間に調理室を見ましたが、プチトマトはありませんでしたよ。それどころか、冷蔵庫は空でした。」
「朝食のトマト、みんな残さず食べてたの、あたし覚えてるよー?」
(ーーいや、俺は知っている。朝食のトマトを食べたフリして持っていた人物を。)
「1人だけ…プチトマトを隠し持っていた人がいましたよ。」
(全員が こちらを見た。あのプチトマトを持っていた人物はーー)
▼プチトマトを隠し持っていた人は?
「…………。」
(しまった…!冷静に考えろ…!)
△back
「妹尾さん…プチトマトを持っていたのは、キミっす。」
「えっ…。」
「はああ!?」
「キミは朝食で出たプチトマトをパーカーのポケットに隠していたっすね。」
(朝食後の町での会話を思い出しながら、妹尾さんを見た。彼女は驚いた顔を こちらに向けている。)
「妹尾さん、パーカーが汚れてますよ。」
「え…?あ。」
(妹尾さんのパーカーのポケットが濡れている。丸く歪に膨らんでいる、それは…)
「もしかして、朝食…全部 食べたっていうのは嘘っすか?」
「えー?何のことぉ?ウッカリ分かんないっ!」
「や、だなぁ…隠したりなんて、してない、よ?」
「その時、確実ボクもいた。天海クンの指摘に、妹尾サンたじたじ。あれは、きっと動揺の声色。」
「……。」
「現場に…妹尾さんが持っていたトマトが落ちてたってこと…?」
「ピンクチビ!テメーが犯人なんだな!?」
「み、みんな…何 言ってるの?あたしが、白銀お姉ちゃんを殺せるわけ、ないよ…。」
「でも、現場に妹尾さんが持っていたものが落ちてたんすよ。無関係とは…思えないっす。」
「蘭太郎…お兄ちゃん…?」
(妹尾さんが青ざめた顔で、俺の名を呼ぶ。胸が激しく痛んだ。)
(生き別れの妹が俺の言葉に絶望している。ーーそんな光景を思わせたから。)
学級裁判 中断