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第一章 絶望ポケット 学級裁判編Ⅱ

 

学級裁判 再開

 

「蘭太郎お兄ちゃん、ひどい…ひどいよ、あたしを、疑うなんて…。」

 

(妹尾さんが悲痛な声を上げる。小さな肩を震わせて。ブカブカのパーカーの袖口に顔を埋めて。)

 

「お…おい!ピンクチビが泣いちまったぞ緑頭!?」

 

(…俺だって、こんなこと言いたくない。妹の面影がある妹尾さんを追い詰めるなんて、したくない。)

 

 

 

ノンストップ議論開始

 

「で、でも、プチトマトを持ってたからといって、妹尾先パイを疑うのはどうなんでしょうか…!?」

 

「妹尾さんが たまたま落としたトマトを誰かが使った…という可能性もあるのではないでしょうか?」

 

「そうだよ、あたしは…クロじゃ、ないよ。」

 

「妹尾さんのポケットは…そう簡単に ものが落ちるようには…思えないよ。」

 

「えっと、じゃあ…現場にプチトマトが落ちることもないんじゃないですか!?」

 

「調理室にはプチトマトなかったしねぇ。現場にあったのは間違いなく妹尾さんの持ってたトマトだったのかしらぁ?」

 

「捜査時間に調理室には何もなかったが、すでに誰かが持ち出した可能性もある。」

 

 

【給食のシステム】→ポケット

【給食のシステム】→誰かが持ち出した

【手の汚れ】→誰かが持ち出した

 

 

 

「あ、天海さん…?大丈夫?まさか、妹尾さんが犯人かもしれないショックでおかしくなっちゃったんじゃ…!?」

 

(違ったようだ。もう一度考えてみよう。)

 

 

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「それは違うっす。」

 

「給食は食品ロスがないように毎食前にぴったりの食材が届くらしいっす。」

 

「え?どういう仕組み!?超ハイテクじゃん!?」

 

「環境に優しいね〜。」

 

「いや、輸送コストを考えるとあまり地球に優しいとは言えないだろう。」

 

「出入り口もないのにどこから届くのかしらぁ。」

 

「それは後々 考えましょう。現場に落ちていたのが昨日の朝食のプチトマト…という可能性はありませんか?」

 

「昨日は全員 食べてたよね?」

 

「妹尾サンのトマトはボクの口の中、胃の中、今頃 トイレの中。」

 

「つーことは、デカメガネ女が握ってたのは今日のトマトってことだな。」

 

「今日プチトマトを持ってた、セノオだけデス。」

 

「そんなはずないよ、他の人も残してたかも、しれないじゃん…。」

 

「機械女、テメー カメラとか付いてねーのかよ。」

 

「そんなサービス、AIアイコにはNAIKO★」

 

 

「あたし覚えてるよ?」

 

「は?全員の分か?」

 

「うん。さっきも言ったじゃん。確かに、今日みんなは皿に乗ったプチトマトを全部食べてたよ。でも、いもこだけは食べたとこを見てないんだよね。」

 

「祝里先パイすごいです!!!」

 

「あれは確か…らんたろーとレイが給食室入って来た時…2人が入って来る前は、いもこの皿にトマトがあったけど、次 見たら なくなってたね。」

 

(祝里さんが俺と俺の右隣の哀染君を見ながら言った。)

 

「…すごい。映像記憶だね。」

 

「おいチビ!!どういうことだ!?テメーがメガネ女を殺したのか!?」

 

「あたしじゃ…ないよ…あたし、あたし…。」

 

(プチトマトは妹尾さんが持っていたものだけだ。それが現場に…しかも、死んだ白銀さんが握っていた。)

 

 

「ちょいとお待ちのタメゴロウ!」

 

(現場を思い出していると、ぽぴぃ君の声が裁判場に響いた。)

 

 

 

反論ショーダウン 開幕

 

「ノンノン!みんなお忘れかい?」

 

「実際に犯行が行えるのは、小学校にいた人だけ!」

 

「ボクは小学校の外で妹尾さんに会っているのさ!」

 

「西エリアから小学校まで走れば5分っす。それは問題にならないっすよ。」

 

 

「いやいやいやいや、いやりんぐ!」

 

「大事なことをお忘れよ。」

 

「いたのさ。佐藤クンが校門に。外にいる人知っている。」

 

「妹尾サンが小学校に入ることはムリムリ不可能!」

 

 

【モノファイル】→小学校に入ることはムリ

【中庭の様子】→小学校に入ることはムリ

【佐藤の証言】→小学校に入ることはムリ

 

 

 

「ほらほらほらほら御覧なさい!妹尾サンには、ムリムリムリムリカタツムリ!」

 

(しまった…違ったみたいだ。)

 

 

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小学校の外から中に入る方法はあったんすよ。」

 

「え!?」

 

「お?まさかまさか?中庭の抜け穴かい?小学生たち御用達と思われる、あれかい?」

 

(そうだ。一昨日 中庭を調べた時、見つけた。)

 

 

(…ん?フェンスに穴が空いている…。)

 

(庭を囲うフェンスに大きめの穴が空いていた。遅刻した小学生がここから出入りしていたのかもしれない。)

 

(まあ、高校生では通れないだろうな。)

 

 

(中庭は焼却炉以外、一昨日と今日の捜査時間で変わったところはなかった。)

 

「ええ。中庭を囲うフェンスには穴が空いてたっす。高校生が通ることは難しいっすが、小学生くらいなら通れるくらいの穴っす。」

 

「なら、ピンクチビとピエロは普通に通り抜けられるな。」

 

「ポピィー!?」

 

「犯行が可能なのは、小学校にいた人だったね。」

 

「セノオとポピィもヨウギシャなりマス。」

 

「トマトを持ってた妹尾さんも小学校に出入りできたってことよねぇ。」

 

 

「で、でも、妹尾さんは…白銀さんと かなり体格差もあるよね…。」

 

「そう…だよな。妹尾みたいな小さい女が白銀を殺せるはずねーよ。」

 

「白銀さん長身、妹尾さん低身。埋められない体格差。」

 

「白銀の後頭部へ一撃!は、ヒジョーにキビシー!」

 

 

(確かに、白銀さんのように身長が高い人物を殴り殺すなんて…妹尾さんには難しいだろう。それも、7kgもあるボーリングの球を使って…とは考えにくい。)

 

(それなら、プチトマトを白銀さんが握っていたのは…どうしてだ?)

 

(妹尾さんのポケットの形状から…たまたま落ちたとは考えにくい。)

 

(もし……)

 

(もし、あのトマトが妹尾さんを犯人として誘導するためのものなら…どうだ?そうだとしたら、妹尾さんは…。)

 

 

1. 被害者
2. 共犯者
3. 殺人犯

 

 

 

「……何か言ったかね?」

 

「……いいえ、何も。」

 

 

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「妹尾さんは…共犯者…なんじゃないっすか?」

 

「共犯者…?」

 

「…っ!ち、違うよ…。」

 

「……。」

 

「妹尾さんのポケットは、入れたものがすぐ落ちるような形状じゃないっす。だとしたら…彼女が犯人にトマトを渡した…ということじゃないでしょうか。」

 

「この事件には いるいる。クロと、もひとり共犯者。」

 

「妹尾さんを共犯者にして、誰かがクロになった。なるほど。妹尾さんを怪しむことまでクロの目論見だったのかね。」

 

「オレらがピンクチビ選んで全滅する…そのためにトマトを使ったってのか!?」

 

「ひっ…!わ、わざとトマトを現場に残して…あ、あたし達を誘導してたってこと?」

 

「あたし、あたしは…違うよ。共犯者じゃないよ…。」

 

「うぅ、な、泣かないでください…じ、自分は信じますから!」

 

「そんなウソくせー演技に騙されんなデクノボウ!臭う…臭うぜ…陰謀の匂いがプンプン香ってくらぁ!」

 

 

「じゃケッキョク、クロいはダレですカ?」

 

「元の議論に戻りますね。実際に犯行が可能なのは、小学校にいた人だけです。」

 

「それも、このシロクロチビの言うことを信じりゃの話だがな。」

 

「シロクロチビ…?ああ、佐藤クンのことだね。ボクはチラチラ彼の姿を見てたよ。…まあ、ずっとじゃないけどね。」

 

「…僕はアナウンスの20分前に天海さんに校門前で会ったんだ。」

 

「僕が犯人なら、彼に見つからないように玄関に行って階段を駆け上がって図書室まで行って、また外に戻らないとだよ…。」

 

「オレは天海と会ってからも しばらく校門側の玄関調べてたけど、佐藤は見なかったぞ。」

 

「中庭側の校舎入り口から入ることはできたろ?」

 

「俺っちは中庭と校門近くを見てたんだぜ?校門側から佐藤が来たらすぐ分からぁ!まぁ、俺っちアナウンス前は校舎にいたから知んねぇけど。」

 

「校門から図書室まで…急いでも往復15分…。」

 

「結構かかるわねぇ。走ったら大変そうだわぁ。」

 

「自分はアナウンスが鳴って超特急で校門に行きましたが、佐藤先輩は息も切らさず その場にいました!」

 

「僕が犯人なら…時間が足りないよ…。共犯者じゃない限り、僕の言葉を疑っても無意味だよ…。」

 

 

(共犯者が妹尾さんだとしたら、クロは小学校校内にいた誰かなのか…?)

 

「共犯者が妹尾さんなら、僕と夕神音さんの疑いは晴れたということで良いだろうか。」

 

「そうねぇ、私たちは行動を共にしていたからお互いのアリバイを知っているわ。そして、クロと共犯者でもないし。」

 

「おお…じゃあ怪しいのは……オレもか。」

 

「けいとアイコとらんたろーとレイだね。」

 

「永本クン、アイコサン、天海クン、哀染クンの4人。」

 

 

「ひとつ…確認したいんだけど、天海さん。」

 

「何すか?」

 

「小学校の外から中に入った時、持っていたのは何…?」

 

「……。」

 

「なになにー?」

 

「さっきも言ったけど…アナウンスの20分前に、天海さんに会ったんだ。天海さんは小学校に入って行った。“何か”が入った給食袋を持って…。」

 

「ほぉ…アナウンスの20分前か。10時40分頃だね。」

 

「…あれは、包丁っす。」

 

「……え?」

 

「西エリアの犬小屋にあったものを調理室に戻したんすよ。誰かが隠した凶器でしたから。」

 

(周囲が息を呑むのが分かった。俺を怪しんでいるのは明白だ。)

 

 

 

ノンストップ議論開始

 

「は、犯行時刻と思われる時間に…小学校に包丁を…持って行ったの…?」

 

「あ、怪しすぎます!」

 

「西エリアの犬小屋。確かになかった何にもね。犬小屋空っぽ。頭も空っぽ。」

 

「しかし それは、天海君が隠していた包丁を持って小学校へ向かった…とも推理できるね。」

 

「そういや、玄関来た時も持ってたな。……まさか、その包丁で白銀を刺したのか?」

 

 

【モノクマファイル】→犯行時刻と思われる時間

【死体の損傷】→犬小屋空っぽ

【アーミーナイフ】→包丁で白銀を刺した

 

 

 

「クンクンクンクン、天海クン。キミは犬じゃなくて人間だ。大丈夫だよ、やり直せる。」

 

(しまった…。適当なことを言ったせいで余計 疑われている。)

 

 

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「それは違うっす。」

 

「俺が持っていたのは料理用の包丁であって、現場に落ちていたアーミーナイフとは違います。」

 

「出ましたー!使い古された『ナイフと包丁は違う』論破!『スコップとシャベルは違う』論争と同じくお馴染みだね!」

 

「……給食袋は中が見えなかったはずです。天海くんが持っていたのが包丁かどうかは天海くんにしか分からないのでは?」

 

(やはり…そこを突かれるよな…。どうしようか。)

 

 

「あ…、待って。そういえば、天海さんが持っていた巾着の膨らみ方からして、あれは…包丁だったよ。」

 

「間違いないんですか!!!?」

 

「う、うん…。だって現場に落ちてたアーミーナイフは小型だし…。そうだったよね、永本さん?」

 

「え?お、オレはンなこと覚えてねーけど……。」

 

「おいおい、じゃ結局、天海は ただ怪しい行動取ってたシロってことかよ。紛らわしいな!」

 

「…すみません。」

 

「まだ、天海君がシロとは言えないと思うがね。」

 

 

「で、結局 犯人は誰なんだよ!?ピンクチビ!言いやがれ!」

 

「……。」

 

「あのさ、もし本当に妹尾さんが共犯者なら…犯人は妹尾さんを よほど守りたかったんだね…。」

 

「ほうほうほうほう、その心は?」

 

「2人の共犯関係が作れたとしても、どうやって『どちらが実行犯になるか』決めたんだろう…って思って…。」

 

「えーっと、ジャンケンとか?」

 

「…それは、ない。」

 

「そういえば、クロは見つかれば処刑ですが、共犯者はどうなるんですか?」

 

「クロではないから、処刑はされないのではないでしょうか。…違いますか?」

 

「そうだよ!おしおきはクロ専用!悪いな、このおしおき1人乗りなんだ!!」

 

「クロのリスクはハイリスク。グレイじゃないのに、灰リスク。」

 

「どうしてクロはそんなリスクを負えたのか?ということだね。」

 

「カワイサ余ってニクさ500倍デス。シロガネを殺したカッタからヤッたです。」

 

「ちっげーよ!そのウルトラどチビを逃すためだろぅがよい!俺が必ずお前を外に出す!みんなと自分の命に換えても!!と!」

 

「うーん、でもねぇ、出会って間もない私たちが、そんな自己犠牲を発揮できるかしら?」

 

「もしかして…クロはそのリスクに今まで気が付かなかった…とかじゃねーよな?」

 

「殺人だぞ!?ンなワケあるかよ!」

 

「でも、あたしくらいバカだったら気が付かなかったかもよ?」

 

「じゃあ君がクロなのかね?」

 

「んなわけないっしょー!あたし、殺人とか難しーこと分かんないし。」

 

「クロが本当にそのリスクに気付いてなかったなら、今…精神的にかなりキてるでしょうね!皆さんの中に動揺された方は いらっしゃいませんか!」

 

「そんな『お客様の中に』みたいな言い方で出てくるわけねーだろっ。」

 

 

「この中に…妹尾さんのためにそこまでしそうな人…いるかな?」

 

(再び、俺に視線が集まる。背中に冷たい汗が伝った。)

 

「……らんたろーと、いもこ…仲良しだったよね。」

 

「兄と妹、腕組み歩き、仲睦まじ。」

 

「いや、ちょっと待っ…」

 

「違うよ!」

 

(俺が何か言いかける前に、妹尾さんが声を上げた。)

 


「みんな…ごめん、なさい。あたし…。ごめんなさ…。」

 

(彼女の口から嗚咽が漏れる。それと共に、ひたすら懺悔の言葉を彼女は口にして、そして。)

 

「……ごめんなさい、哀染お兄ちゃん。」

 

「……え?」

 

(震える妹尾さんが、俺の隣に視線を向けた。)

 

「え?何?何で哀染?」

 

「あたしには…やっぱり無理だよ…。みんなを犠牲にして、外に出るなんて…。」

 

「……何を、言ってるの?」

 

「アイゾメがジッコーハンです?」

 

「テメーが、メガネ女を殺したのか!?」

 

「……!」

 

(哀染君がヒュッと息を吸う音がした。)

 

「ち、違…!」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、哀染お兄ちゃん!」

 

「……哀染さんが…クロ…?」

 

「え!?そーなの、レイ?」

 

「違うよ!わ、ぼくじゃ…ない!」

 

「共犯者ジキョーしました。アイゾメ犯人です。」

 

「えっ、マジなの?これって愛憎劇の末の殺人だった!?」

 


「で、でも…哀染さんと妹尾さん、そんなに親しかったっけ…?」

 

「まあ、あんまり絡んではなかったよな?」

 

「そう見せていたのかもしれんね。」

 

「それより…僕には妹尾さんが誰かを庇ってるように見えるけど…。」

 

「……そうですね。わたしにも…そう見えます。」

 

「妹尾先パイが庇う人間…ってことは、本当の犯人…ですか?」

 

「……。」

 


「どう…かな?天海さん…。」

 

「……。」

 

(みんなの視線が三度 俺に戻ってくる。俺と哀染君。隣り合う俺たちを見比べるように、みんなの瞳は動いていた。)

 

「天海さん…動機もあったかもしれない…。小学校にもいた…。」

 

「それは哀染も同じだよな?」

 

「哀染君も天海君も条件は同じよねぇ。」

 

「どうなんだよ!?ピンクチビ!」

 

「……哀染お兄ちゃん。あたしが、プチトマトを渡したのは…哀染お兄ちゃんだよ。」

 

「…う、嘘だよ。何を…。」

 

「哀染お兄ちゃん…お姉ちゃんに昨日の夜フラれちゃったんだ。それで、今日お姉ちゃんを殺してクロになるって…。だから一緒に出ようって言われたの…!」

 

「協力すれば、一緒に外に出してくれるって!」

 

(妹尾さんが大声を張り上げる。その声は反響した後、裁判場は静まり返った。)

 

「…妹尾さんは真犯人の天海さんを庇って、そう言ってる可能性もあるよね?」

 

「その裏かく戦法かもよ?哀染がクロだから、あえてチクッて天海を庇ってるように見せる。身内切りしてライン切っとく作戦みたいな?」

 

「こんがらがってきた…。よく分かんないよ。」

 

「難解、難題、奇々怪界。」

 

「ぼくは…ぼくは、つむぎを殺したりしない。殺せるはずがない…。」

 

「それを理論的に反論してくれなくては、ただの水掛け論になってしまう。自分が犯人でない根拠を述べてくれたまえ。」

 

「……。」

 

 

(俺が犯人じゃないのは、俺がよく知っている。…それなら。それなら、哀染君が犯人なのか?)

 

(ーーそれとも、妹尾さんは別の誰かを庇ってるのか?)

 

(考えろ。妹尾さんがプチトマトを共犯者に渡した。それを白銀さんは握っていた。そして、彼女の手はホコリで汚れていた。床にホコリがない図書室で。)

 

(ーーあれは、白銀さんからの最期のメッセージだ。彼女の死の真相を、語っているはずだ。)

 

 

(頭の中に、なぜか自転車に乗る自分とサイクリングロードのイメージが湧き上がってきた。)

 

(俺自身はチャリダーになったことはないのだが…南米へ行った時、自転車で旅をする人々とたくさん出会ったことを思い出した。)

 

 

 

ブレイン・サイクル 開始

 

Q. 白銀の手のホコリはどこから来た?

1.床 2.本棚の下 3.窓の外

 

Q. なぜ白銀の手にホコリが付いた?

1.本棚の下に手を入れたため

2.本を調べたため

3.本を読んだため

 

Q. 殺される直前の白銀の体勢は?

1.直立 2.仰向け 3.うつ伏せ

 

繋がった!

 

 

 

「待ってほしいっす。白銀さんの状態をもう1度 思い出してください。」

 

「白銀の状態?」

 

「白銀さんの手のホコリは本棚の下のもの本棚の下に手を入れたため、付着したっす。」

 

「殺された時、彼女はうつ伏せで床に手を付いていたんじゃないっすか?」

 

「そりゃあ…殴られて倒れてますし…。」

 

「殺された時というか…殺される直前っす。」

 

「日本語のテンス、難しいデス。」

 

「白銀さんはうつ伏せの状態で…本棚の下に手を入れていた。」

 

「あ…。」

 

「もしかして…それで片方だけ腕まくりした痕跡があったのかな?」

 

「白銀さんがうつ伏せの状態で、犯人は彼女の後頭部にボーリングの球を打ち付けた…ということですか?」

 

「ええ。これなら、7kgもあるボーリング球を上手くコントロールする必要もないっす。」

 

「立っている人よりラクに殺せマス。」

 

 

「でも、何でつむぎはそんなポーズを取ったの?何プレイ?」

 

「例えば、犯人が『本棚の下に何か落ちている』と言えばどうっすか?」

 

「そっか…それなら、怪しまれずに白銀さんの体勢を崩せるね。」

 

「その”何か”がなければ、白銀さんも本棚に手を入れないんじゃないかしらぁ?」

 

「その”何か”は、あったんすよ。白銀さんは それに手を伸ばし、実際に握ったっす。」

 

「ほう。天海君は、それこそが死体が握っていたプチトマトだと主張するのかね?」

 

「えー?何でプチトマトなんてナマモノ使ったのん?」

 

「ある程度光沢があって…シルエットでは分からない。」

 

「けど、それが何なんだよ?天海か哀染なら、それができたって話だろ?」

 


「あ…そっか…。それができた人が増えるんだね。」

 

「あ!?どーいうことだ、シロクロチビ。」

 

「『妹尾さんが共犯者』っていうのは…彼女じゃ体格的に白銀さんを殺せないから…だよ。」

 

「ハイつくばったシロガネ目がけてボール落とす。できないナイ。誰でもカンタン。」

 

「簡単ではねーだろ…。」

 

「落とすというか、叩きつけたのかもしれません!力の入り的に!!」

 

「あのボーリングの球はプロ用で重量がありましたが、女性でも持ち上げられなくはないっす。球を重力に任せる形で振り下ろせば…。」

 

力の強さや体格差も関係なく、白銀さんの後頭部に当てられる…ということですね。」

 

「えーと、共犯者は妹尾さんで犯人は天海君か哀染君という話だったはずだけど…違うのかしらぁ?」

 

「妹尾サン、哀染クン クロ主張して絶叫。天海クンの主張は どうどうどうどう、ドーナッツ?」

 

(……妹尾さんは、哀染君が犯人だと言っている。彼らが共犯というのは…あり得るのか?)

 

 

1. ムリムリムリムリカタツムリ
2. ありありありありワンちゃんあり

 

 

 

「へえ、キミは、そう考えるんだね…。」

 

(……ネットリした声で言われた…。考え直そう。)

 

 

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「昨日 哀染君が白銀さんにフラれたから、妹尾さんを共犯にして犯行に及んだ…これが妹尾さんの主張っすけど、そうとは考えられないっす。」

 

「まず、犯人が凶器を隠し始めたのは、体育倉庫を封鎖する前。昨日 犯行を企てたという話とタイミングが合わないっす。」

 

「計画はしていたが、ターゲットを決めたのは昨日だった…というだけではないかね?」

 

「いえ、哀染君と妹尾さんが共犯関係を作るタイミングもなかったんすよ。」

 

「哀染君は、今朝 俺と朝食に向かい、朝食後 妹尾さんとは別行動だった。妹尾さんと今回の犯行を企てる時間がないんすよ。」

 

「……あ…、蘭太郎君…。」

 

「朝食後すぐ、ぽぴぃは町で妹尾さんと再会。しばらく楽しく仲良く立ち話。」

 

「レイはその時、学校にいたはずだもんね。プチトマト渡す時間もないかな?」

 

「昨日の夜 会っていたのかもしれんがね。キミは尾行してたんだろう?」

 

「哀染君が白銀さんの家を出たのを見て、俺は先に宿舎に帰ったんすよ。哀染君が戻って来た所は見てませんが…。」

 

「何にしても、真夜中っす。そんな時間に妹尾さんの宿舎に行って、犯行計画を話したとは考えにくいっす。」

 

「妹尾さんと哀染君が話しているところは、あまり見てないものねぇ。仲良くない人が夜中に訪ねて来ても、ドアを開けないほうがいいわぁ。」

 

 

「アイゾメ犯人じゃありマセン。アマミ犯人ですか?」

 

「俺でもないっす。」

 

「君は妹尾さんと行動することが多かったし、作戦会議はいつでもできたんじゃないかね?」

 

(それは否定できない。でも、もちろん そんな話はしていない。)

 

「…妹尾さんは共犯者の可能性にずっと肯定的だったっす。彼女が共犯者なら、その可能性を示唆することは避けるんじゃないっすか?」

 

「あ、確かに!」

 

「う、うん。それに、共犯関係なのに実行犯のアリバイも用意してないのは…少し変だもんね…。」

 

「いくらアリバイの話が意味ないって言っても、心境的には保険を掛けたいはずだし…。」

 

 

「…妹尾さんが共犯者だと疑われたのは、プチトマトがクロの誤認のため、わざと置かれたものだと俺たちが思ったからっす。」

 

「プチトマトが、クロ誤認のためのものじゃなくて…単に白銀さんに掴ませて、うつ伏せの体勢にするためだけのものだったら…。」

 

「どういうことだよ!?」

 

「……。」

 

「妹尾さん、キミの狙いはーー」

 

 

1. 本当は共犯者だが、クロだと思わせる

2. 本当はクロだが、共犯者だと思わせる

3. 本当は共犯者だが、シロだと思わせる

 

 

 

「うぅ、ひっく、違うよ…みんなだって、蘭太郎お兄ちゃんがムラムラ変なコト言ってるって、思ってるよ…。」

 

(しまった…ムラムラ変なことなんて考えてないのに女性陣の目が冷たい…!)

 

 

back

 

 

 

 

「この事件には共犯者なんて いなかった。妹尾さん、違うっすか?」

 

「お兄ちゃん…?な、に…言ってる、の?」

 

「キミが、白銀さんを殺した犯人なんじゃないっすか?」

 

「え…?ま、まじ、か?」

 

「共犯者の話は何だったのかしらぁ?」

 

「…共犯者はあくまで可能性の話でしたね。」

 

「や~ん、アタシたちぃ、もしかして誘導されちゃった系?」

 

「何で?あたし…正直に…言ってる、よ?あたしが、殺せるはず…ない。」

 

「キミが『犯人じゃない』という話は、プチトマトを持っていても、白銀さんと体格差があったからっす。」

 

「ひ、ひどいよ…蘭太郎お兄ちゃんっ…あたしを、犯人だなんて…!」

 

「犯行が無理だから”共犯者の可能性”があった…犯行が可能なら、当然 “犯人の可能性“が浮上するってことだよね。」

 

「たとえ自分が怪しまれても、共犯者と認定されてしまえば、クロとは見破られない。彼女の狙いは、そういうことか。」

 

「まさか…デカメガネを狙ったのは…チビには無理だって思わせるためか?おい、どうなんだ!?そんなことのためにアイツを選んだのか!?」

 

「……。」

 

(妹尾さんは、答えない。俯いて泣きじゃくるだけだ。泣いている姿が妹と重なって、心臓が嫌な音を鳴らした。)

 

(でも、彼女に犯行が可能な状況証拠が揃っている。)

 


(身長が高い白銀さんを狙って得するのは、捜査線から外れやすい小柄な人間だということ。妹尾さんが小学校の外にいたということ。)

 

 

「妹尾さんはあえて俺たちに小学校外に出ている姿を見せて、中庭の抜け穴から小学校内に入ったっす。」

 

「オーゥ、ワタシ中庭と校門を行ったり来たりシテマシタからMs. セノオに気付きマセンデーシター!」

 

「そして、あらかじめ図書室に隠していた凶器で犯行に及んだ…そういうことかね?」

 

「マジかよ…本当に……妹尾が?」

 

「……信じられませんが、現場にプチトマトが残っていた以上…。」

 

「いもこがトマト取るの忘れてなかったら…間違ってたよね。」

 

(……もしかしたら、取りたくても取れなかったのかもしれない。死んでも離さない、と言うように…白銀さんの手は固く閉じられていたから。)

 

「……。」

 

「本当に、あなたが……?」

 

「……そんなわけない!」

 

「…え。」

 

(妹尾さんは眼に涙を溜めて、俺を睨み付けた。そして、矢継ぎ早にまくし立てた。)

 

 

 

理論武装 開始

 

「あたしは犯人じゃないよ!」

 

「あたしが殺すはずない!」

 

「白銀お姉ちゃんを殺す理由がないでしょ!?」

 

「犯人は白銀お姉ちゃんに恋してた人だよ!」

 

 

「間違ったらみんな死んじゃうんだよ!?」

 

「このままじゃ…お兄ちゃんも死んじゃうよ!」

 

「あたし…あたし…せっかくお兄ちゃんを見つけたのに…。」

 

ちゃんとした根拠は あるの?

 

 

△の   ◻︎ガ   ○手    ×ケ

 

これで終わりっす!

 

 

 

「…じゃあ、キミの袖をまくって、手を見せてもらえないっすか?」

 

「え?」

 

(そうだ…あの時。捜査時間に感じた違和感。)

 

 

(妹尾さんと哀染君が歩き出す。白銀さんの遺体をもう一度視界に入れて、前を行く妹尾さんと哀染君を見た。)

 

(……?)

 

「どうしたの?早く行かないと…。」

 

(ふと感じた違和感。何だろうと考えていると、廊下へ続く引き戸に手をかけた妹尾さんが小さく声を上げた。)

 

「痛っ…。」

 

 

(あれは、甘えん坊な妹に手を取られなかった時の違和感に似ていた…。妹尾さんが前を行く時、いつも手を引っ張られていたから…。)

 

「キミは捜査時間に一度、手の痛みを訴えましたね。あれはドアで傷付けたんじゃなくて…犯行時に痛めたものだったんじゃないっすか?」

 

「……。」

 

(妹尾さんの瞳からスッと涙がひいた。そのまま妹尾さんはニコリと笑って右手を見せる。その白く小さい手の指は分かりやすく腫れ上がっていた。)

 

「……ボーリング球を振り下ろす時…球の穴に指を入れてたんだな。それで痛めたんだろ。」

 

「あらぁ?その時 手を痛めたとしたら、ナイフでめった刺しになんてできないんじゃない?」

 

「いや、おかしくないです。興奮状態の人間は痛みに気付きにくいことがあります。アドレナリン出まくってたら痛みを感じずに一連の犯行が可能です。」

 

(……自分で推理してきたが、信じられない。他の人たちも、同じようだった。自分を、彼らを納得させるために、事件を振り返っておこう。)

 

 

 

クライマックス推理

 

「事件が起きたのは、今日の午前中。全員がバラバラに探索している時だったっす。」

 

「犯人はまず、町の西エリアを探索する様子をぽぴぃ君や俺に目撃させ、小学校に向かった。」

 

「朝食時の会話で門に佐藤君がいることを知っていた犯人は、誰にも見つからないように中庭の抜け穴から校舎に入り、図書室で白銀さんに会ったっす。」

 

「おそらく『図書室で何かを発見した』と言って、誘い込んだんでしょう。」

 

「なぜ白銀さんだったのかは 分かりませんが…たぶん、身長が高いけど華奢で非力そうな彼女なら…と思ったのかもしれません。」

 

「図書室に来た白銀さんは、犯人の『本棚と床の隙間に何かある』という言葉に従い、本棚の下のプチトマトに手を伸ばしたっす。這いつくばる形で。」

 

「その時すでに犯人は持っていたプチトマトを本棚の下に入れて、ボーリングの球やアーミーナイフ、シーツなどを図書室内に準備していた。」

 

「そして、犯人はボーリングの球を這いつくばった白銀さんに打ち付けた。重力に手伝わせる形で振り下ろせば、力もコントロールもいらないっすから。」

 

「高身長の白銀さんの後頭部を打てないという理由で、自分が犯人候補から外れる。それも計画の内だったんでしょう。」

 

「犯人はその後、白銀さんにシーツを掛けた上で顔や体をナイフで滅多刺しにした。おそらく、これが怨恨による殺人の可能性を偽装するためっす。」

 

「その後、犯人はアイコさんが中庭にいないタイミングで小学校から出た。そして、死体発見アナウンスが流れたのを聞き、校門から校内に入ったっす。」

 

“超高校級のポエマー” 妹尾 妹子さん、キミがこの事件の犯人っす。」

 

 

「……。」

 

「何か反論はないっすか?」

 

「…間違い、あるよ。」

 

「あなたが…犯人じゃないってこと…?」

 

 

「…白銀お姉ちゃんを選んだ理由だよ。あたしが白銀お姉ちゃんを選んだのは……憎かったからだよ。」

 

「……!」

 

「あぁ!?」

 

「おかしいわねぇ。白銀さんがあなたに恨みを買うようなことなんてーー…。」

 

 

「おやおや、結論が出たようですね?では、はりきって参りましょう!シロとクロの運命を分ける……投票ターイム!」

 

(話の途中でモノクマに急かされ、俺は投票画面を見据えた。ボタンのひとつを震える指で押さえる。そしてーー。)

 

(票は妹尾さんに集まり、それをモノクマが「大正解!」と楽しげに発表した。)

 

 

 

学級裁判 閉廷

 

「”超高校級のコスプレイヤー” 白銀 つむぎさんを殺したのは、”超高校級のポエマー” 妹尾 妹子さんでしたーー!」

 

「クソ!クソッ!!何でだよ!?何で白銀を殺しやがった!?」

 

「ニクカッタ?肉買ったデスカ?」」

 

「つむぎが、いもこに何したって言うの?」

 

「……何のために、あなたは白銀さんを殺害したんですか?」

 

(みんなの問いに、妹尾さんはニッコリ笑ってーー)

 

 

「……蘭太郎お兄ちゃんのためだよ。」

 

「………は?」

 

「あたしが、蘭太郎お兄ちゃんを町から出してあげるって決めたの。」

 

「あたしが白銀お姉ちゃんを殺せば、蘭太郎お兄ちゃんはここのことを忘れて、あたしのお兄ちゃんになれるんだよ。」

 

「何を…言って…。」

 

(この状況で屈託なく笑う妹尾さんは、一種 異様な雰囲気だった。)

 

「ねぇ、お兄ちゃんは、何で白銀お姉ちゃんが良かったの?おっぱい大きいから?背が高いから?髪が長いから?」

 

「あたしのお兄ちゃんなのに、ひどいよね…。」

 

「だから、殺したの。邪魔な白銀お姉ちゃんを殺したの。蘭太郎お兄ちゃんのためだもん、これくらいするよ!」

 

 

(何を…言ってるんだ?)

 

「でも…失敗しちゃった。ごめんね、せっかくお兄ちゃんになってくれたのに。」

 

(俺は…そんなこと、全く、望んでない。)

 

(これが…彼女の望む兄…なのか…?)

 

「もっとお兄ちゃんと一緒にいたかったなぁ…。」

 

(妹尾さんが寂しそうに笑った。その表情が、妹の1人と重なる。)

 

(俺のせいで、白銀さんが死んだ?妹尾さんが殺した…?そんな絶望感と…)

 

 

「さーて、ではでは!おしおきタイムに参りましょうかー!!」

 

(妹尾さんがこれから処刑される絶望感。)

 

「……モノクマ。」

 

(考える前に、口が動いていた。)

 

 

「……俺が代わりに処刑されるっす。」

 

「っ!?」

 

「な、何言ってやがる!?」

 

「お、お兄ちゃん…?」

 

「妹尾さん、キミをこのまま見送ったら…一生 後悔しそうなんで。」

 

「だ、だからって何で、そんな…。」

 

「だ、ダメだよ、蘭太郎お兄ちゃんは死んじゃ…、」

 

 

「ーー代わりに、絶対残りの全員で生きて…ここから出てほしい…。」

 

「天海くん…。」

 

「あと…できれば誰か行方不明の俺の妹を捜してくれないっすかね…。俺としては、永本君なら見つけてくれるような気がしてるんすけど…。」

 

「オレにはそんな力ねーけど……分かったよ。名前、教えておいてくれよ。」

 

「天海クンの勇姿はボクが語り継ぐ、全部。」

 

「…天海君、貴方のために歌を歌うわ。毎日。」

 

「もう、誰も死んだりしません!!自分が守ります!」

 

「お、お兄ちゃん…!」

 

(俺は妹尾さんに笑いかける。白銀さんを殺してしまったことを許すことはできない。)

 

(けれど、彼女を見殺しにすれば、きっと俺は俺自身を許せなくなる。)

 

(……これで、いいんだ。)

 

 

「…ねえ。天海クン。」

 

(そんな中、モノクマが俺を見て嘲るように笑った。)

 

「何で身代わりOKみたいな空気に勝手になってんの?ダメに決まってるじゃん。」

 

「あ……。」

 

「当たり前だろー!白銀さんを殺したのは妹尾さん!凶悪な殺人犯は妹尾さんなんだよ?そんな殺人鬼とこれから閉じ込められる他の人の身にもなってよね!」

 

(怒鳴り散らしたかと思うと、モノクマは すぐに声色を皮肉たっぷりなものに変え、言い放った。)

 

「うぷぷ…最後に希望をチラつかせて、結局ダメでした〜なんて、究極的な絶望だよね〜!」

 

「天海クンは分かってらっしゃる!キミは見事妹尾さんの絶望を深めることに一役買いました!いよっ!いらんことしぃ!!」

 

「というわけで、淡い希望を掴み損ねて絶望のドン底にいる”超高校級のポエマー” 妹尾 妹子さんのために、スペシャルなおしおきを用意しましたー!!」

 

「ま、待て…!!」

 

 

「蘭太郎お兄ちゃん、もう1つ違うことがあるの!」

 

(モノクマが手元のスイッチを叩くと、どこからか伸びてきた首輪が妹尾さんを捉えて引っ張る。)

 

「凶器を隠したのは…あたしじゃない…!誰か、他の人だよ!だから…気を付け…っ」

 

(俺が彼女に伸ばした手は届かない。彼女のこちらに伸ばされた手は空を掴み…絶望に染まった表情で、彼女は裁判場から連れ去られてしまった。)

 

 

 

おしおき

 

“超高校級のポエマー” 妹尾 妹子の処刑執行

『ろうどくかい』

 

妹尾 妹子は、体を固定された状態で舞台上に立たされている。

客席にいるのは、大量のモノクマたち。丸いフォルムなのに絶妙に可愛くないクマたちは、ポエムを聞かせろとヤジをクチグチと飛ばしてくる。

仕方なく、詩を朗読し始めた。クマに聞かせるにはもったいない、愛の詩。キラキラで、フワフワで、ドロドロで、ギスギスな愛の詩。

 

一息ついて見れば、モノクマたちは感動したようにプルプル身を震わせている。胸を撃たれたように手を心臓に持っていく者もいた。

その背後から現れたのは、キューピッドのような扮装をしたモノクマたち。キューピッドの手には、弓矢のようなものが握られていてーー。

次の瞬間、全身に痛みが走る。キューピッドの矢が顔へ、腕へ、足へ、突き刺さる。何十、何百という伝道師の矢は、自分に痛みしか与えない。

自らの口から発せられるのは美しい愛の詩ではなく、悲痛で可愛くない絶叫だ。

 

痛い。苦しい。もう嫌だ。早く、逝きたい。

声にならない言葉を聞いたモノクマは、再び心を打たれたように胸に手を当てる。霞む視界で捉えたのは、モノクマの後ろに現れたキューピッドが放つ一際 大きな弓矢だ。

ーーああ、あれはきっと、的確に自分のハートを貫くんだろう。

痛みと苦しみの中で、その矢が射し込まれることだけが、幸せだった。

 

…………

……

(妹尾さんの悲鳴が聞こえなくなった裁判場は、静まり返っていた。誰もが何も言えなかった。)

 

(俺も、胃からせり上がってくるものを必死に耐えることしかできない。)

 

(誰かが言った。「帰ろう」と。どこへ?どうやって?帰る場所はあるのか?)

 

(足元がふらつく。それでも、裁判場から早く出たいという思いを原動力に動き出した。)

 

 

「……あなたは何も悪くない。白銀 つむぎは…あなたを恨んだりしない…。悪いのは……、この、コロシアイだよ。」

 

(小さく語りかけてきた哀染君の言葉がやけに遠くに聞こえた。)

 

 

 

【東エリア”野比家”】

 

(どうやって部屋に戻ってきたんだろう。)

 

(分からない…。)

 

(グルグルと、同じシーンが頭の中で繰り返されている。ここに来てからみんなと話したこと。見たこと。)

 

(白銀さんの物言わぬ遺体。冷たくなった指。妹尾さんの絶望の表情。)

 

(俺が原因になった…?俺のせいで…2人とも…?)

 

(俺が何もしなければ…関わらなければ…。)

 

(妹尾さんの最期の言葉が頭の中に木霊する。)

 

凶器を隠した人は他にいる……一体、誰が?)

 

(ーーいや、もう余計なことを考えるのはやめよう。俺は…何もしてはいけないんだ。)

 

(余計なことはしない…もう、何も。)

 

 

 

第一章 絶望ポケット 完

第二章へ続く

 

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