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第二章 少年よ、殺意を抱け(非)日常編I

 

【東エリア “野比家”】

 

(ぼくの名前は…哀染レイ。”超高校級のアイドル”だ。)

 

 

(鏡に向かって笑顔を作る。)

 

(ーー大丈夫。これなら いつも通り、”アイドルの哀染レイ”を演じられる。)

 

(昨日はできなかった。殺人が起こって、1人が殺され、1人が処刑された。でも、もう大丈夫だ。)

 

(ーー決めたから。”白銀 つむぎ”との思い出を胸に前に進むって。

 

(それが、あの人のためにもなるんだ。)

 

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のアナウンスだ。深呼吸をして、部屋を出る。)

 

(目の前のドアの奥からは何も聞こえない。軽くノックをしてみた。)

 

(「蘭太郎君」と声をかければ、しばらくして扉が開いた。)

 

「哀染君、おはようございます。」

 

(目の前の彼がうっすら笑う。しかし、目の下のクマは一睡もしていないことが伺えた。1日と立ってないはずなのに、老け込んだようにすら見える。)

 

「蘭太郎君、朝ごはん食べに行こう。」

 

「……そうっすね。」

 

(彼に習って笑顔を作ったけど、上手くできたか自信がない。昨日から、上手い笑い方を思い出せない。)

 

(2人して並んで歩くと、初日に彼と初めて会った時を思い出した。あの時と違って小学校へ向かう足取りはずっと重かったけれど。)

 

 

 

【小学校1階 給食室】

 

「おっそいぞー、2人とも!」

 

(給食室に着くと、すでにみんな集まっていた。みんなと言っても、昨日より2人少ないけれど。)

 

「おう…オレも今日は早かったろ?」

 

「早く速くはやく食べよう。腹ペコ大敵。今日も点滴。」

 

「うるせーぞテメーら!メシの時は行儀良くしやがれ!」

 

(みんな、いつも通りに振舞っている。あの凄惨な事件をなかったことになんて、できるはずないけど…。)

 

(それでも、ただ俯いているよりずっといい。もう一度、鏡の前と同じように笑顔を作った。)

 

「はい、天海くんの分、どうぞ。」

 

「いただきますっす。」

 

(隣に座った彼も、口元を引き上げて笑った。けれど、みんなと同じようにーーいや、みんな以上に、彼の笑顔はどことなく力ない。)

 

(みんなが必死に平静を装った朝食会は、給食室のモニターによって遮られた。)

 

 

『オマエラ、朝食は済んだかな?今スグ南の鏡の壁の前に集まってくださーい!』

 

(モノクマのアナウンスに、一気に緊張が走る。)

 

「ど、どうすんだよ?」

 

「い、行くの…?」

 

「行くっきゃねーだろ!」

 

「そう…ですね。」

 

(立ち上がって駆け出すみんなの最後から、彼らの背を追った。)

 

 

 

【南エリア 鏡の壁 前】

 

(鏡の壁まで来ると、モノクマが仁王立ちで待っていた。今度は何があるのか。みんな顔を強張らせてモノクマの言葉を待つ。)

 

「オマエラには、ニューステージに言ってもらいまーす!」

 

「ああ!?何だよニューステージって?」

 

「”新たな舞台”ってことだよ?まあ新たなって言っても、新しく用意したわけじゃないけどね。」

 

「何を訳の分からないことを言ってるんだね?」

 

「御託はいい…。早くしろ。」

 

「もー急かさないでよ。ボクには今 便利なポケットなんて付いてないんだからね。」

 

(モノクマが何かブツブツ言いながら鏡の壁の前に立つ。ちょうど、先日見つけたドアのような継ぎ目がある部分だ。)

 

「どこかなドア〜!」

 

(モノクマが言うと、ピンクのドアが鏡の壁に現れた。そして そのドアが開くと、町とは異なる風景が広がっていた。)

 

「え!?な、何ですかコレ!?」

 

「どんなトリックですか?」

 

(本当に…昨日の裁判場といい、どういう仕組みなんだろう?)

 

「さあみんな、10作目のステージはおしまい!ここから、新しいステージへ進むと良いよ!ちなみに、ここから先は戻れないからね。」

 

「移動するってこと?どうして?」

 

「言ったでしょー!ファンサービスだってば!ちなみに、次の舞台は とあるゲームの23作目オマージュだよ。」

 

「ファ、ファンって何のこと言ってるの…?」

 

「…誰かが見ているということですか?」

 

「誰かって?誰が?うぷぷ…。そんなこと考えるより、バレない殺し方考える方が有意義じゃないかな?ほらほら、早く行った行った。」

 

(モノクマが次々にみんなを押し込むようにドアへ促す。)

 

(みんなの後を追い、ドアへ近づく。最後に振り返って小学校の方を見やった。)

 

(さようなら、つむぎ。)

 

 

 

【南エリア 山頂】

 

(ドアの先は開けた場所だった。どこかの山の山頂だろうか。けれど、天まで続く鉄格子が開放的な風景を閉じ込めている。)

 

「な、なんだよ、ここは…。」

 

「だから、ニューステージだよ。ずっとあの町にいるのも飽きちゃうだろ?ボクからのささやかなプレゼントです!」

 

「ふざけんな!ンなことより家に帰しやがれ!」

 

「ああ、キミたちの”家”はまたモノパッドに記載してるから確認してね。ではでは、ネクストステージを楽しんで〜。」

 

(モノクマはそう言うと、ドアと共に消えた。ドアがあった場所は崖になっていた。)

 

 

「どうしよう…。また変なとこに来ちゃって…どんな危険があるか…。」

 

「とりあえず、山を下りる道がありますね。調べるべきです。」

 

「さんせーい!オラわくわくすっぞ!」

 

「おらもおらもー!ね、らんたろーはこういう所慣れてるんでしょ?先頭を任せた!」

 

「……ああ、そうっすね。じゃあ俺が先頭を行くっす。」

 

「さすが山の子 冒険家。」

 

(みんなが道を進んで行く。その後を追いながら、もう一度空を見上げた。)

 

(空を取り囲む鉄格子。山全体をこんな風にできるものなのかな…。まるで…あらかじめ行ける場所が決まっているゲームのようだ。)

 

 

「おい、ありゃ何だ?」

 

(山を下りたところで、先頭を行く面々が足を止めた。)

 

温泉のようだね。」

 

「あらぁ、ありがたいわねぇ。」

 

「温泉カラダにいいデス。ワタシの薬とドッコイドッコイ。」

 

「緊張感ねーな…。」

 

「…温泉の奥。」

 

「扉がありますね!トンネルでしょうか?」

 

(温泉の湯気の向こうに、扉が見えた。トンネルの入り口を蓋するような木の扉だ。)

 

「これは鉱山っすね。こんな扉のある鉱山入り口は珍しいっすが…。」

 

 

 

【南エリア 鉱山】

 

「ほお、中はただの空洞って感じだけどーー」

 

「うおっ!へ、ヘビがいるぞ!?」

 

「みなさん!下がってください!大蛇です!!」

 

(薄暗い鉱山内部から上がる悲鳴。振り返ると、大きなヘビがとぐろを巻いていてーー。)

 

「これ、ツクリモノですネ。」

 

「ほう、ずいぶん精巧に作られているな。」

 

(そのヘビは舌を動かすだけで、体はピクリとも動かない。恐る恐る近付き触ってみると、フェルト生地のような柔らかさがあった。)

 

「な、何だよ、驚かせやがって…。」

 

「どしたの郷田クン、ヘビ嫌い?」

 

「好きなわけあるか!こんな気持ち悪ィ形状のモン!毒があるヘビだっていんだぞ!危ねーだろ!?」

 

(彼は よほどヘビが嫌いなのだろう、近寄ることすらなく、鉱山入り口に戻って行く。)

 

「オイ、ここには何もなさそうだろ。早く行くぞ。」

 

 

 

【南エリア 西牧場】

 

「ここは…牧場?」

 

(道なりに進んだ先には、牧場のような広大な土地が広がっていた。牛舎と思しき建物から牛の鳴き声がしている。)

 

「電子パッドによると…この牧場の家が俺の宿舎みたいっすね。」

 

「あらぁ、牧場に泊まるなんて素敵ねぇ。」

 

「みなさん、俺ちょっと自分の宿舎にいます。少し…疲れたみたいっす。」

 

「僕も少し疲れたよ。」

 

「…私も。」

 

「そうですね。険しくないとはいえ、みなさん山を下りてお疲れでしょう。この場所の探索はまたお昼からにしませんか?」

 

「うん…そうだね…。」

 

「じゃあ、みんなそれぞれ宿舎に行こうじゃないかー!」

 

「待て。ワケ分かんねぇ場所なんだ。とりあえず固まって行動するぞ。」

 

(電子パッド…モノパッドの地図を頼りに、みんな何人かのグループを作ってそれぞれ散って行く。)

 

「あ…、蘭太郎君。」

 

「何すか?」

 

「……いや。ゆっくり休んでね。」

 

(彼にかける言葉が見つからず、牧場の片隅にある小さな家に入って行く背中を見送った。)

 

 

 

【町 南エリア】

 

「うわ、また町ですね!?誰か住んでいるんでしょうか?」

 

「探しに行こうか!」

 

「いや〜またいないパターンしょ。」

 

(牧場の先は牧歌的な町が広がっていて、レンガで舗装された道や建物は外国のような雰囲気だった。)

 

(それでも、ところどころにあるモニターやカメラがその雰囲気を異様なものにしている。)

 

「哀染の宿舎は中央エリアの宿屋…オレと同じだな。」

 

「そうだね。一緒に行こうか。」

 

「アタシもアタシも宿屋が宿舎〜!宿屋の下はレストランになってんだってさ!寝坊しても大丈夫じゃん永本!」

 

「いや、オレ別に朝弱い訳じゃねーよ。」

 

(3人で連れ立って宿屋まで到着した。簡素な造りの宿屋で、それぞれの宿舎は2階にある3部屋だ。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋2階】

 

(部屋の中もシンプルな作りで普通の宿といった感じだ。1台ずつ設置されたカメラとモニター以外は。)

 

(シャワールームにカメラがないことを確認して、ベッドに身を投げ出す。色々な疲れでそのまま眠ってしまいそうだった。)

 

(ベッドの傍らで懐から滑り落ちた自分のモノパッドが光を放った。偶然開いてしまったらしい、校則のページが映し出されている。)

 

 

1. “コロシアイ課外授業”における共同生活に期限はありません。

2. 学園内で殺人が起きた場合、全員参加による学級裁判が行われます。

3. 学級裁判で正しいクロが指摘できれば、殺人を犯したクロだけがおしおきされます。

4. 学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、クロ以外の生徒であるシロが全員おしおきされます。

5. クロが勝利した場合は “コロシアイ課外授業”を卒業し、外の世界に出ることができます。

6. シロが勝ち続けた場合は、最後の2人になった時点でコロシアイは終了です。

7. 夜10時から朝8時までは”夜時間”です。就寝の際は、各自 部屋で休んでください。ただし、コロシアイを理由とする場合は不問とします。

8. 学園長兼町長であるモノクマへの暴力は固く禁じられています。

9. モノクマが殺人に関与する事はありません。

10. モノパッドは貴重品です。自身のモノパッドは常に携帯し、壊さないでください。生徒同士の貸し借りもできません。

11. “死体発見アナウンス”は3人以上の生徒が死体を発見すると流れます。

12. ステージについて調べるのは自由です。行動に制限は課せられません。ただし、コロシアイ以外の目的で器物を破損させることは禁止です。

13. 校則違反を犯した生徒は処分されます。

14. コロシアイの妨げとして建物を故意に封鎖する行為を禁止します。

15. なお、学園長の都合により校則は順次増えていく場合があります。

 

(前に見た時から1つルールが追加されている。このルールは なぜ決められているんだろう。何か意味があるのかな。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋1階】

 

(昼食時になると、それぞれの宿舎からみんなが1階レストランに集まって来た。いつの間にか用意されていた食事を囲む。)

 

「あんだよ、緑頭がいねーじゃねーか。」

 

「疲れていたみたいですから、まだ休んでいるんじゃないでしょうか。」

 

「飲んだら48時間 眠りツヅケルの薬 売りてます。アマミ買いマスか?」

 

「薬に頼るのは良くないわぁ。」

 

「………そうでも、ない。」

 

「食欲がないのかもしれないね。夕食前にぼくが誘いに行くよ。」

 

「そりゃあ、食欲もなくなりますよね…。昨日の今日ですからーーあ……す、すみません!!!」

 

(”昨日”。その言葉で場が静まり返る。)

 

「な、なあ、もう落ち込むのはやめようぜ。新しい場所に来たんだ。何か手がかりがあるかもしれないだろ?」

 

「あるかなあるかな?脱出の糸口。」

 

 

「モノクマが用意した場所に脱出のヒントがあるかは疑問だがね。」

 

「うっ…。」

 

「でも…圭君の言う通りかもしれないよ。ここに手がかりが全くないとは言い切れないんだし。」

 

「そうねぇ。まだ何も見てないんだから、何があるのか探してみましょう。」

 

「Why don’t you do your best?」

 

「そうですね。わたしたちで今できることをしましょう。」

 

(昼食を取り終えると、みんなは散って行く。)

 

(……大丈夫。昨日より笑顔を作れてる。絶対残ったみんなと脱出するんだ。)

 

(夕食に誘うついでに牧場の確認をして…まだ見ていない北エリアも見ておきたいな。何からしようかな。)

 

 

 地図を確認しよう

 牧場の様子を見に行こう

 北エリアを見に行こう

全部見たね

 

 

 

(自分のモノパッドからマップを開く。前回のステージから地図が更新されていて、この場所の地図が映し出された。)

 

(モノパッドを常に携帯しろというのは、このためなのかな。)

 

(北、中央、南に区分された町。町の南エリアには牧場と養鶏場、鍛冶屋がある。そこから今朝の温泉や鉱山、山への道が続いている。)

 

(中央エリアは宿屋と果樹園、広場。北エリアには図書館や道具屋、病院、教会があるみたいだ。)

 

(かなり広い。今日1日で調べるのはまず無理だろうね。)

 

 

△back

 

 

 

【南エリア 西牧場】

 

(山から町に入る途中に通った牧場に戻って来た。牛舎からは牛の声がしていて、こんな状況でなければのんびりした時間が楽しめただろう。)

 

(そんな広大な敷地に佇む小さな家の扉をノックする。)

 

「蘭太郎君。」

 

(しばらくしてガチャリとドアが開く。現れた顔は疲れ切っていた。)

 

「哀染君、どうかしたんすか?」

 

「いや、昼食を食べに来なかったから…気になって。」

 

「ああ…すみません。寝てしまってたようっす。夕食は行きますんで。」

 

(彼はニコリと笑って部屋の中に入ってしまった。)

 

(今は休ませてあげた方が良いかな。)

 

 

 

【南エリア 養鶏場】

 

(牧場の隣には養鶏場が、さらにその奥にも牧場があった。養鶏場の家の前で話している2人に声をかける。)

 

「ローズ、撫子。」

 

「アイゾメ!元気デスカ?」

 

「う、うん。2人はここが宿舎なの?」

 

「ええ、わたしとローズさんはこの”養鶏場の家”が宿舎のようです。」

 

「ヤマト先生と2人、ウレシいデス。」

 

「先生?」

 

「あはは、ローズさん、先生なんて言わなくて良いですよ。」

 

「ヤマト先生、日本語教えてくれマス。ダカラ先生デス。」

 

「そうなんだ。撫子は日本語の先生の才能もあるんだね。」

 

「いえいえ、日本語を教えるボランティアもしてるので、慣れてるんですよ。」

 

「ワタシ先生とミンナのためにカラダはりマス!カラダはったお笑いを目指すヨ!」

 

「……えーと、そんなことはしなくて良いんじゃないかな?」

 

 

 

【南エリア 東牧場】

 

(養鶏場の隣は先ほどの牧場とは別の牧場になっているようだ。小さな牧場地帯で牛が機械的な動きを繰り返している。)

 

「やあやあ、哀染クン!」

 

「ぽぴぃ君。キミはここが宿舎なんだね。」

 

「そうそうそうそう。涙そうそう。ボクは牛と暮らす民。」

 

「この牛もニセモノだよね。でもこの鳴き声…。」

 

「フェイクボイス。フェイクボイス。録音された音流してる。」

 

(放牧されたニセモノの牛。触ると鉱山のヘビと同じ布のような柔らかさだった。けれど、その内側からリアルな牛の鳴き声が聞こえている。)

 

(そこまでして牧場を演出する理由は何なんだろう。)

 

「そうそう。”超高校級のアイドル”の哀染クンにボクからのお願い。」

 

「何?」

 

明日の昼食会を盛り上げるため1曲歌ってプリーズ。」

 

「えっ…。」

 

「みんな落ち込み暗い雰囲気。そんなみんなを笑顔にしたい。ランチ食べながらエンタメ地獄。これまさにお茶の間チック。」

 

「みんなが落ち込んでるから元気付けたいってこと?」

 

「そうそうそうそう。そうめんのつゆ。ボクの芸、夕神音サンの歌、哀染クンのアイドルスマイルでみんなもスマイル。」

 

「ちょ、ちょっと待って?ゆ、美久も歌うなら ぼくは良いんじゃないかな?」

 

「アイドルは夢を与えるプロフェッショナル。ぜひ哀染クンに歌って踊ってもらいたいのさ!」

 

「いや…あのさ、」

 

「ではでは明日の昼食会!楽しみに!」

 

(こちらが何か言う前に彼はさっさと行ってしまった。どうしよう。正直、歌はそこまで得意じゃないのに…。)

 

(ーーいや、でもみんなを笑顔にするのがアイドルだ。やれるだけやってみよう。)

 

 

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【町 北エリア】

 

(北エリアには図書館や病院、道具屋、教会などがある。その他、民家がいくつか並んでいた。)

 

(ひとつひとつ建物内を調べていくが、手がかりらしきものは見つからない。病院に入ろうとしたところで、病院から出てきた人物とぶつかった。)

 

「わっ…。」

 

「あ、琴葉。ごめんね。大丈夫?」

 

「平気だよ。」

 

「琴葉の宿舎は病院なの?」

 

「そう。2階が寝室になってるの。」

 

「あれ?琴葉、何だかご機嫌だね?」

 

「……見て。」

 

(心なしか弾んだ声を出す彼女の後に付いて病院に入る。ごくごく一般的な診療所という形だが、診療室には謎の薬が並んでいた。)

 

「誰かがここで新薬開発をしてたみたい。機器もサンプルもたくさんあるし、私も研究しようと思って…。」

 

「すごく嬉しそうだね。」

 

「……。」

 

(キラキラ目を輝かせていた彼女が真っ赤になって黙ってしまった。)

 

「あ…ごめん。ぼくも好きなことを話す時 夢中になるから分かるよ。もし新薬ができたら見せてくれる?」

 

(言うと、彼女は小さくうなずいた。そして薬をガチャガチャいじり始める。…邪魔しない方が良さそうかな。)

 

 

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(時間は夕方にさしかかっていた。町中を色々調査したけど、これといった手がかりは見つからなかった。)

 

(探索に有利な才能でもあればよかったんだけど…。)

 

(そんなことを考えていると、どこからともなくすさまじい美声が聞こえてきた。考えるまでもなく、歌姫の歌だ。)

 

(歌声は小さな教会から聴こえてくる。)

 

 

 

【北エリア 教会】

 

(音を立てないように教会の扉を開けると、美しい声がより鮮明に耳に流れ込んできた。)

 

「〜♬〜〜〜♩」

 

(何の歌だろう。聞いているだけで涙が溢れてきそうな…歌詞から察するに愛の歌かな?)

 

「〜…あらぁ、哀染君。」

 

「あ、ごめんね。邪魔しちゃったかな。」

 

「いいえぇ。明日の練習で少し歌ってただけだから。」

 

「明日…そっか。美久も歌を歌うんだね。」

 

「ええ。あなたの歌とダンスもあるのよねぇ。楽しみだわ。」

 

「……歌姫と並ぶのはプレッシャーだなぁ。」

 

「あらぁ。人を笑顔にする才能はすばらしいと思うの。…私の歌では泣く人はいても笑ってくれる人はいないもの。」

 

「そんなことないよ。美久の歌はすばらしいと思う。今の歌も…とても感動したよ。」

 

「ありがとう。でもこの歌…あまり好きじゃないのよねぇ。」

 

「えっ。」

 

「意外だった?今の歌は、愛する人のために自分の命を捧げてもいい…そんな歌なのよねぇ。」

 

「えーと、とても綺麗な歌だと思ったけど…。」

 

「そうねぇ、歌詞もメロディもとても綺麗な歌。私がテレビなんかでよく歌わされる曲よ。」

 

「…あまり好きじゃないんだよね?」

 

「ええ。歌うことは好きだけど、共感できないのかしらぁ。でも、みんなに聴いてもらうなら1番慣れたこの歌かなぁと思ってねぇ。」

 

「ぼくは、美久の好きな歌も聴きたいな。きっと、みんなも歌姫の好きな歌を聴きたいはずだよ。」

 

「あらぁ?」

 

「どうかな?明日は美久の好きな歌を歌ってみるのは?」

 

(提案すると、彼女は満面の笑みを見せてくれた。)

 

「いいわねぇ、今 私が1番みんなに聴いてほしい歌を歌おうかしらぁ。」

 

「いいね。ぼくも1番好きな歌にするよ。お客さんを楽しませるなら、ぼくらも楽しまなきゃ。」

 

「……ってごめん、何だか分かったようなこと言って。」

 

「どうして謝るの?プロの意見はありがたいわぁ。ありがとう、哀染君。」

 

「う、うん。…もう夕飯時だし、宿屋の方へ向かおっか。」

 

「私はもう少し歌ってから行くわぁ。」

 

「そう?じゃあお先に。」

 

(教会を出て宿屋への道を進む。町の中央にある広場を通れば、15分ほどで宿屋に着いた。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋1階】

 

(レストランには、すでにほとんど全員が集まっていた。)

 

「おい、何人かいねーぞ。」

 

「みくと、ことは、らんたろーがいないねー。」

 

「蘭太郎君は夕飯は来るって言ってたからもうすぐ来るんじゃないかな。琴葉は病院で薬の研究に夢中になってたから…どうだろ。来ないかもしれないけど。」

 

「美久はさっき教会でもう少し歌の練習をするって言っていたよ。」

 

「マイペースな人たちだね。」

 

「アナタが言いマスか?」

 

「いいじゃんいいじゃん、食べちゃいなよー。アタシお腹ペコペコー。」

 

「えっ!?機械ってお腹減るんですか!?」

 

「前谷くん、ひっどーい!確かにみんなと同じものは食べないけどー、私だってバッテリー切れとか経年劣化とか色々あるんだからー!」

 

「ヒゥッ…!アイコ先パイすみませんっ!」

 

「前谷、お前機械相手でもそうなるのか?」

 

 

(その場にいる11人で食卓を囲って1時間ほどして、女性陣2人がレストランの入り口から入って来た。)

 

「テメーらおせーぞ!余計な心配かけてんなよコラッ!」

 

「お、落ち着いてよ、郷田さん…。」

 

「木野さん、夕神音さん。遅くてよ。」

 

「……。」

 

「ごめんなさいねぇ、明日の練習をしてたら寝ちゃってねぇ。」

 

「歌の練習中に…?器用なものだね。」

 

「明日の練習とは何ですか?」

 

「よくぞ聞いてくれました!明日のランチタイムは”超高校級”のエンターテイナー夢の共演!」

 

「ボクと夕神音サン、哀染クンのスペシャルショーの開催さ!」

 

「楽しそうですね!!絶対観に行きます!!!」

 

「あたしもあたしも!」

 

「オレっちも!」

 

「昼食時に開催するなら必然的に全員参加になりそうだがね。」

 

「あ、でも大丈夫かなぁ?」

 

「何がだよ?」

 

「こんな状況で”ショーの開催”…死亡フラグっていうかぁ…。」

 

「おい機械女!ふざけたこと抜かすな!」

 

「マジックショーならタネは明かさぬ手品師 容疑者フラグ付き。でもボク大道芸人 問題ない!」

 

「そうねぇ。演目が”オペラ座の怪人”の曲なんかだと誰かが亡くなりそうだけど…大丈夫よ、歌わないわ。」

 

「”お偉いさんの演説中”なんかも何か起こりそうだけど、社長も政治家もいないから大丈夫だよ。」

 

(その後、秘宝探しやら雪山遭難やら”何かありそうなシチュエーション” の話で盛り上がった。)

 

(そして、全員が夕食を食べ終わったかというところで、レストランの扉が開いた。)

 

「あ…。みんな、まだ食べてたんすね。」

 

「おそいぞー、らんたろー!」

 

「すみません。寝てしまってたっす。」

 

「……。」

 

「もうお開きっすよね?俺は遅めの夕食を頂いて帰るんで、お気になさらず。」

 

(彼が貼り付けた笑顔でそう言った瞬間、ニュルリとモノクマが現れた。思わず上げそうになった声を呑み込む。)

 

 

「ハーイ、オマエラ!やっと全員揃ったね!全く、どいつもこいつも1人じゃ生きていけないくせに、一丁前に単独行動なんてしちゃってさ!」

 

「テメー、何しに来やがった。」

 

「あらあらやーねぇ、不良みたい。1人じゃご飯も食べられないくせに!」

 

「……わざわざ現れたということは、何か用があるのでしょう?」

 

「そうそう!ボクはここの町長として、オマエラの牧場ライフを気にかけてあげてるのさ!」

 

「そしてそんな気遣いのできるクマからオマエラにスペシャルなプレゼントがあるよ。」

 

(モノクマが「ハイ」と取り出したのは、クワやカマ、ハンマーの他、ジョウロや乳搾り器、釣竿、野菜の種などだ。)

 

「テメー…またこれで人を殺せとか言うんじゃねーだろうな。」

 

「うぷぷ、その発想ができるってのは良い傾向だね!でも、今回はまだ違うよ!」

 

「ここには牧場や鉱山、釣りスポットなどがあったでしょ?ボクはそんなスポットをオマエラに最大限に楽しんでもらいたいんだ!」

 

「というわけで、しばらくの間 お出かけの際この道具のうち1つ携帯することを義務化しまーす!」

 

「牛と乳繰り合うも良し。魚の儚い命を弄ぶも良し。農業物語や鉱山物語に勤しむも良し。」

 

「道具一式は全部オマエラの部屋に置いて来たよ。使わなくてもいいから、必ず道具を1つ選んで持ち歩いてね。ルール違反者は…分かるよね?」

 

 

(モノクマは嫌な笑い声を上げて去って行った。)

 

「こ、こんな殺しができそうな道具を携帯しなきゃいけないなんて…。」

 

「大丈夫ですよ!!こんなもの持ってたって、殺人なんて起こりませんって!」

 

「……。」

 

 

「でも…あの…妹尾さんが、言ってた…よね。」

 

(”妹尾さん”。彼女の名が出た瞬間、みんなに緊張が走った。)

 

「彼女が町や小学校に凶器を隠したわけじゃなかったんだよ…?つまり、まだ…僕たちの中に凶器を隠したい人がいる…。」

 

「もし、その犯人が次の計画を立てていたらーー」

 

「ここみ…君、それ以上みんなの不安を煽るようなこと言わないでよ…。」

 

「え…?あ、ご、ごめんなさい…。」

 

(彼は一瞬驚いた顔でこちらを見てーーすぐに謝った。)

 

「モノクマが凶器を隠した可能性もあるわよぉ。私たちの中に…というのは考えすぎかもねぇ。」

 

「確かに。疑心暗鬼を煽るワナかもしれない。必要以上に気にしなくてもいいのではないかね。」

 

「せやな!だいたい、体育倉庫が閉まる前から殺人目論んどるなんて、そんな殺意高めのヤツおるはずないやん!」

 

「そーそー。心配しすぎは体によくないぞ?頭空っぽの方が胸詰め込めるって言うでしょ?」

 

「いや、夢だろ。」

 

(今朝に比べれば少しだけ明るさが戻った夕食を終え、みんなは自分の宿舎に戻って行った。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋2階】

 

(部屋に入って、一息つく。…みんなが少し明るくなって良かった。)

 

(でも、明日は歌とダンスか…。)

 

(何とか”Great Leo”の名を辱めないようなパフォーマンスにしないと…。)

 

(そんなことを考えているうちに、夜は更けていった。)

 

 

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のアナウンスで意識を取り戻す。いつの間にか寝ていたみたいだ。)

 

(身支度を整えて…昨日モノクマが言ったように”道具“を携帯する。かさばりにくいのは…野菜の種かな。)

 

(部屋を出ると、隣の部屋の扉も開いた。)

 

「圭君、おはよう。」

 

「ああ、おはよ…って、哀染、何だよその顔?」

 

「え?」

 

「クマがひどいぞ?寝てないのか?」

 

「うん、まあちょっと寝つきが悪かったんだ。」

 

(曖昧に笑って見せ、一緒に1階に降りる。すでに何人かは席に着いていた。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋1階】

 

「おはようございます。……哀染くん、大丈夫ですか?」

 

「カオ悪いデス。」

 

(顔色のことだよね…。)

 

「あまり寝てないのかしらぁ。」

 

「うん、まあね。」

 

「哀染くんは無理かもしれませんね。今日は昼までゆっくり休んでいてください。」

 

「無理って?」

 

「山頂から脱出できないかもう一度確認しようって話になったんですよ!何人かで午前中は山を登るつもりなんです!!」

 

「冒険家のらんたろーも誘ってね!」

 

「あ、いや、ぼくも行くよ。一緒に行かせてくれる?」

 

「ええと…。どうしてもと言うなら。」

 

 

「私は今日の準備をするから、みんなお願いねぇ。」

 

「頼んだボクらの未来と希望。」

 

「私はやめておくわ…機械と山は相性が悪いの…。」

 

「ぼ、僕も体力あまりないから…。」

 

「……私は病院にいる。」

 

「僕も掃除したいところがあるから先に失礼するよ。」

 

(朝食後、山に登る面々以外は宿屋から出て行く。入れ違いに入ってきたのは…。)

 

「あ、らんたろー!」

 

「テメーおせーぞ!テメーが食ったら出発だ!」

 

「どこか行くんすか?ええと、さっさと食べますから、少し待ってください。」

 

「慌てなくていいよ。」

 

(遅い朝食を取る彼が食べ終えたタイミングで山頂に向かった。)

 

(道中、掃除を終えたのか鍛冶屋の前で満足気な美化委員も合流した。)

 

 

 

【南エリア 山頂】

 

(山頂までの道のりは険しくないものの、下りよりは体力的にキツいものだった。そんな中みんなが携帯した”道具”は意外に役に立ったようだ。)

 

「登るの楽だったよね〜。らんたろーが足を取られそうな雑草をカマで刈りながら歩いてくれたからだよ!」

 

「これくらい何でもないっすよ。」

 

「クワもストックやピッケルのように使えましたね。」

 

「フム…この”道具”…邪魔だと思っていたが、持っているのも悪くないかもしれないね。」

 

「あー、オレも農具持って来りゃ良かったよ。あ、でもオレのクワすぐ壊れたんだった…。」

 

「不良品じゃねーか!おい、モノクマに文句言いに行くぞ!」

 

「ま、まあまあ、落ち着いてくださいよ!それより、どうですか?ここから脱出できそうですか!?」

 

「山頂には何もなさそうだね。」

 

「ぼくらが入って来たドアも消えちゃったしね。」

 

「この崖下りて助け呼べマスか?」

 

「……危険ではないでしょうか?」

 

「そうっすね。ここからの斜面じゃ無事に下りられたら奇跡っす。それに、人里が徒歩圏内にあるかも分かりません。」

 

「下手したら野垂れ死にだ。」

 

(山を丸ごと覆う鉄格子で進めない区画。反対側の崖からなら…というところだが、それも難しいようだ。)

 

(山頂の調査は脱出不可能を確認するに終わった。)

 

 

「ねー山登りで汗かいちゃった!温泉行きたい!」

 

「そういえば、温泉がありましたね。」

 

「温泉イイです!みんなでイキます!」

 

「み、みんなで!?」

 

「もちろん男女別ですよ。」

 

「そりゃそうだろ。」

 

「…俺は一度自室に戻るっす。」

 

「ああ、僕も鍛冶屋に忘れ物したみたいだから、失礼するよ。」

 

「あ、ぼくも先に宿屋へ戻るよ。昼の準備をしなくちゃ。」

 

「つーか、ヤローがいたら女共が安心して入れねーだろ!筋肉ダルマと地味ヤローもシャワーで我慢しやがれ!」

 

「ええ!?」

 

「…地味で悪かったな。まあ、温泉は夜まで我慢すっか。」

 

 

 

【中央エリア 宿屋】

 

(山から降りて、宿屋の自室にたどり着いた。さすがに疲れてベットに倒れこむ。)

 

(1時間は寝られたかな……そろそろ昼食の時間だ。)

 

 

(1階へ降りるとぽぴぃ君がニコニコ笑いながら近付いて来た。)

 

「やあやあ稀代のスーパーアイドル。今日のトリはキミに決めた!ボクの大道芸、夕神音サンの歌、キミの笑顔。これでフィニッシュ。」

 

「はは、善処するよ。」

 

(このために昨日徹夜で練習したからね。それにしても…トリか…。)

 

 

「おう、緑頭も連れて来たぜ。」

 

「郷田君、引っ張らなくても逃げたりしないっすよ。」

 

「るせー、テメーはメシ来んのがおせーんだよ。そんなんじゃコケがカビになんぞ。」

 

「この頭はコケてるわけじゃないんすけど…。」

 

 

(みんなが集まって来て席に着く。昼食を取り始めたタイミングでぽぴぃ君がレストラン前方に立った。)

 

「やあやあ、みなさん。ご機嫌いかが?まずはボクの大道芸!お食事しながらご覧あれ〜〜!」

 

(前にも見たジャグリング。けれど今回は昨日モノクマからもらったカマやレストラン奥にあっただろう包丁など刃物が使われていてヒヤヒヤする。)

 

(ぽぴぃ君の芸はつつがなく進行していった。が、毎回毎回なぜか刃物が使われているので正直心臓に悪い。)

 

「最後の演目〜〜!」

 

(ぽぴぃ君はレイピアの鋭い刃を口に咥え、さらにもう1本を宙に投げる。2本のレイピアは絶妙なバランスを取り、彼の上で揺れている。)

 

(最後の演目はそれだけではなかったようだ。彼は火の付いた木の棒を頭上に放り投げーー)

 

(燃え盛る炎を携えた木の棒は2本目のレイピアの刃に着地した。)

 

「ちょ、ちょっと、あれ…もし失敗したら火事になっちゃうよ…!」

 

「すごいです!すごすぎます!!芥子先輩!!!」

 

「すごいすごーい!」

 

(ヒヤヒヤさせる最後の演目が終わり、クルリと回ったぽぴぃ君がお辞儀をする。……と、ぽぴぃ君に近付く人影。)

 

「あれ?ローズさん、どうしました?」

 

「ローズちゃんも何かするの?」

 

(彼女は、ぽぴぃ君の横に並びーー)

 

「コレらの芸がもっとパワーアップしますの薬、アリマス!今ココにナイですが、ワタシの家の目薬を使えばホラ!この通り!」

 

「あぁ!ほぼ盲目のボクの目も開眼!何て効果だい!」

 

「ああー!閉じられてたぽぴぃの瞳が開かれた!?」

 

「意外とつぶらやでぇ!」

 

「いや、ここにはない目薬の効果ってなんだよ。」

 

「何だね、この茶番は。」

 

「スネークオイルビジネスというものですね。」

 

「楽しいわねぇ。」

 

(開眼したぽぴぃ君の目はひと昔前の少女マンガに出てきそうなほど大きかった。)

 

 

(彼らがひとしきり騒いだ後、演目は大道芸から歌姫の歌にシフトした。)

 

「何を歌うか迷ったんだけど…今朝のみんなの様子を見て決めたわぁ。良かったら最後まで聞いてねぇ。」

 

(言って、彼女が歌い出す。聴き慣れたメロディに美しい声が乗る。)

 

(みんな箸を止めてそれに聞き入っていた。ーーいや、箸だけでなく、体全体の動きが止まる。)

 

 

「………?」

 

(体に力が入らない。ひどく気だるく、まぶたが重い。)

 

(視界がブレて、頭は重力に従い机に伏した。)

 

(何?何が起こった…?)

 

(周囲も同じ状況なのか、確認しようにも叶わなかった。重力に逆らえなかったまぶたにより、視界は暗転した。)

 

(五感が働かない。唯一、耳だけは歌い続ける歌姫の美しい声を捉えていた。)

 

 

 

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