第二章 少年よ、殺意を抱け 学級裁判編Ⅰ

創作

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第二章 少年よ、殺意を抱け 学級裁判編Ⅰ

 

コトダマリスト

 

【モノクマファイル】
被害者は”超高校級のジムリーダー”郷田 毅。死体発見現場は鉱山内。死亡推定時刻は午前1時頃。死因は胸部を刺された出血によるショック死。側頭部に打撃痕がある。
【現場の凶器】
鉱山内で発見されたのは血の付いたクワだけ。刺殺に使われた刃物は見つかっていない。
【鉱山の扉】
鉱山入り口の内開きの扉。左右の扉に1枚の木の板を上から掛けて施錠する簡易な閂タイプ。扉の左右に直径1、2cmほどの穴が空いている。
【扉の穴に付いた血】
扉の穴の片方には少量の血が付着している。
【ヘビの人形】
死体が握っていた小型のヘビの人形。引きちぎられ、血塗れになっている。
【破壊されたモノパッド】
死体から少し離れた地点に落ちていた。郷田のモノパッドと思われる。故意に壊された跡があり、少量の血が付いている。
【郷田のメモ】
死体から発見されたメモ。内容は『話がある。午前1時に南エリア鉱山に来い。』というもの。特徴的な筆跡で書かれている。
【永本のメモ】
永本が持っていたメモ。『お前の才能を知っている。知りたければ深夜に鉱山に1人で来い。』と定規を使って書かれている。
【全員のアリバイ】
死亡推定時刻の午前1時頃、永本以外は自室で休んでいたと証言。アリバイがある者はいない。
【全員の持つ道具】
モノクマから渡された”道具”は、全員分が欠けること、重複することなく揃っている。永本のクワだけは破損している。
【永本の証言】
永本が倒れた郷田を発見した時、郷田はヘビを握っていなかった。
【松井の証言】
一昨日の午前中から昼の間に鍛冶屋から刃物が消えている。山登りの前は鍛冶屋の刃物は揃っていた。
【宿屋のキッチン】
夜時間 封鎖され、備品は20時間以内に返さなければならない。備品は捜査時間には揃っていた。夕神音によると、昨日の12時頃から夕食まで立ち入った者はいない。夕食後、夜時間までレストランに人通りがあった。
【モノクマの追加ルール】
モノクマに与えられた”道具”を最低1つ携帯しなければならない。道具はクワ・カマ・じょうろ・野菜の種・乳搾り器・オノ・ハンマー・釣竿の8種類。

 

 

学級裁判 開廷

 

「ではでは、学級裁判の簡単なルールを説明しておきましょう!オマエラの中には殺人を犯したクロがいます。 」

 

 「この学級裁判では”誰が犯人か”を議論し、その結果はオマエラの投票により決定されます。」

 

「正しいクロを指摘できればクロだけが おしおき。もし間違った人物をクロとしてしまった場合は…」

 

「クロ以外の全員が おしおきされ、クロは晴れて卒業できます!」

 

「それでは、フィーバーで200ソウル獲得を目指していきましょう!学級裁判の開廷でーす!!」

 

「……。」

 

(また…ここに来てしまった。)

 

(ニューステージと言っていたけれど、裁判場は前回と全く同じ。)

 

(前回と違うのは、遺影のような悪趣味な写真が2つ足されていることくらいだ。)

 

(ここで、もう3人も死んでしまったんだ…。)

 

「みなさん、今回の事件の確認から参りましょう。」

 

「必要デスカ?犯人、分かってマス。」

 

「……そう、だね。」

 

「現場は密室だからな。そうとしか考えられん。」

 

「えっと…。やっぱ…そうなるの?」

 

「……オレを見るなよ。」

 

 

ノンストップ議論1開始

 

「今回の事件、カンタンです。」

 

「犯人は、お前だ!ケイ・ナガモト!」

 

「まず、ナガモト、ゴウダを鉱山に来てください。呼び出しマス!」

 

「ナガモト、鉱山のカギ掛けマス!」

 

「ナガモト、ゴウダとコウロンノ末カッとナッテヤッタ。」

 

「ナガモト、ゴウダを殴って殺したデス!」

 

【永本のメモ】→呼び出し

【モノクマファイル】→殴って殺した

【永本の証言】→殴って殺した

 

 

 

「哀染、信じてくれてサンキューな…。でも、その証拠は どうなんだ?」

 

(しまった…。違ったみたいだ。)

 

 

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「それは違うよ。」

 

「モノクマファイルによると、被害者は刺殺されたんだ。」

 

洗刷子シィーシャーツゥ?」

 

「ナイフや包丁で殺されることですよ。」

 

「モノクマファイルには、出血性ショック死とあるね。」

 

「ショック?」

 

「いや、英語のショックのことだよ。」

 

「カタカナ語は、意外と海外の方にとっては分かりにくいんですよ。」

 

「アイヤ、殺すのニホンゴ難しいデス。勉強になりマス。」

 

「今回のケースは…死因が刃物による出血だったよね…。」

 

「殴られたんじゃなく刺されたのが死因…白銀先パイの時とは逆なんですね…。」

 

「……。」

 

「ーーあ。す、すみません!!」

 

「待たれよ、待たれ。死因が違う。それが何?」

 

「え?」

 

「死因が何でも、永本さん以外 犯行は不可能だと思いますが。」

 

「うーん、確かにそうねぇ。」

 

「ぐっ…。」

 

(本当に…そうなのかな?)

 

 

ノンストップ議論2開始

 

「鉱山の扉は鍵が掛かってた…。」

 

密室ってヤツだよね。」

 

「状況的に、犯行が可能なのは永本さん…になるよね。」

 

「いや、ちげーよ!お前らまで何だよ!」

 

「じゃあ、なぜに現場にいたのさ?」

 

「殺人以外に彼が鉱山に行く理由はないだろう。」

 

【永本のメモ】→密室

【郷田のメモ】→理由はない

【永本のメモ】→理由はない

 

 

 

「哀染君、そんなに必死になって彼を庇うのは何故なんだい?まさかとは思うが…君は “その“があるのかい?」

 

(うう…根拠のない信頼は、信頼を失うみたいだ…。)

 

 

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「それは違うよ。」

 

「圭君は、誰かに呼び出されていたって言ってたよね。」

 

「え?あ、ああ。オレの部屋に、こんなメモが挟まっててさ。『鉱山に来い』って…。」

 

(彼はポケットからメモを取り出して掲げた。)

 

「な、なんだ。じゃあ、永本先輩も被害者ってことですね!!」

 

「まあ、自作自演の可能性もあるがね。」

 

「自作自演?」

 

「永本君が呼び出されたと嘘を言ってる…ってことかしら?」

 

「悪いヤツだな〜。」

 

「いや、嘘じゃねーって!」

 

「……自作自演だとすると、不自然じゃないっすか?」

 

「どういうこと?」

 

「………。」

 

(みんなが言葉を発した彼に目をやるが、彼は黙って こちらを見るだけだった。)

 

(どういうことだろう?自作自演だと不自然なことは……。)

 

1. 演技が下手なこと

2. 金銭が絡んでいないこと

3. 密室にしたこと

 

 

 

「…………。」

 

(……知ってる。あの目はツッコミを諦めている目だ。)

 

(考え直そう。)

 

 

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「そっか。圭君が犯人なら、密室にしてわざわざ疑われる状況を作るのは、おかしいよ。」

 

「そ、そう言われれば…。逃げ場がなかった…とかなら分かるけど。」

 

「一目のない夜中の鉱山で、犯行後わざわざ密室を作るのは…確かに不自然です。」

 

 

ノンストップ議論3開始

 

「確かに おかしいわねぇ。」

 

「裏の裏かく戦法かもかも?」

 

「けいは犯人じゃないってことだよね?」

 

「被害者と相討ちになって、朝まで気を失っていたというところじゃないかね。」

 

「殴って殺したと思ってた相手が、起き上がって襲いかかる!」

 

「まさか…その時、現場に持ち込んだ刃物で刺したってことですか!?」

 

【モノクマファイル】→持ち込んだ刃物

【現場の凶器】→持ち込んだ刃物

【全員の持つ道具】→持ち込んだ刃物

 

 

 

「どういうことですか!!?哀染先輩!!???」

 

(凄まじい声量で疑問を投げかけられた。…耳が痛い。)

 

 

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「それは違うよ。」

 

「現場で刺殺の凶器は発見されていないんだ。」

 

「え!?」

 

「もし永本くんが相討ちで朝まで気絶していたなら、凶器は現場の中にあるはずですね。」

 

「捜査時間に永本さんが持ってた道具は…野菜の種だけだったね。」

 

「……刺殺する道具がない。」

 

「でもでもー、そう推理することすらも永本の作戦なら どーする?」

 

「はあっ!?」

 

「分からないかい…?『犯人が わざわざ密室で発見されるわけない』と思わせることが彼の目的だったんだよ…。」

 

「それは一体全体、どういうこと?」

 

 

ノンストップ議論4開始

 

「例えばぁ、犯行後 凶器を山とかに捨ててー、戻って来てー、鉱山を密室にするのー。」

 

「そんなことをする理由があるのかしらぁ?」

 

「初めに疑いを払拭して、無実を印象付ける。心理操作としてはあるかもしれんね。」

 

「いや…そんな推理されることなんてオレには分かんねーって…。」

 

「リスクが大きすぎる。」

 

「ヤーヤー。アーバー、ケイの隠された才能が“先見の明”とかだったら~?」

 

「彼は持ってきたクワで郷田を殴り…刺した凶器を捨ててから鉱山を密室にした。うう…悲しい…事件だったね。」

 

【永本の証言】→先見の明

【ヘビの人形】→先見の明

【全員の持つ道具】→持ってきたクワ

 

 

 

「何だよ、哀染!才能が分かってないからって無能だとでも言いたいのか?」

 

(しまった…!主に才能不明の人たちからの視線が痛い…。)

 

 

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「それは違うよ。」

 

「圭君のクワは、もらった時点で壊れてたんだ。それを持っていっても、犯行に使うことはできないと思うよ。」

 

「あ、ああ。ってかアイコ、お前、オレのクワ壊れてるの見ただろ!」

 

「はわわぁ。アイコ、忘れてたぁ☆」

 

「壊れていても殴ることくらいできたんじゃないかね?」

 

「でも…クワ、今朝 けいの部屋にあったよ。柄からバッキリ折れてたし、振り回したりできないんじゃないかな。」

 

「朝食に圭君が来なくて見に行った時だね。あの時 部屋にあったんだから、彼は鉱山に持ち込んでないってことだよ。」

 

「彼が郷田君のクワを奪って殴った…とも考えられる。現場にあったのが郷田君のクワなら、不思議なことじゃない。」

 

「でも…永本さんの持ち物は野菜の種だけだったよ…。犯人にしては…ずいぶん殺意が低いよね…。」

 

「低いっつーか、ねーよ!んなもん!」

 

「んー、永本君は犯人ではなさそうってことかしらぁ?」

 

「まあ他の可能性もあるが…とりあえず、それで話を進めても良いかもしれないね。」

 

「じゃあ、どうやって密室で刺しマシタか?」

 

「まだあるナゾは、永本クンと郷田クンの揃いのメモ。喰う寝る2人、気が合う2人。」

 

「メモ…ですか?」

 

「うん。鉱山に呼び出すメモを被害者の毅君も持っていたんだ。」

 

(懐からメモを取り出して、みんなに見せた。)

 

「このメモの筆跡は、永本くんに送られたメモと異なりますね。」

 

「永本のメモは、定規で書かれていて筆跡鑑定 不可能!対して、郷田氏のメモは手書きのクセ字じゃあ!」

 

「つよしが持ってたメモの筆跡…あたし図書館で見たんだよねー。」

 

(ーー同じだ。あのメモの筆跡には、見覚えがある。)

 

(そんなことを思い出していると、頭の中で何故か自転車に乗る自分と、自転車コースが現れた。)

 

(ーーえ!?何これ?)

 

(…と戸惑っているうちに、カウントダウンと共に自転車は走り出した。)

 

 

ブレインサイクル 開始

 

Q. 永本のメモを送ったのは?

1.永本自身 2.犯人 3.被害者

 

Q. 被害者が持っていたメモは犯人が書いた?

1.犯人が送った 2.犯人以外が送った

 

Q. 被害者が持っていたメモを書いたのは?

1.郷田 毅 2.永本 圭 3.哀染 レイ

 

▼繋がった!

 

 

 

「毅君が持っていたメモを送ったのは…犯人じゃないと思うよ。」

 

「圭君には筆跡を潰したメモを送ったのに、被害者を呼び出すのに筆跡が分かるメモを残すのは変だよ。」

 

「じゃあ じゃあ、一体、誰がメモ書いた?」

 

「あれは…被害者本人が書いたのかもしれないよ。」

 

「郷田先輩が?」

 

「…うん。ぼくは図書館で、毅君の筆跡を見たんだ。あのメモと彼の字は、似ていた気がするよ。」

 

「あ!確かに!!『が』や『に』の書き方が同じだよ!」

 

「出たな、映像記憶!」

 

「でも、自分のメモで自分を呼び出すとか意味不明じゃない?」

 

「もしかして…郷田さんのメモは、犯人宛てに送られたのかも…。」

 

「あらぁ、あのメモは郷田君が犯人を呼び出すものだったのねぇ。」

 

「どうしてゴウダ、そんなことしますか?」

 

「深夜に…しかも人気のない鉱山に呼び出す理由なんてあるんですか?」

 

「……現場にあった“あれ”が答えでしょうね。」

 

(ーー”あれ”?被害者が犯人を呼び出した理由は…。)

 

1. 友達になりたかったから

2. クラスメイトだったから

3. 鉱山で一山当てたかったから

 

 

 

「……分かり合えねーっすね。」

 

(ボソッと突き放された……!)

 

 

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「蘭太郎君が言ってるのは…今回の動機のことだよね。」

 

「動機…?」

 

「…郷田さんのモノパッドは壊れてたね。死体から離れた場所に落ちてたけど、血が付いていたよね…。」

 

「たぶん、現場にあったクワで壊されたんだろうね。」

 

「犯人が壊したってーのかい?校則違反じゃねーかい!?」

 

「いや…校則にあったのは『自分のモノパッド』についての記載のみだよ。」

 

「犯人は彼のクラスメイトだったか、関係があった人じゃないかな。だから、それが分からないように壊したんだ。」

 

「でも、確か…郷田君とクラスメイトの人はいなかったわよねぇ。」

 

「だ、誰かが…嘘吐いてるってこと…?」

 

「こ、この中に、嘘を吐かれた方はいらっしゃいませんか!?」

 

「だから、出てくるワケねーだろっ。」

 

「この中でクラスメイトの確認ができていないのは、わたし、アイコさん、ぽぴぃくん、天海くん…ですね。」

 

「え…?蘭太郎君は……。」

 

「……。」

 

(ーーそうだ。つむぎは…もう、いない。お互いクラスメイトだったことを証明することは…できないんだ。)

 

「困ったわねぇ。嘘を言ってる人なんて分からないわ。」

 

「それに、クラスメイトの確認ができていても、郷田君と関わりがあった人物がいることも考えられるね。」

 

(みんなが今回の動機クラスメイトについて考えを述べる。けれど、犯人を見つける決定打にはなりそうもない。)

 

「ツマヅイたら視点を変わります。が、いいです。」

 

「そうですね。少し視点を変えましょう。他にも、謎はあります。1番の謎は、密室…それに消えた凶器です。」

 

「永本が犯人なら、密室の謎は一発解決なのにねぇ!」

 

「オレは犯人じゃねーって話だったろ!?」

 

「まあまあ まあまあ、落ち着いて。」

 

「あのさ…。密室でも他人を殺す技術を持ってる人…ならいるよね?」

 

「何・ソレ・こわい。」

 

「モノクマは、撲殺でも刺殺でも…斬殺、感電殺、落殺、呪殺、圧迫殺、出血殺…何でもいいって言ってたよね…?」

 

「正直…そんな殺し方なんて信じられないけど…。でも、僕は思い出したんだ。思い出しちゃったんだ…。」

 

「………。」

 

「お、おい…?まさか…。」

 

密室にいる人間を殺害できる人…?)

 

「……。」

 

 

▼密室にいる人間を殺害できるのは?

 

 

 

「………。」

 

「………。」

 

(何か言ってほしい。)

 

 

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「ここみ君は…呪殺の可能性があるって言ってるんだね。」

 

「………え?」

 

「呪殺?呪いってことかね?」

 

「呪い…といえば、祝里さんだけど……。」

 

「ジュサツ?テクノロジーの申し子・アイコには、分かりかねますな。」

 

「トツゼンのオカルト、びっくりです。」

 

「えっと…できるの、それが?祝里サンには?」

 

「いやいや、人を殺すなんて、できないよ!あたしができるのは、”おまじない”だもん!」

 

「………。」

 

「……。」

 

「でも…僕は、モノパッドで思い出してるんだ…。祝里さんが…依頼を受けて、たくさんの人を呪い殺して…。」

 

「やだなー、ここみ。何 言ってんの?そんなこと、あるワケないじゃん!」

 

「え、気付いてないわけないよね?祝里さんが “おまじない”した人、みんな死んでるんだよ…?呪いでーー…」

 

「やめてよ!そんなことしてないよ…!」

 

「……僕も、信じたくないよ。」

 

(呪殺…。現実離れしているけど…彼女とクラスメイトの3人は……呪いについて何かを知ってる…?)

 

「……モノパッドの記憶ですね。佐藤くん、詳しく教えてくれませんか?」

 

「う、うん。祝里さんに依頼をする人、たくさん学校にもいて…祝里さんは笑顔で引き受けてたよ。」

 

「そして…ターゲットは、いつも不審な死を遂げるんだ…。胸に大きい五寸釘を打たれたような穴を開けて…。」

 

「そんなの、あたしとは関係ないよ!あたしは…”おまじない”しただけだもん!」

 

「永本クンと木野サンも、祝里サンのクラスメイト。2人の見解は?」

 

「いや…。確かに そんな噂はあったけどさ、祝里自身は否定してたし…。呪い殺すなんて…ありえねーだろ?」

 

「無理…だと思う。」

 

「さすがに…理論的ではないと思うがね。」

 

「あり得ないデスネ。」

 

「で、でも、そのターゲットの中には、今回みたいに密室で殺されてる人もいたんだよ…。」

 

(どうなんだろう…。いくら”超高校級の呪術師”とはいえ…人を呪い殺すなんてことが本当にできるのかな?)

 

「あ、あたしじゃないよ!人を殺したことなんてない!”おまじない”で、人が死ぬなんて…あり得ないよ!」

 

「だって…キミが”おまじない”した人…100%死んでるよね…?」

 

「偶然でしょ?そんなの、あたしの”おまじない”とは関係ないもん!」

 

「……。」

 

(2人の応酬が突然 終わり、一瞬だけ裁判場が静かになった。けれど、すぐ彼の呟きが響いた。)

 

「…考えないようにしてるんだね。」

 

「えっ…。」

 

「馬鹿になれば、考えなければ…何人殺しても罪悪感なんて…ないもんね…。」

 

「違う…違うよ。あたしは…みんなの幸せのために…。」

 

(そう言って震え出す彼女の顔から血の気が引いていく。)

 

(ーーまるで、本当に人を呪い殺したことがあって、それに気付いたかのように。)

 

「違うんだよ、みんな。あたしね、”おまじないで幸せにしたい”って依頼を受けるの。」

 

「それで、その人に”おまじない”するんだよ…。幸せになれる”おまじない”…。」

 

「どんな おまじないなのかしらぁ?」

 

「それ…は…。」

 

「午前2時に、ターゲットの私物が入った人形に五寸釘を打つ…だっけ…?」

 

「……。」

 

「おい、佐藤!」

 

「それは何のギシキですか?このクニの文化は複雑怪奇デス。」

 

「いえ…一般的な文化ではありません。丑の刻参りという…昔から伝わる呪いの種類です。」

 

「ちが、あたしのは…”のろい”じゃなくて…”おまじない”…。みんなが…幸せになる、ように…。」

 

「ちなみに、君の依頼主たちは自分のターゲットを どのように評していたのだね?」

 

「……!」

 

「そらあ、呪い殺してくれってんだから『死ねばいい』『憎くて憎くて仕方ない』って感じだろ?」

 

「ち、違う…みんな、”この人におまじないを”って…。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「御二方!皆の命が懸かっておるのじゃ、口を開けたもれ!」

 

「……記憶、ある。教室に来た…依頼人の顔…。」

 

「ああ。みんな…憎悪に塗れた顔してたな…。」

 

「ちが…違う…。」

 

「祝里さん。だめだよ…。」

 

「え…。」

 

「目を逸らしたら、だめだよ。自分が殺した人たちのこと…しっかり考えないと…。」

 

(彼が言うと、暫くの間、裁判場を静寂が支配した。)

 

(みんな困惑した様子で、彼女を見つめていた。彼女はというと、目を見開いたまま俯きーー…)

 

「うあ…あ、ああ…。」

 

「お、おい、祝里…?」

 

「うあ…あ、あああああああ!」

 

「!?」

 

(自身の身体を抱きしめて呻き、叫びのような声を上げた後、俯いて動かなくなってしまった。)

 

「し、栞…大丈夫?」

 

「………。」

 

「え…と。あの…全然、話に ついていけてなかったんですが…。」

 

「呪殺の可能性がある…ということでしょうか…?本当に…?」

 

「チッ。オレの苦手分野だぜ…。」

 

「俄かには信じられないが…。」

 

「あらぁ、人の強い気持ちで不思議なことは起こるわよ。言霊信仰とかノーシーボ効果とか。」

 

「言霊信仰とノーシーボは…全然 違う。」

 

「ゴウダを殺したのは、祝里デスか?」

 

「いやいや いやいや、本当に?」

 

「………。」

 

「祝里さん?」

 

「………。」

 

「祝里さん、どうなんだね?」

 

「………。」

 

「イワサト、聞いていマスカ?」

 

「祝里先パイ?」

 

「栞…?どうしたの?」

 

(俯いた彼女を覗き込む。彼女は、こちらの声が聞こえていないかのように虚ろな瞳で黙っていた。)

 

「ま、待って…。これは…心の防衛反応だよ…。」

 

「防衛反応?」

 

「これ以上の強いショックを心に与えないために、精神崩壊しないように…身体が彼女を守ってるんだよ。」

 

「……。」

 

「祝里…?話、聞こえてないのか?」

 

「………。」

 

「これ以上 刺激すると…まずいかもしれないね。」

 

「それは困るわねぇ。」

 

「けどよ、精神崩壊の心配してる場合じゃねーよ?間違ったら、全員 死亡なんだぜ?」

 

「本当に?本当に、郷田クンは呪い殺された?」

 

「呪いの力でヤッチマッタですか?」

 

(呪い殺す…そんなことが現実的にできるとは思えない。)

 

(でも、”超高校級”に普通じゃない力が宿っていても、おかしくない…。)

 

(みんなだって…普通じゃ信じられないような力を感じる時があるはずだ。だからこそ、みんな半信半疑なんだ。)

 

(重苦しい空気を まとった裁判場。静寂の中で、隣から静かな息遣いが聞こえた。)

 

 

学級裁判 中断

 

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