第二章 少年よ、殺意を抱け 学級裁判編Ⅱ
学級裁判 再開
(呪殺の可能性がある。信じられないことなのに、みんな黙っていた。どこかで、半信半疑になっている証拠だ。)
(そんな中 聞こえたのは、隣からの静かな声だった。)
「……郷田君の件は、祝里さんじゃないと思うっす。」
「え?」
「哀染君も聞いてましたよね。図書館で。」
(隣の彼が こちらを見る。「キミが答えろ」と言っているみたいに。)
(……どうして自分で話さないんだろう。)
(彼を見つめても、答えは返ってこなかった。)
(彼が言うのは…呪い殺すことが本当にできたとしても、今回は無理だということ?その理由はーー…。)
1. お金がない
2. MPがない
3. 道具がない
「……マジで驚くっす。」
(驚くというより…ヒいてない?)
△back
「”おまじない”には、五寸釘がいるんだよ。この町で釘は見なかったし、建物や家具から釘を抜く道具もないよね。」
「お、おお、そうか…。」
「…うん。釘も、釘を引き抜く道具もない。」
「でも、古今東西、呪いの仕方、100通り。」
「そうだよ。釘を使わない呪いもあるのかもしれないよ。」
「永本くん、佐藤くん、木野さん。どう思いますか?」
「え…えっと…。僕も前に聞いたことがあるけど…いつも祝里さんは同じやり方だって言ってたよ。」
「オレは そんなこと聞いてねーけど、そう言ったなら本当だ。祝里は嘘吐けるほど器用なヤツじゃねーよ。」
「…そう思う。」
「あ…。それに、”おまじない”の時間は午前2時らしいよ…。今回の被害者の死亡推定時刻とは…異なるね。」
「彼女のクラスメイトは、あなたたちで確認できています。」
「祝里さんが犯人なら、何故 郷田くんのメモが送られたのかという新しい疑問が出てきますね。」
「ああ。郷田はクラスメイトじゃねーよ。祝里を呼び出す理由なんてねーはずだ。」
「クラスメイトも知らない祝里さんの姿を郷田君が思い出した可能性もあるが…。」
「ちなみに、佐藤君。祝里さんが密室の中の物を自由に動かしたりできるという噂もあったんすか?」
「え…。あ、さすがに…そんな話はなかったよ。」
「じゃ、じゃあ、呪いの力でクワを操ってモノパッドを叩き壊した…なんてことは無理なんですよね?」
「スーパーナチュラルすぎマスネ。」
「………。」
(今回の事件が彼女の呪殺ではないという意見に傾いても、彼女は俯いたままだ。)
「祝里さん…。ご、ごめん。おまじないに人形を使うって言ってたから…僕、ヘビの人形を使って…かと思って。」
「………。」
「祝里…。」
「そ、そういえば…郷田先輩はヘビの人形を握ってましたね。しかも、ヘビの人形は引きちぎられてました。」
「R18Gって感じだったし〜。」
「あれは何だったのかしらねぇ。」
ノンストップ議論1開始
「彼が握った、ちっちゃなヘビ。あれは、何かな何かな?」
「苦し紛れに掴んだのじゃないかね?」
「刺されて凄ぇ痛かっただろうしな…。」
「それをマギワラス?マギラワス?ためデスネ!」
「…犯人が握らせた…可能性もある…。」
「……哀染君。さすがに、今は冗談を言っている場合じゃないわぁ。」
(冗談のつもりじゃなかったんだけどな…。)
△back
「それは違うよ。」
「圭君が殴られた後、すぐ扉が閉まる音がしたんだよね?」
「あ、ああ。倒れた後、少しだけ意識あってさ。犯人が立ち去る音がしたから…たぶん。」
「たぶんかよー!?」
「仕方ねーだろ!殴られてんだぞ、こっちは!」
「それで…ヘビは犯人が握らせたものじゃなかった…。それを見たってこと?」
「あ、ああ…。オレが殴られた時、郷田はヘビを握ってなんかいなかった…と思う。」
「思うかよー!?」
「仕方ねーだろ!」
「ヘビは人形っすけど、引きちぎると大量の血が出る仕様っす。結構インパクトある絵だと思いますけど。」
「多趣味。悪趣味。少女趣味。」
「ああ。確か…に、そんなことにはなってなかった…はずだ。」
「ハッキリしないな。」
「状況的に仕方ありません。永本くんが見た時、郷田くんは刺された状態でしたが ヘビは握っていなかった。」
「
そして、犯人は、すぐ立ち去った。そうですね?」
「ああ…。絶対じゃねーけど…。」
「自分は、永本先輩の言うことを信じます!」
「郷田さんは即死じゃなかったくて…永本さんが気を失っている間にヘビの人形を引きちぎった…ってことだよね。」
「ゴウダ、どうしてヘビ取りましたカ?」
「たまたまっしょ?」
「……。」
(たまたま被害者はヘビを握った。本当に…そうなのかな?)
1. たまたま偶然
2. またまた必然
「哀染君、よく思い出してみてください。それを、みんなに話せばいいんすよ。」
(分かってるなら、自分で話してくれたらいいのに。)
△back
「彼はヘビが苦手だったはずだよね。偶然でも、引きちぎる力が残っている時に嫌いなものを掴まないと思うな。」
「一理あるが…意識が朦朧としていた、視界が悪かったなど、理由は いくらでも考えられるね。」
「でも、偶然じゃなければ、何だっていうんですか?」
「ダイイングメッセージ…とか?」
「よくサスペンスドラマで聞くわねぇ。」
「………。」
「ヤマト先生、どうしマシタカ?」
「いえ、ヘビについて、最近どこかで話した気がして…。」
「ヘビについて?」
「そういえば、どこかで“snake”の文字を見た気がするよ。どこだっけ…。」
「……図書館っすね。」
「え?」
「図書館で、俺たちは郷田君が調べ物をしているのを見たっすよ。」
「えっと、確か…”next stage”とか”update”について、毅君は調べていたね。」
「おそらく、郷田君は最近 耳にした英単語を調べてたんでしょうね。」
(彼が調べていた”snake”に関連する英語は…?)
1. snake eyes
2. Solid Snake
3. snake oil
「どうして郷田くんは、そんな言葉を調べてたんでしょうか…。哀染くんは分かりますか?」
(分かるはずない…!)
△back
「思い出したよ!毅君は “snake oil”について調べてたんだ。」
「スネークオイル?何だそりゃ?」
「確か…ショーの時、山門さんが言ってたこと…だよね?」
「ええ…。」
「それが、彼のダイイングメッセージだとしたら…。」
「まさか…山門ちゃんが犯人だよっていう、ダイイングメッセージ?」
「ええ!?」
「そんなワケないデス!!ね、先生?」
「……。」
「山門さん?」
「いえ…。あの、わたしは犯人ではありません。メッセージについては、後ほどでもいいんじゃないでしょうか。」
「どうしてだい?」
「最も大きな謎…密室の謎と凶器の行方が分かっていません。」
「そうねぇ。郷田君を発見した時、中から閂が掛かってたのは不思議よねぇ。」
「……。」
「とにかく…密室について考えるべき…なんでしょうね。」
ノンストップ議論2開始
「密室を作ること自体は不可能ではないからね。閂タイプの扉の錠なら準備すれば方法はあるかもしれないね。」
「え!?ど、どうやって!?」
「てゆーかー、永本が鍵を掛けたんじゃないですかー?」
「だから、オレじゃねーっての!」
「密室作り…何か扉に跡があったのかしらぁ?」
「でも、扉には何の痕跡もなかったはずじゃ…。」
「哀染さん…だ、大丈夫?」
(頭が…って目をしている…。)
△back
「それは違うよ。」
「鉱山入り口の扉には、左右に2ヶ所 小さい穴が空いてたんだ。閂の金具の上辺りに…。」
「カンヌキは何ですか?」
「扉の錠のことです。前谷くんが壊してくれた木の板が『閂』。閂を掛ける突起部分を『閂かすがい』といいます。」
「えーと、その閂かすがいの上あたりに穴が空いてたんだよ。」
「永本さんの話によると…犯人は郷田さんを刺して永本さんを殴った後、密室を作ったってことだったよね…。」
「ああ。でも、どうやって密室 作るってんだよ?」
「密室の作り方…データを参照したら、いくつも出てきましたわ。」
「それぞれ気付いた点や可能性を提示してみようか。」
ノンストップ議論3開始
「実は床下があって、床下からブス!ってヤツよ!」
「床下などなかったがね。」
「空いた穴から糸を使った密室作り…みたいなの、よく聞きますよね!」
「閂は木の板デスが、ワタシの薬使えば糸も針金みたいに強いにナリマス。」
「ローズサンの薬は強くてスゴイ。今すぐ買いたい。」
「あの扉の穴は鋭い刃物で扉を刺した跡かもしれませんね。」
「君の意見は整理されていないね。整理してから発言したまえ。」
(うう…。地味に傷付く……。)
△back
「それに賛成だよ。」
「扉の穴の片方には、少しだけ血が付いていたんだ。」
「血が?」
「…凶器、使った。」
「うん。たぶん犯人は凶器で毅君を刺した後、扉に凶器を刺したんだ。」
「何のために そんなことすんだ?」
「犯人が扉に細工するなら…密室を作るため…ってことになるよね。」
「でも、どうして片方だけ血が付いていたのかしらぁ。」
「血が付いたまま2回刺しマスと、2つ血が付きマス。」
(扉の穴は同じ大きさで形も似ていた。でも、血が付いていたのは片方だけだった。それならーー…)
1. 凶器が2本あった
3. 凶器と他の道具を使った
「ワタシ、空気 読めます。アイゾメ話すと、一瞬 凍るネ。」
(もう1度 考えてみよう…。)
△back
「凶器が2本あったなら、どうかな?」
「2本ですか?」
「うん。穴は同じくらいの大きさで片方だけ血が付いてたから…」
「犯人は2本同じような鋭い刃物を持っていて、その2本を扉の左右に突き刺したんじゃないかな?」
「それでミッシツ、作ラレますか?」
(どうだろう…。2本の細長い凶器を扉に刺し密室を作る方法…。)
(頭の中に文字が浮かんできた。)
(また、何これ!?と戸惑う時間もなく、カウントダウンが始まった。)
閃きアナグラム スタート
ぬ の さ
き さ え
▼閃いた!
「閂の支え…犯人は、刺した凶器に閂である木の板を載せたんじゃないかな?」
「ええと…それは、どういうことですか?」
「凶器を閂かすがい代わりにした…。そういうことですか?」
「うん。まず、鉱山の外に出て、外から扉の閂かすがい…L字の金具の部分より上に凶器を刺す。」
「そして、木の板を凶器2本の上に置く。木の板が落ちないように手で抑えながら扉をゆっくり閉めて…」
「完全に閉まった状態で凶器を同時に抜けば、木の板は本来の閂かすがいに落ちて閂が掛かるんだ。」
「なるほど…。ですが、あの木の板は、それなりに厚みと重さがありました。そう簡単にできるものでしょうか。」
「マエタニは、重いの平気デス。」
「え!?自分には、そんな繊細な動きできませんよ!」
(この密室の作り方には…2本の凶器の扱いが色んな意味で上手い必要がある。)
(それに凶器を持ち出せた人…。)
▼凶器を持ち出し密室を作れたのは?
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「敢えて言おう!怪しいのは貴様だと!」
(しまった…。もう1度 考えてみよう。)
△back
「その凶器が使えるのは…ぽぴぃ君じゃないかな?」
「ぽぴぃ!?」
「ぽぴぃ君の大道芸は、刃物を使ったものも多かったよね。」
「確かに…ぽぴぃさんなら、そんな真似も お茶の子ですね!」
「あのショーは凄かったわよねぇ。」
「それに、彼の手の小ささなら、扉を閉めきる直前まで木の板を押さえておけるね。」
(みんなが納得したように頷く中、ぽぴぃ君は顔を青ざめさせて こちらを見ていた。彼が何か言いかけた、その時。)
「ちょっと待ってください!!!!!」
(裁判場 全体が、聴覚の暴力に襲われた。)
反論ショーダウン 開幕
「自分は!ぽぴぃ先輩の大道芸に!!本当に感動したんです!!!」
「確かに、あんなことができる先輩だったら…という気持ちも分かりますが…!!」
「自分たちを笑顔にするためショーを開いてくれたぽぴぃ先輩が殺人をするとは思えません!」
「後から疑われるのに、ショーで刃物なんか使わないでしょう!?」
「今回の件が動機によるものなら頷けるよ。動機はショーの後に確認したからね。」
「それでも!さっきの密室作りができるのが ぽぴぃ先輩だけだとは言えません!」
「自分にも!……できるかできないかは分かりませんが!」
「他にも密室作りができる人はいるんじゃないでしょうか!!」
「キッチンとかから凶器を持ち出すのは誰でもできたはずです!」
「ほら!!やっぱり哀染先輩も、本当は ぽぴぃ先輩が犯人じゃないって思ってるんでしょう!!?」
(天性の大音量とは彼のことなんだろうな…。)
△back
「みんなが凶器を手に入れられたわけじゃないよ。キッチンは昨日の昼から夕食まで美久と麗ノ介君がいたんだよ。」
「そうねぇ。キッチンに入って刃物を持っていった人はいなかったわ。」
「そうだね。だが、夕食以降は分からんよ。」
「えっと…夕食から夜時間までは人通りもあったし…難しいよね。夜時間はキッチンに入れないはずだし…。」
「昨日より前にキッチンから持ち出すことはできたんじゃないのか?」
「ううん、キッチンの備品は20時間以内に戻さなければならないんだよ。」
「それに…今朝キッチンに入る人はいなかったですね。」
「捜査時間にキッチンの備品ゼンブありました!血を拭いて戻したとしても、ワタシなら血のアト分かりマス!」
「え、じゃあ、凶器はキッチンにあったシュラスコ串じゃないってことですか!?自分はてっきり…。」
「凶器…どこにあったの。」
(それは…あれを提示すれば分かるはず…。)
1.【永本の証言】
2.【松井の証言】
「……。」
(完全なる無…といった表情だ。今の内に考え直そう。)
△back
「麗ノ介君、一昨日 鍛冶屋で刃物がなくなったんだよね。」
「ああ。壁に掛かっていたものがなくなっていたよ。あれは山登りの間のことだ。」
「………。」
「山登りをしてなかったのは…木野さん、夕神音さん、僕。あと、ぽぴぃさんだよね。」
「うん。ぽぴぃ君は、みんなが山を登ってる間に凶器を移動させたんだよ。」
「その時点では、”クラスメイト”が分かっていなかったわけだが…既に彼に殺意があったというのかい?」
「動機がないのに凶器を移動させる理由って…。」
「………。」
(あの時、ぽぴぃ君は「みんなを笑顔にしたい」と言ってた。あの日、彼が凶器を持ち出したのはーー…)
1. 凶器を隠すため
2. ショーで使うため
3. 殺人を行うため
「心外 人外 有害!」
(違ったみたいだね…。)
△back
「その時は、殺意はなかったんだと思う。彼はショーの準備をしていたんだよ。」
「そうそうそうそう、葬式無料。ボクは善良な大道芸人。人殺しなんてできないよ。」
「そんな人が…殺人を犯すなんて…。どうして?」
「だから、ボクじゃないってば!」
「でも、ぽぴぃ先輩と郷田先輩じゃ、かなり体格差がありますよね。」
「だから殴ったんだろうね。」
「ぽぴぃさんが鉱山に持っていったのも…クワなんだろうね…。」
「郷田さんを自分のクワで殴った後、郷田さんが持っていたクワを持って鉱山を出たんだよ…。」
「どうして そんなことが分かるの?」
(ぽぴぃ君が道具を入れ替えた理由は…。)
2.【ヘビの人形】
3.【松井の証言】
「……。」
(違うんだね…。)
△back
「モノクマの追加ルールのせいだよね。鉱山を出て宿舎に戻るまで何か道具を携帯しなきゃいけないから。」
「うん…。みんなの道具は重複も欠けもなかったから…。」
「ぽぴぃ君はクワを持っていて、帰りは郷田君のクワを持ち帰った。…なるほどね。」
「郷田先輩を殴るためにクワを持っていったっていうんですか!?」
「ほ…本当に、ぽぴぃが犯人なのか?」

(みんなの間に動揺が広がる。そんな中、冷静な声が裁判上に響いた。)
「……みなさん。実は、先ほどのダイイングメッセージの話をしても よろしいでしょうか。」
「えっと…スネークオイルだったよね?」
「ええ。”snake oil”の意味は…“詐欺”なんです。」
「さぎ?」
「ええ。スネークオイル…ヘビの油は万病に効くと触れ回り、売り出したことが語源だそうです。」
「そのハナシ、嘘じゃありマセン。ヘビの油、良い薬デス。EPAいっぱい。」
「エイコサペンタエン酸…!ドコサヘキサエン酸や、α―リノレン酸と同じ不飽和脂肪酸だよ!」
「どういう意味だよ?」
「……本当に…体にいい。」
「はい。実際の水ヘビの油は良薬ですが、とある国では違う種のヘビ油を売り出す商売が横行していたんです。」
「えぇと…それが、どうかしたの?」
「それらを売り出していたのは、大道芸の舞台だったそうです。」
「………!」
「あれがダイイングメッセージだとすると…。」
「郷田さんは図書館で それを知って、とっさに僕らに犯人を教えようとしたのかな…。」
「わざわざ人形を引きちぎったのは何でだ?」
「油を強調するため…ではないでしょうか。」
「アブラじゃなくてチマミレです。」
「毅君は人形から血が出るなんて思わなかったんだろうね。」
「……。」
(俯いていたぽぴぃ君が静かに顔を上げる。ーーその目は、大きく見開かれていた。)
理論武装 開始
「それは違うよ!それは違うぞ!」
「何で そ〜うなるの?」
「ボクだけが扱える凶器なんてナッシング!」
「真実は、いつも ひとつ!」
「じっちゃんの名にかけて!」
「その推理は矛盾している!」
「謎は全て解けてない!」
「キミが さっきから言ってる凶器ってのは、一体全体 何のこと!?」
△ピ ○レ ×イ ◽︎ア
「ぽぴぃ君が使った凶器は、レイピアだよ。ショーの最後の演目で使われた…ね。」
「ぽ……ぴぃーーーー!!!」
「………。」
(ぽぴぃ君の目が再び閉じられ、力なく彼は うな垂れた。)
(ひと息吐いたところで、隣から声がした。)
「哀染君。まだ半信半疑の人も多いっす。最後に事件の全貌を まとめて話してくれないっすか?」
(……本当に、どうして自分で話さないんだろう。)
クライマックス推理
「事件が起きたのは、夜時間の鉱山。鉱山に犯人を呼び出したのは、被害者である郷田 毅君だった。」
「どうしてかは分からないけど…多分、今回の“動機”が関わってたんじゃないかな。」
「犯人は この時点で、毅君の殺人計画を企てた。まず、圭君に呼び出しのメモを送って鉱山に来るよう誘導した。」
「そして、鉱山で待ち合わせていた毅君を殺害した。持っていたクワで殴り、レイピアで刺したんだ。」
「それを知らずに鉱山に来た圭君は…隠れていた犯人に殴られ、気絶してしまった。」
「その後、犯人は密室作りを始めた。まず、鉱山外からレイピア2本を扉の閂かすがいの上に刺す。」
「次に、2本のレイピアを閂かすがい代わりにして扉の外から木の板を立て掛ける。板を押さえながら扉を閉じて…」
「完全に閉じた状態でレイピアを引き抜く。すると、木の板が閂かすがいに落ちて閂が掛かるんだ。
「でも…犯人は見落としていた。この時、毅君には まだ意識があったことを。」
「彼は “snake oil”から犯人を示すため、ヘビの人形を掴み、引きちぎった。」
「朝になって、ぼくらは気絶した圭君と毅君の死体を発見した。みんなが証人となって、密室は完成したんだ。」
「“超高校級の大道芸人” 芥子 ぽぴぃ君!あなたが、この事件の犯人だよ!」
「………。」
(静まり返った裁判場で、また ぽぴぃ君が目を開く。その大きな瞳から溢れているのは、涙だった。)
「……みんな…ご、めん。」
「……ぽぴぃ君。」
「仕方なかった…。殺さないと、殺されて…た。」
「え?」
「はいはーい!ではでは、シロとクロの運命を分ける、ワックワクで、ドッキドキの…投票ターイム!」
(問いかけようとした瞬間、モノクマが投票を促した。)
(ぽぴぃ君の言葉で、被害者と…彼と最後に図書館で交わした言葉を思い出した。)
「うるせーな、何もねー!オレは…ただ誰も信じられねーだけだ。」
「え?」
「記憶が消されるとかワケ分かんねぇ。オレは…オレ自身を信じてもいいのか…?それすら分からねぇ…。」
(あれは、まさか…自分の殺意のことを言ってたのかな…。)
(それなら、ぽぴぃ君は被害者だ。そんな彼が、これから…おしおきされる?)
(体が震える。1回目の裁判と同じように、緊張で吐きそうだ。)
(モノクマが早くしろと促したため、そのままボタンを押さえる。)
(全員が投票を終え、票は ぽぴぃ君に集まった。それに対して、モノクマが「大正解!」と笑った。)
学級裁判 閉廷
「”超高校級のジムリーダー” 郷田 毅クンを殺したクロは、”超高校級の大道芸人” 芥子 ぽぴぃクンでしたー!!」
「うぐっ…う、みんな、ごめん。ボクは、ボクは…。」
「ぽぴぃ君…。」
「君は、郷田君とクラスメイトだったのかい?」
「そうだよ…。ボクは、彼とクラスメイトだった。彼は、ボクを殺そうとしてたんだ…。」
「郷田さんが?」
「あ、あいつ…口は悪いけど、そんなことするヤツじゃないんじゃねーか?」
「彼は…ボクのせいで、彼の恋人の病気が治らなかったと…思ってた。」
「恋人がいたのねぇ。」
「ぽぴぃくんのせい…とは、どういうことですか?」
「彼の恋人は不治の病だった。彼は…恋人の余命が残り僅かなことに絶望していた。」
「ボクは彼を元気づけたくて…大道芸を観に来るように誘ったんだ。けど…。」
「その日は…ちょうどヘビエキスのメーカーがスポンサーのステージだった。」
「彼は高額のヘビエキスを買って…でも、恋人は助からなかった。」
「しばらく、彼は学校に来なかった…。そこまでが、ボクらが断片的に思い出した記憶…。」
「彼に呼び出された時、怖かったけど…話さなきゃって思って。」
「……でも、彼は恋人の話はしなかったんだ。」
「やっぱり…郷田クンだったんだね。」
「ああ。こんなメモ紙じゃ気付かれねーかとも思ったが…。良かったぜ。」
「……話というのは、キミの恋人のこと?」
「あ?もう、ンな話しても仕方ねーだろ。」
「……え?」
「芥子。テメー、あの詐欺まがいの行為は もう止めやがれ。」
「……サギ?鷺?作業着?ぽぴぃには分からない。」
「ざけんな!効きもしねー薬をテメーが宣伝したら、テメーが詐欺師だと思われるんだぞ!?」
「……。」
「このままじゃ、テメーの大道芸まで悪いイメージになんぞ!?」
「忠告ありがとう、ランゲルハンス島。でもエンターテイナーはスポンサーの奴隷。逆らいません、死ぬまでは。」
「おい、待ちやがれ!!ッ…!!」
「ーーその時、彼はボクをクワで殴ろうとした。間違いないよ。ボクは視力が弱い代わりに耳が鍛えられてるんだ。」
「彼に背を向けた時、左から風を切る音がして…振り返ったら、彼がクワを振り下ろそうとしていたんだ。」
「その後は、よく覚えてない。何とか躱して、ボクは彼を……。」
「…左から?」
(ぽぴぃ君が語る中、隣で何か言いたげな声がした。)
「一応、だったんだ。クワを持っていたのも、返し忘れたレイピアを持っていたのも…。」
「………。」
「蘭太郎君。何かあるの…?」
(小声で彼に問いかけると、彼は目を見開いて こちらを向いた。が、すぐに視線は逸らされた。)
(ーー今回、彼は裁判を引っ張っていくことはしなかった。決定打になるような発言を避けていた。)
(事件が起こる前だって、積極的に人に関わろうとしなかった。)
(前回の裁判が終わってからだ。)
「蘭太郎君、気付いたことがあるなら話してよ。」
「………。」
「その先に希望があるのか絶望があるのかなんて…誰にも分からないよ。」
「……。」
(”冒険家”の彼が、自分の殻に篭るなんて似合わない。)

(しばらく緑の瞳を見つめていると、ようやく彼は口を開いた。)
「……利き手っす。」
「……え?」
(みんなに聞こえるように放たれた彼の声。それに、ぽぴぃ君が顔を上げる。)
「図書館やレストランで見た限り、郷田君は右利きっす。……それなら、左から風を切る音がしたのは変です。」
「変って…どういうこと?」
「…右利きの人間がクワで相手を殴り殺そうとするなら、真上からか、右上から振り下ろした方が自然っす。」
「えぇと…。それって、どういうことですか?」
「……郷田君がクワで狙っていたのは、ぽぴぃ君じゃなかったかもしれません。」
「………え?」
「……。」
「あの鉱山で毅君がクワで狙ったもの…?」
(それってーー…。)
1.【ヘビの人形】
2.【ヘビの人形】
3.【ヘビの人形】
「まさか、ヘビの人形?」
「郷田君は大蛇は見ていましたが、小さいヘビの人形が動くとは知らなかったはずっす。」
「恐らく、その時、まだ人形だと気付いてなかったんじゃないでしょうか。」
「まさか…郷田さん…。ぽぴぃさんの近くにヘビがいるって気付いて…。」
「……ぽぴぃ君を守ろうとしたというの?」
「けれど、ぽぴぃ君は殺されると勘違いして…か。」
「そう…いえ、ば…。」
「あ、ああ…そん、な…、」
(ぽぴぃ君は、崩れるように地に膝を ついた。)
「あーあ。まーた、天海クンが余計なこと言って絶望を煽っちゃったね!いやいや、またまた あ〜りがとぅ!」
「……。」
「ここまで絶望を煽ってくれる参加者って、なかなかいないよ!もはや、お時給あげなきゃいけないくらいだよ!」
「……っ。」
「……そんなことない。」
「え?」
「ぼくらは毅君に殺意がなかったと知ったんだ。ぼくたちの中に、殺意を抱いた人なんていないって…分かった。」
「……哀染君。」
「………。」
「あーはいはい。そういうのいいんだよ。傷の舐め合いという名の痛い友情演出みたいなの、好きじゃないんだ。」
「……。」
「さーて、痛々しい お涙頂戴演出を見せられて気分悪いし、そろそろ始めましょうか!」
(モノクマが下卑た笑い声を上げた時、ぽぴぃ君が静かに口を開いた。)
「…天海クン、ありがとう。真実を…教えてくれて。」
「……。」
「怖いけど…償わなきゃ…。ボクを守ろうとした彼を、殺してしまったこと。」
(言って、笑う ぽぴぃ君。けれど、その身体は小刻みに震えている。)
「”超高校級の大道芸人” 芥子 ぽぴぃクンのために、スペシャルな おしおきを、用意しましたー!!」
「みんな…ごめんなさい。どうか、これからは…笑顔でいて。」
「おしおきターイム!!」
(モノクマの高らかな宣言の後、連れ去られながら、ぽぴぃ君は こちらに叫び続けた。)
「だから、みんなに伝えておかなきゃいけない!」
「永本クンに呼び出しのメモを書いたのは…ボクじゃないよ!」
おしおき
“超高校級の大道芸人” 芥子 ぽぴぃの処刑執行
『最期の大舞台』
芥子 ぽぴぃは、舞台の上で大道芸を披露している。
その手に握っては放たれる、鋭利な刃物。けれど、刃物は もはや仕事仲間だ。自分の小さな手は、器用に刃を避けてジャグリングを続けている。
ふいに、横からモノクマらしき影が現れ、こちらに向かって何かを投げてきた。難なく その球状の何かを含めたジャグリングを続ける。がーーその球は、頭上で小さく爆発を起こした。
頭に鋭い衝撃と痛み。後ろに倒れそうになる身体を必死で止めた。頭から伝う温かいもの。それが目に染み込んでいくのを感じながら、ジャグリングを続ける。
頭が割れそうに痛い。体が重くて上手く動かない。けれど、そんなこと お構いなしに、モノクマは次々と爆発する球を投げ続けてきた。
次々と爆発する球。球は頭上で、顔の前で、肩で、手のひらで爆発し、道化の身体は 血で汚れていく。それでも、ジャグリングを続けた。左の手のひらが吹っ飛び、片腕になっても、頭から大量の血が吹き出しても。
朦朧とする意識の中で最後に聞いたのは、大きな爆発音だった。
…………
……
…
道化師の頭上で起こった大爆発により、ジャグリングの道具と、芥子 ぽぴぃの上半身は塵となった。残った彼の下半身は、上半身を喪っても猶、絶妙なバランスを取って そこに立っていた…。
「アーハッハッハ!凄いね!彼は根っからのエンターティナーだ!最後の最期に芸が完成したって感じだね!! 」
(彼の最期を、不愉快な言葉を並べて称賛するモノクマ。)
(やがて、反応のない みんなに「つまんない反応だなー」などと宣って消えた。)
「こんな、の…ひどいよ。」
「……頭が おかしくなりそうだ。」
「本当に…。」
「もう、もう絶対、こんな裁判がないように…しましょう…!」
「……あ、たし…。」
「……!祝里、大丈夫か?」
「あたしも…つぐ…な…。」
「あ…。」
「おい、祝里!」
(何かを呟いた彼女が、その場に崩れるように倒れる。)
「……戻ろうよ…。彼女を休ませないと…。」
「じ、じじじ自分が、祝里先パイを はこひま…」
「無理すんなよ、大丈夫だ。オレが運ぶ。」
(みんなが裁判場の出口に向かって歩き出す。なかなか動き出さない足を叱咤して、彼らに続いた。)
(ーーところで、背後から絞り出すような声がした。)
「哀染君…ありがとうございました。」
「……え?」
「……いえ、何でもないっす。ーーキミは、この裁判を どう思いましたか?」
「どうって…。ひどいし…辛いよ。」
「それは もちろんなんすけど…おかしいと思いませんか。」
「おかしい?」
「この事件…凶器の話から始めれば、すぐ終わったはずっす。」
「それは、ぽぴぃ君が裁判を誘導してたってこと?」
「それもあるでしょうが…。それだけじゃない…そんな気がするっす。」
(それだけじゃない…?)
「ぽぴぃ君は、圭君を呼び出してないって言ってたよね。それに…妹子が言ってたこともーー…」
「今は…何とも言えないっすが…。一応、注意してください。」
(そう言って、彼は出口に向かう。何とも言えない気分で その背中を追った。)
(まさか…犯人以外にも裁判をコントロールしてた人がいるってこと…?)
(ーーみんなの、中に…?)
(エレベーターから広場に戻れば、辺りは暗くなっていた。)
(みんなと星が広がる街中を歩きながら、頭は ずっと先ほどの会話を繰り返し再生していた。)

第二章 少年よ、殺意を抱け 完
第三章へ続く







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