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第三章 愛と誠。デッド・オア・ラブ (非)日常編Ⅰ

 

「その日は、俺にとって単なる365分の1日なんかじゃなくって…もっと特別な意味を持つ1日だった。」

 

「待ち焦がれたその日を迎えた俺は、なんとも言えない誇らしげな気分になっていた。」

 

「子供の頃から憧れ続けていた存在の一員になれる気分…そう言えば伝わるのかな?」

 

「そして、実際そうなので…俺はまさに夢見心地だったんだ」

 

私立 希望ヶ峰学園…俺にとっては単なる学校という枠を超えたもっと特別な存在だった。」

 

…………

 

 「それだけを目標に今までずっと…それまでを目標に今までずっと…」

 

「ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと…」

 

 

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(目が覚めた。今のは…夢?)

 

(頭が重い。昨日も大して眠れないまま朝になってしまった。)

 

(シャワールームに入って顔を洗い、身支度を整える。)

 

(部屋から出て1階に降りると、既に席に着いていた面々から声がかかった。)

 

「アイゾメ、オハヨウゴザイマス。」

 

「おはようございます。」

 

「おっはよー!」

 

「おはようございます。」

 

「おはよう、みんな。早いんだね。」

 

「キミたちがいつもより遅いんだよ。僕は朝食をあまり食べないっていうのにさ…。」

 

「アナタは朝食も昼食も夕食も食べマセン。」

 

「な、何をぅ!?何も食べられないポンコツとでも言う気かぁ!?」

 

「おはよう。何の騒ぎだい?」

 

「……何か、モメてるの…?」

 

「アイコさんはいつも元気ねぇ。」

 

「おはよ…ってまたアイコが騒いでんのか。」

 

「せっかくいい朝なんですから、仲良くいきましょう!!」

 

「……。」

 

(みんなが続々とレストランへやって来て、席に座る。また、取り繕った”いつもの表情”で。)

 

「……祝里さん…いない。」

 

「あ、祝里はまだ来ねーのか?」

 

「栞…大丈夫なのかな?」

 

「う、うん。心配だよ…。昨日倒れる前…彼女…言ってたよ…。」

 

「何をデスカ?」

 

「『私も償わなきゃ』って…。もしかしてーー」

 

(償う。ぽぴぃ君のおしおきの後に?)

 

 

(数名が椅子から立ち上がったーーその時、レストランの扉が静かに開いた。)

 

「あ…。」

 

「栞。」

 

(話題に上っていた彼女がゆっくりテーブルに近付いて来た。)

 

「みんな…昨日は…ごめんね。」

 

(昨日…裁判中のことを思い出す。)

 

「あたし…は、やっぱり…悪い呪術師だったよ。たくさんの人を死なせて…知らないフリしてた…。」

 

「ええと、それは…本当に、呪殺があったということですか?」

 

「うん…。あたし…たくさんの、人を……。」

 

「でも、もう目を逸らさないって決めたよ。ここから出て…罪を償うよ。…だから、」

 

「だからこれからも…みんなと協力させて。」

 

「もう考えることを放棄したりしない。もちろん、みんなに危害が加わるようなことは絶対しないから。」

 

(彼女が頭を下げる。彼女の声は震えていた。)

 

 

(一瞬の静寂を破ったのは、彼女に近い席に座っていた彼女のクラスメイトたちだ。)

 

「ったりめーだろ!今さら何言ってんだ。」

 

「う、うん。祝里さんは…仲間だよ。」

 

「……うん。」

 

「そもそも、僕は君のその過去には懐疑的だよ。人を呪い殺すなんて不可能だと思うからね。」

 

「そうですね。わたしも、祝里さんの行いで人が死んだとは思えません。」

 

「誰もオメーを殺人鬼だなんて思ってねーつの。」

 

「協力、大事デス。」

 

「今まで通りみんなで頑張りましょう!」

 

「人が多い方が楽しいしねぇ。」

 

(全員が彼女に言葉をかければ、彼女は涙を流して小さく笑った。)

 

 

「あーあ、やな雰囲気だなぁ。」

 

「ッ!モノクマ…。」

 

「せっかく疑心暗鬼のギスギスの空間を楽しもうと思って来たのに。ツいてないや。」

 

「…なら帰ったらどうっすか。」

 

「わー、天海クンは いたいけなクマにも容赦ないね!ま、いいけど!そんなわけでオマエラ!」

 

「ネクストステージに案内します!朝食 食べたら山頂に集合!」

 

「…また場所を変えるということですか?」

 

「そうそう。ずっと同じ場所にいると飽きられちゃうからね!」

 

「飽きるって…誰が?」

 

「はいはい!そうと決まればとっとと食べて!キミたちは分刻みで動く社会人の気持ちをもっと慮るべきだよ!」

 

(モノクマが丸い前足をパンパン叩いて急かす。そんな中、意外な人物からモノクマへ言葉が投げられた。)

 

「…モノクマ。ここのものを次の場所へ持って行けるの?」

 

「ん?んー、そうだなー。うん、いいよ。ここにある物なら何でも 次のステージに持って行けることにしまーす。」

 

「てゆーか、既に始めのステージから ここに もの持ち込んでる人もいるしね。」

 

「非常食用に牛の人形を持って行ってもいいし、その肉を刺すシュラスコ串を持って行ってもいいよー!」

 

「あ、ちなみに次のステージに “道具”を持って行く必要はないからね。道具携帯のルールはここで解除します!」

 

「『念のためクワとレイピアを』持って行ってもいいけどね。うぷぷぷぷ…ぶひゃーひゃひゃっひゃ!」

 

 

「……。」

 

(モノクマは汚い笑い声を上げて消えた。)

 

「…えっと、木野さん、な、何であんなこと…聞いたの?」

 

「……。」

 

「琴葉、もしかして…病院にあった器具を持って行くの?」

 

「…うん。まだ…薬、研究したいから…。」

 

「キノ、薬作りマスカ?ワタシの薬も作りマスカ?」

 

「そういえば…木野さんは学校でも色々…作ってたよね。」

 

「ああ。聞いても分かんねーもん色々作ってたな。」

 

「……。」

 

 

「てかさ、とにかくまた場所移動するってことだよね。」

 

「では、食べたら山頂へ行きましょう。」

 

 

 

【南エリア 山道・山頂】 

 

(朝食を済ませ、各自1度 部屋に戻った後、全員揃って山道に集まった。)

 

「木野さん、すごい荷物だね…。」

 

「じ、自分が持ちましょうか!?木野先パイ!!」

 

「……いい。自分で持つ。」

 

「とりあえず、行きましょうか。…俺が先頭を行くっす。」

 

(そう言って 彼は山道を慣れた足取りで進んで行く。その背を追う形で山頂を目指した。)

 

 

(山頂には既にモノクマが待ち構えていた。その後ろには、今まではなかったはずの木の扉がある。)

 

「やっと来たね!さーて、ではネクストステージの扉を開けましょうか!」

 

(ここに来た時は、ピンクのドアだった。それと同じ場所に開く木の扉。その先には、前回の町とも山とも違う雰囲気の町が現れた。)

 

 

 

【東エリア 町の入り口】

 

「また町かよー。それこそ飽きるっつーの。」

 

「でも、何だか雰囲気が違いますよね。」

 

「ああ…何つーか。ゲームの中みたいだよな。」

 

「その通り!この町は、とある人気ゲームシリーズ35作目の舞台をオマージュしたものだよ!」

 

「ホントに35作目〜?5作目ってかんじだけど〜〜。」

 

(扉の向こうは、中世の街並みのような風景が広がっていた。前のステージに比べると、小さな町だ。町の入り口から町の奥までそう距離はなかった。)

 

(町は鉄の柵でグルリと囲まれ、やはり外に出られないようになっている。至る所に設置されたカメラやモニターと相まって、異様な雰囲気だった。)

 

(振り返ると、既に通ってきたはずの木の扉は跡形もなく、空まで続く鉄格子が町の入り口を覆っている。)

 

 

「モノクマの町歩き散策ツアー!コロシアイ課外授業の御一行様ご案内〜!」

 

(モノクマが辺りを見渡すみんなを置いて歩き出す。)

 

「ちょ…っ待てよ!」

 

「ついて行った方が良いみたいっすね。」

 

(慌ててみんなモノクマの後に続いた。)

 

 

「はーい、ではオマエラ!まずはこの”大富豪の家”にどうぞー!」

 

(広場から小さな湖に掛かる橋を渡れば、すぐに町の端だった。大きな家の前でモノクマが手招きしている。)

 

「早く早く!モノクマねきネコのポーズは疲れるんだから!」

 

「クマなのカ ネコなのカ。」

 

 

 

【西エリア 大富豪の家 応接間】

 

(豪華な内装の家だ。高そうな調度品が並べてあるが、これまでと同じように他の人の気配はない。)

 

(モノクマに案内されたのは応接間らしき部屋だった。暖炉からパチパチと音がなっている。)

 

(その前に、なぜかマネキンが2つ並んでいた。)

 

「オマエラには、この金髪の幼馴染みマネキンが好きか、青髪のお嬢様マネキンが好きかを選んでもらうよ!」

 

「……は?」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「だからそのままの意味だよ!どちらか好きな方を花嫁にしろ!ってね。」

 

「は、ははは花嫁!?」

 

「何だね急に。マネキンと結婚しろってことかい?」

 

「何偵ナイトスクープだよ!?」

 

「そんなわけないだろー!とりあえずだよ!とりあえず!どっちでもいいから好きな方 選んでよ!」

 

「え…選ばなかったら…どうなるの?」

 

「どうもしないよ。何も起こらないし何も進まないよ。そういうシステムだからね。」

 

「たとえ どちらも好みじゃないってもしょうがない!ボクらはシステムの奴隷なんだから!」

 

「選んでどうするっていうの?」

 

「選んだらチーム戦だよ。オマエラ12人もいるからね。ここらでチーム分けってのもいいでしょ?」

 

(答えになってない。)

 

「ホラホラ、妄想でもインスピレーションでもいいから早く選んでよ。」

 

「じゃ、”ちょっとやんちゃだけど可愛い幼馴染みのお姉さん”派はこちら。”3歩下がって後ろを付いてくるお淑やかなお嬢様”派はこちらにどうぞ!」

 

(モノクマが急かしたため、みんなしぶしぶ動き出した。そして、それぞれのマネキンの前に立つ。)

 

 

「おやおや〜意見が真っ二つに割れているようですなぁ!」

 

「良かったよ〜!みんな金髪派になっちゃったらどうしようかと思ってたんだー!」

 

「それで、分かれたからどうだと言うんですか?」

 

「うぷぷ、もちろんオマエラの性癖をつまびらかに語ってもらうんだよ!でも、ただ語るんじゃない。」

 

「ここでの特別ルールは、相手チームとの意見対立に立ち向かえ!だよ!」

 

「……意味が分からないんだけど。」

 

「これから相手チームは敵だと思ってよ?相手チームの人と直接話すのは禁止だからそのつもりでね!」

 

「ここにきて仲間割れ…絶望だね〜〜!!」

 

「何がしたいのかしらぁ?」

 

「…ええと。か、考えてもよく分からないよ。」

 

「これに近いこと聞いたことがあるよ…。確か…一般人を囚人と看守に分けて役割を演じさせて…っていう実験。」

 

「そうそう。これもそんな感じ。RPGロールプレイングゲームだよ。」

 

「茶番だな。思い入れもないマネキンのために対立できるとは思えんね。」

 

「別に何でもいいんだよ。”さやか派”か”あやか派”でもいいし、”山派”か”里派”でもいいよ!」

 

「山か海じゃないんですか!?」

 

「ま、とりあえずFチームとBチームとでも呼ぼうかな。Fチームの宿舎はここの2階だよ!Bチームはとっとと出てって、宿屋にでも行けば?」

 

「ちなみに、それぞれ食事も別だからね。はい、解散。Bチームがここから出たらオマエラは敵同士でーす!」

 

「いや〜それにしても、”可愛い幼馴染み”か”お淑やかなお嬢様”か選べなんて、制作者側の欲望が垣間見られるよね!」

 

「ま!ゲーム制作者なんてほとんどが異性に夢見がちな非モテばっかだから仕方ないよねー!」

 

「ゲーム名は伏せるけど、身長 体重 バストの比率がおかしいキャラばっかのゲームとか!キャラプロフィールという名の童貞宣言だよね!」

 

(ひどい偏見の言葉と共に、モノクマは汚く笑って消えた。)

 

 

「これって…どういうことなんだろうね。」

 

「あっしにもさっぱりでさぁ。」

 

「とりあえずケンカで相手チームの輩のせばいいデスか?」

 

「…佐藤君。さっき似たものを知っていると言ってたっすね。」

 

「う、うん。どこかの国の昔の実験だよ。普通の人に それぞれ看守役と囚人役のロールプレイをさせるんだ。それらしい生活様式も取り入れて…。」

 

「対立する2グループのロールプレイをするうちに…実際に性格や相手に対する意識も変化する…そんな結果が出たんだよ。」

 

「え、ええと…。それはどういうことですか?」

 

「看守役は次第に横柄になって、囚人役は看守役を憎むようになっていって…だんだんロールプレイだけじゃなくて本当に敵対していったんだよ。」

 

「このロールプレイで対立構造を作ろうっていう魂胆か…。」

 

「けど、こんなことくらいでケンカになんねーだろ。」

 

「そうねぇ。あまり深く考えても仕方ないかもしれないわ。」

 

「でも、困りましたね。相手チームの人と話せないというのは…。」

 

情報共有ができないってこと…だもんね…。」

 

「お互い、夜にその日の状況や共有事項を書き置きするのはどうっすか?」

 

「それはいいね。見つけたものとか、気付いたこととか。」

 

「敵チームのみなさんと離れるのは寂しいですが!脱出するまでの我慢ですね!」

 

「よーし、頑張るぞー!」

 

(いくつかみんなで確認した後 6人と6人に分かれ、Bチームの面々は”大富豪の家”の扉の外に出た。)

 

 

「でもぉ、これでみんなのタイプとか暴露されちゃってぇ、超恥ずかし〜!」

 

「暴露と言っても…ほぼ適当だったから…。」

 

「俺らBチームの宿舎は町の入り口近くの宿屋っすね。」

 

「本当に、何のためにグループ分けしたのかしらねぇ。」

 

「うん…。さっき話したのは看守と囚人っていう極端なロールの実験だから…このロールプレイに意味があるとは…思えないよ…。」

 

「……。」

 

 

 

【東エリア 宿屋2階 酒場】

 

(さっきまで豪邸にいたからか、宿屋は質素な造りに思えた。あちこち修繕を繰り返した跡がある。)

 

(歩く度に床が軋む。夜中に廊下を歩くだけで他の人の迷惑になりそうだ…。)

 

「結構…古い宿屋みたいだね。」

 

「ここの1階がそれぞれの宿舎みたいだぞだぞ。」

 

「2階…レストラン。」

 

「レストランというより、酒場みたいよ。」

 

「今日はもう遅いっす。夕飯を食べて休みましょう。」

 

(2階の場末の酒場のようなカウンターテーブルで、6人揃って質素な食卓を囲んだ。)

 

(食べてすぐ、1階に用意された各自の部屋に入った。)

 

(変わらず設置された室内のカメラとモニター。シャワー室にカメラがないことだけ確認して、小さな個室の軋むベッドに身を横たえる。)

 

(疲れもあったせいか、まぶたを閉じてすぐ睡魔に襲われた。)

 

 

(……。)

 

(……。)

 

(何だ?寝苦しい。)

 

(うっすら目を開けるとーー)

 

「……。」

 

「…え!?き…琴葉!?」

 

(小柄な白衣姿が目の前にあった。馬乗りになられる形だったのに驚いて声がひっくり返った。)

 

「血…ちょうだい。」

 

「は!?」

 

「AB型の血がほしい。」

 

(彼女の手には注射器が光っている。)

 

「いやいやいや、何言ってんの!?」

 

「……AB型は哀染さんか永本さんしかいない…。永本さんはFチームだから。」

 

(答えになってない!)

 

(パニックに陥っている間に、注射器の針がゆっくり近付いてきた。)

 

「ちょっと待って!ぼくはAB型じゃないから!」

 

「……嘘。モノパッドに書いてあった。」

 

「…あ、あれは間違いだよ!ぼくは海外で生まれたから血液型調べられてなくて…っ、そ、それで高校入学の頃までAB型ってことにしてたんだ!」

 

「……。」

 

「高校入学からしばらくして調べたらAB型じゃなかったんだよ!」

 

(思いついたままの適当なハッタリだけど…彼女は信じたらしい。怪訝な顔でこちらを見つめてきた。)

 

「…あ、哀染さん?どうしたの?何騒いでーー」

 

(そこで突然 部屋の扉が開けられ、)

 

「……あ。ごめん。」

 

(すぐに閉められた。)

 

「ちょっと待って!?誤解だよ!」

 

(慌てて叫んだが、閉じられた扉から返答はない。)

 

「……部屋に戻る。」

 

(彼女はベッドから降りて部屋の扉の方へ向かって行く。)

 

(何だったんだろう、一体…。)

 

(それにしても…さっきの光景……何だか既視感があるような…?)

 

 

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のチャイムで目を覚ました。昨日の騒動のせいで、いつも以上に眠れなかったな…。)

 

(起き上がって身支度を整える。1階に降りると、既に4人が集まっていた。)

 

「哀染君、おはようございます。」

 

「おっはよー!」

 

「おはよう。」

 

「おはよ…。ゆうべは…お楽しみだったみたいだね…。でも、ここ鍵もないし壁も薄いから…やめた方がいいと思うよ…。」

 

「いや、違うんだってば。誤解だよ。」

 

「何の話?」

 

「何でもないよーーあれ?琴葉は?」

 

「部屋 覗いたらまだ寝てたわよぉ。昨日、寝られなかったんじゃないかしら。」

 

「……。」

 

(何とも言えない表情で見られている…!)

 

「じゃあ今 動けるのは5人っすね。手分けして手掛かりを探しましょうか。」

 

「……うん、そうだね。」

 

(さて、どうしようかな。)

 

 

 地図を確認しよう

 教会を見に行こう

 道具屋を覗こう

全部見たね

 

 

 

 

(モノパッドを開いて地図を出そうとした…ところで、操作を間違えたようだ。地図ではなくパスワード入力画面が映し出された。)

 

(これは何なんだろう。)

 

 

 適当にパスワードを入れてみよう

 下手に触らない方がいいかな…

 

 

 

(25252…)

 

(やっぱりダメか…。)

 

 

地図を見る

 

 

 

 

 

(パスワード入力は諦めて、改めて地図を開く。)

 

(町のほぼ中央に位置する噴水の広場。広場の東側に宿屋・道具屋・武器屋…西側に教会と防具屋あるようだ。)

 

(町の最西端に湖に囲まれた”大富豪の家”がある。”大富豪の家”は他の建物よりずっと大きい。”大富豪の家”の南には別荘もある。)

 

(こんな近い距離に別荘?離れって感じかな?)

 

(この町は、前いた町よりもずっと狭い。…まるでRPGゲームで主人公が立ち寄る町みたいだ。)

 

 

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【中央エリア 教会】

 

(宿屋のすぐ西の教会に来た。中はヨーロッパの教会といった雰囲気だ。)

 

(奥にいる2人組に声をかけようとして、思い止まる。)

 

「……。」

 

「……。」

 

(そっか…。相手チームと話せないんだ。結構 不便だな。)

 

(2人は目配せだけを寄越して教会から出て行った。)

 

(その後1人で教会と周辺を探したが、特に手掛かりは発見できなかった。)

 

 

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(広場の東側に道具屋と武器屋が並んでいる。どちらも屋根のない吹きさらしの建物だ。)

 

(武器屋を通った時、中に大柄な人影があった。)

 

「…あ!……ッ!」

 

(武器屋で働く荒くれ者と見間違いそうな彼は、こちらを見て目を輝かせた後、自身の両手で口を覆った。)

 

(話したくて仕方ないという顔をしている…。)

 

(身振り手振りで何かを表現しているが、何ひとつ伝わらない。曖昧に笑って見せて、道具屋へ向かった。)

 

(彼は”クラスメイト”だったし…積もる話もあったんだろうな…。)

 

 

 

【東エリア 道具屋】

 

(道具屋はRPGでよくある雰囲気のお店だった。店内には何に使うかよく分からない商品が並んでいる。)

 

「あらぁ。」

 

「美久、どう?何か見つかった?」

 

「いいえぇ。何も。そうだわ、良かった。貴方に聞きたいことがあったのよ。」

 

「え?何?」

 

「貴方、白銀さんのこと好きだったのかしら?」

 

「……え?」

 

「前にそんな話があったでしょ?」

 

「……いや、恋愛感情の好きではないよ。」

 

「あらぁ?そうなの?ごめんなさいねぇ。」

 

「何で…急にそんなこと聞くの?」

 

「そうねぇ。この状況で人を好きになるなんてことがあるのか…知りたかったのよ。」

 

「……こんな状況でそんなのありえないってこと?」

 

「いいえぇ、むしろ、こんな状況だからこそ、人を好きになりやすいでしょ?」

 

(なんか聞いたことがある…。吊り橋効果だっけ…?)

 

「私、人を愛したことがないのよ。」

 

「……え?」

 

「人に恋愛感情を抱いたことがないの。」

 

「そうなんだ。でも…まだ高校生だし…。」

 

「そうねぇ。でも、愛の歌を歌っていても何も共感できないのよ。歌い手としては致命的だわ。」

 

「……。」

 

「貴方も歌い手だから、教えてもらいたかったのよねぇ。でも、よく考えたらアイドルって恋愛ご法度なのかしら?」

 

「変よねぇ。どうして他人に恋愛して良い・悪いを決められるのかしら。」

 

「あはは、えーと…そうだね。何にせよ、ぼくも大それた恋愛経験はないから…何とも言えないかな。」

 

「そう…残念ねぇ。」

 

(彼女はさして気にしていないような顔で去って行った。)

 

 

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(その後、広場周辺の武器屋や防具屋、宿屋の隣の酒場を調べたけれど、特に収穫はなかった。)

 

(やっぱり、1人で調べてても何も見つけられないなぁ。探偵の才能でもあれば良かったんだけど…。)

 

(そんなことを思っていると背後から声をかけられた。)

 

「哀染君。何か見つかったっすか?」

 

「蘭太郎君。残念ながら、何も。」

 

「こっちもっす。武器屋に物騒な物があるくらいっすね。」

 

「そっか。ぼくは まだ昨日の “大富豪の家”を調査してないんだけど…。」

 

「俺もっす。じゃあ、一緒に行きましょう。」

 

「えっ。」

 

「どうしたんすか?早く行きましょう。」

 

(彼に誘われるとは思っていなかった。でも、よく考えたら こっちの方が彼らしい……気がする。)

 

 

 

【西エリア 大富豪の家】

 

(昨日 足を踏み入れた豪邸の前に立つ。大きな扉を開けようとして…開かなかった。)

 

「あれ?鍵が掛かってる…。」

 

「当たり前でしょ。」

 

「……ッ!」

 

「不法侵入の輩が家のツボ割ったりタンスや宝箱 物色したりしないように、Fチームには鍵を持たせてるんだよ。」

 

「出かけるなら、必ず自室と この扉の施錠をしなさいって言ってるからね!」

 

(宿屋は個室にも鍵がないのに…。)

 

「うぷぷ、不公平感 感じちゃった〜?ズルいよね〜!Fチームには豪華な食事に安眠ベッドが用意されてるのにさー!」

 

「金持ちを支持しただけで生活が変わる!実社会もこういうことの繰り返しだよね。」

 

「誰に付くか?これはちっぽけな人間が小狡く腰巾着として生きていくための永遠のテーマだよ!」

 

「ま、オマエラ貧乏人チーム…略してBチームがこの家に入りたいなら、富豪チームの鍵を入手して入るしかないよ。」

 

「……。」

 

(モノクマは何が言いたいのか いまいち伝わらない演説を終えて去って行った。)

 

 

「とりあえず この家の調査はFチームに任せて…そこの離れに行ってみましょう。」

 

「地図では、”別荘”になってたところだね。うん、そうしよう。」

 

(”大富豪の家”の前に広がる湖の中州に建物がある。2人でその前まで歩いて行った。)

 

「あ、天海さん、哀染さん…。」

 

「ここみ君。中に何かあった?」

 

(離れの扉の前に立っていた小柄な人物に声をかけたが、彼は俯いて小さく言うだけだった。)

 

「う、ううん…ここ…鍵が掛かっているみたいなんだ。」

 

「ここもっすか?」

 

「本邸の方も鍵が掛かってたよね。Fチームのみんなが鍵を持ってるのかな?」

 

「そうかもしれないっすね。夜の報告で確認しましょう。」

 

 

「あ…あのね。2人とも…。」

 

「…?どうしたの?」

 

(ためらいがちな声に目線を向ければ、俯いて視線を泳がせた困った顔が目に入った。)

 

「あの、少し…聞いてほしいことがあって…。」

 

「どうしたんすか?」

 

「その…木野さんのこと…なんだけど…。」

 

「琴葉のこと?」

 

「うん…。それが…。……見ちゃったんだ。」

 

「3日前…夜中に木野さんがモノクマと会っているところ…。」

 

「え?」

 

「モノクマと?何を話してたんすか?」

 

「遠くて会話は聞こえなかったんだけど…その…。」

 

「僕らの中には…みんなと違う動きをしている人がいるみたいでしょ?だから、さ…。」

 

(みんなと違う動き…?)

 

 

「永本クンにあのメモを書いたのは…ボクじゃないよ!」

 

 

(ぽぴぃ君の最期の言葉を思い出す。そして、最初の裁判のことも。)

 

「その“イレギュラー”が…木野さんじゃないかって…心配になったんだ。」

 

(イレギュラー…。)

 

「……キミたちはクラスメイトだったっすよね?」

 

「う、うん。クラスでも…木野さんはあんな感じだったよ…。誰かと深く関わることはなかった。」

 

「だからこそ…モノクマと会ってるのがおかしいなって…。もし木野さんがモノクマと関係があったら…と思って…。」

 

(彼女がモノクマと内通しているかもしれない…ってこと?)

 

「……キミがそれを見たのは3日前っすよね?どうして今、俺たちに話したんすか?」

 

「ご、ごめんなさい…。前のステージにいた時、天海さんも…みんなと違う動きに見えた…から。」

 

「……。」

 

「でも、今は…2人には話しておこうって…思ったんだ。」

 

「……そっか。うん、ありがとう。」

 

「う、うん。何もなければいいんだけど…。じゃ、僕は行くね。」

 

(彼はそそくさと立ち去った。)

 

(イレギュラー…か…。)

 

「哀染君。今は疑う証拠がないっすよ。」

 

(釘を差すような声に、ハッとした。)

 

「う、うん。そうだね。」

 

 

 

【中央エリア 教会】

 

(日が沈み、辺りが暗くなってきた。)

 

(Bチームの面々が集まった教会。後ろから2番目の列のイスに封筒が数枚置かれていた。)

 

Fチームからの報告書だ。お互いの状況や発見をこの場所に書き置きしようと昨日決めていた。)

 

「Fチームの報告書はずいぶん上等な紙に書かれてるっすね。」

 

(彼が苦笑いして封筒を開く。中には光沢のある便箋が数枚入っていた。)

 

「……向こうも特に手掛かりという手掛かりは見つからなかったみたいっすね。”大富豪の家”も”別荘”にも脱出の手掛かりはなさそうっす。」

 

「……あと、Fチームは日没後の外出は禁止されているようです。”箱入りだから”という理由で。」

 

「そう。気の毒ねぇ。」

 

「えっとぉ、この手紙の質 格差から見るに、気の毒なのはこっちの方だと思うの☆」

 

「……。」

 

「あ…あれ?これ、前谷さんから哀染さんにだよ。」

 

「光太君から?」

 

(みんな宛ての報告書の封筒の他に、数枚の封筒があった。『哀染先輩へ』と力強い字で書かれた封筒を受け取る。」

 

「祝里さんからも…ある。」

 

「あ、本当だ。僕と木野さん宛てだ。」

 

「クラスメイト宛てに書いたのかもしれませんね。ーー永本君から夕神音さん宛てもあるっすね。」

 

「え、永本さんから夕神音さんに?」

 

「あらぁ?」

 

(几帳面な字で『夕神音へ』と書かれた 他より大きい封筒は四角く膨らんでいる。)

 

「うふふ、ファンからのプレゼントを思い出すわぁ。」

 

(彼女は封筒を受け取って上機嫌に教会を出て行ってしまった。……何が入っていたんだろう。)

 

「いいなーいいなー。アイコもお手紙欲しかったー。クラスメイトがいないのはツライよ。な、蘭太郎?」

 

「………。そうっすね。」

 

 

 

【東エリア 宿屋 哀染の個室】

 

(教会から戻って、みんなで食事を済ませた。自室に入り、シャワー室でコンタクトレンズを外すと、目の疲れが少し取れた気がした。)

 

(自分宛てにもらった、しっかりした作りの封筒を開けた。中の便箋には、宛名と同じく力強い文字が並んでいる。)

 

(『哀染先輩、お疲れ様です。先輩と話すことができないので、手紙を書いてみました。』)

 

(『こんな状況ですが、クラスメイトの哀染先輩が一緒でこんなに心強いことはありません。』)

 

(『色々あって話せませんでしたが、先輩には本当に感謝しています。覚えていますか?人前に出るのが苦手な自分に特訓をしてくれたこと。』)

 

(……。)

 

(『”超高校級の柔術家”なんて言われていても、人前での試合は からきしの自分にアドバイスしてくれましたね。』)

 

(『それに、100人の女生徒の前で鍛練する機会もくれました。あれから、どんなことも あの恐ろしい経験よりマシだと思えるようになったんです。』)

 

(……それはトラウマと言うのでは…?)

 

(『だから、今の自分があるのは哀染先輩のおかげです。そんな大事なことを忘れてしまったことが自分でも信じられません。』)

 

(『もう一度お礼を言わせてください。……あ、それにこんなこともありましたね…』)

 

(彼の手紙は、そこから便箋5枚に渡って思い出した記憶と感謝の意が述べられていた。)

 

(……返事を書かなくちゃ。)

 

(部屋にあったメモ帳の紙を破り取って返事を書いた。便箋はないから折りたたんで『光太君へ』と宛名を付けた。)

 

(そうこうしているうちに遅くなってしまった…。今日はゆっくり眠れるといいな…。)

 

(ベッドの上で祈るように目を閉じると、睡魔はすぐにやって来た。)

 

(今日はどんな夢を見るんだろう。)

 

 

 

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