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愛と誠。デッド・オア・ラブ(非)日常編Ⅱ

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のアナウンスだ。)

 

(いつも通り夢見が悪かった上に…ベッドが硬いせいで体が痛い…。)

 

「……?」

 

(遠くから歌が聞こえた。窓を開けると、美しい歌声が鮮明に耳に届いた。)

 

 

 

【東エリア 宿屋2階 酒場】

 

「みんな、おはよう。」

 

「哀染君、おはようございます。」

 

「おはおはおっはー!」

 

「お、おはよう…。」

 

(レストラン代わりの酒場に3人が揃ってる。あと2人はまだ来ていないようだ。)

 

「えーと、美久と琴葉は?」

 

「えっとねー、木野ことちゃんは朝いらないんだってぇ。何かずっと部屋こもってるよね〜!夕神音ミクミクは〜分かんない☆」

 

「分からない?」

 

「部屋覗いてもいなかったんだぞ!」

 

「え…それって、だ…大丈夫なの…?」

 

「あ、たぶん…美久はどこかで歌の練習をしてるんじゃないかな?」

 

「歌の練習?」

 

「うん。窓を開けたら美久の歌声が聞こえてきたんだ。」

 

「ああ、確かに。歌が聞こえてたっすね」

 

「そっかー。アタシまともに聞いたことなかったから夕神音さんだって気付かなかったなー。」

 

「この前のショーではすぐ寝ちゃったもんね…。」

 

 

(そんな会話をしていると、のんびりした声と共に酒場の扉が開いた。)

 

「あらぁ。みんな、おはよう。」

 

「あ、美久。よかった。」

 

「何かあったんじゃないかって話してたんだよ…。」

 

「あらぁ?ごめんなさい。教会に行ってたのよぉ。」

 

「教会?信仰があるのか?とあるゲームで十字架やらなんやらを登場させて宗教家に訴えられたなどと話を聞くが…貴様もそのクチか?」

 

「あら、違うわよぉ。永本君に頼まれたからね。」

 

「永本さんに?」

 

「えぇ。昨日彼にファンレターをもらってねぇ。」

 

「ああ、昨日のあれ…ファンレターだったんだ。」

 

「それにしては形が…あ、もしかしてカセットレコーダーっすか?」

 

「かせっとれこーだー?古すぎて分かりませんね。」

 

「古いってことは分かるんだね…。」

 

「えーと、カセットレコーダーって…前のステージで蘭太郎君が見つけたものだよね。」

 

(牛の人形の中から。)

 

「ええ。イヤホンジャックもあったし、永本君にあげたっす。結構 喜んでたっすね。」

 

「今時カセットレコーダーってありえないんだけどー。」

 

「あらぁ?でもメタルテープよ?」

 

「音質の問題じゃないよっ。」

 

「うふふ。彼、カセットレコーダーを持ってて、それを貸してくれたのよ。それでーー」

 

(彼女が言いかけたところで、酒場のモニターに光が入った。)

 

 

『オマエラ、今すぐ”大富豪の家” 応接間に集まってください!』

 

(モノクマの声に緊張が走る。今度は一体何なんだろう…。)

 

「とりあえず、みんなで行きましょう。」

 

「我は木野を連れてこよう。」

 

 

 

【西エリア 大富豪の家 応接間】

 

(全員が指定された通り、応接間に集まった。一応、相手チームとは少し離れて。)

 

「さあさあ!お待ちかね!今回の動機の発表だよー!」

 

「今回の動機…。」

 

「…毎回あるってことっすね。」

 

(みんなが互いに目配せするのを、モノクマはニヤニヤと眺めている。)

 

「今回の動機は……一口飲ませれば、あら不思議。彼、彼女があなたのトリコになる惚れ薬だよ!」

 

「惚れ…薬…?」

 

「そうそう。この町のどこかに強力な惚れ薬が1つ隠されています!それを探して意中の相手をメロメロにしよう!」

 

「そ…そんなものが…?」

 

「いや…そんな都合いいもんあるわけねーだろ。」

 

「そ、そうだよね。うん。あたしも、ないと思う。」

 

「ワタシのファミリーでも開発できません。マツゲツバですネ!」

 

「ローズさん、マユツバですよ。」

 

「信じられないね。阿呆らしい。」

 

(Fチームのみんなが否定的な言葉を並べている。……が、その顔は半信半疑といった様子だ。)

 

(ここに来てから信じられないものをたくさん見た。何があってもおかしくない…そんな気持ちなのかもしれない。)

 

「ハイハイ、信じるのも信じないのもオマエラの自由だよ。惚れ薬がほしい人は探せばいいし、信じないなら無視すればいいさ。」

 

(モノクマがいつもの特徴的な笑い声をあげて言う。)

 

「惚れ薬は好きな相手にプレゼントしてね。その人が薬を飲めば、両想いになる仕様だよ。意中の相手がいるなら誰かに取られる前に急いだ方がいいよ!」

 

「ちなみに、ピンクのブサイクなウサギのパッケージが目印だよ!頑張って探しましょ〜!」

 

「何だか…よく分からない展開になってきたね…。」

 

「そうっすね。惚れ薬が本当かどうかもそうっすけど。」

 

「そんなものがコロシアイの動機になるとは思えないわぁ。」

 

「いやいや、愛憎劇の末の殺人!9時からのドラマではお馴染みじゃない?」

 

「こ、怖いこと言わないでよ…。」

 

「……。」

 

 

(戸惑っているとモノクマは「この話は一区切りしました」と言わんばかりに話題を転換した。)

 

「さてさて、オマエラせっかく全員揃ったし、”アレ”をやっておこうか。」

 

(…アレ?)

 

「幼馴染みかお嬢様かで意見が真っ二つに分かれているオマエラ!議論対立スクラムの時間だよ!」

 

「今からオマエラには『なぜそのチームを選んだのか?』それについて議論してもらいまーす!」

 

(モノクマが楽しげに叫ぶ。それと同時に、どこからともなく急かすような音楽が聞こえて来てーー)

 

(いつの間にか、BチームとFチームが向かい合う形で議論することになった。)

 

 

 

議論対立スクラム 開始

 

「え?え?えーと、えーと…男子って大人しい性格の子の方が好きなんじゃないの?」

 

「えーと…ぼ、ぼくが!」

 

「隣の家の窓から自分の部屋に入って来て起こしてくれるとか、そんなやんちゃな性格の子も素敵だよ!」

 

 

「そうですね…家柄に恵まれた方は教養がある方が多いと思います。」

 

「琴葉!」

 

同士なら…親しみがある方が…いい。」

 

 

「お金、ダイジです。」

 

「美久!」

 

お金目的で付き合うわけじゃないはずよねぇ。」

 

 

「僕はお喋りな人は苦手でね。」

 

「ここみ君!」

 

「ぼ、僕はどちらかというと聞き手になることが多いから…相手がたくさんお喋りしてくれた方がいいかな…。」

 

 

「フワフワした柔らかい女性は魅力的です!」

 

「アイコ!」

 

「機械仕掛けの硬い女性だって魅力的だろーが!!」

 

 

「オレは一緒に家で音楽とか聴いて楽しめるヤツがいい、かな。」

 

「蘭太郎君!」

 

「俺は一緒に出かけて楽しめる人の方が好みっすね。」

 

 

「これがぼくたちの答えだよ!」

 

 

(……何だコレ。)

 

(何の意味があったのか分からない議論。それが終わってモノクマはFチームに「押し負けちゃったね〜ドンマイドンマイ」と声をかけている。)

 

「哀染きゅん。」

 

「何?」

 

(モノクマの声を聞き流していると、背後から声がして振り返った。)

 

「悪いけど…窓から部屋入って起こしに来てくれる幼馴染みなんて、フィクションだけだと思うよ。」

 

「そうねぇ。そんな女の子、本当にいるのかしらぁ?」

 

「……いない。」

 

「年頃の女の子だったら家族が止めると思うっす。」

 

「夢見すぎ…かもしれないね…。」

 

(味方なのに…総攻撃だ…!)

 

 

(その後、BチームもFチームも別れて探索に向かった。)

 

(惚れ薬か…コロシアイの動機なら探さない方がいいのかな。)

 

(惚れ薬は別にしても、昨日よく見なかったところを調べてもいいかもしれないね。)

 

 

 武器屋を見よう

 防具屋を見よう

 民家を見よう

全部見たね

 

 

 

【東エリア 武器屋】

 

(道具屋と同じ、屋根のない建物に武器が並べられている。)

 

「ヨシヒk……勇者様ー!」

 

「……あり得ない間違え方しないでよ。…どう?何か見つかった?」

 

「いやいや、あっしは何の役にもたたねぇゴクツブシでさぁ。情けねぇ。」

 

「そんなことないよ。ぼくも何も見つけられてないし…。」

 

「しっかし、この武器屋も物騒なモンが勢ぞろいやな。」

 

(店内に並べられている剣、オノ、刀、弓、ハンマー、ナイフ…。)

 

(前回も前々回も…用意された凶器が使われた。)

 

「そうだ。ここの武器をどこかに隠しちゃえば…」

 

「うーん、モノクマが新しいブツ用意するだけじゃない?だってモノクマはこーんな町を用意できるフレンズなんだよ?」

 

(確かに…。)

 

 

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【中央エリア 防具屋】

 

(防具屋は道具屋と違って、屋根のある一軒家の中にあった。家の一部はお店として、一部は民家として使っているらしい。)

 

「哀染君。さっきは散々だったわねぇ。」

 

「さっき?」

 

「あなた好みの隣の家から入って来てくれる女性に出会えるといいわねぇ。」

 

「あ、あれは ぼくの好みってわけじゃないよ!」

 

「そうなの?じゃあどんな人が好きなのかしら?」

 

「えーと…何でそんなこと聞くの?」

 

「ここに意中の相手がいる人っているのかしら?」

 

「それって…動機の惚れ薬のこと気にしてるの?」

 

「えぇ。でも、私たちはまだ出会って間もないからねぇ。そこまで好きな相手がいる人…いるのかしら?」

 

「うーん、一目惚れって言葉もあるし…クラスメイトだった人もいるからね。」

 

「なるほどねぇ。惚れ薬を飲めば…少しは愛について分かるのかしら。」

 

「……。美久、もしかして…惚れ薬を飲みたいの?」

 

「……。」

 

「いいえぇ、薬って苦手なのよぉ。」

 

「そっか…。」

 

(そうだよね。そんな愛は…きっとニセモノだもんね。)

 

 

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【東エリア 民家】

 

(宿屋の建物のすぐ前に民家がある。”大富豪の家”に比べるとかなり質素で古い印象の内装だ。その中で大きな体がゴソゴソと動いているのが分かった。)

 

「あっ!……!」

 

 

(彼は昨日と同じようにこちらを見て声をあげ、続けて口を押さえた。)

 

(昨日手紙をもらって返事を書いてたんだった。)

 

(懐から返事を書いたメモ紙を取り出し、彼のそばにさり気なく落とした。)

 

「………!」

 

(彼は嬉しそうにメモ紙を拾い上げてこちらに笑顔を向けた。笑顔を返せば、彼は顔を紅潮させて家から出て行った。)

 

(……彼との関係に一抹の不安を感じる。)

 

(民家を調べてもこれといった発見はなかった。手掛かりどころか…誰かが生活していた形跡すらない。)

 

(モノクマがゲームのオマージュって言ってたけど…何の目的でこの町は作られたんだろう。)

 

(まさか、このコロシアイのため…なんてことは ないよね…?)

 

 

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(空が暗くなり始めた。散り散りになっていたFチームの人たちが”大富豪の家”に戻って行くのが見える。)

 

「哀染君。」

 

「どう…だった?何か…見つけた?」

 

(ぼんやり家の中に入って行くFチームのみんなを眺めていると、後ろから声をかけられた。)

 

「蘭太郎君、ここみ君。ぼくは何も。」

 

「動機も…見つからなかった…んだよね?」

 

「え?うん。動機だし…探さない方がいいかなと思ったんだけど…。」

 

「俺は隠されているよりはみんなで管理した方がいいんじゃないかと思うんすよ。」

 

「誰が持ってるか、誰が使うか分からない状況よりはいいと思うっす。」

 

(そっか。そういう考え方もあるんだ。)

 

「でも…その管理方法や目にとまる場所にあることが動機に…なるかもしれないよ…。」

 

「も、もちろん、惚れ薬なんかが殺しの動機になるとは思えないけど……。」

 

「……そうっすね。見つけた後のことも考えなくちゃなんねーっすね。」

 

「とりあえず、探すかどうかはBチームの他の人たちとも話し合ってみようよ。」

 

(3人で教会に向かう。今日は夕食の後にFチームへの報告を行う予定だった。)

 

(そこで、民家の方をチラリと見て、目を見張る。)

 

 

(半開きの扉から倒れ伏した人の頭が見えたからだ。)

 

「だ、だれか倒れてるよ!?」

 

「ええ…!?」

 

「……!永本君っす!」

 

「ストーップ!」

 

「…!モノクマッ!」

 

(慌てて駆け寄ろうとしたところ、モノクマが目の前に立ちはだかった。)

 

「ルール忘れたの?オマエラは敵チームなんだよ!敵が倒れて喜びこそすれ、心配して駆け寄るなんて変だよ!」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

 

「待ってください、哀染君。永本君の体は動いてるっす。息はありますよ。」

 

「そうだね…。発見アナウンスがないってことは、彼は生きてるよ。」

 

「不吉なこと言わないでよ!」

 

(よくよく倒れた彼を観察すれば、背中と肩が呼吸とともに上下しているのが分かる。)

 

(でも、あんな風に倒れてるなんて普通じゃない。)

 

「彼を運ぶかFチームを呼ぶかしないとっすね。」

 

「そ、そうだね…。Fチームは日没までに家に帰ってないといけないみたいだし。」

 

「そ、そうだよ!じゃあモノクマFチームの人たち呼んできて!」

 

「……。」

 

「は?嫌だよ。」

 

「……は?」

 

「だから、嫌だってば。オマエラBチームの貧乏人のお願いなんて聞けないね。」

 

「何を言って…!」

 

「哀染君。とにかく、”大富豪の家”まで行きましょう。」

 

「ぼ、僕はここで永本さんの様子を見てるよ。」

 

(2人で”大富豪の家”まで走る。…彼に何があったのか、また死者が出てしまうのではないか。そんな不安を抱えながら。)

 

 

 

【西エリア 大富豪の家】

 

(家の前まで来たけど…どうしよう…。Fチームと話ができないのに…!)

 

「哀染君。大丈夫っす。簡単なことっすよ。」

 

(彼はそう言ってから大きく息を吸ってーー)

 

「大変っす、哀染君!!!永本君が宿屋の前の民家で倒れてるっすよ!!!!」

 

(今までに聞いたことがないほどの声量でまくし立てた。)

 

(そっか!相手チームと話さなくてもいいんだ…!)

 

「それは大変だ!!!ぼくらは敵チームだからってモノクマに邪魔されて助けられない!!!!!」

 

「もうすぐ日没っす!!暗くなる前にとにかく永本君を家に運ばないと!!!」

 

(少しして、バタバタと家の中から音がして、大きな扉が勢い良く開いた。)

 

「それは本当ですか!?ーー松井先輩!」

 

(初めに飛び出して来た彼は、一瞬こちらに目をやった後、思い出したように後ろにいた面々へ目を向ける。)

 

「ああ、行こうか。」

 

「あ、あたしも行くよ!」

 

「ワタシたちも行きマショウ。先生。」

 

「ええ!」

 

(Fチームのみんなが走って行く。その背中を追って民家へ走り出した。)

 

 

 

【東エリア 民家】

 

「永本先輩!!」

 

(扉を壊しそうな勢いで入って行く彼の背中を追ってみんなが民家に入る。)

 

「永本…先輩…?」

 

(彼は床に倒れ伏した人物に近寄り、か細い声を発した。)

 

(まさか…また誰かに殴られて気を失ってる…?)

 

「ね…寝てます…。」

 

「何だって?」

 

「寝てる?」

 

「ええ!それはもう、気持ちに良さそうに!!板の間で寝てるとは思えないほどに!」

 

「…またこのパターンですカ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

(寝てる?こんなところで?)

 

「と、とりあえず、自分が連れていきます!ありがとうございました!!」

 

(スヤスヤ寝息を立てる青年をお姫様抱っこして、大柄な青年がこちらに聞こえるように叫ぶ。)

 

「手伝い…は必要なさそうだね。」

 

「コノ国のヒト、どこにも寝ます。ホントウでした。」

 

「さすがに普通はこんなところでは寝ませんよ。」

 

 

「……俺たちも戻りましょうか。みんなも夕飯食べるの待ってると思うっす。」

 

「みんな…か。木野さんはどうかな…。」

 

「あ…そっか。ずっと個室でこもってるもんね。そろそろ心配だよ。」

 

「う、うん…。前も劇物の研究とかで化学室にこもって倒れたこともあったし。」

 

(げ、劇物…?)

 

(家に戻って行くFチームを横目に、自分たちも宿屋に入った。)

 

 

「……。」

 

「ここみ君…?」

 

(宿屋の扉前から外を眺めて動かない背中に声をかけると、「何でもない」と彼は笑った。)

 

 

 

【東エリア 宿屋2階 酒場】

 

(酒場の扉を開けると、既に女性陣は席に着いていた。)

 

「遅いぞー!何やってたんだー?」

 

「お腹ペコペコよぉ。」

 

「すみません。ちょっと色々あったんすよ。」

 

「……。」

 

「あ、良かった。琴葉も来てたんだね。」

 

「でも、顔色悪いよね??クマもあるし??寝てないの??」

 

「…別に。」

 

「コトハ様?!」

 

「木野さん、夜も研究を続けているようだけど…寝たほうがいいわよぉ。」

 

「……。」

 

(みんな心配気な視線を送るが、彼女は黙って俯いてしまった。)

 

(眠るのを忘れるほど没頭してしまう…気持ちは分からないでもないけど…。やっぱり心配だ。)

 

 

 

【中央エリア 教会】

 

(夕食を食べた後、Bチーム全員で教会まで来た。教会 後方の席には、昨日と同じようにFチームの報告書といくつかの封筒が置かれている。)

 

「前谷君からの手紙がまたあるっすね。」

 

「うん。昼に昨日の返事を渡せたから、その返事かな?」

 

(豪華な紙に豪快な字で宛名が書かれた封筒を受け取った。)

 

「今日はローズさんと松井さんから、連名で夕神音さんに手紙が来てるね…。」

 

「そうかい、3人もクラスメイトだったもんな!」

 

「夕神音さんも永本君に返事を書いたんすか?」

 

「そうねぇ。返事というわけじゃないけど…借りたカセットレコーダーは朝に返しておいたわぁ。」

 

「僕も…今日は祝里さんと永本さん宛にそれぞれ手紙を用意したよ。」

 

「Fチームからの報告は…特に発見がないってことっすね。本邸も別荘もその他くまなく探してるようですが…変わったことはないそうで…。」

 

「ちなみに、”大富豪の家”も別荘にも、凶器になりそうな刃物はないみたいっすね。」

 

「昨日の俺らからの質問にも答えてあるっす。別荘の鍵はひとつらしいっすね。大富豪の家の玄関に置かれているそうっす。」

 

「あと、こっちの宿屋に鍵がないことに驚いてるっすね。…昨日の報告書にそんなこと書いてたっすか?」

 

「あ…今日モノクマがFチームのみんなと“貧乏人の宿 探索ツアー”してるの見たよ。」

 

「何かしらそれ?」

 

「よく分からないけど…僕らの宿を見て回ってたよ。」

 

「ああん?Fチームだけ?エコひいきじゃねー?」

 

「いや…そんなツアー誰も参加したくないでしょ。えっと、てゆーか…それぞれの個室にも入ったりしたのかな?」

 

「さすがに、それはしてなかったみたいだよ。部屋の外から『誰々の個室です』みたいなことは言ってたけど。」

 

「それより、Fチームは、動機については何も言ってないの…?」

 

「そうみたいっすね。特に何も記載はないっす。」

 

(彼は静かに言いながら、Fチームからの報告書を見せた。)

 

「みなさんは動機について、どう思うっすか?俺は、みんなで探すべきだと思うんすけど…。」

 

「そうねぇ。私もその意見に賛成かしら。」

 

「アタシも。」

 

「……うん。」

 

「僕は…みんな探さない方がいいと思うけど…。それは難しいのかな…?」

 

「ぼくは……うーん…分からないや。最初は探さない方がいいのかなとも思ったけど、みんなで上手く管理できるなら探した方がいいと思うし…。」

 

「あ…探す派の方が多いね…。じゃあBチームは探すってことでどうかな?」

 

「強制することじゃありませんが…。」

 

「ううん。多数決に従うよ。」

 

「じゃあ明日から惚れ薬探しね!ワクワクすっぞ!」

 

「じゃあ宿屋へ戻りましょう。そして今日はみんな早めに寝ましょうねぇ。」

 

 

 

【東エリア 宿屋1階】

 

(部屋に入ってベッドに腰掛けた。念のため部屋のカメラに映らないよう気を付けながら、受け取った手紙を取り出して封を切る。)

 

(『お返事ありがとうございます!例の件も安心してください!!……』相変わらず、力強い文字が並んでいる。)

 

(『それより、自分はとんでもないことに気付いてしまいました!』)

 

(え?何か重要な手掛かりが…?!)

 

(『手紙の方が緊張せず、こうして先輩と何でも話せるってことです!』)

 

(……違ったみたいだ。)

 

(『先輩は動機について、どう思いますか?こちらのチームのみんなは特に関心がないようですが、自分は探してみようと思っています。』)

 

(彼も、みんなで管理した方がいいと感じているのかな。)

 

(『惚れ薬を飲めば、自分も女性に対して普通になれるかもしれませんから。』)

 

(……違ったみたいだ。)

 

(『自分は最近鈍ってきてるので、夜明けと共に早朝トレーニングを再開しました!広場でしています!今度一緒にどうですか!?』)

 

(『皆さんを守るためのトレーニングをローズ先パイが考えてくれたんです!これから何があっても自分が皆さんを守ります!』)

 

(便箋6枚に渡る意気込みと思い出話を読んでいるうち、小さく歌声が聞こえてきた。)

 

(そして…意識はそこで、唐突に途切れた。)

 

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(音に驚いて飛び起きる。昨日の格好のまま、手紙を広げて眠ってしまっていた。)

 

(付けたままのコンタクトレンズで目が痛い。)

 

(慌ててシャワー室で身支度を整えて部屋を出る。と、同じように いくつかの扉が同時に開いた。)

 

(いつもより遅い時間にも関わらず、みんなが同じタイミングで。)

 

「おはようございます。」

 

「あ…お、おはよう…。」

 

「おはようございますですわ。」

 

「みんなも今 起きたの?」

 

「う、うん…昨日は突然…気絶するみたいに眠っちゃって…。」

 

「俺もっす。おかげでよく眠れましたが…。」

 

「これ、デジャブュってやつね。」

 

(みんながひとつの部屋を見る。一瞬の後、その扉はゆっくり開いた。)

 

「あらぁ、みんな。おはよう。よく眠れたみたいねぇ。」

 

「……夕神音さん、もしかして昨日 子守唄 歌ったっすか?」

 

「ええ。ぐっすり眠れたでしょう?」

 

「ここ壁薄いから…みんな子守唄を聞いて熟睡しちゃったんだね…。」

 

「もぉー!子守唄 歌うなら先に言ってよぉ〜!プンプン!」

 

「……。」

 

(ガチャリと最後の扉も開かれた。中から出てきた彼女は今 起きたばかりといった顔だ。)

 

「あ…木野さんは夕神音さんの隣の部屋だから…まともに聞いちゃったんだね…。」

 

「あらやだ、体に悪いものじゃないわよぉ。」

 

「突然 眠らせるのはもはやテロじゃあ!」

 

(確かに突然眠らせられるのは困るけど…子守唄のおかげか今日は変な夢を見ることもなかったし頭がスッキリしてる。)

 

「まあ、ゆっくり眠れたということで…朝食に行きましょう。」

 

(その後、食事を取ってそれぞれ解散した。)

 

(今日は調べたところも もう一度調べないと。動機を探さないとだしね。)

 

 

 宿屋内を調べてみよう

 教会に行こう

 広場周辺を探そう

全部見たね

 

 

【東エリア 宿屋1階】

 

(宿屋の廊下は静まり返っている…)

 

(と、思いきや、ガタゴトと物音がしていた。)

 

「琴葉?どうしたの?」

 

「……探してるの。」

 

「惚れ薬のこと?」

 

「……。」

 

(彼女は しばらく黙った後、頷いた。そしてすぐにまた辺りをガサゴソと探し出した。)

 

(何だか必死に見える…。)

 

(惚れ薬…もしかして研究したいのかな…?)

 

 

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【中央エリア 教会】

 

(教会の後方の椅子には、昨日Bチームが置いた報告書が置かれたままになっていた。)

 

(まだFチームの誰も回収に来ていないのかと思ったが、教会の前方の椅子には人影がある。)

 

「……。」

 

(声をかけそうになった。けれど、彼女はFチームだ。)

 

(彼女が1人でいるのは珍しいな。)

 

(少し近づいても、彼女はこちらに気付かなかった。手を組んで祈っているように見える。)

 

(結構 信仰深いのかな?)

 

(前の町で、彼女が教会に行ってるところは見なかったけど…。)

 

(邪魔しないよう、なるべく音を立てないように外に出たーーところで、目の前に長身の人影が立っていた。)

 

 

「うぃー、アイドルのダンナ、調子はどうだい?フヒェヘヘ…。」

 

(それはどんなキャラなんだ…?)

 

「朝も会ったでしょ?元気だよ。アイコは何か見つけた?」

 

「ぜーんぜん!マジチョベリバ〜!」

 

「そっか…。でも、これから何かが見つかるかもしれないよ。」

 

「うーん、でも燃料が足りないっていうか〜。Fチームとの生活格差にヤル気激減っていうか〜。」

 

「格差?」

 

「そうそう。さっき松井クンとローズさんが朝食の話してたんだけど、今朝はフレッシュジュースにフルーツサラダ、自家製パンにオムレツだったんだって。」

 

「キィー!うらやましくなんかないんだからぁ!!」

 

(うらやましいんだ…機械なのに。)

 

「…今、機械なのにうらやましいんだ?とか思ったでしょう?」

 

「……ひ、被害妄想 激しいよ。」

 

 

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【中央エリア 広場】

 

(広場にいると、みんなが行き来している様子がよく分かった。)

 

(みんな1人か2人で行動しているみたいだね。)

 

(広場の脇の草むらから探し始めたところでーー)

 

「うおっ!?」

 

(悲鳴と共にバタンと音がして振り返る。)

 

「ちょっと、けい、大丈夫?」

 

「あ、ああ。」

 

(盛大に転んだ男がムクリと起き上がったところだった。)

 

「また何もないところでコケたの?」

 

「またって…そんな頻繁にコケてねーだろ。」

 

「えーと、学校で転んでるの結構よく見かけたけど…。」

 

「……。余計な記憶まで思い出してんな…。」

 

(昨日は倒れていて驚いたけど…良かった、今日は元気そうだ。)

 

(あれ?でも、彼…今日はいつもと違うような…?)

 

(彼らはこちらに気付かなかったようで、そのまま去って行った。)

 

 

(地面の草をかき分ける。土と石畳の境に差し掛かり、違和感に気付いた。)

 

(石畳には土ぼこりひとつ付いていない…。1番最初の町でもそんなこと聞いたっけ…。)

 

(俯いて石畳を凝視していると、ふいに視界が暗くなった。顔を上げれば、しかめられた顔と目が合う。)

 

「……。」

 

(彼は、掃除用具でパンパンの腰カバンから軍手とぞうきんを、背中からハタキ1本を取り出してこちらに落とした。)

 

「……?」

 

(……いや!違う!掃除してるわけじゃないよ!)

 

(目で訴えたけれど、彼はさっさと行ってしまった。)

 

 

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(何も見つからないまま、日が暮れてしまった。)

 

(やっぱり、”探偵”の才能とかが欲しいなぁ…。)

 

(Fチームのみんなは家に入って行く。Bチームは教会に集合する時間だ。今日は夕食前に報告書を見に行こうという話だった。)

 

 

 

【中央エリア 教会】

 

(教会には1人を除いてBチームのみんなが集まっていた。)

 

「哀染君。動機は…その様子じゃ、見つからなかったみたいっすね。」

 

「うん。みんなもだよね。」

 

「本当にこの町にあるのかしら?モノクマの嘘じゃないかしらぁ?」

 

「ここまででモノクマが言ったことに…嘘はなかったと思うけど…。」

 

「そうだぞ!いくら高性能な機械でも狙って嘘つくのは難しいんだぞ!」

 

「Fチームは動機を見つけたのかな?」

 

「少なくとも、報告書に見つかったとは書いてないっすね。」

 

「Fチームは光太君以外、動機の惚れ薬にそこまで関心ないみたいだからね。」

 

「そんなものがどうして動機なのかしら。」

 

「そう…だよね。惚れ薬を奪い合って殺し合いは…さすがに考えにくいし…。」

 

「意図はないのかもしんないね。」

 

「あ、前谷君から哀染君に手紙っすよ。」

 

(あ。今日は返事を用意してなかった。明日、返事を渡さなきゃ。)

 

「僕宛てに祝里さんと永本さんから昨日の返事と…夕神音さん宛てにローズさんと松井さんからの手紙もあるね…。」

 

「あらぁ、じゃあお返事置いておくわぁ。」

 

「何だか文通みたいになってきたね。」

 

(そんな話をしていると、教会の扉が開かれた。)

 

 

「……あ。」

 

「木野さん…遅かったね…?」

 

「……調査…してた…。」

 

「え、顔 真っ青じゃない?!大丈夫?」

 

「……。」

 

(問題ない、と言わんばかりに彼女は首を振る。)

 

(でも、確かに彼女の顔色は悪い。子守唄のおかげで今朝は血色がよく見えてたのに。)

 

(どうしたんだろう…。)

 

「……。」

 

(彼女に話すつもりはないようだ。)

 

「とりあえず酒場で夕食にしましょう。」

 

 

 

【東エリア 宿屋2階 酒場】

 

(相変わらず質素な夕食だ。冷めかけた具のないスープに固いパン。昼間に聞いたFチームの食事を思い出して何とも言えない気持ちになった。)

 

「哀染君、ちょっといいっすか。」

 

(夕食を終えて各自部屋に戻ろうという時、引き止められた。)

 

(みんなが出て行くのを確認して、彼に向き直る。)

 

「どうしたの?蘭太郎君。」

 

「…きちんと、お礼を伝えておこうと思ったんすよ。」

 

「お礼?」

 

前の裁判のことっす。」

 

(前の裁判…?何かしたっけ?)

 

「心当たりないって顔っすね。でも、俺はキミに救われたんすよ。」

 

「えーと…?」

 

「まあ、細かいことはともかく…俺がキミに感謝してるってことだけ理解してもらえればありがたいっすね。」

 

「う、うん…。」

 

「じゃ、それだけっす。」

 

(彼はそのまま酒場を出て行く。)

 

(……前回の裁判、考えるのをやめないように頑張ったつもりだけど…。そのことかな。)

 

 

「哀染君。」

 

「うわあっゆ、美久…?戻ったはずじゃ!?」

 

(1度部屋を出て行ったはずの彼女がいつの間にか横にいて、思わず肩が跳ね上がる。)

 

「良かったわねぇ。天海君、元気になって。」

 

「そうだね。」

 

(元気…とは、少し違う気がするけど。)

 

「でも、心配だわぁ。」

 

「え?」

 

「彼みたいに、頭が良くて求心力のある人…みんなの中心人物はーー」

 

「……。」

 

「ーー何でもないわぁ。おやすみなさい。」

 

(彼女はポツリと呟きを落として、そのまま酒場の入り口から出て行った。)

 

 

(部屋に戻って、シャワーを浴びる。)

 

(髪を乾かした後、もらった手紙を開いた。そこには相変わらずの力強い字が並んでいた。)

 

(『昨日は永本先輩を救ってくださってありがとうございました!!永本先輩もお礼を言ってました!』)

 

(『哀染先輩も天海先輩も、人を助ける力を持った素晴らしい人です!』)

 

(『前回と前々回の裁判でも、お2人が自分たちを導いてくれましたね。』)

 

(『自分も次の裁判が起きないよう、最善を尽くします!お2人も気を付けてください。』)

 

(『もし犯罪を目論む人物がいるとしたら、きっと先輩方のような凄い人たちを全力で潰しにくるはずです。』)

 

(『戦意を削ぐために敵将を狙うみたいに…。あ、もちろん、この中でもう殺人が起きるはずなんてないですけどね!』)

 

(………。)

 

(……すごく不吉なことを言われている。)

 

“死亡フラグ”という言葉が脳裏をよぎり、慌てて首を振った。)

 

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝だ。昨日と同じく夢を見ることもなく、よく寝ていた。頭がスッキリしている。)

 

(身支度を整えて部屋のドアを開ける。それと同時にいくつかのドアも開いた。が、みんな挨拶よりも先に、怪訝な顔をした。)

 

(廊下に漂う異臭。昨日はこんな匂いはしなかった。誰かが「まさか…」と漏らした。)

 

(反射的に足が宿屋の扉へ向いて、宿屋の入り口で立ち止まる。宿屋のスタッフカウンターから、濃い血の匂いがした。)

 

(恐る恐るカウンターを覗き込めば、そこにはーー)

 

 

(既視感のあるポーズで、シーツを被って倒れた姿。)

 

(1回目の殺人を思い起こさせるような、刃物で斬り裂かれて顔の判別がつかない姿。)

 

(けれど、その姿を見間違うはずがない。)

 

 

『死体が発見されました。オマエラ、宿屋1階に集まってください!』

 

(モノクマのアナウンスが聞こえて、誰かが彼の名を呟いた。)

 

(彼にはもう2度と届かない、その名前を。)

 

(遠くからバタバタと足音が聞こえてきた。Fチームの5人の足音だろう。ーー5人になってしまった、足音だ。)

 

(ここに倒れている前谷 光太君は、もう2度と足音を立てることはないのだから。)

 

 

 

非日常編へ続く

 

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