第三章 愛と誠。デッド・オア・ラブ 学級裁判編Ⅰ
コトダマリスト
被害者は”超高校級の柔術家” 前谷 光太。死体発見現場は宿屋の1階。死亡推定時刻は午前4時30分頃。死因は後頭部の外傷。頭蓋骨の陥没骨折により即死。死亡後、ナイフによって全身を激しく損傷している。
被害者は”超高校級の歌姫” 夕神音 美久。死体発見現場は”大富豪の家”の南にある別荘。目立った外傷はない。
明け方 5時頃 教会から聞こえていた。祝里、松井が”大富豪の家” 自室で聞いている。
別荘には、中の様子を覗くことができる小窓がある。開閉できない。
夕神音の死体の近くで発見された金色の鍵。表面の金箔はとても剥がれやすい。死体発見時、別荘は内側から鍵が掛けられていた。死体発見前日の朝は”大富豪の家”の玄関にあった。
夕神音のドレスのポケット内側に金箔が付着している。
夕神音の死体近くに落ちている破片。黒いビンでパッケージなどはなかったようだ。
2回目の事件で郷田が握っていたものと同じ小型のヘビの人形。別荘の外に落ちていた。重さは50gほど。
前谷の死体近くに落ちていた。致命傷となった後頭部への一撃に使われたと思われる。
前谷の死体付近に落ちていた小型のナイフ。刃の部分全体に血が付着している。
死体を包んでいたシーツ。血で染まり、ナイフの穴が無数に空いている。
広場の茂みにあった大きい人形。布団とシーツでローズが作り、前谷が朝練に使用していた。血が付着している。
ノイズキャンセラー付きのヘッドホン。耳に つけていると外界の音がほぼ聞こえなくなる。
前のステージで天海が牛の人形の中から発見した小型のカセットレコーダー。天海から永本に贈られた。死体発見前日から当日の朝まで永本の手から離れている。
“大富豪の家”の客間 暖炉から発見した質感の良い紙。焼け跡から『みんな寝不足』という文字が読み取れる。
広場には血が流れた痕跡がある。かなりの出血量だったらしい。
佐藤は死体発見前日の自由時間ずっと広場にいた。事件前日、木野以外は屋外に探索に出ていた。
学級裁判 開廷
「では、最初に学級裁判の簡単なルールを説明しておきましょう!オマエラの中には殺人を犯したクロがいます。 」
「この学級裁判では”誰が犯人か”を議論し、その結果はオマエラの投票により決定されます。 正しいクロを指摘できれば、クロだけが おしおき。」
「もし間違った人物をクロにしてしまった場合は…クロ以外の全員が おしおきされ、みんなを欺いたクロは晴れて卒業できます!」
「それでは、錯乱顕在化、発狂ロールをするのは誰なのか?!学級裁判の開廷でーす!!」
「…とりあえず、今回の事件について振り返っておきましょう。」
「今回の事件の被害者は2人っすね。”超高校級の柔術家” 前谷 光太君と、”超高校級の歌姫” 夕神音 美久さん。」
「別々の場所で発見されたね…。」
「Fチームの前谷君がBチームの宿舎。Bチームの夕神音さんがFチームしか入れない大富豪の別荘だね。」
「前谷さんは、鈍器で撲殺された後…ナイフで滅多刺しにされていましたわ。おかわいそうに。」
「まるでシロガネ事件です。」
「夕神音の死因はモノクマファイルに書いてなかったな。」
「こーたと比べたら…綺麗な状態だったよね。苦しんだ様子もないし、寝てるみたいだった。」
「彼女の死体発見時は内側から鍵が掛かってたよね。……2回目の事件と同じで。」
「……。」
「今回は被害者2人のうち、後に亡くなった方のクロを見つけなければなりませんでしたね。」
「ああ。死体の発見現場が違うからね。同一犯ではない可能性もある。」
(2つの事件…犯人が違うってことがあるのかな…。)
「哀染君。」
(考え込んでいると、隣から声がした。)
「どちらが先に殺されたのか…今は これに集中してもいいと思うっす。」
「う、うん。そうだね。」
「サキに死んだのは、どちらデスカ?」
ノンストップ議論1開始
「マエタニの死亡スイテー時刻、アサ4時半頃デス。」
「夕神音の死亡推定時刻は…書かれてなかったな。」
「時刻は分からないけど…前谷さん、夕神音さんの順番じゃないかな。」
「白銀さんと郷田くん…前の事件に見立てられていたという話がありましたね。」
「えっと…。みくか、こーた…今日2人を見た人…いないよね。」
「これでは夕神音さんの死亡時刻が特定できないね。」
「えーと…あたしも、あたしなりに頑張って考えてるんだけど…。」
(考えるの邪魔しちゃったかな…。)
△back
「それは違うよ。」
「美久の歌が朝 聞こえていたんだ。栞と麗ノ介君が聞いてたよね。」
「え?あ、そうだ。今朝5時頃、起きてすぐ聞いたよ。廊下の窓 開いてたからね。」
「ああ。そうだったね。」
「じゃあ、夕神音さんのクロを見つけることが今回のミッションですね。」
「ふむ。夕神音さんの現場の謎を見つけるのは骨が折れそうだ。」
「犯行時刻も死因も分からないし…密室の謎も残ってるよね…。」
「密室…夕神音さんを殺害後、犯人が密室を作ったんですよね。一体どうやって?」
ノンストップ議論2開始
「鍵は夕神音さんの近くに落ちていたね。完全なる密室殺人だよ。」
「また密室殺人デスか。また扉に細工しマシタか?」
「でも今回は閂じゃねーからな…。鍵を掛けた後、窓から投げ入れた…とかじゃねーか?」
「今度こそ地下からブス!じゃない!?」
「えーと…地下はなかったよね?外で襲われて、別荘に逃げ込んだ…とかは?」
「哀染さん、密室続きで疲れちゃったよね…。あのね、今は『密室殺人』についての議論だから…ごめんね。」
(密室続きって何だろう?……もう1度考えてみよう…。)
△back
「それは違うよ。」
「別荘の窓は開け閉めできなかったよね。」
「そうそう。まるで空間に固定されているかのようにね。」
「あー、わりぃ。そうだったな…。」
「謝ることないよ。」
「様々な視点からの意見を出すことは重要だと思うがね。」
「夕神音さんはBチームっす。別荘は鍵が掛けられていたはずっすね?」
「うん。別荘の鍵は1つだけで、元々は玄関にあったよ。」
「ええ。わたしたちはモノクマに退室時は戸締まりするよう釘を刺されていました。」
「え…もし、締め忘れたりしたら…どうなるの…?」
「別に、どうもしないよ。不注意の末、事件が起きるかもしれないし、起きないかもしれない。」
「現実世界と同じでしょ?」
「……。」
「どうやって犯人が密室を作ったのかも謎だけど…夕神音さんがどうやって別荘に入ったかも謎だよね…。」
「鍵は室内にありましたぁ。ど、どういうことでしょうかぁ。」
ノンストップ議論3開始
「誰かがカギ締める忘れました。」
「それか、あらかじめ犯人が扉を開けておいたのではないでしょうか。」
「つまり、どなたかFチームの方が夕神音さんを呼び出したんですね。大人しく お縄を頂戴しなさい!」
「いや、でも夜時間は俺らFチームだって”大富豪の家”から出られなかったんだぞ。」
「夕神音さんが殺されたのが明け方以降なら可能だよ。」
「みくは…被害者は鍵を持ち出せないしね。」
「???」
(何言ってんだコイツ…って目で訴えているようだ…。最近のAIって、すごいんだなぁ。)
△back
「それは違うよ。」
「美久のドレスのポケットには、鍵と同じ金箔が付いていたよ。」
「少し触れただけでも剥がれるくらい取れやすかったっすね。」
「うぷぷ、よく聞く話題だね。」
「つまり、美久は鍵をポケットにしまって持ち運んだってこと?」
「うん。きっと、どうやってか美久は別荘の鍵を手に入れたんだよ。」
「どうやってだよ?」
「それは…分からないけど…。」
「Fチームの人なら、いつでも鍵を持ち出すことができましたね。」
「Bチームでも、盗み出すことは不可能ではないよ。」
「いや、オレ様たちは”大富豪の家”には入れなかったんだぜ?お鍵が お掛かりになっててよ〜。」
「で、でも『入ってはいけない』ってルールはないよね。何とか入れれば…持ち出すことはできるよ…。」
「夕神音さんが鍵を持ち運んでいたのは事実だね。」
「”大富豪の家”から鍵を持ち出したのはミクたんかもしれないってこと?」
「?ユガミネ、別荘でナニしますか?」
「そんなに別荘に入りたかったのかな?言ってくれれば開けたげたのに…。」
「いや、話なんてできなかっただろ。」
「夕神音さんは鍵を持ち出して…夜時間に…何をしたかったんだろうね?」
(被害者の目的…?)
1. 金目の物を盗むこと
2. 誰かを殺すこと
3. 惚れ薬を見つけること
「それは……死者を侮辱する発言と受け取ってもよろしいでしょうか?」
(……よ、よろしくない。)
△back
「もしかして…美久は惚れ薬を探していたんじゃないかな…?」
「惚れ薬を?」
「う、うん。彼女は少し気になることを言ってたから…。その…惚れ薬を飲めば、自分も人を愛せるようになれるんじゃないか…って。」
「惚れ薬を飲めば…少しは愛について分かるのかしら。」
「……美久。もしかして…惚れ薬を飲みたいの?」
「………。」
「いいえ。薬って苦手なのよぉ。」
「えっと…アセクシャルで悩んでたってこと?」
「『他者に恋愛感情や性的欲求を感じないセクシャリティ』のことやんな?」
「……松井君とローズさんは夕神音さんとクラスメイトだったっすよね?彼女が惚れ薬を飲もうとすると思いますか?」
「ハテ?どうデシタか?」
「正直、何とも言えないね。実は、僕たち3人は そこまで親しい間柄ではなかったのだよ。」
「チガウ奴らとツルんでました。ワルいヤツはダイタイ友達デス。」
「なるほど…歌姫とマフィアと美化委員って、全然 住む世界が違う感じだもんね。」
「そんなこと真面目に考察しなくてもいいだろ…。」
「大事なのは今回も動機が関わっている可能性があるってことさ。ベイビー。」
ノンストップ議論4開始
「クラスメイトの時の記憶は当てにならんが、夕神音さんが惚れ薬を探していた可能性はある。」
「じゃあ、現場に落ちていた瓶…あれは惚れ薬ということかしら?」
「え?あの割れてたやつか?」
「……。」
「あれが今回の動機だったんだよね…。惚れ薬を巡って…っていう感じだったのかな。」
「カッとなってヤッタです。」
「えぇと、衝動的な殺人…ってやつだね。」
「言葉を選ばず申し上げますと……あんたバカ?」
(……言葉は選んでほしいかな。)
△back
「それは違うよ。」
「モノクマファイルには、美久の身体に外傷がないって書いてあるよ。」
「ああ、確かに。みくの体は血も出てないし綺麗だったよね。」
「血どころか…打撃痕すらなかったよね。」
「衝動的な殺人なら…そうか、あんな死体にはならねーな。」
「ええ。それに、あの現場のヘビの人形…。」
「そういえば、そんな物も落ちていたネ。」
「あれは今回のステージにはなかったっすから…前回のステージから持ってきたんだと思うっす。」
「ここに来る前から計画されていたということか…。」
「殴りてナイ、刺してナイ。ユガミネ死んだ理由、何ですか。」
「外傷が全くないとなると…病気や毒が考えられますが…。」
「あの割れたビン…液体はほぼ残ってなかったっすね。」
「あれを飲んだことが死因…ってこと?」
「アイヤ!ホレグスリ、毒でしたカ!犯人はモノクマです!」
「失礼な!ボクの用意した惚れ薬には毒物なんて入ってないよ!」
「あ…あのさ、夕神音の傍にあったアレ。アレは惚れ薬じゃねー…と思うんだけど…。」
「ほう。どうしてだい?」
「いや…なんとなく。」
「……。」
「なんとなくで物を言うな。」
「根拠を示して発言したまえ。」
「だってよ……。うーん…。」
(……?何だろう。歯切れが悪いけど…。)
ノンストップ議論5開始
「アレ、今回の動機デス。」
「そ、そうだね。夕神音さんが惚れ薬を探してたなら、あのビンの中身は惚れ薬だと思うんだけど…。」
「いや、違うんだって。」
「だから、何故そう思うのか根拠を述べたまえよ。」
「だいたい、惚れ薬じゃなかったら何なの?まさか中身が酒で急性アルコール中毒だったなんてことないよね?」
「未成年の飲酒は法律により固く禁じられていマーース!!」
(じ、自分で言ったくせに!)
(ーー惚れ薬についてモノクマ何て言ってたっけ。確か…ピンクのウサギ?)
△back
「それは違うよ。」
「あのビンは全体的に黒かったし、パッケージも貼られてなかったよ。」
「パッケージ?」
「それが何だってのさ?」
「惚れ薬の動機発表の時、モノクマが言ってたはずだよ。『ピンクのウサギが目印』って。」
「ピンクのブサイクなウサギのパッケージが目印だよ!頑張って探しましょ〜!」
「えーと、じゃあ、あの割れたビンって…。」
「惚れ薬じゃなかったってことっす。」
「あ、ああ。言ったろ?惚れ薬じゃねーって。」
「君はビンのパッケージには言及していなかったがね?」
「どうして永本くんは惚れ薬じゃないと分かったんですか?」
「……。」
「え…。な、何で黙るの?」
「もしかして…永本さん、惚れ薬を見つけたんじゃないの?」
「えっ…。」
「あ、なんだ。そうなんだ。」
「……あ、ああ。まあな。」
「いつ見つけマシタか?」
「昨日の昼だな。」
「何で黙ってたんだい?」
「いや…だってよ。コロシアイの動機なら…あまり手を出さない方がいいのかと思ってさ。」
「どこにあったんですか?」
「広場中央だよ。石畳の一部分だけ取れるようになってて、そん中に入ってた。」
「ああ。昨日、けいが転んだ所だね。」
「……捜査時間、もう1度 見に行ったら、そのままだったぞ。」
「本当ですかぁ?」
「嘘吐く必要ねーだろ。」
「モノクマ、惚れ薬は本当に1つだったんすか?」
「え?ああ。そうっすよ。1つだったっす。」
「夕神音さんは惚れ薬を探してたんだよね…。その場所を永本さんは知ってたんだ…。」
「がぜん、ナガケイちゃんが怪しくなるよね。」
「ま、またオレかよ。……だから言いたくなかったんだよ。」
「コチトラの台詞です。マタオマエカ。です。」
「君は疑われる才能でもあるのかね?」
「永本さんの隠された才能ってまさか…”超高校級の容疑者”なんじゃないですか!?」
「それは…”超高校級の不運”っすね。」
「あのな…。運なんて才能じゃねーだろ…。」
「えっと、けいは運いい方だよね。ね、ことは。」
「…………うん。」
「どこが?疑われたら生存フラグが立つというわけでもあるまいし。」
(現場の割れたビン。動機の惚れ薬だと思ってたけど…。違った?)
「ケッキョク、あのビン何デスか?」
「事件前にはなかったものだけど…事件とは関係なかったのかな?」
「事件前になかったのなら、事件に関係ある可能性の方が高いっすよ。」
「永本君、見つけた惚れ薬のビンは どんなものだったんすか?」
「そういえば…オレが見つけたビンのパッケージにはウサギが描いてあったぞ。」
「ユガミネ飲んだ、惚れ薬じゃないデスか。」
「やっぱり…シンプルに瓶の中身が毒だったのかな…?」
「毒なんて…一体どこから…?」
「モノクマは前に言ってたっす。毒が欲しければリクエストしろ…と。」
「ボクが用意したものは100%安全だよ。まあ、ボクが用意したものに誰かが毒を盛っていないとは言い切れないけどね。」
「あ、そうそう。もし毒が必要な人はリクエストしてくれてもいいからね!」
「最初の町にいた時だね…って、毒をモノクマにもらった人がいるってこと?」
「しかし、一体 誰が?」
「…モノクマに聞いたところで……教えてくれないんだよね?」
「分かってんじゃーん!ボクは裁判の公平性を欠くような情報は与えませーん!」
「うぷぷぷ、でもね。公正性を考えて、これだけは教えてあげるよ。」
「この中に1人だけ、特別なモノを渡した人がいたよ。あれは、まだ前のステージにいる時でしたー!」
「え?」
「モノクマから毒もらった人、イマスか。」
「……。」
「だ、誰だよ、そんな…。」
「しかも…前のステージからだって?」
「殺意たっかww」
「えーと、えーと…ダメだ。考えても分からない…。」
「……。」
(視線を感じる。と、セーラー帽の下から黙って こちらを見る瞳と目が合った。)
(……そういえば、モノクマに会っていた人がいたって、彼は言ってたな。)
▼モノクマと会っていたのは?
「哀染さん…夢の話でもしてるの…?」
(しまった。違ったか。)
△back
「モノクマが毒を渡した相手…もしかして、琴葉じゃないかな?」
「……!」
「……。」
「……。」
「琴葉。前のステージでモノクマと会ってたって目撃情報があるんだけど…。」
「……。」
「……そんなの見間違い。」
「そうだよ。ことはが人を殺そうとしたり…なんてあり得ないよ。」
「うん。私は知らない…。」
「…あの、目撃したのは、僕だよ…。夜時間にモノクマとキミが会ってるのを見たんだ。」
「え?そ、そうなの?」
「……。」
「キミは夜中に前回の町の病院内でモノクマと会ってたよね…?少しドアが開いてて…見えたんだ。」
「……。」
「ま、マジかよ?」
「うん…。木野さん、モノクマと何を話していたの?」
「……。」
(彼女は また俯いて黙ってしまった。)
「否定しないってことは、君が毒を持っていたということでいいのかね?」
「えーと、えーと…何で、ことはが毒なんてもらったんだろう?」
「そんなもん!こいつが!誰かを!殺そうとしたからに!決まってる!」
(どうだろう?他にも可能性はあるんじゃないかな?)
1. 毒の研究
2. 観賞用
3. 無理心中用
「…本気かね?」
(……本気と書いて…冗談だよ。)
△back
「琴葉は、毒の研究をしてたんじゃないの?」
「………。」
(彼女は黙って俯いたままだ。)
「そういえば…みんなで集まる時以外、木野さん ほとんど自室から出てこなかったよね。」
「夜もほとんど寝てなかったみたいだったっすね。」
「それに、琴葉。ここに来た日に…ぼくの血を採りに来たよね。」
「あ…哀染さんに木野さんが馬乗りになってた夜のことだね…。」
「誤解を招く言い方しないでよ。」
「いや、夜に馬乗りって…どういうことだよ?」
「ヨバイですネ。」
「どっひゃー。……意外と大胆ですのね。」
「違うよ…。琴葉はAB型の血が欲しかっただけだよ。たぶん、研究に必要だったんだよね?」
「……。」
「何でAB型の血なんかいるんだよ?」
「えーと、変わり者の血が必要だった…とか?」
「祝里よ、血液型による性格診断は全くアテにならんのだぞ。」
「このクニの人、血液型で性格 決めマス。変デスね。」
「そうですね。海外に比べ それぞれの人数がバラついてますから、統計学を絡めやすいんでしょうね。」
「ぶひゃひゃ、この世界では特に血液型なんて無駄情報だよ!『何章キャラか』考えてた方が、よっぽど性格診断できるはずだよ!」
「ちょ、ちょっと待って?血液型の違いなんて、赤血球 表面の抗体の違いでしょ?それが毒の研究になるの?」
「なるかもしれないだろー!あんまり細かいこと言わないの!一介のライターが そんな専門的な知識あるわけないんだからさー!」
「……。」
「とにかく…木野さん。答えてください。キミはモノクマから毒を受け取ったんすか?」
「……。」
(みんなの視線を受けても、彼女は黙ったままだ。)
「木野さん。キミの態度は、化学界にはマイナスになる…よ。」
「え…。」
(ポツリと落とされた一言に、彼女は ようやく顔を上げた。)
「そうやって、理解されないからって黙るのは…ずるいよ。」
「えーと、ここみ?どうしたの?」
「キミは前から そうだったけど…学者ならコミュニケーション能力は必要だよ…。」
「……。」
「何なに?説教タイム?説教タイムが始まったの??」
「人と関わらないで…研究だけしてればそれでいい。今は良くても、大人になったら そうはいかない…よね。」
「大学で働くなら学生に教えることも多いだろうし…民間の研究者ならコミュニケーション能力は必須だよ…。」
「化学に貢献するためには、化学について多くの人に知ってもらわないといけないでしょ…?」
「………。」
「今のは…説得なのかね?」
「この状況で変なセットク。変なクラスですネ。」
「ついでに、木野は化学と科学は別物という謎ポリシーも捨てた方がいいよねー。ぶっちゃけ、化学も科学も延長線上の話だしー。」
(周囲がざわつく中、話題の中心にいた少女が顔を上げた。)
「……そうだよ。」
「あれは…私がモノクマからもらったの。」
(彼女の声が響く裁判場。笑いを堪えるように口に手をやるモノクマが視界の端に映った。)
学級裁判 中断