第三章 愛と誠。デッド・オア・ラブ 学級裁判編Ⅱ
学級裁判 再開
(『自分がモノクマからもらった』ーー彼女のその言葉に、みんなが息を呑んだ。)
「木野さん、キミが毒を持ってたって認めるんすね?」
「毒をモノクマから受け取り、所持していたということですよね。」
「……そう。だけど、毒じゃない。」
「どういうことだね?」
「モノクマにもらったのは、安楽死薬…。一応…薬。」
「安楽死薬?」
「えーと、えーと。苦しまずに死ぬ薬ってこと…?」
「安楽死薬を他殺に使ったら、それはもう毒では?」
「毒は薬。薬は毒デス。良薬口に苦死。」
「人間用の安楽死薬なんて珍しいからねー!特にこの国じゃNGでしょ?宗教観ガバガバなクセにそういうとこお硬くてやんなっちゃうよねー。」
「ちなみに、お渡しした薬は本物だよ。飲んだら眠るように死ぬことができるのさ。史上最高の救済アイテムだよね!」
「……救済?」
「生き地獄を楽しめない弱者は薬でも何でも使ってサッサと死ぬに限るのさ。」
「オマエラの中にもいるんじゃない?苦しむくらいなら安楽死薬で死にたかったってヤツ。」
「うぷぷぷ、残念ー!安楽死薬はオンリーワン!毒でも薬でも使って脱出したいナンバーワンが使っちゃったよ〜!」
「ナンバーワンになれずオンリーワンを掴み損ねたヤツは、そのまま花屋の店先のはじに追いやられた花みたいにしおれてなよってね!」
(モノクマが不快な言葉を楽しげに並べる。……何が救済アイテムだ。)
「木野さん、キミは本当に研究のためだけに安楽死薬を受け取ったんすね?」
(彼女はコクリと頷いた。が、モノクマに煽られた疑心暗鬼の空気は消えてくれなかった。)
ノンストップ議論1開始
「本当に…研究のためだけに…手に入れたの?」
「いや、自分で味わうためだったんじゃね?」
「この状況で安楽死薬の研究をする理由は何かね?」
「量産してミナゴロシです。」
「ことはは そんなことしないよ。でも……。」
「しかし、夕神音さんは実際死んでいるのだよ。彼女が夕神音さんに飲ませたというのが妥当な推理だと思うがね。」
「薬、キノが昨日 別荘に置いたデス。夕神音はそれで毒殺されたです。」
「ナンデスカ、哀染。ハラワタを喰らいツクシますヨ!」
「ローズさん、どこでそんな言葉を知ったんですか?」
(違ったみたいだね。ハラワタがあるうちに考え直そう。)
△back
「それは違うよ。」
「琴葉は昨日 “大富豪の家”に近付いてないんだ。それどころか、日没まで宿屋から出てないんだよ。」
「あ…。そ、そうだったね。」
「な、なんだ。じゃあ、ことはは毒殺なんてできないよね。別荘の鍵がなくなったのは昨日の昼だろうから。」
「あ、ああ。日没後はオレらが家にいたから入って来ることもできねーだろうしな。」
「方法が全くないわけじゃなかよ!」
「そうだね。被害者に毒を渡すだけでもいいんだから。」
「本当に、作ってただけ…。」
「ユガミネが自分で薬 ベッソウ持って行きマシタ。」
「いや…何のためにだよ?」
「そうっすね。確かに、薬なら渡すだけでもいいはずっすが、夕神音さんがどうして別荘で飲んだのか説明が付かないっす。」
「……木野さん、その薬は どんなものなんですか?」
「……。安楽死薬には強い睡眠作用と筋肉弛緩作用、麻酔作用があった。」
「え、え、えぇと、どういうこと?」
「……。致死量の麻酔薬や睡眠薬に似てる…。」
「一杯飲んだら…緩やかに眠くなる。そして睡眠状態になってる間に……死ぬ。」
「君は安楽死薬の成分を研究してたのかね?」
「……。」
「えぇ?何で黙るのぉ!?」
「……作ってた。」
「作ってた?」
「同じ物…自分の手で作りたかった。」
「安楽死のための薬を…ですか?何故?」
「作りたかったから。作ろうとした。」
「このステージに安楽死薬が2つあったってことっすか?」
「違う…。私は自分では作れなかった…。」
(……もしかして、AB型の血がなかったから?)
「でもー、木野氏がヤバ薬持っててそれを量産しようとしてって、マジヤバくね?どれくらいヤバいかってーとマジヤバス!」
「ホントに研究だけデスか?」
「モノクマに毒を所望する時点で、殺意があると疑われても文句は言えないと思うがね。」
「殺意なんて…ない。私は化学者だから…。どんな毒を持ってるのか…研究したかっただけ。」
「でも夕神音さんは死んでるんだよ。キミの薬で。」
「…あの薬は昨日の朝起きたら…なくなってた…。寝る前は、机の上にあったのに…。」
「盗まれたってことか?」
「……そう。どこを探しても…なかった…。」
(昨日の昼 必死に探してたのは、安楽死薬だったってこと?)
「現場のビンは間違いなく木野さんがモノクマから受け取った安楽死薬なんですか?」
「………そう。」
(一瞬、裁判場がシンと静まり返った。その静寂を破ったのはーー)
「…本当に盗まれたんだとしても…木野さんがモノクマと交渉しなければ、夕神音さんは死ななかったんだよね…。」
「……。」
(静かな声に、彼女は一瞬で青ざめた。)
「学校でも…キミは作りたいもの研究したいものだけを研究してたけど…。」
「科学者ってさ、人を殺す兵器を作るか、人を救う薬や技術を生み出すか…研究内容に責任が伴うはずだよ。」
「……。」
「どうしてキミは殺す兵器を選んだの?」
「…選んでない。作ってみたかっただけ…。」
「……キミは今回、人を殺す科学者を選んじゃったんだね。」
「おい佐藤、今はそんなこと言ってる場合じゃねーだろ。」
「私は人を殺したりしてない…。」
(彼女は青い顔のまま俯く。裁判席の隙間から震える手で白衣を握りしめているのが見えた。)
「でも…木野さんが間接的にーー」
「佐藤君、もう十分っすよ。」
「……あ。ご、ごめん。」
「えー、もう終わりなの?せっかくいい雰囲気なのにー。」
「どこがだよ。」
「科学者は殺しも生かしもできる。心理だよねー。愛と憎しみが似てるように、戦争と平和が似てるようにね。」
「ハンタイの言葉デス。」
「そんなことないよ!平和なんて『戦争と戦争の間』にすぎないんだから。」
「終戦記念日に生まれた子供が “希望の子”とは限らないようにさ!」
「……。」
「みんな。今はクロが誰なのかに集中しよう。」
「でもよ、そうなるとさ…。」
「どうしても木野ちゃんが怪しく見えちゃうんだよねー。」
「確かにね。盗まれたというのも、都合の良い話だ。」
「でも、昨日の自由時間に琴葉が”大富豪の家”や別荘に近付かなかったのは事実だよ。」
「もし木野さんが夕神音さんに薬を飲ませたとしたら、夕神音さんが別荘にわざわざ持っていって飲んだということになるっす。」
「それは、やはりおかしいですね。夕神音さんにとっても別荘に入るのは難しいはずです。」
「別荘の鍵は昨日の朝はあったんだよな?」
「ソウデシタカ?」
「うん。なかったのは昨日の昼からだよ。鍵がなければ別荘に行けないし、やっぱり ことはじゃないってことだよね。」
「じゃ、安楽死薬が盗まれたセンが濃厚?」
「木野さん、安楽死薬はずっとキミの部屋にあったんすか?」
「……そう。」
「宿屋でなくなった。Bチームのヒト犯人デス。」
「Bチームの宿屋は個室すら鍵がなかったから、Fチームでも入ることはできたはずっす。」
「…モノクマの“貧乏人の宿 探索ツアー”で…Fチームのみんなも木野さんの部屋の場所は知ってたんだよね…?」
「でもよ、朝なくなってたなら夜時間に盗まれたってことだろ?オレらは夜外出れねーんだよ。」
「……明け方ならできる。」
「おとといの夜から昨日の朝にかけて…ことはの部屋から盗まれたんだよね?犯人の足音とか気配に気付かなかったの?」
「…その日は……よく寝てた。」
「あの宿屋の床の軋み具合はかなりなものだったね。Fチームの人間には難しいはずだ。」
(いくら寝てたとしても、全然気付かなかったのはおかしい。けど…あの日は、違ったんだ。)
(誰も盗難に気付けなかった理由はーー)
1. 油断していたから
2. 熟睡していたから
3. 昏倒していたから
「……してない。」
(違ったか。)
△back
「おとといから昨日の朝にかけて、ぼくらBチームのみんな、熟睡していたんだ。」
「……それ、何の告白だよ?」
「夕神音さんの子守唄っす。おとといの夜、彼女は歌を歌って俺たちを眠らせたっす。」
「え?何それ?」
「前にショーで聞いた子守唄のことか?」
「ああ。夜に宿屋で夕神音が歌って…俺たちは自室でぐっすり眠っちまったってわけだ。」
「あの時は、僕たちが寝不足だから…っていう風に見えたんだけどね…。」
「ユガミネ、ウタウ。その日に薬なくなる。」
(確かに…できすぎてる気がする。もしかしてーー)
ノンストップ議論2開始
「…彼女が子守唄で木野さんを眠らせて、安楽死薬を盗んだ。そのように聞こえますが…。」
「でも夕神音自身も子守唄で眠っちまうんじゃなかったっけ?」
「本当はコントロールできたなど、彼女の子守唄については僕らが知らないことがあってもおかしくはないさ。」
「もしかして、夕神音の自殺…なのか?」
「アイヤ、ユガミネのシューキョー上の都合でそれデキナイ思ってました。」
「それか、誰かが夕神音さんに子守唄を歌うよう誘導してた可能性もあるよね…。」
「真面目に考えろよ。」
(普通に怒られるのが地味に1番辛い…。)
△back
「それに賛成だよ。」
「美久は子守唄を歌うように誘導されてたんだ。」
「え、ど、どうやって?」
「これ、”大富豪の家”の暖炉で見つけたんだけど…。」
「何ですか?焦げた紙?」
「暖炉の燃えカスに残ってたんだ。『みんな睡眠不足』と書いてあるよ。」
「それが何か関係あるのかな…。」
「前のステージで彼女が子守唄を歌った状況を思い出してほしいっす。彼女は寝不足の人が多かったから子守唄を歌いましたね。」
「お・も・い・や・り、デスね。」
「それを言うなら、お・も・て・な・し、だろ。」
「じゃさー、あれは夕神音の独断先行じゃなくて、誰かに唆されたって感じ?」
「可能性はあるっす。『みんな睡眠不足だね』この言葉だけで、夕神音さんが子守唄を歌うことは想像できるっすから。」
「犯人が”大富豪の家”でその証拠隠滅を図ったんなら…犯人はやっぱりFチームの誰かじゃないかな…。」
「でも、Fチーム、ユガミネと話せません。」
「話せなくても、誰にでも彼女にその紙を渡したり見せたりすることができたはずさ。」
「哀染君、夕神音さんの部屋にはあるはずのものがなかったっすね。」
(そうだ…きっと、もっと確実な方法があるんだ。)
閃きアナグラム スタート
み
て
▼閃いた!
「さっき見せた紙…ほとんど燃えてるけど、かなり上質な紙だよ。」
「俺たちはこの紙を見たことがあるっす。BチームとFチームでやり取りしていた手紙っすね。」
「手紙…教会の報告書のことですか?」
「うん。報告書というより、個人に宛てた手紙だよ。」
「あ…。夕神音さんには永本さんやローズさん、松井さんから手紙が来てたよね。」
「え。いや、オレらの手紙を燃やす意味なんてーー」
「手紙に決定的なことが書かれていたんでしょうね。」
「それに…手紙なら夕神音さんに別荘の鍵を送ることもできたはず…だよね。」
「まあ、あの封筒 分厚かったから鍵を入れても外からは分かんねーよな。」
「うん、今 思い出したけど…夕神音さんも昨日”大富豪の家”に近付いていないから、鍵は落ちているものを拾うかFチームからもらうかしかないんだよね。」
「何でそんな大事なこと今 思い出してんだよ!」
「ご、ごめん…。キミと違って、人間は忘れることもあるんだよ…。」
「ムキー!!く、悔しくなんてないんだからね!」
「では、手紙でBチームの皆さんを眠らせるよう夕神音さんを誘導し、別荘の鍵も手紙で送った…ということでしょうか。」
「Bチームの被害者が別荘の鍵を持ち出すのは難しいっす。でも、彼女は鍵を手に入れた。手紙なら可能っすね。」
「えーと、えーと。みくに手紙を出した人が怪しいってこと?」
「ワタシ『睡眠不足』ナンテ書きませんデシタ。」
「僕もだが…それはもはや証明できないね。ちなみに、僕とローズさんは連名で同じ封筒に手紙を入れてたんだがね。」
「いや…オレだって そもそも手紙って感じじゃなかったんだけど…。」
「ミクがFチームの誰かに口で頼むこともできないし、手紙送った3人が1番怪しいよね…。んで、ランタロ、誰が犯人なの?」
「……。」
(疑問を投げられて、隣の彼が小さく息を呑むのが分かった。)
(ーー大丈夫。彼だけに背負わせるつもりはない。)
(被害者は、一昨日の手紙でBチームのみんなを眠らせるよう誘導された。鍵も手紙で届いたのなら…それは昨日の手紙だったはず。)
▼手紙で被害者を誘導したのは?
「ホントに考えテマス?」
「そうは思えんね。」
「はー…しっかりしてくれよ…。」
(総攻撃だ…。)
△back
「美久を誘導したり鍵を渡せたのは…麗ノ介君。あなたじゃないかな。」
「ホウ、僕かい?」
「うん…。少なくとも、犯人は2回美久に手紙を送る必要があるんだ。」
「木野さんの薬を盗むため誘導した一昨日の手紙と、鍵を送った昨日の手紙っすね。」
「あ、そっか。1回しか送ってないから、けいは違うんだね。」
「それに、一昨日まで美久は夜時間に惚れ薬を探すほど動機探しを積極的にしてたわけじゃなかった。」
「昨日の夕方に受け取った手紙に何かあるはずなんだ。例えば手紙に『惚れ薬が見つかった』と書いてあったとか、鍵が入っていたとか。」
「確かに僕は昨日も一昨日も彼女に手紙を出しているが、ローズさんと連名なのだよ。むしろローズさんにも僕にも、夕神音さんを誘導することは難しい。」
「確か、ローズさんの後に松井君が手紙を書いたと言ってたっすね?手紙の封をしたのは誰っすか?」
「マツイです。ワタシの後、マツイ書きて手紙シメました。」
「……。」
「その時に鍵を入れることは可能ですわね。」
「ふむ。しかし、僕が昨日送った手紙を証拠隠滅するためには、今朝Bチームの宿屋へ忍び込まなければならない。」
「Fチームは今日の明け方以降しか宿舎に行けないからね。明るい、しかも宿舎の床が軋む中だ。君たちBチームに見つかるリスクも高いと思うのだがね?」
(確かに…。どうしてそんな大胆なことができたんだろう。)
「哀染君。松井君は、一昨日も薬を盗むため宿屋に入ってるはずっす。」
(そうだ。でも、あの時は……。)
ブレインサイクル 開始
Q. 今朝 松井が宿屋に侵入した時、Bチームは?
1.朝食を食べていた
2.オールナイト人狼
3.熟睡していた
Q. Bチームを熟睡させる方法は?
1.夕神音の子守唄 2.睡眠薬 3.首トン
Q. 夕神音の子守唄を聞かせた方法は?
1.夕神音のコスプレ
2.永本のカセットレコーダー
3.降霊術で夕神音を宿す
「美久の子守唄だよ。それで、ぼくたちBチームは熟睡していたんだ。」
「面白いね。僕にも夕神音さんのような歌唱力があると?」
「いや、美久の歌は圭君のカセットレコーダーに録音されていたんだ。」
「永本君、キミが夕神音さんに手紙を送ったのは、カセットレコーダーに彼女の歌を入れてもらうためっすね?」
「え?あ、ああ。天海からもらったテープには牛の声しか入ってなかったからな。」
「カセットレコーダーと一緒に夕神音に歌を入れてくれって頼んだんだ。」
「永本くんのレコーダーをどうして松井くんが使えたのかしら?」
「そういえば…けい、昨日 レコーダーがないって探してたよね。」
「ああ。昨日ずっと探してたんだけど見つからなくてさ。でも今朝 起きたら普通に廊下に落ちてたんだよな。」
「いつから なかったんすか?」
「えーと…昨日の朝…だったか?」
「そういえば…永本さん、一昨日 宿屋前の民家で倒れてたよね…。」
「そうですネ。朝までずっと眠り続けてまシタ。」
「あの時、永本くんはヘッドホンで夕神音さんの歌を聞いて、子守唄の部分で寝てしまったんですね。」
「おそらく、あの騒ぎの中でカセットレコーダーを奪ったんすね。」
「僕は知る由もないが、永本君から奪ったレコーダーに夕神音さんの子守唄が入っていた。か。」
「……なかなか面白い推理だね。では、本腰を入れて反論させてもらおうか。」
反論ショーダウン 開幕
「確かに、レコーダーを僕が奪うことは可能だったろう。」
「そして僕が夕神音さんを殺したと仮定しよう。」
「さらにその証拠隠滅に手紙を回収するためレコーダーの子守唄を宿屋で使ったとしよう。」
「では、なぜそれを聞いた僕は寝てしまわなかったんだい?」
「それは…カセットレコーダーだけを宿屋に置いて外に出ればいいんじゃないかな?」
「もし玄関に置いて外に出たとしても、あの宿屋の壁はずいぶん薄かっただろう?」
「音は外に漏れ出て、結局 僕まで寝てしまう。」
「言っておくが、耳栓の類は”大富豪の家”にもなかったのだよ。」
「僕には自分が眠らないための術がないのだよ。」
「それが何だね?まさか耳穴に詰めたというわけではないだろうね?」
(彼の耳の穴がもう少し大きければねじ込めるんじゃないかな?……無理か。)
(昨日 “あの人”に違和感を感じたけど…何かが足りなかったのかもしれない。)
△back
「それは違うよ。」
「圭君のヘッドホンなら耳栓代わりになるでしょ?麗ノ介君は、レコーダーと一緒にヘッドホンも奪ってたんだ。」
「そういえば、昨日 けい、ヘッドホン引っ掛けてなかったね。」
「ああ。レコーダーと一緒になくなってたからな。ヘッドホンも今朝 起きたら廊下に落ちてたんだ。」
(昨日感じた違和感は…いつも首に掛けてるヘッドホンがなかったからだったんだ。)
「えーと、学校で転んでるの結構よく見かけたけど…。」
「……。余計な記憶まで思い出してんな…。」
(昨日は倒れていて驚いたけど…良かった、今日は元気そうだ。あれ?でも、彼…今日はいつもと違うような…?)
(
「永本君は一昨日、レコーダーに入った子守唄に気付かず寝てしまったのだろう?レコーダーのどこに子守唄が入ってるか、分からない証拠じゃないかね?」
「確かに…子守唄を準備しようにも、うっかり聞いてしまえば自分が眠ってしまいますね。」
「まさかBチームの宿屋でいつ始まるかも分からない音楽を流し続けたとでも言う気かい?それこそ君たちを起こしてしまうよ。」
「松井君と夕神音さんはクラスメイトっす。子守唄がどんな歌い出しだったかくらい知ってるはずっすよ。」
「ハイ。仲良くないデスガ、夕神音のオハコ 分かりマス。ユーメーな曲デスカラ。」
「……。」
「どうなんだい?松井?」
「……。」
「アナタがヤッたデスか?」
「……。」
「あなたが…薬を盗んで…彼女を…?」
「……。」
「……ハッ、認めるよ。」
「……え?」
「認めるって言ったのさ。僕が、夕神音さんを死に追いやったとね。」
「やけに…あっさり認めたね…。」
「醜く足掻くのは性分じゃないのさ。」
「ほ、本当に…お前が…?」
「ああ。僕が彼女を唆して子守唄を歌わせ、木野さんの薬を盗み、昨日の手紙に別荘の鍵を入れておびき出し…」
「今朝、彼女に薬を飲ませて殺したのだよ。」
「……。」
「そして、永本君から奪っておいたレコーダーの子守唄で宿屋のみんなを熟睡させた。送った手紙を持ち出して暖炉で燃やすためにね。」
(何で…彼はこんなに落ち着いてるんだろう。)
(彼女を殺したのが本当に彼なら…残酷なおしおきが待っているはずなのに…。)
「……どうして…オマエがユガミネ殺しマスか。」
「理由があった、とだけ言っておこうかね。この閉鎖空間だ。殺意とは簡単に湧き出てしまうものなのだよ。」
「では…明確な殺意があって夕神音さんを殺したんですね…。」
「その通りだ。……では、投票タイムに移ってもらおうかね?」
「おい、待てよ。何でお前そんなに落ち着いてるんだ!?」
「きみ、これから処刑されるんだよ?」
「だから慌てふためくのは性分ではないのだよ。最期は潔く散りたいのさ。」
「……前谷くんを殺したのもあなたですか?」
「前谷君?いや…彼のことは知らないよ。僕が殺したかったのは、夕神音さんだけだからね。」
(……同一犯じゃない?でも、ならどうしてーー)
「まだ疑問はいくつか残ってるっす。」
「松井君、キミが犯人なら、どうやって密室を作ったんすか?」
「愚問だね。密室なんて仕掛けさえあればいくらでも作れる。冒険家なら知っているだろう。」
「……他にもあるっす。なぜ、キミは木野さんの安楽死薬を盗んだその日に夕神音さんに薬を飲ませなかったんすか?」
「え?ど、どういうこと?」
「薬を盗んだ日、松井君は俺たちが子守唄で起きてこないのを知ってたっす。」
「なら、木野さんの薬を盗んだその足で夕神音さんの部屋に行き、寝ている夕神音さんの口に薬を注ぎ込むこともできたはずっす。」
「確かに…そちらの方が、Fチームである松井くんが疑われにくいはずですね。」
(どうしてその時 被害者を殺さなかったのか?薬を盗んだ時と今朝とで状況が違った?)
(薬を盗んですぐ被害者を殺さなかった理由…薬を盗んだ時と今朝で違ったことは…。)
1. 夕神音の状態
2. 時間
3. 場所
「よく考えてください。時間はどちらも夜時間…おそらく夜明けっす。それに、殺害場所は宿屋の方が松井君にとって有利なはずっす。」
(薬が盗まれた日、被害者は寝ていたはず。でも今朝はーー)
△back
「もしかして、美久の状態が関係あるのかな?」
「そうっすね。松井君が薬を盗んだ時、夕神音さんは熟睡していたはずっす。」
「むしろコウツゴウです。」
「ええ。普通に殺したいだけなら、相手が寝ていた方が好都合っすね。」
(つまり…普通に殺したいだけじゃなかったってこと…?彼の目的は…。)
3. 密室で夕神音を殺す
「……。ここまで言っても分からないっすか…。」
(似たような文句を知ってる気がする……。)
△back
「そっか。麗ノ介君の目的は…美久自身に安楽死薬を飲ませることだったんだよ。」
「え?…え?」
「……夕神音さんが自分で安楽死薬を飲んだということですか?」
「それなら、密室の謎は解けるっすね。夕神音さんは自分で別荘を密室にして、自分で薬を飲んだだけっすから。」
「……。」
「おい…まさかこの事件のクロが夕神音…なんてことになんねーだろーな?」
「どうしてデスか?毒盛った、マツイ。マツイが犯人。変わりません。」
「モノクマ、夕神音さんが自分で毒を飲んだとして…それは自殺になるんすか。」
「はー、サイキンの若者は分からなかったらすぐに答えを聞くんだからー。」
「黙れぃ!答えでなく考える過程で必要な情報じゃろ!」
「そーかいそーかい。気分爽快。うん、いいよ。特別出血死サービス!教えてあげるよ。」
「ボクも迷ったんだけどね。惚れ薬と勘違いして安楽死薬を飲んだマヌケがいる場合、それは自死と見なすよ。」
「どうしてデスか。マツイが騙しマシタ。」
「もし食事や飲み水に毒を混ぜるならそれは他殺だよ。それか、安楽死薬をジュースや水に見せかけて飲ませても他殺だろうね。」
「けど、惚れ薬は違うよ。普通に生活してて口にするものならともかく、惚れ薬なんて怪しいモノ、飲むかどうかは自己責任だよね。」
(怪しいモノ…自分で用意したくせに…。)
「でも…未必の故意でも有罪になった例はあるよね…?」
「え?れーのすけ、みくのこと好きだったの?」
「あ…いや、秘密の恋じゃなくて、未必の故意だよ。確実に相手を害すわけじゃなくても…そうなるかもしれない環境を故意に作ることだよ。」
「今回の例だと、確実に夕神音さんが死ぬかは分からないけれど、松井君はその状況を作ったってことになるっすね。」
「うん…。松井さんは明確な殺意があったって言ったでしょ?故意が認められれば…その行為者が有罪になるケースもーー」
「ハイハーイ!それは外の世界の話でしょ?ここではボクが裁判長。ボクがルールなのです!」
「ピストルが置かれていて、引き金を引いたのは誰かな?それを考えるとオマエラにも分かりやすいんじゃない?」
「それでは…今回の事件は…。」
「みくの自殺…みくがクロってことになるの?」
「おや、ようやく分かったようだね。そう、僕は何もしてないのだよ。」
「ただ別荘に安楽死薬を隠しただけ。夕神音さんに『惚れ薬が見つかったよ』という手紙と鍵を渡しただけさ。」
「こいつ…何を言ってやがる…?」
「察しが悪いね。僕はクロじゃないってことだよ。夕神音さんは勝手に薬を飲んで死んだのだから。」
「マツイ、オマエ……。」
「え?ほ、本当にみくがクロ扱いになるの?」
「そうだね。モノクマが言った通り、ね。」
「クソッ…これからこの自殺教唆ヤローと共同生活しなきゃなんねーのかよ!?」
「……。」
「そ、そういえば昨日のBチームの報告書や手紙も今日 教会になかったよね。あれも、れーのすけが持ってったの?」
「ん?いや…どうだったかね?」
「トボけんなよ!オレらFチーム誰も回収してないんだ!お前が持ってったんだろ!?」
「……噛み付かないでくれたまえ。」
「Bチームの報告書と一緒に、夕神音さんからの返事があったはずです。それを隠蔽しようとしたのではないですか?」
「そうだったかね?教会に行った覚えはないが…。」
(?何だろう…急に歯切れが悪くなった…?)
(昨日のBチームの報告書に何かあるのかな…。それとも…?)
「でも…おかしいよ。」
「何がだよ?」
「だって犯人の行動原理って『外に出られるから殺人を犯す』でしょ…?」
「この事件で松井さんはクロになれないと分かってたなら…どうして夕神音さんを死に追いやる必要があるの…?」
(確かにそうだよ…。そこまで彼女を憎んでたとは思えない。)
「とにかく夕神音さんを死なせなければならなかったのだよ。仕方あるまい。」
「そんなの…分かんないよ…。何で?」
「それに…どうして自分が犯人だなんて言ったんですか?」
「クロ間違えたらオマエもショされマス。」
「そうだ…松井、お主も死ぬのだぞ…。」
「…僕が『夕神音さんは自殺だった』と言っても信じないだろう?だから諦めたんだよ。自責の念も多少はあるからね。」
「いや、勝手にオレたち巻き込んで諦めるなよ!みんな死ぬんだぞ!?」
「そんなダイナミック自殺 誰も得しねーつの!」
(本当に、そうなのかな。)
「……彼には、まだ隠していることがあるはずっす。」
(隣のポツリとした呟きが耳に入る。)
(ーーそうだ。まだ、今回の事件は全てが明らかになったわけじゃない。)
(まだ、もう1人の被害者の死については、何ひとつ明らかになっていないのだから。)