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第4章 Either killed her.(非)日常編Ⅰ

 

「夢を…見たんだ。」

 

「……夢?」

 

「うん…。でも、ただの夢じゃないの。夢じゃなくて…前にあったこと…なんだと思う。」

 

「うん。詳しく聞かせて。」

 

…………

……

「そうか。つむぎ、辛かったね。」

 

「ごめんね。こんな…わけの分からないこと言って…。」

 

「かまわないさ。それより…今の話…キミのことは、隠しておいた方がいい。」

 

「……。」

 

「キミは間違いなく、モノクマ側にとって邪魔な存在だ。」

 

「このコロシアイの中で…キミが狙われやすくなってしまうかもしれない。」

 

「心配しないで。ボクが必ず守るから。」

 

…………

……

 

 

【東エリア 宿屋】

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

(ーー夢か。ここに来てからの夢は初めてだ。)

 

(最初の事件が起きてしまう前の日…あの日の夢。)

 

(あの人が死んでしまった責任は、自分にある。)

 

(あの人のためにも…こんなコロシアイは終わらせないと。)

 

 

(身支度をして、部屋を出る。同時に、他の3つの扉も開いた。)

 

「あ…おはようございますっす。」

 

「おはろー。」

 

「おはよう、みんな。」

 

「お、おはよう…。何だか…何もなかったみたいになったね。」

 

(昨日 裁判場から戻った時点で、宿屋にあったはずの死体が血痕や血の匂いごとなくなっていた。)

 

「死体も匂いも綺麗さっぱりなんて、おかしな話ね。」

 

「で、でも、何でそんなことができるのかな…。」

 

(こんなことが…どうしてできるのか。それは、もしかしたらーー)

 

「とりあえず朝食に行きませんか。今日は俺たちも”大富豪の家”で食事っすよね。」

 

「そういえば、木野 琴葉殿はまだ寝ているのですかな?」

 

「色々あったし…疲れてるのかもね。」

 

(彼女の部屋をノックする。が、物音1つ聞こえない。)

 

「先に行ってるのかもしれないっすね。」

 

「とりあえず、ぼくらも行こうか。」

 

 

 

【西エリア 大富豪の家】

 

(相変わらず豪華な玄関から廊下を通り、客間に向かう。)

 

(そこには、Fチームの数名が集まっていた。)

 

「みなさん、おはようございます。」

 

「おはようゴザイマス。」

 

「おはよ…お前ら、大丈夫だったのか?…その、死体がある宿屋で…。」

 

「いえ。実はあの後 帰った時にはもう前谷君の遺体はなくなってたんすよ。」

 

「え?裁判の間に?わたしたち以外の誰かがいるということですか?」

 

「わ、分からないけど…。死体も血の跡も…匂いすらもなくなってたよ…。」

 

「マカフシギですネ。」

 

「なんでそんなことができるんだ…?何なんだよ…。」

 

(不安げなみんなの声。そろそろ、みんな日常を取り繕うことも難しくなってきているみたいだ。)

 

(何とかして…ここから脱出しないと…。)

 

 

「えっとさ…木野は来てない?あと、祝里もいないよね?」

 

「木野?見てないぞ?祝里もまだ来てないな。」

 

「ここ2,3日、祝里さんはこの時間には来ていたはずですが…。」

 

「え…。だ、大丈夫なの?」

 

(その声に全員がハッと息を呑んだ。)

 

「昨日の今日で…事件なんて起きないと…思うよ。」

 

 

「……一応、様子を見てきます。みなさんは待っていてください。」

 

「ヤマト先生、ワタシも行きマス。」

 

「あ、ぼくも行くよ。」

 

「大丈夫ですよ。女性のお部屋ですから…哀染くんは座って待っていてください。」

 

「御遠慮クダサイ。」

 

(2人の後を追おうとして、笑顔で制される。)

 

「あ…そ、そっか。うん、じゃあお願いするね。」

 

(2人は足早に客間から出て行った。)

 

「……。」

 

「哀染君って、そういうとこあるっすね。」

 

「え?」

 

「女性の寝起きを覗き見ようたって、そうはいきませんよ!」

 

「え!?そ、そんなんじゃないよ!!それに、そんなこと言ったら蘭太郎君だってーー」

 

(言いかけて、止めた。最初のステージのことは、言わない方がいいだろうから。)

 

「……実は、身近な女性への接し方ってよく分かってないんだ。」

 

「へー アイドルだし、女慣れしてると思ってたけどな。」

 

「アイドル恋愛禁止とか…よく聞くもんね…。」

 

「そうそう、自分が恋人になれるとか淡い期待を持ってるってことなのかな?笑っちゃうよね!」

 

「…っ!?モノクマ。」

 

(いつの間にかモノクマが会話に混ざっている。)

 

 

「……また移動っすか。」

 

「お、話が早くて助かるよ!そうそう。残虐なクロも処刑したし、みんなにはまたステージを移動してもらうよ!」

 

「残虐って…。」

 

「もー、何で毎回毎回 移動すんの!?」

 

「毎回毎回 言ってるだろー!ずっと変わり映えしないステージじゃ飽きちゃうんだよ!」

 

「だから、誰が飽きるんだよ!?」

 

「……ここに、他の誰かがいるの?」

 

「それか、誰かが見てるんすかね?」

 

「どうかなどうかな〜?知りたかったら次のステージで調べるんだね。」

 

「と、いうわけで、オマエラ、朝食後、町の入り口に集合だよ!」

 

(言い捨てて、モノクマは消えた。)

 

 

(そうこうしてるうちに、女性陣が戻って来た。いなかった2人も一緒にいる。)

 

「栞、琴葉、おはよう。」

 

「……おはよう。」

 

「おはよー。ごめんねー、今朝ことはが部屋に来て、それからずっとお喋りしてたから。」

 

「2人とも、目が腫れてるけど大丈夫?」

 

「え、うん。寝不足かな。大丈夫。ね、ことは。」

 

「…うん。ごめんなさい…心配かけて。」

 

「ううん、2人とも何もなくて安心したよ…。」

 

「今、モノクマ、いマシタカ?」

 

「はい。またステージを移動するらしいっす。」

 

「メシ食ったら行こうぜ。」

 

「さあみんな、豪華な食事をお食べなさい。何も食べられない私様の目の前で!」

 

「食いづらくなること言うなよっ。」

 

「……ねえ、木野さん。次のステージにも…色んな薬品持って行くの?」

 

「……うん。」

 

「……そう…。」

 

 

「あのさ、モノクマは松井さんを『残虐なクロ』って言ったけど…みんなは、どう思う?」

 

「は?いや…あいつは…。」

 

「イカれちまってたよな。」

 

「クレイジー野郎です。」

 

「でもさ…ローズさんはクラスメイトだったんだよね…?彼は、そんなに危険な人だった…?」

 

「……仲良くナイ。あまり知りマセン。でも、クラスでは…普通デシタ。」

 

「彼はさ…この異常な状況で、自我を保てなかっただけ…なんじゃないかな。」

 

「別におかしいことじゃないよ…。多分だけど…松井さんは、あの薬がなければ、あんな風にならなかったと思うんだ…。」

 

「薬の存在がトリガーになって…狂気に陥ってしまった…。可能性は…ゼロじゃないよ。」

 

「……わ、たし…。」

 

(彼女は顔を青くして俯いている。白衣の裾をギュッと握って。)

 

「ことはは、もう変な薬は作らないよ!」

 

「……。」

 

「……。前回の裁判では木野さんのおかげでルミノール試薬を使えたんすよ。」

 

「そ、そうだね。あれがなかったら、事件を解決できたか…分からないし…。」

 

「キノは役立ちクスリも作りマス!ワタシの薬作りてもイイです!」

 

「……で、でも…心配だよ。だって また木野さんの薬で殺人が起きたら…。」

 

「約束…する。」

 

「え?」

 

「人が死ぬような薬は…作らない。」

 

(それだけ言って、彼女は俯いた。)

 

「ほ、ほら。ことははもう、大丈夫だよ。」

 

「あ、ああ。佐藤、お前だって、木野に悪気がないことは分かってんだろ?」

 

「……そうだね。うん。木野さん、ごめんね。」

 

「…ううん。」

 

「ほらほら、じゃあさっさと食べてとっとこ行こう!私は食べられんけど!」

 

 

 

【東エリア 町の入り口】

 

(朝食を終えて町の入り口にやって来た。)

 

「……木野さん、やっぱりすごい荷物なんだね。」

 

「……うん。でも、必要な物を選んできた…。」

 

「重そうっすね。持ちましょうか?」

 

「いい。」

 

「……。」

 

「私…力持ちだから。」

 

(持ち物か…。ここのステージでまた持ち物が増えたかな。)

 

(懐にしまった手紙に触れる。このステージで死んでしまった彼とやり取りした手紙を。)

 

「それでは、次のステージにご案内しましょう!」

 

(モノクマは全員が揃ったことを確認して、楽しそうに言い放った。ここに来てすぐ跡形もなくなった町の入り口が開いている。)

 

(入り口には石の扉があり、ゆっくりと開いていく。そして、モノクマはそのまま全員をドアの先へ押し込んだ。)

 

(その先に、地面はなかった。)

 

「え!?」

 

「落ちる…!」

 

「うわきゃああああ!」

 

…………

……

 

「哀染君!」

 

(呼ばれて、目を開ける。)

 

(ボヤけた視界の先で、みんなが心配そうにこちらを覗き込んでいた。)

 

「よ、良かった。打ち所が悪かったのかと…。」

 

「みんな…ぼくらは…。」

 

「が、崖から落ちたけど…この花がクッションになって助かった…みたいだね。」

 

「黒ヒゲ危機一髪デス!」

 

「黒ヒゲは余計だろ。」

 

(横たえていた身体を起こすと、確かに花を下敷きにしていた。落ちて来たという崖はかなりの高さだ。)

 

「この崖を登ることはできないっすね。」

 

「この高さから落ちて平気とか…あんたら本当に人間??」

 

「お前こそ、この高さから落ちて壊れないとか本当に機械かよ?」

 

「な、なんだとぉ?オイラは交通速度無制限のアウトバーン事故でも無傷の耐久性を誇ってんでい!」

 

「クルマみたいデス。」

 

「まあまあ、落ち着いて。何にせよ、助かって良かったよ。」

 

(こんな花だけでクッション代わりになったのかという疑問は確かにあるけど…。)

 

(何にしても、みんな無事で良かったと思おう。)

 

「この通路…奥に進んでみましょう。」

 

(狭くて薄暗い道を進むと、石でできた大きな扉があった。)

 

 

 

【いせきのいりぐち】

 

(慎重にその扉を開けると、目の前にモノクマが立っていた。)

 

「ハロー!ボクはモノクマ!クマのモノクマさ!」

 

「知ってイマス。」

 

「てゆーか、アンタに殺されかけたんだけど!?どーゆーつもりよ!!」

 

「そうだよ!下手したら死んでたよ!」

 

「あなたは…殺人に関わらない…はず。」

 

「そうだよ?だから、オマエラは別に死にかけてないってことだよ。」

 

「ぜ、絶対死なないって分かってたの?あんなに高いところから落ちたのに…?」

 

「……。」

 

「うるさいなー!若いうちから細かいことばっかり言ってるとハゲるよ!」

 

「とにかく、ニューステージへようこそ!ここは、とある人気ゲーム49作目の舞台をオマージュした場所だよ!」

 

「そしてボクはこの遺跡の管理人でーす!」

 

「遺跡?この先は遺跡なんすか?」

 

「お?冒険家の血が騒いじゃった?うぷぷ、気を付けてね。遺跡といえば、デンジャラスゾーンだからね!」

 

「そ、そう、かな…?」

 

「そうそう!遺跡は危険。どの世界でも定番だよ!」

 

(世界……ゲームのオマージュ…か。)

 

「とにかく、気を付けて進んでね!ここから先は死ぬかもしれないからね!」

 

(モノクマはサラリと怖いことを言って消えた。)

 

 

「……。」

 

「ヤマト先生?どうしマシタ?」

 

「あ…いえ、落ちた時、少し打ったようです。」

 

「え?大丈夫?歩ける?」

 

「大丈夫ですよ。いずれにせよ、進むしかなさそうですね。」

 

「俺が先頭を行くっす。危険らしいっすから、みなさんあまり離れないでください。」

 

(彼が先頭を歩く。その後をみんなで追った。)

 

(先に進むと、看板があった。アルファベットらしき文字が並んでいるが、何と書いてあるかは分からない。)

 

「これは…ドイツ語ですね。『殺せば自由になれる』と書いてあります。」

 

「くそ…ふざけやがって…。」

 

 

「この先にも部屋があるっすね。」

 

「天海くん、待ってください!」

 

(次の部屋へ続く道を進もうとする彼の手を掴むと同時に辺りに声が響いた。次の瞬間。)

 

(進もうとしていた次の部屋への道から巨大なトゲのようなものが突き上がってきた。)

 

「……っ!」

 

「な、何これ!?トラップ!?」

 

「ヒェ〜!ほ、ほんとにデンジャラスでねぇか!」

 

「あ、あのまま通ってたら…串刺しだったぞ…。」

 

「ら、らんたろう、大丈夫!?」

 

「はい…山門さんが引っ張ってくれたおかげっす。助かったっす。」

 

「いえ、そこに『ボタンを押して進め』とあったので…。」

 

(彼女が部屋の壁を指差す。その先には、確かに何かの文字が書かれている。アルファベットですらないその文字は何語なのかも分からなかった。)

 

「これはアラビックですか?タイランディッシュですか?」

 

「ヒンズー語ですね。」

 

「えっと、ボタンって、あの壁にあるものかな?」

 

(壁に2つのボタンがある。それぞれに読めない文字が書かれていた。)

 

「……左のボタンに『これ』と書いてあります。」

 

「……じゃあ、これを押してみるっすか。」

 

「き、気を付けてね?」

 

(彼が周囲を警戒しながらボタンに近づき、ボタンを押す。すると、次の部屋への入り口からカチリと音がした。)

 

「……これで、さっきのトラップは解除されたんすかね?」

 

「…確かめる。」

 

「え、木野さん?」

 

(彼女は背にしていたリュックからペンを取り出して、次の部屋に転がした。)

 

「何も起きない…から、大丈夫…。」

 

「ことは、ありがとう。」

 

「念のため俺から行くっす。体重が関係してるかもしれないので。」

 

(そう言った彼が次の部屋に進む。何事も起きなかったのを見守って、全員次の部屋に移動した。)

 

 

(次の部屋で待ち構えていたのはモノクマと、変わった形のマネキンだった。)

 

「やあ!オマエラは…この地底の世界に落ちて来たばかりだね?」

 

「あんたに突き落とされてね。」

 

「そっか、じゃあ さぞかし戸惑ってるだろうね。」

 

「何言ってんだよ…。」

 

「無知なオマエラにこの世界のルールをボクが教えてあげよう!」

 

「はい!このおもちゃのナイフでそのマネキンを倒してみなよ!」

 

(ニヤニヤ笑いながら、モノクマは全員にナイフを配る。)

 

「さあさあ、マネキンなんだから遠慮はいらないよ。ブスリといっちゃって!でないと進めないよ!」

 

(悪趣味だけど、やるしかない。ナイフを握ってマネキンに突き立てた。すると…)

 

(オモチャとは思えない切れ味でナイフは深くマネキンに突き刺さった。布を割く感触ではない、肉を貫いたような生々しい感覚が手に伝わった。)

 

「っ!?こ、これっ、本当にマネキン?」

 

「とってもリアルでしょ?オマエラは殺人に関してズブの素人だからね。」

 

「これで少しは予行練習するといいよ!いやぁ、ボクって相変わらず気の利くクマだね!」

 

(マネキンから鮮血が溢れてきて、ナイフを汚す。)

 

「さて、この世界のルールとは、殺すか殺されるかだよ。出会ったモンスターは必ず討伐してください。”にげる“も”みのがす“も認めないよ!」

 

「モンスター?」

 

「モンスターが出る…の?えっと、人形…だよね?」

 

「人形だろうが本物だろうが殺してしまえば同じだよ!たとえモンスターが戦いたがってなくても、必ず倒さなきゃダメだからね。」

 

「そうしないとLVが上がらないからね!敵前逃亡は万死に値すると思え!」

 

「つまり…モンスターを倒さなかったら おしおきっすか…。」

 

「そうそう。うぷぷ、コロシアイの前に死なないよう、せいぜい頑張ってね!」

 

(モノクマは笑い声を反響させながら消えた。)

 

 

(次の部屋へ進む。と、目の前に大きいカエルのようなものが飛び出して来た。)

 

「あ、え!?カエル!?」

 

「これがモンスターっすか。」

 

「こ、こいつを倒さなきゃなんねーのか…。」

 

(みんながナイフを構える。)

 

「で、でもこのカエル…何もしてこないよ…。」

 

「怯えてる…。」

 

「っても、仕方ないだろ!こいつをヤらなきゃ、みんな死ぬんだ!」

 

(大声を張り上げた彼女がカエルに向かって駆け出し、ナイフを突き立てた。)

 

(カエルは痛々しい悲鳴をあげてひっくり返る。死の声は辺りに反響して、しばらく消えなかった。)

 

「ふえぇ…感触が生々しいよぉ。まるで本物だよぉ…。」

 

「き、機械に感触なんてあるのか?」

 

「でも、このカエル、作りモノです。」

 

「こんなに、血が出てるのに…?」

 

「さっきのマネキンも…布とは思えない感じだったよ…。」

 

「…きっと…合成皮脂。」

 

「……牧場のヘビや牛も人形でしたが血が出たっす。このモンスターも人形でしょう。」

 

「それより、進みましょう。」

 

(彼が言うと、みんなは顔を青くしたまま歩き出した。)

 

(そしてまた、飛び出して来たカエルや、虫や、野菜のようなモンスターと対峙した。)

 

「な、何なんだよこいつらっ!」

 

「みんな、下がって。ここは俺がするっす。」

 

 

……

 

「あ、あのモンスター…!に、逃げたよ!」

 

「逃すな!逃したら死ぬぞ!!」

 

 

……

 

「ひっ…ほんとに人形じゃ、ないみたい…。」

 

「合成皮脂…だ、大丈夫…。」

 

 

……

 

「ヤマト先生、ワタシがヤリます!」

 

「あ、ありがとうございます…。」

 

 

…………

……

 

(無抵抗の、怯えたモンスターの断末魔を聞きながら進むうち、みんなの着ているものは血塗れになっていた。)

 

(ここに来てかなり時間が経っている。空が見えないから日が沈んでいるかどうかも分からないけど。)

 

「……死の前の悲鳴というのは…聞いていて気が滅入りますね…。」

 

「こんな…無抵抗の奴らを殺させるなんて…。」

 

「……。」

 

「祝里さん。だ、大丈夫?顔色悪いけど…。」

 

「……祝里さん。」

 

「大丈夫…。うん、大丈夫だよ。」

 

「パンピーのアナタたちにはキツイ仕事デス。少し休みましょう。」

 

 

「モノパッドによると、もうすぐ俺らの宿舎っすよ。」

 

(彼がモノパッドを開いて眺めている。次の部屋に進めば、宿舎があるらしい。)

 

(よろける足で次の部屋へ進もうとして、腕を取られた。引っ張るというには、弱々しい力で。)

 

「哀染くん、そこは落とし穴になってるみたいです。」

 

「あ…ありがとう。危なかった、疲れで気が抜けてたよ…。」

 

「もー!モノクマめ〜!こんなデストラップいっぱいにして〜!許さないんだからぁ!」

 

「俺らが分かる言語で注意書きがないのにも悪意を感じるっすね。」

 

「でも、こっちにはヤマト先生イマス!ヒャクニンリキです!」

 

「本当だね。10カ国語どころか、本当にいろいろな言葉を知ってるんだね。」

 

「いえ…たまたま少し勉強していた言語だっただけですよ。複雑な文章が出てきたら…お力になれないかもしれません。」

 

「この落ち葉が落ちてるところが落とし穴だな。ジャンプすれば何とかー…。」

 

「えっと…その先も落とし穴だったら…どうするの?」

 

「あ、落ち葉をどけてみようか。」

 

(手紙と同じく、前のステージで受け取って持って来ていたハタキ。服の中から取り出して、落ち葉を動かした。)

 

「アナタの服、何でも出てキマスか。」

 

「あはは、これは…一応もらったものだから、持って来たんだ。」

 

(正しい使い方じゃないから、もし持ち主が見たら怒りそうだけど。)

 

(落ち葉を全部通り道からどけると、下の床に1m四方の線が入っている。)

 

「ここ通ったらこの床が開いて、落とし穴トラップ発動ってことやんな。」

 

「先に気が付いて良かったっす。ジャンプできない距離ではないっすから。」

 

(言って、彼はためらいなく次の部屋まで跳躍した。何事も起こらず、みんなが安堵の息を漏らした。)

 

(みんなが難なく落とし穴部分を飛び越えて行く。前を行こうとする背中に声をかける。)

 

「撫子、一応ヒールは脱いだ方がいいんじゃない?踏み込めないし、着地の時 危ないよ。」

 

「……ええ、そうですね。ありがとうございます。」

 

(彼女は一瞬 怪訝な顔をしてからヒールの付いた靴を脱ぎ、向こう側の部屋に投げる。)

 

(そして助走を付けて跳び、無事着地したーーが、バランスを崩したのか、よろけて半歩後退した。)

 

(するとカチリという音と共に床がパクリと大きな口を開けた。彼女はそのまま、その口に吸い込まれるようにーー。)

 

「山門さん!」

 

「……!」

 

(思わず叫んだ瞬間、後ろに倒れかけていた彼女の体がピタリと止まった。)

 

「…間一髪っすね…。」

 

「ヤマト先生、大丈夫デスカ?」

 

(落ちる彼女の腕を掴み、引っ張った2人が言う。)

 

「あ…ありがとうございます。」

 

「よ、良かった…。」

 

(床に開いた穴の底にはギラリと光る針山が見える。)

 

「こんなとこ落ちたらひとたまりもねぇや。アニキ、早くズラかろうぜ。」

 

「そうだね。さっさと行こう。」

 

(全員 落とし穴を飛び越えて次の部屋へ移動した。)

 

 

 

【ホーム】

 

(次の部屋は広い空間だった。大きな朽木の奥に家が建っている。その前でモノクマが仁王立ちしていた。)

 

「よくここまで生きて辿り着いたね!ご褒美のカタツムリパイが焼けてるよ!」

 

「誰が食うかそんなもん!」

 

「ここが俺らの宿舎なんすよね?」

 

「そうだよ。その名もホーム。付いておいでよ!」

 

 

(モノクマに促されて家の門をくぐる。中は普通の民家だっだ。あちこちにカメラやモニターがあることを除けば。)

 

「玄関から右の廊下にオマエラの部屋が並んでるよ。ルームプレートを確認して、各自自室で休むように!」

 

「お腹が減っている人はキッチンへ行くといいよ!カタツムリパイやシナモンバタースコッチパイ、その他いろいろ作ってあるからね。」

 

(お腹は減ってるけど…今は食べる気にならない。)

 

(全員が疲れた様子で個室に入って行った。疲れ切っていたせいか、みんな最低限の言葉を交わすだけだった。)

 

 

 

【ホーム 哀染の部屋】

 

(部屋は少し埃っぽいものの、きちんと整頓されていた。これまでのステージと同じように、クローゼットには同じ舞台衣装が並んでいる。)

 

(部屋の中にも、当然のようにカメラがある。さすがにシャワールームとトイレには設置されていない。)

 

(それだけ確認して、シャワールームでドロドロになった服を脱いだ。)

 

(手にモンスターたちの体を裂く感覚がまだ残っている。死を前にした悲鳴が頭から離れない。)

 

(今までのクロたちも…こんな気持ちを経験していたのかな…。)

 

(シャワーを浴びて黒いシーツに覆われたベッドに倒れ込むと、睡魔はすぐにやって来た。)

 

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

(朝だ。体は疲れ切っていたのに、夢見が悪いせいかあまり眠った気がしない。)

 

 

(部屋の扉を開けると、廊下の先に後ろ姿を見つけた。)

 

「琴葉、おはよう。」

 

「…おはよう。……哀染さん。」

 

(彼女は眠そうな目をしてる。また眠れていないのかな…。)

 

「こっち。リビングで朝ごはん…。」

 

(彼女が言いながら前を行く。小柄なその背中を追う形でリビングルームへ入った。)

 

 

 

【ホーム リビング】

 

「哀染くん、木野さん、おはようございます。」

 

「おはようございマス。」

 

「おはようございます。」

 

「2人とも、おはよう。」

 

(リビングのテーブル席に着いた面々がこちらに顔を向けた。)

 

(リビングはシンプルな印象だ。大きめのテーブルに温かそうな朝食が載っている。)

 

「あ…みんなもう来てたんだね…。」

 

「みんなー!よく眠れたー!?アイコは、悪夢ばっかりで全然だったよー☆」

 

「悪夢って…機械なのに夢見るのか?」

 

「民族差別と同じく愚かな行為…それは人間至上主義による機械差別であるぞ。謝罪と賠償を要求する!」

 

(全員揃うと、その場は一気ににぎやかになった。)

 

(良かった。昨日はみんな疲れ切っていたけど、眠って少しは体力が戻ったみたいだ。)

 

(何人かの顔色が悪いのは心配だけど…。)

 

「今日の探索っすけど…外に1人で出るのは危険っすね。」

 

「そうだね…。二手に分かれるのはどうかな…?」

 

「俺は探索に出るっす。一応トラップのこともあるので…山門さんも来てもらっていいっすか?」

 

「ええ、もちろん。」

 

「ヤマト先生が行くならワタシも行きマス。」

 

「アタシもアタシもー!」

 

「もう1人くらい男子に来てもらいたいんすが…。」

 

「ああ、じゃあオレが行くよ。細かい調査じゃ絶対役に立てねーからな。」

 

「ご、ごめんね…外に出る方が大変な役回り、だよね…。」

 

「いえ、適材適所ってやつっすよ。」

 

(適材適所か…。自分の才能は調査に向いてるとは思えないけど…頑張らないと。)

 

 

(朝食を取って、外へ向かう5人は出て行った。)

 

(さて、家の中はどこから調べようか…。)

 

 

 地図を確認しよう

 リビングを調べよう

 キッチンを調べよう

 玄関を調べよう

全部見たね

 

 

 

(自分のモノパッドを開いて地図を開く。)

 

(……あれ?この家の見取り図しかない。今まではステージ全体の地図があったのに…。)

 

(”ホーム”しか映し出さないモノパッドの地図を閉じて懐に戻した。)

 

 

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(リビングには食卓の他、暖炉や本棚、ロッキングチェアなどがある。)

 

(本棚には色々な本が並んでいた。歴史書や物語の他、『カタツムリの使い方』というよく分からない本もある。)

 

「……あ。」

 

(後ろから声がして振り返ると、彼女も同じように本棚を覗き込んでいた。その視線を辿るとーー)

 

「『簡単おまじない』取ろうか?」

 

「ううん、今は…いいよ。」

 

「…栞、顔色 良くないけど、大丈夫?」

 

「うん…昨日、思い知っちゃって…。」

 

「あたしが、死なせてしまった人たち…殺してしまった人たちがどんな風に死んだのか。」

 

「……。」

 

「でも!だからこそ、ここから出て償わないと。そう思うんだ。」

 

「そっか。」

 

(彼女は声を明るくして、良くない顔色のまま笑った。)

 

(本当に彼女が人を呪い殺したなんてことがあったのかな。ーー思い出した記憶は…本当なのかな。)

 

(彼女はそのまま違う部屋の探索に向かった。)

 

(本棚の反対側の暖炉はあたたかい光を放っている。ふと、前回の裁判を思い出した。)

 

(懐に入れたままの手紙に触れる。何となく持って来てしまったけれど…燃やしてしまった方がいいのかもしれない。)

 

(ーーいや。これは彼の遺書みたいなものだ。ここから出たら、みんなに読んでもらわないと。)

 

 

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【ホーム キッチン】

 

(リビングの奥はキッチンらしい。)

 

「哀染さん。」

 

「琴葉、ここはキッチンなんだね。」

 

「うん…。でも、使われた形跡がない。」

 

「前のステージでもそうだったけど…どこで料理してるんだろうね。」

 

「…こんなきれいなキッチンなのに…もったいない。」

 

「琴葉が使ってみたら?料理は化学っていうし…」

 

「…!うん、そう。料理は1番身近な化学実験だと思う!」

 

(突然 彼女が大きな声を上げたので驚いた。)

 

「……。…ごめんなさい。」

 

「え?な、何で謝るの?」

 

「私…人との接し方が分からない。今みたいに、みんな哀染さんみたいな顔するから…。」

 

「あ、ごめんね。大きな声に驚いただけだよ。あんな大きな声聞いたの、初日に琴葉を怒らせちゃった時くらいだもん。」

 

「……私、哀染さんに怒ってない。」

 

「え、あ。そ、そうだっけ?」

 

(彼女は少し訝しげな顔をしたままキッチンから出て行った。)

 

(キッチンは特に変わったところはないみたいだね。)

 

(排水溝に動物の毛が詰まっていたり、冷蔵庫に有名なメーカーのチョコや調味料が入っているくらいだ。)

 

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【ホーム 玄関】

 

(玄関ホールに出ると、玄関正面にある下り階段からモノクマが現れた。その後ろにはーー)

 

「ここみ君?どうしたの?」

 

「それが…よく分からないんだ。地下を調べようとしたらモノクマが飛んで来て…」

 

「上のお部屋で遊びましょうね。」

 

「何で?下に何かあるの?」

 

「下は危ないから上の部屋で遊びましょうね。」

 

「ね?何を聞いてもこんな様子で…。」

 

「確かに、よく分からないね。」

 

(仕方なく、玄関の他の家具を調べてみる。そのうち、モノクマはいなくなった。)

 

 

「モノクマ…行っちゃったね。」

 

「うん。今までこんなことはなかったし…地下に何かあるはずだよ。」

 

(2人で音を立てないように地下の階段を降りる。地下は薄暗く、風が不気味な音を立てていた。)

 

(廊下の途中まで差し掛かったところで、突然モノクマが現れた。)

 

「っ!?」

 

「ここはすきま風が入るから…風邪を引いたら大変だよ。」

 

(それだけ言って、上に戻るように促された。)

 

「やっぱり…おかしいよ…。」

 

(玄関ホールに戻って来ると、モノクマがまたどこかへ消えた。)

 

「カメラがあるから…地下に入るのはすぐ分かっちゃうんだね…。」

 

(そっか…何とか、モノクマのスキを付けないかな?)

 

 

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【ホーム リビング】

 

(家の中…ホーム内をくまなく探してみたけれど、やっぱり脱出の手がかりは見つからなかった。)

 

(ーーでも、地下には何か秘密があるはずだ。)

 

(ホームの探索を終えたみんなと話していると、リビングのドアが開かれた。)

 

 

「ただいまっす。」

 

(外を見に行ってた面々が入ってくる。昨日もそうだったように、みんなモンスターの返り血を浴びていた。)

 

「またモンスターが出たんだね。」

 

「ああ、ほんと…参ったよ。」

 

「え、けいの服ビリビリだよ?どうしたの?」

 

「ああ、トラップに引っ掛けちまってさ…破けた。」

 

「ごめんね…。やっぱり外の探索の方が…大変だったよね。」

 

「そうデス。が、途中からモンスターいませんデシタ。」

 

「いなかった…?」

 

「ええ。10匹ほど倒した後だったっすかね…。モンスターの気配がなくなったっす。」

 

「モンスターと同じく、外に手がかりと言えるものもありませんでしたけどね。」

 

「そっか…。とりあえず、夕食まで休んでてよ。シャワーも浴びたいだろうし。」

 

(夕食まではまだ少し時間があるはずだ。)

 

 

(彼らは1度自室に戻ったが、みんなシャワーを浴びて すぐリビングに集まって来た。1人を除いて。)

 

「撫子は部屋で休んでるのかな?」

 

「ヤマト先生、お疲れデス。」

 

「外のトラップが昨日と違ったっすから…ほぼ山門さん頼みになってしまったんすよ。」

 

「き、昨日と違ったの?」

 

「ああ。トラップどころか、地形も変わってたぞ。」

 

「モノパッドの地図も昨日とちげーんだわ!」

 

「え?ぼくのモノパッドはこの家しか地図が出なかったけど…。」

 

「どうやら、マップの外に出たら地図が更新されるみたいっすね。」

 

(……いよいよ、ゲームじみてきた。)

 

 

(そろそろ夕食かという時間。キッチンから良い匂いが漂ってきた。)

 

(数名が吸い寄せられるようにキッチンへ向かい、手に温かい料理の入った鍋を持って戻って来た。)

 

(キッチンには物音ひとつなかったのに…。まるで魔法で料理してるみたいだ。頭に三角帽子が思い浮かんだ。)

 

「あ、みなさん、もういらしたんですね。」

 

(考えているうちに、リビングのドアが開いて最後の1人が入って来た。全員揃って、夕食の時間だ。)

 

「それで、この家に手がかりはあったっすか?」

 

「うん…リビングやキッチンには何も手がかりはなかったけど…地下は何かありそうだよ。」

 

「チカ?」

 

「玄関ホールに階段があるでしょ?あそこから地下に続いてるみたいだけど…そこに行くと…モノクマに邪魔されるんだ…。」

 

「それって すげー発見じゃねーか!?」

 

「出口がある…かもしれない…。」

 

「やったぁ☆ようやくこのクソみたいな場所から解放されるんだぁ!」

 

「と、とりあえず行ってみようぜ。」

 

「でも、モノクマに邪魔されるんだよね?」

 

「うん。たぶん。でも、みんなで1度行ってみようか。」

 

 

 

【ホーム 玄関】

 

(夕食を終え、とりあえず全員で地下に降りる。と、やはり背後からモノクマが現れた。)

 

「ここは、ホコリがひどいよ。ノドを痛めたら大変だよ。」

 

「ほ、ほんとに邪魔しやがる。」

 

「モノクマ!この先に何がアリマスか?」

 

「ここにはいいものなんてありませんよ。上でご本でも読みましょう。」

 

(全員モノクマに促されて、しぶしぶ玄関ホールに戻る。こちらの不満気な顔を見て、モノクマはすぐに去って行った。)

 

「やっぱり…地下の先に何かあるんだよね…。」

 

「でも、それが分かっただけ進歩でぃ!」

 

「あ、ああ。こっから出れる希望が見えて来たんだからな。」

 

「……。」

 

(そうだ。地下の存在は、きっと重要な手がかりなんだ。)

 

 

 

【ホーム 哀染の部屋】

 

(シャワーを浴びてベッドに腰掛ける。何となくベッドのそばの窓を開けてみた。)

 

(窓の外からは家の前にあった朽木が見えた。その木は、星や月もなく暗い中、どっしりと佇んでいる。)

 

(目が慣れてくると、その朽木に向かって祈りを捧げている人影が見えた。目を閉じて両手を組むパンツスーツの女性の人影。)

 

(前のステージでも、彼女は教会でお祈りしてたな。)

 

「撫子。中に入った方がいいよ。」

 

(邪魔するのはどうかとも思ったけれど、声をかけた。ハッとしたように、彼女はこちらに目を向けた。)

 

「あら、哀染くん。そちらが哀染くんの個室なんですね。」

 

「うん。邪魔しちゃってごめんね?でも、モンスターが来ないとは限らないし…。」

 

「…見ていたんですね。」

 

「ごめん。」

 

「謝ることじゃありませんよ。ただ、皆さんには内緒にして頂けますか?」

 

「えっ?」

 

「外に出ていたなんて知ったら、ローズさんに怒られちゃいますから。」

 

「分かったよ。……撫子は前のステージでも教会にいたよね。」

 

「……ええ。『困った時の神頼み』ですね。困った時だけ神様にお願いだなんて、お恥ずかしい限りです。」

 

「恥ずかしいことじゃないよ。ぼくもだよ。」

 

「ありがとうございます、哀染くん。では、そろそろ休みましょう。おやすみなさい。」

 

(彼女はそう言って玄関のドアに入って行った。)

 

(祈りたい気持ちはよく分かる。ようやくここから出られるかもしれないんだ。)

 

(何をしてでも…地下に行かなきゃ…。)

 

 

 

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