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第四章 Either killed her.(非)日常編Ⅱ

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

【ホーム リビング】

 

(朝のチャイムが鳴ってリビングに入ると、見慣れた顔が迎えてくれた。)

 

(挨拶に笑顔を返しながら、みんなの顔を観察する。昨日 外に出ていた人たちは顔に少し疲れが残っているようだった。)

 

「あ、あのさ。やっぱり、今日はあたし、外調べるよ。昨日 外に出た人たちはここで休んでて。」

 

「そ、そうだね。申し訳ないし…。」

 

「……うん。」

 

「ワタシ外の方がショウに合ってイマス。」

 

「俺もっすね。それに、トラップのこともあるし…山門さんは悪いっすけどまた来てもらうことになりそうっす。」

 

「構いませんよ。……ただ、少し寝付きが悪かったので、午後からでもよろしいでしょうか?」

 

「じゃあ、もう午前中はこの家で探索するなり休むなりして、午後からみんなで外 行けばいんじゃね?」

 

「確かに。外広いし、昨日調べるには人数足りねーなって思ってたんだよな。」

 

(みんなとの朝食を終えて、各自部屋や探索に向かった。)

 

(どうしようかな。家の探索といっても、地下以外に調べてない場所はないんだよね…。)

 

 

 午後まで部屋で休もう…

 いや、今日は何か見つかるはず!

 

 

 

【ホーム 哀染の個室】

 

(布団に横になって、重いまぶたを閉じる。そのまま意識は睡魔に呑まれていった。)

 

…………

……

 

「犯人は、アンタだよ!」

 

「違うよ!私じゃない!信じて!」

 

「お、おいらにそんな難しいこと分かんないじょ!?おいらはクロじゃない!」

 

「ははっ!あははははははは!ずばり、あんなヤツ死んでトーゼンでしょう!」

 

「どうしても…アイツを殺さなきゃなんなかったんだよ…。」

 

「うん。仕方ないね。僕がこの事件の犯人さ。」

 

 

「……っ!」

 

(ガバリと起き上がる。部屋に備えられた時計を見れば、30分ほどしか経っていなかった。)

 

(この夢のせいで、ずっと寝不足気味だ。…寝汗がひどいからシャワーを浴びよう。)

 

(シャワー室を出てもベッドに戻る気にならない。)

 

 

(昨日 何もなかったけど…一応もう1回 ホーム内を見ておこう。)

 

(昨日と同じように、玄関や廊下の隅々まで調べた。けれど、昨日と同じように手掛かりになるようなものはなさそうだった。)

 

 

 

【ホーム リビング】

 

(リビングに戻ると、本棚の前で小柄な背中がビクリと大きく揺れたのが見えた。)

 

「あれ、琴葉もここにいたんだね。」

 

「哀染さん。」

 

(彼女は振り向き、俯いた。)

 

「……琴葉?どうかしたの?」

 

「……何が?」

 

「様子が変だから。」

 

「変じゃないよ…。」

 

(動揺しているように見える。)

 

「えっと、後ろに何か隠してる?」

 

「何も隠してないよ!」

 

(彼女は大きな声を上げて走り去ってしまった。)

 

 

「ことは、どうしたの?ってあれ、レイ?ことは いなかった?」

 

(キッチンの方から出て来た彼女が近付いて来る。)

 

「えっと、琴葉が本棚見てたんだけど…声かけたら様子が変だったんだよ。」

 

「へ〜、何かいい本あったのかな?…あ。」

 

「どうしたの?」

 

「どうもしないよ?」

 

「でも、ニヤニヤしてるよ?」

 

「ニ、ニヤニヤじゃなくてニコニコだよ!」

 

「えっとね…あんまり、人には言わないであげてね。たぶん ことは、本を持っていったんだよ。」

 

「本?」

 

「うん。ここからなくなってるの。『上手な人との付き合い方』って本。」

 

(ニヤけ顔を隠せていない彼女は、そのままリビングを出て行った。)

 

 

 

【ホーム キッチン】

 

「……。」

 

(またヘッドホンしたまま調査してる…。)

 

「……。」

 

(近付くと、彼が振り返った。)

 

「うわ、何だよ。哀染、驚かすなよな。」

 

「えーと、驚かすつもりはなかったんだけど…何か見つかった?」

 

「いや、排水溝に何かの毛が詰まってるくらいだな。」

 

「そっか。……圭君は歌が好きなんだね。」

 

「え?ああ。コレくらいしか娯楽がねーからさ。」

 

「また そこら辺で寝ちゃうんじゃない?」

 

「いや、もう どの歌の次が子守唄か知ってるから大丈夫だよ。」

 

「そうなんだ。あ、もしかしたら、圭君の才能は音楽関係なのかな?」

 

「は?」

 

「歌が好きってことが、思い出せない才能に関係あるのかなと思って…。」

 

「オレにお前や夕神音みたいな才能があるわけねーだろ。」

 

「えっと…そうかな?」

 

「言ったろ?オレには特別な才能なんてねーんだって。」

 

「でも…他のみんなは”超高校級”だしーー」

 

「だから、オレはちげーんだよ!」

 

(突然 声を荒げた彼に一瞬 目を見張る。が、次の瞬間 彼は決まり悪げに視線を泳がせた。)

 

「あ…、悪りぃ。とにかく、オレの才能の話なんてやめよーぜ。」

 

「そうだ、哀染。お前もカセットレコーダーに歌 入れてくれねーかな?」

 

「え!?ぼ、ぼくの歌は大したものじゃないから入れても楽しめないよ!」

 

「アイドルが何言ってんだよ。本当はメチャクチャ上手いんだろ?」

 

「いや、本当に、歌はそこまで得意じゃないんだ、ごめんね。また後で!」

 

(彼の笑顔から逃げるようにキッチンを後にした。)

 

 

 

【ホーム 哀染の個室】

 

(まだ午後まで時間があるな。部屋の中に暇を潰せるものもないし…どうしよう。)

 

(疲れているけど、今は眠りたくない。ボンヤリしていると、チャイムが鳴った。)

 

(ここに来て初めて聞く音に驚いて飛び上がる。)

 

「は、はーい。誰かな?」

 

(部屋の中を一度確認してからドアを開ける。と、目の前にいたのはーー…)

 

「哀染君、寝てたっすか?」

 

「あ…蘭太郎君。どうしたの?」

 

「いえ、ちょっと話さないっすか?」

 

(彼は何でもない笑顔で言った。部屋に招くと、彼は躊躇いなくベッドに近付いた。)

 

「ここ、いいっすか?」

 

「あ、うん。他に座るところもないしね…。」

 

(若干 落ち着かない気持ちで彼の隣に腰掛けた。)

 

「意外と、哀染君とゆっくり話したことがなかったっすからね。」

 

(確かに…。何でもない話はしたことなかったかもしれない。)

 

「あ、そうだ。これ。」

 

(彼がポケットから何かを取り出した。それは黒く輝く石の付いた装飾品だった。)

 

(確か…ブラックオニキスだっけ…?)

 

カフスボタンっす。どうせあげるなら自分が好きな物を…と思って。」

 

「へぇ、ここに こんな物があったんだね。…って、くれるの?」

 

「ええ。良かったら受け取ってほしいっす。」

 

「ありがとう。嬉しいよ。これ、どこにあったの?」

 

マシーンで取ったっす。」

 

「マシーン?」

 

「モノパッドにあるっすよ?ガチャガチャみたいなページ。」

 

「そうなの?ーーあ、本当だ。」

 

(自分のモノパッドを開き、彼の指すアイコンを押す。と、ソーシャルゲームのガチャページのようなものが現れた。)

 

「そこで出たものが、翌日になったら部屋の枕元に置かれてるんすよ。」

 

「え…クリスマスみたいだね??」

 

「そうっすね。ーー哀染君、それは何すか?」

 

(彼がこちらのモノパッドを覗き込んで言った。解除できないパスワードの画面だ。)

 

「あ、うん。このパスワード、全然覚えがないんだよね。蘭太郎君は解除できた?」

 

「……俺のモノパッドには、パスワード入力画面なんてないっすよ。」

 

「え?そうなの?」

 

(みんな あるのかと思ってた。)

 

「何なんだろう…これ?ーーまあ、考えても仕方ないのかな。」

 

「……。」

 

 

(その後、彼とたわいもない話をした。好きなもののこと。行った場所のこと。そして、家族のこと。)

 

「蘭太郎君には…妹がいるんだよね。」

 

「ええ。12人ほど。」

 

「そっか。」

 

「驚かないんすか?だいたいの人は12人って言うと驚くっすけど…。」

 

「……妹、多いって聞いてたからさ。」

 

「……そうっすね。」

 

「妹さん…行方不明なんだよね?」

 

(その話題に触れると、彼は笑った顔を顔面に貼り付けた。)

 

「最初の裁判で話してたっすね。行方不明の妹を探して旅をしてたんすよ。」

 

「……そうなんだ。」

 

(今は触れてほしくない話題なんだろうな。)

 

「それじゃあ、早くここから出ないとね。」

 

(彼と同じように笑顔を貼り付けて返せば、彼は少し考えるような仕草を取った。)

 

「何か…哀染君は印象が変わったっすね。」

 

「え?」

 

「初めて会った時は本当に、アイドルって感じで、テレビ見てるみたいな印象だったんすけど…。」

 

「……。」

 

「悪い意味じゃないっすよ?今はもっと親近感が湧く感じっす。」

 

「そう…かな。なら良かった。」

 

「…そろそろ出掛ける時間っすね。行きましょうか。」

 

(彼は部屋のドアを開けて先に出た。その後ろ姿を追いながら、少しだけ後悔した。)

 

(きちんとアイドルを演じられていなかったことに。)

 

 

 

【ホーム前】

 

(玄関にはみんなが集まっていた。)

 

「よーし、みんな揃ったし行くかー!!」

 

(元気良く先頭を行く機械仕掛けの体を全員で追う。)

 

 

「ほ、本当に全然 様子が違ってるね…。」

 

「ほんとだね。違う場所みたい。ね、ことは。」

 

「うん…違う場所みたい。」

 

(昨日の夕食で聞いた話の通り、家を出た先の道は来た時とは異なる地形になっていた。)

 

「つーか、昨日とも変わってるよな。」

 

「1日で変わりマス。変です。」

 

「モノクマが〜夜なべ〜をして ニューステージ掘ってくれた〜のかな?」

 

「とりあえず、モノパッドも更新されてるっすから、それ見ながら進むっす。」

 

「みなさん、待ってください。ここもトラップです。」

 

「え?」

 

(開けた場所に出るための通路の前で、声が響いた。)

 

「ここのボタンを押さないと、通路の天井が落ちてくるようです。」

 

(言われて顔を上げる。3mほどの通路の壁に付いたボタンの上。その天井は確かに他と色が違う。)

 

「山門ちゃん、ありがと〜!何も知らなかったら、この天井に潰されてたんだねぇ!」

 

「あたし、絶対プレスされて死ぬのだけは嫌なんだぁ☆」

 

「誰だって嫌だろ。」

 

「2番目に嫌なのは〜自爆☆そして3番目に嫌なのは神経抜き取られて死ぬことだぞ☆」

 

「誰だって嫌だろ…って、何だよ、その死因。」

 

「えーと、あたしは…溺れて魚のエサ…とかが1番 嫌かな。」

 

「だから、意味分かんねーことを真面目に考察すんなよ。」

 

「まあ、何はともあれトラップ解除ありがとぅ〜!」

 

(そう言って前に出た黒ずくめの長身。次いで勢い良く落ちて来た天井。)

 

「アイコさ…!」

 

(天井だったものは大きな音を立てて地面と一体化した。)

 

 

「アベボアアアア?!あああ危なかったばい!バッテン草!」

 

(彼女の体はすんでのところで地面と天井の間に挟まることなく、後方に倒れ込んでいた。)

 

「アイコ!?だ、大丈夫!?」

 

「え?え?な、何でトラップが?」

 

「トラップ、解除したんでしょ…?」

 

「……。もしかして…『ボタンを押しながら進む』かもしれません。」

 

「ハイィ!?」

 

「ごめんなさい…。エスペラント語は少しの単語しか知らなくて…。」

 

「エスペラント語…人工の国際共通語のひとつっすね。でも国で使われる公用言語じゃないはずっすよね。」

 

「そ、そんな言葉…分かるわけねーよ。」

 

「あ…危うくスクラップだったぜ…。」

 

「本当に、ごめんなさい…。」

 

「ヤマト先生、悪くないデス。」

 

「そうですわ。お気になさらないで。私に翻訳機能がないのが悪いんですわ。」

 

「……。すみません…。」

 

「なでしこが謝ることじゃないよ。悪いのはモノクマでしょ?」

 

「山門さんが…いなかった方が大変だった…。」

 

「……。」

 

「そうっすね。みなさん、これまで以上に慎重に進みましょう。」

 

「で、でも、道が塞がっちゃったけど…。」

 

(落ちてきた天井により、開いていた向こうへの道は閉ざされてしまった。)

 

「ボタンを押せば元に戻るはずです。」

 

(もう1度 注意書きを見た彼女が、ボタンを押す。今度は手を離さず押し続けた。)

 

(すると、ゆっくりと落ちた天井が戻っていく。)

 

「これで通れマスね。」

 

「はい。ボタンを押していますから、みなさんは通ってください。」

 

(落ちてきそうな天井に若干怯えながら、3mの通路を渡り、次の部屋に入った。そして、みんなホーム側に残された1人へ向き直る。)

 

「えっと…山門さんはどうするの?」

 

「そちらにもボタンがありませんか?それを押し続けてください。」

 

「これ?分かった。」

 

(こちら側にもホーム側にあったものと同じボタンがある。それを押している間に、向こうにいた彼女も部屋に入って来た。)

 

「ひどいトラップだよね。」

 

「圧死だけは絶対嫌だ。」

 

「でも、ゆっくり天井が落ちるわけじゃないし、あの勢いなら即死だよね。苦しむ時間もなく…。」

 

「そういう問題じゃねーよ!」

 

「…昨日や一昨日より、トラップの注意書きの難易度が上がってるっすね。」

 

「モノクマが本気で…僕たちをトラップで殺す気だってこと?」

 

「……俺が言いたいのは、これまで以上に慎重にってことっすよ。」

 

 

(その言葉通り、慎重に足を運ぶ。けれど、足取りが重そうな2人がだんだんみんなから引き離されていた。)

 

「撫子、琴葉。大丈夫?辛そうだけど…。」

 

「…大丈夫。」

 

「すみません。寝不足がたたっているようです。」

 

「2人とも顔色が悪いよ。寝てないの?」

 

「……大丈夫。」

 

「哀染くん、ありがとうございます。でも、これ以上みなさんの足を引っ張るわけにはいきませんから。」

 

(2人は青い顔のまま、先を行く他の面々に向かって行く。その足はふらついているように見えた。)

 

(無理してるのかな。本当は部屋で休んでいてほしいけど…。)

 

(部屋で1人になっても、うまく眠れないのは自分も同じだ。)

 

 

「本当に、モンスターの気配が全然ないね…。」

 

「一昨日はあんなにたくさん出てきたのに…。」

 

「ああ。昨日も途中から全然だったぞ。」

 

「ハハーン、オレ様たちの強さに恐れをなして隠れてんだろ!」

 

「……ねえ、あれは?」

 

(大きな眼鏡に何かを映して言ったその声に、みんなが彼女の視線を追う。)

 

「モンスターありマス。」

 

(頭からシーツを被ったような、チープなオバケのようなモンスターが20mほど先の通路に横たわっている。)

 

「寝てるのかな?」

 

「もう倒れてるなら…戦わなくても…いいよね?」

 

(ジリジリとゆっくり近付いていたその時。突然そのモンスターはムクリと起き上がった。そして、こちらから遠ざかって行く。)

 

「あ!逃げるよ!」

 

「ワタシがシマス!」

 

(叫んだ彼女は、おもちゃのナイフを投げる。ナイフは一直線に飛んで行き、そのモンスターを的確に貫いた。)

 

(モンスターは叫び声を上げることもなく、その場に倒れて消えた。)

 

「す、すごい…。」

 

「ローズさん、ナイス!」

 

「あんな遠くまで投げちゃうなんて…。」

 

「イエイエ、マフィアのタシナミですカラ。」

 

(マフィアの嗜みとは…?)

 

 

(それ以降、探索中にモンスターと出くわすことはなかった。相変わらず初日とは全く違う地形を進むと、花畑に辿り着いた。)

 

「ぼくらが落ちて来た場所…ここは変わらずあるんだね。」

 

「そうっすね。昨日もここだけは同じだったっす。」

 

「ここに来るまで…何も手掛かりらしいものは見つけられなかったね…。」

 

「……あるのかな。手掛かり。」

 

(ポツリと落とされた言葉に、全員息を呑む。)

 

「あ、あるかもしれねーだろ。」

 

「……うん…あるかも…しれないよ。」

 

「おいおい、希望を持ちすぎるとその分SAN値 削れっぞ。」

 

「……。」

 

「…そろそろ帰りましょう。帰りは行きよりはラクっすよ。」

 

(疲れからなのか落胆からなのか、帰りは行きよりもみんな無口だった。)

 

 

 

【ホーム 玄関】

 

「もー遅いじゃないかー!」

 

(やっと帰って来た…と思ってホームの扉を開けると、モノクマが待ち構えていた。)

 

「モノクマ…何か用っすか。」

 

「はー、せっかく来たのにオマエラのテンション下がってて こっちまでテンション下がるなぁ…。」

 

「誰のせいデスカ。」

 

「そんな 湿気たクラッカーよりショボいオマエラのテンションを上げる朗報を持ってきたよ!」

 

 

「つまり、今回の動機の発表でーす!」

 

「どこが朗報なのよー!!」

 

「まあまあ、本当に朗報なんだってば。聞いて驚くがいいよ!」

 

「ズバリ、地下にはこの世界の秘密が隠されています!」

 

「え?」

 

「オマエラがなぜコロシアイ課外授業に参加しているのか、なぜ ここに来るに至ったか。そんなことが分かっちゃうかもしれないね!」

 

「……。本当なんすか。」

 

「ウソは言わないよ。クマ、ウソつかない。」

 

「よし、じゃあ早速 地下行こうぜ!」

 

「それはできないよ。」

 

「…ど、どういうこと?」

 

「ボクは愚鈍なオマエラと違って俊敏だからね。地下に入ろうというオマエラあれば、行って何度も邪魔して回る…」

 

「そんなクマに、ワタシはなりたい。」

 

「雨にも負けず!?」

 

「カメラで俺たちの動向を監視しているんすね。」

 

「まあねー。ちなみに、玄関のカメラを壊したり布で覆ったりしたらダメだからね!」

 

「……あなたは、どこから見ているんですか?」

 

「どこだろうね?ボクの仕事はオマエラがここに来た時点でほぼ終わってるからね。今 暇なんだよ、ニートなんだよ。」

 

「この国のヒト、NEETの使い方 間違っていマス。」

 

「うぷぷ…でも、自宅警備員のボクが唯一 忙しくなる瞬間があるんだ。」

 

「忙しくなる瞬間…?」

 

「そう!それはズバリ!殺人が起こって、オマエラが捜査している間だよ!」

 

「ひとたび事件が起これば、裁判場の準備から、適切な証拠の提示、オマエラの心のケアまでボクだけで担っているからね!」

 

「心のケアなんてされたことねーけど。」

 

「本来ならボクの助手がやるべきことなんだけどね!全く、あのポンコツパンダはどこ行ったんだか…!」

 

「あ、あんたが廃棄処分にしたんでしょーがー!」

 

「えーそうだっけ?記憶にございませーん。」

 

「ま、とにかく、そういうことだから。地下に隠された秘密を知りたかったら誰か殺してみることをおすすめします!」

 

 

「……。」

 

「もう…誰もコロシアイになんて乗らないよ。」

 

「え?」

 

「みんなで協力して、ここから出るよ。コロシアイなんて、もう起きないよ!」

 

「そ、そうだ!ここにいる誰も、人殺しなんてしねーよ!」

 

「そうデス!人のイノチは重くナイ。でもみんなのイノチ、重いデス!」

 

「あーハイハイ。いいよいいよ、そういう仲間への信頼からの裏切り…それがこのステージでのテーマだからね。存分に仲間を信じたらいいよ!」

 

「……。」

 

「コロシアイ以外で進展することはないと思うけどねー。ぶっちゃけ地下以外には何も手掛かりはないし。」

 

「…あ!言ってしまった!」

 

「ウソです。何もないならトラップ作りマセン。」

 

「毎回変わる地形にトラップ…。モンスターもいた…。」

 

「そ、そっか。外に何かあるからトラップとかがあるんだもんね。」

 

「ないものはないんだってば!外出るのはムダなの!もうマップ変えるのもそろそろ飽きたんだよ!」

 

(プンプンと口で言いながらモノクマは去って行った。)

 

「えっと…この家の外は結局何もないってこと…?」

 

「モノクマのウソだろ。」

 

「モノクマレベルのロボットが嘘がつけるはずありませんわ。」

 

「でも怪しいデス。」

 

「ね、ねえ。もう1度 地下見に行こうよ。昨日はダメだったけど、次はモノクマの邪魔がないかもしれないよ!」

 

「そうだな、ダメモトで行ってみようぜ。」

 

「……私も、賛成。」

 

「……。」

 

(ただ行くだけじゃ…きっとダメだ。でも…カメラを覆ったりモノクマに危害を加えることはできない。)

 

(何かないのかな。地下に行く方法…。)

 

(……その後、みんなで地下に行ってみた。けれど、やはりモノクマに邪魔され、地下の先に行くことはできなかった。)

 

 

 

【ホーム 哀染の個室】

 

(……。そろそろ、いいかな?)

 

(みんなと別れてしばらく、部屋から窓の外を眺めていた。時計を確認すると、時刻は既に深夜だ。)

 

(もしかしたら、この時間なら地下に入れるかもしれない。)

 

(ベッドの黒い布団カバーを被った。)

 

 

 

【ホーム 玄関】

 

(カメラに映りにくいであろう位置を辿って慎重に足を進める。)

 

(普段 撮られ慣れてて良かった…。)

 

(暗い廊下を進み、地下の階段を慎重に降りる。)

 

(いつだったか、誰かが「モノクマは寝ていたんじゃないか」と言っていた。)

 

(もし、モノクマがスリープモードになる時間があれば、地下に行くことができる…!)

 

(自然と歩調が早くなる。不気味な風の音を聞きながらさらに進もうとしたところで。)

 

 

「……。」

 

「……ッ。モノクマ…。」

 

(何も言わないモノクマに強い力で布団カバーを引っ張られ、地下を出るしかなかった。)

 

「やれやれ…キミもしつこいなぁ。しつこいヤツはモテないよ!イケメンでない限り。」

 

「ボクがオマエラを通すのは殺人が起きてからだって言ったでしょー。」

 

「…モノクマは寝ないの?」

 

「ん?」

 

「2つ目のステージで、朝のアナウンスが鳴らない時があったよね。あの時、寝てたんじゃないの?」

 

「ボクが眠る?面白いこと言うね。オマエラと違って高尚なクマであるボクに睡眠も冬眠も必要ないんだよ。」

 

「そういうモードだからね。」

 

「……。そういうモード?」

 

「うぷぷ、ボクのことを知りたい?でもいきなり全部 教えるのは無粋ってもんだよ。合コンの時だってそうでしょ?」

 

「……知らないよ。」

 

(ニヤニヤするモノクマを無視して自室へ向かう。部屋の扉を乱暴に開けーー周囲が寝静まっていることに思い至って静かに閉めた。)

 

 

 

【ホーム 哀染の個室】

 

(モノクマは眠らない。じゃあ、2つ目のステージで朝のアナウンスがなかったのは、どうしてだろう。)

 

(とにかく、何とかしてモノクマの死角を作って…絶対地下に行かなきゃ。)

 

(自室のベッドに横になる。これまでのモノクマの言動を思い出しながら目を閉じた。)

 

…………

……

 

(外から音がして目を覚ました。カツンカツンという高い足音。それが、大きく反響して響いている。)

 

(時計を確認すれば、もう朝だった。あと30分ほどで朝のチャイムが鳴るはずだ。)

 

(昨日 部屋の窓を閉め忘れちゃったんだ…。)

 

(窓の外から響く聞き覚えがある音。たぶん、足音だ。彼女が、どこかへ行ったのだろうか?)

 

(少し気になる。)

 

 

 

【ホーム 玄関】

 

(静まり返った廊下を通って玄関ホールに入ると、外から帰って来たらしい人影があった。)

 

「あ……哀染くん。早いですね…。」

 

「撫子、おはよう。どこか行ってたの?」

 

「……外の様子を見て来ただけですよ。」

 

「え?単独行動は危ないよ。いくら撫子が1番トラップにかかりにくいって言ってもーー」

 

「そうですね。でも…今日は外の様子が昨日と同じだったんです。」

 

「え?そうなの?」

 

「はい。それで確かめに行ったんです。トラップも、昨日と同じのようですよ。」

 

「そうなんだ。モノクマも飽きたって言ってたもんね。ーーでも、やっぱり1人で外に出るのは危ないよ。」

 

「すみません…どうしても、確認したかったものですから…。」

 

「あ、ごめん。僕に謝る必要は全然ないんだけど…。」

 

(少し気まずい雰囲気が漂う中、廊下の向こうで1つのドアが開いた。)

 

 

「あれ、2人とも、早いっすね。」

 

「蘭太郎君こそ。まだ朝のアナウンス前だよ。」

 

「だからっすよ。」

 

「え?」

 

(彼はカメラの死角になる廊下の端に寄ってから、地下を指差した。その口は「アナウンス」と声を出さずに繰り返していた。)

 

(そっか。朝のアナウンス中ならモノクマも邪魔しに来れないかもしれない。)

 

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のチャイムが鳴った。その後、モノクマの声がモニターから流れてくる。)

 

(今だ。3人で目配せして階段を降りる。)

 

(地下の廊下にはモニターがない。けれど、上の階からのモノクマの朝の挨拶がこだましていた。)

 

(これならーー)

 

「……。」

 

「……ッ。」

 

(アナウンスの挨拶をBGMに、モノクマが後ろから追いかけて来た。その手には、初日にパンダを攻撃した銃のようなものが握られている。)

 

(仕方なく、3人ともモノクマの後を追って玄関ホールまで戻った。)

 

「はーあ、オマエラは聞き分けが悪すぎるよ。地下に行きたい地下に行きたいって、巨人 駆逐でもしたいの?」

 

「地下公開はコロシアイが起こるまで おあずけ!犬のようにエサを待ってなよ!それか、狩人になってチャンスを掴み取るかだね!」

 

(まくし立てるだけ まくし立て、モノクマは消える。)

 

「やっぱり、ダメだったっすね。」

 

「や…やっぱりって…。」

 

朝のアナウンスは録音じゃないと踏んでたんすけどね。前に朝のアナウンスがなかったことがあったっすから。」

 

「まあ、これは試してみたたかっただけっす。」

 

「……。」

 

「ぼくも昨日 夜中に降りてみたんだ。アナウンスがなかった日…モノクマも眠ったりするのかと思って。」

 

「ダメだったんですね。」

 

「うん…。やっぱり、モノクマは眠らないみたいだよ。」

 

「そうっすか。まあ、機械が寝るっていうのも おかしな話っすからね。」

 

「アイコが聞いたら怒るよ…。」

 

「何にせよ、一刻も早くこの状況を何とかして外に出ないといけませんね。」

 

「誰にも、こんな場所でじっとしてる暇なんてないんです。」

 

(彼女にしては強い口調だ。意外に思って目を向けると、首をすくめて彼女は言った。)

 

「ーーとある作品の登場人物のセリフですよ。」

 

「身近な人や好きな偉人、作品の言葉が、自分の言葉になることはよくあることですから。言葉の伝染ですね。」

 

「言葉の…伝染?」

 

「学級裁判の時、お2人の言葉がみなさんの考えを変化させていますよね。わたしはそれも言葉の伝染だと思っています。」

 

「……。」

 

「お2人にはその力があります。ですからーー」

 

「……。」

 

「……。」

 

「柄にもなく語ってしまいました。お恥ずかしい。」

 

(ぽかんと彼女を見ていると、彼女は真剣な表情を崩し、いつもの調子で柔らかく笑った。)

 

(そして「先にリビングへ行ってますね」と言って玄関ホールから出て行った。)

 

 

「哀染君は、地下に本当に秘密が隠されてると思うっすか?」

 

「え?……うん。モノクマはこれまで、嘘はついてなかったと思うから。」

 

「地下に行かなくちゃ。殺人以外の方法で。」

 

「そうっすね。……それじゃあ、11時頃に部屋にいてほしいっす。」

 

「え?」

 

(小さな声を聞き返す間もなく、彼はさっさとリビングに向かって行った。)

 

 

 

【ホーム リビング】

 

(その後、朝食を食べるために全員がリビングに集まった。)

 

「みんな、今日はどうすべきだと思うっすか?」

 

「今日はヤマト先生、休みの日デス。」

 

「え?」

 

「ヤマト先生、ずっと頭と体使って疲れてマス。」

 

「そうだね。今日は休んでた方がいいよ。」

 

「じゃあ、今日は外の探索はしない方がいい、かな?」

 

「山門がいなかったらトラップがやべーもんな。」

 

「あ、でもトラップや外の様子は昨日と同じだったんだよね?」

 

「ええ。今日は昨日と代わりないようでしたよ。」

 

「え!?外に出たの?」

 

「タンドクコード危ないデスヨ!」

 

「昨日の天井トラップの辺りまでですよ。後はモノパッドを確認しただけですが、地形やトラップに変化はないようです。」

 

「あのトラップは1人じゃ向こうに通れないもんね…。無理したら即死だよ…。」

 

「トラップ同じナラ、ワタシ 今日も外 行きマス。」

 

「モノクマはホームの外に手掛かりはないと言っていましたが…。」

 

「モノクマのウソです。手掛かりナイと言ったら、手掛かりアリマス。地下に手掛かりアリマスと言ったら、手掛かりナイです。」

 

「僕も…ちゃんと外を見たいかな。トラップが昨日と同じなら、きちんと調べられるだろうし…。」

 

「お供するでゲス。」

 

「あ…あたしも、元気残ってるから行こうかな。」

 

「…私…も。」

 

「ダメ!ことは、すごい顔色悪いもん。また寝てないんでしょ?休んでてよ。」

 

「……うん。……ありがとう。」

 

「オレも今日は外 行く元気ねーや。天海はどーする?」

 

「悪いっすけど、俺もっすね。」

 

(彼がこちらをチラリと伺って言う。)

 

「あ…そうだよね。らんたろーも疲れてるもんね。勝手に頼りにしようと思ってたよ、ごめん。」

 

「いえ、こちらこそ。」

 

「だ、大丈夫だよ、祝里さん。トラップも分かっててモンスターもいなくなってるんだし。」

 

「もしモンスターが出たりしても…ローズさんの戦闘力とアイコさんの判断力、祝里さんの記憶力があれば…。」

 

「自信なさげに大丈夫なんて言われてもなー。で?哀染はどーすんの?」

 

(朝食前、玄関で約束したことを思い出す。「11時に部屋で」彼は、そう言ってたっけ。)

 

「ごめん。ぼくも もう少しここで調べたいことがあるから…。」

 

「何で謝りマスカ?自分が行きたいところ行く。休みたい時休む。コレがフツウです。」

 

「そうだね。ありがとう。」

 

(その後、朝食を終えて、みんな各自の自室に戻った。)

 

 

 

【ホーム 玄関】

 

(玄関ホールで立ち止まり、地下に続く階段とそれを捉えるカメラを確認する。)

 

(昨日は失敗したけど…鏡か何かで階段を完全に死角にできれば……。)

 

(そんなことを考えていた時、廊下から音がして目を向けた。)

 

「ローズさん。いる?」

 

(朝食の時、一際 顔色が悪かった彼女がフラフラと他の部屋に近付き、ノックしているところだった。)

 

(ドアが開き、部屋の主が現れた。2人はドアの前で何かを話していた。)

 

(やがて会話を終えたのか、小柄な体がこちらを向いた。その口元は緩んで笑っているようだった。)

 

(そして、目を丸くした。目が合って初めてこちらに気付いたようだ。その後、顔を真っ赤にしてーー)

 

「褒められて喜んでた、わけじゃないよ!」

 

(大声を出して自分の部屋に入ってしまった。)

 

「何デスか!?」

 

(彼女が訪問していた部屋の主も驚いて飛び出して来た。)

 

「ローズ、何でもないよ。」

 

「……アイゾメ、キノに何かしましたカ?」

 

「何もしてないよ!見てただけだけだよ!」

 

「見てたのがダメですね。女はフクザツです。」

 

(彼女が複雑なだけだと思う。)

 

「えっと、今、ローズが琴葉を褒めてた…のかな?」

 

「どうして分かりマシタカ!?アナタ “超高校級の探偵” カ!?」

 

「いや…琴葉、嬉しそうだったから。」

 

「ハイ。キノ、すごいデス。すごいクスリ作りマス。」

 

「そうなんだ。今度はどんな薬を作ったの?」

 

「まだ秘密デス!知りたい気持ちが値段を上げマス!明後日キヤガレです!」

 

(商魂たくましいな。)

 

(でも良かった。この様子なら、劇物や毒ではなさそうだ。)

 

「アイゾメは何しマシタか?」

 

「あ、ぼく?ぼくは地下に行く方法を考えてたんだ。」

 

「地下に本当に手掛かりアル、思いますか?」

 

「本当かは分からないけど…モノクマが地下を見せたくなさそうだからね。行く価値はあると思うよ。」

 

「ワタシはギャクです。地下に価値アル、思わせる商法です。ジャガイモの広め方と似てマス。」

 

「そっか…。」

 

(じゃがいも…はよく分からないけど…。)

 

「なぜ残念そう?意見違うカラ?」

 

「え?」

 

「この国の人、意見違うとカナシイです。でも意見違うのがフツウです。ダカラ家事分担デス!」

 

「ワタシ、外 探しマス。アイゾメ、地下に行きマス。初めてのキョードウサギョー。」

 

(若干言葉選びを間違えながら、彼女はニッと笑った。)

 

「そろそろワタシたち、行く時間デスね。」

 

「うん。ローズ、気を付けて行ってきてね。」

 

「ガッテンショウチノスケです!」

 

 

 

【ホーム 哀染の個室】

 

(小さくノックが聞こえた。時計を確認すると、11時を少し過ぎている。彼が来たようだ。)

 

「哀染君、入ってもいいっすか?」

 

「うん。どうぞ。」

 

(彼が笑顔で室内に入って来た。そして、彼は素早くドアを閉めて鍵を掛けた。)

 

「蘭太郎君?」

 

「……。」

 

(彼の笑顔が消える。)

 

(そして、彼がゆっくりした動作で取り出したのは、ナイフだった。)

 

(ナイフの先端はしっかりこちらに向いている。背筋が冷えた。体が緊張で強張る。)

 

「……。」

 

「あ…まみ、く…。」

 

(ジリジリと後ろに後退すれば、彼も一歩ずつこちらに進んで来た。)

 

(壁際まで追い詰められて、体がヒヤリとしたシャワールームの扉に触れた。後ろ手でドアノブを掴んでシャワールームへ逃げ込む。)

 

(しかし、こちらがドアを閉めるよりも彼は素早くシャワールームに滑り込んで来た。)

 

 

(なるべく声を落として、彼に語りかける。)

 

「どういう、つもり?……おもちゃのナイフなんて振りかざして。」

 

「あ。分かってたっすか。」

 

(彼も抑えた口調を返してきた。)

 

「驚かせたみたいで申し訳ないっすが、モノクマの邪魔をかいくぐって地下に行くためっす。」

 

「えっと、そんな方法があるの?」

 

死んだフリっすよ。」

 

「……え?クマだけに?」

 

「……。」

 

「……ごめん。でも、モノクマ相手に…死んだフリなんてできるかな?モノクマはこれまでの事件も全部 把握してたんだよ?」

 

「ええ。カメラで見てるみたいっすね。」

 

「それなら、カメラがない ここで死体を偽装して、死体を運ぶところをカメラで目撃させれば、騙せるかもしれないっす。」

 

「そんなのすぐバレちゃうんじゃ…。」

 

「そうっすね。捜査時間が始まる前にはバレるはずっす。でも、モノクマにもスキが生まれる。その間に地下に行けるならーー…」

 

「なるほど。」

 

「けど、これは賭けっす。成功する可能性も少ないし、失敗して何かしらのペナルティを受けるリスクもあるっす。」

 

(さっきモノクマが手にしていたレーザーガンが思い出される。あれが脅しでなく本当に使われたらーー…それでも。)

 

「やろう。蘭太郎君。」

 

「……思いの外あっさりっすね。」

 

「だって…もう演技は始まってるんだよね?カメラからはおもちゃだって分からないようなアングルでナイフ出してたし。」

 

「さすが、”超高校級のアイドル”っすね。そこまで分かってたんすか。」

 

「……一応、カメラアングルを考えるのも本業に関係するからね。」

 

「話が早くて助かるっす。それで、どちらが死体役になるかっすけど…。」

 

「え?それは、ぼくでしょ?蘭太郎君がナイフ持ってきたんだし。」

 

「いえ、俺が反撃されて殺されたっていう筋書きもありっす。」

 

「あ、そうか。でも、モノクマのスキをついて地下に入るのは、ぼくには荷が重いかな。適材適所なら、ぼくが死体役を演じた方がいいと思う。」

 

「適材適所…なるほど。じゃあ、死体役を頼んだっす。」

 

「うん。分かった。……蘭太郎君。」

 

「はい。」

 

「このコロシアイを終わらせよう。地下でここの秘密を暴いて…絶対、ここから脱出しよう。」

 

「もちろんっす。」

 

(彼は懐からケチャップを取り出した。血のり代わりだろう。)

 

(ケチャップを服にかける。少しリアリティに欠けるけど、監視カメラ越しなら十分だ。)

 

「それじゃあバスルームから出るっすよ。とりあえず、偽装工作で俺がキミの部屋から誰かの部屋に移したってことにするっすか。」

 

「うん。あ、でも他の人たちは?」

 

「外に探索へ出てる人はもちろん、山門さんは部屋にいないっす。木野さんはキッチン、永本君は部屋で休んでるみたいっすね。」

 

「…ぼくが驚いて大声を上げたらどうする気だったの?」

 

「キミは驚いた時、割と悲鳴を呑み込むタイプだとお見受けしたっすから。」

 

(…観察眼が恐ろしい。)

 

「じゃあ、とりあえず、ぼくは死んでるから…って変な言い回しだね。」

 

(緊張を誤魔化すように少し笑うと、彼も口の端を持ち上げて笑った。)

 

(この作戦が上手くいって…地下で大きな手掛かりを得られれば、ここから出られるかもしれない。)

 

(絶対に、みんなと外に出るんだ。)

 

「それじゃ…引きずって出すっすよ。」

 

「重いだろうけど、よろしくね。」

 

「いや、思ってたよりずっと軽いっすね。」

 

(バスルームから引きずられる形で部屋に出た。目を閉じて暗い視界の中、自分の身体が床に擦れる音だけが聞こえる。)

 

(ふと、ズルズルという音の中に何かが混じって聞こえた。歌だ。反響する音楽が部屋の中に入ってーーそこで意識がなくなった。)

 

…………

……

 

『死体が発見されました。オマエラ、指定の場所に集まってください!』

 

(大きな音に意識が戻される。いつの間に寝てしまったんだろう。)

 

(今、アナウンスがあった?じゃあ、死体役は上手くいってるんだ。)

 

「哀染君、起きてください。」

 

「……?」

 

(かすれた声が聞こえた。目を開けずに考えた。なぜ彼はまだここにいるのだろう。地下に行かなかったのか。と。)

 

この作戦は失敗っす。」

 

(言われて、目を開けた。部屋の中央で寝そべっていた体を起こす。)

 

「失敗…って?だって今、死体発見アナウンスがーー」

 

(言いかけて、辺りを見回す。そこには自分たち2人以外、誰もいなかった。)

 

(誰も死体を見ていなければ、発見アナウンスは鳴らない…じゃあ…。)

 

(思い至って、はね起きる。反射的に見た時計は12時を指していた。)

 

「とにかく、指定の場所に急ぎましょう。本当に、死体が発見されたみたいっすから。」

 

(冷静な声に頭を殴られたような気分だった。)

 

(まさか、また…?一体、誰が…?)

 

 

 

【ホーム 玄関】

 

(前を行く彼の背中を追う。と、玄関ホールで倒れている人影を見つけた。)

 

(その人物はお気に入りのヘッドホンを中途半端に付けた状態だ。)

 

「永本君!」

 

「ん…?」

 

(2人で走り寄って彼を揺さぶれば、彼はゆっくり目を開けた。)

 

(良かった。生きてる。)

 

「あ!?オレ、寝ちまったのか!?」

 

(彼は寝ぼけたような目をこすり、辺りを見回した。その視線は玄関ホールの隅に注がれていた。)

 

(玄関ホールの隅に置かれた、彼のカセットレコーダーだ。)

 

「2人とも、とにかく現場に急ぐっす!」

 

「現場?現場って何だよ?あ!?ていうか哀染 血塗れじゃねーか!?」

 

「大丈夫、ケチャップだよ。それより、死体発見アナウンスが流れたんだよ。」

 

「はああ?!死体発見!?」

 

(彼が困惑の表情を浮かべる。それはそうだ。)

 

「とにかく早くーー」

 

(走り出そうとした時、キッチンの方からパタパタと足音が聞こえ、リビングの扉が開いた。)

 

「死体発見アナウンスってーー哀染さん…何でケチャップ塗れなの?」

 

「……死んだのは…哀染さん…?」

 

「いや、死んでないから!アナウンスは別のものだよ。」

 

「アナウンス、永本君と木野さんは聞こえなかったんすか?」

 

「あ、ああ…。熟睡してた。」

 

「発見アナウンスの音で起きたんだけど…ちゃんと聞いてなかった…。」

 

「い、一体 誰がーー」

 

「考えるのは後っすね。」

 

「現場へ行こう。」

 

(4人で開け放されたままの玄関扉を出て、アナウンスの場所を目指した。)

 

 

 

【いせき 落ちる天井前】

 

(ホームから狭い通路を走り抜ける。昨日通り抜けたトラップの前に、4人がいた。)

 

(ーーいや、外に探索に出ていた3人と……死体となった1人だ。)

 

(トラップの前で仰向けに四肢を投げ出して、血で口元を汚して。)

 

(変な方向に捻じ曲がった彼女の首を見れば、遠目にも彼女が既に死んでいるのは分かった。)

 

(いつもの柔らかい雰囲気からかけ離れた彼女の姿。つい数時間前まで笑顔を見せていたのに。)

 

(歪に曲がった首の上で、山門 撫子の閉じられた瞳が、こちらを見つめているかのように感じた。)

 

 

 

学級裁判編へ続く

 

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