第四章 Either killed her. 非日常編
「いやー、やっぱり殺人が起こってしまいましたなー!」
(死体の目の前でモノクマが明るい声で言った。そして、毎回お決まりとなったモノクマファイルを配る。)
「あれ?また いない人がいるね?」
(その言葉に全員に緊張が走る。が、モノクマは気にすることなく続けた。)
「はい、天海クン。これ、遅刻の人に渡してね!」
「……ここにいない彼女は生きてるってことっすね?」
「うぷぷぷ、どうかな?心配なら探してみることだね!」
「ま、とにかく、ボクはこれからスーパー忙しいタイムに入るからね!むやみに地下に行こうとしないこと!」
「地下に行くなら計画的に!捜査を疎かにしたら、待ってるのは…分かるよね?」
(モノクマは「あー忙しい忙しい」と棒読みで言いながら消えた。)
(集まっているのは7人。今ここにいないのはーー)
「ローズ、どこ行っちゃったんだろ…。」
「ローズさん…いないの?」
(みんなが、キョロキョロと辺りを見回す。けれど、鮮やかな赤いチャイナ服は見当たらない。)
「みんなと外の探索してたんじゃなかったの?」
「それが途中で はぐれちゃったんだよね。」
「ホームにいた人たちもローズのこと見てないの?」
「見てねーな…。」
「一本道なのに…ゆ、夕神音さんの時みたいに、なってないよね…?」
「モノクマファイルを渡してきたってことは生きてるはずっすよ。」
「じゃあ、どうしてアナウンスで来ないんだろ。もしかして…ローズが犯人だから隠れてる…とか?」
「えっ、そ、そんな…。彼女は山門さんと仲良かったし…。」
「隠れてても怪しまれるだけっすよ。」
「あ、そっかぁ☆じゃ、きっと死んだ山門ちゃんの分まで地下の秘密を探しに行ってるのかもね☆」
「確かに…地下の秘密を探しに行った可能性はあるね…。」
「オレ、地下見て来る。」
(言うやいなや、彼はホームの方へ走り出した。)
「え!?1人で行くの?あ、あたしも行くよ!」
「そうだぜ!モノクマのワナがあっかもしんねーだろ!?」
(何人かが彼の後に続こうとしたところを、彼は振り返って制した。)
「お前らは第一発見者だろ。それに木野と哀染、天海は調査に向いてんだから、オレが行くべきだ。」
「ひ、1人じゃ危険かもしれないよ…?」
「オレは大丈夫だよ。たぶん。分かってるだろ?」
「…そうだね。うん、捜査が不十分だと…大変なことになるもんね…。」
「……気を付けて。」
(…何だろう?あっさり引き下がった?)
(地下にはこの世界の秘密が隠されてる。そうモノクマは言った。)
(それが本当なら…地下に行かなきゃいけない。けど…。)
(もう1度、被害者を見る。彼女の死についても、きちんと捜査しなければならない。)
「哀染君。気持ちは分かるっす。けど、優先順位が変わってしまったんすよ。」
「……そうだね。」
「地下はとりあえず、永本君に任せましょう。」
「……うん。」
「まずはモノクマファイルを確認しましょう。」
「そうだね。」
(被害者は”超高校級の翻訳家” 山門 撫子。死体発見現場は遺跡内 天井トラップ前。)
(死亡推定時刻は午前11時15分頃。死因は首の骨が折れたことによるショック死。頚椎骨折により即死。)
(首の骨が折れるなんてこと…そんな簡単に起こるのかな。)
コトダマゲット!【モノクマファイル】
(死体の方を見ると、相変わらず彼女の首の歪さが痛々しく目に映った。)
(優しく穏やかな彼女をこんな目に合わせた人がいる。信じられないけれど…真実を見つけなきゃ…。)
(そのために、まずはーー)
「まずは遺体を調べましょう。」
(死体に近付く。首がねじ曲がっている割に、彼女の目は閉じられて安らかな表情だ。)
(口元と手のひらは血で汚れているが、その他は彼女らしく清潔感のある姿のままだ。)
(即死なら…苦しむことは少なかったはずだよね。)
「首に跡があるっすね。」
「跡?…本当だ。」
(彼女の首には手の跡のようなものがある。)
「指の跡にも見えるけど…指にしては太いよね?」
「そうっすね。こんな太い指の人間はここにはいねーっすから。」
コトダマゲット!【死体の首の跡】
「山門さんの持ち物は…モノパッドとーー」
「どうしたの?」
「こんなものが内ポケットに入ってたっす。」
(彼が見せたのは、見覚えのある上質な紙だった。)
「これ、前のステージで報告書や手紙に使われてた紙だよね。」
「はい。Fチームの…”大富豪の家”にいた人たちが使ってた紙っすね。」
(話しながら彼が3つ折りにされた紙を開く。そこに書かれていたのはーー)
「これは…遺書…のように見えるっすね。」
「え!?」
(紙を覗き込むと、几帳面な字が並んでいた。どこかで見覚えのある字だ。)
(『これはわたしの自殺です。みなさん、申し訳ありません。何卒お元気で。絶対、みなさんで脱出してくださいね。』)
「え?えっと…これは自殺ってこと?」
「その可能性もあるっすね。もちろん、犯人が偽造した可能性も高いっす。」
(そうだ…死体の状況から、自殺とは思えない。それに、彼女の言葉にしては…説明が足りない気がする。)
(じゃあ…この遺書は犯人の偽造…?それなら、なぜ犯人は死体を自殺に見せなかったんだろう…?)
「いずれにしても、重要な証拠っすね。」
コトダマゲット!【山門の遺書】
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(周囲の様子も見ておこう。)
(死体が横たわっているのは、天井が落ちてくるトラップの目の前だ。)
「このトラップは、片側でボタンを押し続けないと天井が落ちてくるものだったっすね。」
「そうだったね。この通路も3mはあるから、通り抜けるには2人以上必要だったんだよね。」
コトダマゲット!【天井のトラップ】
(通路の始まりの壁にボタンがある。ボタンの真上にはトラップである落ちてくる天井が獲物を待っているようだった。)
(改めて、トラップのボタンを見るとーー)
「…血が付いてるよ。」
「血?」
「撫子の血…かな?」
「つまり…このボタンは血が流れた後に押されたってことになるっすね。」
「犯行後に誰かがボタンを押したってこと?」
コトダマゲット!【トラップのボタン】
(ボタンとは離れたところに、このトラップの注意書きがある。被害者が昨日読んでくれたものだ。)
「エスペラント語の説明だったっすね。ん?」
「どうしたの?」
「説明書きの下に時間が2つ書いてあるっす。」
「本当だ。これ、何だろうね?」
(読めない文字列の下に13:20と、さらにその下に11:15の数字。これは時間なのかな?)
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「首の跡に遺書…現場を調べるほどよく分からなくなってきたっす。」
「う、うん。」
「犯人が遺書を偽造したなら死体をもっと自殺らしくするはずっす。でも、山門さんの自殺にしては説明できないことが多いっす。」
「撫子の死因…首が折れたっていうのもよく分からないよね。」
「他殺でも自殺でも、人の力で首の骨を折るなんてことできないはずだよね。」
「そうっすね。ただ、トラップを使った仕掛けで人の力以上の力を使うことは不可能じゃないっす。」
「え?」
「例えば、この天井のトラップが、何かワイヤーみたいなもので吊るされてボタンと連動して制御されているなら…。」
「天井が落ちると同時に、ボタンに繋がるワイヤーは引っ張られ、上への力が働いた…なんてこともあるかもしれねーっすね。」
「そのワイヤーにロープか何かを固定して首を吊る場合、威力が大きすぎて首の骨が折れることもあるかもしれないっす。」
「でも、見たところそんな装置はないけど…。」
「そうっすね。犯人も使うことはできないっす。」
(じゃあ何だったんだろう、この時間。)
「それじゃあさ…遺跡のモンスターが犯人ってことは ないかな?」
「ほら、人の力では無理だけど、モンスターの力ならできるのかも…。」
「……モノクマは、『やっぱり殺人が起こった』と言ったっすよ。」
「あ、そっか…。やっぱり人による犯行なのかな。」
「……俺はそう思うっす。ここのモンスターは積極的に こちらに襲いかかってくるようなものじゃなかったっすから。」
(そうだ。それに、昨日の時点でモンスターの気配はほとんどなかったんだっけ。)
「それに賛成だ!」
「!?」
「突然 現れないでよ!」
「え?今回はホーム側から歩いて来たんだけどな?キミが見てなかっただけだよ!」
「向こうで ちょーっと永本クンとお話してたからさ!その足でオマエラに適切な証拠を提供してあげようと思ってね。」
「適切な証拠?」
「そうだよ!ボクは事件が起こると大忙しなクマだからね!」
「それで、証拠って何なの?」
「遺跡のモンスターは、ホーム側に来ることはできないよ。もっと言うと、このトラップに近付くこともできません。」
「だって、ただのモンスターがトラップを解除してホーム側に行くことなんて できないからね。」
「モンスターがトラップにかかって潰れちゃったら可哀想だし、このトラップよりホーム反対側にしか現れないように設定したんだよ。」
「……それは本当っすか?」
「ボクがこれまで嘘ついたことはないでしょ!オマエラと違って、ボクは清廉潔白で正直者なのです。オマエラと違って。」
「大事なことなので、2度言いました。」
「……。」
「それに、ここのモンスターたちは大人しいからね。オマエラに見つかって惨殺されるだけの存在だったんだよ。」
「オマエラが初日に殺しまくったせいで、怯えて出て来ることもなくなったでしょ?可哀想に。」
(そうさせたのはモノクマのくせに…。)
コトダマゲット!【遺跡のモンスター】
「ついでに聞きたいことがあるっす。」
「えー?またぁ?キミってテストの時に答えを先生に聞いちゃうタイプ?」
「ゲームの攻略本すぐ見ちゃうタイプでしょ?それじゃあ普通のゲームならまだしも、時間制限ありの脱出ゲームとかゲームオーバー待った無しだよね。」
「この注意書き下の時間みたいなのはなんすか?」
(彼はモノクマの言葉を無視して壁を指差す。さっき見つけた13:20と11:15の数字だ。)
「……うん、いいよ。教えてあげよう。それは、天井のトラップ作動時間さ。」
「作動時間?」
「そう!天井がいつ落ちてきたか記録したものだね!」
「ちなみに、無学なオマエラに教えてあげると、昨日の13:20と今日の11:15を示してるよ。」
「……昨日の13:20と今日の11:15にトラップが作動したってこと?」
「うぷぷ、ここから先は自分たちで考えるんだね!ボクはそろそろ向こうを見てこないとだから失礼するよ。」
(モノクマはホーム側へ体を向け、ゆっくりした動作で歩き出した。)
「昨日みんなでここを通ろうとしたのは確かに13時20分頃っすね。」
「そうだね。1度作動して天井が落ちてきたね。」
「今日の11時15分にもこのトラップは作動してるってことっすね。」
(11時15分。モノパッドにある死亡推定時刻と同じだ…。彼女の死と何か関係があるのかな。)
コトダマゲット!【天井のトラップ作動時間】
「後は…第一発見者の人たちの話も聞いておきたいっすね。」
(彼はそう言ってトラップの通路の向こう側を見た。その先に、小柄な黒い背中と大柄な黒い背中が並んでいる。)
「アイコ、ここみ君。話を聞かせてもらえるかな?」
(離れた彼らに届くように少し大きめの声を放てば、通路に音が大きく反響した。)
(向こう側でボタンを押してもらい通路を通り、彼らの近くに寄る。)
「おうおう、哀染に天海!オイラたちの話が必要かい?」
「はい。人数も少ないっす。情報を共有しときましょう。」
「うん、そうだね…。」
(こちらで見つけたこと、モノクマに言われたことを共有した。)
「それで、キミたちが第一発見者っすね。」
「せやで〜。第一発見者はオレと佐藤と祝里。外の探索から戻ったらあの通路の天井が落っこちとって通れんくなってたんや。」
「ホーム反対側からトラップを解除したら…ホーム側に山門さんが倒れてて…。」
「死体を発見したのは、アナウンスが鳴った12時くらいなんだよね?」
「うん…。時計がなかったから正確じゃないけど…多分、そのくらいだよ。」
「外の探索の割には、戻って来るのが早かったんすね。」
「あーそうそう。途中でローズとはぐれちまってよー。探しながら戻ったら死体発見したんだわ。」
「さっきも言ってたね。はぐれたって言うのは…?」
「うん…あの、最初の花畑までみんなで向かってたんだけど、急にローズさんが…モンスターがいたってホーム側へ走り出して…。」
「僕らも戻りながら彼女を探してたんだけど…見つからなかったんだ。ど、どこに行ったんだろうね…ほぼ一本道なのに…。」
「誰も見てないってことは、やっぱり地下かもしれないっすね。」
「モノクマの動機のせいで調べる所が無駄に多くなってるー!あ、もし捜査を撹乱するためのワナだったら どーする!?」
「そ…それは、あるかもしれないけど…。」
「…できることを するだけっすよ。」
「個室はまだ調べてないから、後でローズの個室も念のため見ておくよ。」
「そうね。哀染くん、あなたケチャップ臭いから着替えてきたほうがいいわよ。」
「……そうするよ。」
「そろそろ移動するっすか。後のことは、アイコさんと佐藤君に任せましょう。」
「そうだね。」
【ホーム 玄関】
(ホームに戻って来た。玄関はさっき慌てて出て来た時と変わりない。)
(開け放されたドア。ガランとしたホールにカセットレコーダーがポツンと置かれているのもそのままだ。)
「このカセットレコーダー、アナウンスがあった時もここに落ちてたね。」
「永本君のっすね。」
(前回の裁判でも話に出た。歌姫の歌を録音したカセットレコーダーだ。)
(このレコーダーの持ち主は、ヘッドホンをしたまま ここで倒れていた。恐らく、眠っていたのだろう。)
コトダマゲット!【カセットレコーダー】
「ぼくは1度服を着替えてこようかな。アイコの言った通りケチャップ臭いし。」
「そうっすね。俺はキミの部屋のケチャップをキッチンに戻しておくっす。」
(部屋に入り、シャワールームに転がるほとんど空のケチャップ容器を彼に手渡す。彼はそれを手にするとすぐにキッチンの方へ歩いて行った。)
(シャワールームで手を洗い、手早く服を着替える。部屋の外に出ると、彼は既に扉の前で待っていた。)
「蘭太郎君、お待たせ。」
「いいえ。とりあえず、山門さんの筆跡が分かるものがないか見ておきたいっすね。」
「撫子の部屋に字が分かるものが あるかもしれないよね。それに、ローズも部屋にいるかもしれない。」
(…そういえば、まだ彼と話せてなかったこともある…。)
(死体を演じている間、死体発見アナウンスまでに何があったのか、聞いてなかった。)
「蘭太郎君、ぼく死体役になってる間、寝ちゃってたんだけど…。」
「ああ、そういえば、バタバタしててそのことを話せてなかったっすね。」
「死体役で引きずられてる間に、何があったの?」
「それが、俺にも分からねーんすよ。キミと同じっすから。」
「え。」
「俺も、キミを引きずっているとき、急に眠くなったっす。」
「そして、目が覚めたのは…12時の発見アナウンスの時だったっす。」
「じゃあ、ぼくらの作戦は始まってもいなかったんだね…。」
「……面目ないっす。」
「いや、蘭太郎君のせいじゃないよ。確か…歌が遠くから聞こえてたと思うけど…。」
「ええ。作戦のために時間を確認してたっすから、あれは11時15分頃っすね。」
(歌を聞いて気絶するように意識を失うのは…初めてじゃない。)
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【ホーム ローズの部屋】
(部屋の前に立ち、ドアを軽くノックする。中からは物音ひとつしない。)
「ここにはいないみたいっすね。リビングやキッチンにもいないっす。」
(……やっぱり、地下にいるのかな。)
△back
【ホーム 山門の部屋】
「あ、レイにらんたろー。」
「……2人も、来たんだね。」
(個室は鍵が掛かっていなかった。ドアを開けると、中にいた2人がこちらを見た。)
「栞、琴葉。2人が鍵を開けたの?」
「ううん。元から開いてたよ。なでしこ、鍵を部屋に置きっぱなしにしてたみたい。」
「鍵…掛け忘れたのかも…。」
「木野さんはルミノール、ここにも持ってきてたんすね。」
「うん…。でも、事件に関係ありそうな血痕は…ない。」
(彼女の手には、前回の裁判前にも使われたルミノール試薬のスプレーが握られている。)
「事件に関係ありそうな血痕は?他のものはあるってことっすか?」
「…あるにはある…けど。」
「わ、ちょ、ちょっと琴葉!」
「……。」
(何だろう、この反応。)
「…けど、事件に関係ないよ。たぶん…日常的なもの。」
「……あ。」
「……え?なんすか?」
「……。」
「……?」
「…蘭太郎君、妹いるんだよね?」
「そうっすけど…。」
「……トイレとバスルーム…あと枕元に血痕が付着した跡があるよ…。でも、すぐに洗ったみたい。」
「……。」
(ようやく気が付いたのか、彼は心底 居心地が悪そうな顔を見せた。)
(……あれ?枕元…?)
コトダマゲット!【山門の部屋の様子】
「…とりあえず、彼女の筆跡が分かりそうなものを探しましょう。」
(彼が部屋に備えられた机の引き出しを開ける。)
「ぼくはゴミ箱を見ておくよ。」
(ゴミ箱には何も入っていなかった。赤黒いシミのあるハンカチ以外は。)
(このシミは…血?)
(枕元の血に、ハンカチのシミ。彼女は…もしかしてーー)
コトダマゲット!【血の付いたハンカチ】
「机に彼女の筆跡が分かるものはなかったっすね。」
「ゴミ箱にもなかったよ。」
「……どうして筆跡なんて知りたいの?」
「遺書らしきものが見つかったんすよ。」
「え!?あれって…なでしこの自殺なの?」
「まだ断定はできないっすけど。」
「なでしこ…。」
(彼女は目に涙を浮かべて俯いてしまった。)
「…あの、哀染さん。」
「どうしたの?」
(小声で語りかけられて、そちらに目を向ける。)
「私…11時前に山門さんを見たんだ。」
「え?」
「キッチンに行こうと思ったら…永本さんの部屋がちょうど閉まるところで…。」
「閉まるドアからパンツスーツが見えたから…あれは…山門さん。」
「えっと、圭君と撫子が会ってたってこと?」
「……うん。でも…永本さんは犯人じゃない…と思う。」
(それなら、どうして小声なんだろう?)
コトダマゲット!【木野の証言】
「どうしたの?2人して内緒話?」
「……ううん。何でもないよ。」
「……蘭太郎君、行こうか。」
「はい。祝里さん、木野さん。ここの調査、後は任せてもいいっすか?」
「……うん。」
「任せて!」
△back
「だいたい調べられた…のかな?」
「ええ。犯行について想像も付いてないっすけどね。」
(……そんなことを言うのは珍しいな。)
「情報は集められたし、後はみんなに任せて地下を調べてもいいかもしれないっすね。」
「そうだね。急ごう。」
(2人で階段を降りようとした時だった。)
『時間になりました!オマエラ、”いせきのいりぐち”に集まってください!』
(時間を知らせるアナウンスがモニターから流れた。)
「どうやら、タイムアップみたいっすね。」
「……。」
「哀染君、行きましょう。”いせきのいりぐち”は、このステージのスタート地点近くっす。」
「そうだね。」
(途中 何人かと合流しながら、遺跡の入り口へ向かう。)
(トラップは昨日と変わりなかったため、難なくその場所に辿り着いた。)
【いせきのいりぐち】
(そこで待っていたのは、昨日はなかった赤い扉と、その先に続く下り階段だった。)
「こんなの…昨日は なかった…よね。」
「気にすんな。こんな不思議、もう慣れっこだぜ。」
(そうしてみんなが下り階段を見つめていると、)
「お待たせシマシタ!」
「はは、悪りぃな。」
(2人が、あまり良くない顔色で走って来た。)
「けい、良かった。ローズも。今までどこ行ってたの?」
「遅れてスミマセン。」
「ローズも地下にいたんだよ。」
「え…やっぱりそうだったの?ローズさん。」
「大丈夫デス!裁判、シンパイない!」
(彼女がニカッと笑ってVサインを作る。彼女の手は指先まで真っ白で、血色が悪そうだ。)
「…ローズさん、いつから地下にいたの?」
「裁判、ショウソです!」
「え?何か急に日本語能力下がってない?」
「フアンですか?大丈夫デス。アナタ何もシンパイない。」
「……永本君、地下には何があったんすか?」
「……ダメだったよ。」
「地下の廊下の先に扉があってさ…扉を開けるために色々見てたんだけど…さ。」
「ようやく扉が開いたところで、モノクマに時間だからって邪魔されたんだ。」
「結局…見つけたのはこんな紙切れ1枚だった。」
(彼が差し出した破られた紙。何とか読み取れるその文は…。)
「『1章時点のヒロインは退場しなければならない。』?……何すか、これ。」
「俺が知るかよ…。くそっ…何のために…山門は…。何のために…俺は…。」
(ひどく青い顔色で苦々しく呟く彼。明らかに様子がおかしい。)
「とりあえず…進もうか。」
(みんなが階段を降りて行く。それに続く。が、ふいに緑がかった瞳がこちらを向いた。)
「哀染君、今回の事件…山門さんの死の状況すらよく分かってねーっす。正直、俺1人では真実は見つけられないはずっす。」
「……。」
「珍しいね。」
「え?」
「蘭太郎君がそういう風に言うの、珍しいと思ったんだ。」
「いや、今までもーー。頭では思ってたっすよ。」
「そうだったんだ。」
(彼は一瞬 思案顔を見せた後、決まり悪そうに笑った。)
「長男の性っすかね?今までは…言えなかったのかもしれないっす。」
「……。」
「不安にさせるようなこと言って申し訳ないっす。」
「いや、謝ることないよ。ぼくも不安だけど…みんなで、真実を見つけよう。」
「そうっすね。頼りにしてるっす。」
「ありがとう。……でも、ぼくが間違ったら否定してね。」
(彼は静かに頷いて、また地下に続く道へ向き直った。)
(地下の階段を進めば、やはりエレベーターホールが現れた。全員でエレベーターに乗ると、いつも通りエレベーターは下降を始めた。)
(どうして、また殺人が起こってしまったんだろう。)
(人当たりが良く、穏やかな被害者を殺した犯人。)
(この中に、そんな悪意を持った人がいるのだろうか。)
(何にしても、みんなで真実を見つけ出さなきゃいけない。)
(みんなのために。被害者のために。そして…あの人のために。)
(闘わなきゃ…。)
(この命が懸かった学級裁判で…!)
コトダマリスト
被害者は”超高校級の翻訳家” 山門 撫子。死体発見現場は遺跡内 天井トラップの前。死亡推定時刻は午前11時15分頃。死因は首の骨が折れたことによるショック死。頚椎骨折により即死。
死体の首には首を絞められたような跡がある。跡は太い指のようにも見える。
ボタンを長押ししていないと通路の天井が落ちてくる。トラップの説明書きはエスペラント語。通路の長さは約3m。
天井のトラップを作動させないためのボタン。長押しすることでトラップ作動を回避する。通路のホーム側と反対側の壁に1つずつ設置されている。ホーム側のボタンには血が付着している。
トラップの注意書きの下に書き足された作動時間を示す時刻。天井トラップが落ちたのは、昨日の13:20と、今日11:15の2回。
山門が持っていた遺書。見覚えある筆跡で『これはわたしの自殺です』と書かれている。前のステージの”大富豪の家”にあった紙が使われている。
山門の部屋には事件に関する血痕はない。枕元やバスルームなどには血が流れた痕跡がある。その他、変わったところはない。
山門の部屋のゴミ箱に入っていた。
遺跡内のモンスターは大人しくて臆病。トラップに近寄れないため、ホーム側に行くことはない。
ホームの玄関ホールに落ちていた永本のカセットレコーダー。夕神音の歌が入っている。
学級裁判編に続く