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第五章 047は二度死ぬ(非)日常編Ⅱ

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

「天海君は、もっと人を頼っていいと思うけどなあ。」

 

「わたしがやってることも、意外とチームワークが必要な時もあるんだよね。」

 

「衣装は任せるからアクセサリーと小道具はわたしが!みたいな。」

 

「…頼られるって意外と嬉しいものだよ。」

 

「妹さんのことも…誰かに頼ってみるのもいいと思うよ。」

 

…………

……

 

(大事な記憶を夢で見た気がする。けれど、内容は思い出せない。)

 

(しばらく ぼんやりと天井を眺めていたが、思考は働いてくれなかった。)

 

(身支度を整えて、部屋を出た。まっすぐ食堂へ向かい、食堂への扉を開ける。)

 

 

 

【食堂】

 

「おう天海!」

 

「おはよう。」

 

「…おはよう。」

 

「いつもより遅かったね。」

 

「おはようっす。…哀染君と永本君は?」

 

「まだ見てないよ。」

 

「あ、あたし!見て来る!」

 

「……私も、行く。」

 

(女性陣がいち早く立ち上がり、食堂から出て行った。)

 

「腹でも下してんのか?」

 

「それだけならいいけどね。」

 

(食堂に3人だけの空間は、もの悲しい気持ちにさせられた。最初のステージではあんなに賑やかだったのに、と。)

 

 

(そんなことを考えているうちに祝里さんたちが戻って来た。)

 

「2人とも今日は部屋にいるって。」

 

「永本さんも哀染さんも…体調が悪いって…。」

 

「哀染さん、昨日ひどい顔色だったもんね。」

 

「永本は普通に見えたけど…やっぱ色々参ってんのかね。」

 

「2人とも…寝てれば治るって…言ってた。」

 

「風邪か寝不足ってところか?」

 

「……なでしこも病気だったんだよね?」

 

「……。」

 

「え、え、まさか?伝染るんです??」

 

「それはーー」

 

「それはないよ。」

 

「病気で死期を悟るなんて、明らかに末期だ。伝染するような病気なら、もうとっくに伝染ってる。」

 

「それに、もし伝染病なら彼女は僕らの前に出ないようにするはずだよ。山門さんなら、そうでしょ?」

 

「おーそれなら安心だぜ!」

 

「……。」

 

「オラぁ高性能だし、人間の伝染病なんか伝染んねーけどな!…って、自分でツッコミさすな!虚しい!」

 

「そ、そうだよね…。ごめん。不安を煽るようなこと言って。」

 

「謝る必要ないよ。」

 

(佐藤君が困ったように笑う。)

 

(人数が減ってさらに静かな朝食会を終え、俺たちは解散した。)

 

(さて…どうするかな。)

 

 

 宿舎の様子を見に行こう

 校舎5階に行こう

 格納庫へ行こう

全部見たな

 

 

 

 

【宿舎 個室前】

 

(哀染君と永本君の様子が気になるな。)

 

(哀染君の個室は俺の部屋の隣だ。ノックすると、扉越しに彼が近付いて来る気配がした。)

 

「……誰かな。」

 

「俺っす。哀染君、大丈夫っすか?」

 

「……大丈夫だよ。」

 

「体調が悪いなら何か食べた方がいいっすよ。食堂から持って来ましょうか?」

 

「ありがとう。でも、食欲がないんだ。」

 

(彼の声には覇気がない。が、拒絶の色がはっきり現れていた。)

 

「ごめん…今はちょっと1人にしてくれるかな?」

 

「……分かりました。」

 

(階段を上がって永本君の部屋の前に来た。ノックをしたが、返事はなかった。)

 

(人がいる気配はあるが…寝ているんだろうか?)

 

 

back

 

 

 

(もう1度 校舎5階を見ておくか。)

 

 

 

【校舎5階 廊下】

 

「あ…。」

 

「祝里さん。何か気になるものでもあったっすか?」

 

「ううん。昨日は調査に集中できなかったから、もう1度 見ようと思って…。」

 

(昨日 永本君に怒鳴られてたからか。)

 

「考えるって…難しいね…。」

 

「え?」

 

「頑張って考えるとね…嫌な考えや心配事ばっかり頭に浮かんじゃって。」

 

「頑張って考えたことを相手に伝えても…間違ってばかりで。」

 

「今朝のことっすか?」

 

「……うん、ほんとごめん。雰囲気悪くなっちゃったよね。」

 

「俺は、キミの発言は必要なことだったと思うっす。」

 

「え?」

 

「キミが言ったから佐藤君は伝染病について否定できた。それでみんな安心できたんすよ。」

 

「考えはあっても口にしなかった人もいると思うっすから。」

 

「でも…けいにもほっとけって怒られちゃったし…。」

 

「やっぱり、昨日のはそういうことだったんすね。」

 

「あ…人に頼らないようにって思ってたのに…また余計なこと言っちゃったよ。」

 

(祝里さんが顔に手を当てて沈んだ声を出した。)

 

「人を頼るのは悪いことじゃないはずっすよ。」

 

「でも、あたしの人生 人に頼りっぱなしだったんだよ?」

 

「それでも、自分で考えぬいて人に頼るべきだと結論が出たなら、誰かに頼ってみるのもいいと俺は思うっす。」

 

(ーーいや、俺じゃない。)

 

(人に頼ることを教えてくれたのは…)

 

「白銀さんにそう教えてもらって…哀染君に思い出させてもらった考え方っすけどね。」

 

「レイと…つむぎに?」

 

(彼女は「そっか」と呟いた後、少し笑った。)

 

「らんたろー、ありがとう。」

 

(そして走り出した。顔に少し明るさを取り戻したようだった。)

 

 

 

【ノスタルジックな部屋】

 

(その部屋は昨日と同じく、クラシックな雰囲気を醸し出していた。そして、昨日と同じく木野さんがいた。)

 

「木野さん。今日も来てたんすね。」

 

「…うん。」

 

「ここは、私のための部屋なのかなと思って…。」

 

「キミのための部屋っすか?」

 

「旅人の部屋は天海さん。スタジオは哀染さん。宿舎の近くにアイコさんやローズさんのため…みたいな建物もあった…。」

 

(なるほど。確かにそうも考えられるが、明らかに腑に落ちない点がある。)

 

「ここは…私みたいな…悪い化学者の部屋なんだよ。」

 

「木野さん?」

 

「毒を作って…犯罪に加担して……。」

 

「木野さん。それはおかしいっすよ。」

 

「……。」

 

「確かに俺たちの才能に合わせたような部屋があるっすけど、中を見たのはこの階の3部屋だけっす。」

 

「それに、化学者のための部屋というには、実験器具が少なすぎるっすよ。」

 

「何より、あの大量の犯罪ファイルはキミの才能に合わせているようには思えないっす。」

 

「ファイルには毒以外の殺害法やトリックも書かれていたっすよね?」

 

「……。」

 

「……そう…だね。ごめんなさい。」

 

「謝らないでください。俺の考えを話しただけっすよ。」

 

「うん。」

 

「これも俺の考えっすけど…誰もキミを悪い化学者なんて思ってないっす。」

 

「……。」

 

「それに俺は、化学者よりも…ここが似合う人物を知ってるんすよ。」

 

「……そう。」

 

(俺が笑って見せると、彼女は少しだけ表情を和らげた。)

 

(そうだ。彼女よりも、よほどこの部屋が似合う肩書きを持ったクラスメイトがいる。)

 

(彼がもしこのコロシアイの場にいたら、脱出の手掛かりを見つけてコロシアイを止めることができるのだろうか。)

 

(一緒に妹を探すと約束してくれた彼の顔を思い浮かべる。)

 

(ーー妹を探すと約束して、その後 妹を探しに出たのか。そんな記憶も残っていないのはなぜだ?)

 

(何にせよ、彼が俺や白銀さんがいなくなったことに気付けば、きっと調査に乗り出すはずだ。)

 

(彼ならきっと、ここにたどり着く。それまで、俺は中から脱出の糸口を掴むんだ。)

 

(彼に妹のことを依頼するきっかけを作ってくれた、彼女のためにも。)

 

「もう…行くね。………ありがとう。」

 

 

(木野さんが部屋を出た後、俺は犯罪ファイルの最初の1冊を手に取った。)

 

(昨日は流し読みしただけだったが…しっかり読んでみないとな…。)

 

(1冊目のファイルは昨日 読んだものと違い、写真ではなくイラストで5つの事件を記載していた。)

 

(1つ目は、刺殺。2つ目は、撲殺。3つ目は、4つ目は、5つ目はーー)

 

(犯人の動機も書かれている。人間関係…思い出…欲望…裏切り…。)

 

(他のファイルも開く。動機の欄で最も多いのは『外に出たかった』という文字だ。)

 

(これは…どういうことだ?外に出ることが動機。それは、俺たちの…このコロシアイの状況と同じだ。)

 

(まさか、このコロシアイは前にも起こっていた…?)

 

(さらに、1冊目のファイルにはこんなことも書いてあった。)

 

(黒幕は、1つ目の事件前に死んだと思われたA。Aは死体を使って5回目の事件を偽装した…。)

 

(……。)

 

(このファイルが過去のコロシアイのものだとしたらーー)

 

(考えたくない可能性が湧き上がってきて、慌てて頭を振った。)

 

 

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(格納庫も もう1度 見ておくか。)

 

 

 

【格納庫】

 

(サイバーパンクな中庭を通り、格納庫に入ると、佐藤君がトイレの壁を調べていた。)

 

「この格納庫の壁、ずいぶん頑丈にできてるよね。戦車でも格納してたのかな。」

 

「学園って言ってたのに、物騒っすね。」

 

(振り向きもせず、壁を調べ続けながら話し出した彼に苦笑した。)

 

(やっぱり、彼の様子もいつもと違う気がするな。ここに来てから…いや、前回の裁判からか?)

 

「天海さん。どうしようか?」

 

(突然 彼がこちらを振り向き、尋ねてきたので、言葉に詰まる。)

 

「…何をっすか?」

 

「みんなだよ。みんなの様子が今までと違うの、気付いてるんでしょ?」

 

「ああ、そうっすね。前回の事件がそれだけ絶望的だったってことっす。」

 

「うん。それと、主に僕らクラスメイト4人がバラバラなせいだね。」

 

「え?」

 

「木野さんは前回、前々回のこともあってかなり気落ちしてるよね。」

 

「永本さんはコンプレックスが最悪の形で露呈して、祝里さんはそれを気に病んでるから木野さんを気にしてられない。」

 

「そんなわけで、僕らの間でかなり気まずい空気が流れてるんだよね。」

 

「…永本君はどうして”超高校級の幸運”をそんなに嫌がってるんすか?」

 

「どうだろうね。彼は“運は実力の外”と考えるタイプなのかもしれないね。」

 

「突出した才能を努力で磨くことが理想なんだろうね。」

 

「そうっすか。」

 

「でも、僕は彼の気持ちが少し分かるかな。」

 

(彼はニコリと筋肉を動かして笑った。)

 

「ギフテッドって言葉…“神からの贈り物”が語源らしいけどさ、」

 

「生まれ持った才能なんて稀なもので、大抵は周囲の大人の趣味趣向や教育、本人の適性でいくらでも育つんだ。」

 

「ほら、3歳までに母語の基礎的な文法を勉強せずとも理解できるように、小さい子どもは誰だって非凡な天才でしょ?」

 

「才能なんて、子どもの興味を刺激できるかどうか。それを本人が好んで伸ばすかどうか だよ。」

 

(淀みなく話す彼の顔を見ている間、俺はクラスメイトの保育士を思い出していた。)

 

「キミは…キミの才能を思い出したんすか?」

 

(俺の問いに彼は少し黙った後、また笑ってみせた。)

 

「まだ だよ。でも何となく、永本さんや祝里さんみたいな”生まれ持ったもの”じゃない気がするんだ。」

 

「生まれ持った才能や能力が100%活かされる世界なんて、信じられないからね。」

 

(含みのある声色を落として、彼は格納庫から出て行った。)

 

 

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「探したぜ!天海のダンナぁ!」

 

(建物から出てすぐ、アイコさんがものすごい勢いで走って来た。)

 

「どうかしたんすか?」

 

「ちょっと来てくだせぇな!てーへんなモン見つけちまったんでぃ!」

 

(腕を掴まれて引っ張られる。……前にもこんなことがあった。)

 

(ーーあれは、そうだ。1回目の事件が起こる前。白銀さんが生きている時。)

 

 

「ここにいなすったか!天海のダンナぁ!ちとあっしに力を貸しておくれじゃないかね!?」

 

「え?アイコさん、ちょっと?」

 

「へへっダンナぁ!いい娘がいるんでさぁ、黙ってついてきなせぇな。」

 

(されるがまま、彼女の背を追う形で小学校を出た。)

 

 

1つ目のステージの図書室で、佐藤君と妹尾さんといたところを引っ張って行かれたんだったか。)

 

(まだ1ヶ月も立っていないのに、ずいぶん前のことのように感じる。)

 

 

 

【メカメカしい建物前】

 

「天海。ここだ。」

 

(アイコさんに連れられて来たのは、格納庫に続く道にあるメカニックな建物の前だ。2つ並んだ建物の向かって左を彼女は指差した。)

 

「ここ、開いてたんだ。」

 

「え?昨日までは開いてなかったんすよね?」

 

「そうそう。今日は新しく入れる場所を探してたんだけどさ〜、ここは普通に開いたんだ〜。」

 

「モノクマは今日ここが開くなんて言ってなかったろ?だから、みんなを連れて来たんだよ。」

 

「みんな?キミは調べなかったんすか?」

 

「それが…は、恥ずかしいんだけどね…この部屋の中にいると…できないんだぁ。」

 

「できない?」

 

「ええ。わたくしは自律思考型コンピュータ。自分で調べたり考えたりする時は、自分のデータバンクにアクセスする必要があるのです。」

 

「ですが、この部屋に入ると上手くそれにアクセスできないんです。お恥ずかしい。」

 

「なんかぁ、この部屋の中だけ通信妨害ってかぁ、ジャミングってかぁ、そんなかんじみたいなかんじなんだよねぇ。」

 

「通信妨害?キミはネットワークに接続できるってことっすか?」

 

「うん。でも もちろん、外に連絡できるタイプのものじゃないよ。自分のデータバンクにしかアクセスできないんだ。」

 

「外部連絡できるならとっくに市ヶ谷博士や四ツ谷博士、信濃町博士と千駄ヶ谷博士に連絡してるよ。あ、全員ボクの製作者だよ。」

 

(まあ、外に連絡できるわけないか。)

 

「じゃ、あたしは哀染と永本も呼んでくっから!」

 

(彼女はそう言って宿舎に走って行く。俺は目の前の扉を開けて中に入った。)

 

 

(中には、佐藤君と祝里さん、木野さんがいた。)

 

「らんたろーも来たんだね。」

 

「はい。アイコさんに連れられて。アイコさんは哀染君と永本君を呼びに行ったっすよ。」

 

「けいも?」

 

「そっか…。」

 

(まだギクシャクしてるんだな。)

 

(部屋の中は外観にも負けないメカメカしさだった。近未来的な装置や謎の機械が整然と並んでいる。)

 

「アイコがここを『オレ様のオレ様によるオレ様のための部屋』って言ってたけど、意味が分かったよ。」

 

「……うん。やっぱり、アイコさんの部屋…なのかな。」

 

(コンピュータやロボット、AIのための部屋…確かにそう言われれば納得できる。)

 

(この部屋が似合いそうなクラスメイトは「もっと和の内装がいい」と否定しそうだが。)

 

「みんな、これを見て。」

 

「え?何?ゴミ箱?」

 

(部屋の中を見て回っていた佐藤君が部屋の隅の頑丈そうな鉄の箱を見ながら言った。)

 

爆弾だよ。」

 

「爆弾!?」

 

(箱いっぱいに詰められた黒い塊の山。導火線などはないが、確かに爆弾だ。)

 

「1つ1つの威力はそこまでじゃなさそうだね。でも、これだけの数が揃うとかなり強力だと思うよ。」

 

(威力は強くない…か。昔 戦地に迷い込んだ時に見たものより重厚でしっかりしているようだが…。)

 

「ちょ、は、早く逃げよう!」

 

「大丈夫。起爆装置がないから。大きな衝撃でもない限りは平気だよ。」

 

「でも…普通に…怖いよ。」

 

「そう?怖がらせてごめんね。何なら、みんな外に出ていていいよ。」

 

「……ううん。私は…ここを調べるよ。」

 

「あ、あたしも!」

 

(俺も頷いた。その時。)

 

 

「お待たせ。哀染クンを連れて来たよ。」

 

(開いたドアの向こうにアイコさんと、その隣に哀染君が昨日と変わらず青い顔で立っていた。)

 

「……レイ、大丈夫?」

 

「大丈夫。心配かけてごめんね。ただの寝不足だよ。」

 

(力無い笑顔を見るに、結構 無理しているようだ。)

 

「アイコさん…永本さんは…?」

 

「やっぱ体調 悪いんだって。」

 

「……。」

 

「あ!雪だるま作ろうって言ってみれば出て来たかな!?」

 

「出て来ないと思う。」

 

「この部屋…すごいね。……アイコは入らないの?」

 

(部屋の中に入って来た哀染君がドアの外から動かないアイコさんを不思議そうに見た。)

 

「うん、私、その中に入ると上手く思考できなくなるの。考える、故にAIあり。人型ロボは考えるAIである。」

 

「キミたちも考えないコンピュータなどただの鉄屑とか思ってるんでしょう!?」

 

「…何も言ってないよ。」

 

「アイコ…それは被害妄想だよ。」

 

(アイコさんの言葉でその場の空気は少しだけ柔らかいものになった。)

 

(彼女なりに、雰囲気を良くしようとしてくれたのかもしれない。)

 

(その後、俺たちはこの部屋の調査を開始した。……なるべく爆弾の入った箱には触れないように。)

 

「…何だろう、これ。」

 

(コンピュータ周辺を見ていた哀染君が声を上げ、みんなが彼の周囲に集まった。)

 

「どこかボタンを触っちゃったみたいでさ、画面が起動したんだ。」

 

(彼の視線の先のモニターには、見慣れない言葉と共に一文が表示されていた。)

 

参加者には、alter ego枠が1人いなければならない。

 

「えっと…ある…何?」

 

alter ego…”オルターエゴ”だね。自分の中の別人格って意味だったはずだよ。」

 

「別人格?」

 

「例えば、有名人が普段とは違う別人格でテレビにその人として出たりするよね。」

 

「えっと…二重人格…とか?」

 

「解離性人格障害とは違うかな。意図的に設定する人格のことを普通は言うから。」

 

「つまりは、芸能人のキャラ付けってことね!うう、誰か写真撮って見せて!遠くて見えないー!」

 

「誰も写真撮れるものは持ってないっすからね。」

 

「……ズーム機能とか、ないの?」

 

「そんなサービスアイコにはNAIKO☆」

 

(みんながアイコさんの方に視線を向ける中、哀染君がポツリと呟いた。)

 

アルターエゴ人工知能やコンピュータのことじゃなかったんだね…。」

 

「え?ああ。確かに、”アルターエゴ”ということもあるね。」

 

「”他者の自我”って意味もあるから、例えば1人の人間の自我をコンピュータに移植できるようなことがあれば…人工知能もある意味アルターエゴなのかな?」

 

「そうなんだ…。」

 

(哀染君はそのままモニターを凝視している。)

 

「哀染君、詳しいんすか?」

 

(俺が問いかけると、彼はハッとした顔で一瞬 目を泳がせた。)

 

「そりゃあ、レイはギョーカイの人だもんね。」

 

「うん…まあね。」

 

(さっきの反応…とてもそうとは思えない。)

 

(どういうことだ?哀染君は何かを知っているのか?)

 

(……そういえば、彼が思いもよらない正解を導き出すのは、初めてではない。前回の裁判でも、そうだった。)

 

「……みんな、そろそろ食堂行かない?ここは もう何もなさそうだよ。」

 

「…そうっすね。」

 

(俺の視線を避けるように、彼は部屋から出て行った。)

 

 

 

【宿舎 天海の個室】

 

(夕食を終えた俺たちは、それぞれ宿舎の部屋に戻った。)

 

(永本君は夕食の席にも現れず、夕食会は やはり重苦しい空気のまま終わった。)

 

(明日は永本君とも話をしてみるか。)

 

 

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のアナウンスだ。いつものモノクマの挨拶の後、モノクマはこう言った。)

 

 

『この後、オマエラに重大発表があります!全員 食堂に集まってください!』

 

(……嫌な予感しかしないが…とにかく行こう。)

 

 

 

【食堂】

 

(食堂に全員が集まった。みんな緊張からか顔色が悪い。その中でも、哀染君は今にも倒れそうだ。)

 

「うんうん、全員集まったね。良かった良かった。引きこもりクンも出て来てくれて、先生は嬉しいゾ。」

 

「……。」

 

「それで、重大発表って何?」

 

(モノクマは心底 楽しげに笑った後ーー)

 

「この中に、他の人とは違う嘘つきさんがいまーす!」

 

(高らかに宣言した。)

 

「嘘つき?」

 

「ど、どういうこと…?」

 

「……。」

 

「嘘つきは嘘つきだよ。オマエラが『協力して脱出しよう!』なんてキラキラ目標 掲げているのを影で笑ってるヤツがいるんだよ。」

 

「……何だよ…それ。」

 

「何だろうね?黒幕?裏切り者?首謀者?お好きに呼ぶがいいさ。」

 

「黒…幕…?」

 

「このコロシアイの黒幕が、その嘘つきだっていうの?」

 

「うぷぷぷ、どうだろうね?それは嘘つきさんを見つけて聞けばいいんじゃないかな?」

 

「……。」

 

「どういうことぉ?本当にこの中に、そんな人がいるのぉ!?」

 

(黒幕。その言葉は、昨日 読んだ犯罪ファイルの内容を思い出させた。)

 

(黒幕はコロシアイの参加者として名前があった人物。)

 

(それが、このコロシアイでも同じだとしたらーー)

 

(いや、疑心暗鬼に陥らせる罠だ。)

 

「……それが本当なら、モノクマにとって不利な情報のはずっす。何でわざわざそんなこと言うんすか。」

 

「そうだね。嘘つきをあぶり出す様子を見てみたいからさ。」

 

 

「あのさ。聞きたいんだけど。」

 

「何かな?」

 

「あのコンピューター部屋は何?今まで何かある度しつこくアナウンスしてたのに、何で昨日は僕らに言わなかったの?。」

 

「……ん?何?コンピューター部屋?」

 

「何トボけてやがんだ!昨日あのメカメカしい建物がーー」

 

「アイコさん、もういいよ。」

 

「えっあっハイ。」

 

「何 言ってるかよく分かんないよ。どういうこと?」

 

「何でもないよ。それより、もう1つ。」

 

「このステージの裁判場も地下にあるの?」

 

「え?ここみ、何でそんなこと聞くの?」

 

「もう…殺しなんて起きない…聞いても意味ない…よ。」

 

「うん、もちろん。でも探索で必要だから知っておきたいんだ。」

 

「知ったところで、裁判場は学級裁判でしか行けないよ。殺人も起きてないのに調べられるなんて思わないでほしいな。」

 

「でも、まあ隠す必要もないから教えてあげる。」

 

「今回の裁判場は、裁きの祠の地下にあるよ。」

 

「そっか。」

 

(……何で裁判場の場所なんて聞くんだ?)

 

「えーと、とにかく。嘘つきをあぶり出すなり血祭りにあげるなりして頑張ってねー。」

 

(モノクマは「あれ〜思ってた反応と違うなー」とブツブツ言いながら去って行った。)

 

(確かに、この中に黒幕がいるなんて話だけなら、雰囲気は絶望一色だったはずだ。)

 

(今は佐藤君の質問のおかげで、その中に困惑も混じっていた。)

 

「佐藤さん…何であんなこと…。」

 

「爆弾で地下を吹っ飛ばす。」

 

「え!?」

 

「何言ってるの!?」

 

「……なんてことしたら校則違反なんだろうね。冗談だよ。それより…」

 

「どうやら、モノクマはコンピューター部屋が開いてることに気付いてないみたいだ。」

 

「コンピューター部屋…?」

 

「あのメカメカしい建物だよ。昨日アイコが開いてたって呼びに来たでしょ。」

 

「どこかから俺たちの様子を見ているはずが、それもねーみたいっすね。」

 

「通信妨害のせいかもしれませんわね。」

 

(部屋の中だけでなく…部屋に入るところも見られていなかったということか。)

 

「それより…さ。モノクマが言ってた嘘つきって…誰なの?」

 

「……。」

 

「この中に…本当に黒幕がいるのか?」

 

「みんな、落ち着いてよ。」

 

「モノクマの罠っす。ここで疑心暗鬼に陥らせて、コロシアイを起こさせるっていう…。」

 

 

「……イレギュラー。」

 

「……哀染君?」

 

「イレギュラーがいたよね。1回目の事件で、ステージ内に凶器を隠した。2回目の事件で、圭君に呼び出しのメモを送った…。」

 

「……あ。」

 

「イレギュラーは…コロシアイを促す行動を取ってる。もし、イレギュラーが首謀者だとすると…。」

 

(彼はみんなに話すというよりは、自分に言っているかのようにブツブツ呟いていた。)

 

「何、マジでこの中に黒幕的なサムワンがいるの?」

 

「そいつのせいで…今まで人が死に続けたっつーのかよ…。」

 

(永本君は「クソッ」と悪態を吐いて食堂から出て行った。)

 

「永本さんって… “超高校級の幸運”を隠してたんだよね。才能を隠して…なななな何か企んでたとか…?」

 

「隠してないよ!あたしたちは知ってたもん!」

 

「あんたたちもグルなんじゃないの?だって佐藤、あんた1人だけまだ才能 分かってないじゃん!」

 

「そうだね。」

 

「……佐藤さんの才能は、私たちも思い出して…ない。」

 

「だからグルなんじゃねーって言ってんだ。」

 

「みんな。ごめん、ぼくはここで失礼するよ。」

 

(言い合うみんなの声を止めたのは、哀染君の絞り出したような声だった。)

 

(彼は足早に食堂を出て行く。)

 

「オ、オイラも…ちょっと1人で考えよーっと…。」

 

「……。」

 

「あたし…は…みんなを信じ…たいよ。でも…ごめん!ちょっと整理させて!」

 

 

(哀染君に続いて、みんなが続々と食堂を後にした。残ったのは、俺と佐藤君だけだ。)

 

「見事にバラバラになっちゃったね。」

 

「それこそがモノクマの狙いだと思うっすけどね。」

 

「うん。でも、僕はこの中に黒幕がいてもおかしくないと思うよ。5階の部屋の犯罪ファイル、キミも読んだんでしょ?」

 

(彼がこちらを見た。何かを見透かそうとするような、冷たい目だ。)

 

「佐藤君…キミは何だか雰囲気が変わったっすね。」

 

「そう?」

 

「前回の裁判からーーいや、裁判の終わり頃からっす。」

 

「……よく見てるね。さすが冒険家。洞察力や観察力が優れてるんだね。」

 

「天海さんは僕の人格に変化があったと考えるんだね。じゃあ、人格を作るものって何?」

 

「え?」

 

「人の性格、性質、特徴付けるものって何だと思う?」

 

「……それは色々あると思うっす。」

 

「そうだね。DNA、教育、出身地域、人間関係…環境によって人格が作られる。」

 

「僕は、それらの記憶こそ人格を作るものだと思うんだ。自分が何者かの記憶…人間関係の記憶。」

 

「その記憶を有した僕らは、初めて僕らの人格を持っていられるんだよね。」

 

「佐藤君、何が言いたいんすか?」

 

「どうやってか1度それを抜き取られた僕らは、何者なんだろうね?」

 

(彼は今まで見たことがない表情で笑って、食堂から出て行った。みんな…確かにバラバラだ。でもーー)

 

(俺はもう人を信じて、頼ることを知っている。希望ヶ峰学園のクラスメイトたちが、白銀さんが教えてくれた。)

 

(俺が、みんなを説得しなければ。また協力して、脱出するために。)

 

(俺はみんなを探すために、食堂を出た。)

 

 

 宿舎へ行こう

 格納庫へ行こう

 校舎5階へ行こう

全部見たな

 

 

 

 

【宿舎】

 

(宿舎の入り口に祝里さんがいる。声をかけると、彼女は恐る恐るといった様子で振り向いた。)

 

「…祝里さん。そんな怯えなくてもいいっすよ。この中に黒幕がいると決まったわけじゃないんすから。」

 

「でも…これまでモノクマは嘘は言わなかったんだよね。」

 

「黒幕がいると思わせて、俺たちを疑心暗鬼に陥らせる罠っすよ。」

 

「でも…!でも、ごめんね!あたしはクラスメイトの記憶があるから…けいと…ことは、ここみが黒幕じゃないのは分かる!」

 

「黒幕がいるとすれば、らんたろーかレイかアイコなんだ!ごめん!」

 

(祝里さんは宿舎から飛び出して行った。)

 

(……。他に宿舎にいそうな人はーー)

 

 

「永本君、ちょっといいすか?」

 

(永本君の部屋の扉をノックする。少しして、扉が開いた。)

 

「……何だよ。黒幕探しか?それとも…お前が黒幕なのか?」

 

「それはモノクマの罠っすよ。そうやって俺たちを互いに疑わせて協力関係を壊そうとしてるんす。」

 

「じゃあお前はオレのこと信じられんのかよ?」

 

「……信じるっすよ。」

 

「オレはずっと才能を隠してたんだぜ?」

 

「理由があったと理解してるっすよ。キミのクラスメイトのみんなもそうだったから、秘密を守ってたんす。」

 

「…あいつらはクラスメイトの記憶でオレの才能を思い出した。ーーでもよ、ホントはオレは初めから才能のことは覚えてたよ。」

 

「……そうだったんすか。」

 

「大したことない才能だからな。なかったことにしようとしたんだよ。」

 

「結局、お前らを信じられなかったってことだ。」

 

「そんなオレでも、お前は信じられるのかよ。」

 

「……信じるっす。」

 

「……。」

 

「お前はいいヤツだよな。それに、すげー”超高校級”の肩書きも持ってる。」

 

「ワリー、オレはお前みたいになれねーよ…。」

 

「永本く…」

 

(俺が何か言う前に、彼は扉を閉めてしまった。)

 

 

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【格納庫】

 

(格納庫にはアイコさんがいた。彼女は「誰だ!」と叫んだ後、)

 

「何だ、天海かよ。おどかすなって。」

 

(こちらを見て緊張を解いた。)

 

「すみません。おどかすつもりはなかったんすが。」

 

「てっきり黒幕がオレ様を殺しに来たんだと思ったぜ。」

 

「モノクマの狙いはそれっすよ。そうやって非協力ゲームに持っていくことっす。」

 

囚人のジレンマ的なこと?……へえ、天野っちはそう考えるんだ。」

 

「天海っす。」

 

「天海っち。一昨日、言ったこと覚えてるべ?」

 

「一昨日…モノクマが嘘をつくことはできないってやつっすか?」

 

「そう。そして、この中に黒幕がいるとしたら、納得できちゃうのさ。」

 

「何がっすか?」

 

「3回目、4回目のステージで、モノクマが眠らなかった理由。」

 

「俺たちの中に、モノクマを操っている者がいる…キミはそう考えてるんすね?」

 

「そりゃそうだよ。モノクマはただのロボット。誰かが操ってるとしか思えないからね。」

 

「2回目のステージでは、みんなが集まっていたから黒幕は寝てしまってモノクマを操れなかった。」

 

「でも、3回目の宿屋、4回目のホームで子守唄が流れた時、モノクマを操っていた黒幕は起きていた。」

 

「……と、考えると辻褄が合っちゃってさ。」

 

「……。」

 

「本当に黒幕がいたらモノクマが不利になる情報を与えたってことっす。その辻褄は合わないんじゃないすか?」

 

「まあねー!!でもさ!それだけモノクマが…黒幕がコロシアイ起こることに命懸けてるってことじゃん!?」

 

「人間は嘘をつくことができます。ロボットと違って。だから、信じすぎないことです。」

 

「改心したと見せかけることも可能なんですよ。」

 

(アイコさんが疑っているのは、“彼女”か…。)

 

 

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【校舎5階 廊下】

 

(校舎の5階まで上がって来た。木野さんがクラシックな部屋の前で佇んでいる。)

 

「木野さん、部屋に入らないんすか?」

 

「……!」

 

(木野さんはこちらを見て、狼狽えた様子を見せた。)

 

「……。」

 

「モノクマが言ったことはーー」

 

「天海さん…。私、宿舎に戻るから。」

 

(彼女は小走りに階段の方へ駆けて行った。)

 

(かなり警戒されている。会ったばかりの木野さんに戻ったみたいだ。)

 

(木野さん、さっきこの部屋を覗き込んでいたがーー)

 

(同じように そっと部屋の中を覗き込んで、驚いた。)

 

(おびただしい数のファイルに埋もれながらページをめくり続ける人物が目に入ったからだ。)

 

 

 

【クラシックな部屋】

 

「哀染君。」

 

(部屋に入って呼びかけると、彼はこちらを見た。)

 

「あ…蘭太郎君。」

 

(向けられた穏やかな表情に安堵する。)

 

(先ほど扉の外から見た彼は鬼気迫る様子で、尋常ではないようにさえ思えたから。)

 

「コロシアイを終わらせるヒントがないか探してたんだーーって、散らかしすぎだよね。」

 

(彼はようやく自分が半分ファイルに埋まっていることに気付いたように笑った。)

 

(彼と一緒にファイルを棚に片付ける。)

 

「……蘭太郎君、本当に僕らの中に…首謀者や黒幕がいると思う?」

 

「……俺は罠だと思うっす。モノクマ側が不利になる情報をわざわざ明かすのはおかしいっすから。」

 

「……そんなことをするのは、“絶望”ぐらいだもんね…。」

 

「え?」

 

「……何でもないよ。」

 

「それより、蘭太郎君。これ、もらってくれないかな?」

 

(彼に手渡されたのは、2つの細長いシルバーがヒモで繋がれたペンダントだった。)

 

「これは…シルバーアクセっすね。」

 

「うん。前に、カフスボタンをくれたでしょ?そのお礼だよ。」

 

(彼が上着に付けたカフスボタンを見せて笑う。)

 

「ガチャガチャの景品じゃないっすよね。もしかして、キミが作ったんすか?」

 

「……うん。あっちのスタジオみたいな部屋に材料と道具があったんだ。」

 

「ありがとうございます。すごいっすね。そんな才能もあるんすか。」

 

「才能の延長みたいなものかな。」

 

(才能か…。昨日メカメカしい建物の部屋で感じた違和感。聞いてみるか。)

 

 

「哀染君、キミはここのこと…何か知ってるんすか?」

 

「え?」

 

「昨日…アルターエゴの話の時、様子がおかしかったっすよね。」

 

「……。」

 

「気のせいだよ。たまたま知ってたんだ。ほら、ここみ君だって知ってたでしょ?」

 

「それだけじゃないんすよ。」

 

「それだけじゃない?」

 

(そうだ。彼に対して抱いた違和感はそれだけじゃない。前回の裁判でも、その瞬間はあった。)

 

「キミはどうして 永本君の才能が分かったんすか?」

 

「え?」

 

「前回の裁判で、キミは永本君の才能を言い当てることができたっす。」

 

「それは…今までのことから推理しただけだよ。」

 

「確かに、言われてみれば永本君の才能は納得っす。」

 

「でも、前回の裁判の時点でキミがそれを言い当てられるのは…少し不思議だったんすよ。」

 

「ここみ君が『気付いてる人もいる』って言ってたはずだよ。」

 

「……少なくとも、俺には分からなかったっすね。いくつか候補はありましたが、数ある”超高校級”から言い当てることはできなかったっす。」

 

「……。」

 

「つむぎのおかげだよ。」

 

「え?」

 

「ぼくは みんなよりヒントがあった。それだけだよ。」

 

(彼が笑う。初日に見た彼の笑顔とはかけ離れた、アイドルとはかけ離れた苦々しい笑顔だ。)

 

「白銀さんの事件の前日っすね。キミは、彼女と何を話したんすか?」

 

「……。」

 

「哀染君、みんなで共有すれば、脱出の手掛かりになるかもしれないんすよ。」

 

「……ならないよ。」

 

(彼は俯いて呟いた。)

 

「ぼくらが思うような…脱出の手掛かりはない。でも、コロシアイを終わらせることはできる。」

 

「ぼくが、このゲームを終わらせる。」

 

「哀染君…どうしたんすか?みんなで協力してーー」

 

「……余計な真似はしないでほしいかな。」

 

(明確な拒絶の意思を持った言葉。彼の声が、今まで聞いたことがないほどに冷たい。)

 

「ーー大丈夫だよ…天海君。別の世界は、すぐ そこだから。」

 

「……別の…世界?」

 

(聞き返す言葉は彼の耳に届かなかったらしい。彼は部屋から出て行った。)

 

(1人残された自分の手に、先ほど もらったペンダントが強く握り締められていることに気が付いた。)

 

(2つのシルバーアクセを革紐でペンダントにしたデザイン。とても俺の好みに合っていた。)

 

(首に掛けて、シルバーを手に取り眺める。)

 

(2枚のうち、1枚のシルバーの裏には数字が彫られていた。戦地で兵士を識別するドッグタグみたいだ。)

 

11037……?何の番号だ?)

 

(謎の数字に首を傾げながらも、俺はワイシャツの内側にタグを入れ込んだ。肌に触れるシルバーは思いの外 冷たかった。)

 

 

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【宿舎 天海の個室】

 

(夜 食堂へ行ったが、誰もいなかった。みんな時間をズラして食べているのだろうか。)

 

(俺はもう人を信じることも頼ることもできる。でも…)

 

(頼る相手がいない時は…どうすればいいんだろう。)

 

…………

……

 

(ドンドンと扉を叩く音が聞こえる。)

 

(目を開けると、部屋の天井が視界に入った。)

 

(いつの間にか、眠っていたのか。)

 

「大変だよ!らんたろー、起きて!」

 

(扉を叩く音と祝里さんの声を聞き、俺は飛び起きた。慌てて部屋の扉を開ける。)

 

「らんたろー!火事だよ!」

 

(扉を開けた瞬間に認識したのは、狼狽した祝里さんの顔。そしてーー焦げた匂い。)

 

「格納庫の方で火事みたいなの!」

 

「行きましょう!」

 

(俺たちは格納庫へ走り出した。彼女の話によると、彼女が叩き起こしたみんなは すでに格納庫へ向かったらしい。)

 

(消化に必要なものは…格納庫なら大型の水洗用機器があったはずだ。)

 

 

 

【格納庫】

 

(サイバーパンクな通路を走り、シャッターが開いたままの格納庫に入る。)

 

(一層 濃い匂いが辺りを包んでいたが、火は収まっているようだった。)

 

(すでにその場にいたみんなは「来た時には火は消えかけていた」と言った。)

 

(燃え方を見るに、火元は…格納庫奥のトイレだ。)

 

「よ、良かった…。朝起きたら変な匂いしてて…。」

 

「トイレを調べましょう。」

 

(誰かがバックドラフトへの懸念を示したが、幸いトイレのドアを開けても爆発的な炎が襲ってくることはなかった。)

 

(そして、俺たちは発見した。)

 

(真っ黒になった小部屋に同化するように真っ黒な人の形をした何かを。」

 

(モノクマのアナウンスが鳴り響いて初めて、やっと俺はそれが何なのかに気が付いた。)

 

(それは、誰かの遺体なのだと……。)

 

 

 

非日常編へ続く

 

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