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第五章 047は二度死ぬ(非)日常編Ⅰ

 

「さすが”超高校級の探偵”っすね。現地にいないのに ここまで手掛かりを掴めるなんて…。」

 

「いや…たまたま 叔父さんのツテがあっただけだよ。」

 

「そっか、卒業したら一緒に天海くんの妹探しの旅に出るんだよね。私もヨーロッパならコンペや公演で行くから、その時は協力させてね。」

 

「助かるっす。キミのコンサートにも行きたいっすね。」

 

「オメーら2人で世界一周か!天海、オレもオメーの妹 見つけたら地球へ連れ帰ってやるからな。宇宙は任せろ!」

 

「あんた…バカなの?普通の子どもが宇宙に行けるわけないでしょ。」

 

「はは、可能性は低いっすが…ゼロじゃないっすから、その時は頼むっす。」

 

 

「この香り、味…やっぱり、君の淹れるお茶が1番美味しいヨ。」

 

「本当っすね。どうやって淹れてるんすか?」

 

「貴方達の好みに合わせてブレンドしているのよ。喜んでもらえたみたいで嬉しいわ。」

 

「なるほどな…どうりで美味いわけだ。まあ、俺はコーヒーの方が好きだがな。」

 

「神様も『美味しいでゲス』って言ってるよ〜!」

 

 

「すごいすごい!本当に魔法だよ!感動しちゃったよ!」

 

「…男死!どさくさに紛れて近すぎますよ!ちょっと離れてください!でも!これでマジカルショーは成功間違いなしですね!」

 

「盛り上がってるっすね。」

 

 

「んあー、天海か。卒業前のマジカルショーのリハーサルをしておったんじゃ。」

 

「へえ。それは俺もぜひ見たいっすね。」

 

「オ、オレ様だって…あんくらいなら機械で再現できるからな!す、すごくなんて…なかったんだからぁ!」

 

「あはは、よっぽどすごかったらしいっすね。そんな機械があったらおもしろいっすけど。」

 

「いやいや、天海ちゃん。機械で再現なんてできないでしょ。ロボットごときに人間の感性や驚きの気持ちは理解できないんだから。」

 

「それはロボット差別ですよ!ボクだって、キミたちの表情や心拍数のパターンから計算すれば、理解できます!」

 

「え…そんなデータ取ってたんすか…?」

 

 

「あ、天海君!」

 

「白銀さん、久しぶりっすーーって、何でセーラーなんすか?」

 

「今日コスプレイベントだったんだけどね、小道具とかだけ外して着替えずに来たんだ。」

 

「白銀さんのコスプレイベントってことは公休っすよね?」

 

「うん。でも天海君が帰って来たって連絡あったし。急いで来たんだよ。」

 

「……。アレルギーは大丈夫なんすか?」

 

「え!?これはモノマネじゃないもん。ただのセーラー服を着たわたしだよ!ほら、キモいブツブツ出てないでしょ?」

 

「ああ、なら良かったっす。俺のために急がせて申し訳ないっすね。」

 

「わたしが勝手に急いだだけだよ。だって、もうすぐ卒業なのに、天海君とは全然 話せてないもんね。」

 

「なるほど…そういうことっすか。今回は卒業まではいるつもりっすよ。」

 

「そっか。……卒業したら、天海君はまた旅に出るんだよね。」

 

「ええ。しばらくは帰って来ないっすね。」

 

「また寂しくなるなぁ。」

 

「……。」

 

「でも、向こうで会えるの楽しみにしてるね。」

 

「え?」

 

「わたしも、卒業後はスポンサーの依頼で海外も回るからね!今やコスプレはワールドワイドなんだよ!」

 

「あ、ああ…。そうなんすね。」

 

「どこかで必ず日程 合わせて会おうね!天海君は何のコスプレする?やっぱり海外勢に人気があるのはーー」

 

「え?え?ちょ、ちょっと待ってください。俺もコスプレすることになってるんすか?」

 

「え?だって、天海君、2人で旅に出るんだよね?」

 

「そうっすけど…。あ、まさか…。」

 

「そう、そのまさか!彼もわたしとコスプレするって約束してくれたからね!もう衣装もできてるんだよ!」

 

「あ、そ、そうなんすか…。相変わらず彼は人たらしっすね。」

 

「人たらし…地味に天海君は人のこと言えないと思うなぁ。」

 

「そんなことないっすよ。」

 

「そんなことあるよ!特に女の子達の人気すさまじいもん。隣 歩いてるだけでクレーム対応、炎上注意って感じだよ!」

 

「正直、ちょっと妬けちゃうくらいだよ…。」

 

「……どういう意味っすか?」

 

「天海君ほどのイケメンがコスプレしたら…たぶん、わたしよりカメコとかファンついちゃうと思う…。」

 

「強敵 現るって感じだよ。」

 

「……。」

 

「コスプレさせたいんすか、させたくないんすか?」

 

「もちろんさせたいよ!強敵と書いて『とも』と読むからね!」

 

「友…そうっすね。」

 

「……天海君、あのね。」

 

「……白銀さん、何すか?」

 

「希望ヶ峰学園を卒業しても、よろしくね。」

 

 

 

【ホーム 天海の個室】

 

(懐かしいような そうでもない夢から醒めて、深く息を吐いた。)

 

(2つ目のステージで思い出したクラスメイトたちの記憶だ。にぎやかで温かく、楽しいクラスだった。)

 

(モノパッドを開いて、彼らの写真を眺める。写真ファイルの最後は、白銀さんと2人で映った写真だ。)

 

(彼女がこんな訳の分からない場所で死んでしまったと知ったら、クラスメイトたちは何と言うだろうか。)

 

(この動機を見た瞬間はおぼろげだった記憶はどんどん鮮明になってきている。)

 

(それと共に、白銀さんを失ってしまった後悔が大きくなる。)

 

希望ヶ峰学園…それが俺たちが通っていた高校の名前だ。)

 

 

 

【ホーム リビング】

 

(リビングの扉を開けると朝食の良い香りが鼻腔に広がった。)

 

「あ…おはよう。」

 

「哀染君、おはようっす。」

 

(彼の目の下には変わらずクマが鎮座している。白銀さんの事件があってから…いや、その前夜から あまり寝ていないのだろう。)

 

(俺も人のことは言えないだろうけれど。)

 

(彼と二言三言交わすうち、他のみんなもリビングに集まってきた。)

 

(いつも1番乗り2番乗りで朝食の場にいて、挨拶をくれた2人はもういない。)

 

(みんなそれを思い出したように、俺の挨拶に目を伏せながら応えた。)

 

(静かな朝食会だった。7人しかいない人数だけのせいじゃない。)

 

(何のために、誰のために2人が死んだのか。考えを巡らせながら噛みしめた朝食は全然 味がしなかった。)

 

「もー、湿っぽいなぁ。お通夜じゃないんだから。」

 

「…っ!モノクマ…。」

 

(突然 現れたモノクマに、哀染君はいつも通り悲鳴を呑み込んだような声を出した。)

 

「そんな湿気たせんべいみたいなオマエラをネクストステージに案内してあげるよ!朝食後、ホームの地下の階段前に集まるように。」

 

「地下…?地下から…次のステージに行くってことか?」

 

(永本君が顔を青くして問いかけるが、モノクマは「うぷぷ」と笑っただけで答えずに消えた。)

 

「……とりあえず…朝ごはんを食べて行こう。」

 

(哀染君の言葉により、みんな止めていた手をまた動かす。けれど、やはりみんな静かだった。)

 

 

 

【ホーム 地下】

 

「ハイハーイ!集まったね!ではでは、ネクストステージまでご案内するよ!」

 

(朝食後、みんなで地下階段を降りたところで、またモノクマが現れた。)

 

(地下を進んで、昨日 “世界の秘密” を見つけた部屋までやって来た。)

 

(2人の犠牲を経て、たどり着いた場所だが…これまで裁判が終わるごとにステージを移動したからーー)

 

「裁判さえ起これば、地下に来ることは決まっていたんだね。」

 

「え!?」

 

「……あ。」

 

「クソ…、ローズが…あいつが死んだのは、ムダだったってことかよ!?」

 

「…圭君、落ち着いて。」

 

「そうっすよ、永本君。ローズさんがクロじゃなければ、クロにされていたのはキミっす。」

 

「……。」

 

「それでも…オレが残るより、あいつが残った方が良かったはずだろ…。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「そんな、こと……。」

 

(永本君の苦々しい言葉に祝里さんが何か言いかけて止めた。)

 

(彼らの周囲の空気は明らかに重くなっている。)

 

(何もない通路を進むと、開けた道があった。俺たちが進んで来た道に向けて「出口」と書かれた看板がある。)

 

(出口どころか…トラップだらけの遺跡に繋がってるんだから、不親切 極まりない看板だ。)

 

「はい、じゃあハシゴ登って来てね〜上で待ってるからね!」

 

 

 

【裏庭】

 

(ハシゴを登りきった先は、草の生い茂った建物内だ。さらにモノクマに促されて建物の外に出た。)

 

「ここが…新しいステージ?」

 

「……何だよ、ここ。」

 

(真っ先に目に入ったのは、空全体を鳥籠のように覆う鉄柵だった。)

 

(広い敷地内が丸ごと閉じ込められている。もはや驚くこともなかったが。)

 

「ここは行けるところが限られてるからね。モノクマの学園案内ツアーといこうか!」

 

「学園…?」

 

「そう!ここは人気シリーズ53作目の舞台、何ちゃら学園だよ!」

 

「南茶羅学園?」

 

「いや〜名前をド忘れしちゃってね。」

 

「……。」

 

「みんな!ここはロボなのに!?ってツッコむとこだろ!?」

 

「……。」

 

「…ってロボだって記憶容量いっぱいでフローズンとかブロークンとかあんだからね!」

 

「…というかさ、その人気シリーズって何のことなの?」

 

「人気シリーズは人気シリーズだよ。ワックワクでドッキドキ、リアルな非日常、需要に合わせた供給。」

 

「ワケ分からん!!」

 

「ねえ、さっき『CASINO』って看板が見えてたけど、本当に学校なの?」

 

「あー、大丈夫大丈夫、カジノは今は入れなくなってるから。」

 

「入れなくなってる?」

 

「そうそう。1度データが全部壊れてるからね。復旧に時間がかかるんだよ。」

 

「……。」

 

(…データ?カジノのか?)

 

「ちなみに、オマエラが今 通って来た地下通路への道も入れなくなってるからね。行ってもムダだよ。」

 

「今 入れるのは、この食堂とそっちの宿舎、それから向こうにある格納庫だね。」

 

「格納庫?何を格納してるんすか?」

 

「今は何も格納してないよ。普段はセキュリティ入れてるけど今は解除してるし、かくれんぼにでも使うといいさ!」

 

「さて、案内も終わったことだし、後は好きに探索するといいよ。じゃあね!」

 

「え?ツアー終わり!?」

 

(何度か旅の途中ガイドを雇ったことがあるが、これほどまでに雑で短いツアーはなかったな。)

 

「……荷物がある人もいるし、とりあえず宿舎に行こうか。」

 

(哀染君が宿舎と言われた建物を指す。変わった形の建物だ。)

 

 

 

【宿舎】

 

(宿舎は円形に各部屋が配置されたものだった。これまでの宿舎と同じように、扉にドット絵のプレートが付いている。)

 

(ところどころプレートがない空室が穴抜きであるのは、これまで死んでしまった人の部屋だったってことか…。)

 

(部屋の中に入り、ひと通りのものを確認していく。)

 

(ベッドにシャワールーム、クローゼット…この部屋には、カメラがないんだな。)

 

(宿舎から出ると、祝里さんがぼんやりしていた。)

 

「祝里さん。」

 

「あ、らんたろー。」

 

「元気ないっすね。大丈夫っすか?」

 

「あ、あはは。さすがに…色々参っちゃったかな…。元気もおまじないもなくしたら、あたしには何も残らないのにね。」

 

「……そんなことねーっすよ。」

 

(確かに、彼女も初日と印象が大きく変わった人の1人だ。けれど、それは悪いことだけじゃない。)

 

「今からここを調べるの?」

 

「そうっすね。一緒に調べるっすか?」

 

「…ありがと。でも、自分で調べるよ。人数も…少ないしね。」

 

「分かったっす。頼んだっすよ。」

 

(彼女と別れて宿舎の建物を出た。)

 

(さて…どうするかな。)

 

 

 校舎の方へ行ってみよう

 周囲を歩いてみよう

 メカメカしい建物が気になる

全部見たな

 

 

 

 

【校舎前】

 

(校舎の前に立ち、改めてその外観を確認する。)

 

(かなり大きい建物だ。白を基調にステンドグラスをあしらえたデザインから、ヨーロッパ建築にも思える。)

 

(しかし、町や学校に俺たちしかいないのは、なぜなんだ…?)

 

(モノクマ側の犯罪組織が、学校を所有運営しているとは思えない。)

 

(なぜこんな所に連れて来られたのか。ここは何なのか。何のためにコロシアイをするのか。)

 

(何も分かってないんだな…。)

 

 

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(宿舎から階段を降りる。敷地はまだ続いていた。)

 

(忍者のようなポーズをとる狐面のオブジェの向こうに、派手な看板が見える。)

 

 

 

【中華料理店のような建物前】

 

(古風な木の建物だ。看板には『熱烈歓迎』の文字。中華料理店か?)

 

(その前に、木野さんが立っている。)

 

「木野さん。ここに何かあったっすか?」

 

「…ううん、入れない。」

 

「そうっすか。」

 

(その割に、ジッと建物を見ていたな。)

 

「……ローズさんがいたら…喜ぶかなと思ったの。」

 

「……。」

 

(俺の視線に気付いたのか、彼女が理由を述べた。確かに、ローズさんにぴったりの建物だ。)

 

「……私…。」

 

「木野さん?」

 

「……何でもない。」

 

(彼女はそう言って去って行った。)

 

 

(狐面のオブジェから宿舎の反対側にも、変わった形の建物がある。)

 

「あ、蘭太郎君。」

 

「哀染君。ここは開くんすか?」

 

「うん。中に噴水と趣味の悪い像があったくらいだけどね。」

 

「趣味の悪い像?」

 

「行ってみようか。モノパッドによると、この先は裁きの祠というみたいだよ。」

 

「裁きの祠?」

 

「うん。」

 

(扉の先は、確かに趣味の悪い像しかなかった。)

 

 

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(宿舎に入る時から気になっていたメカニックな建物を見に行こう。)

 

 

 

【メカメカしい建物前】

 

(近くで見ると、メカメカしさがより際立つ2つの建物。その前で扉に触れる黒い人影があった。)

 

「アイコさん。この建物は開くんすか?」

 

「いや、どーにも開かねんだよー!こんなオレっちのオレっちによるオレっちのための建物に入れねーなんて!!」

 

「く、悔しくなんかないんだからね!!」

 

「悔しいんすね。」

 

「いや、実際 悔しくはないよ?だって、あたしプログラムだもん。」

 

「どういうことっすか?」

 

「何ていうか?こう言われたらこう返すみたいなプログラム?みたいな?」

 

「ロボットは嘘を付けないんだ。本当の情報の代わりに偽の情報を渡すことはできるけど…。」

 

「自ら嘘を作り出すことは、難しいんだよね。」

 

「そうなんすね。」

 

「だから…気になってんでい。前回の裁判で哀染が話してた『モノクマがここで眠ることはない』って言ったって話。」

 

「2つ目のステージで、昼のショーであたしたちがおねむだった時、たぶん、モノクマもスリープ状態だったでしょお?」

 

(朝のアナウンスがなかった時か。)

 

「でも、3つ目4つ目のステージでは違った。これって…どういうことなんだろうね?」

 

「……。」

 

「僕は、3つ目のステージではBチームの宿屋で、4つ目ではホーム側で子守唄が流されたことが関係していると思うんだ。」

 

(何が言いたいんだろう。……まさか…。)

 

 

(メカメカしい建物からさらに大きな施設が見える。モノクマが格納庫と言っていた場所だ。)

 

(入ってみるか。)

 

 

 

【サイバーパンクな中庭】

 

(巨大で分厚い扉を開ける。中は無機質な通路だった。若干 目が痛くなりそうなライトが付けられている。)

 

(入り口すぐのところに、永本君が立っている。ヘッドホンを付けていないが、こちらを見ようとはしなかった。」

 

「永本君。」

 

「…おう、天海。」

 

(永本君が視線を泳がせる。)

 

「何だかSFで出てきそうな雰囲気っすね。」

 

「ああ…そうだな。」

 

(彼の返答はぎこちない。)

 

「天海、オレここら辺 調べとくからさ…お前は奥 調べといてくれよ。」

 

「…分かったっす。」

 

(目が合わない永本君と別れ、俺は奥に続く道を進んだ。)

 

 

 

【格納庫】

 

「天海さん。キミもここに来たんだね。」

 

「ええ、ここは…何の格納庫なんすかね?」

 

「うーん、確かにそこに何かが入りそうなスペースがあるけど。」

 

(5つ並んだスペース…大型の洗浄用機器にプレス機…何か大きい機械の格納庫なのか?)

 

 

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(空が暗くなってきたな。夕食は校舎の食堂でとるんだったか。)

 

(今朝モノクマに案内された道を戻り、外の道から食堂と紹介された扉をくぐった。)

 

 

 

【食堂】

 

「おう、オメーもやっと来たか。」

 

(食堂に入ると、既でに集まっていたみんなが こちらを向いた。)

 

「食堂は普通なんすね。外から校舎と繋がってるように見えたんすが…。」

 

「うん、この部屋から校舎へ行くドアがあると思ったんだけどね。」

 

「どこにもなかったね。」

 

「学校なのに…校舎と繋がってないの…おかしいよね…。」

 

「そうっすね。本当に、ここが普通の学校なら…の話っすけど。」

 

「……。」

 

(夕食の雰囲気もどこか重苦しいものだった。ムードメーカーとなる人物が減ったからという理由だけではない。)

 

(俺に“彼ら”みたいな…一気にムードを変えられる力があったら良かったな。)

 

(今朝 夢で見たクラスメイト数名の顔が浮かんだ。)

 

(夕食が終わると、みんな静かに食堂を後にした。)

 

 

 

【宿舎 天海の個室】

 

(夕食の席で元気そうだったのはアイコさんくらいだった。)

 

(永本君、祝里さん、木野さんは明らかに気落ちしている様子だったし…哀染君や佐藤君もいつもと少し様子が違う。)

 

(みんな、外に出られないと諦めてる…わけじゃないよな…?)

 

(とにかく…この雰囲気をどうにかしないとな…。)

 

(俺はこんな所で立ち止まってるわけにはいかないんだから。)

 

 

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝だ。食堂へ向かおう。)

 

(宿舎の建物は静かだったが、不意に隣の扉が開いた。)

 

「……あ。蘭太郎君。」

 

「哀染君、おはようござ…顔が真っ青っすよ?」

 

「あ…そ、そうかな?ちょっと…眠れなくて…。」

 

(それにしても、彼の顔色の悪さはこれまでにないほどだ。)

 

「今日は休んでた方がいいんじゃないすか?」

 

「……ありがとう。でも、ここのこと、もっと調べなくちゃ…。」

 

(青い顔のまま真剣に言われて、俺は何も言えなくなった。)

 

(そのまま2人で食堂に向かった。)

 

 

 

【食堂】

 

(朝食会もどこか沈んだ雰囲気が漂っていた。)

 

「え、あれ?ここはお葬式会場?」

 

(静かな空間に降ってきたのは、いつも通り神出鬼没なモノクマの声だ。)

 

「……何の用っすか。」

 

「はーあ…毎回毎回 同じような反応。つまらないなあ。」

 

「あのねぇ、ボクはオマエラのために行ける場所を増やしてあげたんだよ!」

 

「行ける場所?」

 

「オマエラがどうしても校舎に入りたそうにしてたから、校舎の一部を限定公開してあげるよ!」

 

(校舎の門を調べたことや食堂から校舎への入り口を探していたことを知っている…?)

 

(このステージにカメラは見当たらないが…やはりどこかから見ているんだろう。)

 

「ハイハイ!若いんだからシャキッとして!ついておいでよ!」

 

(みんな食堂から外へ出て行くモノクマの後に続いた。)

 

 

 

【校舎前】

 

(外を行くモノクマが立ち止まったのは、校舎の正門前だ。)

 

「はい!限定公開でご覧いただけるのは、校舎の5階です!」

 

「5階?」

 

(全員が困惑した顔でモノクマを見ると、モノクマは満足そうに笑ってパンと手を叩いた。)

 

(すると、校舎正面の大きなステンドガラスから階段が現れた。)

 

「な、何じゃこりゃあ!?…って、もう驚かねんだかんな!」

 

「…とりあえず、登ってみよう。」

 

(校舎のステンドガラスから俺たちの前まで架かった階段。それを登って行くと、ステンドガラスが溶けるように消えた。)

 

「も、もう何があっても、おおお驚かないんだからぁ!」

 

 

 

【校舎5階 廊下】

 

(階段から校舎に入る。校舎内は外観と同じくヨーロッパ建築のようだった。)

 

(どっしりとした石造りの柱に高い天井。外からの光がどこか厳かな雰囲気を醸し出している。)

 

「ヨーロッパの教会みたいな雰囲気だね。」

 

「教会にも色々建築様式がございますが…あいにくそれらの詳しいデータは未学習ですわ。」

 

「ギリシャ建築、ロマネスク様式、ゴシック様式、言うなれば全部のせだよね。」

 

「ここを作った人も、そこまで建築様式に詳しいわけじゃないからね。」

 

「……。」

 

「建築家が詳しくないはずない…。」

 

「もー、揚げ足取らないでよ!ちなみに、そこにスタジオみたいな部屋があって、奥には旅人が喜ぶ部屋とノスタルジックな部屋があるよ。」

 

 

「ねえ、ここは5階なんだよね?下に行くための階段は?見当たらないけど。」

 

「うん、ないよ。下に行く必要はないからね。」

 

(確かに辺りを見回しても階段はない。ここが本当に校舎だとすると、階段がないのは明らかにおかしいが…。)

 

「ま、好き勝手に調べるといいよ!殺人に役立ちそうなものも見つかるかもよ!」

 

「そんなモン…使うわけねーだろ…。」

 

(永本君が怒りを込めた声で呟くが、それを気にも止めずモノクマは立ち去った。)

 

(とりあえず…この階を調べてみるか。)

 

 

 旅人が喜ぶ部屋に行こう

 ノスタルジックな部屋に行こう

 スタジオみたいな部屋に行こう

全部見たな

 

 

 

【旅人が喜ぶ部屋】

 

(旅人が喜ぶ部屋…気になるな。)

 

(部屋の扉を開けると、中はドミトリーの一室のような間取りになっていた。)

 

「やっぱり、天海さんはここに来たんだね。」

 

「ええ、まあ。一応 俺も普段は旅人っすから。」

 

「すごいよ。何だか珍しい道具がいっぱいあるし。」

 

(壁の棚には登山やトラッキング、キャンプなどの道具が揃っている。)

 

(確かに、旅人が喜ぶ部屋だけど…特に手掛かりになりそうなものはないな。)

 

(じっくり見たい衝動を抑えて、部屋を後にした。)

 

 

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【ノスタルジックな部屋】

 

(旅人の部屋の近くのノスタルジックな部屋の前にアイコさんが立っている。)

 

「アイコさん。中に入らないんすか?」

 

「うーん、や、まあ。入りたいんだけどさ〜先客いるから気まずいっつーか。」

 

「……気まずい?」

 

「分かってんだろ?あいつら明らか凹んでんの。オレはこんな時どんな顔すればいいのか分かんねんだよ。」

 

「キミは今まで通りでいいと思うっすよ。」

 

「……分かったよ。」

 

「…にしても、哀染はヤバそうだよね。まあ、割といつも顔色悪いけどさ。」

 

「そうっすね。白銀さんの事件から…よく眠れていないみたいっすから。」

 

「……そっか。あの2人、仲良かったんだよね?夜の密会するくらいは。」

 

(1回目の裁判でそんな話になったな。あの時、彼はーー)

 

「哀染君は、白銀さんから相談を受けたと言ってたっすね。」

 

「ああ。そういえば、天海クンは哀染と同部屋だったからそれに気付いたんだったよね。」

 

「そうっすね。その朝から…彼は雰囲気が変わったように思うっす。」

 

(良い意味もあるし、元気がないという悪い意味もある。)

 

「……あたしがサンフランソウキョウ製のケアロボットなら良かったのにね…ハア。」

 

(彼女はため息のような音を吐いて扉から離れて行った。)

 

 

(扉を開けて中に入ると、木野さんが体を震わせた。)

 

「……天海さん。」

 

「木野さん。何か見つかったっすか?」

 

(クラシックな調度品が置かれたノスタルジックな雰囲気 漂う部屋。昔 ヨーロッパで訪れた探偵博物館のようだ。)

 

「この棚…。」

 

(彼女が調べている棚に近付いて中を覗き込む。)

 

「これは…っすね。」

 

(パッケージから物騒な毒や怪しげな薬が棚の中に並べられている。)

 

「……また…毒…。」

 

(木野さんが顔を青くして俯いた。)

 

(彼女は、きっと俺と同じだ。)

 

「これまでの殺人はキミのせいじゃないっす。」

 

「……。」

 

「必要以上に責任を感じる必要はないっすよ。」

 

「……ありがとう。」

 

「……でも、私のせいで、人が死んだのは…事実だから…。」

 

(『キミのせいじゃない』そんな言葉で納得はできない。それはそうだろう。)

 

(俺だって…1回目の事件の責任を感じずにはいられない。)

 

(それだけじゃない。これまでの事件も…もっと注意深く観察していれば止められたかもしれない。)

 

(妹が行方不明になった直後と同じ後悔が押し寄せてきた。)

 

(ーーいや、全部 結果論だ。起きてしまったことより、これからどうするかを考えるべきだ。)

 

「天海さん、私、他の所を調べてくる。」

 

(彼女はそう言って、部屋から出て行った。)

 

(毒が入った棚の反対側の棚には、黒塗りのファイルが並べてある。1冊を手に取って開いた。)

 

(これは…犯罪の資料か?)

 

(痛々しい写真を添えた事件の経緯が書かれた資料。ファイル全てのページに所狭しとその犯行について書かれている。)

 

(モノクマが校舎を開放したのは結局…毒やこのファイルを見つけさせるためか。)

 

 

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【スタジオのような部屋】

 

(外から入って来た階段の近くの扉を開ける。中には城が建っていた。)

 

(…かと思えば、その城は姿を消し、今度は教室やバスルームが現れた。)

 

「何だか、舞台セットみたいだよね。」

 

「哀染君。」

 

「舞台セットに衣装…照明。スタジオみたいな部屋というより、ここをスタジオにできるくらいだよ。」

 

「哀染君が言うなら間違いないっすね。あのバーカウンターもセットっすかね?」

 

「…そうかもしれないけど、スポンサーの接待用かもしれないね。」

 

(2人で部屋の中を見たが、手掛かりになりそうなものは見つからない。)

 

(お互い無言だったのは、彼女を思い出していたからかもしれない。)

 

(彼女がもし生きていたら…目を輝かせていたに違いないから。)

 

 

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(だいたい調べられたはずだ。扉を開けて廊下に出ようとしたところでーー)

 

「ほっとけって言ってるだろ!」

 

(永本君の声が廊下全体に響いた。慌てて廊下に出ると、永本君の前で祝里さんが立ちすくんでいるのが見えた。)

 

「どうしたんすか?」

 

「あ…。」

 

「いや…悪い。急に大声出して…何もねーよ。祝里、ごめんな。」

 

(彼は顔を伏せてそう言った後、足早に外へ続く階段を降りて行った。)

 

「祝里さん、何かあったんすか?」

 

「うん…あのね……。」

 

「あ、やっぱり、これはあたしたちの問題だから…自分で考えるよ。ありがとう。」

 

(彼女もそのまま階段を降りて行った。)

 

(その後の5階の探索でも、ステージ全体の探索でも、大きな手掛かりは得られなかった。)

 

(1つ成果があるとすれば、殺人を誘発しそうな物騒なものがあるのは、5階の1室だけだということだ。)

 

 

 

【食堂】

 

(食堂にみんな集まったものの、相変わらず空気が重い。)

 

「おい、貴様ら。もう少し楽しく食べたらどうだ。」

 

「……そう、だね。」

 

「うぅ…。何か、みんなの元気が出るような発見があればいいんだけどねぇ。」

 

「よし、わたし、明日は開かない場所を解析してみるよ!もしかしたら鍵やパスワード入力で入れる場所があるかもしれないからね!」

 

「そうだね。そんなところがあるといいよね。」

 

「諦めるなァァ!もっと熱くな…」

 

「パスワード…!」

 

「え?」

 

(突然 彼が立ち上がったので、みんなは驚き食事の手を止めた。)

 

「あ、ごめん。何でもないよ。」

 

「みんな、ぼくは先に宿舎に戻るよ。ごちそうさま。」

 

(彼はそう言って足早に食堂を出て行った。)

 

(パスワード……そういえば、彼のモノパッドにはパスワード入力画面があったな。)

 

「みんなのモノパッドには、パスワード入力画面があったっすか?」

 

「パスワード入力画面?何だそりゃ。」

 

「そんなのなかったけど…。」

 

「私のも…ない。」

 

「……オレもだ。」

 

「僕のもなかったね。天海さんのモノパッドにはあったの?」

 

「いや、俺のにもなかったっす。」

 

(どういうことだ?哀染君だけが特別…なのか?)

 

(俺の質問にみんなは怪訝な顔をしていたが、やがてまた黙って手を動かし始めた。)

 

 

 

【宿舎 天海の個室】

 

(みんながバラバラになりかけている現状をどうにかできないか…。)

 

(ベッドの上で目を閉じて、クラスメイトの宇宙飛行士やピアニストの言動を思い起こす。)

 

(ーーいや、俺には無理だな。それなら…。)

 

(やり方は違えど、悪の総統を名乗るクラスメイトも、他の人間の気持ちをまとめるのに長けていた。)

 

(……いや、彼の真似はもっと無理だ。)

 

(クラスメイトたちのことを思い出しながら、俺はいつの間にか微睡んでいた。)

 

(最後に浮かんだクラスメイトは白銀さんで、とても楽しそうに笑っていた。)

 

 

 

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