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第五章 047は二度死ぬ 非日常編

 

(焦げた匂いの格納庫で俺たちを迎えたのは、黒く焼け焦げた死体だった。)

 

(嫌でも、これが誰なのか考えてしまう。確実に、ここにいない人物のもののはずだ。)

 

「ハーア、全く!こんなボヤ騒ぎ起こすなんて!」

 

「モ、モノクマが火を消したの?」

 

(いつの間にか その場にいたモノクマにみんなが目を向ける。その丸い手には何度か見たレーザー銃のようなものが握られていた。)

 

「施設が全部 燃えたらたまらないからね、火はボクが消したよ。学級裁判前にこんな重労働 強いるなんて、とんでもないクロがいたもんだよ!」

 

「まあいいや。校則にもある通り、殺人の過程での器物破損は多めに見るよ。てなわけで、いつもの配りまーす!」

 

(モノクマが声を弾ませながらモノクマファイルを配る。)

 

「……。」

 

「何?天海クン?」

 

「モノクマファイルはこれで全員分すか?」

 

「これで全員分だよ。うぷぷ…ここに いない人が被害者なのかな?」

 

「……。」

 

「あ、それとね。前回の反省を踏まえて、クロの自供は認めないこととします。」

 

「クロが学級裁判を盛り下げるようなことをした時点で、クロ含め全員おしおきだよ!」

 

(その言葉に、その場の全員が息を呑む。誰かが呟いた。「まだ終わらないんだね」と。)

 

 

(とりあえず、モノクマファイルを確認しよう。)

 

(被害者は爆撃を受けている為、身元不明。死体発見現場となったのは格納庫のトイレ。死亡推定時刻は午前2時半〜3時半頃。)

 

(死因は爆発物による第一次爆傷爆圧により即死。)

 

「…被害者は、身元不明?」

 

「損傷が激しいからね。特定には至りませんでしたー。」

 

(そんなはずはない。裁判の判決を下すモノクマが被害者を知らないなんて、あるはずない。)

 

(それに、被害者はここにいない人物のはずだ。なぜ、わざわざこんな書き方をするんだ?)

 

 コトダマゲット!【モノクマファイル】 

 

「さてさて、ではいつも通り捜査を開始してください!」

 

(明るい声を残して去ったモノクマとは対照的に、俺たちの周りの空気は重い。)

 

「とりあえず…またペアで捜査を…。」

 

「え…でも…。」

 

「どうしたんすか?」

 

「……えっと。」

 

「今回は爆弾が使われてるから、現場保存も何もないかもしれないね。」

 

「えっ、それなら、各自 調査する?べ、べべつにみんなの中にいる黒幕を疑ってるわけじゃないんだけどね!?」

 

「……。」

 

(現場以外で証拠品が隠蔽される危険性がある。けれど、黒幕の存在が示唆されたせいで みんなの猜疑心が強くなってしまった。)

 

「人数も少ないし、手分けするのが…いいんじゃねーか?」

 

「天海さんといつもペアだった哀染さんもいないから、ね。」

 

「……。」

 

(ここにいるのは、6人。いないのは……哀染君ただ1人だ。つまり、目の前の遺体はーー)

 

(そそくさと散っていくみんなを横目に、俺は遺体に近付いた。)

 

 

(辛うじて人の形と分かるものの、真っ黒で服はおろか皮膚もほとんど残ってないようだ。)

 

「天海、この死体…うつ伏せだよな?」

 

(口元を押さえた永本君が眉を寄せながら近付いて来た。彼が死体の近くにいるのは珍しい。)

 

「仰向けにするの…手伝ってくれねーか?」

 

(俺は彼と遺体を仰向けに返した。予想以上に質量がなくて、本当にこれが人間だったのかも疑わしいぐらいだ。)

 

(その時、コロリと何かが落ちた。人体の一部かと思ったその黒い物体は、キラリと光を放っている。俺はそれを拾い上げて、ポケットへ入れた。)

 

「この死体、背面の方が損傷が激しいね。」

 

(いつの間にか佐藤君も近くで死体を観察している。)

 

「…どういうことだよ。それ。」

 

「背面は爆圧でぐちゃぐちゃだけど、正面…顔側は焼けただけみたいだよ。これはどういうことかな?」

 

「……被害者は立った状態で 後方で爆発があったってことっすね。」

 

「何で立った状態ってことまで分かるんだ?うつ伏せでも同じような死体になるんじゃねーか?」

 

「ここは狭いし…うつ伏せなら、死体の左右もしくは頭か足側で損傷具合に差が出るはずだよ。でも、この死体はそうじゃない。」

 

「トイレ内の焼け跡を見るに…被害者はこの小窓近くに、窓を見る形で立っていた。その後方…この辺りで爆発があったんだよ。」

 

「正面は爆傷以外 刺し傷も打撃痕もなさそうだね。綺麗に焼けてる。」

 

 コトダマゲット!【死体の状態】 

 

「……。」

 

(しばらく永本君は遺体を見た後、黙ってトイレから出た。)

 

「永本君、どうしたんすか?」

 

「哀染を探してくる。」

 

「え?」

 

(言葉をかける間もなく、永本君は格納庫から出て行った。)

 

「……永本さんは、この死体が哀染さんじゃないと思ったみたいだね。」

 

「哀染君じゃない?」

 

(言われて遺体に目を向ける。そこで、違和感に気が付いた。)

 

「この死体、女性のものだね。胸の辺りのこれ、脂肪だよ。」

 

「確かに…あるっすね。」

 

(正面の損傷が激しくないためか、体のラインがよく分かった。これは女性の死体だ。けれどーー)

 

「でも、身長は男性並みだね。哀染さんの身長に近い。哀染さんくらい身長が高い女性はそういないはずだけど。」

 

(そういえば…彼女は、哀染君と同じ身長だったはずだ。)

 

 

「普通に男の子たちとあんまり変わらないからね。あ、哀染君と同じ身長だ。アイドル男子と同じ身長って地味にテンション上がるね。」

 

 

「これが女性の死体なら、哀染さんは どこかで生きてる。永本さんは それで行っちゃったんだね。」

 

「どうかな?天海クンと佐藤クンがバンバン推理するからスネてるだけかもよ?」

 

「……モノクマ。」

 

「何しに来たの?」

 

「ああ…ボクの登場に驚いてくれる人がいなくなってしまった…!白銀さんも妹尾さんも哀染クンも…!みんな、みんな いなくなってしまった!」

 

「……。」

 

「この死体は女性のものみたいだけど、哀染さんなの?」

 

「え?それは自分たちで考えなよ。ボクは人間のオスメスなんて正直 興味ないからね。」

 

「むしろ また性別トリックとかだったら容赦しないよ!ここのライターは無能なナナ…じゃなくて無能なバカだね。」

 

「……相変わらず何言ってるかわからないね。ーー天海さん。」

 

(佐藤君がモノクマを見て嘆息した後、こちらに耳打ちした。)

 

「捜査時間中、モノクマを見張っててくれないかな?放っておくと、またみんなの不安やコンプレックスを煽りそうだからさ。」

 

(そして、モノクマに向かって矢継ぎ早にまくし立てた。)

 

「モノクマ。天海さんは相棒の哀染さんがいなくて、捜査に身が入らないみたいなんだ。一緒に捜査してあげたら?」

 

(俺は何ひとつ了承していないのだが。)

 

「えー、何でボクが。天海クンの横に立ったりしたら身長の低さが目立っちゃうでしょー!」

 

「……。身長 依然の問題だから大丈夫。僕らの心のケアも仕事なんでしょ。じゃ、僕は永本さんを探して来るから。」

 

(佐藤君はさっさとトイレから出て、格納庫の出口へ走って行った。)

 

「何だか、体良く押し付けられた感じだなぁ。」

 

(こっちのセリフだ。)

 

「正直 天海クンの傷なんて癒してる時間はないけど、妹もバディ組んだことあるらしいからね。」

 

「お兄ちゃんとしては、妹よりも経験値と個体数が多くなきゃいけないし、付き合ってあげるよ。モノクマがナカマにくわわった!」

 

(モノクマにも妹がいるのか…別に知りたくなかったな。)

 

(ため息を吐いて、もう1度人の形をした黒いシルエットを見下ろす。)

 

(この遺体は女性のもの。永本君は哀染君がどこかにいると探しに行った。でもーー)

 

(先ほどポケットに入れたものを握りしめた。)

 

(前のステージで、俺が哀染君にあげたカフスボタンだ。火事の熱や爆圧のせいか、金属部分が歪な形になっているものの、間違いない。)

 

 

「それでそれで?どこから調べるのかな?」

 

(もう少し周辺を見ておくか。)

 

(といっても、トイレの中は真っ黒で、証拠と言えそうなものは何もない。)

 

「モノクマがここの火を消したのはいつっすか?」

 

「……消化活動を始めたのは4時頃だよ。やっと火が消えた頃にオマエラが来たんだ。」

 

「そうっすか。」

 

(長い時間 トイレは焼けた。スス汚れの中でカフスボタンを見つけたのは幸運だったのかもしれない。)

 

(……見たところ、周囲にモノパッドはない。爆発によって砕け散ったのか?)

 

 

 

【格納庫】

 

(トイレを出て格納庫を見渡す。格納庫内もススだらけだ。)

 

(これじゃ特に手掛かりは見つからなさそうだな…。)

 

「……天海君、何でモノクマと一緒にいるんですの?」

 

(プレス機 周辺を見ていたアイコさんが鋭い眼差しを向けてきた。)

 

「はあ、まあ色々ありまして。」

 

「ボクらは今 相棒なんだよ。冷静沈着なボクと熱血漢な天海クンっていう相棒だよ!」

 

「いや、天海はどっちかってーと ちょっと未熟なイケメン御曹司の相棒だろ!」

 

(…何の話をしてるんだ?)

 

「天海よ。永本と佐藤がさっき走り去って行ったが、何かあったのか…?」

 

(永本君が哀染君を探しに行った…というのは、伏せておくか。)

 

「何か手掛かりを思い付いたのかもしれないっすね。アイコさんは何か見つけたっすか?」

 

「いや、そもそもススばかりで何も分からんのだよ。コンクリートと鉄ばかりの部屋だというのに、こうも真っ黒とは!」

 

「いや〜、一生懸命 消化したんだけどね〜。証拠があっても 既に焼けてなくなっちゃったのかもね〜。」

 

「一生懸命って本当かいな。」

 

(確かに、格納庫内は壁や床、機材などが黒く歪んでしまったこと以外、昨日と変わりないようだ。)

 

「そーいえばさ、格納庫の外の廊下からトイレが見える窓があったよね。」

 

「あったっすね。佐藤君によると、あの窓の外を見ている状態で被害者は爆撃を受けたらしいっす。」

 

「ひぇ、そ、そうなんだ…。何でそんなこと分かるのぉ。佐藤の才能って “超高校級の鑑識”?」

 

「警察官になるには少なくとも高校卒業してる必要があるっすけど…。」

 

「あ、そうなんだぁ☆」

 

「そうそう、あの窓なんだけどねぇ、木野さんがねぇ。窓が開いてなければバックドラフトの可能性があったって言ってたよぉ。」

 

「バックドラフト…。」

 

(気密性の高い空間での火事の時、扉を開けて急に空気が入ることで起こる爆発的な引火現象だな。)

 

「バックドラフトがなかったのはボクが頑張ったからであって、トイレの窓のおかげではないんだけどなぁ。」

 

「全く、一体どこから爆弾なんて持って来たんだか。」

 

(…まだモノクマは爆弾があった あの建物が開いていたことを知らないのか?)

 

(でも、それには違和感がある。)

 

(モノクマが用意した施設について知らないのはおかしい。それにーー)

 

「ねえ、天海くん…。」

 

(気付けば、アイコさんが低く絞った声で間近にいた。)

 

「爆弾 殺人ってことは、やっぱ…あそこの爆弾が使われてんだよな?天海、見て来てくれよ。」

 

「…今は無理っすね。モノクマにつきまとわれてるんで。」

 

(犯人が使った爆弾は間違いなく、あのメカメカしい建物にあったものだ。モノクマを撒いてから調べなければならない。)

 

「そっかぁ。でも僕も、あそこは入れないんだよねぇ。あ、入るには入れるんだけどねぇ。」

 

「そうだったっすね。キミのAIは あの部屋で機能しない…。」

 

(じゃあ…モノクマはどうだ?モノクマもアイコさんと同じように思考できなくなるならーーいや、危険かもしれない。)

 

(モノクマを撒いてからでも、遅くないだろう。)

 

 コトダマゲット!【アイコのAI】 

 

「それにしても、哀染君の死体…本当に痛々しいわ。彼がまさか、あんな風になるなんて…。」

 

(アイコさんはトイレの方へ目を向けてため息を吐いた。)

 

「哀染クン、昨日の夜遅くにも色々 調べてたみたいなんだ。」

 

「そうなんすか?」

 

「うん。昨日の夜 宿舎を出る哀染と会ったんだよね。『眠れないから色々調べてる』って言ってたよ。」

 

「調べ物って言って校舎向かったから、わたしと話した後 校舎5階の某探偵の部屋みたいなところへ行ったんだと思う。」

 

「あの時、オレが『部屋で寝ろ!』って止めてたら…哀染は死ななくて済んだかもしれないよな。」

 

(アイコさんが沈んだ声を出すが、俺は何も言えなかった。『キミは悪くない』なんて言葉では、何も変わらない。)

 

 

(現場はだいたい調べたはず…だが、分かっていることが少なすぎる。)

 

あれが哀染君なのかどうかすら、今の俺には何とも言えない。)

 

(けれど、カフスボタンは確かに哀染君に渡したものだ。)

 

「ねーねー、天海クン。いつまで こんな焼け跡を調べてるつもりなの?」

 

「……黙っててほしいっすね。」

 

「ひ、ひどい!ボクは寂しがり屋なキミのために隣にいてやってるのに!キィー!」

 

(持っていたレーザー銃をハンカチみたいに噛みしめるモノクマを無視して、格納庫の建物を出た。)

 

(あのレーザー銃が暴発すればいいのに。)

 

(さて、次に調べるところだが…爆弾があった部屋はモノクマが一緒だから調べられない。)

 

(気になるのは…哀染君の自室と、彼が深夜に向かった校舎5階のノスタルジックな部屋か。)

 

 

 ノスタルジックな部屋に行く

 宿舎 哀染の部屋に行く

全部見たな

 

 

 

【校舎5階ノスタルジックな部屋】

 

(校舎5階の部屋を開ければ、一瞬で その異常に気が付いた。)

 

(部屋の真ん中に残る血痕と血の中に転がる置物によるものだ。)

 

「……何でモノクマといるの…。」

 

(部屋で血痕を前にルミノール試薬を構える木野さんが、モノクマを見るなり顔を青ざめさせた。)

 

「つきまとわれてるだけっすよ。」

 

「いやぁ、天海クンが1人で捜査するのは寂しいって言うからね。ボクが同行してあげてるんだよ。」

 

「天海クンと捜査してくれる人は もういないからね!」

 

「……そう。」

 

(木野さんは小さく呟いて、俺たちから視線を逸らした。)

 

「……木野さん、この血痕は?」

 

「…私が部屋に入った時にはあった。」

 

(昨日 俺が来た時はこんな血痕はなかった。哀染君が昨日の夜ここに来たことと無関係ではないだろう。)

 

「この血痕 以外…この部屋に血が流れた形跡は…ないよ。」

 

「被害者が この置物で殴られた可能性が高いっすね。」

 

「え〜、痛そ〜かわいそ〜。」

 

「……でも、ここから格納庫の間も…血痕や血を拭き取った形跡はない…。」

 

「なるほど…妙っすね。」

 

「妙だね。匂う、匂うよ。事件の匂いだ!」

 

「……黙ってて。」

 

(血を流した被害者を格納庫に運んだなら、その間に血痕が残らないのはおかしい。)

 

(ーーいや、方法ならある。確か犯罪ファイルにはその方法が書かれていた。)

 

(けれど、トリックを使うのは、被害者の動線を隠すためのはず。どうして犯人はここの血をそのままにした?)

 

(ルミノールがあれば すぐバレると分かっていたからか?それともーー)

 

 コトダマゲット!【校舎5階の血痕】 

 

(それに、わざわざ格納庫まで被害者を連れて行く理由は何だ?気を失った被害者を格納庫まで連れて行くのは重労働だ。)

 

(哀染君くらいの重さなら、時間をかければ誰でも できないことはないが…。)

 

 

「重いだろうけど、よろしくね。」

 

「いや、思ってたよりずっと軽いっすね。」

 

 

(前回のステージで事件を捏造しようとした時、引きずった彼の体重は思いの外 軽かった。)

 

(モノパッドにあるプロフィールの体重よりも確実に軽かったはずだ。)

 

「……私、もう行く。」

 

(俺が考えていると、木野さんは目を合わせずに部屋から出て行った。)

 

「おやおや、天海クン。キミ嫌われてるんじゃないの?」

 

(……モノクマのせいだろう。)

 

(昨日 哀染君はここの犯罪ファイルを読み漁っていたな。)

 

(俺たちが させられているコロシアイと動機が酷似した殺人…。今回の事件と関係あるのだろうか。)

 

 

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【宿舎 ホール】

 

(宿舎の哀染君の部屋の前に、祝里さんが立っている。)

 

「あ…らんたろー…とモノクマ…?」

 

「モノクマは気にしないで欲しいっす。つきまとわれてるだけなんで。」

 

(彼女が何か言う前に言えば、祝里さんは少しだけホッとしたような顔をした。)

 

「キミもここを調べてたんすね。」

 

「う、うん。でも、鍵掛かってるんだ。えっと…鍵、見つけた?」

 

「いえ、格納庫のトイレにはなかったっすね。」

 

「……そっか。爆発に巻き込まれたのかな。」

 

「ボクの出番のようだね!」

 

(モノクマが話に割って入って来て、扉の前に飛び出す。)

 

(そして扉を押すと、抵抗なくドアが開いた。)

 

「どうどう?ボクは相棒として優秀でしょ?天才で人外で横暴な最高で最高の相棒でしょ?」

 

「……。」

 

(モノクマが自分を褒め称える言葉を繰り返す。それを無視して部屋に入った。)

 

 

 

【宿舎 哀染の個室】

 

(哀染君の部屋は俺の部屋と大きな違いはなかった。)

 

「あたしの部屋とは色調が違うんだね。えーと…あたし、机 調べるね。」

 

(祝里さんは俺から視線を逸らして机に向かう。どこか よそよそしいのは、黒幕を警戒してのことだろう。)

 

(俺はクローゼットを調べるか。)

 

(クローゼットを開ける。中には、哀染君が着ていた舞台衣装のような服が並んでいた。)

 

(その他、タオルやハタキなどが入っている。)

 

(このハタキは…前回のステージで哀染君が使っているのを見たな。前のステージでもらったから持って来たと言ってたか。)

 

(ハタキを手に取ると、その下に隠されるように置かれた封筒が目に入った。見覚えがある。)

 

(これは…前谷君と哀染君の手紙か?)

 

(俺は少しだけ迷って、その封筒から手紙を取り出した。)

 

「あれれ、天海クン。人の手紙を盗み読みなんて悪趣味だよ?」

 

(モノクマが後ろから覗き込んでくる。無視して読もうとするものの、「非常識」「ムッツリ」「デリカシーなし」など後ろから言われて集中できない。)

 

(仕方なくポケットに手紙をしまい、机の方へ向き直った。)

 

「祝里さん、そっちは何かあったっすか?」

 

「え!?え?…ない!ないない何もない!」

 

「…?どうしたんすか。慌てて。」

 

「あ、慌ててないよ?万事窮すだよ?」

 

(万事順調と言いたいのか?)

 

「そうだよ天海クン!女性が隠したいことといえば体重とか怪しげなメモがあったとかなんだから!野暮なこと言わないの!」

 

「怪しげなメモ?」

 

「モノクマ見てたの!?」

 

「祝里さん、メモとは?」

 

「う…。」

 

(彼女は しばらく目を泳がせた後、俺にメモ紙を寄越した。)

 

「机の上に…あったんだ。」

 

「……?これは どういうことっすかね?」

 

(メモに書かれていたのは、『NAGAMOTO KEI』の文字。)

 

(いくつかの字は斜線で潰されている。)

 

「わ、分かんないよ…。何で、けいの名前を書いたんだろ…。」

 

 コトダマゲット!【哀染のメモ】 

 

(念のため、バスルームも調べてみるか。)

 

(バスルームを開けて中を見ると、洗面台に見慣れたものを発見した。1人1台 支給されたモノパッドだ。)

 

(モノパッドを起動させる。しばらくして、持ち主の名前が表示された。間違いなく、哀染君のモノパッドだ。)

 

(なぜモノパッドがここにあるんだ?)

 

(もし哀染君が被害者なら、格納庫で死んだはずだ。モノパッドを哀染君は携帯していなかった?)

 

(モノパッドの携帯は校則に書いてあったはずだ。校則違反は処罰されるんじゃないのか?)

 

「……。」

 

 コトダマゲット!【哀染のモノパッド】 

 

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「モノクマ。モノパッドは携帯していないと校則違反のはずっすよね。」

 

(建物から出た俺は、哀染君のモノパッドを手にモノクマに向き直った。が…。)

 

「あ、そろそろ時間だね。キミとの相棒ごっこは これでしまいさ。ボクはこれにて失礼するよ。」

 

(モノクマはそう言って、ポンと手を叩き消えた。)

 

(……今のうちに爆弾があった あの建物に行くか。)

 

「天海さん。」

 

(メカメカしい建物の方へ歩き出すした瞬間、後ろから声をかけられた。)

 

「佐藤君。永本君は見つかったっすか?」

 

「いや、いなかったよ。」

 

「そうっすか。俺は今から爆弾があった部屋に行こうと思ってるっす。」

 

「あの建物?永本さんを探すついでに調査したけど、何もなかったよ。」

 

「一応、自分でも見ておきたいんすよ。」

 

「天海さん。それより、覚えておいてほしいことがあるから聞いてくれる?」

 

「何すか?」

 

永本さんの才能だよ。」

 

「永本君の才能?」

 

「うん。もし本当に哀染さんが生きているなら、永本さんは哀染さんを見つけ出せると思うんだ。」

 

(佐藤君は淡々と話し出す。俺の怪訝な顔を見て、彼は困ったように笑った。)

 

「永本さんはね、本当に幸運の持ち主なんだよ。」

 

「永本さんが本当に哀染さんを見つけ出したいと願ったら…彼は哀染さんを見つけることができる。」

 

「……根拠があるんすか?」

 

「うん。例えば、永本さんがクラス会に招待された時、手違いで時間を教えられなかったことがあったんだ。」

 

「でも、それでも、彼は必ず時間 通りに来た。」

 

「こういうことが何度もあったんだよね。だから、彼の才能は そういうものなんだと思う。」

 

「…なるほど。待ち合わせには便利っすね。」

 

「彼の周囲で起こることが直接的に幸運とは思えないことも多いけどーー彼の “超高校級”の才能なんだよ。」

 

「……。」

 

「別に信じなくてもいいけどね。この話、覚えておいてね。」

 

(佐藤君は笑顔のまま、宿舎の奥の階段を降りて行った。)

 

(今の話は、そんなに重要なことだったのか?それに、一昨日 彼が言っていたことと違う。)

 

 コトダマゲット!【超高校級の幸運の才能】 

 

 

『時間になりました!オマエラ、裁きの祠に集まってください!』

 

(メカメカしい建物に向かう途中で、アナウンスが鳴り響いた。)

 

(時間切れか。爆弾について調べられなかったな。)

 

(いや、大丈夫だ。みんなを信じろ。)

 

(ーーけれど、その みんなは黒幕の存在を疑うあまり、どこかよそよそしい。)

 

(こんな状態で、学級裁判を乗り切れるのか…?)

 

(ポケットに手を入れてカフスボタンを握りしめた。そして、同じようにポケットに突っ込んでいた手紙を取り出す。)

 

(哀染君とクラスメイトの前谷君の手紙だ。おそらく、事件を解決する手掛かりにはならなさそうだがーー…)

 

(『哀染先輩、お疲れ様です。先輩と話すことができないので、手紙を書いてみました。』)

 

(これが、初めの手紙だろう。そこから、哀染君とクラスメイトだった時の記憶が綴られている。そして、こんな一文が続けられていた。)

 

もう一度お礼を言わせてください。自分は哀染先輩に本当に感謝しています。

たとえ、今のあなたが自分の知っている哀染先輩の姿と違っていても、自分は気にしません。

あ、それにこんなこともありましたね!

 

「………。」

 

(どういうことだ?前谷君と哀染君はクラスメイト。だが、哀染君の姿が前谷君の知る姿と違う?)

 

(哀染君から前谷君への返事は、質素なメモ紙に書かれている。確かに見覚えのある筆跡で、丁寧な返事が並んでいた。)

 

光太君、手紙ありがとう。元気かな?って、こんな近くにいて聞くのもおかしいけどね。…………

実は、お願いがあるんだ。ぼくの姿が前と違うことは、みんなに内緒にしてほしい。ちょっと恥ずかしいからさ。

 

(哀染君は、前谷君に口止めしてる…のか?)

 

(次の前谷君からの手紙を開く。動機となった惚れ薬や前谷君の早朝トレーニングについて書かれていた。)

 

お返事ありがとうございます!例の件も安心してください!!

今の哀染先輩の姿が違うことは絶対 話しません!

 

(最後の手紙は、前谷君が死ぬ前日に書かれたものだろう。子守唄で眠ってしまった永本君について。そして、俺のことについても書いてあった。)

 

哀染先輩も天海先輩も、人を助ける力を持った素晴らしい人です!

もし犯罪を目論む人物がいるとしたら、きっと先輩方のような凄い人たちを全力で潰しにくるはずです。

 

(全力で潰しにくる…か。哀染君は……潰されて…しまったのだろうか。)

 

(首すじに冷えた風を感じた気がした。)

 

 コトダマゲット!【哀染と前谷の手紙】 

 

 

【裁きの祠】

 

(モノクマに指定された場所に みんなが揃っている。)

 

(みんなと言っても、永本君、佐藤君、祝里さん、木野さん、アイコさんと俺の6人だけだ。)

 

「永本君。その……見つかったっすか?」

 

「いや…どこにも、いなかったよ。……でも、そんなはず、ないだろ…。」

 

「永本さんでも見つけられなかった、か。」

 

(佐藤君がこちらに視線を送ってくる。俺は何とも言えずに視線を落とした。)

 

(しばらくすると、中央の石像が動き出した。開かれた道と門をくぐった先に、今までと同じようなエレベーターがあった。)

 

(少ない人数でもエレベーターは今までと同じように、下降し始めた。)

 

 

(この中に…殺人を犯した人間がいる。)

 

(被害者は哀染君なのか…それすらも まだ確信が持てないけれど。)

 

(俺は…俺たちはその犯人を見つけなければいけない。そうしなければ、待っているのは…死だ。)

 

(こんなところで終われない。俺を待っている妹たちのためにも…。みんなのためにも。乗り越えてやる。)

 

(この、命がけの学級裁判を…!) 

 

 

 

コトダマリスト

 

【モノクマファイル】

被害者は爆撃を受けている為、身元不明。死体発見現場となったのは格納庫のトイレ。死亡推定時刻は午前2時半〜3時半頃。

【死体の状態】

死体は爆発によって黒焦げになっている。背面側の損傷は激しいが、正面側は焼けただけだと思われる。正面側に刺し傷や打撃痕は見られない。

【校舎5階の血痕】

校舎5階の”ノスタルジックな部屋”に血の付いた置物と血痕が残されている。部屋にあった置物で被害者が殴られたと思われる。

【哀染のモノパッド】

哀染の個室から見つかった。モノパッドは校則で携帯が義務付けられている。

【哀染と前谷の手紙】

哀染の個室から見つかった手紙。3つ目のステージで前谷と哀染でやり取りしていた。前谷の手紙には『今の哀染が自分の知っている哀染の姿と違う』、哀染の手紙には『自分の姿について みんなに言わないでほしい』という内容が書かれている。

【哀染のメモ】

哀染の個室から見つかった。『NAGAMOTO KEI』と書かれていて、いくつかの文字は斜線が引かれている。

【超高校級の幸運の才能】

佐藤によると、”超高校級の幸運”は時間が指定されていなくても待ち合わせが可能らしい。

【アイコのAI】

アイコはメカメカしい建物に入ると自分のデータバンクにアクセスできず、思考できない。

 

 

学級裁判編に続く

 

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