第六章 See you (again). 学級裁判編Ⅰ
コトダマリスト
モノクマによって配られた本。”希望”と”絶望”の戦いの歴史がまとめられている。人類史上最大最悪の絶望的事件を起こした”超高校級の絶望”、過去のコロシアイ、未来機関と絶望の戦いなどについて記載されている。希望ヶ峰学園は、生徒の募集を行わず、スカウトのみによって生徒を集めていたという記載もある。
A4用紙に、16人分の”期”と名前が書いてある。
59期 松井 麗ノ介、夕神音 美久、リー・ファン
66期 山門 撫子
70期 祝里 栞、木野 琴葉、嵯峨 心弥、永本 圭
82期 哀染 レイ、妹尾 妹子、前谷 光太
96期 AIKO‐1123581321345589
99期 芥子 ぽぴぃ、郷田 毅
103期 天海 蘭太郎、白銀 つむぎ
“メカメカしい建物”のコンピュータから発見したデータ。内容は、
参加者の中には、学級裁判を導く主人公枠がいなければならない。
参加者の中には、調和を乱すトリックスター枠が1人いなければならない。
参加者の中には、途中で退場するヒロイン枠が1人いなければならない。
参加者の中には、alter ego枠が1人いなければならない(以下AI枠とする)。AI枠の姿は、アップデートまたは参加者たちが記憶を共有する人物に変更が可能。
参加者の中には、家ないしグループに起因するリーダー枠が最低1人いなければならない。ただし、リーダー枠が必ずしもコロシアイ生活でリーダーの役割を担う必要はない。
参加者の中には、サブカルチャーオタク枠が1人いなければならない。
参加者の中には、体の大きい筋肉枠がいなければならない。
参加者の中には、武道家ないし格闘家枠が1人いなければならない。これは筋肉枠と兼ねても差し支えない。
参加者の中には、”超高校級の希望” 候補がいなければならない。
ストレス耐久テスト、体細胞クローン、人の遺伝子操作などの実験レポート。人体実験をしていた可能性がある。
前回のおしおき中、佐藤は『47』の数字を残した。元素番号47は銀を示す。
佐藤の個室で見つかった白銀のモノパッド。哀染が1回目の事件の捜査時間に回収して、持ち歩いていたと思われる。
白銀のモノパッド内のパスワード入力画面に”11037″を入れることで再生された。記憶を失った白銀 つむぎから、記憶を失った後の白銀 つむぎに宛てたメッセージになっている。メッセージによれば、白銀が前回のコロシアイの生存者だったという。さらに、この世界がフィクションであることを語っている。
学級裁判 開廷
「やあ、みんな!卒業試験会場へようこそ!」
「さっきも来ましたが。」
「早速始めましょうか。この裁判では、オマエラが集めた資料について話し合い、最終的に卒業するかどうかを判断してもらいます。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……って、何でみんなもう絶望顔なの?その顔はこの学級裁判の中盤からって決まってたのに!」
「うっせうっせー!こっちも色々あったんだよ!」
(裁判場はいつも以上に重苦しい雰囲気に包まれている。)
(理由は明白だ。モノパッドに残されていた白銀さんの、あの言葉。)
(俺と違って、みんなが白銀さんと過ごした時間は わずかだーーけれど、みんな あの言葉を半信半疑程度には信じているのだろう。)
(ここが本当に彼女の言うような世界なら…俺がここにいる理由は何だ?俺が存在する意味は…あるのか?)
(足が地に着いていない感覚が続いている。そんな中、アイコさんの言葉でみんなは顔を上げた。)
「皆様、お気持ちは分かりますが…まだ あれが真実とは決まっていません。」
「そうそう。今から絶望してたら、どこで盛り上がればいいのって話だよ。起承転結 考えて進行していこう!」
「…それに、天海にはワリーけどよ、俺はあまり白銀の言うことを信じられねー。」
(白銀さんが黒幕…って話も出ていたからな。)
「あ、ああ。そう…だな。あれが本当の話とは…思えねー…。」
「そっか。この世界が……なんて、そんな馬鹿なことあり得ないよ…ね?」
「うん。私たちは…眠るし、食べる。生きてる。」
「琴葉ちゃん!それはアイコへの挑戦っすか?食べられないアイコは生き物じゃないってことっすか!?」
「そんなこと…言ってない。」
「は、はは、アイコ お前…また そんなこと言ってんのかよ。」
「そ、そうだね!アイコだって…たぶん、生きてるよ!」
「たぶんたぁ なんでぃ!?」
(アイコさんがいつも通りだからか、少しだけ雰囲気は和らいだ。)
(ーー俺は内心穏やかではないが。)
(俺の知る白銀さんが、黒幕だなんて考えられない。彼女が嘘をつく理由がない。それなら、彼女の言葉は本物でーー…)
(彼女を信じれば信じるほど、自分も世界も信じられなくなる。彼女を信じているからこそ、絶望に落ちていく。)
(ーーいや、今は真実を見つけることに集中しろ。)
(俺は知りたい。この世界のことも。彼女の…白銀さんのことも。)
「みんな、まずは外の社会とやらについて話しましょう。」
「ああ。外が どうなってるか…だったな。」
「う、うん。そう…だね。」
「外のこと…知らなかったことがたくさんあった…。」
「にわかには信じられない資料が見つかっているっぴゃ。」
「希望ヶ峰学園公式資料集だっけ?確かに、信じられないことばっかり書いてあったよね。」
ノンストップ議論1開始
「希望ヶ峰学園が発端で起きた人類史上最大最悪の事件…。」
「学園内でのコロシアイってのも書いてあったよな…。」
「で、では、ここから出ても殺伐とした世界が広がってるということかね!」
「え…でも、希望と絶望の戦いは終わったんだよね?」
「沈静化されて、少し平和を取り戻している…公式資料集にも書いてあるよ。」
「平和な世界なのに、オレたちはこんなコロシアイに参加させられてんだよな…。」
「希望ヶ峰学園でのコロシアイはこのコロシアイと酷似している。学園と俺たちに起こっていることは無関係ではないだろう。」
「でもよ、オレたちと希望ヶ峰学園は関係ないだろ?」
「え、何?分かんないよ。」
(俺も分からない。……考え直そう。)
△back
「それは違うっす。」
「希望ヶ峰学園は、俺たちの通う学校の名前なんすよ。」
「そうそう!わたしと天海君って同じ高校だったんだよ!」
「そうだったんだ。じゃあ、つむぎも?」
「はい。でも、白銀さんとアイコさん、俺だけじゃないはずっす。」
「どういうこと?」
「みんなも、希望ヶ峰学園の生徒だったはずっす。」
「は?」
「希望ヶ峰学園 被験者リスト…その資料はあたしも見たけど、あたしたちは学校の名前 思い出せてないんだよ。」
「リストにあるってことは、オメーらも希望ケ峰なんだろ?思い出す情報が制限されてたのかもしんねーな。」
「何でそんなこと…?」
「この被験者という言葉も…気になるよ。」
「知らない名前もあるよね。」
「ああ。リー・ファンや嵯峨…AIKO-1123581321345589って何だ?」
「あ、最後のはアイコの正式名称やね。言ってしまえば、製造番号やで。」
「えっと、嵯峨…ここみ…かな?この人って…もしかして?」
(さが ここみ…か。)
▼嵯峨 心弥とは?
「…誰のこと?」
「……誰でしょうね?」
(リストには永本君と祝里さん、木野さんの名前が横にあったな。)
△back
「もちろん、キミたちのクラスメイト、佐藤 ここみ君…と名乗っていた彼っすよ。」
「佐藤さんは…偽名だった?」
「いや、普通に学校でも佐藤だったぞ?…記憶の中では、だけどさ。」
「……じゃあ、両親が離婚して氏名が変わった…のかも。」
「ここみって名前、漢字だったんだね。」
「”しんや”かもしんねーけどな。学校で違う名前を名乗ることなんて、できんのか?」
「まあ、偽名にしても改名にしても、書類上のことは どうにでもなりますわ。」
「それより、名簿と彼が名乗っていた名前が違うことが気になるわ。…何か企んでいたのかしら?」
「……あいつはイレギュラーだった。学校にいた時も…何か企んでいたってことだよな…。」
「まさか…彼は資料にあった“絶望”だったのでは?」
「佐藤君が”絶望”というのはおかしいっすよ。」
「このコロシアイが希望ヶ峰学園のコロシアイと同じなら、自分がクロになって裁判を誘導したり、ステージを爆破したり…そんなことはしないはずっす。」
「”絶望”の行動は理解不能なので、しないとは言い切れませんが。」
「ここみが”絶望”なんて…信じられないよ。どうして、あたしたちに本当の名前を教えてくれなかったんだろう…。」
(前回の佐藤君の様子から、”絶望”だったとは思えない。彼が偽名を使っていた理由は…。)
1. 永本の存在
2. 木野の存在
3. 祝里の存在
「何で?」
「どういうことだよ?」
(……クラスでも偽名を名乗っていたとすると…クラスメイトに名前を知られたくなかったということだ。)
△back
「これは想像っすけど…祝里さんがいたからじゃないっすか?」
「え!?あ、あたし?」
「祝里さんの呪術には、名前も使うんすよね?」
「え、うん…。人の顔と名前を覚えて…。おまじない…してたよ。」
「おそらく、それが佐藤君が名前を偽った理由っす。」
「”超高校級”は良くも悪くも有名人っすから…祝里さんの呪術に名前が必要だと知り、念のため偽名を名乗った。」
「えっ…。」
「あ、あたし……クラスメイトに…ひどいことする気なんて…。」
「気にすんなよ。佐藤は ただ警戒心が強かっただけだ。」
「そうだ。しかもオメーは呪いでどうなるか自覚もなかったんだろ?」
「……うん。ごめん、落ち込んでる場合じゃないね。」
「佐藤さんは、本当は嵯峨さんだったんだね。……じゃあ、このリー・ファンって人は…?」
(リー・ファン。近隣国でよくある名前だな。)
▼リー・ファンとは?
「国籍、違うんじゃねーか?」
「……その通りっすね。」
△back
「ローズさんっす。夕神音さんや松井君とクラスメイトだった、彼女っすよ。」
「ローズ?えっと、ローズも、もしかして…あたしがいたから、偽名を名乗ったのかな?」
(世界中を旅して、たくさんの中国語圏の留学生や旅人と出会ってきた。)
(ローズさんが本名と違う名前を名乗っていても特におかしくはない。ローズさんの名前は…。)
1. 黒の組織のコードネーム
2. 留学先で名乗る英語名
「えーと、マンガやドラマの見すぎじゃないかな?フィクション世界で生きてるの?」
(それは今、禁句だろう。)
△back
「ローズさんは留学生っす。ローズという名前はリー・ファンという本名の代わりの英語名っすよ。」
「中国語圏の人は、名前が欧米では覚えられにくいから自分で決めた英語名を名乗ることが多いんす。」
「別に覚えにくくねーと思うけど…。」
「欧米じゃないのに、何でわざわざ?」
「俺たちからしたら覚えにくいわけじゃないっすけど、ローズさんは他の留学生と交流する機会も多かったはずっすから。」
(それに、薬の密売なんて怪しげなこともしてたみたいだし。英語名があった方が都合が良かったんだろう。)
「しかし…このコロシアイの中で名前を偽っていたというだけでも…疑心暗鬼のタネになりかねん。」
「佐藤やローズが黒幕なんじゃないの?資料にある”絶望”なんじゃないのって!どーしても疑っちゃうよぉおぉぉぉ!」
「……。」
「その可能性は少ないんじゃないでしょうか。ローズさんは59期、佐藤君は70期っすから。」
「どういうこと…?」
「彼らが江ノ島 盾子と接触した可能性は少ないんすよ。少なくとも、学生時代は。」
「学生時代はって、何言ってんだよ。…その名前の横にある70期とかって…。」
「……江ノ島 盾子や、希望ヶ峰学園のコロシアイに参加していたのは78期生だったはずっすね。」
「ああ、公式資料によるとな。そんでもって、ジャバウォック島の奴らが77期ーーって、ちょっと待て!?」
(この数字は…やはりーー)
1. 学年
2. 平均体重
3. 偏差値
「平均や偏差値の意味をご存知ありませんようで。貴殿の良識の狭さたるや太平洋の海原のようですな。」
(海の向こうの人のような皮肉だな。)
△back
「これは、もちろん俺らの学年。希望ヶ峰学園の何期生かを指す数字っす。」
「なーんだ、そっか。なら、毎年1人のはずの“超高校級の幸運”や、無駄に“超高校級の探偵”が多かった理由にも説明 付くね!」
「って、ちょっと待てーい!」
「いや、おかしいだろ。オレらは同い年なんだぞ!」
「そうだよ!それじゃ、あたしたちと、らんたろーたちが30歳くらい歳離れてることになるじゃん!」
「えっ、みなさん30歳も歳をごまかしてたんですか?ま、まさか、 みなさん揃って”超高校級の詐欺師”!?」
「そんなわけない。」
「みんな、自分たちの学校…希望ヶ峰学園について何か思い出さないっすか?記憶が曖昧でもいいっすから。」
ノンストップ議論2開始
「えっと…あたしたちの学校…希望ヶ峰学園だったかは分からないけど、“超高校級”ばっかりクラスに集まってたよ。」
「それ以外は普通だったよな?」
「普通の科目の授業は…あまりなかった。」
「そ、それのどこが普通なのよ…。あんた達がいたのもやっぱり希望ヶ峰学園よ…そうに決まってる。」
「クラスの出席率は確かに悪かったけど、普通に教室では授業してたぞ。」
「そういえば、あんまり ことはとは教室で会わなかったよね。」
「スカウトされた時に、授業に出席しなくても自分の才能を伸ばせば卒業できるって…聞いたから…。」
「確かに、言われたね。」
「スカウト?あたし、スカウトじゃなくて自分で志願して入学したけど?」
「え!?アイコ、変なこと言った??もしかして、アイコが被告人?」
「いえ、変なことを言ってるのは俺っすね。」
(俺の記憶とも、この証拠は矛盾するが…とりあえず つきつけてみよう。)
△back
「それは違うっす。」
「希望ヶ峰学園公式資料集によると、希望ヶ峰学園はスカウトのみで入学を許可されるんすよ。」
「ええー!?私、スカウトなんてされてないけど?」
「あたしのとこはスカウトのおじさんが来たよ?」
「私も…。」
「オレは手紙だったな。抽選みたいに通知が突然 届いた。」
「え?え?アイコだけ?何で?」
「やっぱり学校が違うんじゃないかな?」
「…天海さんも、スカウトされたの?」
「いや、俺も自分で入学志願したっすね。」
「オイィィィ!今の時間は何だったんだよ!!?」
「す、すみません。けど、この”期”が学年なら、俺たち全員 希望ヶ峰学園の生徒であることもおかしくないっす。」
「…天海さんとアイコさんはスカウトじゃないのに…?」
「はい。”人類史上最大最悪の絶望的事件”は、資料によると77期生・78期生の在学中に起こっているっす。」
「そして、未来機関の尽力を経て、希望ヶ峰学園は新しくなったっす。その時、スカウト制度などシステム面も見直されたんじゃないでしょうか?」
「スカウトじゃなくて一般募集になった…?」
「単にスカウトマンがいなくなっちゃっただけかもよ?」
「いや、待て待て。それでも やっぱり同じ疑問に戻るだろ。」
ノンストップ議論3開始
「オレたちは全員 同い年だって話だったろ。そんな年齢差があるって言いたいのか?」
「うん、まー、白銀ちゃんのあの話が本当ならあり得なくもないけどさー。」
「……私たちと天海さんたちが30歳離れてるっていうのは…さすがにおかしいよ。」
「この世界が作りもので、私たちも作りものってことになっちゃいますぅ。」
「な、ならないよ!きっと 学年以外の意味があるんだよ。」
「でも…この世界がプログラムだとしたら…どうだろうね?」
「アイコ、お前さっき違うって言ったじゃねーか。どっちなんだよ!」
「何でアイコはそんなに普通でいられるの!?」
「オレらを不安にさせて楽しいか?」
「……すみません。」
△back
「それに賛成っす。」
「……。」
(やはり…ここに辿り着いてしまう。「そうじゃない」といくら否定しても。)
(見つけた資料が、事実が、あの白銀さんの映像と結び付いてしまう…。)
(足元から世界が崩れるような感覚は、ずっと続いている。地に足がつかない。)
(信じていたものが、世界が、自分が揺らぐ。自分の知る広い世界も、妹たちの存在も、クラスメイトたちも。)
(全部、“嘘”だったら?)
(そんな考えが頭をよぎった瞬間。フラッシュバックのように、クラスメイトたちの記憶が頭を流れた。)
(…………。)
(そうだ。俺には信じられるものだってある。)
「この世界は共感覚仮想世界…プログラムなんじゃないっすか?」
「きょうかんかく…仮想世界?」
「何だよ…それ。」
「サイコセラピューティック・コミュニケーション・シュミレーター。校舎の地下に手掛かりがありましたね。」
「頭部に装置を装着することで、仮想世界に入ることができるみたいっす。」
「VR…みたいなものか?」
「いえ、視覚だけでなく、感覚 全てがプログラム世界に組み込まれる類のものです。」
「お腹も空くし、眠くなる。怪我をすれば痛いし、もし死んだ場合は…分かるわね? 」
「……。」
「ここがプログラムなら、機械仕掛けの俺が空腹を覚えたり眠ってしまったことも頷ける。そういうプログラムだったってな…。」
「いや、そんなの、信じられねーよ。」
「そ、そうだよ。そもそも、それと あたしたちの学年について、何の関係があるの?」
「ホントにみんながアイコより30歳くらい上だったら、そんなピチピチお肌なのって整形かプログラムだよ!」
「……この姿も、プログラムだって……そう言うの?」
「…ジャバウォック島でのコロシアイはプログラム世界で行われた…この中の参加者の1人は実際と姿が かなり違ったっすね。」
「俺たちは、この共感覚仮想世界の被験者だったんすよ。」
「被験者……。」
「ほ、本当にそんなことできるの?あたしたちがいる世界…こんなに、リアルなのに?」
「ジャバウォック島のコロシアイが本当なら、ここがプログラムっていうのも納得できるんじゃないっすか?」
「ここでも、リアルじゃありえないことが たくさん起こったっすから。」
(いつの間にか用意されている食事や魔法のように現れるステージ。ここが現実世界じゃないなら…。)
(何より、このコロシアイ。)
「このコロシアイ自体…プログラムだったんじゃないか…。俺はそう思うっす。」
「な、何 言ってんだよ?そんなはず…。」
「もう…分かんないよ…。」
「………。」
(3人の焦りが伝わってくる。額から汗が出て頰を伝った。)
(躊躇うな。俺はもう、真実を見つけることを恐れない。)
(可能性を出し合って、徹底的に議論して、みんなで真実を見つけるんだ。)
「俺たちの意思に関わらず、コロシアイは最初から進行が決まっていたんだとしたら…ここがプログラムだと頷けるっす。」
「ほうほう。その心は?」
(コロシアイの進行は最初から決まっていた。それは、“あれ”を見れば分かる。)
「……それが根拠?」
(冷ややかな目だ…。考え直した方がいいだろう。)
△back
「これは、前回のステージで見つけた“世界の秘密”と、メカメカしい建物で永本君が見つけた参加者の設定とルールをメモったものっす。」
「参加者の設定とルール?」
「参加者の中には、学級裁判を導く主人公枠がいなければならない。…って何これ?」
「あの建物のコンピュータいじったら偶然 出てきたんだよ。」
「一昨日 哀染君が見つけたのはこの一部だったみたいっす。」
「参加者の中には、調和を乱すトリックスター枠が1人…途中で退場するヒロイン枠が1人。」
「alter ego枠が1人、リーダー枠が最低1人、サブカルチャーオタク枠が1人…?」
「筋肉枠がいなければならない…武道家枠が1人いなければならない…“超高校級の希望” 候補がいなければならない…。」
「学級裁判ってあるから、オレたちのことだって話だったな。」
「これと”世界の秘密”を掛け合わせると、不思議なんすよ。」
「不思議…?」
「えっと、”世界の秘密”は確か…『1章時点のヒロイン枠は退場しなければならない。2章では過去の殺人について明かされなければならない。』」
「『3章では何らかの二分構造がなければならない。4章で退場するのは筋肉枠でなければならない。』だったね。」
「2回目の事件で、過去の殺人について言及され、3回目の事件前に意見対立や物理的な二分構造がある。4回目の事件の結果、身体の大きい人物が死ぬ。」
「…こう見ると、俺たちが辿って来た道と同じなんすよ。」
「モノクマがそうなるように誘導してたんだろ?」
「4回目の裁判でモノクマがクロに誘導したのは、永本君だったっすよ。」
「……。」
「このルールが決まっていたものだったら…。」
「うーん、後から書いたんじゃないのー?」
「5階の犯罪ファイルを見ると、そうも言えないんすよ。」
「このコロシアイが始まる前に起こったコロシアイと俺たちのコロシアイ…類似点が多いっすよね。」
「確かに今までのコロシアイも類似点はある…。」
「でも…。」
「オレたちの内の誰が人を殺すか、誰が殺されるか、オレたちがどう動くか…そんなことが誰かに決められてたっていうのか?」
「ありえないよ!」
「この世界がプログラムなら、ありえるっす。俺たちの行動や…俺たち自身だってーー」
「やめろ!」
「……。」
「聞きたくねぇよ…そんなこと。他のヤツらが殺されたことも、その時のオレたちの気持ちも、嘘だなんて…そんなこと…。」
「………。」
「うん、そう…だよ。そんなこと…。」
(みんなが黙り込んでしまった。)
「おい、みんなー!黙ってちゃ議論 進まねーだろい!話そーぜぇ!卒業するか、しねーか!」
「……アイコさんは今まで通りっすね。」
「当たり前だよ。私が作り物なんて、もう今更だし。」
「プログラムがボクの端末のみだったのか、この世界だったのか。それだけの話だよ。」
「むしろ、みんなも そうなら嬉しいなぁ。」
(プログラム仲間が増えて…ってことか?)
「あれれ?またまた ちょっと早めの絶望タイムだね?何なのオマエラ?躁うつ病?」
「盛り上がりに欠けるなぁ。これだから素人が作るシナリオはダメなんだよ。」
(モノクマの不愉快な笑い声が裁判場に響く。けれど、誰も何も言わなかった。)
(今、みんなを絶望させているのは、俺の言葉だ。)
(自分でも、自分の言葉に違和感と絶望感しか感じない。)
(でも、俺には、信じられるものだってあるんだ。)
「せっかく こんなにすごい人たちが集まったんだから、みんなで友達になろうよ!」
「天海…俺みたいな人間にとって あんたは…眩しいよ。」
「貴方は人に頼ることが苦手のようだけれど…困ったことがあったら、いつでも言ってちょうだいね。」
「蘭太郎、大丈夫だよー。神様も言ってるよー!」
「男死に言うのは癪ですが…このお土産に罪はありません!素敵な手土産ありがとうございました!」
「君は、この学園で最も世界の人々の暮らしと風俗をよく知る人物だヨ。だから、僕は君と話していると楽しいのさ。」
「オレ様に土産たぁいい心意気じゃねーか!でもなぁ、こんくれーじゃオレ様はイかね…そ、そんな目で見ないでよぉ!」
「いつか、天海君みたいな気遣いができる紳士になりたいな!」
「天海ちゃんの洞察力はうちに欲しいかもねー、嘘だけど!」
「オレはオレが信じたいものを信じる。オメーも そうだから、妹を探し続けてんだろ?」
「天海クン、希望を捨てちゃダメだ!」
「天海よ、諦めるな!魔法も奇跡もあるんじゃからな!」
「背負い込みすぎるところは…あんたと あいつは似てるのかもね。」
「約束するよ。僕とキミで、必ず妹さんを見つけ出そう。」
「俺は…俺が信じたいものを信じるっす。」
「……信じたいもの…?」
「記憶の中でクラスメイトが言ってたことの受け売りっすけどね…。自分が信じたいかどうか…それを大切にしたいかどうか。」
「……でも、その記憶だって…。」
「たとえ クラスメイトの記憶が作られたものだとしても、絆は本物だと信じるっす。」
「らんたろーと…クラスメイトとの絆…?」
「いえ。“俺たち”の絆っす。」
「ここに来てから、俺たちはずっと一緒だったんだから。一緒に闘ってきたんだから。」
「……オレらがここまで一緒だったのも、設定されたもんかもしんねーだろ。」
「なら、確かめに行きましょう。外に出て。」
「こんな大変な目にあったんすから、俺たち ここから出たら、めちゃくちゃ信頼できる友達になれると思うんすよ。」
(また、クラスメイトの記憶が頭に浮かぶ。)
(彼らとの記憶が、たとえニセモノでも。その考えを思い出して、俺は勇気付けられている。)
(俺は、信じる。)
「あばびグン!がんどゔじだよぉぉ!」
「おらテメーらァ!男がこうやってマジに話してんだァ!テメーらもマジに返しやがれ!」
…………
……
…
(しばらくの沈黙の後、みんなが顔を上げた。)
「そう…だよね。考えるよ…もっと。分からなくても、怖くても…。」
「……ちゃんと、話す。話して、議論して…みんなで、答えを見つけよう。」
「はは…また、耳を塞いでたみたいだ。分かったよ。」
(どんなに信じられないことでも、残酷なことでも。みんなで真実を見つける。)
(それが俺たちの答えだ!)
「モノクマ。外の社会の前に、この世界のことをはっきりさせておくっす。」
「ああ、そうだね。77期生のコロシアイを知ったオマエラならもう分かるよね?」
(この世界はーー)
1. フィクション
2. フィクション
3. フィクション
「…この世界はフィクションっす。俺たちの行動もコロシアイも、俺たち自身も、プログラムされたものっす。」
「……え?」
「ちょっと待って?この世界がプログラムってのは分かるけど、フィクションって…何でそんな話になるの?」
(この世界はフィクション。その根拠はーー)
「いくら現実的でないからってフィクションだと思うなんてどうかしてるよ!異世界転生モノへの憧れ強すぎでしょ!」
「現実も時には笑っちゃうほどドラマティックで美味しい展開になるんだよ。事実は小説よりイナリって言うでしょ?」
(事実は小説より奇なり…だろう。)
△back
「白銀さんのモノパッドっす。前回のコロシアイで生存した彼女は、メッセージを残してるっす。」
「この世界が作り物だって。」
「え?何それ?知らないよ、そんなの。」
「…うん。それは、嘘 情報だね。ボクには何のことか さっぱりだよ。」
(ここがフィクション世界である説明はできる。)
(確証があるわけではない。捜査中に思い付いた突飛な考えだ。でもーーそれで“あれ”にも説明が付く。)
ブレインサイクル 開始
Q. ここがフィクション世界かどうかを見極める鍵となる人物は?
1.白銀 つむぎ 2.佐藤 ここみ 3.アイコ
Q. 白銀が鍵となる理由は?
1.眼鏡をかけていたから
2.地味を売りにしていたから
3.フィクションの人物しかコスプレできないから
Q. 白銀がコスプレした人物とは?
1.天海 蘭太郎 2.哀染 レイ 3.永本 圭
「ここがフィクション世界である根拠は…白銀さんっす。」
「白銀さんは ここで、ある人物にコスプレしてたんすよ。」
「……もー、天海クン。急に何を言い出すの?やっぱり冒険家は非日常の世界でしか生きていけないんだね。」
「可哀想に。白銀さんのコスプレとキミの妄想、何の関係があるの?」
「彼女は、実在する人物にはコスプレできない。アレルギーが出るらしいっすからね。」
(それすらも このプログラム世界の設定かもしれないが。)
「お、おい、天海。どういうことだ?」
「つむぎが、ここで誰かのコスプレをしたの?」
「ーー哀染君っす。白銀さんは哀染君にコスプレしたんすよ。」
「え?そ、そうなの?」
「……いつの話?」
「つむぎは…その、最初の事件で死んじゃったから…コスプレ見せてもらう時間なんか なかったよね。」
「ええ。わたくしとしてはモーレツに興味がありましたが、実際に拝見する機会はありませんでした。」
「でも、天海は白銀が哀染にコスプレしたのを見たんだな?いつ見たんだ?」
(白銀さんが哀染君にコスプレしたのはーー)
1. 初日に自己紹介した時
2. 小学校で調査していた時
3. 1回目の事件前夜
「…そんなことあったっけ?らんたろー、記憶が混乱してるんじゃないの?」
「極度のストレスで…よくあること。」
「だ、大丈夫か?」
(みんな誰かに似てきたな。)
△back
「1回目の事件が起こる前夜っすよ。」
「えーっと…その日は哀染くんが深夜に白銀さんの家に行ったんだっけ?」
「1回目の事件前夜に白銀が哀染のコスプレをしたのか。」
「正確に言えば…1回目の事件前夜からっす。」
「前夜…“から”?」
「白銀さんは哀染君にコスプレしてたっす。1回目の事件前夜からずっと…。」
「ずっと…って…。」
「まさか…。」
「俺たちが哀染君だと思っていた人は…哀染君じゃなかった。白銀さんのコスプレだったんす。」
「1回目の事件で妹尾さんに殺された”白銀さん”は、白銀さんじゃなくて哀染君だったんすよ。」
(裁判場が再び静けさに包まれる。みんなの顔にはこれまで以上の混乱が浮かんでいる。)
(おかしなことを言っている自覚はある……が、そう考えると辻褄が合うんだ。)
(初めて会った日の哀染君と俺たちが共に過ごした”哀染君”との印象の違い…。)
(”哀染君”がパスワードを知っていたこと。)
(それに、あの証拠品と、前回のおしおき中のメッセージ。)
(静かな裁判場で、俺は首からさげたシルバータグを握った。)
学級裁判 中断