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第六章 See you (again). 学級裁判編Ⅲ

 

(俺たちの”仲間”を映す電子パッドをさげた黒づくめのロボット。)

 

(黒いコートや帽子の中から姿を現したのは、俺たちの“敵”だった。)

 

「今さら名乗る必要ないよね…でも、まあ、ワケ分からなくなってると思うから、まずはオーソドックスに自己紹介から始めたいと思う…」

 

「改まって自己紹介するほど凡庸な人間でもないし……こういうのって何回やっても照れ臭いんですがね…」

 

「まぁ、これもお決まりだからぁ、そう思う事にしてやっておこうーっと!」

 

「あたしの名前は、江ノ島 盾子“超高校級の絶望” 江ノ島 盾子よー!」

 

 

「パチパチパチ〜!」

 

「江ノ島…盾子…。」

 

「前回の私様は希望や未来に敗北してしまう、どうしようもない私様だったけど、今回の私様は完璧で幸福な絶望よ!」

 

「前回のアイコは希望に与する反逆者だったけど、今回のアイコは完璧で幸福な絶望だよ☆」

 

「ア…アイコ?」

 

「な、何だよ?どういうことだよ?」

 

「江ノ島 盾子は…消滅したはず…。」

 

「残念でしたー!ここに いまーす!」

 

「何で ここにいるんだよ!?江ノ島 盾子は死んだはずだろ!?」

 

「江ノ島 盾子は何度だって復活するんだよ…飽きられても、またお前かと言われても…!」

 

 

(心臓が早鐘のように脈打つ。死んだはずの、全ての元凶。それが、今 目の前に存在している。)

 

(それどころか、ずっと近くにいた…?)

 

「ま、待ってよ、アイコ。どういうことなの?」

 

「なんで、アイコさんの…後ろに、江ノ島 盾子がいるの…。」

 

「え?分からないです??」

 

「だからー、あたしがアイコで アイコがあたしなんだって。」

 

「”俺があいつで あいつが俺で”みたいな?”私と僕の学級裁判”みたいな?”君と僕の二重探偵”みたいな?」

 

「アイコさんが…江ノ島 盾子…?」

 

「exactly! アイアム ジュンコ・エノシーマ!」

 

「あ、ありえねー…だろ…。」

 

「起こっている以上、ありえないことなんてないんだよ…」

 

 

「アイコが、江ノ島 盾子って…嘘でしょ?だって、あたしたちの中に黒幕はいないって…。」

 

「モノクマは爆弾のこと…知らなかった…。」

 

(そうだ。爆弾の存在を知らせないはずがない。)

 

「あー、あれね。あのロボ部屋のことモノクマに報告するの忘れちゃってただけなんだよねー。」

 

「もー!そのせいで学園が崩壊しちゃったんだから!報・連・相!基本でしょ?」

 

「……それだけっすか?」

 

「それだけだよー?別に、アンタらを絶望させるためとかじゃないからね。」

 

「……。」

 

(……どういうことだ?あの爆弾のあった部屋の存在を俺たちに知らせたのは…彼女だ。それに…。)

 

 

「報告ってどういうことっすか?モノクマは黒幕が操るロボだったんじゃないんすか?」

 

「そ、そうだ。子守唄の時、アイコは寝てても、モノクマのアナウンスはあっただろ?」

 

「アイコ、もしかして寝てなかったの?」

 

「アイコは一緒に江ノ島さんと寝てたよー?あ、変な意味じゃないよ?一緒にって、変な意味じゃないんだからねー!?」

 

「私からご説明しましょう。私達が眠っていながらモノクマが動いていた理由。それは、途中から自動操縦というか、私達の手から離れていたからです。」

 

「そういうモードなんだよねー。」

 

「2つ目のステージのショー以降は、自動操縦だった…そういうことっすか。」

 

「そうそう。ショーで強制睡眠の状態異常になっちゃったから、こりゃまずいなということで。モノクマとアイコを切り離したの。」

 

「……これまでの黒幕は裁判に参加してなかったはずっす。」

 

「それは…毎回 同じでは絶望的につまらないからです…今回の私は裁判に参加するタイプだったというだけ…絶望的につまらない理由ですよね…」

 

「ちなみに、今回の江ノ島は携帯ゲームからテーブルゲームまでマルチに楽しむ江ノ島 盾子って設定だったのさ。」

 

「そんな あたしが、こーんな面白いゲームに参加しないなんて おかしいでしょ?設定に忠実に行動したってわけ。」

 

「うぷぷぷ、今までの黒幕像と変えなきゃ、6章展開がバレちゃうからね。」

 

「裁判ではねぇ、僕の解析データを基にお話してたんだよぉ。ウィークポイントを作るっていう大役を果たせたかなぁ…。」

 

「解析ではアルターエゴ枠って言えばシロ塗りのクロになれると出たんですが…失敗しちゃいました。」

 


「ったく、せーっかく白銀 つむぎっていう地味に最高のスケープゴートがいたっつーのによー!最悪だぜぇー!」

 

「………。」

 

(江ノ島 盾子。彼女は声色を変え、表情を変え、キャラクターを変えながら話す。)

 

(まるで、キャラクターが定まってないAIのように。)

 

 

「アイコ…お前…」

 

「だましてたの…?」

 

「嘘だよね?何か、理由があるんだよね?」

 

「だーかーらー!最初からアイコなんていねぇんだよ!オレが操作してアイコに喋らせてただけなんだっつーの!」

 

「みんな、ごめんね。でも、後ろに江ノ島さんが いない時もあったから、その時 お話ししてたのは間違いなくAIアイコだよ。」

 

「そんな…。」

 

「あ、ごめんね〜?絶望しちゃったぁ?仲間だと思ってた人に裏切られて絶望しちゃったぁ?」

 

「このワタシが黒幕…みなさんにコロシアイをさせていたのは…このワタシだったんだよ…」

 

「……あ、いこ…」

 

「………そう。」

 

「もう…あなたは仲間なんかじゃない。」

 

「そうだ!お前の…お前のせいで、みんな死んじまったんだぞ!」

 

 

「そんなことはありません。みなさんが死んだことは、私だけのせいではありませんから。」

 

「……。」

 

「例えば、天海クン…何で白銀さん扮する哀染クンが、佐藤クンに殺されることになったか分かるかな…?」

 

「……どういうことっすか。」

 

「3日前、天海さんが私に『最初のステージの哀染さんと白銀さんの一夜』について話して下さいましたね。」

 

「それでティン!と来たんだ!思い出したんだぁ!」

 

「一応 シャワー室の映像は見ねぇよーにしてたかんな!白銀と哀染の入れ替わりに気付いてなかったんでぃ!」

 

「アイドルに化けたつむぎちゃんはぁ、いつもシャワー室で着替えとかしてたんだよね!寝る時もコスプレしてたし〜!」

 

「でも、天海くんのおかげで気付いたんだよ!それで、2人のとりかえばやを確認して、モノクマに”嘘つきさん”の提示をさせたんだ☆」

 

「……。」

 

「天海、耳を貸すな!そんなん嘘に決まってる!」

 

「嘘だッ!」

 

「じゃねーんだよ!マジなんだからなぁ!」

 

「哀染(白銀)のモノパッドにだけパスワードがあったのを、みんなに言ったのもオメェじゃねーか!」

 

「うぷぷぷ…またまたまた天海クンがいらんこと言っちゃったわけだね!」

 

「情報共有するならお相手を慎重にお選びになることをお勧め致します。」

 

情報は信じられる人間のみと共有しろということですね。」

 

「天野くんは1回目の事件でもキャイ〜ンじゃなくて、ヨウイ〜ンだっだね!クスクス、事件発生 製造機ってかんじ?」

 

「……。」

 

「天野さんじゃなくて、天海さん…。天海さんは、悪くない。」

 

「そう…ですよね…そう言わないと…3回目の事件も、4回目の事件もあなたのせいってことに なっちゃいますから…絶望ですよね…」

 

「……っ。」

 

「ことはだって悪くないよ!」

 

「そーだよなぁ!?明らかに直接殺しを経験したのはお前だけだもんなぁ!?」

 

「……。」

 

「しょうがないよ…人間なんて大勢いるんだから、自分が楽しく生きていく過程で他人が死んでしまうことなんて よくあることさ…」

 

「……。」

 

 

「みんな、耳を貸すな!絶望したら、こいつらの思うツボだ。」

 

「もし、お前らが自分を許せないなら、償うんだ。死んじまったヤツらのために!」

 

「1人じゃない!オレだって…オレも一緒に背負うから。」

 

「そーだねぇ、永本君の行動次第では、ぜーんぶの事件が起きなかったかもしれないもんねぇ。」

 

「………。」

 

「……もう、絶望なんてしねーぞ。オレがどんなに絶望したところで…オレは幸運なんだから…な。」

 

「これまでだって、どんなに嫌でもオレの才能は消えなかったんだ。絶望したって、オレの幸運はなくなりはしない。」

 

「みんな、オレは自分の才能を信じる。お前らにだって、幸運を分け与えることができる!」

 

「だから ここから出ようぜ!絶望なんてするな!」

 

「……。」

 

「……。」

 

「……え?終わり?」

 

「びっくりしたぁ。また“幸運”の演説かと思っちゃった〜!そうだよね〜もう”あの言葉”を使った演説には みんな飽き飽きってゆーか〜…」

 

「うるせーな。ワケ分かんねーことばっか言うな。…おい、天海。」

 

「……。」

 

「顔上げろよ。お前がオレらに希望を持たせたんだぞ。」

 

 

「……小学校の焼却炉。」

 

「ん?」

 

「1つ目のステージ…焼却炉には焼け跡が残っていた。」

 

「何を突然?あったっけー?」

 

「あ…あったよ。」

 

「最初の事件の捜査時間に…見た…。」

 

「あれは…おそらく…哀染君にコスプレした白銀さんが使ったっす。」

 

「は?何 急に。」

 

(白銀さんは哀染君と入れ替わり、小学校の焼却炉であるものを処分した。それはーー)

 

 

1. 髪の毛

2. コンタクトレンズ

3. 眼鏡

 

 

 

「天海君、眼鏡は体の一部だよ!たとえ犯人の犯沢さん化しても絶対外さないよ!」

 

「ーーどう?白銀さんに似てた?」

 

(不愉快だ。)

 

 

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髪の毛っすよ。白銀さんの髪は長かったっすから…。」

 

「あの匂い…髪を焼いた匂いだったんだ…。」

 

「え…それが何なんですか…こちらの話 無視して…。」

 

「天海君、何が言いたいんですか?話の論点 逸らして相手を攻撃する元知事のマネですか?」

 

「白銀さんは髪の毛を燃やすために焼却炉を使った。それなら…黒幕が2人の入れ替わりに気付かないはずがないっす。」

 

「アイヤー、蘭太ぁ。さすがの妄想力ある。」

 

「……シャワールームも監視できるカメラがあったなら…小学校の周辺にも…私たちが気付かないカメラがあったはず…。」

 

 

「もーだから、何なのぉ?何が言いたいの〜?」

 

「…お前たちは、俺たちを絶望させるために嘘をついてるっす。」

 

「そ、そうだ!こいつらは嘘でも何でもついてオレらの絶望を煽ってるだけだ!聞く必要ねーよ!」

 

「嘘…だって…?」

 

「木野さんの薬で人が死んでるのも、祝里が過去に大量殺人に手を染めてるのも、事実だろ!」

 

「……。」

 

「もういい。私は…ちゃんと償いたい。人のためになる薬をたくさん作りたい…だから、早く…帰して。」

 

「…そ、そうだよ。あたしも、もうとっくに、決めたんだ。ここから出たら償うって。卒業できるんでしょ?ここから出してよ!」

 

「卒業で外の世界に出られんだろ?」

 

(そうだ。彼らと外に出る。1人じゃないなら、みんな乗り越えられるはずだ。)

 

 

「……。」

 

「構いませんが…外に出ても、あなた方に居場所はありません。それでも よろしいでしょうか。」

 

居場所が ない…?」

 

「つーか、居場所どころか家族も戸籍も基本的人権もねーんだけどよぉ!」

 

「…は?な、何を言ってんだよ。」

 

「私たちは実在する…はず。」

 

「そうだよ!あたしたちはフィクションじゃないんだから、家族も友達も待ってるし…たぶん仕事とかもしてるんでしょ!?」

 

「いや、だから、ないんだって。アンタらには。家族も友も、仕事も金も、テレビもラジオも。」

 

「どういうことっすか?」

 

 

「ムショの外に簡単に出られるなんて思わないでくださいってことですよ。天野 幸夫さん。」

 

「……天海 蘭太郎っす。」

 

「知らないですか…?天野は、かの有名な小遊三の……って、知るわけないですね…入れてませんから…」

 

「入れてない?」

 

「うーんと、どーやって説明したらいいかなぁ?みんなは確かにフィクションじゃないんだけど〜、“オリジナル”でもないんだよね!」

 

「”オリジナル”…?」

 

「それでは、ここで問題です!」

 

「あなたたちは、希望ケ峰学園のそれぞれ違う学年の生徒です。その年の差は40歳の人も!オドロキ モモノキ!」

 

「どうして、そんなアンタらが ひとところに集まってプログラム世界に入ってるか、知りたくない?」

 

(確かに そうだ。無作為に選ばれて拉致されたのか?その割に、年齢にも偏りがあるような気がする。)

 

「貴方たちの”オリジナル”は、確かに希望ケ峰学園に通う生徒よ。でも、残念ながら貴方たちは違うの。」

 

「”オリジナル”って…何を言ってるの?」

 

「あたしたちは…フィクションじゃないんだよね?実在する人間なんだよね?」

 

「君たちは希望ケ峰学園のサンプルだった…とでも言っておこうかな。」

 

「サンプル…希望ケ峰学園の実験レポートにもあった…?」

 

「そうですわ。鍵となるのは、この私様の存在よ。消滅したはずの私様が、なぜここにいるのか?」

 

「プレスされたはずの江ノ島 盾子の手首や子宮を、絶望たちがどうやって手に入れたのか…。」

 

「それをヒントに考えてみよう!オマエラは一体 何者なのか!?」

 

(オリジナル…サンプル…希望ケ峰学園の実験…?)

 

(俺たちが…何者なのか…?)

 

 

1. 希望ケ峰学園OB

2. 人工知能

3. 体細胞クローン

 

 

 

「……。」

 

(顔面の筋肉が解散したような…形容し難い顔で不正解を訴えている。何なんだ…あの顔……。)

 

 

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「またまた大正解〜!オマエラは希望ケ峰学園生徒の体細胞から作られたクローン人間でしたー!」

 

「ク、クローン…?映画とかに出てくる…あの?」

 

「…嘘。体細胞クローンを作る成功率はそんなに高くない…それに倫理的な問題で人のクローンを作ることは禁じられてる。」

 

「禁じられてるって、そんなこと絶望の残党には関係ないからね。」

 

「絶望の残党…?」

 

「”人類史上最大最悪の絶望的事件”が沈静化された後も残った絶望…のことっすね…。」

 

「ええ、絶望の残党たちは、体細胞からクローンであるあなた達を生み出したのです。」

 

「そんな…はずない…そんなこと、」

 

「できなくはない…他人の記憶を思い通り操ったり、プログラム世界でコロシアイをさせるよりは…絶望的に現実的です…」

 

 

「クローンを作るには、”オリジナル”の体細胞が必要なはずっす。絶望の残党がそんなものを手に入れられるとは思わないっす。」

 

「えー!そんなことぉ!?想像力が足りないんじゃな〜い?」

 

「希望ケ峰学園が非人道的な実験してたのはご存知だよね。あいつら、昔から こーっそり生徒たちの体細胞なんかも採取保管してたんだよ。」

 

「最悪だよねー。研究者の研究魂キモ!」

 

「しかし、そのおかげで、希望ケ峰学園で保管してあった”オリジナル”の江ノ島 盾子の体細胞からクローン江ノ島 盾子を創り出せたのです。」

 

「最初は身体の一部を。時には体まるごと全部を。私様はこう見えて、52代目 江ノ島 盾子なんですのよ。」

 

「新生・希望ケ峰学園になってからも、腐った一部の関係者は違法な才能の研究を進めてたんだ。体細胞は生徒の知らないところで採取保管されていた。」

 

「そんな絶望的な希望ケ峰学園 研究室から、絶望の残党はオメェら体細胞を救い出したんだよ!」

 

「救い…出した?」

 

「そうそう、僕らはみんな生きている。体細胞だって生きているのに試験管に保管されてるだけなんて可哀想。」

 

「そんな風に思った慈悲深い学園潜入中の絶望の残党が、”アンタら”を横長ししてたってわけ。」

 

「そして、キミたちは希望ケ峰学園の生徒の体細胞というちっぽけな存在から、1人の人間に生まれ変わったのだ。」

 

「……じゃあ、私たちを…作ったのは…本当に…?」

 

「うん!絶望たちだよ!いわば絶望の残党は、みんなのお父さんお母さんだよ!」

 

「お父さんお母さん…?」

 

「みんなは絶望の残党が科学の力で生み出した絶望の子どもなんだお!絶望の残党たちが十数年かけて育てあげたんだお!!」

 

「…って言っても、実験室で眠った状態だけどね。だから、植え付けていない記憶以外は、赤ちゃん同様まっさらだったんよね。」

 

「みなさんの中に既にダウンロードした記憶は…”オリジナル”の持つ家族や周囲の人間関係の記憶…そして一般常識と才能により得られるだろう記憶…」

 

「それでぇ、高校のクラスメイトの記憶は “オリジナル”の希望ケ峰生徒の人間関係を元にアップデートした記憶って感じ〜?」

 

「そ、そんなはず…ねーだろ。」

 

「そんなはずない?じゃあ、例えば通っていた小学校の名前や学校の見た目…友達との記憶はないでしょ?入れてないからね。」

 

(……あの時…始めのステージの小学校で感じた頭痛は…そのせい、なのか…?)

 

 

「ここの図書室、学術的なものが多いみたいだよ。小学校のものとは思えない専門的な本もいっぱいあるんだ。」

 

「……まるで、小学生のためじゃなくて…僕らのための図書室、みたいだよ。」

 

「なるほど。」

 

(確かに、小学生の読みそうな児童図書は本棚にない。分厚い専門書や洋書などもある。俺のいた小学校にはこんなものがあっただろうか?)

 

(思い出そうとした瞬間、チクリと頭に痛みが走った。)

 

 

「な、何を言ってんだよ。そんな非現実的な話…。また、どうせオレらを絶望させたくて言ってる嘘だろ。」

 

「そうですよね…こんな…B級映画の無名監督も裸足で逃げ出すチープな設定…絶望的につまらないですよね……」

 

「ひゃはははは!チープでエンドのE級映画 並みの存在、それがオメェらの正体ってことだぁ!ま、オレもそうなんだけどよ!!」

 

「……。」

 

 

(俺たちが…クローン…?絶望の残党が作った…?)

 

(……家族や友達の記憶も、世界を旅した記憶も…結局は作られたものだった?)

 

(しかも、それは絶望の残党によって作られた。…フィクションと言われた方がいくらかマシだ。)

 

(また、足が宙に浮くような、地面が崩れていく感覚に襲われる。ーーが、それに呑み込まれることも許さないと言わんばかりの声が飛んできた。)

 

「さて、またまたクイズです!オマエラを…このコロシアイ課外授業を観察してたのは、一体誰だったのか!?」

 

「……。」

 

(俺たちは観察されていた。このコロシアイは観察されていた。観察していたのは…。)

 

 

1. 視聴者

2. 研究者

3. 年金受給者

 

 

 

「またまた正解ーー!」

 

「…って嘘に決まってるだろーー!もっと しっかり考えろー!」

 

「……。」

 

 

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「このコロシアイを観察していたのは、絶望の残党…俺たちを作り出した研究者…。」

 

「そうだぁ!テメーら希望ケ峰学園 生徒のクローンは、ずっと絶望の残党の研究者に観察されてたんだぜ!」

 

「せっかくの体細胞クローンだからね。リサイクルしなきゃ。命の大量生産 大量消費 大量リサイクルだね。」

 

「って言っても、クローン作りに成功した個体はそう多くないんだよねー。いくつかは “なりそこない”の奇形になっちゃうし。」

 

「貴方たちはとても運が良かったよ。だって、五体満足で人の形をして複製できたんだもの。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「お、おい、みんな!まさか信じたわけじゃねーよな?こいつらのワナだ!きっと卒業させたくねーから、こんなこと言ってんだ!」

 

「信じるも信じないのもご自由にどうぞ。ですが、これは紛れもない事実です。」

 

「…信じたくない気持ちも分かるよ…信じたくないことを事実だと認めた時…大きな絶望になるからね…」

 

 

「でもねっ、みんなの経験してきたコロシアイの種明かしをしちゃうと、あ〜、やっぱり絶望の残党か〜って納得できちゃうと思うのっ。」

 

「どういう…ことだよ。」

 

「このコロシアイプログラムは、クローンのストレス耐性テストにすぎないんだよ…。君たちの殺人衝動やストレス管理もこちらでしてたから…ね。」

 

「誰がどのタイミングで殺人を犯すかも、こっちで管理した上で実験観察してただけなんだよね。」

 

「……は?」

 

「そんな…ことが?」

 

「…ええ…みなさん本体は研究室で無防備な状態ですから…犯人役の本体に刺激を与えることで、殺人や自殺衝動を起こすことができるんです……」

 

「よっ出前一丁、事件一丁というわけさ!」

 

「……殺人を起こさせるなんて…できるんすか。どうやってコントロールした?」

 

「殺人や自殺衝動を起こす脳波やら電磁波やらお注射やらがあるのです。コロシアイは必然的な実験結果なのでしたー。にぱー。」

 

「そんな刺激を、ひぐらしのなく頃に、オメーら被験体に打てば、勝手におっぱじめっからよぉ!」

 

「けど、刺激 与えた人がクロにならなかったり、刺激 与えてない人がクロになったり、番狂わせもあったわけ!おかげで結構な賭け金 持ってかれたわ!」

 

「ふ、ふざけんなよ!」

 

「あらあらやーねぇ、不良みたい。1人じゃご飯も食べられないくせに!」

 

 

「ちなみに これは2回目の仮想空間実験です。Virtual Reality Experiment2…ラボでは、V2実験と呼んでいます。」

 

「あの地味なメガネっ娘…前回のV1実験参加者が、その記憶の一部を思い出したらどうするのかなーとかも実験だったわけ。」

 

「……。」

 

「それだけじゃないよ。大好きな”兄”ができた女の嫉妬も。恋人を亡くした男のやり切れなさも。そんなクラスメイトへの後ろめたさも。」

 

「誰かを守りたい強い気持ちも。誰も愛せない虚無も。誰かを愛する熱狂も。」

 

「病気も、自己犠牲も、真実への探求も。」

 

「ぜーんぶ、実験、なんだよっ!」

 

「じっけん…?」

 

「え…もっと喜んでもらえると思ったのに……残念です…絶望的に…」

 

「そうだよ、祝里さん喜んで?キミが人を呪い殺した過去も、ボクたちが記憶を植え付けて、反応を見ていただけなんだ!」

 

「良かったね!栞ちゃんは、別に誰も呪い殺しちゃいないんだよ!」

 

「……。」

 

「むしろ、あなたたちは実験室で生まれて…呼吸以外のことを まだ何も自分で できてないんです…絶望的に自立してないんですよね…」

 

「ウッドワード・琴葉ちゃんの毒作りへの欲望も、それが殺人に利用されたことも、ただの実験!」

 

「……。」

 

「”幸運”の醜いコンプレックスだって、ストレス実験の一環にすぎないのよ。」

 

「……くそ。」

 

(蔑むような視線をみんなに向けていた江ノ島 盾子は、こちらをゆっくり見ながら言った。)

 

 

「ぜーんぶ実験!妹が行方不明であることの焦燥感すら…ね。」

 

「……。」

 

「結局、蘭太郎に妹なんて いなかったのだ!まあ、オリジナルの天海 蘭太郎には生き別れの妹がいたけど!」

 

「それも、もう数十年前の話だしー。妹の方は生きててもアンタより ふた回りは年上だよ?」

 

「十数年ぽっち生きただけの男に心配される筋合いなんてない、大人の女性だね。」

 

「……。」

 

 

「うぷぷぷぷ…キミのクラスメートの”オリジナル”だって、もういい年だよ。えーと、なんて言ったかな?」

 

「そうだ、元 “超高校級の探偵”…名探偵の名をほしいままにしていた最原クン!彼の行く先々で事件が起きるから、もはや死神って呼ばれてたよ。」

 

「いつも事件に巻き込まれるせいで”眠らない終一”なんて二つ名もあったし、過労死で死んだんじゃなかったかな?」

 

 

「ああ、あと世界的に有名なマジシャンーーおっと、自称・魔法使いの夢野さん。」

 

「彼女は中世で時間が止まったような国でうっかり無料公演しちゃって、魔女裁判にかけられてたよ!魔法なんて言わなければ…無罪放免もあったのに…。」

 

「いやあ、レイトン教授とナルホドクンもオドロキの最期だったよ!」

 

 

「それに保育士を名乗ってた春川さん。彼女はすごいよ!いくつもの保育園経営でこの国の待機児童をゼロにしたんだから!」

 

「でもね、春川さんがいる保育園に子供を入れたいって保護者が殺到して…遂にはその保育園に入れず我が子を手にかける人まで出たんだ。」

 

「可哀想に、春川さんはそれを苦に……。」

 

 

「ーーえ?他の人のこと?知るわけないじゃん。どっかでのたれ死んでんじゃない?」

 

「………。」

 

(モノクマの嫌な笑い声が裁判場に響く。俺は依然として口を開くことすらできなかった。)

 

(喉が渇く。言葉が上手く音にならない。)

 

 

「さて、そんな世界の真実を知ったオマエラは、卒業を選ぶ?」

 

「卒業を選べば、皆さんは確かに、このコロシアイ世界から出ることができます。」

 

「けれど、目覚めるのは絶望の残党が管理する研究施設。そして、あなた方はクローンというモルモットなのです。」

 

「何でか図書室へ行くことも、すしざんまいも できませーん!」

 

「そろそろ”オリジナル”たちの体にもガタがきてる頃だし、望まぬドナー登録・臓器提供もあり得るかもねー。」

 

「自分の臓器ならシンクロ率100%で適合だし!希望ケ峰学園OBの”オリジナル”たちに高値で売られる未来も見えた!」

 

「外に出ても、人間扱いされないよ。それなら、ここで みんなで仲良く2人になるまでコロシアイ生活を続けるのも悪くないよね☆」

 

「……。」

 

「……。」

 

「……。」

 

(誰も、何も言わなかった。ただ、黒幕たちの言葉が頭を通り過ぎて響くだけだった。)

 

 

「今度こそ、絶望したわね?」

 

「じゃあ、そんなところで、いつもの二者択一に移りましょう!」

 

「外の世界を知った みなさんは卒業を選ぶか…ここに残ることを選ぶか…?」

 

「オマエラが卒業を選ぶなら、ボクたちの負け!ボクたちが おしおきを受けるよ。」

 

「でも、卒業するなら、もう1人。オメェらん中からも犠牲者を選んでもらうかんなぁ!」

 

「は…?何だよ…それ。」

 

「卒業するなら、オマエラの中から1人おしおきさせろってこと!」

 

「それで、残った人は晴れて卒業☆やったね!外の世界で絶望の残党のモルモットとして、輝かしく社会のお役に立っちゃってください!」

 

「ふざけんな!まだ犠牲者出さなきゃいけないってのかよ!そんな…」

 

「ここに残るなら、コロシアイを続けてもらうよ。最後の2人になるまで…ね。」

 

「くそっ…」

 

 

(1人を犠牲にして ここから卒業しても、絶望の残党の実験モルモットとして生きていく…。)

 

(卒業しないなら、最後の2人になるまでコロシアイを続ける。)

 

(どちらも…地獄だ。希望なんて…ない。)

 

(希望なんて…ない……)

 

 

…………

 

(……本当か?)

 

(彼女の声が聞こえた気がした。)

 

(ずっと隣にいてくれた彼女。必死にコロシアイを終わらせる手段を残した彼女。)

 

 

「天海君、ーー…」

 

 

(彼女は、俺に想いを託した。みんなを生かすために。コロシアイを終わらせるために。)

 

 

「さあ、みんな!選んで選んで!卒業するか、留年するか!卒業するなら、誰を犠牲にするか!」

 

「そん…なの…。」

 

「……選べるわけ…ない、よ。」

 

(胸元のペンダントを握る。白銀さんが残した“希望の数字”の凹凸が肌に触れた。)

 

 

「……俺が犠牲になるっす。」

 

(自分で思っていたよりも、掠れた声が出た。けれど、確かに音にできた。)

 

「は!?天海!?」

 

「な、何 言ってんの!?」

 

「だめ…だよ。天海さん…。」

 

(狼狽する みんなに向き直る。)

 

「キミたちが卒業を選ぶなら、俺は犠牲者になるっす。」

 

「うぷぷぷ、賢明な判断だね!生き地獄を楽しめない弱者は、ここで死んだ方が安楽な道かもしれないよ。」

 

「俺は、諦めるわけじゃない。」

 

「え〜?死にたいって言ってるようなものなのに〜?」

 

「俺は、みんなに託すんす。永本君の幸運があれば…たとえ、目覚める先が絶望の残党の研究室でも…希望がある…。」

 

「天、海…。」

 

「永本君、キミは自分の才能を信じると言ったっすね。その才能で、みんなを守ってください。」

 

「そ…れは…。」

 

「分かります分かります。勢いで言ってはみたものの、天海さんのお命を預かるほど才能に自信を持てない。」

 

「当たり前ですよ…”幸運”の才能に命懸けられる人なんて…キチガイみたいなものです…」

 

「モノクマにとって…絶望にとって、永本君の才能は厄介なんす。それは…4回目の裁判で分かってます。」

 

「……。」

 

「だから…ここから出て、闘ってほしいんすよ。」

 

「…だったら、お前も一緒に闘えよ!ここに残って、みんなで、また脱出法を見つけるんだ!」

 

「そ、そうだよ!らんたろーもいなきゃ…ダメだよ!」

 

「うん。天海さんも…私たちも、ここから出る。」

 

「……この裁判は、白銀さんが作ってくれた最後の希望なんすよ。」

 

 

『ーーでもね、絶対に絶望しないでほしいんだ。コロシアイを終わらせて…コロシアイと違う世界に行くことはできるんだから!』

 

『そのプログラムは5回目の学級裁判が終わる時には作動するはずだよ。それが、2人になるまでコロシアイをせずにすむ、最後のチャンスかもしれない。』

 

 

「これを逃したら…もう外に出ることは できないはずっす。」

 

「……。」

 

「でも…みんなが卒業を選べば、きっと道はある。」

 

(俺が笑ってみせると、みんな黙った。俺は胸元のペンダントを握り、永本君に近付いた。)

 

 

「永本君…これを持っててもらっても いいっすか。」

 

「な…んだよ…。」

 

「哀染君に…彼にコスプレした白銀さんに、もらったものっす。」

 

(ペンダントに付けられた2枚のシルバータグ。そのうち1枚を取って彼の目の前に突き出す。)

 

(白銀さんが俺たちに託した数字が彫られた方のタグだ。)

 

 

「オレの幸運を信じるなら…お前だって生き残れるはずだろ…。」

 

(永本君はしばらく俺を説得する言葉を続けたが、俺が折れないと分かると苦しげな顔でタグを受け取った。)

 

(…本当に、ドッグタグになってしまっな。)

 

「……確かに、預かった。」

 

「やだよ…らんたろー…。」

 

「言ったのに…外に出たら…友達に…。」

 

 

「……俺は初めの裁判で犠牲になるつもりだったんすよ?その時から いないものと思えばいいんすよ。」

 

「何、で…そんなこと言うのっ…!」

 

「……うっ、うぅ…。」

 

「俺は すでに1度 覚悟は決めたんす。キミたちがコロシアイの世界から出られるなら…この命を使うのは惜しくねーっす。」

 

「これまで死んだ みんなだって…残る人に託していったっすよね。」

 

「……。」

 

「……佐藤…ローズ…山門…。他のみんなも…か…。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「俺はキミたちに託すんす。絶対に、ここから出て、希望を掴み取ってください。」

 

 

(俺が言うと、モノクマが投票タイムを告げた。)

 

(手元のボタンが、“卒業”“留年”の文字を映し出す。みんなをもう1度見た。)

 

(涙を瞳いっぱいに浮かべて、顔をぐしゃぐしゃにしながら祝里さんが頷く。)

 

(白衣を握りしめて、震えながら木野さんが頷く。)

 

(そして、苦々しい顔をして、永本君が頷いた。)

 

(これまでで一番 長い投票時間。その後、モノクマは全員が卒業を選んだことを声高に宣言した。)

 

 

 

学級裁判 閉廷

 

(そしてーー)

 

「卒業式の代わりに、犠牲者に名乗りを上げた天海クンのお別れ会だね!」

 

「それでは、間髪入れずに行きましょう!”超高校級の冒険家” 天海 蘭太郎クンのために、スペシャルな おしおきを、用意しましたー!」

 

(俺は仲間たちの声を背に、モノクマの示す道を歩いた。)

 

 

 

おしおき

 

“超高校級の冒険家” 天海 蘭太郎の処刑執行

『ネクスト・ステージ』

 

…………

……

 

 

「………。」

 

(天海に渡されたドッグタグを握りしめたままモニターを見ていたが、モニターは暗くオレたちの顔を反射させるだけで何も映すことはない。)

 

「おい、何だよ。モニターに何も映らねーぞ。」

 

「らんたろーは…どうなったの?」

 

「うぷぷぷ、天海クンのおしおきは非公開だよ。天海クンなんてついでだからね。多数決デスゲームの身代わりみたいなものだよ。」

 

(天海の最期を見守ることすら…オレたちはできないのか。)

 

 

「それより、オマエラはメインイベント・黒幕のおしおきを楽しむといいよ!」

 

「……あなたも おしおきされればいいのに。」

 

「え?もちろん、ボクも一緒だよ?今回のボクは黒幕とは別に動いてたけど、プロデューサーと演者は一連托生だからね。」

 

「”希望”が育たなかった責任を取るよ。」

 

「ま、今回のボクはこんな感じだったけど、次回のボクはもっと完璧に上手くやってくれるでしょう!」

 

「じゃーね、みんな。しーゆーあげいん。」

 

「…と言っても、研究室には私のクローンが何体かいますから、ここではSee you. とだけ言っておきましょう。」

 

「ねえねえ、知ってた?『See you again』ってネイティブは再会できるかどうか怪しい時だけ使うんだって〜。ね〜、知ってた?」

 

「だから、みんな。しーゆーあげいん。」

 

「……。」

 

「……。」

 

(笑顔のアイコを映す端末を携えた江ノ島 盾子が、モノクマへ歩み寄る。)

 

(そして、別に見たくもない黒幕たちの処刑が始まった。)

 

 

…………

……

 

(しばらくして、裁判場が また静かになった。)

 

(本当に、外の世界に出ることができるのか。できたとしても、どうやって生きていけばいいのか。)

 

(…大丈夫だ。)

 

(オレは、他人に幸運を分け与えることができる。)

 

(2人だけは絶対に、安全な場所に連れて行く。たとえ…オレの幸運が尽きたとしても。)

 

(オレは泣きじゃくる2人の名前を呼んだ。天海から受け取ったシルバータグを握りしめて。)

 

(天海や、佐藤の言葉を思い出しながら。)

 

 

 

第6章 See you (again). 完

エピローグへ続く

 

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