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第1章 私とボクの学級裁判(非)日常編Ⅱ

 

『キーン、コーン、カーン、コーン』

 

(朝のチャイムが鳴った。支度を手早く済ませて部屋を出た。)

 

(食堂へ向かう。視界の端に藤棚が映ったけど、見なかったフリをした。)

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

(食堂に入ると、すでに数名が集まっていた。)

 

「あ、春川さん、おはよう。」

 

「…おはよ。」

 

「あの死体、ホントに消えたんだねー。」

 

「何を今更。昨日の夕食時もなかっただろう。」

 

(食堂は綺麗なものだった。昨日あったことが、まるで夢だったかのように。)

 

「お礼なんていいよ。ボクはお前らの笑顔を見たいだけなの。にょほほほほ〜。」

 

「わあ!?」

 

「…また来たの。」

 

「な、何よ、何の用よ?」

 

「オイ、テメー!ここの死体はどこやった!?」

 

「は、羽成田くん、落ち着いて。」

 

「 掃除しただけだよ?腐っちゃったりしたら目も当てられないし、健全な生活にも支障を来すからね。何よりジャマだからね。」

 

「ジャ…ジャマって…!」

 

「そんなことより、ボクはオマエラにお知らせがあって やって来たのです。」

 

「お知らせ?」

 

「ハイハーイ!追加の動機を発表しまーす!オマエラこのままじゃ何もしなさそうだから、タイムリミットを設けました!」

 

「!」

 

「タイムリミットは2日後の夜時間とします!それまでに殺人が起こらなかった場合は…コロシアイに参加させられた生徒は全員死亡!」

 

(また…同じ…。)

 

(それからモノクマは、”前回”と同じように、タイムリミットを迎えた私たちの結末を語って消えた。)

 

 

「な、ななな、何だよ…今の。ま、マジなの?」

 

「誰かが殺しを働かんと、全員 死ぬ…そういうことみたいじゃな?」

 

「…それも、2日後まで。」

 

「2日なんて、すぐですよ!?」

 

「お、落ち着いて!そんなの罠だよ!デタラメだって。」

 

「そうだね。不安を煽ってボクたちを誘導してるんだよ。」

 

「でも、何も対策なしじゃいられないでしょ?敵地へ機体ごと突撃する前のパイロットくらいは、覚悟決めておいた方がいいんじゃないの?」

 

「オレを見ながら不吉なことを言うんじゃねー!」

 

「…何もしない。これが対策だよ。」

 

「え?」

 

「よく考えてみてよ。こんな施設を用意して、私たちを閉じ込めた。それだけで、かなりの金が必要なはずだよ。」

 

「それなのに、2日後に全員殺すなんて、どう考えても おかしいよ。殺すつもりなら、もう全員 殺してる。」

 

「なるほどな…確かに、かなりの金が動いてるはずだ。このコロシアイに収益があるとするなら…オレらは商品みたいなもんだ。」

 

「コロシアイの収益って何や?」

 

「見世物にして観客から金を取るとか?あとは、誰が生き残るか、どんな風に殺すか殺されるか、お金を賭けるとか?」

 

「そんなの…ひどい。やめさせないと…。」

 

「…とにかく、私たち全員を簡単に殺せるとは思えないんだよ。」

 

「そうだね。全国各地に散らばる”超高校級”を わざわざ集めたことを考えると…。」

 

「じゃー、安心だねー!」

 

「変に不安に感じんことじゃな、フォッフォッフォッ。」

 

「そうね。不安を感じる人がいたら言ってちょうだい。”超高校級の膝枕”をお見舞いしてあげるわ。」

 

「……。」

 

(ーー何とか、その場の雰囲気は収まった。)

 

(それでも…どこまで この空気を保てるか分からない。すでに1人が死んでいる状態…死体を見て、死を間近に感じてしまった状態で。)

 

 

「魔姫、ありがとう。」

 

「何が?」

 

「キミの意見がなかったら、みんな今夜も明日も不安で寝られなかっただろうからね。」

 

「別に、思ったことを言っただけだよ。」

 

「それでも、キミのおかげで、ボクも少し安心できたんだ。ありがとう。」

 

「……。」

 

(哀染の笑顔を見ないように、私は視線を逸らした。ーー覚悟を決めないといけないから。)

 

(ここにいる奴ら…全員 欺く覚悟が必要だから。)

 

(その後、朝食を取った全員、また学園内を調べるために散って行った。)

 

 

「春川さん、僕らも行こう。」

 

「……何で、当然のように一緒に行くことになってんの?」

 

「え!?ご、ごめん。馴れ馴れしかったかな?」

 

「……いいけど。」

 

「僕はただの助手だからさ…誰かの力を借りないと何もできないんだよ。」

 

「……私だって、ただの助手だよ。」

 

「え?」

 

「何でもない。行くよ。」

 

(調べるといっても、今 行ける場所にこれ以上の手掛かりは、多分 用意されてない。それより、他の奴らの様子を見ておいた方がいいかもしれない。)

 

 

 校舎内を歩く

 校舎から出る

全部見たね

 

 

 

「昨日は、校舎2階を調べられてなかったよね。行ってみようか。」

 

 

 

【校舎2階 廊下】

 

(2階へ上がってすぐ、エイ鮫と麻里亜が龍の像の前に立っていた。)

 

「2人とも、何してるの?」

 

「あ、うん。ずっと この龍の像?が気になってたから見に来たんだよ。」

 

「俺もだ。あと開いてない教室もあったからな。」

 

「開いてない教室?」

 

「ほら、こっちの。」

 

(エイ鮫を先頭に奥に移動して、その教室の前に立った。そこは “前回”、“超高校級のピアニスト”の研究教室があった部屋だ。)

 

(……?ドアが変わってる。)

 

(初日以来、2階に来ていなかったから気付かなかったが、そのドアは”超高校級のピアニスト”の研究教室とは違っていた。真っ黒に塗られている。)

 

「不気味な扉だな。何か悪いモンでも閉じ込めてるみてぇな…。」

 

「お、おどかさないでよ…。というか、話し方が また変わってるのは何なの?」

 

「お前さんらは、もう子どもじゃねぇみてぇだからな。」

 

「みんな未成年だけどね。」

 

「大人か子どもか微妙な時期。そんな高校生だからこそ、ドラマがあるよね。」

 

(エイ鮫が「尊い」と語り出した瞬間、辺りが闇に包まれた。)

 

 

「え!?何だ!?」

 

「停電みてぇだな。」

 

「窓が閉ざされてるから…昼なのに真っ暗だね。」

 

「……い、」

 

「どうかした?エイ鮫さん。」

 

「いやあぁあ!」

 

「!?」

 

「どうしたの!?」

 

「怖い…。」

 

「は?」

 

「わわ、わたし!暗所恐怖症なの!!くらいよーこわいよーなの!!でも、閉所恐怖症じゃないからね!くらいよーせまいよーこわいよーじゃないからね!?」

 

「落ち着きなよ。」

 

「昔からじゃないんだよ!?電気消してホラゲしてみたらトラウマ級に怖くて!それ以来、暗闇から青鬼やら黒鬼やらが出て来そうとか思っちゃうの!」

 

「聞いてないけど…。」

 

(暗くて何も見えないが、早口でまくし立てるエイ鮫の声は震えていた。)

 

「分電盤は どこにあったか…。お前さんたち見てないか?」

 

「いやああ!?ピエンの館!!?」

 

「声音 落として。うるさい。」

 

「ごごごめん…。春川さん、手…握ってもいいかな?ダメ?」

 

「…別にいいけど。」

 

「分電盤…見てないな。どこにあるんだろう。」

 

(人が動く気配がした瞬間、電気が付いた。)

 

「いやあ、うっかりうっかり。」

 

「きゃああ!?くまモン!!?」

 

「誰が激かわ ゆるキャラだー!」

 

「いやぁ、電力の使いすぎで このフロアのブレーカーが落ちちゃったみたいだね。研究教室を急ピッチで作ってるからさ。」

 

「研究教室?」

 

「オマエラの才能を伸ばすための教室を用意してあげようと思ってね。いや、お礼なんていいですよ。オマエラの笑顔が見られれば それで。」

 

「ここから出してくれれば笑顔なんざ いくらでも見られるだろうに…。」

 

「ま、オマエラも電気の使いすぎには気を付けてよ。特に地下のゲーム機なんてメチャクチャ電気喰うからね。」

 

「あのゲーム機 全部起動させたら1時間程でオマエラは奈落の闇の中だよ!」

 

「わざわざ怖い言い方しないでよ!」

 

(震え声で怒るエイ鮫に、モノクマは「うぷぷ」と笑って消えた。)

 

「エイ鮫…いつまで手 握ってんの?」

 

「あ!ごめん。春川さんの手があまりにもスベスベで柔らかくて気持ち良かったから…どぅふふ…。」

 

「……。」

 

(おっさん臭い笑いを浮かべるエイ鮫からスッと離れ、私と和戸は1階へ降りた。)

 

 

 

【校舎1階 廊下】

 

(1階に降りて正面玄関へ向かうと、地下階段の方から話し声が聞こえてきた。)

 

「教室から声がするね。誰かいるのかな。」

 

 

 

【校舎1階 教室A】

 

(地下階段に近い教室Aで大きな体が教室のイスに掛けている。)

 

「大場さん、何してるの?」

 

「うふふ、絵ノ本さんに膝枕よ。モノクマにあんなこと言われて不安になってると思ってね。」

 

(大場がニコニコと笑う。枕というよりベッドのような膝の上で寝そべるのは絵ノ本だった。)

 

「別に不安やない。ゴツゴツ硬い。不安定で不快や。」

 

「あら、最初はみんな そういうけど、だんだんヨくなるのよ?」

 

「何でだろう?いかがわしく聞こえるのは…。」

 

「やーねぇ!あたしの店は健全だって言ってるでしょ!」

 

(和戸が大場に小突かれて1mほど飛んだ。)

 

「絵ノ本さんが ここでボンヤリしてたからね。サービスよ。」

 

「ウチはボンヤリしていたワケやない。何もない教室で『何もせん』をしとっただけや。」

 

「不安な気持ちがある証拠よ。何も考えずにお眠りぃ〜。」

 

「むぅ…確かに、だんだん眠たなってきた…。」

 

「うふふ、あたしの弟を思い出すわぁ。といっても、弟は絵ノ本さんの3倍は体積と体重あるけどね。」

 

「弟さんも大きくて重いんだね。」

 

「ああ!?『も』っつったか今!?」

 

「うわぁ!?ごごめん!!」

 

「あんた、余計なこと言うのやめなよ…。」

 

「むむぅ…これは…悪くないわぁ…ぐぅ。」

 

(寝てしまった絵ノ本と満足気な大場から離れ、腰を抜かしたままの和戸を引きずり その場を離れた。)

 

 

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【寄宿舎前】

 

(校舎の外に出ると、ファンファーレのようなラッパの音が響いた。)

 

「うわ!?あ、朝殻さん…?」

 

「おー、シンジにマキー!」

 

(寄宿舎の前でラッパを吹いていた朝殻が、笑いながら こちらを向いた。)

 

「朝殻さん、また随分 音が響く所で演奏してるんだね…。」

 

「昨日シンジに褒められちゃったからねー!たくさん吹くよー!今のは旧陸軍の起床ラッパだよー!」

 

「…まずいな。僕のせいなんだ…。えーと、みんな とっくに起きてるよ?」

 

(和戸が困ったように笑った。そんな時、)

 

「ぬををぉおお!敬礼!!!」

 

「うわあ!?」

 

(ものすごい勢いで寄宿舎から飛び出して来た雄狩が、私たちの目の前で止まって敬礼した。)

 

「ハッ!?な、なんだ、点呼じゃないじゃないですか!今 気持ちは旧陸軍の老兵士なんだから止めてくださいよ!」

 

「らりほー!ラッパを吹けばヨシコが現るー!」

 

「風が吹けば桶屋が儲かるみたいに言わないでください!」

 

「お面なんてしてるのに、すごい速さで走れるんだね…。」

 

「…雄狩、あんた そんな面してて視界悪くならないの?戦うなら不便じゃない?」

 

「それこそ舞闘家の真髄です!あえて視界を狭めているんです!いつ何時、視界を奪われた状態で戦うことになるか分かりませんから。」

 

「顔にタコが へばり付いた状態で戦わなければならない時、慣れていないと大変ですからね!」

 

「そんな時は来ないと思うけど…。」

 

「どうして仮装を解かないんだー!?」

 

舞闘家 死しても仮面は取らず!寝る時だって面は外しませんよ!そして面に合わせた服装をする!常識です!雄狩 芳子は男装の麗人なんですよ!」

 

「自分で麗人って言っちゃうんだ。…じゃあ、アイドルの哀染くんの服なんかも似合いそうだね。」

 

「ほあ!?た、確かに、アイドル衣装は気になりますが、雄狩 芳子が心身ともにアイドルになれるか…アイドルらしく舞えるか自信はありません…。」

 

「そんな自信いらない気がするけど…うん、まあ…もう、いいや。」

 

(相変わらずツッコミに忙しい和戸が疲弊したタイミングで、その場を離れた。)

 

 

(そして、和戸が校舎と合わない外装の建物を指差して首を傾げた。)

 

「あれ?今、あの建物に誰か入って行ったよね?昨日は開かなかったのに。」

 

(……“超高校級の発明家”の研究教室だった建物だ。)

 

 

 

【超高校級のDIYメーカーの研究教室】

 

「ああ?テメーら!人の研究お教室に勝手に入って来てんじゃねーぞ!いらっしゃいませ!」

 

(私たちが中に入ると、市ヶ谷に威勢良く迎えられた。)

 

「研究教室?」

 

「ああ!ここは”超高校級のDIYメーカー”の研究お教室!DIY漬けでDIYに溺れてDIYに狂うお部屋なんだよ!」

 

「今朝、あの おクマに ここが開いたって聞かされたんだ。」

 

(内装が入間の研究教室とあまり変わってない。マッドサイエンティストが人体実験でもしそうな寝台に変な機械がたくさんあった。)

 

「危険そうな機械もあるね…。」

 

「ああ、安心しやがれ。危険なモンは全部ご解体しとくからな。これはもうご解体したモンだ。」

 

「何これ?回転ノコギリに注射器?」

 

「ご寝台の上に取り付けられてたかんな。取ってやったぜ。だがな、取り外しても使えるんだ。」

 

「ご回転ノコギリは、ご回転力そのままに取り外してやったんだぜ!お注射器は人の肌に刺したら自動でブツを注入してくれるようになってんだ!」

 

「持ち運べようになったら…余計 危険じゃないかな?」

 

「ああ!?むしろ ご感謝しねーですか!探偵なんて みんなコカンお中毒なんだろ?」

 

「コカインだろ!いや、いつの時代の探偵小説の話だよ!?しかも僕は探偵じゃないし!」

 

「んだよ…せっかく作ってやったのに。ちぇっ。お持ち運び武器なんざ割り箸や鉛筆でも作れるんだから今更だろ。」

 

「あんたは作れるの?」

 

「たりめーです。もういい。オレは、これから お大事なモン作んなきゃいけねーんです。出てけ!おたの申します!」

 

(機嫌を損ねたらしい市ヶ谷に追い出されて、私と和戸は部屋を後にした。)

 

「でも…市ヶ谷さん、元気になったみたいだね。良かったよ。」

 

「……そうだね。」

 

 

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【寄宿舎 春川の個室】

 

(夕食を終えて部屋に戻って来た。)

 

(全員、今朝のモノクマのタイムリミットに大きく動揺してないように見える。)

 

(タイムリミットが近くなったらどうなるか分からないけど…全員に怪しい様子がないか…しっかり見ておかないと…。)

 

(『ダンガンロンパ』を終わらせる。そのためには、視聴者が望まない結末を迎えればいい。)

 

タイムリミットを迎えて全滅なんて…本当は『ダンガンロンパ』も視聴者も求めてないことだろうから…。)

 

(…ここに いる全員を騙して…犠牲にしてでも…『ダンガンロンパ』を終わらせてやる。)

 

(ここにいる全員…明後日の夜にモノクマに殺される。私は、そうなるように…場を誘導するんだ。)

 

(全員を騙してモノクマに殺されるよう仕向ける…こんなの、”あいつ”が聞いたら、何て言うんだろうね…。)

 

…………

……

 

『キーン、コーン…カーン、コーン…』

 

(朝のチャイムだ。身支度を整えて食堂に向かった。)

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

「おはよう、春川さん。」

 

「……おはよ。あいつらは何してんの?」

 

(視線の先には、食堂の真ん中で仁王立ちする市ヶ谷と、それに群がる”超高校級”たち。)

 

「なんかね、市ヶ谷さんが すごいもの作っちゃったんだって。」

 

(私たちも人だかりに近付く。全員が食堂に揃ったところで、市ヶ谷は声高に言い放った。)

 

「聞いて驚け!見て笑え!試してガッテン!こちら、『”超高校級の希望”モチーフの小型ロボット アンテナを添えて』に なります!」

 

「あ…。」

 

「ボクはキーボ。”超高校級”に作られた高性能なロボットです。“超高校級のロボット”と呼んでもらってもいいですよ!」

 

 

(目の前でエヘンと胸を張る姿はーーまさしく、私が知っている”超高校級のロボット”だ。)

 

「あのな。テメーは”超高校級”じゃねーですよ。こんな小せー”超高校級”いるわけねーです。」

 

(市ヶ谷がキーボの頭を人差し指で弾いた。衝撃でキーボは机の上で倒れる。)

 

「な、何するんですか!ボクにとってキミたちの体の大きさは凶器なんですよ!?」

 

(キーボの姿は、手に乗るほど小さい。)

 

「これは、お手乗り自律思考型ロボット!オレの研究お教室でご完成した ご傑作品だ!」

 

「おー!すごい、すごいんだねー!」

 

「手乗り型だって。キッチンを這ってる虫みたいに可愛いね!」

 

「精密に作られてるね。すごいよ。」

 

(和戸がコートからルーペを取り出して、キーボを観察し出す。)

 

「どれどれ…って重ッ!?めちゃくちゃ重いぞ!?」

 

「あらホント。あたしでも重く感じるレベルね。キーボ君、体重は?」

 

「えーと、89kgですね。」

 

「全然 手乗りじゃないじゃん!」

 

「ホォ。こんなに小さいのにその重量…材料は何なんだい?」

 

「さあな。オレは組み立てただけだから分かんねーです。でも顔はオレ好みにしてやったぜ。コイツを使って、死んだ ご希望を偲べ!」

 

「え…ボク故人なんですか?」

 

「あなたは気にしなくて いいわ。ただ、少し手を合わせて拝ませてもらうくらいよ。」

 

「気になりますよ!?」

 

(なぜか全員が順にキーボを持ち上げて、その重さや質感を味わっている。)

 

「ぐぬぬ、確かに重いです…これでは美しく舞えません!さ、春川さんも、お手に取ってご覧ください!」

 

「商品みたいに言わないでください!」

 

(私は両手で掬い上げるようにキーボを持ち上げた。確かにズッシリと重量がある。けれど、私の腕は難なくその機械仕掛けの身体を持ち上げられた。)

 

「魔姫は意外と力持ちなんだね。すごいよ。」

 

「顔色ひとつ変えずに持ち上げよった。」

 

「すごい春川さん!重くないの?」

 

「いや、普通に重いけど…。」

 

(顔に出さないだけだ。)

 

「びっくりだよ。89kgといえば、女性2人分くらいあるのに…。」

 

「は?あんた親しい女なんて母親くらいしかいないでしょ。何で女の体重なんて分かんの?」

 

「和戸君って、好みのタイプは165cm 45kgのEカップとか言う人でしょ?」

 

「し、仕方ないよ。男の子は女子の体重なんて、フィクションの設定とかグラビアアイドルの一応 公式の発表でしか知らないだろうし。」

 

「儚い夢ぐらい見させてあげようよ。『雲を綿飴みたいに食べたい』レベルの夢だけど。」

 

「体重は現実の女性にとって秘匿性が高いですからね!和戸さんごときが知らなくても仕方ありません!」

 

「そ、そんなに みんなで言うことないじゃないか!」

 

 

「それより市ヶ谷、あんた…これ『組み立てた』って言ったね?」

 

「ん?ああ。『月刊 駅前のロボット』の付録だ。」

 

「最近の付録は豪勢じゃなあ。子どもたちの夢と希望と欲望が膨れ上がるワケじゃ。フォッフォッフォッ。」

 

「ナヌー!ロボット自体を作ったんじゃないのかー?」

 

「お内蔵パーツやら何やらは出来合いのモンだ。オレは外見を弄ったくらいだ。」

 

(つまり……このキーボは『ダンガンロンパ』が用意したもの?また…カメラの役割を果たすために?)

 

「ちなみに、めちゃくちゃ ご電力消費する お充電器はオレの研究お教室にあっから、お充電なくなりそうなら ご勝手に持ってけ。」

 

「充電中じゃなくてもコンセントいれただけで ご電気代 爆上がりするから気を付けろよ!」

 

(市ヶ谷は眠そうな目をこすり、宿舎へ戻って行った。)

 

(残った面々は朝食の場にキーボを加え、少しだけ にぎやかに過ごした。もちろんキーボは朝食を食べず、見ているだけだったけど。)

 

 

「さて、春川さん、どこに行きましょうか。」

 

(朝食を終え、みんなが食堂から出て行く中、キーボが言った。)

 

「……何で私と行動することに決めてんの。」

 

「ボクの大きさで、この広い学園を歩き回るのは効率的ではありませんから。ボクを涼しい顔で持ち運べる春川さんに運んでもらうのが合理的です。」

 

「ロボットなのにジェット機能とかないんだね。」

 

「それはロボット差別ですよ!」

 

「……。」

 

(”超高校級の生存者”である天海は、白銀の不正で殺された。視聴者用のカメラが近くにあるなら…きっと白銀も不正は働けない。)

 

「まあ、持ち運ぶくらいしてあげるよ。」

 

「よろしくお願いします。ボクの計算だけでなく、“内なる声”も春川さんに『付いて行け』と言ってるので。」

 

視聴者の声…か。)

 

「それじゃ、春川さん。今日はどこから行こうか?」

 

(和戸もいつの間にか当然一緒に来る流れになってるね…。)

 

「では、行きましょう!ボクは この校舎内を見てませんからね。」

 

「何で持ち運ばれる奴が偉そうなの。」

 

 

 校舎2階を見る

 校舎1階を見る

全部見たね

 

 

 

【校舎2階 廊下】

 

(2階に来た。89kgのキーボが右肩に乗っている分、体が重い。)

 

「学校にしては、ずいぶん変わった教室の配置ですね。よく分からない置物などもありますし。」

 

「そうだね。…あれ、なんか声がするね。」

 

(人の声がする方へ歩いて行くと、昨日は閉ざされていた教室の扉が開いていた。)

 

 

【超高校級の幽霊の研究教室】

 

(”前回”、赤松の研究教室だった教室は、様変わりしていた。薄暗い室内。ところどころ配置された不気味なマネキン。)

 

「まるでお化け屋敷だね…。」

 

「私の研究教室らしいわ〜。」

 

「うわあ!い、壱岐さん…。」

 

(おどろおどろしい声と共に暗がりから壱岐が現れ、和戸は大げさに仰け反った。)

 

「彼女は、この教室に雰囲気がピッタリですね。まるで ずっと住みついていたかのようです。」

 

「ふふ…ありがとう。」

 

「何ビビってんだよ、新始。お前お化け屋敷 苦手か?」

 

「羽成田くん…。べ、別に苦手なわけじゃないよ。暗い中から壱岐さんが現れたら誰だって驚くでしょ?…暗所恐怖症のエイ鮫さんだったら失神ものだよ。」

 

(…仲間を売ったな。)

 

「あら、エイ鮫さんは暗いところが苦手なのね。」

 

「う、うん。そうらしいよ。でも、手とか握ってあげたら落ち着くみたいだけど…。」

 

「そうか。じゃ、暗くなったら色々握ってやるか。」

 

「…下心が見えてるよ?」

 

 

「…この棚にあるものは何?」

 

(ワイワイ話し出す男たちを無視して教室 隅の棚を指差した。)

 

「ああ、そこには輸血パック、スモーク代わりのガス缶が入ってたわね。」

 

「血のり代わりの輸血パックですね。血の匂いもプラスされて恐怖心を煽られるんでしょうね。」

 

「ロボットも血の匂いが分かるの?」

 

「ロボットだって匂いの感知くらいできます!臭気をレベル1から5までで言い当てられるんですよ!ちなみに羽成田クンの口臭はレベル5です!」

 

「はあ!?臭いってことかよ!?」

 

「羽成田くん落ち着いて…。匂いの強さを感知するものだから、ミントとかでも『匂いが強い』って判定されるんだよ。……あれ、これ…。」

 

「どうしたの?」

 

(和戸が棚を見る私の後ろからガス缶を覗き込んで怪訝な顔をした。)

 

「これ…毒ガス…じゃないかな。前に事件に巻き込まれた時…見たことあるよ。」

 

「物騒ね。そんなものをスモークがわりにしたら、お客さんが恐怖と死の苦痛を感じながら もがき苦しみ…その生命を終えることになるわ。」

 

「そんな怖い言い方しないでよ…。」

 

「うわ、それに強い睡眠薬もあるね。」

 

「何で…そんなものが ここにあるの?」

 

「それは おそらく…私のお化け屋敷に来た客への配慮ね。怖すぎて不眠症になったと苦情を受けたこともあるから。」

 

「…とにかく、これは量を間違えれば危険にもなるから…扱いには気を付けないと。」

 

「モノクマの野郎、変なモンばっかり用意しやがって…。一体いくら積まれたんだよ。」

 

「……いくら変なものがあっても、使わなければ いい話だよ。」

 

 

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【校舎1階 廊下】

 

「うわあああん、ひどいよー!ひどいよー!」

 

(1階の廊下から、耳をつんざく鳴き声が聞こえる。声の方を見れば、タマと綾小路が廊下に立っていた。)

 

「な、泣き止んでくれ。頼むから。ほら、飴をあげるから。」

 

「うわあん、そんな田舎のバアちゃん家みたいなラインナップの飴ヤダよー!」

 

「何してるの?」

 

「ハルマキちゃーん!アヤキクちゃんがね、外国の歴史なんて男子高校生の部屋のゴミ箱のチリ紙だって言うんだよ!」

 

「そんなことは言ってないだろう…。」

 

「綾小路くん…女の子を泣かせるのは どうかと思うよ。」

 

「僕は外国の歴史に興味がないと言っただけなんだが…。」

 

「なんちゃって!いいよ!私みたいな鼻紙クズ、泣かせる権利は誰にでもあるからね、存分にどうぞ!」

 

「そんな権利は誰にもないよ!」

 

「僕には泣かせるつもりも泣かせたい特殊な趣向もないよ。失礼する。」

 

「あれ?行っちゃった。冗談なのに。」

 

「タマさん、嘘泣きはよくないよ。」

 

「嘘じゃないのに。涙は出た時点で嘘じゃないでしょ?悲しくなくても嘘泣きじゃないよ?そういえば、キーボーイは泣けるの?」

 

「キーボーイとは、ボクのことですか?……涙は出ない仕様です。」

 

「そっか!良かったね!涙が出なければ嘘泣きもできないもん!」

 

「ムムッ!ボクだって目から水が出る機能さえあれば嘘泣きもできます!水を出す機能を付ける必要性がないから泣かないだけです!」

 

「……タマ、こんな所で泣き喚いたらみんな困るってことだよ。」

 

「あ、そっか。そうだよね…。死んだオカピ並みの常識しかなくてごめんね。」

 

「死んだオカピって何…?」

 

「そういえば、さっきアイレイちゃんが地下に行ったよ!」

 

「アイレイ…?哀染のこと?」

 

「哀染くんが どうかしたの?」

 

「ううん、大したことじゃないよ。ただ、親を叩き潰されたような神妙な顔だったから。」

 

「いや…それは ただ事ではないよ。」

 

「そうかな?気になるなら会ってみたら?私は単に惨殺死体を思い出しただけだと思うよ。それじゃーねー。」

 

(タマは笑いながら手を振り去って行く。それを見送り、地下に向かった。)

 

 

 

【校舎地下 ゲームルーム】

 

(暗い画面のままのゲーム機が並んだ静かなゲームルームに入る。と、AVルームの扉が開き、哀染が現れた。)

 

「やあ、魔姫に新始クン。」

 

「ボクもいますよ。」

 

「キーボクンも。AVルームで何か観るのかい?」

 

「そういうわけじゃないよ。」

 

「あ、そうなの?」

 

(哀染は和戸の言葉を聞いて、AVルームの扉をしっかり閉めた。)

 

(タマが言っていたことが気になったが、哀染は昨日と変わらぬ様子だ。)

 

「春川さん達はボクの案内係として校内を回ってくれているんですよ。」

 

「そっか。……みんなの様子は、どう?」

 

「どうって?」

 

「一応、明日がモノクマが言ってたタイムリミットだからね。不安になっている人は いないかと思って。」

 

「ああ。みんな割と落ち着いてるよ。さすが”超高校級”だよね。」

 

「それなら良かった。肝が座ってる人ばかりだね。それか、魔姫のおかげかな。」

 

「…私は何もしてないでしょ。」

 

「ううん。キミがモノクマの言葉を否定してくれたおかげで、パニックにならなかったんだよ。」

 

(哀染は愛想良く笑って、部屋から出て行った。)

 

 

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【寄宿舎】

 

「今日は運んでくださりありがとうございました。では、また明日…あれ?」

 

(夕食後、キーボを寄宿舎まで連れて来た。キーボに似た男の部屋のドアノブの前で、キーボのアンテナがうな垂れた。)

 

「この部屋はボクの部屋だと聞いていたんですが…開きません!」

 

死んだ奴の部屋は開かなくなる。ここでも、同じか…。)

 

「ここはあんたの部屋じゃないってことでしょ。私の部屋に来なよ。」

 

「なっななな!春川さん!女性がそんなことを軽々しく言ってはいけませんよ!」

 

「ギャーギャー騒がないで。」

 

(喚くキーボを掴んで、部屋のクローゼットに放り投げ、私はベッドに潜り込んだ。)

 

…………

……

 

『キーン、コーン…カーン、コーン…』

 

(朝のチャイムだ。夜時間になってから一晩、廊下の様子を見ていたが、誰も部屋を出た奴はいない。)

 

「春川さん!開けてください!」

 

「喚かなくても聞こえてるよ。」

 

「ひどいじゃないですか!クローゼットに一晩中 閉じ込めるなんて。ロボット差別で訴えますよ!」

 

(孤児院の子ども達が観てたアニメのロボットは押入れで寝てたけどな…。)

 

「今日も良い朝ですね。モノクマが言ったというタイムリミットとやらが気になりますが…。」

 

(タイムリミットは、今日の夜。22時まで誰もコロシアイに乗らなければ、私たちが殺されてしまえば…それで終わりだ。)

 

 

 

【校舎 食堂】

 

(食堂に入ると、全員の視線がこちらを向いた。そして、食堂の真ん中に陣取るモノクマが「うぷぷ」と笑う。)

 

「やっと全員揃ったね。」

 

「何しに出て来たの。」

 

「注意喚起だよ!オマエラ、ずいぶん のほほんと過ごしてるけど、いいの?タイムリミットは今日の22時だよ?」

 

「タイムリミットを迎えたらグロいよ?エグいよ?ヤバいよ?」

 

(モノクマが語彙力の足りない言葉で不安を煽る。そんな中、)

 

「モノクマ、コロシアイが始まった合図なんかは あるのかな?」

 

「ん?」

 

「だって、コロシアイを始める人が2人同時に出たら困るでしょ?初回特典とやらも限定1人なら、明確なルールが必要じゃない?」

 

「うーん……そうだね。コロシアイの開始は、死体発見アナウンスにしようかな。」

 

(…”前回”は、コロシアイ促進BGMの終わりが合図みたいになっていたね。)

 

「死体発見アナウンスがあったら、その殺しをした人が初回特典をもらえるってことだよね?」

 

「そうだよ。とにかく、早く誰か始めてよねー!」

 

(モノクマは顔を真っ赤にして怒りながら消えた。)

 

 

「オイ、テメー…何であんなこと聞きやがった!?モノクマの手に乗ろうってんじゃねーだろーな!?」

 

「落ち着いてよ。確かめただけだよ。」

 

「確かめた?」

 

「合図について、モノクマは今 考えた様子だったよ。つまり、本当に殺しが起こるとは想定していなかったってことだ。」

 

「……。」

 

「ボク達の不安は煽っておきながら、コロシアイが始まるとは思ってない。タイムリミットだって、やっぱりただの脅しみたいだよ。」

 

「そうなの…かな?でも…。」

 

「……私も、哀染に賛成だよ。わざわざ私たちを集めておいて、すぐ殺すことなんて、できっこない。」

 

「モノクマの言うことなんて気にしないことだよ。…それでも不安な奴は、できるだけ大人数で固まってればいいんじゃない。」

 

「そ、そうだね。いくらモノクマの嘘って言っても…怖いと思ったら誰かと一緒にいるのがいいかもね!」

 

(その言葉に、全員の表情が少しだけ和らいだ。朝食を済ませて、散らばる全員の様子を眺める。)

 

「さあ、春川さん。今日は どうしますか?」

 

「…2階から行こう。」

 

 

 

【超高校級の幽霊の研究教室】

 

「春川さん、今日は1人で行動なのね。」

 

「1人じゃありません。ボクもいますよ。」

 

「…1人と1体なのね。和戸君は?」

 

「朝 食べた後、羽成田に連れて行かれてたよ。」

 

「そう。それで、また ここの教室を調べたいのかしら?」

 

「……いや、いいよ。」

 

(私は壱岐に首を振って見せて、踵を返した。歩いて来た道をまっすぐ戻る。)

 

「いいんですか?来たばかりでは…」

 

「いいよ。みんなの様子を見たかっただけ。」

 

(それから しばらく、学園内を歩き、みんなの様子を見て回った。)

 

(そうこうしている間に、日が落ちて辺りが薄暗くなってきた。夕食時間が近付いている。)

 

(夕食前に、”超高校級の幽霊”の研究教室で睡眠薬を手に入れておきたい。)

 

(夕食に睡眠薬を入れておけばコロシアイが始まることもないしーーみんなの恐怖も苦痛も、最小限で済む。)

 

 

 

【校舎1階 階段】

 

「あれ?春川さん?」

 

(2階へ登る階段の途中で、後ろから声を掛けられた。)

 

(見れば、ロングコートを脱いで手に持った和戸が近付いて来た。若干 肌が汗ばんでいる。)

 

「何?走って来たの?」

 

「あはは、羽成田くんに筋トレさせられてたんだよ、体育館で。」

 

「……そう。」

 

「僕から一緒に過ごそうって言ったんだけどさ…まさか朝からずっと筋トレとは思わなかったよ。」

 

「やりすぎは逆に体に良くないですよ。休息と運動を繰り返すことで筋肉が発達する…とボクのデータにあります。」

 

「うん。もちろん休憩時間はあったけど…こんなに運動したの、いつぶりかな…。」

 

「あんた、体力なさそうだもんね。」

 

「う…そうだけど、実は今までも羽成田くんと寝る前にトレーニングをしたりしてたんだよ?」

 

「寝る前より日中の方が体にいいですよ。」

 

「………。」

 

「…ねえ、春川さん。少しゆっくり話せないかな?」

 

(和戸が少しだけ考える素ぶりを見せて、こちらをまっすぐ見てきた。私は それに応えて頷いた。)

 

 

 

【校舎2階 教室】

 

(私たちが出て来たロッカーがある教室。そこに入って行く和戸の背を追い、私は入り口をくぐった。)

 

「何、話って?」

 

「あ…いや、そんな大それたものじゃないんだ。ただ、1人でいるとネガティブな考えになりそうだったからさ…。」

 

(和戸が顔を微かに赤らめて言う。)

 

「春川さんと一緒に学園を見て回ってたのに…個性が強い人たちに囲まれてたせいか、2人でゆっくり話したことなかったから…。」

 

「和戸クン!ボクもいますよ。」

 

「あ、ごめん。そうだね。」

 

「……私は才能もないし、聞いて面白いことなんてないと思うよ。」

 

「そうじゃないんだ。僕はキミのことを知りたいんだよ。」

 

「…何で?」

 

「何でって…。友だちになりたいからさ。」

 

「……。」

 

「才能がないとか、覚えてないとか関係ないよ。僕だって、自分に特別な才能があるわけじゃないからね。」

 

「あんたは、ちゃんと政府に認定されてるんでしょ?」

 

「本当に才能があるのは、僕が助手をしてきた探偵たちだよ。突出した推理の才能があったんだから。」

 

「…『天は二物を与えず』なんて嘘だよね。武術の達人だったり、バイオリンの名手だったり、僕が助手をした探偵たちは才能に恵まれてたよ。」

 

「バイオリンの名手なんて、音楽の道でも成功するほどの腕前だったよ。有名なピアニストと合奏したりしててね。」

 

「えーと、ピアニストの名前は…好きな警視総監と同じ名前だったのに、出てこないや。」

 

「好きな警視総監って何。」

 

「あ…ははは、そうだよね。変な言い方だよね。」

 

(私の言葉に、和戸は はにかんだ。その顔が、”前回”の参加者を思わせた。)

 

 

「……私が知ってる奴にも…“超高校級の探偵”がいたよ。」

 

「え、そうなんだ。どんな人?」

 

「そうだね…そいつは…普段は頼りなかったけど、いざって時に…私たちを正しく導いてくれたよ。」

 

(そうだ。私たちの選択は正しかったはずだ。)

 

「やっぱり、探偵はすごいな。探偵助手なんかじゃ、みんなを導くことはできないから。」

 

「……そいつは、探偵だったけど、助手もやってたよ。」

 

「探偵で助手?それなら…僕の存在なんて、まるで いらないな。……ってごめん、さっきから卑屈すぎるよね。」

 

「……あんたは あんたで、”超高校級”なんでしょ。」

 

「……。」

 

 

「…ありがとう。春川さんって、実は優しいよね。」

 

「……は?」

 

「あ…いや、最初はちょっと冷たい人なのかと思ってたんだけどさ。春川さんは僕が思っていたよりずっと優しいよ。」

 

「……数日で何が分かるの。」

 

「分かるよ。」

 

「とある探偵の受け売りだけどさ。探偵は物事の観察者でもあり、人を見る心理学者でもなきゃいけない。」

 

「だから、僕も人をよく見るようにしてるんだけど…」

 

「よく見ていたら分かったよ。春川さんが優しい人だって。」

 

「…優しくなんてないよ。」

 

「キミが何と言おうと、僕はそう思ってるんだ。キミは優しい人だ。この思いは変えられないよ。」

 

「……そう。」

 

「ちょっと早いけど、食堂へ行こうか。」

 

(和戸は まだ汗が残る肌の上にコートを羽織りながら言った。)

 

「春川さん、いいんですか?壱岐さんの研究教室に行きたかったんじゃ…」

 

「あ、そうなの?探し物?一緒に行くよ。」

 

「……いいよ。用事があったわけでもないし。」

 

(睡眠薬を盛るタイミングは…まだある。)

 

 

 

【校舎1階 廊下】

 

「あ、そういえば、昨日 図書室に忘れ物したんだった。春川さん、先に行ってて。」

 

「分かった。」

 

(そのまま、和戸が見えなくなったタイミングで2階の研究教室に行こう。壱岐がいなければ睡眠薬を取ってーー)

 

(考えていたところで、和戸が立ち止まっているのが見えた。)

 

(降り階段の手前の教室を見ているようだ。その顔は驚愕で固まっていた。明らかに、様子がおかしい。)

 

(私は正面玄関を抜けて、彼に近付いた。)

 

(そしてーー彼が覗き込んだ教室内を見た。)

 

血に染まった、その教室内を。)

 

「うわあああ!」

 

「た、大変です!」

 

(我に返ったように叫ぶ和戸と慌てた様子のキーボの声が、遠く聞こえた。)

 

(私は、ただ呆然とそれを見ることしかできなかった。絶望することしかできなかった。)

 

(終わらせるはずだったのに、始まってしまった、と。)

 

(血塗れで倒れた哀染 レイの姿が、霞んで見えた。)

 

 

 

非日常編へ続く

 

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「第1章 私とボクの学級裁判(非)日常編Ⅱ【ダンガンロンパV4if/創作ダンガンロンパ/創作論破】danganronpa」への2件のフィードバック

  1. V2に引き続いてこちらも読ませていただきました!様々なところに謎が散りばめられているのがまさにダンガンロンパという感じでとてもワクワクしました!
    続きも楽しみにしています♪

    1. トラウマウサギ

      v2に引き続きコメントありがとうございます!ワクワクしていただけているとのこと、嬉しいです。励みになります!ありがとうございました◎

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