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第1章 私とボクの学級裁判 学級裁判編Ⅱ

 

 

学級裁判 再開

 

 

(この事件の犯人は、被害者である哀染。彼がタイムリミットのために自ら死を選んだ。)

 

(その意見に、全員 驚きの顔を見せている。)

 

「哀染君は…タイムリミットを迎えてたら、全員 死んじゃうと思って…みんなを守ろうとしたんだね…。」

 

「カナデたちを守るため死んだのかー!?」

 

「そんな…まだ若いのにねぇ…。」

 

「同い年だよ。…もし、タイムリミットが 本当だったら…僕たちは…。」

 

「けどよ。タイムリミットはモノクマのハッタリって話だったろ?哀染は死ぬことなかったんじゃ…。」

 

「まるで無駄死に。ハネゾラちゃんは、そう言いたいんだね?」

 

「ちげーよ!」

 

「……。」

 

「何にせよ、哀染君はタイムリミットを信じて、私たちを守った…ということね。」

 

「……愛じゃのう。」

 

 

「しかし…これでが解けたよ。」

 

「何のや?」

 

「犯人が名乗り出なかった理由さ。僕は ずっと不思議だったのさ。どうして犯人が“初回特典”を使わなかったのか…。」

 

「犯人が被害者なら…名乗り出ることはできないはずよね。」

 

「そ、それで、クロは哀染さんということでいいんですね?」

 

(全員が うなずき合う。そんなところで、肩の上のキーボが囁いた。)

 

「春川さん…おかしいと思いませんか?」

 

「…何が?」

 

「これが哀染クン1人で行ったのなら、現場から“あるべき物”がなくなっているんですよ。」

 

「え?」

 

(あるべき物…?現場にあるはずなのに、なかった物はーー)

 

 

1. 哀染の上着

2. 遺書

3. 輸血パックの容器

 

 

 

「春川さん!落ち着いて考えてください!深呼吸です!さあ、吸ってー、吸ってー、吸ってー、吸ってー!」

 

「あんたが落ち着いて。」

 

 

back

 

 

 

 

「ーーちょっと待って。哀染が死んだフリをした後、自殺した。だとしたら、おかしいよ。」

 

「おかしいって、何がや?」

 

「現場にあるはずの物が、なくなっているんですよ。」

 

「現場にあるはずの物?髪の毛ですか?ホコリですか?」

 

輸血パックの空容器だよ。哀染が血を撒いた後の、輸血パックの容器は…どこに行ったの?」

 

「あ!確かに、そうだね。」

 

「哀染が血を撒いた後、どこかに捨てたんじゃねーのか?」

 

「哀染はモノクマを騙そうとしたんでしょ?それなら、血を撒いた後に現場を離れて捨てに行くのはおかしいでしょ。」

 

「…誰かが輸血パックを持ち去った?」

 

「アイレイちゃんが死んだフリしてから、本当に死んで、発見されるまでの間だよね。どのタイミングかな?」

 

「1番最初に哀染を発見した時には近くに容器はあったのか?和戸、春川。お前さん達は覚えてないのかの?」

 

「それが…あの時は本当に死んでると思ってたから気が動転して…現場のことを詳しく覚えてないんだ。」

 

「……私も…だね。」

 

「変なの。”希望”君が死んだ時はあんなに冷静だった2人なのに。」

 

「だって…コロシアイが始まったってことなんだよ?冷静でいられるわけないだろっ。」

 

(私もだ…『ダンガンロンパ』を終わらせるつもりが、コロシアイが始まったことに気を取られすぎた。)

 

(あの時 冷静だったら…哀染1人が死んで、コロシアイが始まることには…ならなかったのに。)

 

(そんなことを考えていたところで、髪の毛を1房 引かれた。)

 

「……痛いんだけど。」

 

「スミマセン。呼んでも春川さんが返事をしてくれないので。」

 

「それより春川さん。ここはボクの出番ですよ。ボクの記憶にある現場の写真を出します!」

 

(……このキーボにも、そんな機能があるの?ライトもそうだったけど、”前回”は入間が付けた機能だったはず…。)

 

(私が「お願い」と言うと、キーボから何かしらの機械音がして…)

 

「どうぞ、お手に取って、じっくりご覧ください!」

 

(”前回”同様、その写真は口から排出された。しぶしぶ それを手の先に載せる。)

 

「小さすぎて見えない。和戸、あんたルーペ持ってたよね?」

 

「え?う、うん。」

 

「ちょっと待って。…まさか本当に必要になるなんて…。」

 

「早くして。」

 

(和戸がコートの内ポケットから取り出したルーペを人伝いに受け取り、写真に傾けた。1番最初に倒れた哀染を発見した記憶そのままの写真だ。)

 

(その中に、輸血パックの容器は…)

 

「少なくとも…哀染の近くに、それらしい物は写ってないね。」

 

「消えてるのかー?懐に入れたんじゃないかー!?」

 

 

 

ノンストップ議論1開始

 

「哀染君の死体の懐にも、何も入ってなかったよ。」

 

「現場にも何も落ちてなかったよね。」

 

「つまり…最初に哀染君の死んだフリが発見されるまでに、誰かが輸血パックの空容器を持ち出したということかい。」

 

「アーバーアーバー、シンジもマキも、ずっと教室Bにいたわけじゃないよー!」

 

「校舎の外から来た人が、シンジたちが図書室にいる間にレイの懐から空容器を回収したかもしれないねー。」

 

 

【発見時の様子】→死体の懐

【タマの証言】→外から来た人

【ゲームルーム】→外から来た人

 

 

 

「んー?何か言ったかー!?機械音は聞き取りづらいねー!」

 

「バカにしないでください!ボクの機械音は、この国の人が聞き取りやすいヘルツと心地よい声に設定されてるんですよ!」

 

(2人が音について、止まらない議論を始めた。今のうちに考え直そう。)

 

 

back

 

 

 

「それは違います!」

 

「私と和戸が教室Bで哀染を発見した後、校舎に入った奴はいない。そうだよね?タマ。」

 

「んー?そうだよ。校舎の外にも煙が来てたから、中に入ろうとする人を止めてたんだ。」

 

「ああ、オレもその場にいた。校舎内に誰かいるか目 凝らしてたけど、玄関を通ったヤツもいねぇ。」

 

「煙の中を視認できるなんてKAMIKAZEになれるね!」

 

「ならねーよっ!」

 

「それが本当なら、誰かが輸血パックを持ち去ったのは、和戸君と春川さんが哀染君を初めに見つけるまでの時間ということね。」

 

「つまり、死んだフリの作戦中…ということだね。」

 

「哀染さんの狂言には、協力者がいたってことですか?」

 

「確かに、モノクマに発見アナウンスを流させるためには、犯人役がいた方がいいわ。」

 

 

「絵ノ本さんは夕方頃、血が撒かれた教室の隣…教室Aにいたよね。」

 

「せやな。」

 

「フォッフォ、その時に何か気になったことはあるかの?」

 

「ないで。夕方頃まで教室Aにおったが、隣からは物音ひとつなかったで。途中でエイ鮫に誘われて図書室に行ったからその先は知らんけど。」

 

「そうそう。5時くらいに絵ノ本さんを誘って図書室に行ったよ。わたし達が図書室に行った時、既に壱岐さんもいたんだよね。」

 

「ええ。それから和戸君たちが降りて来て哀染君を発見するまで、私たちは一緒だったわ。」

 

 

(裁判場がまた静寂に包まれる。私は、もう一度キーボが出した写真を眺めた。すると、)

 

注射器がない…。」

 

(写真の中の違和感に気が付いた。)

 

「注射器って?死因となった?」

 

「そう。哀染の胸に刺さってた注射器がないんだよ。私たちが最初に哀染が倒れているのを見た時は。」

 

「死んだフリをしていた時は、注射器を使っていなかった。そういうことね?」

 

「誰かが…僕たちが図書室にいる間に、哀染君に刺したってことだよね?」

 

「でも誰が?私とハネゾラちゃんは外から見てたんだよ。校舎に入った人もいないし、食堂側から出た人もいないよ?」

 

「校舎の反対側から玄関ホールを通って教室B側に行ったヤツもいねーぞ。」

 

 

「……みんな。6時頃どこにいたか、聞いてもいいかな?」

 

「まとめましょうか。図書室にいたのは、春川さん、和戸クン、エイ鮫さん、壱岐さん、絵ノ本さんですね。」

 

「雄狩 芳子と朝殻さんと綾小路さんは中庭でした!」

 

「私とハネゾラちゃんは一緒に校舎が見えるところにいたよね。その間は誰も通らなかったよ。」

 

「でも、発見アナウンスがあって、オオダイちゃん、マリユーちゃん、イチモツちゃんも外側から校舎に集まって来たよ。」

 

「…お前の呼び方は誰のことか混乱すんだよ。発見アナウンスの後、大場と麻里亜と市ケ谷も、それぞれ校舎外から校舎内に入ったんだ。」

 

「……え?そうなんだ?」

 

「フォッフォッフォッ、全員が校舎の外か図書室にいたということじゃな。」

 

「つまり…誰にも哀染君を刺すことはできなかったってことだよね?」

 

「不可能犯罪か。興味深い。」

 

「言ってる場合かー!?間違えたらみんな死ぬんだぞー。」

 

 

「謎は残るけれど…被害者の肉に死の針を刺すことができるのは、被害者のその手のみ…そういうことね。」

 

「だから、なぜ わざわざ怖く言うんや。」

 

「やはり哀染が何らかの方法で輸血パックを隠したと考えた方が分かりいいのじゃなかろうか。」

 

(全員の顔に困惑が浮かぶ。そんな中、パンと両手を叩いた市ケ谷が明るい声を出した。)

 

 

「分かったぞ!その哀染と死んだフリ計画をしたヤツが哀染を殺した ごクロうさんだ!」

 

「…話を聞いてましたか?哀染クンはボクらが最初見つけた時は生きていて、その後あの教室に近付いた人は誰もいないんです。」

 

「き…希望に呆れられたぁ…!」

 

「キーボ君、もう少し柔らかく言ってちょうだい!」

 

「そうですよ!恋する乙女には優しく。紳士の基本でしょう!?」

 

「え!?す、すみません…?」

 

「…こ、ここ恋とかじゃねーです!き、希望の役に立てるかもしれないからっ、研究お教室から盗まれたモンのご存在を話そうと思っただけで…。」

 

「研究教室から盗まれたもの?」

 

「捜査時間にも、そんなこと言ってたね。」

 

「思い出したんだよ。研究お教室から なくなっていたデアゴスティーニ…あれは、クロスボウ作成おキッドだ!」

 

「……クロスボウ?」

 

(ーー嫌な響きだ。)

 

「どうかしたの?春川さん。」

 

「……何でもないよ。それで…クロスボウがなくなってたんだよね。いつのこと?」

 

「おいつの間にか!だ!」

 

「役に立たない情報だね。」

 

 

「……春川さん。もし、殺人にクロスボウが使われた場合はどうでしょうか。」

 

「どう…かな?春川さん。今の情報は、これまでの結論を覆す材料になるのかな?」

 

(哀染は注射器を胸に打って、教室Aのドア付近に倒れていた。注射器は刺さると同時に自動で注入される…。)

 

 

1. 哀染は自殺だ

2. 哀染は他殺だ

 

 

 

「えっと、キーボくん、そろそろ肩から降りてあげなよ。いくら春川さんだって…重いと思うよ?」

 

「え?そうなんですか!?春川さんでも重いと感じますか?」

 

(こいつらは私のことを何だと思ってるの。)

 

 

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「哀染は…やっぱり、誰かに殺されたんだよ。」

 

「え!?」

 

「彼は自殺ってことじゃないの?」

 

「教室には誰も近付けないのに、無理じゃないかな?」

 

「クロスボウを使えば…誰もいない部屋でも人を殺すことは可能かもしれないよ。」

 

「市ケ谷、なくなったクロスボウは どういうタイプのものなの?」

 

「ご自分で作ってねーから詳しくは分かんねーですけど、お組み立てたら このくらいの大きさだな。」

 

(市ケ谷が胸の前で大きさを示す。子犬くらいの大きさ。”前回のクロスボウ”より、だいぶ小ぶりだ。)

 

「引き金は どういうタイプ?」

 

「ンなこと、覚えてねーです。自分で作る時に組立図を見るからな。」

 

「…まあ何にせよ、手作りのクロスボウってことだよね。それなら…哀染を殺すことも…できるよ。」

 

「ど、どうやって?」

 

 

「例えば……ドア。ドアを使った仕掛けも作れるはずだよ。」

 

「引いた状態のクロスボウの引き金をゴムで固定しておいて、それでも引き金が引かれないように消しゴムか何かを挟んでおく。」

 

「クロスボウの矢の代わりに注射器をセットして、ドアに向けて置く。引き金の消しゴムとドアを糸か何かで繋ぐ。」

 

「ドアを開けることで引き金の間の消しゴムが外れて引き金が引かれ、注射器はドアを開けた人物に刺さる。そんな仕掛けも…作れるよ。」

 

 

「注射器は刺さると自動で内容物を注入する特別性です。それなら、犯人が教室に行く必要はないでしょう。」

 

「廊下に行くドア以外にも、教室ABを繋ぐドアがあったよね。」

 

「哀染は教室BからAに移動したことで殺されたってことかの?」

 

「絵本作家も驚きの空想力やな。佐々木マキに改名した方がええんちゃうか?」

 

「空想というわけでもないよ。教室Aには…落ちていたからね。」

 

(教室Aに落ちていたのはーー…)

 

 

1.【細い糸】

2.【ナイフ】

3.【寄宿舎の布団カバー】

 

 

 

「それは隣の教室Bに落ちてたんやろ?ロボのくせに物覚え悪いやっちゃな。」

 

「ロボット差別ですか!?ロボットは記憶力がいいというのは偏見です!」

 

(哀染が死んだフリをした教室B…哀染の死体が発見されたのは、隣の教室Aだね。)

 

 

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…ですか?」

 

「うん。短い糸が教室Aに落ちてたんだよ。ドアと引き金を繋いだ糸だと思う。何かの拍子で切れたんだろうね。」

 

「すごいね、ハルマキちゃん。クロスボウについて詳しいなんて、普通の女子高生とは思えないよ。…何でそんなこと知ってるの?」

 

「……。」

 

「何でだろうね。自分でも…不思議だよ。」

 

「これで、私たち全員のアリバイがなくなったわけね。」

 

「…絵ノ本は、図書室に行くまで教室Aにいたんだよな。」

 

「せやな。でも、ウチは そんな仕掛け作っとらんぞ。」

 

「う、うん。絵ノ本さんを誘いに行った時、そんな仕掛けなんてなかったよ?」

 

「それに問題もあるね。哀染君以外が犯人なら、犯人は彼がドアを開けるかなんて分からないはずだ。」

 

「そうかもねー。レイが隣の教室に入るなんて、誰にも分からないよねー。」

 

「哀染さんが死んだのは偶然…ってことでしょうか?」

 

(哀染が隣の教室に入ると分かっていなければ、この仕掛けは作れない。)

 

(”前回”の最初の事件で、最原と赤松が見張りに使った教室。哀染はそこで死んでいた。)

 

(”前回”赤松は、あの教室から砲丸を放ち、カメラのフラッシュでおびき寄せた首謀者を殺そうとした…。)

 

(そもそも、死んだフリをしていた哀染が隣の部屋に移動した理由は?そのヒントになるものが、あの部屋にあるの?)

 

(頭の中に文字が浮かんできた。これも、“ゲーム”の一部なんだろう。)

 

 

 

閃きアナグラム スタート

 

            き

こ                    う

                                               つ                  う

 

閃いた

 

 

 

通気口だよ。教室Aの…図書室に繋がる通気口。」

 

「通気口?」

 

「犯人は、通気口から“音”を立てて、哀染をおびき寄せたんだよ。」

 

「ほうほう?ラッパの音かな?」

 

「じゃ、じゃあテメーが ごクロうさんか!?」

 

 

 

ノンストップ議論2開始

 

「ラッパの音は学園に響き渡らせてたけどねー。レイも聞いてくれてたのかなー?」

 

「いや、朝殻さんは当時、僕と共に雄狩さんの舞踏を目に焼き付けていたからね、金管楽器は吹いていなかった。」

 

「焼き付けないでください!」

 

「通気口からの音なんでしょ?図書室から音がしていたってことよね?」

 

「つまり、犯人が図書室で物音を立てたんだな。」

 

「でも、だとしたら教室Aの外からも音がするでしょ?被害者が上手く仕掛けのドアを開けて教室Aに行くとは限らないんじゃない?」

 

 

【図書室の壁材】→教室Aの外からも音がする

【ゲームルーム】→教室Aの外からも音がする

【哀染の衣装】→教室Aの外からも音がする

 

 

 

「ハルマキちゃん、具合悪いの?そんな昔の少年マンガみたいな重し外して楽になりなよ!」

 

「重しとは、ボクのことではなさそうですね。ボクは装着されているわけではありませんから、外せません。」

 

(耳元でブツブツうるさい。)

 

 

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「それは違います!」

 

「図書室の壁材は、隣のAVルームやゲームルームと同じ壁材で防音性が高いんだよ。」

 

「そうだったね。図書室で大きな音を立てても、1階では通気口を通してからしか聞こえないんだよ。」

 

「フム。図書室での音は教室Aのみから聞こえるから、教室Bにいた哀染君を おびき寄せることも可能だね。」

 

「犯人は音で教室Bの哀染を教室Aに誘導し、ドアを開けた哀染をクロスボウの仕掛けで殺した…そういう理屈かの。」

 

「うーん、注射することが装置みたい…まるで人間を組み込んだループゴールドバーグマシン…ううん、ピタゴラスイッチみたいだね。」

 

「で?その音を立てた奴が犯人なんだろ?誰なんだよ?」

 

 

▼図書室で大きな音を立てたのは?

 

 

 

「その人が どうやって音立てるんですか!?まさか、あなたの肩の上の鉄を使って…!?」

 

「まさかとは思いますが…鉄とはボクのことですか?」

 

(キーボがそんなことに役立つとは思えない。考え直そう。)

 

 

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「キミしかいません!」

 

エイ鮫、あんたは図書室が停電して悲鳴を上げてたよね。しかも、かなり大声で。」

 

「……え?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、わたし…?」

 

「そういえば、絵ノ本を図書室に呼んだのも、エイ鮫だったな。」

 

「せやな。確かに、暗闇になった瞬間のエイ鮫の声は、朝殻のラッパより やかましかった。」

 

「一昨日 校舎が停電した時より…ずっと声が大きかったね…。」

 

「哀染さんを おびき寄せるために枯らす程の声で叫んだということですね!」

 

「え、わ、わたし……。違うよ!」

 

「た、確かに…わたしは暗所恐怖症で自分でもヒくくらい叫んだ自覚はあるけど…!あんなに叫んじゃったのには理由があるんだよ!」

 

「理由?」

 

「あの時…何かが、わたしの手に触ったんだよ!その感触にびっくりしちゃって……。」

 

「何かとは何や?」

 

「えっと…手に何かが触れた…それくらいで あんな声出るかな?」

 

「と、とても形容しがたい感触だったんだよ!冷たくて、しっとりしてて…生きたナマコ…ううん、カエルのハラワタって感じで…。」

 

「……。」

 

「ごめんなさい。エイ鮫さんの手を触ったのは私の手よ。」

 

「え!?」

 

「エイ鮫さんが暗所恐怖症だと聞いていたから心配で手を取ったのよ。」

 

「え、あ…そうだったの?ごめん…ナマコとか言って…。あの…でも、わたしナマコ酢とか好きだよ?」

 

「カエルのハラワタは好きかしら?」

 

「と、とにかく!わたしはそれで驚いちゃったんだよ!」

 

「それは偶然だったが、ハナから叫ぶつもりだった…そうも考えられんかの?」

 

 

(停電した瞬間のエイ鮫の声は凄まじいものだった。そこに、何か理由があったとしたら…)

 

(エイ鮫が哀染をおびき寄せるために叫んだんだとしたら…)

 

(エイ鮫は、どことなく雰囲気が白銀に似ている。エイ鮫は…白銀のコスプレで、首謀者。その可能性もーー…)

 

「春川さん。」

 

現場に向かった時を よく思い出してみてください。」

 

(現場に向かった時?)

 

 

 

ノンストップ議論3開始

 

「エイリオちゃんが犯人なのかな?」

 

「状況証拠しかないが…彼女が哀染君の行動を操ったとしたら…考えられるね。」

 

「ウチとエイ鮫は一緒やったけど…クロスボウを仕掛けたのもエイ鮫なんか?ウチは気付かんかったが…」

 

「クロスボウを仕掛けるのに絵ノ本さんが邪魔だった。だから一緒に図書室に行ったのかもしれないわね。」

 

「なるほど!そして春川さん達と一緒に死体を発見し、みんなが死体に気を取られている間にクロスボウの仕掛けを隠したということですね!」

 

 

【ナイフ】→仕掛けを隠した

【発見時の様子】→仕掛けを隠した

【タマの証言】→仕掛けを隠した

 

 

 

「悪いけど…所詮は人工知能と言わざるを得ないね。」

 

「ぐっ…!」

 

(私は人工知能じゃないんだけどな…。)

 

 

back

 

 

「それは違います!」

 

「エイ鮫がクロスボウを教室Aに仕掛けられたとしても、回収することはできなかったはずだよ。」

 

「え?そうなんですか?」

 

「はい。エイ鮫さんは発見時、ボクらの先頭にいて、哀染クンのいた教室Aの隣…教室Bに真っ先に入って行ったんです。」

 

「リオ、どうやってクロスボウを回収したんだー?マジック?魔法?」

 

「わ、わたしじゃないって!」

 

「じゃ、エイ鮫にお声を上げさせた壱岐が犯人か!?」

 

「あら、私だって声を上げられるとは思ってなかったわよ。」

 

「いやー、難しい問題に直面しているようだね。加害者と被害者の線引きが難しい世の中だからね。仕方ないね。」

 

「お前は黙ってろよ…。」

 

(ーーそうだ。現場に、クロスボウはなかった。それなら…誰かが回収したはず。)

 

「……。」

 

(クロスボウを回収できたのは…1人だけだ。)

 

 

▼クロスボウを回収できたのは?

 

 

 

「その人が回収するのは難しいと思うけど…何か考えがあるのね!」

 

(不可能だね。)

 

 

back

 

 

 

 

「キミしかいません!」

 

「クロスボウを回収したのは…和戸。あんただよね。」

 

「……え?」

 

「あの時、私とエイ鮫、壱岐、絵ノ本は、まっすぐ教室Bに入ったんだよ。そして、哀染の死体がないことを確認した。」

 

「その時、あんたは隣の教室Aに先に入ってたよね。そして、私たちに『こっちに死体がある』って叫んだ。」

 

「おい、ちょっと待てよ!?何の話をしてるんだ?」

 

「クロスボウを仕掛けて回収したのは、和戸じゃないかって…そう言ってるんだよ。」

 

「ちょっと待ってよ。僕が?そんなわけないよ。」

 

「そうだ!新始は朝から ずっとオレと体育館にいたんだぞ。」

 

「休憩はあったんだよね。それに5時半には、和戸は1人で行動してたよ。」

 

「5時半すぎにボクと春川さんと合流しています。クロスボウを仕掛ける時間も、哀染クンと教室Bで会う時間もあったはずです。」

 

「……ッ!」

 

「えっと…どうなんですか?和戸さん?」

 

「犯人は、お前かー!?」

 

「……みんな、落ち着いてよ。僕がエイ鮫さんを叫ばせたわけじゃないんだよ?それに、僕は図書室に誰がいるのかも知らなかったよ。」

 

「そうだ!図書室の状況は、完全に偶然だろーが!」

 

「もし、偶然じゃなくて それができたとしたら、まるで心理操作…マインドコントロールみたいだよね?」

 

「確かに、無理があるかもしれんのう。」

 

「……偶然じゃなかったのかもしれないわ。」

 

「あ?どういうだ?」

 

「実は、私が図書室に行った理由なんだけれど…和戸君が研究教室に来て、言ったからなのよ。…あれはトレーニングの休憩中だったんでしょうね。」

 

「彼が教えてくれたのよ。『図書室に良い怪談の本がある』って。」

 

「……そ、そういえば…わたしが絵ノ本さんを誘って図書室に行ったのも、和戸君が言ったから…だよ。」

 

「『絵ノ本さんが1人で不安そうだから夕食までどこかへ行ったら気晴らしになるかも』って…。それで、やっぱり絵ノ本さんなら本かなと思って…。」

 

「当然のように図書室になるわなぁ。」

 

(教室Aにいた絵ノ本を、エイ鮫に追い出させた…?)

 

「まさか、停電も和戸君の仕業かい?」

 

「ゲームルームのゲーム機は電源が全て入っていたからのう。地下1階を意図的に停電させることは可能じゃ。1時間で奈落の闇だそうじゃからの。」

 

「それで停電させて…エイ鮫さんを叫ばせるのも計画だったってこと…?」

 

「そうね。この計画ならアリバイを作りつつ、エイ鮫さんに罪を被せることもできるわ。」

 

「フム。煙が撒かれてから図書室以外の校舎内に人がいなかったのは、誤算だったようだけどね。」

 

「もしかして…哀染さんが雄狩 芳子に服を貸してくれたのも…和戸さんが哀染さんに言ったから…ですか?」

 

「それで更にお捜査をご混乱させようとしたんだな!」

 

「そんなはずねーだろ!」

 

「変なの。何で、ハネゾラちゃんが必死になってんの?」

 

「あったりめーだ!新始はそんなことができるヤツじゃねー!オレは1度信じたヤツは最後まで信じぬけって教育 受けて育ったんだよ!」

 

 

反論ショーダウン開幕

 

「新始は確かに、エイ鮫たちが図書室に行く きっかけを作ったかもしれねー。」

 

「でもな、殺人なんだぞ?新始が犯人なら不確定要素が多すぎるだろうが!」

 

「壱岐は図書室に行かねーかもしれねー。エイ鮫が絵ノ本を誘わねーかもしれねー。」

 

「それどころか、すぐ図書室から出て行くかもしれねーんだ。」

 

「それに…停電の時、壱岐がエイ鮫の手を握らなかったり、エイ鮫が叫ばなかったら意味ねーじゃねーかよ!」

 

「上手く働かないなら自分でするつもりだったんじゃないの。」

 

 

「それだけじゃねー!そもそも、最も大きい矛盾があるんだよ!」

 

「俺たちがトレーニングを終えたのは5時20分頃だ。そこからゲームルームのゲーム全部 稼働しても、6時に停電が起こるのは おかしいだろ?」

 

「停電になる時間は約1時間後。計算が合わねー。そんな いつ停電になるか分からねーのにアリバイ作りもクソもねぇ!」

 

停電が起こったのは偶然だったのに、新始が犯人なんて言えねーだろ!」

 

 

【キーボ充電器】→停電が起こったのは偶然

【ゲームルーム】→停電が起こったのは偶然

【発見時の様子】停電が起こったのは偶然

 

 

 

「おい…ふざけてんのか?肩のモンぶち壊すぞ?」

 

「春川さん、ボクの命が掛かってます。慎重に発言してください。」

 

「…そうだね。」

 

 

back

 

 

 

「その言葉、斬らせてもらいます!」

 

「地下の停電は、偶然で起こったわけじゃないよ。これを…使えばいいんだから。」

 

「えっと、それは?」

 

「ボクの充電器ですね。図書室にありました。」

 

「そいつは、お充電中じゃなくても、おプラグを挿れるだけで お電気代を異常に喰う特別性だぜ!」

 

「和戸は、私と図書室に入ってすぐ、図書室のコンセントに このプラグを挿したんだよ。」

 

(たぶん、あの時だ。教室Bから図書室に駆け込んで、みんなの視線が私に集中したあの時。)

 

 

「大変だよ!哀染くんが…っ!」

 

(図書室に入ってすぐ、言いかけた和戸が盛大に咳き込んだ。)

 

「哀染が…殺された。」

 

「え?」

 

(和戸の言葉を私が続けると、全員が私の顔を信じられないように見た。)

 

 

「ああ、それなら、ゲームルームのお電気使用も相まって、ご停電 お待ったなしだな。」

 

「つまり、和戸君たちが図書室に入って すぐ停電になったのは、必然だったということだね。」

 

「すごいね。操り人形みたいに人の手を使って殺人犯しちゃうなんて。」

 

「ちょっと待て!何を勝手に話 進めてやがる。新始、テメーも反論しやがれ!」

 

「……そうだね。」

 

(和戸が こちらを見据えて言った。最後の議論だ。彼の瞳は、そう言っているようだった。)

 

 

 

理論武装 開始

 

「僕がクロスボウを設置して、哀染くんやエイ鮫さん達の行動を操って殺人を犯した?」

 

「そんなの、むちゃくちゃだと思わない?」

 

「いくら僕が誰かの手を借りないと何もできないからってさ。」

 

「ただの探偵助手の僕には、そんな計画立てられないよ。」

 

 

「確かに、僕ならキーボくんの充電器で図書室を停電にすることも、クロスボウを回収することもできたかもしれない。」

 

「でも、今あるのは、そんな状況証拠だけだよ。」

 

「『僕がその状況を作り上げて、クロスボウを回収した可能性がある』だけだ。」

 

「僕が犯人だという物的な証拠はあるの?」

 

 

  ○コート  △ポケット  ×うち  ◽︎の 

 

これで終わりだよ

 

 

 

「じゃあさ…コートの内ポケットを見せてよ。」

 

「え…?」

 

「あの時…あんたは暑そうだったのにコートを着たよね。」

 

(そうだ…。あの時、和戸はなぜかコートを着た。)

 

 

「ちょっと早いけど、食堂へ行こうか。」

 

(和戸は まだ汗が残る肌の上にコートを羽織りながら言った。)

 

 

「それは…後で哀染の死体の側に残ったクロスボウを回収しなきゃいけなかったからじゃないの?」

 

「それに、ボクの充電器も隠し持っていたはずです。コートを着ていないと、取り出しにくいですからね。」

 

(私が和戸を見ると、和戸は小さく笑った。そしてーー)

 

 

「春川さん、キミを探偵役に見込んだのは、間違いじゃなかったみたいだ。」

 

(こちらにコートの内側を見せる。その内ポケットから、クロスボウの先端が覗いていた。)

 

「おい!何でテメーが持ってるんだ!?それは…現場で見つけて拾ったのか!?」

 

「…ごめん。羽成田くん。」

 

「しん…」

 

「僕が昨日、哀染くんに持ち掛けたんだ。『タイムリミットを乗り越えるために、死体をでっち上げよう』って。」

 

「だから今朝、彼はモノクマに確認したんだよ。『発見アナウンスがコロシアイの合図だ』って。」

 

「彼はモノクマを欺くために雄狩さんに服を貸した。これも、僕が言ったことだよ。雄狩さんにも そんな話はしてたしね。」

 

「まあ、雄狩さんに哀染くんの衣装について話したのも、壱岐さんにエイ鮫さんの恐怖症を話したのも、何かに利用できそうだと思ってたからなんだけど。」

 

「えっ…。」

 

「そ、そうだったんですか!?」

 

「哀染くんはみんなを守るためならって、喜んで動いてくれたよ。」

 

「でも、僕は哀染くんを殺すつもりで、教室Aにクロスボウを仕掛けた。そのために、エイ鮫さんに絵ノ本さんを図書室へ連れて行くよう誘導したし…」

 

「壱岐さんがいれば、停電中 エイ鮫さんを叫ばせるんじゃないかと思って、図書室に行かせた。」

 

「……そう。」

 

 

「人の手を使いながら、その人には最低限の情報しか与えない。これは組織的犯罪者が人を雇う時に使う手だよ。」

 

「個人でそれができれば、完全犯罪成立だと思ったんだけどなぁ。」

 

(和戸は眉尻を下げて笑った。けれど、その言葉には違和感がある。)

 

(クロスボウの仕掛けに使った糸。あれを現場で見つけてみせたのは、和戸だ。)

 

「和戸…。あんた…もしかして、私に事件を暴かせようとしたの…?」

 

(和戸は答えず、こちらを見据えている。)

 

「何で…あんたは哀染を殺したの?何で、初回特典を使わなかったの?」

 

(”前回”の記憶が蘇る。赤松は、タイムリミットを乗り越えるために首謀者を殺そうとした。)

 

(そして、初回特典のせいで犯人として名乗り出ることができなかった。首謀者を見つけるために、学級裁判に臨んだ。)

 

「和戸…あんたはーー」

 

「それは、キミの推理に任せるよ。納得してない人もいるからさ。春川さん。みんなを納得させてあげてよ。“小さな探偵さん”と一緒にさ。」

 

(言いかける私を止めて、また和戸は笑った。)

 

 

 

クライマックス推理

 

「事件の発端は2日前。モノクマが追加した動機…タイムリミットだよ。犯人は被害者にある作戦を持ちかけた。」

 

「タイムリミットまでに死体をでっち上げて、モノクマを騙すという作戦ですね。」

 

「でも…事件までの間に、人を操るタネは犯人によって蒔かれていた。」

 

「雄狩に哀染の服を借りるよう促し、壱岐にはエイ鮫の暗所恐怖症について話した。」

 

「本格的に事件が動き始めたのは、今日の夕方。犯人は朝から羽成田クンと体育館にいましたが、休憩中に みなさんの位置関係を確認していたのでしょう。」

 

「壱岐さんが図書室に行くように誘導し、教室Aにいた絵ノ本さんをエイ鮫さんに連れて行かせた。」

 

「そして、おそらく羽成田クンとの訓練が終わった後すぐ教室Aにクロスボウを仕掛けたんです。扉が開くと同時に、致死量の睡眠薬が注射される仕掛けを。」

 

「その後、犯人は哀染と教室Bで死体のでっち上げを行った。たぶん…犯人が哀染を刺したと見せかけて輸血パックの血を撒いた。」

 

「そして6時頃、犯人はボクと春川さんと哀染クンを発見しました。血塗れで死んだフリをした哀染クンを。」

 

「私たちが哀染を発見した瞬間、哀染は教室内にガスを散布させた。犯人は『毒ガスだ』と言って地下に私たちを誘導したんだよ。」

 

「それで準備が整った犯人はキーボの充電器を使って地下を停電させ、周囲をパニック状態にした。その時、壱岐は暗所恐怖症のエイ鮫の手を握った。」

 

「それに驚いたエイ鮫は悲鳴を上げた。その声は外には届かなかったけど、通気口を通って上の階にだけは届いてたんだよ。」

 

「その声で哀染クンは、悲鳴が聞こえた隣の教室Aに入りました。扉が開くことで、クロスボウの注射器が発射される…誰もいない教室に。」

 

「その後、ガスが引いたところで私たちは哀染が倒れていた教室Bに向かったけど…そこには何もなかった。」

 

「1番遅れて来ていた犯人は、先に隣の教室Aからクロスボウの仕掛けを回収した。私たちは、なくなった死体に気を取られていたからね。」

 

「哀染や他の人間を それぞれ動かしながら行った計画殺人…」

 

「その犯人は、キミです!“超高校級の探偵助手” 和戸 新始クン!」

 

 

 

「ーーすごいや。春川さんもキーボくんも、名探偵になれるよ。」

 

(まとめ終えた私たちに、和戸は小さな拍手を送る。)

 

「さて、宴もたけなわですが、ワックワクでドッキドキの時間だよ!」

 

(私が何かを言う前に、モノクマが投票時間を示した。私は投票ボタンを目の前に固まっていた。)

 

 

(”前回”の裁判を思い出す。投票放棄を選んだ、あの裁判を。)

 

(もし…クロを間違えてシロがおしおきされれば、このコロシアイは終わる…はずだったけど。)

 

「春川さん。押してください。どんなに辛い選択でも、前に進まなければ。」

 

「……。」

 

「……あれれ?最初に言ったよね?必ず誰かに投票してって。」

 

(投票時間が短くなって、モノクマが釘を刺した。憎たらしいクマが見つめるのは、私じゃない。)

 

(私は既に、投票していたから。”この”コロシアイだけを終わらせたって…意味がないから。)

 

(それに、もう みんな和戸に投票しているだろうから。)

 

「ほら!絵ノ本さん!ボンヤリしてないで、投票して!」

 

「…ああ、『何もせん』をしとったわ。」

 

「え、絵ノ本さん…。投票、しないと…。」

 

(ボンヤリ顔を上げた絵ノ本に、彼女の隣のエイ鮫が促した。)

 

(そして、投票時間が終わり、全員分の票が和戸に集まった。)

 

 

 

学級裁判 閉廷

 

「大正解ーー!”超高校級のアイドル” 哀染 レイクンを殺したクロは、”超高校級の探偵助手” 和戸 新始クンでしたー!」

 

「みんな、ごめんね…。こんな学級裁判を開かせて、不安にさせちゃったよね。」

 

「新始…テメー、本当に……なん、でだよ…じゃあ、何で初回特典を受け取らなかったんだよ…。」

 

「……受け取れなかったんだよ。」

 

「新…始…。」

 

「…それって…どういうこと?」

 

「君が初回特典を受け取らなかったのには、理由があったのかい?」

 

「せっかくお外に出られるっつーのによ、ンだよ そりゃあ!?」

 

「自分が生きて脱出するより大事なことなんてあるかな?」

 

「和戸。あんた、もしかして…首謀者を…」

 

(私が言いかけたところで。彼は言った。)

 

 

「僕は見届けなきゃいけなかったからね。探偵が、犯人を追い詰めるまでを。」

 

「……は?」

 

「みんな、どうだった!?僕って意外な犯人だっただろ?」

 

「新始…?」

 

「ど、どうしたんですか?様子が…」

 

「僕って探偵助手でしょ?探偵モノに必要不可欠な語り部なんだ。そんな語り部が犯人。意外な事実だよね!」

 

(なぜか、彼は恍惚の表情で、瞳を輝かせて語り出す。)

 

「探偵の物語には、凡人がいなきゃいけない。探偵に、凡人にでも分かるよう説明させる登場人物が。だって、物語の視聴者の大半は凡人だからね!」

 

「探偵の傍らで凡人として疑問を投げかける探偵助手は、物語の語り部として最適なんだ。」

 

「そして、そんな探偵の助手が犯人だったら、探偵だって驚きだろう?僕は、僕が助手を務めた探偵たちをアッと驚かせたかったんだよ。」

 

「こいつは何を言っとるん…?」

 

「あたし達のためにタイムリミットを防いだ…そういうわけじゃ…なさそうね。」

 

「もちろん、みんなのためだよ!僕が犯人で驚いただろ!みんなが驚くクロになって、みんな楽しめたろ?」

 

「まさか…そんなことのために哀染君を殺したのかしら?」

 

「……とんでもないのう。」

 

「キミ達の理解なんて求めてないよ!僕は探偵たちも唸る殺人を犯して、意外な犯人として犯行を暴かれたかっただけなんだから!」

 

「………。」

 

(頰を染めながら話す和戸の顔。その姿に、なぜか既視感を感じた。)

 

 

「ご高説 結構だけどさぁ、」

 

(和戸の演説が響く中、裁判長席から面倒そうな声がした。)

 

「『語り部が犯人』って別に斬新でも何でもないよね。主人公や探偵が犯人ってのも、ありふれてるよ。何なら100年前からあったよ。」

 

「エドガーとかァ ランポーとかね。大正のスパイダーマンだって そうでしょ?」

 

「でなきゃ、叙述トリックも水平思考やウミガメのスープも、まだ存在しないはずさ。」

 

「ミステリ好きにとって、もはや意外性のある犯人なんて存在しないのさ。『ダンガンロンパ』のファンにとっても、ね。」

 

「!?」

 

(どういうこと?今…『ダンガンロンパ』の名前を出した?)

 

 

(モノクマを凝視するが、モノクマは「話は終わった」とばかりに和戸へ言葉を放った。)

 

「さてと、では お待ちかねといきますか。」

 

「待ってよ!じゃあ、何で!?」

 

「”超高校級の探偵助手” 和戸 新始クンのために、スペシャルな おしおきを、用意しましたー!」

 

「何で…僕はコロシアイに参加できたの!?『誰も見た事がないような殺人をして みんなを驚かせる』って…そう言ったからじゃ…」

 

「!?」

 

「嘘だ!嘘だ!!僕は!」

 

「待って、和戸!あんた、今……」

 

「おしおきターイム!」

 

「嫌だ!僕は、意外な犯人になりたかったんだ!それなのに…こんなっ!!」

 

「待って!!」

 

(伸ばした手は、届かない。和戸は絶望に満ちた表情で裁判場から連れ去られた。)

 

 

 

おしおき

 

“超高校級の探偵助手” 和戸 新始の処刑執行

『シン犯人』

 

和戸 新始は、いかにも探偵の部屋といった一室でいかにも探偵といった風貌の痩せた長身の男と対峙していた。

インバネスコートに鹿撃ち帽。かの探偵小説には記載がないものの、いつの間にか 探偵のステレオタイプとなった服装の男。

彼の口は「ワトソン」と動き、こちらを真っ直ぐ指差した。

 

その瞬間、地面が割れ、身体を浮遊感が襲った。強かに体を打ち付けた先は、ヨーロッパ風の街の中。カフェのオープンテラスでコーヒーを楽しみながら こちらを見下ろす男がいた。

黒くピンと跳ね上がった大きな口髭を蓄えた小柄な男。三つ揃いの仕立て服に蝶ネクタイという出で立ちだ。彼はカップをゆっくり傾けながら口を開いた。

「ヘイスティングズ」とその口は動き、彼はこちらを疑心の目で睨め付けた。

 

また、地面が割れる。激しく身体を叩きつけられたそこは、和室だ。古めかしい部屋に、モジャモジャ頭の男が座っている。

男はやはり、自分を指差して口を動かした。「小林君」と。

 

ーーああ、できれば助手少年ではなく、好きなキャラクターの姿を借りたかった。最も好きな警視総監。『猟奇の果て』の事件に翻弄された、赤松警視総監。

どうして、主人公探偵ではなく、警視総監の名前を思い出したんだろう。自問した瞬間、思い至った。

ーーそうだ。”あれ”を見たからか。

 

三度割れた地面から落ちた先は、すっかり現代だった。目の前には1匹の三毛猫。その猫は「ニャア」と鋭く鳴いた。その後ろから、ヒョロリとノッポな刑事風の男が拳銃をこちらに構えている。

ーーああ、僕の完全犯罪は、しょせん猫にすら見破られるんだ。

 

また、割れた地面。長く、深い谷底に沈んでいく。終わりの見えない、落ちていく感覚。最期に聞こえたのは、グシャリという、自分の身体が潰れる音だった。

 

…………

……

 

「……。」

 

(和戸のおしおきに、全員が口をつぐんでいた。裁判場は まるで誰もいないように静かだ。)

 

(全員が絶望に追いやられた表情で立ち尽くしている。そんな中、私の頭は和戸の最期の言葉を繰り返し再生していた。)

 

(あの…”前回”の最後の裁判で、白銀に見せられた映像。コロシアイのオーディションだというあの映像。)

 

(あの中で、”最原”が言っていた。)

 

(『誰も見た事がないような殺人をして見ている人を驚かせる』と。)

 

(和戸…あんたは……)

 

最原…なの?)

 

 

 

第1章 私とボクの学級裁判 完

第2章へ続く

 

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「第1章 私とボクの学級裁判 学級裁判編Ⅱ【ダンガンロンパV4if/創作ダンガンロンパ/創作論破】danganronpa」への2件のフィードバック

  1. ダンガンロンパV4が更新されるのを楽しみに待っていました!まさかのV3の結末に関することが1章のうちから飛び出しまくるという衝撃展開が本当にびっくりで面白かったです。
    こちらのサイト様は創作論破のなかで群を抜いて一番好きなので、2章以降も楽しみに待っています!

    1. トラウマウサギ

      お待ちいただいていたとのこと、ありがとうございます。びっくりで面白い…嬉しいお言葉です。1章で散らかした伏線を回収できるよう頑張りますので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです!一番好き…ありがたい…励みになります!ありがとうございました!

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