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第2章 限りない地獄、まだ見えぬ天国(非)日常編Ⅰ

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(……朝か。)

 

「おはようございます!春川さん!開けてください!」

 

「聞こえてるよ。開けるから、騒がないで。」

 

(クローゼットの中から大声の挨拶を寄越すキーボを拾い上げる。)

 

(昨日の裁判の後、どうやって戻って来たか覚えていない。)

 

(またコロシアイが起こって、学級裁判で首謀者を見つけることもできなかった。)

 

(…裁判場には、空席があった。あれは…白銀の席だ。)

 

(あいつは どこに隠れてるの…?それとも、誰かにコスプレして紛れ込んでる…?)

 

(……それに、昨日の裁判で和戸が言った言葉。)

 

 

「『誰も見た事がないような殺人をして みんなを驚かせる』って…そう言ったからじゃ…」

 

 

(あれは…どういうこと?あいつはーー…)

 

「春川さん?みんな…きっと もう集まってますよ。早く行きましょう。」

 

「…そうだね。」

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

「あ、マキ!おはよー!」

 

「おはよう。…良い朝じゃの。」

 

「おはようございます。」

 

「…よく眠れたかしら?」

 

(食堂に既にいた数名が こちらを見た。私が挨拶を返して座ると、まだ来ていなかった面々も食堂に入って来た。)

 

「あ?お飛行少年がいねーです。」

 

「……無理もなかろう。」

 

「……そうね。今は…そっとしておいた方がいいかもしれないわ。」

 

「………。」

 

(食堂には、”超高校級のパイロット” 羽成田の姿がない。初日に和戸と一瞬で打ち解けた羽成田は、昨日の裁判後ひどい顔色で部屋に入って行った。)

 

 

(けれど、この場で和戸の名を出す奴はいなかった。そんなことをすれば、せっかく装っている『いつも通り』が剥がれ落ちるから。)

 

(”前回”は、敢えてみんなの平静を非日常に引き戻そうとする奴もいたけれど。)

 

「……。」

 

(肩の上の機械も平静を装う技術は搭載されていないらしい。みんなに彼のしんみりした顔が見えないように座り直した。)

 

(それに、もう1人。落ち込んだ様子を隠しもしない奴がいる。そいつに近付こうとした瞬間、)

 

 

「やあやあ、レンアイ裁判…じゃなかった、コロシアイ裁判を明けて、ご気分いかが?」

 

「あ…現れましたね!諸悪の根源!」

 

「何の用かしら?」

 

「うぷぷ。オマエラにご褒美を渡しに来たんだよ。1回目の裁判を乗り越えたご褒美を、ね。」

 

(そう言ってモノクマが渡してきたガラクタは、確かに見覚えがあるものだった。)

 

(赤い球に将棋の駒、オカリナと よく分からない棒。”前回”、最原が学園内の教室や通路を開放したアイテムだ。)

 

(1回目の裁判後に開いた教室は確か…と思い出していると、こちらを覗き込むタマと目が合った。)

 

「ねぇ、みんな。このアイテムはハルマキちゃんにお任せするのはどう?」

 

「……。」

 

「何で、私…?」

 

「ハルマキちゃんとキーボーイって、昨日の裁判でも大活躍だったでしょ?ワトシン君も認める推理力!まるで“超高校級の探偵”!」

 

(和戸の名前が出て、その場は緊張した空気を纏う。)

 

「だから、2人なら…あ、ごめんね。1人と1つなら、新しい手掛かり見つけられるかなーって。」

 

「わざわざ言い直さなくていいですよ!」

 

「……。」

 

(特に異論のある者は いなかった。ガラクタたちは私の手の元に収まった。)

 

(面倒だけど仕方がない。私はアイテムを手に、食堂を出た。)

 

 

 校舎内を回る

 校舎の外に出る

全部見たね

 

 

 

【校舎1階 廊下】

 

(食堂から体育館への廊下に来た。エイ鮫と絵ノ本が立っている。)

 

「あ…。」

 

「エイ鮫さん、絵ノ本さんもここが怪しいと踏んでいましたか。」

 

「せやな。通行手形とやらの形が ここと同じやからね。」

 

「うん…。ルミ先生の…みたいだったもんね…。」

 

「誰…それ…?」

 

「さあ、春川さん。先ほどの、将棋の駒のようなアイテムを ここに入れてください。」

 

(私は言う通りに、アイテムをくぼみにはめた。壁が崩れた中から、道が現れた。)

 

(この先は確か、夢野の…“超高校級のマジシャン”の研究教室があったはず。)

 

(私は壊れた壁の中へ歩き出した。が、絵ノ本とエイ鮫が動く気配がなかったので振り返った。)

 

「あんた達は行かないの?」

 

「せやなぁ。行ってもええけど、行かんでもええわ。」

 

「え?じゃあ何のために ここに来たんですか?」

 

「春川が1人やと大変かもしれん思っただけや。アイテムの謎が解けたなら、それでええわ。」

 

(まあ、ボンヤリして投票放棄しかけた絵ノ本なら分かる。それよりーー)

 

「エイ鮫は、どうしたの。朝からずっとボーッとしてるけど。」

 

「え?そんなことないよ。」

 

「……。」

 

(結局、ついて来たエイ鮫と絵ノ本と共に壁の中の道を通って、その先の扉を開ける。)

 

 

 

【超高校級の絵本作家の研究教室】

 

(中には、夢野の研究教室と同じく、ギロチンや大きい水槽が並んでいる。水槽の中には、ピラニアが泳いでいた。)

 

(その他、拷問器具とピンクのペンキが付いた不気味なヌイグルミが積んである。)

 

「え…何、ここ。拷問部屋…?」

 

「ここは、まさしく…ウチの研究教室やろな。」

 

「ええ!?」

 

「あんた、絵本作家だよね?」

 

「せやで。でも見てみ。ギロチンにアイアン・メイデン、ピラニア水槽に串刺し棺桶、絞首台。ウチの絵本の世界そのままやんか。」

 

「どんな絵本なんですか!」

 

「………?」

 

(力いっぱいツッコミを入れるキーボが一瞬 不思議そうな顔をした。私が様子をうかがうと、彼は曖昧に笑った。)

 

「いえ、何だか”内なる声”が昨日より騒がしくて…それに、年齢が急に上がったような…?」

 

(……。昨日とは違う視聴者…ってこと?)

 

 

 

【校舎2階 廊下】

 

(1階から2階に上がって来た。階段すぐの龍の置物の前に数名が集まっている。)

 

(彼らに促されるまま、赤い球を龍の置物に使うと、やはり壁が崩れて廊下が現れた。)

 

(この先には、”超高校級のメイド”や”超高校級の昆虫博士”の研究教室…それに、3階への階段があったはず。)

 

 

 

【超高校級の舞闘家の研究教室】

 

(”前回” 東条の研究教室だった部屋は、広いダンスホールに姿を変えていた。)

 

「春川さん!ようこそ“超高校級の舞闘家”の研究教室へ!」

 

「ボクもいますよ!」

 

「失礼!キーボさんの存在は小さすぎて、仮面越しでは見にくいのです!」

 

「仮面を取れば いいのではないですか?」

 

「いいえ!舞闘家は仮面を取ってはならぬのです!ダンスホールで仮面を取ろうものなら、血の雨が降ります!お話した通り!」

 

(…後半は初耳だけど。)

 

「壁に仮面がたくさん掛けてありますね。」

 

「ええ!素晴らしいラインナップです!市ヶ谷さんに頂いた仮面と同等の仕上がりといえるでしょう!」

 

「市ヶ谷にもらった?」

 

「あ、はい。雄狩 芳子は衣装ごとに仮面を変えるのですが、先日まで替えの仮面を持っていませんでした。」

 

「替えの仮面がないというのは、替えの下着がないと同義。ソワソワグラグラしていた時、市ヶ谷さんが作ってくださったのです!」

 

「太陽光を全反射する特別製の面を!」

 

(哀染の衣装に着替えた時、使ったやつか。)

 

「それが哀染クンの衣装に着替えて奇天烈ステップを踏んでいた時、雄狩さんが付けていた面ですね。」

 

「……。」

 

「ぬおを!忘れてください!そんなことより、市ヶ谷さんは すごいと思いませんか?」

 

「何でも作れちゃうんですよ!まるで魔法です!それに…」

 

「それに?」

 

可愛いです!」

 

「は?」

 

「…おかしいですね。可愛いとは、小さいものや可愛らしいものを形容する時に使う言葉のはずでは?」

 

「だから、市ヶ谷さんは可愛いんですよ!恋する乙女は可愛いんです!雄狩 芳子は市ヶ谷さんの恋を応援したいのです!」

 

「えーと、市ヶ谷さんは誰かに恋してるんですか?この状況で?」

 

(恋だとしたら…絶対に叶わないだろうね。)

 

「……。」

 

(まあ、それは、みんな同じだろうけど。)

 

「雄狩 芳子は可愛い人 相手には闘えないんです!戦踏力が10割 減りますから。」

 

「10割 減ったら0では?」

 

「雄狩 芳子としては、市ヶ谷さんの恋の相手が 人でないのが悔やまれますが…」

 

(意気揚々と話し続ける雄狩だったが、不意に言葉を切って、こちらを見た。)

 

「……春川さんは可愛いというよりは、綺麗ですよね。まるで未亡人のような色気を感じます!」

 

「……。」

 

 

 

【校舎2階 廊下奥】

 

「おーい、マキー!」

 

(雄狩の研究教室から廊下を渡った先で、朝殻が手を振っている。)

 

「朝殻さん。何かみつけたんですか?」

 

「ヤー!こーんなものを見つけたぞー!」

 

(朝殻が指差したのは、廊下の端に置いてある宝箱のようなもの。”前回” 思い出しライトが入っていたという箱だ。)

 

「危険かもしれません。中が何かしっかり調べてから…って ちょっと、春川さん!?」

 

(キーボの言葉を無視して箱を開ければ、キーボから咎めるような声が飛んで来た。)

 

「それは何だー!?懐中電灯かー!?」

 

(中に入っていたのは、予想通り、思い出しライトだった。)

 

「これは…危険かもしれないね。触らないようにしよう。」

 

「んー?危険なのかー!?」

 

(宝箱を覗きこむ朝殻にもう1度 念を押すと、朝殻は「そうかー!」と元気に笑って走り去った。)

 

(思い出しライトは使わない。ニセモノの記憶なんて、必要ないのだから。)

 

 

 

【超高校級の歴史学者の研究教室】

 

(”前回” 獄原の研究教室だった部屋も、まるで様変わりしていた。室内に緑はなく、壁いっぱいの本棚に本が並べてある。)

 

「どうやら、ここは僕の研究教室のようだね。なかなか面白い文献が揃っているよ。」

 

(彼は巻物を手に取って眺めている。)

 

「図書室と同じに見えますが?」

 

「違うに決まっているだろう!図書室には洋書もあるのだから!」

 

「……おっと、失礼。つい熱くなってしまったよ。僕は昔から洋書や外国語が嫌いでね。」

 

「特に、世界共通語などという誰が定めたでもないものへの嫌悪感が凄まじいんだ。」

 

「文法が平易といっても、それは他の欧州諸語の母語話者にとって簡単というだけで、我々にとっては文法も発音も全く別物なんだよ。」

 

「だのに『世界共通語も話せないのか』などと宣う西欧人の自己中心的な考えに辟易するよ。」

 

「単に16世紀以降の植民地が多く、20世紀の多国籍企業が多かっただけなのに大きな顔をして。僕はこの『世紀』という言葉も嫌いだよ。これもーー」

 

(面倒臭いスイッチが入ってしまったらしい。)

 

(綾小路が まくし立てる中、そっと研究教室を出た。)

 

 

 

【校舎3階 研究教室】

 

(校舎の3階。ここは”前回”、星の研究教室があった。)

 

(階段を上がって すぐの教室に入る。そこは、懐かしい匂いがした。)

 

「えーと、ここは…子ども部屋でしょうか?」

 

「子どもたちの部屋といった様子だな…。」

 

「複数いたってことか?お盛んなことだな。」

 

「1つの家庭じゃないよ。何人もの子どもが集まる施設だよ。」

 

(教室の真ん中にいた麻里亜と市ヶ谷に声を掛けた。教室内は年齢層の違う絵本や おもちゃが大量に置かれている。)

 

「つまり、保育園や幼稚園…孤児院のような施設ってことか?」

 

「なるほど。つまり、ここはタマさんの“超高校級の保育士”の研究教室ですね。」

 

「……そうだね。」

 

「どれ、タマには俺から言っておくとして、まずは ここを調べるとするか…。」

 

「ああ。ご最先端おもちゃ調べて、DIYで量産してやんよ!おガキ共がごびっくりするよーなもんを作ってやらぁ!」

 

「フッ…なら、それを俺が世界中にバラ撒いてやるか。」

 

(脱出という目的から逸れている2人を横目に、教室の奥へ向かう。)

 

(”超高校級のテニスプレイヤー”の研究教室には、部屋の奥にシャワールームがあった。星はそこで殺されて、ロープウェイで体育館に運ばれた。)

 

(この教室には…シャワールームに繋がる扉は見当たらない。)

 

(1階の教室も部屋が増えていたけど…どうして、そんな変更が必要だったんだろう。)

 

(教室から出て、3階の廊下を歩いた。)

 

 

 

【校舎3階 奥 研究教室】

 

「あ、ハルマキちゃんにキーボーイ!」

 

「タマさん、キミの研究教室らしきものが あちらにありますよ。見なかったんですか?」

 

「うん、見たよ。でも、こっちの方からパンドラの箱的な香りがしたから、まず調べてみようと思ってね。」

 

(彼女はそう言って、扉を開けた。“前回”と同じ赤い扉を。)

 

 

(中の様子も、”前回”と変わらなかった。クロスボウのケースの位置さえも。)

 

「…何ここ?研究教室…だよね?」

 

「……。」

 

「ずいぶん物騒ですね。銃火器の弾はニセモノのようですが…。」

 

「誰の研究教室なんだろ…。こんな物騒な才能の人なんていないよね?ね、ハルマキちゃん?」

 

「……。」

 

「さあね。みんなが名乗ってるのが本当の才能か分からないし…ここは、ただモノクマが用意した武器庫って可能性もあるよ。」

 

(探るような目のタマから視線を外して、教室を出た。)

 

 

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【プール前】

 

(プールの建物前に来た。建物前のオブジェにオカリナを使うと、建物の周りを覆う草木がなくなった。)

 

「あら、これで中に入れそうね。」

 

(近くにいた大場が、いそいそと中に入って行く。それに続いて、門をくぐる。)

 

(中の様子は、“前回”と変わりない。プールと物置。夜時間の立入禁止を示した貼り紙。)

 

(”前回”は、プール上をロープウェイを使って死体が運搬された。)

 

(建物の方を見たけれど、”前回” 星の研究教室にあったはずの窓が見当たらない。)

 

「プールがあれば、運動不足に悩まされることもないわね。」

 

「ボクは泳げませんが…。」

 

「あなたは運動不足より経年劣化の方が心配よね。」

 

「ムム!ボクだってメンテナンスを怠らなければ、経年劣化もしにくいんですからね!」

 

(”前回”は入間がメンテナンスしてたらしいけど…今回は市ヶ谷がメンテナンスするんだろうね。)

 

 

 

【カジノ前】

 

(誰もいないカジノ前に来た。確か、”前回”も2回目の事件前にはカジノが開いていた。)

 

(よく分からない棒状のアイテムを使えば、ここが開くのだろう。)

 

(案の定、アイテムを使えば、門の施錠が外れた。)

 

(中には、ゴテゴテしたネオンのカジノやホテル。”あいつら”は…よく出入りしていたみたいだけど、私はあまり用事がなかった。)

 

(調べてみたが、入れるところに手掛かりはなさそうだった。)

 

 

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【寄宿舎 春川の個室】

 

(昼食はバラバラに、夕食は集まって食べた。…羽成田は夕食の場にも姿を見せなかったけれど。)

 

(”前回”と同じように、新しい教室やプール、カジノが開いた。)

 

(星の研究教室にあったシャワールームがなくなっていたり、それぞれの研究教室が変わっていたり、“前回”と違うところも多いけど。)

 

(私は”前回”、何をしていたんだっけ…?)

 

 

…………

……

 

『キーン、コーン…カーン、コーン…』

 

「春川さん、おはようございます!」

 

(朝のアナウンスと共に、クローゼットのキーボが騒ぎ出した。)

 

(このまま視聴者用カメラが何も見えない状態なら、視聴者も飽きるんじゃない?)

 

「春川さん?返事してください!着替えますよね?クローゼットに着替えがありますよ!」

 

(……いや、白銀は「キーボが生き残って良かった」と言っていた。死んだ時も、想定していたってことだ。)

 

(カメラを持った小さいモノクマーズの…モノチッチだっけ。アレを何とかしないとだね。)

 

(騒ぎ続けるキーボを軽くいなして身支度を済ませた。)

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

(食堂に みんなが集まって来た。)

 

「あら、羽成田君は…また いないのね。」

 

「引きこもりかー!?」

 

「市ヶ谷さんもいないわよ。」

 

「市ヶ谷さんなら研究教室に行かれました!朝食 一緒に行こうとお誘いしたんですが、作りたいものが いくつかあるとかで!」

 

(朝食の場は、昨日と変わりない。けれど、話しておくべきことがある。)

 

(数日前に、”前回”と同じように発表された動機。それが今回も同じだとしたら…次の動機が配られるのは今夜だ。)

 

 

「あのさ…前に、モノクマが動機を提示したでしょ。」

 

(私が言葉を発すると、全員が緊張した面持ちで こちらを見た。)

 

「もー、ハルマキちゃん?せーっかく、みんなが気を遣ってコロシアイの話題 出さないようにしてるんだから、空気読もうよ?」

 

「それとも、ハルマキちゃんもキーボーイみたく心がないの?」

 

「ロボット差別です!」

 

「……これからコロシアイを起こさないためだよ。」

 

「………。」

 

「モノクマはコロシアイの動機に初回特典を出した。初回が終わったんだから、また何らかの動機を用意するはずだよ。」

 

「ホウ。確かに一理あるね。」

 

「お前さんは動機について、何か提案したいということかの?」

 

「これから、どんな動機が出てきても…見ないことだよ。」

 

「見ない?」

 

「動機を見なければコロシアイなんて起きないんだから、見なければいい。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「春川さん、君はーー…」

 

「ハルマキちゃんの言う通りだね!」

 

(数名が いぶかしげな顔をして、こちらを見ていた。綾小路が何か言いかけたのを遮ったタマが明るく笑う。)

 

「これから動機が提示されても、どこぞのサルみたいに、言わない・聞かない・考えないを徹底すればいいんだよ!」

 

「それを言うなら、見ない・言わない・聞かない ですね!」

 

(…失敗した。)

 

(タマの言葉によって うやむやになりかけているけど…完全に失言だった。)

 

(その後、朝食を終えた全員は散って行った。)

 

(動機について、羽成田と市ヶ谷にも話しておこう。あと…エイ鮫。)

 

(あいつとも、1度 話をしておきたい。)

 

 

 寄宿舎へ行く

 DIYメーカーの研究教室へ行く

 エイ鮫と話す

全部見たね

 

 

【寄宿舎 羽成田の個室前】

 

(羽成田の個室のドアをノックする。中からは物音がしない。けれど、人の気配は確かに感じられた。)

 

「羽成田クン、いないんですか?春川さんが来ましたよ!」

 

(キーボの声にも、中の人間が動く気配はない。)

 

「春川さん!今はコロシアイという特殊な状況です!万が一のことを考えて、ドアを蹴破ってーー」

 

(キーボが大声を張り上げた時、扉が開いた。)

 

「うるせーよ…。ほっといてくれ。」

 

「ああ、良かった。羽成田クン、生きていましたね。」

 

「……。」

 

「羽成田。ちゃんと食べてるの?」

 

(扉の隙間から現れた顔は やつれている。)

 

「関係ねーだろ。」

 

「……食事はした方がいい。」

 

「うるせーよ!ほっとけって!」

 

「羽成田クン、春川さんは心配して…」

 

「オレは…もう誰も信じねぇ!」

 

「……テメーらと飯なんて食えるかよ。」

 

(羽成田は そう言って、ドアを閉めた。)

 

 

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【超高校級のDIYメーカーの研究教室】

 

(市ヶ谷の研究教室の前に来た。呼び掛けると、市ヶ谷が扉を開けた。)

 

「ああ?今度はテメーらか。」

 

「今度は?」

 

「さっき雄狩が押しかけて来たんだよ。オレはお爺さんには興味ねーですってのに。」

 

「雄狩さんは おじいさんではなく、女子高校生のはずですが…。」

 

「ンなことより、何のご用だ?ご希望ロボットとの おデートを見せびらかそうって魂胆か?」

 

「いえ、これはデートではなく、春川さんならボクを運べるので効率を考えた結果です。」

 

「さ、さすが ご希望ロボット…効率ご重視…!」

 

「そんなことより あんたさ、通信機器の妨害装置とか作れない?」

 

「あ?」

 

「は、春川さん?なぜ、そんなものを?まさか、ボクを通信機器と勘違いしていて、妨害しようと思っていませんか?」

 

「違う。通信機器を妨害できれば、私たちを監視してるモノクマの目を欺けるかもしれないからね。」

 

「なるほど!市ヶ谷さん、どうですか?」

 

「ンなもん作れるわけねーです!オレはご発明家じゃねーですから。お出来合いのモン組み立てたり、過去に作ったモンしか作れねんですよ!」

 

「じゃあ、小さい物を吸い取る掃除機みたいなのは?」

 

「は?それも無理だな。デアゴスティーニがねーです。」

 

「春川さん…まさか、小さいボクを吸い取ろうと思っていませんか?」

 

「……思ってない。」

 

(さすがに…”前回”みたいに白銀を出し抜く機械は作れないか。)

 

(動機の話を市ヶ谷にして、その場を後にした。)

 

 

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(エイ鮫は…どこに行ったんだろう。)

 

 

 

【校舎地下 図書室】

 

(エイ鮫を探して校舎を歩き回って、ようやく見つけた。)

 

(エイ鮫は図書室の椅子に腰掛けて俯いている。)

 

「エイ鮫。」

 

「あ…春川さん。」

 

「あんた、体調でも悪いの?」

 

「…何でもないよ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「いえ、エイ鮫さんの様子は おかしいです。声のトーンも、一昨日ここで上げた悲鳴とは明らかに異なります。」

 

(それは当たり前だと思う。)

 

「…………。」

 

「わたしが…叫ばなければ、哀染君が死ぬことはなかった…よね。」

 

「やっぱり…そのことで落ち込んでたんだね。」

 

「……ごめんね。みんなも不安なのに。」

 

「何で謝るの。」

 

「……ごめん。」

 

「……。」

 

「別に…あんたのせいじゃないでしょ。あんたが叫ばなかったら、和戸は自分で音を立ててたはずだよ。」

 

「……春川さん。」

 

「そうですよ。和戸クンが そうなるよう仕向けたんですから。あなたは彼の思惑通りに まんまと動されただけですよ。」

 

(慰めてるつもりなのか よく分からない言い草だ。けれど、エイ鮫は顔を上げた。)

 

「春川さん、キーボ君、ありがとう。」

 

「うん…そうだね、過ぎたことをウジウジ思い悩むより…今の状況を何とかしなきゃだよね。わたし、みんなと外に出るために頑張るよ。」

 

(エイ鮫は少し笑った。既視感のある笑顔で。)

 

「元気を取り戻したようで良かったですね。」

 

(図書室を出て行くエイ鮫の背中を見てキーボが言う。)

 

「……そうだね。」

 

(エイ鮫の…既視感のある笑顔。あれは…白銀によるもの?)

 

 

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【校舎2階 教室】

 

(”前回”と同じように、学園内に思い出しライトがあった。つまり…また思い出しライトを作る教室もあるはず。)

 

(校舎1階の空き教室には、そんな装置はなかった。ここの教室にはーー…)

 

…………

……

(何も……ない。)

 

(どうして?思い出しライトは あったのに…思い出しライトを作るための教室がない…?)

 

 

 

【寄宿舎 春川の個室】

 

(その後、みんなで集まって夕食をとった。夕食の場にも、羽成田は現れなかった。)

 

(水は個室で飲んでいるだろうけど…そろそろ食べないと体がもたない。)

 

(死にそうな人間は何をするか…分からない。)

 

(それに…”前回”通りなら、今夜 動機が配られるはず。誰かが動機を見て行動する前に、早く『ダンガンロンパ』を終わらせないと…。)

 

(でも、分からない。どうやって、『ダンガンロンパ』を終わらせればいいのか…。)

 

 

 

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