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第3章 先導性オブ・ザ・デッド (非)日常編Ⅱ

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のチャイムにビクリと体が反応した。)

 

(しまった…途中で うたた寝していた…。)

 

(チャイムに次いで、ラッパの音。朝殻の起床ラッパだ。)

 

「おはようございます。春川さん。食堂に行きましょう。」

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

(いつもより遅れて食堂に入ると、同時に大声が響き渡って面喰らった。)

 

「そんなの、横暴だよ!」

 

「ああ?どこがだよ!」

 

「…何の騒ぎ?」

 

「あ、春川さん。羽成田君が…大場さんが作ってくれた朝ごはんは、わたし達食べちゃダメだって言うんだよ。」

 

「羽成田君。あたしは、みんなに食べてもらいたくて作ったのよ?」

 

「いや、大場。テメーは、こいつらとは違う。真実を知ろうとするオレらの仲間だ。なら、真実を怖がって逃げてるヤツらに飯を作る義理はねぇ。」

 

「さすが、ハネゾラちゃん!小学生でも今時 言わない排他主義だね!」

 

「オレはシロクロ はっきりするように言われて育ったんだ。」

 

「オレと違う意見なら、テメーらは敵だ。」

 

「だから、意見が違うからって敵とか味方とかないでしょ!?」

 

「羽成田君にも困ったものねぇ。」

 

「少し精神が幼いのかもしれんのう。」

 

「ガキやねんな。」

 

「聞こえてんぞ!」

 

「……。」

 

「みんな、ごめんなさいね。もし、余ってたら勝手に食べちゃっていいから。」

 

(大場は ため息を吐いて、こちらに耳打ちした。そんな時。)

 

 

「うぷぷ。楽しそうなことになってるね。」

 

「うわぁ、出た!」

 

「オマエラの今の雰囲気、サイコーだよ。最高すぎて、オマエラにぴったりな動機を用意してあげたほどさ。」

 

「ぴったりな動機?」

 

「……。」

 

「今回の動機はコレ!モノクマメダルだよ!」

 

「モノクマ…メダル?」

 

「ヴァスデン!何だそりゃー!?」

 

「そう。簡単なマネーゲームだよ。これからオマエラにはメダルを配るよ。このメダルは、いわばお金。」

 

「こうでもしないと、春川さんは全然 使ってくれないからね!」

 

「……。」

 

「せっかく2つに分かれてるし、グループでメダルの渡し方を変えようかな?」

 

「春川さん達のチームには、毎日1人10枚あげるよ。羽成田クン達チームには、毎日チームに50枚あげるから分配は自分たちで相談して決めてね。」

 

「それで?」

 

「仮想銀貨 集めがコロシアイの動機にはならないと思うけどね。」

 

「集めたメダルは、ここを卒業する時、1メダル1000ドルと交換できます!」

 

「何だと?」

 

「ただし、”今回クロになったら”という条件付きだよ!」

 

(「早い者勝ち」という言葉とメダルを残して、モノクマは消えた。)

 

 

「んー、本格的にキャピタリズムの豚 V.S.ソーシャリズムの鶏って感じだね!」

 

「戦わなくても いいのになー!?」

 

「ハッ…マジかよ。このメダルが…5万ドルになんのか…。」

 

「羽成田君、動機なのよ?」

 

「…ンなこた分かってるよ!」

 

「それに、その仮想銀貨が全部 君の物になるわけじゃないよ。5人で分けるんだ。」

 

「分配っていっても困るよねー。私たちが、いくら正しきデモクラシーでも。」

 

「資本主義や民主主義が正義というのは、某国の印象操作にすぎないけどね。時代によって正解は変わるからね。」

 

(50枚のメダルを前に、羽成田たちのチームは話し続ける。私たちのチームは、既に1人10枚を手にしていた。)

 

「でも…こんなの、ここでは役に立たないよ。だって、お金なんて使わないじゃない。」

 

「甘ぇな。今は ただのメダルだが、だんだん価値が出てくんだよ。」

 

「それが通貨というものだからね。」

 

「オレらは この資本で自由取引をする。自分の情報、他人の情報…何でも使ってな。」

 

「テメーらも こっち側…自由取引チームに来たかったら、早く決断した方がいいぜ。」

 

「決めた。次回作は空から落ちたチキンバードがお山の大将を狙う話や。」

 

「ああ!?それは誰かの話をしてんのか!?」

 

「子どもに声を荒げるでない!」

 

「ちょっ…ちょっと落ち着きなさいよ。」

 

「な、何で…こんなギスギスしちゃってるの…?」

 

(羽成田がメダルの分配を決めると他のチームの人間を食堂から移動させた。)

 

 

「全く…何という奴じゃ。」

 

「まずいわね…食料を独り占めして売り出しかねないわ。」

 

「ええ!?それって大丈夫なのかな?」

 

「……キッチンの食材は、なくなったら補充されてるみたいだよ。」

 

「せやったら、羽成田に全部 奪われて飢えることもないし安心やな。」

 

「……みんな仲間のはずなのに…。」

 

(…確かに、雰囲気は最悪だ。)

 

(その後、エイ鮫たちと大場が残した朝食を食べて解散した。)

 

(初回特典と動機ビデオは、”前回”の動機と同じだった。それなのに…今回は動機が変わった。どうして?)

 

「春川さん。どこに行きましょうか。」

 

(とりあえず、みんなの様子を見ておこう…。)

 

 

 自由取引チームの様子を見る

 その他の様子を見る

全部見たね

 

 

 

【校舎2階 上り階段前】

 

(”超高校級の暗殺者の研究教室”近くに、羽成田とタマがいる。)

 

「あ、ハルマキちゃん。」

 

「チッ…。」

 

(私の顔を見るなり羽成田は舌打ちして歩いて行った。)

 

「感じ悪いんだ〜。」

 

「……羽成田と一緒にいたの?」

 

「そこで会ったから立ち話だよー。彼は まだ、”超高校級の暗殺者”を怖がってるからね。」

 

「キミは羽成田クンと取引したと言ってましたが…。」

 

「うん。一昨日ね。どうしても あの記憶のライトっていうのが気になって。」

 

「どんな内容だったんですか?」

 

「それは言えないよ!チームだけの秘密って約束したからね。私たちは、自分の利益を最優先という強固な絆で繋がっているんだよ!」

 

「脆そうな絆ですね…。」

 

「……メダルの分配はしたの?」

 

「うん!とりあえず1人10メダルを分けたよ。」

 

「意外ですね。羽成田クンが独り占めするのかと…。」

 

「いくらハネゾラちゃんでも、そこまでバカじゃないってことだよ。」

 

「だって、いくらキャピタルズだって、変に自分がメダルを欲しがってるって分かったら、殺しを計画してるって思われちゃうもん。」

 

「今回のゲームのクリア条件は、メダルは水面下で集め、誰にも暴かれないようにクロになる…ってかんじかな?」

 

「……。」

 

「もちろん、私は殺しなんてしないよ!1番に疑われるだろうからね。」

 

「あ、そうそう、上の階でキャピタルズがメダルを賭けて何か やってるみたいだよ!」

 

「メダルを賭けて…?」

 

「そうそう、賭け麻雀か賭けブラックジャックか知らないけど。ハネゾラちゃんは それでトリ頭みたいにスッカラカンになったみたいだよ。」

 

「…羽成田クンの機嫌が悪そうだったのは、そういうことですか。」

 

(笑顔で研究教室に入って行くタマを見送って、階段を上がった。)

 

 

 

【校舎4階 廊下】

 

「あら、春川さん。」

 

(首のない地蔵の前に壱岐が立っている。)

 

「壱岐さんは この廊下が驚くほど似合いますね。」

 

「ありがとう。もっと瞬間的な驚きが欲しいけれど、キーボ君はロボットだもの。ぜいたくは言えないわね。」

 

「……それは どういう意味ですか。」

 

「こんな所で何してたの?」

 

「ここは落ち着くからね。大場さんの研究教室が騒がしくなってきたから もう戻るけど。」

 

「自由取引チームが集まっているのは、どうやら大場さんの研究教室のようですね。春川さん、行ってみましょう。」

 

(壱岐と別れて、すぐ近くの研究教室の扉を開けた。)

 

 

 

【超高校級のママの研究教室】

 

「あら、春川さん。」

 

(バーのような研究教室の中には、大場、朝殻、綾小路が集まっていた。)

 

「…何してるの?」

 

「ゲームだよー!大富豪で勝負したのだー!」

 

「モノクマが渡してきた仮装銀貨を賭けてね。」

 

「それは…みなさん、モノクマメダルを集めてるってことですか?」

 

「やあねぇ、そんなんじゃないわよ。ゲームをするならスリルが必要でしょ?」

 

「遊戯を楽しむ調味料といったところだね。」

 

「ヤー!マキもするかー!?」

 

「……遠慮しとく。」

 

「敵対的なのは、どうやら羽成田クンだけのようですね。よかったです。」

 

 

「ここ、ボードゲームもたくさんあるのよ。『モノポリー』『カタンの開拓者』『カルカソンヌ』『ガイスター』『ハナビ』…どれかやってみる?」

 

(大場がローマ字が書かれたゲームのパッケージをバーカウンターに並べる。)

 

「どれも聞いたことがないね。」

 

「『モノポリー』は有名じゃないかしら?」

 

「ドイツのボードゲームがたくさんなんだねー。『Catan』と『Carccasonne』『Geister』は特に人気だよー。」

 

「『Catan』と『Carccasonne』はー、資材を集めて開拓するのだー!」

 

「これはねー、オバケのコマで遊ぶんだよー!」

 

「なるほど、このゲームの名前はどういう意味ですか?」

 

「えっとねー…」

 

(キーボと朝殻がゲームのタイトルについて話し始めた時、カウンターに立つ大場の背後の水槽が七色に光り出した。)

 

 

「オー ゴット!きれいだねー!」

 

「ふむ、水槽に光を当てているのかな?近くで見ても?」

 

「いいけど、気を付けてね。さっきも言ったけど、その水槽のタイマー、衝撃に弱いみたいだから。」

 

「水槽のタイマー?」

 

「この水槽の水、自動で入れ替えられるのよ。タイマー式なんだけど、衝撃で すぐおかしくなっちゃうみたいで。」

 

(バーカウンターに3つ並んだ大きい水槽。右端にハシゴのようなものが掛けてある。大場は それを指差しながら笑った。)

 

「今朝そこを調べてたらタイマーが おかしくなっちゃったのよ。ちょっとぶつかっただけなのにね。」

 

「キミが ぶつかったのなら無理もないですよ。」

 

「あ!?何か言ったか!?」

 

(大場がキーボを睨み付けて凄んだところで、部屋を後にした。)

 

 

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【超高校級の保育士の研究教室】

 

(自分の研究教室に入ると、数名が絵本を散らかしていた。)

 

「春川、邪魔しとんで。」

 

「ここには子どものための本やおもちゃが多いからのう。絵ノ本には よく似合う。」

 

「麻里亜君…絵ノ本さんも高校生だよ?」

 

「ようこそ、春川さんの研究教室へ。みなさん、春川さんの才能に興味があるようですね!」

 

(何でキーボが誇らしげなんだろう…。)

 

「ウチは ここの絵本も読んでおこうと思っただけやけど。」

 

「わたし達も絵ノ本さんについて来ただけだけど…うん、そうだね。春川さんの才能について、詳しく聞かせてほしいな!」

 

「……大した話はないよ。孤児院で育ったから、手伝ってたってだけ。」

 

「孤児院…。タマと同じということかの。」

 

「育った家の手伝いを続けるってすごいことだよ!春川さんって、子どもに好かれるタイプなんだね。」

 

「……そんなことないよ。」

 

「ううん、春川さんは愛情深いタイプだって思うよ!だってーー…」

 

「…エイ鮫、やめて。」

 

「……え。ご、ごめん…。」

 

(私が孤児院で子ども達に囲まれていたのだって…ただの設定だ。)

 

(みんなを犠牲にしてでも『ダンガンロンパ』を終わらせる…。本当は…こんな私が保育士なんて名乗っていいはずない…。)

 

(孤児院の子ども達や”友だち”の顔が確かに頭に浮かんだが、慌てて振り払った。)

 

 

「……春川は、どうして今まで才能を忘れていたのかのう?」

 

「さあね…。タマが嘘ついてたから…頭が混乱していたのかもね……。」

 

「そんなこともあるわな。ウチらも、ここまで来た記憶ないんやから。」

 

「自由取引チームが使ったというライト…羽成田は、あれがワシらの忘れた記憶じゃと言っておったが…。本当じゃろうか?」

 

「モノクマの罠だよ!ライトで記憶を思い出すって おかしいもん!絶対使わない方がいいんだよ!ね、春川さん!」

 

「……私には…何とも言えないよ。」

 

(使っても使わなくても…『ダンガンロンパ』を終わらせることができないなら…同じだ。)

 

「春川さん…。」

 

 

「……どうやら、春川は少し疲れておるようじゃな。絵ノ本、エイ鮫、少し1人にさせてやろうぞ。」

 

「せやな。春川よ、無理はしなや。」

 

「…な、何か力になれることがあったら絶対 言ってね!?」

 

(3人が部屋から出て行く。1人になって、自然とため息が溢れた。)

 

「……。」

 

(ここは、私の研究教室のはず。それなのに…”前回”ここにいた記憶がない。……それはそうだ。ここは”前回”、星の研究教室があったんだから。)

 

(それなら、”前回”の私の研究教室はーー…?)

 

「春川さん。疲れたならボクが体の上で跳ねましょうか?肩叩きになるかもしれないですよ。」

 

「…絶対やめて。」

 

 

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【寄宿舎 春川の個室】

 

(モノクマが提示した動機は”前回”とは違った。それどころか…厄介なものに変わっていた。)

 

(卒業の時に金に替わる、毎日 配られるメダル…。)

 

(時間が経つほどに、“殺しをする価値”が上がる…。価値が上がれば上がる程、誰かに先を越されるという焦りが生まれる。)

 

(動機が金になったら…誰が殺人を起こしても…おかしくない。私だって…)

 

(……?)

 

(ーー何、今の?私は人を殺したこなとなんて、ない。金のために…なんて。孤児院のために…なんて…。)

 

(何で、そんなことを…一瞬でも思い浮かべたんだろう。)

 

(そんなことを考えながら、昨日に引き続き、薄く開けた扉の隙間から全員の部屋を眺めていた時。)

 

 

(ガチャリと1つの部屋が開かれ、宿舎の出口へと影が向かう。)

 

「……。」

 

(壱岐…?こんな夜中に…どこへ行くの?)

 

(私は静かに部屋の外に出て、彼女の後を追った。)

 

 

 

【校舎4階 廊下】

 

(壱岐は校舎4階までやって来て、空き部屋へ入って行った。3つ並んだ空き部屋の真ん中。…”前回”、茶柱が殺された部屋だ。)

 

(扉が閉まる音だけがして、また辺りは静かになった。コンピュータールームに向かう通路に隠れて様子を伺うが、中からは何の物音も聞こえない。)

 

(1時間が過ぎ、2時間が過ぎても。)

 

(中の様子を見ようかと足を進めた瞬間、真ん中の教室から壱岐が出て来た。そして、ぼんやりした表情で、階段を降りて行く。)

 

(……何?壱岐は一体、何をしていたの?)

 

(ふと、”前回”の真宮寺の行動を思い出した。あいつは…床の横木を切って殺人に利用した。)

 

(まさかと思って、部屋に入る。そこには、何も変わった様子はなかった。床の板も調べたが、踏み抜いてしまうようなものはない。)

 

(…それは そうか。横木を切るなら、何かしら音がするはずだし…道具も必要だ。壱岐は木を切るような道具は持っていなかった。)

 

(寝不足でフラつく足を進めて、宿舎に戻った。)

 

 

 

【寄宿舎 春川の個室】

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(それから、特に異常はなかった。朝時間の少し前まで誰も宿舎を出入りしていない。チャイムと同時に、朝殻のラッパが鳴り響き、ホッと息をつく。)

 

(…こんなのは慣れっこだと思っていたけど…数日間の徹夜がそろそろキツくなってきた。1人で…気を張ることに、体が追いついてない。)

 

(……昔は、こんなの平気だったのに…。)

 

(……。)

 

(昔?設定として植え付けられた記憶のこと?いくら孤児院で裕福じゃなかったとはいえ…夜 寝られないなんてことあった…?)

 

(子供たちの夜泣きで…?ーーいや、乳児は大人と寝ていたはず。それなら、どうして?)

 

 

「春川さん!おはようございます!開けてください!」

 

(疑問の波にさらわれそうになった時、クローゼットのキーボが騒ぎ出した。)

 

「やっと開けてくれましたか!…って、春川さん…顔色が悪いですよ。寝ていないんですか?」

 

「……まあね。」

 

(心配げな顔を見せるキーボを掴んで、食堂へ向かった。)

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

「あ、春川さん、おはよう。」

 

(食堂には ほぼ全員が集まっている。が、自由取引チームの5人は少し離れたところで既に食事を始めていた。)

 

「向こうさんは…こっちと馴れ合うつもりはねぇらしいな…。」

 

「向こうさんというか…羽成田クンだけだと思いますが…。」

 

「壱岐と絵ノ本は?いないみたいだけど。」

 

「絵ノ本は腹が減ってないから研究教室に行くと言っていたな…。」

 

「壱岐さんは ちょっと前に校舎に入ってくの見えたんだけどな…。えーと、モノパッドによると、壱岐さんも自分の研究教室にいるみたいだね。」

 

(……壱岐は昨日、校舎で何をしていたんだろう。)

 

 

「8時だよ!全員集合!…してないね?」

 

「うわあ!」

 

「やれやれ、いない人たちのところに また出向かなきゃいけないなぁ。」

 

(モノクマはブツブツ言いながら私たちにメダルを配る。私たちには1人10メダル。羽成田たちのテーブルに50枚を置いて消えた。)

 

「……分配すんぞ。ついて来い。」

 

(羽成田が言って、他の4人が朝食を慌てて終わらせ立ち上がった。)

 

「何で、みんな羽成田君の言うこと聞いてるんだろ…?」

 

 

「それはね、ハネゾラちゃんが無償で思い出しライトを使わせてくれたからだよ!」

 

「た、タマさん…。」

 

「思い出しライト…一昨日 使っていたものですか。」

 

「違う違う。イチモツちゃんとハネゾラちゃんが取引したアレだよ!その思い出しライトも、私たちに取引なしで使わせてくれたんだ!」

 

(前回の思い出しライト…“超高校級狩り”の思い出しライトのことだね。)

 

「ハネゾラちゃんみたいな狭心者がだよ?映画ジャイアンの法則で、彼の慈悲深く寛大な心に感動して、とりあえず従ってるフリしてるってわけ!」

 

「感動か…そうは見えんがのう…。」

 

「それか、私やハネゾラちゃんのチームの方が都合がいいから…かな?」

 

「え?」

 

「だって、チームに分かれてたら、どうしても相手チームに敵対心 持っちゃうでしょ?」

 

「今回の動機が真っ先に効きそうなハネゾラちゃんや暗殺者の私と同じチームにいた方が、殺されにくい…そんな風に考えてたりして?」

 

「そ、そんな打算的な…。…てゆーか、もう殺人なんて起きないよ!」

 

「そうだね!そうかもね!そうだと、いいね!」

 

「おい、そいつらと何 話してんだタマ!行くぞ!」

 

「はーい!じゃあね!」

 

(タマは食堂を出る面々に向かって走って行った。)

 

「何か…やだな…。こういうの。」

 

「仕方ねぇさ…。人間社会ってのは、どこでも こういうことが起こる。ましてや金や命が掛かってれば当然さ…。」

 

「……。」

 

「……でも、逆境があるからこそ、固い友情で結ばれるんだよね!ほら『河川敷で殴り合いの後』だよ!」

 

「殴り合い?」

 

「そうそう!『フッ…やるじゃねえか』『お前もな…』ってやつだよ!わたし達も、きっとそう!」

 

(落ち込んでいたかと思ったら、エイ鮫は目を輝かせて言った。)

 

 

(朝食を終えて、私たち3人とキーボは解散した。)

 

「春川さん、今日はどこへ行きましょうか。」

 

(壱岐に話を聞いておこう。それに……)

 

 

「今回の動機が真っ先に効きそうなハネゾラちゃん…」

 

 

(羽成田の様子も見ておこう…。)

 

 

 壱岐に会う

 羽成田に会う

全部見たね

 

 

 

 

【超高校級の幽霊の研究教室】

 

(校舎2階の壱岐の研究教室の扉を開けた。中にいた壱岐は、薄暗い中ちょうちんに おどろおどろしい絵を描いているところだった。)

 

「あら、春川さん。どうかした?」

 

「朝食…来なかったでしょ。」

 

「ああ、食欲がなかっただけよ。心配かけて ごめんなさい。」

 

「……それ、何してるの?」

 

「お化け屋敷の小道具作りよ。お化け屋敷で私は美術担当もしてたから。」

 

「何でもしていたんですね。この目が潰れそうな恐ろしい絵も壱岐さんが?」

 

「ふふ。そうよ。お褒めの言葉、ありがとう。」

 

(褒めてたんだ…。)

 

「小道具作りは心を落ち着けるのに良いのよ。」

 

「…心を落ち着ける?」

 

「今は落ち着いていないってことですね!」

 

「……それはそうよ。こんな、コロシアイに参加させられているんですもの。みんな生まれ落ちて すぐ散る蜘蛛の子のようだし…。」

 

「……ああ、バラバラってことですね!」

 

 

「……壱岐。あんた…昨日の夜、校舎4階に行ってたよね?」

 

(私が言うと、壱岐は目を大きく見開いた。)

 

「………。」

 

「……やっぱり…そうだったのね。」

 

「…え?」

 

「私の心が落ち着かないのは…それも理由よ。私には、どうやら…夢遊病の症状があるようなのよ。」

 

「夢遊病…ですか?」

 

「昔から、寝ている間に廃病院や廃校などに行ってしまうクセがあるのよ。」

 

「何それ。」

 

「私の中の幽霊の本能でしょうね。”出そうな”場所に、寝ながら行ってしまうから…周りにも ずいぶん迷惑をかけたわ。」

 

「…幽霊の本能とは何ですか?」

 

「コロシアイを強いられている中で寝ながら夜中にフラフラしていると思うと不安なのよね。」

 

「確かに…。治せないんですか?」

 

「そうね…。今晩も発症したら、明日から自分の部屋に自分を拘束して寝ようかしら。」

 

(それは それで問題がありそうだ。)

 

(壱岐の研究教室を後にした。)

 

 

 

【校舎1階 廊下】

 

(1階に降りたところで、タマと はち会わせた。)

 

「あ、ハルマキちゃん。さっきぶり!」

 

「タマさん、どこへ行ってたんですか?」

 

「エノヨナちゃんの部屋のピラニアにご飯をあげに行ったんだよ!オスヨシちゃんの頭と腕を食べてから何も食べてなかっただろうし。」

 

「……。」

 

「そういう物言いは良くないですよ。」

 

「ああ、ごめんごめん。人間はうっかり思ってもみないヒドイこと言っちゃう時もあるんだよ。プログラムじゃないからね。」

 

「…思ってないのに なぜ言うんですか。理解不能ですね。」

 

「教室に絵ノ本もいたの?」

 

「うん。少しお話したよ。途中でアヤキクちゃんも部屋に入って来たんだ。意外だよねー!」

 

「綾小路クンが?」

 

「そう。アヤキクちゃんが何か必死で怖かったから私は先に おいとましたよ!」

 

「…必死って?」

 

「エノヨナちゃんに掴みかからんばかりの勢いだったかな?」

 

「大変じゃないですか!行きましょう!春川さん!」

 

(キーボの急かす声に従い、絵ノ本の研究教室に向かった。)

 

 

 

【超高校級の絵本作家の研究教室】

 

(絵ノ本の研究教室に駆け込む。中にはーー)

 

「………。」

 

(正座して絵本を読む男がいた。)

 

「春川。どうしたん、慌てて。」

 

「綾小路クンがキミに掴みかからんばかりの勢いで…と聞いたから慌てて来たんですよ。」

 

「ああ。綾小路はウチの絵本を読みたいと掴みかからんばかりの勢いで懇願してきたで。」

 

「何で急に?」

 

「大場にでも聞いたんちゃうか?ウチの代表作。」

 

「代表作とは?」

 

「平 将門の生首が大冒険する話やで。討ち死にして晒し首にされた頭部がーー…」

 

(絵本に似つかわしくない内容をいくつか挙げている間も、綾小路は黙々と絵本を読み進めている。しばらくして、彼は絵本を閉じた。)

 

「フム。興味深い内容だったよ。史実と虚構の融合というのは、なかなかどうして面白いね。」

 

「さよか。なら良かったわ。ノンフィクションを描くこともあるぞ。狼に育てられた男の話とかな。」

 

「なるほど。君はいつも この形式で絵本を執筆するのかい?」

 

「せやな。いつも縦書きでーー…」

 

「……全く心配することはありませんでしたね。」

 

(2人が話し続ける中、部屋を後にした。)

 

 

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【寄宿舎 羽成田の個室前】

 

(羽成田の部屋のチャイムを鳴らす。中から音がして、羽成田が出て来た。)

 

「……春川かよ。取引か?それとも、オレらのチームに寝返りてーのか?」

 

「………。」

 

「思い出しライト。使いてーなら、テメーのメダル20枚で使わせてやってもいいぜ。」

 

「全部じゃないですか。」

 

「たりめーだろ。重要な記憶なんだからよ。」

 

「…私は、思い出しライトは使わないよ。」

 

「あ?じゃあ何でオレの部屋に来たんだよ?…まさか、オレを殺すってんじゃねーだろーな。」

 

「キミって人は!春川さんが いくら類稀なる怪力を誇るからといっても、人をすぐ殺せるわけではないんですよ!」

 

「…ちょっとキーボは黙ってて。」

 

「……。」

 

 

「羽成田、あんた…チームで敵味方を線引きしてるけど…それはやめた方がいいよ。」

 

「うるせーな。指図すんな。」

 

「……もし今度 学級裁判が開かれたら、真っ先に あんたが疑われるよ。」

 

「……テメー、ちょっと顔が綺麗だからって調子 乗んなよ。」

 

「……。」

 

「羽成田クン、それは怒ってるんですか?褒めてるんですか?」

 

(羽成田はこめかみに青筋を浮かべて部屋の中に入って行った。)

 

「オレは顔が綺麗な女は いけ好かねーんだよ!オレから仕事を奪った女を思い出すからな!」

 

(ドアの向こうで吐き捨てるように言いながら。)

 

 

(仕方なく、宿舎の外に出た。)

 

「ハロー、マキー!」

 

(宿舎を出てすぐ、朝殻に手を取られて引っ張られた。)

 

「カナデはマリアの研究教室に行ってみたいんだねー!マキも一緒に来て欲しいんだねー。」

 

(思いの外 強い力で引っ張られ、麻里亜の研究教室まで連れて行かれた。)

 

 

 

【超高校級のサンタの研究教室】

 

「フォッフォ、お前さん達、よく来たのう。」

 

「おおー!ここがマリアの研究教室、マリエンプラッツだねー!」

 

「しかし、良いのか?お前さんは自由取引チームじゃろう?」

 

「そうだよー!」

 

「ワシらと一緒にいたら面倒なことになるのではないか?」

 

「ンッンー!面倒なのは、ソラだけだよー!」

 

「確かに、羽成田クンだけがチーム同士を敵対させようとしている様子でしたね。」

 

「考え方や価値観で敵対するのは良くないからねー。仲良く楽しく、この支配からの卒業~が1番いいよねー!」

 

「……その通りじゃな。」

 

「子どもじゃ子どもじゃと思っていたら…立派になったのう…。」

 

「キミはどういう目線で言ってるんですか…?」

 

 

「ねーねー、マリアはクネヒト連れてないのかー!?」

 

「……クネヒト?」

 

「黒サンタというやつじゃな。」

 

「ヤーヤー!いい子はニコラウスにお菓子をもらうんだねー。悪い子はクネヒトに玉ねぎや石炭やホルモンをもらうんだねー。」

 

「嫌がらせじゃないですか!」

 

「フォッフォッフォッ。時代によっては貴重な食料と燃料じゃよ。」

 

「マリアはニコラウスなんだねー。」

 

「ワシにとっては…赤いサンタも黒いサンタも、そんなに変わりはせんよ。…白いニコラウスとは変わるがな。」

 

「赤いサンタは本当に空を飛ぶのかー!?」

 

「朝殻さん、空を飛ぶのはサンタではなくトナカイでーー」

 

「フォッフォッフォッ、必要ならハングライダーくらいは使うぞ?」

 

「サンタも飛ぶんですか!?」

 

「サンタも色々 技能が必要なんじゃよ。縄抜け、消火活動、ひよこの雌雄判別…色々な。」

 

「それは本当にサンタに必要な技能なんですか…?」

 

「縄抜けは子供に捕まった時のためだねー!」

 

「そうじゃな。何度か子供たちに拘束されたことがあるが、可愛いもんじゃ。拳に力を入れた状態なら、縛られても すぐ縄抜けできるしのう。」

 

「物騒な世の中ですね。」

 

(しばらく、サンタについての談義を聞いて、その場から離れた。)

 

 

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【校舎1階 食堂】

 

「あら、春川さん。」

 

(夕飯には早い時間に食堂に入ると、大場がキッチンから出て来た。)

 

「ちょうど良かったわ。これ、あなた達チームの夕飯 作ってみたの。羽成田君には内緒よ?」

 

(大場が肉料理とスープの鍋を指差した。)

 

「春川さんが作ったってことにして、みんなで食べてちょうだい。」

 

「そんなに羽成田クンに気を遣う必要があるんですか?」

 

「あのぐらいの歳の子は繊細だからね。ちょっとぐらいのワガママに合わせながら上手く扱ってあげないといけないのよ。」

 

「あれが『ちょっと』ですか?それに、同い年のはずですが…。」

 

「そんな細かいこといいじゃないの。じゃあ、あたし達はちょっと夕食の時間ズラすことになるだろうけど、春川さんチームで それ食べちゃってね。」

 

(そう言って、大場は食堂から出て行った。その間に、エイ鮫と絵ノ本が食堂に入って来た。)

 

「わあ、いい匂い!」

 

「料理しとったんか?」

 

「私が作った……ってことにしとけって、大場が言ってたよ。」

 

「そうなんだ。美味しそうだね。まだ ご飯の時間には早いけど。」

 

「せやな。ウチは ここで少し時間を潰すぞ。」

 

(絵ノ本が背負っていたカバンから学習帳のようなノートを取り出し、適当なページを開きながら言った。)

 

「え、もしかして、絵を描くの?見ててもいい!?」

 

「ええけど…。」

 

「やった!最近 絵師のイラストに飢えてたんだー。”超高校級”の神絵師の制作動画 見られるなんて感無量だよ!」

 

「動画でなく現実ですよ。」

 

(しばらくキラキラした目で絵ノ本のノートを覗き込んでいたエイ鮫だったが、だんだん その瞳が濁ってきた。)

 

「……うさぎ…死んじゃった。」

 

(……どんな絵本なんだろう。)

 

 

 

(絵ノ本の後ろからノートを覗き込むと、何とも言えないタッチで描かれたウサギが倒れている絵が目に入った。)

 

「絵ノ本さん…明るい絵本は 書かないんですか?」

 

「こっちの方がインパクトがあるやろ?」

 

「うん…確かに、インパクトはある…よね。」

 

「どうや?1度 見たら忘れんか?」

 

「はい!ボクは見たものを写真に出せますので、忘れることはありませんよ!」

 

「そうか。なら良かったわ。この絵を忘れんでほしいからな。」

 

 

(そして、絵ノ本は「もう腹が減った」と言って大場の料理を平らげ、さっさと宿舎に戻って行った。入れ違いに、朝殻が入って来た。)

 

「あれあれ、自由取引チームはまだ誰もいないんだねー!」

 

「朝殻さん。うん。まだ誰も来てないよ。」

 

「そ、そうだ、朝殻さん。朝の起床ラッパってリクエストしていいって言ってたよね?あれ、トランペットで ぜひ聞きたいんだけど、いいかな?」

 

「トランペット?」

 

「うん、小型ラッパの演奏も最高なんだけど、トランペットの生音演奏を聞きたくて…。」

 

「んー?そしたら、リオは嬉しいの?」

 

「もちろんだよ!そこにパズーがいる!同じ次元に生きてる!…そう思ったら頑張れる気がするんだ!」

 

「クラークラー!それなら明日の朝はトランペットで吹くよー!」

 

「ありがとう!」

 

(エイ鮫が明るい声を上げる。)

 

「リオが頑張れるならカナデは奏でるよー!カナデは応援するのも得意だからねー!音楽家は みんなの笑顔のために頑張るものだからねー!」

 

「中学の時はスポーツの応援でも吹いてたんだよー!大きいテニスの大会でも吹いたからねー!カナデが頑張ったから、その選手も優勝だったんだねー!」

 

「それはキミが、というより、選手が頑張っ…」

 

「キーボ、余計なこと言わなくていいから…。」

 

(キーボの口を塞ぎながら話しているうちに、壱岐や麻里亜も食堂にやって来た。)

 

(自由取引チームを待つという朝殻の隣で先に夕食を食べ、宿舎の部屋に戻ろうという時。)

 

 

「あ、春川さん。」

 

(宿舎の前でエイ鮫に呼び止められた。)

 

「…何?」

 

「えっと…、あのね。やっぱり春川さんと ちゃんと話しておきたいって、思ったんだ。」

 

「……何を?」

 

「春川さん、元気ないから。今までと…違うから。」

 

「ちゃんと寝てないからだよ。」

 

「…それも心配だけど!」

 

「……春川さん…今までは、コロシアイについて、どうしたらいいか…意見をはっきり言ってくれたよね。最近は…それがなくて…。」

 

「……。」

 

「春川さんが はっきり道を示してくれたの…わたし、すごく心強かったからさ…。」

 

「……あ、春川さん1人に頼ってるって意味じゃないんだよ!?ただ、春川さんが変わったのに…理由があるんじゃないのかなって…。」

 

「わたしも…哀染君の事件の後…そうだったから。」

 

「意見が言えなくなったのって…春川さんが迷ってるってことだよね?それなら、わたしは その迷いを一緒に背負いたいんだよ!」

 

「……。」

 

「……。」

 

「……本当に、寝不足ってだけだよ。理由があるとか…そういうわけじゃない。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「…それなら!もし これから春川さんが迷った時は絶対 頼って!1人で考え込まないで!絶対!わたしに話してね!」

 

「……分かった。」

 

(あまりの気迫に、思わず返事を返した。)

 

「本当!?絶対だよ!」

 

「……。」

 

「あー、良かった。ウザがられると思ったけど…。絵師さんと奏者さんに勇気もらったおかげだよ。」

 

「…何で…そんなに必死になるの?」

 

「え?だって、春川さん、可愛いから。」

 

「………。」

 

「…あ!違う違う!変な意味じゃないよ!可愛い子と仲良くなりたいな〜ドゥフフとかじゃなくてね!?だったら、ここの子みんな可愛いなゲヘヘだし!」

 

「春川さんみたいな子と…仲良くなりたいなって、思ったの…。」

 

(エイ鮫が顔を赤くして「おやすみ」と叫んで部屋に入って行った。)

 

(なぜか…『あの子』と友だちになった日を思い出した。)

 

 

 

【寄宿舎 春川の個室】

 

(夜時間のチャイムが鳴り、私はドアの前に置いたイスに座った。すると、クローゼットのキーボが騒ぎ出した。)

 

「春川さん!今日も寝ずの番をするつもりですね!キミは もう限界だと、ボクのAIが告げています!」

 

「ボクが代わりに見ておきますから、キミは今日 休むべきです!」

 

(……確かに、体が限界を迎えているのは、自分が1番 分かってる。)

 

「…分かった。じゃあ、もし誰かが部屋を出たら…私を起こして。」

 

(キーボをクローゼットから出して、イスの上に乗せる。)

 

「任せてください!ボクは写真も出せますから役に立てるはずですよ!」

 

(エヘンと胸を張るキーボに見張りを任せ、久しぶりにベッドに身を横たえた。そして、睡魔はすぐに訪れた。)

 

…………

……

 

(時計を確認すると、7時だった。よく寝ていた。夢も見ないくらいに。)

 

「キーボ。」

 

(部屋の扉前のキーボに近付く。けれど、キーボは何の反応も返さない。)

 

「キーボ?ちょっとーー」

 

(指で突いても、何の反応もない。嫌な予感がして、クローゼットの中にある充電器を引っ張り出し、キーボをセットした。)

 

「………ハッ!」

 

「キーボ、あんた…もしかして…」

 

「すみません。充電が切れていたようです。おかしいですね…ボクは1回の充電で1週間は動けるはずなのに。」

 

「……。」

 

「けれど、もう大丈夫です!充電しながら、見張っておけますからね!」

 

「…後は私が見とくから、あんたは黙って充電されてなよ。」

 

「え?ちょっとーー…」

 

(何か言いたげなキーボをよそに、私はイスに座り直した。)

 

……

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のチャイムが鳴った。誰も外に出た奴は いない。)

 

(………?)

 

(チャイム以外の音が聞こえない。)

 

「あれ?春川さん?ボクを置いて行くんですか?春川さん!」

 

「充電が終わった頃に また来るよ。」

 

(充電器にセットされたキーボに答えて、扉の外に出る。次いで、いくつかのドアも開いた。)

 

 

「あ、春川さん、おはよう。」

 

「今日は顔色が少し良いわね。良かったわ。」

 

「みんな、おはよー!おかしくない?モノクマのチャイムだけしか音しないなんて。」

 

「……朝殻は どうしたんじゃ?」

 

(一瞬の間を置いて、もう1つ扉が開いた。)

 

「…あ?な、何だよ、何たむろってんだよ。」

 

「……他の奴らは?」

 

(嫌な予感がして、モノパッドを確認した。姿がない絵ノ本、壱岐、綾小路が部屋にいると表示されている。)

 

(けれど、3人の部屋の扉を叩いても反応はない。人の気配もしない。)

 

「えっと、朝殻さんは4階の研究教室にいるって出てるね?」

 

「行こう。」

 

(全員に言うと、全員が緊張した面持ちを見せた。全員、反論することなく、私の後について来た。)

 

 

 

【校舎4階 廊下】

 

(”超高校級のブラスバンド部”の研究教室前。扉は鍵が掛かっていて入れない。何度か呼びかけたけれど、返事もない。)

 

「…大場。」

 

「そ、そうね。」

 

「ストーップ!」

 

「きゃああああ!」

 

(2人でドアを蹴破ろうとしたところで、モノクマが現れた。次いで、暗闇でガタガタ震えていたエイ鮫が悲鳴を上げる。)

 

「密室のドアを蹴破るなんて現場保存がなってないなあ。ボクが開けてあげるから、春川さん達は己の肉体という凶器を引っ込めてくれる?」

 

「……“現場”?」

 

(嫌な予感がして問い返すも、モノクマは「うぷぷ」と笑うだけだった。)

 

(そしてーー…)

 

 

 

【超高校級のブラスバンド部の研究教室】

 

(研究教室に入った私たちは、発見した。)

 

(”前回”の記憶にもある、あの日本刀を突き立てられて倒れた、朝殻 奏の姿を。)

 

(既視感のある光景に吐き気を覚えながら、私はただ みんなの悲鳴を聞いていることしかできなかった。)

 

 

 

非日常編へ続く

 

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