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第3章 先導性オブ・ザ・デッド 学級裁判編Ⅱ

 

学級裁判 再開

 

「絵ノ本さんの死体はずっと”超高校級のママ”の研究教室の水槽にあったんです。高吸水性ポリマーに隠されて。」

(キーボが自信満々な声を出した。ようやくキーボの言葉を理解したように、綾小路が頷いた。)

 

空気中と水中で光の屈折率が違うことを使った仕掛けということかい?」

 

「そうです。死体を あらかじめ水槽に隠しておけば、犯人は犯行時間を偽装できるんです。」

 

「絵ノ本さんを探している間に絵ノ本さんが殺されたと思ってたけど…違うってことだよね?」

 

「水槽で溺死させられたとさえ思っていたわ。」

 

「これなら…絵ノ本さんを探していた時間以外でも犯行は可能…ってことよね。」

 

「で?それを大場がやったって話だろ?」

 

「やってないわよぉ〜〜!!げっほ!」

 

「…ちょっと待ってくれんかの?本当にそうか?」

 

 

 

ノンストップ議論1開始

 

「確かに、絵ノ本を短時間で殺害して水槽に入れるのは、難しい。」

 

「大場ならできそうだけどな。」

 

「できないわよ!!虫も殺せないのに…。」

 

「えー!アリ料理 作ってくれるって言ったじゃん!」

 

「缶詰なら倉庫にあったから作れるわよ。」

 

「つ、作らなくていいよ!」

 

「…大場さんが犯人かどうかは置いておきましょう。」

 

「あの水槽に水を入れるのにも時間かかるじゃろうて。絵ノ本を探している間に、それができた者は限られるのではないか?」

 

 

【巨大水槽】→水を入れるのにも時間がかかる

【ドアの血痕】→水を入れるのにも時間がかかる

【火傷の痕】→水を入れるのにも時間がかかる

 

 

 

「あの巨大な水槽に水を入れるのは骨が折れる。キーボ、お前さんにはないのかもしれんがの。」

 

「失礼な!ボクにだって、骨組みくらいあるんですからね!」

 

 

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「あの水槽は、夜時間に水が自動で入れ替えられる。そうだったよね、大場。」

 

「え、ええ。モノクマによると、夜時間になったら水抜きされて、朝9時に新しい水が入るらしいわ。」

 

「…そうじゃったのか。」

 

「あれ?でも、1番右側の水槽は9時半も水 入ってなかったよね?」

 

「そうね。でも、捜査時間が終わる頃に水が入ったわよ。壊れてないわ。」

 

「少なくとも絵ノ本さんの水槽の水を入れ替える必要はなかった。絵ノ本さんは、ボクらが絵ノ本さんを探す前から、水槽に入れられていたんです!」

 

 

「……つまり、春川さんと大場さんも死体を発見したことになっていたということね?」

 

「な、何だと!?そんなんありかよ?」

 

「どうなのかのう?モノクマよ。」

 

「んー?まあ、死体発見アナウンスについては、その場の空気とノリで柔軟かつ臨機応変にしてるんだよね。」

 

「だから、タイミングとか聞かれても困るっていうかー。オマエラ ヒト科にとって現場がどんな風に見えてたかなんて知らないっていうかー。」

 

「うん、この様子だと、ハルマキちゃんとオオダイちゃんが”見た”のもカウントされてそうだね。」

 

「じゃあ…本当に絵ノ本さんは、ずっと水槽にいたのね…。」

 

「…いつから いたんじゃろうな。苦しまなかったんじゃろうか。」

 

「そう…ね。死因が分かっていないから…。」

 

(絵ノ本の死因。ひとつ、心当たりがある。)

 

 

 

ひらめきアナグラム 開始

 

                い

                                        す                   ん

や                                            く                                     み

 

閃いた

 

 

睡眠薬じゃないかな。絵ノ本の絵本のウサギも、何かを飲んでいるところが描かれてたよ。」

 

「睡眠薬…。それって、最初の事件で…使われた…?」

 

「………。」

 

「私の研究教室のものね。前回の放火騒動の前後に2瓶なくなっていたのだけれど…。」

 

「放火騒動を起こしたのはタマじゃったが…お前さんが持ち出したのか?」

 

「………。」

 

「…違うよ。私が盗んだのは1つ。みんなを眠らせて火を放った時の分だけだよ。」

 

「……ヌケヌケと、よく言うぜ。」

 

「……睡眠薬の空き瓶が、”超高校級の暗殺者”の研究教室から見つかってるんだよ。」

 

「そうらしいね。私が使った睡眠薬の瓶は そんなところに捨ててないよ!」

 

「えっと、どうして壱岐さんの研究教室にあった睡眠薬が、タマさんの研究教室に移動してるんだろう?」

 

犯人が移動させたと考えるのが自然でしょうね。」

 

「絵ノ本さんの死体が見つかる前に…あの研究教室に行ったのって、綾小路君よね?」

 

「そうだね。確かに、僕は3階を調べたから。けれど、僕が入った時には既に睡眠薬の瓶はタマさんの研究教室にあったようだよ。」

 

「とか言って、テメーが探すフリして隠したんじゃねーのか!?」

 

「いや、睡眠薬の瓶を置くことは誰にでもできたはずだよ。」

 

「確かにのう。もし犯人が本当に絵ノ本と朝殻を殺して水槽のセットをしたならば、何とでもなる。」

 

 

「少し、犯人の行動と時間軸について整理しておいた方がいいんじゃないかな?」

 

「そうだね。犯人の行動は、2人の殺人と水槽のセット、睡眠薬をタマさんの研究教室に置いたこと…かな。」

 

「僕らの拘束もだよ。」

 

(朝殻と絵ノ本の死、水槽、睡眠薬の隠蔽、綾小路と壱岐の拘束。)

 

 

「まず、犯人は朝殻さんを刺して研究教室に逃げられているわね。」

 

「中から鍵を掛けられて犯人は焦った。それで…絶対的なアリバイを作りたかったんじゃろう。」

 

「まさか、そのために絵ノ本さんまで…?」

 

「いや、ちげーだろ。犯人は金が欲しかった。だから、わざわざ暗殺者の研究教室まで行って、スタンガン取ってきて綾小路や壱岐まで襲ったんだ。」

 

「睡眠薬を移動させたのって犯人だよね?犯人が睡眠薬を移動させたのっていつ?ねぇ、キーボーイ?」

 

「……春川さん。」

 

(タマの研究教室に置かれた睡眠薬は、空になっていた。)

 

 

1. 被害者に睡眠薬を使った後

2. 被害者に睡眠薬を使う前

3. 自分で睡眠薬を飲んだ後

 

 

 

「それは違うよ。キーボーイ。」

 

「なぜボクを名指しして否定するんですか!」

 

 

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「睡眠薬は空の状態で発見された。つまり、睡眠薬を全部 使った後、犯人は”超高校級の暗殺者”の研究教室に行った…。」

 

「その時、スタンガンを持ち出した。2人目を…確実に、殺すため…に…」

 

(……でも、それだと…おかしい。)

 

「そっか!スタンガンを急きょ持ってきたってことは、1人目の被害者の時に不測の事態が起きて、2人目をヤッたってことだもんね。」


「不測の事態って何だよ?」

 

「じゃから、1人目の不測の事態とは、朝殻が研究教室に逃げ込んだことー…?」

 

「…おかしいな。」

 

「そう!おかしいよね。アサカナちゃんは日本刀で殺されたのに。」

 

「いや、朝殻と絵ノ本2人を殺した後、他のヤツら襲うためにスタンガンを持ってきたのかもしんねーだろ。金のために!」

 

「お金目的で複数を襲うつもりなら、最初からスタンガン用意しとくんじゃないかな?」

 

「はあ!?テメーは金欲しさにヤッたって言ってたじゃねーか!」

 

「もー、ハネゾラちゃんは少し自分で考えることを覚えた方がいいよ?また、ダマされちゃうよ?」

 

「………。」

 

 

「けれど、スタンガンは最初から…殺人を計画した段階で準備していたのかもしれないわよ。」

 

「それだと、睡眠薬は3階の暗殺者の研究教室に、スタンガンはコンピュータールームに隠したことの理由に説明が付きませんね。」


「スタンガンも、4階に隠すより”超高校級の暗殺者”の研究教室に戻す方が合理的です。」

 

「……そうとは限らねーよ。」

 

「どうして?」

 

 

 

ノンストップ議論2開始

 

「園芸用ポリマーだ。」

 

「ああ、水槽の仕掛けに使ったものだね。」

 

「どのタイミングで水槽に ぶち込んだか知らねーが、犯人は園芸用ポリマーも用意したんだろ。」

 

「絵ノ本を覆うほどの量なら、何回か4階と倉庫を往復したはずだ。その間に、暗殺者の研究教室からスタンガン持ってきたかもしんねーだろ。」

 

「何度も1階の倉庫に行く必要があったっつーのに、何でテメーらは最低限の行き来で物を言ってんだ?」

 

 

【ガムテープ】→倉庫に行く必要があった

【モノクマ運送】→倉庫に行く必要があった

【麻縄】→倉庫に行く必要があった

 

 

 

「……テメーは いつになったら学習すんだ?」

 

「常に学習し続けてますよ!」

 

 

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「それは違います!」

 

「高吸水性ポリマーを倉庫まで取りに行く必要はなかったんだよ。大場の研究教室には、もともと置いてあったんだから。」

 

「はあ?何で園芸用品が大場の研究教室にあるんだよ?」

 

「モノクマが午前2時くらいに水槽前に置いてったらしいのよね。」

 

「はいはーい!丑三つ時にも しっかり対応!利用者には最高、労働者には最悪のモノクマ運送だよ!」

 

「モノクマ運送だぁ!?大場がモノクマに頼んでたのか?」

 

「頼んでないわよ、そんなもゲホガハゴホ!」

 

「……。」

 

「モノクマ…どうして あんたは、そんなものを運んだの?クロに頼まれたの?」

 

「頼まれてないよ!もともと配達予定だったから眠い目を こすって参上つかまつっただけだよ!」

 

「そうだよねー。犯人に協力するなんて、ゲームマスター失格だもんねー。」

 

「当たり前だよ!ボクは何者にも媚びないクマだからね!ボクが舐める靴は権力者や金持ちの それだけだよ!」

 

「媚び媚びじゃない…。」

 

 

「とにかく、大場さんの研究教室には、今朝の時点で水槽に死体を隠すための道具があったということか…。」

 

「じゃあ…犯人は それを見て、水槽の仕掛けを思い付いたのかしら。」

 

「まさに、行き当たり ばったりって感じだね!」

 

「えっと、じゃあ…やっぱり、犯人に無駄な動きがない限り…まず睡眠薬を使って、スタンガンを取るついでに睡眠薬を暗殺者の研究教室に置いて…」

 

「その後、2人目を殺したってこと?」

 

「そう考えるのが自然だよね。いくら”はじめてのさつじん”で犯人が緊張してても、余計な動きは文字通り命取りだもんね。」


「……”はじめてのおつかい”みたいに言ってんじゃねーよ…。」

 

「…その1人目は、どちらだったのか。それが問題じゃのう。」

 

(どちらが最初に死んだか?犯人が睡眠薬を使った後…2つ目の事件を起こすためスタンガンを取りに行ったなら、先に死んだのはーー…)

 

 

1. 朝殻 奏

2. 絵ノ本 夜奈加

 

 

 

「お前さんが、この場を混乱させようとしておるなら…ワシは容赦せんぞ。」

 

「まずいです、春川さん。麻里亜クンが暗殺者のような目をしています。」

 

(そんなサンタはイヤだね…。)

 

 

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「先に死んだのは、絵ノ本だよ。」

 

「朝殻さんの死因は刀での刺し傷です。モノクマによれば、薬物反応など その他の異常は見られなかったそうです。」

 

「外傷がない絵ノ本さんが睡眠薬で死亡した後、犯人がスタンガンを取りに行ったと考えるのが妥当ですね。」


「え…でも、朝殻さんが先に殺されて…って話だっだよね?」

 

「そうね。犯人は絵ノ本さんの絵本を見立て殺人に使ったのよね。」

 

「うん。わたしも春川さんも、絵ノ本さんが絵を描いてたのは見たけど…。」

 

 

「その絵本とやらを見せてくれるかい?」

 

(綾小路が、こちらに手を差し出してくる。私は隣に回すように絵ノ本の絵本を渡した。)

 

「いや…この絵本は おかしくないかい?」

 

「何がだよ?」

 

「彼女の絵本は僕も見せてもらったんだ。平 将門の生首を主役にした絵本をね。」

 

「どこの層をターゲットにした絵本なんだろう…。」

 

「アヤキクちゃんみたいな層だろうねー。」

 

「なかなか興味深かったよ。まあ、その絵本なんだけれど、彼女は文字を縦書きで書いていたんだよ。」

 

「それが どうしたのかしら?」

 

「縦書きは普通、右から左に読むんだよ。国語の教科書みたいに。つまり、本の向きも変わるんだ。」


「国語の教科書とその他の教科書を思い浮かべてくれたらいいよ。国語は縦書きで、右綴じだ。横書きとは反対なんだよ。」


「なるほどのう。縦書きの文章は右開きの本になっているのう。」

 

「そう。それは巻物時代、縦書きで右から左に読み進めていたからだよ。それが明治以降、欧米文化が入ってくることで徐々に変化して今の形になったんだ。」


「ほら、明治・大正期の写真や映画などで看板が右から読むのか左から読むのか分からないことはないかい?」


「あ!ある!流浪の剣豪や、タイムスリップ・大正御伽草子 猫又で見たよ!」

 

「僕は先日、書き方について彼女に尋ねたんだよ。彼女は、いつも同じ書き方だと答えた。」


「つまり…どういうこと?」

 

順番が違うんだよ。春川さん達は左開きで絵本を朝殻さんらしき鶏、絵ノ本さんらしき兎…と読んでいたが、反対だ。」


(綾小路は右開きで絵本のページをめくって見せた。絵ノ本のようなウサギのページをめくって、朝殻のようなニワトリのページに。)


「あー、そうそう。うら若きオマエラは知らないだろうけど、昔の漫画の海外版は原作を反転させて横書きの順番で読ませてたらしいよ。」


「そ…それは…絵師が爆死しそうな事態だね…。」

 

「つーか、反対って…絵ノ本、朝殻の順だってのか?絵ノ本が殺された後、朝殻が殺されたってことなのか?」


「いや…僕はあくまで絵本の読み方の順番を指摘したまでで…犯人が見立てに使う際どのような順番で行ったかまでは分からないよ。」


「けど、この絵本…ページ数の番号も書かれてるわよ?」

 

「そうじゃな。ニワトリのページは53ページ目、ウサギは54ページ目じゃ。」

 

「春川さん。絵ノ本さんの絵本、どう思いますか。」

 

 

1. 絵ノ本の気まぐれ

2. 綾小路の思い違い

3. 犯人による偽装

 

 

 

「まあ、君がそう考えるのは、止められないさ。たとえ、戦車でもね。」

 

(戦車が来たら、さすがに考えるのを止めて逃げるけど…。)

 

 

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「絵本にはページ番号が振られてる。それは…犯人が偽装したってことじゃないかな。」

 

「犯人は絵ノ本さんの絵本の書き方を知らず、偽装した。それで、左開きで他のページにも絵を書き足してしまったんでしょう。」


「そういえば…絵ノ本さんが昨日 描いてたページ、最後のページじゃなかったかも…。」

 

(……そうだ。確か、絵ノ本は適当なページに、絵を描き始めていた。)

 

 

「ウチは ここで少し時間を潰すぞ。」

 

(絵ノ本が背負っていたカバンから学習帳のようなノートを取り出し、適当なページを開きながら言った。)

 


「そうだったのね。」

 

「この絵本では、ウサギの絵は最後に描かれているようじゃが…。」

 

「う、うん。でも、たぶん…最後のページじゃなかったと思うんだよね。あやふやだけど…。」


「では、ボクが、昨日 絵ノ本さんが描いていたウサギの絵を出しましょう。」

 

(キーボが以前と同じように口から写真を排出した。)

 

(手に取るのを拒否したくなる気持ちを押し殺して受け取る。前々回 借りたままだったルーペを持ってくれば良かった…と思いながら、目を凝らした。)

 

 

「……ウサギの絵の隣のページにも、まだページがあったみたいだね。」

 

「おい、オレにも見せてみろ。……マジだな。ウサギのページは最後じゃねぇ。」

 

「犯人が偽装のために破り取ったということじゃな…。」

 

「じゃあ、ニワトリのページの前も犯人の偽装ということ?」

 

「すごいねー。その前のページ全部に猟奇的な動物たちを描き込んでるよ!」

 

「犯人は ずいぶん手の込んだことをしたのね。」

 

「何で ンなことする必要があったんだよ?」

 

(犯人が、こんなことをした理由。それはーー…)

 

 

1. 犯人は絵本好きという告白

2. サスペンスの見すぎ

3. 被害者が死んだ順番の印象操作

 

 


「そんな理由で…?自分のために人を殺すなんて…人間は弱い生き物だわ…。グッホゲホ!」

 

(全く弱々しくない咳をしている…。)

 

 

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「犯人は、被害者の死んだ順番の印象操作を行なった。先に殺されたのは朝殻だと、印象付けたかったんだよ。」


「はーあ、まーた あの時と同じような展開だね。残念 極まりないよ。」

 

「……。」

 

「はーあ、まーたモノクマは訳の分からないことばっかり。ま、とにかく…わざわざ物語の見立てにするなら、理由があるってことだもんね。」

 

「犯人は死んだ順番を偽装したかった…か。」

 

「つまり…やはり先に死んだのは、絵ノ本じゃったということか…。」

 

「ど、どうして…?やっぱり、アリバイ作りのため?」

 

「そうだね。」

 

「えぇと、あれ?朝殻さんが研究教室に逃げ込んで、犯人が焦ったからアリバイを確立したかったって話だったよね?」


「逆だったのかもしれません。絵ノ本さんの時に不測の事態が起きて、確実に次の殺人を行いたかった。けれど、朝殻さんに逃げられてしまった。」


「…それで、アリバイを作るために、絵ノ本さんを水槽に入れてトリックを整えた…筋は通るわね…。」

 


「待ってくれないかい?犯人が絵ノ本さんを殺してから電撃銃を用意したなら、なぜ犯人は朝殻さんに逃げられているんだい?」

 

(……犯人は朝殻を刺して逃げられている。スタンガンは使わなかったってこと?)

 

「ああ、なーんだ、そんなこと?あれは電源を入れてから、5分くらいしないと使えないんだよ。」


「何でンなこと知ってんだ?テメーが犯人か?」

 

「やだなー。私の研究教室の備品だよ?調べるに決まってるじゃん!ねー、モノクマ?」

 

「んー?まあね。あれはヒト科が気絶するレベルの電流が流れるから、少し起動に時間かかるんだよ。」


「ちなみに、1回 使った後も10分くらいしないと使えないよ。」

 

「犯人はスタンガンを用意していたが、朝殻には使わなかった。……いや、使えなかったのかもしれんのう。」


「アサカナちゃんが4階に来たのは、犯人の予定外だったのかもねー。」

 

「予定外?」

 

「だって、毎朝 参拝するアヤキクちゃんや、4階が似合いすぎるイキリョウちゃんは ともかく、アサカナちゃんが朝から来るなんて思わないもん。」


「確かに…研究教室があるといっても…朝から4階に用事があるとは思えないわ。」

 

「呼び出されていたというのは どうだろうか?」

 

「お前さんらの中で、朝殻と取引しようとしていた者はおらんのか?」

 

「だから、取引とかじゃなくても、誰でも朝殻を殺せるって話だっただろ!」

 

「本当に…どうして、朝殻さんは4階にいたんだろう?」

 

(それも そうだ…。朝早い時間に朝殻が研究教室に向かう理由なんてーー)

 

「もしかして…朝の演奏のために、楽器を取りに行ったのかもしれませんね。」

 

「えっ…。」

 

(昨日の夜…確かにエイ鮫が朝殻にトランペットで吹いてほしいとリクエストしていた…。)

 

 

「そ、そうだ、朝殻さん。朝の起床ラッパってリクエストしていいって言ってたよね?あれ、トランペットでぜひ聞きたいんだけど、いいかな?」

 

「トランペット?」

 

「うん、小型ラッパの演奏も最高なんだけど、トランペットの生音演奏を聞きたくて…。」

 

「んー?そしたら、リオは嬉しいの?」

 

「もちろんだよ!そこにパズーがいる!同じ次元に生きてる!…そう思ったら頑張れる気がするんだ!」

 

「クラークラー!それなら明日の朝はトランペットで吹くよー!」

 

 

「…もしかして…わたしがトランペットで吹いてって…言ったせい…で?」

 

「……エイ鮫さん。あなたのせいじゃないわ。」

 

「そうね。悪いのは犯人よ。貴女が気に病む必要はないわ。」

 

「……。」

 

(朝殻が4階に行ったのは…殺されたのは…偶然…?)

 

「朝殻は…絵ノ本が殺される現場を見てしまった…。それで…殺されたのやもしれん…。」

 

「痛ましい事件だね。」

 

 

「わざわざ4階にいたといえばさ、エノヨナちゃんもだよね。」

 

「あ?」

 

「犯人は睡眠薬で殺すのに、何で4階を選んだんだろうね?」

 

「そうね。睡眠薬を使うなら…別の場所でも良さそうなものだわ。」

 

「やっぱり、人通りの少ない場所だったから…じゃないかしら?」

 

「4階は朝殻さんや大場さんの研究教室もありますし、毎朝 綾小路クンも来ます。早朝とはいえ、人通りの少ない場所としては不適切じゃないですか?」

 

「確かにね。何故わざわざ4階を犯行現場にしたのだろうか。」

 

「たまたま犯人が4階を選んだってだけじゃねーの。」

 

「えー?私だったら、誰もいない時間に食堂に入り込んで、エノヨナちゃんが飲みそうなものとかに睡眠薬を仕込んでおくけどなー。」

 

「それだと、途中で味が違うって分かるんじゃないかしら?」

 

「うーん…じゃあ、少量の睡眠薬 飲んだエノヨナちゃんを2人になれるところに連れ出して、眠ったところで残り全部 飲ませるかなー。」


「確かに…わざわざ4階で殺害するのは妙じゃのう。」

 



「エノヨナちゃんって、本当にアサカナちゃんを殺した犯人に殺されたのかな?」

 

「……え?」

 

「どういうこった?最初に同一犯だって、話したじゃねーか!」

 

「犯人は絵本の偽装をしてるわ。つまり、朝殻さんも絵ノ本さんも…どちらも殺したということじゃないかしら?」

 

「…壱岐によると、睡眠薬がなくなったのは、前の事件前じゃったな。それだけ見れば計画的な犯行なんじゃが…。」

 

「計画的な犯行と言うには…スタンガンを途中から持ってきたり、朝殻さんに逃げられたり…失敗続きよね。」


「うん。この事件の犯人の行動、行き当たりばったりが過ぎるよ。まるで、最初からハプニングの連続だった…みたいに。」


「フム。単に殺人に慣れていなくて右往左往してしまったとも考えられるが…。」

 

「ねーねー、ハルマキちゃんはどう思う?」

 

(絵ノ本の死因は…壱岐の研究教室からなくなっていた睡眠薬。それは、前回の市ヶ谷の事件前から…私が持ち出す前からなくなっていた。)


(そんな長期的な計画なら、スタンガンも事前に用意するはず。けれど、犯人はスタンガンの起動にかかる時間すら知らずに、朝殻に逃げられてる。)


(それに……。)

 

 

「絵ノ本さん…明るい絵本は書かないんですか?」

 

「こっちの方がインパクトがあるやろ?」

 

「うん…確かに、インパクトは ある…よね。」

 

「どうや?1度 見たら忘れんか?」

 

「はい!ボクは見たものを写真に出せますので、忘れることはありませんよ!」

 

「そうか。なら良かったわ。この絵を、忘れんでほしいからな。」

 

 

(絵本は犯人によって偽装されていたけど…あのウサギの絵を描いていたのは…絵ノ本。)

 

 

▼絵ノ本に睡眠薬を飲ませたのは?

 

 

 

「えっと…何でか…教えてくれる…?……じっくり聞いて、しっかり考えるから…。」

 

「…じっくり聞かなくていいよ。」

 

 

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「彼女しかいません!」

 

「絵ノ本に睡眠薬を飲ませたのは…絵ノ本 自身じゃないかな。」

 

「………!?」

 

「まさか…自殺…なの?」

 

「おい!?どういうことだ!」

 

「あんなに幼い子どもが…自殺を働いたと…お前さんは、そう言うのか…?」

 

「……他の絵は犯人の偽装…でも、ウサギの絵は絵ノ本が描いてたんだよ。そして、あいつは言ってた。『この絵を忘れるな』ってね。」

 

「あ…。」

 

「あいつは…睡眠薬を壱岐の研究教室から持ち出していて…最初から自分が飲むつもりで絵本に描いてたんだよ。」

 

「どうして…?」

 

「学級裁判が開かれた時のためでしょう。彼女が自殺して学級裁判が開かれたら、クロは彼女。そして、みなさんが間違えれば、おしおきですから。」

 

(キーボが静かな声を放つと、裁判場は また静寂に包まれた。)

 

「えー!?また こういうオチー?過去に何回こういう展開があったことか!コロシアイにも、もっと新たな風が欲しいものだよ。」

 

「……。」

 

「絵ノ本さん…どうして…自殺なんて…。」

 

 

「……いや、待てよ。」

 

「……前にも、こんなことあったろ。自殺と思いきや、違いました…ってーの。」

 

「哀染君が殺された事件ね…。」

 

「………ああ。本当に、絵ノ本は自殺か?また、死体の近くにあるはずのモン、移動してんじゃねーか。」

 

「もしかして、睡眠薬の瓶のこと?」

 

「それは、朝殻を殺したクロの仕業じゃろうて。しかし…絵ノ本が突然 自殺した理由も考えねばならんのは、確かじゃな。」

 

「死にたがりさんだっただけじゃない?裁判でも投票放棄しかけたりしてたし。それか…アサカナちゃんが理由だったりして!」


「……ど、どういうこと?」

 

「……なるほど。あまり…考えたくないことだけれど……。朝殻さんの胸の傷が原因…ってことかしら。」

 

「はあ!?どういうことだ?」

 

「アサカナちゃんを殺したのが、エノヨナちゃんかもってことだね!」

 

「……絵ノ本は朝殻の前に死んだという話じゃったが…。」

 

「それは、あくまで犯人が冷静かつ無駄なく動いた場合の話よ。自殺を考えるような精神状態なら…何とも言えないわ。」


「絵ノ本か…あいつに人が殺せるとは思えねーが…刀が ありゃ、力はいらねーか。」

 

「例えば……事故で朝殻さんを刺してしまった。それを苦に…絵ノ本さんが自殺したとしたら…?」


「被害者と思いきや、クロではないか?またまた聞いたことある話だねー。あの時はどうなったんだっけ?」


「自殺者の思惑通り、シロ全滅して意中の相手と地獄でランデブーだったっけ?」

 

「……。」

 

「確かに、水槽の仕掛けは絵ノ本さんにも用意可能ね。」

 

「絵ノ本が水槽の仕掛けを利用する理由はないじゃろう。」

 

「学級裁判で自殺の扱いが分からなかったから…というのは どうかしら?」

 

「…自殺者のクロは校則に記載がないね。『2人が死んだ場合』の記載はあったけれどね。」

 

「ええ。だから…学級裁判を複雑化させないように、自分が後に発見されるよう…水槽の仕掛けを使ったのよ。」


「十分 複雑化してるわよ。」

 

「それを真とすると、エノヨナちゃんが前日に言ってた『忘れるな』ってのは、ただの『死亡フラグ言ってみた』だったのかな?」


「……たまたま描いていた絵本に朝殻さんのことを書き足して、わたし達に犯人は自分だってメッセージを残した…?」

 


(朝殻を殺してしまったため、絵ノ本は自殺した?)

 

(……”前回”も、裁判途中…私は茶柱が自殺したと思った。そして、茶柱の自殺の原因は…夜長を殺してしまったからではないか…そんな議論になった。)

 

(どうして…毎回こんなに既視感のある議論になるの?)

 

(激しい頭痛を感じ、思わずこめかみを抑えた。それを喜ぶように、モノクマが いつもの嫌な笑みを浮かべていた。)

 

 

 

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