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第3章 先導性オブ・ザ・デッド 学級裁判編Ⅲ

 

(絵ノ本は、朝殻を殺したことで自殺した。その可能性に、全員が神妙な面持ちを見せている。)

 

「……そんなの…信じたく、ないよ。」

 

「信じたくないといってもね。」

 

「絵ノ本が朝殻を刺した。それで自殺した…か。マジかよ。」

 

「でも、やっぱり信じられないわ。絵ノ本さんが朝殻さんを殺すなんて…。」

 

「春川さん、どう思いますか?」

 

(睡眠薬の空の瓶は3階、絵ノ本の死体は4階で発見された…。)

 

(絵ノ本が朝殻を殺して自殺…その場合、全てを絵ノ本 1人でやったことになる。そんな可能性は…。)

 

 

1. ない

2. ある

 

 

 

「………。」

 

「春川さんは、ツッコミ待ちで言っただけですから、ツッコんであげてください!」

 

(違うんだけど…。)

 

 

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「絵ノ本が朝殻を殺したっていうのはおかしいよ。睡眠薬の瓶は3階の”超高校級の暗殺者”の研究教室で、絵ノ本の死体は4階で発見されたんだよ。」

 

「致死量の睡眠薬を飲んだ後、その距離は動けないはずだよ。それは…1回目の事件で分かってる。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「哀染君は…睡眠薬を投与された教室で、そのまま亡くなっていたわよね。」

 

「うん。だから…絵ノ本が今回のこと全て1人でやるには、無理があるんだよ。」

 

「そうですね。全て絵ノ本さんの仕業となると、コンピュータールームに隠されていたスタンガンの説明がつきません。」

 

「言われてみれば、自殺する絵ノ本さんに僕らを拘束する理由もないし、彼女に僕らを運ぶ力もないだろうね。」

 

「なーんだ。じゃ、やっぱりエノヨナちゃんは1人 寂しく道連れ作ることなく自殺。その後、アサカナちゃんはクロに殺された可能性が高いんだね!」

 

「朝殻さんと絵ノ本さんを殺したのは同一人物という話…忘れちゃっていいのかしら?」

 

「それも犯人が見立てを行なった理由じゃないかな?順番だけでなく、同一犯だと思わせることも狙いだったんじゃない?」

 

(絵ノ本の死体と一緒に日本刀の鞘を水槽に入れたのも…偽装だった?)

 

 

 

ノンストップ議論1開始

 

「絵ノ本と朝殻…2人の殺人が同一犯によるものだと…ワシらは思い込まされておったようじゃな。」

 

「うん!じゃ、エノヨナちゃんのことはクリアー!もともとアサカナちゃんのクロを見つけなきゃなんだもんね!余計な話は止めて、本題に入ろうよ。」

 

「余計なこと…って…。」

 

「けれど…どうするんだい?結局、朝殻さんを殺した人間は絞れそうにないよ。」

 

「そうね。朝時間前、誰でも現場と宿舎を行き来できたから…。」

 

「…そう…だね。絵ノ本さんを水槽に入れた時間だって…分からないし…。」

 

 

【モノクマ運送】→誰でも現場と宿舎を行き来できた

【右の水槽のタイマー】→水槽に入れた時間が分からない

【巨大水槽】→水槽に入れた時間が分からない

 

 

 

「キーボが水没した場合は、ケータイショップにでも持って行ってやるかのう…。」

 

「いえ、ボクは携帯できる程の超小型高性能ロボットですが、普通の携帯ショップではボクのメンテナンスをできるスタッフは いませんよ。」

 

「……。」

 

 

back

 

 

 

「それは違います!」

 

「……もしかしたら、犯人が水槽に絵ノ本を入れた時間は分かるかもしれないよ。」

 

「あ?何でだよ?」

 

「大場、あんたの研究教室の水槽…3つ並んだうちの1つは、9時じゃなくて、捜査時間が終わる直前…10時ごろに水が張られたんだったね。」

 

「え…ええ。どうしてか分からないけど、絵ノ本さんが入ってた水槽の横…右の水槽だけ、水が入れられるのが遅かったわ。」

 

「確か、あの水槽は朝7時に2時間のタイマーが起動し、カウントが0になると水が入れられるというものでしたね。」

 

「何で そんなややこしいシステム使ってんだよ。普通に時計 使えばいいだろ。」

 

「言ってはならないことを言ったね!謎解きを作るには、ご都合主義のアイテムが必要なんだぞー!」

 

「…とにかく、水槽の1つのタイマーが遅れていた。それは、捜査時間に私も確認したよ。」

 

「……えっと、どうして?」

 

「あのタイマー、ものすごく衝撃に弱いのよ。あたしも数日前の朝に水槽台に登った時 遅らせちゃったわ。」

 

「7時に起動するタイマーが遅れたということは、つまり…今朝になってから何らかの衝撃があったということかの。」

 

「衝撃というのは、犯人によるもの…なのかしら?」

 

「それ以外考えられませんね。おそらく、犯人が絵ノ本さんを水槽に入れる際、手前の水槽のタイマーに接触してしまったんでしょう。」

 

「つまり、犯人は朝7時以降にエノヨナちゃんを水槽に入れたってことだね。」

 

(……絵ノ本と朝殻を殺した犯人は同じで、絵ノ本は8時以降に殺されたと思い込んでいた。でも…絵ノ本は朝殻より先に死んだ。)

 

 

「朝時間に犯人が4階にいたなら…犯人は絞れるよ。」

 

「何だって?」

 

「私は、朝殻の死亡推定時刻の7時頃から自分の部屋の扉を開けてたんだ。」

 

「え?どうしてそんなことを?風邪ひくわよ?」

 

「もちろん、コロシアイを阻止するためです!ボクも夜時間、寝不足の春川さんに代わり、夜通し寄宿舎の外を見ていたんですよ!」

 

「はあ?なら、寄宿舎を出たヤツが犯人じゃねーか!何で黙ってたんだよ!?」

 

「それが…夜通しの予定が、途中で充電が切れたようで…。深夜0時から春川さんが起きるまでスリープモードだったんです。」

 

「チッ、役に立たねーな!」

 

「…それで、朝の7時から寄宿舎の中を見ていたけど…7時から朝のチャイムまで、宿舎を抜け出した奴も入った奴もいなかったよ。」

 

「その証言が本当かは知らねーけどな。」

 

「間違いありませんよ。その時はボクも充電して起きていましたから。」

 

「……亡くなった2人と捕まってた人以外は、今朝 部屋から出て来て一緒だったよね。」

 

「あたしと、春川さん、エイ鮫さん、タマさん、麻里亜君、羽成田君は寄宿舎にいたわね。」

 

「うん。じゃあ、誰だろうね?朝時間に4階にいたのは、死体を含めて4人。身動き取れないと見せかけて身動き取れた人がいたってことだよね?」

 

 

▼4階で身動きが取れたのは?

 

 

 

「キーボ君の四肢を1本ずつ もいで…身動きが取れなくなるか試してみましょうか。」

 

「やめてください!戻す時に右腕と左腕を逆に付け替えてしまったら どうするんですか!」

 

(そういう問題じゃない。)

 

 

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「キミしかいません!」

 

綾小路。あんたは全身をガムテープで拘束されていたよね。」

 

「そうだよ。おそらく、電撃銃でやられた後、粘着紙で固定されたんだろうね。」

 

「タマさんは、捜査時間に自分で自分をガムテープで拘束して動けなくなっていましたね。」

 

「……あ。」

 

「そうそう。ドアノブとかの突起物にガムテープ固定して自分が回れば、1人で できるもんなんだよね。」

 

「それなら、綾小路は身動きが取れなかったと偽装できたということじゃな。」

 

「……何だって?」

 

「やっぱりテメーか。朝殻を殺して、拘束されたフリしたんだな?」

 

「1人緊縛ごっこなんて、すごく内向的で素敵な趣味だね!マネできないよ!」

 

「…どうして私は麻縄だったのに綾小路君はガムテープだったのか…不思議だったのよね。」

 

「………。」

 

「ちょっと待ってくれないかい?僕は確かに身動きが取れなかったよ。」

 

「嘘つくな!テメーは1人だけ、メダルも取られてねーんだったな?金のために、殺してメダルを集めてたんだろ?」

 

「……参ったな。」

 

「まだ、朝殻さんの死について、話し合われていないことがあるよね?それを、話し合ってみないかい?」

 

(朝殻の死について…話し合っていないこと?)

 

 

1. 【金箔の日本刀】

2. 【血文字】

3. 【ドアの血痕】

 

 

 

「君の記憶領域は随分と狭いようだね。最近の高画質な写真機の映像は入らなさそうだ。」

 

「バカにしないでください!」

 

 

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「朝殻が残した血文字だね。」

 

「現場となった研究教室に『Gei』と残されていましたね。」

 

「そうだよ。現場に犯人は入れなかった。つまり、あの血文字は朝殻さんが書いたものだよ。そして、僕の名前には『G』なんて付かない。」

 

「……ここにいる みんな『G』は付かないと思うけど…。」

 

「でも、オオダイちゃんの名前は『だいごろう』だったね!」

 

「『ご』をピックアップするのはおかしいでしょ!しかも『ご』じゃなくて『げ』なのよ!ゲホォ!」

 

「ご、ごめんね…。疑ってるわけじゃないんだよ…。」

 

「しかし、普通に読むと『げい』じゃが、もちろん そんな名前の者はおらんぞ。」

 

「げい…か。」

 

「だから!何で…あたしを見るのよ?」

 

「…ごめんなさい。変な意味はないのよ。」

 

「これが本当にダイイングメッセージだとしたら犯人には分からないけど他の人には分かるもののはずだよね。」

 

「何故そう言い切れるんだい?」

 

「朝殻さんの研究教室に1番 先に乗り込んでくる可能性があるのは、犯人ですからね。」

 

(犯人には分からない…でも、私たちには、分かるメッセージ。)

 

(ここ数日の朝殻との会話を思い出す。そこで浮かんだのは、動機が発表された日、大場の研究教室に行った時の記憶だった。)

 

 

「ここ、ボードゲームもたくさんあるのよ。『モノポリー』『カタンの開拓者』『カルカソンヌ』『ガイスター』『ハナビ』…どれかやってみる?」

 

「ドイツのボードゲームがたくさんなんだねー。『Catan』と『Carccasonne』『Geister』は特に人気だよー。」

 

「『Catan』と『Carccasonne』はねー、資材を集めて開拓するのだー!」

 

「これはねー、オバケのコマで遊ぶんだよー!」

 

 

▼ダイイングメッセージが示す人物は?

 

 

 

「……あたしは違うわよ!絶対絶対!違うわよぉぉぉお!!ゲボォ!」

 

(何も言ってないのに…血反吐を吐きそうな勢いで反論してきた…。)

 

 

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「キミしかいません!」

 

壱岐。朝殻が残した血文字が示すのは…あんたじゃないの?」

 

「……私?どうして?」

 

「これは『Geister ガイスター』…『幽霊』と書こうとしたんじゃないでしょうか。」

 

「『ガイスター』?あたしの研究教室にあったボードゲームかしら?」

 

「はい。あの時、ボクは学習しました。『Geister』は『幽霊・おばけ』という意味です。」

 

「じゃあ何で今まで言わなかったんだよ。」

 

「書きかけの字から連想することはできないからですね。」

 

「胸張ってんじゃねーよ!」

 

「あそこに集まっていた みんななら…それに気付くはず。そう朝殻は考えたんだよ。」

 

「そういえば朝殻さんって、時々 分からない言葉を使ってたわよね。あれ、留学先で もらってきた口癖だったのよね。」

 

 

「推理モノで、こういう言語ネタはフェアじゃないよねー。でもキーボクンがいると、どうしてもやりたくなっちゃうんだよね。」

 

「……。」

 

(推理モノ…か。)

 

(モノクマは…初めの裁判から『ダンガンロンパ』の名前を出した。それに…今もフィクション世界のヒントになるようなことを言った。)

 

(どうして?”前回”は…最後の裁判以外で『ダンガンロンパ』の名前なんて出さなかったのに…。)

 

(どうすれば…モノクマの後ろにいる白銀を引きずり出せる?)

 

 

「待ってちょうだい。」

 

(思考の中に、壱岐の声が入ってきた。彼女は悲しげな瞳で こちらを見ていた。)

 

 

 

反論ショーダウン 開幕

 

「残念だわ…疑われるなんて。」

 

「あんな血文字…偶然よ。確かに、私も4階にいたけれど…。」

 

「綾小路君だって、容疑者なのは同じでしょう?」

 

「ダイイングメッセージなんて、犯人の偽装工作かもしれないわ。」

 

「現場の密室は朝殻が作って、朝殻の死体発見は全員でだった。犯人はメッセージを偽装することはできないよ。」

 

 

「それでも、メッセージは偶然の可能性があるわ。」

 

「私たちが気付いていない意味が他にあるのかもしれないでしょう。」

 

「そもそも、犯行が可能なのは綾小路君だけなのよ。」

 

綾小路君が犯人ではないという証拠もないわ。」

 

 

【火傷の痕】→綾小路が犯人ではない証拠がない

【麻縄】→綾小路が犯人ではない証拠がない

【金箔の日本刀】→綾小路が犯人ではない証拠がない

 

 

 

「あやふやな理論で みんなを先導する…危険よ。虫が火に飛び込む現象と同じね…。」

 

「同じ…でしょうか?」

 

 

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「その言葉、斬らせてもらいます!」

 

「綾小路には…スタンガンで気絶させられた時の火傷の痕があるんだよ。」

 

「ああ、これ。やはり火傷だったのか。」

 

「そりゃあ、気絶するほどの電気だから。火傷くらいするよね。ね、もちろん、イキリョウちゃんにもあるんでしょ。火傷の痕、見せてくれる?」

 

「……。」

 

「火傷の痕くらい…みんなの目に見えないように消せるわ。」

 

「足すら消してるもんな…。」

 

「けれど、僕らが拘束から解放されてからの時間で、そんなことはできないはずだよ。」

 

「う、うん…。絵ノ本さんを探す間…わたしと壱岐さんは一緒だったけど…そういうことはしてなかったと思うよ…。」

 

「そうね。絵ノ本さんを発見した後、壱岐さんは ずっと、あたしの研究教室で一緒だったわ。」

 

「……。」

 

「それに…人の目での見え方を熟知しているお前さんじゃからこそ、水槽の仕掛けを思い付いたとも言えそうじゃな。」

 

「……それでも…私には犯行は不可能よ。どうしてか…言わなくたって分かるわよね?」

 

「……。」

 

「…春川さん。自分で自分を拘束できるのは、綾小路君クンだけではありません。」

 

(声を落としたキーボが、私に いくつか耳打ちした。)

 

 

 

理論武装 開始

 

「これは言うまでもないことだと思っていたのだけれど…」

 

「私が朝殻さんを殺した犯人ではないわ。そんなこと、できないのよ。」

 

「犯人は、朝殻さんを殺し、絵ノ本さんの死を偽装しただけではないわ。」

 

 

「私は拘束されていたのよ。」

 

「麻縄で後ろ手に縛られていた。手に、その痕も残っているわ。」

 

「ガムテープで拘束されていた綾小路君と違って、私には自分で自分を拘束できない。」

 

「私が犯人なら、どうやって自分自身を縛ったというの?」

 

 

 ○縄抜け △対 ◻︎反 ×の 

 

これで終わりだよ

 

 

 

「……縄抜けの反対の要領で…自分を後ろ手に縛ることはできる。そうなんだよね?キーボ。」

 

「はい。これも、マジックなどで よく使われるトリックです。」

 

「……。」

 

「…キーボ君?」

 

「…何でもありません。ええと…そう。縄抜けの反対なんです。」

 

「縄抜け…。誰かに縛られる時、拳に力を込めておくと簡単に縄抜けができるが…それのことか?」

 

「はい。まず、縄抜けできるように自分の腕を縛ります。1人では難しいので人にしてもらうのが良いですが…」

 

「腕の代わりに足や椅子などを使って縛っても良いでしょう。」

 

「そして、縛った輪の形が残るまま地面に置き、後ろ手の状態にした両手に輪を それぞれ入れます。」

 

「それから縄の端を引っ張り締めれば…自分を拘束できるんです。後ろ手でも、縄の端を引っ張るくらいはできますから。」

 

「これなら、痕が残るほど自分の腕を縛りあげることができるよ。」

 

 

「……。」

 

「…壱岐…さん…。」

 

「どうなんじゃ、壱岐?」

 

「あなたが、朝殻さんを…?」

 

「……。」

 

「テメー…金欲しさに2人を殺したのか!?」

 

「……。」

 

「…私が殺そうとしていたのは…絵ノ本さんだけよ。」

 

「え…。」

 

「彼女が1番…簡単そうだったから。彼女なら体も小さいし体力もない。この腕だけでも命を手折ることは難しいことじゃないわ。」

 

「……。」

 

「けれど、本当は…彼女を呼び出していたのは、一昨日だったのよ。」

 

「モノクマの動機を聞いて、すぐ計画 立てて、実行しようとしたんだ?」

 

「ええ。時間が経てば、他の人の動機も強くなるから。早くしなければと焦っていたの。……でも、彼女は来なかった…。」

 

(…一昨日、壱岐が4階の空き部屋にいたのは…絵ノ本を待っていたからだったんだね。)

 

 

「じゃ、じゃあ…どうして?どうして…今朝…。」

 

「今朝、早朝に起きたら、部屋にメモが挟まっていることに気付いたのよ。」

 

「絵ノ本さんからのメモよ。『4階の空き部屋の真ん中に来てほしい』という内容だったわ。」

 

「一昨日 彼女を呼び出したメモには私の名は書いていなかったけれど、彼女は私だと分かったのね。すぐ、4階に行ったわ。…殺すためにね。」

 

「お前さん…。」

 

「けれど、そこには、既に睡眠薬を飲んで倒れた絵ノ本さんがいた。私が発見した時には…死んでいたわ。」

 

「……どうして、絵ノ本さんは自殺なんて…。」

 

「やっぱり、死にたがりさんだったんじゃない?」

 

「そ、そんな……。」

 

 

「……止めたかったのではないかの?」

 

「……。」

 

「自殺してしまえば、壱岐が自分を殺すこともない。それなら…裁判でクロもシロも死ぬことはない。」

 

「そん…な…周りに、誰かに呼び出されたとか、命を狙われているとか、言ってくれれば…。」

 

「それが、絵ノ本の『何もせん』というやつなのかもしれんのう……。」

 

命を使ってまで、イキリョウちゃんに訴えかけたエノヨナちゃんの願いは…届かなかったんだね。」

 

「……。」

 

 

「ウチはウチの命を使って…この憎きコロシアイを終わらせてみせる!」

 

「ウチは…この武器を使うぞっ!」

 

 

(ふと、絵ノ本の死に顔と”前回”の参加者の顔が重なる。”前回”、一緒に投票放棄を選んだ…夢野の顔と。)

 

「……そう。私は絵ノ本さんが死んででも伝えようとした道は、選ばなかった…。」

 

「むしろ、”最も殺しやすそうな人”がいなくなったことに慌てたわ。自分がクロにならないと、出られないもの。」

 

「だから…彼女の死体を見つけてすぐ、綾小路君を殺す計画を立てたのよ。」

 

「……何だって?」

 

「貴方が毎朝 4階に来ることは分かっていたから…暗殺者の研究教室からスタンガンを持って来たの。綾小路君 相手じゃ力技って訳にはいかないもの。」

 

「………。」

 

「その時…絵ノ本さんが飲んだ睡眠薬を暗殺者の研究教室に持って行ったのね…。」

 

「ええ。そして、空き部屋で綾小路君を待って、彼が日本刀に見入っている背後からスタンガンを当てたのよ。」

 

「暗殺者のスタンガンだから…万が一でも即死しないように、腕に当てたわ。殺すのはトリックが浮かんでから…と思って。」

 

「……けれど…その時、運悪く朝殻さんが来てしまった。だから…私は…。」

 

「………。」

 

「朝殻の命を絶った…そういうことじゃな…。」

 

「……。」

 

「春川さん。最後に事件のまとめをしておきましょう。」

 

 

 

クライマックス推理

 

「事件が起きたのは、今朝。絵ノ本は、前の裁判以前に”超高校級の幽霊”の研究教室から睡眠薬を持ち出していた。」

 

「犯人に狙われていることを悟っていた彼女は、自ら死を選びました。学級裁判が起きた時のため、絵本に その事実を記して…。」

 

「彼女は校舎4階に3つ並んだ真ん中の部屋で、致死量の睡眠薬を飲み干しました。」

 

「それを知らない犯人は、絵ノ本を殺すため空き教室の真ん中へ向かった。」

 

「絵ノ本さんを発見した犯人は焦りました。『これでは自分がクロになれない。』と…」

 

「それで、絵ノ本の自殺を自分の殺人に組み込む計画を立てた。まず、毎朝 鳥居にやって来る綾小路を気絶させ、殺そうとした。」

 

「そのために、”超高校級の暗殺者”の研究教室からスタンガンを取りに行った。ついでに、絵ノ本が飲み干した睡眠薬の瓶を置いて。」

 

「しかし、綾小路クン殺害のために彼を気絶させたところで、またハプニングが起こりました。それを朝殻さんに目撃されたことです。」

 

「犯人は、とっさに金箔の日本刀で朝殻さんを刺しました。致命傷を免れた彼女は、何とか”超高校級のブラスバンド部”の研究教室に逃げ込み…」

 

「研究教室に鍵を掛けて…そして、絶命しました。ボクたちに『Geister』というダイイングメッセージを書ききる前に。」

 

「犯人は、ここでも かなり焦ったはずだよ。施錠された教室で朝殻が どんな証拠を残すか分からないから。」

 

「何とか研究教室に入ろうとしたけど、できなかった。それで、絶対のアリバイが必要になったんだ。」

 

「そこで犯人は、絵ノ本さんが描いたウサギの前に、ニワトリの絵を書き込んだ。それまでのページにも絵を描き、ページ数も書いて偽装を行った。」

 

「そうして私たちが、朝殻が絵ノ本の前に死んだと印象操作した。さらに、絵ノ本の死体を大場の研究教室まで運び、水槽のトリックの用意をした。」

 

高吸水性ポリマーを水のない水槽に入れ、それに隠すように死体を入れた。これで、水が自動で入る9時まで死体が見つかることはない。」

 

「そして、気絶した綾小路クンをガムテープで拘束し、その後、あらかじめ用意していた麻縄で自分自身を拘束したんです。」

 

「朝時間、私たちは起床ラッパが鳴らなかったことで朝殻の研究教室を訪ね、死体を発見した。その後、手分けして来てない奴を探し始めた。」

 

「綾小路と犯人を見つけた私たちは、彼らも含めて再び手分けして絵ノ本を探した。」

 

「犯人は、絵ノ本さんが発見されるまでエイ鮫さんと行動を共にして、アリバイを確立しようとしたんです。」

 

「絵ノ本の死をアリバイ作りに利用し、朝殻を殺した犯人…」

 

「それは…キミです!“超高校級の幽霊” 壱岐 霊子さん!」

 

 

 

「……やっぱり、貴方たちは良いコンビね。まるで、ここ以外でも出会っていたみたい。」

 

「……。」

 

「テメーの動機は、やっぱりか?」

 

「そうよ…。お金。お金が必要だったのよ。」

 

「で、でも、壱岐さんは一昨日の夜、絵ノ本さんを殺すつもりだったのよね?一昨日じゃ そんなにメダルを持っていなかったはずよ?」

 

「自由取引チームが集まっているのを見て、大場さんが たくさんメダルを得たのを知ったわ。そして…大場さんが研究教室内にメダルを隠すのも見たの。」

 

「じゃあ、何で今日は大場のメダルを盗らなかったんだよ。」

 

「……絵ノ本と自分のメダルも増えたし…朝殻のメダルが追加されたからじゃろ。」

 

「そう。私が必要なお金には十分だったのよ。」

 

「……必要な…お金?」

 

「はいはーい!どうやら、議論が出尽くしたみたいだね!ではでは、いつもの投票タイムと いきましょうか!」

 

「前々回から言ってる通り、投票放棄には死が与えられちゃうからね!…って、投票を忘れちゃいそうな人は もういませんでしたー!」

 

「……。」

 

(投票ボタンを押す。しばらくして、モノクマが笑い声を上げた。)

 

 

 

学級裁判 閉廷

 

「だいせいかーい!”超高校級のブラスバンド部” 朝殻 奏さんを殺したクロは、”超高校級の幽霊” 壱岐 霊子さんなのでしたー!!」

 

「ちなみに、”超高校級の絵本作家” 絵ノ本 夜奈加さんを殺したクロは、絵ノ本さん自身で大正解だよ!パーフェクトゲーム!おめでとう!!」

 

「……壱岐さん…どうして?」

 

「そんなにお金が必要だったのかな?」

 

「1人を死に追いやり…1人を殺すにしては…はした金じゃと思うがの。」

 

 

「…私は外に出なければならなかったのよ。……私を殺した男を殺すために!!!」

 

(突然、壱岐が今までにない声量で叫んだため、みんな驚き口をつぐんだ。)

 

「私を殺したとは、どういうことですか?」

 

「私は幽霊!あの男に殺された!理不尽な理由で!!!」

 

「死んでるの!私は!あの男が!大切な人が寂しがらないようにって!!そんな理由で!!」

 

「あいつは…残忍な殺人者!でも、表の顔は有名な学者だったから!だから簡単には殺せない!」

 

「でも、まとまった金があれば…!あいつを調査依頼で おびき出せる!!金があれば…!!!」

 

「……壱岐。その…学者ってーー」

 

「おやおや、壱岐さんは幽霊役を演じすぎて、殺された女に脳ミソ乗っ取られちゃったみたいだね。これがホントの憑依芸!」

 

「……。」

 

「いやー、クロみんな豹変しちゃって困るなと思ってたけど、人格レベルで変わってくれるならノルマ達成かな。ご協力、感謝します。」

 

「私は!あの男を殺す!!そうしないと、成仏できない!!」

 

「壱岐さん…。」

 

「精神科の受診をお勧めするレベルだね。…まあ、もう遅いけど。」

 

「処刑されるところまで…考えられんかったかの。」

 

「既に死んでる私が、処刑を怖がる!?怖くなんかない!!何度でも蘇って、あいつを殺してやる!!」

 

「殺してやる!殺してやる!!殺してやる!!!」

 

「ではでは、お楽しみの時間と まいりましょう!」

 

 

「殺してーーや、る……」

 

(モノクマが楽しげに言った瞬間、叫び続けていた壱岐が黙り込んだ。)

 

「………。」

 

「……思い出した…わ。」

 

「……え?」

 

「…私、お金が欲しかっただけじゃないのよ。」

 

「そうだわ…。そうよ。これは…私が、しなければならない…。」

 

(彼女は、静かに呟いた後、こちらを見た。)

 

「みんな…絵ノ本さんは…彼女の本当の自殺の理由はーー…」

 

「おしおきターイム!」

 

(壱岐が何かを言いかけると同時にモノクマの声が響く。次の瞬間には、彼女の姿はなくなっていた。)

 

 

 

おしおき

 

“超高校級の幽霊” 壱岐 霊子の処刑執行

『幽霊面接会場』

 

壱岐 霊子は、薄暗いビルの一室を歩いていた。

足音が近付いてくる音がした。いつも通り、最も驚く位置と角度から その人物の前に現れる。ーーが、それは人ではなく、スーツを着て評価シートを手にしたモノクマだった。

モノクマは「何か足りない」と言わんばかりに首を振り、近くのヒモを引く。

 

途端、立っていた場所に穴が空き、自身の身体は奈落の闇に堕ちていく。

その先は古びた井戸。井戸から這い出て、目の前のモノクマに向かって歩く。最も怖がられるように。髪を振り乱して、ゆっくりと。しかし、モノクマはまた首を振った。

数の足りない皿を数えても、死の予告電話をしても、モノクマが首を縦に振ることはなかった。

 

そして、何かを思い付いたらしいモノクマが手にしたのは、チェーンソー。けたたましい音を響かせて、こちらにチェーンソーが近付く。

とっさに逃げようとした足は、動かなかった。それどころか、身体は あっという間に、その場に四肢を固定された形で横たわり…

 

チェーンソーの刃が自分の足と接触した瞬間、これまでに上げたことのないほどの おぞましい声が自身の口から発せられた。それに対して、ようやくモノクマが首を縦に振った。

激しい痛みと共に、両足の感覚がなくなっていく。意識が薄れる中、チェーンソーの刃は、今度は自分の首に近付いてきてーー…

最期に目にしたのは、飛び散る鮮血だった。

 

…………

……

 

「……。」

 

(また、1人…『ダンガンロンパ』に殺された…。)

 

(私1人じゃ…やっぱり無理だよ。)

 

(何もできない。私には…終わらせられない。)

 

(教えてよ。あの時みたいに、根拠のない自信を見せて…私を引っ張り出してよ…。)

 

(私には…まだ、あんたが必要なんだよ…。)

 

(………。)

 

 

 

第3章 先導性オブ・ザ・デッド 完

第4章へ続く

 

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「第3章 先導性オブ・ザ・デッド 学級裁判編Ⅲ【創作ダンガンロンパV4if/創作論破】danganronpa」への4件のフィードバック

  1. 更新をずっと楽しみに待っていました!
    第3章が完結するまでの間に今までのお話を読み返して自分なりに推理していたのですが、いい意味で完全に推理が外れましたしちゃんとお話の筋も通っていて「やられたっ!」となりました笑
    V3のあの人を匂わせる内容があったのも面白かったです

    段々と終わりに近づいてきているのが悲しいですが第4章も楽しみに待っています!

    1. トラウマウサギ

      更新をお待ちいただきありがとうございます!そして今までのものから推理してくださって「やられた!」となっていただけた…!コメント本当に本当に嬉しいです^ ^
      2人死者が出る魔の3章ですが、何とか挙げられて一安心です。もう後は最後まで書ききる所存ですので、今しばらくお付き合いいただければ幸いです!

  2. 今日この作品を知ってここまで一気に読み進めてきました…
    トリックやキャラたちが凝っていて読んでて楽しいです!!
    続きもまた楽しく読ませていただきます!

    ………学者って…あの…あれですよねきっと…()

    1. トラウマウサギ

      あやこと様、コメントありがとうございます!凝ってるとのお言葉とても嬉しいです!
      ………学者って…あの…そうですね…その辺の散らかした伏線も回収していきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです◎

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