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第△章 絶望□жット 学級裁判編Ⅱ

 

学級裁判 再開

 

(みんなの視線は、わたし達に向けられている。近くの席に固まる天海君と哀染君、わたし。そして少し離れた席の妹尾さんに。)

 

(…困ったな。ここで わたしも疑われるんだ…。)

 

(確かに、わたしは殺しを目論んではいたけど…隠し部屋もマザーモノクマもいない今、ただ『殺さなきゃって思ってただけの人』なんだよね。)

 

「校舎の高い所にいたのは、天海クンに妹尾サン。哀染クンに白銀サン。」

 

「全員の話を信じれば…だけどね。」

 

「そうだ。地味ヤローや黄色女が実際どこにいたのかは分かんねーぞ。」

 

「地味で悪かったな。」

 

「えっと、永本君って地味かな?地味レベルで絶対わたし負けてないと思うけど…。」

 

「白銀さん…張り合わなくていいんすよ。」

 

「…永本さんは子守唄が流れた時に1階の玄関にいたはずだよ。」

 

「そ、そうだよ!けいは玄関にいて、既に寝てたよ!」

 

「放送室の録音から、夕神音さんも1階の放送室にいたことは間違いないはずですね。」

 

「それなら、やっぱりヨーギシャテリアは、4人だけデス。」

 

「アイコさんが倒れてた場所って、ちょうど4階の音楽室の真下辺りよねぇ。」

 

「天海さんや白銀さん達は…どこの教室にいたの?」

 

「ボクらは…ちょうど音楽室にいたよ。」

 

「うん。音楽室で子守唄を聞いて寝ちゃったんだ。天海君たちは、その真下の教室にいたよね。」

 

「ええ。俺と妹尾さんも発見アナウンス直前に白銀さんが真上の教室にいたのを見たので…確かっすね。」

 

「全員 怪しいすぎマス!」

 

「彼らのうち、誰かがアイコさんを突き落とした。その可能性が高いね。」

 

「高い所からアイコ先パイを突き落とした…。女性である白銀先パイや妹尾先パイには難しくないでしょうか!?」

 

「女性1人の力なら難しくても、2人なら、どうかな?」

 

「そうねぇ。いくらアイコさんが寝ていたとしても、アイコさんの後ろのロボットは重そうだったものねぇ。2人は必要よねぇ。」

 

「…うん。モノパッドによると、アイコさんは90kg以上ある。だから…1人の力じゃ無理だと思う。」

 

「なるほど。それで、ボクらの中に犯人と共犯者がいる可能性が高いんだね…。」

 

「いやいや!そんな悠長なこと言ってる場合じゃないよ!」

 

「あ、あたしと蘭太郎お兄ちゃんじゃないよ!」

 

「証明できるかね?」

 

「2人ずつで行動していた俺たちがアリバイを証明することは無理っすね。動機がある以上、共犯者は口裏を合わせることができるっすから。」

 

「それに、事件発覚まで寝ていたからね。」

 

「とにかく、チャラ男2人とデカメガネとピンクチビの、誰かが犯人なんだな!?」

 

「問題は、どうやって犯人を割り出すか…だね。」

 

(確かに…みんなが4人の中からクロを見つけ出すのは難しいね。…わたしはメタ知識で、分かっちゃうけど。)

 

(……天海君がクロってことはないだろうし、妹尾さんが単独で…というのも体格的に考えにくい。だとしたら…)

 

「……。」

 

(だとしたら、哀染君が単独クロ…。哀染君は何らかの方法で子守唄を聞かず起きていて…わたしが寝た後、アイコさんを4階から突き落とした…。)

 

(でも、それなら おかしいよ。動機が働かなかったってことになっちゃう。犯行は1人だったけど、誰かを逃すためにクロになった…とか?)

 

(……まさかとは思うけど、わたしが共犯者で記憶が消された…なんてことは、ない…よね?)

 

(『V3』の4回目の事件が思い出された。)

 

「……犯人についてじゃなくて、アイコさんがどこから落下したのか。これが分かれば、真相に近付くはずっすね。」

 

(…3階から落ちたのか、4階から落ちたのか。それを知るために考えるべきことは…。)

 

 

1. 事件発覚の瞬間

2. 鏡の強度

3. みんなのプロフィール

 

 

 

「その話題でも、新しい発見があるかもしれないっすけど…モノクマが気になることを言ってたっすよね。」

 

(だから、答えが分かってるなら、あなたが言ってくれればいいのに…!)

 

 

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鏡の強度で、アイコさんが どのくらいの高さから落ちたか、分かるかもしれないよ。」

 

「モノクマは、あの鏡は強度が高いと言ってたっす。2階3階から落としても壊れないとか。」

 

「3階の窓から地上までは7m。4階までは10mくらい。」

 

「ロボットの下にも割れた鏡は落ちていたから、鏡自体が落ちたわけではないだろう。90kgが上から落ちてきた場合を考えなければ。」

 

(天海君とは反対側、左隣の松井君がモノクマを見る。モノクマは「仕方ないなぁ。教えるのはサービスだからね。」とワザとらしく首を振った。)

 

「自由落下で計算したところ…8mから90kgが落ちた衝撃くらいなら、あの鏡は耐えられるよ。」

 

「自由落下の計算じゃ…正確じゃない…。」

 

「もー!細かいなあ!はい!じゃあ、空気抵抗 込み込みの数値でも そう!3階から落ちた90kgの鉄のカタマリの衝撃では、傷ひとつ付きまっせーん!」

 

「現場の鏡は粉々だったぞ。3mの違いで そんな変化するか?」

 

「うるさいなー!なるの!移動速度やら衝撃過重やらを加味して、そうなってるの!!」

 

「この世界に難しい現実の物理計算を当てはめないでよね!」

 

(…フィクションだからね。科捜研が聞いたら頭抱える強引展開も醍醐味…かな。)

 

(というか、それより問題はーー…)

 

「3階からじゃないってことは、4階から落ちたってことだよね。」

 

「天海クンと妹尾サンは犯人じゃナイナイナイナイ内々定。」

 

「……。」

 

「……。」

 

(自分で自分の容疑を色濃くしてしまった…。)

 

「シロガネとアイゾメが犯人デスカ?」

 

「うぷぷぷぷ。新しいねー!自分で自分の無罪を主張する弁護士や探偵は聞いたことあるけど、自分で自分を犯人にするマゾヒストなんて、実に新しいよ!」

 

(マゾヒストじゃないよ!)

 

(モノクマへ心の中でツッコミを入れる。その間も、わたし達に向けられた疑心の目は強くなっていく。)

 

「白銀さんと哀染くん。お2人が共犯で…アイコさんを殺した可能性があります。」

 

「2人で協力すれば、何とか窓から突き落とせるね。」

 

「…そうなの?2人でアイコさんを突き落としたの?」

 

「してないよ!」

 

「……。」

 

「哀染君?」

 

「…反論…ないの?」

 

「……。」

 

「モクヒケン使いています。犯人デス。」

 

「え?ホントに?つむぎとレイが犯人なの?」

 

(哀染君は口元に手を当てて黙り込んでいる。どうしたものかと考えていると、声が上がった。)

 

「それは おかしくねーか?」

 

 

 

ノンストップ議論1開始

 

「白銀と哀染が犯人なら、おかしいだろ。」

 

「あ?何が おかしいんだよ?」

 

「発見アナウンスだよ。」

 

「発見アナウンスは、確かに流れたよ。あたしと蘭太郎お兄ちゃんが死体を発見した瞬間。」

 

「それだよ。これまでの話によると、死体を発見したのは哀染、白銀、天海と妹尾なんだろ?それまでに死体を見たヤツもいねーよな?」

 

「白銀と哀染が犯人なら、クロ以外で死体を発見したのは2人。死体発見アナウンスは鳴らないはずだろ。」

 

 

【共犯の可能性】→死体発見アナウンスは鳴らない

【鏡の布】→死体発見アナウンスは鳴らない

【永本のヘッドホン】→死体発見アナウンスは鳴らない

 

 

 

「お前が何が言いたいのか、分かんねーよ。オレはお前らと違って、地味な才能しかねーからさ。

 

「地味じゃない!”超高校級の幸運”が、もしクラスにいたら周りの目も気にせず絡みにいくよ!”幸運”が地味だなんて おこがましいにも程があるよ!」

 

「白銀さん、落ち着いてください。早口すぎて、みんな引いてるっす。」

 

 

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「それは違うっす。」

 

「確かに、共犯者がいた可能性はあるけど…発見アナウンスは間違ってないよ。」

 

「共犯があったとしても、実行犯と共犯者になるから…共犯者はシロ扱いなんだよ。」

 

「そうなのか。けどよ、それじゃ…。」

 

「白銀さんが証明してくれた通り、白銀さんと哀染君の共犯ということねぇ。」

 

「え!」

 

(しまった…!また、自分に不利な論破しちゃったよ…。)

 

「単独犯だとしたら…かなりの力が必要…。」

 

「そ、そうだね。つむぎとレイが ものすごい力持ちだった…とは思えないし…。やっぱり、2人は共犯だったの?」

 

(わたしの記憶が確かなら…わたしは今回 犯人じゃないはず。それなら…哀染君がクロってことになる。)

 

「……。」

 

(でも、男の子とはいえ、哀染君みたいなアイドル男子が、90kgのアイコさんを1人で窓から突き落としたりできるのかな?)

 

(哀染君が どうやったら1人でアイコさんを突き落とせたのか考えてみよう…。どんな状況なら、それができる?何を使えばいい?)

 

 

1. 机など高さのあるもの

2. 砲丸など重さのあるもの

3. 相撲部員など幅のあるもの

 

 

 

 

「すみません!意味が分かりませんが、自分は白銀先パイの言うことを信じます!重かったり幅を取るものがあればいいんですね!?」

 

(冷静に考えて…今の推理はないね。)

 

 

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「もしアイコさんが窓の高さより高かったり、窓の高さに近かったり…そういう所から落とされたとしたら、単独犯でも不可能ではないよね。」

 

「ああ。それなら、持ち上げるための腕力なんざいらねーからな。」

 

「………。」

 

「それは…共犯ではなく、白銀さんか哀染くんの単独犯。そう言っているんですか?」

 

「お姉ちゃんが1人でやった可能性もあるってこと?」

 

「……!」

 

(うう…共犯者というより容疑者濃厚になっちゃった。)

 

「白銀先パイのような華奢な女性に、そもそもアイコさんを机に乗せることができるでしょうか?」

 

「アイコが眠っタラ、机の上 倒れた。問題アリマセン。」

 

「非力な女性には無理だ。…そういう心理操作かもね。」

 

「確かに…印象としては、哀染君と白銀さん…どちらかといえば、白銀さんの方が『単独での犯行は無理』と見られやすいね。」

 

「まさか、デカメガネ!テメー、それを利用して…!」

 

「ち、違うよ。」

 

「でも、もし白銀さんが単独のクロなら、わざわざ そんなこと言うかしら?」

 

「つむぎじゃなくて、レイが犯人ってこと…?」

 

「あえて僕たちのための発言をして、そう見せかけたとか…本当は共犯者で実行犯を庇おうとしているとかも考えられるけどね。」

 

「どちらがやったか…分かるものはない…?」

 

(……まずいな。わたしに票が集まったら、シロみんな、おしおき。初手から避けたい結末だ。)

 

 

「うーん…この人数じゃワンナイト人狼みたく票を分けて2人選出…ってこともできないしなぁ…。」

 

「わんないとじんろー?」

 

「テーブルゲームのこと。気にしないで。」

 

「…ゲーム?」

 

「そもそも、共犯者とクロがいるなら…同票になるようシロが投票を分けても、どちらが実行犯か分かっているクロ側の勝ちは確定っすね。」

 

「あ、そっか。クロ陣営2人がシロ陣営に投票して、クロ陣営勝利だね。」

 

「おい、何言ってんのか、いまいち分かんねーんだけど…。」

 

「……とにかく、小細工なしで、クロを選出しなければならないってことだよね。」

 

「あ!?黙ってたかと思ったら急に何だ?テメーか、デカメガネ女かって疑われてんだよ!」

 

(郷田君が怒声を響かせた後、哀染君は きっぱり言い放った。)

 

「ボク達は共犯者じゃないよ。」

 

「それはマコトか?虚言か?分かりません。」

 

「信じられマセンね。」

 

「つむぎ、ちょっと いいかな?」

 

(言って、天海君の向こう側の哀染君が わたしに顔を向ける。)

 

「キミは、アイコを突き落とした?」

 

「え?」

 

「ボクの目を見て、本当のことを言って欲しいんだ。」

 

(そして彼は、わたしの顔をジッと見つめる。わたしは、変に演技しないで言葉を返した。)

 

「……突き落としてないよ。」

 

(わたしが殺そうとしたのは…あなただったからね。)

 

「………。」

 

「…そっか。ありがとう。」

 

(哀染君は納得したように頷いた。)

 

 

「何やってんだテメーら。」

 

「やっぱり共犯?こっそり密談?」

 

「ボクは犯人じゃない。そして、つむぎも犯人じゃないと言っているよ。」

 

「言ってるからって…。」

 

「そんな言葉だけで、人の考えは簡単に変えられないよ。」

 

「哀染さん…。あなたは容疑が掛かっても…ずっと黙ってた。どうして…?」

 

「考えていたんだ。ボクが目を覚ました時、つむぎも起きたばかりという顔だった。あれは演技には思えなかったからね。」

 

「…それなら誰が高い所からアイコを落とせたのかって。」

 

「えっと、ですから!それが先輩方だけって話で…!」

 

「つむぎ、4階の高さからアイコを落とせたのは、ボク達だけじゃないよね?」

 

「え?」

 

「……そうっすね。4階の高さから落とすことは、アレを使えば…できたはずっす。」

 

(……アレって、やっぱりアレだよね。正直、登場した時点で使われるだろうと予想できる”アレ”…。)

 

 

1. モノパッド

2. クレーン車

3. 永本のヘッドホン

 

 

 

「つむぎ、大丈夫?混乱した時は隣の人をジッと見るといいよ。キミの隣の蘭太郎クンか麗ノ介クンを。隣に人がいるってことで、気持ちが落ち着くはずさ。」

 

「えっと…見ている方も見られる方も落ち着かないと思う…。」

 

 

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「天海君と哀染君が言ってるのは…クレーン車のことだよね。」

 

「クレーン車?」

 

「アレを使えば、クレーンを動かしてアイコさんを4階の高さから落とすことは可能っす。」

 

(クレーン車なんてアイテムが裏口を塞ぐとか、ぬかるみを作る役割だけのものって おかしいもんね。)

 

「誰かがクレーンを伸ばして、アイコさんを4階の高さから落とした…と?」

 

「なるほど!校舎にいなくても、力がなくても、これで可能ということですね!」

 

「誰でもカンタン。3分キリング。」

 

「だから、簡単ではねーだろ。」

 

 

「ちょっと待ってください。クレーン車を使った根拠はあるんですか?」

 

「校舎の高所にいた人は高尚な言い逃れを言いたい人。」

 

(クレーン車は、モノクマが4階の窓に鏡を運ぶために用意していた。)

 

(あるはずのもの…そして実際 事件前にはあったものが、現場からなくなっていた。それはーー…)

 

 

1. 座るための座席

2. 鏡を吊るすためのロープ

3. コロシアイのためのホスピタリティ

 

 

 

「えっと…ごめんなさい。何を言っているのか…。わたしの理解が足りないようです。」

 

「安心して。足りないのは、わたしの推理力だよ!」

 

 

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「クレーンで鏡を吊るすためのロープ…。事件後のクレーンには…それがなかったよ。」

 

「現場にも落ちてなかったよね。事件前の鏡は、ロープが巻かれていたのに。」

 

 

(少し離れた校舎裏口を塞ぐように停められたクレーン車。さっきまでフックの先に吊っていた鏡を手放しているため、そこには当然 何もない。)

 

 

「ロープでアイコさんをクレーンに吊るして落とした…ってこと…?」

 

「ロープは犯人が持ち去ったってことですね!?」

 

「…いえ、焼却炉で燃やしたのかもしれません。何かを燃やした跡がありましたから。」

 

「つまり…やはり犯人は中庭にいた。そういうことかね?」

 

「……中庭までの道は、僕と祝里さん以外通っていないはずだよ。」

 

「じゃあ、テメーらか!?テメーが機械女を…!」

 

「待ってよ!あたし達だって、無理だよ!みくの子守唄で寝てたんだから!」

 

「白銀さん、とりあえず…子守唄については置いておきましょう。焼却炉で証拠隠滅ができたのは誰っすか?」

 

(犯人が焼却炉でロープを燃やしたなら…痕跡が残ったはず。)

 

 

▼焼却炉でロープを燃やせたのは?

 

 

 

「白銀さんは、とっても遠くを見ているのねぇ。ごめんなさい。違う世界すぎて、私には分からないわぁ。」

 

「ち、違う世界?」

 

(メタ推理ばっかりなのを見破られたかと思って、ひきつってしまった…。)

 

 

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「祝里さん。焼却炉の前に…あなたの草履の足跡があったんだ。」

 

「……!」

 

「あなたは、泥のついた草履を履いて、焼却炉の前に立ったんじゃないかな?」

 

「ロープを燃やすために…?」

 

「証拠インメツですね。」

 

「テメー!何でコロシアイになんて乗りやがった!」

 

「ち、違うよ!あたしじゃない!あたしは寝てたもん!」

 

「一応、祝里さんと僕は、死体発見アナウンス直後までは一緒だったよ。アナウンス時、彼女は僕と同じように、ぬかるみで目を覚ました様子だったけど。」

 

「共犯者の可能性あり。佐藤クン盲信キケン也。」

 

「そうですね…共犯者の可能性がある以上、佐藤くんの言葉を鵜呑みにできません。」

 

「どうかな、祝里さん。君に共犯者はいたのかね?」

 

「だから、違うって…。」

 

「共犯がなくても、中庭のすぐ近くにいたんだよね?アイコお姉ちゃんをクレーンで落として中庭に戻ることもできたはずだよ。」

 

「それナラ、イワサトの足跡が付きますね!サトウ、起きた時の足跡は?」

 

「……覚えてないよ。寝起きだったし。」

 

「で、でも、あたし本当に犯人じゃないよ!焼却炉は確かに覗いたけど…それも、みんなで死体を発見した時だし…。」

 

「うーん…アナウンスの後すぐ白銀さん達が見たのが、2人の足跡だけだったのよねぇ。」

 

「やっぱり、佐藤先輩と祝里先パイ以外には不可能です…ね。」

 

「…足跡については…天海さん達の記憶しかない。あいまいな証拠だと思う…。」

 

「アナウンスの後、現場に駆けつけた俺たち全員の足跡が付いたっすからね。今となっては、確認できねーっす。」

 

「それも狙い?スーパーエイム。とんでもタイム。」

 

 

(みんなの視線が祝里さんに集まる。祝里さんは青い顔で周囲を見回していた。そんな中、口を開いたのは…。)

 

「でも、待てよ。祝里はモノクマがクレーン車を用意するなんて、分かってたのか?」

 

「知らなかったよ。そんなの。」

 

「僕と祝里さんは今日ずっと一緒にいたけど、クレーン車は見てないよ。持ち込まれる前に体育倉庫を調べ始めたから。」

 

「…まあ、僕の証言は役に立たないだろうけどね。」

 

「確かに、クレーン車が来るなんて、みんな知らなかったわよねぇ。」

 

「それに!クレーン車を動かしたり、アイコ先パイを運んだり、祝里先パイにできるとは思えません!」

 

「ならば簡単だ。祝里さんは共犯者。他の人が実行犯で、彼女はロープを処分しただけさ。」

 

「祝里が共犯者でシロなら、祝里は否定しないんじゃねーか?自分が実行犯だと認めて、みんなを騙して投票される方がいいだろ。」

 

「その裏をカイタ…かもしれマセン!」

 

「あたしじゃないって!クレーンなんて触ったこともないし、動かせないよ!それに、アイコが中庭にいたことも知らなかったんだよ?」

 

「偶然その場にいたアイコを、偶然あったクレーンで殺すなんて、あたしには無理だよ!」

 

「アイコさんが中庭にいたのは、偶然じゃないよ。それは…この証拠が語ってくれてるよ。」

 

 

1. 【正門側の足跡】

2. 【鏡の破片】

3. 【アイコのメモ】

 

 

 

「………あれ?なかなか語り出さないね。無口な証拠なのかもしれないね。」

 

「白銀さん。ここから出たら、いい病院を紹介するよ。」

 

(……!死亡フラグの上に、精神病院送りエンドフラグだ…!)

 

 

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「さっきも少し話に出てきましたが、アイコさんのロボットは呼び出しのメモを持っていたっす。」

 

モノクマの筆跡…みたいなメモだったよ。」

 

「モノクマのヒッセキ?」

 

「何でテメーがモノクマの筆跡なんざ分かんだよ。」

 

「……見たからだよ。」

 

「そんなの、見たっけ?」

 

(そうだ。わたしは、その筆跡を知っている。これまでの『ダンガンロンパ』でも見たし、それにーー…)

 

「みんながモノクマの筆跡を知ってるはずだよ。才能証明書で。」

 

「才能証明って…『課外授業中、才能は”絶対”だよ。以上を考慮の上、コロシアイにご尽力ください。でわ、楽しいキリングハーモニーを。』っていう。」

 

「うん。才能証明は、わたし達の目の前で、モノクマが書いてたよね。」

 

 

「なら、校則にでも追加すりゃいいだろ。才能を どう校則にできるか知らねーけどさ。」

 

「……よかろう。」

 

(モノクマは悔しそうな声色で そう言って、紙に何かを書き殴り、それをカメラのようなものでパシャパシャと撮り始めた。そして、)

 

「校則にはできないけど、オマエラに才能証明書を贈呈します!」

 

 

「アイコさんが持っていたメモは『中にわにコイ』というものだったっすね。」

 

「たぶん、それは、モノパッドの才能証明の文字を なぞって書かれたんだよ。」

 

「モノクマを装って、アイコを呼び出すために?」

 

「どうして、わざわざモノクマを装うんですか?」

 

「モノクマは殺人に関与しないから、油断させるためかもしれないっすね。」

 

「……それを、祝里さんがやった…そう言いたいの?」

 

「ちが…、あたし、やってないよ!」

 

「クレーン車が来たところ、祝里は見てなかったろ?いつ、そんなメモ送れるんだよ?」

 

「あと、祝里さんを疑うなら、どうやって子守唄を回避したのかも考えないとね。彼女は耳栓になるようなものを持っていなかったはずだけど。」

 

(確かに…クレーン車が来たのは朝食後。朝食の後、みんな散らばっていたんだから、アイコさんにメモを送るのは難しいはずだね。)

 

「犯人は、クレーン車が来ることをあらかじめ知っていたのかもしれないっすね。」

 

「クレーン車が来ることを知っていたのは…昨日の夕方、音楽室にいた俺たちだけっすね。祝里さんは知りようがなかったはずっす。」

 

「……。」

 

(……どうしてアイコさんのメモをモノクマの筆跡で書けたのか。それは、モノクマが手書きで才能証明書を書いたから。)

 

(どうして、モノクマがクレーン車を用意することになったのか。それは、昨日 音楽室の大鏡が割れたから。)

 

(少し、引っかかっていた…。これまでの『ダンガンロンパ』通りなら、彼は代償の代わりに”何か”を得たはずだから…。)

 

「白銀さん。クレーン車を使った この事件を計画できたのは、誰っすか?」

 

 

▼事件を計画できたのは?

 

 

「どうして…そう思うの?」

 

「それは…確固たる理由があるんだよ。女の勘っていう理由がね!……うん、ちょっと待って。ちゃんと考えるから。」

 

 

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「永本君。これがクレーン車を使う計画された犯行なら…計画と実行ができたのは…あなたじゃないかな?」

 

「………。」

 

「…え。」

 

「永本さんが?」

 

「モノクマが手書きの証明書を作ったのは永本君が言ったからだし、クレーン車で鏡を4階まで運ぶっていうのも、永本君が鏡を割ったから…だよね。」

 

(おかしいと思ってた。昨日の朝と、音楽室の大鏡を割った彼の怪我。そして、事件時の怪我…)

 

(彼の不運が“その後の幸運への布石”なら、彼が一体どんな幸運を手にしたのか。)

 

 

「ま、待ってください。確かに、永本くんが きっかけのようですが、それは偶然なのではないでしょうか?」

 

「偶然だとしても、昨日の時点でクレーン車のことを知っていたのは、俺と白銀さん、哀染君…それに、永本君だけなんすよ。」

 

「蘭太郎お兄ちゃんも哀染お兄ちゃんも…つむぎお姉ちゃんも校舎の3階4階にいたし…中庭に近かったのは、永本お兄ちゃんだけだよね。」

 

「ナガモト、ヘッドホンありマス。耳 壊さなくてもいいデスネ。」

 

「どうなんだ!?テメー、アイコを殺しやがったのか!?」

 

「……。」

 

(みんなの視線が集中する中、永本君は黙ったまま。そんな時、佐藤君が口を開いた。)

 

「ねえ、みんな忘れてないよね?」

 

「子守唄が流れた11時頃、永本さんは校舎内にいた。僕と祝里さんは中庭に向かう途中、窓から玄関で倒れている永本さんを見たんだよ。」

 

「…そうだよ。」

 

「はっきり見たのかね?」

 

「まあ、眠る直前だったから、僕の記憶はあいまいだけど…祝里さんは映像として覚えてるんだから、確かだよ。」

 

「う、うん。確かに…見たよ。」

 

「永本さんは…校舎にいた。校門側に足跡は残ってなかったし…裏口前にはクレーン車が止まってた。永本さんは校舎から中庭に行ってない…はず。」

 

 

「…クレーン車は11時に本当に裏口前を塞いでたのかな?」

 

「どゆこと?」

 

「モノクマは鏡を運ぶためにクレーン車を用意した。つむぎとボクが事件前にクレーン車を見た時、クレーン車のすぐ近くに鏡を置いてたんだ。」

 

「音楽室はアイコが倒れていた真上の教室。4階に運ぶための鏡は抜け穴を塞ぐ形で置かれていた。クレーンも、もっと近い位置にあったんじゃないかな。」

 

「抜け穴とアイコ先パイの位置は近かったですね!玄関からも中庭は よく見えました!あの窓は全面窓でしたから!」

 

「確かに…クレーンを上に目一杯 伸ばすのなら、音楽室に近い場所から操縦した方が良いでしょうね。白銀さん達は伸びたクレーンを見なかったんですか?」

 

「え、うん。わたし達は音楽室にいたけど…見てないね。」

 

「うん。きっとボクらが寝ている間にクレーンは4階の高さまで伸びて、ボクらが起きる直前にクレーンは元の長さに戻ったんだよ。」

 

 

「ホウ。けれど、中庭の石畳の乾き具合は どうだい?クレーン車が通った後、地面は濡れる。けれど、中庭の石畳はほとんど乾いていた。」

 

「子守唄が鳴り響いた11時くらいには、クレーンが裏口近くに移動していたと思っていたんだが。」

 

(また松井君がモノクマをチラリと見た。すると、モノクマは面倒そうに答えた。)

 

「あー、中庭の石畳?あの石畳は撥水加工だよ。乾きやすいの。だから、その計算は間違いかもね。」

 

「ああ!?テメー!何で隠してやがった!?」

 

「聞かれてないからですが?聞かれてもないのに、そんなこと言ったら『それがヒントだ』ってメタ推理し出すヤツがいるだろうしー。」

 

「………。」

 

「ええと、じゃあ…11時に裏口から中庭に出ることはできたのねぇ。」

 

「永本クン、どうどうどうどうドーナツ?」

 

「どうなんですか!永本先輩!!」

 

「何とかオイイ、オイイッタラ!」

 

「………。」

 

「ああ、オレは…中庭にいたよ。」

 

「えっ…。」

 

「じゃあ、ボクらが見たキミは、フェイクかな?」

 

「いや、たまたまだろ。たまたま そう見えただけだよ。転んだ拍子にな。」

 

(転んだ拍子に…?)

 

「永本君は中庭にいたと言っている。けれど、2人の目撃者が、彼が校舎内にいたと証言している。白銀さん、これは…どういうことだと思うっすか?」

 

(事件前…抜け穴には大鏡が立て掛けられていた。それは…全面窓の目の前だ。)

 

(いくつかの文字が頭の中に浮かんできた。もはや実家のような安心感あるシステム。わたしはアナグラムを解くために、目をつぶった。)

 

 

 

閃きアナグラム 開始

 

                     か

み                                 が

                    せ                               わ

 

閃いた!

 

 

 

「佐藤君と祝里さんが見たのは、玄関の鏡に映った永本君だったんじゃないかな。」

 

「……鏡合わせ。なるほどね。」

 

「……確かに、玄関の靴箱に鏡があった。」

 

「こけた拍子に、オレは抜け穴前に置いてあった鏡に頭から体当たりしちまったんだ。それで、鏡に掛かってた布が取れて玄関の鏡に映り込んだんだろ。」

 

「……佐藤君と祝里さんは、鏡に映った姿だと気付かなかったんすか?」

 

「子守唄で眠る直前だったからね。」

 

「あたしも…。」

 

「まあ、その時、倒れた拍子にヘッドホンが耳に掛かった。それで子守唄を聞かずに起きてたんだよ。」

 

「ついでに言うと、子守唄が始まると同時にアイコは中庭に来たぞ。オレが倒れてんのに気付いて駆け寄ってきたけど、オレの近くで ぶっ倒れた。」

 

「お前らが言った通り、クレーン車は校舎の裏口を塞いでなかった。中庭の真ん中…抜け穴の手前に停められてたぞ。」

 

「オレは…やるべきことをやって、普通に裏口から校舎に入っただけだ。」

 

「ミラクルラッキーボーイですね。」

 

「やるべきこと…あなたが、アイコさんを殺した。……そういうことですか?」

 

「………。」

 

 

「いや、違う。オレはクロじゃない。」

 

「え?」

 

「クロじゃない?そんな苦労したのにクロじゃない?」

 

「ど、どういうことですか!?」

 

「そ、そうだよ!なんか、おかしいもん。」

 

(動揺する みんなの中で、祝里さんが一際 大きな声を上げた。)

 

 

 

反論ショーダウン 開幕

 

「全体的に、変だよ!この事件!」

 

「クレーンとか才能証明書なぞったメモとか…この事件が計画的みたいなこと言ってたけど…!」

 

「みくが今日、子守唄 歌うかなんて分からない!歌っても、アイコが小学校にいないかもしれない!メモを見ても来ないかもしれない!」

 

「アイコは機械だから…眠らないかもしれない!」

 

「アイコさんは昨日の朝、みんなと一緒に寝てたよね。だから、小学校に呼び出すメモを書いたのかもしれないよ。」

 

 

「それも おかしいよ!アイコが呼び出されたメモには、時間が書いてないんだよ?」

 

「みくが子守唄 歌う時間も、アイコが来る時間も分からない。」

 

「才能証明書だって、クレーンが来たのだって、たまたま そうなっただけで…!」

 

「そんな、完全に運任せの事件なんておかしいよ!」

 

 

【クレーン車】→運任せの事件はおかしい

【体育倉庫の道具】→運任せの事件はおかしい

【才能証明書】→運任せの事件はおかしい

 

 

 

「ほら、やっぱり…こんなの、おかしいんだよ。」

 

(フィクションだからね。多少の『あり得ない』はご愛嬌だよ。)

 

 

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「…確かに、運に任せた事件だった。でも、彼は自分の経験から知ってたんじゃないかな。それでも、うまくいくって。」

 

“超高校級の幸運”の才能ならって…。そうじゃないの?永本君。」

 

「………。」

 

「どうかね?」

 

「永本お兄ちゃんには、できたの?」

 

「そうだよ。」

 

「えっ!?」

 

「認めるんですか?」

 

「永本君…本当に?」

 

「ああ。オレには、分かってた。これだけ血だらけになったんだから、うまくいくってな。」

 

「……。」

 

「テメー…!外に出てぇからって、機械女を殺しやがったのか!?」

 

「……殺してねーよ。」

 

「え?」

 

「…どういうこと?」

 

「キミには共犯者がいて、実行犯がアイコさんを壊したってこと?」

 

(裁判場がシンと静まり返る。そんな中で視線を浴びていた永本君が口を開いた。)

 

(そして、最後の議論が始まった。)

 

 

 

理論武装 開始

 

「オレがやったのは、準備だけだよ。」

 

「メモで呼び出したアイコが夕神音の歌で寝てる間に、鏡と一緒に括り付けたんだ。」

 

「その時、鏡を吊るしてたフックのロープに切れ目を入れてな。」

 

「けど、オレがしたのは、それだけだ。」

 

 

「そのまま、オレは校舎の裏口から校舎に入った。」

 

「アイコを殺したのはオレじゃないだろ。オレがクレーンを操作して高く吊り上げたわけじゃねーんだから。」

 

「この裁判のクロは、クレーンを操作したヤツ。つまり…モノクマがクロなんだ!」

 

 

 ○動 △転 ×自 □運 

 

これで終わりだよ!

 

 

 

「………。」

 

「永本君、クレーン車を操作したのは…モノクマじゃないんだよ。」

 

「………は?」

 

「あれは…自動運転だったそうっすよ。」

 

「………。」

 

「……そう…か。」

 

(彼は静かに目を伏せて、小さく笑った。)

 

「失敗しちまったか。」

 

「失敗…?」

 

「モノクマがクロになるって思ってたんだけどさ。自動運転か。……そうか。」

 

「……。」

 

「……あの大鏡の上にアイコさんが落ちたのではなく…鏡とアイコさんは一緒に4階の高さから落ちたのか…。」

 

「えっと…あの、この場合のクロは、やっぱり…。」

 

「……オレ、だな。」

 

(彼は笑みを浮かべたまま、裁判席をグルリと見回した。)

 

「悪い…みんな。この事件、本当は単純だったんだよ。こけた後、オレは鏡の布を元に戻して、布に隠れるようにアイコを鏡に縛り付けた。それだけだ。」

 

「クレーンが移動してたり、祝里たちが鏡に映ったオレを見たり、切れたロープが焼却炉に偶然 入って燃えちまったり…ややこしくなったけど。」

 

「アイコとクレーンを繋げた時、まだ裏口は塞がってなかった。そのままオレは校舎内に入って、玄関の窓から見てようと思ったけど…また、転んじまって。」

 

「だから、玄関の鏡前に倒れていたんだね。」

 

「ロープが焼却炉で焼かれたのも…偶然?スイッチもあったのに?フックに残ったロープも?」

 

「風かなんかで飛んだみてーだな。信じられねーかもしれねーけど。オレの才能みたいだ。」

 

(さすがに不思議ミラクルすぎるけど…モノクマが言った通り、『才能だから仕方ない』ってやつなのかな?)

 

 

「テメー!ふざけんなよ!」

 

「ああ、悪かったよ。みんなの命も危険に晒しちまった。」

 

「ンなこと言ってんじゃねー!何でだ!何で、コロシアイになんて乗っちまったんだよ!?」

 

「……。」

 

(……1章の こういう展開。覚えがあるね。彼が、コロシアイを始めた理由は…)

 

 

1. クロになって外に出るため

2. モノクマをクロにしてコロシアイを終わらせるため

3. コロシアイを盛り上げて視聴率を上げるため

 

 

 

「はは…白銀。そんな冗談じゃ、笑いはとれねーよ。」

 

(ひきつり笑いは とれたみたいだけど…視聴率はとれないよね。)

 

 

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「永本君。あなたがアイコさんを壊した理由…それは、モノクマをクロにしてコロシアイを終わらせることだったんじゃないかな?」

 

(問いかけると、彼は目を伏せて肩をすくめた。)

 

「……ああ。オレが本当に願えば、コロシアイが終わると思ったんだけど…な。」

 

「モノクマは殺人に関与しない。この校則を突こうとしたんですね。」

 

「校則を突いて…コロシアイを終わらせるため?」

 

「みんなのために……頑張ってくれたのねぇ…。」

 

「……馬鹿野郎。だからって、機械女を殺していい理由にはなんねーよ。」

 

「…そうだな。その通りだよ。」

 

「そして、結局モノクマをクロにすることもできなかった…か。」

 

「いったい全体、幸運なのに、どうして失敗?」

 

「そうです!永本先輩の”幸運”の力があっても、モノクマはクロにできなかったってことですよね。」

 

「うぷぷぷぷ。永本クンが本当に願ったのは、ボクがクロになることじゃなかった。そういうことかもね。」

 

「……。」

 

「心のどこかで、みんなを犠牲に外に出たい。そういう気持ちがあったのかな?」

 

「そんなっ…!」

 

「シカタナイ。みんな自分が1番タイセツです。」

 

「『自分だけでも外に出たい』…そう無意識に思っても、責められないよね。」

 

「本当に…そうなのかな?圭クン…。」

 

「……。」

 

「…永本君、」

 

 

「天海、白銀。」

 

(天海君が何か言いかけたのを遮って、彼は続けた。)

 

「最後に、事件のまとめをしてくれねーか?」

 

(彼の言葉を合図に、わたしはクライマックス推理の準備を整える。文字通り、裁判もクライマックスだ。)

 

 

 

クライマックス推理

 

「事件が起きたのは今日の昼前。でも…犯人は事前にモノクマを誘導する仕掛けを施していた。」

 

「校舎の音楽室の鏡を割って、今日モノクマに直させること。これにより、犯人の計画は動き出したんだよ。」

 

「まず、犯人はアイコさんを小学校に呼び出すメモを用意して、彼女を小学校に来させたっす。モノクマの筆跡を使って。」

 

「その時、小学校の校舎内にいた夕神音さんは子守唄を歌った。子守唄を聞き、小学校にいたアイコさんも俺たちも寝てしまった。」

 

「でも…犯人だけは違った。犯人が首に掛けたノイズキャンセラー付きのヘッドホンなら、子守唄で眠ることを回避できる。」

 

「みんなが寝ている間に、犯人はクレーンのロープにアイコさんを繋げた。その後クレーン車は動き出し、アイコさんと鏡を一緒に4階まで持ち上げた。」

 

「犯人はクレーンとアイコさんを繋げたロープに重みで落ちるように細工していたっす。そして…ロープが切れて、4階の高さからアイコさんは落下した。」

 

「おそらく、俺たちが目覚めたのは、この直後っす。その間にクレーンは元の長さに戻って中庭の裏口前に停まったっす。」

 

「これにより犯人はクロ候補から外れることとなった。子守唄直前に中庭にいた犯人は鏡合わせで映った姿を目撃されて玄関にいたと思われてたっすから。」

 

「それは、“幸運”だった。……普通だったら、アイコさんがメモで来るかも、それが何時かも分からない。夕神音さんが子守唄を歌うとは限らない。」

 

「ロープが高くない時点で途中で切れるかもしれないし…逆に最後まで切れないかもしれない。アイコさんや他の誰かが途中で起きるかもしれない。」

 

「計画としては運任せだった。でも…犯人には分かってたんだ。もし…自分が本当に願えば、代償を払うことで、それが叶うって。」

 

「犯人の計画は成功したっす。けれど…誤算もあった。」

 

「それは…クレーン車の運転がモノクマではなく、自動運転で行われたことだよ。犯人の目的は、モノクマに殺人を起こさせることだったから。」

 

“超高校級の幸運” 永本 圭君。キミが、この事件の犯人っす。」

 

 

 

「……。」

 

「……。」

 

「……。」

 

(……どうだろう。『ダンガンロンパ』らしく、できたかな。)

 

(わたしなんかが裁判を引っ張っちゃって…視聴者的には大丈夫かな。視聴率を確認したいところだけど…。)

 

(もう1度、正面のモノクマを盗み見る。親の顔より見たであろう その顔は、相変わらず楽しそうに笑うだけだった。)

 

「天海、白銀。ありがとな。」

 

「…クソッ。」

 

「永本クン…。」

 

「貴方は…コロシアイを終わらせるために…。」

 

「あ、あの…何でアイコ先パイだったんですか?」

 

「そ、そうだよね。アイコお姉ちゃんみたいにスクスク育った大きい人…わざわざ選ばなくても…。」

 

「…あいつなら、クレーンを動かす時、モノクマに気付かれにくいと思ったんだ。」

 

「圧倒的に黒いのロボット。」

 

「…どうして、ロボットごとクレーンに繋げたのですか?」

 

「確かに。本体だけを壊す方が楽だろうに。なぜ、わざわざ?」

 

「あんまり、本体とか考えてなかったんだ。ロボットが壊れてた方が捜査を撹乱できると思ったしな。」

 

「……。」

 

「アイコは…機械だから…さ。罪悪感も少なくて済むと思ったんだよ。」

 

「……。」

 

(キーボ君が聞いたら煙を出して怒りそうな発言だ…。)

 

「さてと、それでは、ワックワクでドッキドキの、楽しい時間を始めるよ!」

 

(モノクマが投票を促し、みんなが緊張した面持ちで手元の画面を見た。わたしは迷わず、スイッチに指を伸ばして、今回のクロを指摘した。)

 

 

 

学級裁判 閉廷

 

「大正解!!”超高校級のAI” アイコさんを殺した…ん?壊した?割った?…とにかくクロは、”超高校級の幸運” 永本 圭クンなのでしたー!」

 

「うぷぷぷぷ。アーハッハッハ!永本クンが『自分だけは外に出たい』なんて願わなければコロシアイは終わったかもしれないのにー!残念でした〜!」

 

「……。」

 

「それは違うっす。」

 

「違う?」

 

「……。」

 

「永本君、キミがコロシアイを止めることより願ってしまったことは、シロが全滅しないことだったんじゃないっすか。」

 

「……。」

 

「だから、俺たちは今ーー…」

 

「さあな。無意識とか心の隅で願ったことなんて、分かんねーよ。」

 

「圭クン。キミが願ったことは、みんなを生かす道だった。そうボクは信じるよ。」

 

「じ、自分も信じます!」

 

「永本くん…。」

 

「……。」

 

「あれ?何この雰囲気?『みんなの為にやったんだ。仕方なかったんだ』?あー、ヤダヤダ!そういうの嫌いなんだよ!美しく死ぬとか、どーでもいいの!」

 

「コロシアイなんだから、自分勝手に人を殺したクロに怒り、醜く口汚く罵り合いなよ!!」

 

(視聴率的には、お涙ちょうだい展開は大事だと思うけどなぁ。)

 

 

「…おい、体育倉庫を開けたのもテメーか?」

 

「いや…オレじゃねーよ。」

 

「じゃあじゃあ、凶器を隠した、倉庫を開けた。モノクマのシワザ。仲間割れのワナ。」

 

「ああ。たぶん…な。」

 

(永本君は言って、裁判場内の一点に目を向けた。けれど、その視線は すぐ逸らされた。)

 

「えー、そろそろ始めますよ!これ以上 時間を掛けても、胸くそ悪い友情ごっこを見せられそうだからね!」

 

「それでは、お楽しみの時間パート2!”超高校級の幸運” 永本 圭クンのために、スペシャルな おしおきを、用意しました〜!!」

 

(1回目の裁判にしては、”裁判後の時間”は あっさりと打ち切られた。)

 

「お前ら、オレは…やれることはやった。こんなコロシアイ…ぶち壊してくれよ。」

 

(最後に永本君はモノクマに連れて行かれながら、こちらを1度 振り返り、ニカリと笑った。)

 

 

 

おしおき

 

“超高校級の幸運” 永本 圭の処刑執行

『模倣授業』

 

永本 圭は、レーンの上に載った学校机に座っていた。目の前には、教師風に扮装して何らかの授業らしきものをしているモノクマ。

背後では、ガシャンガシャンとプレス機が存在を主張している。徐々に、その破壊の音は近付いてくる。

 

ーーもう終わりか。死にたくないな。

そう思った瞬間、視界が揺れた。潰されるとばかり思っていた身体は、落ちている。真っ逆さまに。

 

落下で死ぬのか。オレが壊してしまった、アイコと同じように。

目をつぶって考えた瞬間、身体を支えるものがあった。筋肉隆々の女子高生の像だ。地面と衝突しそうな中、この像に引っ掛かって助かったのか。

そんなことを考えていると、大量のゴミが頭上から降ってきた。鈍器や刃物となるそれらは、なぜか自分を避けるように落ちてくる。自分の頭を攻撃するのは、柔らかいプラスチックゴミくらいだ。

 

壁に設置されたモニターに映るモノクマが、少し焦った様子が見えた。次に、部屋の中の火炎放射器のような機械が火を放つ。しかし、自分の周りの不燃ゴミが溶けるだけ。

甲冑を着たモノクマが繰り出す刃も、キューピッドみたいなモノクマの矢も、的である自分に届かない。

そのうち、モノクマは疲弊した顔を見せた。

 

……もう、いいか。

早く終わりにしないと、あいつらも休まらないだろうし。

 

イライラした様子のモノクマが目の前に現れ、レーザー銃を放った。周りのものがガレキとなって落ちてくる。

大きな影が迫ってきて、手を掲げた。

みんなに、手を振るように。絶望だけじゃないんだと、誇示するように。

 

…………

……

 

(ゴトリと重い音が裁判場に響いた。彼の遺品が、どこからともなく落ちてきた音だ。彼のヘッドホンを拾い上げた哀染君が珍しく苦々しい顔をした。)

 

(そして、また裁判場は静寂を思い出したように静まり返る。わたしの耳に届くのは、ドキドキと騒がしい心臓の音だけだった。)

 

(『ダンガンロンパ』の見せ場である、おしおきへの胸の高鳴りーー…)

 

 

(ーーだけじゃない。)

 

(彼の最期は、模倣だった。見せられたのは、”わたしの最期”の模倣。)

 

(まるで、V3から ここに来てしまった わたしの代わりに死ぬように…。)

 

(最高に興奮する場面のはずなのに、わたしの胸は、なぜか ずっと嫌な音を響かせていた。)

 

 

 

第△章 絶望□жット完

第ю章に続く

 

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