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第☆章 少&よ、щ意を抱け(非)日常編Ⅰ

 

【東エリア 源家】

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のチャイムだ。昨日は待ちに待った裁判だったというのに、なんだかスッキリしない。)

 

(……”AI”と”幸運”が予想に反してスピード退場だったから…だよね。彼らには、まだ役割があったはずなのにーー…)

 

(ーーううん、予想に反して…が『ダンガンロンパ』の醍醐味だよ。その分、視聴者は楽しんでくれてるって、信じよう。)

 

 

(身支度を整えて外に出ると、声を掛けられた。)

 

「つむぎ、おはよう。」

 

「哀染君、おはよう。天海君は?」

 

「今朝は見ていないよ。ボクは早く目が覚めたから、散歩してたんだ。」

 

「そうなんだ。」

 

(哀染君は朝から爽やかな笑顔を見せた。昨日のことがなかったみたいに。)

 

(本心が見抜けないような笑顔も…アイドルの才能なのかな。)

 

(アイドルスマイルに融解しそうになりながら、2人で小学校の給食室に向かった。)

 

 

 

【小学校 給食室】

 

(給食室には、数名が集まっている。みんな努めて いつも通りを装っているけれど、取り繕っているのが丸分かりだった。)

 

「おはようございます。」

 

「お兄ちゃん、おはよう!」

 

(天海君が入ってくると、妹尾さんが彼の方に駆けていく。それに天海君は笑顔を返しているが、彼のそれは他の人たちと同じような取り繕った笑顔だった。)

 

(というか…昨日の事件後から天海君の顔色が とんでもなく悪いけど。やっぱり、ショックだったのかな。)

 

(そりゃ、そうだよね。高校生が人の死を目の当たりにしたんだもん。しかも、トラウマ級の。)

 

(そんなことを考えているとーー…)

 

 

『オマエラ、朝食後 グラウンドに集まってください!』

 

(モノクマのアナウンスにより、みんなは顔を硬らせた。緊張感の漂う朝食会を終え、給食室を後にした。)

 

 

 

【小学校 校庭】

 

「オマエラ、おはようございます。それでは、こちらの扉からネクストステージへどうぞ!」

 

(わたし達がグラウンドに足を踏み入れるなり、校庭の真ん中にいたモノクマが大声を上げた。)

 

(モノクマの隣には、まるで四次元ポケットから出されたようなピンクのドアが立っている。その扉の先には、緑が広がっていた。)

 

「おい、何だよ、それは!?」

 

「…ネクストステージって、どういうことっすか。」

 

「ネクストステージはネクストステージ。飽きられないために、舞台を変えようという粋な計らいだよ!」

 

「飽きるって?誰が?」

 

「誰でもいいだろー!社畜?公僕?無職?詳しいことは、ボクにも分かりませーん!!」

 

「誰かが見ているということですか?」

 

「うるさいなぁ。どうでもいいこと考えてないで、ボクに感謝なさいよ!」

 

「何で誘拐犯に感謝しなきゃならないんですか!!」

 

「えー、ボクはオマエラ全員が才能を発揮できるように気を遣ってるのに。だって冒険家とか言ってる人も、町中じゃ”ただの人”じゃん。」

 

「……。」

 

「才能も、世界によって役割が変わるからね。例えば、探偵小説で探偵は主人公だけど、怪盗が主人公の世界じゃ道化だよ。」

 

「もし舞台がアーカムだったりしたら、余計なことに首を突っ込む生け贄だよね!」

 

(まあ確かに…学園だと全員の才能の見せ場を作るのは難しいよね。)

 

「というわけで、ここから人気シリーズ23作目の舞台へどうぞ!」

 

「……モノクマ。あたし、自分の部屋から持って行きたいものがあるんだけど…。」

 

(モノクマが みんなをドアに押し込もうとした矢先、祝里さんが静かな声を発した。)

 

「ん?んー?ま、オマエラの寄宿舎には才能に合わせたものを用意したからね。いいよ。持って行きたいものがある人は、さっさと取って来てください!」

 

(その言葉と共に、数名が迷った様子で、その場を離れた。)

 

(わたしは既にポケットにペンとか色々入れて来たからいいかな。)

 

 

……

 

(暫くして、またグラウンドに全員が集まった。そして、わたし達はモノクマの丸い手に促されて、ドアを くぐった。)

 

(23作目の舞台に移動…か。ステージが変わるなんて、今までの『ダンガンロンパ』にはなかったけど。開放される教室とか島の代わりなのかな。)

 

 

【南エリア 山頂】

 

(ドアの先は、自然が広がっていた。どこかの山の山頂らしい。背の高い木々やツル植物が生い茂っている。)

 

(これが…23作目の舞台?23作目については、もはやタイトルロゴの記憶すらないんだけど…やっぱり、クローズドみたいだね。)

 

(空を閉じ込めるような柵。ここも、行けるところが あらかじめ決まっているのだろう。空と檻とのコントラストは才囚学園を思い出させた。)

 

「モノパッドにオマエラの”家”は記載してるからね。それでは、新たなステージを楽しんで!」

 

(戸惑う みんなを一瞥して、モノクマが立ち去る。)

 

「……とりあえず、山を降りましょう。」

 

(天海君を先頭に、全員が山道を歩く。途中、温泉や鉱山があるのを確認して、人里らしきエリアまで降りて来た。)

 

 

 

【南エリア 西牧場】

 

(モノパッドによると、このステージは北側に町、南側に牧場や山があるようだ。)

 

(ここは、どうやら町の最南…山に続く牧場らしい。牛舎らしき建物から牛の声が聞こえる。)

 

「電子パッドによると、ここが白銀さんの宿舎みたいっすね。」

 

「うん。そうだね。」

 

「では、みなさん、それぞれの宿舎に向かいましょうか。探索は その後にしましょう。」

 

(みんなモノパッドを見ながら散っていく。わたしは牛の声が響く建物を開けてみた。)

 

(中には、牛が数頭。どう見ても本物の牛ではない。機会的な動きと鳴き方をする丸いフォルムの牛たちは触るとフェルト生地のような柔らかさがあった。)

 

人形…?牧場に合わせて?)

 

(広大な敷地には、他にも建物がある。こじんまりとした一軒家。わたしは その中に入った。)

 

(部屋の中はシンプルで、作業ゲームの初期段階といった感じだった。カメラやモニターがなければ、普通の家だ。)

 

(さてと…一応、ステージ全体を確認しなきゃだね。)

 

 

 南エリアを見よう

 中央エリアを見よう

全部見たね

 

 

 

(マップの南エリアは、山、牧場、養鶏場、鍛冶屋などがある。とりあえず、牧場に近い鍛冶屋に向かった。)

 

 

 

【南エリア 鍛冶屋】

 

「白銀さん。」

 

「デカメガネ。テメーも調べに来たのか。」

 

「いや、掃除に来たのじゃないかね?」

 

(扉を開けると、天海君と郷田君、松井君に迎えられた。松井君は迎えるというよりは、忙しなく左手を動かす合間に声を掛けたという感じだったが。)

 

「わたしは調べに来たんだけど…。松井君は掃除?天海君と郷田君も?」

 

「ここがオレの宿舎なんだよ。」

 

「俺の宿舎は南東の牧場っす。白銀さんの宿舎の隣の隣っすね。」

 

「そっか。牛の鳴き声、結構すごいよね。寝られるかなぁ。」

 

「あの牛は人形で、音声は録音か何かみたいっすからね。夜は鳴かないんじゃないっすか?」

 

(そんな話をしながら、改めて室内を見渡す。炉や金床がある、いかにも鍛冶屋といった様子。玄関近くの廊下の奥に住居スペースらしき部屋があった。)

 

「よくゲームで見る鍛治工場って感じだね。あ、アクセサリーとか作れそうな道具もある。」

 

(小物入れには、革ヒモやビーズやデコレーション用品などの材料やグルーガン、鍛金の道具などが入っている。)

 

「ああ。だが、ここは鍵を掛ける。」

 

「えっ。」

 

「何だって?」

 

「ここは、色々 物騒なモン置いてあるからな。」

 

(確かに、鎌やら小刀やら、西洋風の剣やらも並んでいる。)

 

「でも、校則には、建物の封鎖を禁止するってあったよね。」

 

「その通りだ。鍛冶屋というだけあって、ここの汚れは酷い。建物を封鎖したら掃除もできないじゃないか。」

 

「ここは郷田君の宿舎っすから、封鎖じゃなくて戸締りになるんじゃないっすか?」

 

「ああ。モノクマの野郎にも確認した。ここはオレが鍵を掛けて管理する。」

 

「……そっか。うん、それがいいかもね。」

 

「クッ…。では、待ちたまえ。今 完璧に美しく掃除するから。」

 

「何なんだよ、テメーは…。」

 

(下唇を噛んだ松井君が2倍速で掃除し出した。みるみる内にピカピカになる器具、床、壁。)

 

(それらを眺めていると、天海君がアクセサリー類の材料を見ながら口を開いた。)

 

「白銀さんはアクセサリーも作れるんすね。」

 

「うん、一応ね。コスプレの小道具も自分で作ることが多いから。」

 

「俺も、実はアクセとか好きなんすよ。いつか白銀さんの作るアクセも見てみたいっすね。」

 

「うん、ぜひ。天海君は、もっとジャラジャラしてた方が天海君らしいよ。無駄に顔面偏差値と人気が高い検事みたいに。」

 

「……えーと…何すか、それ。」

 

(訝しげな顔をする天海君に慌てて「何でもない」と答えて、その場を後にした。)

 

 

 

【南エリア 養鶏場】

 

(鍛冶屋を出て、自分の宿舎の牧場の東隣の養鶏場の前を通ると、夕神音さんが家から出てくるところだった。)

 

「あら、白銀さん。白銀さんは、お隣さんよねぇ。よろしく。」

 

「うん。ここの向こうは、天海君の宿舎だったよね。」

 

「そうよ。ここは牧場に挟まれてるのねぇ。私と木野さんの宿舎なのだけれど、ニワトリの声で早起きできそうねぇ。」

 

(ニワトリ小屋には、たくさんのニワトリの人形が うごめいている。牛舎と同じく、ニワトリらしい声付きで。)

 

(ニワトリに目をやった わたしに、夕神音さんは右手の人差し指を唇に当てて笑いかけた。)

 

「白銀さん、牛の声が うるさいようなら、私に言ってね。子守唄、お見舞いするわぁ。」

 

「それは、わたしに…?それとも、牛の人形に?」

 

 

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(マップの中央エリアには、宿屋、果樹園、広場などがある。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋1階】

 

(宿屋の1階はレストランのようだった。食事は ここでしろってことらしい。カウンターの奥のドアはキッチンに続いている。)

 

(凶器の有無を確認するために、キッチンへのドアを開ける。と、「ひえっ」とお化けを見たような声が聞こえた。)

 

「し、しし白銀先パイ!?」

 

「前谷君、どうかした?そんな驚いて…。」

 

「いえ!!いえ、すみません!!女性と密室で2人きりという状態がっ!と、とりあえずキッチンの扉を開けときます!!」

 

「いや…思春期の学生じゃないんだから…。」

 

(あ、思春期の学生だった。)

 

「前谷君は、ここ調べてたんだね。」

 

(扉を開けることで、とりあえず落ち着いたらしい前谷君に向き直る。)

 

「はい!さっきのステージでも、キッチンには凶器がいっぱいでしたから!」

 

「このキッチンも、切れ味 良さそうな包丁とかナイフとか、いっぱいだね。…あ、これ…シュラスコ串?」

 

「白銀先パイ!南米料理、好きなんですか!?」

 

「えっ、えーと、シュラスコは知ってるんだ。前谷君は食べたことあるの?」

 

「……はいッ!自分は、ブラジリアン柔術家ですから!残念ながら南米に行ったことはありませんが、代わりに南米料理店の料理を食べ尽くしました!!」

 

「…そうなんだ。」

 

「ここは、夜時間は閉まるそうですから、しっかり晩ごはん食べなければなりませんね!」

 

(彼が指差した入り口の張り紙には、確かに『夜時間 封鎖します』とある。)

 

(さらに、その上には備品の数が書かれたチェックリストのボード、『備品は必ず20時間以内に戻すこと』という文言もあった。)

 

(凶器の持ち出し時間から犯人を特定しやすくするためのルール…ってところかな。)

 

「前谷君の宿舎は どこなの?」

 

「ここの2階です!!ですが、大きな問題があります!」

 

「も、問題?」

 

(鍵がなくてコロシアイ上、危ないとか?寝たら死にそうな仕掛けがあるとか?)

 

「実は…!自分の両隣は、山門先パイとローズ先パイなんです…!!」

 

「……。」

 

「1枚 壁を隔てた向こうに女性がいるなんて、しかも…挟まれてるなんて…!!自分は夜、眠れないかもしれません!!」

 

「……夕神音さんに子守唄を歌ってもらえばいいんじゃないかな?」

 

「夕神音先パイが枕元にいるなんて、それこそ死んでしまいます!!」

 

「……重症だね。」

 

(想像で死にそうになっている前谷君を残して、厨房を出た。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋2階】

 

「シロガネ。」

 

「白銀さん。」

 

(レストランから続く階段を登った先に、ローズさんと山門さんがいた。)

 

「ここの2階が宿屋になってるんだね。」

 

「そーデスネ。マエタニも一緒です!」

 

「前谷君、大丈夫でしょうか。」

 

「そうデスネ。死ぬそうでした。」

 

「ええ…死にそうでしたね。わたし達が隣だと知った瞬間、額に脂汗を浮かべ、目は泳ぎ血走り、呼吸は荒く、肩で息をしていましたから。」

 

「……それは、心配だね。色んな意味で。」

 

 

 

【中央エリア 広場】

 

(宿屋から すぐ東にある広場にやって来た。そこには、小柄な人影が2つ並んでいた。)

 

「白銀さん。」

 

「…白銀お姉ちゃん。」

 

「2人とも、ここを調べてるの?」

 

「…蘭太郎お兄ちゃんを探してるの。」

 

「あ、そうなんだ。南エリアにいるんじゃないかな?」

 

「…そっか。何で、お姉ちゃん知ってるの?」

 

「えっと…」

 

「天海さんの宿舎は南エリアだって言ってたね。」

 

「あ、そっか。じゃあ、行ってみるね。」

 

(妹尾さんは言うなり走り去って行った。)

 

「……妹尾さんは、独占欲が強いタイプだよね。」

 

「独占欲?」

 

「うん。しかも、『自分のものじゃないもの』にも執着するタイプだ。幼少期にオモチャを欲しいだけ与えられたのか…逆に全く与えられなかったのか…。」

 

「執着って…ただ、お兄さんキャラの天海君に甘えてるだけじゃないかな?」

 

「でも、甘える対象は独占欲の対象だよ。それに、その対象を奪う恐れがある人は排除しようとするかもしれない。」

 

「白銀さん、妹尾さんに殺されないように気を付けてね。」

 

(ニッコリ笑って、佐藤君は怖い言葉をくれた。そして、そのまま広場から出て行った。)

 

(殺されないように、か。確かに、地味な眼鏡は殺されやすそうだもんね。)

 

(でも、コロシアイで死ぬなら、本望だよね。文字通り命懸けで『ダンガンロンパ』を作ってるわけだし。)

 

 

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(北エリアも見ておこう。)

 

(北エリアには、図書館や道具屋、病院、教会などがあり、民家も並んでいる。)

 

(とりあえず…オープン-クローズドのステージ探索といえば、図書館。図書館から見てみようかな。)

 

(民家の間に ひっそり佇む小さな図書館前まで来た。周囲は山で見たツル植物が生えていて、繁盛しているとは とても言えない外観だった。)

 

 

 

【北エリア 図書館】

 

(図書館の扉を開ける。この図書館は2階建てらしい。窓からの光だけの室内は少し薄暗かった。)

 

「おやおや、まあまあ白銀サン。」

 

(図書館の2階の方から声がした。見ると、ぽぴぃ君が階段から降りて来るところだった。彼は手すりに手を掛けながら嬉しそうな顔で近付いて来た。)

 

「ボクの寄宿舎、この隣。隣の家と繋がる図書館2階。」

 

「そうなんだね。」

 

 

「白銀サン。キミはコスプレイヤーエンターテイナー。明日の昼のエンタメショー、一緒に出演しては、どうでショウ?」

 

「え?エンタメショー?」

 

「みんな落ち込み暗い雰囲気。みんなの心を、ボクは明るく照らしたいのさ〜。」

 

「えーと…みんなを元気付けるためにショーをするってこと?」

 

「そうそうそうそう、創造神と破壊神。アイドル・哀染クンと歌姫・夕神音サンにもオファー済み。他のみんなに宣伝済み。白銀サンも一肌脱いでプリーズ。」

 

「えっと…文字通り、一肌脱いでコスプレ披露…ってことだよね。でも、ごめん。コスプレ衣装もないし今のわたしには無理だよ。」

 

「オーウ、残念、無念。また来年。」

 

「あ、でも、鍛冶屋に道具や材料もあったし、何か作って みんなにプレゼント…くらいなら、できるかな?」

 

「いいねいいねー!ボクの大道芸、夕神音サンの歌、哀染クンのアイドルスマイルで、みんなニッコリ笑顔。プレゼント攻撃でハート、ガッチリ掴もう。」

 

「うん、明日までに間に合うかは分からないけど、探索が終わったら作り始めるよ。」

 

「ご尽力ありがとう、小笠原諸島!」

 

(ぽぴぃ君はクルクル回りながら、図書館を出て行った。わたしも図書館を出て、次の場所に向かった。)

 

 

 

【北エリア 病院】

 

「やあ、つむぎ。」

 

「……。」

 

(図書館から近い病院に、哀染君と木野さんがいた。医師のデスクらしき机の上で、木野さんは器具をガチャガチャいじりながら右手でペンを走らせている。)

 

「この病院の2階がボクの宿舎なんだ。」

 

「そっか。木野さんの宿舎は、わたしの隣だったよね?」

 

「……。」

 

「……あれ?木野さん?」

 

「………。」

 

「琴葉は、集中していると周りの音が聞こえなくなるタイプみたいだね。」

 

「なるほど。気持ちは分かるよ。わたしも、好きなことしてると時間 忘れるタイプだから。」

 

「でも、そろそろ夕飯の時間だね。」

 

「そうだね。木野さん、ご飯 行こうよ。宿屋のレストランで食べられるみたいだよ。」

 

「……。」

 

「…〆切前の作家やイラストレーター並みの集中力だね。」

 

「うーん、琴葉。失礼するよ。」

 

(言って、哀染君が木野さんの体を持ち上げる。小柄な体は難なくデスクから持ち上がった。)

 

「…!」

 

「気が付いた?ほら、ご飯に行こう。」

 

(爽やかな笑顔を向けられて、木野さんは呆然とした後、小さく頷いた。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋1階】

 

「郷田君、僕は端だと有難いんだがね。場所を交換してくれないかな?」

 

「あ?別に いいけどよ。おう、テメーらも来たか。」

 

(レストランの席に、ほぼ全員が座っていた。端の席に座る郷田君に松井君が席を交換するよう話しているところだったらしい。)

 

(郷田君が声を掛けたことで、みんなの視線が こちらに集まった。)

 

「うん。ボク達が最後だったかな?」

 

「……祝里さん、いない…。」

 

「祝里先パイ、ここに着いてから見ていませんが…!だ、大丈夫でしょうか!?」

 

「彼女の宿舎は図書館隣。隣の民家。音はしてたから、大丈夫。」

 

「おそらく、疲れているんでしょう。」

 

「ずっと顔、悪かったです。」

 

「顔色のこと?」

 

「チッ。夕飯の後、様子 見に行くぞ。」

 

「全員で?」

 

「あんまりゾロゾロ行くと、驚いちゃうんじゃないかしら?」

 

「あ、じゃあ、わたしが行くよ。」

 

(コロシアイ中の健康管理も、実は仕事のうちだもんね。『病気の人が健康じゃないこと』も含めて。)

 

「オレも行くぞ。デカメガネ。」

 

「俺も行きます。3人で行きましょう。」

 

「……。」

 

(なんか…睨まれてる気が…。)

 

 

「6時だよ!全員集合!…してないね?」

 

「うわっ!モノクマ…。」

 

「うぷぷぷぷ。新たなるステージ、いかが お過ごしでしょうか?」

 

「…何の用すか。」

 

「んもう。冷たいなぁ。良いものをプレゼントしてあげるって言うのに。」

 

「いいもの?」

 

「そうそう、とってもイイモノ!それは…ここでの特別ルール!しばらくの間、お出かけ時には”道具”の1つを携帯することを義務化しまーす!」

 

(そう言って、モノクマが机に並べたのは、クワ、カマ、ハンマー、ジョウロ、乳搾り器、釣竿、野菜の種などなど。)

 

「道具一式、オマエラの部屋に置いてきました。使わなくてもいいから、何か1つ必ず持ち運ぶこと。明日から開始。以上!」

 

(モノクマは言うだけ言って、去って行った。残された面々は困惑している様子だった。)

 

(凶器を持ち運ばせることで、衝動的な殺人を狙ってるのかな。)

 

 

 

【北エリア 民家】

 

(夕食を終えて、天海君たちと北エリアの民家に来た。扉をノックして呼び掛けると、祝里さんが出て来た。)

 

「らんたろー。つむぎ。つよし。どうかした?」

 

「夕飯に来なかったので。体調 悪いんすか?」

 

「ふざけんなよ。メシ喰わなきゃ悪化すんぞ!」

 

「そういうわけじゃないんだけど…さ。」

 

(無理もないよね。昨日、初めての裁判だったんだもん。)

 

「動きたくねーなら持ってきてやる。ちょっと待ってろ。」

 

「え!?い、いい!自分で食べに行くから!」

 

「うん。じゃあ、今から行こうよ。夜時間、キッチンは封鎖されるみたいだから、急いだ方がいいよ。」

 

(わたしは、祝里さんの手を掴んで進みながら、天海君たちを振り返った。)

 

「じゃあ、天海君、郷田君。わたし達は宿屋に行くよ。」

 

「じゃあ、俺もーー…」

 

「いいよ。天海君も顔色 悪いし。今日は休んだ方がいいと思うよ?」

 

「ああ。緑頭、テメーは目のクマがヤベェ。今日は もう寝ろ!」

 

「はあ…。」

 

(2人に「おやすみ」と告げて、レストランに戻った。)

 

 

 

【南エリア 鍛冶屋】

 

(レストランで祝里さんと話していたら9時 近くになっていた。キッチンにあったハーブティーが思いの外おいしかったせいだ。)

 

(明日のためのアクセ作りしなくちゃ。…アクセサリーのこと、すっかり忘れてたよ。)

 

(鍛冶屋をノックすると、鍵を開ける音と共に扉が開き、不機嫌そうな顔が現れた。)

 

「あ?デカメガネ。着物女はメシ食ったのか?」

 

「うん。食べてたよ。明日は朝食会にも来るって。郷田君、ちょっと ここでアクセサリー作ってもいいかな?」

 

「あ?」

 

「ほら、明日の昼食会で、ぽぴぃ君たちが催しするでしょ?わたしも何か作って、みんなにあげられないかなって。」

 

「……勝手にしろ。」

 

「うん、ありがとう。」

 

「ンなこと、本当にできんのか?」

 

「もちろん鍛冶はできないけど、道具と材料はあるから、ちょっと溶かして形を変えたりデコったりして、色々できるよ。」

 

「………何か手伝うか?」

 

「え?大丈夫だよ!郷田君は部屋で ゆっくりしてて!」

 

「終わったら声かけろ。送ってく。」

 

「え!?いい、いい!結構 時間かかると思うし!わたしの宿舎 近いし!」

 

「うるせー!!こんな状況なんだぞ!何かあったら どうすんだ!?」

 

(そう言って郷田君は奥の部屋に入って行った。)

 

(人を待たせるとなると…急いで作らなきゃいけないね…。)

 

(それから数時間、頑張ってみたけど、さすがに16人分のアクセサリーを作ることはできなさそうだ。)

 

(とりあえず、出来上がったものを手に、郷田君の部屋の扉を小さくノックする。返ってくるのは、静かな寝息だけだった。)

 

(なるべく音を立てないように、わたしは鍛冶屋の建物から出た。)

 

 

 

【南エリア】

 

(扉から出たところで、目の前に人影が見えて面喰らう。)

 

「え!?き、木野さん!どうしたの、こんな遅くに。」

 

「……病院にいたの。ここ、私の宿舎の帰り道。」

 

「病院って…哀染君の宿舎だよね。」

 

(病院から木野さんの宿舎までは、図書館近くを通って、この道を行く必要がある。)

 

「…そう。研究してた。」

 

「……そっか。夜中まで?」

 

(夜中に男女が1つ屋根の下…か。CEROに引っかかるようなことがなければいいけど。)

 

「…白銀さんこそ、何してたの。ここは…郷田さんの宿舎でしょ。」

 

「あ、わたしは郷田君に頼んでアクセサリー作りさせてもらってたんだよ。明日、みんなに渡そうと思って。」

 

(わたしが作ったアクセサリーを見せると、木野さんは納得したように頷いた。)

 

「……そう。」

 

 

 

【南エリア 牧場 白銀の個室】

 

(深夜の牧場は静まり返っている。牛舎の牛も夜は静かになるらしい。わたしは、手早く寝支度を整えて、ベッドの上に転がった。)

 

(新しい舞台。そこで展開されるコロシアイ。視聴者が思いっきり楽しめるものにしたい。)

 

(見ている人は、『ダンガンロンパ』を愛してくれているのだから…。)

 

 

…………

……

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(アナウンスで目を覚ます。遅くまで作業していたせいで寝足りないけど、慣れている。ベッドから起き上がったところで、続くモノクマの声が響き渡った。)

 

『オマエラ、モノパッドを ご確認ください!スペシャルなアップデートをしておきました!』

 

(…動機かな?新しくパッドが配られるんじゃなくて、モノパッドを更新するシステムなんだね。)

 

(テーブルの上に置いていたモノパッドを開く。そこには、写真ファイルが新たに追加されていた。写真は10枚。)

 

『V3』のキャラクター達の中で、わたしが笑っている写真だった。)

 

「何…これ。」

 

(最後の写真は、天海君と2人で写った写真。)

 

(……こんなの、『V3』でも撮ってなかったけど。)

 

(その途端、頭に記憶が流れ込んでくる。思い出しライトだ。慌てて目を閉じたものの、その光は わたしの脳に鮮明な記憶を上書きしてきた。)

 

 

(わたしのクラスメイト。赤松さんも。星君も。東条さんも。アンジーさんも。茶柱さんも。真宮寺君も。入間さんも。ゴン太君も。王馬君も。百田君も…)

 

(夢野さんも。春川さんも。キーボ君も。最原君も。)

 

(そして…天海君も、クラスメイトだった。そんな、記憶。普通に教室で笑い合っている記憶。楽しい、温かい、大好きなクラスだった…。)

 

(でも…みんなは…もういない。『ダンガンロンパ』のコロシアイで…わたしの、せいで。)

 

(そこまで考えて、慌てて首を振る。)

 

(ーー何、考えてるんだろ。みんなはフィクションキャラクターで、わたしはチームダンガンロンパのスタッフ。これは、記憶の植え付け。…ただの嘘。)

 

(何で?どうして『ダンガンロンパ』は、わたしに こんな記憶を…植え付けるの?)

 

(頭を振って、朝食をとるために宿屋に向かった。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋1階】

 

(宿屋のレストランには、既に全員 集まっていた。みんな動揺した様子で、何人かは顔色が悪い。)

 

「遅いぞ、白銀さん!遅刻なんて社会人の風上にも置けないよ。素敵な思い出に茫然自失だったの?”道具”携帯のルールも忘れたりしてない?大丈夫?」

 

(言って、真ん中に陣取るモノクマが笑った。)

 

(確かに、今朝は”道具”携帯のルールなんて忘れてたけど…昨日の夜、必要なものは着替えのポケットに捩じ込んでおいた。)

 

「……わたしは、今 学生だよ。それより、あの写真は…何?」

 

(わたしが”道具”のひとつである野菜の種を見せながらモノクマに語りかけると、モノクマは心底 楽しそうな声を出した。)

 

「うぷぷぷぷ。今回の動機だよ。」

 

「動機…。数日前にも言っていた…あの動機ですか?」

 

「ああ!?あれが動機だあ!?」

 

「そうそう。オマエラがモノパッドで思い出したのは、オマエラのクラスメイトの記憶だよ。この中にクラスメイトはいましたか?」

 

「はい!自分とクラスメイトだったのはーー…」

 

「…待って。どうして、クラスメイトが動機になるの?」

 

「うぷぷぷぷ。」

 

「そもそも、どうして僕たちは、その記憶を忘れていたのかね。」

 

「ぷぷぷ。」

 

「記憶を消して、また思い出させたってこと?」

 

「ぷ。」

 

「答える気ない。絶対。」

 

「ま、動機の意味は勝手に考えるんだね。えー、誰とクラスメイトなのか言ってはならない…なーんてルールは特にないので、存分に話し合ってね。」

 

(そんなことを言って、モノクマは立ち去った。)

 

(その後、全員で話し合ったけれど、やっぱり動機の意味も、記憶に関する謎も解けることはなかった。)

 

(そして、クラスメイトで記憶を擦り合わせることになった。それぞれ、ゆっくり話せる場所へ散っていく。)

 

 

「白銀さん、俺たちはキッチンで話しましょうか。」

 

「うん…。」

 

(厨房の中は昨日と変わらない様子だった。天海君が周囲を見回しながら言った。)

 

「昨日は厨房に入らなかったんすけど、結構 広いっすね。これなら料理するのも楽しそうっす。」

 

「…天海君は、料理上手だったもんね。スペック高すぎるラノベ主人公みたい。というか2か月に1度『お兄ちゃんの日』に妹と会える兄キャラみたい。」

 

(彼の視線とは異なる方を見ながら、あいづちを打つ。彼が こちらを向いたのを合図に、右手を頬に当てて『思い出を懐かしむ人』の顔を作った。)

 

「白銀さんも、料理 嫌いじゃないっすよね?」

 

「うーん、嫌いじゃないけど…わたしが作っても地味だからね。味も見た目も。」

 

「ネタになる失敗と言えば、歌の通りコロッケ作ったら付け合わせのキャベツ忘れた…くらいかな?」

 

「お弁当 作るより、お弁当箱 作る方が得意かもしれないよ。」

 

「そっちの方が凄くないすか?そういえば、弁当 持って、みんなで出かけたこともあったっすね。」

 

「…うん、楽しかったよね。」

 

「はい。俺、あまり学校へ行けてなかったっすけど、帰ったら何事もなく みんな受け入れてくれて。そういうイベントも気兼ねなく参加できたっす。」

 

「…そうだね。天海君、百田君、わたし、ゴン太君が鬼役で王馬君や真宮寺君に鬼退治された節分を思い出すよ。春川さんは中立の鬼だったよね。」

 

「……そんなことあったっすか?」

 

「……あ、ごめん。現実と妄想がごっちゃになってたよ。」

 

「…大丈夫っすか?なんだかボンヤリしてるみたいっすけど。」

 

「えっ…そんなこと、」

 

 

「2人とも、いいかな?」

 

(声がして振り返ると、キッチン入り口に哀染君、前谷君、妹尾さんが立っていた。先程この3人はクラスメイト同士だと言っていた。)

 

「何人か、体調が悪そうだから、お茶でも淹れようと思って。」

 

「あ、昨日 飲んだけど、このハーブティー美味しかったよ。わたし、淹れるね。」

 

(そう言って、わたしはフタの深い黒い茶筒に手を伸ばす。)

 

「あ、じ、自分も運ぶの手伝います!!……あれ?」

 

「どうしたの?」

 

(前谷君が右手を掲げて指を指した。その先にあるのは、並べて吊るされたシュラスコ串。)

 

「シュラスコ串、少なくなっていませんか?」

 

「え?そうだっけ?」

 

「…もう少し…あった気がするんですが……。誰かが持ち出したんでしょうか?」

 

「シュラスコ串って…この肉を刺す串っすよね?」

 

「えっ、この鋭いの!?じゃあ、誰かが凶器になるものを持ち出したってこと?」

 

「でも…ここの備品、20時間しか持ち出せないんだよね?入り口の貼り紙に書いてあるし…。」

 

「本当だ。あれ。…備品のチェックリストとシュラスコ串の数は同じようだよ。今の数で正しいみたいだ。」

 

「え!?あれ!?自分の記憶違いでしょうか!?すみません!!変なこと言いました!」

 

(大声を上げる前谷君に「謝らないで」と笑って見せて、ハーブティーと共にレストランへ戻った。)

 

(ハーブティーを飲んでいる間にキッチンから昼食の香りがしてきて、みんなで食事をとった。)

 

(昼食会で行うはずだった催しは、体調が悪い人がいたため、明日に延期された。)

 

「昼食会、ごめんなさいねぇ。私は少し部屋で休むわ。明日までに元気にならなくちゃねぇ。」

 

「あ、あたしも…先に部屋、戻るね。」

 

「僕も、今日は少し疲れたかな。」

 

「……さよならサンカク、また来てシカク。」

 

「それじゃあねぇ。」

 

(みんなが出て行く。心配げな様子の面々の中で、妹尾さんが呟いた。)

 

 

「松井お兄ちゃんは、夕神音お姉ちゃんが好きなんだね。」

 

「……は?」

 

「何デスか?コイバナか?コイバナが始まりマシタカ?」

 

「……急に何を言ってるんだね。」

 

「え?あ、ごめんなさい。松井お兄ちゃんがドキドキウズウズしてるの、見えちゃって。」

 

「えっと…そんな風には見えなかったけど…。」

 

「今まで通りでしたよね。」

 

「えー!?全然 違うのに!夕神音お姉ちゃんを見る視線がヌルヌルしてたもん!」

 

「ヌルヌル…は…していないはずだが。」

 

「ねえ、好きなんだよね?そうだよね?あたしには分かるんだよ!」

 

(妹尾さんが大声を放つと、松井君は唇に左手の指を押し当てながら口を開いた。)

 

「……参ったね。表に出さないようにしていたんだが。」

 

「え!?本当なんですか!?」

 

「まあね。僕はクラスメイトの夕神音さんが、いかに清らかで美しい人なのか思い出したのさ。」

 

「へえ、そうだったんだね。」

 

「おっと、けれど、今の関係を変えたいと願っているわけではない。彼女に交際を迫るつもりはないから、安心してくれたまえ。」

 

「交際を申し込むのは悪いことではないと思いますが…何にせよ、ここを出てからの方が良いでしょうね。」

 

(確かに。コロシアイの中でお付き合いってのはないか。まあ、極限状態の方が、人を好きになりやすそうなものだけど。)

 

「でも、さすがです!妹尾先パイ!」

 

「クラスメイトの記憶で見たよ。妹子は、人の恋心や相性の良いカップルを見つけるのが得意だったよね。」

 

「えへへー。そう、得意なんだ。哀染お兄ちゃんには、そうだなー…白銀お姉ちゃんがピッタリだよ!お顔も似てるし!」

 

「え。わたし…?」

 

「…ああ、そういえば。白銀さんと哀染君は どことなく顔立ちが似てるっすね。」

 

「ああ?色と背格好と目の形くらいだろ。」

 

「そこまで似てたら似てますね。」

 

「そう!2人は朝昼夜の相性、全部いいはずだよ!付き合っちゃいなよ!」

 

「そんな怪しい占い師みたいな…って、いやいや!哀染君に申し訳なさすぎるから!同担拒否のアイドルファンに刺される未来しかないから!」

 

「あはは。全力でフラれたね。」

 

「いや、そういうんじゃなくてね!?ほら、哀染君も誤解されたら困る相手がいるだろうしーー…」

 

(言いながら、ほぼ無意識に木野さんの顔色を確認していたらしい。わたしの視線を辿り、妹尾さんが右手の人差し指を口元に当てて首を傾げた。)

 

「えっ?木野お姉ちゃん?どうして?」

 

「……白銀さん、誤解してる。」

 

「…ああ、琴葉はボクの宿舎の1階で研究しているんだよ。病院がボクの宿舎だからね。」

 

「そう。ただの研究。…白銀さんだって、夜中まで郷田さんの家にいた。」

 

「ヒュウ、まさかのカップルたくさん誕生デスネ。」

 

「え!?白銀お姉ちゃん、郷田お兄ちゃんが好きなの?」

 

「あ?」

 

「鍛冶屋でアクセサリー作ってただけだよ。何でもフラグにするのは止めよう?まるでドラマ化して無駄に恋愛要素を入れてくるミステリーモノだよ。」

 

「大衆化させて高視聴率 狙うにしても原作あるならリスペクトすべきだよ。それが完全再現だし。恋愛要素 入れれば女性層を取り込めるなんて浅はかだよ。」

 

「良質なミステリーっていうものは、老若男女が楽しめるものなんだよ。というか、恋愛脳じゃない女性ミステリファンもいるっていうか…」

 

「『男主人公を好きになる女』を安易に用意するんじゃなくて…男性向けラブコメ展開と思いきや事件に深く関わってた!伏線だった!みたいなーー…」

 

「…白銀さん、落ち着いてください。」

 

「あ、ごめん…。」

 

(しまった。熱弁しすぎた。危うく2作目の1章や3章の”超高校級の保健委員”の話をするところだった…。)

 

「つまり…容易な用意はヨロシくない。恋愛脳クソくらえ!ということデスね!」

 

「えー、何でダメなの?生物の最終目的は子孫を残すことでしょ?恋愛は、この目的達成のための手段なのにー。」

 

「グッ…。」

 

(ゴフェル計画も、そんな設定だったけれども!わたしは画面の向こう側から見る専なんだよ…。ていうか、できればリア充に近付きたくないし。)

 

(いや”リアル”かは怪しいところだけど…!わたしも同じ次元にいる以上、間近のカップルはリア充と呼んでしまうというか…。)

 

(ゴフェル計画には明らかに不向きな『男嫌い』『精神幼女』『ロボット』のキャラ設定を見た上司の渋い顔が思い出された。)

 

「……。」

 

(そうだよ。『V3』の みんなを設定したのはわたし。やっぱり、クラスメイトだなんて記憶を植え付けられただけなんだよ。)

 

「……白銀さん。どうかしたんすか?」

 

「…何でもない。」

 

(それから暫く みんなで話した後、解散となった。)

 

 

「郷田君、これから鍛冶屋でアクセサリー作ってもいいかな?」

 

「好きにしろよ。」

 

「テメー、昨日 勝手に帰っただろ。今日は終わるまで見張っとく。」

 

「え。でも、まだ昼だし。」

 

「うるせー!全員分のモン作るなんて無茶して、ぶっ倒れねーか見張っとくんだよ!!」

 

「…郷田君のそれ、名前ないのかな。キレデレとか、プッツン心配症とか。」

 

 

 

【南エリア 牧場】

 

(部屋に戻って、ベッドに横たわる。見張られて焦った甲斐あって、夕飯後 日付が変わる前に全員分のアクセサリーを完成させられた。)

 

(そういえば…モノパッドの記憶で見た。”みんな”のアクセサリーを作ったこともあったっけ…。喜んでくれてたな。)

 

(……いやいや、違うってば。こんな記憶は嘘。わたし達に、そんな過去があるわけないんだから。)

 

(浮かんだ”クラスメイト”達の顔を頭の中から振り払い、わたしは固く目を閉じた。)

 

 

 

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