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第☆章 少&よ、щ意を抱け (非)日常編Ⅱ

 

(小さな音が聞こえて、目を開ける。ドアをノックする音だ。ドアを開けると、小柄な人影があった。)

 

「え、妹尾さん。何してるの?」

 

「………。」

 

「………風邪ひくよ。入って。」

 

(わたしが促すと、妹尾さんが静かに室内に入ってくる。緊張した様子を上手く隠しているけれど、彼女の目的は…明らかだ。)

 

(妹尾さんは携帯する道具を後ろ手に隠している。おそらく、鎌。これで、わたしを殺す。それが、彼女の目的なのだろう。)

 

(…即死するのが難しそうだし、かなり痛そうだけど、仕方ない。そこまで考えたところで、あることに思い当たった。)

 

(ーーあれ?大丈夫?わたし、2章っぽい被害者やれる?)

 

(その瞬間、鎌の切っ先が わたしに向かってきた。思わず、避けてしまった。その刃は壁に深く突き刺さる。)

 

「…ッ!」

 

「…せ、妹尾さん。」

 

(妹尾さんは壁に埋まった鎌を手に、焦った顔をしている。その姿を見て、もう1つの懸念が持ち上がる。)

 

(…え。大丈夫?この子、裁判が盛り上がるようなトリックとかアリバイとか、ちゃんと用意してる?)

 

(そんなことを考えながら その小さな手が握る鎌を眺めていると、妹尾さんが叫びを上げた。)

 

「お、お姉ちゃんが悪いんだよ!せっかく、哀染お兄ちゃんとラブラブにしてあげようと思ったのに…!!」

 

「…はい?」

 

「蘭太郎お兄ちゃんと白銀お姉ちゃん…なんて、認めない!お姉ちゃんなんか、死んじゃえばいいんだよ!」

 

「え…まさか、それが動機?」

 

「……。」

 

「天海君とはクラスメイトってだけなんだけど…。」

 

「嘘!白銀お姉ちゃん、蘭太郎お兄ちゃんにジロジロ色目、使ってるでしょ!」

 

(……思い込みが激しいタイプだ。そんな変な勘違いの動機で死ぬのは…だいぶ嫌なんだけど…。)

 

(ようやく妹尾さんは壁から鎌を引っこ抜いたらしく、また近付いて来る。その様子を、わたしは黙って観察した。)

 

「……どうして、逃げないの?」

 

「……。」

 

「妹尾さんは、その天海君が死んでもいいくらい、わたしを殺したいんだよね?」

 

「……え?」

 

「そこまで あなたが本気なら、わたしは死んでもいいよ。あなたが、みんなや天海君を犠牲にしても外に出たいって言うなら…。」

 

(だから、裁判を盛り上げるために”ちゃんと”殺してほしい。ここで釘を刺せば、妹尾さんも何か良いトリックを使ってくれるはず。)

 

(それに、わたしの今のセリフは、2章 被害者っぽくて良かったかもしれない。)

 

「何 言ってるの?蘭太郎お兄ちゃんは犠牲にしないよ…。」

 

「え?」

 

「あたしは…蘭太郎お兄ちゃんと、ここから出るんだから!」

 

「……えっと、あなたがクロになって、ここから出るなら…クロ以外、おしおきだよね?」

 

「えっ。」

 

「えっ。」

 

「……。」

 

「もしかして、前の事件の動機?でも、新しい動機を提示されたんだよ?シロから1人選んで出られるのは最初だけって言ってたよね?」

 

「……。」

 

(もしかして、忘れてた…?)

 

「お姉ちゃんのバカ!何で そんな意地悪言うの!?」

 

「い、いじわる…?」

 

(いわれのない罵倒を浴びせられた。浴びせた当人は泣きながら部屋を飛び出してしまった。)

 

(良かった…。あのまま殺されてたら、スピード解決でグダグダ裁判 間違いなしだもん。)

 

(ーー本当に、殺されなくて良かった。)

 

(額に浮かんだ汗を拭き、ひと息つく。まだ早朝だけど、完全に目が覚めた。)

 

 

(…ちょうど、モノクマと話しときたいと思ってたんだよね。呼んでも来ないとは思うけど…。)

 

「呼んだ〜?」

 

「うわあ!?ま、まだ呼んでないよ!」

 

「いやー、失礼失礼。白銀さんがボクに恋焦がれるオトメの顔してたもんだから。」

 

「そんな顔してないんだけど。…ていうか、やっぱり部屋の中も盗撮してるんだね…。」

 

「盗撮なんて人聞き悪いなぁ。公正な運営のための設備だよ!」

 

「…まあ、それも承知の上だけどね。それで、モノクマ。あの写真は何?」

 

「あの写真?」

 

「昨日の動機のこと!どうして、わたしにまで必要ない記憶を植え付けるの?」

 

「キミだけノケモノなんて、そんな可哀想なことできるわけないじゃないか!ボクは仲間外れはしない主義なんだ!ノケモノを作らないモノケモノなのさ。」

 

「せめて、動機の内容は前もって教えておいてよ!これじゃ、みんなと全く同じじゃない!」

 

「みんなと全く同じだよ。がんばってね!」

 

「……。」

 

「あと、前の動機のことなんだけど。」

 

「何かな?」

 

「前の事件…動機は ちゃんと働いてたの?」

 

「……。」

 

「永本君は、ちゃんと動機をキッカケに動いてたの?彼の目的は…あなたをクロにしてコロシアイを終わらせることだった。共犯者もいなかったんだよ?」

 

「うぷぷ。それについては、自分で考えることだね。共犯者がいたかどうか、オマエラちゃんと話し合ってないんだから。」

 

「それって、共犯者がいたってこと?いったい、誰がー…」

 

(わたしが言い終わらない内に、モノクマは消えていた。)

 

(裁判後、ずっと考えてた。前回の事件は…前回の動機が働いていたように思えなかったから。でも、本当は永本君に共犯者がいたとしたら、納得できる。)

 

(…ううん。『ダンガンロンパ』の動機は必ず殺しのきっかけになる。だから、前回のクロの犯行理由が “他の誰かと外に出る”じゃないと…おかしいんだよ。)

 

(きっと、みんなの中に、永本君の共犯者がいる。ぜひ その人には、今回も頑張ってもらわないとだね。)

 

(ボンヤリ考えていると、外が明るくなってきた。わたしは寝不足を吹き飛ばすように朝の準備を始めた。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋1階】

 

「シロガネ、おはようございます!」

 

「おはようございます。」

 

「おう。」

 

「おはようございますっす。」

 

「みんな、おはよう。」

 

「おはよう。つむぎ、お疲れ気味のようだけど、大丈夫?」

 

「大丈夫。…ちょっと眠れなくて。」

 

(レストランに集まる人たちと挨拶を交わす。その間に、次々とレストランに入って来た。)

 

「あ、夕神音さん、ぽぴぃ君。体調は もう良いんですか?」

 

「ええ。昨日いただいたハーブティーのおかげかしら。スッキリしたわぁ。」

 

「快調、怪鳥。生徒会長。」

 

「良かった。生徒会長か。わたしも黒髪赤目とウルトラロマンティックしてみたいなぁ。」

 

「白銀さん。何 言ってるか、また分かんねーっす。」

 

「祝里も大丈夫デス。顔まだ悪いデスが。」

 

「顔色…。」

 

「あ…うん。あたしも、ちょっと元気になったよ。」

 

 

「おい、ピンクチビがいねーぞ。」

 

「妹尾さんか。昨日は元気に、人の深部を ほじくり出してくれたのだがね。」

 

「深部って?」

 

「あ!松井先輩が夕神音先パイを愛しているって話ですね!!」

 

「あらぁ?」

 

「……いや、どうして君が言うんだ。」

 

「す、すみません!!つい!」

 

「嬉しいわぁ。松井君、私のファンでいてくれたのねぇ。」

 

「……。」

 

「ラブコメか?ラブコメが始まりマシタか?」

 

「えっと…妹尾さんの話だったよね。」

 

(…今朝、わたしを殺しに来て失敗してるから、この場に来られなくても無理もないんだけど。)

 

「……俺、妹尾さんの様子を見に行ってくるっす。」

 

「あ、蘭太郎クン、ボクもーー」

 

(哀染君が言いかけた時、)

 

 

「やあ、みんな。」

 

(モノクマが食卓にヒョッコリ顔を覗かせた。)

 

「何の用だ、テメー!」

 

「今朝方、思い出したことがあったからさ。オマエラに忠告に来たんだよ。」

 

「忠告?」

 

「うん。オマエラ、前回のクロに共犯者がいたかどうか、ちゃんと話し合ってなかったからさ。」

 

「気を付けてね。この中に共犯者がいたら、そいつに殺されちゃうかも?」

 

「え!?」

 

「きょ、共犯者って…!」

 

(それ、今朝わたしと話したことじゃない!モノクマめ…今朝まで忘れてたんだ?!)

 

「前回のクロ…永本君に共犯者がいたと言うつもりですか?」

 

「そんなバナナ!永本クンは共犯者がいるなんて言ってななな!」

 

「彼はコロシアイを終わらせるために頑張ってくれたのよねぇ。」

 

「共犯者いないでも、ナガモトにはラッキーなスーパーナチュラルありました。」

 

「そうだね。永本さんには…幸運の才能があった…。」

 

「圭クンに共犯者がいたとしても、それはコロシアイを終わらせるため…だったんじゃないかな。その人も、仲間には違いないよ。」

 

「……。」

 

「それは どうかな?実は、永本クンが語る動機は嘘でした!ってオチかもしれないよ?」

 

「そうやって、また僕たちを疑心暗鬼に陥らせたいんだね。」

 

「えー、違うよー?ボクはオマエラの身を心配してるのさ!ボクは今この町の町長!有権者を何より大切にする町長だからね!」

 

「選挙管理委員会にワイロという名のプレゼントするといいですよ。ルールは破るためにアリマス。」

 

(そもそも、わたし達には選挙権ないんだけどね…。)

 

 

「そういえば、僕らのルール…校則は破ったら、どうなるの?」

 

「処刑だよ。お見せした おしおきみたいに、愉快な処刑を無料で楽しめます。」

 

「じゃあ、キミがルールを破ったら?」

 

「ん?」

 

「キミは僕たちにコロシアイをさせてるんだから、嘘を言ってはいけない。この”コロシアイ”のシステム的に、そうでないとおかしいよね。」

 

「…そうだね。」

 

「じゃあ…キミが嘘を吐いて、それが発覚した場合、キミへの処罰も…もちろん、あるんだよね?」

 

「……。」

 

「えっと…佐藤君、どうしたの?」

 

「気になってたんだよね。永本さんはコロシアイを終わらせるために戦った。」

 

「でも…もし彼の計画が成功していたとしても、モノクマは事実を捻じ曲げることができるんだ。」

 

「参加者が命を懸けても運営者は不正ができる。それじゃ、フェアじゃない。フェアじゃないゲームなんて…見てる人からしたら、さぞ つまらないだろうね。」

 

「ぐぬぬぬぬ…。」

 

「やはり…見ている人がいるのでしょうか。」

 

「…………。」

 

「おい!誰なんだ、そいつは!!」

 

「………。」

 

「誰にせよ、確かに運営側が不正してもいいなら…つまらなくて飽きられるのが関の山っすね。」

 

「……。」

 

(モノクマは丸い手を体の前に出して悔しげに震わせながら黙っている。)

 

「……よかろう。」

 

(そして、呟いた後、高らかに言い放った。)

 

「ボクが嘘を吐いたり校則を破った時点で、コロシアイは即終了!オマエラは自由の身だよ!」

 

「自由の身?解放されるということかね?」

 

「本当ですか!」

 

「クマ、嘘 言わない。」

 

「ありがとう。これで心置きなく、粗探しができるよ。」

 

「この程度で勝ち誇らないでよね!ボクは今までだって嘘なんて吐いたことないんだ。まあ、イイマツガエルくらいはあったかもだけどさ!」

 

「ボクの嘘待ちしても無駄無駄無駄無駄ァ!ってね!」

 

(モノクマは「覚えてろよー!」と遠吠えて去って行った。)

 

 

「えーと…佐藤君。」

 

「これで、モノクマの嘘さえ暴けばコロシアイを終わらせられるね。」

 

(……基本的に、モノクマは嘘は吐かないはずだから…大丈夫、だよね?)

 

(思わず、『V3』の最初の裁判の情景が浮かんだ。けれど、すぐに振り払った。)

 

「す…すごいです!佐藤先輩!モノクマに一歩も引かず!」

 

「ひとまず、これでコロシアイを終わらせる道筋が見えたということだね。」

 

「良かったわねぇ。」

 

「愉快痛快。どうかい、みんな。早めに始めてみないかい、昼の会。」

 

「士気をキャラメル!デスネ!!」

 

「士気を高める…ですね。」

 

「そうだね。妹子を呼んで来るよ。」

 

「……私も行く。」

 

(扉近くに座っていた哀染君と木野さんが一緒に出て行く。そして、しばらくして、そのまま2人で戻って来た。)

 

「あれ、2人とも。妹尾さんは…。」

 

「少し気分が優れないようだよ。良くなったら昼食にも来ると言っていたけれど…。」

 

「会は…始めておいて欲しいって…。」

 

「残念ねぇ。」

 

「しかたないよ。」

 

 

「ではでは、始めましょう。エンタメショーで楽しみましょう。まずは、ボクの大道芸を ご覧あれ〜!」

 

(ぽぴぃ君が懐から取り出したのは、大道芸で よく見るカラフルな中国ゴマ。細いヒモの上でコマは安定した動きを見せている。)

 

(その上、彼はコマの上に木の棒を横置きにして、器用にもコマに続くヒモを操りながら木の両端に火を付けた。)

 

「すごい!!すごいです!!」

 

(最後に空高くコマと燃え盛る木の棒を投げた ぽぴぃ君は、それらを華麗にキャッチして、お辞儀した。)

 

「盲目の…ほぼ盲目の…30%くらい盲目の大道芸人!気配を頼りにやってるよ。どうぞヒイキにしてください。」

 

(その後、夕神音さんが美しい歌声を披露し、なぜか哀染君が その後ろでアップテンポのダンスを見せた。)

 

「2人はコラボレーションしたんだ…。」

 

「ええ。わたしの歌を聞くと泣く人が多いけど、哀染君は人を笑顔にするプロでしょう?相殺されるかと思ったのよねぇ。」

 

「バックダンサーの気持ちが分かったよ。手前の人より目立たない…これは、かなり難しいね。」

 

「目立たないことなんて めちゃくちゃ簡単なのに。」

 

「皆さん、ありがとう。二人の死闘。最後に、白銀さんからプレゼントがありますよ〜!」

 

「えっ、知らなかったな。」

 

「私たちも もらっていいのかしらぁ。」

 

「あ、もちろん。時間がなくて、たいした物は作れなかったんだけど…シルバーアクセなどを作ってみたから、もらってくれるかな?」

 

(わたしは、みんなにシルバーのアクセサリーを配る。ブローチにリングにブレスレット。それぞれのイメージに合わせたアクセを手渡した。)

 

「おお!スゴイです!シロガネ!ホメテツカワス!」

 

「お店の商品みたいだ。ありがとう。白銀さん。」

 

「全員分 作るなんて、大変だったろうに。」

 

「さすがは”超高校級のコスプレイヤー”ですね。」

 

「ああ。作るとこ見てたが、なんか凄ぇ手の動きだったな。」

 

「神業というヤツですね!!」

 

「ありがとう、つむぎ。」

 

「ありがとう…。」

 

「はい、天海君のはペンダントにしてみたんだけど、どうかな?」

 

(完全に『V3』で天海君がしていた物と同じデザインのペンダントを手渡す。それがないと、彼のキャラデザ的に落ち着かないから。)

 

「さすが白銀さんっすね。それにこれ…俺が好きなデザインっす。」

 

「あ…うん。記憶を思い出したから…好きそうなデザインにしてみたよ。」

 

「…ありがとうございます。」

 

(天海君は早速ペンダントを首に掛けて笑った。)

 

「喜んでくれて嬉しいよ。…妹尾さん、来なかったね。」

 

「そうっすね。俺、様子 見に行ってきます。」

 

「あ、蘭太郎クン。ボクも行くよ。」

 

「あ!自分も お供します!!妹尾先パイは大切なクラスメイトですから!!」

 

「おい、ヤロー3人で押しかける気か?」

 

「そうっすね。できれば、女性も一緒に来てくれた方がーー…」

 

(一瞬、天海君の視線が こちらを向いたけれど、慌てて目を逸らした。わたしは行かない方がいいだろうし。)

 

「じゃあ、私も行くわぁ。」

 

「ありがとう。」

 

(妹尾さんの宿舎に向かう面々を見送り、残った みんなも散り散りに探索に出かけた。)

 

(さて…と。わたしは何をしようかな。)

 

 

 町中を歩く

 山の方へ行く

全部見たね

 

 

 

【北エリア 図書館前】

 

(町中を歩いていると、図書館から出て来る佐藤君と目が合った。)

 

「あ、白銀さん。」

 

「佐藤君、図書館にいたの?」

 

「うん、木野さんと祝里さんも一緒だったんだ。」

 

「そっか。3人はクラスメイトだったよね。」

 

「そうだね。永本さんもね。」

 

「……そっか。」

 

「あ、ごめんね。前の事件を思い出させるようなこと言って。」

 

「ううん、それは気にしないで。佐藤君の方が辛いよね。あんな…。」

 

「……。」

 

「でも、今回の動機は有難かったかな。」

 

「え?」

 

「動機のおかげで、僕は自分の才能を思い出すことができたんだ。」

 

「え!?」

 

(才能不明が、もう才能を思い出しちゃったの?早くない!?)

 

「……どうかした?」

 

「え、いやっ…何でもないよ?それで、佐藤君の才能って…?」

 

「たいしたものじゃないけどね。“超高校級の犯罪心理学者”。犯罪心理について、学会で発表する程度の才能だよ。」

 

「そんな空を飛ぶ程度の能力みたいな…!十分すごいよ。」

 

(特に、『ダンガンロンパ』の世界ではチート級に。…でも、こんな序盤で才能を思い出すことってある?)

 

「じゃあ、白銀さん。僕は他を探索してくるよ。」

 

「うん、また後でね。」

 

(小柄な背中を見送って、目の前の扉を開けた。)

 

 

 

【北エリア 図書館】

 

「ここみ!戻ってーー…あ、つむぎ。」

 

(図書館内には、祝里さんと木野さんがいた。少し陽の光が弱い室内は薄暗かったけど、わたしを見て祝里さんが ぎこちなく笑うのが分かった。)

 

「2人とも、電気 付けたら?」

 

「…壊れてるみたいなんだ。」

 

(目を泳がせたように、木野さんが言う。確かに、電気のスイッチを押しても、明るくはならなかった。)

 

「電球 切れてるのかもね。本を読む時、不便だね。」

 

(モノクマに言っておこうかな。それとも…才囚学園4階の空き部屋みたいに、暗い方が都合がいいのか…。)

 

「つむぎ、さっきは ありがとね。」

 

「え?さっき?」

 

「素敵なプレゼントに、ちょっと勇気もらえたよ。」

 

「そんな風に喜んでくれたなら嬉しいよ。…それより、2人とも、顔が緊張してるけど。」

 

「…何でもないよ。」

 

「今、佐藤君と話したよ。彼、才能を思い出したんだよね。」

 

「えっ。」

 

「…そう…佐藤さんが言ったの?」

 

(2人は初耳だという顔をしている。)

 

(同じクラスメイトでも、思い出す記憶には個人差があるのかな?)

 

「あの、つむぎ…ここに入る前に、何か聞こえた?」

 

「何か?」

 

「あたし達の声…とか。」

 

「聞こえてないけど…。」

 

「……そっか。」

 

「図書館だから…壁に防音材とか…使ってるのかもしれない。」

 

「それなら叫び放題、歌い放題だね。」

 

「えっ…?図書館で?」

 

「あ、本当にはしないけど、ストレス溜まったりした時、思いっきり声出したくなることない?わたしは結構あるんだけど。」

 

「誰かから無理難題 押し付けられたり、理不尽な責任転嫁されたり、したくない接待でニコニコ笑顔 貼り付けすぎて、顔 戻らなかったりした時とか!」

 

「……。」

 

「……コスプレイヤーって大変なんだね。」

 

 

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(そういえば、あまり山側は見ていなかった。いくらコスプレも体力仕事とはいえ、山道を歩くのとは使う筋肉も体力も違うから、無意識に避けていた。)

 

 

【南エリア 泉】

 

(自分の宿舎から続く山道を歩いていくと、滝があり、泉になっている。ここは、初日に山頂から降りて来る時に通った。)

 

(泉のそばには温泉があるらしく、目隠しのための高垣から湯気が立ち昇っている。奥には竹林が続いている。)

 

(竹林。雪の季節なら竹のしなりを活かしたトリック…春なら竹の成長速度を活かしたトリック…)

 

(ーーは、さすがに無理か。『ダンガンロンパ』の事件頻度は”遅くても週1″だし。)

 

(温泉のさらに奥、隠れるような山に はめられたようなドアの先は、鉱山だ。ここも、初日に調べている。その前に立つ人影に、少し驚いた。)

 

「郷田君、何してるの?こんなところに1人で突っ立って…。」

 

「あ?見張りだよ。」

 

「見張り?鉱山の中に誰かいるの?」

 

「黄色女と中華娘だ。」

 

「えーと…夕神音さんとローズさんのこと?そろそろ、名前で呼ぼうよ。」

 

「うるせーな。まだ名前に自信ねーんだよ!」

 

「そっか…うん。まあ、焦らなくてもいいけど…。」

 

(どうせ人数は減っちゃうし、減った後なら覚えやすいだろうからね。)

 

「その、ユガミネとローズ…?が女2人で山に来るっつーから、ついて来ただけだ。」

 

「え、何で?」

 

「山道を女だけで歩くなんて危ねーだろうが!」

 

「そ、そうかな?じゃあ、何で鉱山には一緒に入らなかったの?」

 

「気ィ遣ったに決まってんだろ!こんなとこに来るっつーのは、2人で話したいことがあったってことだろうがよ。」

 

「そう?気遣いが明後日の方向 向いてないかな?」

 

(わたしが鉱山内に入ろうとすると、手を強く掴まれた。)

 

「馬鹿野郎!入るな!内緒話は こういうとこでするって相場が決まってるだろっ!?今、女2人は内緒話中だ!!」

 

(もの凄い剣幕で言われて固まっていると、山道から歩いて来る小柄な人影が見えた。)

 

「ぽぴぃ君。」

 

「あ、白銀サン。…と、郷田クン。」

 

「……おう。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「えっ、何、この空気。」

 

「いやいやいやいや何でもない。それではボクは、この辺で。」

 

(ぽぴぃ君は、そそくさと山道を降りて行った。気まずい雰囲気を醸し出す郷田君を見たところで、鉱山入り口の扉が開いた。)

 

(薄暗い鉱山内の ろうそくの明かりが風で動くのが見えた。)

 

「あらぁ。白銀さん。」

 

「ご用デスカ?」

 

「ううん、たまたま通りかかって。2人は鉱山に用事だったの?」

 

「いいえぇ。ヘビを見に来たのよぉ。」

 

「ヘビ?初日に ここ入った時、大きいヘビの人形があったよね。あれのこと?」

 

「他にも小さいヘビがチョロチョロしてマシタ!」

 

「そんな危ねえ所に入んじゃねー!!」

 

「ヘビ怖いデス?大丈夫!ただの動く人形デス!」

 

「うるせー!本物じゃなくても、オレはヘビが嫌いなんだよ!」

 

「毒ヘビ噛まれても怖いじゃない!すぐ吸い出します!人間バキュームのフタツナにかけて!」

 

「あまり格好良くない二つ名だね…。」

 

(郷田君の提案で、わたし達は全員で山道を降りることになった。)

 

 

 

【南エリア 森】

 

(山を降りて北に、わたしの寄宿舎の牧場。東は木々が鬱蒼とする森が広がっている。)

 

(森の中の一軒家は誰の寄宿舎でもない。そして施錠されていて入れそうになかった。)

 

「ここは入れないのねぇ。」

 

「あ、食料がありマスネ!」

 

(建物の傍に、キノコが自生しているのが見えた。なんというか…特徴的な見た目のキノコだ。)

 

「あんなん食ったら死ぬだろ。」

 

「うん。オレに触るとヤケドするぜ…ならぬ『オレを食べると死ぬぜ』って色してるよね。」

 

 

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【中央エリア 宿屋1階】

 

(辺りが暗くなり始めて、また みんな宿屋のレストランに集まった。天海君に連れて来られたらしく、妹尾さんの姿もある。)

 

「……。」

 

「よかった。妹尾さんも元気そうですね。」

 

「……うん。」

 

「どうしました?借りたネコみたいです。」

 

「色々あって、緊張状態が続いているからね。無理もないよ。」

 

「…昨日みんなで飲んだハーブティー、美味しかったよね。リラックスできたし。」

 

「あ、そうだね。祝里さん、手伝うよ。」

 

 

(祝里さんとキッチンに入る。祝里さんがキッチンの一点を見つめるのを確認して、呟いた。)

 

「これ…。」

 

「美味しいよね。いくらでも飲めちゃうよ。」

 

(わたしは目の前のハーブティーの茶筒を手に取った。祝里さんも笑って袖を まくった。)

 

(その彼女の左腕に、昼前に渡したブレスレットが飾られている。)

 

「あ、付けてくれてるんだね。」

 

「うん。つむぎの才能を証明してるみたいで、勇気をもらえるから。」

 

「勇気?さっきも、そう言ってくれたよね。」

 

「うん。あたしも、自分の才能を信じるよ。」

 

「……。」

 

「考えるのは、正直 苦手なんだけどさ。」

 

「そんな人も必要だよ?」

 

「え!?足手まといじゃない?」

 

「……必要だよ。」

 

(『ダンガンロンパ』には…ね。)

 

「……ありがとう、つむぎ。恩人である つむぎのためにも、元気が出る”おまじない”させてよ。」

 

「恩人なんて大げさだよ。おまじないって…一昨日 言ってた、午前2時にワラ人形に釘を打つってやつ?え、遠慮しとこうかな…。」

 

「違う違う。もっと、本当に、元気が出る”おまじない”があるから。」

 

「コロシアイは絶対、終わらせる。…あたし、頑張るから。」

 

(祝里さんは言って、視線を落として静かに笑った。わたしは、なんか死亡フラグっぽい。などと ぼんやり彼女を見返すだけだった。)

 

(その後、みんなで夕食を食べて、解散した。)

 

 

 

【南エリア 牧場】

 

(夜時間のアナウンスが終わり、寝る支度を始めた時、部屋の扉がノックされる音がした。ドアを開けると、案の定 小さなシルエットがあった。)

 

「妹尾さん。」

 

「……。」

 

(妹尾さんは俯いたまま、何も言わない。今度こそ、ちゃんと殺しの計画立てて来たならいいのだけど。)

 

「……。」

 

(黙ったままの妹尾さんを見つめていると、彼女は ゆっくり口を開いた。)

 

「何で…みんなに言わないの?」

 

「言わない?」

 

「あたしに殺されかけたって、どうして言わないの!?」

 

「……えーっと、言って欲しかったのかな?」

 

「違うよ!でもっ…!」

 

「……。」

 

「大丈夫だよ。妹尾さん。」

 

「!」

 

「妹尾さん、ちょっと焦っちゃってただけなんだよね?ここから天海君を出してあげたくて。」

 

「大丈夫。ゆっくり焦らず、脱出の方法を考えてくれればいいから。」

 

(それで、コロシアイが盛り上がる事件にしてね。)

 

「……。」

 

(また、モノパッドで見た記憶が脳裏に蘇った。それを振り払うように、大げさに手を叩いた。)

 

「あ、そうそう、妹尾さん。これ、もらってよ!」

 

「何、コレ。」

 

「今日の昼食会で、みんなに渡したんだ。鍛冶屋で作ったアクセサリーなんだけど…。」

 

「……。」

 

「妹尾さんのは、天海君とお揃いのペンダントにしたんだよ。ペンダントはヒモが少なかったから2つしか作ってなくてーー…」

 

「……。」

 

「えーと…妹尾さん?」

 

「…こんなの渡されたって!あたしは、お兄ちゃんとのこと認めたりしないんだからねっ!!」

 

(黙っていた妹尾さんが突然 叫び、走って行く。とんでもないところに彼女の妄想は向かっているらしい。)

 

 

(そういえば、わたし達の”クラスメイト”にも『そういう誤解』をされやすい人たちがいた。例えばーー…)

 

(途中まで考えて、頭を振る。胸から不快感が せり上がってくるのに必死で耐えた。)

 

(大丈夫。わたしは…チームダンガンロンパの一員。コロシアイを盛り上げるために、ここにいる。)

 

(動機の記憶になんて、左右されない。罪悪感なんて、感じない。みんなとの記憶は、全部 嘘なんだから。)

 

…………

……

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のチャイムだ。身支度を整えて宿屋に向かった。)

 

 

 

【中央エリア 宿屋1階】

 

(いつも通り宿屋のレストランに集まる面々と挨拶を交わす。みんなの様子は昨日と変わりないように見える。けれど…。)

 

「……。」

 

(わたしが昨日あげたペンダントを身につけた天海君。その首元から視線を移した顔色は、今までにも増して悪い。)

 

(しばらくして、宿屋のレストランに ほぼ全員が集まった。1人いない食卓を見渡し、郷田君が言った。)

 

「あ?なんか、少ねーな。」

 

「確かに、1人いないね。」

 

(郷田君の隣、食卓の端に陣取る松井君も頷いた。)

 

「何かあったか、どうかしたのか。」

 

「…みなさん、探しに行きましょう。」

 

「え?」

 

「どうした、急に。」

 

「全員で探せというのかい?昨日までもいない人はいたが、大丈夫だったじゃないか。」

 

「……とりあえず、俺は探しに行くっす。」

 

「あ、じゃあ、わたしも探してくるよ。」

 

「……。」

 

「わたしは北の方を見るから、天海君は南の方を お願い。」

 

「分かったっす。」

 

(天海君にも、予感めいたものがあったのかもしれない。足早に、彼はレストランを出て行った。彼の鬼気迫る様子に、みんなも動き出した。)

 

(前回の事件が終わって4日。そろそろ、次の死体が発見されるタイミングだ。)

 

 

 

【北エリア】

 

(”彼女”の寄宿舎である民家には人の気配がなかった。)

 

「いないみたいだね。」

 

「……図書館は?彼女は落ち着くって言ってた…。」

 

「ならば参ろう。本の虫。」

 

(図書館は目と鼻の先。わたし達は、すぐに図書館前に辿り着いた。)

 

「……鍵、掛かってる。」

 

「そうそうそうそうそうなんす?図書館の鍵はあるけど掛けてない。」

 

(ぽぴぃ君が図書館の扉を押す。けれど、扉は途中までしか開かなかった。)

 

「鍵が掛かってるっていうか…ドアチェーンがされてるね?」

 

「これはドアチェーンじゃなくてドアガード。」

 

「内側から掛かってるなら、誰かいるはずだよね。おーい、いますかー!」

 

(……返事がない。しかばねのようだ。)

 

「……おかしいなぁ。そんなはず…」

 

(ぽぴぃ君が、ドアガードで少ししか開かない扉から中を覗き込んで固まった。そして、「わあっ」と後ずさる。)

 

「え?どうしたの?」

 

「……。」

 

(ぽぴぃ君が離したドアを押さえて中を確認する。木野さんも少し慌てた様子で中を覗き見た。)

 

(その先にあったのはーー…やはり、あの血の色。)

 

 

『死体が発見されました!オマエラ、発見現場の図書館に集まってください!』

 

(モノクマのアナウンスが鳴り、わたしは改めて、またコロシアイが起こったことを実感する。)

 

「白銀先パイ!」

 

「何で外にいマシタか?死体はココ?」

 

「……うん。中からドアロック掛かってて、入れないんだよね。」

 

「任せてください!自分がドアを壊して…」

 

「待て!ワタシ、外からコレ開けられマス!アナタ達、ヒモありマス?」

 

「え?ヒモ?ないけど…。」

 

「ないないないない。ボクはナイ。」

 

「私も…ない。」

 

「じゃあ無理デス。マエタニ、壊すのがイイです。」

 

「は、はい!」

 

(前谷君がドアを こじ開ける。ドアガードなどなかったかのように、ドアは開け放された。)

 

 

 

【北エリア 図書館】

 

(図書館内は静かだった。昨日は本の香りが漂っていた場を支配するのは、血の匂いだけだった。)

 

(…良かった。)

 

(血の匂いの元となる その人物と、壁に打ち付けられたワラ人形が見えて、心底 安堵した。)

 

(今回も、ちゃんと“事件”になりそう。だ。)

 

(みんなが狼狽した声を上げる中、わたしは”彼女だったもの”を見つめ続けた。)

 

“超高校級の呪術師” 祝里 栞さんだった、その死体を。)

 

 

 

非日常編へ続く

 

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