第☆章 少&よ、щ意を抱け 学級裁判編Ⅰ
コトダマリスト
被害者は”超高校級の呪術師”祝里 栞。死体発見現場は北エリアの図書館1階。死亡推定時刻は、午前2時〜2時半頃。胸に鎌が刺さっている。その他の外傷は見られない。
死体は図書館2階への階段に向かってうつ伏せに倒れている。階段まで自ら這いずった跡があった。
被害者の胸に刺さった鎌。モノクマが”道具”携帯ルールを決めた時、全員に配られたもの。
発見現場である図書館1階の壁にワラ人形が釘で打ち付けられていた。ワラ人形には『祝里』と書かれた紙片も付いていた。
図書館1階の正面ドアは常に開けられているが、死体発見時にドアガードのみが掛けられていた。ドアガードはU字で鉄製。
図書館2階は芥子の宿舎に繋がっている。捜査時間、図書館側からはドアガードが、芥子の宿舎側からは鍵が掛けられていた。
図書館内は防音壁が使われているのか、外に音を通さない。
郷田の宿舎である鍛冶屋の柱にワラ人形が釘で打ち付けられていた。ワラ人形には『祝里』と書かれた紙片も付いていた。
佐藤によると、呪殺の条件は人の顔と名前を覚えてターゲットの名前の付いたワラ人形にクギを打ち付けること。
捜査時間、全員の”道具”は、欠け・重複なく揃っている。
モノクマによると、予備の着替えは10着になるように用意される。捜査時間、全員のクローゼットに10着の着替えがあった。
キッチンの備品はチェックリストで管理されている。チェックリストとキッチンにある備品は一致している。キッチンは夜時間封鎖される。備品の持ち出しは20時間まで。
首吊り防止のため、ステージ内は1ヶ所を除いてヒモが置かれていないらしい。
学級裁判 開廷
「では、学級裁判の簡単なルールを説明しましょう。」
(2回目の学級裁判。緊張した顔が並ぶ中に、前回クロの永本君と今回 被害者の祝里さんの白黒写真が追加されている。改めて見ると悪趣味に感じた。)
(ピンと張り詰めた空気の中で言葉を発したのは、やっぱり天海君だった。)
「事件について、まずは振り返っておきましょう。」
「…ええ。被害者は、”超高校級の呪術師” 祝里 栞さん。死体発見現場は、町の北エリアにある図書館でしたね。」
「第一発見者は、芥子とメガネ女2人だったな。」
「あと、ローズサンと前谷クンもいた。でも、現場に先回り、ボクと、白銀サンと、木野サン。発見したのは午前9時頃。」
「……うん。みんなで祝里さんを探してた時、図書館のドアの隙間から死体を見た…。その時、アナウンスが鳴った。」
「死体の胸には凶器が刺さっていた。出血の様子からして、図書館が現場で間違いないだろう。」
「図書室は内側からドアガードが掛かってたんだよね。」
「密室…ってこと?」
「そうだね。それと、現場には気になるものがあったよ。」
「ワラ人形に五寸釘が打ち付けられていたわねぇ。」
「皆さんっ!!!」
「何デスか!急に大声 出さないでください!」
「自分、犯人 分かっちゃったんですけど、どうしましょう!?」
(前谷君が捜査一課弐係みたいなことを言い出し、みんなが彼を見た。わたしはノンストップ議論の音楽を脳内で再生しながら、彼の声に耳を傾けた。)
ノンストップ議論1開始
「現場には五寸釘で打たれたワラ人形が残っていた。つまり、祝里先パイは恐ろしいことに…呪い殺されたんです!」
「呪い?鈍い?恐ろしく鈍いはカタツムリ。」
「何を言ってるんだね。呪い殺すなど…オカルト雑誌の読みすぎだろう。」
「でも!自分たちの才能について、モノクマは証明をしたんですよ!」
「才能があれば…呪い殺すことができた。そう おっしゃるんですか?」
「呪い殺す才能って…そんな人は…1人だけど。」
「犯人は、”超高校級の呪術師”である被害者本人…ってことかな?」
「そうです!祝里先パイは、本当に人を呪うことができた…そして…自分の胸に呪いで穴を開けたんですよ!」
「白銀先パイ!!自分にも分かるように教えていただけますか!!?」
(天性の大音声は他人の耳に厳しい…ということが分かった。)
△back
「それは違うっす。」
「確かに、祝里さんの呪いも含めて、モノクマは才能が絶対って言ってたけど、実際に祝里さんに刺さっていたのは…鎌だよ。」
「えっ…あ!!そ、そうですよね。」
「現場を見れば、一目瞭然だと思うがね。」
「すみません!!ワラ人形を見てワーッとなってしまいました!!」
「ううん、大丈夫だよ。たくさん可能性を出して、考えていこう。」
「ひゃ、ひゃい…!白銀先パイ!!」
(わたしが言うと、前谷君は両手で口を押さえて目を逸らした。)
(”間違えるキャラクター”は、推理モノで絶対 必要だからね。)
「おい、呪いで穴 開けるたぁ、どーゆーことだ?」
「被害者の…栞の才能だよ。午前2時に名前と顔を覚えてターゲットの人形にクギを打ち込むんだって。それで、人を呪い殺すことができた。」
「はあ!?呪い殺す!?」
「……佐藤君と木野さんは、祝里さんとクラスメイトだったっすね。」
「うん。クラスメイトの記憶でも、よく覚えてるよ。」
「……。」
「彼女は…依頼を受けて、たくさんの人を呪い殺した。」
「あらぁ、呪い殺すなんて…。」
「あり得ないだろう。」
「マユツバですね!ペッ!!」
「うん。まあ…信じられないだろうね。でも、彼女が依頼を受けて呪ったターゲット全員、死体で発見されてるんだ。胸に穴を開けてね。」
「祝里さんのターゲット…全員が亡くなったということですか。」
「……な、」
「現代の刑法で呪詛は不能犯で裁かれない。依頼者としては都合がいいよね。自分が手を汚すこともなく、罪にもならず、憎い相手が死ぬんだから。」
「…やっぱり、祝里先パイの力は本物だったんですね。」
「……本当なんすか。木野さん。」
「………うん。」
「ほ、本当に?祝里お姉ちゃんには、その力があったってこと?」
「すごいわねぇ。」
(裁判場が静まり返る。確かに、信じられないけど…フィクションだから、そんな設定もアリなのかもしれない。)
「でも少なくとも今回、祝里さんの呪いで…っていうのは考えられないよね。」
(これは基本リアルと同じ物理法則を前提にした推理ゲームだから、霊媒とか魔法は存在しない。)
(ーー真宮寺君や夢野さんが聞いたら怒るかもしれないけど…その辺は別のゲームに お任せしたいよね。)
「そうっすね。呪いの力が本当でも本当じゃなくても、今回の事件は呪いじゃないはずっす。」
「ええ。今回の件は…呪いに見せかけた殺人だったのではないでしょうか。」
「呪いに見せかけた殺人…?」
「祝里の胸、カマ刺さっていマシタ。呪い人形はフェイクですね!」
「誰かが祝里さんを鎌で刺して、その後あのワラ人形を飾ったってことかしら?」
「確かに確かに、現場には鎌だけあった。」
「それが犯人の”道具”だったら…分かりやすかったんだろうけどね。」
「祝里お姉ちゃんの持ち物は現場になかったけど…鎌がお姉ちゃんのじゃなかったら、犯人のってことだよね。」
「そうか。鎌が犯人の”道具”なら、犯人の”道具”は1つなくなってるんじゃねーか!?チビ2人で、それ調べてたろ!」
「……チビじゃない。」
「…捜査時間、みんなの部屋や祝里さんの部屋を見たよ。祝里さんの部屋に鎌がなかったから…現場の鎌は祝里さんのものだよ。」
「……私も…見た。」
「そ…そうですか。じゃあ、”道具”で犯人を特定することはできないんですね。」
「ホゥ。全員が容疑者で絞ることができないね。」
「……。」
「白銀さん。何かあるんすか?」
「えっと…。」
(『ダンガンロンパ』的に凶器が鎌じゃない可能性もあるけど、完全にメタ推理なんだよね。)
「現場を見た感じ、鎌が凶器で間違いないとは思うんだけど…どうしてモノクマファイルに死因が書いてなかったんだろうって思って。」
「……確かに、そうだね。」
「前回の事件でも…書いてなかった。」
「前回のモノクマファイルの書き方は、俺たちをミスリードするようなものだったっすね。」
「あの血の量から死因は失血死なのは間違いないだろうけど…白銀さんは凶器が他にあるのかもしれないって考えてるの?」
「えっと…そこまでではないんだけどね。ただ何でだろうってだけで。」
「確かに、前回のことも考えると…モノクマファイルについても考慮すべきですね。」
ノンストップ議論2開始
「どうして死因が書いてない?」
「前回みたいに、死因がクロに結びつくからじゃないかな?」
「でも、鎌の傷が死因じゃなかったら死因って何なんだろ?」
「凶器になりそうなものがあったのは、宿屋のキッチンか鍛冶屋でしょうか!?」
「……いや。今朝までに鍛冶屋からなくなったものはねぇ。」
「鍛冶屋の凶器は僕と郷田君で初日に確認したね。間違いないはずだ。」
「それなら、凶器はキッチンにあったのかしら?」
「白銀さん。あなたが言い出したことですよ?」
(普通に怒られるのが地味に1番こたえる…。)
△back
「それは違うっす。」
「キッチンの備品はチェックリストで管理されていたけど、なくなっていたものはなかったよ。」
「そう言ってたわねぇ。でも、チェックリスト書き換えられたりしないかしら?」
「チェックリストはボードに油性マジックで書かれていたから、書き換えることはできないよ。」
(便利アイテムがあれば書き換えもできないことはないけど…ここでは、そのアイテムを持ってる人いないか。)
「このステージで凶器になりそうなものがあったのは鍛冶屋とキッチンだけだったよね。」
「…前のステージから何か持ってきたヤツがいるかもしんねーだろ。」
「現場の状況から…鎌が凶器。」
「確かに、現場の状況的には そうっす。でも、モノクマファイルに死因が書かれていないことは覚えておいた方が良さそうっすね。」
「うん。そうだね。余計なこと言っちゃって、ごめんね?」
(完全なるメタ推理に他の人を巻き込むものじゃないよね。)
(わたしが頬に手を当てながら言うと、前谷君が「たくさんの可能性を うんぬん」と、わたしが さっき言ったセリフをリピートした。)
「凶器から犯人特定は無理っつーことか?」
「…他の手掛かりから考えてみましょう。」
「事件は夜時間。みんな寝ている夜時間。目撃者もいない時間。」
「……そういえば、栞は どうして図書館で死んでいたんだろう。」
「どういうこと?」
「そうっすね。現場は祝里さんの宿舎でなく、図書館でした。夜中に図書館に本を読みに行ったとも考えにくいっす。」
「そうだね。図書館は電球が切れていたから夜は真っ暗だったはずだし。犯人が呼んだのか、それとも…」
「図書館に呼び出しマシタならアナタしかいません!ポピィ・ケシ!」
「ぽぴぃ!?」
「あ、そっか。ぽぴぃさんの宿舎は図書館の隣の家で、図書館の2階と繋がっていたよね。」
「あらぁ、近くて便利ねぇ。それで図書館に呼び出したのかしら?」
「早い!近い!上手い!そんなことはナッシングのミスアンダースタンディング。」
ノンストップ議論3開始
「図書館の鍵を持っていたのも、ぽぴぃ君だったね。」
「でもでもでもでも、図書館は鍵 掛けてない。誰でも入れた、これ絶対。」
「1階の正面ドアは鍵が掛かっていなかったけれど、ドアガードは掛かっていたそうだね。」
「そう。1階から入って、正面扉のドアガードを掛け、図書館2階から自室に入って鍵を掛ける…。できるのは…ぽぴぃさんだけ。」
「ちょっと待ってよ。誤解はやめて。確かに、2階から自分の部屋の鍵 掛けられる。けれど、それじゃあ、あの密室 完成しない!」
「白銀サン、サンサンサン、太陽がサンサン!」
(腹いせに歌わないで!そういうことすると、JASRACに高いお金をーー…)
△back
「それに賛成っす。」
「ぽぴぃ君の宿舎の部屋と図書館の2階は繋がっていたけど、図書館側から正面ドアと同じドアガードも掛かっていたんだよ。」
「そうそうそうそう、相談料 無料。ボクが鍵を掛けても図書館側のドアガードは掛けられない。」
「た、確かに!!現場は密室なんでしたね!」
「じゃあ、誰も図書館に入らなかったってこと?」
「……誰もカンタンですよ?みんな図書館に入ラレます。」
「誰でも図書館に入れるって…どういうことですか?」
「部屋の外からドアガード掛けるカンタンです!」
(そういえば。ローズさん、死体発見の時に「開けられる」って言ってたね。)
「ローズ、話してくれるかな?」
ノンストップ議論4開始
「U字ロック?ドアガード?ドアバー?を外から掛けるデキマス。」
「呼び方は何でもいいですよ。ドアガードで統一した方が分かりやすいですか?」
「ドアガード。まず丈夫なヒモとテープ用意しマス。ヒモ付きテープ、ドアガードの先端 付けマス。」
「枠側のロック部品にヒモ巻きマス。後はドア閉めながらヒモ引きます!」
「それで、外からU字ロックが掛かる。現場の密室が作れるということだね。」
「ヒモを使えば誰でもカンタン!犯人はヒモを使って密室 作ったんデス!!」
「シロガネ、ワタシの説明じゃ分かりマセン?」
「…ううん、想像はついたよ。」
(わたしは見たことあるからね。分からない人は『ドアガード 外から 開け方』で検索検索!って感じかな。)
△back
「それは違うっす。」
「密室を作るトリックがあっても、ここでは密室を作ることはできなかったんだよ。」
「どゆこと?」
「安全対策とか言って、モノクマはこのステージにヒモを用意してなかったらしいんだよ。」
「自分の部屋にも、それらしきものはありませんでした!」
「キッチンにもなかったね。」
「……病院にも、なかった。」
「他の危ないものの方が、ヒモより先に完全対策を考えるべきなのにねぇ。」
「そもそも、コロシアイを強制しているのに…安全対策とは、どういうことでしょうか。」
(……ご都合主義…ということだろうね。)
「ボクもヒモは持ってない。図書館側から誰かが掛けた絶対。」
「本当に どこにもなかったのかなぁ?」
「モノクマは1ヶ所を除いてヒモはないって言っていたよ。どこかにはあったはずなんだ。誰か見た人はいないかな?」
「……白銀さん。初日にヒモを見たっすよね。」
(哀染君が促すと、なぜか天海君が こちらを見た。)
(確かに、このステージに来た初日にヒモを見た。あれは…)
1. 図書館
2. 鍛冶屋
3. 牧場
「……よくキミは心ここに在らずって感じっすけど…大丈夫っすか?」
「…マネキンのコスプレしてるだけだよ。前に赤松さんにしたらプニプニされたけど。」
「……何をっすか?」
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「鍛冶屋だよね。鍛冶場にアクセサリーの材料があったんだけど、その中に革のヒモがあったよ。」
「ホゥ。気が付かなかったな。」
「鍛冶屋は郷田君の宿舎だったわねぇ。」
「アクセサリー用のヒモだぁ?デカメガネが全部 使っちまったぞ。」
「……天海さんのペンダント、ヒモ使ってる…。」
「そうっすね。これは鍛冶屋で初日に見たものっす。」
「鍛冶場でアクセサリーを作っていた白銀さんなら、革ヒモを入手できたってことだよね。」
「えっ。」
「シロガネ、ヒモ使って密室作り、知っていマシタか?」
「えっ!?わたし、密室なんて作ってないよ!」
(作り方は、どっかで見たことあったけど…!)
「初日に僕らが掃除してた時は誰かがヒモを持ち出すことは難しかったはずだ。その後、ヒモを持ち出せたのは郷田君と白銀さんだけ…ということだね。」
「えっと…わたしは材料として使っただけなんだけど…。」
「…ああ。オレはデカメガネが作業してるのを見てた。デカメガネ女は、ほぼヒモ 使い切ってたぞ。」
(郷田君が こちらを見る。彼が わたしの作業を見てたのは2日目だけだったけど…それは推理のノイズにしかならないので黙っておこう。)
「材料として置いてあったヒモは少なかったからね。ペンダントも2つしか作れなくて…。残ったのは10cmくらいだったよ。」
「ソレナラ、無理デスネ!密室の作り方、ヒモ30cm必要デス!」
「だとすると…初日から鍛冶屋に出入りできた郷田さんが隠し持ってたか…。」
「ああ!?」
「えっと…少なくとも、初日に わたしが見た時と作業を始めた時…ヒモの長さとか変わってなかったよ。」
「どうして そんなこと覚えてるの?あなたも映像記憶があるの…?」
「わたしには映像記憶なんて大それたものないけど、クセなんだよね。アクセや衣装の材料の在庫確認しちゃうの。」
「それなら、初日に白銀さんが来るまでに郷田さんがヒモを確保していた…とかかな?」
「…何なんだ、テメー。オレは密室の作り方なんざ知らなかったぞ…。」
「待ちたまえ。郷田君が初めて鍛冶屋に入った時、僕は一緒だったのだよ。鍛冶屋という…掃除し甲斐ある宿舎が気になってね。」
「ああ。自分の宿舎にも行かず、くっついて来やがったから、気色悪かった。」
「郷田君も革ヒモを持ち出すタイミングはなかったということですね。」
「……。」
(隣の天海君を確認する。彼の胸には、今朝と変わらずシルバーペンダントがある。そのヒモ部分は渡した時のまま、鍛冶屋にあった工具用糊で接着されている。)
「…どうっすか。白銀さん。ヒモが使えた人…この中にいると思いますか?」
(天海君がペンダントをヒモとして使った形跡はない。他に…ヒモを使えた人はーー…)
▼ヒモが使えた人は?
「白銀さん。カウンセリングでもしておこうか?一応、臨床心理も学んだから。」
「……保険きくかな?」
△back
「えっと…妹尾さん。わたしが あげたペンダント…まだ持ってる?」
「……。」
「えっ、妹尾先パイですか?」
「わたしがペンダントをあげたのは、天海君と妹尾さん。天海君は今もペンダントをしてるし、わたしが作った時と同じで革ヒモは工具用糊で接着されてる。」
「ペンダントをヒモとして使って、またペンダントの形に戻すなら、鍛冶屋に行かなきゃいけないけど…だとしたら郷田君が気が付くはずだから。」
「……昨日は誰も来てねーぞ。」
「だから…今、ペンダントを持ってる天海君は、ペンダントをヒモとして使ってないってことだよ。」
(……まあ、『V2』で天海君がクロになることはないからって理由が大きいんだけど。)
「昨日、つむぎがプレゼントを配った時、妹子はいなかったよね。」
「うん。昨日の夜、わたしの宿舎に妹尾さんが来た時、渡したんだ。」
「……。」
「君も革ヒモを持っていたということかね?」
「……。」
「どうかな、どうかな?妹尾さんが、密室 作った?」
「どうなんですか!」
「そんなはずないですよ!ね、妹尾先パイ!?」
「……。」
(妹尾さんは黙って俯いている。)
(妹尾さんがクロなら、わたしを殺すのに失敗してターゲットを変えたことになる。昨日、わたしに会った数時間後 他の人を殺す…そんなこと、するかな?)
(ただでさえ、わたしに疑われやすい状況なのに。それに…妹尾さんが天海君を犠牲にしてでも外に出たいって感じはしなかった。)
「えっと…でも、さすがに…あげたペンダントが今ないってだけでは、疑えないかもしれないよね。」
(わたしが言うと、妹尾さんが頭を上げた。びっくりした顔で、こちらを見ている。)
「白銀さん…。あなたが、妹尾さんがヒモを用意できたって言った。」
「うん。それは、ごめん。妹尾さんがペンダントをしてないから確認したんだけど、よく考えたら妹尾さんがペンダントしない理由も検討つくんだよね。」
「あら、そうなの?」
(わたしが作ったのが気に食わないとか、たぶん そんなところだよね。)
「その理由は何なんすか?」
「えっと…」
(天海君に聞かれて、わたしは彼と妹尾さんを交互に見た。)
(わたしが妹尾さんに嫌われてる…なんて言ったら、もし本当に わたしが殺され時…真っ先に妹尾さんが疑われる。)
(それで学級裁判の最速記録を塗り替えることになったら…。)
「あたし…ペンダント、持ってるよ。」
(考えていると、妹尾さんが口を開いた。そして、服のポケットに手を突っ込み、その手を掲げる。そこには、わたしが作ったペンダントが握られていた。)
「持っていたんだね。接着部分に いじられた形跡もないし…ヒモとしては使われていないみたいだね。」
「うん。もらったけど…つけてなかっただけ。」
「きっと似合うと思うんですが、つけないんですか!?」
「……うん。蘭太郎お兄ちゃんとお揃いだし、大事にしようと思って。」
「……。」
「密室を作れる人は、とりあえず いなかった。そういうことなのかな。」
「ヒモがなくとも、ヒモ状のものが全くステージになかったとは考えられん。犯人が隠し持っていた線が濃厚だろう。」
「うん。前のステージから持ってきていた可能性も高いからね。」
「ヒモさえ隠し持っていれば、誰でも密室を作れたことになりますね。」
「ヒモから犯人特定。不可能確定。」
(ここまで来ても、犯人を絞れない…か。他の遺留品は どうだっけ?)
(そう考えた時、隣から声がした。)
「…ヒモよりも、出所が分からないものが現場にあるっす。」
「……何だよ。それは。」
「……白銀さん。」
(なぜか、彼は言葉を続けないで わたしを見た。「ここまで言えば分かるわね?」を思い出した。)
(遺留品の内、出所が不明なのは…。)
1. ワラ人形
2. クギ
3. 着物
「つむぎ、それは栞の持ち物だって話したよね。また忘れちゃったかな?」
(モノクマのせいで、わたしが忘れん坊キャラみたいに思われてるじゃないっ…!)
△back
「天海君が言ってるのは…ワラ人形に刺さってたクギだよね。」
「ええ。クギなんて、どこにあったんすかね?」
「そうですね…。どこにクギがあったのか…。そこから、犯人を割り出せるかもしれません。」
「モノクマは、ワラ人形は彼女の私物だというような言い方をしていたよね。クギも栞が前のステージから持ち込んだというのは…どうかな?」
「前のステージで祝里さんと話した…けど…五寸釘はないって言ってた…。」
「事件前にクギが1番ありそうな所、やっぱり鍛冶屋…じゃないかしら。」
「このステージにはナイナイ。家具からクギを引き抜く道具。」
「しかし、初日には鍛冶屋に あんなに大きなクギはなかったはずだ。」
「そうっすね。俺も見覚えがないっす。」
「わたしがアクセ作った時もなかったけど…例えば、誰かが鍛冶屋でクギを作った…とか?」
「…そんなこと、できるヤツいんのかよ。」
「クギが作られたのかどうかは置いておいて…少なくとも、鍛冶屋には気になるものがあったっすよね。」
「確かに確かに。あからさまに気になる木。」
(うん、確かに。あれは、あからさまだったよね。)
1.【鎌】
「気になる?それがかい?それより、床や壁が汚れている方が気にならないかい?」
(気になるものも人それぞれ。キャラ付けの時の参考にしよう。)
△back
「鍛冶屋の作業場にも、図書館と同じようにワラ人形がクギで壁に打ち付けられてたよね。」
「あったね。あのクギも、ギンギンに長くて太くて硬かったよね。」
「異様な光景だったね。現場と同じように壁に打ち付けられて…。」
「うん。しかも…『祝里』って名前の紙と一緒に。」
「祝里にウラミありマシタ?」
「祝里さんを呪いたいという気持ちが伝わってくるわねぇ。」
「祝里お姉ちゃんに、恨みがある人…それが犯人ってこと?」
「けれど…鍛冶屋にあったというのは…どういうことでしょうか。」
「白銀さん。どうっすか。状況的に鍛冶屋の壁にワラ人形を打ち付けられるのは1人っす。」
「……。」
▼鍛冶屋でワラ人形にクギを打ったのは?
「答える姿はカッケー!その答えはコッケー!」
「こ、滑稽…。初めて言われたよ。」
△back
「鍛冶屋のワラ人形は…郷田君、あなたが打ち付けたものじゃないかな?」
「……。」
「郷田君は自分の宿舎である鍛冶屋に鍵を掛けていたはずっす。」
「…郷田くん以外、許可なく立ち入ることはできませんでしたね。」
「他のヒトできマセン!」
「もし毅君に許可を取って鍛冶屋に入った人がいても、クギを打つなんて音が凄そうだからね。すぐ気付かれるはずだよ。」
「……。」
「でも、白銀お姉ちゃんは…鍛冶屋で作業してたんだよね?」
「え。」
「作業の音で聞こえなかったりしないかな?」
「鍛冶屋にクギがあったとして、白銀さんも持ち出すことはできたということか。」
「えーと…わたしが鍛冶屋に入り浸ってたのはプレゼント作るためだったから、昨日の夜はいなかったよ。」
「一昨日わたしが そんなことしたら、昨日 郷田君が気付くはずだよね?」
「……ああ。さっきも言ったが、デカメガネ女が鍛冶場を使った時、オレは ずっと見てた。」
「つーか……。」
「あのクギと人形は、オレが…祝里から借りたんだよ。」
「え!?」
「…キミが、あの人形にクギを打ち込んだの?」
「ああ。」
「どうして、そんなことを?」
「そんなに、祝里お姉ちゃんを嫌いだったの?」
「……違う。」
「じゃあ、どうしてデス?」
「……。」
「郷田君、話してくれねーすか。」
「……ああ。」
「……郷田さんさ。今朝から、祝里さんのことは、ちゃんと名前で呼んでたよね。」
「……さすがに…クギ打つ間、ずっと唱えてたから、覚えたな。」
「ずっと唱えてた?」
「あたしは、人の顔と名前を覚えて、その人が元気になる”おまじない”をするの。風水とか気休めみたいなものだよ。」
「そっか。どうやって、おまじないするの?」
「午前2時に名前を書いた紙とワラ人形に五寸釘を打ち付けるんだよ。」
(まさか…。)
(1つ可能性が浮かんで、ためらった。普通ならあり得ない。けれど、強引な展開こそフィクションの醍醐味だと、わたしは誰より知っている。)
(郷田君の目的はーー…)
1. 祝里を元気づけること
2. 祝里を呪い殺すこと
3. 祝里を改宗させること
「白銀さん。みんなを混乱させるのは、良くないわぁ。突然 みんなを眠らせるくらい。」
「それ…前回、あなたが やったことだよね?」
△back
「まさか…郷田君、祝里さんを元気づけるため…とかじゃ、ないよね?」
「……悪いかよ。」
「……。」
「え?どういうこと?」
「元気づけるために、ワラ人形ですか!?」
「ここ、不思議の国デス。」
「丑の刻参り…呪いの儀式で元気づけるというのは、どういうことですか?」
「……チッ。」
「”元気になるおまじない”について、わたし、祝里さんに聞いていたんだ。郷田君も知っていたとしら…それを実行した可能性もあるよ。」
(フィクションじゃなかったら考えられない…というかフィクションでも強引すぎる気がするけど。)
「どうっすか、郷田君。」
「……ああ。」
「あいつは ここ来てから、ずっと しょぼくれてやがったからな。」
「あいつからワラ人形とクギを借りて、”おまじない”っつーヤツの方法 聞いて…オレがやった。」
「どうして栞だったの?昨日の時点で、栞は食事会にも来ていたし、他にも心配な人がいたと思うけど。」
「あ?どう見たって、祝里が…あいつが この中で1番 元気なかったろ?」
「はて?そうだったかな?」
「気付かなかったわぁ。」
「鈍いヤツらだな。とにかく、無理してるヤツ、分かってんだからな。…メガネ女。」
「え、わたし?」
「違ぇ。チビの方だ。」
「……チビじゃない。」
「せめて、呼び分けてくれるかな?」
「メガネチビ女、テメー明らかに寝不足だ。ぶっ倒れるぞ。」
「……。」
「琴葉は、毎日 遅くまで研究していたからね。昨日も、日付変わっても宿舎に帰らなかったし。」
「テメー!チャラ男!分かってたんなら止めやがれ!!」
「ごめんね。止めたかったんだけど、止められなかったんだ。」
「……哀染さんは悪くない。…そんなことより…裁判を続けよう。」
「そうです。睡眠の心配、今いらない。間違えたら永眠シマス。」
「そうっすね。とりあえず、今は犯人探しを優先しましょう。」
「テメーもだぞ。フワフワ緑頭。」
「え?」
「テメーも、ぶっ倒れそうな顔してんじゃねーよ。」
「……俺の心配なんてしなくていいっすよ。」
(郷田君の一言に天海君は少し動揺を見せた。けれど、彼は すぐに口を引き結んで、みんなに言った。)
「とにかく、今はクロを探しましょう。」
「結局、郷田お兄ちゃんが祝里お姉ちゃんのワラ人形をメチャクチャにしたの、恨みがあったからじゃないんだよね?」
「どうだかね。恨みを込めてワラ人形を打ち、図書館へ行って祝里さんを殺し、密室も作ったのかもしれない。」
「違ぇよ!!オレは図書館になんざ行ってねー!!……ただ、」
「…ただ?」
「オレは…あいつを殺しちまったのかもしれねー。」
「えっ…。」
「どういうことですか?」
「……オレは…祝里が言った通り、名前を書いたワラ人形にクギを打ち付けたんだ。あいつの才能は…呪殺、だったんだろ。」
「……今回の事件は、郷田さんが祝里さんを呪い殺したから起こった…そう言いたいの?」
「……被害者の胸には、鎌が刺さってたんすよ?」
「それも呪いの内かもしんねーだろ!」
「呪いの内…。けど、毅クンにも人を呪い殺すような才能があるのかな?」
「ねーよ。あるわけねー…。けど…あの人形とクギは…祝里にもらったモンなんだ。」
「……祝里さんのワラ人形に、その力があったのかも。」
「……。」
「まさか…本当に……呪いで?」
「そんな馬鹿な。」
「ありえマセン。」
「佐藤君、木野さん。クラスメイトの記憶では、どうでしたか?祝里さんの呪い…他の人が扱えるなんてことがあるんすか?」
「……どうだったかな。それができるなら、依頼なんか受けなくても、道具を売るだけでいい気がするけど。」
「……私は聞いたこと…ある。たくさん念を込めた人形なら…できるかもしれないって。」
「…そうっすか。」
「え?本当に?きっちりマジマジ考えた上で、呪いだったってこと?」
「……ああ。オレが、あいつを殺しちまったんだ。」
「……。」
(いや、ちょっと待って!?いくら才能が絶対でも、トリックが超常現象なんて『ダンガンロンパ』ではあり得ない!)
(そもそも、こんなスピード解決は困るの!)
「祝里さんは『コロシアイを止める』って言ってたよ?そんな人が、コロシアイを起こさせるようなアイテムを人に渡すかな?」
「うるせぇ!オレがやったんだ!!」
(……!思い込みが激しいタイプだ!!)
反論ショーダウン 開幕
「オレは、あいつが無理してるのを知ってた!」
「前の裁判が終わってから、ずっとだ!」
「だから、あいつに問い詰めたんだよ!テメーを元気にする方法はねーのかって!」
「それで、あいつからもらったんだ!呪いのための人形を!」
「祝里さんが自分が呪われると分かってたなら、ワラ人形なんて余計 渡さないよね?」
「いいや、きっと、あいつは諦めたんだ!」
「オレに呪い殺されることが、祝里の目的だったんだよ!」
「オレが、あいつを呪い殺しちまったんだ!」
「テメー…眼鏡 腐ってんじゃねーか?カチ割って新しくされたくなけりゃ、もう少しマシなこと言え。」
(…カチ割るくだりは、親切心で言ってるって信じよう。)
△back
「郷田君、呪殺の条件は知ってる?」
「あ!?ンなもん、人形に釘 打ち込むことだろ!」
「それは違うよ。琴葉、ここみ。”おまじない”には名前と顔を覚えることが必要…なんだよね?」
「そうだね。祝里さんは そう言っていたよ。」
「……うん。」
「はあ!?顔もか!?」
「その様子、知らなかったのねぇ。」
「郷田君は人の名前や顔を覚えるのが苦手だって言ってたっすね。今朝から祝里さんの名前は呼んでいたっすが…顔は どうっすか?」
「ゴウダ。顔、覚えていマスカ?」
「………。」
「……チッ。覚えてねーよ。顔なんざ。」
「郷田さんってさ、もしかして…人の顔 全体を認識できなかったりしない?」
「……。」
「みんなの部屋の道具を確認してる時、郷田さんの部屋でメモを見つけたんだ。これ。」
「…テメー!勝手に何を…!」
(佐藤君がメモを掲げて見せた。そこには、みんなの名前と身体的な特徴、髪の色などが書かれている。)
「えっと…それって?」
「郷田クン…。覚えようとしていたんだね。」
「どういうこと?」
「それはーー…」
「芥子。」
「……。」
「…顔のパーツは見えているのに、顔全体の様相や表情を知覚できない病気があるんだ。100人に1人はいる病気だから、そんなに珍しくないよ。」
「幼児に人を描かせて、目や鼻は描けるのに顔の配置がバラバラって経験はない?」
「年齢を重ねて脳が発達するうち、描き慣れるうちに安定して顔を描けるようになるんだけど…」
「いつまでも顔のパーツの配置を正しく描けない子供もいる。そういう子は、先天的に病気の疑いがあるよ。」
「幼児と触れ合う機会がある人が、そもそも少ないと思うがね。」
「サトウは子持ちシシャモみたいデスネ。」
「ローズさん、シシャモはいらないと思いますよ。」
「……確か、相ぼう失認…だっけ?」
「うん。白銀さん、詳しいんだね。」
(ミステリモノのフィクションでは、割とよく出てくるからね。)
「そうなんですか!郷田先輩!!」
「……。」
「どうなの、ぽぴぃさん。」
「えぇと…」
「……やめろ、他まで巻き込むな。」
「そうだ。オレは その何とかっつー病気だ。テメーらの顔の区別は大して付かねー。」
「うぷぷ。1人の人間が描いた登場人物の顔なんて、実は大して区別がないんだけどねー。」
「……。」
「だから郷田君は失礼な呼び方してたのねぇ。」
「……悪かったな。黄色女。」
「全員が違う服装で良かったね。みんな同じ制服だったりしたら大変だったろう。」
「うるせーな。そん時ゃそん時だ。」
(うーん、名前は覚えられるはずなんだけど…顔が分からないと、やっぱり名前も覚えにくいものなのかな…。)
「毅クンが鍛冶屋でワラ人形を打ったから、栞が死んだ…ということではなさそうだね。」
「そうっすね。呪い殺すという点で、郷田君にはできなかったはずっす。」
「まあ、他の殺し方ならできるわけだが…。」
「それは、みんな同じだよね。」
「フリダシに戻りマス。」
「ど…どうしよう。こんなので犯人…見つけられるのかな。」
「……。」
(みんなの焦りが伝わってくる。それもそのはず。結局、全然 議論が進んでないから。密室の作り方や遺留品、凶器についても話したのに、犯人が絞れない。)
(これは…まずいね。『ダンガンロンパ』的には、やっぱり正しいクロを指摘させて、コロシアイを続けておきたいところなのに。)
(チラリとモノクマに目をやったけれど、当然、わたしの行動指針を示してくれることはなく、いつものニヤニヤ顔で笑うだけだった。)
学級裁判 中断