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第☆章 少&よ、щ意を抱け 学級裁判編Ⅱ

 

学級裁判 再開

 

(議論が止まり、裁判場内が静寂に包まれている。)

 

(みんな必死に話し合いの材料を探している様子だった。そして、一部の人は”あること”に気付いて絶望の表情を浮かべている。)

 

(ーーそう。現場にあった遺留品。凶器。密室。これまでの議論で、既に全て話し合ってきた。それなのに、犯人が絞れない。そんな絶望感なのだろう。)

 

(でも、わたしには分かる。まだ話し合われていない内容が。)

 

「……あのさ。」

 

(ためらいつつも口を開くと、全員の視線が一気に集まった。)

 

「何か気付いたことでもあるんすか?」

 

「……えっと、動機から考えてみるのは…どうかな?」

 

「動機?」

 

「動機とは…電子パッドに現れた写真に関する記憶ですか?」

 

クラスメイトの記憶ですネ!」

 

「うん。あの”クラスメイト”が動機だったよね。それで殺しが起こるとは思えないけど…モノクマが提示した以上、何か理由があるはずだよ。」

 

「……そうっすね。」

 

「ホゥ。確かに。強い愛憎の記憶を蘇らせた可能性も大いにあるよ。」

 

「松井お兄ちゃんみたいに?」

 

「黙りたまえ。」

 

(そう。直接的に働かなくても、動機は殺人事件に関わってくる。どんな動機でも、必ず意味を持つ。『V3』でも、そうだった。)

 

(赤松さんが動いたのは、タイムリミットの動機によって。真宮寺君が2人 殺害したのは、死者の書でアンジーさんが動いたことが きっかけだった。)

 

(我ながら絶妙なーー…)

 

「……?」

 

「つむぎ?」

 

「な、何でもないよ。」

 

(『V3』の動機って…わたしが設定したんだっけ?そんな記憶も薄れてきてる…?)

 

 

「動機のクラスメイト。わたし以外 みなさん、この中にクラスメイトがいらっしゃいましたね。」

 

「ああ。テメーはボッチだったな。…オレは…芥子とクラスメイトだ。」

 

「……そうだね。」

 

「でも、アナタ達、あまり一緒いなかったデスネ?ワタシは、ユガミネ、マツイとクラスメイトです!」

 

「そうねぇ。私たち、クラスで話すことは少なかったから、こうして仲良くなれて嬉しいわぁ。」

 

「……この状態では、素直に良かったとは言えんがね。」

 

「あたしは、哀染お兄ちゃんと前谷お兄ちゃんとクラスメイトだよ。」

 

「うん。間違いないよ。」

 

「…はい!」

 

「俺は白銀さんとクラスメイトっす。」

 

「……うん、そうだね。」

 

「…僕と木野さんは、祝里さんとクラスメイトだよ。…永本さんも。」

 

「……うん。」

 

「永本?」

 

「そう。前の事件の犯人である永本さんも、僕たちのクラスメイトだった。」

 

「そんな…!じゃあ、お2人のクラスメイトは、続々と死んで…!」

 

「……。」

 

「あ…!す、すみません!!!」

 

「でも、ワカリマセン。クラスメイト、楽しい記憶デス。動機になりマセン。」

 

「そうねぇ。素敵な思い出で人を殺そうとは思わないわぁ。」

 

「みんなが素敵な思い出を見たわけじゃない…そういうことかもしれんね。」

 

「松井お兄ちゃんの視線がキラキラじゃなくてドロドロ…みたいに?」

 

「だから、黙ってくれないかな。」

 

「……クラスメイトが動機になんならよ。祝里のクラスメイトのチビ2人に動機があったってことか?」

 

「………。」

 

「…私たちが思い出した記憶に…祝里さんを殺すようなものはない。」

 

「証明する術はないけど、僕らが思い出したのは、普通の学園生活の記憶だよ。木野さんが実験で教室を爆発させたり…」

 

「祝里さんが呪いの依頼を受けて人が死んだり、永本さんの幸運の恩恵に預かろうと学園中の人が彼の足の裏を触りに来たり…。」

 

「普通の学園生活とは…?」

 

「呪いの依頼が殺しの動機?」

 

「確かに、動機になりそうだけど…。うーん、あるとしたら、大切な人が呪殺された…とかかな?」

 

「哀染先輩に賛成です!きっと、そうなんですよ!」

 

「私たちの知ってる人は…祝里さんのターゲットになってない…。」

 

「言うはヤスシくん、するはニクシくんデス!」

 

「しかし、祝里さんのクラスメイト以外でも、彼女との接点を思い出した人がいないとは限らないさ。」

 

「どういうことかしらぁ?」

 

「容疑者が絞れない…ということでしょうか…。」

 

 

「……。」

 

「みなさん。少し前回の事件について、話してもいいっすか?」

 

「前回の事件…圭クンが、アイコをクレーン車で吊り上げて落とした事件だね。」

 

「俺は…永本君に共犯者がいたんじゃないか…そう思うんすよ。」

 

「え!?」

 

「昨日、モノクマが言ってたことだよね。」

 

「そんな!永本先輩は、そんなこと一言も!」

 

「永本君は、共犯者の存在を明かさないことで共犯者を庇った。……俺は そう思うんすよ。」

 

「……白銀さん、どうっすか?永本君の共犯者、心当たりはないっすか?」

 

「……。」

 

(…永本君はアイコさんをクレーン車のロープに繋いだ後、校舎内で倒れてたんだっけ?)

 

 

▼永本の共犯者だと思われるのは?

 

 

 

「それは違うっす。」

 

(はい、論破いただきました。)

 

 

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「天海君が言ってるのは…祝里さん。今回の被害者…だよね?」

 

(わたしが言うと、天海君は静かに頷いた。)

 

「前回の事件…決定的な証拠となるクレーン車のロープは、『たまたま』焼却炉に入って燃えたって結論になったっす。」

 

「そーデスネ。ナガモトはウルトラスーパーラッキーボーイです。」

 

「けど、さすがに それは…できすぎてるっすよ。」

 

「確かに。偶然 焼却炉の中に入って、偶然スイッチオンって、幸運というか、もはや怪異レベルだよね…。」

 

(フィクションならアリだけど。)

 

「……焼却炉の前には、草履の足跡が残っていたね。」

 

「祝里さんが…証拠のロープを焼いた?」

 

「証拠隠滅したっていうの?確かに、事件発覚後すぐ、彼女は1人で現場にいたけど…それまで ずっと僕と一緒だったんだよ?」

 

「まあ…一緒というか、祝里さんが僕に ついて来てただけなんだけどね。」

 

「……。」

 

「その時、佐藤くんと祝里さんは、校舎内に永本くんがいたと証言しましたね。」

 

「……うん。結局は、中庭にいた永本さんが玄関の鏡に映っていただけだったんだけどね。夕神音さんの子守唄で寝る直前だったから、見間違えたんだ。」

 

「確かに、眠りに落ちてしまう一瞬では、分からないでしょう。でも、その光景をハッキリ思い出せるとしたら、どうっすか?」

 

「…っ!映像記憶…。」

 

「祝里さんは記憶力に自信アリ。」

 

「永本君が校舎内にいたのか、後から思い出す景色が どう見えるかは俺には分からないっす。けど…もし鮮明に思い出せるのだとしたら…。」

 

「祝里さんは、永本君が校舎内にいないと分かってて嘘ついたってこと?」

 

「可能性っすけど…そうだとしたら、俺には彼女が永本君を庇ったようにしか思えねーっす。」

 

(そういえば…永本君が犯人だと分かった後の反論ショーダウン、祝里さんだったなぁ。)

 

「でも…どうして?」

 

「簡単さ。永本君は祝里さんと共犯で殺しを行った。が、自分が犯人だとバレたため、祝里さんを庇うために『コロシアイを終わらせるため』と嘘を吐いた。」

 

「それが分からないわ。前回の裁判の時、私たちにはクラスメイトの記憶はなかったのに…そんな状態で会ったばかりの人のために命を懸けられる?」

 

「永本さん……私たちのために、命を懸けた。」

 

「そうだ!あいつの目的はコロシアイを止めることだったはずだろ!?オレらのために体張って…」

 

「永本お兄ちゃんの本当の目的は、やっぱりコソコソ共犯者と外に出ること…だったのかな。」

 

「そんなっ…!!」

 

「……あんまり信じたくない可能性だね。」

 

「でも、どうして共犯者を祝里さんにしたんだろう。クラスメイトの記憶を思い出した後なら分かるけど。」

 

「クラスメイトの記憶がなくても…何か感じるものがあったんじゃないっすかね?」

 

「白銀さんだって、記憶を思い出す前から俺が どんなアクセ好きだったか、覚えててくれたじゃないすか。」

 

「え。」

 

「キミがペンダントを作り始めたのは、クラスの記憶を思い出す前っす。でも、キミは このデザインで作り始めてたっすよね?」

 

「それに、ここに来た初日にも『ジャラジャラが似合う』って言ってたっす。記憶を思い出していなくても、どこかで何かを覚えていたんすよ。」

 

(……あれは『V3』の記憶によるものなんだけどな。)

 

「おい、何なんだ!もし、祝里と永本が共犯者だったとして…それが どうしたんだよ!?」

 

「それが、動機になったかもしれないっす。」

 

「え?」

 

「祝里さんが永本君の共犯者だったことが、今回の動機かもしれねーっす。」

 

「天海さんが言いたいのは…前回のクロの共犯者である祝里さんが、クラスメイトの記憶を思い出して、どんな行動に出るか…というところかな?」

 

「……それは、まさか…」

 

「どうすか。白銀さん、この事件。」

 

(この事件も、動機が きっかけになっているはず。それなら、祝里さんはー…)

 

 

1. 共犯者を恐れた何者かに殺された

2. 永本の死による自責の念で自殺

3. ストレスによる心労で発狂死

 

 

 

「白銀さん。言い間違えただけ…ですよね?」

 

「う、うん。もちのロンだよ…!」

 

 

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「もしかして…祝里さんは自殺だったって言いたいの?」

 

「ええええ!?」

 

「このステージに来た日、祝里さんは部屋から出て来なかったっす。すぐ白銀さんが引っ張り出してましたが…。」

 

「祝里さんは俺たちと距離を置こうとしていたのかもしれないっす。何か後ろ暗いところがあったんじゃないっすか。」

 

「前回の裁判で、みんなを騙した罪悪感があったということかな。それで、さらに圭クンがクラスメイトだと知って…。」

 

「鎌は…自分で刺した?」

 

「待ちたまえ。他の誰かが共犯者の祝里さんに気付き、犯罪の芽を摘む形で命を奪った。そんな可能性もあるよ。」

 

「犯罪の芽、摘めていマセン。育てていマス。」

 

「…祝里さんのクラスメイトのお2人は…どう思いますか?」

 

「分からないよ。ストレスを与え続けられたら、簡単に脳は壊れるからね。」

 

「怖いわねぇ。」

 

「祝里さんが…自殺なんてするはずない…。」

 

「わたしも…自殺じゃないと思う。」

 

「ほうほうほうほう。その心は?」

 

「だって…祝里さんは昨日、言ってたんだよ。『コロシアイを止めたい』って。そんな人が、急に自殺なんてする?」

 

「……。」

 

 

(ーーそう。2章で自殺なんて、これまでの『ダンガンロンパ』ではなかった。この事件も自殺ってことはないはず。)

 

「メガネ女、動機から犯人探ししようって言ったのはテメーだぞ。他に、どっから探せばいいってんだ?」

 

「密室はヒモがあれば誰でも作れたということだったね。鎌も、ワラ人形とクギも、祝里さんのものだった。犯人を特定するに至らない。」

 

「……。」

 

(凶器や密室、遺留品から犯人を絞れないなら、動機から…と思ったけど、動機があるのが祝里さんってことになっちゃった…。)

 

(でも、ここで自殺なんて有り得ない。これは『ダンガンロンパ』というゲームなんだから。)

 

(……そうだよ。これは、推理ゲームなんだ。推理ゲームの事件で使われたものは、全部どこかで登場しているはず。)

 

(犯人を絞るために再考すべきものがあるよ!)

 

 

1. 凶器

2. 動機

3. 密室

 

 

 

「シロガネ、何 言いてますか?どこのコトバ?」

 

「一応、言葉は この国のものだよ。考え方が的外れだっただけ。」

 

 

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密室について、もう1度 考えてみない?ヒモ状のものは絶対使われたはずなんだから。」

 

「そうねぇ。ヒモ状のものくらい、どこかにあるはずだし…。」

 

「でも…家の中にも、病院にもなかった。」

 

「そりゃそうさ!ボクがないって言ったら、ないのー!このステージにあったのは、ペンダントの紐とかマダラの紐だけなのー!!」

 

「あぁ!?マダラの紐?」

 

「あ、それで密室を作るのは無理だから!」

 

「白銀さん、知ってるの?」

 

「マダラの紐とは何ですか?教えてください。」

 

「事件に使われたかもしれません!!」

 

(みんなに問われて、有名探偵小説のネタバレをすることになった。もちろん、密室作りには関係がないので、すぐに話題は変わった。)

 

「ハンカチとかシーツとか…布をヒモのように切って使うのは、どうでしょうか!」

 

「分かった!道具で配られた釣り竿の釣り糸だ!」

 

「一応、道具の確認の時に確認したよ。みんなの部屋の釣り糸で細工されたものはなかったし、シーツとか服の布を切った痕跡もなかった。」

 

「え、そんな確認までセコセコしてたの?」

 

「あのドアガード、鉄デス。ハンパモンじゃ、できナイ。」

 

「ドアガード自体には、糸の跡や布の繊維などは残っていませんでしたね。」

 

「うん。確かだよ。」

 

「じゃあじゃあ、やっぱり、密室から探すことはできない不可能。」

 

(それでも…推理モノの鉄則で、その道具は…必ず、わたし達が目にしている。)

 

 

 

閃きアナグラム 開始

 

                         ゴ

          マ                      ゅ                            う

ち                         ご

                                                                       く

 

閃いた!

 

 

 

「……中国ゴマ。」

 

「……。」

 

(わたし達が目にしたものの中で、ヒモとして使えるのは…中国ゴマだ。)

 

「チュウゴクゴマ?何ですか?調味料?」

 

「え、この中で1番 知ってそうなのに!」

 

「空中ゴマ…ディアボロのことですね。中国語圏では、”空竹”と呼ばれています。」

 

「えっと…それを持っていた人が、この中にいたの?ローズお姉ちゃん?」

 

「ワタシ、そんなもの持ちてない。」

 

「妹子は…あの時、いなかったもんね。」

 

「もしかして…太鼓型のコマをヒモに乗せて回してた…あれか?」

 

(そう。あれは、昨日みんなにアクセサリーを渡す前に見たんだ。つまり、彼はヒモ状のものを持っていたってことだよ。)

 

 

▼図書館を密室にできたのは?

 

 

「テメーは記憶力がカスなのか!?」

 

(まだ全員の名前を覚えてない人に言われちゃった…。)

 

 

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「密室を作ることができたのは…ぽぴぃ君、あなただよ。」

 

「……。」

 

「ああ、あれねぇ。ぽぴぃ君の芸。コマをヒモの上で回したり、ヒモで飛ばしたり、すごかったわよねぇ。」

 

「芥子…。テメー…まさか…。」

 

「違う!違うよ!ボクじゃない!」

 

「…ぽぴぃ君、あまり目が良くないって言ってたけど…ドアの隙間から覗き見ただけで、死体があるって本当に分かったの?」

 

「あそこに死体があるって…分かっていたんじゃないのかな?」

 

「……!」

 

(わたしの言葉に、ぽぴぃ君は顔を真っ青にした。そんな中で、ローズさんがポンと手を叩いた。)

 

「だから、血痕ありマシタか!」

 

「え!?」

 

「血痕って?」

 

「図書館の床、2階に向かうような血の足跡ありました!」

 

「えっ、そんなの、あった?」

 

「見なかったっすけど…。」

 

「拭き取られていマシタが、図書館の階段の1段目!ワタシには見えマス。マフィアですから!」

 

「マフィアですから!?」

 

「捜査時間中、ローズは その辺りを熱心に見ていたよね。」

 

「キノに邪魔されマシタから、忘れていマシタ。」

 

「邪魔…してない。道具…見せて欲しかっただけ…。」

 

「ローズさんの能力は本物だよ。どんなに綺麗に洗い流しても、血の場合、それが分かるらしい。」

 

「『絶対に見えないように血痕を洗い流す松井君VS絶対に血痕を見逃さないローズさん』…どちらが勝ったんだったかしらぁ?」

 

「何ですか、そのホコタテ勝負!?」

 

「……勝敗は覚えていないが、それはローズさんの才能とも言える。」

 

「人間ルミノール試薬というフタツナあります。」

 

「二つ名 多いね…。」

 

「とにかく、ぽぴぃお兄ちゃんが犯人ってこと?」

 

「違うよ!」

 

 

 

ノンストップ議論1開始

 

「芥子…テメー…。」

 

「ボクじゃないないないない無い物ねだり!」

 

「ぽぴぃさんの宿舎は図書館の隣。あなたはヒモも用意できて…現場に足跡も残ってた。」

 

「そうデスネ。小さい靴。アナタのです。」

 

「そんなの、ローズさんのウソウソウソウソ総理大臣!」

 

「ぽぴぃお兄ちゃん…大量の血を浴びたはずだよね。返り血の付いた服は着替えたんだよね。」

 

 

【着替えのシステム】→現場に足跡が残っていた

【着替えのシステム】→返り血の付いた服は着替えた

【死体の状態】→返り血の付いた服は着替えた

 

 

 

「人権侵害、違憲審判、大きな問題!!」

 

(……違うんだね。)

 

 

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「それは違うっす。」

 

「ああ!?芥子じゃねーってのか!」

 

「えーと、この矛盾が どういうことか分からないけど…佐藤君、みんなの”道具”を確認した時、クローゼットとか着替えも見たんだよね?」

 

「うん。僕と木野さんで部屋の様子やクローゼットの中も細かく確認したんだ。」

 

「オレのメモまで盗み見てたもんな。それはそれは細かく見たんだろうよ。」

 

「…ぽぴぃさんのクローゼットも確認した。」

 

「え!?」

 

「そこには、ちゃんと着替えが揃っていたけど、血の付いた服はなかったよ。」

 

「簡単だ。どこかに血の付いた服を捨てた。」

 

「ううん、モノクマによると、着替えの予備は10着ぴったりになるように用意されてるらしいよ。」

 

「シーツか何かで返り血を防いだのではないでしょうか。」

 

「うん、それも考えられるけど…部屋を見せて欲しいって言った時、彼は ためらう様子なく、鍵をくれたんだよ。犯人にしては、違和感があるんだ。」

 

「佐藤クン…。そうそうそうそう。ボクは事件と無関係。」

 

「ーーでも、ぽぴぃさんのクローゼットには、裏に血の付いた靴もあった…。」

 

「ああ!?」

 

「それは本当ですか?」

 

「あらぁ。やっぱり、ぽぴぃ君が犯人ということ?」

 

「確かに、血の付いた靴はあったんだけど、靴裏に少量しか付いていなかったんだ。」

 

「ど、どういうことですか?」

 

「ぽぴぃクンは現場にいたけど、死体に近付いていない。そう言いたいのかな?」

 

「え?待って、密室を作れたのは、ぽぴぃお兄ちゃんだけなんでしょ?」

 

「血の付いた靴、ショーコです!現場に足跡ありマシタ!」

 

「うん。それに、彼の部屋に中国ゴマのコマはあったけど、ヒモの部分がなかったんだよね。処分されたか…ぽぴぃさんが今も持っているのかも。」

 

「テメー、何が言いてーんだよ。芥子が犯人だって言ってんのか?違うって言ってんのか?」

 

「現場にいた痕跡はあるけど、行動が犯人っぽくないなと言ってるんだよ。」

 

「……。」

 

「ぽぴぃ君、どうっすか?」

 

「……ボクは、犯人じゃないないないないナイチンゲール。」

 

「……テメー。いつまで道化を演じてるつもりだ?」

 

(郷田君が厳しい口調で言い放つ。それに対して、ぽぴぃ君は一瞬びくりと身体を震わせた後、黙って俯いた。)

 

「いい加減にしやがれ!テメー自身を殺して演じる道化なんざ、つまらねーっつてんだよ!!」

 

「……っ!」

 

「郷田くん、落ち着いてください。」

 

「ぽぴぃ君、知ってることがあるなら…話してくれないっすか?」

 

「このクニの人、話さないでもサッシロ言いマス。でも、それは無理デス。話さないと伝わりマセン。」

 

「ぽぴぃ先輩!!信じますからお願いします!」

 

「……。」

 

(しばらく黙ったままだった ぽぴぃ君は、みんなの言葉の後 深く息を吐いた。そして、顔を上げた。右手に細いヒモを握って。)

 

「それは…中国ゴマのヒモ…ですね。」

 

「ごめんなさい。現場を密室にしたのはボク…だよ。」

 

「ホゥ?」

 

「今日の深夜2時すぎ…ふと目が覚めた。図書館から音が聞こえた気がして…それでボクの寝室から、図書館の2階に入った。」

 

「中は真っ暗で何も見えなかったけど…ボクには分かったんだ。1階で誰かが倒れてるって。慌てて近くまで行ったけど、全然 動かなくて…。」

 

「しかも…図書館1階の正面扉は、鍵もドアガードも、どちらも掛けられてたんだ。」

 

「このままじゃ疑われると思って…1階ドアの鍵を開けて…2階に戻った。それから、中国ゴマのヒモを使って、2階の図書館側のドアガードを掛けたんだ。」

 

「1階の正面ドアの鍵だけ開けたのかね?ドアガードも開けておけば良かったのじゃないかい?」

 

「確かに。その方が『誰でもできた』と思わせられたはずだよね。」

 

「気が動転してたし…暗い中、手探りで鍵を開けたけど…ドアガードに気が付いたのは、部屋に戻った後で…」

 

「ヒモがあればドアガードは外から簡単に開け閉めできるって知ってたから…。疑われるとは思わなかったんだ。」

 

「一応、服と靴を着替えて、そのまま布団で震えてた。本当は…みんなを呼びたかったけど、それじゃあボクが疑われるって…みんな死んじゃうって思って。」

 

「着替えのシステム、着替えたものが新しいものと交換されるわけじゃないんだね。だから血の付いた靴も残ってたのか…。」

 

「ンなこた、どーでもいい!芥子、テメーは犯人じゃねーってことだろ!」

 

「……本当デスか?」

 

「ボクは犯人じゃないよ!」

 

「ぽぴぃ君、図書館の鍵は内側から掛かってたんすね?」

 

「そう、図書館の鍵はボクだけが持ってる。そして、いつも図書館側は開けて寝る。」

 

「捜査時間にも言ってたね。図書館は開けておくけど、ぽぴぃ君の宿舎は、鍵 掛けるって。」

 

「図書館からの侵入者はボクの寝室入れない。ボクは、図書館 入れる状況。」

 

「ぽぴぃくんの言葉が正しいなら、やはり誰でも図書館に出入りができたということですね。」

 

「ぽぴぃ君、キミが図書館に入ったのは2時すぎで間違いないっすか?」

 

「うん…それくらい…。」

 

「その時、ワラ人形は壁に打ち付けられていたっすか?」

 

「…暗くて、見えなかった。」

 

「キミは、靴に血が付いたことには気付いてたんすか?」

 

「ううん。ボクの目は、暗闇で ほぼ役に立たない。図書館の電気は切れていたし…。」

 

「……。」

 

「天海君?」

 

「ぽぴぃ君の言うことを信じるなら、おかしいんすよ。」

 

「でも、本当のことだよ!」

 

「……どうっすか?白銀さん。ぽぴぃ君の話が本当なら、不思議な事象が起きているっす。そこから導き出される真実は…何でしょうか。」

 

(不思議な事象…真実……?)

 

 

 

ブレインサイクル 開始

 

Q. 芥子が来る前に正面扉の鍵とドアガードを掛けたのは?

1.犯人 2.被害者 3.第三者

 

Q. 芥子が立ち去った後の不思議な事象とは?

1.ドアガードが掛けられていた

2.ワラ人形に五寸釘が打ち付けられていた

3.芥子の足跡が拭き取られていた

 

Q. 足跡を拭き取ったのは?

1.犯人 2.被害者 3.第三者

 

繋がった!

 

 

 

 

「ドアガードは外からでも掛けられたけど…図書館の鍵を外から掛けられたのは、ぽぴぃ君だけだよね。」

 

「……うん。この鍵は特別性。ピッキング不可能。」

 

「だから、ぽぴぃ君の証言には矛盾があるんだよ。夜時間に図書館1階の鍵は開けていたのに、ぽぴぃ君が見た時…2時すぎに鍵が掛かっていた。」

 

「犯人が栞を刺して、外から鍵を掛けることはできないんだよね。」

 

「で、でも、本当だよ!ウソなんて言ってないよ!!」

 

「はい。だから、ぽぴぃ君以外で…鍵を掛けられたのは、1人だったんすよ。」

 

被害者である祝里さん。彼女が図書館の内側から鍵を掛けたんだよ。」

 

「えぇと…それって、つまり?」

 

「外で刺された彼女が図書館に逃げ込んだ…とでも言うのかい?」

 

「いいえ!ドアの周り、血のアトありマセン!」

 

「……ぽぴぃさんが立ち去った後、誰かが ぽぴぃさんの血を拭いたんだよね?図書館内に ぽぴぃさん以外の人がいた証拠だよ。」

 

「そう。その血の足跡が拭き取られていたことも、おかしいんだよ。」

 

「もし祝里さんを殺した犯人が図書館にいたなら、他の人間の痕跡を隠蔽するのは おかしいっす。」

 

「あ、そっか。他の人が怪しまれるなら嬉しいはずだもん。」

 

「図書館にいた人で、そんなことをするのは…1人しか考えられないんすよ。」

 

「学級裁判でクロになる人物は、他の人が容疑者になることを望むはずです。それを望まない人が血を拭いた。それは、つまり…。」

 

被害者の祝里さん。彼女が、ぽぴぃ君の足跡を拭いたんだよ。」

 

(ブレインドライブみたいなヤツで導き出した答えは、そうだけど…違和感は拭えない。だって、それは つまり…)

 

 

「やっぱり…祝里さんは自分で鎌を胸に突き立てたんじゃないっすかね。」

 

(その言葉に、みんな息を呑んだ。ぽぴぃ君の話を信じるなら図書館で一連の動きができるのは、祝里さん。でも…やっぱり2章で自殺は違和感がある。)

 

「……芥子…テメー、暗闇だと目が見えねーって言ってたな。」

 

「……うん。」

 

「何で、誰かが倒れてるって分かった?」

 

「……え?」

 

虫の息の祝里に…無意識に気付いてたんじゃねーのか。」

 

「……あ。」

 

「それって…ぽぴぃ先輩が発見した時…祝里先パイが生きていたってことですよね。」

 

「……。」

 

(ぽぴぃ君の閉じられた目が大きく開かれた。そして、彼はカタカタと震えながら服の肩口を右手で握り、絞り出すように言った。)

 

「そう…いえば、息を殺したような音が……怖くて、気付かないフリをしてた…。」

 

「……テメーは耳がいいからな。夜中に目が覚めたのも、ワラ人形にクギ打ち付けられた音が聞こえてたんじゃないのか。」

 

「……。」

 

「あの図書館は防音壁が使われていたと思うんだけど。」

 

「それでも、芥子には聞こえてた。違うか?」

 

「……。」

 

「でも、ぽぴぃお兄ちゃんが入った時、祝里お姉ちゃんが生きていたとして…何で ぽぴぃお兄ちゃんの足跡を消したりするの?」

 

「ぽぴぃ君に容疑が向かないように…じゃないでしょうか。」

 

「鎌が刺さった状態で?」

 

「想像できないほどの苦しみの中で、ね。」

 

「……そん、な…」

 

「ボクが…すぐ人を呼んでいれば…。」

 

「……。」

 

「ぽぴぃクン。たぶん、人を呼んでも無駄だったよ。病院に輸血の設備もなければ、手術ができる医師もいないんだから。」

 

「……手遅れだったでしょうね。」

 

「うう…。」

 

 

「待ちたまえ。」

 

(不意に わたしの隣から放たれたのは、ピシャリと冷たい声。天海君じゃない、反対隣の松井君だ。)

 

「それらの推理は、ぽぴぃ君の証言が本当だった場合の話だ。」

 

「……ぽぴぃさんが嘘を言ってたら?」

 

「ボクは、嘘なんてっ…!」

 

「それ、証明できマセン。」

 

「ぽぴぃクンが嘘を言っているようには思えないけど…。」

 

「エンターテイナーは嘘を吐くのが仕事だろう。演技して罪を逃れようとしているのかもしれんよ。」

 

「現場の足跡を消したのは被害者?ぽぴぃ君が消したと考えるのが1番 自然だろう?彼の言葉を信じて犯人候補から外すのは如何なものかね。」

 

「そんな…ボク、ボクは…。」

 

(松井君が左手を唇に押し当てながら、ぽぴぃ君を眺めている。ぽぴぃ君は、その視線から逃れるように俯いた。)

 

(彼が犯人候補から外れる根拠…か。実は、ないことはない。でも、アレって絶対じゃないからなぁ。)

 

「白銀さん。気付いていることがあるなら教えてください。」

 

(わたしの思案を読んだように、松井君の反対隣の天海君が静かに言った。)

 

(ぽぴぃ君が犯人候補から外れる根拠といえるのはー…)

 

 

1. 発見アナウンス

2. 手先の器用さ

3. 盲目の大道芸人

 

 

 

「君も才能柄、演技することもあるだろう。何となくで、容疑者の言葉を信じていいのかい?」

 

「…何となくじゃない根拠を探すことにするよ。」

 

(限りなくシロに近いっていう証明はあったね…。)

 

 

back

 

 

 

発見アナウンスだよ。わたしと木野さん、ぽぴぃ君の3人が発見した時、流れたよ。」

 

「それが何なんだよ?」

 

「発見アナウンスが流れるのはシロ3人が発見した時だったね。しかし、他の人物が既に発見したが気付いていなかったり、故意に隠している場合もある。」

 

「シロが嘘を吐くメリットは ほぼないと思いますが…可能性はあるっすね。」

 

「もう1度 確認しておこうか。つむぎ、琴葉、ぽぴぃクン以外で、アナウンス前に死体を発見した人はいる?」

 

(哀染君が全員に声を掛けた。けれど、誰も手を挙げる人はいなかった。)

 

「やっぱり、わたし達3人以外に死体を発見した人はいなかったんだと思うよ。」

 

「死体発見時の現場はドアガードが掛かってて、ドアの隙間から覗き込まなきゃ見えない状態だったから、気付かないってことはないはずだし。」

 

(『ダンガンロンパ』的には、嘘を吐くシロはありがたいんだけどね。この時点で出てこないってことは、死体発見時の3人がシロっていう信憑性は高い。)

 

(それなら、ぽぴぃ君が言ったことは、やっぱり本当ってことになるけど…。どうしても被害者の自殺というのに違和感がある。)

 

(せめて、目撃者がいたら良かったのに。2時頃の出来事を証言してくれる人がいたら…。)

 

(けど、さすがに深夜だと出歩いている人がいないからーー…。)

 

(……って。あ、1人いるね。夜 遅くまで違うところにいて、そこから宿舎に戻るまでに図書館前を通る人。)

 

 

▼何かを目撃した可能性があるのは?

 

 

 

「白銀さんの次回作と給与査定を お楽しみに!!」

 

「……!」

 

(本気で考えよう…!)

 

 

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「木野さん、ちょっと いいかな?」

 

「……。」

 

「木野さんは午前2時頃まで病院にいたんだよね。宿舎に戻る時、図書館を通った?」

 

「……。」

 

(わたしが目を向けると、木野さんは小さく頷いた。)

 

「その時、何か気付いたことはない?」

 

(木野さんは、わたしを黙って見つめ返していたが、やがて口を開いた。)

 

「………モノクマ。」

 

モノクマが図書館から出て来たのを見た…。」

 

「モノクマだあ!?」

 

「モノクマが現場にいたってことですか!!」

 

「あらぁ。初耳ねぇ。どうして黙っていたのかしら?」

 

「……疑われるかもしれないから。」

 

「ホゥ。ずいぶんと非協力的じゃないか。」

 

「……。」

 

「みんな自分が1番タイセツです。避難訓練で忘れマセン大事な言葉、ワレサキニ。」

 

「ローズさん、『オカシ』ですよ。」

 

「まあ、木野さんを責めるのは後でもいいよ。それより、現場からモノクマが出て来たっていうのは気になるよね。」

 

「この事件、モノクマが関与してるんすか?」

 

「そんなの、校則違反じゃない!モノクマは殺人に関与しないって…!」

 

「……どうなの?モノクマ。」

 

「ボクは殺人に関与しませんよ?ボクは ただ、祝里さんからの熱い想いを頂いただけだよ。」

 

(そう言ってモノクマが取り出したのは、小さなメモ紙。そこには『モノクマ』と書かれている。そして…)

 

「その穴…五寸釘で打たれた穴っすか?」

 

(メモ紙の真ん中には穴が空いていて、そこから下の紙は裂けていた。)

 

「祝里お姉ちゃん…何しようとしてたんだろ?」

 

(祝里さんが図書館で何をしようとしていたのか。それはーー…)

 

 

1. モノクマとの恋愛成就

2. モノクマの呪殺

3. モノクマと談笑

 

 

 

「白銀お姉ちゃんって…なんか変。フワフワだし、プルンプルンだし、ダルンダルンだし。」

 

(ダルンダルン…。妹尾さんには、わたしが どう見えてるんだろう。)

 

 

back

 

 

 

 

「彼女は、モノクマを呪殺しようとしていたんじゃないかな。」

 

「呪殺…。」

 

「彼女はモノクマを呪殺しようとして失敗した。そういうことですか?」

 

「でも!才能証明書で、祝里先パイの才能も証明されていたはずです!!」

 

「『才能証明書が嘘だった』ってことになるね。」

 

(全員の視線が一気にモノクマへ集中した。『モノクマが嘘を吐いた時点でコロシアイ終了』なんて言うからだ。)

 

(本当にモノクマの嘘のせいでコロシアイが終わったら どうしようか…などと考えていると、モノクマは何でもないような声色で言い放った。)

 

「いくら才能が証明されていたとしても、ボクの中身はヒト科と違うから。グロい機械でミッチリだからね。オマエラと同じようには死なないんだよ。」

 

「ある意味ボクも、殺せんせーってね!…というか、スキあらばボクを嘘つきにしようとするの、やめてよねー!」

 

「…モノクマは殺人に関与しないはずっす。現場のものを持ち出すのは不正なんじゃないんすか。」

 

「ボクは彼女が書いたボクの名前を もらっただけでーす!しかも、その時 彼女は生きていたんだからね!」

 

「……祝里さんは…その後 死んだ。あなたが関わっているはず。」

 

「知らないなぁ。ボクより、キミの方が祝里さんのこと ご存知だろー!」

 

「……。」

 

「図書館に残っていた呪いの儀式…あれは、モノクマを呪うためのものだったんだね。」

 

「けれど、実際には図書館のワラ人形に『祝里』と名前のある紙片が残っていました。あれは…どういうことでしょうか。」

 

「………分からない。」

 

 

「……もしかしたら、試してみたのかもしれないね。」

 

「試す?」

 

「祝里さんはモノクマには呪殺が通用しないことを知った。当然、彼女は思ったはずだよ。」

 

「『自分は本当に人を呪い殺すことができるのか』ってね。」

 

「ああ?どういうことだ?」

 

「自分の呪いの才能は、証明書通りなのか、試したのかもしれない。」

 

「試すって、佐藤先輩 言ってたじゃないですか!祝里先パイは既に、たくさんの人を呪い殺してきたって!!」

 

「試すまでもなく、知っていたはず。」

 

「……祝里さんは、呪い殺したり…してない。」

 

「んー?クラスメイトで言っていますこと、違いマス?」

 

「うん。クラスで…彼女は否定していたんだ。彼女にとって、彼女の呪いは『人を元気にする おまじない』だったんだよ。」

 

「栞も自分の才能が『呪い殺す』ものかどうか半信半疑だったんだよね。その中で、モノクマの呪殺が失敗して、呪いが本当か試した。自分を実験体にして。」

 

「本当に?じゃあ、本当に祝里お姉ちゃんは、呪いで死んじゃったの?」

 

「…そんなこと…あるわけない。」

 

「でも…聞いたことがあるわ。暗示の力で人が死ぬこともあるって。ノーシーボ効果…だったかしら?」

 

「……。」

 

(『ダンガンロンパ』の才能は絶対だから…祝里さんは本当に呪いで…?)

 

(超常現象が殺しに組み込まれるのは違和感があるけど…。ノーシーボ効果とかだったら一応…説明は付く?)

 

(2章で自殺…それで…いいの…?)

 

 

「彼女の呪いの力が本物かどうかは、今となっては分からないさ。胸には鎌も刺さっていたから。」

 

「そ、そうだ!緑頭!テメー、祝里は自分で鎌 刺したって言ってたな!?」

 

「ええ。ぽぴぃ君が現場に来る前に図書館1階の鍵を掛けられたのは、中にいた彼女しかいないっす。」

 

「ボクが現場に入った時、ボク達以外、誰もいなかった。祝里さんしか考えられない。」

 

「本当に呪い殺せたなら、何で そんな痛いことしたのかしら?」

 

「そうですね。呪いの力が本当なら…鎌で刺す必要はなかったはずです。」

 

「モノクマ。キミが証明する祝里さんの”才能”は どういうものなの?」

 

「…はい?」

 

「キミは僕たちの才能を証明した。その証明された才能は、それぞれ違ったはずだよ。」

 

「私の場合は、子守唄は絶対みんなを眠らせるって言ってたわねぇ。」

 

「ナガモトの才能は、ラッキースケベです。」

 

「やれやれ。脱線してない?ちゃんとクロを考えてよね!確かに、死ぬ前に祝里さんにも聞かれたけれども。」

 

「何だと!?」

 

「祝里さんも…?」

 

「どういうこと?」

 

「ボクを呪い殺せないと知った彼女が、ボクに詰め寄ってきたのさ。『あたしの才能って何!?』ってね。」

 

「だから、ボクは言ってやったのさ。キミの才能は、ターゲットの胸に五寸釘大の穴を開けて呪い殺すことだってね。」

 

(嘘を吐けないはずのモノクマが…呪いの証明をした。…それなら、祝里さんの呪殺は…実際にできるってことだ。)

 

(『ダンガンロンパ』の才能により、祝里さんは呪いを受けて死ぬはずだった…?だとしたら…鎌で自分自身を刺したのは、どうして?)

 

 

1. 呪いの力を隠すため

2. 早く死にたかったため

3. 才能証明書が嘘だと思わせるため

 

 

 

「……キミの答えは、そうなんだね。白銀さん。」

 

「……まだ何も言ってないよ。」

 

「クラスメイトの…いや、犯罪心理学者からの見解は どうかな?ここみ。」

 

「祝里さんが本当に呪いを受けたり、暗示の力で死にかけてたのなら、分からない。死にかけの人の心理状態なんて、普通の人間には想像もできないよ。」

 

「心理学者が何か言ってマス。」

 

「……。」

 

(腑に落ちない気持ちのまま、わたしは祝里さんの写真のバツ印を眺めた。すると、隣から静かな声がした。)

 

 

才能証明書のため。俺は、そう思うっす。」

 

「どういうことだ?頼むから分かりやすく説明しろ。」

 

「呪いの儀式を行ったのに、死因は鎌だった。祝里さんは、そうやって才能証明書が嘘だと思わせたかったんじゃないでしょうか。」

 

「モノクマが証明した祝里サンの才能は…胸に五寸釘大の穴を開けて呪殺すること…。」

 

「あ…その才能証明が嘘なら、コロシアイが終わるから…?」

 

「私たちのために、自らの手で鎌を刺したというの?」

 

「……。」

 

「しかし…モノクマは どこからか見ているはずだろう?祝里さんが自分で刺すところも。そんな工作は無意味だろうに。」

 

「死にかけてたなら、そこまで頭は回らなかったんじゃないかな?もともと、彼女は考えるのが、そんなに得意ではなかったし。」

 

「……そんな風に…言わないで。」

 

「うん。そうだね。でも、考えなしとしか言いようがないよ。」

 

「つまり…祝里さんはモノクマ呪殺に失敗し、才能証明書を不正とするために呪いの儀式を行い…鎌で自らを刺した。そういうことですか?」

 

「その後…ボクは現場に入って、まだ彼女が生きているのにも気付かず…。」

 

「血を踏んで付いた ぽぴぃ君の足跡を、虫の息の祝里さんが消した…か。」

 

「祝里先パイ……!!」

 

「……。」

 

(みんなが、被害者の遺影写真に目を向ける。わたしは、何とも言えない気持ちで その様子を眺めていた。その時。)

 

「……まだだよ。」

 

「木野さん?」

 

「……まだ、解決してない!」

 

(静かな裁判場で、木野さんの声が木霊した。)

 

 

 

理論武装 開始

 

「祝里さんが自殺なんて…おかしい!」

 

「自殺なんてするはずない…!」

 

「クラスで…彼女は誰より楽天的だったんだから!!」

 

「別に感情論で言ってるわけじゃないよ!」

 

 

「現場にも、おかしいところがあるから!」

 

「彼女の手は血で汚れてた!でも、鎌の持ち手には血が残ってなかった…!」

 

「誰かが、祝里さんを自殺に見せかけて殺した証拠だよ!」

 

「死体の体勢も うつ伏せで不自然だった。祝里さんは…どうして あんな体勢で倒れていたの?」

 

 

 ○鎌を △込んで ×自殺 □抱え 

 

これで終わりだよ!

 

 

 

「あの体勢は、鎌を自殺で使ったからだと思うよ。」

 

「……っ。」

 

「ほら、鎌で自分を刺す場合、上からだと腕だけの力で刺すことになるから…力が弱い人には難しいんだよ。」

 

「だから、座った状態で鎌を抱え込むように倒れ込む方が…自殺はしやすいと思う。」

 

「テメー…いやに詳しいな?まさか…」

 

「いやいや、あらぬ誤解してない…?たまたま推理小説で読んだだけだよ。」

 

「セップンと同じ。前ノメリですね!」

 

「切腹…前屈み…ですね…。」

 

「それに、祝里さんは、ぽぴぃさんの足跡を拭こうとしていた。うつ伏せで倒れているのは おかしなことじゃないと思うよ。」

 

鎌の持ち手には血が付いてなかった…。」

 

「…鎌で自分を刺した時は、まだ血を流していなかった可能性もあるっす。」

 

「それに、鎌の持ち手を固定するために足で挟んでいたなら…血が付いていなくても おかしくはないよ。」

 

「着物で拭いた可能性もアリマス。持ち手に手のアトありマシタら、すぐ自殺 分かりマシタ!逆手なりますから!」

 

「うん。栞の着物は血で汚れてたし…そうかもしれない。」

 

「………。」

 

「あ、あれ?祝里先パイが持ち手の血を拭く…というのは、どうなんでしょう?なぜ、そんなことを?」

 

「あるとすれば、自殺に見せないため…でしょうか。」

 

「けど、彼女はボクの足跡を消した。他殺にも自殺にも見せないのは、どういうこと?」

 

「死にかけの人の考えることは僕らには理解不可能だよ。それに、天海さんや白銀さんが言った通り、持ち手に血は付かなかっただけかもしれない。」

 

「けど…あくまで自殺でも他殺でもない、『呪いの力で死んだ』という偽装だったのかもしれないね。」

 

「……まだ、よく分からねぇ。一体、何だったんだ。この事件。」

 

「呪いとか…そういうのが入ってきて…こんがらがってきたよ。蘭太郎お兄ちゃん。」

 

「……。」

 

「そうだね。つむぎ、蘭太郎クン。まとめを お願いしてもいいかな?」

 

「……うん。」

 

 

 

クライマックス推理

 

「事件が起きたのは、今日の深夜2時頃。犯人は呪いの力でモノクマを壊そうと計画した。」

 

「犯人の才能ならできるかもしれないって…犯人は思ったんだよ。」

 

「けれど…名前の付いたワラ人形をクギで打ち付けても、モノクマは普通に機能していた。犯人は それを見て、自分の才能に疑問を抱いた。」

 

「それで…犯人は試したんだ。自分には、本当に人を呪い殺す力があるのかって。」

 

「校則でモノクマは嘘を吐けないっすから…才能証明書が本物でないと証明できれば、コロシアイは終わる。そんな風に考えたのかもしれねーっす。」

 

「犯人は自分の名前を書いた人形にクギを打ち込み、その才能を”使って”しまった…。」

 

「犯人の才能が本物だったのか…今となっては分からないっすが…犯人は自分を鎌で刺した。おそらく…自分は才能で死ななかったと見せかけるためっす。」

 

「才能の証明が嘘なら…モノクマが嘘を吐いたとして、コロシアイを終わらせられるっすから。」

 

「事件直後に現場を確認したのは、ぽぴぃ君だった。」

 

「彼は図書館に入れたのが自分だけだという状況に焦り、正面の鍵を開け、図書館2階のドアガードを掛けた。ヒモを使って現場を密室にしたんだよ。」

 

「けれど…この時、犯人には、まだ息があったっす。犯人は、ぽぴぃ君に疑いが掛からないように、彼の足跡を拭いた。」

 

「犯行時刻前に図書館側から鍵を掛けられたのは、中にいた被害者だけ。ぽぴぃ君の足跡を消す可能性が考えられるのも…被害者だけ。」

 

「ここから導き出されるのは、犯人は被害者。この事件の犯人は、“超高校級の呪術師” 祝里 栞さんっす。」

 

 

(静まり返る裁判場。その中で、モノクマが楽しげな声を上げた。)

 

「うぷぷぷぷ。結論が出たみたいですね?それなら、ワックワクでドッキドキの時間に移りましょうー!」

 

「……。」

 

(本当に、いいのかな。2章からクロが被害者本人だなんて…。)

 

(額に汗が浮かぶ。けれど、当然もう1度 考え直す暇もなく、投票タイムが始まった。)

 

(全員の票が、祝里さんに集まった。)

 

 

 

学級裁判 閉廷

 

「大正解ー!!”超高校級の呪術師”祝里 栞さんを殺したクロは、”超高校級の呪術師” 祝里 栞さん、ご本人でしたー!!」

 

「殺意を抱かせるところ、少女に失意を抱かせてしまった末の事件でしたー!お粗末様でしたーー!!」

 

(モノクマがハイテンションに捲し立てる。その姿は、まるで「これでいい」と言わんばかりの様子だけど。)

 

(わたしは、何とも言えない違和感に襲われていた。)

 

(本当に自殺だった。…2章から自殺だなんて…視聴者は楽しんでくれるのかな。)

 

(『ダンガンロンパ』っぽくないって言われて…離れて行っちゃうんじゃない?)

 

(そんなことを考えていると…)

 

 

「はい、じゃ、そういうことで。解散!!」

 

「え!?」

 

(モノクマが高らかに言い放ち、裁判場から消えた。)

 

「……。」

 

(おしおきが…ないってこと?おかしいよ。今までの『ダンガンロンパ』なら…自殺でも、おしおきはあったのに…。)

 

(アルターエゴでも何でも使って…おしおきするのが…『ダンガンロンパ』なんじゃないの?例えば、祝里さんの死体を使ってーー…)

 

(…そんなの、見たい?)

 

(モノパッドで見た、”クラスメイト”みんなの顔が頭に浮かんだ。)

 

(……見たく、ない。)

 

(おしおきがなくて、心底 安堵している自分がいる。)

 

(こんなの『ダンガンロンパ』じゃない。こんなの…わたしじゃ…ない。)

 

(込み上げる吐き気に気付かないふりをして、裁判場から出る みんなの後に続いた。)

 

 

 

第☆章 少&よ、щ意を抱け 完

第×章へ続く

 

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