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第×章 ◇と■。デッド・би・£и▼(非)日常編Ⅰ

 

 

【中央エリア 宿屋1階】

 

(裁判から一夜明け、レストランに全員が集まった。)

 

(昨日の裁判は『ダンガンロンパ』らしいとは言えない。犯人=被害者で自殺だし、呪いが殺人に使われた可能性があるし、何よりおしおきがなかった。)

 

(そりゃ、何回もやってたら変わるところも出てくるとは思うけど…。どうして、こんなに違和感があるんだろう。)

 

(どうして、嫌悪感があるんだろう…。)

 

 

「みなさん、揃いましたから…いただきましょうか。」

 

「そうっすね。」

 

(天海君と山門さんの言葉で、みんなが朝食を とり始めた。その時。)

 

「やあ、ご機嫌いかが?」

 

「…モノクマ。」

 

「おや?おやぁ?白銀さん、いつものオーバーリアクションは?どうしたの?お腹 痛い?気分悪い?」

 

(気分は悪いよ。なんか…最悪だよ。)

 

「……また場所を移動するんすか?」

 

「さすが、話が早いね!よっ、話の分かる男!」

 

「……次の場所は どこなんすか。」

 

「うぷぷ。オマエラ、食べ終わったら山頂に来てね。”道具”携帯ルールも、これにて終了!でも、このステージにあるもの何でも持って行っていいよ。」

 

「非常食に牛やニワトリを持って行ってもいいし、マダラの紐を持って行ってもいいよ!」

 

「持って行かないよ…。ヌイグルミだし。牧場の物語で肉食の話は禁物だよ。」

 

「ほんと人生ツライ時もある♪そんな時こそ、ヤキニクがある♪」

 

(モノクマは稀によく世界を救ったりタイムスリップしたりする一家の歌を歌いながら消えた。わたしは心の中で大いに「JASRAC」と叫んだ。)

 

「……とりあえず、食べ終わったら山頂に行きましょうか。」

 

 

 

【中央エリア 宿屋 キッチン】

 

(朝食後、必要そうなものを持って行くため、1度 解散した。)

 

(わたしはキッチンでハーブティーの容器を手に取った。)

 

(これ、美味しいから持って行こう。みんなもリラックスできるだろうし。東条さんのお茶の淹れ方を見ていてよかった。)

 

(…別にコロシアイの中だからリラックスする必要なんてないけど!みんなの体調管理も、わたしの仕事だし!)

 

(誰に言うでもない言い訳を頭の中で呟いて、待ち合わせ場所の山道に向かうべく、その場を後にした。)

 

 

 

【南エリア 森】

 

(町から山道まで少し遠回りになる森を抜けて目的地に向かう途中、木野さんを見つけた。)

 

「……あ。白銀さん。」

 

「木野さん。すごい荷物だね?」

 

(木野さんはパンパンのリュックを背負い、手にも荷物を抱えていた。)

 

「それ、素手で持ってても大丈夫なの?」

 

「うん。私は…こういうのに慣れてるから。」

 

「……そっか。」

 

(彼女は手に持っていた物をビニール袋に移して、リュックに詰め込んだ。その左手に一昨日あげたブレスレットが付けられいる。)

 

「それ、付けてくれてたんだ。」

 

「うん。シルバー…47番目の塊、可愛いから。」

 

「…そ、そっか。付けてくれて嬉しいよ。じゃあ、待ち合わせの鉱山前に行こうか。」

 

「……うん。」

 

(木野さんと これまでの話をしながら、鉱山に向かった。)

 

 

 

【南エリア 山頂】

 

(それから、全員で集まり山頂に辿り着いた。山頂には既にモノクマがドアと一緒に待ち構えていた。)

 

「待ちくたびれたよ!大荷物の人もいるけど?夜逃げでもするの?夜逃げ屋本舗?」

 

(前谷君の手に移った木野さんの荷物を見ながら、今の高校生が分からないであろうネタを交えてモノクマが笑う。)

 

「前谷さんは…私の実験道具を持ってくれてるだけ…。」

 

「ま、まかせてくだひゃい!!」

 

「で?何だ次のステージっつーのは!」

 

「そのドアから向かうのかな?」

 

「…ならば行こう。いざ向かわん。」

 

「うぷぷ。どうぞ、お入りくださいな。」

 

(モノクマの横で開いた扉。その先には、また別の町が広がっていた。)

 

 

 

【東エリア 町の入り口】

 

(そこは、まるで中世ヨーロッパの町のようだった。石畳に教会に民家に宿屋…むしろRPGの世界だ。)

 

「ここは、人気シリーズ第35作目の舞台だよ!楽しんで参りましょう!」

 

(35作目か…これも、全然 記憶ないね。)

 

(入り口から町の奥まで見渡せるくらい狭い。RPG中盤の小さな町という風だった。町中で一際 目を引く建物に向かいながらモノクマは言った。)

 

「ハイハイ、押し黙らない、観察しない、死んだように止まらない!」

 

「これが正しいオ・カ・シですね!」

 

「全然 違うよ…。」

 

 

 

【西エリア 大富豪の家】

 

(案内されたのは、町で最も大きい家。通された客間らしき部屋にはマネキンが2つ並んでいた。)

 

「ここでの特別ルールを発表します!その前に、オマエラには、どちらかのマネキンを選んでもらいます。」

 

「あ?どういうことデス?」

 

どちらか選んで花嫁にしろってこと!」

 

「は、花嫁!?」

 

「マネキンと結婚しろってことかな?」

 

「え?女の子も?」

 

「はいはい、チーム分けするだけだから、何でもいいの。きのこ派かタケノコ派でも、青葉派か羽山派でも。」

 

「とにかく、金髪の幼なじみ派は、こっち。青髪お嬢様派は、こっちに集まってください。ハイ、スタート!!」

 

(モノクマの掛け声と共に、みんなが困惑気味に動き出す。しかし、わたしは動けずにいた。)

 

(幼なじみは昔も一緒に冒険したから親近感がある…お嬢様は贈り物がもらえる…わたしとしては、もう1人の黒髪結婚候補も気になってたんだけど…。)

 

「…白銀さん、まだ?もうキミだけなんだけど。」

 

「結婚後のステータスとレベル上げ…ヒーローズでの声は…子供のビジュアル……」

 

「あれ…そういえば黒い髪って、遺伝子 強いはずだよね。鳥山世界では黒髪って劣勢遺伝子なのかも……」

 

「白銀さん、悩みすぎっす。」

 

「……つむぎ?聞こえているかな?」

 

「うわっ、ごめん。こっち、こっちにするよ!」

 

(気付いたら、みんなの視線が集中していたので驚き、目に入った方に走った。)

 

「はーい!では…」

 

「待って。私、やっぱり向こうにする…。」

 

(こちら側にいた木野さんが言って、向こう側に場所を移動した。)

 

「もー、近頃の子は優柔不断なんだからー。ハイ!これ以降の変更は認めません!」

 

「…では、これからチーム戦!オマエラは相手チームを敵として、会話は一切できません。」

 

「……何それ。」

 

「金髪派はBチーム、青髪派はFチームとして、それぞれ違う場所で共同生活だよ。Bチームが ここを出た瞬間から、オマエラは敵同士だから。」

 

「……。」

 

(何この不自然すぎる分断…2作目や『V3』の分断が自然だったのを考えると、お粗末としか言えないよ。)

 

 

(それから、モノクマがBチームとFチームの宿舎やルールなどを告げた。そして、立ち去ろうとした中、声が上がった。)

 

「モノクマ。消える前に、ちょっといい?」

 

「何かな?」

 

「ルール説明があったから、ついでにコロシアイのルールも確認させてよ。コロシアイでは殺意がない場合でも、処刑を受けることになるんだよね?」

 

「うぷぷぷぷ。コロシアイに熱心だね?もちろん、過失でも殺しは殺しです!」

 

「…最初の事件、永本君自身にはアイコさんに対して殺意はなかったはずっす。それでも彼は おしおきされた。」

 

「そう。殺意の有無は関係ない。過失の結果だろーと、未必の故意だろーと、殺しは殺しだよ!」

 

「殺意の有無は関係ないってことだね。」

 

「…じゃあさ、1つのステージで複数人の死者が出ることはあるのかな?」

 

「ん?2人の被害者が見つかった時の話?」

 

「違うよ。クロが2人の場合だよ。」

 

「卒業できるのは、実行犯のクロ1人!残りは共犯者扱いだよ!初回の動機はもう無効だから、共犯者なんて出ないと思うけどね。」

 

殺意のないクロが2人いたとしても?」

 

「ん?」

 

「えーと…佐藤君、どういうこと?」

 

「例えば、致死量10gの睡眠薬があって、2人が5gずつ誰かのコーヒーカップに入れたとする。それを知らずにカップの持ち主がコーヒーを飲んで死んだ。」

 

「けれど、睡眠薬5gを入れた人間は それぞれ、被害者をゆっくり眠らせてあげたかっただけだとしたら…?どちらが実行犯になるのかな?」

 

「ゆっくり眠るなら、薬に頼らなくても私が眠らせるわよぉ。」

 

(というか…眠りたい人は普通コーヒー飲まない気がする。)

 

「なになに?一休さんやダルマさんの真似かな?いくらボクがジョブスも真っ青なインテリジェンスクマとはいえ…。」

 

「禅問答をする気はないよ。どうなの?睡眠薬は、よく混ぜられていて、致死量は10gだけど、2人が確実に5gずつ入れた。この時、どちらが犯人なの?」

 

「……そんな特別ケース滅多にないよ。」

 

「滅多にないけど、教えて欲しいんだよ。明確にルールを決めておくことは、ゲームに必要でしょ?」

 

「……2人で寸分の狂いなく相手を殺したというなら、それは2人がクロ扱いだよ。」

 

「処刑のリスクを負うクロは2人?ということは、外に出られるのも2人ということだよね?」

 

「……。」

 

「えっと、佐藤君?」

 

「『他の人と出られる』は初回の動機だったけど、やろうと思えば、いつでも共犯者が作れるってことだよ。」

 

「え!?」

 

「……。」

 

「なるほどね。2人でクロになる方法を見つけることができれば、2人で脱出が可能になる…か。」

 

「オイ!テメー、何を納得してやがる!何かしでかす気じゃねーだろーな!?」

 

「するわけないだろう。失礼な。」

 

「…言っとくけどね。そんな簡単にクロ2人になれると思わないでよね。超特例の法規的措置ですからね!」

 

「そうそう、それから。さっきの、被害者が2人だった場合、裁判の対象は『死にたてホヤホヤの人を殺したクロ』だから!じゃ!バイナラ!!」

 

(モノクマが捲し立てて消えた。)

 

(被害者が複数人の場合、後から死んだ人が裁判の対象…か。『V3』と違うんだ。)

 

「あ、あの、佐藤先輩!?どうして、あんなこと?」

 

「どこまでモノクマのルールが考えられているか確認しただけだよ。」

 

「…共犯関係を作る条件を確認したんじゃないだろうね?」

 

「まさか。」

 

「けれど、モノクマの言う通り、かなり特殊な場合だよ。致死量の毒を分けるというのも、あまり現実的じゃないよね。」

 

「専門知識がないと…無理。」

 

「うん。だから、みんな真似しないでねって警告も含めたつもりだったんだ。不安にさせたなら ごめんね?」

 

「毒殺、危険デス。100%シホーカイボー。自然死に見せられマセン。」

 

「うん。この国の死体は司法解剖が あまりされないから、外の世界で毒殺を選ぶのは危険だよね。」

 

「その思考の方が危険だっつーの!」

 

 

「けれど…他のチームの人と話せないというのは…困りましたね。」

 

「情報の共有ができないものねぇ。」

 

「お互い情報を手紙にするのはどうっすか。」

 

「ナイスアイデア。いただきました。」

 

(お互いの情報は書き置きして共有することを決め、これからのことを相談していると、部屋のハト時計が音を立てて時を告げた。)

 

「カッコウが鳴きましたね。」

 

「え?今のってハトですよね?」

 

「わー、可愛い!あのハト時計!ああいう時計、お部屋に欲しいなー。」

 

「俺の家に海外の土産で買ったのが いくつかあるっすよ。いりますか?ここに出てからの話になりますが…。」

 

「わーほんとう!?ありがとう!お兄ちゃん!」

 

(死亡フラグだ…。)

 

(ハラハラしながら2人を見ていたら、わたしの視線に気付いたのか、天海君が こちらを向いた。)

 

「…白銀さんも欲しいっすか?」

 

「あ、いやいや、大丈夫!お気持ちだけで!お気遣いなく!!」

 

「そうです!イケマセン!時計 贈る、ヨクナイ。」

 

「え?何で?」

 

「忌み言葉ですね。言霊信仰に起因するもので、中国語で大きい時計を贈ることと『死者を弔う・親の死に水を取る』という言葉は同じ発音なんです。」

 

「エンギが悪い!」

 

(コトダマ…か。)

 

「結婚式で言ってはいけない言葉があったり、お見舞いに鉢植えを持って行ってはいけないっていうのがあるわねぇ。」

 

「ええ。スルメをアタリメ、オカラを卯の花と呼んだり、この国は言霊信仰が深く根付いていますね。言葉には不思議な力がありますから。」

 

「マルッと お見通すマジシャンのお母さんみたいだね。」

 

 

 

【東エリア 宿屋1階】

 

(それから、チーム分けされた通り、解散した。さっきの大きい家はFチームの宿舎。Bチームは町の入り口近くの古い宿屋に来た。)

 

(ビア…金髪の幼なじみ派もといBチームは、わたしと天海君、哀染君、妹尾さん、佐藤君、夕神音さん、ぽぴぃ君だ。)

 

「……。」

 

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 

「いえ、何でもないっす。」

 

(歩くだけで床が軋む宿舎を眺める天海君に妹尾さんが近付くが、天海君は あいまいに笑うだけだった。)

 

「そうだよね…天海君的にはアリーナ姫を選べないのは酷だよね。」

 

「……みなさん、飯にしませんか。ここの2階で食事ができるみたいっすよ。」

 

(ついにスルーされた。)

 

「モノパッドの地図では『酒場』になってるけど…。」

 

「そこがレストラン代わりってことだね。夜時間は封鎖するみたいだよ。」

 

「早く行こう。腹が空いては戦はできぬ。」

 

「うん、行こうか。」

 

 

 

【東エリア 宿屋 白銀の個室】

 

(その後、場末の酒場のようなカウンター席で質素な夕食をとった。未成年者が酒場にいる絵面にクレーム対応の文字が浮かんでヒヤヒヤした。)

 

(部屋はシンプルで、いかにも安宿といった感じ。個室の鍵すらない。歩くたびにギシギシ大きな音がする。)

 

(ベッドに身を横たえると、一際大きく軋んだ音がした。寝返りを打つ度にする音を無視して、わたしは目を閉じた。)

 

…………

……

 

「わあ、ありがとう。白銀さん!」

 

(その”クラスメイト”は、いつもと変わらない笑顔で明るく言った。)

 

「ううん。でも、大事なコンサートのヘアスタイル…わたしなんかが決めてもいいの?」

 

「もちろん!今回はスタイリストさんとかいなくて…自分でできる簡単ヘアアレンジ教えてもらえて良かった!」

 

(「ドレスが大人っぽいからヘアスタイル決めかねてたんだ」と彼女は笑う。)

 

「そっか。…わたしも、あなたのコンサート、見に行くね。」

 

(そして。彼女の晴れ舞台を見に、わたしはコンサートホールへ赴き、客席に座った。”超高校級”の演奏は どんなものだろうと、胸を躍らせて。けれど、)

 

「スペシャルな おしおきを、用意しました〜!」

 

(聞こえてきたのは、期待していた素晴らしい旋律ではなかった。)

 

(ガチャガチャと響く『ネコ踏んじゃった』。ピアノの演奏としてはタブーとされる曲。次に目にしたのはーー…。)

 

 

「……ぅあっ!!」

 

(思わず飛び起きた。全身に汗が伝う。肌に貼り付く汗が不愉快で、身体中 震えが収まらない。)

 

(気持ち悪い…。)

 

(不快感に吐き気がする。全身を支配する倦怠感を感じながら、個室のシャワールームへ向かった。)

 

 

 

【東エリア 宿屋・酒場】

 

「おはよう、つむぎ。」

 

(レストラン代わりの酒場には既にチームの全員がいた。彼らの挨拶に「おはよう」と返すと、天海君が心配げな顔を見せた。)

 

「大丈夫っすか?顔色 悪いっすけど。」

 

「…天海君は人のこと言えないと思うよ。……地味に。」

 

「お兄ちゃん、また寝てないの?今日は早く寝てね?ね?」

 

「分かりましたから…引っ張らなくても大丈夫っすよ。」

 

「あらぁ、寝てないの?良かったら、子守唄 歌いましょうか?」

 

「あ…いえ…」

 

「夕神音さん。最初の事件、忘れちゃった?」

 

「あ…。そう、だったわねぇ…。」

 

「……あの事件は美久のせいじゃないよ。」

 

「うん。もちろん、夕神音さんを責めるわけじゃないよ。ただ、夕神音さんは自分の才能について、十分 気を付けて欲しいんだ。」

 

「……分かったわ。ありがとう。」

 

「さ、さあさあ、ご飯を食べよう。そして元気を蓄えよう。」

 

「あ、わたし、前のステージからハーブティー持って来たんだ。美味しかったし!朝食のお供にしようよ。」

 

(一瞬 流れた気まずい沈黙を払うように、ハーブティーを入れたジップロックを見せた。)

 

(幸い、カウンターの向こう側のキッチンスペースには、酒場に似つかわしくないティーポットや砂糖、ハチミツ、ジャムなどが置かれている。)

 

「夕神音さんはハチミツだっけ?妹尾さんは何 入れる?」

 

「……ジャム。」

 

「ボクも今日はジャムにしよう。妹尾さんにも入れてしんぜよう。乾杯の準備はいいかな?」

 

(ぽぴぃ君がジャムをカップに入れて右手を掲げた。夕神音さんも右手でハチミツを2杯分入れて左手でカップを持ち上げた。)

 

(天海君、哀染君、佐藤君も、それぞれカップを持った右手を上げた。)

 

(ぽぴぃ君が掛けた「乾杯」という音頭と共に、みんな朝食を食べ始めた。)

 

(キッチンに用意されていた朝ごはん用の冷めたスープに固くて小さなコッペパン。それに熱いハーブティーを胃に流し込むと少し緊張が抜けた気がした。)

 

 

「白銀さん、ちょっといい?」

 

(佐藤君が声を掛けてきたのは、朝食を終え、みんなで酒場を後にしようというタイミングだった。)

 

(天海君や哀染君が一瞬こちらを向いたけど、佐藤君が「お先に どうぞ」とジェスチャーで促したため、その場には佐藤君と2人だけとなる。)

 

「佐藤君、何か用?」

 

「それって、白銀さんのクセ?」

 

「え?」

 

「ほら、頬を手で触るの。さっき天海さんと話してる時もしてたよね。」

 

「えっ。そ、そうだっけ?」

 

「うん。会話の内容に呆れたり困った時、頬に手を置くクセがあるのかなって思ってたんだけど…違う?」

 

「……。」

 

(肩が跳ねそうになったのを何とか押し殺す。どんな時に頬に手を触れたか思い出そうとしたけれど、既に記憶は遥か彼方だった。)

 

「さすが、”超高校級の犯罪心理学者”。よく見てるんだね。」

 

(大丈夫。わたしのコスプレイヤーの才能は絶対。ここに来てから、ボロが出るような演技はしていない。)

 

「うん。他にも…前谷さんは、女性と話して緊張すると口元を押さえるクセがある。ローズさんは、お家柄か足音を殺して歩くクセがあるよね。」

 

「へえ…。そうなんだ。」

 

(一応、わたしも運営者として参加者の習慣や言動は気にするようにしている。利き手やクセも見てきた。けど、その時の心情までは考えてなかった。)

 

「でも…どうして急に、そんなことを?」

 

「クセって生理的欲求や模倣反射の中で身に付けることも多いんだ。ほら、爪を噛んだり、鼻をほじったり。これは、生理的欲求による悪癖かな。」

 

「……模倣…。」

 

「模倣反射は、動物が親と同じ動作をして学習することだよ。ほら、子供って親の真似したがるでしょ?幼少期に見たものがクセとして残ることも多いんだ。」

 

「……そっか。」

 

「……けど、そういう些細なところから人の心情は読み取れたりするんだ。だから、気を付けてね。」

 

「…うん。ありがとう。」

 

(結局、何が言いたかったのか、よく分からない。そのまま彼は酒場から出て行った。)

 

(首謀者バレは絶対していないはず。わたしの演技は、探偵でも見抜けないようになってるんだから。)

 

(…けど、一応…無意識の行動にも気を配るようにしないと。)

 

 

(さて、ここのステージも、一通り見ておこう。隠し扉とかないか確認しておかなきゃ…首謀者として。)

 

(ーー首謀者。そう。わたしは、首謀者なんだ。)

 

(『V3』のキャラクターが、わたしの”クラスメイト”なんて。…そんなことは絶対ないんだ。)

 

(今朝の夢を吹き飛ばすように首を振って、わたしはモノパッドを開いた。)

 

(町の中央に位置するのは噴水の広場。その東側に宿屋・道具屋・武器屋、西側に教会と防具屋。町の最西端が”大富豪の家”、その南側に別荘。)

 

(例のRPGのマップそのまんまだね。どこから行こうかな。)

 

 

 広場の店を見る

 教会を見る

全部見たね

 

 

 

(広場の東エリア側には、屋根のない拭き晒しの道具屋や武器屋の店。西側には防具屋の建物がある。)

 

 

 

【東エリア 道具屋】

 

(道具屋に じっと動かないマネキンみたいな人影があったので近付いた。)

 

「夕神音さん。」

 

「あらぁ。白銀さん。」

 

「どうしたの?ボーッとして。」

 

「ええ。そうねぇ。私…いつもボーッとしているから。」

 

(自覚はあるんだ。)

 

「ごめんなさいねぇ。私、みんなのためにって思っても、余計なことしかできないから。」

 

「……そんなことはないよ。」

 

「ありがとう。でも、本当のことよ。」

 

(夕神音さんは、また しばらく黙って動かなくなった。そして、急に再起動したようにポンと手を叩きーー…)

 

「決めたわ。私、もう歌わない。」

 

「えっ…。」

 

「だって、私の子守唄のせいで最初の事件が起きたのよぉ。」

 

「あれは、夕神音さんのせいじゃないでしょ?あの子守唄はすごいよ。」

 

「『うたう』で必ず『ねむってしまった!』になるんだよ?睡魔のスイマーのすいまーもビックリだよ!」

 

「気を遣わないで。自分でやったことは分かってるわ。」

 

「そ、それなら、子守唄以外を歌えばいいんじゃないかな?」

 

「私の歌は、人を泣かせることしかできないのよ。だから、もう止めておくわぁ。」

 

「えっ、ちょ、夕神音さん!」

 

(夕神音さんは「答えが出てスッキリ」といった顔で道具屋から出て行った。)

 

(子守唄というコロシアイに便利なものが使えなくなった…以前に、”超高校級の歌姫”が歌わなくなったら、彼女のキャラは どうなるの!?)

 

 

 

【東エリア 武器屋】

 

(道具屋の隣の武器屋も覗いてみた。)

 

(カウンターには、オノやらハンマーやら、凶器になりそうなものがズラリと並んでいる。)

 

(これなら…ちゃんと次の事件も起こりそうだね。)

 

(頭の中で呟いた瞬間、今朝の夢が脳裏を過ぎる。気付かないフリをして、わたしは次の場所へ向かった。)

 

 

 

【中央エリア 防具屋】

 

「……。」

 

「……。」

 

「えっ、何この空気?」

 

(防具屋の室内に入ると、ぽぴぃ君と郷田君が それぞれ飾られた防具を調べていた。…が、明らかに気まずい空気が流れていたため、声に出してしまった。)

 

「白銀さん。ようこそ!」

 

(わたしの声に振り返った ぽぴぃ君が、ほっとした顔をした。)

 

「……。」

 

「えっと…ぽぴぃ君。何か見つけた?」

 

「何にも。残念、無念、またーー…」

 

(楽しげに話し出した彼だったが、チラリと郷田君の方を見て言葉を呑んだ。わたしは少し声を落として ぽぴぃ君に耳打ちした。)

 

「ぽぴぃ君、郷田君と何かあったの?」

 

「何もないない。ボクらは別チームだから話せないだけ。」

 

(ぽぴぃ君は、ぎこちない笑みを浮かべて部屋から出て行った。)

 

「……。」

 

(いや、絶対 何かあるでしょ。)

 

 

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【中央エリア 教会】

 

(宿屋の隣には小さい教会がある。そっと扉を開くと、山門さんが前方に座っているのが見えた。)

 

(じっと教会の壁を見つめている。けれど、その先には磔刑に処された男の像も十字架も、それらしき壁画もない。)

 

(十字架やら何やらがあると宗教団体からクレーム…大変な時は訴訟 起こされたりするからかな。何もない教会だね…。)

 

(山門さんに近付こうとした時、背後の扉が開いた。)

 

「あ、ヤマト先生。ここイマシタ。」

 

「ローズさん。……あ。」

 

(振り向いた山門さんは、わたしがいることに気付いて驚いた顔をした。)

 

「ローズさん。教会には特に気になるものはありませんでした。行きましょう。…どうして教会に何もないのか、考えていたんです。」

 

(山門さんはローズさんを促す言葉を口にして…わたしの方に目配せした。最後の言葉は、わたしに向けた言葉だったのだろう。)

 

(ローズさんも こちらに目配せしてから出て行った。)

 

(山門さんの言葉…どこか言い訳じみてたなぁ。)

 

 

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【西エリア 大富豪の家前】

 

(マップの西エリアは、昨日 来た大きな屋敷が占めている。その扉の前に哀染君が立っていた。)

 

「あ、つむぎ。ここは鍵が掛かっているようだよ。」

 

「ここ、フロー…Fチームの宿舎だったよね。」

 

「うん。みんな、出る時に鍵を掛けているみたいだね。ボクらBチームが調べるのは難しいのかもしれない。……あ。」

 

(そこまで言って、哀染君が何かに気付いたように扉に目を向けた。すると、ガチャンと重い音がした。どうやら鍵が開いたらしい。)

 

「…開けてくれたみたいだ。入ろうか。」

 

「……!」

 

(中に入ると、すぐ近くに大きな体があった。前谷君は嬉しそうに笑ってから口を開きかけて、慌てて手で口を覆う。)

 

「つむぎ、早速 調べようか。…ありがとう。」

 

(わたしを見たまま哀染君が前谷君への礼を述べる。前谷君はコクコクと勢い良く頷いた。…飼い主の帰宅を待ち侘びていた犬みたいだ。)

 

(豪華な調度品が並ぶ廊下を抜け、マネキンが置かれた応接間に来た。マネキンの後ろには暖炉が明るい火を灯している。)

 

「やっぱり…ゴージャス!ゴージャス!って感じだね。」

 

「うん。まさしく、お金持ちの家って感じだよね。」

 

「……!…!」

 

(前谷君…すごく話したそうにしている…。)

 

 

「おや。…ああ、なるほど。」

 

(松井君が入って来た。わたしと哀染君がいることに一瞬 驚いた顔をしたけれど、前谷君の存在を確認して、すぐ納得したように頷いた。)

 

「前谷君は出かけていなかったんだね。」

 

「はい、松井先輩!自分は家を出ようと鍵を開けたところ、忘れ物に気が付いて、戻ってきたんです!!まだ しばらく忘れ物は見つからない予定です!」

 

「……そうか。僕は2階の自室にいたんだよ。全員分の個室は上の階にあるからね。手掛かりがあるとすれば、この階だが…あいにく見つかっていないね。」

 

「そうですね!!みなさんは外を探索中で、木野先パイだけは部屋にいるんでしたね!」

 

「出かけるのが億劫になるのも分かる。僕らは鍵を必ず施錠しなければならない。日が落ちるまでに帰っていなければならない。…とルールが多すぎる。」

 

「はい!ちなみに、別荘にも鍵を掛けていますよね。鍵は玄関にあります!」

 

「……そうだったね。確か、チーム関係なく使って良かったはずだ。金箔が手に付きやすいから気を付けて。」

 

(2人の不自然な会話という名の情報共有により、わたしと哀染君は顔を見合わせた。)

 

「つむぎ、別荘も見ておこう。」

 

「うん。ありがとう。」

 

(わたしは哀染君に頷きながら、2人に礼の言葉を投げた。)

 

 

 

【西エリア 別荘】

 

(”大富豪の家”の玄関から金色の鍵を持ち、別荘まで来た。そこには、天海君と妹尾さんがいた。)

 

「白銀さん、哀染君。ここは開かないみたいっすよ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

(妹尾さん、わたしへの態度が あからさまだから、あまり近付きたくないんだよね。まだ、みんなには気付かれてないとは思うけど…)

 

(もし、わたしが死んだら彼女が1番に疑われちゃうし。それが正解なら目も当てられないよ。)

 

「つむぎ?」

 

「あ、何でもないよ。ここの鍵 持ってきたんだ。」

 

「えっ。どこにあったんすか?」

 

「昨日の家の玄関だよ。光太クンと麗ノ介クンが協力してくれたんだ。」

 

(わたしは金箔の鍵を扉の鍵穴に差し込んだ。気を付けて持っていたのに、私の右手には金箔が付着した。その金箔が付かないように左手で扉を開けた。)

 

(中は こじんまりした、まさしく別荘という雰囲気だった。)

 

(”大富豪の家”に比べると調度品などは落ち着いているけど、わたし達が昨日 泊まった宿よりも10倍も20倍も豪華だ。)

 

「家具や物が少ない部屋っすね。」

 

「別荘だから、こっちには あんまり泊まらないのかなぁ。」

 

「別荘にしては本邸と近すぎる気もするけどね。」

 

(みんなと別荘内を調べていたが、手掛かりになるようなものは見つからない。そんな時、室内のモニターからモノクマの声が鳴り響いた。)

 

 

『オマエラ、今すぐ大富豪の家の応接間に集まってください!」

 

「……アナウンスだね。行こっか。」

 

「ええ…。」

 

「こ、今度は…何だろ…。」

 

「……。」

 

(…このタイミングだから、たぶん…動機の発表…かな。)

 

 

 

【西エリア 大富豪の家 応接間】

 

(昨日チーム分けをした応接室に全員が集まった。その中央に立つモノクマは「動機の発表だよ」と踏ん反り返る。)

 

(やっぱり。)

 

「……動機っていうのは、何なんすか。」

 

「今回の動機は……一口飲ませれば、あら不思議。彼、彼女があなたのトリコになる惚れ薬だよ!」

 

「は?」

 

「惚れ薬?」

 

「惚れ薬は好きな相手にプレゼントしてね。薬を飲んで初めて見た人を好きになる仕様だよ。意中の相手がいるなら誰かに取られる前に急いだ方がいいよ!」

 

「ピンクのブサイクなウサギが目印だよ!張り切って探してね!」

 

「……。」

 

「ん?白銀さん、何か言いたそうだね。」

 

(そのウサギはブサイクじゃなくてスーパーキュート2だよ!とか、言いたいけど…それよりも、)

 

「惚れ薬が…動機ってこと?」

 

「そう!惚れた腫れたの末に血で血を洗う展開を期待してるよ!それじゃ、Bチームは速やかに退室すること!Fチームは足下が暗いので外に出ないこと!」

 

(モノクマにグイグイ押されて、わたし達は応接間から追い出された。仕方なく、借りた別荘の鍵を玄関の壁に掛けて、”大富豪の家”を後にした。)

 

「情報共有の報告書は渡せなかったっすね。とりあえず、決めておいた通り、俺たちの報告は教会に置いてくるっす。」

 

「あ、お兄ちゃん。あたしも行くよ!」

 

「私たちは先に戻りましょう。」

 

「そうだね。Fチームの報告書が見られるのは、どうせ明日になりそうだし。」

 

「あ、向こうの様子は今日 少しだけ聞いたよ。夕飯の席で話そうか。」

 

「うんうん。そうしよう。」

 

(教会の扉を開く天海君たちを見送り、わたし達は宿屋の扉を開けた。)

 

 

 

【民家 白銀の個室】

 

(それから、みんなで質素な夕食を囲みながら、前谷君たちから聞いたFチームの様子を共有した。)

 

(それにしても…変な動機が発表された。惚れ薬でコロシアイが起こるなんて考えられない。高校生が惚れた腫れたで殺しを働くとは思えない。)

 

(いや、そういう人はいるだろうというか、既に殺されかけたんだけど…。)

 

(ーー3章被害者か…。)

 

(各章のキャラクターは性格や目的に共通点がある。3章キャラはーー…。)

 

(これまでの『ダンガンロンパ』を思い返したところで、意味がないことに気付く。性格で予測しても無駄だ。人の性格には、必ず2面あるのだから。)

 

(わたしだって、3章キャラに当てはまる。だから、わたしは…ここで殺されても構わない。その覚悟で『ダンガンロンパ』の世界に入ると決めたんだから。)

 

(でも、それなら…面白いトリックで。視聴者が楽しめる事件で。見ている人が驚くような殺人でーー死にたい。)

 

(途端、また今朝の夢がフラッシュバックする。込み上げる吐き気を振り払い、わたしはベッドに倒れ込んだ。)

 

 

 

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