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第×章 ◇と■。デッド・би・£и▼(非)日常編Ⅱ

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のアナウンスで目が覚めた。昨日は、よく眠れた。変な夢を見ることもなく。)

 

(良かった…。あんな夢に惑わされてたら、コロシアイ運営どころじゃない。)

 

(わたしはサイドテーブルに置いたモノパッドとハーブティーが入っていた容器をポケットに捩じ込み、朝食に向かうべく身支度を始めた。)

 

 

 

【東エリア 宿屋2階 酒場】

 

「つむぎ、おはよう。」

 

「おはようございます。」

 

「おはようおはよう。」

 

「おはよう。いつもより今日は遅かったね。」

 

「ゆっくり寝られたかしらぁ?」

 

(2階の酒場には、もう みんな集まっていた。)

 

「待たせちゃったかな?ごめんね。えっと、ハーブティー飲む?まだまだ たくさんあるよ!」

 

「いただくわ。食事が質素だから、白銀さんが持ってきてくれていて良かったわぁ。」

 

(夕神音さんが嬉しそうに笑う。わたしは微笑みを返して、ジップロックから茶葉を取り出しポットに入れた。)

 

「それで…動機のことなんすけど、どうしますか?」

 

「え?」

 

(お茶を淹れて朝食を食べ始めた時、天海君が言った。)

 

「昨日の夜モノクマが話した動機っす。俺は探そうと思うんすけど…。」

 

「え、探すの?」

 

「はい。みんなで管理すれば、動機としての効力が薄くなるんじゃないでしょうか。」

 

「誰が持ってるか分からない状況よりはいいってことかな?…うん、いいんじゃない?」

 

「えっと…でも、惚れ薬とか言ってたよね?」

 

「そんなもの、動機になるのかしら?」

 

「高校生が愛憎劇の末の殺人なんて、まるでフィクション。」

 

「うん。惚れ薬が動機でコロシアイが起こるとは思えないけど…。」

 

「そうかな?大好きな人のために…って人、いるかもよ?」

 

「…モノクマが用意した動機だから、どうなるか分からないよ。もしかしたら高値で売れると踏んで誰かが金欲しさに殺しを働くかもしれない。」

 

(……そっちの方が3章っぽくていいけど。)

 

「うーん。みんなで管理する…目に付くところにあるから動機になるってことはないかな?」

 

「確かに、管理方法は難しいっす。人通りが多い場所で管理するとか、2人以上で監視するとか…。」

 

「夜はFチームは外に出られないし、僕らBチームが入れない別荘に鍵を掛けて入れておくのもいいかもね。」

 

「なるほどなるほど。それなら、誰も触れない。」

 

「……じゃあ、とりあえず惚れ薬を探そうってことだね。」

 

(話が まとまったところで、みんなのカップに目を向ける。)

 

「お茶のおかわり、どう?夕神音さんはハチミツ入りだよね。」

 

「ありがとう。」

 

「夕神音さんって喉のケアのためにハチミツ入れてるの?」

 

「…あら。そういえば、そうねぇ。昔から飲み物にはコーヒーにも日本茶にもハチミツを入れてたけど…元々は それが理由ねぇ。」

 

「緑茶にハチミツ…ヨーロッパの人みたいっすね…。」

 

(夕神音さんは「そうねぇ」と考えてから、わたしに言った。)

 

「白銀さん。私、やっぱりハチミツじゃなくて、お砂糖でいただくことにするわ。」

 

「えっ…。な、何で?」

 

「だって、私は もう歌わないって決めたもの。この機会に、お砂糖とか練乳とか体を冷やすものも試さなくちゃ。」

 

「ほ、本当に決めちゃったんだね…。」

 

 

(みんなと食後のお茶を楽しみ、しばらく経ってから調査に行こうと立ち上がった。)

 

「つむぎ。行こうか。」

 

「……あ、ごめん。先に行っててくれるかな?」

 

(みんなが散り散りになる中、哀染君が当然のように笑いかけてきた。わたしは『うっかり部屋に忘れ物をした人の顔』を作って笑った。)

 

「そうなの?……うん。分かった。また後で。」

 

(今日は やることがある。まず、モノクマに動機について聞き出さなきゃ…。)

 

(みんなが宿屋を出たであろうタイミングで、モノクマの名前を呼んだ。けれど、やっぱりモノクマは現れない。)

 

(……しょうがない。みんな惚れ薬を探してるし、わたしも行こう。)

 

 

 東・中央エリアを見る

 西エリアを見る

全部見たね

 

 

 

【東エリア 道具屋】

 

(町の広場は、今は静かだった。小さな町なのに、誰もいない。みんな屋内を探索しているのだろうか。)

 

(道具屋には薬草やら聖水やらが置いてある。中には何に使うのか分からないアイテムもあった。その1つを手に取った。)

 

「これ、何に使うんだっけ?」

 

「どうかしたんすか?」

 

「うわあ!?」

 

(突然、真後ろから声を掛けられて、わたしは手にしていた物を取り落とした。振り向けば、天海君が立っている。)

 

「すみません。驚かせたっすね。」

 

「あ、いや…大丈夫。毛穴から心臓 出るかと思ったけど。」

 

「…はは、何すか その驚き方。それより、何を見てたんすか?」

 

「うん、これ何に使うのかなと思って…。」

 

「どっちっすか?この茶筒っすか?」

 

「ううん、こっちの羽。見覚えはあるんだよね。雷に打たれて死んだ鳥みたいな生物から採った翼のような…天井あるとこで使うと頭をぶつけるような…。」

 

「何を言ってるか分かりませんが、とりあえず詳しいことは分かりました。」

 

「ありがとう。話している内に思い出せたよ。…えっと、妹尾さんは?一緒じゃないの?」

 

「あそこにいるっすよ。道具屋 探してきてと言われたんで。」

 

(見れば、確かに広場の隅に妹尾さんがいる。しゃがんで地面を調べているせいか視界に入っていなかった。)

 

「惚れ薬なんて、本当にあるのかな?」

 

「…どうっすかね。信じられないっすけど、モノクマの言うことなんで何とも。」

 

「よくラブコメでは登場するよね。…入間さんとか、作れそう。」

 

「……。」

 

(動機について考えていたら、ポロリと口をついて出てしまった。”クラスメイト”なんて嘘なのに。記憶の植え付けにすぎないのに。)

 

「そうっすね…。」

 

(けど、わたしの言葉を聞いた天海君は顔を綻ばせた。いつもの青い顔に、少しだけ赤が差す。天海君と入間さんって…)

 

「ーーそんなに仲良かったっけ?」

 

「え?」

 

「あ。いや、あの…入間さんのこと考えながら優しい笑顔だったからさ!仲良かったり好きだったりしたのかなと…!」

 

(しまった。また口に出ていた。)

 

「みんなを思い浮かべてたんすよ。クラスの…みんなを。」

 

「ああ…そう。」

 

「…キミは意外と、そういうの苦手だったっすよね。」

 

「そういうの?」

 

「入学して1ヶ月くらいの時、最原君と入間さんが一緒にいたのを見て『付き合ってるのかな』とか言ってたっすよね。よりにもよって、赤松さんに。」

 

「あの頃の2人が一緒にいたとしても、お付き合いには見えないだろう…とゴン太君以外の誰もが思ったっす。」

 

(いや…確かに1章で『吊り橋効果かな』的なこと言ったけど…あれは視聴者への情報提供であったからして!わたしが そう思ったわけじゃない…はず!)

 

(というか、植え付けの記憶なのに変なところで『V3』が意識されている。思わず頬に手を当てようとして右手を引っ込めた。)

 

「あ…あはは、ガチガチのラブロマンス系は あんまり見ないからかな。あ、でも、さすがに妹尾さんが天海君を慕ってるのは分かるよ!」

 

「……お兄ちゃん認定されてるだけっすよ。」

 

 

「蘭太郎お兄ちゃん、何か見つかった?」

 

「あ、妹尾さん。」

 

(天海君の後ろから、妹尾さんが顔を覗かせて…わたしに気付き、顔をしかめた。)

 

「特に、これといったものは。キミは何か見つけたんすか?」

 

「ううん!何も!行こう!お兄ちゃん!」

 

「ちょ、押さなくても…。じゃ、白銀さん。また後で。」

 

(天海君は妹尾さんにグイグイ押されて遠ざかった。)

 

(…次に行こう。)

 

 

 

【東エリア 民家】

 

「白銀さん。」

 

(宿屋の目の前の民家に入ると、佐藤君が こちらを向いた。)

 

「佐藤君、何か見つかった?」

 

「ううん。惚れ薬らしきものはないよ。」

 

「そっか。」

 

「白銀さんは惚れ薬…信じる?」

 

「え?」

 

「モノクマが用意した惚れ薬で、本当に人を好きになると思う?」

 

(丸い瞳で覗き込まれて、言葉に詰まった。わたしは『難しい問題に直面して困った人の顔』を貼り付けて、腕を組んだ。)

 

「うーん…とても信じられないけど、モノクマのことだしなぁ。今までのことでも信じられないこと、たくさんあるし…。」

 

「えーと…佐藤君は、どう思うの?」

 

「僕はあると思うよ。」

 

(彼は存外きっぱり言い放つ。)

 

「恋愛なんて所詮ホルモン分泌だからね。ホルモンと同じ働きを持つ薬かホルモン分泌を促す薬は作れるから、惚れ薬を作るのは不可能じゃないはずだよ。」

 

「……佐藤君って犯罪心理学者…なんだよね?」

 

「犯罪のことでもないのに何で言い切れるんだって?」

 

「あ、違う違う。色んなことに詳しいなって…。」

 

「心理学は専門以外の知識も必要なんだ。元々 哲学の学問だからね。臨床心理や発達心理…大脳生理学に歴史、数学…何でも勉強するようにしてるんだ。」

 

「大変なんだね。」

 

「大変でもないよ。人文科学の学者は、そういう人 多いと思うよ。」

 

(彼はニコリと笑った顔を貼り付け「惚れ薬 見つかるといいね」と言って出て行った。)

 

(…佐藤君は才能不明だった。けれど…彼は、もう才能を思い出した。お約束通りなら、思い出すのは もっと後のはずなのに。)

 

(お約束通りじゃないといえば、1番の”希望”候補は死んでしまったのも、そう。これから先の展開を考えていかないと…。)

 

(そういえば…才能を偽っている人もいるはずだよね。それは…誰なんだろう。)

 

(そんなことを考えながら民家から宿屋の隣の教会前に差し掛かったところで、扉が勢い良く開いた。)

 

「……!」

 

「き、……。」

 

(反射的に名前を呼びそうになって口をつぐむ。木野さんは軽く会釈をして、そのまま”大富豪の家”へ小走りに駆けて行った。)

 

(そういえば、Fチームの報告書が もう置いてあるかも。)

 

 

 

【中央エリア 教会】

 

(教会の中は静まり返っている。後ろの席から2列目。一昨日、そこに互いの報告書を置いておくことを決めていた。)

 

(近付くと、上質な紙に几帳面な字で書かれた報告書の他、いくつかの封筒があった。)

 

(前谷君から哀染君と妹尾さんへ、ローズさんから夕神音さんへの手紙だね。後で渡そう。)

 

(わたしは手紙と報告書を しまい、教会を出た。)

 

 

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【西エリア 大富豪の家 前】

 

(”大富豪の家”前に来た。家の横の泉から別荘を囲むように小川が広がる風景が一望できる。ぼんやりと川の流れを見つめた。)

 

(次の殺しは…いつ起きるんだろう。3章だから、2人被害者が出るんだよね。)

 

(でも…誰が?全然 予想できない。ここまでも、びっくりするくらい平穏に日常パートは進んでーー…)

 

「……おかしい。」

 

(『ダンガンロンパ』には、みんなの動きとは全く違う動きをする人物がいるはず。その人がいるから殺しが起こったり、複雑化したりしていくのに。)

 

(まだ その人物は、これといった動きを見せていない。)

 

トリックスターは誰なんだろ…。」

 

「アイドルのプロデュースでもするの?」

 

「うーん…それは春川さんに任せたいかな。わたしは あらゆる意味で”switch”派っていうか、コロシアイのプロデュースを…って、うわぁ!?」

 

「キミが1人虚しく呟いているのは、黒いアキライシダ?白いアキライシダ?それとも、白くてスタイルがないアキライシダ?」

 

「十神君の話も3D葉隠君の話もしてないよ!」

 

「長い時間たそがれていたようですなぁ?スパイごっこ?」

 

「黄昏にはなれないよ。……ちょうど良かった。モノクマ、動機のことなんだけど。」

 

「動機が惚れ薬って、どういうこと?そんなのがコロシアイの動機になるの?」

 

(少しだけ声音を落として、モノクマに語りかける。けれどモノクマは「うぷぷ」と笑うだけだった。)

 

「そんなことより、キミが たそがれていた小川について教えてあげるよ。」

 

「聞いてないんだけど…。」

 

「この小川は最新式の循環システムを使ってるんだ。どんな汚れも町をグルグル回る流れの力でキレイキレイ!」

 

「たとえキミが急に もよおして川でしちゃったとしても、すぐに川の水は綺麗になるんだよ!すごいでしょ?」

 

「川になんかしないよ!!」

 

(わたしが叫ぶとモノクマは高笑いしながらいなくなった。)

 

 

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【中央エリア 教会】

 

(日が落ちた頃、わたし達Bチームは教会に集まった。教会の席には、Fチームの今日の分の報告書が置かれている。)

 

「あ、昼に昨日分の報告書とか回収したまま忘れてたよ。はい、前谷君とローズさんから手紙が来てたよ。」

 

「光太クンから妹子とボクにだね。」

 

「ローズさんから私にも。うれしいわ。」

 

「昨日分の報告書には何が書いてあったんすか?」

 

「えーと…昨日 共有したことと同じかな。特に脱出の手掛かりはないこと、出かける時に施錠すること、真っ暗になったら出歩けないこと。」

 

「あ、あと、キッチンは夜時間 封鎖されるみたいだね。わたし達の宿屋と同じだね。」

 

「今日の報告書は、どう?」

 

「昨日に引き続き、特に発見なしということっすね。あと、向こうは動機を探そうとはしていないみたいっす。」

 

「……まあ、動機だからね。みんなは?動機は見つかった?」

 

「なかったよ。」

 

「本当にあるのかしらねぇ。」

 

「怪しいところ、実際。」

 

「けど、モノクマは嘘を言えないはずだよね。」

 

「そうっすね。とりあえず、明日も引き続き探しましょう。」

 

(天海君が言って、みんな頷いた。その後、全員で教会を後にした。)

 

 

 

【東エリア 宿屋 白銀の部屋】

 

(夕食後は、しばらくハーブティーを飲みながら話をして解散した。部屋に戻って支度をして、すぐ布団に潜り込んだ。)

 

(今日も変な夢…見なければいいけど。)

 

……

 

(扉が開く音が聞こえて、目を開ける。そっとドアへ視線を向けると、廊下の明かりが入り込んでいるのが見えた。その影になっているのはーー…)

 

「妹尾さん?何か用かな?」

 

「……!」

 

(起き上がって見ると、少し開いた扉の前で妹尾さんが肩を震わせた。寝ていると思っていたらしい。)

 

(…また、殺しに来た?彼女は天海君を犠牲にしたくないはずなのに。)

 

(焦った顔をする妹尾さんを見ながら、そんなことを考える。すると、彼女は決意を固めたような表情で手を差し出してきた。そこに握られていたものは。)

 

「……飲んで。」

 

(ーーナイフでも包丁でもなく、瓶だった。)

 

(派手なパッケージに「らーぶらーぶ」と言うウサミが描かれている。)

 

「えっと…これって、もしかして?」

 

惚れ薬。」

 

「えっ?見つけたの?」

 

「あたしって、恋の香りが分かっちゃうんだよね。」

 

(……恋の香りって何だ。)

 

「とにかく飲んで!これ飲んで、違う人を好きになって!蘭太郎お兄ちゃんを諦めて!」

 

「いやいや、だからさ…。」

 

「のーんーでー!!」

 

「ちょ、妹尾さん。大きい声 出したら、みんな起きちゃうよ?それに、今わたしが これ飲んだら、あなたを好きになっちゃうと思うんだけど。」

 

「……。」

 

(今 気付いた…という顔をしている。)

 

「というか、あなたが天海君に飲ませた方が手っ取り早いんじゃないかな?」

 

「……。」

 

(また、今 気付いた…という顔だ…。)

 

「ほら、わたしになんか好かれても嫌でしょ?その惚れ薬は とりあえず、明日みんなに見つけたって話してーー…」

 

「いいよ。」

 

「え?」

 

「お姉ちゃん、あたしを好きになって。そしたら、あたしの言うこと何でも聞いてくれるでしょ?蘭太郎お兄ちゃんを諦めてって、命令するから。」

 

「いやいや…だから、命令されるまでもなく……」

 

「のーんーでー!」

 

「わ、ちょっと!妹尾さ…」

 

(妹尾さんが惚れ薬とやらの瓶のフタを取り、わたしに のしかかってくる。わたしは慌てて彼女の手を掴んだ。)

 

(コロシアイの動機を、コロシアイに乗らないであろう妹尾さんと首謀者のわたしが使ったらダメでしょう…!?)

 

(妹尾さんは全体重を掛けて、瓶を わたしの口に押さえ付けようとする。わたしも、負けじと もがいた。結果ーー)

 

「冷たっ!」

 

「あ。」

 

(妹尾さんが顔面に瓶の中から飛び出た液体を受けた。)

 

「…………。」

 

「……えーと…妹尾さん。」

 

「……。」

 

「…あの、大…丈、夫?」

 

「………お姉ちゃん。」

 

「うん?」

 

「可愛い。」

 

「え。」

 

「お姉ちゃんって、フワフワでプルプルでジミジミで…本当に可愛い。」

 

「いや、あの…。妹尾さん?」

 

(妹尾さんは酔っ払ったみたいに顔を紅潮させている。わたしの胸に顔を埋めて、頬ずりし始めた。)

 

(まさか…本当に惚れ薬が効いてる?そういうシステム?というか、そもそも何で動機が惚れ薬?意味ある?コロシアイと関係ある??)

 

(パニック状態のまま空になった瓶に鼻を寄せると、甘ったるい匂いにアルコール臭。)

 

(…嗅がなかったことにしよう。非実在青少年の規制は実施されなかったとはいえ、クレームの種…。)

 

「ね、お姉ちゃん。」

 

(不意に妹尾さんが顔を上げた。潤んだ瞳で見上げてくる。そして。)

 

「うぴゃあ!?」

 

(彼女は、わたしの弱点を正確に突いた。)

 

「えへへ。ホントに、首すじ弱いんだ?モノクマが言ってた通りだねー。」

 

「モ、モノクマが!?い、いつ?」

 

「いつだっけ?閉じ込められた次の日?」

 

「何それ、知らな…って…ちょ、触らないでっ…!」

 

「声 我慢できないんだ?ふふ。可愛い、お姉ちゃん。」

 

「ちょっ、ほ…ン、とに、妹尾さんッ!」

 

 

「………。」

 

「…あれ、お兄ちゃん。そんな所でヌボーっと突っ立って、どうしたの?」

 

「……大声が聞こえたので。キミ達こそ、何してんすか。」

 

「まだナニもしてないよー?これからヌルヌルする予定なんだー。」

 

「しっしないよ!と、いうか…ッ!妹尾さん!いい加減、手、止めようッ!?」

 

「……えーと、妹尾さん。止めてあげた方がいいんじゃないっすか?」

 

「もう。お兄ちゃんが邪魔するからだよ。せっかく、つむぎお姉ちゃんのギチギチをトロトロにしようとしてたのに。」

 

「な…何をしようとしてたの…?あ、いいや、やっぱり聞きたくない。」

 

「……危ないところだったみたいっすね。」

 

「女の子同士が手を取り合う場面に割り込んでくる当て馬は、馬に蹴られて死んじゃうんだよ!ホーガンでボッカンだよ!お兄ちゃんなんて、嫌い!!」

 

「……!」

 

「……あ。妹キャラ会心の一撃。天海君に1000のダメージ。」

 

「……。」

 

(天海君はショックを隠さない顔で部屋から出て行った。)

 

「ちょっと天海君!今 置いてかないで…!」

 

「じゃ、つむぎお姉ちゃん。ドロドロのグチャグチャになって、ズッコンバッコンしようね…。」

 

(慌てて自室から立ち去ろうとしたものの、妹尾さんに捕まり、大変な目に遭った。)

 

 

 

【東エリア 宿屋2階 酒場】

 

「おはよう。夕べは お楽しみだったみたいだね。壁が薄いから、おすすめしないけどね。」

 

(くっついて離れなくなった妹尾さんを携えて食堂に入ると、佐藤君が開口一番こう言った。)

 

「佐藤お兄ちゃん、もしかして聞いてたの?つむぎお姉ちゃんの可愛い声?」

 

「大丈夫。おかげ様で起こされたけど、枕で耳を塞いで眠ったから。」

 

「良かったぁ!昨日はトロトロになる前に眠くなっちゃったけど、今日 続きしようね?つむぎお姉ちゃん。」

 

「しないよっ!」

 

「おはよう。何かあったの?」

 

「大丈夫。ボクは何も聞いてない。耳は良いけど聞いてない。」

 

「あらぁ、妹尾さん。今日は白銀さんにベッタリなのねぇ。いつの間にか仲良しさんねぇ。」

 

「……。」

 

「つむぎ、何があったの?」

 

「えーと…。」

 

(動機を使っちゃった…なんて、言っていいのかな。)

 

「つむぎお姉ちゃんに、惚れ薬 浴びせられちゃったの。」

 

「……。」

 

「あらぁ。白銀さん、惚れ薬を見つけたのねぇ。」

 

「あ、いや…わたしじゃなくて…。」

 

「…大丈夫だよ、白銀さん。何があったか、想像はつくから。」

 

「妹子が見つけたんでしょ?妹子には恋の香りが分かるからね。」

 

(だから、恋の香りって何だ!)

 

「えへへ、そーなの。でも、つむぎお姉ちゃんに飲ませようとして、失敗しちゃった。」

 

「そんなに白銀さんが好きだったのねぇ。」

 

「そ、そうなの…?」

 

「…まあ、ひとまず無害そうで良かったっす。」

 

 

「うん。動機が“イレギュラー”の手に渡ることがなくて良かったよ。」

 

「イレギュラー…?」

 

「何それ何それ?楽しい話?」

 

「僕らの中に、僕らとは違った目的で動いている人がいるはずだよ。」

 

「…最初のステージで町中に凶器を隠したり、体育倉庫の封鎖を解いた人間のことっすね。」

 

「体育倉庫の封鎖を解いたのは永本さんじゃなかった。彼は凶器を使ってないしね。モノクマも違うって言ってたから、モノクマでもないはずだよね。」

 

「そうねぇ。モノクマは嘘付けないはずだものねぇ。」

 

「ボクらの中にイレギュラーがいる?」

 

「えー、そんなぁ!つむぎお姉ちゃん、あたし怖いっ!」

 

「せ、妹尾さん、怖いのは分かったから…あちこち揉みしだくのは止めてくれるかなっ。」

 

「……モノクマが嘘を言っていないとは断言できないよ。凶器や体育倉庫のことがモノクマの嘘でも、ボク達が暴きようがないから。」

 

「そういえば、モノクマが嘘ついたらコロシアイ終了っていうのは、2つ目のステージに行ってから出た話だもんね。」

 

(でも、モノクマが基本 嘘を吐かないのは、本当のこと。つまり、体育倉庫や厨房の凶器が色んな場所に隠されていたのは、誰かがやったってことだ…。)

 

(トリックスターの仕業…なのかな?)

 

「とりあえず…俺は動機について報告書を置いてくるっす。動機のことなんで早い方がいいし…昨日のFチーム報告書もあるかもしれないっすから。」

 

(天海君が立ち上がり、数歩 歩いてから不思議そうな顔をして振り返った。)

 

「……。」

 

「どうしたの、天海お兄ちゃん?早く行けば?」

 

「え。……はい。」

 

「じゃあ、つむぎお姉ちゃん!今から何しようか?」

 

(天海君が出て行くのを気にも止めず、彼女は わたしにキラキラした目を向けてきた。)

 

「えっと、妹尾さん…。ついて行かなくていいの?」

 

「えー、何で?」

 

「いつもは、天海君に ついて歩いてたじゃない?」

 

「やだなー。今日は、お姉ちゃんとステージデートの日だよ!」

 

「惚れ薬の効果は絶大。」

 

「すごいね。使い方によっては、犯罪率を減らせるかも。……いや、別の犯罪が増える…?」

 

「微笑ましいわねぇ。」

 

「…じゃあ妹子、つむぎを よろしくね。」

 

(ぽぴぃ君と夕神音さんはニコニコ笑いながら、佐藤君はブツブツ何かを呟きながら、哀染君は爽やかに笑いかけてから、酒場から出て行った。)

 

「じゃあ、お姉ちゃん。どこから行く?それとも、夜の続きする?」

 

「前者一択だよ!」

 

(…とは言っても、どうしよう。ステージは狭いから、だいたい全部 見たし、惚れ薬もなくなった。)

 

(…動機をコロシアイと関係ないところで使ったと知ったら、モノクマは何て言うだろう…。もう知ってるだろうけど。)

 

 

 Fチームの様子を見る

 凶器などを確認する

全部見たね

 

 

 

「Fチームの様子を見ておこうか。」

 

「えっ?でも話すことできないし、鍵も掛かってるよね?」

 

「うん。でも、一昨日わたしと哀染君が話してるのを聞いて前谷君が開けてくれたんだよ。」

 

「あ、そっか、じゃあ簡単だよ!」

 

 

 

【西エリア 大富豪の家】

 

(わたしの腕を引っ張る妹尾さんと”大富豪の家”の前まで やって来た。到着するやいなや妹尾さんは大きく息を吸い、)

 

「つむぎお姉ちゃん、この大きいお家で休憩したーい!休憩できないなら疲れすぎて、前谷お兄ちゃんに抱きついちゃうかも!!」

 

(小さな身体から出ているとは思えない声量で言った。すると、バタバタと大きな音が家の中から聞こえ…次いで、わたし達の目の前の扉が開かれた。)

 

「……。」

 

(真っ青な顔で息を切らす前谷君と目が合った。)

 

「わー!開いた!ほら、つむぎお姉ちゃん、行こう?」

 

「う、うん…ありがとう。」

 

(妹尾さんを見たまま、前谷君に向けた礼を述べる。彼は妹尾さんとわたしのツーショットに驚いたのか、青い顔をポカンとした顔に変えていた。)

 

(応接間を覗いてみたけれど、誰も見当たらない。みんな外に出ているのかもしれない。)

 

「あれ?誰もいないね?」

 

「2階が個室らしいし、行ってみようか。」

 

 

 

【西エリア 大富豪の家2階】

 

(2階も変わらず豪華な印象だった。装飾を施した大きな窓は開いていて、外の景色がよく見えた。けれど。)

 

「なんか…妙な匂いがするね。」

 

「ほんとだ。理科室みたいな…。」

 

(廊下に立ち込める濃い薬品の匂い。それを一層 強く感じる部屋の前に来た。中から人の気配がする。)

 

(……この匂い、どこかで嗅いだ気がする。)

 

「ねー、つむぎお姉ちゃん。ここ、誰の部屋かなぁ?」

 

「木野さんだろうね。ずっと部屋にいるって言ってたから。」

 

(でも、昨日は外に出ていたね。クマすごかったから、寝ないで実験とかしてるのかな?)

 

「木野お姉ちゃん、元気かなぁ!お顔見てないから見ておきたいなぁ!」

 

「……。」

 

「あたし達はBチームだから話はできないけど!顔を見るくらいならできるから!!」

 

「……。」

 

「このままじゃ、木野お姉ちゃんの顔 忘れちゃうよー!!!」

 

「……。」

 

(出てくる気配はない。)

 

「ほ…ほら、妹尾さん。もういいよ。行こう?」

 

(むくれる妹尾さんの背中を押して、わたしは その場を後にした。)

 

 

 

【西エリア 大富豪の家1階】

 

「これは!ひとりごとですが!!」

 

「うわっ!?」

 

(1階に降りると、前谷君が叫び出したので、思わず飛び上がる。彼は こちらを見ないように玄関の壁を指差した。一昨日 鍵が掛けられていた壁だ。)

 

「今、どなたかが別荘の鍵を持って出かけています!」

 

「ブツブツひとりごと言ってくれてるね。ありがとー!」

 

(…ブツブツっていうか、ガンガンだよね。)

 

 

 

【西エリア 大富豪の家 別荘】

 

(別荘の前まで来た。扉は開いていて、中から話し声が聞こえる。)

 

「じゃ、ま。そゆことで。」

 

「どういうことでしょうか。」

 

「意味がありますか?分かりマセン。」

 

(室内には、去りゆくモノクマを見送りながら困惑した表情の2人。)

 

「何があったんだろうね。不思議だね、つむぎお姉ちゃん。」

 

(妹尾さんの声に こちらを向いた2人は、わたし達2人が一緒にいることこそ不思議だというような顔をしてから、室内の窓を見た。)

 

「換気のためにモノクマが窓を開閉できるようにしたと言っていましたが…ここは、ほぼ使われていません。」

 

「しかも、タイして開きマセン。その上、開けニクイし閉めニクイ。」

 

(はめ殺しだと思っていた窓が開いている。いわゆる跳ね上げ式といった窓なのか、拳1個分くらいの隙間しか開かないようだ。)

 

「モノクマは別荘の鍵を今夜 増やしておくと言っていました。……今後ここが使われるということでしょうか。」

 

(確かに、モノクマが そんなことをする理由は1つ。今後この場所が使われるから。)

 

(そして、使われるとしたら…コロシアイで、ということだ。)

 

 

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【東エリア 道具屋】

 

(道具屋まで来た。)

 

「お姉ちゃん?どうして凶器の確認なのに、道具屋に来たの?」

 

「後で武器屋にも行くよ。お店のもの、全部 調べておきたいじゃない?」

 

「そっか!さすが、つむぎお姉ちゃん!!頭もカラダも柔らかーい!」

 

「だから、ことあるごとに揉みしだくのはやめてくれるかな!?」

 

(あらぬところを弄られて身をよじると、カウンターに置かれた道具類が目に入った。)

 

「あ…なくなってる。」

 

「え?何が?」

 

「あ、いや…昨日と何か違う気がしたんだ。でも何だったか…何がないんだろう。」

 

「誰かが薬草茶でも作ったんじゃないかな?ここのものは凶器になんかならないでしょ?」

 

「そうだね。」

 

(道具屋から離れ、武器屋や防具屋も見て回ったけれど、変わった様子はなかった。)

 

 

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【中央エリア 教会】

 

(辺りが暗くなり、Fチームが”大富豪の家”に入るのを見送って、Bチームは全員 教会に集まった。)

 

(後ろから2番目の席には、昨日と同じように報告書といくつかの手紙が置かれていた。)

 

「向こうの報告書は何て?」

 

「…特に発見なしらしいっすね。動機がなくなったことで、みんな少し安心してるみたいっす。」

 

「良かったぁ。怒られちゃうかと思った!」

 

「惚れ薬が使われても大きな変化はないものねぇ。ましてや、殺しなんて起きないわ。」

 

「大きな違和感、あると思う。」

 

「…木野さんが部屋から出てこないって書いてあるね。」

 

「また寝ないで研究してるのかな?少し心配だね。……あ、妹子。ボクらに光太クンから手紙だよ。」

 

「えー、また?あのズラズラクドクドの手紙 読むの、疲れるー!」

 

「ローズさんから私宛てもあるわねぇ。」

 

「松井お兄ちゃんからはないんだ?」

 

「そうねぇ。彼は手紙は苦手なんじゃないかしら?」

 

「クラスメイトに手紙 送るか送らないか、個人の自由。」

 

「そうだね!天海お兄ちゃんも芥子お兄ちゃんも佐藤お兄ちゃんも書いてないもんね。」

 

「あたしも、つむぎお姉ちゃんと文通したいなぁ〜。」

 

「え。わたし達は話せるでしょ?」

 

「交換日記みたいで楽しいよ、きっと!」

 

「……交換日記なんて久しぶりに聞いたよ。」

 

(満面の笑みを浮かべる妹尾さんに愛想笑いを返した。その後、Bチーム全員で夕飯のため宿屋に帰った。)

 

 

 

【西エリア 宿屋 白銀の部屋】

 

「やだー!お姉ちゃんの部屋で寝る!!」

 

(夕飯後も離れない妹尾さんを やんわり部屋に帰そうとしたところ、全力の反論をされ思わず ため息が漏れた。)

 

「でも妹尾さん…。校則にも『各自 部屋で就寝』ってあるよね?」

 

「『自分の部屋で』なんて書いてないもん!今朝だって お姉ちゃんの部屋で寝たけど、大丈夫だったじゃん!」

 

「うぐ…。」

 

「ね?いいでしょ?何にもしない!何にもしないから!」

 

「女の子を連れ込もうとしてるチャラ男みたいなセリフはいいからっ…!」

 

(一歩も引き下がらない妹尾さんに負け、仕方なく同じベッドで寝ることにした。)

 

(布団の中で身を寄せてくる身体は とても温かい。そのせいか、植え付けられた”クラスメイト”の記憶が、また わたしの胸に嫌な刺激を与えた。)

 

…………

……

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のチャイムが鳴った。ぴったり隙間なく引っ付いた妹尾さんを起こして朝の準備を始めた。)

 

 

 

【宿屋2階 酒場】

 

「つむぎ、妹子、おはよう。」

 

「…おはようございます。」

 

「おはよう。まだ引っ付いてるの?」

 

「持続性もあるなんて、すごい効果だよね。体温とか心拍数とかホルモン分泌量とか、色々 調べられたらよかったな。」

 

「本当に仲良しさんねぇ。本当の姉妹みたいだわぁ。」

 

「えへへ。ありがとう。」

 

(コロシアイの最中なのに、動機の効果でホッコリされている…。そんなことを考えた瞬間だった。)

 

 

『死体が発見されました!オマエラ、発見現場の大富豪の家 別荘まで集まってください!』

 

 

【西エリア 大富豪の家 別荘前】

 

(アナウンスを聞いて、Bチーム全員で別荘まで やって来た。そこには、1人を除いたFチームの面々が苦い顔をして立っている。)

 

「みなさん…死体発見アナウンスが…。」

 

(天海君が問い掛けると、Fチームの1人が別荘の扉を開けた。その先には、倒れた少女。)

 

(目を閉じた その姿からは、生気が一切 感じられない。)

 

(やっぱり…コロシアイは続くんだ。)

 

(白衣に身を包んだまま倒れた“超高校級の化学者” 木野 琴葉さんを眺めながら、胸の前で手を握り締めた。)

 

 

 

非日常編へ続く

 

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