第×章 ◇と■。デッド・би・£и▼ 学級裁判編Ⅱ
(木野さんが、トリックスター。彼女は…その役割を与えられて、謎解きを複雑化させるように動いていた。)
(『役割』という言葉を使って自分自身を説得する。そうすれば、少し納得できた。)
(今まで木野さんに そんな感じが全然なかったこと、退場が早すぎることなど、納得できないところも多いけど。)
(わたしよりも、みんなの方が納得できていない様子だった。)
「琴葉がボクらが困るようなに動いてたなんて、考えられないよ。そんなことをする理由が彼女にあるの?」
「さあ。学者タイプの人間は良くも悪くも好奇心旺盛だからね。実験だったんじゃないかな。」
「…とても信じられませんが…クラスメイトである佐藤くんが そう言うなら…。」
「そうかもしれマセン。メーワクな好奇心デスね。」
「しかし…彼女は常識的な人間だと思っていたのだが。」
「琴葉は普通の女の子だよ。実験で寝食を忘れるような。」
「木野お姉ちゃん、前のステージでは ずっと哀染お兄ちゃんの宿舎で実験してたもんね。」
「そうだね。前のステージに着いた初日から。」
「……。」
(図書館から近い病院に、哀染君と木野さんがいた。医師のデスクらしき机の上で、木野さんは何らかの器具をガチャガチャいじりながら右手でペンを走らせている。)
(捜査時間に発見した手掛かりと、前回のステージでの記憶。そこには明らかな違和感がある。)
「彼女は普通の女子だった。今回の事件は、だからこそ…ということかい?」
「どういうこと?」
ノンストップ議論1開始
「彼女は常識的な人間だ。だが、前回、前々回の事件で常識から外れるような行動を取った。」
「前々回は体育倉庫の封鎖を解いたこと…か?」
「前回は…祝里サンの現場を荒らしたこと。」
「まさか…それを苦に…?」
「木野お姉ちゃんが自殺したってこと?」
「木野さんは自分で毒を飲んだのでしょうか?」
「ハーア、また こういう話になるのかぁ。ライターの風呂敷の狭さが丸わかりだね。」
「それに賛成だよ…。」
(木野さんが自分で茶筒を開けたとすると、少し不自然なところがある。)
△back
「それは違うっす。」
「茶筒のフタには左手の跡が残ってたんだよ。」
「あ?何が違うんだよ。木野の左手にも金箔の跡があったんだろ。自分で飲んだってことじゃねーか!」
「でも…それだと、おかしいんだよ。木野さんは右利きだから。」
「うん。彼女は右利きだよ。病院で実験している時、右手で書いているのを見た。」
「レストランでも右手で食べてたっすね。」
「何でテメーらは、ンなこと いちいち覚えてんだ?」
「レストランで席に並んで食べる時、利き手が違うと分かりやすいと思うっすけど。」
「なるほど なるほど。右利きと左利きが並ぶと腕が ぶつかり、食べずらい。」
「え?自分は右利きですが、どなたが隣でも ぶつかりますが…!」
「それはテメーがデカすぎるからだろ!」
「ええと、確かに、木野さんは右利きでしたね。」
「けれど…木野さんの左手の指に金箔の跡が残ってたっす。そして、茶筒のフタの部分に左手で開けた金箔の跡も。」
「琴葉は右利きだから、別荘の鍵を左手で開けたり茶筒を開けたりするのは不自然だよ。」
「キノ、右手も金箔付いていたかもしれマセン。別荘で手を取りマシタ。」
「木野さんの右手の被膜に金箔は付いてなかったから、左手が使われたのは明らかだよ。」
「じゃあ、どうして?」
「金箔の跡は犯人の偽装工作。犯人が木野さんの手を使って偽装を働いたのか、自分で左手を使ったのかは分からないけど…。」
「もし鍵を使った後に茶筒を開けたのが犯人なら、犯人は左利きの可能性が高いってことっすね。」
「犯人は左利きってこと?」
「ピンクのサウスポー…」
「……。」
(数名が、その人に視線を向けた。わたしも、記憶を頼りに その人物へ目を向ける。)
▼この中で左利きなのは?
「私は左利きでもピンクでもないわよ。」
「ピンクかどうかは関係ないんじゃないかな…。」
△back
「松井君、あなたは左利きだよね。」
「キミは、いつも食事の時 端の席に座ってたっすね。」
「あ?そういえば、オレと席を交代しろとか何とか言ってたな。」
「間違いありマセン!クラスでも、マツイは左利きと言いマシタ。」
「そうねぇ。掃除の時も、よく左手を動かしてたわ。」
「……そうだね。」
「じゃあ、松井お兄ちゃんが犯人なの?」
「え!?そ、そうなんですか!?」
「確かに…僕は左利きだけど、犯人ではないよ。」
「ほ、本当に…?」
「そもそも、利き手で判断するのは合理性に欠ける。たまたま利き手を使わないでフタを開けることもあるだろう。」
「ハサミや銃を使うというなら まだしも…利き手と反対の手でフタを開けるくらいなら可能性がないとは言えない。」
「確かに…右前に構えるからといって利き手が左とは限りません。」
「そうねぇ。片方ばかり使っていると身体のバランスが悪くなるから、両方の手を使ったりするものねぇ。」
「ボクは左手右手、どちらも結構 器用。結構 大事。」
「右利きの人間が死んだ木野さんに向かい合って偽装工作をした可能性もある。」
「それなら、犯人の右手側に木野さんの左手がくるのだから、彼女の左手に痕跡が残されたのも至極 当然さ。」
「加えて言えば、僕と木野さんの手だと大きさが違う。茶筒に付いていた金箔の手の跡は大きかったのかね?」
(そういえば…小さかった。やっぱり、利き手で判断するのは難しいかも。)
(そんなことを思っていると、)
「みんな。実は、僕、こんなものを拾ったんだよね。」
(佐藤君が見覚えのある封筒を掲げて見せた。)
「その封筒は”大富豪の家”にあったものですね。」
「そうだね。光太クンからの手紙も、その封筒に入っていたよ。」
「はい!それは”大富豪の家”にあった封筒です!自分は大切なクラスメイトである先輩方に一筆したためました!」
「一筆というには、グダグダの大長編だったよね。」
「そう。Fチームが使っていた封筒だよ。そして、これは松井さんがBチームに宛てた手紙だ。」
「……何だって?」
「…そんなものは教会で見なかったっすね。佐藤君、どこにあったんすか?」
「今朝、死体発見アナウンスの直後に別荘の窓の外で見つけたんだ。茶筒 近くに落ちていたよ。」
「ああ!?何 勝手に持って来てんだ!?」
「松井さんが犯人なのかと思って、先に調べてたんだ。」
「……中を見たのかね?」
「一応。現場にあったものだったからね。」
「見られちゃマズイもの入ってた?」
「中に何 入れていマシタか?」
「……。」
「それは…夕神音さんに出した手紙だよ。」
「え?」
「夕神音お姉ちゃんに?」
「みんなに回してもいいかな?」
「……構わないよ。」
(封筒が佐藤君の手から離れて読み回される。哀染君、天海君の手を経て、わたしの手元まで やって来た。中には、二つ折りの便箋。)
(手紙にはクラスメイト時代の思い出話が綴られていて、そして…。)
「これ、楽譜?」
(手紙と同じ紙に、五線譜と音符で構成された楽譜が書き込まれていた。左隣の松井君に手紙を渡して、わたしは疑問を投げ掛けた。)
「ーーそれは…」
(手紙を確認した松井君は左手の指を口に押し当てた。)
「それは、恋文さ。」
「こ、いぶみ?」
「そう。事件には何の関係もない。」
「えっと…ラブレターが現場に落ちてたってこと?」
(ここのステージ来てからチーム分けとか動機とか…色ボケすぎてない?一体どこに向かっているの?何を目指しているの?)
「恋文…?ファンレターかしらぁ?」
「あ、そっか。松井お兄ちゃん、視線がヌルヌルしてるから…。」
「だから、ヌルヌルはしていない。」
「松井くんから夕神音さんの手紙が、どうして事件現場 近くに落ちていたんでしょうか。」
「僕が知るわけないだろう。」
「テメーが犯人だからじゃねーのか!?」
「僕は既に数日前には手紙を出しているんだ。とっくに僕の手から離れたものだったのだよ。」
「数日前というのは、いつっすか?」
「あの ふざけた動機発表の翌日だね。」
「ということは…このステージに来て3日目だね。でも、そんな手紙、わたし達Bチームは見てないよね?」
「うん。松井お兄ちゃんからの手紙なんて1度もなかったよね。」
「何?本当かい?」
(冷静だった彼が、初めて慌てたような声色になった。)
「夕神音さん。君は読んでないということかね?」
「知らないわぁ。初耳よ。」
「……何ということだ。」
「どういうこと?」
「簡単だよ。手紙は松井さんが持っていて、犯行の際 誤って落とした。おそらく、窓の外に茶筒を捨てる時に。」
「でも、窓の外とはいえ、手紙が落ちて気付かないなんてことあるかな?小さいものならともかく…」
「…確かに、これは僕が書いたものだ。が、白銀さんの言う通り、僕は小さなシミも見逃さないように訓練しているのだよ。僕が犯人だったら、こんなもの絶対に残さない。」
「それに…Fチームである僕は、夜 出歩くことはできなかったのだよ。これは どう説明するんだね?」
「た、確かに…!それに、木野先パイもFチームですから、出歩けないはずですよ!!」
「白銀さん。木野さんの被膜から、木野さんが夜時間に別荘にいたのは確かっすね。」
「……。」
(木野さんは夜時間に別荘にいた。暗い中出歩けないはずなのに、どうして…?)
閃きアナグラム スタート
反 ノ ル
ル 応
▼閃いた!
「ルミノール反応だよ。」
「ルミノール?さっき、話してた?」
「そっか。Fチームの外出禁止のルールは、厳密に言えば『夜の外出』じゃない。」
「え、ええ…。『暗くて足元が見えない状態の外出』でした。」
「木野さんはルミノール反応によって足元を照らして、別荘に行くことができた。犯人も…そうだったんだよ。」
「ルミノール溶液と色々混ぜた酸化溶液を使ったってこと?だとしたら、琴葉自身が別荘まで明るくして向かったことになるよね。」
「えっと、犯人がルミノールを盗んで使ったということはないですか?」
「木野の部屋、薬品たくさんデス。ワタシ達にはルミノールどれか分かりマセン。」
「前のステージで研究を見ていた哀染さんなら分かるかもしれないけど…哀染さんはBチームだ。誰にも知られずに”大富豪の家”に侵入するのは不可能だね。」
「別荘にいたのは、やっぱり木野さんの意志?」
「あいつは…このステージに来てから、ほぼ外に出てなかったんだぞ。何で突然そんな薬品使ってまで…。」
「え?わたし1回 木野さんを見たよ。ここに来た3日目。動機発表の翌日…。教会の前で。」
「教会で?まさか、彼女は…」
(木野さんが教会で何をしていたのか。それは、きっとーー…)
1. 報告書を回収した
2. 松井の手紙を回収した
3. 手紙を置いた
「君には記憶力というものがないのかね?」
「確かに記憶力に自身はないけれども…推理モノのメタ知識の記憶は失ってないよ!」
△back
「木野さんは松井君の手紙を回収して持っていたんだよ。同じ日に教会から松井君の手紙がなくなっていたんだから。」
「やはり…。しかし、どうして そんなことを?」
(松井君は口に親指を押し当てながら、こちらに視線を向けた。)
「松井お兄ちゃんから夕神音お姉ちゃんへのラブレターを木野お姉ちゃんが取っちゃった…ってことだよね。」
「痴女の縺れ。」
「それを言うなら痴情のもつれ。」
「うーん…でも、木野お姉ちゃんから松井お兄ちゃんへ特別な感情は感じなかったけどなぁ。」
「木野さんは大人しかったからねぇ。あまり顔にも出ないんじゃなかったのかしら?」
「えー!分かるもん!あたし、どんなに淡くても恋の香りが分かるんだもん!!」
(勘違いで恨まれてた身としては、その精度は高いとは思えないけど…。)
「木野さんは自分で別荘に行ったはずっす。そして、現場の窓の外に落ちていた松井君の手紙は木野さんが持っていたと思われるっす。」
「えーと…でも、木野お姉ちゃんは右利きなのに左手に鍵の金箔が付いてて、茶筒も左手で開けた跡があったから、左利きの人が現場で細工したんだよね?」
「だから、そうじゃない可能性もあると言っているだろう。」
「……。」
(左利きの人が犯人だとしたら…部屋の状況でおかしなことがない?)
ブレインサイクル 開始
Q. 左利きが残した痕跡と思えないのは?
1. 窓の手の跡2. 金箔の鍵3. ヘビの人形
Q. 窓に手の跡を残したのは?
1. 松井 麗ノ介2. 木野 琴葉3. 夕神音 美久
Q. 誰が手紙を窓の外に落とした?
1. 松井 麗ノ介2. 木野 琴葉3. モノクマ
「犯人が左利きで窓の外に茶筒を捨てたとしたら、窓の手の跡は変だよね。」
「別荘の窓?あの、開けにくくて閉めにくい?」
「うん。あの窓は少し特殊だったから…利き手で解錠部を操作する必要があった。その別荘の窓には右手で解錠部を開けた痕跡があったよ。」
「窓に左手の金箔の跡が残ってたっすね。右手で解錠部の取手を引きながら、左手で窓を押したってことっす。」
「つまり…窓を開けたのは、右利きの人ということですね。」
「誰だよ?」
「……木野さんだと思うよ。左手の金箔跡に指紋がなかったから。」
「キノの特殊被膜デスね。指紋も付かない便利デス。」
「つまり…茶筒や松井さんの手紙を窓の外に落としたのは木野さん自身。金箔は左利きの犯人による偽装じゃない。そう言いたいのかな?」
「やっぱり!さっき木野お姉ちゃんが自分で薬を飲んだって言うのは、間違いじゃなかったんだよ!」
「ええ!?じゃ、じゃあ木野先パイは自殺!?」
「……そうとは限らないんじゃないかな。茶筒や手紙を窓に捨てたのが木野さんだったってだけだ。」
「左手で茶筒を開けたのは…不自然?」
「琴葉は右利き。でも、鍵を開ける時に付いた金箔は左手だった。茶筒のフタに残ったのも左手の跡…どういうことなんだろう。」
「…地味に混乱してきたね。」
(こういう時は、発想の逆転が必要なのかもね。3章でキーボ君も、そんなこと言ってたし。)
1. 盤面をひっくり返す
2. 茶筒をひっくり返す
3. 手のひらをひっくり返す
「コラー!『ダンガンロンパ』じゃないことするなー!!」
(あなただって、妖怪ネコや亀仙流の雑なコスプレしてたじゃない!!!)
△back
「反対…だったのかも。」
「反対?」
「発想を逆転…じゃなくて、茶筒を逆転させるんだよ。」
「茶筒を…逆転…?あ…。」
「あの茶筒は、フタに液体を入れて飲める仕様っす。そんなに毒の量が多くなければ、ひっくり返した状態でも使えるっすね。」
「ひっくり返した茶筒の底…フタを左手で支えて、右手で回し開ける。すると、フタに左手の跡が残るということか。」
「それを木野さんがしたってこと?」
「たまたま…でしょうか?」
「たまたまではないだろうね。そんな飲み方をするのは不自然だし。」
「じゃあ、どうしたって言うんデス?」
「……。」
(彼女が…トリックスターだったとしたら、彼女の目的は…)
1. 首謀者を乗っ取ること
2. かませ眼鏡になること
「シロガネの言うこと分かりマセン!『ノックは3回がマナー』くらい分かりマセン!プロトコルマナーと違いマス!」
「それは…わたしも よく分からないけれども…!」
△back
「木野さんは…裁判を複雑にするような事件を起こしたかったんじゃないかな。」
「ええ!?」
「もし…彼女が本当に“イレギュラー”だったなら。今までの行動は、コロシアイを起こしたかったから…だよね。」
「……信じられないけどね。」
「複雑化させて どうすんだよ!?あいつは一体、何 考えてたんだ!?」
「例えばだけど、自殺して…わたし達シロを全滅させる…とか。」
(ーー本来なら、そこに理由がないとおかしいけれど。)
「なるほど…僕に罪を着せるために手紙や茶筒の細工をしたのか…?」
「……左手で鍵を開けて金箔を付け…わたし達に利き手を意識させようとしたのでしょうか?」
「なるほど策士。そうと決まれば、毒の特定。」
「…そうと決まったわけじゃないと思うけど、そうだね。木野さんが使った毒は何だったのかな?」
「茶筒に毒を入れて別荘に持ち込んだのも、おそらく木野さん自身っすね。」
(毒を持ち込んだのは…木野さん自身。このステージに来る前に、わたしは彼女を“あの場所”で見た。今回 使われた毒は…)
1. モノクマが渡したもの
2. 前のステージのヘビの人形
3. 前のステージの毒キノコ
「なるほど。そう思う理由を話していただけますか?」
「ごめん。特に理由のない妄言が裁判場を襲うーーってヤツだったよ。」
△back
「毒キノコだよ。」
「前のステージの森にアリマシタ。オレを喰うと死ぬゼ!ですね。けど、どうして そう思いマス?」
「モノクマが渡した毒の可能性もあり。」
「思い出したんだ。このステージに来る前に、木野さんが森にいてキノコを採ってたこと。」
「木野さん。すごい荷物だね?」
(木野さんはパンパンのリュックを背負い、手にも荷物を抱えていた。)
「それ、素手で持ってても大丈夫なの?」
「うん。私は…こういうのに慣れてるから。」
「……そっか。」
(彼女は手に持っていた物をビニール袋に移して、リュックに詰め込んだ。)
「彼女は、前のステージにあった毒キノコらしきものを袋に入れて、このステージに持ち込んでたよ。」
「……モノクマ。毒を渡すって言ってたっすけど、あれは木野さんに渡したんじゃないっすね?」
「えー?聞きたい?どうしよっかなぁ?町長に甘えるクセ、付いちゃわない?」
「……モノクマファイルに記載がない以上、ボクらが自分で毒種を割り出すことは難しい。琴葉が持っていたもののヒントくらいはあってもいいはずだよね?」
「仕方ないなぁ。」
(モノクマはハーアと、わざとらしく ため息を吐く。そして言い放った。)
「ボクは木野さんに毒を渡してないよ。」
「ということは…白銀さんが言った通り、木野さんは毒キノコの毒を液体にして…別荘で飲んだってことっすね。」
「何で わざわざ別荘で?」
「僕たちを混乱させるため…じゃないのかね。本当に彼女が”イレギュラー”だったらの話だが。」
「あ、ちなみに…あの毒キノコは、スペシャルキノコ。トリカブトみたいな毒性がチャームポイントの特別キノコだったのです!」
「トリカブト…?」
「猛毒と言われる…アレですか!?」
「そのキノコから作った毒を木野さんが飲んだの?」
「きっと…たくさん苦しんだ。」
「クソッ…!そんなモン自分で飲みやがったのか!」
「この事件は…やはり、木野さんの自殺…ということになるね。」
「ハーア。なんか、こういう展開もマンネリだよ。練りに練られた裁判展開はないものか…。」
(またモノクマが、わざとらしい ため息を吐く。)
(確かに、前回が自殺というオチだったんだから、今回も自殺というのはーー…)
(思わず頬に手を当てようとして、慌てて腕を胸の前で組んだ。その時。)
「ちょっと待ってくだサイ!」
(大声を放ったのは、わたしの正面にいるローズさんだった。)
「致死量のトリカブトならオカシイです。毒 飲みましたら、だいたいシビレと激しい嘔吐、呼吸困難のアト、死にマス。」
「そ、そうなんですか。」
「……何で、ンなこと知ってやがる。」
「大切な商売道具ですから!」
「物騒な商売だね。」
「…それなら、おかしいっすね。」
(あの毒キノコがトリカブトと同じ毒性があったなら…おかしいことは…。)
1. 血痕がなかった
2. 死体に傷がなかった
3. 死体や現場が綺麗すぎた
「つむぎ?大丈夫?固まってるけど。」
「あ、ごめん。Now Loading…状態だったよ。」
「ああ…。ボクも よくなるよ。」
△back
「木野さんの死体も現場も…綺麗だったよね。」
「ええ。とても。苦しんで亡くなったようには見えませんでした。」
「それが何だ?」
「綺麗なことは良いことじゃない?」
「綺麗だと、おかしいんすよ。激しい嘔吐の後、死に至るなら…。」
「そっか。被害者の吐瀉物なんかも…匂いすら残っていなかった。琴葉が片付けることはできないはずなのに。」
「つまり、現場に手を加えた人がいたんだよ。」
「その手を加えた人がクロの可能性もあるよね。」
「誰なんですか!?その手を加えた人っていうのは!?」
「……。」
(事件には才能が使われる。今回、その才能を使ったのは…。)
▼現場に手を加えたのは?
「何が どうして そうなるんですか!?」
「どうしてだろうね?自分でも分からないや。」
△back
「松井君。あなたの“超高校級の美化委員”の才能なら、現場に匂いも残さず綺麗にすることができたんじゃないかな?」
「おや、また僕を疑うのかい?」
「おい、コイツは さっき犯人じゃねぇって言ってただろ?」
「犯人かどうかは置いておいて…限られた備品で現場を綺麗にできるのは、松井君…キミっす。」
「はあ。疑われ慣れてきたよ。」
「だが、昨日の夜Fチームで起こったことを知れば、僕の疑いは晴れるはずさ。」
「昨日の夜?」
「あれは夕食前だった。前谷君が夕食のスープ鍋を落として床に溢したのだよ。」
「はい!自分の声に驚いて山門先パイの読んでた本が落ち、それに滑った郷田先輩が放り投げたコップをキャッチしたローズ先パイと自分の肩がぶつかってしまい…」
「ちょっと当たったくらいで、マエタニ転がりマシタ。当たり屋みたい。」
「とにかく、その時 僕は拭けるものを全て使ってしまったのだよ。”大富豪の家”にはすぐ使える替えのシーツやタオルもなかったからね。」
「あ、はい。それは本当です。罪滅ぼしに自分の部屋で水洗いした ぞうきんを干していましたが。」
「僕の手元には、ぞうきん1枚しかなかったのだよ。」
「えっと…それが、どうかした?」
「やれやれ…掃除というものを分かっていないようだね。」
反論ショーダウン 開幕
「確かに、僕なら部屋が どんな状態であろうと美しく掃除できる。」
「だが、そのためには掃除道具が必要なのだよ。吐瀉物を拭き取るのに必要なのは紙類や布。けれど、拭き取った後のゴミなどを見なたかい?なかったはずだ。」
「ぞうきん1枚でも普通はできなくないが、ここでは無理だ。ぞうきん1枚で掃除するには、十分な水が必要なのだよ。」
「キッチンは夜時間に封鎖されるし、残る水回りは自室のシャワールームくらいのものだ。行き来するには遠すぎる。」
「水ならあるじゃない。別荘の周りには川が流れているんだから。」
「あれが普通の川なら、吐瀉物の清掃に利用できるだろう。普通の川は海に流れていくからね。」
「だが、あの川は普通の川とは違う。常に同じ水がグルグル回っているだけだ。」
「つまり、あそこで吐瀉物を洗い流したとしたら、何かしらの汚れが川で発見されるはずだよ。そんなもの誰も見なかっただろう。」
「他の水場も離れている。川も汚さず、ぞうきん1枚で綺麗にするのは無理なのさ。」
「ハア…芸術を愛さない人間は…これだから…。」
(彼の中で『芸術は掃除だ』そうだ…。)
△back
「できたんだよ。ステージの川は循環型で、グルグル回りながら洗浄されているんだから。」
「じゃあ、ごくごく普通に掃除すればいいってことだよね?」
「マツイ、どうですか?」
「……。」
「気付かれたなら、仕方ない。」
「えっ…?」
「テメーが犯人か!?」
「待ってくれたまえ。そうは言っていない。僕は死体を発見しただけなんだ。」
「発見しただけ…?」
「……松井君、詳しく話してください。」
「ああ。そうだね。あれは、昨晩のことだ。」
「ふと僕は夜中に目が覚めて窓の外を見た。すると…別荘までの道が発光しているじゃないか。何かあったのかと思い、僕は部屋を出て玄関へ向かった。」
「玄関の扉を開けて外を見ると、やはり道が発光していた。一歩 外に出てみたが、モノクマがルール違反だ何だと出てくる様子もない。」
「発光する道は別荘まで続いていたから、玄関から別荘の鍵を取って、別荘へ向かったんだ。」
「そして、発光する道を辿り別荘の扉を開けると…木野さんが倒れていた。既に事切れて冷たくなっていたよ。吐瀉物の跡から、毒物を飲んだのだと すぐ分かった。」
「あまりにも痛々しい姿だった。女の子だし、胃の内容物を見られるのは恥ずかしいだろう。それで、掃除しておいたのだよ。」
「……。」
「……。」
「……嘘だね。」
「なぜ嘘だと言い切れる?残念ながら、事実だよ。…だが、裁判を混乱させるという許されないことをした。みんなの命が懸かっているというのに。」
「……本当か。信じてもいいデスカ?」
「ローズさん。夕神音さん。君たちクラスメイトを危険に晒すつもりはなかったのだよ。それだけは信じてほしい。」
「……。」
「おかしいよ。信じちゃダメだ。何か裏がある。」
「何だね、君は。よほど僕を犯人にしたいようだね?そういう人間の方が、犯人のように見えるよ?」
「現場を掃除するなんて、犯人以外にメリットがないよ。」
「僕は汚れが目の前にあるのが許せないタチでね。それに、木野さんだって犯人じゃないのに前回の事件現場を荒らしていたよね。」
「……。」
「松井君、君が別荘に向かった時、鍵は別荘にあったんすか?」
「別荘の鍵は昨日の夜の時点で2つあった。僕が向かった時は玄関に1つしか残っていなかったから、木野さんが1つを持って行ったのだろう。」
「キミが別荘に辿り着いた時、木野さんは毒薬を飲んで死んでいたんすよね?じゃあ、彼女の首に残った絞殺のような跡は何なんすか?」
「……。ああ、あれか。」
(天海君の問いに松井君がフッと小さな息を吐いた。)
「……あれは、僕が首を締めた跡さ。ヘビの人形を使ってね。」
「はあ!?」
「どういうことですか?」
「僕が木野さんを殺したんだ。」
「さっきと言っていること違う。二重人格?記憶喪失?ダイコン持って大混乱?」
(松井君がククッと喉を鳴らす。)
(被害者の自殺だと言ったり、自分がクロだと言ったり…わたし達を混乱させようとしている…?まるで、彼がトリックスターみたいに…)
(ーーううん。松井君には、何か目的がある。可能性があるのはーー…)
1. 松井がクロ
2. 木野の自殺
3. 松井と木野が共犯関係
「そんな単純じゃないと思うな。」
「そうだよね。事件発生・捜査・解決まで30分でする1回完結回とは違うよね。」
△back
「この事件で…もしクロが2人いたとしたら…。」
「クロが2人だぁ?」
「つまり…」
「…木野さんが自分で飲んだ毒薬と…松井君の首締め。それらが同時に木野さんを死に至らせた場合っすね。」
「うん。木野さんが毒で力尽きるのと、松井君が首を絞めたのが同時刻の場合…クロが2人ってことになるよね。」
「え…ええええ!?」
「木野さんの自殺だと言ったり自分が殺したと言ったり…松井君には、そんな言い方ができるだけの余裕があるってことじゃないかな。」
(現実なら、毒とロープで同時に…なんて絶対あり得ないけど…やっぱりフィクションだ。きっと、今回の”最大の謎”は、ここなのだろう。)
「え…えっと、つむぎお姉ちゃん、どういうこと?」
「どうして余裕?クロが2人で何が変わる?」
(みんなが狼狽の声を上げる。…と、松井君は笑みを漏らして笑い出した。)
「クフ…フ…ハハハ!君たちには、分からないだろう?僕が彼女を殺したのか、彼女は毒で自殺したのか…それとも、それは同時に起こったのか!」
「僕がクロなのか。木野さんがクロなのか。僕と木野さん、どちらもクロなのか。」
「で、でも共犯者はシロ扱いだよ!?ね、お姉ちゃん!」
「ううん、共犯者はシロ扱いだけど…同時に殺したならクロは2人なんだよ。このステージに来た時、モノクマが言った通り。」
「……2人で寸分の狂いなく相手を殺したというなら、それは2人がクロ扱いだよ。」
「処刑のリスクを負うクロは2人?ということは、外に出られるのも2人ということだよね?」
「もし、松井君と木野さんが同時に木野さんを殺したとすると…クロ2人を選出しなきゃいけないんじゃないかな。」
「……そうなの?モノクマ。」
「えー、まあ。そういうことになりますね。」
(でも、クロが2人いたことなんて今までの『ダンガンロンパ』ではなかった。したがってーー…)
「投票は1人1票のルールだったね。冒頭で確認した通り。」
「……事前にモノクマに確認していたんだね。」
(そういえば、『V3』でも裁判冒頭に投票について質問があった回があったっけ。あの時は…クロ2人の選出で、どちらかが合ってたら正解扱いという話だった。)
「……。」
(ーーそれなら、いい方法がある。)
「みんなの票を木野さんと松井君に分けるのは どうかな?」
「票を分ける?琴葉と麗ノ介クンで同票になるように投票するってことかな?」
「2人に投票しておけば…2人がクロでも、松井くんがクロでも、木野さんがクロでも正解…ということですか。」
「そうなんすか?モノクマ。」
「まあ、そういうことだね。」
「確かに、自分たちは今12人ですね!6票ずつで分けられます!」
「松井くんは数に含まない方がいいと思いますが…。」
「11人で どうやって同票にする?」
「オレらの中で誰か1票を捨て票にしてテキトーなとこ投票させたら問題ねぇ。」
(みんなが口々に言う中、わたしは『V3』4回目の裁判を思い出していた。どうして彼は あんな質問したのか…と。)
(わたしか夢野さん…もしかしたらゴン太君自身を説得すれば両吊りに持っていけると思ったのかな。)
(……今となっては分からないや。首謀者でも、トリックスターの行動は読みにくい。)
(そんなことを考えていると、隣から声が上がった。)
「それは違うっす。」
「え?天海君?」
「…俺たちが2人に票を分けるのは不可能っす。松井君がいる以上。」
「それは!松井先輩以外で相談して票を分ければ…!」
「松井君は、自分にも木野さんにも…誰に投票することもできるんすよ。」
「あ。」
(そっか…両吊りって、クロ側が乗ってくれるの前提の話だった。何人であっても、この学級裁判で使うのは無理だ…。)
「クク…。」
「そうか…。これは…この裁判の必勝法だ。彼は それに気付いた。だから瀕死の木野さんの首を絞めたんだよ。」
(学級裁判の必勝法…?それってーー…)
2. モノクマに賄賂を渡す
3. 信用勝負に勝つ
「……難しすぎたかな?もっと簡単に説明しようか?」
「だ、大丈夫!すぐ理解するよ!」
(一応、チームダンガンロンパの名に賭けて。)
△back
「そっか…。この投票を2人に分ける場合…実質、松井君に投票を委ねることになるんだ。」
「2人の容疑者をワタシ達で同票にシマス。これはジッシツ全員0票と同じ!」
「松井以外で投票を同一にすると、松井の票で全てが決まるっつーことか。」
「一票の重みが変わってしまう…そういうことですね。」
「えっと、じゃあ、こういうのは どうでしょう!?松井先輩か木野先パイ、どちらかに1票 少なく投票するんです!そこに松井先輩が投票すれば…!」
「松井君が どこに投票するか…俺たちは予想しようがないっすね…。」
「あ!」
「つまり…ボク達は投票で琴葉と麗ノ介クン2人を選出できない。」
「その通り。君たちは正解できない。僕と木野さん2人だけが外に出られる権利を得る。そういうことなのだよ。」
「え。え。やっぱり、2人同時にクロが正解なの?そんなこと…」
「才能によって不思議なことが起こる。フフ…僕の掃除は上手くいったのだよ。」
「……。」
(シンと裁判場が静まり返る。わたしは『こんな展開は初めてだな』などとボンヤリ考えていた。学級裁判に必勝法があるなんて考えてなかった。)
「…どうして?」
(そんな中、松井君の向こう側から静かな声がした。)
「松井君…どうして貴方は外に出たいの?こんな…みんなを犠牲にしてまで。」
「あ!そ、そうだよ!松井お兄ちゃん、夕神音お姉ちゃんが死んでもいいの!?松井お兄ちゃんは出られたとしても、夕神音お姉ちゃんも処刑されちゃうんだよ!?」
「……。」
「僕が こんなことをしたのは…君のためさ。夕神音さん。」
「…え?」
「夕神音さんのため?」
「僕は君を救い出したかったのだよ。」
(彼は絞り出すような声色で、そう言った。)
「スクイダス、意味 分かってイマスか!?」
「救い出すどころか、死のピンチです!!」
「仕方ないだろう。夕神音さんが手紙を読んでいないなんて、思っていなかったんだから。」
(そう言って、彼は先程 話題に上がった手紙を掲げた。)
「この手紙には、共犯者になろうという暗号をしたためたのさ。音階と『いろは』を対応させた暗号でね。」
「音階の暗号?」
「分かりやすく言うと…ピアノソナタの殺人事件に類似するものってことかな?」
「白銀さん。分かりやすくなってねーっす。」
「夕神音さん。君なら解けるだろう簡単な暗号さ。それで、僕は返事を待っていた。楽譜でも、歌に のせてでも返してくれると思っていたのだが…。」
「…返事はなかった。だから、君が皆を犠牲にして外に出るよりも、この地獄で苦しみ続けることを選んだ。僕は、そう思ったのさ。」
「実際は…手紙を手にしたのは琴葉で、美久は読んでいなかったんだよね。」
「いえ!だとしても分かりません!!夕神音先パイを想うなら!絶対に正解できないクロになるなんて!」
「そんなことをすれば全員が死ぬと気付かなかったはずないですよね。」
「もちろん…気付いたよ。」
「なら、何でだよ!?」
「死は救済だ。」
「……。」
(松井君の顔が怪しく歪んだ。笑っているような、泣いているような、楽しんでいるようでも、苦しんでいるようでもある、そんな顔だった。)
「僕は、この地獄から君を解き放ってあげるのだよ!」
「……。」
「松井…クン。」
「テメー…」
「マツイ…シンプルに気持ち悪い。」
「ど、どうするんですか!松井先輩の言った通り、自分達…全員 処刑になってしまいます!」
「……。」
「……。」
「本当に、可能だったんでしょうか。」
「え?」
「木野さんの死と合わせて木野さんを殺す。そんなこと…松井君は本当にできたんすかね?」
(それはフィクションだからーー…)
「前回、前々回の事件でも僕たちは学んだだろう。才能によって不思議なことも起こり得る…と。」
「キミの才能で、同時に人を殺せるとは思えねーっす。」
「あ…確かに…。」
「……。」
「薬で死ぬと同時に首絞めて殺す、シロウトに難しい。ウルトラCデス。でも、だからこそ挑戦する価値アリマス。」
「…そうか。実際には、同時に殺せたかなんて目測で分からない。松井さんは賭けをしているだけなんだ。」
「……。」
「松井さん。キミも、クロが誰か分かってないんでしょ?」
(佐藤君が不適に笑うと、松井君は唇を噛んだ。)
「…そうなの?松井君?」
「…そうさ。実際に木野さんと同時にクロになれたのかは賭けだ。未だに自分でも成功しているかは分からない。」
「え。」
(”犯人ですら誰が犯人か分からない事件”再び?モノクマは…クロ、分かってるんだよね?)
(チラリとモノクマを見たが、目は合わない。『V3』5回目事件と同じだったらという不安が湧く。)
「賭けに勝って夕神音さんを解放できるのか。負けて1人死んでいくのか…僕にも、実のところは分かっていないのだよ。」
「そんな…。」
「さあ!投票したまえ!僕でさえ犯人が分からない犯人に!」
(隣の彼は両手を掲げて声高に言った。その後、)
「……かは、」
(その手を喉元に押し当てて嗚咽を漏らす。)
「え、何?」
「…ぐっ、あ…、あ、」
「松井…君?」
(彼の両隣の わたしと夕神音さんが声を掛けても、返答はなく。)
「…う、がぁあ…。」
(うめきながら、彼は裁判場のフロアに沈んだ。そして、すぐに全く動かなくなった。)
「……。」
「松井君!」
(ポカンと停止した わたしの反対側から天海君が駆け寄り、彼の脈を取った。)
「……死んで…ます。」
「!?」
(天海君の言葉に、裁判場の全員が狼狽える。やがて、そんな空気に似合わない、場違いに呑気な声が降ってきた。)
「えー…裁判中ではありますが…」
「死体が発見されました!オマエラ、目の前を ご覧ください!」
(目前でモノクマが行うアナウンスを、わたしは ただ信じられない気持ちで聞くことしかできなかった。)
学級裁判 中断