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第×章 ◇と■。デッド・би・£и▼学級裁判編Ⅲ

 

「裁判中ではありますが…死体が発見されました!オマエラ、目の前を ご覧ください!」

 

(モノクマの声が響く裁判場が静まり返ったのは、ほんの一瞬のこと。すぐさま、みんなが混乱の声を上げる。)

 

(わたしは呆然と、隣にできた真新しい死体を見下ろしていた。)

 

(どうして…?裁判中に…おしおきでもないのに、人が死ぬなんて。)

 

(あり得ない。『ダンガンロンパ』で こんなこと…起こり得ない。)

 

 

「混乱している時間はないよ。もう裁判は始まってるから、オマエラに十分な捜査時間があるとは言えないんだから。」

 

「捜査時間…?」

 

(うぷぷと笑うモノクマに問い返す天海君。それにモノクマは楽しそうに答えた。)

 

「言っただろー!2人の被害者が出た場合、死にたてホヤホヤの死体が裁判の対象だって。そんなに すぐ忘れるなんて、記憶喪失なの?」

 

「あ、記憶喪失だったね!メンゴメンゴ!」

 

「……忘れた記憶はあっても、記憶喪失ではないっす。」

 

「ハイハイ、そんな未成年の主張は どうでもいいよ。それより、新たなる被害者も出たことだし。いつもの配りまーす!」

 

(モノクマが新しいモノクマファイルを配り始めた。わたしは混乱しながらファイルを開く。そこに書かれていたのは…。)

 

(被害者は、“超高校級の美化委員” 松井 麗ノ介。死体発見現場は裁判場内。死亡時刻は裁判中。目立った外傷はない。)

 

(わたし達にとって完全に無意味な情報。当然、わたしの混乱を落ち着かせる助けにはならなかった。)

 

「麗ノ介クンは…被害者なんだね…。」

 

「ど、どういうこった!?何で裁判中に…!」

 

「……松井君は…この裁判中に誰かに殺されたってことっすね。」

 

「そ…そんな。」

 

「誰デスか!マツイはサイテーヤロウ。でも、殺していいわけじゃアリマセン!」

 

「どうしてどうして?松井クンが今回の事件 起こした。どうして彼が被害者に?」

 

「松井お兄ちゃんは今までピンピンしてたんだよ!?どうして、急に…!」

 

「……気分が悪くなってきました。」

 

「落ち着いて、みんな。モノクマの言った通り、混乱している暇はないよ。」

 

「そう…ですね。すみません。」

 

「冷静でいられるか!!何だってんだよ!?」

 

「本当に松井クンは殺された?信じられない、本当に?」

 

「モノクマが捜査させるってことは…松井君を殺したクロがいる。松井君を殺したクロを見つけることが、この裁判の目的になったんだよ。」

 

(わたしが言うと、裁判場が再び静寂に包まれた。みんな、納得しきれていないような顔だ。)

 

(ーー納得できてないのは、わたしも同じ…というより、わたしが1番 納得できていない。)

 

(モノクマに視線を投げつけても、それが受け取られることはない。)

 

 

「白銀さんの言う通りっす。みなさん、とりあえず状況を把握しておきましょう。」

 

(天海君が再び倒れた松井君に…死体に近付いた。みんなも恐る恐るといった感じで近付いて来る。)

 

「松井君は突然 苦しみ出したっすね。」

 

「モノクマファイルによると外傷はないそうだね。」

 

「さ…刺されたり、殴られたというわけじゃない…ということですね。」

 

「たりめーだ!こいつが死ぬ直前まで、オレ達は円になって話し合ってたんだからな!」

 

「本当に外傷ないデス?服 脱がせて確認シマス。」

 

「ロ、ローズお姉ちゃん!いきなり脱がせないでよ!!」

 

「ローズ、ボク達がするから…。女性陣は下がってて。」

 

(女子全員は離れて死体から背を向けた。しばらくして、声が掛けられた。)

 

「みんな、こっち向いていいよ。」

 

「どうだったのかしら?松井君は…どうして…?」

 

「モノクマファイルの通り、外傷は全く見られないっす。」

 

「持ち物などに変わったところもないよ。」

 

(外傷がないのは当然か。彼が死んだ時、わたし達は裁判中だったんだから。つまり、彼の死因は限られている。)

 

(全員が顔を見合わせたところで、間伸びした声が響いた。)

 

「時間になりました!オマエラ、席に戻ってください!学級裁判を再開します!!」

 

 

 

学級裁判 再開

 

(裁判が再開された。天海君が隣で深呼吸したのが聞こえた。そして、彼は いつも通り、みんなを冷静に促した。)

 

「とりあえず、また1から今回の事件を振り返りましょう。」

 

「え、ええ。被害者は、“超高校級の美化委員” 松井 麗ノ介くんですね。」

 

「今回の裁判のクロは…松井先輩を殺したクロです。」

 

「松井さんは、この裁判場で死んだ。」

 

「この裁判中に…突然だったよね。」

 

「目撃者は、ここにいる全員。」

 

「マツイはキノの死を利用しマシタ。」

 

「動機は…私だって…そう言ってたわねぇ…。」

 

「美久のせいじゃないよ。麗ノ介クンは…ボクらに投票で正解させないように事件を起こしたんだ。」

 

「その当事者が突然 死んじまった。これは一体どういうことだ?」

 

(みんなが松井君の死を振り返る。その間も、わたしの思考はグルグル同じところを回っていた。)

 

(だって、裁判中に被害者が出るなんて…過去の『ダンガンロンパ』を知ってるからこそ、納得できない。)

 

 

「……白銀さん。」

 

(ふいに天海君が こちらを向いた。)

 

「松井君には外傷が全くなかったっす。彼の死因は何だと思いますか?」

 

「……。」

 

(そうだ。今は、クロを見つけることに集中しなきゃ。)

 

(松井君の死因は、やっぱり…)

 

 

1. 興奮による憤死

2. 毒物による中毒死

3. 失恋によるショック死

 

 

 

「何を言ってるのか分からないっすね。」

 

「ガンダム乗りのヨシミとして、ドッキングオンで考えてくれると有難いな。まあ、わたしはガンプラバトルなんだけれども。」

 

「何を言ってるのか全く分かんねーっす。」

 

 

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「松井君は…やっぱり、毒死じゃないかな。遅効性の毒だと思う。」

 

「そうっすね。外傷がないこと、俺たちの目の前で倒れたところを考えると。」

 

「木野先パイが死んだ原因の毒キノコでしょうか!?」

 

「毒キノコ、トリカブトと同じデス。トリカブトは遅効性ないデス。」

 

「それじゃあ、他の毒かな。モノクマから犯人がもらったか、前のステージの病院にあった危険なもの…あとは、洗剤を混ぜる…だっけ?」

 

「ものにもよるけど、殺害に量が必要な洗剤や薬品は気付かせないように飲ませるのが難しいはずだよ。」

 

「病院の薬品については哀染クンが知っている。」

 

「えっと、ごめん。ボクは詳しくないから、どんな薬品が毒物になるのか、どれくらいが致死量なのかまで分からないや。」

 

「けれど、琴葉が『危ない』って教えてくれたのはルミノールの材料だけだったよ。」

 

「洗剤を合わせると危険なガスが発生されると聞いたことがあるわぁ。」

 

「ここでガス発生させて殺したって言いてーのか?」

 

「ここでガスが発生したとも考えられません。」

 

「ボクらは みんな、生きている。」

 

「じゃあ、裁判前にーーって…松井お兄ちゃんが毒ガスを吸って、しばらく後に死ぬのは変か。」

 

「そうだね。洗剤を合わせて発生する塩素ガスは、元気だった人が突然 死に至るようなものじゃない。」

 

「松井君は死の直前まで不調は感じていなかったっす。特殊な毒だったとしか思えないっすね。」

 

(それなら、松井君を殺した毒は…)

 

 

1. モノクマが渡した

2. 特殊な調合がされた

3. 魔法的な何か

 

 

 

「ばんなそかな。」

 

「謎はトべてスけた!!」

 

 

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「やっぱり、モノクマが用意したもの…だよね。」

 

(わたしがモノクマを見ると、みんなもモノクマに視線を向けた。けれど、モノクマは何も言わない。)

 

「まだ言う気はないってこと?」

 

「クソが!言いやがれ!」

 

「……。」

 

「ダンマリです。」

 

 

「……じゃあ、麗ノ介クンの体への侵入経路を考えるのは どうかな?」

 

「松井お兄ちゃんへの侵入経路?」

 

「松井くんが毒で死んでしまったのだとしたら、松井くんが口にしたもの…でしょうね。」

 

「松井君は何を食べたのかしら?」

 

「今朝のメニューはフレッシュジュースにフルーツサラダ、自家製パンにオムレツでした!」

 

「Bチームとの格差が すごいね。」

 

「だが、今朝は誰も朝メシを食ってねぇ。チビメガネがいなかったからな。」

 

「朝メシは基本!夜はヌいても朝ヌくな!と言って、キノの部屋に行きマシタ。誰もいないデシタから、みんなで探しました。」

 

「その時、別荘の鍵が1つなくなっていることに松井くんが気付き…気付いたというより知っていたのでしょうが…全員で別荘に向かったんです。」

 

「それで死体発見アナウンスが流れて、Bチームのボク達も合流したんだね。」

 

「食事に毒を混入させたわけじゃないみたいっすね。それなら、松井君が他に口にしたものは…。」

 

「裁判前いただいたハーブティー…かしら?」

 

「え?でも…ハーブティー、みんな飲んだよね?」

 

「準備してくれたのは白銀さんと妹尾さん、配ってくれたのは前谷さんだったっけ?」

 

「つむぎお姉ちゃんと あたしは毒なんて入れてないよ!?」

 

「自分だって入れてませんよ!??」

 

「待って待って。みんな適当なカップを取ったはず。」

 

「はい。松井君をハーブティーで狙って殺すことは難しいっす。」

 

「じゃあ、松井が死んだのは偶然だったんじゃねーのか。」

 

「ロシアンティーでロシアンゲームみたいな?クレイジーなゲームを考案したものだよね。怖い国だね。おそロシア。」

 

「…そのゲームの発祥については都市伝説のようなもので、実際に記録は残っていません。」

 

「そうです!おクニ柄の偏見ハンタイ!」

 

「無作為で麗ノ介クンが被害者になったっていうのは…できすぎている気がしないかな?」

 

「そうよねぇ…。松井君が木野さんの事件に関わっていて、私たちが困っていた時に亡くなるなんて…。」

 

(松井君が口にしたのは、ハーブティーのみ。だとしたら、松井君と他の人で違ったことは何だろう。)

 

 

1. 利き手

2. 男気

3. 恋の病

 

 

 

「それは…何か関係があるのでしょうか。」

 

「無関係なものを除外していったら関係あるものが残る…そう、たとえ それが、どんなに無関係なものだとしても…!」

 

(……何 言ってんだ、こいつ。というような顔をされた。)

 

 

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「みんなと松井君…違ったのは利き手だよ。」

 

「松井君だけ左利きだったっすね。」

 

「それが何だってんだ?」

 

「例えば、カップのフチに毒を塗るんだよ。左利きの人なら、取手の右側に口を付けるよね?」

 

「そっか!さすが、つむぎお姉ちゃん!全部のカップの取手右側に毒を塗っておけば、松井お兄ちゃんだけ殺せるんだ。」

 

(わたしが言うと、みんなの顔が納得したように変わる。が、すぐに その顔は塗り替えられた。)

 

「…えっと、言いにくいんだけど…私も飲み物を飲む時、左手を使うようにしているのよね。」

 

「ええ!?な、何でですか?」

 

「利き手ばかり使うと左右のバランスが崩れるから。一応 見られる立場だからね、気を遣うのよ。」

 

「鞄を持つ時もハミガミの時も両手を使っているし…食べる時も片方だけでなく均等に噛むようにしてるのよ。」

 

「ボクもそう。左右どちらもよく使う。」

 

「確かに、いつも夕神音さんはカップを左手で持ってたね。ぽぴぃさんは、今日 右手で持ってたよ。」

 

「気持ち悪ぃぐらい細けーとこ見てんな…。」

 

「えっと…そ、それなら…他にも…例えば、松井君は左利きで いつも端っこに座ってたよね?」

 

「そうデスネ。スミッコグラシでした。」

 

「そのテーブルの左側に毒を塗っておけば、手に毒が付いて口に入ったかも…。」

 

「なるほど…。ですが、テーブルのどこを触るか、犯人が予測するのは難しいのではないでしょうか。」

 

「今まで見ていたところ、松井さんにテーブルを いじり倒すクセはなさそうだったしね。机の広範囲に毒を塗ってたら、あり得るかもしれないけど。」

 

「あれ?でも、裁判前、みなさんが席に着くまでに松井先輩はテーブルを拭いていましたよ!すごい勢いで!」

 

「それなら、拭き取られたかもしれないね。」

 

「それなら まだいいっすけど…もし拭いた時にテーブル全体に毒が渡っていたら、まずいっすね。」

 

「僕たちの手にも付着した可能性も出てくるね。念のため、みんな顔を触らないようにしよう。」

 

(佐藤君の言葉で、全員が手を組むなり後ろに回すなりして引っ込めた。)

 

「あ、不安にさせたなら、ごめん。可能性は低いよ。手に付着して口に触れたとしても、ごく少量だから。」

 

 

「やっぱり…どんな毒で死んだのか。その情報が必要だね。」

 

(また、みんなが一斉にモノクマを見た。)

 

「モノクマ、先着1名に渡すって言ってた毒は誰かに渡したんすか?その毒は、どういうものだったんすか?」

 

「えー?またボクに聞くの?すっかり頼りグセがついてるなぁ。大丈夫?天海クンのキャラ的に、すぐ頼るってのは おかしくない?」

 

「……いいから、答えるっす。公正な裁判のために、その情報は必要なんすから。」

 

「うぷぷ…。」

 

(天海君に睨まれて ひと笑いしたモノクマは、声高に言った。)

 

「ボクが誰かさんに渡した毒物は完全致死量ぴったり0.7mg/kgの超精密高純度ポイズンです!」

 

「完全致死量?」

 

「毒性の指標だっけ?クリミナルなファイルで見たことあるよ。体重1kgあたり0.7mgで、致死率100%ってことだよね?」

 

「そうそう!なぜ昨今のフィクションキャラクターの身長体重は決められているのか?それは毒の完全致死量や致死出血量を知るためなんだよ!」

 

「じゃあ、手に付着して口に入ったくらいでは致死量にならないはずだよ。モノクマが言う数値が正しいなら、だけど。」

 

「ボクは嘘なんて言わないって言ってるだろー!」

 

「そして気になる、誰かさんにあげた毒とは?」

 

「やっぱり!モノクマは誰かに毒を渡していたんですね!?」

 

「ハッ!し、しまったぁ!」

 

(わざとらしい「やってしまった」の声を発して、モノクマは また笑う。)

 

「うぷぷ。確かに、被害者はボクが渡した毒で殺されたようだね。あれは、致死量を摂取して暫くしてから急死するスペシャルな毒だからね。」

 

(……やっぱり、ご都合主義な毒が登場した。)

 

「……ということは、手に付いたくらいの少量じゃなくて、もう少し多くないといけないんだ。」

 

「でも…松井君だけ特別に口に入れたものなんてあったかしら?」

 

「松井さんだけってわけじゃなくても、この中の少人数のみが口にしたもの…とかは どうかな?」

 

(松井君を含めた少人数が口にしたもの。それは…。)

 

 

1. 一味

2. ニンジン

3. ハチミツ

 

 

 

「安心して、お姉ちゃん!あたしが代わりに推理するから。きっと、松井お兄ちゃんは、好きな人のカップをベロベロ舐めたんだよ!ぴったり毒の致死量分!」

 

(し、死者への冒涜だ…。)

 

 

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「松井君、ハーブティーにハチミツ入れて飲んでたよね。」

 

「…ハチミツっすか?」

 

「うん。前のステージから ずっと。」

 

「そうねぇ。私が勧めたら気に入ったみたいで…。」

 

「けど、白銀さん。それじゃ…」

 

(…そうだ。ハチミツに毒が入っていたとしたら、大問題だ。)

 

「つむぎお姉ちゃんもハチミツ入れてたよね?」

 

「つむぎは…大丈夫なの?」

 

「うん…。ピンピンしてるよ。」

 

「毒物が回るのが遅いってだけかもね!今、まさに毒が回ってるのかも?」

 

「……。」

 

(モノクマの言葉に、一気に血の気が引いた。)

 

「お、おい、デカメガネ女!ふざけんな!体調悪いの隠してやがったのか!?毒 回ってんのか!?」

 

「や、やだ!お姉ちゃん、死なないで!!」

 

「だ、大丈夫ですよ!プロテインも身体の小さい人は少量で効きますから…!きっと毒も同じです!多分、今 生きてる白銀先パイは大丈夫ですよ!多分!!!」

 

「マツイとシロガネ、身長あまり変わりマセン。」

 

「体重は…つむぎの方が軽いよね。」

 

「白銀さん、どこか不調はありませんか?」

 

(みんなが わたしを注視する。心配げな視線を受けて、心臓が早鐘のように鳴り始めた。呼吸を忘れる。手が震える。そんな時、)

 

「大丈夫だよ。」

 

(落ち着いた声が放たれて、わたしは呼吸を思い出した。深く息を吐き出して、また吸った。)

 

「プロテインは知らないけど、アルコールで言えば…体重が重い人ほど血液量と水分量が多くて、血中アルコール濃度が薄くなるから酔いにくいよね。」

 

「体も肝臓も小さい女性の方がアルコールの影響を受けやすいって聞くよ。」

 

「毒物の完全致死量も同じだよ。今、白銀さんが大丈夫なら、不安になる必要はないよ。」

 

「……そう…だね。ごめん。」

 

「謝る必要はないっすよ。」

 

「そうだよ。不安に思うのは当然だよ。」

 

「……。」

 

(そうだ。何を狼狽えてるんだろう。『ダンガンロンパ』のために死ぬなら本望…でしょ?)

 

「わたしは何ともないよ。」

 

「本当に?ほんとーに?」

 

「うん。やっぱり、ハチミツに毒が入ってたわけじゃないのかも。」

 

「良かった良かった。それじゃあ、松井クンは どこから毒を受けた?」

 

「男子のみなさんは、松井くんの体も調べてくれましたが、注射針などの跡もないんですよね?」

 

「はい!!全く!!!」

 

「もちろん、ヘビの噛み跡とかもねぇ。」

 

「困りマシタ。何の痕跡もなく殺されました。毒殺、外の世界なら司法解剖100%の危険な殺し方ですが、ここなら安全デスネ。」

 

「安全かどうかは置いておいて…さっき、注射跡を残さず注射する方法について話した人がいたよね?」

 

「え?」

 

「つむぎ、どうかな?」

 

(ええと…注射跡を残さず注射する方法は…。)

 

 

1. 肛門に注射する

2. インスリン注射の注射器を使う

3. 注射跡を化粧で隠す

 

 

 

「つむぎ、記憶は再生すると固定される。記憶力アップには思い出す作業が必要だよ。頑張って。」

 

「あの…記憶力アップを目指してるわけじゃないんだけど。」

 

 

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「さっき、誰かがインスリン注射器の注射跡について話してたよね。」

 

「ああ、僕だよ。インスリンの注射器には糖尿病患者が自身で注射できるものもあるんだよ。」

 

「それなら注射針の跡は ほぼ残らないよ。そんな注射器は見なかったけど…哀染さんは前のステージで見たの?」

 

「見ていても気付かないよ。でも、もし そんな注射器があったとすると、麗ノ介クンは…この裁判中に注射されて死んだ可能性も出てくるよね?」

 

「この裁判中にだぁ!?」

 

「どんな早業ですか!?と…いうか!席が遠かったら無理ですよね!?」

 

「どうかな、つむぎ。そうだとすると、容疑者は絞られるよね。」

 

「えっ、あの…それってさ…。」

 

 

▼容疑者は?

 

 

 

「シロガネ、チンミョーなオナワにツキナサイ!!」

 

「えっ、チンミョーな お縄に縛られて?白銀さんの趣味は健全なクマには刺激が強すぎるよ。」

 

「わたしの趣味じゃない!!」

 

 

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「えっと…その場合、容疑者は松井君と裁判席が隣の…わたしか夕神音さん…になるね。」

 

「あらぁ。」

 

(わたしが言うと、夕神音さんがキョトンと目を瞬かせた。)

 

「それは違いマスね。ユガミネ、そんなことしマセン。」

 

「つむぎお姉ちゃんだってしないよ!!」

 

「ユガミネはできマセン!ユガミネに素早い動きは不可能デス!」

 

「ローズさん、庇ってくれてありがとう。」

 

「結構 失礼なこと言われてない?」

 

「で?どっちかがヤッたのか!?」

 

「やってないわよ。ローズさんが言った通り、私に素早い動きは無理ねぇ。」

 

「けれども、裁判席の半身は死角。どちらかならできるはず。」

 

「お願いします!教えてください!!どちらが犯人なんですか!?」

 

「教えてもらうまでもないよ。ここで注射器が使われたのなら身体検査すればいい。」

 

「…それらしき物は松井君の持ち物になかったっすね。」

 

「裁判場内にも捨てたり隠したりできる場所はありません。」

 

「犯人のカラダまさぐれば、ボロが出るってスンポーです!」

 

(身体検査か。それをしたら結構 色んな事件が早期解決しちゃう気がする。)

 

(チラリとモノクマを見ると、モノクマは両手を挙げて言い放った。)

 

「ハーイ!では、お隣さんに身体検査してもらってね!」

 

「……。」

 

「……。」

 

「ーーというのは冗談だよ。女性陣から有志を募るなら、不適切行為を許可しましょう。」

 

「……白銀さんと夕神音さん以外で、できれば2人で見て欲しいんすけど。」

 

「はいはい!あたし、つむぎお姉ちゃんのカラダの有識者だよ!あたしが触る!」

 

「………山門さん、ローズさん。お願いしてもいいかな?」

 

「ガッテン承知のスケさんカクさんやっておしまい!」

 

「えー、何で!?」

 

「白銀さんと姉妹のように仲の良い妹尾さんより、わたし達2人なら公平性が高いということですよ。」

 

「姉妹のように…そっか。」

 

「じゃあ、私の身体検査は山門さんと妹尾さんに お願いするわぁ。」

 

(妹尾さんが頬を赤らめて引き下がった後、大衆監視の下で身体検査が行われた。もちろん、服は着たままで。)

 

「白銀さんの持ち物は…モノパッドにペン、ハンカチ、便箋…あと、これはネイル用品ですか?」

 

「うん。最初のステージから持ってきたんだ。特に理由もなく着替えのポケットに入れ替えてたよ。」

 

「夕神音お姉ちゃんはモノパッドだけ?」

 

「ええ。私は歌えれば、それでいいもの。」

 

「……もう歌わないのだけれど。」

 

「2人とも、注射器なんて持っていマセン。」

 

「そっかそっか。よかったよかった。」

 

「うん、良かったよ。美久は嘘を言ってるようには見えないし、さっき…毒を服用したかもしれないと言われた つむぎの表情も演技には見えなかったもんね。」

 

「……えっと、哀染君がインスリン注射って言い出したんじゃなかったっけ?」

 

「そうだったね。ごめんね。」

 

(哀染君は何事もなかったかのように爽やかに笑った。)

 

 

「いや、良かったとか言ってる場合じゃねーぞ。結局、どうやって死んだのかも誰がやったのかも、全然 分かんねーんだ。」

 

「確かに!ど、どうしましょう!?松井先輩を殺したことに心当たりがある方はいらっしゃいませんか!?」

 

(みんなが動揺を口にする。けれど、手が塞がれているというか毒が怖くて動かせないため、その動揺は表情のみで表現されていた。)

 

(そこで、ふと数日前のことを思い出した。)

 

 

「それって、白銀さんのクセ?」

 

「え?」

 

「ほら、頬を手で触るの。さっき天海さんと話してる時もしてたよね。」

 

「えっ。そ、そうだっけ?」

 

「うん。会話の内容に呆れたり困った時、頬に手を置くクセがあるのかなって思ってたんだけど…違う?」

 

「さすが、”超高校級の犯罪心理学者”。よく見てるんだね。」

 

「うん。他にも…前谷さんは、女性と話して緊張すると口元を押さえるクセがある。ローズさんは、お家柄か足音を殺して歩くクセがあるよね。」

 

「へえ…。そうなんだ。」

 

 

「……。」

 

(もしかして…松井君だけが死んだ理由って…)

 

 

 

閃きアナグラム開始

 

               ク       セ

                                        口                                   触

る                      を

 

閃いた!

 

 

 

「松井君には…特徴的なクセがあったよね。」

 

「あ?クセ?」

 

「ほら、こう…」

 

「白銀さん、僕が説明するよ。だから、手を下ろして。」

 

(わたしが腕を上げると、佐藤君が遮った。)

 

「松井さんは親指を唇に押し当てるクセがあった。そして、ストレスを感じると唇を噛みしめるクセも。そう言いたいんだよね?」

 

(クセを発動する時の心情までは知らない。けれど、わたしが頷くと佐藤君は また笑った。)

 

「やっぱり、松井さんの手に毒が付着していたんだ。みんな、顔を絶対 触らないようにしてね。」

 

「でも、モノクマの毒は手に付着しただけでは致死量にならないって話だったよね?」

 

「あ!そうです!哀染先輩の言う通りです!」

 

「それに…手に付着した毒が松井君の体に入ったのだとしても、何を媒介したのでしょうか。」

 

「裁判中に松井さんが触ったものが、1番 怪しいんじゃないかな?」

 

(裁判中、松井君が触ったもの…か。)

 

 

 

ブレインサイクル 開始

 

Q. 裁判中に松井が触れたものは?

1.裁判席 2.帽子 3.手紙

 

Q. 毒を媒介したのは手紙だけ?

1.手紙だけ 2.他にもあった

 

Q. 毒の侵入経路は?

1.裁判席+手紙

2.ハチミツ+手紙

3.ハーブティー+手紙

 

繋がった!

 

 

 

「毒は手紙に塗られていた。それを手にした松井君の手から口に毒が侵入したんだよ。」

 

「えっ!?手紙は他の人も触りましたよ?」

 

「そうだね。僕から松井さんの席まで回したよね。みんなに顔を触るクセがなかったとしても、危険だよ。」

 

「それに、やっぱり手紙に毒が塗られていたとしても致死量に達するほどじゃないはずだよ。」

 

「そうっすね。手紙は濡れたりしていませんでした。塗られていたとしても、ほんの少量だったはずっす。」

 

「うん。だから、ハチミツにも入ってたんだと思う。」

 

「え!?つむぎお姉ちゃんも入れてたハチミツ!?」

 

「手に付いた毒だけじゃ致死量には至らないから…量的に考えられるのは、ハーブティー。犯人はハチミツに毒を仕込んだんじゃないかな。」

 

「ハチミツだけでも、致死量に至らない。手紙から手に付いた毒と合わせて、初めて致死量の毒になったんだよ。」

 

「……つむぎも、手紙に触れていたよね。」

 

「うん…。でも、わたしは手紙を触った後、顔を触ったりしてないから…生きてる。」

 

「モノクマ!お姉ちゃんの手を洗浄して!っていうか、解毒剤 持ってきて!!」

 

「えー?まだ可能性の話でしょ?ハチミツとクロレター略してハチクロってだけでしょ?そういうのは、可能性が真実だとハッキリしてからだよ。」

 

「その方がスリルと緊張感があるからね。恋はスリル・ショック・サスペンスだからね。」

 

「……。」

 

「うう…。お姉ちゃん!絶対お顔 触らないでね!アゴの下が痒くても、鼻に虫が止まっても、目に塩が入っても!」

 

「う、うん…。分かってるよ。」

 

「けど…毒の侵入経路が正しいのであれば…犯人が特定できるはずっす。」

 

(そうだ。手紙に毒が塗られていて、松井君のクセを利用した犯行なら…。犯人はーー…)

 

 

▼松井を毒殺したのは?

 

 

 

「真面目に考えてくれるかな?”明白”でしょ?」

 

(ミステリ物が好きなこともバレてるね…。)

 

 

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「……佐藤君。手紙に毒が塗れて、松井君の口に入ることも分かっていたのは、あなただよね。」

 

「……。」

 

(わたしが言うと、佐藤君はニコリと笑った。)

 

「サトウが?」

 

「確かに、こいつは気持ち悪ぃほど色んなヤツを観察してたみてーだけど…。」

 

「ほ、本当に?そうなんですか!?」

 

「……手紙は木野さんの手から離れた後、佐藤君が持っていたんすよね。」

 

「…そっか、Fチームの琴葉がBチームの宿屋にあったハチミツに毒を入れられたとは考えられない。」

 

「木野さんは昨日ずっと部屋にいたそうだものねぇ。」

 

「夜中に来たとしても、宿屋はギシギシ古いから歩いただけで他の人 起こしちゃうしね。」

 

「どうっすか?佐藤君。」

 

「……。」

 

 

(佐藤君は口の端を上げたまま、倒れた松井君を一瞥した。そして、)

 

「正解。」

 

(思いの外あっさりと、そう告げた。)

 

「ーーえっ?え?本当に?」

 

「…認めるということですか?」

 

「うん。ーーでも、毒を塗ったのはハチミツと手紙だけじゃないよ。カップ取手の右側にも塗っておいたんだ。」

 

「えっ。」

 

「裁判前に”大富豪の家”のキッチンを確認した時、全部のカップに塗ったんだ。」

 

「……!テメー、捜査時間にオレと一緒に行った時か!」

 

「うん。郷田さんの目の前で作業させてもらったよ。でも、僕が言葉巧みにキミの視線を誘導してカップから遠ざけてたし、キミは悪くないよ。」

 

「……。」

 

「それで、松井さんは致死量ギリギリ一歩手前の毒を摂取した。」

 

「それなら、私も毒を飲んでるってことねぇ…。」

 

「大丈夫。夕神音さんはハチミツを使わない。白銀さんもハチミツからしか摂取しない。だから、松井さんより体重が軽い2人でも死なない計算だったんだ。」

 

「でも、一歩 間違えば、つむぎお姉ちゃんだってーー…」

 

「白銀さんには顔を触るクセもなさそうだったし、眼鏡をしてるから目を擦ったりすることもなさそうだと思ってね。」

 

「えっ、佐藤君…前に わたしにはーー…」

 

「…白銀さんは、困った時に腕を組んで考え込むクセがあるみたいだけどね。」

 

「……。」

 

(顔が痒くなったり、虫が止まったり、目に塩が入ったりしなくて良かった…。)

 

「…モノクマ、白銀さんと夕神音さんに解毒剤を。それに、手紙に触れた人たちの手の洗浄も。」

 

「やれやれ。今回の裁判は忙しいなぁ。」

 

(モノクマは面倒くさそうに言ったわりには、テキパキと洗浄と解毒剤の用意を済ませた。)

 

(ここで これ以上の被害者が出るのはモノクマにとっても不都合だからだろう。)

 

 

「さて、これでリラックスして話せるかな?」

 

「そうねぇ。落ち着いたわ。」

 

「いや、リラックスしてる場合じゃねぇ!」

 

「そ、そうですよ!佐藤先輩!どうして…!?」

 

「動機なんて、どうでもいいよ。」

 

「それより、僕が松井さんを毒殺した。この裁判のクロが誰か分かったんだよね?」

 

「それは…」

 

「……佐藤君。動機…話してくれない?」

 

「……どうして?」

 

「動機を教えてくれないと納得できないよ。」

 

(納得できない。……わたしが。)

 

(『ダンガンロンパ』の動機は殺しのきっかけになる。でも、今回の動機の惚れ薬は使われてしまった。)

 

(それなら、どうして彼は殺人を犯したのか。)

 

(真っ先に思い浮かんだものは、モノクマが提示した動機と全く関係がない。それならーー…)

 

(考えているうちに、佐藤君が不敵に笑った。)

 

 

 

理論武装 開始

 

「僕が、どうして松井さんを殺したか?」

 

「そんな理由が必要かな?」

 

「僕は犯罪心理学者だからね。」

 

 

「実験してみたんだよ。このケースは成り立つのか。」

 

「松井さんを観察して、彼を殺して、犯罪者心理を細かく分析できたよ。」

 

「それに、僕は今から死んでいく人間の心理も知ることができるんだ!!」

 

「動機なんて、実験以外にないんだよ。」

 

 

 ○阻止するため △松井の ×を □計画 

 

これで終わりだよ!

 

 

 

「佐藤君…あなた、もしかして…松井君が木野さんを殺したって知ってたんじゃないの?」

 

「……。」

 

「お、お姉ちゃん。どういうこと?」

 

「どうして松井君が木野さんを殺したのか。そして…投票で正解するのが難しい状況になることも、佐藤君は予想してたんだよ。」

 

「す、すごい。」

 

「それはないよ。そこまで予想できていたら才能じゃなくて超能力だ。」

 

「本当に…?キミならできそう。何となく。」

 

「佐藤君。キミは最悪の可能性を考えてたんじゃないっすか?本当に松井君と木野さん2人がクロで、俺たちが確実に負ける可能性を…。」

 

「……妄想力が逞しいなぁ。僕にメリットないじゃない。」

 

「もしかして、私たちのために?」

 

「……。」

 

「止めてくれないかな?僕、そういう誤解が1番 嫌いなんだ。」

 

「……僕は永本さんとは違う。」

 

「天海さん、白銀さん。キミ達の仕事は妄想することじゃない。この裁判のまとめだよ。」

 

(佐藤君が、不愉快そうに顔を しかめたまま、わたし達を促した。)

 

 

 

クライマックス推理

 

「事件が起こったのは深夜。木野さんは、”大富豪の家”から別荘の鍵を持ち出し、別荘に向かった。」

 

「Fチームは暗い時間の外出は禁止されていたけど、木野さんはルミノール溶液と酸化剤溶液を混ぜて道に撒き、発光させて外出したんだよ。」

 

「別荘で毒キノコから抽出した毒を飲んだのは木野さん自身っす。けれど、彼女は他殺に見せかける細工をしていたっす。」

 

「動機は はっきりとは分かりませんが…木野さんはコロシアイを複雑化させたいと考えていたのかもしれないっすね。」

 

「松井君は、そんな彼女が別荘で倒れているのを見て、便乗した。木野さんが毒で弱っている状態で彼女の首を絞めたんだよ。」

 

「その目的は、彼女と同時にクロになって投票で正解できないようにすること。でも…その犯行は暴かれた。おそらく、捜査時間には…犯人によって。」

 

「犯人は、裁判中に木野さんを殺した松井君を毒殺した。使用したのは、モノクマが用意していた毒っす。」

 

「犯人は、致死量手前の毒をハーブティーのハチミツに入れ、ティーカップ取手の右側に塗って、後は松井君の手紙に含ませた。」

 

「松井君には手で口元を触るクセがあったっす。それを利用した。」

 

「そして、裁判前の毒と、証拠の毒で致死量に達する毒を摂取した松井君は裁判中に死んだ。わたし達の目の前で。」

 

「松井君を毒殺した犯人はキミっす。“超高校級の犯罪心理学者” 佐藤 ここみ君。」

 

 

 

「…さすがクラスメイト。息ピッタリだね。」

 

(クライマックス推理が終わると、佐藤君は満足そうに笑った。)

 

「佐藤くん…。」

 

「テメー…ふざけんなよ。オレ達のために…テメーの命を…。」

 

「だから違うって。」

 

「どうして隠しマス?アナタ、ワタシ達を守りマシタ。」

 

「はあ…。面倒くさい。」

 

「キミ達みたいな阿呆にも分かりやすく、耳なじみ良く言えば、分かってくれるかな?」

 

「クラスメイトを松井にコロサレタ!許さないぞー!」

 

「……これなら納得できる?」

 

「納得しました!!!」

 

「…どうかな?そうかな?本当かな?」

 

「これは私刑だよ。役に立ちそうな人間を殺されて腹が立ったから、私刑を下しただけだよ。……モノクマ。」

 

(佐藤君がモノクマに投票時間にするよう促した。モノクマは笑って、投票時間を告げた。)

 

 

 

学級裁判 閉廷

 

「またまた大正解!”超高校級の美化委員” 松井 麗ノ介クンを殺したクロは、佐藤 ここみクンでしたー!」

 

「今回は愛と誠というよりは、罪と罰!」

 

「デッド・オア・アライブというよりは、デッド・バイ・デイラ…じゃなくて、デッド・バイ・リンチだったのです!」

 

「……。」

 

「おやおや、白銀さん。何か言いたそうだね?DbDじゃなくて第五の人格を推すべきだよ。とでも言いたそうだね?」

 

(わたしは何も言えずにいた。裁判中に起こった殺人。モノクマが提示した動機と殺しの動機が全く違う殺人。トリックスターや才能不明者の早期退場。)

 

(これまでの『ダンガンロンパ』と違うところを挙げていくとキリがない。しかも…)

 

「佐藤君…。」

 

「ここみ。」

 

「……別れ難さを出したいところなのかもしれないけど、いらないから。モノクマ、さっさと初めてくれる?」

 

「ハイハーイ!”超高校級の???” 佐藤 ここみクンのために、スペシャルな おしおきを、用意しました〜!!」

 

(間髪入れずに始まった おしおきだったがーー…)

 

 

 

おしおき

 

“超高校級の???” 佐藤 ここみの処刑執行

『応え合わせ』

 

…………

……

 

(佐藤君と入れ替わるように裁判場に現れたモニターには、何を映すこともない。ただ静かに、そこにあるだけだ。)

 

「何だよ?あいつは…どうなったんだ!」

 

「な、何で、何も映らないんですか!?」

 

「故障…かな?」

 

「故障じゃないよ!意向だよ!」

 

「おしおき…ないってことじゃないかしら?処刑されていないのよ。」

 

「そ、そっか…。良かった。」

 

「……。」

 

(その場に安堵の空気が流れた。ーーのは、当然 束の間のことだった。)

 

「ううん。見せないだけさ。おしおきは非公開。」

 

「非…公開?何、それ…。」

 

「もう見せる必要がないってこと!」

 

「……それじゃあ…。」

 

「うぷぷぷぷ。確実に処刑は行われてるよ。彼は、今 血みどろになっています。誰にも見られることなく、ね。」

 

「わたし達は…彼の最期を見届けることもできないんですか…?」

 

「ふざけないでクダサイ!それは、サトウが1人で死ぬってことです!」

 

「そうだ!!オレ達は あいつの最期を見届ける義務があんだ!オレ達が処刑台に送っちまったんだから!見せやがれ!!」

 

「え〜?処刑が見たいって、どんなフェチ?超ヤバくない?マジヤバい〜!これだから最近の若者は〜!」

 

「……さて、そんなに見たいなら仕方ない。ご覧ください。これが、嘘吐きさんの末路です。」

 

(ようやくモニターに光が放たれた。そこには、一面の血の色に黒と白。黒いセーラー服を地に染めた佐藤君が うつ伏せに倒れていた。)

 

「……。」

 

(彼の右手には銀色の細長いものが握られている。)

 

「はい、おしまい!本日の営業は終了しました!そら、解散!散った散った。」

 

(そんなことを言ったモノクマが、いち早く この場を去った。それと共に、モニターがプツリと音を立てて消えた。)

 

(次いで、ガシャリと裁判場に響いた音。)

 

「……ここみが持ってたものだ。」

 

(哀染君が、彼の”遺品”を拾い上げる。それは、今 見た映像で佐藤君が握りしめていた銀色の棒だった。)

 

(ーーいや、わたしには見覚えしかない。それは、前回のステージでキッチンにあったシュラスコ串だ。)

 

「……。」

 

(おしおきが非公開。こんなこと…おかしい。)

 

(おかしい。絶対に、おかしい。)

 

(何で わたしは…泣きそうになっているんだろう。)

 

 

 

第×章 ◇と■。デッド・би・£и▼ 完

第◻︎章へ続く

 

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