Round. 4 虫の息の容疑者(非)日常編Ⅰ
「わ、悪いけど…もう諦めて。これは…オレ様にとって最初で最後のチャンスなんだ。」
「オレ様は…こうするしかねーんだよ。」
「オレ様の発明は世界を変える…。もっと…世界を良くできるはずなんだ…!」
「オレ様には天才発明家としての使命がある!だ、だから…ここで死ぬ訳にはーー」
「ご、ごめん…!ごめんね…!」
「!」
(夢を見た。とても怖い夢。)
(苦しむ仲間を目の前にして、何もできない。そんな夢。)
(ーー違う。何もできなかったんじゃ、ない。ゴン太が行動したから、仲間が苦しんで…。)
『キーン、コーン…カーン、コーン…』
(チャイムの音にハッとした。)
(それと共に完全に目が覚めた。夢の内容は もう残っていなかった。)
(スッキリしない気持ちのまま、枕元の箱に触れた。やっぱり、いつも通り箱は開かなかった。)
【本島南エリア 寄宿舎 食堂】
(食堂に入ると、みんなが挨拶してくれた。)
(けれど、みんなの声には元気がない。それもそのはず、)
「クラリンいなくなって、一気に飯のクオリティ下がったもんなー。それに、今オレら8人しかいねーし?」
(野伏君が言ったことで、みんながビクリと肩を揺らした。)
「だから、何でオメさは思ったこと すぐ言うんだべ!?」
「それでも この国の人間か。空気を読め。」
「空気みたいな透明なもん読めるかー!…って、ゴンちゃん?どしたww」
「え?」
「めっさ怖い顔してっぞ〜?ww」
「え!?ゴン太、怖い顔してた!?」
「してたしてた。虫も人も殺しそうな顔してた。」
「ええ!?紳士は友だちや仲間を殺したりしないよ!?」
「虫を殺す紳士は存在するかと…いえ、何でもないです。」
「ゴン太、どこか痛いの?熱があったりする?」
「確かに、すごい汗ですね。」
「ごめん!何でもないんだ!ただ…前にも、こんなことがあったような気がした…だけで…。」
「……前?」
(無意識に星君を見ていた。星君は不思議そうな顔をしている。)
(ーー前にもあった。)
(美味しい料理を作ってくれる人がいなくなったこと。たくさんいた人が半分にまで少なくなったこと。)
「…とにかく、朝飯は いつの間にか用意されていたから、そいつを食えってことだろう。」
「そ、そうだね…。じゃあ食べちゃおう。」
(静かな食堂で、ご飯を食べた。)
「4章記念!回文みんなで考えようかい!まずはボクから…犬神家!」
「回文になってないって?チッチッチッ。犬神…dog god…ほら回文!」
「………。」
「………。」
「何だ何だ?ここは、お通夜レベルで無口なティーネイジャーが集まるオンライン外国語クラスかー?」
「…あるけれども。学生のマイクどころかカメラも全てオフにされた虚無の支配せし空間、あるけれども。」
「普通に通夜みてぇだっち言え。」
「お通夜に来る弔問客に拝まれる箱の中身みたいなオマエラのために、ボクが また行ける島を増やしてあげたよ!」
「クチナシみたいに言わないでくださいよ。えーと…次は秋ノ島とかですか?」
「コラー!ネタバレは困るよ!”超高校級のネタバレイヤー”か!!」
「何ですか、その炎上してクレーム対応 大変そうな超高校級は!?」
「やれやれ…モノクマ、行くってんなら早く案内してくれ。」
「ハイハーイ!着いておいでよ!」
(モノクマが食堂を出るのを追って、みんなで寄宿舎を出た。)
【本島西エリア】
(モノクマに連れられて来たのは、本島の西。臓器が抜かれた死体…狩野さんが発見された灯台の先だった。)
(海岸の崖近くに着いた時、ゴン太には小さく島が近づいて来るのが見えた。)
「はい、ネタバレされましたが、この橋の先は秋ノ島です。探索 楽しんで。」
「ネタバレじゃなくて推理なのに…。」
(みんなにも島が見えるくらい近付いてきて、橋が現れた時、モノクマがやる気のない声を出して消えた。)
【秋ノ島東 橋の前】
(秋ノ島に入って すぐ、木々の向こうに大きな池が見えた。その周囲を蜻蛉さん達が飛んでいる。)
「わあ、蜻蛉さんだ。みんな元気そうだね。」
「…わたくし、トンボは初めて見るかもしれません。」
「マジで?シティガール的な?」
「蜻蛉さんは温帯や亜熱帯地域の水辺に住んでるんだ。でも、絶滅しそうな種類も多いんだよ。」
「環境が良い湿地が世界中からなくなってるから…。実際に、東南アジアでは かなり減ってるみたいなんだ。」
「蜻蛉さんだけじゃなくて、地球全体の観測可能な総数で見ると、虫さんは毎年2.5%くらい減ってるらしいんだ。」
「へー。それは喜ばし…何でもないです。」
「虫さんが減ると、鳥さんや魚さんも減るから、肉食の動物さんも減るんだ。それに、食物も育たないんだよ。」
「それは…由々しき事態ってことですね。ゴン太先生、今までで1番 “超高校級の昆虫博士”っぽいです!」
「うん。すごいよ!虫の研究で外国へも行くの?」
「ゴン太は生息地については本でしか知らなかったんだけど…外国のことに詳しい人が教えてくれたんだ。」
「…へえ。」
「この島は文化エリアと体育エリアに分かれてるみてぇだ。こっから西に屋台がある道があって、文化エリアだ。」
「えーと、南へ行ったら体育エリアだね。」
「ふむ。では、各々方、探索を開始しようぞ。」
(モノパッドを手に、みんな散っていく。ゴン太は蜻蛉さんの様子を眺めた後、近くにいる虫さんに尋ねた。)
(どこから行こうか?)
(伊豆野さんが言った通り、秋ノ島の橋から西側に進むと屋台の車が並んでいた。)
(けれど、全て閉じている。その1台に22:00〜営業と書かれていた。)
(夜時間しか開かないのかな?…でも、夜時間に出歩くのは危険だよね。)
(最初に発見された死体…狩野さんと、発見された焼死体の犯人がいるかもしれないから。)
(華椿さんは、狩野さんを殺したのは高橋君だって言ってたけどーー…。)
【秋ノ島西 文化エリア 図書館】
(文化エリアで1番大きい建物は図書館。中に入ると、イーストック君と桐崎さんがいるのが見えた。)
「げにげに立派なり。手前の故郷の『世界一美しい図書館』に負けじと劣らじ。」
「…え?それってヨーロッパ最西端の町じゃありませんでした?やっぱり米国出身じゃないんですか?」
「イーストック君、桐崎さん。」
「ゴン太先生!この図書館、凄いですよ!市民図書館なら車庫行きの古い作品も揃ってるんです!」
「ほら、どっかのゲーム製作陣が好きそうな『さよならドビュッシー』『いつまでもショパン』もありますよ!」
(嬉しそうに桐崎さんは本を図書館用の台車に積んでいる。そして、机に向けて動かしたところでーー…)
『台車が通ります!!ご注意ください!!!』
「うわぁ!?」
(台車から轟音が放たれて、桐崎さんは飛び上がった。)
「な、なんですか…図書館の備品に或真敷大音声ですよ。」
「桐崎さん、ゴン太が手伝うよ。机に運べばいい?」
「うう…ありがとうございます。まだ耳が痛い。」
「獄原殿、手前の手伝いも引き受けていただきたい。棚の1番 上の本を取ってたもれ。」
「うん、もちろん。これ?」
「左様。手前は太宰を好む。」
(本を手渡すと、彼は「有難き幸せ」と手を合わせた。彼でも届かないなんて、随分 高い棚だなと思った。)
「太宰ですか。略して『生き恥』の。」
「『逃げ恥』みたいに言うな。『生きていて すみません』『恥の多い人生を送ってきました』のだ。」
「『死にたい、死ななければならぬ、生きているのが罪の種なのだ、などと思いつめても…』」
「分かりました分かりました!芥川に何やかんやで尊敬されている あの太宰ですね!」
「逆だ。太宰は奇行が目立つほどには芥川ファンだ。」
「えっ、じゃあアランポーっぽい文豪が乱歩をバチバチに意識してるのは!?」
「逆だ。乱歩のペンネームの元がアランポーだ。」
「文豪アニメは人間関係間違い探しってことですね…。じゃあ、ギャルが お金のことを諭吉と呼ぶのは!?」
「ぎゃく…何だ それは。」
(2人とも楽しそうだ。でも、ゴン太には難しくて何のことか分からない。)
「獄原殿も、そろそろ文学を嗜んでみては?貴殿のボキャブラリーは急速に増えていると お見受けする。」
「確かに、紳士といえば…物知りとか読書家ってイメージですよね!」
「そ、そうなんだね!ゴン太、虫さん以外の本も読んでみるよ!!」
「そうですね。ただし、図書館に通う時は ご注意を!図書館といえば殺人事件ですから!」
「そうなの!?」
「気にすることなかれ。桐崎殿にとっては、どこでも殺人現場だ。」
(2人におすすめの本を紹介してもらって、いくつか借りた。)
【秋ノ島西 文化エリア 茶室】
(図書館のすぐ隣は和風の小さい建物だった。何の建物だろうと眺めていると華椿さんが出てきた。)
「獄原さん。こちらは、茶室ですよ。」
「茶室?」
「ええ。お茶を嗜む場所です。茶室から楽しめる中庭もあります。」
「そうなんだね。」
「…中庭の池はビオトープになっていて、虫もいましたよ。」
「ビオトープ?あ、虫さんがいる所かな?ありがとう!!会ってくるよ!」
(狭い扉を通り抜け、部屋に入った。中は低い天井の和室で、畳の匂いがした。)
(襖を開けた先には低い柵に囲まれた中庭がある。粒の大きい砂利が敷かれた中庭。柵から茶室の外の紅葉が見える。)
(落ちた紅葉の葉が池の水面に浮かんでいる。池は綺麗で、水の中で虫さんが動いていた。)
(環境が良いからか、虫さんも嬉しそうだ。)
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【秋ノ島南 体育エリア ダンスホール】
(体育エリアには建物が並んでいて、モノパッドには球技場、倉庫、ダンスホールと書かれている。)
(ゴン太は、その中でも綺麗な外観の建物に入った。)
(中は豪華で、まるで お城みたいだ。大きいダンスホールに綺麗な飾り。絵本に出てきそうだと思った。)
「あ、伊豆野さん。虎林さん。」
(ゴン太と同じように左右上下をキョロキョロ眺める2人がいた。)
「あ…!ゴ、ゴン太。」
「ゴン太さ、ここはダンスホールだべよ。」
「そうみたいだね。ここで踊る人は、かっこいい紳士なんだろうなぁ。」
「……ゴン太って…踊れるの?」
「え?お、踊れないよ。ゴン太、かけっこは得意なんだけど、踊りはしたことなくて…。」
「だば、特訓してみっか?」
「……特訓?」
「んだ。紳士といえば社交界。社交界といえば社交ダンスだべ?」
「で、でも、それって昔の話じゃないの?」
「あるとこに行けば、今もあるべよ。」
「……。」
「嫌なら無理にとは言わねーべ?楽しいもんじゃねぇかんな。」
「楽しくないの!?ーーってゴン太、どうかした?」
「あ…ううん。今、特訓って言葉が引っかかって。」
「ーー前にも特訓したことあるんだ。笑顔の。教えてくれた人は…彼女は、みんなを笑顔にするのが好きで…」
(…あれ?この記憶は何だろう。)
「彼女と…2人きりで…特訓……。」
「え?ううん、2人きりじゃなくて…ど、どうしたの、虎林さん。泣きそうだよ!?」
「うう…。ゴン太って、絶対モテるよね。」
「うん!マンホールのフタくらいなら持てるよ!」
「…そゆことじゃねんだけどな。」
「…そうだよね、モテるよね。アタシも…頑張るよ。」
「頑張らなくても、虎林さんなら簡単に持てるよ?」
「が、頑張るくらいさせてよ!可能性は低くても…頑張りたいんだよ!」
「可能性が低くても頑張るなんて、虎林さんは凄いね!!」
「えっ!!あ、は、へへへ…。」
「何だべ この会話。」
(2人と楽しくお喋りした!)
【秋ノ島南 体育エリア グラウンド】
「おーい!ゴンちゃん!!」
「……来たのか。」
「あ、野伏君。星君も。」
(ダンスホールの隣は球技場らしく、広いグラウンドがある。)
「ここ、サッカーも野球もテニスもゴルフのバッティングもできそうじゃね?なんかしてーなーって話してたワケ。」
「そこの倉庫にテニスラケットもボールもあったしー、サッカーボールもゴルフクラブも野球パッドもあったしー。」
「……。」
(ゴン太は、黙ったまま俯く星君を見た。いつもより元気がなさそうな顔を。)
(ーーそういえば、1回目の裁判が終わった頃…まだ三途河さんが生きてた時もこんな顔をしてた。)
「『星が好きだから』という理由で…テニスプレイヤーだった俺に注目した男がいたって噂…」
「それを思い出しただけだ。…そいつもテニスをしていたらしいが、対戦する機会はなかったな。」
「あら。これから対戦する可能性があるかもしれないわね。」
「……それはねーな。」
「ごめんなさい、あまり触れて欲しくないことなのね。」
(ーー聞かない方がいいのかな。)
「じゃ、ホッシーに お願い!オレをニッコリ王子みたいなテニス☆プリンスにしておくれー!」
「…悪いが、俺はテニスは辞めたんだ。」
「え?」
「マジでじま?“超高校級”なのに?」
「ああ。だから…俺は、”元・超高校級”ってことだな。」
「んじゃ、サッカーしようぜ!ボールは友だち!友だち蹴りまくろーぜ!」
「……悪い。球技自体、もうしねーって決めてんだ。じゃあな。」
(星君は、そのまま足早に行ってしまった。)
(星君…やっぱりテニスを辞めちゃってたんだ…。)
「いずれ…あんたには話す。だが、今は裁判に集中するべきだ。」
(前回の裁判前に言ってくれたけど…いつか、話してくれるのかな。)
「あー、行っちゃった。んじゃ、ゴンちゃん、PKしようぜ!!ゴンちゃんキーパーで、ずっとオレのターンな!!」
「う、うん!!」
「ウソウソ!オレもキーパーするし~!ゴンちゃんの殺人シュート止めるの、修行より集中力いりそうだしww」
「し、紳士は殺人シュートなんてしないよ!」
(野伏君とサッカーをした!)
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【本島南エリア 寄宿舎 食堂】
「ふー、いい汗かいたー!やっぱ、スポーツの秋だね!」
「いや、読書の秋だろう。」
「芸術の秋も悪くねぇべよ。」
「…良かった。皆さん朝より元気ですね。やっぱり、心に いつも修造を!星先生も、そう思いません?」
「……。」
「あ、あれ…?星先生は元気がないですね?元気出していきましょうよ!」

(言葉を投げられた星君は俯いたままだ。)
「…無理はしなくてもいいと思うよ。そういうの無為自然っていうんでしょ?」
「……。」
「ありのままの姿見せるのよって?最近、ゴンちゃんの語彙が上がっててマジワロスww」
「どうして笑うんだい?彼の言葉は上手じゃないか。頑張ってる人間を笑う者は死ねばいい。」
「ロナウドは、そんなこと言わないよー。」

「一生懸命ポルトガル語を話すアジア人の少年を記者団が笑ったのは看過できん。あれはヨーロッパ言語話者の闇。」
「親戚言語みたいなもので、同じ文法構造、似た単語も多く、直訳しやすいヨーロッパ諸語話者の驕りだ。」
「アジア言語話者に『英語が話せないのか簡単な言語なのに』と笑う馬鹿者というのが欧米には必ずいる。」
「南蛮貿易時代この国の言葉を『未熟な言語』と宣った欧州人もいたが、全て語らぬ言語は他者を慮る心をーー…」
「ああ…!イーストック先生の欧米人ヘイトが始まりましたよ!自分も欧米人なのに!」
「オラ、方言を笑う奴のが きれぇだな。ニヤけ顔で近づいてきて、東北弁で『カマタ』言えっち言われたり…」
「『おっとっと取っとっと?』と言え…『一生かけて言わせてみせるっちゃ』と言え…」
「『何度ここに来てたって大阪弁は上手になれへんし』…うんざりだべ!」
「いや、それ オレ〜www」
「そんなこと言ってたの…。やめな?デリカシーなさすぎだから。」
(今朝より賑やかに夕食会は進んだ。夕食後は特に何事もなく解散した。)
【本島南エリア 寄宿舎 獄原の個室】
(夕食の席では、みんな笑っていた。元気がない人もいたけど。無理にかもしれないけど。フリかもしれないけど。)
(ゴン太は、みんなを守りたい。)
(前回の裁判で考えたんだ。ゴン太が、自分自身で考えた。)
(ゴン太がモノクマを倒したら…きっと、コロシアイは終わる。)
(ーーそのために、何が必要なんだろう。)
…………
……
…
『キーン、コーン…カーン、コーン』
(朝のチャイムが鳴り、ゴン太は部屋の外に出た。すると、イーストック君が慌てた様子で走ってきた。)
「獄原殿、ちょっと来てくれ。おかしな部屋を発見した。」
「おかしな部屋?」
「秋ノ島の図書館だ。手前は皆を呼んでくる故、先に行っていてくれ。」
「わ、分かった。」
(慌てて秋ノ島へ走った。)
【秋ノ島西 文化エリア 図書館】
(全員が図書館内に揃った時、イーストック君が1つの棚に手を掛けた。)
「見てくれ。隠し扉だ。」
(彼が言いながら手に力を込めるのが分かった。その後 すぐ、棚が外開きのドアみたいに動いてーー…。)
「こ、これは…まるで どこかの学園の地下図書室のような!どうやって見つけたんですか!?」
「…たまたま棚の隙間に紙が落ちていたのを拾おうとしたら、動いたのだ。」
(棚が ゆっくり開いて、隠し扉の先の部屋が見えた。)
(ーーあれ?こんなの…前にも見たような気がする。)
「……。」
「扉の先…何?図書館の延長みたいにも見えるけど…。」
「実験器具とかあって、まるで闇魔法の研究施設だねww」
(棚の先は、図書館と同じく壁一面 本棚で囲まれた空間。)
(中央に大きいテーブルがあって、実験道具やビン入りの薬品が並んでいる。そして、)
「奥の大切そうに飾られてる本は何だべ?」
(テーブルの奥にケース入りの本があった。星君が近付いて、それを手に取る。)
「……死者の書?」
「は?何?」
「死者の書…と書かれている。」
「死者の書?何それ?」
「小説のタイトルだべ?」
「聞いたことがないな。」
「冒険の書なら分かりますが…。」
「……死者の…書。」
(星君が本をパラパラと捲る。)
「……どうやら、死者の蘇生について書かれてるみてーだ。」
「死者の蘇生ー?見せて見せてww」
「うわ、怪し!死んだ人間の蘇生薬の作り方が載ってるわwしかも、理科の実験みたく簡単にww」
「どれどれ…本当だ。知育菓子の説明書みたいに書いてありますね。えーと①薬品AとBを混ぜ②粉末Cをかけ…」
「え?おかしいよ!」
「ええ!?」
「獄原殿、如何した。」
「その死者の書、ゴン太が知ってるのと違うんだ!!」
「……は?」
「オメの知ってるの?」
「…獄原、何を言ってるんだ?」
「……え?……あ。」
(みんながポカンとゴン太を見る中で、ゴン太も我に帰った。)
「何…言ってるんだろう。ゴン太、…どうしてか、そう思ったんだ。」
「これについて何か知ってるのか?」
「ごめん…分からないよ。」
「……そうか。」
「もー、ゴン太先生、死者の蘇りに興味あったんですか?会いたいと思う気持ちが蘇りに繋がったんですか?」
「あ、なんだ。映画とかで見たのと違うってこと?アタシもあるよ!床に五芒星 書いて、生贄の人を串刺して… 」
「おっかねぇ儀式の話すんでねぇ!」
(みんなが笑ってゴン太を見た。その時、モノクマが現れた。)
「わー、見つかっちゃったか〜!みんなマイクラで作る隠しエンチャント部屋みたいな間取りの部屋〜。」
「モノクマ、ここ何なん?」
「ここは死者の蘇り研究室だよ。」
「…死者の蘇り?」
「そうそう。頑張って研究したら、死んだ人を蘇らせられるかもしれないよ。」
「ばんなそかな!」
「あり得ないでしょ。」
「知ってんべ。そういう危ねぇ実験の後、おっかねぇモンスタァが生成されんだべよ。」
「…それは、どんな者でも蘇らせることができるのか?」
「ある程度 死体が原形留めてて、死後 何日も経ってなければね。」
「……。」
「じゃ、今までのヤツらの蘇りは無理な〜ww」
「え?信じるの?」
「聞いたことがあります。存外 男性の方がロマンチストだと。」
「そうそう。男が歌う女側の失恋ソングってあるよね?『あなたを忘れられない』系のヤツ。あれも男のロマン。」
「いっつまでも同じ奴 好きな訳ねぇのにな。」
「えっ。そ、そうなの?」
「”オレを好きだった女”には、数ヶ月後には新しい男いんべ。」
「辛辣〜wwww」
「タカジンは儚き夢。」
「やめてくださいよ!歴代極道主人公が歌う名曲が汚れます!!」
「はい、ついでに、男主人公でも男のロマンイベントとかないからね。これ、いつもと違うからね。」
(モノクマは また意味の分からないことを言って消えた。)
(それから、ここを調べる人と、他の場所に行く人は散り散りになった。)
(ゴン太は どうしよう。虫さんは、どうしたい?)
(もう少し研究室を調べたいという虫さんと一緒に、室内の器具を見て回る。)
(さっきの死者の書の近くにイーストック君と野伏君が立っていた。)
「ゴンちゃん、聞いてー?イーちゃん、マジで蘇り薬 作る系だぜ?ねるねるねるね練るね的なww」
「そ、そうなの?それって、そんなに簡単に作れるのかな…?」
「いや、説明書自体は簡易なものだが…それぞれの薬品を作るのに ある程度の化学知識が必要なようだ。」
「イーちゃん、ブンヤっしょ?化学知識とかあるん?ww」
「何を隠そう、手前は理系。」
「マージーでー?ww」
「文をしたためる者が理系でも、何も おかしくはない。不思議の国を書いた者も、容疑者のXを書いた者も理系畑。」
「それに、この研究施設は実家のような緊張感があって心地良い。」
「実家なんだから安心しろしww」
「実家を出て、ある程度の年になると収入やら結婚やらの圧力も重なり、実家に帰るのに緊張が伴うのである。」
「お前ホントに高校生かよww」
(そんな会話の後、2人が真剣な顔をして難しい話をし出したので、そっと その場を離れた。)
△back
(簡単に朝食を食べて、秋ノ島に戻った。文化エリアのダンスホール前に、桐崎さんと華椿さん、伊豆野さんがいた。)
「みんな、何してるの?」
「ゴン太先生!今から、伊豆野先生の舞いを披露していただくんです!」
「舞い…というより、ダンスですね。」
「んだな。日本舞踊も かじったことあるけんども、師匠にバレて すぐ辞めたかんな。」
「”超高校級”のダンスなんて、そうそう見られるものじゃないですよ。ゴン太先生も一緒に いかがですか?」
「うん!ぜひ見たいよ。」
「…だば、中ですっから、入んべよ。」
【秋ノ島西 文化エリア ダンスホール】
(しばらくダンスホールの観客席で待っていると、舞台に伊豆野さんが現れた。)
(ーーそれからの時間は、不思議な時間だった。時が止まっているような早く流れているような。)
(伊豆野さんの踊りは、素敵な絵を見ているような感じもしたし、絵では到底 表せないような感じもした。)
(前、誰かに見せてもらった絵を思い出した。)
(舞台上で お辞儀する伊豆野さんに、ゴン太たちは大きな拍手を送った。)
「素晴らしいものでした。優美で優雅…。まるで…絵画を鑑賞しているかっの…ような…!」
「ワァ…華椿先生が感極まって泣いちゃったッ…!」
「うん!ゴン太も綺麗な絵を見た時みたいに感動したよ!」
「その絵を描いた人も凄い芸術家で!生徒会長なんだ!明るくて、楽しくて、温かく抱きしめてくれるんだよ!」
「ゴン太先生、感極まって感動がゴッチャになってますよ?」
「………。」
「や、やんだべ。そんな褒めねぇでくろっ!」
「えっ、またまた〜、褒められ慣れてるくせに!本当に素敵な踊りを見せてくれてありがとうございました。」
「やんだ〜、褒めすぎだべー。大したことないべよ。」
(伊豆野さんが赤くなって俯いた。前も こんなことがあった気がする。でもーー…)
(そして、ひとしきり伊豆野さんを褒めた桐崎さんと華椿さんは、満足したように建物から出て行った。)
「獄原さ?どうした?オラは片付けて帰っから、オメも帰ってくれて構わねぇだよ?」
(出て行かないゴン太に、伊豆野さんは不思議そうな顔をした。)
「…伊豆野さんの顔が前に名前の話をした時と違うって…思ったんだ。」
(どんな風に言ったらいいか分からなくて、思ったままを言ってしまった。すると、彼女は困ったように笑った。)
「オメは…目が良がっただなぁ。オラも耳が良っからな、分かんべ。人の本当の感情には嘘が吐けね。」
(…どこかで聞いたことがある言葉だ。)
「ーー踊ってる時、オラの音は楽しくねぇんだ。」
「え?」
「オラは、ただのマリオネットだかんな。楽しくて踊ってるわけではねんだぁ。」
「そうだったの!?」
「踊りは生きるための手段だっただ。踊らなかったら殺されっから踊ってただけだな。」
「え?えっと、踊るのが嫌い…だったの?」
「……。」
「ごめん!知らなくて!ゴン太は虫さんが大好きだから、”超高校級の踊り子”の伊豆野さんは踊りが好きだとーー…」
(言いかけてハッとした。ーーそうだ。火野君だって、花火師だけど火が苦手だと言っていた。)
「ごめん…決めつけて…。無理…させちゃったよね。」
(ゴン太が頭を下げると、伊豆野さんは やっぱり困った顔のまま言った。)
「…ちげんだ。多分…踊り自体は好きだ。だども、嫌なこと思い出すっち、楽しめねってだけだぁ。」
(やっぱり、無理させちゃったんだ…。)
「忘れてけろ。」
(短く言って、伊豆野さんは片付けに戻ってしまった。)
【秋ノ島南 体育エリア グラウンド】
(ダンスホールを出ると、パキンと何かを打つ音がした。球技場の方だ。)
(球技場の前に着くと、ゴルフの球を打つ虎林さんの後ろ姿が見えた。)
(ゴン太には気付いていないみたいだ。彼女はネットに向かって球を打ち続けている。)
(そして、ゴン太と同じように その後ろ姿を眺めている人がいた。)
「星君?」
「……獄原か。」
(星君は ゆっくり振り返った。)
(いつもなら、ゴン太が声を掛ける前に気付くのに。)
「虎林さんの練習を見てたの?」
「……いや、通りがかっただけだ。」
「俺は ここには似つかわしくねーからな。…じゃあな。」
「え、星く…」
(星君はゴン太が声を掛ける間もなく行ってしまった。)
「あ。…え!?ゴン太?」
(ゴン太が大きい声を出したからか、虎林さんが振り向いた。そして、どうしてか足や手をパタパタしている。)
「ごめん、邪魔しちゃったかな?」
「ううん、全然ッ!!!で、も、いつからいたの?あ、アタシ!打ってる時、全然 他のこと気付けなくて!」
「えっと、虎林さん、どうしてパタパタしたりクルクルしてるの?」
「ほあっ!へ、変だよね!?ゴメン!!」
(ピタリと動きを止めた虎林さんの顔は、日焼けのせいか真っ赤だった。ゴン太は そんな彼女に笑いかけた。)
「ううん、楽しそうで素敵だよ!」
「グハァ!!!」
「ええ!?」
(虎林さんが何故か後ろに倒れてしまい、ゴン太は慌てて彼女に駆け寄り助け起こした。)
「あ…はは…ご、ごめん。」
「落としたゴルフクラブのグリップ踏まなくて良かったぁ…。」
「このグリップ、ちょっと出っぱってるでしょ?アタシが愛用してるのと似てるから、これにしたんだけど…」
「これ、落ちてる状態で踏んだら、ヘッドが自分に向かってくるの!踏んだ勢いでね、こう…!」
(虎林さんは球を打つ金属部分が勢いよく顔に当たる仕草をとる。確かに、そんな風に当たったら痛そうだと思った。)
「虎林さん、それでケガしちゃったことがあるの?」
(心配になって虎林さんの顔を覗き込むと、彼女は「あ」とか「う」とか言いながら後ずさった。)
「え?ど、どうかした?あ!もしかして、近すぎた!?ごめん!女性相手なのにーー…」
「前にも女性に近付きすぎて怒られたことがあるんだ!彼女は男性が苦手だって、ゴン太知ってたのにーー…」

「うう、そんな経験もあるんだ…。」

(虎林さんは赤かった顔を今度は青くして俯いてしまった。)
(…少し困っているみたいだ。これは…彼女の声なき声なのかもしれない。)
「虎林さん!困ってることがあるならゴン太に何でも言って!!何でもするから!!」
「うわ!?」

「な…何でも?え?何でも いいの?」

「うん!!」

「え…じゃ、じゃあ、あの…その…」
(それから虎林さんは少しモゴモゴと声を発したけれど、すぐに いつもの笑顔で「やっぱり いいや」と言った。)
「ーーアタシね、ちょっと変なの。最近、寝付きがいいんだ。」
「えっと…それって、変なの?」
「今までは夜、余計なこと たくさん考えて、眠れなくなってたんだ。でも、今は違うんだ。」
「ゴン…みんなのことを考えながら寝るの。そしたら、何だか胸がギューってなって苦しくなるんだ。」
「えぇ!?胸が!?た、大変だよ!」
「ううん。苦しくなった後、幸せな気持ちになるの。明日も会えるから、もう今日は寝ようって気持ちになるの。」
(虎林さんが笑った。)
「今日の後悔より、明日が楽しみになるんだよ。ゴン太のおかげだよ。」
「え?そうなの?」

「うん。……あの、さっきの『何でもしてくれる』ってやつ…やっぱり いい?」
(おずおずと虎林さんが言うのに、ゴン太は「もちろん!」と答えた。)

「じゃあ、1つだけ…教えて欲しいんだ。」
「あのね。ゴン太は…その、あの…どんな女の子が好き?」
「みんな好きだけど…1番 尊敬してるのは、女王蜂さんかな。」
「違っ、人間で!!落ち着いた子とか料理上手な子とか挙動不審じゃない子とか!どんな子だったら好きに…なる?」
「ああ!たいぷ、だね!」
「ええ!?そういうの知ってるんだ…?そうなんだ…。」
「?…えっと、高橋君が言ってたんだ。」
「そ、そうなんだ。…えっと、それで、どんな人が好き?」
「ゴン太はね、虫さんが好きな人が好きだよ!」
「……。」
「虫さんが好きな人に悪い人はいないからね!だから、ゴン太は仲間みんな大好きだよ!!」
「………。」
「う、うん…頑張るね。」
(どうしてかションボリしてしまった虎林さんは、寄宿舎の方に行ってしまった。)
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【本島 南エリア 食堂】
(夜、いつの間にか用意された食事を みんなで囲んだ。)
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「え…と…。皆さん、どうしました?なんか…空気 重くないです?」
「え?そうですか?」
「ハナちゃん、にびぃーww そんなんで仕置人が務まるん?あ、務まってないかww」
「なっ…そん、な…どうして、そんな ひどいこと……」
「野伏先生、すぐ泣くからって華椿先生をオモチャにするのは やめてください。」
(確かに、これまで口数が多かった人たちまで静かになって、食堂は昨日に増して重い雰囲気だ。)
(星君は心なしか寂しそうに見えるし、イーストック君は考え事をしてるみたいだし、伊豆野さんはボーッとしてる。)
(虎林さんは、さっき会った時と同じでゴルフクラブを抱えたままションボリしてる。)
(何か…みんなが楽しめることないかな…。あ!今こそ”虫さんと和もう会”を開く時なんじゃないかな!?」
「ゴン太先生、ゴン太先生、声に出てます。」
「…恐ろしい計画が口から まろび出ています。」
「え?恐ろしい?」
「ここに閉じ込められてる限り…コロシアイが終わらない限り、誰も和めねーから。そこんとこ、よろww」
【本島南エリア 寄宿舎 獄原の個室】
(それから、夕飯の場は静かなまま終わった。)
(コロシアイが終わらない限り、みんなは和めない。)
(みんなを、みんなの笑顔を守りたい。)
(ーーそのためには、やっぱりゴン太がモノクマと戦うしかない。)
(ゴン太は決意を胸に、目を閉じた。)

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