
先生、あのドラマ見ました?

ええ、まさかあの二枚目の頭取が黒幕だったなんて…びっくりです。

黒幕の差し金で主人公もピンチだし…

幕引きが楽しみですね。…さて、今の短い会話で、歌舞伎用語が5個出てきました。

歌舞伎用語!?

はい。実は日本語の日常会話の中で、歌舞伎から生まれた言葉はよく出てきます。

ええと…全く歌舞伎は分からないから意識してなかったです。

そんな日本人も多いですね。では、今日は歌舞伎から来た現代日本語を見ていきましょう。
歌舞伎役者が主役の映画『国宝』の大ヒットを機に、若い世代の客層が増えたそうです。また、日本の伝統文化として海外からの注目も高まっています。実は、歌舞伎由来の言葉は現代でもよく使われています。ここでは、歌舞伎用語から現代日本語にもなった言葉や食べ物をご紹介。なぜ「歌舞伎」の名称なのか?なぜ男性だけで女性はいないのか?なぜ男だけの女方/女形なのか?歌舞伎の起源と歴史も見ていきましょう。
歌舞伎とは?起源・語源・歴史
歌舞伎とは、江戸時代から続く日本固有の演劇・伝統芸能。2009年には無形文化遺産になりました。それもあって、日本固有の文化として「kabuki」は有名です。「kabuki」という言葉は英語圏や海外で通じる日本語になっています。
歌舞伎の起源は?なぜ名称「歌舞伎」?
歌舞伎の起源や語源をご存じでしょうか。歌舞伎が始まったのは、約400年前。関ヶ原の戦いが終わり、江戸幕府が開府した1603年のことです。出雲大社の巫女・阿国が客寄せでおこなった「風流(ふりゅう)」の舞台化が起源とされています。「風流」は、きらびやかな衣装で踊る、室町時代の末期から庶民の間で流行した舞踊。

これが歌舞伎踊りと呼ばれ、今日の歌舞伎へと変化していきました。
「歌舞伎」の語源は、常識はずれな行動や服装で注目を集める「傾く(かぶく)」人たち。彼ら「かぶき者」の動きや服装を取り入れた踊りだから「かぶき踊り」。そして、「かぶき踊り」が「歌舞伎」と呼ばれるようになりました。
歌舞伎役者は女性もいた!?今はなぜ男性だけ?
さて、現代の歌舞伎役者は、男性しかいません。女性の役も男性が演じる女方/女形が特徴的です。しかし、起源となった出雲の阿国は、巫女。女性です。
なぜ、歌舞伎役者は男性だけになったのでしょうか?それは、歌舞伎が人気すぎたからです。出雲の阿国の考案した歌舞伎踊りは、戦乱時代から脱した庶民にバカウケ。かぶき踊りは爆発的な人気を博しました。その結果、遊女や芸妓が真似て踊る「女歌舞伎」や「遊女歌舞伎」が横行。幕府は風俗上の問題から、1629年に女歌舞伎を禁じたのです。

風俗上…と言いますが、大名たちが女歌舞伎役者を買いとって領国に連れ帰ったり、役者を巡ってケンカが起こったり…武士側の問題が大きかったようです。

男性の問題じゃないですか…。でも、もともとは歌舞伎役者=女性だったんですね!
歌舞伎から生まれた言葉一覧
ここまで、歌舞伎の起源、名称の語源、歴史を見てきました。今では伝統芸能として格式高い文化ではありますが、江戸時代の庶民のための娯楽でした。庶民の娯楽は俗語としてよく広まるためか、歌舞伎用語は日常でよく使われる言葉として現代日本語に残っています。歌舞伎から生まれた言葉やその意味、歌舞伎由来の言葉を一覧で見ていきましょう。
世界(せかい)
日常会話でもよく聞く「世界」は、歌舞伎由来の言葉。この言葉が使われ出したのは、江戸時代中期とされています。主に歌舞伎狂言で使われる言葉で、背景設定となる時代設定・人物設定の前提となる枠組みを「世界」と呼んでいました。
十八番(おはこ)
これは歌舞伎由来の言葉として有名な得意なことを表す日常日本語ですね。七代目市川団十郎が定評ある荒事18種類を選んで「歌舞伎十八番(かぶきじゅうはちばん)」としました。この得意芸が「鑑定書=箱書き付き」の意味を持ち、後に「おはこ」と読まれるようになりました。
見得(みえ)
歌舞伎と聞くと思い浮かべるポーズ。「見得を切る」といいますね。日常的に使う日本語でもあり、「見得を切る」は自分を誇示する態度をいいます。

似た意味を持つ「見栄を張る」は、「見る」と「張る」の複合語が語源とされています。
芝居(しばい)
演技のことを「芝居」といい日常で使いますが、これも歌舞伎から来た言葉。もともとは、芝生の生えている場所のこと。柵に囲われた芝生の生えた場所が見物席だったことに由来します。
楽屋(がくや)
テレビや舞台などの出演者が準備や休憩をする場所。テレビや演劇業界で使われる日常的な日本語ですが、これも歌舞伎由来の言葉。語源は、雅楽の「楽之屋」。
黒幕(くろまく)
現代日本語では、巨悪を背後であやつる者という意味ですね。テレビやマンガなどで日常的に聞く言葉ですが、これも歌舞伎由来の言葉のひとつ。歌舞伎では、場面の転換や夜を表現する際に垂らす黒一色の幕のこと。

この黒色が、「悪・腹黒い」の役者像が重なって現代の意味が強くなりました。
差し金(さしがね)
差し金も、日常的に使われる歌舞伎由来の言葉。もともとは、黒子が舞台で操作する道具を差し金と呼んでいました。ここから、陰で人を動かすという現代日本語の意味が生まれました。
ノリ
「ノリが悪い」「なんとかノリで乗り切った」「今日はノらないな~」など、現代の日本語では若者が日常的に使う言葉の印象がありますが、これは能・狂言、歌舞伎用語が語源。能・狂言では、リズム感を表し、歌舞伎では音楽に乗って演技すること。
大立ち回り(おおたちまわり)
「殴っては蹴っての大立ち回り。」のように、現代日本語ではつかみ合いの派手なケンカ。歌舞伎では、文字通り大きい立ち回りを指します。歌舞伎での大立ち回りは戦いのシーンに使われることが多いため、ケンカを表すようになりました。
頭取(とうどり)
歌舞伎用語で「頭取」とは、楽屋全体を取り仕切る人のこと。もともとは雅楽で主席演奏者のことを指し、日常で使われる現代日本語の語源。現代では銀行の最高位を指すようになりました。
お家芸(おいえげい)
歌舞伎では、家に代々伝わる得意芸。現代では、この他に単に得意なことを表します。歌舞伎由来の言葉を語源とした日常日本語です。
二枚目(にまいめ)
現代日本語では、ハンサムな男性を指す日常的な言葉ですね。これは、芝居小屋の看板の1枚目に座頭の名前、2枚目に色男役の役者の名前を書いたことから。

ちなみに、3枚目は道化役の役者が記されました。
花道(はなみち)
歌舞伎用語の「花道」は、観客席の左側から舞台までの通路。役者が登場・退場する道です。現代日本語では、華々しい道といった意味で日常的に使われます。明るく華やかな芸風を持つ役者「花方(はながた)」に由来する「花形」も歌舞伎由来の言葉です。
市松模様(いちまつもよう)
色違いの格子型模様のこと。この名前の起源は、歌舞伎にあります。1741年に初代 佐野川市松がこの柄の衣装を着たことから流行し、市松模様と呼ばれるようになりました。

今、『鬼滅の刃』で人気が出ている模様ですね。
捨て台詞(すてぜりふ)
現代日本語では、去り際に言い捨てる負け惜しみや侮辱的発言として、日常でも耳にします。これも、歌舞伎由来の言葉。語源は、歌舞伎用語の役者が登場や退場時に即興で言い捨てる「捨て台詞」。近代では、去り際の挨拶をいうこともありました。
立役者(たてやくしゃ)
歌舞伎用語の「立役者」とは、芝居の中心となる役者のこと。ここから、中心になって活躍した者、成果を作り出した者の意味が生まれました。
裏方(うらかた)
現代と同じく、舞台裏で働くこと、働く人のこと。歌舞伎用語の「裏方」が、現代日本でも同じ意味で日常的に使われています。
大詰め(おおづめ)
「いよいよ大詰」のように、現代日本語で日常で使われる言葉。意味は物事の最終局面。歌舞伎の長い作品の最終幕を指す言葉に由来。
どんでん返し(どんでんがえし)
舞台の背景を、屋体をたおすことで変える歌舞伎の演出。今では、最後の最後で状況がひっくり返るという日本語になっています。
正念場(しょうねんば)
重大な局面を示す「正念場」も、歌舞伎から生まれた言葉。歌舞伎用語で、役の本心を表現する重要なシーンを「性根場(しょうねば)」と呼びます。これが転化してなまったものが、今の日本語に残る「正念場」です。
見せ場(みせば)
日常で使われる言葉「見せ場」も歌舞伎用語由来。歌舞伎では、劇中で最も重要なシーンを指します。現代日本語でも、見せるための重要なシーンを指しますね。
修羅場(しゅらば)
歌舞伎では、写実的な闘争シーンを「修羅場」と呼びました。これが、現代では激しい争いの意味の日本語になっています。

さらに転じて、漫画家などの締め切り前を指すこともありますね。
柿落とし(こけらおとし)
こけらとは、木材の切り屑のこと。新しくできた劇場のこけらを落としてきれいにして、新劇場を開場したことに由来します。現代日本語では、(新たな建築でなくても)最初の公演で使われる言葉ですね。
茶番(ちゃばん)
「茶番」も日常的に使う歌舞伎から来た言葉。茶の接待をする地位の低い役者が演じた即興劇が語源です。この劇はたいてい滑稽なものだったため、現代日本語ではばかげた振る舞い・小芝居などを指すようになりました。
口説き(くどき)
現代日本語の「口説く」「くどくど」「くどい」は、語源が同じ歌舞伎用語です。歌舞伎でいう「口説き」とは、長い心中を吐露するシーンを指します。

「くどくど」と心中を並べ立てて嘆き悲しむのが、「口説き」らしい「口説き」だそうです。
もともとは中世の平曲の「くどくど」した部分をさしましたが、今の意中の相手を「口説く」という意味は、歌舞伎『忠臣蔵』のセリフからきています。
なあなあ
「なあなあでやる」というと、「テキトーにやる」というニュアンスがありますね。馴れ合いで何かを行うという日常会話の日本語です。これも歌舞伎から生まれた言葉で、2人の人物の内緒話の仕方から来ています。1人が「なあ」と言い、もう1人が「なあ」と返す典型的な演技のひとつです。
めりはり
「めりはりのある生活」のように、物事に起伏があること。歌舞伎用語では、セリフの言い方に緩急があり、観客に鮮やかに聞こえることを指します。
だんまり
「だんまりを決め込む」のように、何も言わないという意味で使われる日常会話の日本語ですね。歌舞伎では、暗闇の中で何も言わず、相手を探り合うような演出・シーンを指します。
とちる
現代の日本語では、物事を失敗すること全般を指します。歌舞伎用語の「とちる」というセリフを言い間違えたり、忘れたりすることが語源。

今でも言い間違えることを「とちる」と日常的に言いますね。僕は「早とちり」が多いんですよね…。
歌舞伎から生まれた食べ物一覧
歌舞伎から生まれた言葉を一覧形式で見てきました。さらに、現代で私たちが良く知る食べ物(特にお弁当)も歌舞伎から来たものがあることをご存知でしょうか。それでは、歌舞伎由来の食べ物を見てみましょう。
幕の内(まくのうち)弁当
新幹線のお供、「幕の内」弁当の語源は歌舞伎にあります。歌舞伎用語では、幕が引かれて次の「幕開け」までの「幕間(まくあい)」。この間に食べる弁当を、江戸では「幕の内」と呼んでいました。

今では駅弁の定番名ですね。「幕開け」「幕引き」「幕間」など、幕に由来する言葉はたくさん残っています。
助六(すけろく)弁当
いなり寿司と海苔巻きがセットになった助六弁当も、幕の内弁当と同じく歌舞伎由来の食べ物。「助六」とは、歌舞伎十八番の成田屋の演目で主人公の助六という男と揚巻(あげまき)という花魁の話です。揚巻の「揚」から油揚げのいなり寿司、「巻」から海苔巻き寿司をセットにしたものを「助六寿司」と呼ぶようになりました。
歌舞伎揚げ(かぶきあげ)
歌舞伎らしい色合いのパッケージである天乃屋のせんべい「歌舞伎揚」も、歌舞伎から生まれた食べ物だといえます。歌舞伎揚げは、なぜこの名称として売り出されているのでしょうか。それは、歌舞伎とせんべいの長い歴史を残したいという天乃屋がせんべい自体に歌舞伎の家紋デザインが施したから。ただ、現在の歌舞伎揚げのせんべい自体がぶ厚くなったことから、この家紋デザインは分かりにくくなっているようです。

この他にも歌舞伎由来の日本語はたくさんあります。一部の業界で、朝昼晩いつでも「おはようございます」というのも歌舞伎の影響を受けています。
初心者必見!チケットの買い方・おすすめ公演紹介サイト
現代日本語に多くの影響を残している歌舞伎。歌舞伎を見てみたい!という外国人も実は多いものです。日本人でも、映画『国宝』のヒットによりその需要は増えています。けれど、初心者だからチケットの買い方が分からない!マナーもルールも分からない!どの公演を見たらいいの!?という方も多いかと思います。そんな方は、以下をご覧ください!
【歌舞伎 初心者】はじめての観劇 チケットの買い方やおすすめ演目、マナーやルールを徹底解説
歌舞伎由来の言葉・歌舞伎用語は日常会話の日本語に盛りだくさん
いかがでしたか?歌舞伎から生まれた言葉、歌舞伎用語はかなり現代日本語の日常会話にも残っていることがお分かりかと思います。歌舞伎由来の日本語の語源を知っていると、日本を紹介するときにも役立ちそうです。
今や伝統芸能である歌舞伎も、江戸時代には庶民的な娯楽でした。歌舞伎や狂言、落語、相撲など、俗っぽい娯楽が、時と共に「伝統的」になったものはたくさんあります。

今のエンタメも、いつしか「伝統」になる日が来るのかもしれませんね!

特に、日本で独自進化を遂げたアニメやマンガは、伝統文化と呼ばれる可能性が高いのではないでしょうか。

アニメ・マンガの用語が日本語に残り、「これってマンガ由来の言葉なんだよ」なんて言われる日も来たりして!
前回記事:ロシア語から日本語になった言葉14選
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