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第5章 AIと静春と旅立ち 学級裁判編Ⅰ

 

コトダマリスト

 

【モノクマファイル4】

被害者は、タマ=アミール・ナオル。死体発見現場は、エグイサル格納庫内。死亡推定時刻は、午後10時半から11時半頃。右腕に負傷跡、後頭部には打撃痕がある。

【死体の周辺】

死体はハッチの開いたエグイサルのすぐ近くにあった。死体の付近に被害者のハンカチが落ちていた。

【プレス機】

少し離れた所に操作スイッチがあり、「昇」と「降」、2つのボタンがある。安全装置が付いている。

【プレスされていた物】

下降していたプレス機にプレスされていた。原型は留めていないが、瓶と矢だと思われる。

【エグイサル】

現場にあった5体のエグイサル。4体は収納スペースに収まっており、コックピットが閉じている。もう1体は、格納庫入り口にあり、ハッチが開いてコックピットがむき出しになっている。コックピットには人が入れそうなスペースがある。

【落ちていた錠剤】

死体近くのコックピットが開いたエグイサルの座席下に白い錠剤が落ちていた。

【ビデオカメラ】

格納庫内からシャッター方面に向けて撮影されていた。22時過ぎから撮影され、タマが何度か映っているが、不自然に映像は終わっている。

【現場の黒いケース】

“超高校級の暗殺者”の研究教室にあった、組み立て式のクロスボウ。黒い大きなケースに入っていた。組み立て方は複雑で、習っていないと組み立てるのは困難。電子バリアの操作パネルに一式が立て掛けられていた。

【クロスボウの矢】

電子バリアの操作パネルの黒いケース近くに落ちていた。3本とも赤い塗料で塗られているが、血痕などは付着していない。

【格納庫の正面シャッター】

普段は電子バリアが張られているらしいが、警報装置は切られている。格納庫内のボタンまたはシャッター横の操作パネルで開閉が可能。死体発見時、シャッターは半開きで、歪んでいた。シャッター横の操作パネルには鋭利な物で傷つけられたような傷が付いている。

【入り口センサーの記録】

シャッターのモーションセンサーが感知した時間を示す記録。人がシャッターを出入りした際にその時間が記録される。昨日の夜時間の記録は、

22:05

22:32

23:03

23:45

【毒薬の痕跡】

“超高校級の暗殺者”の研究教室に赤い蛍光色が残っていた。前回の殺人で使われた毒薬と思われる。

【研究教室のクロスボウ】

“超高校級の暗殺者”の研究教室には、組み立てられたクロスボウが置かれていた。

【引き金の血痕】

“超高校級の暗殺者”の研究教室のクロスボウの引き金部分には血痕が付いていた。

【綾小路の行動】

夜時間の22時前、綾小路が寄宿舎の前を通った。黒いケースを持って格納庫方面へ向かっていた。

 

 

学級裁判 開廷

 

「えーでは、学級裁判の簡単な説明を…」

 

「くだらねぇ。始めるぞ。」

 

「ガーン…。また、このパターン…。」

 

「…前回は、自分で言うの止めたんじゃない。」

 

(みんなの席が円形に並ぶ、この裁判場。ここに来るのも、もう5回目ですね…。)

 

(その円形の席も、人がいるのは4席のみ。他の席には初回から空席だった場所以外は、死んだ人たちの遺影のような白黒写真が並んでいる。)

 

(今回、また1つ増えてしまった写真。顔に大きくバツ印が描かれたタマさんの写真を見ながら、ボクは みなさんに声をかけた。)

 

 

「とりあえず、事件の振り返りをしておきましょう。」

 

「そうだね。被害者は、タマ=アミール・ナオルさん。現場は格納庫内。あの3代目…みたいな名前のロボットの側に倒れていたね。」

 

「三代目…三遊亭ですか?桂ですか? 」

 

「いや…落語家じゃなくて、J SOUL…」

 

「いや、エグイサルだろ。死因はモノクマファイルにはなかったが、死体は腕から血を流してたな。」

 

「でも、ナイフ…とかはなかったよね。それに、彼女は後頭部からも血を流してた。」

 

「………。」

 

「まずは、死因を確定させた方が良さそうですね。」

 

 

 

ノンストップ議論1開始

 

「今までの事件も、ほぼ死因が隠されている。つまり…それだけ犯人を示す重要な手掛かりということだね。」

 

「そっか。モノクマファイルに情報が書かれてないってことは、それが犯人に繋がるかもしれないんだね。」

 

「タマの腕の傷は小さいものだった。矢で射られたとか…アイスピックで刺されたとかだろ。」

 

「……矢、か。」

 

「で、でも…現場には武器になりそうなものはなかったよね?」

 

 

【プレス機】→アイスピック

【エグイサル】→武器になりそうなものはなかった

【現場の黒いケース】→武器になりそうなものはなかった

 

 

 

「テメーは春川ナシじゃ何もできねーらしいな。」

 

「そんなことはありません!現に今『間違えることができる』ということが証明されたじゃないですか!」

 

「……。」

 

 

back

 

 

 

「それは違います!」

 

「……。」

 

「………。」

 

(春川さんが何も言ってくれません。…それなら、仕方がありませんね。)

 

「現場には、組み立て式のクロスボウがあったんですよ。」

 

「えっ。」

 

「格納庫の外側、シャッターの操作パネルに黒いケースが立て掛けられていましたね。あの中に入っていたんです。」

 

「何でンな所に、ンなモン置いてあんだよ。」

 

「……奇妙 極まりないね。」

 

「奇妙 奇天烈でも、ヘンテコ不思議でも、事件と関わりがあるはずです!」

 

「つまり、犯人はタマをクロスボウで撃って殺したってことだろ。」

 

「クロスボウで撃って殺す?そんなバカな。」

 

「それは、おかしいんじゃないかな?」

 

「……そうだね。おかしいよ。」

 

「え!?」

 

 

 

ノンストップ議論2開始

 

「確かに、腕に矢が刺さったら痛いし出血もするだろうけど…。」

 

「ああ。だから…犯人はクロスボウを使ったんだろ。」

 

「…難しいんじゃないかな。クロスボウで殺すというのは。後頭部の傷も無視はできないはずだよ。」

 

「ンなもん、撃たれた時に倒れて床で打ったんだろ。それより、何でクロスボウじゃ死なねーって言いきれるんだよ!」

 

「クロスボウの矢が刺さったのは腕だったね。腕の傷では致命傷にならないよ。」

 

 

【ビデオカメラ】→後頭部の傷

【毒薬の痕跡】→腕の傷では致命傷にならない

【格納庫の正面シャッター】→腕の傷では致命傷にならない

 

 

 

「例えば、キーボ君の腕を捥ぎ取るとしよう。その時、君は機能停止するのかい?」

 

「恐ろしい たとえ話をしないでください!」

 

 

back

 

 

 

 

「それは違います!」

 

「もし、クロスボウの矢に毒が塗られていたら、腕からでも死に至る可能性があります。」

 

「……なるほど。」

 

「……毒って…根拠があるの?」

 

「クロスボウのあった暗殺者の研究教室に毒薬が溢れた跡…蛍光色のギラギラがありました。」

 

「前の裁判…大場の殺人に使われた毒。サンタクロースの研究教室から持ち出されたってことか。」

 

「いえ…麻里亜クンの研究教室も調べたんですが、前回の事件以降…毒や他の物を持ち出した形跡はありませんでした。」

 

「…それなら、あの毒薬が今回の事件と関わりがあるとは言えないんじゃないの。」

 

「え?しかし…クロスボウが置いてあった暗殺者の研究教室で毒薬の痕跡が…」

 

「うーん、ちょっと関係性としては薄いよ。」

 

「…確かに。現場のクロスボウが使われ、毒が塗られたという根拠としては薄いね。」

 

「え…そ、そうですか?」

 

(何だか…みなさんの判定が いつもより厳しい気が…。それなら、現場にあった物から根拠を提示してみましょう。)

 

 

1. 【プレスされていた物】

2. 【プレス機】

3. 【入り口センサーの記録】

 

 

 

「それが…根拠?だとしたら…あんたのAIは根拠ってものを勘違いしてるよ。」

 

(やっぱり…いつもより言葉が厳しい気がしますね。)

 

 

back

 

 

 

 

「現場のプレス機には、プレスされた状態の物が発見されています。原型は留めていませんでしたが、あれは…クロスボウの矢と瓶のようでした。」

 

「プレス機の表面に蛍光の赤色着色料がギラギラしていましたので…おそらく、あの瓶が毒薬だったのでしょう。」

 

「あのプレス機?でも…あれ、動かないようになってたよね?電源コード?みたいなものが壊れてて…。」

 

「モノクマが直したんですよ。」

 

「……。」

 

「どうしたの、春川さん。『そんなことできるのか』とでも言いたげだね?」

 

「うぷぷ。実はね、できたんだよ。前は ほら、それをやったらCERO-Zになっちゃうから、やらなかっただけで…」

 

「被害者を知ることはできたのさ!ボクを縛っていたのは、彼らの作戦でもエレクトボムでもなく、外の世界のルールだったってことさ!」

 

「……。」

 

「…またワケの分からねーことを。」

 

 

「……キーボ。」

 

(黙ってモノクマを睨み付けていた春川さんが、静かな声でボクに語りかける。)

 

「あんた、さっき言ってたよね?麻里亜の研究教室からは…毒薬は持ち出されていないって。」

 

「ええ。前回の事件以降、サンタクロースの研究教室に行った人もいないそうなので、確かですよ。」

 

「…それなら、そのプレスされた瓶は、毒薬じゃないよ。毒薬があったのは、あの麻里亜の研究教室だけなんだから。」

 

「そうだね。食堂の砂糖の瓶とかジャムの瓶とかの可能性もあるもんね。」

 

「フム。一理ある。」

 

「いや、ねーだろ!」

 

(プレスされた瓶は、毒薬の瓶のはず。けれど、前回の裁判以降、毒薬のある研究教室に行った人はいない。毒薬は…)

 

 

1. タマが持っていた

2. 犯人が作った

3. 学園内に隠していた

 

 

 

「キーボ君って、妄想力たくましいよね。ロボットが小説 書いたりできる時代だから…驚くことじゃないんだろうけどさ。」

 

「AIがすごいのは分かるけど、人が作ったものの力は不滅だから!正直、キャラ名検索でAI生成のちょっとエッチな絵が大量に出てくるのとか本当に…」

 

(しばらくエイ鮫さんのグチを聞かされた。)

 

 

back

 

 

 

「あの毒薬は、タマさんが持っていたものです。」

 

「タマさんが…?」

 

「ええ。前回の事件前に、彼女は睡眠剤と毒薬をプレゼントボックスから取り出していました。」

 

「睡眠剤は事件前に使われましたが、毒薬は使われず…前回の裁判中、タマさんはボクらに それを見せていますね。」

 

 

「そうそう。だって、ホラ。私が開けた毒薬は、ここにあるもん。」

 

 

「……確かに、タマさん…持ってたね。」

 

「彼女は前回の事件後から毒薬を ずっと持っていたということかい?」

 

「はい。今回 使われた毒薬は、タマさんの所有物だったということです。」

 

「つまり、やっぱり死因は…クロスボウの矢の毒薬っつーことだな。」

 

 

「…現場にあったクロスボウも…タマの研究教室から持ち出されたものだよね。あれも、タマが用意したもの?」

 

(現場にあったクロスボウは、黒いケースに収納されて、シャッターの操作パネルに立て掛けられていた。あの黒いケースには、見覚えがある。)

 

「あのクロスボウを運んだのは、タマさんではありません。」

 

「ああ?」

 

「…では、誰が運んだというんだい?」

 

「根拠のある話なんだよね?」

 

「根拠がない言いがかりとかだったら…えっと…承知しないからね!」

 

(やっぱり…今回…みなさん厳しい気がします…。)

 

 

▼現場にクロスボウを運んだのは?

 

 

 

「根拠がないのに言ってるね?承知しないで欲しかったら、ちゃんと考えて!」

 

「『承知しない』って何なんですか!?」

 

 

back

 

 

 

 

「キミしかいません!」

 

綾小路クン…キミは、昨日の夜時間前に黒いケースを持って宿舎前を通り過ぎましたね。」

 

「……どうして、それを?」

 

「あの時、ボクは宿舎の前にいたんですよ。キミは気付いていませんでしたが。」

 

「……。」

 

「えっと…どうなの?綾小路君?」

 

「……テメーが…犯人か?」

 

 

「……キーボ君に見られていたのなら言い逃れできないね。君の証言は、唯一…物的証拠にできるから。」

 

「ああ!?み、認めるってのか!?」

 

「そうだよ。僕が、”超高校級の暗殺者”の研究教室から、クロスボウを格納庫まで運んだのさ。」

 

「テメーが…犯人ってことだな!?」

 

「いや、僕は犯人じゃないよ。ただ、クロスボウを運んだだけで。」

 

「それで、はい そうですか。なんて言えるかよ!夜時間に凶器を移動させてるなんて…怪しすぎんだろ!」

 

「やれやれ…本当なんだけどな。怪しまれるだろうから黙ってただけで。」

 

「…何で、そんなことしたの?」

 

「彼女に頼まれたのさ。暗殺者の研究教室からクロスボウを運んでくるようにね。」

 

「…オレは信じねーぞ。そんなテメーに都合がいい話…。」

 

「まあ、まずは話を聞いてくれないかい?」

 

「はい。お願いします。」

 

「あれは夜時間になる30分前…9時半頃、図書室で本を読んでいた僕をタマさんが訪ねてきたんだよ。」

 

 

「アヤキクちゃん!お願いがあるんだ!」

 

「入って来るなり…いきなりすぎないかい?」

 

「そんなことより!お願い!私の部屋からクロスボウが入った黒いケースを持って来て!あと、矢も3本ほどお願い!」

 

「……君が自分で行けば どうかな?」

 

「私、今から格納庫でお客さんを出迎えなきゃいけないんだ!時間通り来る人か分かんないから、いつ来るか だいたいしか読めないの!」

 

「僕は忙しいんだよ。この『世界の傑作機 メッサーシュミット』を読んだ後、実際の航空エンジンを羽成田君の研究教室にて見学し、その後…」

 

「そんな つまらなすぎる青春を過ごしてないで、私のために手足 動かしてよ!馬車馬のごとく!!」

 

「僕は馬車馬になる気はないよ。知ってるかい?産業革命期の欧米では疲れて休もうとした荷馬車の馬の下で火を焚いて…」

 

「うあああああああん!そんな現代人から見たら倫理観バグってる昔の人の愚行話なんて聞きたくないよー!!」

 

 

「…と、彼女が床を転げ回り のたうち回り…このままでは図書室の書籍が傷むと思って、やむなく了承したんだよ。」

 

「えーと…それは…お疲れ様…。」

 

「だからって、クロスボウ運んだっつーのかよ。」

 

「彼女は気になることも言ってたからね。『クロスボウからコロシアイの首謀者が分かるかもしれない』って。」

 

「えっ!?」

 

「どういうことですか?」

 

「それは分からないよ。聞いても意味ありげな顔で意味のないことを言うだけだったから。それで、僕は渋々 3階へ向かったんだよ。」

 

「タマさんは玄関ホールまで一緒だったんだけど、そのまま校舎から走って出て行ったよ。おそらく、格納庫に向かったんだろう。」

 

「それが本当なら、タマさんは格納庫で誰かと待ち合わせていたと考えられますね。」

 

「…コロシアイの中で、暗殺者を名乗ってる奴にクロスボウを届けたの?」

 

「確かに、軽率だと考えられるかもしれないが…研究教室は だいぶ前から開かれていたのに、彼女は誰も殺していなかった。」

 

「僕は一応、そういった実績とアコンプリシュメントから鑑みて、彼女を信じていたんだよ。」

 

「『誰も殺していない』ことを『実績』というのは、どうかと思いますよ。」

 

「…いや、怪しすぎんだろ。テメーが格納庫でクロスボウを使ったんじゃねーのか。」

 

「やれやれ…怪しいかもしれないけれど、怪しいだけだよ。クロスボウなんて、使えるか怪しいものを凶器にするほど怪しいオツムじゃないつもりだよ。」

 

「…自分で怪しいって言いすぎじゃない?」

 

 

 

ノンストップ議論3開始

 

「僕はクロスボウのケースと矢を格納庫に持って行っただけだよ。」

 

「22時前 格納庫に行くと、シャッターは閉まっていた。タマさんがシャッターの向こうから、その辺に置いておけと言うから、そうしたまでさ。」

 

「その後、すぐ格納庫から出たよ。羽成田君の研究教室にお邪魔して、航空機を観察したかったからね。」

 

「そんなこと言って……テメーがクロスボウを持って行って…撃ったんじゃねーのか。」

 

「僕ではないよ。格納庫でタマさんと待ち合わせていた人物。おそらく、それが犯人だ。僕は彼女に頼まれただけだからね。」

 

「…それも、作り話なんじゃねーのか?」

 

「僕はクロスボウには触ってないよ。僕が持って行った矢は使われていないはずだよ。」

 

 

【格納庫の正面シャッター】→シャッターは閉まっていた

【クロスボウの矢】→持って行った矢は使われていない

【研究教室のクロスボウ】→持って行った矢は使われていない

 

 

 

「キーボ君は僕を犯人だと決め付けているようだ。思い込むという機能がAIにもあるとはね。」

 

(思い込むことができるほど高性能だ。そういうことですね!)

 

「……。」

 

 

back

 

 

 

「それに賛成です!」

 

「現場にはクロスボウの矢が3本使われずに揃っていました。血痕の付着もありません。」

 

「えっと…じゃあ、タマさんはクロスボウの矢で死んだわけじゃないってこと?」

 

「いいえ、綾小路クンの話が本当なら、4本目の矢を持ち込んだ人物がいたはずです。」

 

「それに、入り口センサーの記録によると、夜時間10時以降に少なくとも2人の出入りがあったんです。」

 

「綾小路クンの話が本当なら、タマさんは既に夜時間前に格納庫に入っているので、記録にタマさんはカウントされません。」

 

「入り口センサー?」

 

「格納庫入り口には、人の動きに反応するセンサーがありました。出たのか入ったのかは分かりませんが…。」

 

「記録は22:05、22:32、23:03、23:45です。」

 

「ンなもん、綾小路が嘘 言ってるだけだろ。タマが入った時間が22:05で、その後、格納庫に入って殺したんだろ。」

 

「…そうだね。『3本の矢を持って行った』っていう証言が本当かどうかは…分からないはずだよ。綾小路が4本矢を持って行った可能性だってある。」

 

「そうすると、タマさんは外に出ていないのに、1つ記録が多いことになるよ。」

 

「そっか…格納庫内でタマさんは死んじゃったから…出ることはないもんね。」

 

「はい。4本目の矢を持ち込んだ何者かがいたと考えるのが合理的です。」

 

「うぷぷ。もう1つの矢を持ち込んだ何者か…。どこかで見た展開だね。っていうか、全体通して、どこかで見た展開しかないんだけどね!」

 

「うるせー、テメーは黙ってろ!そんな記録、出たり入ったり何度もしたってだけだろ。…綾小路、テメーが嘘 言ってんだ!」

 

「失敬な。僕はファクトのみ語っているよ。」

 

「あの黒いケースのクロスボウは組み立て前でした。綾小路クンには、クロスボウを組み立てることはできないはずです。」

 

「でも…クロスボウを組み立てられる人なんて…この中にはいないでしょ?」

 

「………。」

 

(どうでしょう。本当に、クロスボウを組み立てられる人はいないのでしょうか?)

 

(いえ…ボクの記憶から分析するに…1人だけいるはずです。)

 

 

▼クロスボウを組み立てられるのは?

 

 

 

「……キーボ、それは本当に…あんたの考えなわけ?」

 

(違いましたか。確かに、今のはボクの記憶による分析ではなく…何か別の力が働いたような…。)

 

 

back

 

 

 

 

「彼女しかいません!」

 

タマさんです。”超高校級の暗殺者”であるタマさんなら、クロスボウを組み立てることも可能でしょう。」

 

「……。」

 

「確かに、そうだけど…。」

 

「なぜ、被害者のタマさんが、クロスボウを組み立てて殺されてるんだい?」

 

「それは まだ分かりません!」

 

「だから、何を胸 張ってやがる!テメー、まさか また『被害者の自殺でした』って言いてーのか?」

 

「……クロスボウを普通に使うなら、自殺は無理だよ。初めの事件みたいな…仕掛けを使わないと…。」

 

「……春川、テメー…。」

 

(春川さんが静かに言うと、羽成田クンが青筋を浮かべて こちらを…春川さんを睨み付けた。)

 

「つまり…タマさんは、僕が持って行ったクロスボウを組み立てたが、何故か矢は使わなかった。そういうことかな?」

 

「それなら、センサーの記録について推測できます。」

 

「時間しか分からねーんだろ。そんなモン、何の手掛かりにもなんねーよ。」

 

「いえ、今までの情報で、合理的にセンサーのデータを分析することができます。」

 

「綾小路クンがクロスボウを持ってきた後、タマさんが組み立てるために格納庫から出て来た。そして、組み立てを終え、また格納庫へ入ったんです。」

 

22:05 タマoutクロスボウ組み立て

22:32 タマin組み立てを終え格納庫へ

23:03 犯人in

23:45 犯人out

 

「でも…捜査時間、クロスボウは格納庫の外にあったんだよね?タマさん、せっかく組み立てたのに放置してたってこと?」

 

「タマさんはクロスボウを組み立てた後、格納庫に持って入ったが、犯人が犯行後に操作パネル付近に立て掛けたのかもしれないよ。」

 

「クソ…どの時間に出たのか入ったのかが分かんねーから、こんがらがってきたぞ。」

 

(みんなが羽成田クンに同調するように黙り込んだ。その時、)

 

 

「それだと…おかしいんじゃないの。」

 

(裁判場に、また春川さんの静かな声が響いた。)

 

「タマがクロスボウを組み立てた。でも、現場のクロスボウは、組み立てられてなかったんでしょ。」

 

「組み立てられないってことは、分解することもできない。23:03…夜時間の11時頃が犯人が来た時間とは、まだ断定できないよ。」

 

「タマさんを撃った後に、犯人がクロスボウを解体したとしても…組み立てられる人間でないと、解体も難しいということだね。」

 

「……この中に、実はクロスボウを組み立てられるという人は いますか?」

 

「テメーな…。そんなんで出てくるワケねーだろ。」

 

「……。」

 

 

「もしかして…首謀者…じゃないかな。」

 

「え?首謀者…ですか?」

 

「だって、タマさん以外でクロスボウを扱える人なんて…この中にいないでしょ?」

 

「まあ、キーボ君はもちろん、歴史学者の僕も、保育士も、パイロットもクロスボウの扱いを知ってるとは思えない。」

 

「エイ鮫さんはVチューバーとして幅広く活動してるらしいから、企画次第では経験がありそうだが。」

 

「クロスボウを使った企画なんてなかったよ!ゲーム実況とかで武器の扱いは慣れてるけど、それはキーボード操作での話だし。」

 

「この中には、クロスボウを扱える人はいないんだよ。だから…わたしは首謀者を探すべきだと思う!」

 

「首謀者が…タマさんを殺したんだよ。」

 

「………。」

 

(首謀者…このコロシアイを目論んだ黒幕…。)

 

「何で首謀者がタマを殺すんだよ!?」

 

(首謀者がタマさんを殺す理由…?)

 

 

1. 何となく気に食わなかったから

2. 暗殺者嫌いだったから

3. タマが首謀者 探しをしていたから

 

 

 

「そんなことのために…タマは…って、ンなわけあるか!」

 

(いいツッコミを持ってますね…。)

 

 

back

 

 

 

 

「タマさんは首謀者を探していた…。それを邪魔に思った首謀者が、タマさんを殺した。エイ鮫さんは、そう言いたいんですね?」

 

「そうだよ!きっと…そうなんだよ!」

 

「……。」

 

「なるほどね。確かに、タマさんは『クロスボウから首謀者が分かる』なんて言っていたからね。首謀者が本格的に動き出したということか。」

 

「首謀者を見つければ…このコロシアイは、終わるんだよ!みんなで、首謀者を見つけようよ!」

 

「……首謀者ってもよ、学園内のどこにもンなヤツいなかったんだぞ。」

 

「首謀者がいる可能性が高い5階には、結局 行けなかったからね。」

 

「………。」

 

(エイ鮫さんは、こちらを一瞬だけ見て俯いた。)

 

(首謀者…。前回の裁判から、その言葉が出てきましたが…この場にいない人物を引っ張り出すのは難しいでしょう。それなら…)

 

「この中に、首謀者の手下がいる…モノクマは、そう言ってましたね。」

 

「正確に言えば、『春川さんが話した首謀者の言うことを聞いてたヤツ』だけどね〜。」

 

(コロシアイの首謀者の手下。本当に、この中に…そんな人が…?)

 

「首謀者の手下…ということは、その人物は、このコロシアイで何が起こるか、ある程度 予測できていたはずだね。」

 

「………。」

 

(心当たりがあります…。彼女は…毎回 迷うことなくモノクマの”ご褒美”のアイテムを使っていました。)

 

(彼女は前回の裁判で…裁判を延長させ首謀者の存在を仄めかした…。そして、モノクマは彼女が地下道の出口を知っている…と。)

 

 

「……無駄じゃないよ。モノクマ、あんただって、裁判が早く終わりすぎたら…困るんじゃないの?」

 

「あー…、そうそう、春川さんは知ってるだろうね。裏庭のボイラー室にあるマンホールの下には、絶望のデスロードがあるんだよねー…。」

 

 

(そうだ…カメラで監視しているという話の時も…5階の話の時も…)

 

 

「うぷぷ。そうだね。春川さんは、ボクが どのように見てるかも分かってるもんね。」

 

「いやー、そんなに春川さんが5階に行きたがってるなんて知らなかったなぁ!もう行ってるはずなのに、おかしいね!」

 

 

「……。」

 

(そんなはず…ありません。ボクは、ずっと彼女を見てきました。だから、彼女がコロシアイを止めようとしてきたことも知っています。)

 

(けれど…。)

 

(ボクは彼女の肩から、彼女の横顔を見上げた。その目は伏せられ、ボクと視線が合うことはない。)

 

「……おい。首謀者うんぬんの前によ。クロスボウの扱いに…詳しそうなヤツがいるじゃねぇか…。」

 

「クロスボウの扱いに詳しそうな奴?」

 

「1回目の事件…あれも、クロスボウを使った仕掛けだったろ…。それを解き明かしたのは、誰だ?」

 

「………。」

 

 

▼クロスボウに詳しそうなのは?

 

 

 

(…違う。目を背けるわけには…いきません。)

 

 

back

 

 

 

 

「キミしか…いません!」

 

「……春川さん。キミは…1回目の殺人で、クロスボウの仕掛けを解き明かしました。クロスボウの扱いについて、詳しかったんじゃないですか?」

 

「……。」

 

「確かに、1回目の裁判で使われたギミック…引き金を引いたクロスボウをゴムで固定し、引き金の間に物を挟んで、さらにドアと糸で繋ぐ…」

 

「クロスボウを使ったことがなければ、出てこない発想だったね。」

 

「はい。春川さんは、どこかでクロスボウの扱いを知りーー…」

 

「ちょっと待って!」

 

(ボクの言葉に、突然 エイ鮫さんが声を上げた。)

 

 

 

反論ショーダウン開幕

 

「確かに、春川さんはクロスボウについて詳しかったよ!クロスボウを使ったトリックにも気付いてくれた!」

 

「メタ推理で犯人当たってドヤ顔しちゃう わたしなんかじゃ、到底 思い付かない推理で、正直シビれたよ!」

 

「でも、それって春川さんが超探偵もビックリの推理力があったってだけでしょ!」

 

「ゲームでクロスボウを使ったり、フィクションの推理モノで見てたから思い付いたのかもしれないよ!」

 

「実際のクロスボウの扱いとゲームの中では、かなり違いがあると思います!」

 

 

「そもそも、ちょっと詳しいからって、クロスボウを使えるはず…なんておかしいよ。」

 

「春川さんがクロスボウを組み立てられるとは限らないでしょ?」

 

「ううん、絶対、保育士の春川さんがクロスボウを組み立てられるはずないんだよ!」

 

犯人はクロスボウの組み立て方を知ってたんでしょ?ここにいる みんな、無理なんだよ!」

 

 

【研究教室のクロスボウ】→犯人はクロスボウの組み立て方を知っていた

【綾小路の行動】→犯人はクロスボウの組み立て方を知っていた

【ビデオカメラ】→犯人はクロスボウの組み立て方を知っていた

 

 

 

「ほら、それとこれとは全く話が違うもん!やっぱり春川さんが…なんて、おかしいよ!」

 

(もう1度、考え直しましょう。本当に…クロスボウの組み立て方を知らなければ犯行は不可能だったのか。)

 

 

back

 

 

 

 

「その言葉、斬らせてもらいます!」

 

「犯人がクロスボウの組み立て方を知らなくても良かったとしたら…どうですか?」

 

「えっ…。」

 

「現場のクロスボウは分解されて黒いケースに入れられていた。分解するのに組み立て法は知らなくても良かったということかい?」

 

「その可能性もありますが…”超高校級の暗殺者”の研究教室から、既に組み立てられたクロスボウが見つかっているんです。」

 

「タマさんが組み立てておいたものかな?僕は『黒いケースの』と言われていたので、組み立てていないものを現場に持って行ったのだけど。」

 

「あ?じゃあ現場にあったクロスボウは何だったんだよ!?」

 

「使われなかったのでしょう。犯人は、研究教室にあった組み立て済みのクロスボウを使ったんです!」

 

「……。」

 

(エイ鮫さんが黙り込んで俯いた。そんな中。)

 

 

「…おかしいよ。」

 

(ボクが立つ春川さんの肩が、彼女の深呼吸と共に、上下に ゆっくり揺れた。)

 

(続け様の反論に少し たじろぎながら、ボクは彼女の声に耳を澄ませた。)

 

 

 

反論ショーダウン開幕

 

「私がクロスボウについて詳しそうだから、私には組み立てができた。」

 

「だから…クロスボウで殺人を犯したのは私。」

 

「あんたの主張は…こういうことだよね?キーボ。」

 

「はい。春川さんはクロスボウの扱いについて、ある程度 知っていた可能性があります。」

 

 

「それなら…その論理は おかしいよ。」

 

「暗殺者の研究教室には最初から…タマが組み立てたクロスボウがあった。」

 

「私以外でも…他の誰でもクロスボウが使えたってことだよね。」

 

「私が研究教室のクロスボウを使った根拠はないでしょ。」

 

 

【プレス機】→クロスボウを使った根拠はない

【引き金の血痕】→クロスボウを使った根拠はない

【モノクマファイル4】→クロスボウを使った根拠はない

 

 

 

「……それが根拠?」

 

「違います!」

 

「…なら、根拠を ちゃんと話しなよ。」

 

 

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「その言葉、斬らせてもらいます!」

 

「春川さん、研究教室にあったクロスボウの引き金に血痕が残っていたんです。」

 

「……。」

 

「キミは、6階の床を素手で壊そうとして、右手を負傷していましたね。」

 

「な…何だよ、その無謀なチャレンジは…。」

 

「利き手をケガしていた場合、クロスボウの引き金に血痕が残る可能性が高いです。」

 

「それが…春川さんの血だということか…。血液鑑定ができれば一発なんだけどね…。」

 

「無理ですね。ここはクローズドサークルで、ボクに そんな機能はありませんから!」

 

「だから、胸を張ってんじゃねー!」

 

「でも…春川さんの血じゃないかもしれないよ?他にも、血が出た人がいるのかも…。」

 

「身体検査でもするかい?この中で傷がある人がいるかどうか。」

 

「……。」

 

「……被害者の…タマさんの血が付いたのかもしれないよ。」

 

「血痕だけではありません。そのクロスボウの組み立て部分に、白い繊維が挟まっていました。…あれは、春川さんの包帯のものではないですか?」

 

「組み立て部位に挟まっていた…ということは、春川さんがクロスボウを組み立てたということかい?」

 

「事件でタマさんが血を流す前から負傷していた人…それは…キミしかいないんです。」

 

「……クロスボウを組み立ててる時に傷口が開いたってとこか。」

 

「そんなの、他にもケガしてた人がいたけど、隠してたのかもしれないよ!」

 

「血が付くようなところにケガをしていたのは…春川さんだけです。みなさんの事件前の写真を出すこともできますよ。」

 

「……っ。」

 

「………。」

 

「……。」

 

 

「…焦ってたから…血が付いたことにも気付かなかったよ。」

 

「…春…川さん。」

 

「……”前”の私だったら…そんな失敗…しなかったのにね…。」

 

「…認める…のか?」

 

「嘘だよ!春川さんはクロスボウの組み立てなんて、できないよね?首謀者の罠だよね?」

 

「……私は…クロスボウの組み立て方を知ってるよ。」

 

「春……。」

 

「ごめん…エイ鮫。…私が、あんたに話したことは…全部じゃない。」

 

「……。」

 

「……春川さん。話してください。」

 

「……私は…覚悟を決めたんだよ。」

 

「覚悟…?何のですか?」

 

「……。」

 

「しかし、彼女は、沈黙した。不気味な沈黙だった。沈黙の春だった…。」

 

「レイチェル・カーソンを用いて茶化すんじゃない。」

 

「私は…首謀者を見つけ出す。そして、この…ゲームを終わらせる。何を犠牲にしてでも。」

 

(春川さんが呟いた。その言葉は、重い響きを感じさせるものだった。)

 

 

 

学級裁判 中断

 

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