第5章 AIと静春と旅立ち 非日常編
「な…なんてことだ…。」
(そこには、制服を真っ赤に染めた姿があった。ボクと綾小路クンは、ただただ、それを眺めることしかできなかった。そこで。)
「…テメーら、ここで何してんだよ。」
(羽成田クンの声に振り返る。そこには、3人が立っていた。横たわる女性を見て、みんな一様に固まっている。)
「……死んでるのか?」
「そうだね。……また、起こってしまったようだよ。」
「……クソッ。」
(羽成田クンが悔しげに顔を歪めた。そこで、死体発見アナウンスが鳴り、終わった瞬間にモノクマが現れた。)
「うぷぷぷぷ。コロシアイは…終わらないよ。うぷぷぷぷぷぷ。」
(青ざめる面々に、モノクマがモノクマファイルを配る。ボクは近くにいた綾小路クンと共に、それを確認した。)
(読み上げた後、ボクは彼女の名前を呟いていた。もう彼女に届くはずがない、彼女の名前を。)
「タマさん…。」
(白い制服を赤く染めて横たわる、タマ=アミール・ナオルさん。腕と頭から血が流れていて、ピクリとも動かない。)
「また…殺人が起きたんだね…。」
「タマさん…。」
(それまで黙っていた春川さんとエイ鮫さんが、力なく言った。)
「モノクマファイルの情報は…今までと同じく少ないね。」
(被害者は、タマ=アミール・ナオル。死体発見現場は、エグイサル格納庫内。死亡推定時刻は、午後10時半から11時半頃。)
(確かに、情報が少ないですね。)
コトダマゲット!【モノクマファイル5】
「みなさん、落ち込んでばかりもいられません…。いつも通り2人1組で手分けして手掛かりをーー…」
「……2人1組になる余裕なんてあんのか?」
「フム。確かに。人数も少ないしね。」
「え。みなさん?」
「えっと…各自、手分けした方がいいってことかな?」
「そうだね…。私は、外を調べてくるよ。」
「え?ちょっと、春川さん!ボクも連れて行ってください!」
「悪いけど…あんたを連れて行くと重いから。」
「……。」
「では、せめて市ヶ谷さんの研究教室に連れて行ってくれませんか?」
「市ヶ谷の研究教室?」
(ボクが言うと、春川さんは ため息を吐いた後、ボクを肩に乗せた。)
【超高校級のDIYの研究教室】
(春川さんは、ボクを研究教室まで連れて来て、すぐに その場を立ち去った。)
(春川さんの様子、明らかに おかしいですね。)
(…彼女は一晩中 部屋に帰って来ませんでしたが、まさか……)
(いえ、余計な先入観を持つのは、合理的ではありません。今は、ボクに できることをするだけです。)
(教室の隅の箱を開け、中から細かなパーツを取り出す。作られたばかりの頃、市ヶ谷さんに説明されたことを思い出しながら、それを組み立てていった。)
【サイバーパンクな中庭】
「あ、キーボく…ん?」
(格納庫の建物の廊下に、エイ鮫さんが立っている。彼女はボクの姿に驚いて言葉を失っていた。無理もない。ボクの姿は今、かなりメカメカしい。)
「えっ、キーボ君って飛べたの?『俺はまだ本気出していないだけ』だったの?」
「DIYの研究教室にボクのアップデートパーツがあったんですよ。消費電力が大きいので、できれば使いたくなかったのですが…。」
「……キーボ君…すごいね。」
(エイ鮫さんが、涙ぐみながら言った。)
「タマさんが見たら…喜んだだろうな。あと、市ヶ谷さんも…キーボ君の成長を喜んだはずだよ。」
「……そうですね。」
「……絶対、首謀者を見つけよう。こんなコロシアイを…止めないと!」
(彼女の言葉に頷きを返すと、彼女は建物から出て行った。)
【格納庫 シャッター前】
「おや、キーボ君。見違えるほどカスタマイズされたね。」
(格納庫の入り口前、綾小路クンの前に着地した。)
「ええ、いつまでも春川さんに頼るわけにはいかないので。」
「その春川さんは どこに行ったんだい?死体の状態も見ずに出て行ったけど。」
「……そうですね。」
「いつもは よく現場を調べている春川さんが…変だとは思わないかい?」
「……何が言いたいんですか?」
「……一晩中、春川さんは部屋に戻らなかったんだよね。」
「ええ…。まさか、春川さんを疑ってるんですか?」
「いや…死体発見が少し妙だと思っただけだよ。」
「妙…ですか。」
「そうだよ。僕らは、ここでタマさんを発見した。けれど、その時は、もちろん死体発見アナウンスは鳴らなかった。」
「それなのに、春川さん、エイ鮫さん、羽成田君は、ここに同時にやって来た。アナウンスで駆け付けたのなら分かるけど…」
「犯人が2人のシロを引き連れて死体を発見させた…と考えるのが普通だろうね。」
(…確かに、アナウンスは3人のシロが死体発見した時に鳴るから、同時に ここに来なければ、クロがすぐ判明してしまいますね。けれど…)
(それは…ボクら第一発見者がクロだったとしても…同じことが言えます。)
「綾小路クンは、タマさんが ここにいると言いましたね。どうして、すぐ分かったのですか?」
「……言ったはずだよ。モノパッドに、タマさんが ここにいると映し出されたからだよ。」
「…そうですか。」
(ボクは…昨日、春川さんとエイ鮫さんが食堂に行った時、見ている。夜時間前に寄宿舎を通り、格納庫方面に走って行くタマさんを。そして…)
(春川さん達…遅いですね。)
「……。」
(綾小路クン?何を持っているんでしょう。)
(彼が、校舎から黒いケースを持って同じく…格納庫の方へ向かうのを…)
コトダマゲット!【綾小路の行動】
「この辺りを探しているが、これというものは特になさそうだよ。」
「…あからさまに気になるものがパネルの下にありますが…。」
(シャッターの横の電子パネルに、黒いケースが立て掛けられている。)
「ああ、あれは、組み立て式のクロスボウのセットだよ。事件とは関係ないんじゃないかな?」
「いえ、明らかに事件と関係があるでしょう!前はなかったんですから!」
(ボクは黒いケースに近付いた。確かに見覚えのあるケースだった。)
「綾小路クン、このケースを開けてくれませんか?」
「やれやれ。」
(綾小路クンがケースを開ける。中には、組み立て前のクロスボウが入っていた。)
「これは、タマさんの研究教室にあったクロスボウ…でしょうね。しかし…組み立て方は複雑そうです。」
「うん。間違いなく、初心者が組み立てることは不可能だね。」
(黒いケースの奥には、3本の矢も置かれている。赤く塗られたクロスボウの矢。昨日、タマさんが赤い塗料を塗りたくっていたものだ。)
「この3本の矢には血が付いていない…。使われていないってことだ。……やはり、関係がないはずだよ。」
コトダマゲット!【現場の黒いケース】【クロスボウの矢】
「あと、気になるのは…操作パネルが刃物か何かで傷付けられていることかな。」
「本当ですね。これも、前に来た時はなかったものです。」
「そうだね。昨日もなかったよ。」
「……綾小路クン、キミは昨日ーー」
「……さて、僕は他所を探してくるよ。一応、現場で羽成田君を1人にしないために、ここにいただけだからね。」
(綾小路クンは、格納庫内にいる羽成田クンを指差した後、さっさと立ち去った。)
「……。」
(ボクは彼を見送り、格納庫入り口の半分 閉まったシャッターに目をやった。少し歪んだシャッターだ。)
「おやおや、キーボクン。ついに春川さんから独立したの?独り立ちってヤツだね!」
「……モノクマ。」
「1人で”はじめてのそうさ”は大変だけど、頑張ってね。」
「この正面シャッターの防犯システムは切ってあったんですよね。」
「ん?そうだよ。本来ならシャッターに近付いただけで、ボクの子供の放屁レベルの警報がなるけどね。今はシステムを稼働させても意味ないから。」
「では、事件までシャッターは、ずっと開いていたということですか。」
「そうとは限らないかな。開閉は格納庫内のボタンや外の電子パネルでできるからね。」
「それなら、どうしてシャッターが少し曲がってるんですか?」
「そんなこと、知る由もないよ!自分で考えるんだね!」
「……。」
「うぷぷ。でも、独り立ち記念に、このデータを あげようかな。」
(モノクマが取り出したのは、メモ紙に書かれた時間の記録だった。)
22:32
23:03
23:45
「これは、何ですか?」
「警報システムは切ったけど、モーションセンサーは動いていたからね。これは、夜時間に格納庫に出入りした人の記録だよ。」
「いつシャッターを通ったか記録したものだね。時間を記録するだけで、誰がなのかも、出たのか入ったのかも分からないものですが。」
(モノクマは言うだけ言って、どこかへ消えた。)
(…どうやったら、あんな風に突然 現れたり消えたりできるのでしょうか。)
コトダマゲット!【格納庫の正面シャッター】【入り口センサーの記録】
【格納庫内】
(再びシャッターを通り、格納庫内に入る。)
(タマさん。理解不能な人でしたが…悪人ではなかったはず…。どうして、彼女が死ななければならなかったんでしょうか…。)
(何としてでも、犯人を見つけなければ…。)
(ボクは改めて死体に近付いた。タマさんの死体は、シャッター前のエグイサルすぐ近くに横たわっている。)
(死体は目を閉じた状態で、まるで寝ているようだった。)
「…ん?」
(タマさんの近くに、見覚えのある布が落ちている。)
(前回の裁判前、エントツに入ったボクのススを、これで拭いてくれた。ハンカチはススで汚れたまま、彼女の傍らに置かれていた。)
(TAMAと刺繍がされている。なぜか “T”だけ色が違うし、TAMAの刺繍の前後に糸を抜いたような跡がある。)
(…昔から使っているハンカチだと言っていましたね。)
「……。」
(タマさんの死体は、後頭部と右腕から血を流して仰向けに倒れている。)
(右腕には、細い穴が空いている。…クロスボウの矢が凶器なんでしょうか。)
(けれど…さっき見た矢に血は付いていませんでした。)
コトダマゲット!【死体の周辺】
(念のため、エグイサルも見ておきましょう。)
(死体のすぐ近くのエグイサル。他の4体のエグイサルは収納スペースに収まっているのに、これだけがシャッターのすぐ前に置かれている。)
(そのハッチは開いていて、コックピットがむき出しになっていた。)
(ボクは迷わず、その中に入って中を調べた。中は、人が入るには少し狭いコックピット。特に変わったところはないが……)
(白いものが座席の下に落ちてますね。)
(座席下に、ボクの口と同じくらいの大きさの白い錠剤のようなものが転がっている。)
(……タマさんはエグイサルに乗っていましたが…彼女のものでしょうか?)
コトダマゲット!【エグイサル】【落ちていた錠剤】
△back
(プレス機は前に来た時と異なり、降りた状態になっていた。)
(確か…昇降の操作スイッチが、あっちにありましたね。)
(少し高い位置にある操作スイッチへ飛び、「昇」のボタンを押す…が、何も起きない。)
(よく見ると、プレス機の電源コードが切られていた。)
「これは…犯人によるものでしょうか。」
「うぷぷ。またまた独り立ちしたばかりで、お困りのようですな。」
「ええ。以前ここに来た時、プレス機は上がっていましたから、事件に関係があるはずです。」
「モノクマ、これを上げてください。」
「コラー!独り立ちしたってのに、結局クマ頼りじゃないかー!!ボクは、キボ太クンのために未来から来たクマ型ロボットじゃないんだぞ!」
「そんなことは分かってます!」
「はーあ、まあね。今回はパワーバランス的にやってやらなくもないよ。公正な裁判のためにね。」
(モノクマは そう言って、プレス機の周辺をウロウロしながらガチャガチャいじっている。)
「はい!直りました!」
「…早いですね。」
「まあね。IT感覚が駄菓子屋のおじいさんレベルのキーボクンとは違うんだな。」
「それはロボ…おじいさん差別ですよ!」
「じゃ、プレス機 上げてもいいよ。でも、グロいの出てきても恨まないでね!さて、何がプレスされていたのか?その目で確かめるがいいさ!」
(笑いながらモノクマは立ち去った。ボクはプレス機の操作スイッチを押した。)
(ゴウン…と重い音を立てて、プレス機が上がっていく。その中央に目を凝らした。原形を留めていないが、潰れた何かがある。)
(タマさんが赤く塗った矢と瓶らしきガラス。矢の先端には血の赤が、ガラスの周囲にはギラギラした赤い蛍光色が付着している。)
(この赤いギラギラは…見覚えがあります。)
(これは…前回の殺人で使われた…毒。)
(それが、プレス機で潰されていた…これは、証拠の隠滅でしょうか?)
コトダマゲット!【プレス機】【プレスされていた物】
「…おい、鉄。テメーいつから飛べるようになったんだよ。」
「羽成田クン。ボクを鉄と呼ぶのは止めてください。」
(プレス機から離れると、羽成田クンが声を掛けてきた。)
「ンなことはどーでもいいんだよ。テメー、飛べるんなら、5階を見たり外に出たり、できんじゃねーのか?」
「いえ、ボクが飛べるのは、少し背の高いおじいさんくらいまでの高さです。」
「……相変わらず、役に立たねーロボだな。」
「…グッ。仕方がないでしょう。」
「それより、羽成田クン。それは何ですか?」
(羽成田クンの手には、ビデオカメラのようなものが握られている。)
「ああ、そこに…シャッター付近に向かって設置されてたから、中身を確認してたんだ。」
「見てみましょう!」
「何も映ってなかったがな。」
(彼がビデオのボタンを押すと、格納庫内から入り口シャッターを映した映像が再生された。時刻は22:05を指している。)
(そして、シャッター前を行き来しているタマさんが映され、唐突にビデオは終わった。)
「えーと…何ですか。これは。」
「さあな。タマが ここに設置したのかもしれねぇ。ちと複雑なカメラらしいがな。」
「キミが誤って消してしまったのではないですか?」
「消してねーよ!オレは大抵の機械ならテキトーに操作できんだ!」
(テキトーに操作したからでは…?)
「…このカメラは、エイ鮫の研究教室にあったものだったな。」
(研究教室も後で見ておいた方が良さそうですね。)
コトダマゲット!【ビデオカメラ】
「羽成田クン達は、アナウンスが鳴っていないのに格納庫に来ましたね。どうしてですか?」
「あ?ンなモン、誰も食堂にいねーから探してただけだよ。」
「羽成田クンは、昨日は食堂に来ませんでしたよね。」
「…昨日は体調が悪かったんだよ。今日は飯も食えると思ったから行った。悪ぃか?」
「いえ、悪くないですね。健康には、むしろ良いです。」
「……チッ。で、誰もいねーから校舎から出たら、エイ鮫が格納庫に向かうの見えた。それで、こっちに来ただけだ。」
「建物内に入った時、後ろから春川も合流した。春川が『綾小路とタマが格納庫内にいるから見に行こう』つーから、3人で来たまでだ。」
「……。」
△back
(だいたい、格納庫内は調べられましたね。)
(現場には、暗殺者の研究教室のクロスボウ…サンタクロースの研究教室の毒薬…そしてVチューバーの研究教室のビデオカメラが残されていた。)
(これらの研究教室も、見ておいた方が良さそうですね。)
【超高校級のサンタクロースの研究教室】
(麻里亜クンの研究教室前に来た。前回の裁判以降、初めてだ。)
(苦労して扉を開けると、埃が舞った。)
「おやおや、掃除する人がいなくて、すっかり埃まみれですなー。」
「モノクマ。」
「空き家は劣化しやすいっていうからね。ここも減価償却されきる前に売却しなきゃね。」
「空き家になったのは…4日前のはずです。そんなに すぐ埃が溜まるとは考えられませんが…。」
「ここでは考えられるのさ。そういう風にできてるからね。とにかく、前回の裁判以降、ここに入った人はいないよ。」
「もっと上手い証拠を考えられたらいいんだけどね。時間もないし、結局いつも『埃でいっか』ってなるんだよね。まったく…。」
「何を訳の分からないことを言ってるんですか。」
(しかし…4日前から ここに入った人間はいないということですね。)
(念の為、前回の裁判前の写真を捻出して今の状態を見比べてみる。変わったところといえば、寝室の死体や汚れが跡形もなく消えていること。)
(……死体はともかく、毒薬や血の跡を綺麗に消すのは難しいはずですが…。これも、首謀者の仕業でしょうか。)
(クリスマスツリー下のプレゼントボックスにも、前回と変化はない。)
(現場には、ここの毒薬らしき瓶がプレスされていましたが、ここに入った人がいないなら…どうやって現場に毒薬が持ち込まれたのでしょう…。)
△back
【超高校級の暗殺者の研究教室】
(暗殺者の研究教室の扉前に来た。何とかドアノブを回して中に入る。瞬間、ボクの匂いセンサーに微かな反応があった。)
(この感じ…前回の事件時にサンタクロースの研究教室で感じたのと同じですね。)
(それも そのはず。研究教室の中は明らかに昨日と様子が違った。まず、視界に入ったのは、床の色を変えている蛍光色の赤だった。)
(これは…前回の殺人で使われた毒薬が零れた跡。現場のプレス機に残った色と同じく…赤くギラギラしていますね…。)
コトダマゲット!【毒薬の痕跡】
(それだけじゃない。壁や棚の武器はその色を変えている。暗い色だったはずのそれらは、今は赤色に塗られていた。)
(赤色塗料は…昨日タマさんがクロスボウの矢に塗っていたものですね。)
「あはは、やだな。キーボーイ。クロスボウの矢をデコってるだけだよー。」
「赤い方が、ずっと可愛いと思うんだよねー!」
(中には、赤く塗られていないものもあるが、持ち出せないように壁や棚に固定されている。)
(これは…全てタマさんの仕業でしょうか。なぜ、こんなことを?)
(壁や棚の凶器の他にも、気になるものがある。床に無造作に置かれたクロスボウと数本の矢だ。)
(現場には、組み立て前のクロスボウがありましたね。)
(床のクロスボウは組み立てられた状態で、そこにあった。それに近付くと、クロスボウの1点にも、赤色があることに気が付いた。)
(けれど、他のもののように明るい赤色じゃない。これは…)
「血…。」
(クロスボウの引き金の部分には、暗い赤が残っている。これは…血痕だ。)
(そして、他にも、白い繊維のようなものが挟まっている。)
(……取れません。組み立ての時に挟まったものかもしれませんね。)
コトダマゲット!【研究教室のクロスボウ】【引き金の血痕】
△back
【超高校級のVチューバーの研究教室】
(現場にはビデオカメラが設置されていた。格納庫内から、入り口シャッターに向けて。カメラは…エイ鮫さんの研究教室にあったもの。)
(……まさか、エイ鮫さんが?)
(ーーいえ、エイ鮫さんの研究教室は誰でも入ることができました。それに、今 残っている全員が…1度は彼女の研究教室を訪れています。)
(考えながら、電力を消耗して扉を開ける。)
(中の様子は、特に変わったところはなさそうだ。)
(あのビデオの映像…ボクは機械に疎いですが、不自然な途切れ方だったのは分かります。ここで編集したなら、もっと綺麗に編集できたはずですね。)
(6階の部屋から下降して、1階の玄関ホールに降りた時、3日前にタマさんと話したことを思い出した。)
(あれは、春川さんが6階までボクを連れて行くのは重いとボクを置き去りにした時。タマさんが現れてーー…)
「あれ、キーボーイ。置いてかれちゃったの?可哀想に。」
「タマさん。別に可哀想ではありません。ボクは合理的に考えて、ここに残ることを選択したまでです。」
「そうなんだ、可哀想に。英断だね、可哀想。」
「語尾に『可哀想』を付けないでください!」
「あはは、ごめんごめん。それより、ちょっと お話ししよう?」
「話?何のですか?」
「そうだね〜。キーボーイが大好きなハルマキちゃんの話は?」
「…残念ながら、まだボクには『大好き』かを判断できるほど、その感情に学習経験がありません。」
「どうでもいいよ、そんなこと。ハルマキちゃんって、ちょっとミステリアスだよね。何 考えてるのか、分かりにくくて。」
「キミの方が よっぽど何を考えているか理解不能ですが…。」
「でも、私はハルマキちゃんと、もっと仲良くなりたいんだよね。だから、ずっとハルマキちゃんと一緒にいるキーボーイに、色々 聞きたくて。」
「例えば、ハルマキちゃんって格納庫が開く前から、あの建物の辺りを徘徊してたのかなぁ?」
「それは仲良くなることと関係ないでしょう。」
「大アリだよ!ハルマキちゃんが、どういう所に興味があるのか分かるじゃない!そしたら、何か素敵なプレゼントもできるかも!」
「そういうことなら、お話ししますが…。」
(あの時…ボクは これまでの春川さんの様子をタマさんに話した。)
(あれが きっかけで、2人の仲が深まることを願っていましたが…今は、もう…叶いませんね。)
△back
『時間になりました!オマエラ、裁きの祠に集まってください!』
【裁きの祠】
(裁きの祠に、生き残った全員が集まった。春川さんと、エイ鮫さん、綾小路クン、羽成田クン。たった4人だ。)
(ボクは春川さんに近付いた。)
「春川さん、どこへ行っていたんですか?」
「……調査してたんだよ。」
「…そうですか。」
(春川さんは、さしてボクの変化に驚いていないようだ。こんなに変わったのに、特にコメントもなかった。)
「春川さん、また肩を借りてもいいですか?」
「…何で?そのまま飛んでればいいんじゃないの。」
「この状態ですと、消費電力が多くて…。」
「……分かったよ。」
(春川さんが溜め息を吐いた後、言った。ボクは彼女の許可を得て、肩の定位置に降りた。)
(その時、これまでと同じように、地鳴りと共に裁判場へ続く道が現れた。)
(全員がエレベーターに乗り込むと、エレベーターは動き始めた。ゴウンゴウンと耳障りな音を響かせて地下へと潜っていく。)
(ボクらは、タマさんを殺した犯人を見つけなければならない。)
(ここで犯人を犠牲にする以外に、みなさんが生き延びる方法はないのだから。犯人は…この中にいるはずなのだから。)
(けれど…合理的ではないけれど、それを信じられないと考えるボクがいる。)
(………。)
(希望と絶望が渦巻く学級裁判の幕が開く。)
(命がけの謎解き…命がけの裏切り…命がけの騙し合い…命がけの信頼…)
(…命がけの学級裁判が。)
コトダマリスト
被害者は、タマ=アミール・ナオル。死体発見現場は、エグイサル格納庫内。死亡推定時刻は、午後10時半から11時半頃。右腕に負傷跡、後頭部には打撃痕がある。
死体はハッチの開いたエグイサルのすぐ近くにあった。死体の付近に被害者のハンカチが落ちていた。
少し離れた所に操作スイッチがあり、「昇」と「降」、2つのボタンがある。安全装置が付いている。
下降していたプレス機にプレスされていた。原型はとどめていないが、瓶と矢だと思われる。
現場にあった5体のエグイサル。4体は収納スペースに収まっており、コックピットが閉じている。もう1体は、格納庫入り口にあり、ハッチが開いてコックピットがむき出しになっている。コックピットには人が入れそうなスペースがある。
死体近くのコックピットが開いたエグイサルの座席下に白い錠剤が落ちていた。
格納庫内からシャッター方面に向けて撮影されていた。22時過ぎから撮影され、タマが何度か映っているが、不自然に映像は終わっている。
“超高校級の暗殺者”の研究教室にあった、組み立て式のクロスボウ。黒い大きなケースに入っていた。組み立て方は複雑で、習っていないと組み立てるのは困難。電子バリアの操作パネルに一式が立て掛けられていた。
電子バリアの操作パネルの黒いケース近くに落ちていた。3本とも赤い塗料で塗られているが、血痕などは付着していない。
普段は電子バリアが張られているらしいが、警報装置は切られている。格納庫内のボタンまたはシャッター横の操作パネルで開閉が可能。死体発見時、シャッターは半開きで、歪んでいた。シャッター横の操作パネルには鋭利な物で傷つけられたような傷が付いている。
シャッターのモーションセンサーが感知した時間を示す記録。人がシャッターを出入りした際にその時間が記録される。昨日の夜時間の記録は、
22:05
22:32
23:03
23:45
“超高校級の暗殺者”の研究教室に赤い蛍光色が残っていた。前回の殺人で使われた毒薬の跡と思われる。
“超高校級の暗殺者”の研究教室には、組み立てられたクロスボウが置かれていた。
“超高校級の暗殺者”の研究教室のクロスボウの引き金部分には血痕が付いていた。
夜時間の22時前、綾小路が寄宿舎の前を通った。黒いケースを持って格納庫方面へ向かっていた。
学級裁判編へ続く
タ、タマ……前回女性って聞いた時点で覚悟はしてたけど……タマ………泣
今までとは違い、ハルマキちゃん視点が一切無かったのがちょっと不穏な感じがして面白かったです
あ、あ…飯田橋博士!この度はお宅のキーボクンを大変な目に合わせてしまい…まさか親御さんにご覧いただいていたとは思わず…!ありがとうございます。
面白いと言っていただけて嬉しいです。それに、創作キャラの死を悲しんでいただき……。
解決までご覧いただければ幸いです◎