Round. 3 愚人は夏の虫(非)日常編Ⅰ
【本島南エリア 寄宿舎 食堂】
(学級裁判の次の日、ゴン太たちは全員 食堂に集まっていた。)
(全員。華椿さんも入れた全員。だけどーー…。)
「10人ぽっちになったねー。」
(野伏君が言って、みんなが息を呑んだのが分かった。)
「オメ、思ったこと すぐ言うでね!!」
「その通り。いずこにデリカシーを忘れてきた?」
「まあ…寂しい気持ちは分かるよ。初日は賑やかだったからな。」
「そう…だね。」
「も、もおー!皆さん、せめて気持ちは明るく持ちましょうよ!こんな時こそ、あの言葉ですよ!いつも心に修造を!」
「そんな言葉。…は、聞いたことない。」
「そう…だね。」
「ほら、虎林先生!急に元気なくなって どうしたんですか!!」
「そういや、昨日の捜査時間から いやに静かだな。」
「太陽みたいに笑うキミは どこだい?」
「そう…だね。」
「botになっちゃいましたか?」
「はー、元気ない人いるし、人 減って悲しい雰囲気だし。幸いなのは、ハナハナが来てくれたことだけだよ。」
「イヤミは やめてください。」
「良かったよ。また華椿さんと一緒に ご飯が食べられるね。」
「…ありがとうございます。」
「オイオーイww何でオレはイヤミでゴンちゃんには感謝すんだよーーwwゴンちゃんのこと好きなのかよー!?」
「くはっ!?」
「うわっ!?何だよ、虎林!?急に突っ伏して!?」
「お、やってるね。死が身近になった時の種の保存本能爆裂期!」
「本来、男子の方が そういうの強くなりそうだけど、それ始めちゃうと大変だから。指定が付くから。Rのヤツついちゃうから。」
「今どき終末で種の保存とか流行んないもんね。個性も才能もない凡人がハーレム作る話から読み取れるものなんて、作り手の欲望だけだよね?」
「いきなり出てきて何の話してんだべ。」
「主張強めな夢ない話すんなし〜。男なら誰だって夢見るだろーww」
「貴方様は本当に神仏に仕えているのですか?」
「あれ…何の話してたんでしたっけ?」
「人数 少ないねって話だよね?うん、14人スタートだから既に10人になっちゃって…。書き手からすればラク…いやいや、寂しいよね。」
「えっと…。」
(モノクマは何を言ってるんだろう…。全然 分からないや。)
「やれやれ…モノクマ。何か用があったんじゃねーのか?」
「あ、そうそう。生まれて数日で絶賛思春期のオマエラに、見せたいものがあるんだ。あちらを ご覧くださーい。」
(モノクマが食堂の窓を指差した。)
(そこには、いつも通り寄宿舎の裏側にある木々と、その向こうに海が見えた。でも、ゴン太には海の向こうの影が見えた。)
「あれ…?また島だ。」
(春ノ島を見つけた時と同じで、遠くになかったはずの島が見えた。)
【本島 南エリア 寄宿舎裏】
(みんなで寄宿舎の裏側に出た。食堂から見えていた島は目の前にあった。)
「ま、またですか!?」
「えっと…これ、何?船?」
「春ノ島と同じなら…島、なのか?」
「面妖な。」
「面妖でも面倒でも面堂終太郎でもなく、科学の力です。それでは、夏ノ島を楽しんで!」
「夏ノ島?」
「春ノ島と夏ノ島…ということは、夏らしい島であろう。」
「夏…たぶん、暑いべな?」
「熱中症とかの心配があるんじゃない?」
「スポーツドリンクを持った。…ので、大丈夫。」
「大根の後ろにスポドリ3L持っとるwwクラリン、意外と力持ちジャーンww」
「やれやれ…とにかく、調べるか。」
(寄宿舎の前にできた島への橋を渡った。)
【夏ノ島北】
「あれっ!?きゅ、急に暑くなったよ!」
(島に入った途端、暑くなって、おでこに汗が浮かんできた。どこからか蝉さんの声もした。)
「…やはり、春ノ島と同じらしいな。この島は夏らしいぜ。」
「どうして こんなことが可能なんでしょうか?」
「奇妙奇天烈摩訶不思議。」
「うほーい!夏だッ!海だッ!水着でサーフィンだッ!」
「トマト…きゅうり…スイカ…桃…カツオ…。」
「ヨダレ拭けよ。」
「とりあえず、探索すればいいんだよね?」
「うーん…あんまり日焼けすっとマズイべよ。」
「こまめに水分補給をしながら参りましょう……って、もう何人かいませんね。」
(華椿さんが言う間に、何人か走って行ってしまった。)
(ゴン太も、この島を調べよう。虫さんは どこに行きたいかな?)
▼全部見た
【夏ノ島西 海エリア 砂浜】
(砂浜のエリアに来た。砂を踏むと、火傷しそうなくらい熱かった。)
「残念だったねー。タイランに、靴 作ってもらえんで。」
「え!?野伏君!?」
(いつの間にか背後に野伏君が立っていた。)
(目も良いゴン太でも気付かないなんて…野伏君がしてきた”しゅぎょー”は凄いものなんだろうな。)
「あ、たとえ靴もらったとしても、革靴だもんねwwビーチで革靴じゃ、場違いだわww」
「あ…うん。そうだね。」
「オレンジの片割れを探していたんだ。」
(靴の話で、昨日の平君の最期を思い出した。)
「あれは…どういう意味だったんだろう。」
「なん~?」
「平君、昨日おしおきの前に言ってたんだ。『オレンジの片割れを探していた』って。」
「んー?オレンジ?片割れ?ラブソングじゃね?切り分けた果実の片方みてーな?」
(野伏君は首を傾げた後、パッと顔を明るくした。)
「ま、オレンジより、今はオーシャンっしょ!ビーサンくらいなら、そこの浜茶屋にあんじゃね?ほら、行ってみようぜww」
(野伏君が指差した方向に、小さいお店がある。ゴン太は彼に引っ張られて『海の家』と書かれた店に向かった。)
「おう、ゴン太に野伏。」
「暑くてかなわねぇだなぁ。」
(お店には火野君と伊豆野さんがいた。火野君は水着を着ていた。)
「ここに水着も用意されてたんだ。せっかくだし、泳いでおかねェとな。」
「へー、野郎1人で?イズノンは着替えねーの?ww」
「日焼けできねっからな。」
「あ、そっか。人に見られる仕事だもんね。」
「なるー。ゴンちゃん、よく分かってんじゃーんww」
「えっと…前に、日焼けに気を付けてるって言ってた人がいたんだ。」
(いつ、誰に言われたのかは…覚えてないけど。)
「んだんだ。日焼けしたり太ったりすたら、お師匠に ぶっちめっつぁれる。」
「…厳しい師匠だったんだな。」
「でもさー、ここに師匠いないんじゃん?」
「んだな。」
「いつ出られるかも分かんねーじゃん?」
「んだな。」
「無人島で軟禁されてたら日焼けしてても仕方ないじゃん?」
「んだな。」
「じゃ、楽しまなきゃ損っしょwいつ殺されるかも分かんないんだからww」
「急に おっとろしーこと言うでね!」
「でも、確かに、楽しまなきゃ損だよな。ゴン太も泳ごうぜ。」
「う、うん!ありがとう!!」
「んー、だな。せっかくだし、お師匠は既に亡き人だったっちうつもりで楽しんべ。」
「いやいや、振り切れすぎーーww」
(みんなで楽しく遊んだ!)
【夏ノ島西 海エリア 港】
(モノパッドによると、砂浜エリアから下…南に港があるみたいだ。砂浜からは高い壁で見えないけれど、壁の門を通ると港町みたいな場所に出た。)
(お店とかはない港だけど、カモメさんの声が賑やかだ。海岸近くの小屋のすぐ傍に小さい船が2つ停まっているのが見えて、ゴン太は近付いた。)
(小屋の扉は開いている。狭いけれど、トイレやキッチン、寝具があって泊まれそうだ。)
(古いキッチンにはコンロの上に鍋やフライパンが並んでいて、隅に冷蔵庫もある。)
(寝具の近くに機械があって、その前にイーストック君と蔵田さんがいるのが見えた。)
「イーストック君、蔵田さん。」
「獄原殿。」
「それは何の機械?」
「表の船の制御コンピュータだ。」
「あの船で脱出できないか。…を、考えてた。」
「え!すごい!!じゃあ、みんなを呼んでくるよ!」
「考えてた。…けど、無理。」
「えっ。」
「この船は完全にオート運転でモノクマの手の内だそうだ。」
「試しに手動運転にしてみようとした。…けど、無理だった。」
「どうやらセキュリティが3重にも5重にも掛かっているらしくてな。我々シロウトでは、この船で脱出するのは難しい。」
「えーと…とにかく、無理なんだね。」
「獄原殿がシステムを破壊すれば或いは…」
「壊すってこと?それは、確かにできると思うけど。」
「できる。…けど、ダメ。壊したりしたらモノクマが何をするか分からない。…から。」
「しかあり。」
「で、でも、この船は何のためにあるの?」
「モノクマの話によると、漁船らしい。」
「えっと…つりをするためってこと?」
「左様。釣りというよりは、漁らしいが。」
「この2号と書いてある。…のが、夏ノ島の近場の海で漁をする船。…そして、1号。…は、冬ノ島までいって漁ができる船。」
(蔵田さんが指差す方を見ると、2つの船には確かに大きく数字が書かれている。)
「1号なら冬の魚。…そして、2号なら夏の魚が採れるみたい。」
「す…すごい!」
「ただし、冬ノ島に行くまでに4時間かかるらしい。オート運転で、一度 乗り込めば最後、時間までは戻れまい。」
「2号は1時間で帰ってこられる。…ので、私は これから行こうと思う。」
「え、1人で?危なくないかな?ゴン太も一緒に行こうか?」
「……。」
(ゴン太が言うと、蔵田さんが船をもう1度 指差した。そこには、4つの漢字と数字が並んでいる。)
「重量制限80kg。なるほどな。獄原殿や手前は もちろん、女性2人でも厳しいやもしれぬ。」
「そ、そっか。80kgより女性2人は重いんだね!」
「意気揚々と言うべきことではない。」
「でも、蔵田さんは小柄だし、もう1人 小柄な…星君とかとならーー…」
「私は食べる野菜は自分で作ってた。…し、魚も自分で獲ってた。…し、肉も自分で育ててた。」
「…ので、助けはいらない。…から、1人で大丈夫。」
「す…すごい…。」
(蔵田さんが船に乗ると、彼女が何か操作することなく、小さい船の扉が閉まった。そして、そのまま沖の方へ進んでいった。)
「あ、あれ?あれって、閉じ込められちゃったんじゃないかな?大丈夫かな?」
「案ずるなかれ。あれも仕様らしい。漁も人の手ではなく機械の手でなされるそうなり。」
「す…すごいね。」
(小さくなる船をイーストック君と一緒に見送った!)
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【夏ノ島 山エリア 山道】
(夏ノ島の上…北側の本島から近いエリアは、山が たくさんあるみたいだ。モノパッドによると、1番高い山の山頂近くには遊園地があるらしい。)
(山頂までは登山道があって整備されている。モノパッドの地図を見ながら しばらく歩いた時、星君と桐崎さんがいるのが見えた。)
「はぁ、はぁ、星先生、お願いします。もっと、ゆっくり、歩きましょうよぉっ!」
「どうした?一緒に来てくれって言ったのは、あんただぜ?」
「ひいっひい、でも、星先生の、歩調に合わせ、合わせていたらっ、死にます!」
「やれやれ…。獄原。」
(星君がゴン太に気が付いて、こちらを見た。)
「星君、桐崎さんと一緒だったんだね。」
「……ああ。遊園地が見たいといって聞かないからな。」
「…はあ、はあ。その声で、そう言われると、まるでボクが幼子のようですね。」
「…けど、どうして山に遊園地なんでしょうか。世界最高峰のジェットコースターやら最長のお化け屋敷があるんでしょうか。」
(言った後、桐崎さんはハアハアと苦しそうに息を整えていた。そのタイミングで、ゴン太は星君の方を向いた。)
「……星君、昨日のこと…なんだけど。」
(昨日の裁判で、ゴン太は星君を疑ってしまった。でも、まだ ちゃんと謝れてない。)
(謝ろうとしたところで、星君が言った。)
「獄原、あんたは これから頂上に行くんだろ?」
「うん、そうだね。」
「じゃあ、俺の代わりに桐崎と行ってやってくんな。」
「え?星君は行かないの?」
「遊園地なんて柄じゃねーからな。」
(そう言って、星君は素早く山道を下りて行く。)
「うう…すみません、ゴン太先生。ボクがトロいばかりに、星先生のATフィールド展開させてしまいました。」
(星君…。昨日の捜査時間ほどじゃないけど、元気がないみたいだ。)
「俺は…三途河が殺されたのは、あいつが俺に近付いたからだと思ったのさ。」
(昨日の裁判中に言ってたこと。あれは一体…どういう意味だったんだろう。)
【夏ノ島 山エリア 遊園地】
(しばらく山道を行くと、小さな遊園地があった。ジェットコースター、メリーゴーランド、お化け屋敷。)
(小さい頃に連れてきてもらったのを思い出してワクワクした。)
「なんというか、古風というか…花やしきを連想させる遊園地ですね。売れないマジシャンがマジックショーしてそうなステージもありますし。」
「ほら、あのマネキンなんて『まるっと お見通しだ!』と言わんばかりのーーって、マネキンが多いですね。不気味です。」
(遊園地には、色んなところにマネキンが置かれている。大小のマネキンが、まるで お客さんみたいに配置されていた。)
「ここ…夜に来たら それだけで肝試しできますよ。ホラーハウスいらずですよ。ボクらのトラウマ、プロトタイホくんが現れそうですもん。」
「でも、おもしろいよ!ゴン太、こういうところに来るのは久しぶりだから!」
(桐崎さんと遊園地を廻った後、「頂上を目指すのはキツい」と言う彼女と一緒に下山した。)
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【本島 寄宿舎 食堂】
(夕方になって、みんなで ご飯を食べながら話した。今日の料理には珍しく魚の料理があって、伊豆野さんが喜んでいた。)
(みんな夏ノ島を調べたけれど、誰も脱出のヒントは見つけられなかったみたいだ。)
「……殺人者は、この島以外の島に隠れているのではないでしょうか。」
「さ、殺人者?」
「お忘れではないでしょう?この島で初めて発見された2人の死体。1人は高橋さんの犯行でした。」
「そ、そうだったな。あの高橋が…なんて、なかなか信じらんねェけど…。」
「大人しい奴が とんでもねぇ事件を起こすって、よくあるやつだべ。」
「そうかな?単に、周りがビックリして大事になりやすいってだけじゃない?」
「とにかく、わたくしは死体を切り刻む高橋さんを見たのです。けれど、もう1つの死体…黒こげの死体については犯人は分かっていないのです。」
「なるほど。手口が まるで違う故、別の殺人だと お考えか。」
「初日に本島には私たち以外いなかった。…なら、春ノ島や夏ノ島、他の島に隠れている可能性。…も、なくはない。」
「ええ。ですから、皆様、他の島に行く際は細心の注意をーー…」
「でもさ、オレ的にはハナハナの話を100パーは信じらんねーかな?」
「なぜですの?」
「だって、証拠もなければ、タカちゃんの反論もないんだよ?無条件に信じろって言われても困るっつーかww」
「確かに…そうですが…。」
「しかも、あんな人畜無害そうなタカちゃんだぜ?無理あるっしょww」
「ああ、高橋がってのはな…。」
「そうそう。タカちゃんとハナハナ、どっちを信じるっつーハナシ。」
「ううむ…。甲乙丙丁つけがたい。」
「高橋さは さっさと死んずまっただからなぁ。」
「うーん…。少なくとも、殺人鬼には見えなかったよね。」
「………。」
「もう結構。とにかく、皆様は十分に注意してください。」
「え、華椿さん。」
(華椿さんが席を立って足早に歩いていく。ゴン太は思わず その後を追いかけていた。)
【本島南エリア 寄宿舎 華椿の個室前】
「…何です?泣いてるか確認しに来たんですか?」
「え?ち、違うよ。」
「じゃあ、何か ご用ですか?」
「うん、華椿さん…ありがとう!」
「ーーは?」
「みんなのためを思って、他の島では気を付けてって言ってくれたんだよね。だから、お礼を言いに来たんだ!」
「貴方様は本当に…おとぼけが過ぎますね。」
「お、おとぼけ?」
「いいえ。お人がよろしいと申しましたの。」
「え、あ、ありがとう!」
「……。」
(華椿さんは溜め息を吐いてから、ゴン太を見た。)
「貴方様は信じられますか?わたくしが話したこと。」
「華椿さんが話してくれたこと…。高橋君が…誰かを殺しちゃったかもしれないってこと…だよね。」
「ええ。」
「ゴン太は…高橋君が そんなことをするとは思えないよ。」
「……そうですか。でしたら、この話はーー…」
「でも、ゴン太は華椿さんのことも信じてるんだ。」
「ーー何ですって?」
「だって、華椿さんは高橋君が危ないかもしれないと思って…みんなを守るために行動してくれたんだよね?」
「みんなを守りたい気持ち…ゴン太は、よく分かるんだ!」
「……獄原さん。」
「ゴン太は、みんなを守りたい。どうすればいいのか…分からないけど…。」
「…貴方様は、全ての人間が貴方様のように善行を動機に動いていないと知っておくべきですね。」
「え?」
「……いいえ。皆様方を守りたいなら、皆様方に聞いてみるのが1番です。」
「えっと…?」
「誰かを守ること。それは必ずしも戦いに身を投じ、盾となることではありません。」
「え?え?どういうこと?」
「その人の望みによって、守り方は違うということです。ですから、どうすれば その人のためになるのか、対話すればいいのです。」
「話を聞けってこと?」
「ええ。ただ聞くだけではありません。声なき声を聞くのです。貴方様は得意なのではないでしょうか。」
「う、うん。声や音が出せない虫さんもいるけど、ゴン太は目が良いから。虫さんや動物さんの観察は得意だよ。」
「虫や動物と同じです。人にも声にできない声があります。それを聞き、見て、感じて、望みを満たせば…相手を守り助けたことになるのでは?」
「……。」
「な、何ですか?」
「………。」
「どうして黙るのです?おかしいですか!?わたくしが こんなことを言うのは!?」
「ありがとう!!!華椿さん!!!ありがとう!!!!」
「ええ!?」
「そうだよね!たぶん、華椿さんが言う通り、ゴン太は得意だよ!ありがとう!ゴン太、みんなの役に立ってみせるから!」
(ゴン太が言うと、華椿さんは少しだけ笑ってくれた。そんな時、)
「……ゴ、ゴン太、華椿。」
(虎林さんの声がした。)
「あ、虎林さん。」
「……何か ご用ですか?」
「ふ、2人…って、で、できてるの?」
「は?」
「あ、ち、違っ…デザート、ね?できてるよ!って、呼びにきたんだ。」
「あ、そうなんだね!ありがとう、虎林さん!」
「……!う、うん!うん!!えへ、へへ、」
「……わたくしは結構ですから、お2人でお戻りください。」
「え!!?2人きりで!?む、むり、むりむりむりむりむ!一緒に来て!華椿!!」
「いえ、ちょ、力 強…離してくださっ…むぐ!」
「と、虎林さん!華椿さんが苦しそうだよっ。」
「ぴぇっ!?ゴ、ゴン、近!ゴ…ンた、た、んすにゴン、太…離れてぇ!!」
「ええ!?」
(なぜか華椿さんの首を締め始めた虎林さんを何とか止めた。)
…………
……
…
『キーン、コーン…カーン、コーン』
【本島南エリア 寄宿舎 獄原の個室】
(朝のチャイムが鳴って、ゴン太は枕元の箱に手を伸ばした。)
(フタを開けようと試みたけれど、やっぱり開かない。)
(時間が経てば開くのかと思ってたのに。そういえば…この箱は、みんなの部屋にもあるのかな。)
【本島南エリア 寄宿舎 食堂】
(食堂に行くと、数名が集まっていた。朝の挨拶をしているうちに、全員が集まった。)
「ご飯ができた。…ので、取りに来て。」
(蔵田さんが大根に話しかけるの聞いて、みんな ご飯をテーブルの上に用意した。)
「今日は和食だべな。魚の開きもあるべ!」
「あとは、山の幸のおひたしに漬け物かぁ。肉 食いてー。」
「貴殿は本当に修験者か?」
「晩ごはん。…は、ハンバーグ。」
「ハンバーーグ!ハンバーグ師匠だ!」
「火野、漬け物 食べないの?」
「あ、ああ。梅干しは あんまり…な。」
「よろしければ、わたくしが頂きましょうか?」
「いいのか?」
「ええ。華族は塩分を多量に使うのです。」
「そ、そうなんですか?」
「涙の数だけ塩分 摂らなきゃなんないもんねww」
「涙の数だけ強くなれるよ。」
「へー、変わってるね。アタシはゴルフクラブの数だけ強くなれるかな。」
「そりゃ、物理的な戦闘力は上がりそうだべなぁ。」
「…あのさ、みんなの部屋には箱がある?」
「箱?」
「ああ、枕元に くっついてる箱ねww」
「ああ、ーー…あの。けれど、」
「あの箱、開かねーよな?」
「そうだよね。アタシ、結構 力あるんだけど、開かないんだよね。壊せないし。」
「え!?ーーこ、壊したりしたらマズいのでは!?」
「ゴン太でも開けられないんだ。」
「…それなら、かなり強い作り。私の部屋の箱も開かない。」
「なるほど。全員の部屋にあるようだ。」
「都会の”いんてりあ”だ思ってただよ。」
「モノクマが用意した物だ。ーーいい物じゃねぇとは思うがな。」
(やっぱり、みんな同じ箱を持ってるんだ。でも、ゴン太のと同じで、みんな開かない。)
(そんな話をした後、みんな散らばっていった。)
(ゴン太は どこに行こうかな。虫さんは どうしたい?)
▼全部見た
【春ノ島南 町エリア】
(美味しそうな匂いがすると言う虫さんについて行く。たどり着いたのは、春ノ島の南…町エリアだった。)
(途中、シアターや洋服屋さんを通って、ゴン太は前回の事件を思い返していた。)
「あれ、虫さんが来たかったのって、パン屋さん?」
(島全体を包む良い匂いは、パン屋さんからしていた。)
(そういえば、ここは前も良い匂いがした。でも、それより…。)
(前回と違うところがある。パン屋さんの目の前から、長い橋が掛かっている。)
「あ、それは栄光の…じゃ、なかった夏ノ島への架け橋だよ。」
「モノクマ。」
「本島の東から春ノ島、南から夏ノ島に行けるわけですが…いちいち本島に行くのは面倒なキミに、春ノ島から5分で行ける夏ノ島への橋をプレゼント!」
「…そうなんだ。」
「ま、いい感じに十津川警部も真っ青な時間差トリックを考えてください!」
(そんなことを言ってモノクマはいなくなったので、ゴン太はパン屋さんに近付いた。パン屋さんの大きい窓から中にたくさん人がいるのが見えた。)
「あ、ゴン太先生。ようこそ、『ここ1パン屋』へ!」
(パン屋さんには、桐崎さん、火野君、蔵田さん、伊豆野さん、虎林さんがいた。みんな調理台を囲んで立っている。)
(ここのパン屋さんのロゴなのか『1』の数字が大きくプリントされたエプロンをしていた。)
「今、蔵田さにパンの焼き方 習ってるとこだべ。」
「……そ、うだよ。ゴ、ゴン太も、でぉう?」
「え、ゴン太にできるかな…。」
「本来、キッチン仕事には力がいる。…ので、男性向き。」
「頼む。ゴン太、いてくれよ。男1人で肩身 狭かったんだ。」
「う、うん。頑張るよ!」
「というか、火野さもパン焼きに興味あったんけ?」
「オレは蔵田に火の番で呼ばれたんだよ。オーブンが昔のモンだからな。」
(そう言って石作りのオーブンの前で火野君が汗を拭った。)
「火野君、ちょっと顔色が悪いよ?」
「……大丈夫だ。」
「ほれ、獄原さ。生地さ捏ねてけろ。虎林さの隣 空いてんべ。」
「うん。」
「……っ!」
「……虎林さんも顔色いつもと違うけど、大丈夫?」
「だ、だい、だい大丈夫!!」
「甘じょっぺぇなぁ。」
「今は甘いパンを作ってる。…ので、汗を生地に入れないで。」
「しょっぱいパンでも、汗 入ってたらイヤなんだが。」
「そう言ってる火野先生の汗も気化してパンに練り込まれそうな勢いなんですが…。」
「しょっぱいパンも美味しいよね。」
「……しょっぱいパンの方がゴン太の好み?」
「そんな『髪が短い方がゴハン君の好み?』みたいな!」
「え?ご、ご飯?これ、パンだよね?」
(みんなでパン作りを体験した!)
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【夏ノ島 山エリア 山頂】
(そういえば、昨日は山の途中までで、頂上へは行かなかった。)
(昨日 来た遊園地を通って頂上まで来ると、野伏君がいた。)
「おーっす、ゴンちゃん!調子どう?テンアゲ?」
「天揚げ…?えっと、蔵田さんが作ってくれた天ぷらは美味しかったと思うよ!」
「ぷげらwwwゴンちゃん、いいね!マジ好きだわーww」
「え!あ、ありがとう!」
「ウェーイww」
「つか見た?下に遊園地あったっしょ?マジアゲアゲで人生初の1人遊園地しちゃったぜ⭐︎」
「あ、そうなんだ。ゴン太も昨日、桐崎さんと行ったんだ。」
「マジで?ゴンちゃん、実はプレイボーイ系?パネーwwマジ大穴ホール級のギャップ萌えなんすけどwww」
「えっと…?」
「なーなー、んで、あっちに山小屋的なんあんじゃーん?はしゃぎ過ぎて疲れたし、ちょっち ご休憩的な?」
(野伏君が指差す方に小さな山小屋がある。彼は軽い足取りで山小屋に向かい、扉をノックして入っていった。)
【夏ノ島 山エリア 山小屋】
「貴殿たちも来られたか。」
(野伏君に続いて中に入ると、イーストック君がいた。しゃがんで壁の方を向いていた彼はゴン太たちを見た。)
「イーストック君、来てたんだね。」
「しかあり。山頂まで歩くのは骨が折れたが。」
「そーは見えねーけど?ピンピンしてんじゃん?」
「情報は足を使ってこそ。体力は人並みにありやなしや。」
「どっちなんやーwwつーか、イーちゃんが見てた それって、何?」
(イーストック君は さっき向いていた壁の辺りをゴン太たちに見せるように移動した。)
「ここにあらすは…花火の火薬。」
「マジでー!?海に山に花火とか最高じゃん?夏に花火!マジあげぽよ〜↑↑」
「花火が夏の風物詩なのは国際的には珍しきかな。」
「花火師のヒーノがいて良かったジャーン!?ヒーノー、マジ ヒーローww」
「どうしよう、イーストック君。ゴン太、時々 野伏君が言ってることが分からないんだ。」
「若者言葉は、それ以外の世代の人間にとって理解が難しいものだ。」
「オイオーイwwワカモンワカモン、キミらもワカモーンwww」
(山頂の小屋で休憩した!)
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【本島南エリア 寄宿舎 食堂】
(夕方、みんな寄宿舎で晩ごはんを食べた。ハンバーグとサラダ。みんなが焼いたパンも食卓に並んだ。)
「初めてにしては上手く焼けたんでねーか?」
「う、うん。美味しくできたよね。」
「あの、何で誰もロトの剣型パン食べてくれないんですか?確かに焼いたら若干卑猥な形になってしまいましたが、味は大丈夫ですよ!」
「みんな、とても頑張った。…ので、味は保証する。」
「ほ、星先生、ほら、美味しいですからっ…ボクのパン食べてください。」
「…分かった。分かったから、それを拳銃みたく こっちに向けるな。」
「女子組とヒノアラシはパン作ってたワケだ?あ、ゴンちゃんも参加したんだっけ?ハナハナはハブられた系?」
「……わたくしは夏ノ島にいました。」
「華椿、誘おうとしたら どっか行っちゃったんだもん。」
「…誘おうとしてくれたんですか?」
「当たりめぇだろ?オメが どっしょもねー危ねー奴なら誘わねーだけどな。まあ、ギリギリセーフだべ。」
「……。」
「判定甘ぇーーww……って、ハナハナ泣きそうかよーww」
「なぎまぜん。」
「泣くんでね!泣がれると うっどーしいべから誘おうったんだ。」
「本心 包み隠さなすぎだろ。」
「そうだ。火野殿、頼みがある。」
「あー、そうそう。ヒノックス、いっちょ花火 打ち上げてくんね?」
「え?」
「山エリアの山頂の小屋に花火用の火薬があった。花火の道具と思しきものも。」
「へえ…。」
「で、ヒノカミカグラなら、この夜空に花を描けるねって話してたワケwwYOU、いっちょ花火、打ち上げちゃいなよww」
「あ…ああ。」
「ジョートその他のモンスター、ハイラルのマモノ、鬼退治の技で火野先生を呼ぶの、止めてくれません?分かりにくいですから!」
「分かってるくーせーにーww」
【本島南エリア 寄宿舎 獄原の個室】
(みんなでワイワイと晩ごはんを食べて部屋に戻った。)
(みんなといる時は、ここでコロシアイしろなんて言われてることを忘れそうになる。)
(でも、1人になると、思い出す。)
(これまでのこと、これまでに死んだ人たちのこと。彼らがゴン太に言ったことを。)
(彼らの言葉を思い出しながら目を閉じると、いつの間にか眠っていた。)