第2章 限りない地獄、まだ見えぬ天国 学級裁判編Ⅰ
コトダマリスト
死体は頭と両腕を切り取られている。左腕の発見現場はプール内。その他の発見現場は”超高校級の絵本作家”の研究教室。頭と右腕はピラニアの水槽に入れられて喰われている。死因は不明。死亡推定時刻は午前2時半頃。
“超高校級の絵本作家”の研究教室で発見された。校舎3階の教室から持ち込まれたと思われる。血が拭き取られた形跡がある。
“超高校級の絵本作家”の研究教室に置かれた大型のギロチン。刃に血が付いているが、実際に何かを切断することはできない。
“超高校級の絵本作家”の研究教室にある小型のテーブル。脚の部分が折れていて、血が付着している。
“超高校級の絵本作家”の研究教室にあるピラニア入りの水槽。被害者の頭と右腕が入れられてピラニアに喰われていた。被害者の爪の部分は喰い残されている。
ピラニア水槽の目立たない所に落ちていた黒くて長い髪の毛。
プールサイドで発見された。被害者の左腕に握られていた。市ヶ谷 保のもの。
左腕が発見されたプールサイド付近に糸状の何かを焼いた痕跡がある。
夜時間はプールでの遊泳は禁止されている。校則違反があった場合は校内中にサイレンが鳴り響き、違反者は八つ裂きにされてしまう。
寄宿舎のドアは火事による修繕がされた。修繕中、寄宿舎にいたのは市ヶ谷とモノクマのみで、他の生徒は立ち入り禁止だった。市ヶ谷が施したピッキング防止加工により、他人の部屋に入ることはできない。
火事の際、寄宿舎で火災報知機が鳴った。プールには火災報知機はない。
市ヶ谷の個室は、荒らされたり争った形跡はない。市ヶ谷が布団で寝ていた跡も残っている。
市ヶ谷の個室の枕の下から発見された。起動しようとしてもエラーになるため、動機ビデオは再生されない。
朝殻は午前2時頃、市ヶ谷の悲鳴と彼女が走って寄宿舎を出て行く物音、それを追う足音を聞いたらしい。
学級裁判 開廷
「では、初めに学級裁判の簡単なルールを説明しておきましょう!」
(また、始まる…2回目の学級裁判。いや、私にとってはーー…)
「ーー?」
「春川さん、どうかしましたか?」
「何でもない。」
(頭の奥に走った違和感。けれど、その正体が何なのか…よく分からない。)
(……落ち着こう。この学級裁判で、どこかに隠れてる白銀を見つけ出す。)
(それ以外…今できることはないんだ…。)
「と…とりあえず、また事件の振り返りから…しておこうか?」
「被害者は…”超高校級のDIYメーカー” 市ヶ谷 保さんです。」
「死因は分かってなかったな。」
「腕と首が切られていたわけやけど…その前に殺されたんか、生きたままやられたんかも分からんな。」
「生きたまま切断されたとしたら…地獄の苦しみに もんどりうって抵抗したはずね。」
「だから、なんで怖い言い方すんねん。」
「絵ノ本さんの言い方も十分 怖ろしいよ。僕らが死体の一部を発見したのは水練場で、左手だけだった。」
「他の部位は、絵ノ本さんの研究教室から発見されたのよね。右手と頭はピラニア水槽から発見されたわ。」
「ピラニアの胃袋に収まっちまった後だったけどな。」
「よっぽどお腹が空いてたんだねー。」
「なかなか猟奇的な殺人事件だよね!大分 殺しに慣れてる人の犯行じゃないかな!」
「そんな人間がいるとは…考えたくないのう。」
「でも、今回の事件って簡単じゃない?」
「また それですか?今回は誰に濡れ衣を着せようというんです?」
「エノヨナちゃんだよ!」
「ウチか?」
「だーって、死体本体があったの、エノヨナちゃんの研究教室だよねー。エノヨナちゃんなら研ぎたて包丁みたいにサクッとギロチン使えちゃうよね?」
「まあ、せやなぁ。普通のギロチンも使えんことはない。」
「え…。そ、そうなの?」
ノンストップ議論1開始
「確かに、ギロチンは絵ノ本の研究教室のものじゃがのぅ…。」
「研究教室は誰でも入ることができたはずよ。」
「うん。でも、あの研究教室にある道具はエノヨナちゃんにとって身近なものなんだよ?使い慣れているっていう意味でエノヨナちゃんが怪しいよ!」
「そうは言っても、絵ノ本さんの小さな手で人の首を切断できるはずないわよ。」
「でも、ギロチンなら そんなに力はいらないでしょう。」
「そうだね。エノヨナちゃんがイチモツちゃんをギロチンでバラバラにしちゃったんだよ!」
「何?キーボーイ?ギロチンで首ハねても まばたきできるか実験したいって?」
「そんなこと言ってません!」
(……考え直そう。)
△back
「それは違います!」
「絵ノ本の研究教室のギロチンでは、人を切断することはできないよ。」
「せやな。」
「ど、どうしてですか?」
「あれはマジックなんかで使うフェイクだよ。ギロチンの刃みたいだけど、ニセモノ。何かを切ることはできないよ。」
「そうか。では、絵ノ本が怪しいなどということもないのう?」
「せやな。」
「ギロチンが本物だろうとなかろうと、絵ノ本が あの教室に慣れてて、人を殺しやすかったのは事実だろーが。」
「せやな。」
「えっと…絵ノ本さん、考えてる?」
「…頭や腕を切断したのはギロチン。犯人は、そう偽装したってことなんだよ。」
「絵ノ本さんはギロチンがニセモノだってことは分かっていました。彼女が犯人なら、そんな偽装を働こうとは考えませんね。」
「じゃあ、市ヶ谷さんの首と腕を胴から切り離したのは、どんな獲物だったのかしら。」
(首と腕を切り離した道具。それは……。)
1.【ナタ】
2.【ピラニア水槽】
3.【長い黒髪】
「それで どうやって胴と頭に永遠の別れを告げさせることができるというのかしら。」
「これで そんなことができたら、”超高校級の魔法使い”とか”超高校級の暗殺者”ですよ!」
「……。」
△back
「ナタだよ。血を拭いたナタが、絵ノ本の研究教室にあったからね。」
「ああ、棺桶に刺さっとったなぁ。」
「犯人がナタの血を拭いた?」
「何で犯人は、わざわざ ンなことしたんだよ?」
「研究教室が小柄な絵ノ本さんのものだったから、彼女に罪を着せるためかもしれないね。」
「小柄を舐めるなー!小柄でもヒョウタン吹いて割るくらいできるぞー!」
「全集中 何の呼吸!?」
「とりあえず…体を切断したのがナタなら、絵ノ本さんの体格じゃ無理があるわ。」
「フォッフォッフォッ。良かったのう。」
「せやな。」
「全然良くないですよ!市ヶ谷さんを殺した犯人の検討が付かないんですから!」
「まずいわね…。どうしたらいいのかしら…。」
「事件が狂気に満ち溢れているからこそ、分からないね。フフフ…面白い。」
「困った困った、ノコッタノコッタ!」
「うるせーぞ!」
「まだまだ話してないことはあると思うけどなー?」
「……キーボ。」
「……何ですか?」
「何か気付いたことはない?」
「ええ。みなさんが言う通り、絵ノ本さんが首や腕を切断するのは難しいと思います。」
「……。」
「……あの?」
「あんた、前回は色々なことに気付いたでしょ。」
「はい。」
「今回は、何もないの?」
「前回は、“内なる声”の助言を伝えたまでです。」
「……そう。」
(今回の視聴者は謎解きが苦手そうだね。)
「タマさんの言う通り、まだまだ話し合ってないこと いっぱいあるよ!…例えば、現場の様子とか!」
「現場の様子…悲惨でしたね…。」
「そうね…地獄の使者のような捕食者が、市ヶ谷さんの血肉を求めて蠢いていたわね。」
「……発見した時もピラニアに腕を食べられてたのよね。頭部なんて 既に骨になってたわ。」
「よほどイチモツが美味しかったんだねー。」
「止めてください!二重の意味で!」
ノンストップ議論2開始
「絵ノ本さんの研究教室…なんか、すごかったよね。」
「まあ、首と腕切り落としたらそうなるわな。」
「怖くて近付けなかったけど、気付いたことはあるかしら?」
「血の海という形容がしっくりくる部屋だったね。あそこにあったのは首と腕のない死体と…。」
「水槽の中にも色々落っとったわ。」
「水槽の周りは水浸しだったわね。」
「ロボよ。そんなもの、ウチの研究教室には なかったぞ。」
「止めてください、その呼びかけ。確かにロボですが。」
(それは、プールにあったもの…だね。)
△back
「それに賛成です!」
「ピラニアの水槽には黒髪が1本落ちてたよ。」
「確かに。長い髪の毛が落ちておったのう。」
「黒くて、長い髪の毛ね。」
「じゃあ決まりだな。春川、壱岐、雄狩、この中の誰かが犯人だ。」
「あら、それが犯人の髪の毛だと言うの?」
「みんなで校内を調べてる間に、誰かの髪の毛が落ちたということも考えられるんじゃないかしら?」
「えっと…どうかな?絵ノ本さん。」
「せやなぁ。昨日の夜時間前にはなかったで。基本的にピラニア水槽には蓋がしてあるし、髪の毛がピラニア水槽の中に入ることはないはずや。」
「ほら見ろ。春川か壱岐か雄狩が犯人で決まりだろ。」
「そうだとしても、誰が犯人なんだー!?」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
反論ショーダウン 開始
「黒髪黒髪って…それだけで犯人にされては たまったものではありません!」
「雄狩 芳子は確かに黒髪ですが!」
「犯人ではありません!」
「髪の毛を拾って犯人が偽装工作に使うことも可能じゃないですか!」
「確かに、犯人が私たちの髪の毛を悪用した可能性もあるけど…それなら、もっと発見されやすい場所に残すと思う。」
「ちょ、ちょっと春川さん!あなたも容疑者候補なんですよ!きっと、これは犯人のワナです!」
「ほ、ほら!壱岐さんの研究教室にあったカツラとやらではないでしょうか!」
「そうです!水槽の髪はマネキンの髪の毛です!」
「それで、1本を残してピラニアが全部食べちゃったんです!」
「かくなる上は、雄狩 芳子、髪を染めます!染めまくります!!」
「勝手にしなよ…。」
△back
「その言葉、斬らせてもらいます!」
「プールサイドの焼け跡は…マネキンの髪の毛を焼いたものだと思う。だから、水槽にカツラを入れてピラニアが食べたというのはおかしいよ。」
「確かに、私の研究教室のマネキンのカツラが なくなっていたけれど…。」
「そもそも、マネキンの髪の毛をピラニアは食べないでしょう。」
「うう!……ピラニアにとってマネキンの髪の毛が馳走かもしれないじゃないですか…。」
「馳走…?ご馳走のことか?」
「いえ、ありえません。ピラニアは肉食ですから。」
「ふぐぅ!!」
「でも…犯人は どうしてカツラを焼く必要があったのかしら?」
「どうでもいいだろ、犯人は3人のうちの誰かなんだからよ。」
「アーバー、誰が犯人だー!?」
「3人にまで容疑者が絞られたのはありがたいけど…。」
「ちょっと待って。犯人がウィッグを焼いたのって、同じ髪質なのを隠すためじゃないかな?」
「どういうこと?」
「ほら、3人に罪をなすり付けるために、壱岐さんの研究教室のウィッグを盗んで髪の毛をわざと水槽に入れておくんだよ。」
「でも、その髪質とウィッグが同じだと分かったらバレちゃうから、燃やしちゃったんじゃない?」
「フム。でも、水練場で燃やしたのは何故だい?」
「そんなことをしたら『隠蔽してます』と言ってるようなものだよね。イキリョウちゃんの研究教室に置いておいた方がバレにくいと思わない?」
「それに、春川が言った通り、偽装なら もっと分かりやすく残すんじゃなかろうか?」
「…あっ、た、確かに。そうだね。」
「じゃが、カツラを燃やしたというのは…気になるのう。」
「……。」
「思い付きを話していいかしら?」
「思い付きかよ。」
「思い付きの意見も大事だよね。セロテープの次くらいに!どーぞ!」
ノンストップ議論3開始
「犯人は何かを隠蔽したかったんじゃなくて、火事の警報を鳴らしたかったんじゃないかしら?」
「警報?」
「ええ。昨日の火事の時、寄宿舎で警報が鳴ったんでしょう?」
「あー、あれね。火災報知機が鳴ったのに誰も起きてこなくて不思議だったよね!」
「校舎内でも、火事が起きれば警報が鳴るはずよ。」
「プールサイドで火事を起こして、警報を鳴らす。これが犯人の目的よ!」
「ああ!?今キチガイって言ったかァ!?」
「言ってません!『それは違います』と言ったんです!」
(……キーボが壊される前に考え直そう。)
△back
「それは違います!」
「プールには火災報知機がないそうだよ。水場だからって。」
「テメーもモノクマから聞いてただろ。」
「あら、そうだったわね。ごめんなさい。」
「じゃあ、警報を鳴らすのが目的という可能性は少ないわね。」
「犯人が知らなかっただけではないでしょうか?」
「むしろ、警報が鳴らないようにプールで焼いたとも考えられるのう。」
「な、なるほど…。でも、それを犯人は知っていたのでしょうか?」
「犯人の持っていた情報まで推理するのは難しいんじゃない?」
「知らなかったとしたら、火災報知機が鳴るリスクもあるのに焼いたってことだねー!」
「カツラの件は、いったん置いておいた方が良いかもしれませんね。」
「フム。では、僕からもいいかな?」
「そもそも、現場は”超高校級の絵本作家”の研究教室で間違いないのかな。」
「どういうことや?」
「現場を偽装した可能性も考えるべき…ということかしら?」
「そう。前回の事件のように…ね。」
「……テメー…前回の事件のようにたぁ、どういうことだ?」
「まあまあ、怒らないでくれるかな。前回、哀染君は教室に血をばら撒いたそうじゃないか。」
「なるほどのう。今回も、輸血パックなぞを使って現場を偽装したかもしれんということか。」
「うーん…でも、輸血パックや血のりは必要ないんじゃないかな?」
「現場が違うなら、どこかで殺したイチモツちゃんを絵本作家の研究教室でバラバラにすればオートで血みどろだからね。血のりなんていらないよ。」
「エコだねー!」
「そんなエコ、嫌ですよ!」
「でも、そうだとしたら…どこが本当の犯行現場なんだろう?」
ノンストップ議論4開始
「例えば、水練場はどうだい?」
「プール?確かに、プールには左手があったけれど…。」
「絵ノ本さんの研究教室をあそこまで演出したのは、本当の現場を隠すため…そんな風には考えられないかい?」
「でも、プールには左手の近く以外、血痕もなかったぞー!」
「プールで殺したとしたら、痕跡があるはずだよね。」
「そんな痕跡、なかったはずです。」
「水練場の水で溺死させたとしたら?血痕は残らないよ。」
「果たして…キーボ君は水に浮くのだろうか…。」
「議論に集中してください!」
「君たちの発言によって気がそれているんだけどね。」
△back
「それは違います!」
「夜時間にプールの中に入るのは禁止だよ。プールに入ったらーー…」
「……モノクマ。夜時間プールに入ったら、どうなるの?」
「生きてる人間がプールに入ったら、大きな大きなブザー音が学園中に鳴り響き、違反者の処刑が始まるよ。」
「ちなみに、ブザー音はボクの子供の放屁レベルの爆音だからね。どんな間抜けも飛び起きるくらいだからね。」
「えーと…子どもいたんだ…。別に知りたくなかったかな。」
「アーバーアーバー、そんな音、聞いてないぞー!」
「ええ。誰も そんな音はーー…ちょっと待って。もし、私たちに睡眠薬が盛られていたら、どうかしら?」
「睡眠薬?」
「哀染さん殺害に使われた…あの?」
「……。」
「ええ。睡眠薬も…私の研究教室からなくなってるのよ。2つ。」
「2つ…じゃと?」
「あれれー?1つは火事の時 盛られた可能性が高いんだよね?」
「ええ!?」
「捜査時間に、そんな話が出ていたね。睡眠薬を盛られていたなら、火事の騒音の中で僕たちが寝入っていたのも頷けるね。」
「い、一体 誰がそんなことを…!?」
「……。」
「でも、火事の前に2つの睡眠薬が使われたわけではないと思うわ。大量に投与されたら…健康に害を来すはずだから。」
「火事の日はスッキリ快眠、絶好調だったぞー!」
「つまり…もう1つの睡眠薬が今回の事件で使われたかもしれん。そういうことかの。」
「どうかしら?今回の事件で、みんな睡眠薬で眠らされていたのかしら?」
(確かに、昨日の夜から今朝まで…私はよく眠っていた。でも…。)
1. 睡眠薬は使われた
2. 睡眠薬は使われていない
「地獄の苦しみの後の永遠の眠り…この言葉に興味はあるかしら。」
「…ないよ。」
△back
「タマと麻里亜は……それに私は、火事の時、睡眠薬を盛られても…すぐに起きられたよね。」
「そうじゃな。ワシはサンタじゃから、夜型なんじゃよ。酒を飲もうが薬を飲もうが、起きようと思えば起きられるわい。」
「クリスマスの日にワインをサンタに振る舞う文化圏もあるしのう。フォッフォッフォッ。」
「え!?お酒は まずいんじゃない?非実在青少年だって、今は厳しいんだから!」
「睡眠薬って効きにくい人もいるんだよね?私も睡眠薬とか効かない体質なのかも。」
「そもそも、そんな音キーボは聞いてないんだよね?昨日の夜から今朝までは、充電中だったわけでもないから、もし音がしたならーー…」
「……。」
「キーボ?」
「あ、はい。犯人が夜時間のプールでブザー音が鳴ると知っていて、睡眠薬を盛ったとしても…春川さん達3人が起きる可能性が高いですね。」
「そうじゃなくて、テメーは聞いてないんだろって話してんだよ!」
「え?あ、そうですね。聞いていない、はずです。」
「じゃあ、プールで溺死したわけじゃなさそうね。」
「犯人は何で左手をプールに置いておいたんだろうねー?プールが現場なら分かるけど。」
「せやな。わざわざ手足や頭 切り落とすなんて めんどいこと、よぉやるわ。」
「足は切られてないよ…。」
「面白 半分だろ。こんなヤベェ殺人 犯すようなヤツ…。」
「ウケ狙いで頭切ったのかー!?」
「そ…そんな人が、この中にいる…改めて考えると怖いですね…。」
(一瞬、裁判場が静寂に包まれた。が、私の耳は、肩からの小さな声かけの言葉を拾った。)
「春川さん、左手に注目させたとは考えられませんか?」
「え?」
「ほら、マジックでよくある手です。左手に注目させているうちに、右手でトリックを働かせ…」
(言って、キーボは不自然に言葉を止めた。人間でいう耳の部分に手を当てて動きを止めている。)
「何?」
「あ…いえ、何でもありません。とにかく…犯人は左手の方に注目を集めるように仕組んでいます。」
(犯人が左手を注目させるように仕組んだ。その根拠はーー)
2.【夜時間の校則】
3.【ギロチン】
「何をコソコソ話してるんだー!?もっと腹から声を出せー!!」
「分かったから、大声出さないで。」
△back
「犯人は…絵ノ本の研究教室より、左手があるプールに注目させたかったんじゃないかな。」
「どういうことだ?」
「モノパッドだよ。市ヶ谷のモノパッドは、プールにあった。」
「そっか…。わたし達、それで市ヶ谷さんはプールにいるって思って、左手を発見したんだもんね。」
「凄惨な絵ノ本さんの研究教室の方が印象に残りましたが、初めに犯人が誘導したのはプールです。」
「アッソー!なら、犯行現場は やっぱり絵本作家の研究教室なのかー!」
「犯行現場が絵ノ本さんの研究教室で…犯人は それを隠したかったのかな?」
「けれど、犯行現場を隠したかったとは思えないわ。だって、あそこは血塗れだったもの。」
「他の何かを隠したかった…ということかもしれんの。」
「犯行現場には…何かしら痕跡が残るものね。」
「ああ。特に、あの黒髪なんて怪しいんよな。」
「雄狩 芳子の髪の毛ではありませんよ!」
「うーん、あのさ。今回の事件って、ちょっと猟奇的すぎるよね。」
「猟奇的?」
「そう。普通の高校生が、人体の切断なんか できるのかなーなんて思って。」
「みなさん、普通の高校生とは言えないと思いますが…。」
「例えばさ、ナタがあった物騒な教室。あれが誰かの研究教室なら、その人って怪しくない?」
「3階の武器庫みたいな教室だねー!」
「……。」
「確かに、あの研究教室の持ち主なら、今回のような事件も納得できるわね。」
「でも、あの教室に合う才能の人なんて…この中にいないよね?」
「……1人。いるだろ。オレらに才能を明かしてねーヤツが。」
「そうだね。それに、水槽に残っていた1本の長い黒髪…。どう思う?ハルマキちゃん?」
「……。」
▼研究教室の持ち主と思われるのは?
「その人の研究教室があの武器庫ですか?では、一体どんな才能なんでしょうか…?」
「言ってみただけだから深く考察しなくていいよ。」
△back
(みんなの視線が一気に こちらに集まった。)
「あれが…私の研究教室だって言いたいんだね。」
「え!?そ、そんなはずないよ!」
「マキの才能は分かってないぞー!」
「そうね。自己紹介の時も、才能がないって言ってたけど…。」
「忘れているだけかもしれないと思っていたが…本当に覚えていないのかな?」
「ほ、本当は恐ろしい才能を隠し持っているのですか!?」
「違うよ!だって、春川さんはコロシアイが起こらないように頑張ってたもん!その春川さんが殺人なんて…。」
「んー?どうしてエイリオちゃんがそんなに必死なの?」
「だって…動機ビデオだって、見ないように言ってくれたのも春川さんだし!」
「ンなもん、自分以外に殺人をさせないためかもしれねーだろ。他のヤツに先越されないようにな。」
「……。」
「まずいですね。このままでは春川さんが犯人になってしまいます。」
「あ!そうだよ、キーボ君!キーボ君は、ずっと春川さんと一緒だったんだよね?春川さんが犯人じゃないって証明できるはずだよ。」
「確かに、春川さんとボクは一緒に行動していますが、夜時間の行動は分かりません。」
「キーボは夜、私のクローゼットの中にいるからね。」
「閉じ込めてたってことですか?かわいそうじゃないですか!一緒に寝てあげてください!」
「ロボットって寝るのかな?」
「ロボは寝んやろ。夢も見ーひんやろな。」
「ロボット差別です!ロボットにだって夢も希望も愛もあるんですからね!」
「AIだけにね!」
「入ってこないでください!ダジャレを言ったみたいになるじゃないですか!」
「……クロになるなら、外の情報は多く欲しいはずだよね。」
(犯人になる奴なら…思い出しライトの記憶が欲しいはずだ。誰が思い出しライトの記憶を持ってるか。それは…あいつに聞けば分かる。)
▼思い出しライトについて知っているのは?
「春川さん、肩の荷を降ろして休んでちょうだい。鉛のように肩が重いでしょう。」
「ボクは鉛ではありません!少しくらい使っているかもしれませんが!鉛ではありません!」
△back
「キミしかいません!」
「羽成田、あんたは誰の動機ビデオの情報を知ってるの?」
「はあ?」
「それとこれと何か関係があるんだねー!」
「えっと…関係ないのでは…。」
「殺人を犯してまでクロになる奴…外に出たい奴なら、羽成田が持ってる あのライトは使っておきたいはずだよ。あれは外の情報…なんでしょ?」
「あ…そういえば、あれ、昨日から羽成田君が管理してたんだよね。」
「動機ビデオの情報と引き換えに使わせる…などと言ってな。」
「フム。それなら、あの思い出しライトとやらを使った怪しい人を、彼は知っているということだね。」
「誰なの?ハネゾラちゃん?」
「……教えられねーな。」
「……は?」
「情報は金だって言ってんだろ。オレだけの情報が欲しいってんなら、対価を寄越しな。」
「……。」
「こんな時に何を言っているんですか!」
「みんなの命が掛かってるのよ!」
「うるせー!オレと取引したヤツは いわば顧客なんだよ。顧客情報をホイホイ教えるわけねーだろ。」
「そんなリスクをオレに負わせるってんなら、それだけの対価を払えよ。」
「む、むちゃくちゃだよ…。」
「お前の血は何色だー!?」
「犯人を間違えたら君を含めて全員死ぬ。私利私欲を見せている場合じゃないと思うんだが。」
「羽成田ちゃんがクロなら話は別だけどねー。」
「……何を言われようと、オレの意見は変わらねーぞ。」
「……。」
「……私の動機ビデオを見せるよ。」
「え、春川さん?」
「私のビデオを…情報を渡すから、あんたと取引したヤツを教えて。」
「ハッ!いいぜ。テメーが1番 素性が分かんねーからな。」
「部屋にあるから…後で見せるよ。」
「後から『嘘でした』なんて言ったらタダじゃおかねーぞ。」
「約束するよ。」
「クロを間違えたら無効の約束ですね。羽成田クン、それでキミと取り引きしたというのは…。」
「……オレと取引したのは、被害者の市ヶ谷だ。」
「市ヶ谷さん…市ヶ谷さんだけ?」
「ああ。」
「市ヶ谷さんが?」
「どうして?市ヶ谷さんは…被害者なのよ?」
「どうしても外の情報が欲しかったのは、市ヶ谷さんだった…ということね。」
「じゃ、じゃあ、春川さんの容疑は晴れるよね?」
「春川は羽成田と取り引きせんかったいうことやもんなぁ。」
「そうね。春川さんが犯人なら取り引きしてた可能性が高いはずよ。」
「その外の情報とやらを知っていたのは、羽成田と被害者の市ヶ谷だけ…か。」
「デンデン、ソラが怪しいねー!」
「は、はあ!?何でオレだよ?」
「だって、外の記憶を知ってるのはソラとタモツだけだー!」
「ふ、ふざけんな!だとしたらそんな不利な情報を自分で言うかよ。」
「どうだろう。羽成田君は直情的すぎる印象があるからね。」
「確かに、バカ正直なほど直情的じゃのう。」
「うん、バカだよね。」
「誰がバカだ!!」
「……。」
(似たようなシーンを、”前回”見た気がする。)
「けれど、さすがに それだけで羽成田君が犯人とは言えないわ。」
「何でや。」
「だって、羽成田君が持つまで、あのライトは ずっと校舎の2階に置きっ放しだったのよ?それまでに誰が使っていたとしてもおかしくないわ。」
「た…確かに、そうね。」
「あのライトを最初に見つけたのは、春川…じゃったらしいのう。」
「アーバーアーバー、最初に見つけた時はカナデもいたよー!マキはライトに触らない方がいいって教えてくれたんだねー!」
「ンなもん、他のヤツらを遠ざけるためのウソだろ。つーか、上手く話を逸らしたつもりか知らねーが…春川、テメーは怪しいんだよ。」
「……。」
「え?え?そ、そうなんですか?春川さん?」
「そんなことないよ!春川さんが…そんな…」
「そういえば…春川。昨日の火事の中、何をしとったんじゃ?」
「!」
「何の話や?」
「昨日の夜、ワシは焦げた匂いと鳴り響く音、タマの叫びと共に眠りから覚めた。慌てて部屋の外に出たら、炎の中…春川が立っておったんじゃ。」
「タマもおったが、タマは慌てふためいておった。春川は…呆然と立ち尽くしていた…といった感じじゃったのう。」
「……。」
「あの時、あんな火事なのに、起きてたのは、私とハルマキちゃんとマリユーちゃんだけだったよね。」
「カナデは耳がいいのに、火災報知機の音にも気付かなかったぞー!?」
「やはり、私たちは眠らされていたのよ。…睡眠薬で。」
「えっと、春川さん…そういえば、あの日 夕食の準備を手伝ってくれたわね…。」
「まさか、その中に睡眠薬を入れて、オレらを眠らせたのか?」
「……。」
(再度 みんなの視線が集中する。恐ろしいものを見るような目だ。)
(私は強く拳を握った。じわりと その手に汗が滲んだ。)
学級裁判 中断