第2章 限りない地獄、まだ見えぬ天国 学級裁判編Ⅱ
学級裁判 再開
(全員が疑心に満ちた目で こちらを見ている。)
(”前回”も…同じような場面があった。思い出すと背筋が冷える。みんなの…怯えた、あの目。)
「寄宿舎の火事…あれも犯人の仕業だとすると…。」
「春川は夕食に睡眠薬を混ぜることができた。さらに、火事の中 起きていた。…そういうことじゃな。」
「でも、麻里亜君もタマさんも起きてたんでしょ?」
「うん。私が起きて火事を見て叫んだら、マリユーちゃんが慌てん坊のサンタクロースみたいに出て来て、暴れん坊の消防士みたいに火を消したの。」
「ハルマキちゃんは私が部屋を出た時既に起きてて、ホールでキャンプファイヤーみたくヌボーっと炎を眺めてたよ。」
「じゃあ、やっぱり春川が怪しいじゃねーか。」
(火事と殺人は関係ない。これが真実だけど…。それを言っても、たぶん信じてもらえない。)
(私は実際、全員を殺そうとしたんだから。)
「オレは犯人じゃねー!でも、春川も犯人じゃねー!」
(”あいつ”が何の根拠もなく信じてくれた私は……もう、いない。)
「ちょっと待ってください!」
「……!」
「春川さんは犯人ではありません!」
「キーボ…。」
「その根拠は何ですか?」
「春川さん、燃え盛る火の中、魔法のように寄宿舎を脱出できますか?」
「……できるわけないでしょ。」
「では、おかしいです。脱出できない寄宿舎の中に火を付けた犯人がいるはずありませんから!」
「焼け跡を見るに、灯油は宿舎を囲むように撒かれてたよね。」
「確かに…犯人が退路を作っていないのは おかしいのう。」
「そういえば、そうだねー!」
「でも、全員が火事の中 宿舎にいたのよ?全員が犯人じゃないことになるわ。」
「ええ!だから全員が犯人じゃないんですよ!」
「全員を殺すようなことをすれば、おしおきで処刑…だったもんね?」
「僕ら全員が放火の犯人ではない。それなら、モノクマがやったのかい?」
「カナデたち以外の人が、どこかにいるのかもねー!」
「ボ、ボボボクは殺人に関与しないません!そそそ、それに、他の人な、なんていないいないいないばあ!」
「なぜ怪しげに言うんや…。」
「放火魔は…焼き殺すのが目的じゃなかったのかもしれねーぞ。」
「殺しが目的ではなかった…?」
「初期消火に間に合うように、あえて春川さん達に睡眠薬を盛らなかった…そうも考えられるわね。」
(……火事について議論が進む。でも、火事は関係ない。このまま火事の犯人探しをしていたら、時間切れになりかねない。)
(どうする?……私が火事を起こしたと話す?)
(けれど…理由を聞かれたら?『ダンガンロンパ』を終わらせたい。そんなことを言って、みんなが納得するとは思えない。)
(ここで私への疑心を煽ったら…今後 首謀者探しにも『ダンガンロンパ』を終わらせるにも動きづらくなる。)
(そんなことを考えているとーー)
「うーんと、殺しの犯人と宿舎に火を放った犯人は違うよ。」
「……!」
(タマは…私が火を放ったと気付いている?)
(……見られていた?睡眠薬で眠っていなかったのなら、十分あり得る。)
(思わず、自分の髪を掴んだ。そして、彼女の言葉を待つ。)
「っていうか、宿舎を火事にしたの私なんだよね。」
「……は?」
「ごめんね?みんなに気付かれないように睡眠薬 盛って、それから寄宿舎に火を放ったの、私なんだ。」
(タマが微笑みながら、そう言った。)
「えっと…。」
「どうしたの?嘘じゃなくて、本当だよ!」
「…自白が急すぎて思考停止しているんだよ。」
「タマが放火魔かー!?」
「テメー、何でンなことしたんだよ!?」
「そうね。どうして そんなことを?」
「うーん、いっぺんに みんなを殺そうとしたら、どうなるのかなーと思って。好奇心かな?」
「はああ!?」
「『好奇心で人を殺す』とはよく言ったもんやなぁ。」
「さ、サイコパスヤロー!ですか!?」
「雄狩さん。タマさんはヤローではありませんよ。あと、絵ノ本さん。それを言うなら『好奇心は猫を殺す』です。」
「…テンポが悪くなるから いちいちツッコまなくていいよ。」
(…どういうこと?タマは宿舎を火事になんてしていない。一体…どういうつもり?)
「本当に、お前さんが…そんなことをしたのかのう?火事だと叫んだお前さんの声…ワシには演技には聞こえんかったがのう。」
「嘘なんてつかないよ。思ったよりモノクマの介入が遅いって分かったから、みんなが焼け死なないように大声 出したんだよ。」
「で、でも信じられないわ。だって…保育士のタマさんが…なぜ?」
「あ、ごめんね。私が“超高校級の保育士”っていうのは嘘なんだ。」
「う、嘘!?」
「うん。私の研究教室は多分、あの3階の殺人鬼部屋だよ。」
「はああ!?」
「あの物騒な部屋?君はさっき、春川さんが その研究教室の持ち主だと話していなかったかい?」
「ハルマキちゃんの、とは言ってないよ!私は誰のかなー?って言っただけ。」
「それは…お前のだー!!」
(タマは「そうだよ」と笑って、そしてーー…)
「あの部屋は、私の研究教室。私の才能は……“超高校級の暗殺者”だよ。よろしくね!」
「……え。えええ!?」
「好きなスイーツはアンコ。好きな武器は暗器。暗所が大好きなタマをよろしくね!」
「アンアンアンとっても大好き…というやつか。」
「な、何だよ暗殺者って!?ふざけやがって…そんなの、一瞬でオレら皆殺しに できんじゃねーか!」
「ハネゾラちゃんはバカだなぁ。だから、皆殺しなんてしたら処刑されるんだって。そんな自殺行為はしないよ。」
「誰がバカだ!あの火事は完全に自殺行為だろうが!テメーも宿舎にいたんだからな!」
「あ、忘れてた。ごめんね、私ってトリ頭も裸足で逃げ出す忘れっぽさなんだ。」
「トリ頭に足はねぇ!」
「ちょっと、そんなことは どうでもいいのよ。」
「タマさんの研究教室があの物騒部屋なら…あの幼稚園みたいな研究教室は一体?」
「……。」
「あれは…私の研究教室だよ。」
「えっ。」
「どういうことだー!?」
「私は…“超高校級の保育士”だよ。」
「え、ええ!?そ、そうだったの?」
「な、何で黙ってたのよ?」
「……さっき思い出したんだよ。」
(……本当は、最初から覚えていた。)
(私は…”超高校級の保育士”だって。)
(正確に言えば、私は今、”超高校級の生存者”だ。けれど、私の“前回”の肩書きは……”超高校級の保育士”。)
(おかしいと思っていた。『ダンガンロンパ』が保育士を2人も参加させるはずがないから。)
「え?え?!春川さん、保育士なんですか!?」
(私の肩の上で、みんなよりも狼狽した声がした。)
「…意外で悪かったね。子ども好きそうじゃないって言いたいんでしょ。」
「確かに ここに子どもがいない以上、好きかどうかの予測はできませんが……いえ、そうじゃないんです。”内なる声”が驚いているようで…。」
(“前回”の視聴者が…?)
(ーーでも、私は“前回”も、”超高校級の保育士”だったはずだ。)
「ここになって、最初と言ってることが違ぇ奴が2人もいる。テメーら、どう考えても怪しいぞ!テメーら共犯で何か企んでるんじゃねーだろうな!?」
「うわー、バカだ。学級裁判のルール的に、共犯なんているはずないのに。」
「バカっていうな!」
「と…とにかく、春川さんは”超高校級の保育士”で、タマさんは”超高校級の暗殺者”なんだよね。改めて、よろしく…ね?」
「よろしく言ってる場合ーか!?」
「そうですよ!2人…というか、タマさんは完全に怪しいですよ!」
「暗殺者で火事起こしとるしなぁ。」
(……そうだ。タマは何で火を放ったなんて嘘をついた?)
(まさか…タマが…首謀者で…コロシアイを続けさせるために…?)
ノンストップ議論1開始
「火事は ただの火遊びだよ!文字通りね。」
「あ、でも、私は殺人の犯人じゃないよ?」
「ンなこと信じられっか!」
「えー、じゃあ どうして私が火を付けたっていうの?殺人と関係あるなんてさー?」
「何かを燃やして隠すためだったんじゃないですか?」
「火事場泥棒でもしたかったんか?」
「そうか、分かったぞ!火事の後 人払いして、合鍵を作ったんだろ!」
「キーボーイって ちょっとだけ変な所あるよね。姿とか形とか言動とか挙動とか思考とか。」
「全部じゃないですか!!」
△back
「それは違います!」
「宿舎には火事の後、ずっと市ヶ谷がいたんだよ。ドアにピッキング防止加工をするためにね。」
「人払い、できとらんのう。」
「というか、本鍵がなければ合鍵作るのって無理じゃない?本鍵は各自持ってたでしょー?」
「私は どのくらいでモノクマの介入があるか試しただけで、被害者を殺したりしてないよ!」
「……チッ。そんなこと分かんねーよ。テメーがやったかもしれねーだろ。」
「本当だよ!だって、被害者の切断面ズタズタだったでしょ?私なら、もっと綺麗にできるもん!」
「どうせプロの犯行じゃねーよーに見せただけだろ!」
「心象的には疑いたいのも分かりますが、理論的に犯人を探し出した方が合理的ですよ。」
「心象的…キーボーイにも心ってあるの?」
「あります!」
「鉄の心なんて信じられっか。」
「キーボからは機械音がするだけで、心音は聞こえてこないぞー。生きてるかー!?」
「コンビネーションでロボット差別するのはやめてください!」
「ウチらにも”心”なんてもんがあるかは微妙なとこやで。感情も結局は脳の働きや。知らんけど。」
「ちょっと、キーボ君の考察より、事件のことを話そうよ!」
「そういえば…犯人はどうやって夜時間に市ヶ谷さんに会えたのかしら?」
「どうやって?」
「夜時間は普通、個室に鍵をかけて寝るはずよ。そんな中、犯人は市ヶ谷さんに会って、殺害している。」
「呼び出したんじゃないかしら?……あ、でも市ヶ谷さんは結構 怖がりのようだったから、夜時間の呼び出しじゃ行かないわよね。」
「ピッキングもできないし、部屋の鍵を開けて押し入る…なんて無理だよね。」
「……あ。市ヶ谷さんは、夜時間も研究教室へ行ってました!研究教室なら鍵もありませんし…そこを犯人に狙われたんですよ!」
「では今朝まで市ヶ谷さんは寄宿舎の部屋にいなかったということだね。」
(宿舎の外で殺害された?それだと、少し おかしい…。)
「……市ヶ谷の部屋は鍵が掛かってなかったよ。」
「それがどうしたん?」
(宿舎の外に出るなら、市ケ谷は部屋の鍵を掛けて行くはず。)
(その根拠はーー…)
1. 下着
2. 動機ビデオ
3. 男のロマン
「………。」
「まずいですよ、春川さん。絵ノ本さんが考えることを放棄しています。」
(みんなが絵ノ本みたいだったら、『ダンガンロンパ』を すぐ終わらせられるのに。)
△back
「市ヶ谷の部屋には、動機ビデオが置いたままだった。ビデオを置きっぱなしで、部屋に鍵をかけないことなんてある?」
「見られてもいいって思っていたら…あるんじゃないかな?」
「いえ、市ケ谷さんは確かに 動機ビデオを誰にも見られたくない様子でした。昨日 施したピッキング防止加工も動機を見られないためだそうです。」
「アーバーアーバー、タモツの動機ビデオは捜査時間 見つけたけど見れなかったぞー!?」
「そうじゃな。起動せんかった。おそらく、指紋認証か何かのロックが掛かっとったんじゃろう。」
「たぶん、市ヶ谷は誰にも見せないように動機ビデオにロックを掛けたんだよ。」
「せやから部屋の鍵 掛けんかったんちゃう?どうせ見られんいうて。」
「市ヶ谷は動機ビデオにロックを掛けた上で、ピッキング防止加工をした。昨日ずっと宿舎の修繕をしていたし、ビデオのロックは その前のはずだからね。」
「それだけ見られたくなかったのなら…鍵を掛けずに宿舎から出るのは妙ね。」
「でもハネゾラちゃんには見せたんだね。過去の記憶と引き換えに。ハネゾラちゃんが動機を知っていることが殺しの動機になりそうだね?」
「テメ…!それはオレが怪しいって言いてーのか!?テメーのが怪しいだろうが!大量殺人犯!」
「とにかく、ビデオのロックにピッキング防止加工。これだけ厳重にしていた被害者が動機ビデオを置いて鍵を掛けず外出するとは考えにくいです。」
「市ケ谷さんが外出中に襲われた可能性は低いのかしら。」
「いえ、そんなことはないですよ!」
「何だ何だー!?」
ノンストップ議論2開始
「殺害されたのが外出中ということは考えられます。」
「例えば、市ヶ谷さんは自室の部屋に鍵をして、研究教室で世紀のDIYに勤しんでいた。けれど、そんな時、犯人がやって来て…市ヶ谷さんを殺害…。」
「そして…彼女の鍵を奪って宿舎の部屋を開けた…ということも考えられます!」
「殺害現場は絵本作家の研究教室じゃなかったのかー!?」
「寄宿舎や市ヶ谷の研究教室からウチの研究教室まで結構 距離あんで?重労働すぎる思うけどな。」
「じゃが…可能性はあるのう。つまり、考えられるのは、犯人が市ヶ谷の部屋に押し入ったか…。」
「外出中の市ヶ谷さんを殺害後、犯人が鍵を開けた…そのどちらかであることは間違いないね。」
「キーボはKEYを知ってるかー!?」
「それくらい知っています!文字入力のためのボタンのことでしょう!」
(今 話しているのは鍵のことなんだけど…。)
△back
「それに賛成です!」
「朝殻、あんた 夜時間に市ヶ谷が宿舎から校舎へ向かったって言ってたよね。」
「ヤーヤー!カナデのドアは火事でちょっと隙間ができて、外の音も聞こえちゃうんだねー。」
「詳しく話して。」
「クラークラー!深夜の2時頃かなー?バン!って どこかの部屋が開く音がして、タモツが叫びながら校舎の方へ走って行く音が聞こえたんだねー!」
「それを追いかけるように走る足音がタモツが出た部屋の方からしたんだねー!」
「その追いかける足音が犯人じゃないかしら?」
「そうかもしれないねー。」
「犯人は見なかったのかしら?」
「叫び声がした時は部屋の中にいたからねー。気になって扉を開けたけど、その時には誰もいなかったぞー!」
「その後は追わなかったんだ?」
「カナデは まだ寝ぼけてたんだねー!」
「何だ…信憑性も微妙な話だな。」
「しかし、無視はできません。その証言が正しいなら、市ヶ谷さんは部屋で襲われて逃げているんです。」
「でも、どうやって?ピッキング防止加工がされていて…市ヶ谷さんも外出中じゃなかったんだよね。」
ノンストップ議論3開始
「確かに、市ヶ谷の部屋にどうやって入ったんか謎やな。」
「合鍵を作るのも難しいって話だったよね?」
「イチモツちゃん出て来てーって言って出て来るタイプでもないよねー?」
「ええ、それは置いておきましょう。とにかく、犯人は何らかの方法で市ヶ谷さんの部屋に侵入して、彼女を殺害しようとした。」
「が、市ヶ谷に逃げられたため…逃げた先で殺した…そう言いたいのかの。」
「それなら、市ヶ谷さんも かなり抵抗したはずよね。殺人犯じゃなくても、枕元に人がいるだけでびっくりするもの。」
「あなたが もし、生と死の狭間に立たされてカラスに啄ばまれる蛆虫のように抵抗すると…どうなるかしら?」
(……肩のキーボは、確実に落ちるね。)
△back
「それは違います!」
「市ヶ谷の個室は…荒らされた形跡はなかったよ。」
「布団も、市ヶ谷さんの寝ていた跡が分かるほどで…こう、起きてズルリとヘビのように布団から出たような形になってましたよ。」
「あら?でも、起きて目の前に他人がいたら、もっと動揺するんじゃない?私なら、びっくりして布団もベッド周りの物もグチャグチャにしちゃうわよ?」
「ついでに、犯人もグチャグチャにしちゃいそうだよね。」
「おかしいねー?もし締め殺すなら、犯人だってベッドの高さ的にベッド乗り上げるよね。ベッドが全然 乱れないなんてあるのかな?」
「まあ、ナタとかナイフとかバッドでならベッドサイドからでもヤりやすいけど。」
「ひ…っ、そ、それは経験談ですか!?」
「どうかなー?企業秘密だよ!」
「とにかく、市ヶ谷の部屋に何もなかったってんなら、部屋に押し入ったっつーのは間違いじゃねーのか?」
「部屋での抵抗かどうかは分からないけど、被害者は抵抗したはずだよ。ピラニア水槽に、その痕跡があったからね。」
「痕跡?」
「ハルマキちゃんなら分かるんじゃない?まずは当ててみてよ!私が言ってるのは何のことでショウ!」
(タマは こちらを見て笑った。)
(ピラニア水槽に残された被害者の抵抗の痕跡…?)
1. ピラニア
2. 長い黒髪
3. 爪
「春川さん、ピラニアですよ?ラザニアでもピラフでもないですからね?」
「シュウマイでもヤムチャでもプーアールでもないんだよね。」
「……分かってるよ。」
△back
「もしかして…ピラニアが食べ残した指先の爪のこと?」
「せいか〜い!」
「あ?あの水槽の爪のことか?指の肉と爪の間に何か挟まってた…。」
「確かに、水槽にはピラニアが食べ残した爪と指先が残っていましたね。」
「ピラニアも爪は好きじゃないんだねー。それが何で抵抗の跡なんだー!?」
「ハルマキちゃん達と話した後、私たちも水槽 調べに行ったの!それで、あの爪が気になって、プールの備品 使って水槽から出したんだ。」
「水槽から出したのは僕だよ。おかげで、あの肉食魚に噛まれるところだった。」
「泣いて喚いたら取ってくれたんだよ!アヤキクちゃんはカースト下位の良いお父さんになるねぇ。」
「……それで、爪に残った被害者の痕跡って何なの?」
「爪と指の間に挟まってたもの。あれは、人の皮膚片だよ。」
「私もタマさんや綾小路君と確認したわ。死肉と爪の間にあったのは…確かに人の皮膚だったわ。」
(爪と指の間の皮膚片…。それが、被害者の抵抗の痕跡だとしたら…。あれは…。)
1. 斬新なネイルアート
「何ワケわかんねーこと言ってやがる。テメーにゃ爪がねーからか!?」
「ロボット差別です!」
△back
「被害者の爪に挟まっていた皮膚片は…被害者が犯人を引っ掻いた跡じゃないかな。」
「なるほどな。市ヶ谷もめっちゃ抵抗してたいうことやな。」
「それでは…どこかに引っ掻き傷がある者がいるはずじゃ。」
「フム。ここで全員の全身を確認するかい?男女に分かれれば問題はないだろう。」
「まあ、最終手段はそれでもいいけど、その必要はないよ。」
「何でや。」
「だって あれ。多分、人の顔の皮膚だから。」
「何でンなこと分かんだよ?」
「顔の皮膚は薄いからだよ。」
「……。」
「ねー、ハルマキちゃん。それなら、誰だと思う?窮鼠に噛まれたみたいに、被害者に爪を立てられた人って?」
「……。」
「でも、顔に引っ掻き傷がある人なんて…。」
(爪に残った皮膚が顔のものか どうかなんて…見て分かるものじゃないと思うけど…)
(タマは確信したような顔をしてる。それは、確実に正しいと分かっているから…?タマはーー…)
「春川さん、どうですか?顔に引っ掻き傷がある人に心当たりは?」
(……とりあえず、今は怪しい奴を指摘しよう。)
▼顔に傷がある人物は?
「春川、それは暴論ってもんだぜ…。」
(違ったね。もう1度考え直そう。)
△back
「キミしかいません!」
「雄狩…面を外して見せてくれない?」
「………え?」
「ここにいる全員、顔に傷跡がありません。ですが、雄狩さん。キミだけは、面をしているため判断できません。」
「だから、面を外して顔を見せてよ。」
「……!」
「いえ!無理です!雄狩 芳子は、人前で面を外すことはできないのです!」
「舞闘家は面を外しちゃいけないって言ってたわよね?」
「でも、全員の命が懸かっているのよ。お願い。」
「…うぐ、」
「君の疑いを晴らすことにもなると思うよ?」
「雄狩さん、お願いだよ。亡くなった市ヶ谷さんのためにも!」
「…うぐぐぐ…」
「テメーが外さねーなら、力づくでも剥ぎ取るぞ。」
「わー、乱暴。オスヨシちゃん、早くしないと手篭めにされるよ?エロドージンみたいに。エロドージンみたいに。」
「…ぐうううぅ。」
「……参り、ました。」
「では、面を取ってみせぇ。」
「……その必要はありません。市ヶ谷さんを殺したのは…雄狩 芳子ですから。」
「何じゃと?」
「おおー!?」
「お、雄狩さんが犯人だった、の?」
「……ええ。」
「どうして…あなたは市ヶ谷さんを慕っていたじゃない。」
「動機が悪いんですよ!大切な人に危険が迫っているかもしれないなんて!!」
「動機…?君の動機は…」
「雄狩 芳子の大切な…師が…大変なことになっている…そんな内容でした。」
(雄狩がこちらに、動機ビデオを差し出した。再生された内容は…)
『さーて、大好評につき復活後、降臨を果たした動機ビデオの時間だよ。』
『”超高校級の舞闘家” 雄狩 芳子さん。彼女は”地獄の道を進め”と厳しく育てられました。』
『”逆境に打ち勝て”。”愛した者を信じ抜け”。”諦めずに闘い続けろ”。この精神で彼女を育てた師は、彼女の実の叔父でした。」
『この言葉通り…雄狩さんは、その異質さ故に迫害されていた幼馴染みの女の子を助け、自殺志願の女性を助け、腰の悪い老婆を助けてきました。』
『…そんな彼女の成長を見守り続けていた師が この後、とんでもない目にあってしまうわけですが…』
『うぷぷ。それが何かは内緒だよ。自分自身の目で確かめてくださいねー!』
「……。」
「フム。みんな同じような内容らしいね。『大切な人がひどい目にあっている。安否を確かめたければ外に出ろ』という内容らしい。」
「雄狩 芳子は…どうしても、外に出なければなりませんでした。市ヶ谷さんを…皆さんを犠牲にしてでも。」
「雄狩さん…。」
「……どうやって、市ヶ谷の部屋に入ったの?」
「それは…市ヶ谷さんの部屋へ招いてもらったんです。市ヶ谷さんは雄狩 芳子を慕ってくれていましたので、部屋をノックするだけで良かったんです。」
「あら、市ヶ谷さんはもっと警戒心が強いタイプだと思っていたわ。」
「市ヶ谷さんの部屋で殺害する予定が…雄狩 芳子は市ヶ谷さんの反撃にあい、逃げられてしまいました。校舎へ逃げる市ヶ谷さんを追いかけて…」
「カナデが聞いたのは、その時の音だねー!」
「絵本作家の研究教室に逃げ込んだ市ヶ谷さんを教室のテーブルで殴り…彼女が亡くなったのを確認して、切断したんです。」
「タマさんの研究教室にあったナタを持ってきて…爪に引っ掻いた跡がある以上、残してはおけないと思い…。」
「両腕や首を切り落としたのは、爪の跡に気付かせないため…だったのかしら。」
「後は…皆さんの推理通りです。本当の現場を悟られないために、左手とモノパッドをプールに置いて…」
「雄狩 芳子は…外に出るために、市ヶ谷さんを殺し、死体をピラニアのエサにし、そしてーー皆さんを犠牲にしようとしたんです!」
「皆さん…!めんなさい!どうか、この雄狩 芳子に裁きの投票を!」
「めんなさい…?」
「……。」
(なぜだろう…違和感が走る。)
「舞闘家 死しても仮面は取らず!寝る時だって面は外しませんよ!そして面に合わせた服装をする!常識です!雄狩 芳子は男装の麗人なんですよ!」
(数日前に、雄狩は寝る前の話をしていた。まだ、コロシアイが始まっていなかった時だ。)
(……犯行時に面を被っていたら、顔を引っ掻かれることはない。)
(それなら…犯行時、雄狩は面を外していたということ?)
(ふと、”前回”の記憶が蘇る。”前回”、2回目の事件で星は東条に溺死させられた。3回目は…4回目は…5、回目…は……。)
(思い出すと…胸がジクジク痛む。)
(ーーそうだ。今回の事件は…あの5回目の事件と、モノクマファイルの書き方が違った。)
(いつもより、明らかに足りないモノクマファイルの情報。それでも、”前回”の5回目の事件では記載があった情報。今回と違う、”前回”の情報は…)
1. 殺人にプレス機が使われた
「春川さん、どうしましたか!どうしましたか、春川さん!」
(少し黙っててほしい…。)
△back
(……今回、モノクマファイルの情報は明らかに足りなかった。死因も、名前も…”被害者は不明”とも書かれていなかった。)
(そこまで考えたところで、肩のキーボが こちらに耳打ちした。)
「春川さん。…なぜ、頭まで切り落としたんでしょうか。」
「犯人が被害者の左手に注目させたのは事実です。”内なる声”の言う通り…マジックのように消したかったものが他にあったのではないでしょうか?」
「……。」
(キーボが言って、また変な顔で黙り込んだ。)
(犯人が消したかったもの…隠したかったものは…。)
ブレインドライブ 開始
Q. 犯人が隠したかったものとは?
1. 左手
2. 頭と右手
3. モノパッド
Q. 死体の一部をピラニアに喰わせた理由は?
1. 被害者の顔が分からないようにするため
2. ピラニアが飢えていたため
3. 猟奇的な趣味があったため
Q. なぜ被害者の顔を隠した?
1. 死に顔がブサイクだったから
2. マジックのタネにしたかったから
3. 本当の被害者を隠すため
▼繋がった
「雄狩は…いつも面を付けている。それなら…引っ掻かれても顔に傷が付くことはないんじゃないの?」
「……!それは!犯行時は、さすがに…面を取っていまして…。」
「この事件の犯人は、左手にモノパッドを持たせて私たちをプールに誘導した。絵ノ本の研究教室には…行かせたくなかったんだよ。」
「研究教室に行かせたくなかったのは、被害者の頭や右手を隠したいから。顔はもちろん、利き手を見ただけで分かってしまうから。」
「何を言ってるんですか?春川さん?」
(そもそも…よく考えれば、おかしいことはあった。爪の部分は食い残されていたのに、水槽には残っているはずのものが残ってなかった。)
1. ピラニアのフン
2. ニャンコ帽子
3. 髪の毛
「急に何の話だい?冗談は肩の上だけにしてくれないかな?」
「肩の上…まさか、ボクのことですか!?」
△back
「ピラニア水槽の中には被害者の髪の毛がなかったよね。」
「アレス喰らー、ピラニアが全部 食べちゃったんだねー。」
「いえ、ピラニアが髪の毛を好んで食べるというデータはありません。爪や骨はもちろん、髪の毛も食べ残すはずです。」
「被害者の髪の毛が消えたということ?一体どこに…?」
「プールサイドだよ。プールサイドで燃やされた髪は、被害者の髪。カツラじゃなかったんだよ。」
「え?でも市ヶ谷さんって金髪だよね?プールサイドの燃えカスは真っ黒だったけど…焦げたってこと?」
(そうだ。そこから…間違っていた。)
「……なるほどのう。つまり、壱岐の研究教室からなくなったマネキンの髪の毛は…。」
「今、犯人が使っているってことね。」
「はあ?」
「どういうことだー!?」
「まさか、明智小五郎も驚きの変装術…なんてことは言わないだろうね?」
「えっと、春川さん…。さすがに、変装とかコスプレで他人に成り替わるなんてフィクションだけだよ。」
「だって、声とか変えられるわけないし…声帯模写って そんな万能なわけじゃなくてーー」
(”前回”、白銀はコスプレで全く別人になっていた。それは、ここがフィクションの舞台だから…できたことだろう。)
(犯人も それができる可能性があるけど…今回は、そんな才能はなくても良かったんだ。)
閃きアナグラム スタート
ん へ
い き
▼閃いた
「変声機だよ。犯人は、変声機を使って、被害者と入れ替わったんだ。」
「へ、変声機!?あの…小さくなっても頭脳は大人!迷宮なしの名探偵 御用達の…?」
「そんなものあるんか?」
「オーバーテクノロジー感も否めないけど、キーボーイやモノクマのこと考えると、頷けるね。」
「ボクとモノクマを並べるのはやめてくれませんか…。」
「本当に、変装で成り替わることができるっていうのかしら。」
「うん。変声機を作れる奴は…いるからね。」
▼真犯人は?
「春川さん。1回寝たら?膝枕してあげるから。」
(……!間違えないようにしよう…!!)
△back
「キミしかいません!」
「雄狩…。」
「ーーいや、市ヶ谷。あんたは、雄狩じゃなくて、市ヶ谷なんでしょ?」
「……!」
「は!?ま…まじか?」
「な、何を言うんです?雄狩 芳子は雄狩 芳子!被害者の市ヶ谷さんなワケないでしょう!」
「ヨシコはヨシコだー!確かに、いつもと声の出し方や歩き方の音が違うけど、ヨシコだー!」
「違うのか…。」
「いやいや!違うはずないでしょう!雄狩 芳子は雄狩 芳子なんですから!そんなの、かしいです!」
「かしい?…そういえば、この雄狩は変な言葉つこてんなぁ。『茶しばいて、ち着こう』とか『ちそう』とか『めんなさい』とか。」
「市ヶ谷さんは…逆に『お』や『ご』を多用してたわね。」
「たぶん、言葉遣いを正そうとして、変えなくていいところまで変えてしまったんだろうね。」
「市ケ谷は、被害者である雄狩に付けられた引っ掻き傷を隠すため、被害者と入れ替わったんだよ。」
「え…本当に?リアルで入れ替え殺人って可能なの…?た、確かに、2人とも ゆったり目の服だから気付かれにくくはあるだろうけど…。」
「市ケ谷さんと雄狩さんは体格もそう変わりませんからね。ただ、顔や利き手は ごまかせません。」
「だから、被害者の頭部と右手はピラニア水槽に入れたんだよ。」
「待ってください!市ケ谷さんを…故人を悪く言うマネは許せませんよ!」
理論武装 開始
「犯人は、この雄狩 芳子!」
「雄狩 芳子が、市ケ谷さんにドアを開けてもらい個室に侵入して殺害しようとしたものの…」
「反撃にあって逃げられ、絵ノ本さんの研究教室まで行って撲殺したんです!」
「そして、現場を分かりにくくするため、他の人に罪を被せるため、死体をバラバラにしたんです…。」
「だっておかしいでしょう?雄狩 芳子は快眠快便が基本です!もし市ケ谷さんが部屋を訪ねてくれても寝ていたら開けられません!」
「市ケ谷さんが犯人なら、どうやって雄狩 芳子の部屋に入ったと言うんですか!」
○ドア △入れ ×の ◻︎替え
「市ケ谷…あんたは、ドアを入れ替えたんじゃないの。」
「ドアの入れ替え?」
「そっか。それなら、市ケ谷さんが持っている鍵で、普通に入れるんだね。」
「そういえば、宿舎の修理が終わって部屋に入る時、ヨシコの部屋の鍵は掛かってなかったらしいぞー!」
「なるほどね。だから鍵が違うことに雄狩さんも気付かず、そのまま中から鍵を掛けたということね。」
「本物の雄狩さんが持っていた鍵は、今の市ヶ谷さんのドアの鍵。ですが、おそらく、服を交換する時に鍵も交換するのを忘れていたのでしょう。」
「あの死体が持っていた鍵は…確かに市ヶ谷のものだったが、今は雄狩の部屋の鍵ってことか。」
「……ッ!そ、そんなはず、は!」
「……。」
「……春川さん。もう1度 事件を振り返っておきましょう。そうすれば…終わるはずです。」
「……分かった。」
クライマックス推理
「事件のきっかけは、宿舎の火事。」
「宿舎での火事の後、犯人は修繕を手伝うと言って、ある細工をした。」
「ドアとドアの入れ替え…犯人は自分の部屋のドアと雄狩さんの部屋のドアを入れ替えて修理していたんです。」
「夜時間、犯人は自分の個室の鍵を使って雄狩の部屋に侵入し、眠る雄狩を殺害しようとした。」
「けれど、犯人は雄狩に抵抗されて顔にケガを負った。そしてそのまま、校舎まで逃げ出した。”超高校級の絵本作家”の研究教室まで…ね。」
「しかし、雄狩さんは他の人を起こそうともせず、犯人の後を1人で追ってしまいました。慌てた犯人は、追って来た彼女を…今度こそ撲殺した。」
「犯人は かなり焦ったはずだよ。だって、顔に傷があれば、犯人候補として真っ先に上がってしまう。」
「そこで…犯人は恐ろしい考えを実行しました。雄狩さんに成りすまし、自分が死んだと偽装するということです。」
「まず、”超高校級の暗殺者”の研究教室にあったナタで首と腕を切断し、ピラニア水槽に投げ込んだ。ピラニアに喰わせて証拠隠滅を図ったんだよ。」
「おそらく、水槽に入れる前に雄狩さんの髪を切るか剃るかしたんでしょう。しかし、その1本が水槽に落ちたことに、犯人は気付きませんでした。」
「そして、火災報知器が鳴らないプールで雄狩さんの髪の毛を焼き、左腕と自分のモノパッドを置いておいたんです。」
「その後、死体と服を取り替えて 面とウィッグを被り、変声機を使って声を変えて雄狩と入れ替わった。」
「けれど、犯人はミスを犯しました。部屋の鍵を服に入れたまま、服を取り替えてしまったことです。」
「ですから、被害者の死体が持っていた鍵は、今は交換された雄狩さんのドアの鍵で、犯人の部屋に使うことはできませんでした。」
「被害者と入れ替われば、面で顔の傷を隠すこともできるし、疑われても犯人の名前と一致しない。そう思ったんだろうね…。」
「この事件の本当の被害者は雄狩さん。そして、犯人は…“超高校級のDIYメーカー ” 市ヶ谷 保さん!キミです!」
「……。」
「………。」
「……。」
「市ケ谷、さん…。」
(雄狩の面を取り、彼女は顔を上げた。その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。)
(裁判場が静まり返る中、モノクマが楽しげに笑った。)
「うぷぷぷぷ。では、投票タイムといきましょうか!あ、投票放棄は今度こそ死が与えられますからね。ぼ〜っとしないこと!」
「………。」
「ほ、ほら…絵ノ本さん…。」
(モノクマが睨む先の絵ノ本に、エイ鮫が声を掛ける。)
(しばらくして、投票結果が集まり、モノクマが大げさに手を叩いた。)
学級裁判 閉廷
「またもや大正解!”超高校級の舞闘家” 雄狩 芳子さんを殺したクロは、”超高校級のDIYメーカー” 市ケ谷 保さんでしたー!」
「う…ううう…!ううう…。」
「市ケ谷さん、どうして?雄狩さんは、あなたを慕って…。」
「それだけ外に出たかったんだねー?」
「うぅううう…。うう…。」
「市ケ谷さん…。」
「あんたが雄狩を殺したのは…やっぱり、動機のせい?」
「うぅぅ…。」
「市ケ谷さん、答えてください。」
「……、そうだよ。それに…あの火事があって…やらなきゃって…思ったんだ。」
「……!」
「オレらの中に…放火したヤツがいる…オレらの中に…オレを殺そうとするヤツがいる…!」
「死ぬ前に、何とかしなきゃって思ったんだ!」
「わあ、ごめん!私の火遊びでハートに火が付くとは思ってなくて…。」
「それに……、そうだ…オレは…ご希望に会いたかったんだ…。」
「希望…?」
「最初に亡くなった…彼のこと?」
「ご希望に…もう1度…希望に会いたい!」
(市ケ谷は突然、叫びを上げる。)
「希望だ!希望!希望に会わせろ!希望を!!絶望に打ち勝つ希望を!!!」
「もー、今回はやけに希望厨が多いね?いやだなぁ。……まあ、ノイズは今からなくなりますので、皆さん ご安心を!」
「いやだ!いやだ!希望を見せてくれ!希望を!」
「”超高校級DIYメーカー” 市ヶ谷 保さんのために、スペシャルな おしおきを、用意しましたー!」
「希望を…!!」
(絶叫が、裁判場に響く。そしてーー)
「おしおきターイム!」
(モノクマが言った瞬間、市ケ谷の姿は消えた。)
おしおき
“超高校級のDIYメーカー” 市ケ谷 保の処刑執行
『Keep Working and You Explode.』
市ケ谷 保は、広い机に広がる部品を組み立てていた。分かりにくい説明書が傍に置かれている。白黒の図解のみ。もはや、どこの言語なのかも分からない説明文。
目の前の箱はカチカチと嫌な時計の音を響かせている。その音と連動して電子版が示していた「5:00」という数字は着々と その数を減らしている。
もしかしなくても、タイマー式の爆弾だ。
きっと、この説明書通り部品を組み立てて取り付ければ、起爆装置が止まるはず。
色もない説明書なのに、配線や部品は やたらカラフルだ。けれど、大丈夫。この手の爆弾は触ったことがある。
細々したパーツを組み合わせ、説明書通り時計の電子音を鳴らす箱に取り付けていく。その度に、『ピンポン』という正解を示す電子音が鳴った。
最後の部品を箱に取り付けると、『ピンポン』という音と共に時計の音は止まった。電子版を見れば、「0:05」の数字。
ーーやった。思ったよりも時間が掛かったけれど、とにかく、やった。
きっと隣の駅の博士だったら、もっと早く止められた。
ーーロボット工学の権威である、飯田橋博士なら。
そう思った瞬間、衝撃を喰らって後ろに身体が倒れたのを感じた。顔が熱い。全身が動かない。痛い。熱い。苦しい。怖い。
悲鳴を上げたいのに、声が出ない。血が吹き出る身体を抑えたいのに、腕がない。
薄れゆく意識の中で、自分は爆弾を解除したのではなく、作ったのだと、自覚した。
…………
……
…
「……。」
(爆発音の後、裁判場は再び静けさを取り戻した。)
(私は…何をしてるんだろう。コロシアイを終わらせるどころか…きっかけを作って…。)
(5人も死んでいるのに…首謀者も、コロシアイを終わらせる方法も見つけられず…。)
「オマエラの地獄の道は、まだまだ続きそうだね。天に開く世界の狭間を見られる日は来るでしょうか?」
(モノクマが嫌味たっぷりに笑うのが、私の耳を通り過ぎていった。)
第2章 限りない地獄、まだ見えぬ天国 完
第3章へ続く