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第5章 AIと静春と旅立ち 学級裁判編Ⅲ

 

(羽成田クンは、苦々しい顔をして黙り込んだまま。ボク達も、何を言っていいか分からず、裁判場は静かだった。そんな中、口を開いたのは…)

 

「…そんなこと、ないよ。」

 

「あ?」

 

「羽成田君は、話すべきだよ!このコロシアイは、首謀者を見つければ終わるんだもん!ううん、首謀者を見つけなきゃ…コロシアイが ずっと続く…」

 

「……。」

 

「それなら、この裁判で首謀者を見つければいいんだよ。みんなの情報を集めて、考えて、終わらせるんだよ!」

 

「……。」

 

「テメーらのことなんて信じられるかよ。」

 

「視野を広く持つ方が良い。ここで僕は学んだよ。グローバルかつマルチサイドなパースペクティブが必要だ。」

 

「…意味を分かって使っていますか?」

 

「前回の裁判でだって…無理だったじゃねーか。首謀者は隠れてんだろ。裁判で引っ張り出すなんて…できねーんだ。」

 

「オレはテメーらを信じねー。その方が、楽だ…。」

 

(羽成田クンが言って、視線を落とす。しばらく、また裁判場は静寂に包まれ…)

 

 

「……あんたは、信じて…裏切られた…。だから、そう思うんだね。」

 

(不意に、春川さんが静かな声を放った。)

 

「あいつを…和戸を信じた あんたは…裏切られたと思って…傷付いたんだね。」

 

「…やめろ。」

 

「1度 裏切られた奴は…人を信じるのが難しくなる。」

 

「やめろ!!」

 

「でも…信じるのも疑うのも、自分の責任だよ。信じた奴に裏切られたなら…それは…」

 

「やめろって、言ってんだろ!!」

 

(羽成田クンが悲鳴まじりの声を上げた。見ると、彼は目から涙を零していた。)

 

「分かってんだよ!ンなことは!!信じたのは、オレだ!オレの、責任だ!!」

 

「オレが信じたからだ…!…まるで、信じきってたから、あいつを…新始を止められ…なかった。」

 

「羽成田君…。」

 

「オレだったら…止められた…。だから…コロシアイが始まったのは、オレの責任だ。」

 

「だから、疑い続けたんだよ。テメーらのことも…。」

 

「これまでの君の言動は…そのため…か。」

 

(そういえば、和戸クンは言ってましたね。)

 

 

「『目の前の人を信じるために疑う』という心づもりがいいんじゃないかな。」

 

 

「ハッ…。テメーらを…オレは最後まで信じられねー。人を信じるなんて気持ち…忘れちまったからな。」

 

「羽成田。あんたが和戸を信じたのは、間違いでも何でもないよ。信じたいものを信じる…それは、普通のことなんだから。」

 

「そ、そうだよ!わたしも、春川さんに『うさぎの好物はヤンニョムチキン』とか『時速80kmのカメがいた』とか言われたら信じちゃうもん!」

 

「…だから、そんなことは言わない。」

 

「う、うん。そうだよね。えっと、とにかく、羽成田君が悪いとか、そんなの絶対ないんだから!」

 

「責任感があるのは結構だが、あまり思い詰めすぎるのは体と頭皮に良くないよ。」

 

「……唐突にハゲの心配してんじゃねーよ。」

 

「あんたが私たちを信じないのは別にいい。ただ、情報は ちょうだい。死にたくなければ…ね。」

 

「…………。」

 

「……この世で…1番 有効な交渉手段だな。」

 

(ポツリと言って、羽成田クンが顔を上げる。その目には、もう涙はなかった。)

 

 

「いいぜ、オレの情報をテメーらに託す。けど、テメーらのことを信じたわけじゃねーぞ。勘違いすんなよ。」

 

「新手のツンデレかな?」

 

「綾小路君…ついに界隈の言葉も使い出したね。」

 

「それでは、羽成田クン。話してください。タマさんとキミの間に、何があったのかを。」

 

「ああ。」

 

 

「オレとタマは…今回、いわば協力関係にあった。」

 

「協力…関係…?」

 

「被害者のタマさんと羽成田君の協力関係とは、どういうことだい?」

 

「タマの計画への協力だ。その計画は、春川…テメーをクロにして、モノクマに処刑させることだよ。」

 

「え!?ど、どういうこと?」

 

「……。」

 

「タマさんが、春川さんをクロに…?どうして、そんなことを?」

 

「…タマは、春川が首謀者だと言っていた。」

 

「え…。」

 

「ど、どういうこと?」

 

「春川さんの話によると、タマさんは首謀者を知っていたということですよね。どうしてそんなー…」

 

「オレが知るかよ。とにかく、あいつはオレにそう言ったんだ。」

 

「フム。確かに、春川さんの言動は前回の裁判から おかしかった。まあ…それはコロシアイ経験者だったから…らしいが。」

 

「春川さんの怪しさが首謀者だからとするのは飛躍していないかい?」

 

「春川。図書室の隠し扉…あれは嘘だったんだろ。」

 

「え?そ、そうなんですか?」

 

「……和戸と私が、今回 見つけたっていうのは…嘘だよ。でも、”前回”のコロシアイでは、本当に あそこに隠し扉があった。」

 

「あいつは、その嘘を見抜いてた。」

 

 

「隠し扉に気付いたって言ってたけど、本当だと思う?実際、隠し扉はなかったのに、前の裁判で あんなこと言うなんてさ。」

 

「あ?首謀者ってのが隠し扉を使えねーようにしたんじゃねーのか?」

 

「ううん。ハルマキちゃんが隠し扉だって言った本棚には、本が積まれてたよね?あれが本当に動く棚なら、あんな風に本は積んだままになってないよ。」

 

「私は初日に図書室も見たけど、あの本棚は初日から あんな風に本が積まれてた。ハルマキちゃんがワトシン君と棚を動かしたなんて嘘っぱちだよ。」

 

「……何で、そんな嘘つく必要があんだよ。」

 

「それは…ハルマキちゃんが、このコロシアイの首謀者だからじゃないかな?」

 

「春川が…首謀者だぁ?テメーは前の裁判で、春川を信じるとか何とか言ってたじゃねーか。」

 

「もちろん嘘だよ。ハルマキちゃんの行動は、だいたいが首謀者側だからってことで説明が付くからね。」

 

「2回目の裁判前の火事。あれは、文字通りコロシアイに火を付けたかったから。」

 

「何でだよ?首謀者はコロシアイをさせたいはずだろ。下手したら全滅する火事なんざ…」

 

「結果、全滅しなかった。そして…疑心暗鬼に陥ったイチモツちゃんが、死体を切り刻んで入れ替わるなんて事件を起こしたよね?」

 

「……最初の事件の前は…どうなんだよ。春川は、モノクマの動機とは反対のことを言ってたんだぞ。」

 

「タイムリミットについて?タイムリミットなんて嘘だから、コロシアイになんて乗らなくていい。あれ、本心だったのかな?」

 

「みんなには そう言っておいて、ワトシン君を焚き付けてた可能性はあるよね?彼女は、ずっと彼と一緒だったし。」

 

「……。」

 

「春川は、動機の”謎のカードキー”を壊してたぞ。」

 

「それも簡単。私とハネゾラちゃんがハルマキちゃんを怪しんでることに気付いて、あえて首謀者の存在を主張したり、動機を壊したりした。」

 

「ハルマキちゃんがカードを壊したから、結局 雪に覆われた学園が動機になったし、首謀者の存在を仄めかせば、疑心暗鬼の雰囲気を作れるでしょ。」

 

 

「オレが見てきた限り、タマは、春川を ずっと疑ってたんだよ。」

 

「ずっと…ですか?」

 

「ああ。それこそ、最初の…新始が事件を起こす前からな。」

 

「えっと…羽成田君も、ずっと それを知ってたの?」

 

「オレがタマの考えを初めて聞いたのは、2回目の裁判が終わった後だ。オレが春川の動機ビデオを見た後だな。」

 

「春川さんの動機ビデオ…。」

 

「オレがタマと最初に取引したのは…テメーの情報についてだよ。春川…。」

 

「……私の?」

 

「春川の動機ビデオを見た後、タマが取引を持ちかけてきた。『宿舎の火事の真相と、本当の”超高校級の暗殺者”を教える』ってな。」

 

「取引…キミはタマさんに春川さんの情報を渡したということですよね?」

 

「ああ。あいつは、その情報の代わりに、『春川の動機ビデオの内容を教えろ』って言ってきたんだ。」

 

「えっ?思い出しライトの内容じゃなくて?」

 

「ああ。それで…あいつは言った。『春川は暗殺者なのに、動機ビデオが保育士になってるのは おかしい』ってな。」

 

「…なるほどね。資本主義と社会主義的なグループに別れた時、僕らは羽成田君に思い出しライトを使わせてもらった。」

 

「既に取引したと言っていたタマさんも、ライトの内容について、初見の反応だったから、少し不思議だったんだ。実際、初見だったんだね。」

 

「それにしても、そんなに前から君たちはアライアンスパートナーだったのかい?そうは見えなかったが…。」

 

「いや…オレはタマのことも信じちゃいなかった。あいつの言動はワケ分からなかったしな。」

 

「あいつも、春川ほど怪しくねーってだけでオレのことなんざ信じてなかったんだろうよ。」

 

 

「そういえば、思い出しライトって、どんな内容だったの?そこから首謀者を見つけ出せないかな?」

 

「……思い出しライトは、”前回”もコロシアイの中で使われてたよ。でも…全部、無意味な……、だったよ。」

 

「嘘…だと?」

 

「……そう。全部、嘘。」

 

「な…んだよ。そうか…。」

 

(羽成田クンの表情が変わった。顔全体の筋肉から力が抜けたような、そんな表情に。)

 

「どうしたんだい?心底 安堵したような顔をして。確かに”超高校級狩り”や”僕らの葬式”なんて、変な記憶だったけれど。」

 

「……いや。オレは もう1つ、思い出してるんだ。」

 

「おや?資本主義的グループの時、最初の思い出しライトと2つ目のライトを使ったから情報量は同じはずだよ。」

 

「えーと…雪の中、春川さんと大場さんが見つけた思い出しライトは、結局 使えなかったよね?」

 

「そうだね。私が壊したから。」

 

「……やっぱりテメーが壊してたか。」

 

「春川が その思い出しライトを壊した日…あの次の日、オレの研究教室に置いてあったんだよ。食料と一緒に…思い出しライトがな。」

 

「ちなみに、その思い出しライトの内容は何だったんだい?」

 

地球は謎の隕石郡や未知のウイルスによって壊滅…。それから、人類の保存のため、才能ある男女が宇宙船に乗せられたって記憶だよ。」

 

「そーそー。せっかく絶望映像 見せたげたのに、クロになるでも他の人に見せるでもなくっていうサボり方してたからガッカリだったよ。」

 

「…うるせーぞ。入ってくんな。」

 

「えーと…なんか、壮大だね?フィクションなら、よくある話…かな?」

 

「エイ鮫の研究教室のコンピューターにも、それに関するデータがあった。ゴフェル計画とかいう…計画書のデータがな。」

 

「あ、羽成田君が1人で わたしの研究教室にいた時…?」

 

「……そんなデータ…全く意味ないよ。」

 

「なるほど、全て嘘。そうなんですね、春川さん。」

 

「……そうだよ。」

 

「…春川さん?どうかした?」

 

「何でもない。」

 

 

「では、羽成田クン。キミは、その思い出しライトを使い、外の世界に出て、それを確かめようとした。そういうことですか?」

 

「そのために、タマさんを…?」

 

「ちげーよ!オレは、暴力だけは許すなって言われて育ってんだ!」

 

「……。」

 

「いや…それも…破っちまったな。オレが突き飛ばしたせいで、タマは死んだ。」

 

「…フム。昨日のことについて、詳しく話してくれるかな?」

 

「昨日、タマはオレの部屋を訪ねてきた。そこで、首謀者である春川をクロにするって話したんだ。」

 

「最初は乗る気はなかった。だが…タマは、オレに交換条件を申し出てきたんだよ。」

 

「タマさんは、羽成田君が侵されていた毒の解毒剤を持っていた…か。」

 

「オレはエグイサルの中にいればいいとだけ言われた。そして、春川がタマを撃ったら、エグイサルを操縦してシャッターを閉めろってな。」

 

「で、でも、それって…春川さんにタマさんを殺させる作戦だよね?」

 

「止めようとは…しなかったんですか?」

 

「…止めねーよ。タマが言うことが本当なら…オレの毒も消えるし、コロシアイも終わる。オレは言われた通り、22時半頃 格納庫に行ったんだ。」

 

「そして…格納庫のエグイサルの中でタマが殺されるのを目撃する役割だった。」

 

「シャッターのセンサーが感知した22:32の人物は、羽成田君だったんだね。」

 

 

「……羽成田、タマは本当に…私を首謀者だと思ってたの?」

 

「……オレに作戦を話した時は、そう言ってた。」

 

「それは…おかしいよ。」

 

「……ああ。」

 

「おかしいって…?」

 

「あいつは…私に、“自分が首謀者だ”って…そう言ったんだよ。」

 

「本当に私が首謀者だと思っていたら、そんなこと言わないはずだよ。」

 

「確かに、おかしいね。」

 

「分からねぇ…。だから…オレは……エグイサルでシャッターを閉めた後…あいつに問いただした。」

 

 

「シャッター…ありがとう。ハネゾラちゃん。いたた…」

 

「…どういうこった。お前が…このコロシアイの首謀者なのか?」

 

「あれ?私たちの話…聞いてたの?おかしいな…外の音声は聞こえないようになってたはず…なのに。」

 

「パイロットって初めての機械も操作できちゃうんだね!っ、…とにかく…次のクロ…ハルマキちゃんだから…。」

 

「うるせぇ!テメーが首謀者かって聞いてんだ!春川が首謀者っつーのは嘘だったのか!?」

 

「……ハネゾラちゃん…そうでも言わないと…協力してくれなかったでしょ…?」

 

「……ッ!クソ……とにかく、薬を寄越しやがれ!」

 

「オレは!こんなとこで死んでる場合じゃねーんだ!外に出て、ジジイとババアの無事を確認しなきゃなんねぇ!」

 

「……!」

 

 

「オレは…夢中で…あいつを突き飛ばしちまった。…タマは勢いよく…後ろに倒れて…動かなくなった。」

 

「それで、オレは…そのまま逃げたんだ。もう1度、エグイサルに乗って…シャッターを開けてな。」

 

「現場にカメラがあったのには、格納庫 入る前から気付いてたから、カメラに映らねーようにした。」

 

「なるほどね。」

 

「本当のクロは…羽成田クンということに…なりますね。」

 

「……。」

 

 

「首謀者を見つければ…首謀者さえ見つけたら、いいんだよ!こんな裁判だって、終わるんだから!」

 

「……。」

 

「どうやって首謀者を見つけるんだい?白銀 つむぎ…だったか、この場に首謀者を引きずり出すなんて…」

 

「モノクマが言ってた…首謀者の協力者だよ。」

 

(春川さんが、静かな声で言った。)

 

「タマは、私に自分が首謀者だと言った。でも、裁判は…なくならなかった。だから、私は…あいつが首謀者の協力者だと思ってた。」

 

「…テメーらは…どう思う?あいつは…タマは首謀者の手先だったのか?」

 

「タマさんは…春川さんが首謀者だと思ったから…春川さんをクロにしようとしてたんだよね?それなら…タマさんが首謀者の手先とは思えないよ。」

 

「しかし…タマさんは首謀者側でしか知り得ない情報を持っていたんですよね?」

 

「そう。白銀の名前と…私の本当の才能を知っていた。」

 

「タマさんの動機を考えると首謀者側とは思えない…けれど、タマさんが首謀者側だと考えると説明できることも多い…か。」

 

「わたしは…タマさんが首謀者側だったとは思えないよ…。」

 

「フム。ならば、首謀者の手先は僕ら生き残った参加者の中にいるということかい?」

 

「それは…。……それも…信じられないけど…。」

 

(どういうことでしょう。首謀者の手先は…タマさんだったのか、それとも…この中の誰かだったのか…。)

 

「…キーボ、”内なる声”は何か言ってないの?」

 

(”内なる声”は…春川さんの犯行を否定した後は何も言わない。)

 

(タマさんか今の生き残り…この中に首謀者の手先がいる。けれど、その人物を暴く材料がない。……当てずっぽうしか…ないんでしょうか。)

 

 

▼首謀者の手先とは?

 

 

 

「その人物は、今 議論しているコロシアイ”参加者”ではないはずだよ。」

 

「……ぐっ。」

 

 

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「……分かりません。」

 

「タマさんが首謀者側だったというのは納得できません。まあ、彼女の行動は ずっと理解不能でしたが…。」

 

「けれど…キミ達の中に首謀者側の人間がいるとも考えられません。おかしな話ですが…考えたくありません。」

 

「キーボ君…。」

 

「あれれ?おかしいな?ロボットのくせに、合理的じゃないこと言ってるよ。」

 

「キミもロボットでしょう!」

 

「……ロボットごときも、人を信じるんだな。」

 

「羽成田クン!モノクマの言葉に賛成するなんてーー…」

 

「ハッ…。もういいよ。」

 

「えっ…」

 

「テメーらは生き残って、このコロシアイを終わらせんだろ。」

 

(羽成田クンが、静かな声を発した。)

 

 

「それでよ…外に出たら…。ジジイとババア…オレの祖父母の助けになってやってくれねーか。ジジイは結構 重い病気してんだけどよ。」

 

「テメーらを信じてねーとか…色々言ったのにムシがいいけどよ。」

 

「……もしかして、羽成田君がお金 欲しかったのって…。」

 

(羽成田クンが目を伏せた。)

 

「……。」

 

「……分かったよ。必ず。」

 

「…羽成田クン。任せてください。」

 

「…頼んだぜ。モノクマ、投票を……」

 

(モノクマに言葉を投げかける羽成田クン。)

 

 

(けれど、それは唐突に遮えられた。)

 

「待って。」

 

「まだ、裁判は終われないはずだよ。」

 

「エイ鮫さん…どうしたんですか?」

 

「今回…タマさんは、たぶん…みんなの反応を見て、首謀者や首謀者の手先を炙り出そうとしたんだよ。」

 

「それはタマさんが首謀者側ではないことを前提にした話だけど…聞こうか。」

 

「羽成田君には春川さんが首謀者だと言って、綾小路君には首謀者を見つけるためだと言って、春川さんには…自分が首謀者だと言って…」

 

「このコロシアイの参加者みんなを巻き込んで、反応を見て、本当の黒幕を探そうとしてたんじゃないのかな?」

 

「ねえ、春川さん。どうかな?」

 

(エイ鮫さんが、真っ直ぐ こちらを…春川さんを見て言った。)

 

「…………。」

 

「……。」

 

 

(…エイ鮫の目は、決意に満ちている。私の肩のキーボが、まるで人間のように息を呑む音が聞こえた。)

 

「ねぇ、春川さん。私は…あなたに、答えてほしい。本当に、現場に入ったのは羽成田君だけだったのかな?」

 

「……羽成田。現場を出たのは…何時だったの?」

 

「慌ててたから正確じゃねーが…11時頃だろうな。」

 

「……。」

 

(私は目を閉じた。そして、頭の中に浮かんだ車のハンドルを握った。)

 

 

 

ブレインドライブ 開始

 

Q. これまでの証言と矛盾する現場の証拠は?

1.【死体の周辺】

2.【入り口センサーの記録】

3.【毒薬の痕跡】

 

Q. 入り口センサーに羽成田が記録されたのは?

1. 22:05と22:32

2. 23:03と23:45

3. 22:32と23:03

 

Q. 22:05と23:45の記録は誰のもの?

1. 第三者 2. 被害者 3. 羽成田

 

繋がった

 

 

 

「やっぱり…入り口センサーの記録は…おかしいよ。」

 

「そうですね。羽成田クンが中に入った記録は、22:32。出た記録が23:03。」

 

「僕と春川さんは格納庫の入り口は通ってないから、センサーに記録されることはないはずだ。」

 

「そして、タマさんも22時には格納庫内にいたから、彼女も記録されていない。さらに、タマさんが23:45に記録されることも、まずないだろうね。」

 

22:05

22:32 羽成田in

23:03 羽成田out

23:45

 

「つまり…夜時間の10時すぎに格納庫に入って、11時半に出た第三者がいるってことだよ。」

 

「はあ!?オレは格納庫にいたんだぞ!?そんなヤツは見てねー!」

 

トイレでしたら…格納庫内にいても知られることはないかもしれませんが…。」

 

「羽成田君、君が格納庫を出る前と後で、変わったことはあるかな?」

 

「……捜査時間、降りてたプレス機…オレがいた時は…上がってたな。」

 

「…毒矢を受けて、血も流していたタマがプレス機の操作をしたとは…思えない。」

 

「そうですね。それに、プレス機の操作スイッチ付近に血痕はありませんでした。」

 

「羽成田君がプレス機を降ろしたんじゃないなら、その第三者がプレス機を降ろしたってことだよね。」

 

「しかし、シャッターの記録だけでは、それが誰かを特定できないんじゃないかな?」

 

「……。」

 

「…ビデオカメラだ。」

 

「ビデオカメラ?」

 

「シャッターに向けて設置されていたカメラですか?」

 

「あれは…ずっと録画状態だったはずだ。遠目だったが、光が付いてた。けど現場のカメラには、10時すぎのタマがちょっと映ってたくらいだった。」

 

「ええ。不自然に映像が途切れていました。」

 

(ビデオカメラの映像は…格納庫にいた第三者によって隠ぺいされた。その方法は…)

 

 

 

閃きアナグラム スタート

                              ト

ミ                                       ン             

                                        グ                                       リ

 

閃いた

 

 

 

「ビデオカメラは、トリミングされてたんだね…。」

 

「不自然に映像が途切れていたのは…トリミングによるものですね。」

 

「……あのビデオカメラは ちと特殊みたいだった。再生するだけでも…手を焼いたほどで…。」

 

「……それは、つまり…」

 

「……。」

 

(…そうだ。)

 

(タマは、参加者全員を巻き込んで今回の事件を起こさせた。それなら…もう1人…。関係していないのは…おかしい。)

 

「……。」

 

 

▼現場にいた最後の1人とは?

 

 

 

「……。」

 

「どうしたの?春川さん。早く、教えてよ。」

 

 

back

 

 

 

 

「キミしかいません!」

 

エイ鮫…、あんた…。」

 

(私がエイ鮫を見ると、エイ鮫は口の端を持ち上げて笑った。)

 

「ごめんね、春川さん。黙ってて。首謀者を探すのに必死で…本当は犯人を知ってたのに、知らないフリしちゃってた。」

 

「どういうことだい?」

 

「羽成田君、あなたは真犯人じゃない。あなたが立ち去った後…まだタマさんは生きてたんだから。」

 

「…何を…。」

 

「羽成田君がいなくなった後、トイレに隠れてた わたしが…タマさんを殺したんだ。」

 

「ど、どういうことだ?」

 

「タマさんは弱ってたから…簡単だったよ。タマさんのハンカチで鼻と口を塞いで…。」

 

「そんなこと聞いてんじゃねーよ!」

 

「どうして…そんなことを…。」

 

「やだな。決まってるでしょ?クロになって、外に出るためだよ。」

 

「エイ…鮫…あんた、まさかーー…」

 

 

「ごめん、春川さん!わたし、どうしても外に出たかったんだ!ここネット繋がってないし!配信者としては致命的なの!」

 

(私の言葉を遮って、エイ鮫は まくし立てる。)

 

「羽成田君が出て行った後、タマさんを見て、チャンスだって思ったの!」

 

「だって『自分が殺した』って思ってる人がいたら、勝ち確でしょ?ワンナイト人狼と同じ!」

 

「怪盗が人狼と役職交換したら、『自分こそ人狼』と思ってる人は勝手に怪しくなってくれるんだよ!」

 

「……。」

 

「………。」

 

(体が…震える。これも…”前回”と同じ…?)

 

「…君が、そこまでして外に出たがってるようには…見えなかったけどね。」

 

「じゃ、わたしの演技の才能が開花したってことだね!」

 

(エイ鮫が高らかに言い放った。)

 

 

 

理論武装 開始

 

「わたしは、疑われたくなかったんだよ!」

 

「普段のわたしは、可愛い女の子が大好きな普通の地味な高校生!だから、その設定に忠実に演技してたんだ!」

 

「みんなを騙せたなら、上出来だよ!!」

 

「春川さんと羽成田君…どちらが疑われても、わたしは安全圏だったんだよ!」

 

 

「あわよくばコロシアイの首謀者を みんなで見つけたい…なんて思ったけど、それは魔界村以上の鬼畜ゲーだよね!」

 

「ほら、今まで非協力的だった羽成田君も死ぬ気になれば、首謀者探しに協力してくれると思って!」

 

「気分はカテキョーヒットマンだったよ!!」

 

「だから、わたしがタマさんを殺した理由なんて…外に出たかったからだけなんだよ!」

 

 ○春川を △しない ×ため ◻︎クロに 

 

これで終わりだよ

 

 

 

「……。」

 

私のため…だったんじゃないの?」

 

「何…言ってるの?」

 

「あんたは…このままだと私がクロになるって…そう思ったんじゃないの?」

 

「やだな。わたしはタマさんを殺すためにトイレに隠れてただけだよ。」

 

「いや…タマさんは22時前には格納庫のシャッターを下ろしていた。彼女に見つからないように22時以降に格納庫のトイレに入ることはできないよ。」

 

「あのカメラは…シャッターの正面を捉えていた。だが、ビデオに春川の姿は映ってなかったな…。」

 

「春川さんを…クロにさせないために…?」

 

「……。」

 

「エイ鮫。」

 

 

「……。」

 

「…違うんだよ。」

 

「春川さんを助けたいとか…そんな立派な考えじゃない。わたしが彼女を…タマさんを殺した理由は…彼女と…タマさんと一緒だよ。」

 

「タマさんと…一緒?」

 

「彼女は多分…真実が知りたかったんだよ。」

 

「真実?」

 

「そう。今まで、みんな…死の直前に、記憶を取り戻してたでしょ?」

 

「記憶を取り戻していた…?」

 

「そうか…。麻里亜君も、壱岐さんも、市ヶ谷さんも、和戸君も…様子が おかしかった。」

 

「あれが、何かを思い出してたからだってのか?」

 

「うん。タマさんは、そう言ってたよ。」

 

「死ぬ前に本当のことを思い出すなら…わたしも、前回のコロシアイを知る春川さんと、同じ場所に立てると思ったんだ。」

 

「……。」

 

「だから、春川さんのためとかじゃないんだからね。勘違いしないでよね!」

 

「ツンデレのテンプレートを今、言われても。」

 

 

「わたしね、ずっと格納庫のトイレにいたんだ。タマさんに夜時間になったらカメラと音楽媒体とヘッドホンを持って来てって言われてたから。」

 

「わたしが、格納庫にカメラをセットしたの。あのカメラは ちょっと特殊だから、音声を拾わないんだけどね。」

 

「オレ達の会話は…聞いてなかったのか。」

 

「うん。わたしは、ずっとトイレでヘッドホン付けて音楽を聴いてたんだ。首謀者について重要な映像を撮る…タマさんに、そう言われたから。」

 

「音楽が終わるまではトイレを出ない約束で…外の様子は全然 分からなかったんだけどね。」

 

「だから、驚いたよ。外に出たら、タマさん倒れてるんだもん。矢が腕に刺さってるし…頭から血が出てるし…。」

 

「……。」

 

 

「タマさん!?どうしたの!?何で!?」

 

「ハル、マキちゃん…」

 

「!?」

 

「このクロスボウの矢…毒、塗られてる…。次の…クロ…、ハルマキ…ちゃ」

 

「嘘だよ!春川さんが、そんなことするはずない!それより、その毒どうにかできないの!?」

 

「……ハル、マキちゃんは……ただの、首謀者の…駒。首謀者のことは…知らない…。」

 

「な、にを…言って…?ううん、そんなこと今はいいよ!タマさん、毒の解毒剤とかないの?暗殺者の研究教室とかにあるんじゃないの!?」

 

「……ないよ。」

 

 

「…でも、解毒剤はあったんだね。それなら、羽成田君に少し分けてもらったり…サンタの研究教室で探せば良かった…。」

 

「……。」

 

「彼女は死んで、真実を知るために解毒薬の存在を隠したの…か…?」

 

「…たぶん。」

 

「タマさんは春川さんが首謀者側だと言ったんですか?それなら…タマさんは首謀者側とは考えにくいですね。」

 

「…うん。それに、彼女は…こうも言ってた。」

 

 

「……そう。処刑の前に、みん…な、記憶を取り戻した…死ぬ前、思い…出す…私は……それ、知りたい…ど、しても…。」

 

「……。」

 

「……そう…だ、この、コロシアイ…それはーー」

 

 

「……。」

 

「『白銀 つむぎが望んだもの』。タマさんは、そう言ってたよ。それが、最期の…彼女の言葉。」

 

「だから…わたしは、首謀者を探さなきゃって…そう思ったんだよね。」

 

「でも…設置したビデオカメラ確認しても、クロスボウを構えた春川さんしか映ってないし…。」

 

「あのエグイサルはカメラの死角にあったんですね。」

 

「それで…ビデオカメラの映像をトリミングしたんだな。春川に…疑いの目を向けさせないために。」

 

「タマさんに刺さった矢を抜いて、タマさんが持っていた毒の瓶と一緒にプレス機で潰したのもキミか。」

 

「うん。色んなものをプレス機で潰す動画は、撮ったことあったからね。コードも使えないようにしたのに、モノクマが直すとは思ってなかったよ。」

 

「……。」

 

「しかし…タマさんも首謀者の名を明らかにしたのか…。」

 

「白銀…。」

 

(改めて その名を聞いて、胃が掴まれたような気分になった。)

 

(このコロシアイも…あいつの手のひらの上だった。あいつのせいで、大勢 死んだ。それは…これからも。)

 

(コロシアイを潰す。今なら…できるかもしれない。)

 

この裁判の投票で…視聴者が望まない結果を…。)

 

「投票で…ずっと続くコロシアイ…終わらせられるかもしれないって言ったら、あんた達は…どうする?」

 

「そんな方法があるのか!?」

 

「それは一体…」

 

 

「ダメだよ。春川さん。」

 

「……!」

 

「何となく…分かったよ。春川さんが火事を起こした理由。このコロシアイを見てる人がいるなら…それが1番つまらない展開だもんね。」

 

「でも、春川さん。わたしが今、記憶を思い出せば、コロシアイを終わらせる情報を残せるかもしれないんだよ。」

 

「最善策が何なのか…あなたなら、分かるはずだよね?」

 

「……。」

 

「春川さん、最後に、いつものお願いできるかな?それで、わたしを納得させてよ。」

 

「そして…記憶を思い出すっていう、わたしの願いを…叶えて。」

 

「…春川さん。」

 

「……分かった。」

 

 

 

クライマックス推理

 

「事件が起こったのは、昨日の夜。タマさんは、首謀者の存在を確かめるため、全員に何らかの揺さぶりを掛けていました。」

 

「綾小路にはクロスボウを持って来るように言い、羽成田には『首謀者を暴くから』とエグイサルの中で待機するように言った。」

 

「そして…私に、首謀者からの手紙を出した。」

 

「首謀者からの手紙を受け取った春川さんは格納庫へ急ぎました。クロスボウと矢を持って。」

 

「…タマは私が武器を持たないで来ることも想定して、綾小路にクロスボウを持って来させたんだろうけど…その心配はいらなかった。」

 

「私は…タマが首謀者だという言葉に騙されて…クロスボウの矢を射った…。」

 

「もちろん、春川さんは急所を狙いませんでしたが、その矢には、タマさん自身の手で毒が塗られていました。」

 

「それを見ていた羽成田は、エグイサルを操作して格納庫のシャッターを閉めた。複雑な機械に慣れていた羽成田は、私たちの会話も聞いていた。」

 

「タマさんが首謀者だという話を聞いた彼は、タマさんに詰め寄りました。前回の事件で毒を吸っていたため、余裕もなかったのでしょう。」

 

「タマさんの持つ解毒薬を奪う際、勢い余ってタマさんを突き飛ばし…タマさんは後頭部を打って動かなくなりました。」

 

「それを見て、羽成田はタマを殺したと思い込み、現場から立ち去った。」

 

「しかし、羽成田クンが現場に来る前から、タマさんに呼び出されていた人物がいました。現場にカメラを取り付けた犯人です。」

 

「外の音は一切 聞こえていなかったけれど、犯人は…ずっとトイレにいた。ヘッドホンで音楽を聴いて、音楽が終わったら外に出ろと言われて…。」

 

「トイレの外に出た犯人は驚きました。タマさんが倒れていたからです。彼女の言葉を聞いた犯人は、このままでは春川さんがクロになると知り……」

 

「タマのハンカチで…タマの口と鼻を塞いだ…。ただでさえ毒で呼吸が難しかったタマは…それで、窒息死した。」

 

「その後…犯人は、私がクロである証拠となる毒薬の瓶やクロスボウの矢をプレス機で潰し、ビデオカメラの映像をトリミングした。」

 

「この事件の犯人は…キミです…。“超高校級のVチューバー” エイ鮫 理央さん。」

 

 

 

「ありがとう。春川さん、キーボ君。」

 

「エイ鮫…。」

 

「……クソッ。」

 

(全員が苦い顔で、笑顔のエイ鮫を見ていた。やがて、モノクマが投票を指示して、私たちは投票画面に向き直った。)

 

(投票放棄は…選べなかった。)

 

 

 

学級裁判 閉廷

 

「正解正解だいせいかーい!タマ=アミール・ナオルさんを殺したクロは、”超高校級のVチューバー” エイ鮫 理央さんでしたー!」

 

「……。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「みんな、そんな顔しないでよ。わたしがタマさんを殺しちゃったのは…わたしが許されないことをしたのは、事実だよ。」

 

「わたしも…思い出したかったから…。それだけのために、彼女を苦しめたんだ…。」

 

「亡くなった時は…とても苦しそうな顔…してた。前回の…大場さんみたいに…。」

 

「……君が死体の状態を整えたんだね。」

 

「……。」

 

「……。」

 

(エイ鮫に、何かを言いたかった。言いたいのに、上手く言葉が出ない。そこで、ふと、エイ鮫の瞳が暗く染まる。)

 

 

「……。」

 

「……あはは、本当に…死ぬ前に、思い出すんだね。」

 

「何?何を…思い出したの!?」

 

このコロシアイの意味…だよ。」

 

「コロシアイの意味…。」

 

「おかしいと思わない?『ダンガンロンパ』が同じ舞台、同じ設定でコロシアイをさせるのかな?」

 

「……!」

 

「動機も同じなんて、視聴者様が怒り出すよ。」

 

「視聴者…?本当に、このコロシアイは見世物だったってことか?」

 

「……。」

 

「それに…天海君。」

 

「……!?」

 

「彼には、52回目の記憶がなかったんでしょ?何で春川さんには記憶があるのかな?前の黒幕、そんなに”強くてニューゲーム”好きそうだった?」

 

「どういうこと?エイ鮫…私は、”前回”の参加者…天海の名前は、あんたに言ってない。」

 

(私の問いに、エイ鮫は薄く笑って「思い出しちゃった」と言った。首に掛けたペンダントを握りながら。)

 

「わたしね…天海君が、好きだったんだ。」

 

(頰を赤くして、彼女は笑う。どこかで見たような、笑顔で。)

 

 

「……あんたは…誰、なの?」

 

「…言えないよ。だって、言ったら…春川さんは絶対、わたしを嫌いになる。」

 

「何で…?教えてよ、コロシアイを…終わらせるために…!」

 

「それでは、お楽しみの時間と参りましょう!”超高校級のVチューバー” エイ鮫 理央さんのために、スペシャルな おしおきを、用意しましたー!」

 

「バイバイ、春川さん。大好きだよ。」

 

(涙を浮かべたエイ鮫が微笑む。その首に首輪が はめられーー…)

 

「エイ…!」

 

(エイ鮫は首輪に引っ張られて裁判場から連れ去られた。)

 

(伸ばした手は、またしても虚空を掴んで届かなかった。)

 

 

 

おしおき

 

“超高校級のVチューバー” エイ鮫 理央の処刑執行

『視聴率調査』

 

エイ鮫 理央は、舞台の上に立っている。舞台脇には、20までの数字を縦に並べたライト。その下には、『視聴率』と書かれている。

視聴率というより、昔の仮装大賞の得点みたいだけど。Vチューバー的には、『再生回数』とか『いいね!』じゃない?

舞台上のめくりのお題がめくられる。『ドマイナーVアイドルの歌 歌ってみた』

音楽が流れ出し、慌ててマイクを取る。この歌は何度も歌ったことがある。けれど難しい曲だ。『視聴率』のライトが「ポッポッ」と音を立てながら付いていく。合格ラインを示す15まで、あと少し。けれど、14のライトが点いて、その勢いは止まった。

モノクマが「もっとあげてちょ〜だいよ〜う、ホラ、子供 泣いちゃってるよぉ〜?」と訴える。すると、止まったライトが16まで点いた。

ーーだから、仮装大賞かっての。

 

視界が暗転し、舞台は次の瞬間にはキッチンスタジオに姿を変えていた。舞台上のめくりには、『魚の三枚下ろし やってみた』。いつの間にか、自身は水着にエプロンという出で立ちで。

どうやら、チューバーについて大いなる誤解がありそうだ。確かに、ちょっとしたエログロは昔のテレビ番組なら視聴率を稼ぐに便利だったかもしれないけど、Uチューブでは下手すれば垢BANだ。

とりあえず、クッキングシュミレータで三枚下ろしは経験済みだから、分かりやすい角度で魚を捌いた。エプロンで隠れた水着が絶妙に”着てないように”見える角度で魚を見せれば、視聴率とやらは難なく合格ラインを超えた。

 

次のめくりには、『脱出できなければ即死亡の脱出ゲームやってみた』の文字。いつの間にかキッチンは消え、暗い部屋に押し込まれていた。

開かない扉。頭上からは天井がゆっくり落ちてくる。脱出できなければプレスされてペタンココースか…。

わたし、脱出ゲームは苦手なんだよなぁ。自力で脱出できた試しはない。”あの人”も、そんなこと言ってたっけ。

扉をガチャガチャしたり、部屋に雑然と置かれたものを調べていても、脱出の手掛かりは見つからない。視聴率を示す数字はどんどん下がっていく。それに比例するように、天井はわたしに近付いてくる。

 

『視聴率』の数字が1から0へ。それと共に、天井が勢い良く落ちてきた。その一瞬で、視聴率が20まで上がるのが見えた。

…やっぱり、視聴率を稼ぐならグロなんだなぁ。

だから、『ダンガンロンパ』も人気があるんだもんね。

 

『ダンガンロンパ』。白銀 つむぎ。

ーーどうして、わたしは…大事な名前を、今まで忘れていたんだろう。

 

 

(グシャリという音と共に、落ちた天井から飛び散る鮮血が映し出された。)

 

(おしおきを映す映像に、私は言葉も出せずにいた。)

 

「クソッ…何でだ…。何で、こんな…。」

 

「……このコロシアイは見世物…そして、このコロシアイが終わっても…僕らは また新たなコロシアイに参加させられるのかもしれない…か。」

 

「…首謀者を…白銀 つむぎを見つけましょう。そうすれば…こんなコロシアイは終わるでしょう。」

 

(キーボが決意を込めた瞳を こちらに向けた。その目に、見覚えがある。”前回”の、最後の裁判で…この目を見た。)

 

(このコロシアイは…白銀 つむぎが望んだもの。タマは…それを最後に思い出した。)

 

(やっぱり…あいつが全ての元凶。)

 

(今度こそ…『ダンガンロンパ』を…終わらせなきゃ…。)

 

 

 

第5章 AIと静春と旅立ち 完

第6章へ続く

 

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「第5章 AIと静春と旅立ち 学級裁判編Ⅲ【ダンガンロンパV4if/創作ダンガンロンパ/創作論破】danganronpa」への2件のフィードバック

  1. えっえっええええぇぇ!?
    エイ鮫ちゃん、イラスト的につむつむっぽいけどキャラ的に違うんだと思ってたのに…!しかもそのエイ鮫ちゃんも退場してしまったし……
    確実にヒントが揃ってきてるのにどういうことなのか分からない今の状態がもどかしいけどとっても面白いです!
    推理力皆無の私では的外れな予想しか出来なさそうなので、大人しく今までのお話を振り返りながらドキドキワクワク更新を楽しみにしています♪

    1. トラウマウサギ

      コメントありがとうございます!「ええええ!?」と言って頂けると本当に嬉しいです!これまでの話を振り返りながら待って頂ける…!ありがてぇ…。おかげさまで下書きは出来上がってますので、完走できそうです。本当に、応援して下さっている貴方様のおかげです。本当に感謝感謝でございます…!ではでは、最後までお付き合い頂ければ幸いです◎

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