コンテンツへスキップ

前へ ホームへ 次へ

 

第6章 左様ならば、ダンガンロンパ 学級裁判編Ⅰ

 

コトダマリスト

 

【校舎5階の様子】

校舎5階の各教室には、飲食の跡など人が生活した形跡が見られない。羽成田が1度動く影を目撃している。

【和戸の手記】

校舎5階の”超高校級の探偵助手”と思しき研究教室に置かれていた。和戸と赤松に面識があったらしい記載がある。

【タマの動機ビデオ】

校舎2階の”超高校級の保育士”の研究教室から繋がる隠し部屋に置かれていたタマの動機ビデオ。動機ビデオでは、タマは”超高校級のスパイ”であると言及されている。

【参加者の名簿】

“超高校級のVチューバー”の研究教室のコンピューターから発見された。今回のコロシアイと前回のコロシアイの参加者の名前が並べられている。内容は、

朝殻 奏…星 竜馬

綾小路 菊麿…茶柱 転子、夜長 アンジー

壱岐 霊子…真宮寺 是清

市ヶ谷 保…キーボ

鱏鮫 理央…白銀 つむぎ

絵ノ本 夜奈加…獄原 ゴン太

大場 大吾郎…王馬 小吉

雄狩 芳子…入間 美兎

タマ=アミール・ナオル…天海 蘭太郎

羽成田 宇宙…東条 斬美

麻里亜 郵介…百田 解斗

和戸 新始…赤松 楓

【オーディション通知】

図書室から発見された『ダンガンロンパ』のオーディション通知。次回のコロシアイについてのオーディションの案内と、規約が書かれている。規約の中には、「参加者は参加する前回のコロシアイを視聴できない」とある。

【ダンガンロンパV3エンドロール】

前回のコロシアイの映像のラストに流されたエンドロール。寺澤 善徳、小高 和剛、小松崎 類、高田 雅史など、製作者の氏名が記載されている。また、キャスト欄には春川やキーボなど、16人の名前があった。

【事件の痕跡】

これまでの事件 全て、学級裁判が終わると、死体や証拠が消えている。まるで事件がなかったかのように、血痕や血の匂いも残っていなかった。

 

 

学級裁判 開廷

 

「では、最後の学級裁判を始めましょう。」

 

「この裁判では、このコロシアイの真実について議論してもらいます。コロシアイの意味、首謀者の存在、オマエラは何者か?」

 

「……。」

 

「……。」

 

「それを解き明かせない場合…全員おしおきでーす!ではでは、開廷!!」

 

 

(モノクマが言い終わった後も、裁判場は静かだった。)

 

「………。」

 

「………。」

 

(私たちと同じ…私たちが味わった…あの絶望。)

 

「ありゃりゃ、また裁判前から絶望展開だ。『どっかで見た展開』はもういいんだけどなー。ま、V3準拠だから仕方ないか。」

 

「みなさん、気持ちは分かりますが…今は裁判に集中しませんか。」

 

「…テメーは いいよな。もともと作り物なんだからよ。」

 

「な、何ですか!?またロボット差別ですか!」

 

「…キーボ君は作られたばかりだから、その分 適応力があると感心しているんだよ。」

 

「そうですか…そうですね。確かに、ボクはキミ達よりも適応できる身体と言えます。」

 

「……もう、それでいい。」

 

「つーか、テメーを見てると、どうでも良くなってくる。……話し合いを始めんぞ。見つけなきゃなんねーんだろ。コロシアイの真実ってヤツを。」

 

「そうです!みんなで見つけましょう!真実を!!」

 

「…メチャクチャな話を熟考する時間もないなんてね…。願わくば、裁判後には『やっぱり、そんな馬鹿げたことはなかった』と笑い飛ばしたいものだね。」

 

(羽成田と綾小路が顔を上げた。)

 

「まずは、首謀者について話し合いましょう!」

 

 

 

ノンストップ議論1開始

 

「名前は、白銀 つむぎだったね。才能は…」

 

「白銀 つむぎさんは、”超高校級のコスプレイヤー”だよ!」

 

「フィクション以外のコスプレをすると、アレルギーでキモいブツブツが出るというヘンテコ体質を持つメガネ女子!」

 

「地味がアイデンティティ!身長174cm、バスト83cm!」

 

「デケェな…じゃねえ!入ってくんな!首謀者は、このコロシアイを学園内のどこかから見ていた。」

 

「そうそう。首謀者が どこにいたかも、しっかり考えてね!」

 

「だったら5階だろ!白銀 つむぎは、校舎の5階にいたんだ!」

 

 

【オーディション通知】→身長174cm、バスト83cm

【校舎5階の様子】→校舎の5階にいた

【参加者の名簿】→校舎の5階にいた

 

 

 

「うぷぷぷぷ。それ、気になっちゃうよね。気になりすぎて、夜までしか寝られないよ!」

 

「寝すぎです!」

 

 

back

 

 

 

 

「それは違います!」

 

「あ?ずっと首謀者は5階にいるって言ってたじゃねーか。テメーらが5階に行った時は逃げちまった後だったかもしれねーが…。」

 

「…5階には人がいた痕跡がなかったんだよ。」

 

「痕跡がない?この数十日 隠れてたなら、飲食など何かしらの痕跡が残っているはずだよね。」

 

「なかったんだよ。飲食の跡も、何も。それに、5階にはシャワーもトイレもないんだよ。」

 

「お風呂の舞台セットはあるけどねー。『きゃー!のび太さんのエッチ!』ごっこでもするのかな?」

 

「…シャワーもトイレもない。そんなところで、人間が生活できるとは思えません。」

 

「隠し通路とか隠しトイレがあったのかもしれねーぞ。」

 

「参加者の誰も5階に入れなかったから、トイレを隠す意味はないと思うけどな。」

 

「隠しトイレなんてものもありませんでした。それに、以前、モノクマは言ってました。5階に人は立ち入れない…と。」

 

「じゃあ、オレが見た影は…見間違いだったのか…?」

 

「モノクマだったのかもしれないね。」

 

「そうなると…白銀 つむぎは、一体どこにいるんだい?他に隠し部屋や通路はなかったんだろう?」

 

「隠し部屋なら、タマさんの研究教室…“超高校級の保育士”の研究教室に隠し部屋がありました。」

 

「タマさんの?」

 

「あいつは、暗殺者じゃなかったからね。”超高校級の保育士”の研究教室は、私の研究教室じゃなかったんだよ。」

 

「そうか。本当はタマさんが保育士…というわけだね。」

 

「…おそらくだが、タマは春川の才能を乗っ取ることで春川の様子を伺ってたんだ。何でか知らねーが、最初から春川を疑ってたみてーだからな。」

 

「フム。けれど、保育士の研究教室に隠し部屋があったなら、決定的ではないかな?」

 

 

 

ノンストップ議論2開始

 

「他の生徒に隠した部屋があったのなら、そこが首謀者の部屋だと考えるのが普通だろう。」

 

「そうかな〜?前も どうやって行くのか謎すぎる、地下の怪しすぎる研究教室があったんだけど〜?」

 

「…だから、入ってこないでくれないかい?」

 

「タマの研究教室は一見、保育園か何かみたくなってたが…壁の一部に仕掛けがあって、隠し部屋に繋がってたな。」

 

「しかも、空洞があることが分かりにくいように、分厚い壁に覆われて…だ。」

 

「つまり…首謀者は誰にも見つからず、部屋に隠れていたということだね。」

 

 

【タマの動機ビデオ】→誰にも見つからず部屋に隠れていた

【和戸の手記】→誰にも見つからず部屋に隠れていた

【事件の痕跡】→誰にも見つからず部屋に隠れていた

 

 

 

「僕は隠れんぼは得意だよ。誰にも見つからずに、そのまま忘れ去られて、みんな帰ってしまったこともあるよ。」

 

「な…なぜ今そんな自慢話を…?」

 

(自慢じゃないと思う。)

 

 

back

 

 

 

「それは違います!」

 

「あの部屋には、タマの動機ビデオが置かれていたんだよ。」

 

「ああ…そうだったな。」

 

「2回目の事件の動機だね。」

 

「はい。つまり、動機ビデオが配られた後どこかのタイミングで、タマさんは あの隠し部屋に入っているんです。」

 

「もし首謀者が隠し部屋にいたなら、タマと遭遇しているはずだよ。」

 

「でもよ、タマが首謀者と関係があったなら…そのまま匿ってたのかもしれねーだろ。…あいつについては、分からねーことだらけだからな。」

 

「そうだね。タマさんは春川さんの才能と首謀者の名前を知っていた。タマさんが首謀者側の人間なら…話は簡単だけど…。」

 

「しかし、彼女は前回の事件を起こした当事者です。その動機や…エイ鮫さんの話からして、タマさんが首謀者側だったと考えることは…難しいです。」

 

「タマちゃん…アンタ、何者だったんだい?アタシャ…分からないよ…!」

 

「…うるさいな。春川さん、タマさんの動機ビデオは見たのかい?」

 

「うん。あいつは、”超高校級の保育士”でも…もちろん”超高校級の暗殺者”でもなかった。」

 

「あいつは、“超高校級のスパイ”だったんだよ。」

 

「タマさんが…スパイ?」

 

「動機ビデオによると…孤児院で働くっていうのが表の稼業。その裏でスパイとして活動してたんだよ。」

 

「そうそう。影が薄すぎる”超高校級の諜報員”とかじゃないよ!スパイだよ!タマさんが育った孤児院は闇稼業に手を染めるスパイなファミリー。」

 

「名前は、グレイス=フィールドだったかアスナロだったか…そんな設定なんだよね。あの教室は、仕掛けだらけのタマちゃん家の完全再現だったのさ。」

 

「フム。彼女がスパイだったのなら、より彼女の首謀者側 疑惑は晴れることになるね。」

 

「どういうこと?」

 

スパイ活動を通じて、タマさんは春川さんのことを知っていたんじゃないかな。」

 

「スパイ活動として?」

 

「どのような範囲でスパイ活動が行われたか知らないが、同じアウトロー稼業である暗殺者について情報を集める機会があったとも想像できる。」

 

「ここに来る前から、タマさんは暗殺者としての春川さんを知っていた。」

 

「……。」

 

「だから、その才能を明かさない春川さんを警戒していたんじゃないかな。」

 

「ふむふむ。そういう設定だったのかもしれないね!」

 

「……それで、最初から春川を疑ってやがったのか。」

 

「そうだとしても…おかしいよ。」

 

 

 

ノンストップ議論3開始

 

「そうだね!タマさんは、前回の参加者…白銀さんの名前を知っていたんだよ?」

 

「だからテメーはっ…!……もういい。無視だ、無視。」

 

「どうしてタマさんは、前回の参加者を知っていたのかー!?」

 

「…隠し部屋で見つけたタマの動機ビデオがニセモノの可能性はねーか?」

 

「首謀者が そんなことをして、何の得があるんだい?タマさんが首謀者でない限り、それはないと思うが。」

 

「それより、タマさんと白銀 つむぎに面識があった可能性はどうだい?」

 

 

【参加者の名簿】→動機ビデオがニセモノ

【校舎5階の様子】→動機ビデオがニセモノ

【参加者の名簿】→タマと白銀に面識があった

 

 

 

「ニセモノ…か。」

 

「ニセモノと言って、ボクを見るのは止めてくれませんか。」

 

 

back

 

 

 

 

「それは違います!」

 

「タマと白銀に面識はなかったと思う。」

 

「どうして言い切れるんだい?」

 

「……あんた達は東条や、夜長、茶柱と面識があったんだよね。」

 

「あったねー。そんな設定。時間がない割には、そう設定したよー!」

 

「設定設定うるせーぞ!…オレは、某国の金持ちにパイロットとして雇われかけた時、東条と会った。」

 

「僕は直接 会ったわけじゃないけれど…これからアートやマーシャルアーツの歴史を作る者として、夜長さんと茶柱さんについては知っていたよ。」

 

「そう。和戸の手記にも、”前回”の参加者…赤松と会ったという記録があるよ。」

 

「羽成田と東条。綾小路と夜長、茶柱。和戸と赤松。これは、羽成田が”超高校級のVチューバー”の研究教室で見つけた参加者名簿と同じだよ。」

 

「つまり、タマと関係があったのは天海。白銀とタマに面識はない。」

 

「面識がないというか、そういう設定がないというか。」

 

「……でもよ。タマは春川に白銀 つむぎの名前を出してんだぞ。何であいつは知ってたんだよ?」

 

「名簿になくても、面識がなかったとは言い切れないよ。」

 

「どうだろうか?オマエラには設定を超えた人間関係も思い出も、ありはしないのに?」

 

「だから…うるせーんだよ…。」

 

「ぶっちゃけちゃうと、タマさんと白銀さんに面識はないよ。タマさんが白銀さんの存在を思い出したのは、死ぬ直前のはずだからね。」

 

(死の直前に思い出した…?エイ鮫が言っていた…こと?)

 

 

「『このコロシアイ…それは、白銀つむぎが望んだもの』。タマさんは、そう言ってたよ。それが、最期の…彼女の言葉。」

 

 

(でも…その前から、タマは白銀を知っていた。私に、そう言ったのだから。)

 

 

「…しろがね。」

 

「……!」

 

「私は知ってるよ…全部。」

 

「あいつは!白銀は、どこにいるの!?」

 

「……言わないよ。あの人がどこにいるかなんて。」

 

「……あんた!何で白銀を知ってるの!?」

 

 

「まさか…。」

 

(昨日の出来事を思い返していると、綾小路がポツリと呟いた。)

 

「どうかしましたか、綾小路クン。」

 

「まさか…なんだよ。」

 

「……『白銀の失踪』。図書室で、春川さんが見つけた小説のタイトルだよ。」

 

「は?それが何だよ?」

 

「あのタイトルを見て、春川さんは動揺していたね。」

 

「そうでしたね。」

 

「……。」

 

「タマさんは それで、カマをかけたのかもしれない。」

 

「はあ?カマをかけたぁ?」

 

「あいつは、確かに白銀の名前を口にした…口にした…“だけ”だった。」

 

「それで春川さんの動揺を誘い、情報を引き出しながら、春川さんに殺される…それがタマさんの計画だったのかもしれないね。」

 

「…とんでもねーヤツだな。」

 

「そして…タマさんは死ぬ前に白銀 つむぎについて、しっかり思い出した…ということでしょうか?」

 

「名簿についての謎は、それだけじゃないよ。名簿によると、白銀 つむぎと面識があるのは、エイ鮫さん。」

 

「なのに、エイ鮫さんは死に際に前回の他の参加者の名前を出したね。」

 

(そうだ。あいつは…エイ鮫は天海の名前を出した。私は、あいつに参加者の名前までは話してなかったのに…。)

 

 

「んー、オマエラ、わざと分からないフリしてるの?もう、何となく予測できてるでしょ?前回のコロシアイを全て見てきた、オマエラだったら。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「ま、認めちゃったら、絶望まっしぐらだもんね!ではでは、春川さん!」

 

「……何。」

 

「問題です!今回のコロシアイ参加者のみんなが、死に際に思い出したのは、何の記憶だったのでしょうか!」

 

「……。」

 

 

1. はじめてのおつかいの記憶

2. 『アニバーサリー ダンガンロンパ10』の記憶

3. 前回のコロシアイの記憶

 

 

 

「そんな昔のこと覚えてて どうするの?過去は忘れるに限るよ!ほら、キーボクンの前身が、おしおきでペチャンコになることとか!」

 

「そんな過去はありません!!」

 

 

back

 

 

 

 

「それは…”前回”…53回目のコロシアイの記憶だよ。」

 

「……何で、あいつらが前回のコロシアイを知ってんだよ。」

 

「またまた〜。もう想像がついてるくせに〜。」

 

「……オーディション。」

 

「この裁判の終わりには…馬鹿げた冗談だと笑い飛ばせたらと思っていたが…やはり…真実とは、残酷なものだね。」

 

「……。」

 

「……前回のコロシアイの映像。最後の裁判で話題になっていたオーディションが本当だとすると…」

 

「今回のコロシアイにも…オーディションがあったはずだね。」

 

「つまり…今回のコロシアイの参加者の皆さん、全員が『ダンガンロンパ』を知っていたことになります。」

 

「……。」

 

「……つまり、僕らは……やはり…。」

 

「まだ分かんねーぞ!」

 

(綾小路が俯きがちに言うのを遮り、羽成田が声を上げた。)

 

 

 

ノンストップ議論4開始

 

「今回のコロシアイ参加者が前回を知ってただと?おかしいだろーが!」

 

「え〜何で何で〜?」

 

「このコロシアイってのが本当に見世物で、視聴者がいた場合だよ!」

 

「参加者が前回のコロシアイについて知ってたら、首謀者がすぐに分かって対処すんだろ。」

 

「だから…記憶を消したんだろう…。」

 

「いいや!オレは認めねーぞ!オレの勘が そう言ってるんだ!」

 

「このコロシアイに参加してるヤツが前回のことを知ってるはずがねぇ!」

 

 

【オーディションの案内】→視聴者がいた

【オーディションの案内】→前回のことを知っているはずがない

【参加者の名簿】→前回のことを知っているはずがない

 

 

 

「テメーみてーなマガイモンにオレらの気持ちが分かるのかよ!?」

 

「マガイモン…モンスターの類でしょうか。」

 

(……羽成田が言ってることは、一理ある。あれを使って…賛成してみよう。)

 

 

back

 

 

 

「それに賛成です!」

 

「確かに…『ダンガンロンパ』のオーディションの案内にあるよ。オーディション参加者は、参加する回の前回のコロシアイを視聴することができない…。」

 

「そ…そうだろ!つまり、オレらがオーディションを受けたとか、前回を見てたとか…フィクションだとか…ンなことはねーんだよ!」

 

「今回のコロシアイは54回目…。つまり、みなさん53回目のコロシアイは視聴していないはずですね。」

 

「そう。だから…今回の参加者が”前回”を知っているのは…おかしい。」

 

「モノクマ。このオーディションの案内は間違いないの?」

 

「間違いなんかじゃないよ!一応ここでは、まごうことなき事実って設定だよ!」

 

「…いまいち信じにくい言い方だね。」

 

「春川さん達だって、52回目の参加者を知らなかったじゃないかー!……って、これは今の春川さんに言っても仕方ないか。失敬失敬。」

 

「……。」

 

「とにかく、このオーディション資料は本物だよ。実際 使われたんだ。参加者が前回を知ってたらフィクションが盛り上がらないからね。」

 

「……ッ。じゃあ、どうして春川の記憶は残したんだよ!?」

 

「ん?」

 

「確かに…。前回の記憶があると展開が面白くなくなるというのは最もだよ。なぜ、春川さんの記憶は消さなかったんだい?」

 

「春川みてーなヤツがいたら、首謀者を とっととバラされる可能性がある。そんなん、すぐゲームが終わんだろ。」

 

「現に、春川さんは常にゲームを終わらせるよう動いていましたね。」

 

「うぷぷぷ。前回の記憶があるのは、春川さんだけだと思ってるんだね?」

 

「……引っかかる言い方だね。」

 

「しかし、春川さんの記憶も…完全ではなかったんですよね?」

 

「そうだよ。私は昨日の夜まで…”超高校級の暗殺者”について忘れていた…。」

 

「当然だよ!暗殺者で前回の記憶もあったら、瞬殺みな殺しエンドじゃないか。」

 

「才能不明っていうのはね、思い出すとコロシアイを盛り下げる人…もしくは、思い出さない方がコロシアイを盛り上げてくれる人に適用されるのさ!」

 

「なるほどね…。春川さんが初日から暗殺者の場合、僕らは自己紹介と同時に散っていたんだね。」

 

「想像すると怖ぇな…。」

 

「……。」

 

 

「モノクマ、あんた…さっき記憶があるのは私だけじゃないとか言ったね。」

 

「ほへ?そんなこと言った?」

 

「言いました!何ならボクの音声データを証拠にしてもいいです!」

 

「はわわー。うっかりうっかり。」

 

「とある界隈には『”はわわ”とか言う男は処して良し』という言葉があるよ。」

 

「ボクは男っていうより、オスなんだけどなぁ。」

 

「どうでもいい!どうなんだ、モノクマ!春川 以外に、記憶があったヤツがいるのか!?」

 

「…まあ、隠してたワケじゃないんだけどね。」

 

「前回のコロシアイの記憶があったのは……ここにいた全員だよ。」

 

「全員…?」

 

「そう。個人差はあれど、全員が記憶を持っていたんだよ。ほら、絵ノ本さんとか、分かりやすかったんじゃない?」

 

「絵ノ本?」

 

「彼女は、3回目の事件で壱岐さんに殺される前に、睡眠薬を飲んで自殺しているね。」

 

(絵ノ本…。あいつは…)

 

 

「『何もせん』を しとった。」

 

 

「彼女は、前回の春川さん達を見て、そう行動していたんだよ。コロシアイを見ている視聴者にとって、つまらないように。」

 

「……!」

 

「彼女は、味方だったんだよ。”投票放棄で『ダンガンロンパ』を終わらせる”っていう春川さん達の、ね。」

 

「絵ノ本が…。」

 

「だから、絵ノ本さんだけじゃないってば。希望厨の市ヶ谷さん。自白できないことを知っていた麻里亜クン。春川さんの才能を知っていたタマさんも。」

 

「みんなみんな、『ダンガンロンパ』の記憶に突き動かされていたってことさ!」

 

「タマさんが春川さんの才能を知っていたのは、タマさんがスパイ設定だから…とかじゃないんだよ!単に、前回の春川さんの才能を覚えてただけでーす!」

 

「他の人も記憶があるような、ないような、なんか そんな感じの発言してたでしょ。」

 

「全員…”前回”の記憶があった…?死に際に思い出す前…から?」

 

「信じられない?じゃあ、生き残りのお二方に聞いてみたら?」

 

「どうして、綾小路クンは、回文にハマったの?」

 

「……それは、思い出せないが…。」

 

「思い出せないってことは、設定の記憶じゃないんだよ。設定外でキミがスーパーすんばらしい回文に出会って、ハマり出したってこと。」

 

「それは…前回のコロシアイの記憶によるもの…と言いたいんですか?」

 

「いや…待ってくれるかな?今…思い出すから…。」

 

「羽成田クン、キミもだよ。どうしてキミは無条件に和戸クンを信じたのか。それは、彼が前回の主人公に似てたから…かもよ?」

 

「……!」

 

(何度目だろう。裁判場に重苦しい沈黙が流れる。)

 

「…前回 参加していないはずのみなさんに、前回のコロシアイについての記憶がある。これは、つまり…」

 

(キーボが、こちらの様子を伺うのが分かった。)

 

(ここにいる奴らはーー…)

 

 

1. チームダンガンロンパ

2. 前回の視聴者

3. この町の市長さん

 

 

 

「春川さん!今は冗談を言っている場合ではありません!空気を読んでください!ボクのように!」

 

(キーボに言われる日が来るなんてね…。)

 

 

back

 

 

 

 

「……。」

 

「あんた達は…“前回”のコロシアイを見ていた視聴者…だよ。」

 

「……いや、おかしーだろ!前回の視聴者が…このコロシアイに参加してるわけ…」

 

「うぷぷ。あのオーディション通知は、53回目まで使われていたものってことかな?今回の参加者は、ちょっと特殊だからね。」

 

「……。」

 

「あいつが…エイ鮫が言ってたことは…そういうことだったんだね…。」

 

 

「わたしね…天海君が、好きだったんだ。」

 

「……あんたは…誰、なの?」

 

「…言えないよ。だって、言ったら…春川さんは絶対、わたしを嫌いになる。」

 

「バイバイ春川さん。大好きだよ。」

 

 

「エイ鮫は、自分が”前回”…53回目の視聴者だったことを思い出していたんだ…。」

 

「そうそう。エイ鮫さんは、ただ天海クンを推してただけでした〜。グッズ買って、身に付けて、恋する乙女を演じてただけの痛いオタクなのでした〜。」

 

「……視聴者…か。」

 

「クソ!こんなコロシアイを楽しんでるクソみてーな連中が…オレら自身かよ!」

 

「………。」

 

「うぷぷぷ。オマエラは、前回のコロシアイの視聴者!もっと言えば、最後の裁判コメントしてた視聴者なのでーす!」

 

「……。」

 

(瞬間、あの時 目にした、耳にした視聴者の声が、脳裏を駆け巡った。)

 

 

「ハッピーエンドにしねーと運営燃やす!」

 

「こういう超展開とか好きじゃねーんだよ!」

 

「今までいくら投資したと思ってんの!?」

 

「フィクションが世界を変えられるワケねーし!」

 

「こいつが赤松ちゃんの代わりに死ねば良かったよ!」

 

「コロシアイは最高のエンターテイメントだよ!」

 

「希望だ!!」

 

「絶望だ!!」

 

「いいから殺しあえよ!」

 

「『ダンガンロンパ』は終わらないよね!!」

 

 

「…チッ。よりにもよって…あの胸くそ悪いコメントしてたヤツら…か。」

 

「……視聴者は絶望派と希望派…そして、おそらく春川さん達を支持する人に分かれていたはずだね。」

 

「そうそう。市ヶ谷さんなんかは完全な希望派。和戸クンは絶望派寄りかな?絵ノ本さんは投票放棄を支持した視聴者だよ。」

 

「それが…オレ達の正体…。」

 

(あの裁判…。視聴者は、最原に残酷としか言えない言葉を投げ続けた。それだけじゃない。)

 

(視聴者は…キーボの人格を消した。)

 

「……。」

 

(私は…視聴者を許すことができない。)

 

(でもーー…)

 

 

「今のあんた達は…視聴者とは違うよ。」

 

「春川…。」

 

「私だって…ここに来る前の自分がどうだったのか、記憶がない。全然、違う人間なんだよ。」

 

「…ありがとな。けどよ、自分を許せねぇ…。」

 

「……そうだね。自分自身がコロシアイを楽しんでいた…ゾッとするよ。」

 

「自分が許せねぇ……。こんなオレとじゃ…春川は安心して結婚できねーじゃねーか…。」

 

「……キミが許せないのは そこですか?」

 

「……。」

 

 

「何はともあれ、春川さん。お疲れ様。」

 

(また、モノクマが嫌な笑いと視線を こちらに向けてきた。)

 

「絶望派、希望派、そして投票放棄派の派閥 入り組むコロシアイの中で、コロシアイを終わらせるため、よく頑張りました!」

 

「ま、結果、終わらせられなかったんだけどね!うぷぷぷ…アーハッハッハッ!」

 

「……。」

 

 

「ねえ、春川さん。キミは、どうすれば『ダンガンロンパ』が終わったんだと思う?」

 

(モノクマが、ゆっくり私に問いかける。)

 

(『ダンガンロンパ』を終わらせるのに必要なのはーー…)

 

 

1. 希望の希望による希望のための展開

2. クロが勝利する絶望展開

3. 希望も絶望も放棄する展開

 

 

 

「……。」

 

「うぷぷ。”キミ”にとっての答えは、そうかもしれないね。けど『ダンガンロンパ』を終わらせるのに本当に必要なこと…」

 

「それは、キミ達キャラクターが成長しないことだよ。」

 

「……成長しない?」

 

「そりゃそうでしょ。物語には変化がないと。そして、登場人物の変化…それは、成長だよ。視聴者はみんな、キャラクターの成長が見たいんだ。」

 

「皮肉だよねぇ。ずっと最原クンに自信がなければ…いつまでも夢野さんが無気力なら…」

 

「前回のキーボクンが才能を否定し続けていれば…『ダンガンロンパ』は、もう終わってたよ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

 

「これまでのコロシアイも、そうさ。誰かさんが、希望を見せなければ。また誰かさんが、絶望を乗り越えなければ…」

 

「またまた誰かさんが、誰に頼ることも託すこともしなければ…『ダンガンロンパ』の続編なんて出てなかっただろうね。」

 

「キャラクターに成長がなければ、『ダンガンロンパ』は、もっと早くに終わっていたんだよ。」

 

「ーー今回も、そう。春川さん。ずっとキミが誰にも心を開かなければ…『ダンガンロンパ』はキミの望み通り、終わったはずなんだ。」

 

「キミは、“前回”と同じ過ちを繰り返してしまったんだよ!」

 

「……。」

 

「私がしていたことは…無駄だったってこと…?」

 

「そうかもしれないね!」

 

「私が何もしなければ…それだけで『ダンガンロンパ』は終わってたの…?」

 

「かもしれないね!」

 

「…春川。そんな…はずねぇ。テメーは、これまで……。」

 

「……しかし、キャラクターが成長しなければ、物語は つまらなくなる…これは本当のことだよ…。」

 

「綾小路…!」

 

「オマエラだって、この才囚学園で、コロシアイを通してレベルアップしたんだろ?成長しちゃったんだろ?一皮剥けちゃったんだろ?」

 

「……。」

 

「……。」

 

「アーハッハッハッ!綾小路クンが ずっと井の中の蛙でいれば、羽成田クンが ずっと仲間を信じなければ、『ダンガンロンパ』は終わったんだよ!」

 

「オマエラは戦犯なんだよ。これからも、コロシアイが続く…その戦犯なんだ。」

 

「だって、オマエラは成長しちゃったんだから!物語にスパイスを与えちゃったんだからね!」

 

「オマエラのおかげで、コロシアイは盛り上がった!オマエラのせいで、これからもコロシアイは続くんだよ!」

 

(モノクマが高らかに笑う。)

 

(私が何もしなければ…それで『ダンガンロンパ』は終わった…?)

 

(下手に動いたことで…あいつらの命を無駄にした…?)

 

(もう絶望を感じる余地なんてないと思っていたのに…その言葉はズシリと重く胸にのしかかった。)

 

 

 

前へ ホームへ 次へ

「第6章 左様ならば、ダンガンロンパ 学級裁判編Ⅰ【創作ダンガンロンパV4if/創作論破】danganronpa」への4件のフィードバック

  1. 更新お疲れ様です…うわあああああああああ…
    そして読み通りと言ってはあれだけどちゃんと視聴者だった…しかもアレなタイプの…そして頑張った春川に対しての『成長しなければ』とか…辛いな…
    思い出してみれば保ちゃんはずっと希望希望言ってたなぁ…
    そして羽成田くんに癒されてる自分がいる…((
    ダンガンロンパの悪趣味さ(?)がすごくよく表現されててすごく好きです!!
    次回も楽しみですー!!

    1. トラウマウサギ

      あやこと様
      実は前回のコメントで「さすがダンロンファン…察しがいいな」と思ってました笑
      やったー!悪趣味さが出てるとコメントいただけたー!と喜びながらハルマキに申し訳ない気持ちでいっぱいです。。キャラクターに癒されているとのお言葉、とても嬉しいです。いつもコメントありがとうございます!

    1. トラウマウサギ

      わー!一気読みありがとうございます!最後までお楽しみいただけるようがんばります!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です