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Ч/ローグ 終@€の先の*фへ

 

【才囚学園 校舎前】

 

(光は、もうない。周囲は轟音で満たされている。自分の姿も、声も、もう…誰も認めない。)

 

(自分が誰なのか、自分は知っている…分かりたくもないけれど。)

 

(手を伸ばす。天高く。初代の黒幕の姿を時折 借りて、楽しそうに。今回の首謀者の姿で、つまらなそうに。)

 

(わたしの名前は、白銀 つむぎ。この狂った世界の創造者。)

 


(でも…もう、それも終わり。)

 

(物語の希望を背負うはずだったロボットが、この世界を破壊している。誰も見ていない物語を、壊している。)

 

(傍らのモノクマと共に、わたしは最期の時を待った。)

 

(誰も見ていない中、おしおき。視聴者を気にしてきた模倣犯にとっては、最悪のおしおきだね。)

 

(頭上から大きな音がして、次いで聞こえたのは、自身が潰れる音だった。)

 

…………

……

 

「仲良しこよしなオマエラにスペシャルな”殺しの動機”を用意しましたー!」

 

「え!?」

 

(次の瞬間、わたしは見知らぬ場所で、聞き慣れた声を聞いた。)

 

「おやぁ?白銀さん、声 我慢できないんだから。キミみたいな一見 真面目な委員長タイプに限って、スイッチ入ると それはもうエローー…」

 

「ちょっと!いいから、続けて!!」

 

(慌ててモノクマの言葉を遮って叫ぶと、モノクマは怪しく笑った。そして…。)

 

「では改めて…初めての動機の発表です!なんと!初回の学級裁判で勝利したクロには、もう1人シロの中から選んで一緒に卒業する権利をあげちゃうよ!」

 

「!?」

 

(何…これ?…初回の動機発表?)

 

(コロシアイは…終わったはずなのに。ここは どこ?)

 

(改めて周囲を見まわせば、そこは給食室のような場所だった。よくある学校の給食室にテーブルとイスが設置され、イートスペースを設けたような。)

 

(そして、わたしの周りで、数名の若い男女がモノクマの話を緊張した様子で聞いている。ザッと見回したところ人数は…わたしを入れて16人…だ。)

 

(何これ?何で?どういうこと?新しいコロシアイに参加してるの?才囚学園は?最原君たちが終わらせちゃったんじゃなかったの?)

 

(そもそも、何で…わたし、生きてるの?)

 

(大混乱に陥っていると、話を終えたらしいモノクマが立ち去った。)

 

(後でモノクマに詳しく話を聞かないと…。)

 

 

「つむぎ、大丈夫かい?」

 

「え!?」

 

(突然、隣にいた派手な衣装の男の子に顔を覗き込まれて仰反る。)

 

「何で、わたしの名前 知って…?」

 

「えっ?」

 

「えっ。」

 

(この人の困惑した顔から察するに…もしかして、もう自己紹介した後?……そりゃ、そうか。動機発表のタイミングなんだし。)

 

「あの…ごめん。ちょっと…混乱しちゃって…。…ここはどこ?」

 

「無理もないよ。ここは、小学校の給食室だよ。」

 

「……そっか。わたし達…16人、閉じ込められてる…んだよね?小学校に…。」

 

「うん。小学校に、というより…この町に。」

 

「…町に?」

 

「……つむぎ…もしかして、記憶がないの?」

 

(男の子は、わたしの顔を見て驚いた表情を見せた。)

 

「ち、違うの。ちょっと色々 混乱しているだけ!あの…それで、あなたは…?」

 

「……。」

 

「ボクは、哀染あいぞめ レイ。政府の認定では、“超高校級のアイドル”ってことになってるよ。」

 

「……!」

 

(やっぱり、ここも『ダンガンロンパ』なんだ。)

 

(でも、何で?結局、続編が作られて…わたしも参加してるんだっけ?)

 

「もしかして…みんなのことも、記憶がない?」

 

(ぼんやりしていると、男の子は また顔を覗き込んでくる。仕方ないので『記憶が混乱して戸惑う人』の顔を作った。)

 

「そう…みたい。あはは、ごめん…ね?こんな状況なのに。」

 

「……こんな状況だから…だよ。謝ることない。良かったら、ボクが改めて みんなを紹介しようか?」

 

「……ありがとう。助かるよ。」

 

 

「うん。…じゃあ、あの大きい黒い服の人はロボットで、アイコ。彼女の本体は、胸の電子パッドの女性だよ。“超高校級のAI”なんだって。」

 

「……。」

 

「彼女と話している小柄な女性は、妹尾 妹子せのお いもこ“超高校級のポエマー”だよ。」

 

「……。」

 

「食卓に座っている彼は、郷田 毅ごうだ つよしクン。“超高校級のジムリーダー”。」

 

「……。」

 

「その隣に座っている明るい衣装の彼が、芥子けし ぽぴぃクン。“超高校級の大道芸人”。」

 

「……。」

 

「向こうでボンヤリしているドレスの女性が、夕神音 美久ゆがみね みく“超高校級の歌姫”。」

 

「……。」

 

「女性に囲まれてモジモジしている大きい彼が、前谷 光太まえたに こうたクン。“超高校級の柔術家”だよ。」

「……。」

 

「窓際でホコリチェックを始めたのが、松井 麗ノ介れいのすけクン。“超高校級の美化委員”。」

 

「……。」

 

「パンツスーツの女性が、山門 撫子やまと なでしこ“超高校級の翻訳家”。」

 

「……。」

 

「彼女や光太クンと話しているチャイナドレスの女性が、ローズ。“超高校級のマフィア”。」

 

「……。」

 

「パンツタイプの黒いセーラー服を着ているのが、佐藤 ここみ。ここみも、記憶が混乱しているのか、才能について思い出せないらしいんだ。」

 

「……。」

 

「ここみ達と話してる着物の女性が、祝里 栞いわさと しおり“超高校級の呪術師”。」

 

「……。」

 

「その隣にいるのが、木野 琴葉きの ことは“超高校級の化学者”だよ。」

 

「……。」

 

「そして、その隣のヘッドホンを首に掛けている彼が、永本 圭ながもと けいクン。“超高校級の幸運”。」

「……。」

 

 

「…”夜”と季節の名前の人、いないんだね。」

 

「えっ?」

 

「あ、何でもない。」

 

「……えっと、あとは…そうそう。彼は……」

 

(彼…哀染君は、自身が少し移動して、わたしに背後を見せた。そして、哀染君に隠れて見えなかった その人物を紹介するように手をかざした。)

 

(けれど…わたしには、そんな景色は一瞬でボヤけて見えた。哀染君の背後に見える“彼”しか、目に入らない。)

 

「……。」

 

「天海…君…」

 

「……あれ?蘭太郎クンのことは覚えているんだね。彼が“超高校級の冒険家”ということも覚えているかい?」

 

「冒険家…?」

 

(無意識に、彼の言葉を反芻したけど、頭の中は これまで以上にパニック状態だった。)

 

(どうして?どうして、天海君がいるの?どうして、冒険家?)

 

(ーーどうして、生きてるの?)

 

「……つむぎ?大丈夫?顔が真っ青だよ。」

 

 

「どうかしたんすか?」

 

(頭が真っ白になりかけたところで、件の彼が近付いて来た。思わず、後ずさった。)

 

(どうして?わたしは、確実に…天海君を殺した。彼は、才囚学園の図書室で死んだはず。何で…?)

 

「蘭太郎クン。つむぎの体調が悪いみたいなんだ。」

 

「え?大丈夫すか、白銀さん?」

 

(天海君が、わたしを見る。わたしの名を呼ぶ。わたしも何か言わなければと口を開いたが、うまく声が出なかった。)

 

「…結構 悪いみたいっすね。さっきから顔色が悪かったから…隣の保健室か、家に帰って休んでいた方がいいっすよ。俺、送って行きますんで。」

 

(天海君が1歩 踏み出したのを見て、自然と また後退する。哀染君という男子の背に隠れるように彼の視線から逃れる形になって、天海君が表情を変えた。)

 

「…白銀さん?どうしたんすか?」

 

「……つむぎ、今すぐ休んだ方がいい。蘭太郎クン、つむぎはボクが連れて行くから、キミは先に朝ご飯を食べていて。」

 

「はあ…。」

 

(天海君は困惑の表情のまま固まっている。わたしは哀染君に連れられて、給食室を後にした。)

 

 

 

【小学校1階 保健室】

 

(保健室は給食室のすぐ隣にあった。学校の何の変哲もない保健室といった感じ。)

 

(並んだベッドの1つに腰掛けると、哀染君が心配げな声を発した。)

 

「…つむぎ、今日は ゆっくり休んでいて。町や校舎の探索はボク達に任せて。」

 

「……うん。ありがとう。」

 

「……蘭太郎クンと何かあったの?」

 

「えっ。」

 

「蘭太郎クンを見て、顔色が変わったから。…小学校に来る道中、何かあった?」

 

「…道中?」

 

「キミが遅いから、蘭太郎クン達がキミを迎えに行ったんだよ。まさかとは思うけど…蘭太郎クンに何かされた…とかじゃないよね?」

 

「あ、いやいや!それはないよ!」

 

(言いにくそうにする哀染君に、慌てて否定する。)

 

(むしろ、わたしが何かした側だし…。)

 

(でも…本当に彼は天海君なのかな。死者の書で蘇った…とか?)

 

 

「哀染君。天海君ってどんな人?」

 

「……蘭太郎クンのこと…やっぱり覚えてなかったの?」

 

(哀染君が訝しげな顔をしたので、わたしは慌てて記憶が混乱した人の顔を作り直した。)

 

「…名前は何となく覚えてたんだけど…どんな人だったのかまで分からなくて。」

 

「…そう。大丈夫。キミが忘れた分だけ、ボクは話すよ。」

 

(哀染君は、にこやかに笑った。)

 

(…何だか、爽やかすぎて胡散臭いキャラだなぁ。)

 

「ボクも蘭太郎クンとは3日前 会ったばかりだから、表面的なところしか分からないけど…」

 

「彼は責任感と正義感の強い人だと思うよ。人当たりが良くて、話しやすいし、頭も良さそうだね。」

 

「…それって表面的かな?」

 

(キャラ的にも…あの天海君は、わたしの知る天海君と変わりないみたい。じゃあ…やっぱりキャラクターを蘇らせたってこと…?)

 

「……つむぎ、とにかく今日は余計なことを考えないで、休んでいてね。朝ご飯は食べられそう?持ってこようか?」

 

「…今は、いいかな。ありがとう。」

 

「そう。じゃあ、また後で様子を見に来るね。」

 

(哀染君は優しい笑顔を浮かべて去って行った。)

 

(とにかく…みんなが給食室から離れたらモノクマを呼んで色々聞き出そう。わたしはベッドの枕に頭を預けて目を閉じた。)

 

…………

……

 

「デカメガネ女!」

 

「ちょ、郷田先輩…!シー!!白銀先パイが寝てたらどうするんですか!?」

 

「前谷クンも、声大きい。トーン落として、シーン…音して。」

 

(微睡かけていた時、大声と共に保健室のドアが勢い良く開いて飛び起きる。見れば、大柄な男の子と中くらいの男の子と小柄な男の子が入って来ていた。)

 

(大・中・小で鯉のぼりみたいだ。中くらいの鯉のぼ…男の子が殴りかかってきそうな剣幕で、わたしに叫んだ。)

 

「オイ、テメー!…あ?本当にデカメガネか?」

 

(わたしの顔を見た彼は、一瞬 困惑した顔を見せた。けれど、わたしがサイドテーブルに置いていた眼鏡を掛けると、すぐに勢いを取り戻した。)

 

「あ?やっぱデカメガネじゃねーか!!テメー、ふざけてんのか!?」

 

(もしかしなくても…デカメガネって、わたしのことだね。眼鏡で判別されてるってこと?)

 

(彼は眉間にシワを刻み、乱暴に髪を掻いた。一挙手一投足 荒っぽいキャラらしい。バイオレンスすぎるキャラはデスゲームでは死亡フラグだけど…。)

 

「えっと…郷田君。ごめんね?ちょっと混乱して…。」

 

「起き上がってんじゃねー!病人は寝てろ!!大丈夫なのか!?」

 

「え。今の…心配してたの…?」

 

「郷田クンの心配、ケンカ腰。」

 

「…ケンカ腰に心配してくる人は初めて出会ったかな。」

 

(そういえば…彼のジムリーダーって何だろう。ボールに入れて使役するモンスターバトルかな?)

 

「し、白銀先パイ…大丈夫なんですか!?病床に押しかけて すみません!どうしても、気になって!!!」

 

「あ、ありがとう…前谷君。でも、それ病床の人間に話し掛けるテンションではないよ…。」

 

「ハヒィ…!すみません!!つい!!!」

 

(なかったことにされた赤いネコ型ロボットみたいなキャラクターかな?そういえば…あのキャラ、最原君に声 似てた気がする。)

 

(前谷君は浅黒い肌でも分かるほど顔を赤くして、口元を抑えている。)

 

(彼は柔術家って言ってたね。あんまり柔術に筋肉のイメージはないけど…彼が筋肉枠かな。)

 

「白銀サン、ゆっくり休んで、パックリ元気。今日は死んだようにお眠りなさい。」

 

「う、うん。えーと…芥子君、ありがとう。」

 

(このキャラは大道芸人だっけ。ショーの最中に殺人事件が起こりそうだね。デフォルメ強めのキャラ…この回にはいるんだね。)

 

「ノンノン!ボクのことは、ぽぴぃと呼んで!ぽぴぃは、みんなの花でありたい。」

 

(彼は指を体の前で揺らして、歌うように言った。セリフを考えるのが面倒くさそうなキャラクターだ。)

 

(3人共 わたしと会話した後、部屋を出て行った。賑やかさが一瞬で静かさに変わるーー)

 

 

(ーーこともなく、またドアの外から声がした。)

 

「いもこ?どうしたの、そんなところで?」

 

「あ…お姉ちゃんの様子が気になって…。」

 

「ああ、白銀が体調悪いんだったな。」

 

「じゃあ、みんなでお見舞いしようか。お見舞いって…どうしたらいいのかな?ノックとか必要?」

 

「えーと、開いてるよ。どうぞ。」

 

(中から声を掛けると、3人の女の子と1人の男の子が入って来た。)

 

「……起こした?ごめんなさい…。」

 

「あ、ううん。起きてたから。謝らないで…木野さん。」

 

(彼女は化学者って言ってたね。アイテム的に便利そうなキャラ…でも、生存予想ランキング下位っぽいなぁ。…人のことは言えないけどね。)

 

「白銀お姉ちゃん、大丈夫?どこか悪いの?」

 

(体に合わないブカブカのパーカーの袖を揺らしながら、1番 小柄な女の子が可愛いらしく小首を傾げた。)

 

「えっと…妹尾さん、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだよ。」

 

(『こんなに可愛いはずがない!』妹キャラだね。お兄ちゃんキャラの天海君とセットになる感じかな?)

 

(才能はポエマーだったね。コロシアイでは役立ちにくそう。)

 

「無理もねーよな。こんな状況で。何か必要なものあるか?」

 

「永本君、ありがとう。今は大丈夫。」

 

(彼は…普通の男の子って感じだけど。”超高校級の幸運”だし、”希望”候補なのかな?それとも、”超高校級の希望マニア”…だったりして?)

 

「寝不足じゃ、よく考えられなくなるし…本当に無理しちゃダメだからね!」

 

「ありがとう…祝里さん。」

 

(彼女は呪術師って聞いたけど…さすがに呪殺は取り扱われないよね。呪殺ミスリード要因か、被害者ってとこかな?)

 

「心配かけて ごめんね。だいぶ良くなったから、大丈夫だよ。」

 

(心配げな面々に笑って見せると、みんなも少し笑顔になって出て行った。)

 


(それから、少し時間を置いて、またドアの外で声がした。)

 

「佐藤?どうした?こんなところで。」

 

「白銀さんの様子を見に来たんだけど、僕1人で入るのは どうかと思って。」

 

「憤ッ!そういうことなら、ワシが一緒するぞ!」

 

「アイコさんっ。そんな勢い良くドア開けたらーー…」

 

(慌てた声の後、ものすごい音を立ててドアが開いた。そして、黒い大きな体と、小さな体が並んで部屋に入って来た。)

 

「白銀様、ごきげん麗しゅう。寝ていた方がよろしいのではないでしょうか?」

 

「…アイコさんのせいで起きちゃったんじゃない?」

 

「アイコのせいでって!それは機械差別ではなかろうか!?」

 


「あ、ううん。起きてたから、大丈夫だよ。…ちょっと びっくりはしたけど。」

 

「オーマイガッ!それはそれは誠にスミマッセーン!恐れ入りますスミマセーン!」

 

「あ、謝らないで。大丈夫だから。えっと、来てくれてありがとね、アイコさん。」

 

「もー、ちょっと、白銀ちゃん!どこ見て話してるのー!?アタシの本体は、こっちだよー!目が合わなくて、アイコつらたん!」

 

(背の高い黒づくめの男から響く高い声。黒い服に身を包んだ手が指差すのは、その人が提げた胸の電子パッドだった。)

 

「本体はコレ。これが私様のブレインであり心臓部なのよ。」

 

「あ…うん。ごめんね?」

 

(キャラクターがコロコロ変わるタイプ?初代黒幕と被る気もするけど…50回以上も続けてたら仕方ない…のかな?)

 

(AI…主人公を助けて死ぬパターンが多いけど…今回は、どうなるんだろう。)

 

「白銀さん、大丈夫なの?」

 

「大丈夫だよ。佐藤…さんも、ありがとう。」

 

「……うん、良かった。会話できるくらいには元気そうで、僕も安心したよ。」

 

(黒いパンツセーラーに身を包んだ子が、口元の筋肉を動かして笑顔を作った。)

 

(一瞬、ロリかショタか迷ったけど、僕っ娘で合ってたかな?もう性別ミスリードはやった…というかミステリ界隈ではありきたりだし、もうしないよね?)

 

(佐藤さんは才能不明だっけ。思い出すとコロシアイを盛り下げる才能?思い出さない方がコロシアイを盛り上げる才能?今回は…どっちなんだろう。)

 

「じゃあ、そろそろ僕らは失礼しようかな。」

 

「白銀っち!お大事にな!!」

 

(2人…1人と1体と二言三言 交わした後、彼女達は部屋を後にした。)

 

 

(それから数時間、何度かモノクマの名を呼んだが出て来ない。そのうち辺りが暗くなり、外でヒソヒソと話し声が聞こえた。)

 

「あらぁ。山門さん、ローズさん?」

 

「保健室の前で つっ立って、どうかしたのかね?」

 

「あ…白銀さんのお見舞いと思って来たのですが…。」

 

「シロガネ、寝ていますカモしれません。」

 

「そうねぇ。小さくノックしてみたら、どうかしらぁ。」

 

(そんな声の後に、小さなノック音が響いた。「はーい」と返事すれば、また男1女3のグループが保健室内に入って来た。)

 

「白銀さん、体調は いかがですか?食堂から食べ物を持ってきましたが…食べられそうですか?」

 

「うん、ありがとう。…山門さん、後でいただくよ。」

 

(パンツスーツの女子が髪を耳にかけながら、わたしの顔を覗き込む。その顔は心配げだった。)

 

(献身的な世話焼きタイプ…か。『ダンガンロンパ』では死にやすいキャラクターだよね。翻訳家…クロには なりにくそうな才能かな。)

 

「食べられなくても食べるとヨロシ。あの言葉…えー、日本語で『畳は食物、天プラとナス』という言葉アリマス。」

 

「ローズさん、『民は食をもって天となす』ですよ。食事は大切…という意味でしたね。」

 

「そうデス!シロガネ、食べマス!……食べるアル!」

 

「う、うん。ローズさん、いただくから、人の顔に食べ物をグリグリするのは止めてくれるかなっ!」

 

(派手なミニチャイナドレスの女子が渾身の力で頰にフランスパンを押しつけてくる。圧力で、わたしの頬とパンの形が変わるほどに。)

 

(外国人名枠…今回は本当に外国人のパターンだね。アルアル中華キャラ…になりきれていない中華キャラクターかな?)

 

(というか…マフィアが才能…?毎回アウトローを政府公認扱いにしてるけど、大丈夫?クレーム来たりしない?)

 

「思ったより元気そうで安心したわぁ。よかったら、3年ほど安眠できる子守唄をプレゼントするわよぉ。」

 

「えっと…夕神音さん。心配かけて ごめんね?歌は、ぜひ別の機会に聞かせてよ。」

 

(彼女は歌姫だったね。合成音みたいな声で歌いそうな名前だし。マイペースタイプは3章で死にやすかったりするけど、彼女は どうかな…。)

 

「体調が悪い時は、部屋の掃除をすると良い。こもった空気や汚れによる体調不良も考えられるし、掃除を行えば楽しくてウイルスや熱も吹っ飛ぶからね。」

 

「それ、アナタだけデス。」

 

「あはは…松井君、ありがとう。試してみるよ。」

 

(体の あちこちに掃除用具を携えた男の子が左手で唇を擦りながら言った。)

 

(一目見て、第一印象から決めてました。あなたは、クロになりそうなキャラクター…。美化委員なら上手く”掃除”してくれそうだね。)

 

「さて、長居するのも白銀さんの身体に良くないですから、お暇しますね。お大事に。」

 

(山門さん達は、そのまま部屋から出て行った。)

 


(みんなが出て行ったタイミングで、お腹の虫が騒ぎ出したので、ありがたく持って来てもらったものに口を付けた。その時。)

 

 

「おや、白銀さん。もうゴーイング・ベッド?ブレイキング・ベッド?」

 

「ゾンビや麻薬商人みたいに言わないでくれる?…って、うわあ!?」

 

(突然モノクマが目の前に現れたため、わたしは持っていたものを取り落とした。)

 

「おやおや、何それ?ノリツッコミならぬノリびっくり?呼ばれて飛び出た甲斐がありました!」

 

「呼んだのは、ずいぶん前だよ!何で、すぐ来てくれない上に、突然 来るの!?」

 

「うぷぷ。なんだか遠距離中のカレシへのセリフみたいだね?」

 

(どうでもいい返答をするモノクマに、思わず ため息が漏れた。)

 

「もう、いいや…。それで、モノクマ。ここは、どこなの?」

 

「もー、言ったでしょ?ここは、シリーズ10作目の舞台だって!」

 

「10作目?10作目に、何で わたし達がいるの?」

 

「言ったでしょ?オマエラには、コロシアイをしてもらうって!」

 

「そうじゃなくて!どうして、また わたしまで参加してるの!?」

 

「ボクからできる説明は もうしたんだけどなぁ。」

 

「その説明の記憶がないんだよ…。記憶消しすぎだよ。」

 

「…『ダンガンロンパ』は…終わったんじゃなかったの?」

 

「……。」

 

「とにかく、教えてよ。ここで、わたしは何をすればいいの?どう動けばいい?」

 

「それは自分で考えなよ。指示待ち人間なんて、社会で最も不必要な存在さ。」

 

「ま、ボクは指示なく余計なことする人間と、自発的に動いて成功する人間も嫌いだけどね。」

 

「全部じゃん。」

 

「うぷぷぷぷぷ。コロシアイを盛り上げてくれたら、それで大満足だよ。」

 

「……そう。」

 

「記憶力の弱いキミは、モノパッドでも確認すれば良いさ。みんなの名前や才能、校則なんかは、まだ覚えられていないんだろ?」

 

「職業柄、名前と才能 覚えるのは得意だよ。」

 

「あっそーあっそー麻生太郎。でも、モノパッドは見ておくことを おすすめするよ。スペシャルなアップデートをしておくからね。」

 

(モノクマはニヤニヤ笑って、消えた。その時、)

 

 

「つむぎ、入ってもいいかな?」

 

(モノクマが立ち去ったのと ほぼ同時にドアがノックされて、飛び上がる。「大丈夫」と答えると、哀染君が入って来た。)

 

「どう?体調は?」

 

「ありがとう。だいぶ落ち着いてきたよ。」

 

「そう。良かった。……後で、蘭太郎クンも来ると思うよ。」

 

「えっ…」

 

「彼は今日ボクと行動していたんだけど、ずっとキミを気にしていたよ。……体調が戻ったなら、ボクと一緒に給食室に行っておく?」

 

「あ…ううん。もう少し休んでからにするよ…。」

 

(モノパッドを確認しておかなくちゃだし。)

 

「…そう。何かあったら、すぐ呼んでね。」

 

(哀染君は少し心配そうな顔を作ったけれど、わたしが 『休んで体調が良くなった人』の顔を作ると頷いて去って行った。)

 

 

(静かになった部屋で、わたしは懐を まさぐる。…と、ポケットに小型の電子パッドが入っていた。)

 

(出た…リアルにすると謎すぎる持ち物たくさん持てすぎ問題…!ゲームキャラって四次元ポケット持ちがちじゃない?)

 

(電子パッド…モノパッドを起動すると、わたしの名前が表示された。)

 

(16人の参加者と、校則を確認していく。参加者に変わったところはない。今朝あの場にいた16人全てのプロフィールが記載されている。)

 

(校則は才囚学園のものと、多少 異なる。なぜかモノクマは学園長兼町長になっているし、就寝やモノパッド携帯、建物封鎖についての記載もある。)

 

(寝る時は個室で…モノパッドは携帯しなければならないんだね。あと、コロシアイの妨げのために建物を封鎖することは禁止…か。)

 

(校則を最後まで確認した時、見慣れない画面が起動した。)

 

パスワード画面だ。5桁の数字を入れるように指示がある。)

 

(…5桁の数字。4桁なら『2525』と入れたいところだけど…)

 

(わたしは、その数字を打ち込んだ。『ダンガンロンパ』のファンなら馴染み深い、あの数字を。)

 

(すると、画面に変化があった。パッドに大きく映った、その文字はーー…)

 

『RE:ダンガンロンパV2』…?)

 

(どういうこと?ここは…『ダンガンロンパV2』ってこと?だから、天海君を蘇らせた?)

 

(…ううん、天海君だけじゃないのかもしれない。V2の参加者を蘇らせて、また同じ状況で放送してるのかも…。)

 

「………。」

 

(……ダメだ。わたしにはV2の詳しい記憶がない。参加者も…天海君 以外、知らない。)

 

(でも、リアルフィクションを売りにしてるのに…ホイホイやり直したりしていいの?)

 

(…とりあえず、『ダンガンロンパ』は今度は、わたしにV2世界の運営を託したってことだね。その記憶が消えているのは不手際だろうけど。)

 

(それなら…わたしは、また頑張るよ。『ダンガンロンパ』を盛り上げるために。コロシアイを観ている人を、楽しませるために。)

 


(モノパッドの画面を閉じたところで、ドアの方からノックが聞こえた。)

 

「…白銀さん、いいっすか?」

 

(遠慮がちな天海君の声。途端に、背筋に緊張が走った。)

 

(でも、大丈夫。わたしの役割は、もう分かってる。首謀者として、コロシアイの盛り上がりを気に掛ける。“超高校級のコスプレイヤー”白銀 つむぎを演じながら。)

 

(わたしが「どうぞ」と言うと、天海君がドアを開けた。彼は室内に入ることなく、その場から声を放った。)

 

「あの…どうっすか?体調…。」

 

「うん。だいぶ良くなったよ。ありがとう、天海君。」

 

(笑顔を返せば、彼はホッと息を吐いた。そして、室内に入ってベッドの傍まで来て言った。)

 

「良かったっす…。あの…今朝のことなんすけど……。」

 

「今朝?」

 

「その…キミのシャワーの…っすよ。」

 

「わたしのシャワー?」

 

「……キミのシャワーシーンを、俺が見てしまったことっす。」

 

「えっ!?何それ?」

 

「えっ。」

 

(思わず聞き返すと、天海君も困惑した声を上げた。…けれど、こちらとしては、それどころではない。)

 

(何それ、男のロマンイベント?どうして上は、地味な わたしにオイロケ担当みたいなことばっかさせるの!?誰得!?)

 

「白銀さん…あの…。」

 

「あ…ごめん。な、何でもないよ。」

 

(V3の男のロマンイベントやら、自分の研究教室が開放された時やら、みんなでトレーニングするシーンやら…)

 

(立ち回りを細かく指示された瞬間の心境が顔に出ていたらしい。天海君が若干ひきつった顔をしている。)

 

「本当に…すみません。何なら、100発くらい殴ってもらってもいいんで。その…」

 

(天海君が「あんま嫌わないでくれないっすか」と小さく言った。)

 

(ーーやっちゃったなぁ。今朝の態度は、やっぱり不自然だったよね。)

 

「…天海君。そんなことで嫌ったりしないよ。今朝は、本当に何か…色々あって混乱しちゃっただけだよ。」

 

「……でも、」

 

「むしろ、わたしなんかのシャワーシーンで天海君の目が汚れることになって、誠に申し訳ないよ。」

 

「目が汚れるなんて絶対ないっすよ。むしろーー…」

 

「……いや、何でもないっす。」

 

(…うん。今のは、続けてたら完全に失言だよね。というか、この手の自虐は相手が返答に困るのかも。自重しよう…。)

 

「白銀さん、みんな給食室に集まってるっすけど、夕飯もう食べられそうっすか?」

 

「えっと…地味に今はいいかな。お見舞いで食べ物もらったから、ここで食べるよ。」

 

(わたしの返答に天海君は頷いて、部屋を出て行った。)

 

 

(…今の天海君は、V3に比べて高校生らしい初々しさがある気がする。)

 

(V3は『初めてのダンガンロンパ』じゃなかったからかな。V2から3年経ってて『ギリギリ高校生』だったから?)

 

(自分が設定したキャラなのに、あやふやだ。何で細かいところの記憶まで消されてるんだろう。)

 

「………?」

 

(あれ?V2からV3って3年空いてたんだっけ?何で…わたしは そう思ったんだっけ…。)

 

「……。」

 

(あ、そうだ。視聴者のコメント見たからだ。視聴者は3年も待っててくれたんだよね。)

 

(…あ。でも、視聴者向けの天海君の生存者特典映像に『数日前』ってテロップ入れちゃってた気がする…!)

 

(うわー、もう。またクレームくるよー。クレームはキーボ君の破壊活動の時でコリゴリなのに…!)

 

(思わず頭を抱えてベッドに倒れ込んだ。次第に、隣の給食室から賑やかな食事会の声が聞こえ始めた。)

 

 

 

【西エリア 源家】

 

(みんなが夕食を終えたタイミングで、天海君と哀染君が保健室を訪ねて来た。彼らに送られる形で自分の寄宿舎である一軒家に入る。)

 

(ここは…”源家”かぁ。そういえば、モノクマが人気シリーズ10作目って言ってたっけ。)

 

「………。」

 

(10作目も、どんなタイトルロゴだったかくらいの記憶しか残ってない。あれは、確か人気アニメ映画のアニバーサリーに乗っかって……)

 

(……だめだ。思い出せない。これって、運営側として結構まずいんじゃない?)

 

(まあ、後から また確認しよう。記憶を消して観られるなんて、ぜいたくな話だよね。約50タイトルもう1度 楽しめちゃうよ!)

 

(一軒家の中は、シャワーやトイレと寝室があるだけのシンプルなものだった。2階建に見えていたけれど、それも外観だけだ。)

 

(部屋に入ると、人影が目の前にあって面喰らう。)

 

(ただのマネキンだった。ウィッグを被せられている。)

 

(その周囲には、メイク道具やカラーコンタクト、ブリーチ、ネイル用品が並べられていた。ついでに、スケッチ用の紙とペンもある。)

 

(何これ…。才能に合わせたアイテムを置いてるの?研究教室を見ちゃった後だから、ショボいとしか言えないよ…。)

 

(シャワーを浴びて、ベッドに身を横たえる。天井の木目を眺めながら、口の端を持ち上げた。思わず「うぷぷ」と声を上げそうになったのを何とか堪えて。)

 

(わたしは、また『ダンガンロンパ』に参加している。)

 

(『ダンガンロンパ』が続いているってことは、まだ観ている人がいるってこと。…頑張ろう。みんなを楽しませるために。)

 

(『ダンガンロンパ』を…ずっと続けるために。)

 

 

 

#/ローグ 終@€の先の*へ 完

第△章へ続く

 

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「Ч/ローグ 終@€の先の*фへ【創作ダンガンロンパV2/創作論破】danganronpa」への2件のフィードバック

  1. うわああぁぁまた新たなシリーズの更新が始まっていて感激です…!
    いきなり文字化けしてるところが不穏で最高ですね!!
    V2の知ってるキャラ達が出ているのも頭のキャパシティが少なすぎる私にとってはありがたいです。新たなキャラも嬉しいですが、覚えるまで「この人誰だっけ?」となりかねないので笑
    今回の作品も更新を楽しみにお待ちしております♪

    1. トラウマウサギ

      うわああぁまたコメントありがとうございます!キャラクター16人かくのがめんどいが故の使い回しだったのでドキドキしていましたが、温かいコメント有り難いです。書いてる人間も新たなキャラクター覚えられないので笑 新シリーズもよろしくお願いします◎

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