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第△章 絶望□жット(非)日常編Ⅰ

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のチャイムが鳴り、耳に馴染んだモノクマの声がした。V3では、モノクマーズが この役割だったけど…今回はモノクマ側のマスコットがいないのかな。)

 

(身支度を済ませたところで、家のチャイムが鳴り響いた。こちらは馴染みのない音だったので、手にしていたネイルリムーバーを取り落としてしまった。)

 

「は…はーい!」

 

「つむぎ、おはよう。」

 

「おはようございます。」

 

「…おはよう。」

 

(扉の外には天海君と哀染君がいた。昨日に引き続き、心配して迎えに来てくれたらしい。朝から2人の爽やかさに当てられて、顔がひきつりそうになった。)

 

(昨日の夕方も思ったけど…イケメンとアイドルの間に挟まるのは申し訳ないから遠慮したいんだよね。)

 

(一緒に小学校まで行こうと言う彼らと共に、小学校までの道を進んだ。)

 

 

 

【小学校1階 廊下】

 

「…静かっすね。」

 

「みんな まだ来ていないのかな?昨日のこの時間は もう来ていたはずだけど…。」

 

(校舎内はシンと静まり返っている。少し緊張した面持ちの天海君が給食室の扉を開けた。)

 

「え…!?」

 

「みんな…?」

 

(わたし達を迎えたのは、数名の物言わぬ姿だった。)

 

「どうしたんすか!?」

 

(机に腰掛けた全員、一様に机に突っ伏して動かない。みんなに駆け寄る天海君の後ろから、みんなを覗き込んだ。)

 

(え!?え!?何で!?1章で多数死体発見ってこと!?ここで複数退場なんて、おかしすぎるよ!これじゃ、まるで1章じゃなくてーー…)

 

「これは……」

 

(倒れた人に近付いた天海君と哀染君が顔を上げた。)

 

「…寝てるっす。」

 

「…え?」

 

「みんな寝ているだけだよ。大丈夫。」

 

「え…あ、そう。何だ…びっくり、した。」

 

「とはいえ、ここで寝ていること自体 不自然っすから、起こして話を聞いた方がいいっすね。」

 

(3人で手分けして みんなを起こした。その間に、給食室にいなかった人達も驚いた様子で入って来た。)

 

「な、何ですか!?どうしたんですか!!」

 

「……みんな、寝てる。」

 

「寝ている…?全員がかね?」

 

「みなさん、何があったんですか!?」

 

(寝ていた人達も困惑した様子で次々に起き上がった。)

 

「…何だ?オレ達…寝てたのか?」

 

「眠気に負けマシタ。ソダチザカリですから!」

 

「…それにしても、おかしいですね。」

 

「夕神音さん!何をしたんでちゅか!!機械のアチシまでグッスリでちたよ!」

 

「そうだね。夕神音さんが歌い出して、それで気を失っちゃったんだ。」

 

「え?お姉ちゃんが…あたし達を眠らせたの?」

 

「催眠術?魔法?薬物投与?」

 

(みんなの視線の先で、歌姫の夕神音さんが ゆったりした動作で起き上がり、笑った。)

 

「薬じゃないわぁ。私の子守唄。ゆっくり寝られたでしょ?」

 

「子守唄?」

 

「みくの子守唄で眠っちゃったってこと?」

 

「そうよ。私の子守唄は、猫も杓子も眠らせられるからねぇ。」

 

(夕神音さんは変わらず、のんびりした口調で「みんな寝不足みたいだから」と続けた。みんなは「子守唄であんな風になるのか」と半信半疑の様子だった。)

 

(まあ、現実なら睡眠薬より効く子守唄なんて有り得ないけど…ここ、フィクションだしね。)

 

(それに、聞いたら寝ちゃう子守唄なんて、コロシアイで役に立ちそうだもん。即採用だよ。)

 

「いてぇ…。」

 

(みんなが戸惑う中、突っ伏したままだった男子が起き上がる。その額からは、血が流れていた。)

 

「うわっ!けい!血!」

 

「…あ。マジか。寝る時に思いっきり打ったみてーだ。首も寝違えた。すげー痛い。」

 

「あらぁ…。ごめんなさい。私のせいね。」

 

「いや、運が悪かっただけだよ。」

 

「永本は”超高校級の幸運”やなかったか?」

 

「”幸運”とは思えんがね。」

 

「そりゃそうだろ。”超高校級”の認定時に、”運が良かっただけ”なんだから。」

 

 

「それは聞き捨てならないなぁ。」

 

「うわっ!?急に目の前に現れないでよ!」

 

「うぷぷ。相変わらず、声を我慢できないようですなぁ。理論武装を1枚1枚 剥がしていくのが楽しみですなぁ。」

 

「……。」

 

「何の用っすか。」

 

「聞き捨てならないこと言ってたから訂正の用っすよ!」

 

「アアン!?どういうこった!?」

 

「このコロシアイ課外授業では、オマエラ全員が才能をフル活用できるのです。ですから、ぜひ自分の才能を信じて、頑張って殺して欲しいのです。」

 

「何を言ってやがる?」

 

「『信じられないけど、才能ならば仕方ない。』オマエラは、そういう考えにシフトすべきだってこと。たとえ それが、運や超能力的なことであっても!」

 

「空を自由に飛べるのサイノー、一瞬で筋肉隆々になるのサイノー、冷凍ビーム放つのサイノー、何でもありデスネ!」

 

「そうそう。赤い帽子の配管工や何でも吸い込むピンクの丸みたいに、何でもありなの。才能さえあればね!」

 

「才能が証明する通り、夕神音さんの子守唄は本当にシャモジさえ眠らせるし、永本君はラッキースケベ遭遇率99%なんだよ!」

 

(また、周囲がザワつく。知識や運動能力みたいな、努力で獲得した才能は説明しやすい。でも、『ダンガンロンパ』には、説明できない才能もある。)

 

(みんなも、努力や知識を超越した…不思議な力を経験しているはず。だからこそ、半信半疑なのかもしれない。)

 

「信じられない?才能のない無能は脳の10%くらいしか使えないけどね、オマエラは違うの。才能により100%使えるんだよ。」

 

「そんなSPECの高い才能をTRICKに活かして、コロシアイをケイゾクしてください!」

 

「何その突然の堤監督 推し…。」

 

(まあ、才能についてはフィクションだから、不思議でも何でもないんだけどね。)

 

「いや、信じらんねーよ。さすがに嘘だろ。」

 

「ムキー!ボクは嘘なんて吐かないよ!」

 

「…嘘じゃねーって言うなら、校則に追加できるか?どう才能を校則にできるか知らねーけどさ。」

 

「……よかろう。」

 

(モノクマは悔しそうな声色で言って、紙に何かを書き殴り、それをカメラのようなものでパシャパシャと撮り始めた。そして、)

 

「校則じゃないけど、オマエラに才能証明書を贈呈します!」

 

(モノクマが言った瞬間、モノパッドから激しい音が鳴り響き、みんな慌ててモノパッドを取り出した。そこに映し出されていたのは…)

 

「『才能証明書…課外授業中、才能は”絶対”だよ。以上を考慮の上、コロシアイに ご尽力ください。でわ、楽しいキリングハーモニーを。』…?」

 

(さっきの雑な手書きのスキャンが、全員のモノパッドに送られたらしい。)

 

「何すか、これ?」

 

「だーかーらー、才能証明書だよ!オマエラの才能は、このボクが証明します。」

 

「君に証明されるまでもなく、既に政府に認定されてるんだが…。」

 

「うぷぷぷ。」

 

(モノクマは笑いながら去って行った。)

 

(確かに『ダンガンロンパ』で才能は絶対だけど…こんなことする必要ある?これまでの『ダンガンロンパ』で才能の証明なんてされなかったのに。)

 

(……まあ、わたしも今までの『ダンガンロンパ』について、全部を覚えてるわけじゃないんだけど。)

 

「何だったんだろう、今の。何か意味があるのかな?」

 

「夕神音さんの子守唄や永本くんの才能は本物…と言いたかったようですが…。」

 

「永本君、ごめんなさいねぇ。私のせいで、怪我をしちゃったわねぇ。」

 

「いや…たいしたことねーよ。さっきは ちゃんと聞かなかったし、いつか また歌って聞かせてくれよ。」

 

「もちろんよぉ。」

 

(モノクマの登場により一層 困惑の空気が深まったけれど、ひとまず全員で朝食をとった。)

 

……

「おし、全員 食ったな。行くぞ。」

 

「そうですね!!手分けして脱出口を見つけましょう!」

 

「うん、頑張ろう。」

 

(…脱出口なんて、あるわけないけど。)

 

(とはいえ、わたしも、ここについて知っておかないと。今日は1人で色々見て回ろう。)

 

「白銀さん。俺も行くっす。」

 

「そうだね。昨日のこともあるし、つむぎは1人にならない方がいいよ。」

 

「……ありがとう。」

 

「タンサクします!頑張ってください!」

 

「みんなでやろう。頑張りましょう。このヤロウ。」

 

「そうだ!皆で手を取り合い、頑張ろうじゃないか!」

 

「はひぃ…!先パイ!」

 

「何でロボットに手握られて赤くなってんだよ…。」

 

「あ、いもこのポエム、聞かせてもらう約束だったよね!手掛かり探しながら ぜひ聞かせてよ!」

 

「…うん、いいよ。」

 

(みんな、それぞれ給食室から出て行った。)

 

「つむぎ、どこから調べようか?」

 

 

 校舎内を見る

 町へ出る

全部見たね

 

 

 

【小学校3階 5年3組教室】

 

(あちこち小学校内を探し回ったけれど、特に手掛かりになるものはない。”例の主人公”のクラスの教室も、それは同じだった。)

 

「やっぱり…脱出の手掛かりになるものは何も見当たらないっすね。」

 

「そうだね。でも、諦めずに頑張ろう。」

 

(校内に首謀者のための隠し部屋があると思っていたけれど、それもない。)

 

(首謀者のわたしなら見つけられるって思ってたのに…隠し部屋に繋がりそうな扉もないなんて。)

 

(おかしいよ。それじゃあ、どうやってコロシアイ運営したらいいの?)

 

「白銀さん、どうかしたんすか?」

 

「な、何でもないよ。」

 

「……まだ体調が悪いんじゃないかな?今日も休んでた方がーー…」

 

「ち、違う違う!元気だよ!ほら!オラに元気を分けてくれーってやつができるほどに!」

 

「……分けて欲しいなら、今 元気じゃないってことっすよね?」

 

「え?天海君、アドベンチャーなマンガ好きなはずだよね?完全無欠の摩訶不思議アドベンチャー…確かに中盤からは冒険よりバトル中心だけどーー…」

 

「…白銀さん、何 言ってるか分からねーっす。」

 

「…まあ、それも つむぎの魅力だよ。」

 

「……!」

 

(男の子みんな好きだと思ってたアニメの技を知らない男子がいるという衝撃を味わった。)

 

 

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【町 南エリア】

 

(小学校から町に来た。普通の町中なのに、行けるところが限られた閉鎖空間。)

 

(なんだか雑なステージだ。記念すべき『ダンガンロンパ10』のステージが本当に こんな感じだったのかな…。)

 

(小学校から続く町の南を歩いた先、その道は唐突に終わった。)

 

(”ステージの果て”の天まで続く巨大な鏡によって。)

 

「えーと、これって…。」

 

「一昨日、つむぎがドアのような鏡の継ぎ目を見つけてくれたよね。けれど、そこも何をしても開かなかったね。」

 

「え…と、そ、そうだっけ。」

 

「俺たちが入って来たからには、出口がある。あのドアは、出口としては最有力候補なんすけどね。」

 

「……そう、だね。」

 

(鏡沿いに、町の西エリアに移動した。)

 

 

 

【町 西エリア】

 

(町の西エリアも、ところどころに配置されたカメラやモニター以外は普通の町中といった様子だった。)

 

(隠し扉がないか注意深く観察しながら歩いていると、1軒の家から凶器の山が姿を見せた。凶器の山には、手と足が生えていて、ヨロヨロ歩いている。)

 

「うわっ!?クリーチャー!?『僕の考えた最凶のモンスター』!?」

 

「つむぎ、落ち着いて。」

 

「佐藤君っすよ。」

 

「え!?佐藤さ…佐藤君?」

 

「…今日は3人で行動なんだね。何か見つかった?」

 

(凶器の山の後ろからセーラー帽が顔を覗かせた。)

 

(…女の子じゃなくて男の娘だった?まさか、また性別ミスリードしようとしてる?使い古されたネタだし、2回目は止めた方がいいと思うけど…。)

 

「ここみ。その凶器の山は?」

 

「町中に凶器になりそうなものが隠されていたから、回収してるんだ。」

 

「ああ…ちょうど俺も、どうにかしようと思ってたんすよ。」

 

「……そうなんだ。」

 

「校舎内に隠されてた凶器も、昨日 回収しておいたよ。音楽室の砲丸とかね。さすがに、音楽室の備品とは思えないし。」

 

「音楽家が砲丸を使うはずないもんね。」

 

「……。」

 

「回収した凶器は どうするんすか?」

 

「とりあえず、昨日のも含めて給食室のキッチンに押し込んどくよ。体育倉庫は封鎖しているから、万が一 殺しを目論む人がいても分かりやすいように。」

 

「そっか、体育倉庫は封鎖されてるんだね。」

 

「あそこにも、物騒なものがあったっすからね。封鎖して、鍵は郷田君たちが川に捨てたっす。」

 

「本当は、キッチンも封鎖できたらいいんだけどね。」

 

「校則で禁止されてますからね。校舎1階の給食室なら人目も多いし、凶器になるものを1か所に集めておくのには賛成っすよ。」

 

「殺しを目論む人がいないのが1番だけど…その通りだね。」

 

「……。」

 

(夜時間に凶器を持ち出すことはできるだろうけど…コロシアイが起こりにくい状況なのは、いただけないなぁ…。)

 

「…白銀さん?」

 

「あ、何でもないよ。」

 

 

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【小学校1階 廊下】

 

(まだ夕食には早い時間。病み上がり…ということになっている わたしに気を遣ったのか、哀染君が「小学校の給食室に戻ろう」と 提案した。)

 

(校舎内の廊下は静かだった。夕陽が差す穏やかな時間。思わず溜め息が漏れた。)

 

(普通なら、会社員として取引先や上司と覆面笑顔で腹の中の探り合いっこしたり、PCと睨めっこしたりしてる時間。)

 

(そんな時間に、また こうして『ダンガンロンパ』の中にいられるなんて、幸せだなぁ。)

 

(……まあ、今も仕事中といえば仕事中なんだけどね。)

 

(そんなことを考えながら、廊下を進んでいると…)

 

 

「!?何の音!?」

 

「上からっす!行きましょう!」

 

(ガシャンという大きな音が聞こえたかと思ったら、男子2人は驚くべき反射神経で階段を登って行く。わたしは慌てて後に続いた。)

 

「蘭太郎クン、こっちからだよ!音楽室!」

 

(4階まで登り、哀染君が音楽室を指差した。そして彼は、ドアを開けた。)

 

 

 

【小学校校舎4階 音楽室】

 

「……!」

 

(部屋に入って目に飛び込んできたのは、ガラス片が飛び散る床。砕けて赤く染まった壁の大鏡。その下に倒れた男の子の真っ赤な頭。)

 

(血に染まり倒れた”超高校級の幸運”の永本 圭君の姿だった。)

 

「きゃあああッ!」

 

「な、が…本君…。」

 

(…死体が発見されました。)

 

(頭の中でアナウンスを流しながら、悲鳴を上げた。けれど…。)

 

「………。」

 

死体発見アナウンスが鳴らない。)

 

(…あれ?わたし達3人の中にクロがいるってこと?天海君か、哀染君…天海君が犯人ってことはないだろうから、哀染君が?今日ずっと一緒にいたのに。)

 

(それに…”幸運”が、ここで退場?彼は”希望”じゃなかったのかな…。まあ…キーボ君パターンもあるし、今回は違う人なのかも。)

 

(そんなことを考えていると、)

 

「いてて…。」

 

「ひぎゃあ!?」

 

(死体だと思っていたものが起き上がって、今度は本当に悲鳴が出た。)

 

「永本君、大丈夫っすか!?」

 

「あ…ああ。大丈夫…だ。」

 

「大丈夫とは思えないけどな。何があったの?」

 

「転んで、この鏡に頭から突っ込んだだけだよ。」

 

(永本君は鏡を指差して言った。ダンススタジオにありそうな1枚鏡。コスプレのポージング練習にも役立ちそうな鏡は、石頭に負けて悲惨な状態だった。)

 

「えっと、誰かにやられた…とかじゃないってこと…?」

 

「当たり前だろ。いくら、こんな状況でも、誰もンなことしねーよ。」

 

「永本君、それより早く手当てした方がいいっす。すごい血っすよ。」

 

「あ、ほんとだ…。けど、割と軽傷みたいだ。」

 

「さすが、”超高校級の幸運”だね。この状態で軽傷だなんて。」

 

「そもそも、この状態になるのが不運じゃない!?」

 

(もう!コロシアイが始まったんだと思ったじゃない!)

 

 

「ほぎゃー!何してくれちゃってんのー!?」

 

「ぎゃあ!?」

 

「うるさいよ!白銀さん!ボクの登場の度に悲鳴を上げるのは やめなさぁい!」

 

「じゃあ急に目の前に現れるの やめてよ!」

 

「じゃあ、こんなノリと冗談で作ったみたいなデカい鏡を割るほどの石頭も やめてよ!」

 

「ああ、鏡はオレが割っちまったんだ。」

 

「そのようだね。キミの頭も割れてるし、鏡とSTR対抗でもしたのかな?ハーア、面倒くさいなぁ。」

 

「明日 新しい鏡を取り付けなきゃいけないじゃないか。これだけ大きい鏡だから、クレーン車 使って窓から入れなきゃなんだよ。ハーア、面倒くさい。」

 

「面倒くさいなら、わざわざ新しく取り付けなければいいじゃない…。」

 

「景観が悪いだろー!それに、この音楽室で殺人が起こるかもしれないんだ!万全の用意が必要なんだよ!」

 

(そんなことを言って、プリプリ怒りながらモノクマはいなくなった。)

 

「何だったんだろうね。」

 

「さあ…。とりあえず、永本君。保健室に行きましょう。付き添うっすから。」

 

「あ、ああ。悪いな。」

 

「つむぎ、このままだと危ないから、ボク達は少し片付けをしようか。」

 

(何もしなくても、明日には綺麗になってる気がするけど。)

 

(保健室へ向かう天海君と永本君を見送った後、哀染君と割れた鏡や血痕を掃除した。)

 

 

 

【東エリア 源家】

 

(その後、夕食では全員が「手掛かりなし」という情報を共有して解散した。)

 

(おかしい…。昨日が4日目なら、今日は…もう5日目のはず。なのに…まだ誰にも何の動きもないなんて…。動機も発表されてるのに。)

 

(第1作目の6章で動機のテーマが、第2作目でコロシアイの類似性が言及されたことで、”動機のお約束”は続いている。)

 

(1章の動機は、人間関係。昨日モノクマが話してた動機は、クロがシロから1人を選んで外に出られる…だっけ?)

 

(1章の動機に関わってきそうな人を推理するのは難しい。人間である限り、どんなキャラクターも、何かしらの人間関係を持つのだから。)

 

(…それじゃあ、章キャラクターから考えてみる?1章キャラになりそうなのは…)

 

(V3で言えば、天海君は1章キャラだけど…彼はV2で被害者やクロになることはないはず。)

 

(あと1章キャラ…1章で被害者やクロ、容疑者になりそうなのはーー…)

 

「………。」

 

(もしかして…わたし?)

 

わたしが動くべきなの…?)

 

…………

……

 

(ピンポーンと、インターホンが鳴ったのは、バスルームから出て、すぐのことだった。)

 

(まだ朝のアナウンス前なのに…と思いきや、時計を確認すると、既に8時過ぎになっている。)

 

(シャワーの音でアナウンスが聞こえなかったんだ。…男のロマンイベントらしきものは…そのせいで起こった悲劇なのかも。)

 

「つむぎ、おはよう。起きているかい?」

 

(ドアの外から少し大きい声で話し掛ける声がしたので、慌てて廊下に向かって言った。)

 

「ごめん!シャワー浴びたばかりだから、先に行ってて!!」

 

「あ、良かった。今日は元気そうだね。じゃあ行こうか、蘭太郎クン。」

 

(ドアの外から気配が遠ざかっていくのを聞いて、身支度を整えた。何かに使えそうな道具をポケットに詰め、小学校へ向かった。)

 

 

 

【小学校1階 給食室】

 

(給食室の扉を開けると、みんな既に席についていた。それを確認すると同時に、怒声が降り掛かった。)

 

「誰がやりやがった!?」

 

「まあまあまあまあ、落ち着いて。」

 

「そうですよ!!落ち着いて、挙手制にしましょう!皆さん、全員 目を閉じましょう!!そして、やった人は手を挙げてください!!」

 

「全員が目 閉じたら意味ねーだろ…。」

 

「えぇと、どうしたの?何の騒ぎ?」

 

「…ああ、つむぎ。犯人探しだよ。」

 

「犯人?」

 

(もちろん、コロシアイが始まったわけではない。みんないるし、発見アナウンスもないし。)

 

体育倉庫の封鎖を解きやがった犯人だ!」

 

「えっ!?体育倉庫って、凶器がたくさんあったっていう?」

 

「郷田くん達が封鎖して、その鍵は川に投げ入れられたはずですが…今朝、鍵が開いていたんです。」

 

「アサイチで確認しマシタ。」

 

「誰が…そんなこと?」

 

「分かんねーから、こうやって聞いてんだよ。」

 

「聞いて出てくるとは思えないがね。」

 

「そうねぇ。モノクマが開けたのかもしれないわよぉ。」

 

「そうだね。そんなこと、あたし達の誰かがするわけないし…モノクマの仕業だよ。」

 

「ボクじゃないよ!」

 

「うわっ…モノクマ!」

 

「ボクはオマエラが封鎖した体育倉庫を開けたりしてません。それができるなら、わざわざ校則なんて追加しないよ。」

 

「濡れ衣をボクに着せないでね。ボクは着ないし履かない主義なんだから!」

 

(変な主張を終えて、モノクマはいなくなった。)

 

 

「えっと…モノクマがコソコソ鍵 開けたわけじゃないってこと…だよね?」

 

「校則を追加した割に、昨日も一昨日も体育倉庫は封鎖したままだったもんね。」

 

「モノクマの罠かもしれねーっす。そうやって、俺たちを疑心暗鬼に陥らせているのかも…。」

 

「そうだね。モノクマが言ったことが嘘の可能性もあるんだから。」

 

「ロボットであるモノクマさんが、そんな嘘を吐けるでしょうか?」

 

「…吐けるかもしれないよ。」

 

「そうだね。ここに来て数日経っても、コロシアイにボク達が乗る気配がないから、疑心暗鬼を煽ってるんだよ。」

 

(…そうだよ。ここに来て、数日。そろそろ、第一の殺人が起きなきゃいけない頃だ。)

 

(それなのに…毎日みんな同じように探索しているだけ…。こんなの、視聴者が見ていて楽しいはずがない。このままじゃ、また視聴者が離れていっちゃう。)

 

(…………。)

 

(…わたしが、やらなきゃ。)

 

(今回はV3と違って、みんなの動きを把握できてない。人の殺人計画の補填は難しい。)

 

(だから…わたしが、1章のクロになる。そして…おしおきされる。)

 

(それなら…誰を狙えばいい?誰を殺せば、”1章らしい被害者”を作れる?どうやって殺せば、”1章らしいクロ”になれる?)

 

(みんなが朝食を食べ始める。わたしも同じように席について朝食に口を付けたけれど、頭の中は、そんな考えでグルグルしていた。)

 

(そして、朝食を終えた みんなは各自給食室から出て行った。)

 

 

「白銀さん。ちょっといいすか。」

 

(ゾロゾロと給食室を出る面々に続こうとして、呼び止められる。)

 

「天海君…。どうかした?」

 

「白銀さん。やっぱり、体調 悪いんじゃないっすか?少し変っすよ。」

 

「……そんなことないよ。」

 

「……まだ会ったばっかで難しいかもしれないっすけど…もっと周りに言ってくれてもいいんすよ?」

 

「本当に、何もないんだよ?確かに、こんな状況で家に帰れなくて不安だけど…」

 

「……なら、いいんすけど。何かあったら、ちゃんと俺を頼ってください。」

 

(ちゃんと頼る…か。)

 

「天海君は、地味に人のこと言えないよね。」

 

「え?」

 

「あ、ううん。何でもないよ。」

 

(思わず声に出しちゃってた。危ない危ない。)

 

「……。」

 

 

「蘭太郎お兄ちゃん?」

 

「つむぎ、蘭太郎クン、どうかした?」

 

(給食室から出ないわたし達を不思議に思ったのか、哀染君と妹尾さんが室内を覗き込んできた。天海君は「何でもない」と答えて彼らの方に歩いて行く。)

 

「じゃあ、白銀さん。今日はーー…」

 

「お兄ちゃん!あたしと校舎を見ようよ!じゃあ、後でね。哀染お兄ちゃん、白銀お姉ちゃん。」

 

「え?あ、はい。」

 

(こちらを見た天海君の手を取って、妹尾さんが足早に階段へ歩いて行った。)

 

「じゃあ、今日は2人で探索しようか。」

 

(当然のように今日も一緒の流れか…。1人で色々 見たいんだけどな…。)

 

「……。」

 

(でも、わたしが1章でクロになるなら…ちょうどいいのかもしれない。)

 

(哀染君なら…”超高校級のアイドル”の彼なら、1章の被害者としてピッタリだ。)

 

「……どうかした?つむぎ。」

「ううん。何でもないよ。」

(まずは、凶器の確保…それから周囲に誰がいるか確認してから、少しでも面白くなるようなトリックを使わなきゃ…。)

 

 

 にぎやかな所へ

 人気のない所へ

全部行ったね

 

 

 

【小学校1階 玄関ホール】

 

「エージソンは、えらい ひーとー」

 

「はいよッアイヨッ、あ、さぁさぁさぁさぁ!」

 


(窓が多くて明るい玄関。玄関の入り口に、夕神音さんとアイコさんがいた。)

 

(靴箱に取り付けられた姿見の一枚鏡の前で、夕神音さんは馴染み深いメロディを抜群の歌唱力で歌い上げ、アイコさんが独特の合いの手を入れている。)

 

「楽しそうだね。路上ライブみたいだ。」

 

「鼻歌を歌っていたら、アイコさんが楽しそうにノってくれたのよぉ。」

 

「懐かしいのだ。レコードで聴いてた頃を思い出して涙が出てきたのだ。」

 

「へぇ、アイコは もっと若いと思ってたよ。」

 

「機械にも”懐かしい”って感覚あるんだね。」

 

「黙りなァ!夕の字、せっかくだィ。いっちょ、全校生徒に聴こえるくらい、その音 響かせてくんな。」

 

「あら、楽しそうねぇ。」

 

(夕神音さんは、アイコさんの提案に嬉しそうに笑って去って行った。)

 

「あ、ボクも、そろそろ塾に行かなきゃ。じゃあね。ブルーな お2人さん!」

 

(「塾」や「ブルー」にツッコむ隙もなく、アイコさんも去って行く。)

 

「中庭の方に誰かいるみたいだね。」

 

(玄関には、中庭や校門の様子が確認できる窓がある。校門側の窓から永本君が見えた。姿は見えないけれど、校門にいる誰かと口論しているような様子だ。)

 

 

 

【小学校 校門前】

 

「え、ちょっと。校門 塞がってるじゃない。」

 

(校舎の外に出ると、すぐ賑やかな声が聞こえた。校門を塞ぐ形で大型機械に乗るモノクマが、永本君に何事か まくし立てている。)

 

「やあ、圭クン。何をしているの?」

 

「モノクマにインネン付けられてたんだ。」

 

「インネンじゃないよ!説教だよ!」

 

「説教?」

 

「昨日、永本クンが不運にも音楽室の大鏡を割ったっていうから新しい鏡を用意したのさ。わざわざクレーン車 使ってね。」

 

(モノクマがロープで縛られた四角い布を指差した。クレーンがロープを吊るす形で、黒い布に覆われた大鏡はクレーン車のすぐ傍らに立てかけられている。)

 

「あの鏡は大きくて、校舎内へ運び込めないと言っていたもんね。」

 

「で、ついでに中庭の壁の穴が空いてるとこも直したら どうだ?って言ったら、なんか怒り出したんだよ。」

 

「そりゃそうだよ!ただでさえコロシアイが始まらなくてイライラしてる中の予定外労働…その最中に余計なことを言われてごらんよ!」

 

(まあ…運営側として、怒りたくなる気持ちも分からないではないかも…。)

 

「フェンスに穴?そういえば、あったね。」

 

「穴なんて、クレーンで通れないようにしてやるさ!うぷぷ。小学生 御用達の抜け道は、もう使うことはできませーん!」

 

(クレーンが石畳に覆われた中庭に向かって行く。途端、校門前に ぬかるんだ道が広がった。)

 

「うわ、何だよ。これ。」

 

「あのクレーン、水を排水しながら進むみたいだね。校門前がグチャグチャだよ…。」

 

「ここを通ったら、靴がドロドロになりそうだね。とりあえず、校舎を調べようか。」

 

「オレも、校舎内でも見てくるかな。」

 

(大げさに溜め息を吐いた永本君と別れて、体育倉庫へ向かった。)

 

 

 

【小学校 体育倉庫】

 

「あ。白銀さん、哀染さん。」

 

「つむぎとレイも見に来たんだね。」

 

(校庭の隅に置かれた体育倉庫。そこには、先客がいた。)

 

「封鎖した体育倉庫…開いてたんだよね。」

 

「毅クン達が封鎖して、鍵は川に捨てたって言ってたけど…。」

 

「うん。だから、誰かが錠を壊したと思ってたんだけど…。錠は傷ひとつないんだ。」

 

「え…。それって…。」

 

「…鍵が使われたってことだよね。」

 

「そう。だから、僕はモノクマの仕業かなって思うんだ。」

 

「え?どうして?」

 

「あの川の流れを見ても、鍵を捨ててから だいぶ時間が経っていたことを見ても、僕らに鍵を見つけることは不可能だよ。」

 

「そうだね。探し物の達人とかでない限り、難しいよ。」

 

「あ、そっか。でも…鍵を捨てたっていうのは本当…なんだよね?」

 

「郷田さん、前谷さん、ぽぴぃさんの3人で、そんな嘘を吐く必要はないと思う。2人だけなら、まだしもね。」

 

「あ…そっか…。動機…。」

 

(…なるほど。今回の動機は、共犯者を作ることも可能だから、2人までならあり得るんだ。)

 

(とりあえず、今は佐藤君と祝里さんがいるから、凶器を持ち出すことは難しいね。)

 

 

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「…哀染君、給食室のキッチンに戻ってもいいかな?」

 

「もちろん。」

 

(昨日、佐藤君がキッチンに まとめるって言ってたから…いざ進めやキッチン~目指すは使いやすい凶器~だね。)

 

 

【小学校1階 給食室キッチン】

 

(もう誰もいない給食室のイートスペースを通って、キッチンに来た。人気がなくて、シンと静まり返っている。)

 

(殺すなら…校舎内がいいかな。使えそうな凶器は…)

 

(キッチンには、各種 包丁の他、アーミーナイフやナタ、鍬などが並んでいる。)

 

「キッチンに必要のないものも大量にあるよね。」

 

「……うん。物騒だね。」

 

(哀染君の目を盗んで凶器を持ち出そうとしているのに、彼はRPGのキャラみたく わたしと同じ方向を向いている。)

 

(こんなことなら…昨日の夜時間に凶器を調達しておくんだった…。)

 

「やっぱり、手掛かりはなさそうだね。別の所を探そうか。」

 

(キッチンを出て、校舎内の各教室を廻る。3階の階段を登りきったところで、楽しそうな声が聞こえてきた。)

 

 

 

【小学校3階 図書室】

 

「この詩は世界で有名だよ。あ、これはね…」

 

「ああ、これ、英語圏の国でも見たことがあるっすね。あれ、白銀さん、哀染君。」

 

(図書室の扉を開けると、楽しそうに本を開いて談笑する天海君と妹尾さんの姿があった。)

 

(なんとも微笑ましい光景だね。)

 

(妹尾さんの見た目年齢があと7歳上だったら、リア充アレルギーで顔を しかめているところだけど…どう見ても兄妹なので表情は保たれた。)

 

「楽しそうだね。」

 

「あ…ごめんなさい。休憩のつもりでペラペラ本をめくってたら、ついペラペラ夢中で話しちゃった…。」

 

「ううん、休憩は大事だよ。休みながら探していこう。」

 

「ありがとう。哀染お兄ちゃん。」

 

「焦らなくてもいいと思うよ。」

 

「……でも、グダグダイチャイチャしてちゃダメだよね。蘭太郎お兄ちゃん、行こう。」

 

(妹尾さんはわたしを一瞥して、天海君の手を引き図書室を出て行った。)

 

(…なんか、敵対心みたいなものを向けられた気がする。)

 

 

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【小学校4階 音楽室】


(探索しているうちに、11時近くになっていた。1時間ほど前から、スピーカーから流れ出した歌を聴きながら、溜め息が零れたれた。)

 

「美久の歌は、溜め息が出るほど素晴らしいね。」

 

「……うん、そうだね。これ、放送室とかで歌ってくれてるんだよね。」

 

「そうだね。さっき そんなことを言っていたし。おかげで、今日はリラックスして探索できるよ。」

 

(はあ…溜め息が出るのは、凶器もアリバイもトリックもないからなんだよ。ほんとに、せめて昨日の内に凶器を確保しておくんだったなぁ。)

 

(もう1度、溜め息が溢れた。すると、吐き出した息にエネルギーを持っていかれたかのように、急に身体が重くなった。)

 

「……?」

 

(身体の自由が効かない。瞼が重い。足に力が入らず、そのまま床に膝をつく。)

 

「つむぎ?どう…し…」

 

(重力に逆らえず、目を閉じる。こちらに問い掛ける哀染君の声が聞こえた。…けれど、その声は弱々しく、すぐに壁に溶けて消えた。)

 

…………

……

 

(大きな音がして、意識が持ち上がる。)

 

「……うう、頭 痛い…。」

 

「つむぎ…、大丈夫?」

 

(床にうつ伏せになっていた身体を起こすと、同じように起き上がった哀染君が心配げに わたしを見た。)

 

「うん、わたし達…何で倒れてるの?」

 

「…分からない。でも、今 外から何か大きな音がーー…」

 

(そう言って、哀染君は窓を開けて中庭を見下ろした。そして、目を大きく見開いて、)

 

「大変だ!!つむぎ、ここにいて!」

 

(そのまま、教室から出て行った。)

 

「え…何なの?」

 

(訝しく思い、彼と同じように窓の外から真下を見下ろす。そして、息を呑んだ。)

 

(中庭に、バラバラの黒い身体が落ちていたから。)

 

「きゃあああ!」

 

(ミステリのキャラに必ず1人はいる”悲鳴係”よろしく、大声を上げる。すると、下の階の教室の窓から緑色と桃色の頭が見えた。)

 

「白銀さん!?」

 

「あ…!蘭太郎お兄ちゃん、下…!」

 

(わたしの声に、こちらを見上げた天海君。彼は わたしの姿を確認した後、妹尾さんの言葉に従い、中庭を見下ろす形で目を向けた。)

 

(その目には、今、コロシアイ開始の絶望が浮かんでいるのだろう。)

 

(わたし達は、そのバラバラになった肢体を見下ろし続けた。発見アナウンスが流れる瞬間まで。)

 

 

『死体が発見されました!オマエラ、小学校の中庭に集まってください!』

 

(音楽室のモニターが光を放ち、モノクマのアナウンスが告げた。)

 

(ようやく…ようやく、始まったんだね。待ちくたびれた上に、フライングでクロになるところだったよ…。)

 

(ーーでも…被害者が彼女なんて。どうして、彼女が…?)

 

(”超高校級のAI”アイコさんの無残な姿に、コロシアイの興奮と困惑が同時に押し寄せて来た。)

 

 

 

非日常編へ続く

 

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